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特開2024-112262ポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112262
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】ポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法
(51)【国際特許分類】
   D06B 23/24 20060101AFI20240813BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
D06B23/24
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072722
(22)【出願日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2023016941
(32)【優先日】2023-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高月 珠里
【テーマコード(参考)】
3B154
3E086
【Fターム(参考)】
3B154AA07
3B154AB19
3B154BA19
3B154BB06
3B154BF13
3B154DA15
3E086AA23
3E086AB01
3E086AC07
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB02
3E086BB05
3E086CA40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ポリ乳酸系繊維を含む織編物を、ポリ乳酸樹脂の加水分解を抑制し、長期間保管することが可能となる保管方法を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系繊維を構成繊維として含む織編物であって、織編物中のポリ乳酸樹脂の含有量が5~100質量%である織編物を、下記(1)~(3)の工程を順に行って梱包することを特徴とするポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
(1)織編物の水分率を10%以下とする。
(2)(1)の織編物を、酸素透過度(20℃×90%RH)が80ml/m・day・MPa以下かつ、水蒸気透過度(40℃×90%RH)が8g/m・day以下である梱包材で梱包する。
(3)(2)の梱包体をシーリングする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系繊維を構成繊維として含む織編物であって、織編物中のポリ乳酸樹脂の含有量が5~100質量%である織編物を、下記(1)~(3)の工程を順に行って梱包することを特徴とするポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
(1)織編物の水分率を10%以下とする。
(2)(1)の織編物を、酸素透過度(20℃×90%RH)が80ml/m・day・MPa以下かつ、水蒸気透過度(40℃×90%RH)が8g/m・day以下である梱包材で梱包する。
(3)(2)の梱包体をシーリングする。
【請求項2】
ポリ乳酸系繊維が、ポリ乳酸短繊維を20~40質量%含有する紡績糸である、請求項1記載のポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
【請求項3】
織編物を構成する繊維として、天然繊維もしくは再生セルロース繊維を含む、請求項1記載のポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
【請求項4】
(3)の工程において、梱包体中に乾燥剤を添加した後にシーリングを行う、請求項1記載のポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
【請求項5】
