(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112216
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240813BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
B41J2/165 401
B41J2/175 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017137
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 峻介
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA21
2C056FA04
2C056FA10
2C056JB15
2C056JB16
2C056KB15
2C056KB16
2C056KB19
(57)【要約】
【課題】超音波振動によって振動板および圧電素子が破損するのを抑制した洗浄を行うことができる液体噴射ヘッドの洗浄方法を提供する。
【解決手段】液体を噴射するためのノズル21が形成されたノズルプレート20と、前記ノズル21に連通する圧力室12と、前記圧力室12の一部を画定する振動板と、前記振動板上に積層された圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、前記ノズル21を洗浄槽内の洗浄液Wに浸した状態、且つ、前記圧力室内に気体が存在する状態で超音波振動子によって前記洗浄槽内の洗浄液Wを超音波振動させる超音波洗浄工程を備える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するためのノズルが形成されたノズルプレートと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室の一部を画定する振動板と、前記振動板上に積層された圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、
前記ノズルを洗浄槽内の洗浄液に浸した状態、且つ、前記圧力室内に気体が存在する状態で超音波振動子によって前記洗浄槽内の洗浄液を超音波振動させる超音波洗浄工程を備える、
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項2】
前記液体噴射ヘッドの外部と前記液体噴射ヘッド内の流路とを接続するための流路接続部を有する前記液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、
前記超音波洗浄工程は、前記超音波振動子が超音波振動している間、前記液体噴射ヘッドの前記流路接続部を介して気体を導入する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項3】
前記超音波洗浄工程は、前記超音波振動子が超音波振動している間、前記ノズルから気泡を排出させるようにして前記液体噴射ヘッドの前記流路接続部を介して気体を導入する、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項4】
前記超音波洗浄工程は、前記超音波振動子が超音波振動している間、前記ノズルから気泡を排出させないようにして前記液体噴射ヘッドの前記流路接続部を介して気体を導入する、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項5】
前記超音波洗浄工程を行う前に、前記液体噴射ヘッド内の液体を前記液体噴射ヘッドから排出することで前記液体噴射ヘッド内の液体を気体に置換する置換工程と、
前記超音波洗浄工程の前、且つ、前記置換工程の後に、洗浄液と気体との気液界面が前記ノズルの先端と前記圧力室を画定する振動板との間に位置するように前記液体噴射ヘッドを前記洗浄槽内に浸す含浸工程と、
を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項6】
前記含浸工程は、前記気液界面が前記ノズルと前記振動板との間に位置するように行う、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項7】
前記超音波洗浄工程は、前記圧力室内に気体が存在するか否かを検出し、前記圧力室内に気体が存在する場合に前記超音波振動子による超音波振動を開始する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項8】
前記圧電素子は、薄膜圧電体を含む、
ことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドの洗浄方法に関し、特に液体としてインクを噴射するインクジェット式記録ヘッドの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドは、例えば、ノズルに連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板に、圧力発生室内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段を備え、この圧力発生手段の駆動によって圧力発生室を画定する振動板を変形させて圧力室内のインクに圧力変化を生じさせることで、ノズルからインク滴を噴射させる。
【0003】
圧力発生手段として、振動板と、振動板上に第1電極と圧電体層と第2電極とを成膜およびリソグラフィー法によって積層した圧電素子と、を用いた液体噴射ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、液体噴射ヘッドのノズルを洗浄槽の洗浄液に浸漬した状態で、洗浄液を超音波振動させて、液体噴射ヘッドのノズル周辺を洗浄する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-166767号公報
【特許文献2】特開2003-266719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の圧電素子を有する液体噴射ヘッドを、特許文献2の洗浄方法で洗浄すると、超音波振動によって振動板および圧電素子が破損する虞があるという問題がある。
【0007】
なお、このような問題は、インクを噴射するインクジェット式記録ヘッドの洗浄方法に限定されず、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するためのノズルが形成されたノズルプレートと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室の一部を画定する振動板と、前記振動板上に積層された圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、前記ノズルを洗浄槽内の洗浄液に浸した状態、且つ、前記圧力室内に気体が存在する状態で超音波振動子によって前記洗浄槽内の洗浄液を超音波振動させる超音波洗浄工程を備える、ことを特徴とする液体噴射ヘッドの洗浄方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る液体噴射装置の概略構成を示す図である。
【
図2】実施形態1に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
【
図3】実施形態1に係る液体噴射ヘッドの断面図である。
【
図4】実施形態1に係る液体噴射ヘッドの要部を拡大した断面図である。
【
図5】実施形態1に係るヘッドチップの分解斜視図である。
【
図6】実施形態1に係るヘッドチップの平面図である。
【
図7】実施形態1に係るヘッドチップおよびカバーヘッドの断面図である。
【
図8】実施形態1に係る超音波洗浄工程を説明する模式図である。
【
図9】実施形態1に係る超音波洗浄工程を説明する要部断面図である。
【
図10】実施形態1の変形例1に係る置換工程を説明する模式図である。
【
図11】実施形態1の変形例1に係る超音波洗浄工程を説明する模式図である。
【
図12】実施形態1の変形例2に係る超音波洗浄工程を説明する模式図である。
【
図13】実施形態2に係る洗浄工程を説明する模式図である。
【
図14】実施形態2に係る超音波洗浄工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同じ符号を付したものは、同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。また、正方向及び負方向を限定しない3つの空間軸の方向については、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向として説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1は、本発明の液体噴射装置1の概略構成を示す図である。
