(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011224
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240118BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01L29/78 652D
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652C
H01L29/78 652J
H01L29/78 652H
H01L29/78 652F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113056
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇
(57)【要約】
【課題】バイポーラ劣化を抑制することができる炭化珪素半導体装置を提供すること。
【解決手段】p
++型コンタクト領域6は島状に点在して配置され、p
-型ベース領域3のうち、少なくともp
++型コンタクト領域6の直下の正孔電流領域3aで不純物濃度が5×10
16/cm
3以下である。互いに隣り合うゲートトレンチ7間の電解緩和用のp
+型領域22は、正孔電流領域3aに接する第1部分22aと、p
-型ベース領域3のうちの正孔電流領域3aを除く領域3bのみに接する第2部分22bと、に分離されている。ボディダイオード20の導通時、p
++型コンタクト領域6、正孔電流領域3aおよび第1部分22aを通ってn
-型ドレイン領域1に順方向電流Ifが流れ込む。このため、n
-型ドレイン領域1のうち、第1部分22aの直下の正孔注入領域2aにのみ正孔が注入され、正孔注入領域2aの周囲に正孔が存在しない領域2bが形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる半導体基板と、
前記半導体基板の内部に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記半導体基板の第1主面と前記第1半導体領域との間に設けられた第2導電型の第2半導体領域と、
前記第1主面と前記第2半導体領域との間に選択的に設けられた第1導電型の第3半導体領域と、
前記第1主面と前記第2半導体領域との間に選択的に設けられた、前記第2半導体領域よりも不純物濃度の高い第2導電型の第4半導体領域と、
前記第3半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第1半導体領域に達するトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記第3半導体領域および前記第2半導体領域に電気的に接続された第1電極と、
前記半導体基板の第2主面に電気的に接続された第2電極と、
を備え、
前記第4半導体領域は島状に点在して配置され、
前記第2半導体領域のうち、少なくとも深さ方向に前記第4半導体領域に対向する第1領域の不純物濃度は、5×1016/cm3以下であることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記第1領域は、前記第4半導体領域との接触面を上底とし、前記第2主面側に向かうにしたがって幅を広くした錐台状をなすことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記半導体基板の前記第2主面側に選択的に設けられた、前記第2半導体領域よりも不純物濃度の高い第2導電型高濃度領域を備え、
前記第2導電型高濃度領域は、
前記第1領域に接する第1部分と、
前記第1領域および前記第1部分と離れて配置され、前記第2半導体領域のうちの前記第1領域を除く第2領域に接する第2部分と、を有することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記第4半導体領域は、前記第1半導体領域の厚さの2倍以上離れて点在することを特徴とする請求項3に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記第1半導体領域は、
前記第1部分に接し、前記第2導電型高濃度領域と前記第1半導体領域とのpn接合の順バイアス時に正孔が注入される第3領域と、
前記第2部分に接し、前記第3領域の周囲を囲む、前記pn接合の順バイアス時に正孔が注入されない第4領域と、を有することを特徴とする請求項3に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記第3領域は、前記第1部分との接触面を上底とし、前記第2主面側に向かうにしたがって幅を広くした錐台状をなすことを特徴とする請求項5に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型電界効果トランジスタ)は、半導体基板にボディダイオードを内蔵する。MOSFETのボディダイオードは、p++型コンタクト領域およびp型ベース領域とn-型ドリフト領域およびn+型ドレイン領域とのpn接合で形成される寄生のpin(p-intrinsic-n)ダイオードである。
【0003】
炭化珪素(SiC)を半導体材料として用いた従来の炭化珪素半導体装置の構造について説明する。
図13は、従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図14は、従来の炭化珪素半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
図13には、
図14の切断線AA-AA’における断面構造を示す。
図14には、p
++型コンタクト領域106およびp
+型領域121,122のレイアウトを明確にするため、p型ベース領域104およびn
+型ソース領域105を図示省略する。
【0004】
図13,14に示す従来の炭化珪素半導体装置110は、炭化珪素からなる半導体基板130のおもて面(p
-型エピタキシャル層133側の主面)側にトレンチゲート構造を備えた縦型SiC-MOSFETである。半導体基板130は、炭化珪素からなるn
+型出発基板131上にn
-型ドリフト領域102およびp
-型ベース領域103となる各エピタキシャル層132,133を順にエピタキシャル成長させてなる。n
+型出発基板131は、n
+型ドレイン領域101である。
【0005】
n-型エピタキシャル層132のうち、n-型エピタキシャル層132にイオン注入により形成される後述するp+型領域121,122およびn型電流拡散領域123を除く部分がn-型ドリフト領域102である。p-型エピタキシャル層133のうち、p-型エピタキシャル層133にイオン注入により形成される後述するp型ベース領域104、後述するn+型ソース領域105および後述するp++型コンタクト領域106を除く部分がp-型ベース領域103である。
