(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112234
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法、コンピュータープログラム、モデル構築装置及びモデル構築方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/00 20060101AFI20240813BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C21C7/00 P
C21C7/00 R
F27D19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017178
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】坂野 龍命
【テーマコード(参考)】
4K013
4K056
【Fターム(参考)】
4K013BA02
4K013BA16
4K013CA04
4K013FA02
4K056AA02
4K056CA02
4K056FA01
(57)【要約】
【課題】二次精錬後の溶鋼内の成分量に関してより高い精度の情報を得ること。
【解決手段】二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを用いて予め構築された推定モデルを用いて、推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定する制御部、を備える推定装置である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを用いて予め構築された推定モデルを用いて、推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定する制御部、を備える推定装置。
【請求項2】
前記制御部は、推定された前記所定の成分の含有量情報と、前記所定の成分を含む合金の費用に関する情報と、に基づいて、前記二次精錬の実施において投入される前記合金の種別と量を判定する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記推定モデルは、前記二次精錬の実施において所定の基準よりも炭素が減少した操業における既知データを用いずに得られた非脱炭素推定モデルを含み、
前記制御部は、推定対象の二次精錬において前記所定の基準よりも炭素が減少しないことが見込まれる場合には、前記非脱炭素推定モデルを用いて前記所定の成分の含有量情報を推定する、請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記操業情報は、前記二次精錬の実施において投入される酸素の量を含む、請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項5】
前記推定モデルは、投入される成分の種別及び量に応じて分けられたグループ毎に取得され、
前記制御部は、推定対象の二次精錬において投入される成分の種別及び量に応じたグループの推定モデルを用いて前記所定の成分の含有量情報を推定する、請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項6】
前記制御部は、各成分について規格で定められた上限値を用いた推定処理と、各成分について規格で定められた下限値を用いた推定処理と、を実行することによって、上限値に応じた含有量情報と下限値に応じた含有量情報とを取得する、請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項7】
二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを用いて予め構築された推定モデルを用いて、推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定する制御ステップ、を有する推定方法。
【請求項8】
二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを用いて予め構築された推定モデルを用いて、推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定する制御部、を備える推定装置、としてコンピューターを機能させるためのコンピュータープログラム。
【請求項9】
二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを用いて、推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定するための推定モデルを構築する制御部、を備えるモデル構築装置。
【請求項10】
二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを取得し、
前記既知データを用いて推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定するための推定モデルを構築する、モデル構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法、コンピュータープログラム、モデル構築装置及びモデル構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から精錬設備における溶鋼内の成分濃度を推定する技術が提案されている。特許文献1には、溶湯中及びスラグ中の成分濃度の推定精度を向上可能な精錬プロセス状態推定装置が開示されている。特許文献2には、平衡点到達前に脱炭完了判定を行うことにより脱炭処理時間を短縮可能な真空脱ガス設備の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-150589号公報
【特許文献2】特開2020-132999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、二次精錬では合金の投入や酸素の吹き込み等が行われ複数の要因で溶鋼内の成分量が変化する。そのため、従来の技術では、二次精錬後の溶鋼内の成分量に関して十分な精度の情報を得ることが困難であった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、二次精錬後の溶鋼内の成分量に関してより高い精度の情報を得ることが可能となる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを用いて予め構築された推定モデルを用いて、推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定する制御部、を備える推定装置である。
