(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011227
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】車両システム、車両制御装置、及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 50/16 20200101AFI20240118BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240118BHJP
A61M 21/02 20060101ALI20240118BHJP
A61M 21/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B60W50/16
B60W60/00
A61M21/02 G
A61M21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113059
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井田 啓太
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE04
3D241DA13Z
3D241DA23Z
3D241DA39Z
3D241DA53Z
3D241DB03Z
3D241DB05Z
3D241DC30Z
3D241DC31Z
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3D241DC34Z
3D241DC39Z
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3D241DC59Z
3D241DD04Z
3D241DD12Z
(57)【要約】
【課題】車両走行中に誘眠効果が高い全身振動を得る。
【解決手段】車両の走行を制御する車両システムであって、車両の駆動力を発生するパワートレーンと、前記パワートレーンの駆動力を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記車両に乗車中の乗員の情報を取得する乗員情報取得部と、前記乗員の睡眠移行制御の実施を判定する睡眠覚醒移行制御部と、アクセルペダルの操作量にかかわらず前記パワートレーンの駆動力を制御する運転制御部と、を有し、前記運転制御部は、前記睡眠覚醒移行制御部の判定結果に従って、乗員の睡眠を促進する振動を得るための駆動力を制御して、車両の加速度を変化させることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行を制御する車両システムであって、
車両の駆動力を発生するパワートレーンと、
前記パワートレーンの駆動力を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記車両に乗車中の乗員の情報を取得する乗員情報取得部と、前記乗員の睡眠移行制御の実施を判定する睡眠覚醒移行制御部と、
アクセルペダルの操作量にかかわらず前記パワートレーンの駆動力を制御する運転制御部と、を有し、
前記運転制御部は、前記睡眠覚醒移行制御部の判定結果に従って、乗員の睡眠を促進する振動を得るための駆動力を制御して、車両の加速度を変化させることを特徴とする車両システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両システムであって、
センサが検出した前記車両の走行に関する車両状態情報を取得する車両情報取得部を備え、
前記運転制御部は、前記車両情報取得部が取得した車両状態情報を用いて、前記パワートレーンの駆動力の制御値を決定し、前記決定された制御値に前記乗員の睡眠を促進する振動を得るための駆動力を重畳した駆動力に制御することを特徴とする車両システム。
【請求項3】
請求項1に記載の車両システムであって、
センサが検出した前記車両の外界情報を認識する外界情報認識部を有し、
前記運転制御部は、前記外界情報認識部が認識した外界情報を用いて、前記パワートレーンの駆動力の制御値を決定し、前記決定された制御値に前記乗員の睡眠を促進する振動を得るための駆動力を重畳した駆動力に制御することを特徴とする車両システム。
【請求項4】
請求項1に記載の車両システムであって、
前記睡眠覚醒移行制御部は、乗員の覚醒スケジュールを作成し、
前記運転制御部は、前記睡眠覚醒移行制御部が作成した覚醒スケジュールに従って前記乗員の睡眠を促進する振動を抑制又は停止することを特徴とする車両システム。
【請求項5】
請求項1に記載の車両システムであって、
前記運転制御部は、乗員の覚醒を促進する場合、乗員の覚醒を促進する振動を得るための駆動力を制御して、車両の加速度を変化させることを特徴とする車両システム。
【請求項6】
請求項1に記載の車両システムであって、
設定された目的地までの軌道を生成する軌道生成部を備え、
前記睡眠覚醒移行制御部は、前記生成された軌道に従った走行中の前記乗員の睡眠のレベルを設定することを特徴とする車両システム。
【請求項7】
車両の駆動力を発生するパワートレーンを制御する車両制御装置であって、
前記コントローラは、前記車両に乗車中の乗員の情報を取得する乗員情報取得部と、前記乗員の睡眠移行制御の実施を判定する睡眠覚醒移行制御部と、
アクセルペダルの操作量にかかわらず前記パワートレーンの駆動力を制御する運転制御部と、を備え、
前記運転制御部は、前記睡眠覚醒移行制御部の判定結果に従って、乗員の睡眠を促進する振動を得るための駆動力を制御して、車両の加速度を変化させることを特徴とする車両制御装置。
【請求項8】
車両システムが車両の走行を制御する車両制御方法であって、
前記車両システムは、車両の駆動力を発生するパワートレーンと、前記パワートレーンの駆動力を制御するコントローラと、を有し、
