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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011223
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
H02K3/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113054
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】向瀬 レミ
(72)【発明者】
【氏名】石上 孝
(72)【発明者】
【氏名】山崎 慎司
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA01
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB09
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】
固定子内で分担電圧を規則的に減少させることで、分担電圧が高い部位を容易に絶縁強化し、少ない製造工程で電線コストが安価な回転電機を提供する。
【解決手段】
スロット60を挿通するスロット導体24は、径方向に2N個(N:2以上の自然数)のレイヤを構成する。出力線は、径方向の最内径側または最外径側のいずれか一方側から1番目または2番目のレイヤのうちいずれか一方と接続される。中性線31は、他方側から1番目または2番目のレイヤのうちいずれか一方と接続される。渡り導体は、他方側から2N-1番目のレイヤと2N番目のレイヤとに配置されるスロット導体24を接続する。絶縁被膜200は、他方側から2N-1番目および2N番目のレイヤに配置されるスロット導体24における絶縁被膜200の膜厚が最も厚く形成される。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロット及び前記スロットに配設された複数相のコイルを有する固定子と、前記コイルに電流が流れることで回転する回転子と、を備えた回転電機であって、
前記コイルは、前記スロットの中を挿通するスロット導体と、異なるスロットを挿通する一対のスロット導体を接続する渡り導体と、当該コイルを他の装置と接続する出力線と、異相のコイルを接続する中性線と、当該コイルの外周部に設けられ当該コイルを構成する電気導体を覆う絶縁被膜と、を備え、
前記スロット導体は、Nを2以上の自然数とした場合に、径方向に2N個のレイヤを構成するように配置され、
前記出力線は、前記径方向の最内径側または最外径側のいずれか一方側から1番目または2番目のレイヤに配置されるスロット導体のうちいずれか一方と接続され、
前記中性線は、前記径方向の最内径側または最外径側の他方側から1番目または2番目のレイヤに配置されるスロット導体のうちいずれか一方と接続され、
前記渡り導体は、前記他方側から2N-1番目のレイヤに配置されるスロット導体と2N番目のレイヤに配置されるスロット導体とを接続し、
前記絶縁被膜は、前記他方側から2N-1番目および2N番目のレイヤに配置されるスロット導体における当該絶縁被膜の膜厚が最も厚く形成される回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記渡り導体は、nを1以上、N以下の自然数とした場合に、前記他方側から2n-1番目のレイヤに配置されるスロット導体と2n番目のレイヤに配置されるスロット導体とを接続する回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機であって、
前記絶縁被膜は、nが小さいレイヤに配置されるスロット導体ほど当該絶縁被膜の膜厚が薄く形成される回転電機。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機であって、
前記コイルは、各相について単一の直列回路により構成されている回転電機。
【請求項5】
請求項3に記載の回転電機であって、
前記コイルは、各相について2以上の直列回路の並列接続により構成されている回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子のスロットにセグメント導体を挿入して構成される回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、十分な絶縁性能を確保しながら、製造コストの増大やスロットの占積率の低下を抑制できるようにすることを目的として、下記の回転電機が開示されている。