【0007】
(2)本発明の一態様は、上記(1)に記載の推定装置において、前記制御部は、推定された前記所定の成分の含有量情報と、前記所定の成分を含む合金の費用に関する情報と、に基づいて、前記二次精錬の実施において投入される前記合金の種別と量を判定する。
【0008】
(3)本発明の一態様は、上記(1)又は(2)に記載の推定装置において、前記推定モデルは、前記二次精錬の実施において所定の基準よりも炭素が減少した操業における既知データを用いずに得られた非脱炭素推定モデルを含み、前記制御部は、推定対象の二次精錬において前記所定の基準よりも炭素が減少しないことが見込まれる場合には、前記非脱炭素推定モデルを用いて前記所定の成分の含有量情報を推定する。
【0009】
(4)本発明の一態様は、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の推定装置において、前記操業情報は、前記二次精錬の実施において投入される酸素の量を含む。
【0010】
(5)本発明の一態様は、上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の推定装置において、前記推定モデルは、投入される成分の種別及び量に応じて分けられたグループ毎に取得され、前記制御部は、推定対象の二次精錬において投入される成分の種別及び量に応じたグループの推定モデルを用いて前記所定の成分の含有量情報を推定する。
【0011】
(6)本発明の一態様は、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の推定装置において、前記制御部は、各成分について規格で定められた上限値を用いた推定処理と、各成分について規格で定められた下限値を用いた推定処理と、を実行することによって、上限値に応じた含有量情報と下限値に応じた含有量情報とを取得する。
【0012】
(7)本発明の一態様は、二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを用いて予め構築された推定モデルを用いて、推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定する制御ステップ、を有する推定方法である。
【0013】
(8)本発明の一態様は、二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを用いて予め構築された推定モデルを用いて、推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定する制御部、を備える推定装置、としてコンピューターを機能させるためのコンピュータープログラムである。
【0014】
(9)本発明の一態様は、二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを用いて、推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定するための推定モデルを構築する制御部、を備えるモデル構築装置である。
【0015】
(10)本発明の一態様は、二次精錬における操業に関する情報である操業情報と、前記二次精錬の実施によって減少した後の所定の成分の成分量に関する情報である含有量情報と、を含む既知データを取得し、前記既知データを用いて推定対象の二次精錬における操業情報に応じた前記所定の成分の含有量情報を推定するための推定モデルを構築する、モデル構築方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、二次精錬後の溶鋼内の成分量に関してより高い精度の情報を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】二次精錬前後の処理の流れの概略を示す図である。
【
図2】本発明の推定システム100のシステム構成を示す概略ブロック図である。推定システム100は、含有量情報を推定する際に使用される。
【
図3】端末装置10の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。
【
図4】モデル構築装置20の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。
【
図6】モデル構築装置20の処理の具体例を示すフローチャートである。
【
図7】推定装置30の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。
【
図8】推定装置30の処理の具体例を示すフローチャートである。
【
図9】推定システム100による推定精度向上の効果を示す図である。
【
図10】本システムの推定精度を評価するための評価指標として、RMSE(平均平方二乗誤差)を用いた評価の結果を示す図である。
【
図11】本システムの推定精度を評価するための評価指標として、正答率を用いた評価の結果を示す図である。
【
図12】炭素投入量と炭素減少量推定値との関係を示す図である。
【
図13】本実施形態に適用される情報処理装置90のハードウェア構成例の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[概略]
まず、本発明の概略について説明する。
図1は、二次精錬前後の処理の流れの概略を示す図である。横軸は処理の流れを示し、縦軸は溶鋼に含まれる所定の成分の量を示す。所定の成分は、例えば二次精錬において特に減少しやすい成分(以下「特定成分」という。)である。このような特定成分の具体例として、酸化しやすい成分がある。酸化しやすい成分が二次精錬において特に減少しやすいことは、二次精錬におけるOB処理において酸化して溶鋼から抜けてしまうことが一つの原因である。このような特定成分の具体例として、炭素、ケイ素、マンガン、アルミニウムがある。
【0019】
図1に示されるように、二次精錬では脱C(脱炭素)処理、OB(Oxygen Blowing)処理、後環流処理などの過程で溶鋼内の所定の成分が減少する。一方で、1回又は複数回のタイミングで行われる合金投入処理によって溶鋼内の所定の成分が増加する。その結果、二次精錬が行われる前の成分量(処理前含有量)と、二次精錬が行われた後の成分量(処理後含有量)とには差が生じてしまう。より高い品質の鋼を生産するためには、処理後含有量が所定の規格の範囲に収まっている必要がある。本発明では、二次精錬の実施によって所定の成分が減少した後の成分量に関する情報(以下「含有量情報」という。)をより高い精度で取得する。含有量情報は、例えば二次精錬後の成分の量そのものを示しても良いし、二次精錬の実施によって減った成分量(減少量)を示しても良い。
【0020】
[システムの詳細]
次に、本発明の具体的な構成例について、図面を参照しながら説明する。