前記車両制御方法は、
前記コントローラが、前記車両に乗車中の乗員の情報を取得する乗員情報取得ステップと、
前記コントローラが、前記乗員の睡眠移行制御の実施を判定する睡眠覚醒移行制御ステップと、
アクセルペダルの操作量にかかわらず前記パワートレーンの駆動力を制御する運転制御ステップと、を有し、
前記運転制御ステップでは、前記コントローラが、前記睡眠覚醒移行制御ステップでの判定結果に従って、乗員の睡眠を促進する振動を得るための駆動力を制御して、車両の加速度を変化させることを特徴とする車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両システム、車両制御装置、及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠を促進する所定の振動を得るとともに、所定時間の安眠後、速やかに覚醒状態へ移行させるキャブオーバトラックのエンジン振動制御装置が提案されている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、以下の先行技術がある。特許文献1(特開2002-276425号公報)には、車両用エンジンと、アクセルペダルの踏み込み量に応じて前記エンジンの回転速度を電子的に制御するエンジンコントローラと、乗員が搭乗可能に構成され前記エンジンの150~400回転/分の回転速度により共振するように構成されたキャブとを備えたキャブオーバトラックにおいて、前記エンジンコントローラに電気的に接続されて誘眠スイッチが設けられ、前記誘眠スイッチのオン信号を入力することにより前記エンジンコントローラは所定の周期で前記エンジンの回転速度を変動可能に構成されたことを特徴とするキャブオーバトラックのエンジン振動制御装置が記載されている。
【0004】
また、BAYERの研究により、人体に対して睡眠を促進する全身振動の振幅や周波数、振動加速度の範囲が明らかになっている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】BAYER, Laurence, et al. Rocking synchronizes brain waves during a short nap. Current Biology, 2011, vol. 21, no. 12, p. R461-2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された振動制御装置は、停車中のエンジンアイドリング振動を利用した振り子運動による単振動を発生させるものであり、停車中に乗員に睡眠を促すという効果に留まり、車両走行中に乗員の睡眠や覚醒を促すことを想定していない。自動運転のレベルが向上すると、乗車中の乗員はゆっくり休み、目的地で覚醒するニーズがある。また、乗員の睡眠に関する状態に合わせて、全身振動の振幅や周波数、振動加速度を変化させていない。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、車両走行中に誘眠効果が高い全身振動を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、車両の走行を制御する車両システムであって、車両の駆動力を発生するパワートレーンと、前記パワートレーンの駆動力を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記車両に乗車中の乗員の情報を取得する乗員情報取得部と、前記乗員の睡眠移行制御の実施を判定する睡眠覚醒移行制御部と、アクセルペダルの操作量にかかわらず前記パワートレーンの駆動力を制御する運転制御部と、を有し、前記運転制御部は、前記睡眠覚醒移行制御部の判定結果に従って、乗員の睡眠を促進する振動を得るための駆動力を制御して、車両の加速度を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、車両走行中に誘眠効果が高い全身振動を得ることができる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例の車両システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例における睡眠レベル変化の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施例の車両制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施例の目標乗員前後加速度と目標駆動力の算出方法の一例を示す図である。
【
図5】本発明の実施例の睡眠覚醒移行制御の詳細のフローチャートである。
【
図6】本発明の実施例の現在の睡眠レベルと目標睡眠レベルと睡眠刺激強度の関係を示す図である。
【
図7】本発明の実施例の睡眠刺激の振幅と睡眠刺激強度との関係を示す図である。
【
図8】本発明の実施例の睡眠刺激の周波数と睡眠刺激強度との関係を示す図である。
【
図9】本発明の実施例の睡眠刺激の提示時間と睡眠刺激強度との関係を示す図である。
【
図10】本発明の実施例の睡眠刺激の提示間隔と睡眠刺激強度との関係を示す図である。
【
図11】本発明の実施例において睡眠刺激を乗員に付与した場合に、睡眠、覚醒、維持の各場合における睡眠レベルの変化を示す図である。
【
図12】本発明の実施例の睡眠刺激前後加速度の波形の一例を示す図である。
【
図13】本発明の実施例の睡眠覚醒移行制御の実施判定処理の詳細のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例の車両制御装置、車両制御方法、及びプログラムの実施例について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施例は、いずれも本発明の包括的又は具体的な例を示すものである。従って、以下の実施例で示される、数値、構成要素及び接続形態、並びに工程及び工程順序等は、一例であって本発明を限定する趣旨ではない。また、実施例の構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素は、任意の構成要素である。