(3)の工程において、梱包体中の空気を抜いた後に窒素を封入し、シーリングを行う、請求項1記載のポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系繊維を構成繊維として含む織編物を保管する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生分解性脂肪族ポリエステル樹脂の分解機構は、一般に微生物により分解が促進されるといわれている。ところが、生分解性脂肪族ポリエステルの中でもポリ乳酸は、他の脂肪族ポリエステルとは分解機構が異なるといわれている。つまり、ポリ乳酸は大気中などに含まれている水と反応して、まず加水分解される。続いて、加水分解によりポリ乳酸の重量平均分子量が4万程度まで低下すると微生物による分解が開始するといった、二段階の分解工程を経て分解されることが知られている。
【0003】
近年、環境配慮型素材を工業分野、衣料分野ともに採用することが多くなり、ポリ乳酸樹脂はフィルムや射出成形品などの成形体はもちろんのこと、ポリ乳酸樹脂を少なくとも一部に含むポリ乳酸系繊維を用いた織編物としても需要が増えている。
【0004】
しかしながら、上記したようにポリ乳酸樹脂が加水分解しやすいという特性は、製品構成上において重大な問題となる。つまり、一旦、フィルム、射出成型品、繊維などを形成した後、徐々に加水分解が生じ、ポリ乳酸樹脂の分子量が低下することにより各種成形体の機械的物性が著しく低下する。
【0005】
そこで、特許文献1においては、ポリ乳酸系フィルムの加水分解を抑制でき、フィルムの分子量および機械物性の低下も製品として実用上問題ない程度に抑制できる保管方法が提案されている。
特許文献1記載の保管方法はポリ乳酸系フィルムの保管方法としては優れたものであるが、ポリ乳酸系繊維を含む織編物に関しては、織編物中に含まれるポリ乳酸系繊維の加水分解を十分に防止することはできないものであった。
【0006】
ポリ乳酸系繊維を含む織編物は、衣料用途に使用されるものであるが、衣料分野においては、シャツ、ズボン等の各種製品になる前の織編物、織編物から得られた各種製品ともに流通経路が多く、長期間保管される場合も多い。
また、衣料用の織編物は用途に応じて糸使い、組織など多種多様なものがあり、このようなポリ乳酸系繊維を含む各種の織編物を長期間に保管するのに適した方法は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-55484公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、ポリ乳酸系繊維を含む織編物を、ポリ乳酸樹脂の加水分解を抑制し、長期間保管することが可能となる保管方法を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ポリ乳酸系繊維を含む織編物であって、織編物中のポリ乳酸樹脂の含有量が5~100質量%の織編物は、酸素透過度と水蒸気透過度が特定数値以下の梱包材を用い、梱包時の織編物の水分率を特定数値以下として、シーリングする梱包方法を採用することで、ポリ乳酸樹脂の加水分解を抑制し、長期間保管することが可能となることを見出し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を要旨とするものである。
(イ)ポリ乳酸系繊維を構成繊維として含む織編物であって、織編物中のポリ乳酸樹脂の含有量が5~100質量%である織編物を、下記(1)~(3)の工程を順に行って梱包することを特徴とするポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
(1)織編物の水分率を10%以下とする。
(2)(1)の織編物を、酸素透過度(20℃×90%RH)が80ml/m・day・MPa以下かつ、水蒸気透過度(40℃×90%RH)が8g/m・day以下である梱包材で梱包する。
(3)(2)の梱包体をシーリングする。
(ロ)ポリ乳酸系繊維が、ポリ乳酸短繊維を20~40質量%含有する紡績糸である、(イ)記載のポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
(ハ)織編物を構成する繊維として、天然繊維もしくは再生セルロース繊維を含む、(イ)記載のポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
(ニ)(3)の工程において、梱包体中に乾燥剤を添加した後にシーリングを行う、(イ)記載のポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
(ホ)(3)の工程において、梱包体中の空気を抜いた後に窒素を封入し、シーリングを行う、(イ)記載のポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の保管方法によれば、ポリ乳酸系繊維を構成繊維として含む織編物であって、織編物中のポリ乳酸樹脂の含有量が5~100質量%である織編物中のポリ乳酸樹脂の加水分解を抑制することができるため、当該織編物を長期間保管しても強度等の特性値の低下が生じることがなく、通常のポリエステル繊維織物と同様に使用することができる。