図2は、本発明の推定システム100のシステム構成を示す概略ブロック図である。推定システム100は、含有量情報を推定する際に使用される。以下、このような推定を行うための操作をする者をユーザーと呼ぶ。
【0021】
推定システム100は、端末装置10とモデル構築装置20と推定装置30とを含む。端末装置10と推定装置30とは、ネットワーク70を介して通信可能に接続される。モデル構築装置20と推定装置30とは、ネットワーク70を介して通信可能に接続されもよい。ネットワーク70は、無線通信を用いたネットワークであってもよいし、有線通信を用いたネットワークであってもよい。ネットワーク70は、例えばインターネットを用いて構成されてもよいし、ローカルエリアネットワーク(LAN)を用いて構成されてもよい。ネットワーク70は、複数のネットワークが組み合わされて構成されてもよい。
【0022】
図3は、端末装置10の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。端末装置10は、例えばスマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューター、専用機器などの情報機器を用いて構成される。端末装置10は、通信部11、操作部12、出力部13、記憶部14及び制御部15を備える。
【0023】
通信部11は、通信機器である。通信部11は、例えばネットワークインターフェースとして構成されてもよい。通信部11は、制御部15の制御に応じて、ネットワーク70を介して他の装置とデータ通信する。通信部11は、無線通信を行う装置であってもよいし、有線通信を行う装置であってもよい。
【0024】
操作部12は、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、タブレット等)、ボタン、タッチパネル等の既存の入力装置を用いて構成される。操作部12は、ユーザーの指示を端末装置10に入力する際にユーザーによって操作される。操作部12は、入力装置を端末装置10に接続するためのインターフェースであっても良い。この場合、操作部12は、入力装置においてユーザーの入力に応じ生成された入力信号を端末装置10に入力する。操作部12は、マイク及び音声認識装置を用いて構成されてもよい。この場合、操作部12はユーザーによって発話された文言を音声認識し、認識結果の文字列情報を端末装置10に入力する。この場合、操作部12は音声の入力のみを行い、音声認識は制御部15によって実行されてもよい。操作部12は、ユーザーの指示を端末装置10に入力可能な構成であればどのように構成されてもよい。
【0025】
出力部13は、情報をユーザーが認知可能な形で出力する。出力部13は、例えば液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置であってもよい。出力部13は、画像表示装置を端末装置10に接続するためのインターフェースであっても良い。この場合、出力部13は、画像データを表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。出力部13は、スピーカー等の音響を出力する装置であってもよい。出力部13は、スピーカーやヘッドホン等の音響出力装置を端末装置10に接続するためのインターフェースであってもよい。この場合、出力部13は、音響データを再生するための音響信号を生成し、自身に接続されている音響出力装置に音響信号を出力する。
【0026】
記憶部14は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。記憶部14は、制御部15によって使用されるデータを記憶する。記憶部14は、制御部15が処理を行う際に必要となるデータを記憶する。
【0027】
制御部15は、CPU(Central Processing Unit)等の1又は複数のハードウェアプロセッサーと1又は複数のメモリー(主記憶装置)とを用いて構成される。メモリーは、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置を用いて構成される。制御部15は、1又は複数のハードウェアプロセッサーが、メモリーに格納される1又は複数のプログラムを実行することによって各種の演算を実行して機能する。なお、制御部15の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0028】
制御部15は、例えば予め自装置(端末装置10)にインストールされたアプリケーションを実行してもよい。このようなアプリケーションの具体例として、推定システム100の専用アプリケーションとして端末装置10に提供されるアプリケーションがある。このようなアプリケーションの他の具体例として、WEBブラウザーのアプリケーションがある。制御部15は、実行中のアプリケーションのプログラムにしたがって動作する。
【0029】
制御部15は、ユーザーの操作や推定装置30から受信される情報に応じて端末装置10を制御する。例えば、制御部15は、ユーザーが操作部12を操作することによって入力された情報を、通信部11を用いることによって推定装置30へ送信する。例えば、制御部15は、推定装置30から送信された情報がネットワーク70を介して通信部11で受信されると、受信された情報に基づいて画面データを生成し、出力部13に画面データを表示させる。このような画面データには、推定装置30から送信された画像や文字が含まれる。例えば、制御部15は、推定装置30から送信された情報がネットワーク70を介して通信部11で受信されると、受信された情報に基づいて音声データを生成し、出力部13から音声データを出力させる。
【0030】
以下、制御部15の動作の具体例について説明する。以下の例では、出力部13の具体例として画像表示装置が用いられる。ただし、上述したように出力部13は画像表示装置を用いて構成される必要はなく、音声出力装置を用いて構成されてもよいし、画像表示装置及び音声出力装置の両方を用いて構成されてもよい。
【0031】
制御部15は、推定装置30が推定処理を実行するために必要となる情報を入力することをユーザーに対して指示する文字や画像を有した画面データを生成する。制御部15は、生成した画面データを出力部13に表示させる。制御部15は、例えば脱炭素処理が実施されるか否かに関する情報の入力を指示してもよい。ユーザーは、操作部12を操作することによって、求められた情報を端末装置10に入力する。制御部15は、入力された情報を、通信部11を用いて推定装置30に送信する。制御部15は、推定装置30から推定結果を受信する。制御部15は、推定結果を示す情報を示す画面データを生成する。制御部15は、生成した画面データを出力部13に表示させる。
【0032】