【0013】
<実施例1>
図1は、本発明の実施例の車両システムの構成の一例を示すブロック図である。車両制御装置100が搭載される車両は、例えば、利用者が乗車可能な四輪以上の車輪を有する車両であるが、他の移動体でもよい。例えば、バス、トラック、乗用車等の各種自動車又は、道路交通法上の大型自動車、中型自動車、準中型自動車、普通車自動車、大型特殊自動車、小型特殊自動車でよい。
【0014】
また、車両の駆動源は、内燃機関、電動機、又はそれらの双方を用いてもよい。また、車両は、種々の変速装置を搭載してもよい。
【0015】
また、車両における車輪の駆動装置の方式、数、レイアウト等は、種々に設定できる。車両制御装置100が制御する車両は、例えば、基本的に運転操作を必要としない自動運転車両であり、「自動運転」は、運転者の操作を全く必要としない完全な自動運転だけでなく、運転者が補助的な操作を行う半自動運転も含む概念である。
【0016】
本実施例の車両制御装置100は、このような車両を制御する制御装置であって、一つ又は複数のECU(Electronic Control Unit)等のコントローラや他コンピュータシステム等の各種処理装置を有する。車両制御装置100は、例えば、一つ又は複数のMPU(Micro Processing Unit)やCPU(Central Processing Unit)等のプログラムを実行する各種演算装置、及びRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の各種記憶装置を有する。
【0017】
また、車両制御装置100の構成要素のうち一部又は全部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0018】
運転操作情報取得部101は、運転者から入力される車両情報である運転操作情報を取得する。運転操作情報は、例えば、アクセル開度センサ111、ブレーキ踏量センサ112、シフト操作センサ113、操舵操作センサ114、運転操作切替スイッチ115などが検出した操作量の情報を含む。
【0019】
アクセル開度センサ111は、運転者による加速指示を受け付ける操作子の一例であるアクセルペダルに取り付けられ、アクセルペダルの操作量を検出し、アクセル開度情報として車両制御装置100及び駆動力出力装置150の少なくとも一つに出力する。
【0020】
ブレーキ踏量センサ112は、運転者による減速又は停止指示を受け付ける操作子の一例であるブレーキペダルに取り付けられ、ブレーキペダルの操作量を検出し、ブレーキ踏量情報として車両制御装置100及び制動装置160の少なくとも一つに出力する。
【0021】
シフト操作センサ113は、運転者の変速指示を受け付ける操作子の一例であるシフトレバー(セレクトレバー)に取り付けられ、シフト操作を検出して、シフト情報として車両制御装置100及び駆動力出力装置150の少なくとも一つに出力する。例えば、シフト情報はP(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)、S(スポーツ)、M(マニュアル)等である。
【0022】
操舵操作センサ114は、運転者の操舵操作を受け付ける操作子の一例であるステアリングホイール(ハンドル)に取り付けられ、操舵角速度と操舵角加速度を検出して、操舵操作情報として、車両制御装置100及び操舵装置170の少なくとも一つに出力する。
【0023】
運転操作切替スイッチ115は、運転者の意思で自動運転と手動運転を切り替えるスイッチである。運転操作切替スイッチ115は物理的なスイッチでもよいし、ディスプレイ等に表示される論理的なスイッチでもよいし、音声入力等の他の入力手段で実現されたスイッチでもよい。運転操作切替スイッチ115が取得した情報は、運転操作切替情報として、車両制御装置100に出力される。
【0024】
車両状態情報取得部102は、車両の各種状態を表す車両情報を取得し、取得した車両状態情報を軌道生成部106及び睡眠覚醒移行制御部107に出力する。車両状態情報は、例えば、車速センサ、加速度センサ等が取得した速度、加速度などの車両状態を含む。
【0025】
車速センサ121は、車両の速度(車速)を取得するセンサであり、例えば、各車輪に取り付けられた車輪速センサと速度計算機を有し、車輪速センサが検出した車輪速を統合して車速を算出し、車両制御装置100に出力する。
【0026】
加速度センサ122は、車両の加速度を取得するセンサであり、例えば、圧電素子、抵抗線ひずみゲージ、半導体ゲージ、静電容量、差動トランス型等で構成され、検出した加速度を車両制御装置100に出力する。
【0027】
外界情報認識部103は、車両の各種外界情報を取得し認識する。例えば、外界情報認識部103は、周辺情報取得部131、走行位置取得部132、通信情報取得部133等から入力される情報に基づいて外界情報(周辺情報、走行位置、各種通信情報など)を認識する。さらに取得した情報を統合し、統合した外界情報を認識する。例えば、走行中の道路情報(一般道、自動車専用道路、自動運転車専用道路等)や地理情報(緯度、経度、高度等)、環境情報(天候、日照、昼夜、温度等)等の情報を外界情報として認識する。
【0028】
例えば、外界情報認識部103は、通信情報取得部133や不図示の記憶装置から取得した地図情報に表された路面標示(車線境界線等)のパターンと、周辺情報取得部131が観測した実際の路面標示(車線境界線等)とを比較して、車両が走行している走行車線を認識できる。例えば、外界情報認識部103は、周辺情報取得部131や通信情報取得部133から取得した情報から周囲の移動物(歩行者、周辺車両等)までの距離情報に基づいて相対的な位置を推定して、移動物事象を認識できる。
