(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112281
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】金属/窒化物積層体、および、絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20240813BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H01L23/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205396
(22)【出願日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2023016687
(32)【優先日】2023-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA03
4G026BA15
4G026BA16
4G026BA17
4G026BB23
4G026BB27
4G026BC01
4G026BD02
4G026BD08
4G026BE01
4G026BF16
4G026BF17
4G026BF20
4G026BF42
4G026BF52
4G026BG02
4G026BH07
(57)【要約】
【課題】溶融金属が凝固した金属凝固層と、Zr-NやTi-Nといった活性金属窒化物と、が強固に接合された金属/窒化物積層体を提供する。
【解決手段】金属凝固層21とTi-NおよびZr-Nのいずれか一種または二種からなる活性金属窒化物層22とが接合された金属/窒化物積層体20であって、活性金属窒化物層22と金属凝固層21との間に、活性金属窒化物層22の活性金属の一部がAlおよびSiのいずれか一種または二種で置換された組成である改質窒化物層25が形成されていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属凝固層とTi-NおよびZr-Nのいずれか一種または二種からなる活性金属窒化物層とが接合された金属/窒化物積層体であって、
前記活性金属窒化物層と前記金属凝固層との間に、前記活性金属窒化物層の活性金属の一部がAlおよびSiのいずれか一種または二種で置換された組成である改質窒化物層が形成されていることを特徴とする金属/窒化物積層体。
【請求項2】
前記改質窒化物層は、原子数比で、TiおよびZrの含有比率をX、AlおよびSiの含有比率をY、Nの含有比率をZとして、以下の各式を満足することを特徴とする請求項1に記載の金属/窒化物積層体。
X+Y+Z=1
Y/(X+Y)<0.7
0.4≦Z≦0.5
【請求項3】
前記活性金属窒化物層は、セラミックス部材の表面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属/窒化物積層体。
【請求項4】
前記金属凝固層は、被接合体の接合面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属/窒化物積層体。
【請求項5】
セラミックス基板の表面に金属からなる回路層が形成された絶縁回路基板であって、
前記セラミックス基板と前記回路層との接合界面に、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の金属/窒化物積層体が形成されていることを特徴とする絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融金属が凝固して形成された金属凝固層とTi-NまたはZr-Nからなる活性金属窒化物層とが接合された金属/窒化物積層体、および、この金属/窒化物積層体を有する絶縁回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュールおよび熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子および熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して形成した放熱用の金属層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属板と窒化アルミニウム基板とが、Zr-NなどのZr化合物およびTi-NなどのTi化合物を介して接合されたセラミックス回路基板が開示されている。
また、特許文献2には、窒化アルミニウム基材の上にニクロム系合金からなる薄膜抵抗体を設けた回路基板であって、基材と抵抗体との間にTi-Nからなる下地層を形成したものが提案されている。
ここで、Zr-NやTi-Nといった活性金属窒化物は靭性が高いことから、セラミックス部材の表面に活性金属窒化物をコーティングした場合には、セラミックス部材におけるクラックの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05-163077号公報