図4は、モデル構築装置20の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。モデル構築装置20は、例えばパーソナルコンピューターやサーバー装置などの情報処理装置を用いて構成される。モデル構築装置20は、通信部21、記憶部22及び制御部23を備える。
【0033】
通信部21は、通信機器である。通信部21は、例えばネットワークインターフェースとして構成されてもよい。通信部21は、制御部23の制御に応じて、ネットワーク70を介して他の装置とデータ通信する。通信部21は、無線通信を行う装置であってもよいし、有線通信を行う装置であってもよい。
【0034】
記憶部22は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。記憶部22は、制御部23によって使用されるデータを記憶する。記憶部22は、例えば既知データ記憶部221、前処理済既知データ記憶部222及び推定モデル記憶部223として機能してもよい。
【0035】
既知データ記憶部221は、モデル構築装置20において実行されるモデル構築処理に用いられる既知データを記憶する。既知データは、例えば教師あり学習処理に用いられる教師データであってもよい。既知データ記憶部221が記憶する既知データは、二次精錬の操業に関する情報である操業情報(説明変数)と、その操業情報に応じた含有量情報(目的変数)と、を含むデータである。既知データは、例えば説明変数に示される操業情報の元で実際に操業を行うことによって得られた目的変数(含有量情報)との組み合わせとして定義されてもよい。既知データは、例えば説明変数に示される操業情報の元で操業のシミュレーションを行うことによって得られた目的変数(含有量情報)との組み合わせとして定義されてもよい。既知データは、上述した複数の取得方法によって得られた値が混在する形で定義されてもよい。以下、操業情報及び含有量情報について説明する。
【0036】
操業情報は、例えば溶鋼における特定成分毎の処理前含有量(重さ:単位は例えばトン)と、OB処理前のタイミングで溶鋼に投入される各特定成分の量(重さ:単位は例えばトン)と、OB処理後のタイミングで溶鋼に投入される各特定成分の量(重さ:単位は例えばトン)と、OB処理において吹き込まれる酸素の量(体積:単位は例えばノルマルリューベ)と、を含んでもよい。
【0037】
含有量情報は、二次精錬の実施によって所定の成分が減少してしまった後の成分量に関する情報である。含有量情報は、例えば溶鋼における各特定成分の減少量(重さ:例えばトン)である。
【0038】
既知データは、さらにOB処理前の各特定成分の溶鋼に対する含有率(例えば質量パーセント)を含んでもよい。含有率は、例えばクラスタリング(前処理に含まれる)において使用されてもよい。上述した既知データの各値は、例えば操業情報に応じた二次精錬を実際に行うことによって得られてもよい。
【0039】
前処理済既知データ記憶部222は、前処理制御部232によって実行される前処理によって得られた情報を記憶する。例えば、既知データのうち、脱炭素処理が行われた二次精錬に関する既知データを除いた既知データが、非脱炭素既知データとして記憶されても良い。この場合、例えば、既知データのうち、脱炭素処理が行われた二次精錬に関する既知データが、脱炭素既知データとして記憶されても良い。例えば、OB処理前の各特定成分の溶鋼に対する含有率に基づいて複数のグループにクラスタリングされた既知データがグループ毎に記憶されてもよい。
【0040】
推定モデル記憶部223は、既知データ記憶部221や前処理済既知データ記憶部222に記憶される既知データを用いたモデル構築処理によって得られる推定モデルを記憶する。推定モデル記憶部223は、例えば既知データを教師データとして用いた教師あり学習処理によって得られる学習済モデルを推定モデルとして記憶してもよい。前処理としてクラスタリングが行われている場合、推定モデル記憶部223は、クラスタリングによって分けられたグループ毎に得られる推定モデルを記憶してもよい。
【0041】
制御部23は、上述の制御部15と同様に構成される。例えば、制御部23は、CPU等のプロセッサーとメモリーとを用いて構成される。制御部23は、プロセッサーがプログラムを実行することによって、情報制御部231、前処理制御部232及びモデル構築制御部233として機能する。なお、制御部23の各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されても良い。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0042】
情報制御部231は、情報の入出力を制御する。例えば、情報制御部231は、他の機器(情報処理装置や記憶媒体)から既知データを取得し、既知データ記憶部221に記録する。情報制御部231は、例えばビジコン(ビジネスコンピューター)から既知データに相当するデータを取得してもよい。例えば、ビジコンからプロセスデータを受信することによって、既知データが取得されてもよい。例えば、情報制御部231は、推定モデル記憶部223に記憶されている推定モデルを、他の装置(例えば推定装置30)に対して送信する。
【0043】
前処理制御部232は、既知データに対して所定の前処理を実行することによって、前処理済既知データを生成する。前処理制御部232は、例えば既知データから、脱炭素処理が行われた二次精錬に関する既知データを除いて、非脱炭素既知データを生成してもよい。前処理制御部232は、例えば既知データから、脱炭素処理が行われた二次精錬に関する既知データのみを抽出して、脱炭素既知データを生成してもよい。脱炭素処理が行われたか否かについては、例えば二次精錬の過程で減少した炭素の量に関する情報に基づいて判断されてもよい。このような情報は、例えば以下のような式に基づいて定義されてもよい。例えば、以下のような式で得られた値が10%未満である場合には、その既知データは非脱炭素既知データとして分類されてもよい。例えば、以下のような式で得られた値が10%以上である場合には、その既知データは脱炭素既知データとして分類されてもよい。
【0044】
【0045】
前処理制御部232は、例えば既知データをクラスタリングしてもよい。クラスタリングは、例えばOB処理前の一部の特定成分の溶鋼に対する含有率に基づいて行われてもよい。例えば、マンガンの含有率、ケイ素の含有率及び炭素の含有率に基づいてクラスタリングされてもよい。
図5は、クラスタリングの具体例を示す図である。
図5に示されるように、以下の4つのグループに分類されてもよい。
分類1:マンガンの含有率がケイ素の含有率よりも低いグループ
分類2:マンガンの含有率がケイ素の含有率以上であり、且つ、マンガンの含有率が炭素の含有率よりも低いグループ
分類3:マンガンの含有率がケイ素の含有率の6倍よりも高く、且つ、マンガンの含有率が炭素の含有率以上であるグループ
分類4:マンガンの含有率がケイ素の含有率の1倍~6倍の間の値であり、且つ、マンガンの含有率が炭素の含有率以上であるグループ