【0029】
例えば、外界情報認識部103は、周辺情報取得部131が取得した情報から周囲の静止物(ガードレールや電柱等の路上物、駐車車両、信号機、標識、横断歩道、一時停止線、路側帯等)までの距離情報に基づいて、相対的な位置を推定して道路事象を認識できる。外界情報認識部103は、認識した外界情報を軌道生成部106及び睡眠覚醒移行制御部107に出力する。
【0030】
周辺情報取得部131は、車両の外部周辺状況、例えば、走行路の車線や車両周辺の物体を含む車両周辺の環境情報を取得する。周辺情報取得部131は、例えば、各種レーダ(近距離、中距離、長距離等)、超音波センサ、各種カメラ(単眼カメラ、ステレオカメラ、赤外線カメラ等)、LiDAR(Light Detection And Ranging)等を有し、これらの出力に基づいてセンサフュージョン処理を行う物体認識装置等を含む。
【0031】
周辺情報取得部131は、車両の周辺に存在する物体の種類(特に、歩行者、自転車、二輪車、車両)を推定し、これらの物体の状態(位置、速度、加速度等)を認識し、認識結果を車両制御装置100に出力する。前述の物体は、周囲の静止物(ガードレールや電柱等の路上物、駐車車両、信号機、標識、横断歩道、一時停止線、路側帯等)、その他の物体の位置を認識してもよい。また、ディープラーニング技術等の機械学習技術を利用することで、形状認識能力を向上してもよい。
【0032】
走行位置取得部132は、車両の走行位置及び進行方向等の車両姿勢を取得するように構成される。走行位置取得部132は、各種測位位置、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星や路上装置から送信される信号(FM多重放送、電磁波ビーコン、光ビーコン等)を受信して、自車の位置情報(経緯、緯度、高度等)を取得する装置や、ジャイロセンサ等の加速度センサ等を有する。
【0033】
また、走行位置取得部132は、車両の目的地を示す目的地情報を取得するため、カーナビゲーションシステム等を有してもよい。また、カーナビゲーションで用いられる地図情報の他、三次元空間情報を持つ静的情報(高精度三次元地図情報)、准静的情報(交通規制予定情報、道路工事予定情報、広域気象予報情報等)、准動的情報(事故情報、渋滞情報、交通規制情報、道路工事情報、狭域気象情報)、及び動的情報(周辺車両、歩行車情報、信号情報等)を組み込んだデジタル地図であるダイナミックマップ等を含んでもよい。
【0034】
通信情報取得部133は、通信により各種外界情報を取得し、自車の各種情報を出力する。通信情報取得部133は、例えば、各種通信ネットワークに接続したり、路上インフラとの路車間通信や他車両との車車間通信や歩行者の端末装置等との直接的な通信を行う無線通信モジュールである。通信情報取得部133は、短距離無線、無線PAN、無線LAN、無線MAN、無線WAN等、所定の通信規格に準拠して無線通信を行う。
【0035】
乗員情報取得部104は、各種乗員情報を取得する。乗員情報取得部104は、例えば、乗員加速度センサ141、車室内カメラ142、生体センサ143、及び乗車前情報取得部144から入力される情報に基づいて、乗員の状態を検出し、検出した乗員の状態を特徴量算出部105及び睡眠覚醒移行制御部107に出力する。
【0036】
また、車両に複数の乗員が乗車している場合、乗員各々の乗員情報を取得してもよいし、特定の乗員の乗員情報を取得してもよい。例えば、後部座席に乗員情報取得用のセンサを設置していない車両では、運転席及び助手席の乗員の乗員情報のみを取得してもよい。
【0037】
乗員加速度センサ141は、各乗員の全身振動の加速度を取得する。乗員加速度センサ141は、例えば圧電素子、抵抗線ひずみゲージ、半導体ゲージ、静電容量、差動トランス型等の加速度センサ、ジャイロセンサを有し、これらのセンサが検出した乗員の加速度を車両制御装置100に出力する。これらのセンサは、各乗員の乗車位置に設置した車両搭載型でも、車両と通信可能な携帯端末に設けても、人体に装着するウェアラブル機器に設けてもよい。また、乗員加速度は加速度センサ122で取得した車両の加速度を近似値として用いてもよい。
【0038】
車室内カメラ142は、車内で撮像した画像から乗員の生体情報を取得する。車室内カメラ142は、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)やCCD(Charge Coupled Device)等のイメージセンサを利用したデジタルカメラや、熱分布を計測可能な熱画像センサを含む赤外線カメラ等を有する。車室内カメラ142は、例えば、所定のタイミングで乗員を撮像する。
【0039】
車両制御装置100の乗員情報取得部104は、車室内カメラ142によって撮像された画像を取得し、画像に含まれる情報に基づいて、生体情報を取得し、車両制御装置100の乗員情報取得部104に出力する。例えば、撮像された画像に基づいて、乗員の動作の有無や、乗員の瞼の動作、眼球運動の頻度等を判定できる。また、例えば、サーモグラフィ等により熱分布画像を取得し、取得した熱分布画像から乗員の体温を検出してもよい。
【0040】
生体センサ143は、車内の乗員の生体情報を取得する。生体センサ143は、例えば、心拍数センサ、脈拍センサ、脳波センサ、皮膚電気活動センサ等を有する。これらのセンサは、車両に搭載されてもよく、車両と通信可能な携帯端末でも、人体に装着するウェアラブル機器でもよい。
【0041】