【0012】
図示するように、液体噴射装置1は、液体の一種であるインクをインク滴として印刷用紙等の媒体Sに噴射・着弾させて、当該媒体Sに形成されるドットの配列により画像等の印刷を行うインクジェット式記録装置である。なお、媒体Sとしては、記録用紙の他、樹脂フィルムや布等の任意の材質を用いることができる。
【0013】
液体噴射装置1は、液体噴射ヘッド2と、液体貯留部3と、制御部である制御ユニット4と、媒体Sを送り出す搬送機構5と、移動機構6と、を具備する。
【0014】
液体噴射ヘッド2は、液体貯留部3から供給されるインクを複数のノズルから媒体Sに噴射する。液体噴射ヘッド2の詳細な構成は後述する。
【0015】
液体貯留部3は、液体噴射ヘッド2から噴射されるインクを貯留する。液体貯留部3としては、例えば、液体噴射装置1に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、インクを補充可能なインクタンクなどが挙げられる。なお、液体貯留部3には、特に図示していないが、例えば、色や成分等が異なる複数種類のインクが個別に貯留されている。
【0016】
本実施形態では、液体貯留部3は、インクの種類毎にメインタンク3aとサブタンク3bとを有する。そして、サブタンク3bは、液体噴射ヘッド2に接続され、液体噴射ヘッド2からインク滴を噴射することで消費したインクをメインタンク3aからサブタンク3bに補充する。もちろん、液体貯留部3は、メインタンク3aのみで構成されていてもよい。
【0017】
液体噴射装置1は、液体噴射ヘッド2とサブタンク3bとの間でインクを循環させるための循環機構7を有する。
【0018】
循環機構7は、供給ポンプ7aと、循環ポンプ7bと、サブタンク3bと、回収チューブ7cと、供給チューブ7dと、を含んで構成される。
【0019】
供給ポンプ7aは、メインタンク3aに貯留されたインクをサブタンク3bに供給するポンプである。循環ポンプ7bは、サブタンク3bに貯留されたインクを液体噴射ヘッド2に供給、すなわち、圧送するためのポンプである。
【0020】
回収チューブ7cは、液体噴射ヘッド2で印刷に使用されず、サブタンク3bに回収されるインクの流路を形成する部材である。供給チューブ7dは、サブタンク3bから液体噴射ヘッド2に供給されるインクの流路を形成する部材である。
【0021】
サブタンク3bは、液体貯留部3から供給されるインクを一時的に貯留する容器である。また、サブタンク3bは、液体噴射ヘッド2で印刷に使用されず、回収チューブ7cを介して回収されたインクを一時的に貯留する。
【0022】
このような循環機構7は、循環ポンプ7bにより、サブタンク3bから供給チューブ7dを介して液体噴射ヘッド2へインクを供給し、液体噴射ヘッド2で使用されなかったインクを、回収チューブ7cを介してサブタンク3bに回収する。これにより液体噴射ヘッド2とサブタンク3bとの間でインクが循環する。また、サブタンク3bに貯留されたインクが一定量以下となると、供給ポンプ7aによりメインタンク3aからサブタンク3bへインクが供給される。
【0023】
制御ユニット4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の制御装置と、半導体メモリー等の記憶装置と、を備えている。制御ユニット4は、記憶装置に記憶されたプログラムを制御装置が実行することで液体噴射装置1の各要素、すなわち、液体噴射ヘッド2、搬送機構5、移動機構6等を統括的に制御する。
【0024】
搬送機構5は、媒体SをX軸方向に搬送するものであり、搬送ローラー5aを有する。すなわち搬送機構5は、搬送ローラー5aが回転することで媒体SをX軸方向に搬送する。なお、媒体Sを搬送する搬送機構5は、搬送ローラー5aを備えるものに限られず、例えば、ベルトやドラムによって媒体Sを搬送するものであってもよい。
【0025】
移動機構6は、搬送体6aと搬送ベルト6bとを具備する。搬送体6aは、液体噴射ヘッド2を収容する略箱形の構造体、所謂、キャリッジであり、搬送ベルト6bに固定される。搬送ベルト6bは、Y軸方向に沿って架設された無端ベルトである。搬送ベルト6bは、図示しない搬送モーターの駆動によって回転する。制御ユニット4は、搬送モーターの駆動を制御することで搬送ベルト6bを回転させて、液体噴射ヘッド2を搬送体6aと共にY軸方向に図示しないガイドレールに沿って往復移動する。なお、液体貯留部3のサブタンク3bは、液体噴射ヘッド2と共に搬送体6aに搭載することも可能である。
【0026】
液体噴射ヘッド2は、制御ユニット4による制御のもとで、液体貯留部3から供給されたインクを複数のノズル21(
図7参照)のそれぞれからインク滴として+Z方向に噴射する噴射動作を実行する。この液体噴射ヘッド2によるインク滴の噴射動作が、搬送機構5による媒体Sの搬送や移動機構6による液体噴射ヘッド2の往復移動と並行して行われることにより、媒体Sの表面にインクによる画像が形成される、所謂、印刷動作が行われる。
【0027】
図2~
図4を用いて、液体噴射ヘッド2を説明する。なお、
図2は、液体噴射ヘッド2の分解斜視図である。
図3は、液体噴射ヘッド2の断面図である。
図4は、
図3の要部を拡大した断面図である。なお、液体噴射ヘッド2の各方向について、液体噴射装置1に搭載された際の方向、すなわち、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に基づいて説明する。もちろん、液体噴射ヘッド2の液体噴射装置1内の位置は以下に示すものに限定されるものではない。
【0028】
図示するように、液体噴射ヘッド2は、ヘッドチップ8と、流路400を有する流路部材200と、中継基板210と、カバーヘッド220と、を具備する。
【0029】
流路部材200は、流路400として、液体貯留部3から供給されたインクをヘッドチップ8に供給する供給流路と、ヘッドチップ8のノズルから噴射されなかったインクを液体貯留部3に戻すための排出流路と、を有する。
図3には、流路400として供給流路のみを図示し、以下は、供給流路である流路400について説明したものである。
【0030】
流路部材200は、第1流路401が設けられた第1流路部材201と、第2流路402が設けられた第2流路部材202と、第1流路401と第2流路402とを液密な状態で接続するシール部材203と、を具備する。
【0031】
第1流路部材201と、シール部材203と、第2流路部材202とは、この順に+Z方向に積層されている。
【0032】
第1流路部材201は、本実施形態では、3つの部材201a、201b、201cがZ軸方向に積層されて構成されている。第1流路部材201は、液体であるインクが貯留された液体貯留部3に接続される供給側流路接続部204aを有する。本実施形態では、供給側流路接続部204aとして、第1流路部材201の-Z方向の面に、-Z方向に筒状に突出したものとした。この供給側流路接続部204aには、供給チューブ7dが接続される。このような供給側流路接続部204aの内部には、液体貯留部3からのインクが供給される第1流路401が設けられている。
【0033】
第1流路401は、Z軸方向に延びる流路や、積層された部材の積層界面に沿って延びる流路等で構成されている。また、第1流路401の途中には、他の領域よりも内径が広く拡幅されたフィルター室401aが設けられており、フィルター室401a内には、インクに含まれるゴミや気泡などの異物を捕捉するフィルター401bが設けられている。
【0034】
なお、本実施形態では、1つの第1流路部材201は、4個の供給側流路接続部204aと、4個の独立した第1流路401と、を具備する。なお、第1流路401は、例えば、フィルター401bの下流で2個以上に分岐してもよい。
【0035】
また、
図2に示すように、第1流路部材201は、4個の排出側流路接続部204bを有する。各排出側流路接続部204bには、回収チューブ7cが接続され、液体噴射ヘッド2のノズル21から噴射されなかったインクは、回収チューブ7cを介してサブタンク3bに戻される。また、排出側流路接続部204bの図示しない内部には、排出流路が設けられている。つまり、流路部材200には、不図示の排出流路が4個設けられている。ちなみに、排出流路の途中には、フィルターを設ける必要はない。以降、供給側流路接続部204aと排出側流路接続部204bとを区別しない場合に流路接続部204と称する。
【0036】
第2流路部材202は、第1流路401のそれぞれに連通する第2流路402を有する。すなわち、第2流路部材202は、4個の第2流路402を有する。第1流路401と第2流路402とは、シール部材203を介して液密に接続されている。シール部材203は、液体噴射ヘッド2に用いられるインク等の液体に対して耐液体性を有し、且つ弾性変形可能な材料、例えば、ゴムやエラストマー等を用いることができる。このようなシール部材203には、Z軸方向に貫通する接続流路403が設けられており、第1流路401と第2流路402とは、接続流路403を介して連通する。つまり、流路部材200の供給流路である流路400は、第1流路401と第2流路402と接続流路403とを具備する。