【0006】
トレンチゲート構造は、p-型ベース領域103、p型ベース領域104、n+型ソース領域105、p++型コンタクト領域106、ゲートトレンチ107、ゲート絶縁膜108およびゲート電極109で構成される。p++型コンタクト領域106、p-型ベース領域103、p型ベース領域104および後述するp+型領域121,122と、後述するn型電流拡散領域123、n-型ドリフト領域102およびn+型ドレイン領域101とのpn接合134で、SiC-MOSFETのボディダイオード120が形成される。
【0007】
ゲートトレンチ107は、半導体基板130のおもて面に平行な第1方向Xにストライプ状に延在する。互いに隣り合うゲートトレンチ107間(メサ部)に、p-型ベース領域103、p型ベース領域104、n+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106が選択的に設けられている。p-型ベース領域103、p型ベース領域104およびn+型ソース領域105は、ゲートトレンチ107の側壁でゲート絶縁膜108に接し、第1方向Xにゲートトレンチ107と同じ長さで途切れることなく延在する。
【0008】
p型ベース領域104は、半導体基板130のおもて面からn+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106よりもn+型ドレイン領域101側(半導体基板130の裏面側)に深い位置で、かつ後述するp+型領域122および後述するn型電流拡散領域123よりもn+型ソース領域105側(半導体基板130のおもて面側)に浅い位置に、これらの領域と離れて設けられている。p型ベース領域104とこれらの領域との間にはp-型ベース領域103が介在する。
【0009】
n+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106は、半導体基板130のおもて面とp-型ベース領域103との間に、p-型ベース領域103に接してそれぞれ選択的に設けられ、半導体基板130のおもて面でソース電極112にオーミック接触する。p++型コンタクト領域106は、ゲートトレンチ107から離れて設けられ、半導体基板130のおもて面に平行な方向にn+型ソース領域105に隣接する。p++型コンタクト領域106は、各メサ部において第1方向Xに所定ピッチで点在する。
【0010】
p-型ベース領域103とn-型ドリフト領域102との間において、ゲートトレンチ107の底面よりもn+型ドレイン領域101側に深い位置に、p+型領域121,122およびn型電流拡散領域123がそれぞれ選択的に設けられている。n型電流拡散領域123は、n-型ドリフト領域102、p-型ベース領域103およびp+型領域121,122の間に、これらの領域に接して設けられている。n型電流拡散領域123は、ゲートトレンチ107まで達してゲート絶縁膜108に接する。
【0011】
p+型領域121,122は、第1方向Xにゲートトレンチ107と同じ長さで直線状に途切れることなく延在する。p+型領域121は、p-型ベース領域103と離れて設けられ、深さ方向Zにゲートトレンチ107の底面に対向する。p+型領域121は、図示省略する部分でソース電極112に電気的に接続されている。p+型領域122は、互いに隣り合うゲートトレンチ107間に、p-型ベース領域103に接し、ゲートトレンチ107およびp+型領域121と離れて設けられている。
【0012】
ソース電極112は、層間絶縁膜111のコンタクトホールにおいて半導体基板130のおもて面でn+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106にオーミック接触して、n+型ソース領域105、p++型コンタクト領域106、p-型ベース領域103、p型ベース領域104およびp+型領域121,122に電気的に接続されている。ドレイン電極113は、半導体基板130の裏面(n+型出発基板131側の主面)の全面に設けられて、n+型ドレイン領域101に電気的に接続されている。
【0013】
上述した従来の炭化珪素半導体装置110では、通常動作時、ソース電極112に対して正の電圧がドレイン電極113に印加(ドレイン・ソース間が順バイアス)され、p++型コンタクト領域106、p-型ベース領域103、p型ベース領域104およびp+型領域121,122と、n型電流拡散領域123、n-型ドリフト領域102およびn+型ドレイン領域101と、のpn接合134が逆バイアスされる。この状態で、ゲート電圧がゲート閾値電圧未満であると、SiC-MOSFETはオフ状態を維持する。
【0014】
一方、ドレイン・ソース間が順バイアスされた状態でゲート閾値電圧以上のゲート電圧が印加されると、p-型ベース領域103およびp型ベース領域104の、ゲートトレンチ107の側壁に沿った部分にチャネル(n型の反転層)が形成される。それによって、n+型ドレイン領域101からn-型ドリフト領域102、n型電流拡散領域123およびチャネルを通ってn+型ソース領域105へ向かうドリフト電流(正孔電流)Idsが流れ、SiC-MOSFET(炭化珪素半導体装置110)がオンする。
【0015】
また、SiC-MOSFETの同期整流時のデッドタイム中や、SiC-MOSFETによる負荷側へのエネルギー回生時には、ドレイン・ソース間が逆バイアスされる。このため、p++型コンタクト領域106、p-型ベース領域103、p型ベース領域104およびp+型領域121,122と、n型電流拡散領域123、n-型ドリフト領域102およびn+型ドレイン領域101と、のpn接合134が順バイアスされてボディダイオード120が導通し、ボディダイオード120に順方向電流Ifが流れる。
【0016】
従来のトレンチゲート型SiC-MOSFETとして、深さ方向にn+型ソース領域に隣接してp+型領域を配置することで、n+型ソース領域の下方におけるp+型領域およびp型ベース領域のパンチスルーを防止してドレイン・ソース間の耐圧を確保した装置が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。下記特許文献1では、p型ベース領域の不純物濃度が1.0×1016/cm3~1.0×1018/cm3であり、p+型領域の不純物濃度が1.0×1018/cm3~1.0×1021/cm3であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上述した従来の炭化珪素半導体装置110(
図13,14参照)では、ボディダイオード120が導通(順方向通電)すると、オン電圧Vonの増加や順方向電圧Vfの増加などのいわゆるバイポーラ劣化(ボディダイオード120による順方向通電劣化)が起きる。SiC-MOSFETのバイポーラ劣化の要因について説明する。
図10は、
図13の等価回路を示す回路図である。
図10の破線で囲む部分が
図13,14の炭化珪素半導体装置110(半導体基板130)に相当する。
【0019】
図11は、従来の炭化珪素半導体装置のバイポーラ劣化について説明する説明図である。
図11には、
図13の半導体基板130の一部(p
+型領域122近傍におけるn
-型ドリフト領域102およびn
+型ドレイン領域101)を拡大して示す。
図11(a)はボディダイオード120の導通時の状態であり、
図11(b)はボディダイオード120の導通により積層欠陥141(太線)が<1-100>方向に拡張142した状態である。
図12は、
図11(b)の半導体基板全体をおもて面側から見た状態を示す平面図である。
【0020】
ドレイン・ソース間に逆並列にボディダイオード120が接続される(
図10,13)。ボディダイオード120の順方向電流Ifは、p
++型コンタクト領域106からp
-型ベース領域103に流れ込み、p
-型ベース領域103およびp型ベース領域104を横方向(半導体基板130のおもて面に平行な方向)に拡散する。このため、p
-型ベース領域103からp
+型領域121,122を介してn
-型ドリフト領域102のほぼ全域に正孔(hole:「h」と図示)136が注入135される(
図11(a))。
【0021】
n-型ドリフト領域102に注入135された正孔136はn-型ドリフト領域102内で電子(electron:「e」と図示)137と再結合し、この再結合によって炭化珪素のバンドギャップに近い光等のエネルギーが放出される。このエネルギーを受けて半導体基板130の基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)140がn-型エピタキシャル層132内を(0001)面に沿って成長し、積層欠陥(SF:Stacking Fault)141となる。
【0022】
BPD140はn
+型出発基板131に多く存在し、一般的に、n
+型出発基板131のBPD140は、n
-型エピタキシャル層132との界面138からn
-型ドリフト領域102(n
-型エピタキシャル層132)内へ(0001)面に沿って<11-20>方向にオフ角(通常4度程度)に応じた角度で成長していき積層欠陥141となり、p
+型領域121,122との界面近傍まで成長する。そして、積層欠陥141は、さらにn
-型ドリフト領域102内を<1-100>方向に拡張142する(
図11(b)および
図12のハッチング部分)。
【0023】
上述したようにn-型ドリフト領域102のほぼ全域に正孔136が注入135されることで、活性領域151のn-型ドリフト領域102の全域に臨界濃度1×1015/cm3以上で正孔が存在する。このため、活性領域151の全域にわたってn+型出発基板131内の多くのBPD140がn-型ドリフト領域102内に成長して積層欠陥141に変換され、これらの積層欠陥141がn-型ドリフト領域102内を<1-100>方向に活性領域151とエッジ終端領域152との境界まで拡張142する。
【0024】
積層欠陥141は、電子の流れ(電子電流)に対して抵抗成分となる。このため、積層欠陥141が活性領域151のn-型ドリフト領域102に増大および拡張するほど、SiC-MOSFETがオン時やボディダイオード120の導通時に電子の流れ(ドリフト電流Idsと逆向きの流れ、順方向電流Ifと逆向きの流れ)の抵抗成分となり、導通損失が大きくなる。これによって、バイポーラ劣化(オン電圧Vonの増加や順方向電圧Vfの増加)が起きる。
【0025】
この発明は、上述した従来技術による課題を解消するため、バイポーラ劣化を抑制することができる炭化珪素半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素からなる半導体基板の内部に、第1導電型の第1半導体領域が設けられている。前記半導体基板の第1主面と前記第1半導体領域との間に、第2導電型の第2半導体領域が設けられている。前記第1主面と前記第2半導体領域との間に、第1導電型の第3半導体領域が選択的に設けられている。前記第1主面と前記第2半導体領域との間に、第2導電型の第4半導体領域が選択的に設けられている。前記第4半導体領域は、前記第2半導体領域よりも不純物濃度が高い。トレンチは、前記第3半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第1半導体領域に達する。ゲート電極は、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられている。第1電極は、前記第3半導体領域および前記第2半導体領域に電気的に接続されている。第2電極は、前記半導体基板の第2主面に電気的に接続されている。前記第4半導体領域は島状に点在して配置されている。前記第2半導体領域のうち、少なくとも深さ方向に前記第4半導体領域に対向する第1領域の不純物濃度は、5×1016/cm3以下である。
【0027】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1領域は、前記第4半導体領域との接触面を上底とし、前記第2主面側に向かうにしたがって幅を広くした錐台状をなすことを特徴とする。
【0028】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記半導体基板の前記第2主面側に選択的に設けられた、前記第2半導体領域よりも不純物濃度の高い第2導電型高濃度領域を備える。前記第2導電型高濃度領域は、前記第1領域に接する第1部分と、前記第1領域および前記第1部分と離れて配置され、前記第2半導体領域のうちの前記第1領域を除く第2領域に接する第2部分と、を有することを特徴とする。
【0029】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第4半導体領域は、前記第1半導体領域の厚さの2倍以上離れて点在することを特徴とする。
【0030】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1半導体領域は、前記第1部分に接する第3領域と、前記第2部分に接し、前記第3領域の周囲を囲む第4領域と、を有する。前記第3領域には、前記第2導電型高濃度領域と前記第1半導体領域とのpn接合の順バイアス時に正孔が注入される。前記第4領域には、前記pn接合の順バイアス時に正孔が注入されないことを特徴とする。
