(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112202
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】燃料製造システム
(51)【国際特許分類】
C10J 3/00 20060101AFI20240813BHJP
C10G 2/00 20060101ALI20240813BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20240813BHJP
C07C 29/152 20060101ALN20240813BHJP
C07C 31/04 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
C10J3/00 F
C10G2/00
C10J3/00 H
C01B3/02 F
C07C29/152
C07C31/04
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017119
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】岡村 昂汰
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 栞理
【テーマコード(参考)】
4H006
4H129
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC41
4H006BE20
4H006BE40
4H006BE41
4H006FE11
4H129AA01
4H129BA12
4H129BB07
4H129BC45
(57)【要約】
【課題】よりエネルギ効率を向上できる燃料製造システムを提供すること。
【解決手段】バイオマス原料供給装置と、ガス化炉と、液体燃料製造装置と、水素供給装置と、加熱装置と、制御装置と、を備え、バイオマス原料供給装置は、ガス化炉にバイオマス原料を供給する第1原料供給路と、加熱装置にバイオマス原料を供給する第2原料供給路と、を有し、水素供給装置は、ガス化炉内又は第1原料供給路内に水素を供給する第1水素供給路と、加熱装置に水素を供給する第2水素供給路と、を有し、制御装置は、ガス化炉におけるバイオマス原料のガス化に必要な熱量を算出可能であると共に、バイオマス原料供給装置による加熱装置に対するバイオマス原料供給量、及び水素供給装置による加熱装置に対する水素供給量をそれぞれ制御する、燃料製造システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス原料から液体燃料を製造する燃料製造システムであって、
バイオマス原料を供給するバイオマス原料供給装置と、
バイオマス原料をガス化し水素及び一酸化炭素を含む合成ガスを生成するガス化炉と、
前記ガス化炉によって生成された合成ガスから液体燃料を製造する液体燃料製造装置と、
再生可能エネルギを用いて発電した電力によって水から水素を生成する電解装置と、
前記電解装置によって生成された水素を供給する水素供給装置と、
前記ガス化炉を加熱する加熱装置と、
制御装置と、を備え、
前記バイオマス原料供給装置は、前記ガス化炉にバイオマス原料を供給する第1原料供給路と、前記加熱装置にバイオマス原料を供給する第2原料供給路と、を有し、
前記水素供給装置は、前記ガス化炉内又は第1原料供給路内に水素を供給する第1水素供給路と、前記加熱装置に水素を供給する第2水素供給路と、を有し、
前記制御装置は、前記ガス化炉におけるバイオマス原料のガス化に必要な熱量を算出可能であると共に、前記バイオマス原料供給装置による前記加熱装置に対するバイオマス原料供給量、及び前記水素供給装置による前記加熱装置に対する水素供給量をそれぞれ制御する、燃料製造システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記加熱装置において前記水素供給装置から供給される水素を燃焼させた場合の第1エネルギ効率と、前記加熱装置において前記バイオマス原料供給装置から供給されるバイオマス原料を燃焼させた場合の第2エネルギ効率と、を算出し、