【0037】
また、第2流路部材202の+Z方向を向く面に、ヘッドチップ8が保持されている。本実施形態の液体噴射ヘッド2には、複数、本実施形態では、一例として2個のヘッドチップ8が保持されている。もちろん、液体噴射ヘッド2が保持するヘッドチップ8の数は、特にこれに限定されず、1個であってもよく、2個以上の複数であってもよい。また、本実施形態では、2個のヘッドチップ8は、X軸方向に関して同じ位置となるように、Y軸方向に並設されている。もちろん、複数のヘッドチップ8の配置は、特にこれに限定されず、例えば、X軸方向に沿って千鳥状に配置されていてもよい。
【0038】
このようなヘッドチップ8の各導入口44aに第2流路402が連通する。また、ヘッドチップ8の導出口44bに流路部材200の不図示の排出流路が接続される。
【0039】
また、第2流路部材202には、各ヘッドチップ8の配線部材110を挿通するための配線保持孔205が設けられている。本実施形態では、2個のヘッドチップ8の夫々に対して2個の配線保持孔205が設けられている。ヘッドチップ8の詳しくは後述する配線部材110は、配線保持孔205を介して第2流路部材202の-Z方向を向く面側に導出される。
【0040】
また、Z軸方向において、シール部材203と第1流路部材201との間には、複数のヘッドチップ8の配線部材110が共通して接続される中継基板210が設けられている。中継基板210は、柔軟性のない硬質のリジット基板からなり、不図示の配線や電子部品等が実装されたものである。本実施形態では、電子部品として外部配線が接続されるコネクター211を図示している。そして、ヘッドチップ8を制御するための印刷信号等は、外部配線からコネクター211を介して中継基板210に入力され、中継基板210から各ヘッドチップ8に供給される。なお、流路部材200のコネクター211に対向する側壁には、コネクター211に接続される外部配線を挿通するための外部配線用開口部206が設けられている。外部配線は、外部配線用開口部206を介して流路部材200の内部に設けられた中継基板210のコネクター211に接続される。
【0041】
中継基板210には、ヘッドチップ8の配線部材110を-Z方向を向く面側に導出するための配線挿通孔212が設けられている。配線挿通孔212は、各ヘッドチップ8に対して1個、合計2個設けられている。
【0042】
また、中継基板210には、Z軸方向に貫通して設けられた突起部挿通孔213が設けられている。第2流路部材202の-Z方向を向く面には、内部に第2流路402が設けられた突起部207が-Z方向に向かって突出して設けられており、突起部207は、突起部挿通孔213を介して中継基板210の-Z方向側に挿通されて、接続流路403と接続される。
【0043】
また、流路部材200の+Z方向を向く面には、カバーヘッド220が固定されている。カバーヘッド220は、本実施形態では、2個のヘッドチップ8を覆う大きさを有する。カバーヘッド220には、ヘッドチップ8のノズル21を+Z方向に向かって露出する露出開口部221がヘッドチップ8毎に独立して設けられている。露出開口部221から露出されたノズル21からインクが+Z方向に向かって噴射される。もちろん、露出開口部221は、複数のヘッドチップ8に共通して設けられていてもよい。
【0044】
ここで、液体噴射ヘッド2に搭載されるヘッドチップ8について、さらに
図5~
図7を参照して説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係るヘッドチップ8の分解斜視図である。
図6は、ヘッドチップ8の平面図である。
図7は、
図6のA-A′線に準じたヘッドチップ8およびカバーヘッド220の断面図である。なお、ヘッドチップ8の各方向について、液体噴射ヘッド2に搭載された際の方向、すなわち、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に基づいて説明する。
【0045】
図示するように、本実施形態のヘッドチップ8は、流路形成基板10を具備する。流路形成基板10は、例えば、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板からなる。
【0046】
流路形成基板10には、複数の圧力室12がX軸方向に沿って並んで配置されている。複数の圧力室12は、Y軸方向に関して同じ位置となるように、X軸方向に沿った直線上に配置されている。X軸方向で互いに隣り合う2つの圧力室12は、隔壁によって区画されている。また、本実施形態では、圧力室12がX軸方向に沿って並設された圧力室列が、Y軸方向に2列設けられている。もちろん、圧力室12の配置は特にこれに限定されず、例えば、複数の圧力室12は、X軸方向に沿って千鳥状に配置されていてもよい。
【0047】
流路形成基板10の+Z方向を向く面には、連通板15とノズルプレート20とが順次積層されている。
【0048】
連通板15は、流路形成基板10の+Z方向を向く面に接合された板状部材からなる。連通板15には、圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16が設けられている。
【0049】
また、連通板15には、複数の圧力室12が共通して連通する共通液室となるマニホールド100の一部を構成する第1マニホールド部17と第2マニホールド部18とが設けられている。第1マニホールド部17は、連通板15をZ軸方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、連通板15をZ軸方向に貫通することなく、+Z方向を向く面に開口して設けられている。
【0050】
さらに、連通板15には、圧力室12のY軸方向の一端部に連通する供給連通路19が圧力室12の各々に独立して設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と圧力室12とを連通して、マニホールド100内のインクを圧力室12に供給する。
【0051】
このような連通板15としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板などを用いることができる。なお、連通板15は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このように流路形成基板10と連通板15とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱により反りが発生するのを低減することができる。
【0052】
ノズルプレート20は、連通板15の流路形成基板10とは反対側、すなわち、+Z方向を向く面に接合されている。
【0053】
ノズルプレート20には、各圧力室12にノズル連通路16を介して連通するノズル21が形成されている。ノズル21は、噴射面20a側である+Z方向側に設けられた第1部分21aと、第1部分21aよりも圧力室12側、つまり-Z方向側に設けられた第2部分21bと、を有する。第1部分21aは、第2部分21bよりも小さい開口面積を有する。つまり、第1部分21aのX軸とY軸とで規定されるXY平面に沿った断面積は、第2部分21bのXY平面に沿った断面積よりも小さい。ノズル21の開口形状が円形の場合、第1部分21aの直径は、第2部分21bの直径よりも小さい。
【0054】
また、本実施形態では、複数のノズル21は、X軸方向に沿って一列となるように並んで配置されている。また、本実施形態では、ノズル21がX軸方向に沿って並設されたノズル列が、Y軸方向に離れて2列設けられている。Y軸方向に並設された2列のノズル列は、各列を構成するノズル21同士が互いにX軸方向に半ピッチずれた状態で配置されていてもよい。このようなノズルプレート20としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることができる。なお、ノズルプレート20は、連通板15の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このようにノズルプレート20と連通板15とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱により反りが発生するのを低減することができる。
【0055】
流路形成基板10の-Z方向を向く面には、振動板50と圧電素子300とが順次積層されている。
【0056】
振動板50は、本実施形態では、流路形成基板10側に設けられた酸化シリコンからなる弾性膜51と、弾性膜51の-Z方向を向く面上に設けられた酸化ジルコニウムからなる絶縁膜52と、を有する。なお、振動板50は、弾性膜51のみで構成されていてもよく、絶縁膜52のみで構成されていてもよく、弾性膜51と絶縁膜52とに加えて他の膜を有する構成であってもよい。
【0057】