心拍数センサは、例えば、乗員の手が触れる物体に設けられ、その物体に触れた乗員の心拍数を検出する。脈拍センサは、例えば心電図法、光電脈波法、血圧計測法、心音図法等の計測技術を用いて、乗員の脈拍を検出する。脳波センサは、頭部に電極を装着し、その微弱な電流を増幅させて波形として記録して、乗員のα波、β波、θ波、δ波、σ波等の睡眠に関係する脳波を検出する。皮膚電気活動センサは、精神的な緊張や情緒の変動によって発生する精神性発汗など計測して、皮膚電気活動EDA(Electro Dermal Activity)を検出する。EDAは、小さな電流に対する皮膚の抵抗値の変化、又は皮膚の異なる部分の間の電位差として観測され、EDAによって人体の精神活動の状態や眠気等を判定できる。
【0042】
生体センサ143は、乗員が複数存在する場合には、乗員ごとの生体情報を検出する。生体センサ143は、検出された各乗員の生体情報を車両制御装置100の乗員情報取得部104に出力する。
【0043】
乗車前情報取得部144は、乗員の乗車前情報を取得する。乗員の乗車前情報は、乗員の乗車当日の起床時間や運動量や疲労情報、乗車前日の睡眠時間や睡眠の質を示す睡眠質情報(睡眠中の寝返り回数、レム睡眠とノンレム睡眠の量と比率等)、乗車当日の昼寝の量の少なくとも一つを含む。これらの情報の入力装置は、車両搭載型でも、車両と通信可能な携帯端末でも、人体に装着するウェアラブル機器でもよい。乗車前情報取得部144は、取得した各乗員の乗車前情報を車両制御装置100の乗員情報取得部104に出力する。
【0044】
特徴量算出部105は、乗員情報取得部104から取得した乗員の状態の情報から睡眠に関する特徴量を算出する。睡眠に関する特徴量は例えば、瞼の開閉面積、開閉時間や開閉頻度である。人体は眠気を感じると瞼の閉面積が広く、開閉頻度が高く、瞼の閉時間が長くなることが一般的に知られている。乗員情報取得部104から取得した乗員の瞼の開閉面積、開閉時間、開閉頻度などの特徴量は、睡眠に関する指標と相関する。また、例えば、瞼を閉じている際の眼球運動を睡眠に関する特徴量として使用してもよい。一般的に、睡眠中の眼球運動の活発度に応じて、レム睡眠と4段階のノンレム睡眠に区別されることが知られている。乗員情報取得部104から取得した眼球運動の活発度の特徴量は睡眠に関する指標と相関する。
【0045】
その他、各種脳波の振幅や時間比率及び周波数の変化、乗員の動作頻度の変化、腹式呼吸から胸式呼吸への変化、深部体温の変化、皮膚電気活動の変化が睡眠に関する指標として知られており、これを特徴量として用いてもよい。また、深部体温の測定が困難な場合、皮膚表面の温度の変化から深部体温を推定したり、皮膚表面の温度を補正して深部体温を求めてもよい。
【0046】
この特徴量を算出して、乗員の睡眠状態及び睡眠レベルを推定できる。睡眠状態とは、乗員が眠っている状態、睡眠開始の前後の状態、及び近い将来に眠ることが予測される状態を含む。睡眠レベルとは、睡眠の深さを表す指標であり、睡眠度合が深いほど高くなる値である。
【0047】
図2は、睡眠時の時間経過による睡眠レベル変化の一例を示す図である。本実施例では、
図2に例示するように、国際基準であるノンレム睡眠のステージを4段階に分けた指標(睡眠段階判定基準R&K法)と、その指標をベースに覚醒時の覚醒度をレベル化した指標を組み合わせた睡眠指標を用いる例を説明するが、他の睡眠指標を用いてもよい。睡眠レベルの検出には、例えば瞼の動作、眼球運動、脳波、乗員の動作頻度、心拍数、脈拍数、体温、皮膚電気活動を監視する等、公知の様々な方法を採用できるため、詳細な説明は省略する。
【0048】
また、特徴量算出部105は、車両に複数の乗員が存在する場合に、乗員全員の睡眠レベルの平均値を算出してもよい。また、複数の乗員のうち、一部の乗員の睡眠レベルに他の乗員の睡眠レベルより高い重み付けをして、睡眠覚醒移行制御への貢献度を高くしてもよい。この場合、特徴量算出部105は、例えば、最も優先度が高い乗員の睡眠状態のみを取得してもよい。乗員の睡眠レベルの重み付けは、乗員の身体特徴ごとに変えても、乗車位置によって変えてもよい。例えば、送迎車、ハイヤー、タクシー等の場合は、後部座席の乗員の優先度を高く設定してもよく、ベビーシート搭載車の場合、ベビーシートに搭乗した乗員の優先度を高く設定してもよい。
【0049】
軌道生成部106は、運転操作情報取得部101及び車両状態情報取得部102から取得した車両情報と外界情報認識部103から取得した外界情報に基づいて、自動運転の開始地点、及び終了予定地点又は目的地の位置(緯度、経度、高度等)を設定する。自動運転の開始地点は、車両の現在位置でもよいし、指定された任意の場所でもよい。
【0050】
軌道生成部106は、自動運転の開始地点と自動運転の終了予定地点の間の区間、又は自動運転の開始地点と自動運転の目的地との間の区間において、車両が走行する軌道を定義する軌道情報を生成する。軌道情報は、車両が走行する経路と、所定の中間地点の車両の通過時刻を含む情報である。また、経路情報は、目標ルート上に設定された座標が一定間隔毎に規定されたものである。
【0051】
軌道生成部106は、軌道情報に基づいて、制御目標値(車速、加速度、制動力、操舵角、操舵角速度、操舵角加速度等)を算出する。算出された制御目標値は、自動運転制御部108に出力する。また、各目標値に対して、実際の実走行情報の偏差を取得し、偏差が小さくなるように新たな目標値を設定してもよい。例えば、実車速が目標車速より低い場合、目標車速に一致又は近づけるように、新たな目標加速度を設定してもよい。例えば、前方の先行車を検知し、検知された先行車と衝突しない車速及び距離を確保するために、適切な車間距離が維持できるように現在の車速を目標車速に近づける。もし、先行車の減速を検知した場合、常に適切な車間距離を保つように、新たな目標車速を設定してもよい。
【0052】
睡眠覚醒移行制御部107は、車両状態情報取得部102から取得した車両状態情報と外界情報認識部103から取得した外界情報と乗員情報取得部104から取得した乗員情報と特徴量算出部105から取得した睡眠に関する特徴量情報に基づいて、睡眠覚醒移行制御の実施を判定すると、睡眠刺激前後加速度の振動条件を算出し、算出した情報を自動運転制御部108に出力する。睡眠覚醒移行制御部107の詳細動作及び処理内容は後述する。