【0031】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第3領域は、前記第1部分との接触面を上底とし、前記第2主面側に向かうにしたがって幅を広くした錐台状をなすことを特徴とする。
【0032】
上述した発明によれば、ボディダイオードの導通時に第1半導体領域の第3領域にのみ正孔が注入され、当該第3領域でのみ積層欠陥が成長および拡張し、第3領域と第4領域の境界で積層欠陥の拡張を止めることができるため、第1半導体領域の全体に積層欠陥が拡張しない。
【発明の効果】
【0033】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置によれば、バイポーラ劣化を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
【
図2】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図3】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
【
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造の別例を示す断面図である。
【
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造の別例を示す断面図である。
【
図7】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造の別例を示す断面図である。
【
図8】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造の別例を示す断面図である。
【
図9】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造の別例を示す断面図である。
【
図11】従来の炭化珪素半導体装置のバイポーラ劣化について説明する説明図である。
【
図12】
図11(b)の半導体基板全体をおもて面側から見た状態を示す平面図である。
【
図13】従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図14】従来の炭化珪素半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数を表している。
【0036】
(実施の形態)
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
図2,3は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図4は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
図2,3には、それぞれ
図4の切断線A-A’および切断線B-B’における断面構造を示す。
図4には、p型ベース領域4、p
++型コンタクト領域6およびp
+型領域21,22のレイアウトを明確にするため、n
+型ソース領域5を図示省略する。
【0037】
図1~4に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10は、活性領域51において、炭化珪素からなる半導体基板30のおもて面側にトレンチゲート構造を備えた縦型SiC-MOSFETである。活性領域51は、炭化珪素半導体装置10(SiC-MOSFET)のオン時に半導体基板30のおもて面に垂直な方向に主電流(ドリフト電流Ids)が流れる領域である。活性領域51には、SiC-MOSFETの同一構造の複数の単位セル(素子の機能単位)が隣接して配置される。
図2には、活性領域51に隣接する4つの単位セルを示す。活性領域51は、例えば略矩形状の平面形状を有し、半導体基板30の略中央(チップ中央)に設けられている。
【0038】
エッジ終端領域52は、活性領域51と半導体基板30の端部(チップ端部)との間の領域である。エッジ終端領域52は、活性領域51の周囲を略矩形状に囲む。エッジ終端領域52は、半導体基板30のおもて面側の電界を緩和して耐圧を保持する機能を有する。耐圧とは、炭化珪素半導体装置10が使用電圧で誤動作や破壊を起こさない限界の電圧である。エッジ終端領域52には、例えば、フィールドリミッティングリング(FLR:Field Limiting Ring)や接合終端拡張(JTE:Junction Termination Extension)構造等の一般的な耐圧構造(不図示)が配置される。
【0039】
半導体基板30は、炭化珪素からなるn+型出発基板31のおもて面上にn-型ドリフト領域(第1半導体領域)2およびp-型ベース領域(第2半導体領域)3となる各エピタキシャル層32,33を順にエピタキシャル成長させてなる。半導体基板30は、p-型エピタキシャル層33側の第1主面をおもて面とし、n+型出発基板31側の第2主面(n+型出発基板31の裏面)を裏面とする。n+型出発基板31のおもて面は、例えば<11-20>方向に4度程度のオフ角を有する(0001)面である。n+型出発基板31は、n+型ドレイン領域1である。トレンチゲート構造は、p-型ベース領域3、p型ベース領域4、n+型ソース領域(第3半導体領域)5、p++型コンタクト領域(第4半導体領域)6、ゲートトレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9で構成される。
【0040】
ゲートトレンチ7は、半導体基板30のおもて面から深さ方向Zにp
-型エピタキシャル層33を貫通してn
-型エピタキシャル層32に達し、後述するn型電流拡散領域23(n型電流拡散領域23を設けない場合はn
-型ドリフト領域2)の内部で終端する。ゲートトレンチ7は、半導体基板30のおもて面に平行な第1方向Xにストライプ状に延在する。ゲートトレンチ7の長手方向(第1方向X)は例えば<11-20>方向であり、ゲートトレンチ7の短手方向(半導体基板30のおもて面に平行でかつ第1方向Xと直交する第2方向Y)は例えば<1-100>方向である。ゲートトレンチ7の内部に、ゲート絶縁膜8を介してゲート電極9(
図4にはトレンチゲートと図示)が設けられている。
【0041】
p-型ベース領域3、p型ベース領域4、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、互いに隣り合うゲートトレンチ7間(メサ部)において、半導体基板30のおもて面とn-型ドリフト領域2との間にそれぞれ選択的に設けられている。p++型コンタクト領域6、p-型ベース領域3、p型ベース領域4および後述するp+型領域(第2導電型高濃度領域)21,22と、後述するn型電流拡散領域23、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、のpn接合34でボディダイオード20が形成される。ボディダイオード20の順方向電流Ifは、p++型コンタクト領域6からp-型ベース領域3の後述する正孔電流領域(第1領域)3a、後述するp+型領域22の第1部分22a、n-型ドリフト領域2の後述する正孔注入領域(第3領域)2aおよびn+型ドレイン領域1を通る経路で流れる。
