(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011219
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】網状体の製造方法及び金属製の薄板
(51)【国際特許分類】
B21D 31/04 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B21D31/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113048
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】501165248
【氏名又は名称】有限会社エーワン
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】木下 学
(57)【要約】
【課題】本発明は、複雑な形状の網状体70を製造することができる網状体70の製造方法及び網状体70の製造に用いる金属製の薄板10を提供する。
【解決手段】本発明に係る網状体70の製造方法は、複数の円弧状スリットが押圧部20を中心にした半径の異なる複数の仮想円周上に形成されると共に各仮想円周上で周方向に離間して形成された金属製の薄板10を準備する工程と、押圧部20を薄板10から押し出して複数の円弧状スリットを広げて複数の第1網目部71及び複数の第2網目部72を形成して略円錐状の網状体70を得る工程と、を含む。薄板10は、径方向に第1距離で離間して隣り合う円弧状スリットが形成される第1領域A1と、径方向に第1距離より広い第2距離で離間して隣り合う円弧状スリットが形成される第2領域A2と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の円弧状スリットが押圧部を中心にした半径の異なる複数の仮想円周上に形成されると共に各仮想円周上で周方向に離間して形成された金属製の薄板を準備する工程と、
前記押圧部を前記薄板から押し出して前記複数の円弧状スリットを広げて複数の網目部を形成して略円錐状の網状体を得る工程と、
を含み、
前記薄板は、径方向に第1距離で離間して隣り合う前記円弧状スリットが形成される第1領域と、前記径方向に前記第1距離より広い第2距離で離間して隣り合う前記円弧状スリットが形成される第2領域と、を有することを特徴とする、網状体の製造方法。
【請求項2】
複数の円弧状スリットが押圧部を中心にした半径の異なる複数の仮想円周上に形成されると共に各仮想円周上で周方向に離間して形成された金属製の薄板であって、
前記薄板は、径方向に第1距離で離間して隣り合う前記円弧状スリットが形成される第1領域と、前記径方向に前記第1距離より広い第2距離で離間して隣り合う前記円弧状スリットが形成される第2領域と、を有することを特徴とする、金属製の薄板。
【請求項3】
複数の直線状スリットが押圧部を中心にした前記押圧部からの距離が異なる複数の仮想多角形上に形成された金属製の薄板を準備する工程と、
前記押圧部を前記薄板から押し出して前記複数の直線状スリットを広げて複数の網目部を形成して略円錐状の網状体を得る工程と、
を含み、
前記直線状スリットは、各仮想多角形上において複数本が互いに離間して1列に配置され、
前記薄板は、内外で隣り合う前記仮想多角形において第1距離で離間して隣り合う前記直線状スリットが形成される第1領域と、内外で隣り合う前記仮想多角形において前記第1距離より広い第2距離で離間して隣り合う前記直線状スリットが形成される第2領域と、を有することを特徴とする、網状体の製造方法。
【請求項4】
複数の直線状スリットが押圧部を中心にした前記押圧部からの距離が異なる複数の仮想多角形上に形成された金属製の薄板であって、
前記直線状スリットは、各仮想多角形上において複数本が互いに離間して1列に配置され、
前記薄板は、内外で隣り合う前記仮想多角形において第1距離で離間して隣り合う前記直線状スリットが形成される第1領域と、内外で隣り合う前記仮想多角形において前記第1距離より広い第2距離で離間して隣り合う前記直線状スリットが形成される第2領域と、を有することを特徴とする、金属製の薄板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の網状体の製造方法及び金属製の薄板に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板に所定ピッチで並ぶスリットを切断加工で形成した後、スリットと直交する方向に金属板を引き伸ばすことにより金属製の網状体を製造するエキスパンド成形機が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属線を織り込んで製造する金網と異なり、エキスパンドメタルは一枚の金属板から網状体を製造できるが、金属板を原料とするため複雑な形状の網状体を製造することが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、異なる傾斜角度を有する略円錐状の網状体を製造することができる網状体の製造方法及び網状体の製造に用いる金属製の薄板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様として実現することができる。
【0007】
[1]本発明に係る網状体の製造方法の一態様は、
複数の円弧状スリットが押圧部を中心にした半径の異なる複数の仮想円周上に形成されると共に各仮想円周上で周方向に離間して形成された金属製の薄板を準備する工程と、
前記押圧部を前記薄板から押し出して前記複数の円弧状スリットを広げて複数の網目部を形成して略円錐状の網状体を得る工程と、
を含み、
前記薄板は、径方向に第1距離で離間して隣り合う前記円弧状スリットが形成される第1領域と、前記径方向に前記第1距離より広い第2距離で離間して隣り合う前記円弧状スリットが形成される第2領域と、を有することを特徴とする。
【0008】
[2]本発明に係る金属製の薄板の一態様は、
複数の円弧状スリットが押圧部を中心にした半径の異なる複数の仮想円周上に形成されると共に各仮想円周上で周方向に離間して形成された金属製の薄板であって、
前記薄板は、径方向に第1距離で離間して隣り合う前記円弧状スリットが形成される第1領域と、前記径方向に前記第1距離より広い第2距離で離間して隣り合う前記円弧状スリットが形成される第2領域と、を有することを特徴とする。
【0009】
[3]本発明に係る網状体の製造方法の一態様は、
複数の直線状スリットが押圧部を中心にした前記押圧部からの距離が異なる複数の仮想多角形上に形成された金属製の薄板を準備する工程と、
前記押圧部を前記薄板から押し出して前記複数の直線状スリットを広げて複数の網目部を形成して略円錐状の網状体を得る工程と、
を含み、
前記直線状スリットは、各仮想多角形上において複数本が互いに離間して1列に配置され、
前記薄板は、内外で隣り合う前記仮想多角形において第1距離で離間して隣り合う前記直線状スリットが形成される第1領域と、内外で隣り合う前記仮想多角形において前記第1距離より広い第2距離で離間して隣り合う前記直線状スリットが形成される第2領域と、を有することを特徴とする。
【0010】
[4]本発明に係る金属製の薄板の一態様は、
複数の直線状スリットが押圧部を中心にした前記押圧部からの距離が異なる複数の仮想多角形上に形成された金属製の薄板であって、
前記直線状スリットは、各仮想多角形上において複数本が互いに離間して1列に配置され、
前記薄板は、内外で隣り合う前記仮想多角形において第1距離で離間して隣り合う前記直線状スリットが形成される第1領域と、内外で隣り合う前記仮想多角形において前記第1距離より広い第2距離で離間して隣り合う前記直線状スリットが形成される第2領域と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る網状体の製造方法の一態様によれば、隣り合う円弧状スリットまたは直線状スリットが異なる間隔を有することにより、押圧部を押し伸ばすことで異なる大きさの網目部を有する網状体を製造することができると共に、異なる傾斜角度を有する略円錐状の網状体を得ることができる。また、本発明に係る金属製の薄板の一態様によれば、隣り合う円弧状スリットまたは直線状スリットが異なる間隔を有することにより、押圧部を押し伸ばすことで異なる大きさの網目部を有する網状体を製造することができると共に、異なる傾斜角度を有する略円錐状の網状体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る金属製の薄板を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図1の金属製の薄板における第1領域と第2領域を説明する図である。
【
図3】第1実施形態に係る網状体の製造方法を説明する側面図である。
【
図4】第2実施形態に係る金属製の薄板を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図4の金属製の薄板における第1領域と第2領域を説明する図である。
【
図6】第2実施形態に係る網状体の製造方法を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