このため、ポリ乳酸系繊維を構成繊維として含む織編物を様々な用途に使用することが可能となり、環境配慮型素材の利用を促進させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリ乳酸系繊維含有織編物の保管方法について説明する。
まず、本発明におけるポリ乳酸系繊維を構成するポリ乳酸樹脂について説明する。ポリ乳酸樹脂としては公知のものが使用できる。具体的には、ポリD-乳酸、ポリL-乳酸、D-乳酸とL-乳酸との共重合体の他、ポリ乳酸ステレオコンプレックスとしたものなどが使用できる。
ポリ乳酸樹脂の重合方法としては、まず、原料たるとうもろこしなどの澱粉を発酵し、乳酸を得る。そして、乳酸を直接脱水縮合するか環状二量体とした後、触媒の存在下で開環重合する方法などがあげられる。
【0013】
一方、ポリ乳酸ステレオコンプレックスは、L-乳酸を主成分とするポリL-乳酸とD-乳酸を主成分とするポリD-乳酸とを溶液状態若しくは溶融状態で混合し、これら2成分間に立体特異的な結合を生じさせることにより形成できる。ポリ乳酸ステレオコンプレックスは、コスト面で不利であるものの、耐熱性や機械的強度に優れるという特徴を有する。
【0014】
D-乳酸とL-乳酸とをポリ乳酸樹脂の成分に併用するときは、実用性や融点などを考慮して共重合比を決定するのが好ましい。D体とL体との共重合比率(D/L)としては、98/2~100/0若しくは0/100~2/98が好ましく、95/5~100/0若しくは0/100~5/95がより好ましい。
【0015】
本発明におけるポリ乳酸樹脂には、主たる構成成分である乳酸成分以外のモノマーが共重合されていてもよい。乳酸成分以外のモノマーは、ポリ乳酸樹脂を合成する任意の段階で添加すればよい。
【0016】
共重合可能なモノマーとしては、例えば、酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4´-ビフェニルジカルボン酸、2,2´-ビフェニルジカルボン酸、4,4´-ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4´-ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4´-ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸およびこれらの無水物;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などの脂環式ジカルボン酸などがあげられる。
【0017】
さらに、共重合可能なモノマーとして、例えば、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール、ビスフェノールAやビスフェノールSなどのビスフェノール類又はそれらのエチレンオキサイド付加体、ハイドロキノン、レゾルシノールなどの芳香族ジオールなどがあげられる。
【0018】
この他、共重合可能なモノマーとして、p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸、6-ヒドロキシカプロン酸、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などのヒドロキシカルボン酸;δ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトンなどのラクトン化合物なども使用可能である。
【0019】
さらに、加水分解を抑制する観点から、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物、ジオール化合物、長鎖アルコール化合物などの末端封鎖剤を使用してポリ乳酸樹脂のカルボキシル末端基を封鎖してもよい。
この他、樹脂中には本発明の効果を損なわない範囲で、酸化チタンなどの艶消し剤、顔料、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、難燃剤、帯電防止剤、抗菌剤、防汚剤などの各種添加剤を含有させてもよい。
【0020】