圧電素子300は、振動板50上に-Z方向に向かって順次積層された第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを具備する。圧電素子300が、圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる駆動素子となっている。このような圧電素子300は、圧電アクチュエーターとも言い、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを含む部分を言う。また、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を活性部310と称する。これに対して、圧電体層70に圧電歪みが生じない部分を非活性部と称する。すなわち、活性部310は、圧電体層70が第1電極60と第2電極80とで挟まれた部分を言う。本実施形態では、圧力室12毎に活性部310が形成されている。つまり、圧電素子300には複数の活性部310が形成されていることになる。そして、一般的には、活性部310の何れか一方の電極を活性部310毎に独立する個別電極とし、他方の電極を複数の活性部310に共通する共通電極として構成する。本実施形態では、第1電極60が個別電極を構成し、第2電極80が共通電極を構成している。もちろん、第1電極60が共通電極を構成し、第2電極80が個別電極を構成してもよい。
【0058】
ここで第1電極60は、圧力室12毎に切り分けられて活性部310毎に独立する個別電極を構成する。第1電極60は、+X方向において、圧力室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち、+X方向において、第1電極60の端部は、圧力室12に対向する領域の内側に位置している。また、
図7に示すように、第1電極60のY軸方向において、ノズル21側の端部は、圧力室12よりも外側に配置されている。この第1電極60のY軸方向において圧力室12よりも外側に配置された端部に、引き出し配線であるリード電極90が接続されている。
【0059】
圧電体層70は、+Y方向の幅が所定の幅で、+X方向に亘って連続して設けられている。圧電体層70のY軸方向の幅は、圧力室12のY軸方向の長さよりも長い。このため、圧力室12の+Y方向および-Y方向の両側では、圧電体層70は、圧力室12に対向する領域の外側まで延設されている。このような圧電体層70のY軸方向においてノズル21とは反対側の端部は、第1電極60の端部よりも外側に位置している。すなわち、第1電極60のノズル21とは反対側の端部は圧電体層70によって覆われている。また、圧電体層70のノズル21側の端部は、第1電極60の端部よりも内側に位置しており、第1電極60のノズル21側の端部は、圧電体層70に覆われていない。
【0060】
このような圧電体層70は、一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造の複合酸化物からなる圧電材料を用いて構成されている。
【0061】
第2電極80は、
図7に示すように、圧電体層70の第1電極60とは反対側である-Z方向側に連続して設けられており、複数の活性部310に共通する共通電極を構成する。第2電極80は、Y軸方向が所定の幅となるように、X軸方向に亘って連続して設けられている。また、第2電極80は、凹部の内面、すなわち、圧電体層70の凹部の側面上および凹部の底面である振動板50上にも設けられている。もちろん、第2電極80は、凹部の内面の一部のみに設けるようにしてもよく、凹部の内面の全面に亘って設けないようにしてもよい。
【0062】
また、第1電極60からは、引き出し配線であるリード電極90が引き出されている。そしてリード電極90の圧電素子300に接続された端部とは反対側の端部には、可撓性を有するフレキシブル基板からなる配線部材110が接続されている。配線部材110は、活性部310の夫々を駆動させるか否かを選択する複数のスイッチング素子を有する駆動信号選択回路111が実装されている。つまり、配線部材110は、COFからなる。なお、配線部材110には、駆動信号選択回路111駆動信号選択回路111を設けなくてもよい。つまり、配線部材110は、FFC、FPC等であってもよい。
【0063】
このような第1電極60、圧電体層70および第2電極80を含む圧電素子300は、各層が成膜およびリソグラフィー法によって形成される。このため本実施形態の圧電素子300は、「薄膜圧電体」である圧電体層70を含む圧電薄膜となっている。ここで薄膜圧電体を含む圧電薄膜とは、第1電極60、圧電体層70および第2電極80を含む積層方向であるZ軸方向の厚さが10μm未満のものを言う。なお、圧電薄膜は、複数のノズル21を高密度に配置するために3μm以下であることが好ましい。
【0064】
流路形成基板10の-Z方向を向く面には、流路形成基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。保護基板30は、圧電素子300を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、X軸方向に並んで配置される圧電素子300の列毎に独立して設けられたものであり、Y軸方向に2つ並んで形成されている。また、保護基板30には、Y軸方向に並んで配置される2つの保持部31の間にZ軸方向に貫通する貫通孔32が設けられている。圧電素子300の電極から引き出されたリード電極90の端部は、この貫通孔32内に露出するように延設され、リード電極90と配線部材110とは、貫通孔32内で電気的に接続されている。
【0065】
このような保護基板30としては、例えば、流路形成基板10と同様にシリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板からなる。なお、保護基板30は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このように流路形成基板10と保護基板30とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱による反りが発生するのを低減することができる。
【0066】
また、保護基板30上には、複数の圧力室12に連通するマニホールド100を流路形成基板10と共に画成するケース部材40が固定されている。ケース部材40は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接合されると共に、上述した連通板15にも接合されている。
【0067】
このようなケース部材40は、保護基板30側に流路形成基板10および保護基板30が収容される深さの凹部41を有する。この凹部41は、保護基板30の流路形成基板10に接合された面よりも広い開口面積を有する。そして、凹部41に流路形成基板10および保護基板30が収容された状態で、凹部41のノズルプレート20側の開口面が連通板15によって封止されている。
【0068】
また、ケース部材40には、連通板15の第1マニホールド部17に連通する第3マニホールド部42が設けられている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17および第2マニホールド部18と、ケース部材40に設けられた第3マニホールド部42と、によって本実施形態のマニホールド100が構成されている。マニホールド100は、圧力室12の列毎に、つまり、合計2個設けられている。各マニホールド100は、圧力室12が並んで配置されるX軸方向に亘って連続して設けられており、各圧力室12とマニホールド100とを連通する供給連通路19は、X軸方向に並んで配置されている。また、ケース部材40には、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給するための導入口44aが設けられている。また、ケース部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通して配線部材110が挿通される接続口43が設けられており、配線部材110は、接続口43を介して液体噴射ヘッド2の-Z方向を向く面側に導出される。ケース部材40としては、金属材料、樹脂材料などを用いることができる。
【0069】
また、連通板15の第1マニホールド部17および第2マニホールド部18が開口する+Z方向側の面には、コンプライアンス基板45が設けられている。このコンプライアンス基板45が、第1マニホールド部17と第2マニホールド部18の噴射面20a側の開口を封止している。このようなコンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜46のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。
【0070】
このようなコンプライアンス基板45の+Z方向を向く面に、カバーヘッド220が接合される。つまり、カバーヘッド220は、開口部48を覆うように固定基板47に接合される。カバーヘッド220と封止膜46との間の空間は、大気開放させることで封止膜46のコンプライアンス部49をマニホールド100内のインクの圧力に応じて変形可能となっている。