前記第1エネルギ効率と前記第2エネルギ効率とを比較することにより、前記水素供給装置から前記加熱装置に水素を供給するか、前記バイオマス原料供給装置から前記加熱装置にバイオマス原料を供給するかを選択する、請求項1に記載の燃料製造システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ガス化炉の昇温に必要な水素を生成するための水素生成エネルギと、前記加熱装置における水蒸気の生成に必要な水素を生成するための水素生成エネルギと、に基づき、前記第1エネルギ効率を算出する、請求項2に記載の燃料製造システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記ガス化炉の温度上昇に必要な熱量と、前記ガス化炉に供給される水蒸気の生成に用いられる、前記合成ガスの合成時における排熱量と、前記ガス化炉に供給される水蒸気の生成に必要な熱量と、に基づいて、前記ガス化炉におけるバイオマス原料のガス化に必要な熱量を算出する、請求項1又は2に記載の燃料製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料製造システムに関する。より詳しくは、バイオマス原料と再生可能エネルギとに基づいて液体燃料を製造する燃料製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の代替として、再生可能エネルギによって発電した電力によって生成した水素とバイオマスや工場から排出される二酸化炭素等の炭素源とを原材料とした電気合成燃料が注目されている。
【0003】
バイオマスを原料としてメタノールやガソリン等の液体燃料を製造する一般的な手順は以下の通りである。すなわち、所定の前処理を経たバイオマス原料をガス化炉内で水や酸素とともにガス化させ、水素及び一酸化炭素を含む合成ガスを生成するガス化工程と、生成された合成ガスを洗浄しタールを取り除く洗浄工程と、洗浄工程を経た合成ガスのH2/CO比を製造しようとする液体燃料に応じた目標比に調整するH2/CO比調整工程と、H2/CO比調整工程を経た合成ガスから硫黄成分を取り除く脱硫工程と、脱硫工程を経た合成ガスから液体燃料を製造する燃料製造工程と、を経てバイオマス原料から液体燃料が製造される。
【0004】
ここでガス化工程を経て生成される合成ガスのH2/CO比は、多くの場合目標比に到達しておらず水素が不足している状態となっている。このためH2/CO比調整工程では、一酸化炭素と水とを反応させることによって水素を発生させ、H2/CO比を目標比まで上昇させる場合が多いが、この際、二酸化炭素が発生する。特許文献1に記載の技術によれば、システム全体での二酸化炭素の発生量を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、バイオマスをガス化するには700℃~900℃程度の所定の温度が必要であるが、バイオマスのガス化反応は吸熱反応であるため、常に新たな熱を供給する必要がある。特許文献1に記載の技術では、燃料や電力等を消費することで、加熱装置で熱を発生させ、ガス化炉に供給している。しかし、燃料や電力等を消費する場合、CO2が発生するという問題がある。また、ガス化炉の運転条件によって、何を加熱装置の熱源とすれば、よりエネルギ効率が向上するかは異なる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、よりエネルギ効率を向上できる燃料製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、バイオマス原料から液体燃料を製造する燃料製造システムであって、バイオマス原料を供給するバイオマス原料供給装置と、バイオマス原料をガス化し水素及び一酸化炭素を含む合成ガスを生成するガス化炉と、前記ガス化炉によって生成された合成ガスから液体燃料を製造する液体燃料製造装置と、再生可能エネルギを用いて発電した電力によって水から水素を生成する電解装置と、前記電解装置によって生成された水素を供給する水