本発明におけるポリ乳酸樹脂は、繊維強度などを向上させる観点から、数平均分子量としては5万~10万程度が好ましく、6万~8万程度がより好ましい。数平均分子量が5万未満になると、繊維の強度物性が低下する傾向があり好ましくない。一方、10万を超えると、溶融粘度が高くなり、結果、溶融紡糸が困難になる傾向にあり好ましくない。
【0021】
ポリ乳酸樹脂の融点としては、織編物とした後の染色加工時の取り扱い性などを考慮し、150℃以上であることが好ましく、160℃以上がより好ましい。
【0022】
本発明におけるポリ乳酸系繊維含有織編物を構成するポリ乳酸系繊維とは、ポリ乳酸樹脂を少なくとも一部に用いた繊維であって、ポリ乳酸樹脂のみからなるもの、ポリ乳酸樹脂とポリ乳酸以外の他の樹脂との複合繊維のいずれであってもよい。
【0023】
繊維の断面形状としては任意でよく、丸型の他、扁平型、中空型、三角型、多葉型、井型、Y字型、T字型、U字型などが例示できる。さらに、長手方向の太さは均一でもよいし、太細斑のあるシックアンドシンでもよい。また、ポリ乳酸系繊維は何れの形態でも単糸繊度は0.1~10dtexが好ましく、より好ましくは0.2~5dtexである。
【0024】
さらに、引張強度は2cN/dtex以上であることが好ましい。強度が2cN/dtex未満になると、製編織時の糸切れ停台が発生し易くなり、生産性だけでなく織編物の品質も低下する傾向にある。より好ましくは3cN/dtex以上、さらに好ましくは4cN/dtex以上である。
【0025】
本発明で使用するポリ乳酸系繊維は、上記の通り、ポリ乳酸樹脂のみからなるもの、ポリ乳酸樹脂とポリ乳酸以外の他の樹脂との複合繊維に大別される。まず、前者について説明する。
【0026】
ポリ乳酸樹脂のみからなるポリ乳酸系繊維は、マルチフィラメント(長繊維)でもステープルファイバー(短繊維)でもよく、ステープルファイバーを用いる場合には、紡績糸とすることが好ましい。また、長繊維と短繊維を用いた長短複合繊維であってもよい。
【0027】
本発明におけるポリ乳酸系繊維がポリ乳酸樹脂のみからなるマルチフィラメントの場合、総繊度は10~500dtexが好ましく、より好ましくは20~300dtexである。マルチフィラメントの形態としては、生糸、仮撚糸、ニットデニット糸、交絡糸、混繊糸など任意のものが採用できる。
【0028】
本発明では、織編物における加水分解を抑制する観点からポリ乳酸樹脂の含有量に上限が設けられており、この点からポリ乳酸樹脂のみからなるマルチフィラメントを使用した場合、織編物中には、必然的に他の繊維が含まれることになる。他の繊維としては、綿、麻、羊毛などの天然繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどの再生セルロース繊維、ジアセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタンなどの合繊繊維などがあげられる。中でも織編物の風合いを向上させる観点から天然繊維もしくは再生セルロース繊維を用いることが好ましい。他の繊維としては、マルチフィラメント及びステープルファイバーの何れでもよい。
【0029】
ポリ乳酸樹脂のみからなるマルチフィラメントと他の繊維との複合形態としては、特に限定されず、例えば両繊維からなる複合糸としてもよい。複合糸の種類としては、ポリ乳酸樹脂のみからなるマルチフィラメントと他の繊維からなるマルチフィラメントとの複合糸、ポリ乳酸樹脂のみからなるマルチフィラメントと他の繊維からなるステープルファイバーとの複合糸の何れでもよい。混率(ポリ乳酸樹脂のみからなるマルチフィラメント/他の繊維)としては、何れも場合でも10/90~90/10が好ましく、より好ましくは20/80~20/80であり、さらに好ましくは20/80~40/60である。
【0030】
そして、複合糸の形態としては、合撚糸、複合仮撚糸、引揃え糸、交絡糸、混繊糸、カバーリング糸など任意の形態が採用できる。中でも、ポリ乳酸樹脂の加水分解が大気中などに含まれる水と反応することにより進む点を考慮すれば、当該マルチフィラメントの露出が抑えられた形態を採用するのが好ましい。例えば、芯部に当該マルチフィラメントを、鞘部に他の繊維を各々配したカバーリング糸とすることが好ましい。
【0031】
この他、ポリ乳酸樹脂のみからなるマルチフィラメントと他の繊維のみからなる糸とを交織、交編させてもよい。
【0032】
また、織編物を構成する際は、マルチフィラメント及び複合糸を無撚り又は必要に応じて撚糸したうえで用いてもよい。撚糸する際の撚係数としては、2600~22000が好ましく、より好ましくは3000~20000である。なお、撚係数Kは、以下の式により算出する。