【0071】
また、ノズルプレート20とコンプライアンス基板45およびカバーヘッド220の露出開口部221との間には、充填剤22が充填される。充填剤22は、接着剤やポッティング剤、モールド剤などを用いることができる。このようノズルプレート20とカバーヘッド220との隙間に充填剤22を充填することで、噴射面20aをブレードでワイピングした際のインクがこの隙間に滞留することを抑制できる。また、充填剤22によってワイピングするブレードがノズルプレート20の角部に当接して削れることを抑制して、ブレードの寿命が低下することを抑制できる。
【0072】
以下に、
図8および
図9を用いて、液体噴射ヘッド2の洗浄方法を説明する。なお、
図8は、液体噴射ヘッド2の超音波洗浄工程を説明する模式図である。
図9は、超音波洗浄工程を説明する液体噴射ヘッド2およびカバーヘッド220の要部断面図である。
【0073】
液体噴射ヘッドの洗浄を行う超音波洗浄装置500は、
図8に示すように、洗浄槽501と、洗浄槽501に取り付けられた超音波振動子502と、を具備する。
【0074】
洗浄槽501は、内部に洗浄液Wを収容可能な容器である。洗浄槽501に収容される洗浄液Wとしては、例えば、インクの溶媒、つまり、色材を含まないものや、純水、水溶性アルコールなどの水溶性溶剤、水酸化カリウム等を用いることができ、必要に応じて界面活性剤や消泡剤を添加させてもよい。
【0075】
また、洗浄槽501の-Z方向を向く面は、液体噴射ヘッド2よりも大きく開口しており、液体噴射ヘッド2は、洗浄槽501の-Z方向を向く面側から洗浄槽501内に挿入される。
【0076】
超音波振動子502は、洗浄槽501の外周面に固定される。超音波振動子502は、洗浄槽501内に収容された洗浄液Wに超音波振動を与える。超音波振動子502は、例えば、20kHzから200kHzまでの任意の周波数である超音波振動を洗浄液Wに与える。
【0077】
このような超音波洗浄装置500を用いて液体噴射装置1から取り外した液体噴射ヘッド2のノズル21を超音波振動させた洗浄液Wで洗浄する超音波洗浄工程を行う。
【0078】
超音波洗浄工程は、液体噴射ヘッド2のノズル21を洗浄槽501の洗浄液Wに浸した状態、且つ、圧力室12に気体が存在する状態で洗浄槽501内の洗浄液Wを超音波振動させる。
【0079】
ここで、超音波洗浄工程において「ノズル21を洗浄液に浸した状態」とは、ノズル21の噴射面20a側の開口、つまりノズル21の+Z方向の一端が洗浄液Wに浸した状態を言う。すなわち、ノズル21は、+Z方向の一端が洗浄液Wに浸っていれば、ノズル21のZ軸方向に亘る全てが洗浄液Wに浸されていなくてもよい。言い換えると、ノズルプレート20の噴射面20aのみが洗浄液Wに浸った状態であれば、ノズルプレート20のZ軸方向の厚さの全体が洗浄液Wに浸っていなくてもよい。なお、ノズル21への異物の付着は、ノズル21の噴射面20a側の一端から始まり、最終的にはノズル21の全てに付着してノズル21を閉塞する場合がある。このようなノズル21に付着した異物を洗浄液Wで洗浄するために超音波洗浄工程を行うため、少なくともノズル21の+Z方向の一端が洗浄液Wに浸した状態であればよい。また、ノズル21に付着する異物は、例えば、紫外線硬化型インクが紫外線によって固化したもの、顔料インクと当該顔料インクに含まれる顔料を凝集させるための反応液との混在物などが挙げられる。このような異物は、通常の液体噴射装置に搭載されるクリーニング手段、例えば、噴射面20aをワイピングするワイパーブレードによる清掃や、噴射面20aをキャップで覆い、キャップ内を吸引することでノズル21からインクと共に異物を吸引する清掃などを行っても除去するのが困難である。もちろん、インクの種類および異物の種類は上述したものに限定されるものではない。
【0080】
もちろん、後述する圧力室12に気体が存在する状態を維持できれば、ノズルプレート20の全部や、ヘッドチップ8の一部または全部、流路部材200の一部が洗浄液Wに浸った状態であってもよい。
【0081】
なお、ノズル21内に侵入した洗浄液Wの液面、つまり、洗浄液Wと気体との気液界面の位置Pglは、ノズル21内、ノズル連通路16内、圧力室12内等であってもよい。ちなみに、圧力室12内に洗浄液Wの液面がある場合には、後述するように洗浄液Wが振動板50に付着しない位置である必要がある。また、洗浄液Wは表面張力によって開口面積が変わる段差部分にメニスカスが形成されやすいため、洗浄液Wの液面である気液界面は、例えば、ノズル21の第1部分21aと第2部分21bとの境界P1、第2部分21bとノズル連通路16との境界P2、ノズル連通路16と圧力室12との境界P3等に形成されやすい。また、気液界面の位置Pglは、ノズル21よりも上流、すなわち、ノズル21と振動板50との間に位置することが好ましい。また、例えば、ノズル21の第2部分21bとノズル連通路16との境界P2やノズル連通路16と圧力室12との境界P3などに位置することも好ましい。これにより、洗浄液Wでノズル21全体を満たして、超音波振動工程でノズル21に付着した異物を除去することができる。
【0082】
また、超音波洗浄工程において圧力室12に気体が存在する状態は、本実施形態では、液体噴射ヘッド2の流路400に気体を導入することで行われる。つまり、液体噴射ヘッド2の供給側流路接続部204aおよび排出側流路接続部204bの一方の開口を塞ぎ、他方を介して液体噴射ヘッド2の流路400に気体を供給する。本実施形態では、排出側流路接続部204bの開口を閉塞部材510で塞ぎ、供給側流路接続部204aに気体供給チューブ520を介して気体を液体噴射ヘッド2に向かって送るポンプ521からなる圧送手段を接続する。ポンプ521は、気体を気体供給チューブ520から圧送することで、液体噴射ヘッド2の流路内に気体を導入する。これにより、流路400からヘッドチップ8の導入口を介してマニホールド100内および圧力室12内に気体が導入され、圧力室12に気体が存在する状態となる。
【0083】
なお、圧力室12に気体が存在する状態とは、
図9に示すように、振動板50に洗浄液Wの一部である洗浄液W’が付着しているが、洗浄槽501の洗浄液Wと振動板50に付着した洗浄液W’とが断続した状態、つまり、洗浄槽501の洗浄液Wと振動板50に付着した洗浄液W’との間に気体が存在する状態を言う。また、圧力室12に気体が存在する状態とは、
図9において振動板50に洗浄液Wの一部である洗浄液W’が付着していない状態、即ち、振動板50の全面が気体に触れている状態も含む。
【0084】
本実施形態では、
図9に示すように、超音波洗浄工程で超音波振動子502が超音波振動している間、ノズル21から気泡Bを排出させるように液体噴射ヘッド2の供給側流路接続部204aを介して気体を導入する。つまり、超音波振動子502が洗浄液Wに超音波振動を与えている間は、ポンプ521が液体噴射ヘッド2に向かって気体を導入し続けることで、ノズル21から気泡Bを排出させる。ノズル21から排出される気泡Bの量は、ポンプ521による気体の供給圧力と、液体噴射ヘッド2を洗浄槽501の洗浄液Wに沈めた際にノズル21に加わる水圧と、の差圧によって決まる。
【0085】
このように超音波洗浄工程でノズル21から気泡Bを排出させることで、圧力室12に洗浄液Wが充填されずに気体が存在する状態を容易に維持することができる。つまり、液体噴射ヘッド2の内部において気液界面の位置Pglを調整するためのポンプ521による高度な圧力調整が不要となる。
【0086】
なお、液体噴射ヘッド2の流路400に導入する気体は、例えば、空気や窒素等の不活性ガスなどを用いるようにしてもよい。また、液体噴射ヘッド2へ気体を圧送する圧送手段としてポンプを例示したが、圧送手段は特にこれに限定されず、例えば、圧縮された気体を貯留したタンクを流路接続部204に接続し、タンクから圧縮された気体を液体噴射ヘッド2に導入するようにしてもよい。
【0087】
このように超音波振動工程は、ノズル21を洗浄液Wに浸した状態、且つ圧力室12内に気体が存在する状態で超音波振動子502によって洗浄槽501内の洗浄液Wを超音波振動させる。これによりノズル21に付着した異物を超音波振動する洗浄液Wによって洗い流すことができると共に、洗浄時の超音波振動が洗浄液Wを介して振動板50に伝わるのを抑制して、振動板50および圧電素子300が超音波振動することによって破損するのを抑制できる。ちなみに、洗浄槽501内の洗浄液Wが圧力室12内まで連続して充填されてしまうと、ノズル21に付着した異物を洗い流すことができるものの、超音波振動が洗浄液Wを介して振動板50まで伝わり、振動板50および圧電素子300が超音波振動することで破損する虞がある。具体的には、圧力室12内の洗浄液W中にキャビテーションが発生することで、振動板50および圧電素子300が破損する虞がある。
【0088】