素供給装置と、前記ガス化炉を加熱する加熱装置と、制御装置と、を備え、前記バイオマス原料供給装置は、前記ガス化炉にバイオマス原料を供給する第1原料供給路と、前記加熱装置にバイオマス原料を供給する第2原料供給路と、を有し、前記水素供給装置は、前記ガス化炉内又は第1原料供給路内に水素を供給する第1水素供給路と、前記加熱装置に水素を供給する第2水素供給路と、を有し、前記制御装置は、前記ガス化炉におけるバイオマス原料のガス化に必要な熱量を算出可能であると共に、前記バイオマス原料供給装置による前記加熱装置に対するバイオマス原料供給量、及び前記水素供給装置による前記加熱装置に対する水素供給量をそれぞれ制御する、燃料製造システムに関する。
【0009】
(1)の発明によれば、よりエネルギ効率を向上できる燃料製造システムを提供できる。
【0010】
(2) 前記制御装置は、前記加熱装置において前記水素供給装置から供給される水素を燃焼させた場合の第1エネルギ効率と、前記加熱装置において前記バイオマス原料供給装置から供給されるバイオマス原料を燃焼させた場合の第2エネルギ効率と、を算出し、前記第1エネルギ効率と前記第2エネルギ効率とを比較することにより、前記水素供給装置から前記加熱装置に水素を供給するか、前記バイオマス原料供給装置から前記加熱装置にバイオマス原料を供給するかを選択する、(1)に記載の燃料製造システム。
【0011】
(2)の発明によれば、水素ガスの燃焼とバイオマスの燃焼とを比較し、よりエネルギ効率が良い方法によりガス化炉を必要な温度まで昇温できる。
【0012】
(3) 前記制御装置は、前記ガス化炉の昇温に必要な水素を生成するための水素生成エネルギと、前記加熱装置における水蒸気の生成に必要な水素を生成するための水素生成エネルギと、に基づき、前記第1エネルギ効率を算出する、(2)に記載の燃料製造システム。
【0013】
(3)の発明によれば、水素ガスを燃焼させてガス化炉を加熱する場合のエネルギ効率を正確に算出できる。
【0014】
(4) 前記制御装置は、前記ガス化炉の温度上昇に必要な熱量と、前記ガス化炉に供給される水蒸気の生成に用いられる、前記合成ガスの合成時における排熱量と、前記ガス化炉に供給される水蒸気の生成に必要な熱量と、に基づいて、前記ガス化炉におけるバイオマス原料のガス化に必要な熱量を算出する、(1)又は(2)に記載の燃料製造システム。
【0015】
(4)の発明によれば、ガス化炉におけるバイオマス原料のガス化に必要な熱量を正確に算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃料製造システムの構成を示す図である。
【
図2】制御装置の制御ロジックの一部を示すフローチャートである。
【
図3】所定の運転条件における、ガス化に必要な熱量とエネルギ効率との関係を示すグラフである。
【
図4】所定の運転条件における、ガス化に必要な熱量とエネルギ効率との関係を示すグラフである。
【
図5】所定の運転条件における、ガス化に必要な熱量とエネルギ効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る燃料製造システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る燃料製造システム1の構成を示す図である。燃料製造システム1は、バイオマス原料を供給するバイオマス原料供給装置2と、バイオマス原料供給装置2から供給されるバイオマス原料をガス化し水素及び一酸化炭素を含む合成ガスを生成するガス化装置3と、ガス化装置3から供給される合成ガスから液体燃料を製造する液体燃料製造装置4と、再生可能エネルギを用いて発電する発電設備5と、発電設備5において発電された電力によって水から水素を生成し、生成した水素をガス化装置3に供給する水素生成供給装置6と、ガス化装置3、発電設備5及び水素生成供給装置6を制御する制御装置7と、を備え、これらによってバイオマス原料から液体燃料を製造する。
【0019】