1.第1実施形態
1.1.金属製の薄板
図1及び
図2を用いて本実施形態に係る金属製の薄板10について説明する。
図1は、本実施形態に係る金属製の薄板10を模式的に示す平面図であり、
図2は、
図1の金属製の薄板10における第1領域A1と第2領域A2を説明する図である。なお、
図2における薄板10は円弧状スリット30が加工される前の状態であり、内側の薄い網掛けの範囲が第1領域A1を示し、外側の濃い網掛けの範囲が第2領域A2を示す。
【0015】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る金属製の薄板10は、複数の円弧状スリ
ット30が押圧部20を中心にした半径の異なる複数の仮想円周32上に形成されると共に各仮想円周32上で周方向に離間して形成された金属製の薄板10であって、薄板10は、径方向に第1距離D1で離間して隣り合う円弧状スリット30が形成される第1領域A1と、径方向に第1距離D1より広い第2距離D2で離間して隣り合う円弧状スリット30が形成される第2領域A2と、を有する。
【0016】
本願において周方向とは、薄板10における押圧部20を中心とする仮想円周32に沿った方向であり、径方向とは、薄板10における押圧部20を中心とする仮想円周32の径方向である。
【0017】
薄板10は、外周縁12が例えば円形の一枚の金属板である。一枚の金属板から製造することにより網状体が剛性に優れ変形しにくくなる。薄板10の材質としては、円弧状スリット30を加工可能であって押圧部20を押し出して変形可能な材質である。薄板10の金属としては、例えば、鉄鋼、ステンレスやバネ鋼などの特殊鋼、アルミニウム合金や銅合金、チタン合金などの非鉄金属である。薄板10は、厚さが例えば2mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下である。
【0018】
押圧部20は、後述する網状体の製造方法において薄板10を押し出す際に押圧する部分である。押圧部20は、網状体に製造した後に切除してもよい。押圧部20は、複数の円弧状スリット30が形成される仮想円周32の中心である。押圧部20は、
図1及び
図2に示すように一定の面積を有してもよいし、最も内側の円弧状スリット30に沿って環状(中心を除く部分)に形成してもよい。
【0019】
円弧状スリット30は、押圧部20を中心にした半径の異なる複数の仮想円周32上に形成される。
図1では、半径の異なる8本の仮想円周32(
図2に一点鎖線で示す)上に円弧状スリット30が形成されている例を示すが、網状体の用途に合わせて増減してもよい。各円弧状スリット30は、当該円弧状スリット30が形成される各仮想円周32と同一半径を有する円弧である。円弧状スリット30の径方向の幅は制限されないが、例えば0.1mm~2.0mmである。円弧状スリット30の周方向の長さは制限されないが、後述する網状体の製造時に変形可能な長さである。円弧状スリット30は、各仮想円周32上で周方向に離間して形成される。円弧状スリット30は、公知の穴あけ加工法、例えばレーザー加工またはプレス加工により形成できる。
【0020】
押圧部20から見て径方向で隣り合う円弧状スリット30の間に第1環状帯部41及び第2環状帯部42が形成される。第1環状帯部41及び第2環状帯部42は、薄板10に穴あけ加工で円弧状スリット30が形成されて残された部分であり、後述する網目部のストリングスを構成する部分である。第1環状帯部41と第2環状帯部42は、それぞれ周方向で連続する環状部分である。ここで「帯部」は環状に連続することに基づく名称であって、厚さと幅との関係に基づくものではない。第1領域A1では径方向に第1距離D1で離間して隣り合う円弧状スリット30が形成されて、第1距離D1の幅を有する円環状の第1環状帯部41が複数(
図1及び
図2の例では4本)形成される。第2領域A2では径方向に第1距離D1より広い第2距離D2で離間して隣り合う円弧状スリット30が形成されて、第2距離D2の幅を有する円環状の第2環状帯部42が複数(
図1及び
図2の例では3本)形成される。第1環状帯部41と第2環状帯部42の数は、用途に合わせて設定できる。
【0021】
第1距離D1は、例えば0.1mm~1.0mmであることができ、第2距離D2は、第1距離D1より大きく例えば0.2mm~2.0mmであることができる。
【0022】
同一仮想円周32上で隣り合う円弧状スリット30の間には接続部50が形成される。