【特許文献2】特開平02-262392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、Zr-NやTi-Nといった活性金属窒化物は、溶融金属との濡れ性が悪いことから、金属との複合化が困難である。よって、Zr-NやTi-Nといった活性金属窒化物の表面に、ろう材等の接合材を用いて金属板等を接合しようとしても、接合材に含まれる金属が溶融して凝固することで形成される金属凝固層と活性金属窒化物との界面で剥離が生じ、十分な接合強度が得られないおそれがあった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、溶融金属が凝固した金属凝固層と、Zr-NやTi-Nといった活性金属窒化物と、が強固に接合された金属/窒化物積層体、および、この金属/窒化物積層体を有する絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、本発明の態様1の金属/窒化物積層体は、金属凝固層とTi-NおよびZr-Nのいずれか一種または二種からなる活性金属窒化物層とが接合された金属/窒化物積層体であって、前記活性金属窒化物層と前記金属凝固層との間に、前記活性金属窒化物層の活性金属の一部がAlおよびSiのいずれか一種または二種で置換された組成である改質窒化物層が形成されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の態様1の金属/窒化物積層体においては、Ti-NおよびZr-Nのいずれか一種または二種からなる活性金属窒化物層と溶融金属が凝固した金属凝固層との間に、前記活性金属窒化物層の活性金属の一部がAlおよびSiのいずれか一種または二種で置換された組成である改質窒化物層が形成されているので、この改質窒化物層によって溶融金属との濡れ性が向上し、前記活性金属窒化物層と前記金属凝固層とが強固に接合されることになる。
【0009】
本発明の態様2の金属/窒化物積層体は、態様1の金属/窒化物積層体において、前記改質窒化物層は、原子数比で、TiおよびZrの含有比率をX、AlおよびSiの含有比率をY、Nの含有比率をZとして、以下の各式を満足することを特徴としている。
X+Y+Z=1
Y/(X+Y)<0.7
0.4≦Z≦0.5
【0010】
本発明の態様2の金属/窒化物積層体によれば、前記改質窒化物層において、原子数比で、TiおよびZrの含有比率Xと、AlおよびSiの含有比率Yとが、Y/(X+Y)<0.7の関係を有しているので、前記改質窒化物層がNaCl型構造を有することになり、金属との濡れ性に特に優れている。
また、前記改質窒化物層において、Nの含有比率Zが0.4≦Z≦0.5とされているので、窒化物として十分な濡れ性を維持することができる。
【0011】
本発明の態様3の金属/窒化物積層体は、態様1または態様2の金属/窒化物積層体において、前記活性金属窒化物層は、セラミックス部材の表面に形成されていることを特徴としている。
本発明の態様3の金属/窒化物積層体によれば、前記活性金属窒化物層が、セラミックス部材の表面に形成されているので、セラミックス部材を強固に接合することが可能となる。
【0012】
本発明の態様4の金属/窒化物積層体は、態様1から態様3のいずれかひとつの金属/窒化物積層体において、前記金属凝固層は、被接合体の接合面に形成されていることを特徴としている。
本発明の態様4の金属/窒化物積層体によれば、前記金属凝固層が、被接合体の接合面に形成されているので、被接合体を強固に接合することが可能となる。
【0013】
本発明の態様5の絶縁回路基板は、セラミックス基板の表面に金属からなる回路層が形成された絶縁回路基板であって、前記セラミックス基板と前記回路層との接合界面に、態様1から態様4のいずれかひとつの金属/窒化物積層体が形成されていることを特徴としている。
本発明の態様5の絶縁回路基板によれば、前記セラミックス基板と前記回路層との接合界面に、態様1から態様4のいずれかひとつの金属/窒化物積層体が形成されているので、セラミックス基板と回路層とを強固に接合することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶融金属が凝固した金属凝固層と、Zr-NやTi-Nといった活性金属窒化物と、が強固に接合された金属/窒化物積層体、および、この金属/窒化物積層体を有する絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る金属/窒化物積層体で接合された絶縁回路基板を備えたパワーモジュールの概略説明図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係る金属/窒化物積層体の拡大説明図である。
【
図3】本発明の第一の実施形態に係る金属/窒化物積層体の製造方法のフロー図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態に係る金属/窒化物積層体の拡大説明図である。
【
図5】本発明の第二の実施形態に係る金属/窒化物積層体の製造方法のフロー図である。
【
図6】実施例における金属/窒化物積層体の観察写真である。(a)が本発明例1の観察写真、(b)が本発明例5の観察写真である。
【