バイオマス原料供給装置2は、籾殻、バガス、及び木材等のバイオマス原料に所定の前処理を施すとともに、この前処理を経たバイオマス原料を、第1原料供給路20を介してガス化装置3のガス化炉30へ供給する。ここでバイオマス原料に対する前処理には、例えば、原料を乾燥させる乾燥工程や、原料を粉砕する粉砕工程等が含まれる。
【0020】
バイオマス原料供給装置2は、バイオマス原料を、第2原料供給路21を介してガス化装置3の加熱装置34に供給する。バイオマス原料供給装置2から加熱装置34へのバイオマス原料供給量は制御装置7によって制御される。
【0021】
ガス化装置3は、第1原料供給路20を介して供給されるバイオマス原料をガス化するガス化炉30と、ガス化炉30の内部の状態を検出する複数のセンサによって構成されるガス化炉センサ群31と、ガス化炉30内に水を供給する水供給装置32と、ガス化炉30内に酸素を供給する酸素供給装置33と、ガス化炉30を加熱する加熱装置34と、ガス化炉30から排出される合成ガスを洗浄するスクラバ35と、スクラバ35によって洗浄された合成ガスから硫黄成分を除去し、液体燃料製造装置4に供給する脱硫装置36と、を備える。
【0022】
水供給装置32は、図示しない水タンクに貯留された水をガス化炉30内へ供給する。酸素供給装置33は、図示しない酸素タンクに貯留された酸素をガス化炉30内へ供給する。加熱装置34は、ガス化炉30を加熱する。水供給装置32からガス化炉30内への水供給量、酸素供給装置33からガス化炉30内への酸素供給量、及び加熱装置34からガス化炉30への投入熱量は、制御装置7によって制御される。なお本実施形態に係る燃料製造システム1では、後述の水素生成供給装置6からガス化炉30内又は第1原料供給路20内に水素を供給することにより、水供給装置32からガス化炉30内へ水を積極的に供給する必要がなくなる場合がある。この場合、燃料製造システム1から水供給装置32を除くこともできる。
【0023】
水供給装置32は、水を気化させる水蒸気発生装置を有し、水蒸気をガス化炉30に供給してもよい。また、水供給装置32は燃料合成時の排熱を利用して水蒸気発生装置において水を気化させるか、又は気化される水を昇温することが好ましい。熱交換流路351は、例えば水供給装置32とスクラバ35との間を循環する流路であり、流路内には熱媒体(例えば、水等)が充填される。熱媒体は、不図示のポンプにより水供給装置32とスクラバ35との間を循環する。熱交換流路351における排熱受け取り前後の熱媒体の温度は、温度センサ352によって検出される。温度センサ352の検出信号は、制御装置7へ送信される。なお
図1は、水供給装置32は熱交換流路351を介してスクラバ35で発生した排熱を利用可能であるが、上記は一例であり、本発明はこれに限らない。水供給装置32は、ガス化炉30、脱硫装置36、液体燃料製造装置4、及びこれらを接続する流路において発生した排熱を利用可能であってもよい。
【0024】
加熱装置34は、第2原料供給路21を介して供給されるバイオマス原料、及び第2水素供給路642を介して供給される水素を消費することにより、ガス化炉30を加熱する。また、加熱装置34に水素が供給され、水素が燃焼することにより、ガス化炉30を加熱すると共に水蒸気が供給される。加熱装置34が、上記バイオマス原料と水素のいずれを消費して熱を生成するかは、制御装置7によって判断され制御される。
【0025】
バイオマス原料が投入されたガス化炉30内に、以上のような水供給装置32、酸素供給装置33、及び加熱装置34によって水、酸素、熱量等を投入すると、ガス化炉30内では、例えば下記式(1-1)~(1-5)に示すような計10種類のガス化反応及びその逆反応が進行し、水素と一酸化炭素とを含む合成ガスが生成される。
【0026】
【0027】
ガス化炉センサ群31は、例えば、ガス化炉30内の圧力を検出する圧力センサ、ガス化炉30内の温度を検出する温度センサ、ガス化炉30内における合成ガスの水素と一酸化炭素との比に相当するH2/CO比を検出するH2/COセンサ、及びガス化炉30内の二酸化炭素を検出するCO2センサ等によって構成される。ガス化炉センサ群31を構成するこれらセンサの検出信号は、制御装置7へ送信される。
【0028】