クラスタリングは、他の基準で行われてもよい。例えば、k-means法を用いてクラスタリングが行われてもよい。
【0046】
モデル構築制御部233は、前処理済既知データ記憶部222に記憶される前処理済既知データを用いてモデル構築処理を行うことで推定モデルを構築する。モデル構築制御部233は、例えば、前処理済既知データ記憶部222に記憶されている前処理済既知データを教師データとして用いて教師あり学習処理を実行することで推定モデルを構築してもよい。以下の説明では、モデル構築制御部233が教師あり学習処理を行うことで推定モデルを構築するような例を用いてモデル構築装置20の具体例について説明する。なお、モデル構築制御部233が実行する処理は教師あり学習処理に限定される必要はない。例えば、モデル構築制御部233は既知データを用いた統計処理を行うことによって推定モデルを構築してもよい。
【0047】
このような学習処理の具体例として、例えば、Ridge回帰が用いられてもよいし、ニューラルネットワークやディープラーニング等の他の学習技術が用いられてもよい。Ridge回帰は、推定モデルの構築において過学習を抑止できるという利点を有する。例えば、以下のような回帰式及びコスト関数を用いることで学習処理が実行されてもよい。
【0048】
【0049】
上記の式では、L2正則化が用いられている。ただし、このような式に限定される必要は無く、例えばL1正則化を用いることでLasso回帰が用いられてもよいし、L1正則化及びL2正則化を用いることでElastic Net回帰が用いられても良いし、他の回帰モデルが用いられてもよい。
【0050】
また、上記の式では、教師データの説明変数として13の値が用いられている。このような13の値として、例えば特定成分(炭素、ケイ素、マンガン及びアルミニウム)毎の処理前含有量と、OB処理前のタイミングで溶鋼に投入される各特定成分の量と、OB処理後のタイミングで溶鋼に投入される各特定成分の量と、OB処理において吹き込まれる酸素の量と、がある。教師データの目的変数としては、各特定成分の減少量がある。モデル構築制御部233は、特定成分毎にモデル構築処理(例えば学習処理)を行うことによって、特定成分毎に推定モデルを生成する。例えば、モデル構築制御部233は、説明変数として上述した13の値を用い、目的変数として炭素の減少量を用いることによって、炭素に関する推定モデルを生成する。ケイ素、マンガン及びアルミニウムについても、それぞれ目的変数として減少量を用いることによって、各特定成分の推定モデルが生成される。
【0051】
モデル構築制御部233は、非脱炭素既知データについて、上述したモデル構築処理(例えば学習処理)を行うことによって、特定成分毎に推定モデルを生成してもよい。モデル構築制御部233は、脱炭素既知データについて、上述したモデル構築処理(例えば学習処理)を行うことによって、特定成分毎に推定モデルを生成してもよい。このようにモデル構築処理が行われることによって、非脱炭素既知データに関する特定成分毎の推定モデルと、脱炭素既知データに関する特定成分毎の推定モデルと、が生成される。
【0052】
モデル構築制御部233は、非脱炭素既知データ及び脱炭素既知データのそれぞれについて、クラスタリングされたグループ毎に上述したモデル構築処理(例えば学習処理)を行うことによって、特定成分毎に推定モデルを生成してもよい。このようにモデル構築処理が行われることによって、非脱炭素既知データについてグループ毎且つ特定成分毎の推定モデルと、脱炭素既知データについてグループ毎且つ特定成分毎の推定モデルと、が生成される。例えば非脱炭素既知データがM種類のグループにクラスタリングされ、脱炭素既知データがN種類のグループにクラスタリングされ、特定成分が上述したように4種類の成分を含む場合には、(M+N)×4種類の推定モデルが生成される。モデル構築制御部233は、それぞれの推定モデルを推定モデル記憶部223に記録する。このようなモデル構築制御部233によって得られた推定モデルは、推定装置30に対して送信され、推定装置30の推定モデル記憶部321に記録されてもよい。このような推定モデルは、入力として操業情報を与えることによって、出力として推定モデルに応じた特定成分の含有量情報(例えば減少量)の推定値を得ることが可能である。
【0053】
図6は、モデル構築装置20の処理の具体例を示すフローチャートである。まず、情報制御部231は既知データを取得する(ステップS101)。既知データは、例えばユーザーによって入力されてもよいし、他の情報機器から通信によって取得されてもよいし、モデル構築装置20に接続された記録媒体から取得されてもよい。前処理制御部232は、既知データに対して上述したような所定の前処理を実行する(ステップS102)。モデル構築制御部233は、前処理済既知データを用いてモデル構築処理を実行し、推定モデルを推定モデル記憶部223に記録する(ステップS103)。
【0054】
図7は、推定装置30の機能構成の具体例を示す概略ブロック図である。推定装置30は、例えばパーソナルコンピューターやサーバー装置などの情報処理装置を用いて構成される。推定装置30は、通信部31、記憶部32及び制御部33を備える。
【0055】
通信部31は、通信機器である。通信部31は、例えばネットワークインターフェースとして構成されてもよい。通信部31は、制御部33の制御に応じて、ネットワーク70を介して他の装置とデータ通信する。通信部31は、無線通信を行う装置であってもよいし、有線通信を行う装置であってもよい。
【0056】
記憶部32は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。記憶部32は、制御部33によって使用されるデータを記憶する。記憶部32は、例えば推定モデル記憶部321として機能してもよい。
【0057】
推定モデル記憶部321は、予めモデル構築処理によって生成された推定モデルの情報を記憶する。このようなモデル構築処理は、例えば他の装置(例えばモデル構築装置20)によって実行されてもよいし、自装置(推定装置30)によって実行されてもよい。
【0058】
制御部33は、上述の制御部15、23と同様に構成される。例えば、制御部33は、CPU等のプロセッサーとメモリーとを用いて構成される。制御部33は、プロセッサーがプログラムを実行することによって、情報制御部331、推定モデル選択部332、推定部333及び合金判定部334として機能する。なお、制御部33の各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されても良い。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0059】