撚係数K=T×√D
T:撚数(回/m)
D:総繊度(dtex)
【0033】
次に、ポリ乳酸樹脂のみからなるステープルファイバー(短繊維)は、繊維長としては20~100mmが好ましく、より好ましくは20~50mmである。繊維長が20mm未満になると、ステープルファイバー同士が十分に交絡し難く、紡績糸としたときの強度が低下する傾向にある。一方、100mmを超えると、紡績工程における通過性が悪化する傾向にある。
【0034】
また、上記ステープルファイバー(ポリ乳酸短繊維)を使用して紡績糸としたときの紡績糸の形態としては、リング紡績糸、コンパクトスピン紡績糸、空気紡績糸、結束紡績糸などがあげられる。紡績糸は単糸、精紡交撚糸の他、双糸、三子糸といった複数の紡績糸を上撚りしたものでもよい。
【0035】
紡績糸の太さとしては、英式綿番手で10~200番手が好ましく、より好ましくは20~100番手であり、さらに好ましくは20~80番手である。10番手より太くなると用途が限られる傾向にあり、200番手より細くなると紡績工程の通過性が悪化する傾向にある。
【0036】
また、紡績糸の撚係数としては、2.5~5.0が好ましく、より好ましくは3.0~4.6である。撚係数が5.0を超えると、ステープルファイバー同士が強く収束して糸の膨らみ感が低減する傾向にあり、結果、織編物の風合いが硬くなる傾向にある。一方、2.5未満になると、ステープルファイバーが素抜けし易くなり、紡績糸としての形状が保ちにくくなる。なお、撚係数Kは、以下の式により算出する。
K=T/√N
T:撚数(回/2.54cm)
N:英式綿番手
【0037】
そして、ポリ乳酸短繊維と他の繊維との複合形態としては、両繊維が紡績糸中で均一に混じり合う混紡のような形態や、芯部にポリ乳酸短繊維を鞘部に他の繊維を各々配した二層構造紡績糸とすることがより好ましい。
【0038】
混紡糸とするときは、紡績工程に付す前に重さの割合で行う原綿混紡、梳綿工程の前に行うラップ混紡、練条工程で行うスライバー混紡などが例示できる。
【0039】
また、二層構造紡績糸とするときは、ポリ乳酸短繊維からなる粗糸と、他の繊維からなる粗糸とを用意し、加水分解抑制の観点から、ポリ乳酸短繊維からなる粗糸を芯部に、他の繊維からなる粗糸を鞘部に配することが好ましく、粗紡することで複合粗糸を得、しかる後に複合粗糸を精紡することが好ましい。
【0040】
ポリ乳酸短繊維と他の繊維との混率としては特に限定されないが、二層構造紡績糸の場合においては、ポリ乳酸繊維の露出を抑えて加水分解の進行を抑える観点から、ポリ乳酸短繊維/他の繊維=20~40質量%/80~60質量%とするのが好ましく、25~35質量%/75~65質量%とするのがより好ましい。
【0041】
本発明では、このようにポリ乳酸樹脂のみからなるポリ乳酸系繊維が使用できるが、これ以外にもポリ乳酸樹脂とポリ乳酸以外の他の樹脂との複合繊維も使用可能である。複合繊維の断面形状としては、同心芯鞘型、並列型、偏心芯鞘型、放射型、海島型、ブロック型などが例示できる。他の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリコハク酸ブチル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、パラ型アラミド、メタ型アラミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが例示できる。さらに、融点や熱収縮率などの物性が異なる複数のポリ乳酸樹脂を使用して複合繊維としてもよい。また、他の樹脂を併用するときは、ポリ乳酸樹脂との相溶性や接着性などを考慮することが好ましい。
【0042】
また、繊維の形態としては、前記ポリ乳酸樹脂のみからなるポリ乳酸系繊維と同様、任意のものが採用でき、総繊度も同様でよい。
ポリ乳酸樹脂とポリ乳酸以外の他の樹脂との複合比率(前者/後者)としては、上記いずれの断面形状であっても10/90~90/10が好ましく、より好ましくは20/80~20/80であり、さらに好ましくは20/80~40/60である。
【0043】
さらに、当該複合繊維には繊維中に他の樹脂が含まれていることから、当該複合繊維のみを用いて目的とする織編物を得ることが可能であり、必ずしも他の繊維を併用する必要はない。ただ、織編物の風合いなどを考慮すれば、上記同様、天然繊維もしくは再生セルロース繊維を併用することが好ましい。他の繊維と複合した際の複合糸の形態としては、前記と同様でよい。
【0044】
ポリ乳酸系繊維含有織編物について説明する。