「ステータ2が備える各導体セグメント31が、導体で構成された導体素線34と、その導体素線34の周囲を被覆する絶縁被膜35とを有するようにする。ステータが、絶縁被膜の誘電率及び膜厚の少なくとも一方が異なる2以上の導体セグメント31a,31bが収容されているスロット17aを有することと、収容している全ての導体セグメントが略同一であるスロットが2以上存在する場合において、その2以上のスロットが、収容している導体セグメントにおける絶縁被膜の誘電率及び膜厚の少なくとも一方が異なる複数のスロットを含むことの少なくとも一方を満足するようにする。」(要約参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-68569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、絶縁性が異なる導体が2種類以上存在するが、これらのスロット内における配置について言及はされていない。また、分担電圧は動力線近傍で高くなると記述されているが、動力線を除いた固定子内での分担電圧の分布については言及されていない。そのため、特許文献1の構成では分担電圧に規則性がないため、分担電圧が高い部分で絶縁性が高い導体を使用した場合、固定子の組立が煩雑になる。また、スロット内で径方向の配置が異なる導体セグメント(以下、セグメント導体)は形状が異なるが、特許文献1の場合はセグメント導体の形状ごとに異なる絶縁被膜を有する導体を用意する必要があり、製造工程が煩雑になる。
【0005】
本発明の目的は、固定子内で分担電圧を規則的に減少させることで、分担電圧が高い部位を容易に絶縁強化し、少ない製造工程で電線コストが安価な回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の回転電機は、
スロット及び前記スロットに配設された複数相のコイルを有する固定子と、前記コイルに電流が流れることで回転する回転子と、を備えた回転電機であって、
前記コイルは、前記スロットの中を挿通するスロット導体と、異なるスロットを挿通する一対のスロット導体の同一側端部同士を接続してコイルエンドを構成する渡り導体と、当該コイルを他の装置と接続する出力線と、異相のコイルを接続する中性線と、当該コイルの外周部に設けられ当該コイルを構成する電気導体を覆う絶縁被膜と、を備え、
前記スロット導体は、Nを2以上の自然数とした場合に、径方向に2N個のレイヤを構成するように配置され、
前記出力線は、前記径方向の最内径側または最外径側のいずれか一方側から1番目または2番目のレイヤに配置されるスロット導体のうちいずれか一方と接続され、
前記中性線は、前記径方向の最内径側または最外径側の他方側から1番目または2番目のレイヤに配置されるスロット導体のうちいずれか一方と接続され、
前記渡り導体は、前記他方側から2N-1番目のレイヤに配置されるスロット導体と2N番目のレイヤに配置されるスロット導体とを接続し、
前記絶縁被膜は、前記他方側から2N-1番目および2N番目のレイヤに配置されるスロット導体における当該絶縁被膜の膜厚が最も厚く形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中性線を出力線の他方側に配置することで出力線から離れているレイヤほど電圧分担率を低くすることができる。このため、分担電圧が高い部位を容易に絶縁強化して、出力線から離れているレイアで導体の絶縁被膜を薄くでき、製造工程及び電線コストを削減することができる。
【0008】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例に係る回転電機の外観図である。
図2】本発明の一実施例に係る回転電機の断面図である。
図3】本発明の一実施例に係るセグメント導体の斜視図である。
図4】本発明の一実施例に係る図であり、固定子鉄心に挿入された複数のセグメント導体を固定子の端面に垂直な方向から見た図である。
図5】本発明の一実施例に係る図であり、スロット導体と渡り導体との接続関係を示す概念図である。
図6】本発明の一実施例に係る図であり、異なる層のスロット導体の接続方法を示す概念図である。
図7】本発明の一実施例に係る図であり、コイルの接続状態を示す概念図である。
図8】本発明の一実施例に係る図であり、固定子のスロットに収容されたコイルを示すスロットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。各図において同様な構成には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
<回転電機および固定子の構造>
図1は、本発明の一実施例に係る回転電機1の外観図である。