接続部50は、円弧状スリット30の間にある穴あけ加工で残された部分であり、円弧状スリット30と同一円周上に交互に形成される。接続部50としては、円弧状スリット30を挟んで径方向で隣り合う第1環状帯部41と第1環状帯部41とを接続する接続部50と、円弧状スリット30を挟んで径方向で隣り合う第2環状帯部42と第2環状帯部42とを接続する接続部50と、円弧状スリット30を挟んで径方向で隣り合う第1環状帯部41と第2環状帯部42とを接続する接続部50とがある。接続部50は、後述する網状体における網目を構成するストリングスが交差する部分となる。そのため、接続部50の周方向の長さは、網状体の製造時に網目部に変形可能な程度の長さである。接続部50は、円弧状スリット30を網目に変形させるため、径方向で隣り合う接続部50が重なり合わないように千鳥状に配置される。言い換えれば、円弧状スリット30が径方向外側に向かって互い違いに配置される。具体的には、網目部が略菱形状に変形するために1つの円弧状スリット30を挟んで径方向で隣り合う接続部50は押圧部20から延びる同一の仮想直線上に配置され、当該円弧状スリット30の両端に隣接する2つの接続部50は当該仮想直線から等距離の位置に配置される。
図1及び
図2の例では在る仮想円周32上では30度、90度、150度、210度、270度、330度の位置に接続部50が配置され、その径方向で隣り合う仮想円周32上では0度、60度、120度、180度、240度、300度の位置に接続部50が配置される。接続部50が配置される角度は、要求される網目の大きさに応じて設定することができる。
【0023】
図1及び
図2において第1領域A1は、第2領域A2より内側の押圧部20に隣接する部分であるが、これに限らず、第1領域A1が押圧部20に隣接する第2領域A2の外側にあってもよいし、これらが径方向で交互に繰り返されるように形成されてもよい。
【0024】
本実施形態に係る金属製の薄板10によれば、隣り合う円弧状スリット30が異なる間隔を有することにより、押圧部20を押し伸ばすことにより異なる大きさの網目部を有する複雑な網状体を製造することができる。また、本実施形態に係る金属製の薄板10によれば、隣り合う円弧状スリット30が異なる間隔を有することにより、押圧部20を押し伸ばすことで異なる傾斜角度を有する略円錐状の網状体を得ることができる。
【0025】
1.2.網状体の製造方法
図3を用いて本実施形態に係る網状体70の製造方法について説明する。
図3は、第1実施形態に係る網状体70の製造方法を説明する側面図であり、(a)は金属製の薄板10の側面図であり、(b)は網状体70の側面図である。なお、
図3の(a)には網状体70の外形を破線で示す。
【0026】
図3の(a)及び(b)に示すように、本実施形態に係る網状体70の製造方法は、金属製の薄板10を準備する工程と、略円錐状の網状体70を得る工程と、を含む。
【0027】
まず、
図3の(a)に示すように金属製の薄板10を準備する工程を実行する。薄板10は、
図1及び
図2を用いて説明した複数の円弧状スリット30が押圧部20を中心にした半径の異なる複数の仮想円周32上に形成されると共に各仮想円周32上で周方向に離間して形成された薄板10を用いることができる。薄板10の下方には押圧部20を押し出す手段として押圧ロッド60が用意されている。円弧状スリット30は、公知の穴あけ加工法により形成することができる。
【0028】
次に、押圧ロッド60を矢印(破線で示す)のように移動させて押圧部20を薄板10から押し出して複数の円弧状スリット30を広げて、
図3の(b)に示すように複数の網目部(第1網目部71、第2網目部72、第3網目部73)を形成して略円錐状の網状体70を得る工程を実行する。網状体70は、全体に網目が多数開口する構造体である。網状体70の略円錐状の外形は、格子状の第1網目部71、第2網目部72及び第3網目部
73によって構成される。「略円錐状」の形態とは、円錐形状のみならず凡そ円錐台例えば複数の多角錐台を積み重ねた形状を含む形態であって、格子状の網目部によって形成される円錐を構成する外形は多段階の傾斜面例えば
図3に示すような2段階の傾斜面を有してもよい。
【0029】
図1及び
図2で説明したように薄板10が径方向に第1距離D1で離間して隣り合う円弧状スリット30が形成される第1領域A1と、径方向に第1距離D1より広い第2距離D2で離間して隣り合う円弧状スリット30が形成される第2領域A2と、を有することにより、網状体70は第1領域A1に対応する部分で第1網目部71が形成され、第2領域A2に対応する部分で第2網目部72が形成される。また、第1網目部71と第2網目部72との間に第3網目部73が形成される。
【0030】