前記したポリ乳酸系繊維を用いて織物となす場合、織機としてはエアージェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、シャトル織機などが使用できる。経糸準備工程においては、経糸に比較的強い撚りが付与されているときは、必ずしも糊付けする必要はない。織物組織としては、所望する風合いや意匠性に合わせて、平織、綾織、繻子織及びそれらの変化組織などが採用できる。さらに、二重織などの多重織組織でもよい。
【0045】
編物の場合は、編機として、横編機、フルファッション編機、丸編機、コンピュータージャガード編機、ソックス編機といった緯編機の他、トリコット編機、ラッセル編機、ミラニーズ編機といった経編機が使用できる。編物組織としては、所望する風合いや意匠性に合わせて、緯編としては天竺編、ゴム編、パール編、タック編、浮き編、レース編及びそれらの変化組織などが、経編組織としては、シングルデンビー編、シングルバンダイク編、シングルコード編、ベルリン編、ダグルデンビー編、アトラス編、コード編、ハーフ・トリコット編、サテン編、シャークスキン編及びそれらの変化組織などが採用できる。
【0046】
また、本発明における織編物の用途としては、インナー衣料、ユニフォーム衣料、シャツ地衣料、ビジネス着衣料、フォーマル衣料、スポーツ衣料、レジャー向け衣料、ファッション衣料など各種の衣料用途があげられる。
【0047】
ポリ乳酸系繊維を構成繊維として含む織編物は、上記のようなポリ乳酸系繊維を含む織物もしくは編物であるが、ポリ乳酸系繊維に含まれるポリ乳酸樹脂の量に換算したときのポリ乳酸樹脂の含有量が5~100質量%である必要があり、中でも10~80質量%であることが好ましく、さらには、20~40質量%であることが好ましい。
【0048】
本発明の保管方法は、ポリ乳酸樹脂の含有量が5~100質量%の織編物の保管に適した方法であり、ポリ乳酸樹脂の含有量が5質量%未満であると、ポリ乳酸樹脂による加水分解を抑制する必要がなく、一方、ポリ乳酸樹脂の含有量が100質量%であっても本発明の保管方法では十分にポリ乳酸樹脂の加水分解を抑制することができる。
【0049】
本発明の保管方法は、上記したポリ乳酸系繊維含有織編物を下記(1)~(3)の工程を順に行って梱包するものである。
(1)織編物の水分率を10%以下とする。
(2)(1)の織編物を、酸素透過度(20℃×90%RH)が80ml/m・day・MPa以下かつ、水蒸気透過度(40℃×90%RH)が8g/m・day以下である梱包材で梱包する。
(3)(2)の梱包体をシーリングする。
【0050】
まず、(1)の工程について説明する。
本発明の製造方法において、(2)の工程で記載した梱包材で梱包する際のポリ乳酸系繊維含有織編物の水分率を特定の数値以下とすることが重要であり、これにより保管中のポリ乳酸系繊維の加水分解を十分に抑制することが可能となる。
【0051】
具体的には、以下の方法で測定し、算出するポリ乳酸系繊維含有織編物の水分率を10%以下とすることが必要であり、中でも7%以下とすることが好ましく、織編物中のポリ乳酸系繊維の含有量が多くなるほど、水分率を低くすることが好ましい。
なお、本発明において織編物の水分率は、以下の方法で測定するものである。
(1)温度20℃、相対湿度65%の環境下に24時間晒して重量(W1)を測る。
(2)105℃の乾燥機で2時間乾燥し重量(W0)を測る。
(3)水分率を次式にて算出する。水分率(%)=〔(W1-W0)/W0〕×100
【0052】
次に、(2)の工程として、(1)で水分率を調整した織編物を、特定の酸素透過度と水蒸気透過度を満足する梱包材で梱包する。
ポリ乳酸系繊維含有織編物を梱包する梱包材は、温度20℃、相対湿度90%の雰囲気下で測定した酸素透過度が80ml/m・day・MPa以下であり、かつ、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気下で測定した水蒸気透過度が8g/m・day以下である必要がある。
【0053】
中でも、酸素透過度(20℃×90%RH)は0.01~80ml/m・day・MPaであることが好ましく、さらには、0.01~70ml/m・day・MPa以下であることが好ましい。
なお、後述するように梱包体中に乾燥剤を添加する場合は、酸素透過度が80ml/m・day・MPa以下であれば、ポリ乳酸系繊維の加水分解を抑制できるが、梱包体中に乾燥剤を添加しない場合は、酸素透過度は20ml/m・day・MPa以下であることが好ましい。
【0054】