【0042】
p型ベース領域4、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、p-型エピタキシャル層33の内部にイオン注入により形成された拡散領域である。p-型エピタキシャル層33のうち、これらイオン注入による拡散領域を除く部分がp-型ベース領域3である。p-型ベース領域3、p型ベース領域4およびn+型ソース領域5は、ゲートトレンチ7の側壁でゲート絶縁膜8に接する。p-型ベース領域3は、第1方向Xにゲートトレンチ7と略同じ長さ(長手方向の長さ)で直線状に途切れることなく延在し、互いに隣り合う両ゲートトレンチ7の側壁まで達する。p-型ベース領域3は、例えば、活性領域51とエッジ終端領域52との境界近傍でソース電極(第1電極)12に電気的に接続されている。
【0043】
p
-型ベース領域3は、ボディダイオード20の順方向電流(正孔電流)Ifが局所的に流れる正孔電流領域3aを有する。p
-型ベース領域3の正孔電流領域3aは、p
-型ベース領域3のうち、p
++型コンタクト領域6と後述するp
+型領域22とに挟まれた部分を含む領域である。p
-型ベース領域3の正孔電流領域3aは、p
++型コンタクト領域6との接触面全面を上底とし、p
+型領域22との接触面全面を含む下底(
図4のp
++型コンタクト領域6を囲む破線)を有する錐台(切頭錐体)状をなす。p
-型ベース領域3の正孔電流領域3aは、側面(錐体面:
図2,3のp
-型ベース領域3内の斜めの破線)が半導体基板30のおもて面に対して45度程度の角度θ1をなすように、p
+型領域22側へ向かうにしたがって幅が広くなっている。
【0044】
p-型ベース領域3の不純物濃度は、少なくとも正孔電流領域3aにおいて5×1016/cm3以下程度である。p-型ベース領域3の正孔電流領域3aの不純物濃度を低くするほど、ボディダイオード20の導通時にp++型コンタクト領域6からp-型ベース領域3に流れこむ正孔の横方向の拡散を小さくすることができると想定される。これによって、半導体基板30のおもて面に対してp-型ベース領域3の正孔電流領域3aの側面の角度θ1を大きくすることができ、半導体基板30を縮小化することができる。このため、p-型ベース領域3の正孔電流領域3aの不純物濃度は、例えば1016/cm3台前半(好ましくは1015/cm3台)程度であってもよい。
【0045】
p型ベース領域4は、半導体基板30のおもて面からn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6よりもn+型ドレイン領域1側(半導体基板30の裏面側)に深い位置に、これらの領域と離れて設けられている。また、p型ベース領域4は、半導体基板30のおもて面から後述するn型電流拡散領域23および後述するp+型領域22よりもn+型ソース領域5側(半導体基板30のおもて面側)に浅い位置に、これらの領域と離れて設けられている。p型ベース領域4は、深さ方向Zに、n+型ソース領域5に対向し、p++型コンタクト領域6に対向しない。p型ベース領域4とn+型ソース領域5との間と、p型ベース領域4とn型電流拡散領域23との間と、にp-型ベース領域3が介在する。
【0046】
同一メサ部に、互いに隣り合うゲートトレンチ7それぞれに隣接して異なるp型ベース領域4が配置される。p型ベース領域4は、第1方向Xにゲートトレンチ7と略同じ長さ(長手方向の長さ)で直線状に途切れることなく延在する。同一メサ部において、第2方向Yに離れて配置されて異なるゲートトレンチ7に隣接するp型ベース領域4間と、第1方向Xに互いに離れて配置されたp型ベース領域4間と、にp-型ベース領域3の正孔電流領域3aが介在する。p型ベース領域4は、p-型ベース領域3の正孔電流領域3aから離れて配置され、ゲート絶縁膜8と接する部分を除いて周囲をp-型ベース領域3に囲まれている。p型ベース領域4は設けられていなくてもよい。
【0047】
n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、半導体基板30のおもて面とp-型ベース領域3との間に選択的に設けられている。n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、下面(n+型ドレイン領域1側の面)でp-型ベース領域3に接して、半導体基板30のおもて面でソース電極12にオーミック接触する。n+型ソース領域5は、ゲートトレンチ7に隣接して設けられ、第1方向Xにゲートトレンチ7と略同じ長さで途切れることなく延在する。n+型ソース領域5は、半導体基板30のおもて面側から見て、後述するように第1方向Xに点在するp++型コンタクト領域6の周囲を囲む梯子状(格子状)に配置されている(不図示)。
【0048】
p++型コンタクト領域6は、メサ部の第2方向Yの略中心にゲートトレンチ7から離れて設けられ、半導体基板30のおもて面に平行な方向にn+型ソース領域5に隣接する。p++型コンタクト領域6は、下面の全面でp-型ベース領域3の正孔電流領域3aに接する。p-型ベース領域3、p型ベース領域4および後述するp+型領域22がそれぞれ所定箇所でソース電極12に電気的に接続され、かつp-型ベース領域3の正孔電流領域3aの直下にn-型ドリフト領域2の後述する正孔注入領域2aがマトリクス状に配置されればよく、すべてのメサ部にそれぞれ1つ以上のp++型コンタクト領域6が配置されてもよいし、p++型コンタクト領域6が配置されていないメサ部が存在してもよい。
【0049】
p++型コンタクト領域6は、第1方向Xに所定ピッチL2で点在し、かつ第2方向Yにゲートトレンチ7を1つ以上挟んで所定ピッチL3で点在する。p++型コンタクト領域6が配置されていないメサ部が第2方向Yに2つ以上互いに隣り合って配置されてもよい。このようにp++型コンタクト領域6を活性領域51の面内に互いに離れて島状に配置することで、セルピッチを縮小することができる。これに加えて、n-型ドリフト領域2の互いに隣り合う正孔注入領域2a間に、n+型ドレイン領域1に接し、かつ正孔注入領域2aの周囲を囲むように、ボディダイオード20の導通時に正孔が存在しない(注入されない)領域(第4領域)2bが形成される。
【0050】