【0053】
自動運転制御部108は、軌道生成部106から取得した制御目標値と睡眠覚醒移行制御部107から取得した睡眠刺激前後加速度の振動条件情報に基づいて、各種制御指令値を算出し、駆動力出力装置150、制動装置160、操舵装置170に出力するように構成される。このとき、駆動力出力装置150、制動装置160、操舵装置170の出力値と各種制御指令値に乖離がある場合は、フィードバック制御等の各種制御工学技術を用いて、出力値と指令値を一致させてもよい。
【0054】
自動運転制御部108は、運転操作情報取得部101からの運転操作切替情報に従って、運転モードを切り替える制御を行う。運転モードとしては、車両情報及び外界情報に基づいて、車両の操舵操作、駆動操作、及び制動操作を自動的に制御する自動運転モードや直接乗員が運転操作する手動操作モード等がある。なお、手動運転モードの実施時において、自動運転制御を停止し、駆動力出力装置150、制動装置160、操舵装置170に運転操作情報を出力してもよい。自動運転制御部108による睡眠覚醒移行制御は後述する。
【0055】
駆動力出力装置150は、車両が走行するための駆動力(駆動トルク)を駆動輪に出力するように構成されるパワートレーンである。駆動力出力装置150は、例えば、ガソリン等の燃料を燃焼させることで動力を出力する内燃機関(レシプロエンジン、ディーゼルエンジン、ガスタービンエンジン、ロータリーエンジン等)及び外燃機関、バッテリや内燃機関から供給される電力を用いて動力として出力する電動機(電動モータ、インバータ)、及び変速機等を組み合わせた各種パワートレーンと、これらを制御する駆動用ECUとを有する。
【0056】
駆動用ECUは、車両制御装置100から入力される情報、又はアクセル開度センサ111等から入力される運転操作情報に従って、前述の構成を制御する。また、駆動出力装置のレイアウトは、駆動装置からドライブシャフトを用いて、車輪に駆動力を伝達する方式でも、車輪内に電動機等を設置するインホイール方式でもよい。
【0057】
制動装置160は、車両が停止するための制動力(制動トルク)を車輪に出力するように構成される。制動装置160は、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキ等の車輪に制動力を与える装置と制動用ECUとを有する。制動用ECUは、車両制御装置100から入力される制御情報、及びブレーキ踏量センサ112等から入力される運転操作情報に従って、各車輪に制動力が出力されるように制御する。制動装置160はブレーキのロックを抑制するABS(Anti-lock Brake System)や、横滑りを抑制するESC(Electronic Stability Control)や、制動時の運動エネルギーを電力等に変換する回生ブレーキ等の機能を有してもよい。
【0058】
操舵装置170は、車両が旋回するために転舵輪の向きを変更する。操舵装置170は例えば、ラックアンドピニオン機構によって転舵輪の向きを変更するラックアンドピニオン方式、油圧パワーステアリング方式、電動パワーステアリング方式などを用いた転舵装置と操舵用ECUを有する。操舵用ECUは、車両制御装置100から入力される制御情報、又は操舵操作センサ114等から入力される運転操作情報に従って、前述の構成を制御する。
【0059】
図3は、本実施例の車両制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
図3を参照し、本実施例の車両制御装置100の動作について説明する。乗員が車両に乗車時、かつ車両走行時に本実施例の制御を開始し、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0060】
車両制御装置100の運転操作情報取得部101、車両状態情報取得部102、外界情報認識部103及び乗員情報取得部104は、前述した方法で各部に対応する各種情報の入力処理を実行する(S100)。
【0061】
車両制御装置100は、運転操作情報取得部101、車両状態情報取得部102、外界情報認識部103が取得した各種情報に基づいて自動運転を実施するかを判定する(S101)。例えば、運転操作情報取得部101が乗員のブレーキ操作情報を受信した場合、車両制御装置100は自動運転を停止し、乗員の自動運転移行指示があるまで、手動運転の制御を行う。自動運転実施判定(S101)でNOと判定され、手動運転に移行する場合、運転操作情報取得部101に入力されたアクセル開度情報に基づいてドライバ要求駆動力を算出する(S108)。その後、駆動力出力装置150が、ドライバ要求駆動力に従って、駆動力を出力する(S107)。
【0062】
一方、自動運転実施判定(S101)でYESと判定され、自動運転に移行するた場合、車両制御装置100の軌道生成部106は前述した方法で制御目標値を算出する。以下、自動運転中に先行車に追従して走行する例を説明する。この時、軌道生成部106は、前方の先行車と適切な車間距離で追従可能な目標車速を設定する(S102)。さらに、軌道生成部106は、目標車速に近づけるために必要車両加速度を算出する(S103)。
【0063】
車両制御装置100の睡眠覚醒移行制御部107は、後述する方法で睡眠移行又は覚醒移行を目的とした睡眠刺激前後加速度の振動条件を算出する(S104)。ステップS104の処理の詳細は
図5を参照して後述する。
【0064】
車両制御装置100の自動運転制御部108は、軌道生成部106で算出された必要車両加速度と睡眠覚醒移行制御部107で算出された睡眠刺激前後加速度に基づいて、目標乗員前後加速度を算出する(S105)。
【0065】
図4は、目標乗員前後加速度と目標駆動力の算出方法の一例を示す図である。目標乗員前後加速度は、
図4に示すように、必要車両加速度と睡眠刺激前後加速度の波形を重畳した波形である。さらに自動運転制御部108は、算出した目標乗員前後加速度から目標駆動力を算出し、駆動力出力装置150に指令値を出力する(S106)。