図7】実施例における表面切削試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第一の実施形態>
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係る金属/窒化物積層体は、金属凝固層とTi-NまたはZr-Nからなる活性金属窒化物層とが接合されたものである。
【0017】
本実施形態に係る金属/窒化物積層体は、
図1に示すように、セラミックスからなるセラミックス部材(セラミックス基板11)と、金属からなる金属部材(回路層12および金属層13)とが接合されてなる絶縁回路基板10におけるセラミックス基板11と回路層12および金属層13との接合界面に形成されるものとされている。すなわち、セラミックス部材(セラミックス基板11)と被接合体である金属部材(回路層12および金属層13)とが、本実施形態に係る金属/窒化物積層体を介して接合されている。
このような絶縁回路基板10は、
図1に示すように、パワーモジュール1等の各種装置に用いられる。
【0018】
図1に示すパワーモジュール1は、回路層12および金属層13が配設された絶縁回路基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、金属層13の他方側(
図1において下側)に配置されたヒートシンク5と、を備えている。
【0019】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0020】
ヒートシンク5は、前述の絶縁回路基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク5は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク5には、冷却用の流体が流れるための流路が設けられている。
なお、本実施形態においては、ヒートシンク5と金属層13とが、はんだ材からなるはんだ層7によって接合されている。このはんだ層7は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0021】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0022】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、特に放熱性の優れた窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0023】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、導電性に優れた金属からなる金属板が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層12は、銅板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、回路層12となる金属板の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0024】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に、熱伝導性に優れた金属からなる金属板が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、金属層13は、銅板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、金属層13となる金属板の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0025】
そして、
図2に、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面に形成された、本実施形態である金属/窒化物積層体20を示す。
本実施形態である金属/窒化物積層体20においては、
図2に示すように、金属凝固層21と、Ti-NおよびZr-Nのいずれか一種または二種からなる活性金属窒化物層22と、活性金属窒化物層22と金属凝固層21との間に形成された改質窒化物層25と、を備えている。
【0026】
なお、本実施形態においては、活性金属窒化物層22は、セラミックス基板11の接合面に形成されており、金属凝固層21は、回路層12(金属層13)の接合面に形成されている。
すなわち、本実施形態である金属/窒化物積層体20は、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)となる金属板とを、接合材を用いて接合する際に形成されるものである。
【0027】
ここで、改質窒化物層25は、活性金属窒化物層22の活性金属の一部がAlおよびSiのいずれか一種または二種で置換された改質窒化物で構成とされている。
すなわち、活性金属窒化物層22がTi-Nで構成されている場合には、改質窒化物層25は、(Ti,Al)-N、および、(Ti,Si)-Nのいずれか一種または二種の改質窒化物で構成されることになる。