p++型コンタクト領域6の配置のピッチL2,L3はともにn-型ドリフト領域2の厚さL1の2倍以上程度である(L2≧2×L1、L3≧2×L1)。これによって、n-型ドリフト領域2の後述する正孔注入領域2a同士が互いに離れて形成される。一方、p++型コンタクト領域6の配置のピッチL2,L3が広くなりすぎると、n+型ソース領域5と、p-型ベース領域3およびp型ベース領域4と、後述するn型電流拡散領域23、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、からなる寄生のnpnバイポーラトランジスタ(BJT:Bipolar Junction Transistor)が動作する虞がある。このため、p++型コンタクト領域6の配置のピッチL2,L3は、当該npnBJTが動作しない程度に狭く設定される。
【0051】
p
++型コンタクト領域6の配置のピッチL2,L3は、第1,2方向X,Yともに同じであってもよいし、異なっていてもよい。略同じピッチで配置とは、製造プロセスのばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じピッチで配置されていることを意味する。n
-型ドリフト領域2の厚さL1とは、後述するn型電流拡散領域23(n型電流拡散領域23を設けない場合は後述するp
+型領域21,22)からn
+型ドレイン領域1までの長さである。p
++型コンタクト領域6の平面形状は、例えば矩形状(
図4)や円形状(不図示)など適宜設定可能である。p
-型ベース領域3とn
-型ドリフト領域2との間において、ゲートトレンチ7の底面よりもn
+型ドレイン領域1側に深い位置に、p
+型領域21,22およびn型電流拡散領域23がそれぞれ選択的に設けられている。
【0052】
p+型領域21,22およびn型電流拡散領域23は、n-型エピタキシャル層32の内部にイオン注入により形成された拡散領域である。p+型領域21,22は、ソース電極12の電位に固定されており、SiC-MOSFET(炭化珪素半導体装置10)のオフ時に空乏化して(もしくはn型電流拡散領域23を空乏化させて、またはその両方)、ゲート絶縁膜8にかかる電界を緩和させる機能を有する。p+型領域21,22は、n+型ドレイン領域1側にn型電流拡散領域23と同じ深さ位置で終端し、下面でn-型ドリフト領域2に接する。p+型領域21,22とn-型ドリフト領域2との間にn型電流拡散領域23が延在してもよい。
【0053】
p+型領域21は、p-型ベース領域3と離れて設けられ、深さ方向Zにゲートトレンチ7の底面に対向する。p+型領域21は、ゲートトレンチ7の底面でゲート絶縁膜8に接してもよいし、ゲートトレンチ7から離れていてもよい。p+型領域21は、第1方向Xにゲートトレンチ7と同じ長さで直線状に途切れることなく延在する。p+型領域21は、下面でn-型ドリフト領域2の正孔が存在しない領域2bに接する。p+型領域21は、図示省略する部分でソース電極12に電気的に接続されている。p+型領域21がp+型領域22を介してソース電極12に電気的に接続される場合、p+型領域21はp+型領域22の後述する第2部分22bに連結される。
【0054】
p
+型領域22は、互いに隣り合うゲートトレンチ7間に、ゲートトレンチ7およびp
+型領域21と離れて設けられている。p
+型領域22は、メサ部(互いに隣り合うゲートトレンチ7間)の第2方向Yの略中心に配置され、深さ方向Zにp
++型コンタクト領域6に対向する。p
+型領域22は、上面(n
+型ソース領域5側の面)でp
-型ベース領域3に接し、p
-型ベース領域3およびp
++型コンタクト領域6を介してソース電極12に電気的に接続されている。また、p
+型領域22は、p
-型ベース領域3の正孔電流領域3aの外周(
図3,4のp
-型ベース領域3内の破線)直下で部分的に途切れた(切り離された)状態で第1方向Xに直線状に延在している。
【0055】
具体的には、p+型領域22は、深さ方向Zにp-型ベース領域3の正孔電流領域3aに隣接する第1部分22aと、当該第1部分22aを除く第2部分22bと、を有する。p+型領域22の第2部分22bは、深さ方向Zにp-型ベース領域3のうち、正孔電流領域3aを除く領域(第2領域)3bのみに隣接し、正孔電流領域3aに接していない。このため、p+型領域22の第1,2部分22a,22bは、p++型コンタクト領域6の第2方向Yの配置のピッチL3に応じて第1方向Xに互いに離れて交互に繰り返し配置される。p++型コンタクト領域6が配置されていないメサ部には、p+型領域22の第2部分22bのみが配置される。p+型領域22の第1,2部分22a,22b間にはn型電流拡散領域23が介在する。
【0056】
p+型領域22の第2方向Yの幅は、互いに隣り合うp+型領域21,22間のJFET(Junction FET)部の第2方向Yの幅に応じて適宜設定され、p++型コンタクト領域6の第2方向Yの幅以上であってもよいし、p++型コンタクト領域6の第2方向Yの幅よりも狭くてもよい。p+型領域22は、n+型ドレイン領域1側の部分とn+型ソース領域5側の部分とが略同じ不純物濃度(例えば1×1018/cm3程度)であってもよいし、n+型ドレイン領域1側の部分とn+型ソース領域5側の部分とを異なる不純物濃度で積層した2層構造であってもよい。
【0057】
n型電流拡散領域23は、キャリアの広がり抵抗を低減させる、いわゆる電流拡散層(CSL:Current Spreading Layer)である。n型電流拡散領域23は、p+型領域21,22に隣接し、上面でp-型ベース領域3に接し、下面でn-型ドリフト領域2に接する。また、n型電流拡散領域23は、第2方向Yにゲートトレンチ7まで達してゲート絶縁膜8に接する。n型電流拡散領域23は設けられていなくてもよい。n型電流拡散領域23を設けない場合、n型電流拡散領域23に代えて、n-型ドリフト領域2の正孔が存在しない領域2bが互いに隣り合うp+型領域21,22間をp-型ベース領域3まで達し、第2方向Yにゲートトレンチ7まで達してゲート絶縁膜8に接する。
【0058】
n
-型エピタキシャル層32のうち、イオン注入による拡散領域(p
+型領域21,22およびn型電流拡散領域23)を除く部分がn
-型ドリフト領域2である。n
-型ドリフト領域2は、ボディダイオード20の導通時に正孔が注入される正孔注入領域2aを有する。n
-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aは、n
-型ドリフト領域2のうち、p
+型領域22の第1部分22aとn
+型ドレイン領域1とに挟まれた部分を含む領域である。n
-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aは、p
+型領域22の第1部分22aとの接触面全面を上底とし、n
+型ドレイン領域1との接触面を下底(