【0066】
駆動力出力装置150は、自動運転制御部108から出力された指令値に従って、駆動力を出力する(S107)。このとき、目標乗員前後加速度と実際の乗員前後加速度に乖離がある場合、フィードバック制御等の各種制御技術を用いて、目標駆動力を制御し、目標乗員前後加速度と実際の乗員前後加速度を一致させるとよい。
【0067】
図5は、睡眠覚醒移行制御の詳細のフローチャートである。睡眠覚醒移行制御(S104)の処理の詳細について
図5を参照して説明する。
【0068】
車両制御装置100の特徴量算出部105は、乗員情報取得部104から取得した生体情報から乗員の睡眠に関する特徴量を算出する(S200)。特徴量算出部105は、算出した特徴量から前述した方法で現在の乗員の睡眠レベルを算出する(S201)。
【0069】
睡眠覚醒移行制御部107は、算出した現在の乗員の睡眠レベルを含む乗員情報、車両制御状態、及び外界情報から、睡眠覚醒移行制御を実施するかを判定する(S202)。判定処理の詳細は
図13を参照して後述する。実施判定処理でYES(睡眠移行制御の実施又は覚醒移行制御の実施)と判断された場合、下記の処理を実施する。
【0070】
睡眠覚醒移行制御部107は、乗員の現在の睡眠レベルと目標睡眠レベルとの乖離度から睡眠刺激強度を決定する(S203)。例えば、睡眠レベルと目標睡眠レベルの差を睡眠刺激強度として設定してもよいし、後述する条件に基づいて睡眠刺激強度を算出してもよい。
【0071】
図6は、現在の睡眠レベルと目標睡眠レベルと睡眠刺激強度の関係を示す図である。睡眠刺激データベース109には、現在の睡眠レベルと目標睡眠レベルに対する睡眠刺激強度の関係が記憶されている。睡眠覚醒移行制御部107は、睡眠刺激データベース109に記憶された
図6に示す関係を参照して、現在の睡眠レベルと目標睡眠レベルから睡眠刺激強度を決定する。また、睡眠刺激強度を算出する際に、各種外界情報や乗員の乗車前情報等の各種乗員情報のパラメータを考慮して、睡眠刺激強度を算出してもよい。
【0072】
例えば、目的地までの乗車時間や自動運転から手動運転に切り替える時間に合わせて、睡眠刺激強度を変えてもよい。また、サーカディアンリズム等の人体の体内時計に合わせて、車両が走行する時間帯によって睡眠刺激強度を変えてもよい。例えば、乗員の昨夜の睡眠時間が所定値よりも少ない場合、深い睡眠がとれるように睡眠刺激強度を強めてもよい。
【0073】
睡眠刺激データベース109には、
図7~
図10に示すように、睡眠刺激として振動を与える場合の振幅、周波数、提示時間、提示間隔、刺激強度の関係がさらに詳細に記録されている。非特許文献1等の研究によれば、人体を睡眠に促進できる全身振動の振幅や周波数、加速度は範囲が決まっている。睡眠刺激DBには乗員に所定の全身振動を得られる睡眠刺激が記憶されている。
【0074】
さらに、睡眠覚醒移行制御部107は、睡眠刺激データベース109に記録されている睡眠刺激の振幅、周波数、提示時間、定時間隔の睡眠刺激強度を調整するためのパラメータと睡眠刺激強度との関係に基づいて、睡眠刺激強度を調整する。例えば、覚醒状態から睡眠状態に移行させる場合は、非特許文献1の研究等で明らかになっている揺りかごやロッキングチェアの揺れを再現した振幅及び周波数の乗員加速振動を発生させ、現在の乗員の睡眠レベルに応じて提示時間及び提示間隔を調整する。例えば、非特許文献1等の振動と睡眠に関する研究によると、人体にとってリラックス効果を与える0.1Hz~5.0Hzの周波数が好ましく、0.25Hz~2.0Hzが特に効果が高く好ましいことが分かっている。本願ではこの範囲の周波数の振動を乗員に与えることによって、乗員の睡眠を促進する。
【0075】
このように、対象である乗員を現在の乗員の睡眠レベルを目標睡眠レベルに近づけることができる。
【0076】
また、睡眠覚醒移行制御部107は、睡眠刺激強度を調整するためのパラメータの多項式等の関数式を用いて睡眠刺激強度を決定してもよい。また、睡眠覚醒移行制御部107は、睡眠刺激提示の時間間隔や経過時間や現在の睡眠レベルを考慮して睡眠刺激強度を変更してもよい。
【0077】
睡眠覚醒移行制御部107は、個人の感度特性等によって、睡眠刺激による効果が想定される効果と乖離がある場合には、対象者個人を特定して、睡眠刺激データベース109に記憶される睡眠刺激強度と各種パラメータの関係を再学習してもよい。
図11は、睡眠刺激を乗員に付与した場合に、睡眠、覚醒、維持の各場合における睡眠レベルの変化を示す図である。例えば、睡眠刺激を与えた場合、乗員の睡眠レベルは睡眠移行、覚醒移行、睡眠維持のパターンに変化する。この割合と睡眠刺激強度の関係から、効果的な睡眠刺激を与えるパラメータをディープラーニング等の機械学習を行い、睡眠刺激データベース109に登録してもよい。
【0078】
図5に戻り説明を続ける。睡眠覚醒移行制御部107は、決定した睡眠刺激強度のパラメータから、乗員が受ける全身運動の前後加速度である睡眠刺激前後加速度の振動条件を算出する(S204)。
【0079】
図12は、睡眠刺激前後加速度の波形の一例を示す図である。睡眠刺激前後加速度は、睡眠移行時は乗員に違和感や不快感を与えずに睡眠に移行できるように、制御開始時は最小の振幅及び最低の周波数から徐々に振幅を増大したり、周波数を上げてもよい。上昇量や上昇頻度は乗員の睡眠レベル情報に基づいて決定してもよい。また、誘眠効果が高い1/fゆらぎ等のノイズ振動を波形に付加してもよい。算出された睡眠刺激前後加速度の振動条件は前述した自動運転制御部108に入力される。
【0080】
また、覚醒移行時は、乗員の睡眠を促進する振動を抑制又は停止し、覚醒しやすい振動条件に睡眠刺激前後加速度を設定する。例えば、ある周波数の振動刺激を与えることで、筋緊張を促進し、覚醒移行できることが知られており、睡眠刺激前後加速度をその周波数に設定してもよい。その他、前述した睡眠刺激前後加速度を用いずに、例えば、各種覚醒促進装置を用いて光、音、振動、温熱、冷風、及び匂いの少なくとも一つを発生させる等の公知の覚醒移行技術を用いて乗員を覚醒移行してもよい。