また、活性金属窒化物層22がZr-Nで構成されている場合には、改質窒化物層25は、(Zr,Al)-N、および、(Zr,Si)-Nのいずれか一種または二種の改質窒化物で構成されることになる。
【0028】
なお、本実施形態においては、活性金属窒化物層22および改質窒化物層25は、液相形成材料を焼結することによって形成される。なお、焼結体からなる活性金属窒化物層22および改質窒化物層25の内部のボイドが形成されていてもよい。また、このボイドに溶融金属が侵入していてもよい。
ここで、本実施形態においては、
図2に示すように、活性金属窒化物層22には粒界相23が形成されており、この粒界相23に沿って、改質窒化物層25を構成する改質窒化物が存在している。
また、粒界相23には、上述の液相形成材料に含まれる元素が存在している。
【0029】
次に、本実施形態である金属/窒化物積層体20の製造方法について、
図3を参照して説明する。
本実施形態においては、
図3のフロー図に示すように、液相形成材料配設工程S01と、液相焼結工程S02と、表面研削工程S03と、溶融金属凝固工程S04と、を備えている。
【0030】
(液相形成材料配設工程S01)
まず、セラミックス基板11の接合面に、液相形成材料を配設する。ここで、液相形成材料は、活性金属(Ti,Zr)と、AlおよびSiのいずれか一種または二種と、低融点金属を含むものとされている。なお、低融点金属としては、例えば、In,Sn等が挙げられる。
【0031】
(液相焼結工程S02)
次に、液相形成材料を加熱して液相を生じさせ、その後、冷却することによって、生じた液相を焼結する。このとき、セラミックス基板11の接合面に活性金属窒化物層22が形成されるとともに、活性金属の一部がAl,Siで置換された改質窒化物層25が形成されることになる。このとき、活性金属窒化物層22の粒界相23には、液相形成材料に含まれる元素が存在している。
なお、液相焼結工程S02における加熱温度および加熱温度での保持時間は、用いる液相形成材料に応じて適宜設定することが好ましい。
【0032】
(表面研削工程S03)
次に、セラミックス基板11の接合面について、液相焼結工程S02で形成された活性金属窒化物層22および改質窒化物層25の表面を平坦になるまで研削する。このとき、回路層12および金属層13が接合される面の改質窒化物層25および活性金属窒化物層22の一部が除去されてもよい。
なお、改質窒化物層25の厚みは、1nm以上30nm以下が好ましく、1nm以上15nm以下が更に好ましい。
【0033】
(溶融金属凝固工程S04)
次に、回路層12および金属層13となる金属板と活性金属窒化物層22が形成されたセラミックス基板11との間に接合材を配設し、この接合材を溶融して凝固させることで、金属凝固層21を形成する。
このとき、活性金属窒化物層22の粒界相23に存在するAl,Siが活性金属窒化物層22と反応することにより、再度、改質窒化物層25が形成される。
【0034】
このようにして、本実施形態である金属/窒化物積層体20が形成されるとともに、セラミックス基板11と回路層12および金属層13となる金属板が接合され、
図1に示す絶縁回路基板10が製造される。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態の金属/窒化物積層体20によればTi-NおよびZr-Nのいずれか一種または二種からなる活性金属窒化物層22と溶融金属が凝固した金属凝固層21との間に、活性金属窒化物層22の活性金属の一部がAlおよびSiのいずれか一種または二種で置換された改質窒化物層25が形成されているので、この改質窒化物層25によって溶融金属との濡れ性が向上し、活性金属窒化物層22と金属凝固層21とが強固に接合されることになる。
また、表面研削工程S03と溶融金属凝固工程S04とを実施することで平らでありながら、改質窒化物層25が形成された構造となる。
【0036】
本実施形態の絶縁回路基板10においては、活性金属窒化物層22がセラミックス基板11の接合面に形成され、金属凝固層21が回路層12および金属層13の接合面に形成されていることから、これら活性金属窒化物層22と金属凝固層21との間に改質窒化物層25が存在しており、セラミックス基板11と回路層12および金属層13とを強固に接合することが可能となる。
【0037】
<第二の実施形態>
次に、本発明の第二の実施形態である金属/窒化物積層体120について、
図4,5を参照して説明する。
本発明の第二の実施形態である金属/窒化物積層体120は、第一の実施形態と同様に、セラミックスからなるセラミックス部材(セラミックス基板11)と、金属からなる金属部材(回路層12および金属層13)とが接合されてなる絶縁回路基板10におけるセラミックス基板11と回路層12および金属層13との接合界面に形成されるものとされている。
【0038】
本実施形態である金属/窒化物積層体120においては、
図4に示すように、金属凝固層121と、Ti-NおよびZr-Nのいずれか一種または二種からなる活性金属窒化物層122と、活性金属窒化物層122と金属凝固層121との間に形成された改質窒化物層125と、を備えている。
【0039】