また、超音波洗浄工程で圧力室12に気体を存在させるために、ノズル21から気泡Bを排出させることで、ノズル21に形成された洗浄液Wのメニスカスを振動させて、ノズル21に付着した異物にさらに振動を与えることができる。したがって、気泡Bによる洗浄液Wのメニスカスの振動によってノズル21に付着した異物を洗い流し易くすることができる。また、液体噴射ヘッド2の噴射面20aの周囲にノズル21から排出された気泡Bが存在することで、超音波振動によって洗浄液Wを伝わる定在波を減衰し、ノズルプレート20に定在波が伝わり難くすることができる。これにより、ノズルプレート20に伝わる定在波によって流路形成基板10および圧電素子300等に大きな振動が作用するのを抑制し、振動板50および圧電素子300の振動による破損を抑制できる。
【0089】
なお、超音波洗浄工程は、圧力室12内に気体が存在するか否かを検出し、圧力室12内に気体が存在する場合に、超音波振動子502による超音波振動を開始してもよい。つまり、圧力室12内に気体が存在しない場合、すなわち、圧力室12に気体以外の洗浄液Wまたはインクなどの液体が存在する場合には、超音波振動子502による超音波振動を行わない。これにより、超音波振動が圧力室12内の液体を介して振動板50および圧電素子300に伝わるのを抑制して、振動板50および圧電素子300の超音波振動による破損を抑制することができる。また、圧力室12内に気体が存在しないことを検出した場合には、例えば、洗浄槽501から液体噴射ヘッド2を取り出して、液体噴射ヘッド2内の洗浄液Wやインク等の液体を気体に置換する置換工程を行えばよい。また、圧力室12内に気体が存在しないことを検出した場合には、例えば、ポンプ521によって液体噴射ヘッド2内に供給する気体の圧力を高くして、圧力室12内の洗浄液Wやインクをノズル21から排出させればよい。これらの対応を単独または組み合わせることで、圧力室12内に気体を導入して圧力室12に気体が存在する状態で超音波洗浄工程を行うことで、振動板50および圧電素子300の超音波振動による破損を抑制することができる。
【0090】
なお、圧力室12内に気体が存在するか否かの検出は、例えば、圧電素子300を駆動し、その後に圧電素子300に発生する過剰電圧(別称、起電圧)を検出し、その振動、所謂、残留振動の状態、例えば、残留振動の周期や振幅から行うことができる。これは、圧電素子300を駆動した後に、圧電素子300に発生する過剰電圧(別称、起電圧)は、インクが充填されていない圧力室12に対応する圧電素子300と、インクが充填された圧力室12に対応する圧電素子300とでは、その振動、所謂、残留振動の状態、例えば、残留振動の周期や振幅が異なるからである。事前に、インクが充填されておらず気体が存在する圧力室12に対応する圧電素子300に発生する起電圧の残留振動の状態、例えば、残留振動の周期や振幅を把握し、その残留振動の状態の検出を圧力室12内に気体が存在しているとすることができる。なお、圧電素子300に発生する起電圧を検出する場合は、印刷時の駆動パルスを用いるようにしてもよく、検出用の駆動パルスを用いるようにしてもよい。ちなみに、検出用の駆動パルスとしては、例えば、圧力室12内のインクに振動を与える駆動パルスで、圧電素子300の1つを1回駆動させ、その後の圧力室12内の振動、すなわち圧電素子300に発生する起電圧を検出することで正確に振動を読み取ることができる。
【0091】
このように圧力室12内に気体が存在する場合のみ、超音波振動子を超音波振動させて洗浄することで、振動板50および圧電素子300が洗浄液Wやインクを介して超音波振動するのを抑制して、振動板50および圧電素子300が超音波振動によって破損するのをさらに抑制することができる。
【0092】
なお、本実施形態では、排出側流路接続部204bの開口を閉塞部材510で塞ぎ、供給側流路接続部204aから液体噴射ヘッド2内に気体を供給するようにしたが、特にこれに限定されない。例えば、供給側流路接続部204aの開口を閉塞部材510で塞ぎ、排出側流路接続部204bから液体噴射ヘッド2内に気体を供給してもよい。また、供給側流路接続部204aと排出側流路接続部204bとの両方から液体噴射ヘッド2内に気体を供給してもよい。
【0093】
また、本実施形態では、排出側流路接続部204bの開口を閉塞部材510で塞ぐようにしたが、特にこれに限定されず、排出側流路接続部204bに接続されたチューブの開口を閉塞部材が塞ぐようにしてもよい。供給側流路接続部204aを塞ぐ場合にも同様に、供給側流路接続部204aに接続されたチューブの開口を閉塞部材が塞ぐようにしてもよい。
【0094】
また、本実施形態では、超音波洗浄工程において、ノズル21から気泡Bを排出させるように液体噴射ヘッド2の供給側流路接続部204aを介して気体を導入するようにしたが、これに限定されない。例えば、超音波洗浄工程において、ノズル21から気泡を排出させないようにして液体噴射ヘッド2の流路接続部204を介して気体を導入するようにしてもよい。つまり、液体噴射ヘッド2の内部における洗浄液Wと気体との気液界面の位置Pglの調整は、ポンプ521によって気体を圧送する際の圧力をノズル21から気泡Bが排出されない程度に調整することで行う。この場合、ノズル21内を洗浄液Wで満たす状態とするのが好ましい。このような構成であっても、上述した実施形態1と同様に、超音波洗浄工程を行うことでノズル21に付着した異物を除去することができる。特に洗浄液Wでノズル21が満たされた状態で超音波洗浄工程を行うことでノズル21に付着した異物を除去しやすい。また、超音波洗浄工程では、圧力室12内に気体が存在することで、洗浄液Wを介して超音波振動が振動板50および圧電素子300に伝わるのを抑制して、洗浄時の超音波振動によって振動板50および圧電素子300が破壊されるのを抑制できる。
【0095】
(変形例1)
図10は、本発明の実施形態1の変形例1に係る液体噴射ヘッド2の置換工程を説明する模式図である。
図11は、実施形態1の変形例1に係る液体噴射ヘッド2の含浸工程および超音波洗浄工程を説明する模式図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0096】
図10に示すように、超音波洗浄工程を行う前に、液体噴射ヘッド2内のインクを液体噴射ヘッド2から排出することで、液体噴射ヘッド2内の液体を気体に置換する置換工程を行う。
【0097】
置換工程は、例えば、供給側流路接続部204aおよび排出側流路接続部204bの何れか一方から気体を導入し、他方から液体を排出することで行う。本実施形態では、供給側流路接続部204aに気体供給チューブ520を介してポンプ521を接続し、ポンプ521によって気体を液体噴射ヘッド2に向かって送ることで、液体噴射ヘッド2内のインクを排出側流路接続部204bから排出させると共に、液体噴射ヘッド2内に気体を充填する、置換工程を行う。このとき、ノズル21からインクが排出されるようにしてもよく、ノズル21をキャップ等で覆ってノズル21からインクが排出されないようにしてもよい。
【0098】
また、置換工程は、例えば、供給側流路接続部204aおよび排出側流路接続部204bを大気開放した状態で、ノズル21からキャップを介して吸引ポンプ等でインクを吸引することで行うようにしてもよい。
【0099】
超音波洗浄工程の前、且つ、置換工程の後に、
図11に示すように、洗浄液Wと気体との気液界面がノズル21の先端と、圧力室12を画定する振動板50との間に位置するように、液体噴射ヘッド2を洗浄槽501に浸す含浸工程を行う。本実施形態では、置換工程を行った後、供給側流路接続部204aおよび排出側流路接続部204bのそれぞれを閉塞部材510で塞いた状態で、液体噴射ヘッド2を洗浄槽501に浸す含浸工程を行うことで、気液界面がノズル21の噴射面20a側の先端と、圧力室12を画定する振動板50との間に位置するようにした。
【0100】
なお、含浸工程では、気液界面がノズル21よりも上流側、つまり、ノズル21と振動板50との間であることが好ましい。これにより、洗浄液Wでノズル21を満たして、後の超音波振動工程でノズル21に付着する異物を除去することができる。
【0101】
この含浸工程を行った後、超音波振動子502を超音波振動させて超音波洗浄工程を行う。このとき、ノズル21の少なくとも先端は、洗浄液Wに浸されているため、超音波振動によってノズル21の少なくとも先端に付着した異物を除去できる。また、圧力室12は、気体が存在する状態であるため、超音波振動が洗浄液Wを介して振動板50および圧電素子300に伝わるのを抑制して、振動板50および圧電素子300が洗浄する際の超音波振動によって破損するのを抑制できる。
【0102】
また、超音波洗浄工程を行う前に置換工程と含浸工程とを行うことで、超音波洗浄工程を行っている間に、液体噴射ヘッド2の内部に気体を導入する必要がなく、簡略な構造で超音波洗浄工程を実施することができる。
【0103】