第1網目部71は、4本の第1環状帯部41とこれらを接続する4つの接続部50によって囲まれた略菱形状の網目を形成する。第2網目部72は、4本の第2環状帯部42とこれらを接続する4つの接続部50によって囲まれた略菱形状の網目を形成する。第3網目部73は、第1領域A1と第2領域A2との移行部分にあって、上側に2本の第1環状帯部41と下側に2本の第2環状帯部42とが配置され、これらを接続する4つの接続部50によって囲まれた略菱形状の網目を形成する。網目は略菱形状であればよく、各辺が湾曲していてもよいし、各辺が異なる長さを有してもよい。
【0031】
第1網目部71は、第2網目部72に比べて隣り合う円弧状スリット30の間隔が小さい(D1<D2)ので第2網目部72よりも押圧する方向に長い網目(第4距離D4<第3距離D3)となる。これは、第1網目部71を構成する第1環状帯部41が第2網目部72を構成する第2環状帯部42よりも細く変形しやすいため、押圧ロッド60により押圧部20が矢印の方向に押し出されると、第2環状帯部42よりも大きく変形するためである。第3距離D3は第1網目部71における傾斜角度θ1に沿った開口長さであり、第4距離D4は第2網目部72における傾斜角度θ2に沿った開口長さである。
【0032】
また、
図3の(a)に破線で示す網状体70の外形のように、網状体70の底面である薄板10に対して第1領域A1における傾斜角度θ1は、第2領域A2における傾斜角度θ2よりも大きくなる。網状体70は、単一の薄板10から製造されるため全てのストリングスが連続する網であって、かつ、略2つの傾斜角度を有するため外形が漏斗状に形成される。
【0033】
このように、本実施形態に係る網状体70の製造方法によれば、隣り合う円弧状スリット30が異なる間隔を有することにより、異なる大きさの網目部を有する網状体70を製造することができると共に、異なる傾斜角度を有する複雑な略円錐状の網状体70とすることができる。また、例えば、第1領域A1が第2領域A2の外側にある薄板10の場合には外側の方が内側よりも傾斜角度が大きい略円錐状の形態となるし、第1領域A1と第2領域A2が径方向で交互に繰り返される薄板10であれば階段状に細くなる略円錐状の形態となる。
【0034】
網状体70は、金属製の各種技術分野で用いられるフィルターなどに利用することができる。網状体70は、金属線を織り込んで製造する金網に比べて剛性に優れ、変形しにくい。
【0035】
2.第2実施形態
2.1.金属製の薄板
図4及び
図5を用いて本実施形態に係る金属製の薄板10aについて説明する。
図4は、第2実施形態に係る金属製の薄板10aを模式的に示す平面図であり、
図5は、
図4の
金属製の薄板10aにおける第1領域A1aと第2領域A2aを説明する図である。なお、
図5における薄板10aは直線状スリット30aが加工される前の状態であり、内側の薄い網掛けの範囲が第1領域A1aを示し、外側の濃い網掛けの範囲が第2領域A2aを示す。なお、以下の説明は、第1実施形態と同じ機能を有する各部の重複する説明を省略することがある。
【0036】
図4に示すように、第2実施形態に係る金属製の薄板10aは、複数の直線状スリット30aが押圧部20を中心にした押圧部20からの距離が異なる複数の仮想多角形32a上に形成された金属製の薄板10aであって、直線状スリット30aは、各仮想多角形32a上において複数本が互いに離間して1列に配置され、薄板10aは、内外で隣り合う仮想多角形32aにおいて第1距離D1aで離間して隣り合う直線状スリット30aが形成される第1領域A1aと、内外で隣り合う仮想多角形32aにおいて第1距離D1aより広い第2距離D2aで離間して隣り合う直線状スリット30aが形成される第2領域A2aと、を有する。薄板10aの材質及び厚さは、第1実施形態の薄板10と同じものを採用することができる。
【0037】
薄板10aは、外周縁12aが例えば矩形の一枚の金属板である。外周縁12aの形状は仮想多角形32aに合わせて選択してもよい。
【0038】
押圧部20は、後述する網状体の製造方法において薄板10aを押し出す際に押圧する部分である。押圧部20は、網状体に製造した後に切除してもよい。押圧部20は、複数の直線状スリット30aが形成される仮想多角形32aの中心であり、したがって押圧部20から各仮想多角形32aにおける各頂点まで距離は等しい。
【0039】
直線状スリット30aは、押圧部20を中心にした押圧部20からの距離が異なる複数の仮想多角形32a上に形成される。
図4では、10本の仮想多角形32a(
図5に一点鎖線で示す)上に直線状スリット30aが形成されている例を示すが、網状体の用途に合わせて増減してもよい。