ガス化装置3は、上記式(1-1)~(1-5)に示すガス化反応及びその逆反応によって生成される合成ガスに、後述の水素生成供給装置6から供給される水素を混合することにより、合成ガスのH2/CO比を製造しようとする液体燃料に応じた所定の目標比(例えば、メタノールを製造する場合、H2/CO比の目標比は2)に調整した後、この合成ガスを液体燃料製造装置4へ供給する。
【0029】
液体燃料製造装置4は、メタノール合成装置、MTG(Methanol To Gasoline)合成装置、FT(Fischer Tropsch)合成装置、及びアップグレーディング装置等を備え、これらを用いることによって、ガス化装置3において所定のH2/CO比に調整された合成ガスからメタノールやガソリン等の液体燃料を製造する。
【0030】
発電設備5は、再生可能エネルギである風力によって発電する風力発電設備や、再生可能エネルギである太陽光によって発電する太陽光発電設備等によって構成される。発電設備5は、水素生成供給装置6に接続されており、風力発電設備や太陽光発電設備等において再生可能エネルギを用いて発電した電力は、水素生成供給装置6に供給することができる。また発電設備5は、商用電力網8とも接続されている。このため発電設備5において発電した電力の一部又は全ては、商用電力網8に供給し、電力会社に売電することも可能となっている。
【0031】
水素生成供給装置6は、電解装置60と、水素充填ポンプ61と、水素タンク62と、圧力センサ63と、水素供給装置としての水素供給ポンプ64と、を備え、これらを用いることによって発電設備5から供給される電力によって水素を生成し、生成した水素をガス化装置3へ供給する。
【0032】
電解装置60は、発電設備5と接続されており、発電設備5から供給される電力によって水から電気分解によって水素を生成する。また電解装置60は、商用電力網8とも接続されている。このため電解装置60は、発電設備5から供給される電力だけでなく、電力会社から買電することにより商用電力網8から供給される電力によって水素を生成することも可能となっている。電解装置60による水素生成量は制御装置7によって制御される。
【0033】
水素充填ポンプ61は、電解装置60によって生成された水素を圧縮し、水素タンク62内に充填する。水素充填ポンプ61による水素充填量は制御装置7によって制御される。水素タンク62は、水素充填ポンプ61によって圧縮された水素を貯留する。圧力センサ63は、水素タンク62のタンク内圧を検出し、検出信号を制御装置7へ送信する。水素タンク62内の水素残量は、圧力センサ63の検出信号に基づいて制御装置7によって算出される。従って本実施形態において、水素タンク62内の水素残量を取得する水素残量取得手段は、圧力センサ63及び制御装置7によって構成される。
【0034】
水素供給ポンプ64は、水素タンク62に貯留された水素を、第1水素供給路641を介してガス化装置3のガス化炉30内に供給する。水素供給ポンプ64からガス化炉30内への水素供給量は制御装置7によって制御される。なお
図1は、水素タンク62に貯留された水素を水素供給ポンプ64によってガス化炉30内に供給する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。水素タンク62に貯留された水素は、ガス化炉30より上流側、より具体的にはバイオマス原料の第1原料供給路20内に供給してもよい。
【0035】
水素供給ポンプ64は、水素タンク62に貯留された水素を、第2水素供給路642を介してガス化装置3の加熱装置34に供給する。水素供給ポンプ64から加熱装置34内への水素供給量は制御装置7によって制御される。加熱装置34で水素を燃焼させることで水蒸気も同時に生成するため、この場合、加熱装置34で発生した熱と共に水蒸気も、ガス化炉30に供給することができる。
【0036】
制御装置7は、ガス化炉センサ群31からの検出信号や水素タンク62の圧力センサ63、温度センサ352からの検出信号等に基づいて、バイオマス原料供給装置2から加熱装置34へのバイオマス原料の供給量、水供給装置32による水供給量、酸素供給装置33による酸素供給量、加熱装置34による投入熱量、電解装置60による水素生成量、水素充填ポンプ61による水素充填量、水素供給ポンプ64からガス化炉30への水素供給量、水素供給ポンプ64から加熱装置34への水素供給量、等を制御するコンピュータである。制御装置7によって水素供給量等を制御する具体的な手順については、後に