回転電機1は、車両用駆動モータや電動パワーステアリングやエアコンのコンプレッサ用などの補機モータに用いられる。回転電機1は、ハウジング2と、ブラケット3と、出力軸であるシャフト4と、を備え、シャフト4はブラケット3から突出している。また、シャフト4の突出側(ブラケット3の取り付け側)とは反対側に、図示していない駆動回路が配置されており、ブラケット3の取り付け側とは反対の側からは、複数のコイル口出し線5が延出している。
【0012】
図2は、本発明の一実施例に係る回転電機1の断面図である。図2は、回転電機1の内部構造の一例を示す。
【0013】
ハウジング2の内周面に固定子6が焼き嵌めや圧入により固定される。固定子6は、複数のスロット60(溝)が円環状に配置された固定子鉄心61と、エナメル皮膜などの絶縁被膜200を有する複数のセグメント導体20と、を含んで形成され、セグメント導体20はスロット60に挿入されている。すなわち、セグメント導体20を含むコイル7は、コイル7を構成する電気導体を覆う絶縁被膜200を有する。
【0014】
セグメント導体20は、スロット60内に配置される少なくとも一つの直線部と、固定子6のスロット60外に配置される一対の端末部と、からなり、セグメント導体20の端末部同士を電気的に接合してコイル7を形成している。セグメント導体20の端末部同士の接合にはTig溶接やプラズマ溶接、レーザー溶接などを用いる。また、固定子鉄心61は、一般的には厚さ0.1mm~0.5mm程度の電磁鋼板を打抜き、積層して構成される。
【0015】
固定子6の内側には回転子鉄心(可動子鉄心)81が挿入され、回転子鉄心81とシャフト4とが一体となって回転子(可動子)8を構成し、ベアリング9で支持される。なお、回転子8として、外周部に希土類やフェライトなどの永久磁石10を表面に貼り付ける「表面磁石型」のほか、永久磁石10を可動子鉄心の溝に埋め込んだ「埋め込み磁石型」や、籠形導体を組み込んだ誘導型などを用いることができる。
【0016】
そして、3つの入力端子11に、位相の異なる電圧(U相、V相、W相)をそれぞれ加えることで、入力端子11と電気的に繋がった固定子6のコイル7に電流が流れ、電気エネルギーが機械エネルギーに変換されて、回転子(可動子)8が回転する。
【0017】
なお、12,13はコイル7のコイルエンドであり、回転子鉄心81の一端側、すなわちシャフト4の突出側(ブラケット3の取り付け側)のコイルエンドを12とし、その反対側のコイルエンドを13とする。
【0018】
<セグメント導体の形状>
図3は、本発明の一実施例に係るセグメント導体20の斜視図である。図3は、固定子6に挿入される前のセグメント導体20を示す。
【0019】
セグメント導体20は、図示上部の頭部21を中心とした略対称な形状を有する。セグメント導体20は、さらに、図示左右1組の傾斜部22と、1組の屈曲部23と、固定子6のスロット60に挿入される1組のスロット導体24とを備える。頭部21は1組の直線部24の間に配置される。傾斜部22は、固定子6の端面に対して0度より大きく90度未満の角度を有し、傾斜部22、屈曲部23およびスロット導体24の中で最も頭部21の近く位置する。スロット導体24は直線の形状を有し、屈曲部23を介して傾斜部22に接続される。ここで、頭部21、傾斜部22および屈曲部23を含む部分、ならびに他のセグメント導体20と接合される端末部を、それぞれ渡り導体25と呼称する。すなわち、渡り導体25はスロット外において一対のスロット導体24を接続し、コイルエンドを形成する。
【0020】
図4は、本発明の一実施例に係る図であり、固定子鉄心61に挿入された複数のセグメント導体を固定子6の端面に垂直な方向から見た図である。図4は、固定子鉄心61に挿入された状態のセグメント導体20を示す。
【0021】
固定子鉄心61は、外周部に円環状のヨーク61aを有すると共に、ヨーク61aから径方向内側に向かって突出するティース62を有し、隣り合う2つのティース62の間にスロット60が形成される。セグメント導体20は、スロット導体24がスロット60に挿入され、渡り導体25がスロット60の外側に位置するように固定子鉄心61に組み付けられる。
【0022】
セグメント導体20の頭部21はクランク形状を有し、頭部21は1組の傾斜部22がそれぞれ固定子6の半径方向に屈曲する屈曲位置P1と屈曲位置P2との間に位置する。
【0023】
<本実施例における固定子構造の特徴>
スロット60内で径方向の同じ位置に配置されたスロット導体24の集合をレイヤと称し、Nを2以上の自然数としたとき、本実施例の固定子6は2N個のレイヤを有する。また、nを1以上、N以下の自然数とし、固定子の最内径のレイヤを1番目のレイヤとした時、2n番目のレイヤ内のスロット導体24は渡り導体25によって2n-1番目のレイヤ内のスロット導体24と接続される。
【0024】
図5は、本発明の一実施例に係る図であり、スロット導体24と渡り導体25との接続関係を示す概念図である。図5において、(a)はコイルを正面から見た図であり、(b)はコイルを上面から見た図である。