水蒸気透過度(40℃×90%RH)は、中でも0.01~8g/m・dayであることが好ましく、さらには、0.01~7g/m・dayであることが好ましい。
なお、後述するように梱包体中に乾燥剤を添加する場合は、水蒸気透過度が8g/m・day以下であれば、ポリ乳酸系繊維の加水分解を抑制できるが、梱包体中に乾燥剤を添加しない場合は、水蒸気透過度は2g/m・day以下であることが好ましい。
【0055】
本発明において、梱包材の酸素透過度と水蒸気透過度は以下のようにして測定するものである。
(酸素透過度);JIS K 7126-2 「プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第2部:等圧法」
(水蒸気透過度);JISK7129「プラスチック-フィルム及びシート-水蒸気透過度の求め方-第1部:感湿センサ法」
【0056】
酸素透過度と水蒸気透過度が上記範囲を満足するものであれば、梱包材の素材は特に限定するものではないが、アルミ箔を使用した梱包材が好ましく、中でもアルミ箔の上面と下面にポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂を積層した積層体であることが好ましい。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート/アルミ箔/ポリエチレンの順に積層された積層体が好ましく、厚さは0.03~0.3mm程度のものとすることが好ましい。
【0057】
そして、梱包材としては、このような積層体による袋状のものとし、ポリ乳酸系繊維含有織編物を内包した後に、(3)の工程においてシーリングにより密閉可能となるように、シール部分を有しているものが好ましい。
例えば、市販されているものとしては、三菱ガス化学社製アルミ袋を用いることができる。
梱包材のサイズは限定するものではないが、ポリ乳酸含有織編物として縫製後の製品を保管する場合には、製品サイズのタテ、ヨコ、厚さよりも1~10cm程度大きいサイズのものが好ましい。
【0058】
(3)の工程として、(2)で得られた梱包体シーリングを行う。このとき、梱包体の空気を抜いてシーリングを行うことが好ましく、梱包体の空気を抜く際には、エアポンプで梱包体中の空気を抜くことが好ましい。シーリングを行う際には、シーラーを用いて、接着剤を熱融着させて密封することが好ましい。
また、(3)の工程において、梱包体中に乾燥剤を添加した後、シーリングを行うことが好ましい。乾燥剤としては、塩化マグネシウム、シリカゲルが好ましく、具体的にはゼラスト社製の高性能乾燥剤『アクアソービット』を用いることが好ましい。
乾燥剤の添加量は、ポリ乳酸系繊維を構成繊維として含む織編物の質量に対して、3~30質量%となる量とすることが好ましく、中でも5~15質量%となる量とすることが好ましい。
【0059】
さらに、(3)の工程において、梱包体中の空気を抜いた後に窒素を封入し、シーリングすることも好ましく、窒素を封入する(窒素パージ)することにより、織編物の加水分解抑制に効果が向上する。
【実施例0060】
次に、本発明の保管方法について、実施例を用いて説明する。
梱包材として、以下に示すものを用意した。
梱包材1;アルミ袋 三方シール平袋 (三菱ガス化学社製 品番:AB350500PC 材質:ポリエチレンテレフタレート/アルミ箔/ポリエチレン サイズ:たて500mm×よこ350mm)
酸素透過度(20℃×90%RH):0.01ml以下/m・d・MPa
水蒸気透過度(40℃×90%RH):0.01g以下/m・d
梱包材2;バリアブルナイロンフィルム三方無地袋 アパレル用(大樹社製、PVDCコーティング二軸延伸ナイロンフィルム サイズ:たて600mm×よこ350mm)
酸素透過度(20℃×90%RH):70ml/m・d・MPa
水蒸気透過度(40℃×90%RH):6~7g/m・d
梱包材3;チャック付きポリエチレン袋(アスクル社製、LDPE(低密度ポリエチレン) サイズ:たて480mm×よこ340mm)
酸素透過度(20℃×90%RH): 3900ml/m・d・MPa
水蒸気透過度 (40℃×90%RH):18g/m・d
【0061】
織編物中のポリ乳酸系繊維の加水分解の程度を確認する指標として、織編物の破裂強力を測定した。
未処理(初期)の値、梱包材で梱包後、温度60℃、相対湿度90%の環境下に放置し、7日、14日、28日経過後に梱包材から取り出した編物について破裂強力を測定し、初期の値と比較した強力保持率を示す。
なお、破裂強力は以下のようにして測定し、強力保持率は以下のように算出した。