情報制御部331は、端末装置10等の他の装置から情報を取得する。取得される情報の具体例として、例えば端末装置10に入力された情報、転炉や二次精錬や鋳造等を行う設備を監視する装置や制御する装置(例えばビジコン)から取得される情報(例えば操業情報)がある。情報制御部331は、取得された情報をメモリー等の記憶装置に記録する。情報制御部331は、端末装置10等の他の装置に対して情報を送信する。送信される情報の具体例として、例えば推定部333によって推定された情報や、合金判定部334によって判定された情報がある。このような情報制御部331による他の装置との間の情報のやりとりは、例えば通信部31による通信によって行われてもよい。
【0060】
情報制御部331は、取得された情報に基づいて一部の説明変数を導出してもよい。例えば、情報制御部331は、二次精錬のOB処理において吹き込まれる酸素の量を導出してもよい。このような処理は、例えば以下のように行われてもよい。まず、情報制御部331は、鋳込み開始時刻、転炉出鋼時刻、転炉出鋼時の溶鋼の温度、溶鋼量を取得する。情報制御部331は、これらの情報に基づいて、二次精錬において必要とされる上昇温度値を取得する。情報制御部331は、例えば温度下降推定処理を行うことによって、OB処理後から鋳造開始時までに低下する温度の値を算出する。情報制御部331は、その値に基づいて上昇温度値を取得してもよい。そして、情報制御部331は、必要とされる上昇温度値に基づいてOB量推定処理を行うことによって、必要とされる酸素量を取得する。
【0061】
推定モデル選択部332は、推定部333において使用される推定モデルを選択する。推定モデル選択部332は、例えば推定対象の二次精錬において脱炭素処理が行われるのか否かに基づいて、非脱炭素既知データを用いて生成された推定モデルと、脱炭素既知データを用いて生成された推定モデルと、のどちらを用いるか選択してもよい。推定モデル選択部332は、推定対象の二次精錬において脱炭素処理が行われない場合は、非脱炭素既知データを用いて生成された推定モデルの中から推定モデルを選択する。推定モデル選択部332は、推定対象の二次精錬において脱炭素処理が行われる場合は、脱炭素既知データを用いて生成された推定モデルの中から推定モデルを選択する。推定モデル選択部332は、例えばユーザーによる入力に基づいて、脱炭素処理が行われるか否かを判定してもよい。推定モデル選択部332は、例えばビジコン等の装置から取得される操業情報に基づいて、脱炭素処理が行われるか否かを判定してもよい。推定モデル選択部332は、これらの判定結果に応じて推定モデルを選択してもよい。
【0062】
推定モデル選択部332は、推定対象の二次精錬に関するプロセスデータに基づいて、推定対象の二次精錬が複数のグループの中のどのグループに属するか判定する。推定モデル選択部332は、モデル構築装置20において行われたクラスタリング処理と同じ基準に基づいてグループを判定する。例えば、モデル構築装置20においてOB処理前の各特定成分の溶鋼に対する含有率に基づいてクラスタリングが行われたのであれば、推定モデル選択部332は、推定対象の二次精錬におけるOB処理前の各特定成分の溶鋼に対する含有率の見込み量に基づいてグループを判定する。推定モデル選択部332は、判定結果のグループに分類されている推定モデルを選択する。
【0063】
推定モデル選択部332は、OB処理前の各特定成分の溶鋼に対する含有率を以下のように算出してもよい。以下、このような処理の具体例について説明する。まず、推定モデル選択部332は、見込みの合金投入量(重さ)の上限値と、見込みのOB処理前の成分値(割合)の上限値と、を算出する。
【0064】
見込みの合金投入量(重さ)の上限値は、目標成分値の上限値から処理前含有量を減算し、その値に対してこの時点における推定減少量を加算することで算出されてもよい。目標成分値の上限値は、例えば規格で定められている含有率の上限値(以下「規格上限値」という。)に基づいて算出されてもよい。より具体的には、目標成分値の上限値は、規格上限値に出鋼重量を乗算して算出されてもよい。上限値推定減少量は、既に推定部333によって取得されている場合にはその最新の推定値が用いられても良い。推定減少量は、まだ推定部333によって取得されていない場合は、所定の初期値が用いられても良い。所定の初期値は“ゼロ”であってもよい。
【0065】
見込みのOB処理前の成分値(割合)の上限値は、処理前含有量と、見込みの合金投入量の上限値と、の合計値を出鋼重量で除算することによって算出されてもよい。推定モデル選択部332は、算出された上限値に基づいてクラスタリングのグループを判定する。推定モデル選択部332は、判定結果のグループに分類されている推定モデルを、上限値に応じた推定モデルとして選択する。推定モデル選択部332は、このような処理を特定成分毎に行うことによって、特定成分ごとの上限値に応じた推定モデルを選択する。
【0066】
推定モデル選択部332は、同様の処理に基づいて下限値に応じた推定モデルをさらに選択してもよい。この場合の処理は、上述した処理において“上限値”を“下限値”に読み替えて同様の処理を行えばよい。このように上限値及び/又は下限値を特定成分毎に算出する処理を投入量範囲推定処理という。
【0067】
次に推定部333の処理について説明する。推定部333は、推定モデル選択部332によって選択された推定モデルと、推定対象の二次精錬における説明変数とを用いて、含有量情報(例えば減少量)を推定する。推定部333は、このような推定処理を特定成分毎に実行することで、特定成分毎に含有量情報を推定する。推定モデル選択部332によって上限値に応じた推定モデルと下限値に応じた推定モデルとが選択されている場合には、推定部333はそれぞれの推定モデルを用いて上限値に応じた含有量情報と下限値に応じた含有量情報とを推定してもよい。
【0068】
推定部333は、特定成分毎に、終了条件に基づいて推定処理を終了するか否か判定する。以下、終了条件の具体例について説明する。推定部333は、例えば含有量情報の推定値が所定の精度の値として得られたことを終了条件として判定し、終了条件が満たされた場合に推定処理を終了すると判定する。このような判定において、推定部333は例えば以下のような式に基づいて判定を行ってもよい。なお、α及びβの値は任意の定数であり、予め定められた値である。RMSEの値は、選択された推定モデルのモデル構築時(例えば学習処理時)に使用された既知データにおいて取得されたRMSEの値である。規格上限値及び規格下限値は、鋼種及び成分毎に異なる値であってもよい。
【0069】
【0070】
推定部333は、上限値に応じた含有量情報に関しては式3を用いて終了判定を行い、下限値に応じた含有量情報に関しては式4を用いて終了判定を行う。
【0071】
推定部333は、推定処理を終了すると判定した場合には、その時点で最新の含有量情報を用いて合金を判定することを合金判定部334に指示する。推定部333は、推定処理を終了しないと判定した場合には、その時点で最新の含有量情報を用いて推定モデルを新たに選択することを推定モデル選択部332に指示する。