【0025】
図5に示すように、2n番目のレイヤに配置されたスロット導体24aと2n-1番目のレイヤに配置されたスロット導体24とは、それぞれ交互に、反溶接側の渡り導体25aと溶接側の渡り導体25bとで接続されている。ここで、任意の1以上、N以下の自然数nについて、2n番目と2n-1番目のレイヤの集合をn層目と呼称する。
【0026】
図6は、本発明の一実施例に係る図であり、異なる層のスロット導体の接続方法を示す概念図である。図6は任意の1以上、N-1以下の自然数nについて、n層目とn+1層目のスロット導体24の接続方法を示す。図6(a)と図6(b)はn層目の内径側のレイヤとn+1層目の内径側のレイヤを接続した例を示し、図6(c)はn層目の外径側のレイヤとn+1層目の外径側のレイヤを接続した例を示す。
【0027】
n層目の内径側レイヤとn+1層目の内径側を接続する方法として、図6(a)に示す渡り導体25と捻りの向きが逆である逆捻りセグメント導体26を用いる方法、または図6(b)に示すジャンパー線27を用いる方法がある。また、n層目の外径側のレイヤとn+1層目の外径側のレイヤを接続する場合、図6(c)に示す径方法に導体3つ分離れたスロット導体を接続するジャンパー線28を用いる必要がある。
【0028】
図7は、本発明の一実施例に係る図であり、コイル7の接続状態を示す概念図である。
コイル7は単一、または並列接続された複数の直列回路によって構成されている。また、U相、V相、W相の3つの相について、直列回路の一端側は入力端子11と接続される出力線30であり、他端側は異相のスロット導体24を接続し、電位ゼロの中性線31である。図7では、各相について2つの直列回路が並列接続されている例を示しているが、単一の直列回路であっても良く、2以上の直列回路、例えば4つの直列回路の並列接続であっても良い。
【0029】
本実施形態において、出力線30はすべて固定子6の径方向の最内径側又は最外径側のいずれか一方の層に配置されたスロット導体24と入力端子11を接続し、中性線31は、出力線30から径方向に最も離れた層に配置されたスロット導体24を異相のスロット導体24と接続している。すなわち、出力線30は最内径側又は最外径側のいずれか一方側から1番目と2番目のレイヤに配置されるスロット導体24のうちいずれか一方と入力端子11とを接続し、中性線31は他方側から1番目と2番目のレイヤに配置されるスロット導体24のいずれかを異相のスロット導体24と接続している。
【0030】
表1はNを2以上の自然数とした時、N個の層を有する固定子6の各相が1つの直列回路、および2つの並列接続された直列回路で構成された時の出力線30、中性線31および層間の接続方法をまとめた表である。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように、出力線30はすべての直列回路で固定子6の内径側から1層目、又はN層目に配置されている。また、U1相、V1相、W1相ではn層目の外径側とn+1層目の内径側が接続され、U2相、V2相、W2相ではn層目の内径側とn+1層目の外径側が接続されている。
【0033】
図8は、本発明の一実施例に係る図であり、固定子6のスロット60に収容されたコイル7を示すスロット60の断面図である。
図8に示す固定子6のスロット60には、複数層のスロット導体24が図示されている。図8(a)は、出力線30が固定子6の最内径側の層に配置されたスロット導体24と入力端子11とを接続し、スロット60内に層間を接続する捻り導体26、ジャンパー線27、ジャンパー線28のいずれも含まない時のスロットの断面図の一例である。
【0034】
また、図8(b)は、出力線30が固定子6の最外径側の層に配置されたスロット導体24と入力端子11とを接続し、スロット内に捻り導体26、ジャンパー線27、ジャンパー線28のいずれも含まない時のスロット60の断面図の一例である。
【0035】
同じ層内において、スロット導体24の絶縁被膜200の厚さは同じであり、出力線30と接続されているスロット導体24を含む層から離れている層ほど絶縁被膜200は薄い。なお、捻り導体26、ジャンパー線27、またはジャンパー線28によって異なる層と接続されたスロット導体24は同じ層に配置された他のスロット導体24と絶縁被膜200の厚さが異なっていても良い。
【0036】
本実施例では、出力線30と接続されているスロット導体24を含む層における絶縁被膜200の厚さとそれ以外の層における絶縁被膜200の厚さとを異なる大きさにして、絶縁被膜200の厚さが2種類となるようにセグメント導体20を構成することもできる。これに対して、出力線30と接続されているスロット導体24を含む層における絶縁被膜200の厚さを最大にして、この層から離れるに従って、絶縁被膜200の厚さを漸減させる構成を採用することによって、スロット60内におけるスロット導体24の占積率を向上することができる。