破裂強力;JIS L-1096破裂強さA法(ミューレン形法)にて測定。
強力保持率(%)=(処理前の破裂強力/処理後の破裂強力)×100
【0062】
ポリ乳酸系繊維としては、以下のポリ乳酸系繊維1~4を使用した。
ポリ乳酸系繊維1;ポリ乳酸短繊維を芯部に、綿糸を鞘部に配した二層構造紡績糸であって、二層構造紡績糸中のポリ乳酸短繊維の含有量が20質量%のもの(30番手)
ポリ乳酸系繊維2;ポリ乳酸短繊維を芯部に、綿糸を鞘部に配した二層構造紡績糸であって、二層構造紡績糸中のポリ乳酸短繊維の含有量が30質量%のもの(30番手)
ポリ乳酸系繊維3;ポリ乳酸短繊維を芯部に、綿糸を鞘部に配した二層構造紡績糸であって、二層構造紡績糸中のポリ乳酸短繊維の含有量が40質量%のもの(30番手)
ポリ乳酸系繊維4;ポリ乳酸系短繊維のみからなる紡績糸であって、ポリ乳酸樹脂の含有量が100質量%のもの(30番手)
【0063】
上記のポリ乳酸系繊維を含有する編物として、以下の編物1~4を編成した。
編物1;ポリ乳酸系繊維1のみを使用したスムース編物(目付292g/m、質量53g)
編物2;ポリ乳酸系繊維2のみを使用したスムース編物(目付292g/m、質量53g)
編物3;ポリ乳酸系繊維3のみを使用したスムース編物(目付281g/m、質量51g)
編物4;ポリ乳酸系繊維4のみを使用したスムース編物(目付289g/m、質量52g)
【0064】
実施例1
編物1~4を温度20℃、相対湿度65%の環境下に24時間晒すことにより、編物の水分率(前記した方法により測定し、算出した)を6.9%にした。
次に、これらの編物1~3をそれぞれ梱包材1で梱包し、エアポンプで袋内の空気を抜き、ワンタッチ卓上シーラー(ユアファミリ社製 品番:AP-400)を用い、シーリング温度;150℃、 シーリング時間;3秒の条件でシーリングを行い、梱包体1-1~1-4を得た。このとき、梱包材1のたて方向350mm付近の位置でシーリングを行った。
得られた梱包体1-1~1-4を温度60℃、相対湿度90%の環境下に放置し、7日、14日、28日経過後に梱包材から取り出した編物について破裂強力を測定し、初期の値と比較した強力保持率を算出した。
【0065】
実施例2
(3)の工程においてシーリングを行う際に、乾燥剤として、高性能乾燥剤「アクアソービット」(ゼラスト社製 材質:塩化マグネシウム、固化剤)を編物質量(53g)に対して25質量%となる量を梱包体中に含ませた以外は、実施例1と同様にして梱包体2-1~2-4を得た。
得られた梱包体2-1~2-4を温度60℃、相対湿度90%の環境下に放置し、7日、14日、28日経過後に梱包材から取り出した編物について破裂強力を測定し、初期の値と比較した強力保持率を算出した。
【0066】
実施例3
梱包材を2に変更し、乾燥剤の添加量を編物質量(53g)に対して10質量%となる量を梱包体中に含ませた以外は、実施例2と同様にして梱包体3-1~3-4を得た。
得られた梱包体3-1~3-4を温度60℃、相対湿度90%の環境下に放置し、7日、14日、28日経過後に梱包材から取り出した編物について破裂強力を測定し、初期の値と比較した強力保持率を算出した。
【0067】
実施例4
(3)の工程において、梱包体中の空気を抜いた後に窒素を封入し、シーリングを行った以外は、実施例1と同様にして梱包体4-1~4-4を得た。
得られた梱包体4-1~4-4を温度60℃、相対湿度90%の環境下に放置し、7日、14日、28日経過後に梱包材から取り出した編物について破裂強力を測定し、初期の値と比較した強力保持率を算出した。
【0068】
比較例1
梱包材1に変えて、梱包材3
を用いた以外は、実施例1と同様にして梱包体5-1~5-4を得た。
得られた梱包体5-1~5-4を温度60℃、相対湿度90%の環境下に放置し、7日、14日、28日経過後に梱包材から取り出した編物について破裂強力を測定し、初期の値と比較した強力保持率を算出した。
【0069】
比較例2
編物1~4を梱包材で梱包せず、60℃、相対湿度90%の環境下に放置し、7日、14日、28日経過後に梱包材から取り出した編物について破裂強力を測定し、初期の値と比較した強力保持率を算出した。
【0070】
実施例1~4、比較例1~2で得られた梱包体、編物についての評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1から明らかなように、実施例1~4で得られた梱包体は、本発明の保管方法を行ったため、28日経過後の編物の強力保持率が高いものであり、ポリ乳酸系繊維の加水分解を防ぐことができていた。