なお、本実施形態においては、活性金属窒化物層122は、セラミックス基板11の接合面に形成されており、金属凝固層21は、回路層12(金属層13)の接合面に形成されている。
すなわち、本実施形態である金属/窒化物積層体120は、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)となる金属板とを、接合材を用いて接合する際に形成されるものである。
【0040】
ここで、改質窒化物層125は、活性金属窒化物層122の活性金属の一部がAlおよびSiのいずれか一種または二種で置換された改質窒化物で構成とされている。
すなわち、活性金属窒化物層122がTi-Nで構成されている場合には、改質窒化物層125は、(Ti,Al)-N、および、(Ti,Si)-Nのいずれか一種または二種の改質窒化物で構成されることになる。
また、活性金属窒化物層122がZr-Nで構成されている場合には、改質窒化物層125は、(Zr,Al)-N、および、(Zr,Si)-Nのいずれか一種または二種の改質窒化物で構成されることになる。
【0041】
なお、本実施形態においては、活性金属窒化物層122は固相焼結によって形成され、改質窒化物層125はスパッタ法等によって形成されている。すなわち、改質窒化物層125は、活性金属窒化物層122と反応して形成されたものではなく、別途独立して成膜されたものであり、その組成を予め設定することが可能となる。
【0042】
ここで、本実施形態においては、改質窒化物層125は、原子数比で、TiおよびZrの含有比率をX、AlおよびSiの含有比率をY、Nの含有比率をZとして、以下の各式を満足する構成とされていることが好ましい。
X+Y+Z=1
Y/(X+Y)<0.7
0.4≦Z≦0.5
【0043】
ここで、Y/(X+Y)は、AlおよびSiの置換比率を規定したものであり、Y/(X+Y)が0.7未満であれば、改質窒化物層125は、NaCl型の構造を有するものとなる。
また、Zは、窒素の含有割合であり、0.4以上0.5以下の範囲内とすることで、窒化物として十分な濡れ性を確保することが可能となる。
【0044】
次に、本実施形態である金属/窒化物積層体120の製造方法について、
図5を参照して説明する。
本実施形態においては、
図5のフロー図に示すように、固相焼結工程S101と、成膜工程S102と、溶融金属凝固工程S103と、を備えている。
【0045】
(固相焼結工程S101)
まず、セラミックス基板11の接合面に、Ti-NおよびZr-Nのいずれか一種または二種からなる活性金属窒化物層122を固相焼結法によって形成する。なお、焼結体からなる活性金属窒化物層122の内部のボイドが形成されていてもよい。
【0046】
(成膜工程S102)
次に、活性金属窒化物層122の表面に、改質窒化物層125を成膜する。成膜方法に特に制限はなく、スパッタ法等の既存技術を適用することができる。なお、改質窒化物層125を成膜する際には、TiおよびZrの含有比率をX、AlおよびSiの含有比率をY、Nの含有比率をZとして、上述の各式を満足するように、組成を調整することが好ましい。
【0047】
(溶融金属凝固工程S103)
次に、回路層12および金属層13となる金属板と活性金属窒化物層122および改質窒化物層125が形成されたセラミックス基板11との間に接合材を配設し、この接合材を溶融して凝固させることで、金属凝固層121を形成する。なお、活性金属窒化物層122のボイドに溶融金属が侵入していてもよい。
なお、改質窒化物層125の厚みは、1nm以上30nm以下が好ましく、1nm以上15nm以下が更に好ましい。
【0048】
このようにして、本実施形態である金属/窒化物積層体120が形成されるとともに、セラミックス基板11と回路層12および金属層13となる金属板が接合され、
図1に示す絶縁回路基板10が製造される。
【0049】
以上のような構成とされた本実施形態の金属/窒化物積層体120によれば、第一の実施形態と同様に、活性金属窒化物層122と金属凝固層121との間に改質窒化物層125が形成されているので、この改質窒化物層125によって溶融金属との濡れ性が向上し、活性金属窒化物層122と金属凝固層121とが強固に接合されることになる。
【0050】
そして、本実施形態によれば、改質窒化物層125において、原子数比で、TiおよびZrの含有比率をX、AlおよびSiの含有比率をY、Nの含有比率をZとして、上述の各式を満足する組成とされているので、改質窒化物層125がNaCl型構造を有することになり、金属との濡れ性に特に優れている。また、改質窒化物層125において、窒化物として十分な濡れ性を維持することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、金属凝固層を介して銅板を接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅板以外の金属部材や他の被接合体であっても金属凝固層を介して接合されるものであればよい。
【0052】