図2~5を参照しながら説明する。
【0037】
次に、
図2を参照し、制御装置7が、バイオマス原料供給装置2から加熱装置34にバイオマス原料を供給するか水素供給ポンプ64から加熱装置34に水素を供給するかを判断する手順について説明する。
【0038】
制御装置7は、ガス化炉30の温度が所定の閾値未満となった場合に、
図2に示すように、必要熱量算出工程S1と、エネルギ効率算出工程S2と、エネルギ効率比較工程S3と、水素燃焼工程S4又はバイオマス燃焼工程S5と、をこの順に実行する。
【0039】
必要熱量算出工程S1は、バイオマス原料のガス化に必要な熱量Qneed[W]を算出する工程である。熱量Qneed[W]は、以下の式(2)により算出される。
Qneed=QHeat+QVapor-QWaste (2)
【0040】
上記式(2)における熱量QHeat[W]は、ガス化炉30の温度T2[℃]を、所定の閾値T1[℃]まで上昇させるために必要な熱量を示す。熱量QHeat[W]は、以下の式(2-1)により算出される。以下の式(2-1)におけるCは、ガス化炉30の熱容量[J/K]を示す。
QHeat=C(T1-T2) (2-1)
【0041】
上記式(2)における熱量QWaste[W]は、ガス化炉30に供給される水蒸気の生成に用いられる、燃料合成工程の排熱量を示す。熱量QWasteは、以下の式(2-2)により算出される。以下の式(2-2)におけるc1は、排熱を運ぶ熱媒体の比熱[J/(g・℃)]を示す。同様にm1は、熱媒体の所定の流量[g/s]を示す。同様にT3は、排熱受け取り前の熱媒体の温度[℃]を示す。同様にT4は、排熱受け取り前の熱媒体の温度[℃]を示す。上記T3及びT4は、センサ(例えば、温度センサ352)により常時測定され取得される。
QWaste=c1×m1×(T3-T4) (2-2)
【0042】
上記式(2)における熱量QVapor[W]は、ガス化炉30に供給される水蒸気の生成に必要な熱量を示す。熱量QVaporは、以下の式(2-3)により算出される。以下の式(2-3)におけるC2は、液体状態の水の比熱(約4.2[J/(g・℃)])を示す。同様にC3は、気体状態の水(水蒸気)の比熱を示す。同様にT5は、水蒸気生成に用いる水の温度[℃]を示す。同様にT6は、所定の水蒸気の目標温度[℃]を示す。
QVapor=m2[c2(100-T5)+2780[J/g](水の蒸発熱)+c3(T6-100)]
(2-3)
【0043】
上記式(2-3)におけるm2は、ガス化に必要な水蒸気量[g/s]を示す。m2は、以下の式(2-4)により算出される。以下の式(2-4)におけるLは、ガス化炉30に供給されるバイオマス原料の単位時間当たりの供給量[g/s]を示す。同様にC含有率は、ガス化炉30に供給されるバイオマス原料の炭素含有率を示す。C含有率は、バイオマス原料の種類によって異なる分析値である。S/Cは、水蒸気量と炭素量の比であり、予め設定される。
m2=L×C含有率×1/12×S/C×18 (2-4)
【0044】
エネルギ効率算出工程S2は、必要熱量算出工程S1によって算出される熱量Qneedを水素の燃焼によって賄う場合の第1エネルギ効率E1と、熱量Qneedをバイオマス原料の燃焼によって賄う場合の第2エネルギ効率E2と、の2通りのエネルギ効率をそれぞれ算出する工程である。
【0045】
第1エネルギ効率E1及びE2は、以下の式(3)により算出される。なお以下の式(3)における合成ガスエネルギは、燃料製造システム1により製造される燃料の熱量を実績値として用いる。
エネルギ効率=合成ガスエネルギ/投入エネルギ (3)
【0046】
第1エネルギ効率E1の算出において、式(3)における投入エネルギは以下の式(3-1)により算出される。以下の式(3-1)におけるバイオマス投入エネルギ、及び水素生成エネルギは、装置の性能等によって決定される一定値である。同様に必要水素量は、ガス化装置3のガス化炉30内に供給される水素の量であり、実績値が用いられる。