なお、本変形例においても、実施形態1と同様に、超音波洗浄工程は、置換工程及び含侵工程を行った後に、圧力室12内に気体が存在するか否かを検出し、圧力室12内に気体が存在する場合に、超音波振動子502による超音波振動を開始することが好ましい。これにより、圧力室12内に気体が存在しない場合には、液体噴射ヘッド2を洗浄槽501に浸す深さを少なくして、再度、含侵工程を行うことで、ノズル21から振動板50に亘って洗浄液Wが入り込んだ状態で超音波洗浄工程を行ってしまう可能性を低減できる。なお、再度、含侵工程を行う前に、置換工程も再度行ってもよい。
【0104】
(変形例2)
図12は、本発明の実施形態1の変形例2に係る液体噴射ヘッド2の超音波洗浄工程を説明する模式図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を伏して重複する説明を省略する。
【0105】
図12に示すように、超音波洗浄工程は、超音波振動子502が超音波振動している間、液体噴射ヘッド2の流路接続部204を介して気体を導入する。具体的には、供給側流路接続部204aと排出側流路接続部204bとを循環チューブ522で接続する。また、循環チューブ522の途中に、供給側流路接続部204aに向かって気体を圧送するポンプ523を設け、排出側流路接続部204bを介して液体噴射ヘッド2から排出された気体を、供給側流路接続部204aを介して液体噴射ヘッド2に導入する。つまり、ポンプ523によって液体噴射ヘッド2に導入および排出する気体を循環している。
【0106】
このように液体噴射ヘッド2に供給する気体を循環させた場合であっても、上述した実施形態1と同様に、液体噴射ヘッド2の流路内に気体を所定の圧力で供給して、圧力室12に気体が存在する状態で超音波洗浄工程を実施できる。
【0107】
また、例えば、循環チューブ522の途中に、気体を加熱するヒーター等の加熱手段を設けることで、液体噴射ヘッド2に循環供給する気体を加熱して、液体噴射ヘッド2を加熱できる。このためノズル21に付着した異物を除去する洗浄液Wを加熱して、異物を除去し易くすることができる。
【0108】
(実施形態2)
図13は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッド2の洗浄工程を説明する模式図である。
図14は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッド2の超音波洗浄工程を説明する模式図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0109】
本実施形態では、液体噴射ヘッド2を洗浄する際に、洗浄工程と、超音波洗浄工程と、を行う。洗浄工程は、詳しくは後述するが、ノズル21から液体噴射ヘッド2内に洗浄液Wを導入し、流路接続部204から洗浄液Wを液体噴射ヘッド2の外部に排出するものである。このような洗浄工程は、超音波洗浄工程の前後の何れか一方または両方で行う。なお、このため、洗浄工程は超音波洗浄工程よりも前に行うことが好ましい。これにより、例えば、ノズル21が異物で完全に閉塞している場合には、超音波洗浄工程よりも前に洗浄工程を行うことで、ノズル21を閉塞した異物の一部を除去して開口させることができる可能性がある。そして超音波洗浄工程を洗浄工程で開口したノズル21に対して行うことで、ノズル21の内部に付着した異物を除去し易い。
【0110】
このような洗浄工程は、保護カバー530を液体噴射ヘッド2の噴射面20aに接触させる封止工程と、保護カバー530と固定部材540との間で液体噴射ヘッド2を挟持する固定工程と、を具備する。
【0111】
図13に示すように、保護カバー530は、本体部531と蓋部532とを具備する。
【0112】
本体部531は、-Z方向を向く面に液体噴射ヘッド2の噴射面20aが載置される。本体部531は、Z軸方向に亘って貫通する貫通孔533を有する。本体部531の-Z方向を向く面に載置された液体噴射ヘッド2の噴射面20aのノズル21を含む一部は、貫通孔533によって本体部531の+Z方向を向く面に露出される。なお、本体部531の-Z方向を向く面には、液体噴射ヘッド2の噴射面20aとの間で液密にシールするためのゴム等で形成された環状のシール部材538が設けられている。また、貫通孔533によって露出される噴射面20aは、ノズル21を含む領域であって、充填剤22(
図9参照)を含まない領域であることが好ましい。このように貫通孔533によって充填剤22を露出させないことで、洗浄工程および超音波洗浄工程で、充填剤22に洗浄液Wが接触するのを抑制して、充填剤22が洗浄液Wによって劣化するのを抑制することができる。
【0113】
蓋部532は、本体部531の+Z方向を向く面に着脱可能に設けられている。蓋部532は、本体部531の+Z方向を向く面に固定されることで、貫通孔533の+Z方向の開口を塞ぐ。なお、本体部531と蓋部532との固定方法は、特に限定されず、ネジによる締結等が挙げられる。
【0114】
また、保護カバー530は、一端が貫通孔533に連通し、他端が本体部531の-Z方向を向く面に開口する洗浄流路534を有する。洗浄流路534の他端には、洗浄液Wを供給する洗浄液供給チューブ524が接続される洗浄流路接続部535が設けられている。洗浄液供給チューブ524から供給された洗浄液Wは、洗浄流路接続部535および洗浄流路534を介して貫通孔533内に供給される。
【0115】
一方、固定部材540は、液体噴射ヘッド2の-Z方向を向く面に配置された板状部材からなる。固定部材540には、液体噴射ヘッド2の各流路接続部204を挿通するための流路接続部挿通孔541が設けられている。
【0116】
また、固定部材540には、Z軸方向に亘って貫通する固定孔542が設けられており、-Z方向を向く面から固定孔542に挿通されたネジ部材550を保護カバー530に螺合させることで、固定部材540と保護カバー530との間で液体噴射ヘッド2を挟持する。このように固定部材540と保護カバー530との間で所定の圧力で液体噴射ヘッド2を挟持することで、シール部材538による液体噴射ヘッド2の噴射面20aと保護カバー530との間の液密を保つことができる。
【0117】
このような保護カバー530と固定部材540とを用いて洗浄工程を行う。つまり、
図13に示すように、保護カバー530の-Z方向を向く面を、液体噴射ヘッド2の噴射面20aのノズル21を含む一部を洗浄槽501の洗浄液に露出するように噴射面20aに接触させる封止工程と、保護カバー530と固定部材540との間で液体噴射ヘッド2を挟持する固定工程を行う。その後、洗浄液供給チューブ524から貫通孔533に洗浄液Wを供給して、貫通孔533の洗浄液Wを、ノズル21を介して液体噴射ヘッド2の内部に導入する。液体噴射ヘッド2に導入された洗浄液Wは、流路接続部204に接続された洗浄液排出チューブ525を介して液体噴射ヘッド2の外部に排出される。これにより、液体噴射ヘッド2の内部に洗浄液Wを逆流させて、液体噴射ヘッド2の内部を洗浄することができる。なお、洗浄液排出チューブ525から排出された洗浄液Wは、洗浄液供給チューブ524から液体噴射ヘッド2に供給することで、洗浄液の循環を行ってもよい。
【0118】
また、超音波洗浄工程は、
図14に示すように、固定工程を行わずに、封止工程を行ってから実施する。つまり、超音波洗浄工程の前には、固定工程を行わずに封止工程のみを行う。つまり、本体部531から蓋部532を取り外した状態で、本体部531の-Z方向を向く面に液体噴射ヘッド2を載置して、液体噴射ヘッド2の貫通孔533によって露出された噴射面20aを洗浄槽501の洗浄液Wに浸す。このような状態で、上述した実施形態1と同様の超音波洗浄工程を行う。
【0119】
このように、超音波洗浄工程は、逆洗浄を行わないので本体部531と噴射面20aとの間でシールを取る必要がない。このため、超音波洗浄工程の前に固定工程を行わないことで、超音波洗浄工程は、固定部材540によって液体噴射ヘッド2が固定されない。したがって、超音波振動子502による超音波振動の定在波によってノズルプレート20に強い振動が作用し続けることを緩和することができるため、液体噴射ヘッド2の破損を抑制することができる。
【0120】
ちなみに、洗浄工程と同様に、封止工程および固定工程を行った後に超音波洗浄工程を行うと、ノズルプレート20に伝わった超音波の定在波によってノズルプレート20が強く振動し続ける。この際、保護カバー530で噴射面20aが強く固定されているため、ノズルプレート20の振動が逃げずに、定在波がピークとなる一定の箇所で振動板50に破損が生じる虞がある。
【0121】
また、洗浄工程は、ノズル21から液体噴射ヘッド2内に洗浄液Wを導入するために、貫通孔533内の洗浄液Wに圧力を加える。このように貫通孔533内の洗浄液Wに圧力を加えるためには、本体部531と液体噴射ヘッド2の噴射面20aとの間を液密に保つ必要があるため、固定工程が必要になる。つまり、固定工程を行うことで貫通孔533内の洗浄液Wに圧力を加えて逆洗浄を確実に行うことができる。
【0122】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0123】