また、本実施形態では、活性金属窒化物層が形成されるセラミックス基板として、窒化アルミニウム(AlN)で構成されたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、アルミナ(Al2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)等の他のセラミックス基板を用いたものであってもよい。なお、セラミックス基板はなく、活性金属窒化物で構成された部材を用いてもよい。
【0053】
さらに、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【実施例0054】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0055】
まず、表1記載のセラミックス基板(40mm×40mm)を準備した。また、回路層となる金属板として、本発明例2および6において純度99.99mass%以上のアルミニウムからなり、厚さ0.25mmの37mm×37mmのアルミニウム板を、本発明例1,3~5,7~12および比較例1~3において無酸素銅からなり、厚さ0.25mmの37mm×37mmの銅板を準備した。
【0056】
本発明例1~8においては、表1に示す液相形成材料を用いて、液相焼結法により、表2に示す活性金属窒化物層および改質窒化物層を形成した。なお、比較例1においては、表1に示す液相形成材料を用いて、液相焼結法により、表2に示す活性金属窒化物層のみを形成した。
本発明例9~12においては、表1,2に示すように、固相焼結法によって活性金属窒化物層を形成し、スパッタ法によって改質窒化物層を形成した。なお、比較例2,3においては、固相焼結法により、表2に示す活性金属窒化物層のみを形成した。
【0057】
そして、セラミックス基板と金属板の間に、表2に示す金属凝固層に相当する接合材を配設し、表2に示す接合温度で、セラミックス基板と金属板とを接合した。
【0058】
得られた絶縁回路基板(金属/窒化物積層体)について、接合界面の観察、および、表面切削試験を実施した。
【0059】
なお、接合界面に形成された金属/窒化物積層体の観察を以下のように実施した。本発明例1および本発明例5の観察結果を
図6に示す。
【0060】
得られた絶縁回路基板(金属/窒化物積層体)に対して観察試料を採取し、金属と窒化物積層体との接合界面の断面を、走査透過型電子顕微鏡(Thermo Fisher Scientific社製Titan G2 ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率64万倍で、高さ30nm×幅20nmの範囲または倍率150万倍で、高さ13nm×幅8nmの範囲を観察し、Cu、Ag、In、Sn、Al、Si、Ti、ZrおよびNの合計を100原子%として、活性金属窒化物層および金属凝固層中のAlおよびSi濃度より1原子%以上高い領域を改質窒化物層と判断し、当該領域の面積を測定した。測定された面積を測定視野幅で割ることで改質窒化物層の厚さを算出した。5視野で測定し、その平均値を表2に示した。
【0061】
(表面切削試験)
得られた絶縁回路基板(金属/窒化物積層体)に対して、表面切削試験を行い、金属板とセラミックス基板との接合強度を評価した。
表面切削試験においては、まず、金属板を厚さ30μmまで切削した。
そして、
図7に示すように、刃幅0.3mmの切削刃を用いて、水平切削速度2μm/秒、垂直切削速度0.1μm/秒で金属板を切削し(切削段階)、金属板とセラミックス基板との界面に達した時点で切削刃を水平方向のみに移動し(剥離段階)、剥離段階で水平方向の荷重が一定になった時点の水平荷重を測定した。測定された荷重を刃幅で割ることで接合界面の強度を算出した。評価結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
比較例1においては、改質窒化物層が形成されておらず、Ti-Nからなる活性金属窒化物層とCuからなる金属凝固層とが積層されているが、活性金属窒化物層と金属凝固層とが十分に接合されておらず、セラミックス基板と金属板との剥離強度が0.4N/mmと低く、接合強度が不十分であった。
【0065】
比較例2においては、改質窒化物層が形成されておらず、Ti-Nからなる活性金属窒化物層とCuからなる金属凝固層とが積層されているが、活性金属窒化物層と金属凝固層とを接合することができず、セラミックス基板と金属板が未接合状態となった。
【0066】
比較例3においては、改質窒化物層が形成されておらず、Zr-Nからなる活性金属窒化物層とCuからなる金属凝固層とが積層されているが、活性金属窒化物層と金属凝固層とを接合することができず、セラミックス基板と金属板が未接合状態となった。
【0067】
これに対して、本発明例1~12においては、活性金属窒化物層と金属凝固層との間に、改質窒化物層が形成されていることから、活性金属窒化物層と金属凝固層とが強固に接合されており、セラミックス基板と金属板との剥離強度が十分に高い値を示した。
【0068】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、溶融金属が凝固した金属凝固層と、Zr-NやTi-Nといった活性金属窒化物と、が強固に接合された金属/窒化物積層体を提供可能であることが確認された。