投入エネルギ=バイオマス投入エネルギ+(水素生成エネルギ×必要水素量)+EHeat+EVapor (3-1)
【0047】
上記式(3-1)におけるEHeatは、ガス化炉30の昇温に要する水素生成エネルギであり、以下の式(3-2)により算出される。以下の式(3-2)におけるQHeatは、上記式(2-1)により算出される。以下の式(3-2)、(3-3)における電解効率とは、必要水素量を水の電解により生成する際に要する電気エネルギであり、電解装置の性能により決まる数値である。
EHeat=(QHeat×2×電解効率[kJ/g])/水素燃焼エネルギ[kJ/mol] (3-2)
【0048】
上記式(3-1)におけるEVaporは、ガス化炉30に供給される水蒸気を生成するために要する水素生成エネルギであり、以下の式(3-3)により算出される。
EVapor=(m2×2×電解効率[kJ/g])/18 (3-3)
【0049】
第2エネルギ効率E2の算出において、式(3)における投入エネルギは以下の式(3-4)により算出される。以下の式(3-4)におけるバイオマス投入エネルギ、水素生成エネルギ、及び必要水素量の定義は式(3-1)と同様である。
投入エネルギ=バイオマス投入エネルギ+(水素生成エネルギ×必要水素量)
(3-4)
【0050】
エネルギ効率比較工程S3は、エネルギ効率算出工程S2によって算出される第1エネルギ効率E1と第2エネルギ効率E2とを比較する工程である。上述のように、加熱装置34で水素を燃焼させることで水蒸気も同時に生成するため、場合によっては加熱装置34で水素を燃焼させてガス化に必要な熱量を得た方が、燃料製造システム1全体の効率が良い場合もある。一方で、加熱装置34でバイオマスを燃焼させてガス化に必要な熱量を得た方が、燃料製造システム1全体の効率が良い場合もある。この点について、以下
図3~5を用いて説明する。
【0051】
図3~5は、燃料製造システム1のそれぞれ異なる運転条件における、第1エネルギ効率E1及び第2エネルギ効率E2と、熱量Q
need[kW]との関係を例示するグラフである。
図3~5において、曲線Aは第2エネルギ効率E2に対応し、曲線Bは第1エネルギ効率E1に対応する。
図3~5において、バイオマス供給量は3kg/hであり、S/Cは3である。
図3は、ガス化炉30に供給される水蒸気の生成エネルギのうち、8割が燃料合成時の排熱により賄われる場合の例である。同様に
図4は5割、
図5は1割が燃料合成時の排熱により賄われる場合の例である。
図3~5から、燃料製造システム1の運転条件及び熱量Q
need[kW]によって、第1エネルギ効率E1と第2エネルギ効率E2とが変化することが明らかである。
【0052】
エネルギ効率比較工程S3において、
図3~5のような所定の条件下において、第1エネルギ効率E1と第2エネルギ効率E2とが比較される。第1エネルギ効率E1が第2エネルギ効率E2よりも大きい場合、水素燃焼工程S4に進む。第1エネルギ効率E1が第2エネルギ効率E2よりも小さい場合、バイオマス燃焼工程S5に進む。
【0053】
水素燃焼工程S4では、制御装置7が水素供給ポンプ64を制御することによって、水素タンク62に貯留された水素を、第2水素供給路642を介してガス化装置3の加熱装置34に供給する。
【0054】
バイオマス燃焼工程S5では、制御装置7がバイオマス原料供給装置2を制御することによって、バイオマス原料を、第2原料供給路21を介してガス化装置3の加熱装置34に供給する。
【0055】
以上説明した本実施形態に係る燃料製造システム1によれば、よりシステム全体のエネルギ効率を向上できる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 燃料製造システム
2 バイオマス原料供給装置
20 第1原料供給路
21 第2原料供給路
30 ガス化炉
4 液体燃料製造装置
60 電解装置
64 水素供給ポンプ(水素供給装置)
641 第1水素供給路
642 第2水素供給路
7 制御装置