【0072】
次に合金判定部334の処理について説明する。合金判定部334は、特定成分に関しては、最新の含有量情報を用いて合金の種別と、種別毎の投入量と、を判定する。合金判定部334は、他の成分に関しては、特に含有量情報を用いることなく合金の種別を判定する。他の成分の具体例として、リン、硫黄、銅、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、バナジウム、ニオブ、窒素、ホウ素、カルシウム等がある。合金判定部334は、特定成分及び上記他の成分に含まれるそれぞれの成分について下限値を求め、その下限値を超える値が投入されるように合金の種別を判定してもよい。合金判定部334は、それぞれの成分について上限値及び下限値を求め、下限値と上限値との間の量が投入されるように合金の種別を判定してもよい。これらの判定において、合金判定部334は線形計画法を用いてコスト(価格)が最小(最安)となる合金の種別とその量とを判定してもよい。具体的には、以下の式に基づいて合金の種別(銘柄)が判定されてもよい。
【0073】
【0074】
図8は、推定装置30の処理の具体例を示すフローチャートである。まず、情報制御部331はビジコン等から操業情報等の種々の情報を取得する(ステップS201)。情報制御部331は、温度下降推定処理を実行することによって、OB処理後から鋳造開始時までに低下する温度の値を算出する(ステップS202)。情報制御部331は、低下する温度の値に基づいてOB量推定処理を行うことによって、必要とされる酸素量を推定する(ステップS203)。
【0075】
推定モデル選択部332は、上述の投入量範囲推定処理を行うことで、特定成分毎に上限値と下限値とを算出する(ステップS204)。推定モデル選択部332は、投入量の範囲を示す情報(例えば下限値及び上限値)に基づいて、特定成分毎に推定モデルを選択する(ステップ205)。このとき、推定モデル選択部332は、さらに二次精錬において見込まれる炭素減少量にも基づいて推定モデルを選択してもよい。
【0076】
推定部333は、推定モデル選択部332によって選択された推定モデルに基づいて、特定成分毎に含有量情報(例えば減少量)を推定する(ステップS206)。推定部333は、推定結果に基づいて、終了条件が満たされたか否か判定する(ステップS207)。終了条件が満たされていない場合には(ステップS207-NO)、ステップS204以降の処理が実行される。このとき、ステップS204の処理ではステップS206の処理で推定された含有量情報を用いて新たな上限値や下限値が算出される。
【0077】
終了条件が満たされている場合には(ステップS207-YES)、合金判定部334は、合金判定処理を行うことによって、最適な合金の種別と量とを判定する(ステップS208)。そして、合金判定部334は、判定結果を出力する(ステップS209)。合金判定部334は、例えば判定結果を端末装置10に送信する。
【0078】
このように構成された推定システム100では、二次精錬後の溶鋼内の成分量に関してより高い精度の情報を得ることが可能となる。具体的には以下の通りである。
【0079】
図9は、推定システム100による推定精度向上の効果を示す図である。
図9は、従来方法と本システムを使用した方法とで、鋼種AN18X26について二次精錬した際の二次精錬後の炭素成分値(%)のヒストグラムである。
図9では、従来方法と本システムを使用した方法とで、それぞれ432Ch(チャージ)の操業を実施し、得られた溶鋼の炭素成分値毎にチャージ数が縦軸に表されている。規格下限値と規格上限値との間に位置しているチャージでは、規格範囲内の溶鋼が製造されているため、再処理を行う必要がない。従来方法及び本システムの方法とで、それぞれ以下のような値が得られている。
従来方法:下限値以下124Ch、上限値以上8Ch、範囲外合計132Ch
本システム:下限値以下73Ch、上限値以上15Ch、範囲外合計88Ch
【0080】
このように、本システムが適用されることによって、二次精錬後の溶鋼において適正な炭素成分量がより多くのChで得られている。そのため、本システムの適用によって、二次精錬における炭素成分の減少量(含有量情報)をより精度高く推定し、その推定値に応じて二次精錬における炭素の投入量を精度よく制御することができている。
図9では、炭素成分についてのみ示しているが、炭素以外の特定成分に関しても同様である。
【0081】
図10は、本システムの推定精度を評価するための評価指標として、RMSE(平均平方二乗誤差)を用いた評価の結果を示す図である。
図11は、本システムの推定精度を評価するための評価指標として、正答率を用いた評価の結果を示す図である。
図10及び
図11の横軸は推定モデル構築時の既知データの利用方法の分類を示す。“全データ”は全ての既知データを用いて推定モデルを構築する方法を示す。“脱C除去”は、非脱炭素既知データと脱炭素既知データとを分けて推定モデルを構築する方法を示す。“操業分類”は、経験のあるオペレーターが既知データを複数のグループに分類し、グループ毎に推定モデルを構築する方法を示す。“提案分類”は、OB処理前の溶鋼に対する各特定成分の含有率に基づいて複数のグループにクラスタリングし、グループ毎に推定モデルを構築する方法を示す。
図10及び
図11の縦軸はRMSEの値を示す。正答率は、許容誤差の範囲内の結果が得られたものを正答としてカウントして得られた値である。許容誤差は、例えば以下のような式によって表されてもよい。
【0082】
【0083】
図10及び
図11において、“全データ”は得られた既知データを全て教師データとして使用してRidge回帰を用いた学習処理を行って得られた推定モデルで推定を行った場合の値を示す。本実施形態では、目標精度としてRMSEでは23.9kg以下という精度を設定し、正答率では80.6%以上という精度を設定した。しかし、“全データ”のやり方では実現できなかった。これに対し、RMSEに関しては“脱C除去”及び“提案分類”では、目標を達成できている。また、正答率に関しては“提案分類”において目標を達成できている。提案分類は、本システムにおいて得られた推定結果を示す。このように、どちらの評価指標においても、本システムでは目標精度を達成できている。このように本システムにおいて目標精度を達成できているいくつかの要素について説明する。
【0084】
推定システム100では、実際の二次精錬の操業によって得られた既知データを教師データとして用いた機械学習の結果を用いて、二次精錬の実施によって所定の成分が減少してしまった後の成分量に関する情報(含有量情報)を取得する。例えば、OB処理前のタイミングで溶鋼に投入される各特定成分の量と、OB処理後のタイミングで溶鋼に投入される各特定成分の量と、が説明変数として用いられてもよい。OB処理前に投入された各成分のその後の減少量と、OB処理後に投入された各成分のその後の減少量とでは異なる可能性がある。このように、OB処理前とOB処理後とで分けて各成分の投入量が説明変数として用いられることによって、上述した可能性による変化を反映させて、より高い精度で推定処理を行うことが可能となる。