【0081】
図13は睡眠覚醒移行制御の実施判定処理の詳細のフローチャートである。
図13を参照し、睡眠覚醒移行制御の実施判定S202の詳細フローチャートについて説明する。睡眠覚醒移行制御部107は、外界情報認識部103から取得した外界情報から、睡眠覚醒移行制御を行うために必要な安全条件を満たしているかを判定する(S300)。安全条件を満たしていない場合、睡眠覚醒移行制御を行わない(S307)。例えば、安全な車両走行のために、より優先度が高い目標加速度が設定された場合は、安全条件を満たしていないので、睡眠覚醒移行制御を行わない。具体的には、車両前方の障害物を検知し急制動が必要になった状況や、高速道路合流時の加速車線での加速が必要になった状況等である。
【0082】
睡眠覚醒移行制御部107は、睡眠覚醒移行制御を行うために必要な性能条件を満たしているかを判定する(S301)。性能条件を満たしていない場合、睡眠覚醒移行制御を行わない(S307)。例えば、睡眠覚醒移行制御による影響が駆動力出力装置150等の性能低下の主原因となる場合は、性能条件を満たしていないので、睡眠覚醒移行制御を行わない。具体的には、睡眠覚醒移行制御により駆動力出力装置150の燃料消費量や電力消費量等の車両消費情報が悪化し、許容値を超過する場合、睡眠覚醒移行制御を行わない等である。
【0083】
睡眠覚醒移行制御部107は、睡眠覚醒移行制御を行うために必要な耐久条件を満たしているかを判定する(S302)。耐久条件を満たしていない場合、睡眠覚醒移行制御を実施しない(S307)。例えば、睡眠覚醒移行制御による影響が車体や車両部品の耐久力低下の主原因となる場合である。具体的な状況例としては、駆動力出力装置150が発生した駆動力による振動と車両走行中に路面から受ける振動が原因で、車体部品の共振振動が発生して、車両部品の耐久力が低下する状況等である。
【0084】
睡眠覚醒移行制御部107は、乗員情報取得部104より取得した乗員情報や乗車前情報取得部144より取得した乗車前情報から乗員の睡眠タイミングのスケジュールを作成する(S303)。乗員の生体情報から睡眠レベルと睡眠経過を予測することで、睡眠の質が最適になるように、睡眠と覚醒のタイミング及び間隔をスケジュールする。作成されるスケジュールには、時間経過と共に変化する目標睡眠レベルを含むとよい。軌道生成部106が生成した軌道を参照して、睡眠と覚醒のレベル、タイミング及び間隔をスケジュールしてもよい。軌道中でスムーズな走行が可能な区間では睡眠を促し、揺れが予想される悪路では覚醒を促すとよい。また、乗員の乗車前後の生体情報だけでなく、乗員の乗車前後のタスクスケジュール管理情報を取得して、睡眠と覚醒のタイミングをスケジュール作成に利用してもよい。例えば、パワーナップ(短期睡眠)を行ってもよい。20分程度の短期睡眠をスケジュールすることで、人体に対して効率的な疲労回復、集中力向上の効果を得ることが一般的に知られており、このパワーナップを効果的に行うことで、乗員のパフォーマンス向上やコンディション調整効果が得られる。
【0085】
また、例えば、レム睡眠、ノンレム睡眠をスケジューリングしてもよい。覚醒タイミングを対象のレム睡眠時に合わせ、すっきりとした覚醒を促すことで、睡眠の質を向上できることが一般的に知られている。睡眠制御の覚醒タイミングをレム睡眠時に合わせることで、乗員の睡眠の質向上効果を得ることができる。
【0086】
また、例えば、睡眠負債を解消するために睡眠のスケジューリングを調整してもよい。睡眠負債は、一時の睡眠不足と異なり、知らず知らずのうちに睡眠不足が重なり蓄積される生理現象である。日頃の睡眠時間を携帯端末やウェアラブル機器等に記憶しておき、その記憶された睡眠情報を乗車前情報として乗車時に取得することで、睡眠時間を適正化し、睡眠負債の解消や生体リズムを調整できる。
【0087】
また、例えば、覚醒維持を行ってもよい。乗員が近い将来に運転操作をしなければならないと予測される状況の場合、覚醒状態を維持するようにスケジューリングする。また、運転操作以外の各種タスク実施する際にも覚醒維持を行ってもよい。
【0088】
作成したスケジュールに従って、睡眠移行制御、覚醒移行制御、又は維持を選択する(S304)。その選択に従って各制御の実施を決定する(S305、S306、S307)。
【0089】
以上に説明したように、本実施例の車両システムによると、駆動力変化を用いて、車両走行中に誘眠効果が高い全身振動を得ることができる。
【0090】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0091】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0092】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0093】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0094】
100 車両制御装置
101 運転操作情報取得部
102 車両状態情報取得部
103 外界情報認識部
104 乗員情報取得部
105 特徴量算出部
106 軌道生成部
107 睡眠覚醒移行制御部
108 自動運転制御部
109 睡眠刺激データベース
111 アクセル開度センサ
112 ブレーキ踏量センサ
113 シフト操作センサ
114 操舵操作センサ
115 運転操作切替スイッチ
121 車速センサ
122 加速度センサ
131 周辺情報取得部
132 走行位置取得部
133 通信情報取得部
141 乗員加速度センサ
142 車室内カメラ
143 生体センサ
144 乗車前情報取得部
150 駆動力出力装置
160 制動装置
170 操舵装置