例えば、上述した各実施形態の超音波洗浄工程において、液体噴射ヘッド2を洗浄槽501に対して揺動させてもよい。例えば、液体噴射ヘッド2の洗浄槽501に対して揺動させる方向は、特に限定されず、例えば、液体噴射ヘッド2を洗浄槽501に対してZ軸方向に沿って上下に揺動させてもよい。また、液体噴射ヘッド2を洗浄槽501に対してX軸とY軸とで規定されるXY平面に沿って揺動させてもよく、Z軸に対して傾斜した方向に揺動させてもよい。このように液体噴射ヘッド2を洗浄槽501に対して揺動させることで、超音波振動が一部に偏って照射されるのを抑制して、複数のノズル21の洗浄効果を向上することができる。
【0124】
また、上述した各実施形態の超音波洗浄工程において、充填剤22およびカバーヘッド220が洗浄液Wに接触することなくノズルプレート20のみが洗浄液Wに浸るような個別のキャップを使用してもよい。これにより、超音波洗浄工程において超音波振動する洗浄液Wが充填剤22およびカバーヘッド220とヘッドチップ8および流路部材200とを接着する接着剤等に接触することによる劣化を抑制することができる。もちろん個別のキャップに代わって、マスキング等で充填剤22および接着剤等を保護するようにしてもよい。
【0125】
また、上述した各実施形態では、ヘッドチップ8は、連通板15を有する構成を例示したが、特にこれに限定されず、ヘッドチップ8は、圧力室12に直接ノズル21が連通する構成であってもよい。このような構成のヘッドチップ8を有する液体噴射ヘッド2であっても、ノズル21を洗浄槽501内の洗浄液Wに浸した状態、且つ、圧力室12内に気体が存在する状態で超音波振動子502によって洗浄槽501内の洗浄液Wを超音波振動させる超音波洗浄工程を行うことで、ノズル21に付着した異物を除去すると共に、振動板50および圧電素子300が超音波振動によって破損するのを抑制することができる。
【0126】
なお、本実施形態では、液体噴射装置1として、液体噴射ヘッド2がY軸方向に沿って往復移動することで印刷を行う、所謂、シリアル型のインクジェット式記録装置を例示したが特にこれに限定されない。例えば、液体噴射ヘッド2を固定して、媒体SをX軸方向に沿って移動するだけで印刷を行う、所謂、ライン型のインクジェット式記録装置にも本発明を適用できる。
【0127】
(付記)
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0128】
好適な態様である態様1に係る液体噴射ヘッドの線情報は、液体を噴射するためのノズルが形成されたノズルプレートと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室の一部を画定する振動板と、前記振動板上に積層された圧電素子と、を有する液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、前記ノズルを洗浄槽内の洗浄液に浸した状態、且つ、前記圧力室内に気体が存在する状態で超音波振動子によって前記洗浄槽内の洗浄液を超音波振動させる超音波洗浄工程を備える。これによれば、ノズルに付着した異物を超音波振動させた洗浄液によって除去し易く、圧力室内に気体が存在する状態で行うことで洗浄液から振動板および圧電素子に超音波振動が伝わるのを抑制して、振動板および圧電素子が超音波振動によって破損するのを抑制することができる。
【0129】
態様1の具体例である態様2において、前記液体噴射ヘッドの外部と前記液体噴射ヘッド内の流路とを接続するための流路接続部を有する前記液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、前記超音波洗浄工程は、前記超音波振動子が超音波振動している間、前記液体噴射ヘッドの前記流路接続部を介して気体を導入する。これによれば、液体噴射ヘッドに期待を導入することで、圧力室に洗浄液が充填されるのを抑制することができる。
【0130】
態様2の具体例である態様3において、前記超音波洗浄工程は、前記超音波振動子が超音波振動している間、前記ノズルから気泡を排出させるようにして前記液体噴射ヘッドの前記流路接続部を介して気体を導入する。これによれば、ノズルから常時気泡を排出させることで、圧力室内に洗浄液が満たされてしまう虞をより低減することができる。また、液体噴射ヘッドの内部において洗浄液と気体との気液界面の位置を調整するための高度な圧力調整が不要となる。さらに噴射面の周囲に気泡が発生することで、超音波振動によって洗浄液を伝わる定在波を減衰できるため、超音波振動が噴射面に伝わり難くなり、振動板および圧電素子の超音波振動による破損を抑制できる。
【0131】
態様2の具体例である態様4において、前記超音波洗浄工程は、前記超音波振動子が超音波振動している間、前記ノズルから気泡を排出させないようにして前記液体噴射ヘッドの前記流路接続部を介して気体を導入する。これによれば、ノズル内は気体で満たされた状態となるため、ノズルに付着した異物を除去し易い。
【0132】
態様1の具体例である態様5において、前記超音波洗浄工程を行う前に、前記液体噴射ヘッド内の液体を前記液体噴射ヘッドから排出することで前記液体噴射ヘッド内の液体を気体に置換する置換工程と、前記超音波洗浄工程の前、且つ、前記置換工程の後に、洗浄液と気体との気液界面が前記ノズルの先端と前記圧力室を画定する振動板との間に位置するように前記液体噴射ヘッドを前記洗浄槽内に浸す含浸工程とを実行する。これによれば、洗浄工程中に液体噴射ヘッドに気体を導入する必要がないため、簡略な構造で超音波洗浄工程を実施することができる。
【0133】
態様5の具体例である態様6において、前記含浸工程は、前記気液界面が前記ノズルと前記振動板との間に位置するように行う。これによれば、ノズル内に洗浄液を満たして、ノズル内に付着した異物の洗浄をより確実に行うことができる。
【0134】
態様1の具体例である態様7において、前記超音波洗浄工程は、前記圧力室内に気体が存在するか否かを検出し、前記圧力室内に気体が存在する場合に前記超音波振動子による超音波振動を開始する。これによれば、圧力室内に気体が存在する場合に超音波振動を開始することで、圧力室内に洗浄液や液体が存在する状態で超音波振動を開始することがなく、超音波振動が振動板および圧電素子に伝わるのを抑制して、振動板および圧電素子の超音波振動による破損をさらに確実に抑制できる。
【0135】
態様1~7の具体例である態様8において、前記圧電素子は、薄膜圧電体を含む。これによれば、超音波振動によって壊れやすい薄膜圧電体を含む圧電素子を有する液体噴射ヘッドにおいても、振動板および圧電素子の破損を抑制して洗浄を行うことができる。
【符号の説明】
【0136】
1…液体噴射装置、2…液体噴射ヘッド、3…液体貯留部、3a…メインタンク、3b…サブタンク、4…制御ユニット、5…搬送機構、5a…搬送ローラー、6…移動機構、6a…搬送体、6b…搬送ベルト、7…循環機構、7a…供給ポンプ、7b…循環ポンプ、7c…回収チューブ、7d…供給チューブ、8…ヘッドチップ、10…流路形成基板、12…圧力室、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズルプレート、20a…噴射面、21…ノズル、21a…第1部分、21b…第2部分、22…充填剤、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…凹部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44a…導入口、44b…導出口、45…コンプライアンス基板、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、51…弾性膜、52…絶縁膜、60…第1電極、70…圧電体層、80…第2電極、90…リード電極、100…マニホールド、110…配線部材、111…駆動信号選択回路、200…流路部材、201…第1流路部材、201a、201b、201c…部材、202…第2流路部材、203…シール部材、204…流路接続部、204a…供給側流路接続部、204b…排出側流路接続部、205…配線保持孔、206…外部配線用開口部、207…突起部、210…中継基板、211…コネクター、212…配線挿通孔、213…突起部挿通孔、220…カバーヘッド、221…露出開口部、300…圧電素子、310…活性部、400…流路、401…第1流路、401a…フィルター室、401b…フィルター、402…第2流路、403…接続流路、500…超音波洗浄装置、501…洗浄槽、502…超音波振動子、510…閉塞部材、520…気体供給チューブ、521…ポンプ、522…循環チューブ、523…ポンプ、524…洗浄液供給チューブ、525…洗浄液排出チューブ、530…保護カバー、531…本体部、532…蓋部、533…貫通孔、534…洗浄流路、535…洗浄流路接続部、538…シール部材、540…固定部材、541…流路接続部挿通孔、542…固定孔、550…ネジ部材、B…気泡、P1、P2、P3…境界、Pgl…気液界面の位置、S…媒体、W…洗浄液。