【0085】
また、例えば、OB処理において吹き込まれる酸素の量が説明変数として用いられてもよい。OB処理において吹き込まれる酸素の量と各成分(特に炭素)の減少量には相関があることが考えられる。そのため、OB処理において吹き込まれる酸素の量が説明変数として用いられることによって、より高い精度で推定処理を行うことが可能となる。
【0086】
推定システム100では、既知データを、非脱炭素既知データと、脱炭素既知データと、に分けて使用している。そして、所定の基準に応じて脱炭素処理が行われない二次精錬においては、推定モデルとして非脱炭素既知データを用いて学習して得られた推定モデルが使用される。一方で、所定の基準に応じて脱炭素処理が行われる二次精錬においては、推定モデルとして脱炭素既知データを用いて学習して得られた推定モデルが使用される。
【0087】
図12は、炭素投入量と炭素減少量推定値との関係を示す図である。縦軸は二次精錬における炭素の減少量の推定値を示し、横軸は二次精錬における炭素の投入量を示す。おおよそ領域901付近に位置しているデータと領域902付近に位置しているデータとでは、分布の傾向が異なっている。そのため、これらの傾向に応じて推定システム100では上述したように既知データを脱炭素処理が行われたものと脱炭素処理が行われなかったものに分けてモデル構築処理(例えば学習処理)が行われた。これによって、それぞれ分布の傾向が近い既知データを用いてモデル構築処理(例えば学習処理)を行うことが可能となり、より精度よく推定を行うことが可能となった。
【0088】
推定システム100では、鋼種に応じて既知データをクラスタリングすることで複数のグループに分類し、各グループに分類された既知データに基づいてモデル構築処理(例えば機械学習)が行われる。その結果、グループ毎に異なる推定モデルが得られる。推定処理を行う際には、二次精錬の対象となっている鋼種に応じた推定モデルを用いて推定処理が行われる。鋼種によって各成分(特に特定成分)の含有量が異なるため、鋼種と二次精錬における各成分の減少量には一定の相関関係がある。そのため、鋼種に応じた推定モデルを用いた推定処理が行われることによって、より精度よく推定を行うことが可能となった。
【0089】
推定システム100では、二次精錬後の各成分の含有量に関する推定結果に基づいて、二次精錬において投入される各成分の量が推定される。各成分の推定結果に基づいて、各成分の投入量に関して下限値及び上限値が判定される。そして、成分毎の下限値及び上限値に基づいて、最適な合金種別毎の投入量が判定される。このような判定は、例えば線形計画法に基づいて、各合金に含まれる成分量とコストとに基づいて行われる。このような処理が行われるため、目的とした鋼種に関する各成分の含有量の規定を順守しつつ、コストに関してより適切な(より安価な)合金の組み合わせを選択することが可能となる。
【0090】
図13は、本実施形態に適用される情報処理装置90のハードウェア構成例の概略を示す図である。情報処理装置90は、プロセッサー91、主記憶装置92、通信インターフェース93、補助記憶装置94、入出力インターフェース95及び内部バス96を備える。プロセッサー91、主記憶装置92、通信インターフェース93、補助記憶装置94及び入出力インターフェース95は、内部バス96を介して互いに通信可能に接続される。情報処理装置90は、例えばモデル構築装置20及び推定装置30に適用されてもよい。この場合、例えば通信部21及び通信部31は通信インターフェース93を用いて構成されてもよい。例えば記憶部22及び記憶部32は補助記憶装置94を用いて構成されてもよい。また、制御部23及び制御部33は、プロセッサー91及び主記憶装置92を用いて構成されてもよい。
【0091】
(変形例)
本実施形態では、端末装置10と推定装置30とが異なる装置として構成されているが、一体の装置として構成されてもよい。
図14は、このように構成された推定装置30の変形例を示す図である。
図14に示される推定装置30は、操作部34及び出力部35を備える。
図14に示される推定装置30の操作部34及び出力部35は、それぞれ端末装置10の操作部12及び出力部13と同様に機能する。制御部33は、操作部34に対する操作に応じて動作し、出力部35を用いて情報を出力する。
【0092】
本実施形態では、モデル構築装置20と推定装置30とが異なる装置として構成されているが、一体の装置として構成されてもよい。
図15は、このように構成された推定装置30の変形例を示す図である。
図15に示される推定装置30の記憶部32は、既知データ記憶部322及び前処理済既知データ記憶部323としても機能する。
図15に示される推定装置30の制御部33は、前処理制御部335及びモデル構築制御部336としても機能する。既知データ記憶部322及び前処理済既知データ記憶部323は、それぞれモデル構築装置20の既知データ記憶部221及び前処理済既知データ記憶部222と同様に機能する。前処理制御部335及びモデル構築制御部336は、それぞれモデル構築装置20の前処理制御部232及びモデル構築制御部233と同様に機能する。
【0093】
モデル構築装置20は、複数の情報処理装置を用いて実装されてもよい。例えば、クラウド等の装置を用いてモデル構築装置20が実装されてもよい。例えば、モデル構築装置20において、記憶部22と制御部23とがそれぞれ異なる情報処理装置に実装されてもよい。例えば、モデル構築装置20の記憶部22が複数の情報処理装置に分散して実装されてもよい。推定装置30は、複数の情報処理装置を用いて実装されてもよい。例えば、クラウド等の装置を用いて推定装置30が実装されてもよい。例えば、推定装置30において、記憶部32と制御部33とがそれぞれ異なる情報処理装置に実装されてもよい。例えば、推定装置30の記憶部32が複数の情報処理装置に分散して実装されてもよい。
【0094】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0095】
100…推定システム, 10…端末装置, 11…通信部, 12…操作部, 13…出力部, 14…記憶部, 15…制御部, 20…モデル構築装置, 21…通信部, 22…記憶部, 221…既知データ記憶部, 222…前処理済既知データ記憶部, 223…推定モデル記憶部, 23…制御部, 231…情報制御部, 232…前処理制御部, 233…モデル構築制御部, 30…推定装置, 31…通信部, 32…記憶部, 321…推定モデル記憶部, 33…制御部, 331…情報制御部, 332…推定モデル選択部, 333…推定部, 334…合金判定部