図4の正孔電流領域3aを囲む破線)とする錐台状をなす。
【0059】
n
-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aは、側面(錐体面:
図2,3のn
-型ドリフト領域2内の斜めの破線)が半導体基板30のおもて面に対して45度程度の角度θ2をなすように、n
+型ドレイン領域1側へ向かうにしたがって幅が広くなっている。n
-型ドリフト領域2の正孔注入領域2a同士は互いに離れて配置され、互いに隣り合う正孔注入領域2a間に正孔が存在しない領域2bが介在する。n
-型ドリフト領域2の正孔が存在しない領域2bは、上面でp
+型領域21、p
+型領域22の第2部分22bおよびn型電流拡散領域23に接し、下面でn
+型ドレイン領域1に接する。ボディダイオード20の導通時に、n
-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aのみに正孔が注入され、臨界濃度1×10
15/cm
3以上で正孔が存在する。
【0060】
層間絶縁膜11は、半導体基板30のおもて面の全面に設けられ、ゲート電極9を覆う。層間絶縁膜11のコンタクトホールには、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6が露出されている。ソース電極12は、層間絶縁膜11のコンタクトホールにおいてn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6にオーミック接触して、n+型ソース領域5、p++型コンタクト領域6、p-型ベース領域3、p型ベース領域4およびp+型領域21,22に電気的に接続されている。ドレイン電極(第2電極)13は、半導体基板30の裏面(n+型出発基板31の裏面)の全面に設けられて、n+型ドレイン領域1に電気的に接続されている。
【0061】
図5~9は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造の別例を示す断面図である。
図5~9に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置61~63の互いに隣り合うゲートトレンチ7間(メサ部)のp型ベース領域4以外の各部(p
-型ベース領域3、n
+型ソース領域5(不図示)、p
++型コンタクト領域6およびp
+型領域21,22)のレイアウトは
図4と同様である。
図5,6,8は、
図4の切断線A-A’における断面構造に相当する。
図7,9は、
図4の切断線B-B’における断面構造に相当する。
【0062】
図5~9に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置61~63は、p型ベース領域4のレイアウトが
図2,3に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10と異なる。具体的には、
図5,7に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置61や、
図6,7に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置62、
図8,9に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置63のように、第1方向Xに互いに隣り合う正孔電流領域3a間に、互いに隣り合うゲートトレンチ7間にわたってp型ベース領域4を配置してもよい。
【0063】
この場合、正孔電流領域3aの周囲を囲む梯子状にp型ベース領域4を配置してもよい(
図5,7)。または、第2方向Yに正孔電流領域3aとp型ベース領域4とが隣り合わないように、第1方向Xに互いに隣り合う正孔電流領域3a間にのみp型ベース領域4を配置してもよい(
図6,7)。図示省略するが、p型ベース領域4は、第1,2方向X,Yともに正孔電流領域3aに隣り合わないように、ゲートトレンチ7の側壁近傍にのみ、部分的に途切れた(切り離された)状態で第1方向Xに直線状に延在してもよい。
【0064】
または、p型ベース領域4によってp
-型ベース領域3をn
+型ソース領域5側とn
+型ドレイン領域1側とに分離するように、互いに隣り合うゲートトレンチ7間の全域にp型ベース領域4を配置してもよい(
図8,9)。この場合、正孔電流領域3a内にもp型ベース領域4が配置されるが、正孔電流領域3aの不純物濃度と、正孔電流領域3a内に配置されたp型ベース領域4の不純物濃度と、の総不純物濃度が上述した範囲内(5×10
16/cm
3以下程度)に設定されればよい。
【0065】
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10(SiC-MOSFET)の動作について説明する。通常動作時、ソース電極12に対して正の電圧がドレイン電極13に印加(ドレイン・ソース間が順バイアス)され、p++型コンタクト領域6、p-型ベース領域3、p型ベース領域4およびp+型領域21,22と、n型電流拡散領域23、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、のpn接合34が逆バイアスされる。この状態で、ゲート電極9への印加電圧がゲート閾値電圧未満であると、SiC-MOSFETはオフ状態を維持する。
【0066】
一方、ドレイン・ソース間が順バイアスされた状態でゲート電極9にゲート閾値電圧以上の電圧が印加されると、p-型ベース領域3およびp型ベース領域4の、ゲートトレンチ7の側壁に沿った部分にチャネル(n型の反転層)が形成される。それによって、n+型ドレイン領域1からn-型ドリフト領域2、n型電流拡散領域23およびチャネルを通ってn+型ソース領域5へ向かうドリフト電流Idsが流れ、SiC-MOSFET(炭化珪素半導体装置10)がオンする。
【0067】
また、SiC-MOSFETの同期整流時のデッドタイム中や、SiC-MOSFETによる負荷側へのエネルギー回生時には、ドレイン・ソース間が逆バイアスされる。このため、p++型コンタクト領域6、p-型ベース領域3、p型ベース領域4およびp+型領域21,22と、n型電流拡散領域23、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、のpn接合34が順バイアスされてボディダイオード20が導通し、p++型コンタクト領域6からn-型ドリフト領域2へ向かって順方向電流Ifが流れる。
【0068】