【0037】
<作用効果>
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
【0038】
固定子6における分担電圧は、入力端子11の近傍において最も高く、入力端子11から離れ、中性線31に近くなるほど小さくなる。そのため、出力線30をすべて固定子6の最内径側または最外径側のいずれか一方に配置されたスロット導体24と接続し、中性線31を他方側に配置されたスロット導体24と接続することで、出力線30から離れている層ほど分担電圧を小さくすることができる。したがって、出力線30から離れている層ほど絶縁被膜200を薄くすることができる。
【0039】
表2に2層のスロット導体24を有する本実施形態における固定子6と、比較例として各相での出力線30の接続位置と中性線31の接続位置とを直列回路ごとに逆にした場合の層ごとの電圧分担率の最大値を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
本実施例において、2層目で電圧分担率の最大値は1層目より低いため、2層目で絶縁被膜200を1層目より薄く設定できる。一方、比較例では1層目と2層目の電圧分担率の最大値は同等であるため、層単位で絶縁被膜200を薄くすることはできない。
【0042】
また、本実施例において、層単位で絶縁被膜200の厚さを決定しているため、層ごとに同じ絶縁被膜200を有するセグメント導体20を使用でき、セグメント導体の選別など煩雑な工程は不要になる。また、層間を接続する導体を除き各層で1種類のセグメント導体のみ使用するため、使用するセグメントコイルの種類を削減できる。
【0043】
なお、本実施例ではU字型のセグメント導体を使用した例を示したが、他の形状の導体、例えばL字状の導体でも適用可能である。
【0044】
以上で説明した本実施例の回転電機1は、以下の特徴を有する。
(1)スロット60及びスロット60に配設された複数相のコイル7を有する固定子6と、コイル7に電流が流れることで回転する回転子8と、を備えた回転電機1であって、
コイル7は、スロット60の中を挿通するスロット導体24と、異なるスロット60を挿通する一対のスロット導体24の同一側端部同士を接続してコイルエンドを構成する渡り導体25と、コイル7を他の装置と接続する出力線30と、異相のコイル7を接続する中性線31と、コイル7の外周部に設けられコイル7を構成する電気導体を覆う絶縁被膜200と、を備え、
スロット導体24は、Nを2以上の自然数とした場合に、径方向に2N個のレイヤを構成するように配置され、
出力線30は、径方向の最内径側または最外径側のいずれか一方側から1番目または2番目のレイヤに配置されるスロット導体24のうちいずれか一方と接続され、
中性線31は、径方向の最内径側または最外径側の他方側から1番目または2番目のレイヤに配置されるスロット導体24のうちいずれか一方と接続され、
渡り導体25は、前記他方側から2N-1番目のレイヤに配置されるスロット導体24と2N番目のレイヤに配置されるスロット導体24とを接続し、
絶縁被膜200は、前記他方側から2N-1番目および2N番目のレイヤに配置されるスロット導体24における絶縁被膜200の膜厚が最も厚く形成される。
【0045】
(2)渡り導体25は、nを1以上、N以下の自然数とした場合に、前記他方側から2n-1番目のレイヤに配置されるスロット導体24と2n番目のレイヤに配置されるスロット導体24とを接続するようにするとよい。
【0046】
(3)絶縁被膜200は、nが小さいレイヤに配置されるスロット導体24ほど絶縁被膜200の膜厚が薄く形成されるようにするとよい。
【0047】
(4)コイル7は、各相について単一の直列回路により構成されてもよい。
【0048】
(5)コイル7は、各相について2以上の直列回路の並列接続により構成されてもよい。
【0049】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…回転電機、2…ハウジング、3…ブラケット、4…シャフト、5…口出し線、6…固定子、7…コイル、8…回転子(可動子)、9…ベアリング、10…永久磁石、11…入力端子、12,13…コイルエンド、20…セグメント導体、21…頭部、22…傾斜部、23…屈曲部、24…スロット導体、25…渡り導体、26…逆捻り導体、27…ジャンパー線、28…ジャンパー線、30…出力線、31…中性線、60…スロット、61…固定子鉄心、81…回転子鉄心、62…ティース、200…絶縁被膜。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8