図5における仮想多角形32aは、正方形であるが、三角形以上の多角形であればよく、押圧部20の周囲に均等に直線状スリット30aを配置するために正多角形であることが好ましい。仮想多角形32aは、直線状スリット30aを形成するための指標となる仮想的な形状である。各直線状スリット30aは、仮想多角形32aの各辺に沿って形成され、各仮想多角形32a上において複数本が互いに離間して1列に配置される。また、直線状スリット30aは、例えば仮想多角形32aの頂部に対応する部分で屈曲する部分を含んでもよく、その場合2つ以上の直線状スリット30aが連続してもよいし、円弧状のスリットを挟んで連続してもよい。直線状スリット30aの幅及び長さは、円弧状スリット30の同程度の幅及び長さを採用できる。直線状スリット30aは、円弧状スリット30と同様に加工することができる。
【0040】
押圧部20から外周縁12aに向かう方向で隣り合う直線状スリット30aの間に第1環状帯部41a及び第2環状帯部42aが形成される。ここで「環状」は第1実施形態のような円環に限らず多角形に連続する無端状の形状も含む。第1環状帯部41a及び第2環状帯部42aは、薄板10に直線状スリット30aが形成されて残された部分であり、後述する網目部のストリングスを構成する部分である。第1環状帯部41aと第2環状帯部42aは、それぞれ押圧部20を囲むように周方向で連続する環状部分である。第1領域A1aでは内外で隣り合う仮想多角形32aにおいて第1距離D1aで離間して隣り合う直線状スリット30aが形成されて、第1距離D1aの幅を有する多角形の環状の第1環状帯部41aが複数(
図4の例では4本)形成される。ここで「内外で隣り合う」とは、押圧部20を内側とし外周縁12aを外側とした場合に隣り合う状態をいう。第2領域A2aでは径方向に第1距離D1aより広い第2距離D2aで離間して隣り合う直線状スリット30aが形成されて、第2距離D2aの幅を有する多角形の環状の第2環状帯部4
2aが複数(
図4の例では5本)形成される。第1環状帯部41aと第2環状帯部42aの数は、用途に合わせて設定できる。第1距離D1a及び第2距離D2aの幅は、第1実施形態と同様に設定することができる。
【0041】
同一仮想多角形32a上で隣り合う直線状スリット30aの間には接続部50aが形成される。接続部50aは直線状スリット30aの間にある穴あけ加工で残された部分であり、接続部50aと直線状スリット30aは同一多角形32a上で交互に形成される。接続部50aは、後述する網状体における網目を構成するストリングスが交差する部分となる。そのため、接続部50aの仮想多角形32aに沿った長さは、網状体の製造時に網目部に変形可能な程度の長さである。接続部50aは、直線状スリット30aを網目に変形させるため、内外で隣り合う接続部50aが重なり合わないように千鳥状に配置される。具体的には、網目部が略菱形状に変形するために1つの直線状スリット30aを挟んで内外で隣り合う接続部50aは押圧部20から延びる同一の仮想直線上に配置され、当該直線状スリット30aの両端に隣接する2つの接続部50aは当該仮想直線から等距離の位置に配置される。また、仮想多角形32aの頂部に対応する部分では、押圧部20から外周縁12aに向かって接続部50aと直線状スリット30aが連続する部分とが交互に配置される。
【0042】
図4及び
図5において第1領域A1aは、第2領域A2aより内側の押圧部20に隣接する部分であるが、これに限らず、第1領域A1aが押圧部20に隣接する第2領域A2aの外側にあってもよいし、これらが押圧部20から外周縁12aに向かって交互に繰り返されるように形成されてもよい。
【0043】
本実施形態に係る金属製の薄板10aによれば、隣り合う直線状スリット30aが異なる間隔(第1距離D1aと第2距離D2a)を有することにより、押圧部20を押し伸ばすことにより異なる大きさの網目部を有する複雑な網状体を製造することができる。また、本実施形態に係る金属製の薄板10aによれば、隣り合う直線状スリット30aが異なる間隔を有することにより、押圧部20を押し伸ばすことで異なる傾斜角度を有する略円錐状の網状体を得ることができる。
【0044】
2.2.網状体の製造方法
図4~
図6を用いて本実施形態に係る網状体70aの製造方法について説明する。
図6は、第2実施形態に係る網状体70aの製造方法を説明する側面図である。
図6では成形後の網状体70aを破線で示すと共に、網状体70aの中ほどにある第1網目部71a及び第2網目部72aを除いて他の網目部を省略して示す。網状体70aの製造方法は、
図4に示す薄板10aを用いることができる。
【0045】
本実施形態に係る網状体70aの製造方法は、