具体的には、まず、ボディダイオード20の順方向電流Ifは、p++型コンタクト領域6からp-型ベース領域3へ流れ込む。p-型ベース領域3(p-型エピタキシャル層33)の不純物濃度が5×1016/cm3以下程度になっていることで、順方向電流Ifは、p-型ベース領域3を半導体基板30のおもて面に対して45度程度(=θ1)の広がり角度で下方(n+型ドレイン領域1側)へ向かって流れ、p-型ベース領域3およびp型ベース領域4を横方向(半導体基板30のおもて面に平行な方向)に拡散されない。
【0069】
すなわち、ボディダイオード20の順方向電流Ifは、p-型ベース領域3のうち、p++型コンタクト領域6の直下の錐台状の正孔電流領域3aのみを下方へ向かって流れ、当該正孔電流領域3aからその直下のp+型領域22へ流れ込む。p+型領域22は、正孔電流領域3aの直下の第1部分22aを他の第2部分22bから切り離した状態となっている。このため、ボディダイオード20の順方向電流Ifは、p+型領域22の第1部分22aのみを流れ、当該第1部分22aからn-型ドリフト領域2へ流れ込む。
【0070】
p+型領域22の第2部分22bやp+型領域21には正孔電流領域3aが接続されていないため、ボディダイオード20の順方向電流Ifは流れない。n-型ドリフト領域2に流れ込んだ順方向電流Ifは、n-型ドリフト領域2を半導体基板30のおもて面に対して45度程度(=θ2)の広がり角度で下方へ向かって流れ、n-型ドリフト領域2を横方向に拡散されない。すなわち、n-型ドリフト領域2のうち、p+型領域22の第1部分22aの直下の錐台状の正孔注入領域2aのみに正孔が注入される。
【0071】
したがって、n-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aにのみ臨界濃度1×1015/cm3以上で正孔が存在する。また、p++型コンタクト領域6が所定ピッチL2,L3で点在していることで、n-型ドリフト領域2のうち、互いに隣り合う正孔注入領域2a間には、正孔が存在しない領域2bが形成される。このため、n-型ドリフト領域2の正孔注入領域2a内でのみ正孔と電子との再結合が起き、この再結合によって炭化珪素のバンドギャップに近い光等のエネルギーが放出される。
【0072】
この再結合によるエネルギーを受けて、半導体基板30の基底面転位がn-型ドリフト領域2の正孔注入領域2a内を(0001)面に沿って<11-20>方向にオフ角に応じた角度でp+型領域22との界面近傍まで成長し、さらに正孔注入領域2a内を<1-100>方向に拡張する。正孔注入領域2aに隣接する領域2bには正孔が存在しないため、積層欠陥41(太線)の拡張は正孔注入領域2aと領域2bとの境界で止まる。したがって、積層欠陥41は、正孔注入領域2a内のみで成長および拡散する。
【0073】
以上、説明したように、実施の形態によれば、p-型ベース領域の不純物濃度を、少なくともp++型コンタクト領域の直下の錐台状の正孔電流領域において5×1016/cm3以下程度とする。これに加えて、互いに隣り合うゲートトレンチ間に配置された、ゲートトレンチの底面のゲート絶縁膜にかかる電界緩和用のp+型領域(以下、ゲートトレンチ間のp+型領域とする)が、深さ方向にp-型ベース領域の正孔電流領域に隣接する第1部分と、当該第1部分を除く第2部分と、に分離されている。
【0074】
これによって、SiC-MOSFETのボディダイオードの順方向電流は、p-型ベース領域の正孔電流領域のみを流れ、p-型ベース領域を横方向に拡散しない。ボディダイオードの順方向電流は、p-型ベース領域の正孔電流領域からゲートトレンチ間のp+型領域の第1部分のみを介してn-型ドリフト領域へ流れ込み、n-型ドリフト領域内を所定の広がり角度で下方へ向かって流れるため、n-型ドリフト領域に、局所的に正孔が注入される正孔注入領域と、正孔が存在しない(注入されない)領域と、が形成される。
【0075】
n
-型ドリフト領域の正孔注入領域内でのみ積層欠陥が成長および拡張し、正孔注入領域と、正孔が存在しない領域と、の境界で積層欠陥の拡張を止めることができるため、活性領域のn
-型ドリフト領域の全体に積層欠陥が拡張しない。したがって、従来構造(
図13,14参照)と比べて、活性領域のn
-型ドリフト領域において電子の流れに対して抵抗成分となる積層欠陥を少なくすることができ、導通損失を抑制することができるため、バイポーラ劣化を抑制することができる。
【0076】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、ゲートトレンチ間に電界緩和用のp+型領域を設けない構成や、ゲートトレンチ間およびゲートトレンチ直下ともに電界緩和用のp+型領域を設けない構成のトレンチゲート型SiC-MOSFETにも適用可能である。この場合、n-型ドリフト領域の正孔注入領域は、p-型ベース領域の正孔電流領域の下面に接し、p-型ベース領域の正孔電流領域の下面を上底とする錐台状をなす。
【0077】
また、上述した実施の形態では、p-型ベース領域の正孔電流領域の側面およびn-型ドリフト領域の正孔注入領域の側面が半導体基板のおもて面に対して45度程度の角度をなす場合を例に説明しているが、正孔注入領域の側面が半導体基板のおもて面に対する角度は、p++型コンタクト領域の不純物濃度が低くなるほど広くなる(すなわち正孔の横方向の拡散が小さくなる)と想定されるため、p++型コンタクト領域の不純物濃度に応じて適宜設定される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 n+型ドレイン領域
2 n-型ドリフト領域
2a n-型ドリフト領域の正孔注入領域
2b n-型ドリフト領域の正孔が存在しない領域
3 p-型ベース領域
3a p-型ベース領域の正孔電流領域
3b p-型ベース領域の正孔電流領域を除く領域
4 p型ベース領域
5 n+型ソース領域
6 p++型コンタクト領域
7 ゲートトレンチ
8 ゲート絶縁膜
9 ゲート電極
10,61~63 炭化珪素半導体装置
11 層間絶縁膜
12 ソース電極
13 ドレイン電極
20 ボディダイオード
21 ゲートトレンチ直下のp+型領域
22 ゲートトレンチ間のp+型領域
22a ゲートトレンチ間のp+型領域の第1部分
22b ゲートトレンチ間のp+型領域の第2部分
23 n型電流拡散領域
30 半導体基板
31 n+型出発基板
32 n-型エピタキシャル層
33 p-型エピタキシャル層
34 pn接合
41 積層欠陥
51 活性領域
52 エッジ終端領域
L1 n-型ドリフト領域の厚さ
L2 p++型コンタクト領域の第1方向の配置のピッチ
L3 p++型コンタクト領域の第2方向の配置のピッチ
X 半導体基板のおもて面に平行な第1方向
Y 半導体基板のおもて面に平行でかつ第1方向と直交する第2方向
Z 深さ方向
θ1 半導体基板のおもて面に対してp-型ベース領域の正孔電流領域の側面がなす角度
θ2 半導体基板のおもて面に対してn-型ドリフト領域の正孔注入領域の側面がなす角度