図4に示す金属製の薄板10aを準備する工程と、
図6に示す網状体70aを得る工程と、を含む。
【0046】
まず、
図4に示すような金属製の薄板10aを準備する工程を実行する。薄板10aは、複数の直線状スリット30aが押圧部20を中心にした押圧部20からの距離が異なる複数の仮想多角形32a上に形成された薄板10aを用いることができる。薄板10aの下方には押圧部20を押し出す手段として押圧ロッド60が用意されている。直線状スリット30aは、公知の穴あけ加工法により形成することができる。
【0047】
次に、押圧ロッド60を矢印(破線で示す)のように移動させて押圧部20を薄板10から押し出して複数の直線状スリット30aを広げて、
図6に示すように複数の網目部(第1網目部71a、第2網目部72a)を形成して略円錐状の網状体70aを得る工程を実行する。網状体70aは、全体に網目が多数開口する構造体である。網状体70aの略
円錐状の外形は、格子状の第1網目部71a、第2網目部72a等によって構成される。網状体70aは、略円錐状の形態であるので、全体で凡そ円錐形状または凡そ円錐台形状であればよく、例えば多角錐台に近い形状であってもよい。網状体70aは、格子状の網目部によって形成される円錐を構成する外形は多段階の傾斜面例えば
図6に示すような2段階の傾斜面を有してもよい。
【0048】
図4で説明したように直線状スリット30aは、各仮想多角形32a上において複数本が互いに離間して1列に配置される。そして薄板10aが内外で隣り合う仮想多角形32aにおいて第1距離D1aで離間して隣り合う直線状スリット30aが形成される第1領域A1aと、内外で隣り合う仮想多角形32aにおいて第1距離D1より広い第2距離D2で離間して隣り合う直線状スリット30aが形成される第2領域A2と、を有することにより、網状体70aは第1領域A1aに対応する部分で第1網目部71aが形成され、第2領域A2aに対応する部分で第2網目部72aが形成される。
【0049】
第1網目部71aは、4本の第1環状帯部41aとこれらを接続する4つの接続部50aによって囲まれた略菱形状の網目を形成する。第2網目部72aは、4本の第2環状帯部42aとこれらを接続する4つの接続部50aによって囲まれた略菱形状の網目を形成する。網目は略菱形状であればよく、各辺が湾曲していてもよいし、各辺が異なる長さを有してもよい。
【0050】
第1網目部71aは、第2網目部72aに比べて隣り合う直線状スリット30aの間隔が小さい(D1a<D2a)ので第2網目部72aよりも押圧する方向に長い網目(第4距離D4a<第3距離D3a)となる。また、この押圧する方向への変形のしやすさにより、
図6に破線で示す網状体70aの外形のように、網状体70aの底面である薄板10aに対して第1領域A1aにおける傾斜角度θ1は、第2領域A2aにおける傾斜角度θ2よりも大きくなる。網状体70aは、単一の薄板10aから製造されるため全てのストリングスが連続する網であって、かつ、略2つの傾斜角度を有するため外形が漏斗状に形成される。
【0051】
このように、本実施形態に係る網状体70aの製造方法によれば、隣り合う直線状スリット30aが異なる間隔を有することにより、異なる大きさの網目部を有する網状体70aを製造することができると共に、異なる傾斜角度を有する複雑な略円錐状の網状体70aとすることができる。また、例えば、第1領域A1aが第2領域A2aの外側にある薄板10aの場合には外側の方が内側よりも傾斜角度が大きい略円錐状の形態となるし、第1領域A1aと第2領域A2aが径方向で交互に繰り返される薄板10aであれば階段状に細くなる略円錐状の形態となる。
【0052】
網状体70aは、金属製の各種技術分野で用いられるフィルターなどに利用することができる。網状体70aは、金属線を織り込んで製造する金網に比べて剛性に優れ、変形しにくい。
【0053】
本発明は、本願に記載の特徴や効果を有する範囲で一部の構成を省略したり、各実施形態や変形例を組み合わせたりしてもよい。
【0054】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0055】
10,10a…薄板、12,12a…外周縁、20…押圧部、30…円弧状スリット、30a…直線状スリット、32…仮想円周、32a…仮想多角形、41,41a…第1環状帯部、42,42a…第2環状帯部、50,50a…接続部、60…押圧ロッド、70,70a…網状体、71,71a…第1網目部、72,72a…第2網目部、A1,A1a…第1領域、A2,A2a…第2領域、D1,D1a…第1距離、D2,D2a…第2距離、D3,D3a…第3距離、D4,D4a…第4距離、θ1,θ2…傾斜角度