(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112294
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】ワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/02 20060101AFI20240813BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20240813BHJP
A61K 39/08 20060101ALI20240813BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240813BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240813BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240813BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240813BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240813BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240813BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240813BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
A61K39/02
A61K39/12
A61K39/08
A61P37/04
A61K47/24
A61K47/28
A61P31/00 171
A61K47/34
A61P31/12
A61P31/04
A61K47/22
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011925
(22)【出願日】2024-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2023016753
(32)【優先日】2023-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】591193370
【氏名又は名称】株式会社微生物化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博昭
(72)【発明者】
【氏名】萩原 圭
(72)【発明者】
【氏名】崎田 桐子
(72)【発明者】
【氏名】下釜 沙織
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076BB11
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC03
4C076DD59
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE23
4C085AA03
4C085AA05
4C085BA07
4C085BA12
4C085BA51
4C085CC07
4C085CC08
4C085EE01
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
(57)【要約】
【課題】動物用ワクチンを提供する。
【解決手段】特定のカチオン性脂質と抗原を混合してワクチンを製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性脂質と抗原とを含有するワクチンであって、
前記カチオン性脂質が、下記一般式(I)で示される化合物である、ワクチン。
【化1】
[式中、
naおよびnbは、それぞれ独立して、1~4の整数を表し、
X
aおよびX
bは、それぞれ独立して、下記構造X
1または下記構造X
2を表し、
R
7は、炭素数1~6のアルキル基を表し、
pは、1~4の整数を表し、
【化2】
【化3】
R
1aおよびR
1bはそれぞれ独立して、R
3またはR
4を表し、
R
3は、-(CH
2)
n1-を表し、
R
4は、-C
6H
4-(CH
2)
n3-COO-(CH
2)
n2-を表し、
n1は、1~5の整数を表し、
n2は、1~5の整数を表し、
n3は、1~3の整数を表し、
R
2aおよびR
2bは、それぞれ独立して、R
5またはR
6を表し、
R
5は、水酸基を有する脂溶性ビタミンによるコハク酸またはグルタル酸のモノエステル化物からカルボキシ基を除去してなる官能基を表し、
R
6は、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。]
【請求項2】
以下の(1)~(4)のいずれかの条件と以下の(5)~(8)のいずれかの条件を満たす、請求項1に記載のワクチン:
(1)naは2であり、XaはX1であり、R1aはn1が3であるR3であり、R2aはR5である;
(2)naは2であり、XaはX2であり、R1aはn1が2であるR3であり、R2aはR5である;
(3)naは2であり、XaはX2であり、R1aはn1が2であるR3であり、R2aはR6である;
(4)naは2であり、XaはX2であり、R1aはn2が2であり且つn3が1である
R4であり、R2aはR6である;
(5)nbは2であり、XbはX1であり、R1bはn1が3であるR3であり、R2bはR5である;
(6)nbは2であり、XbはX2であり、R1bはn1が2であるR3であり、R2bはR5である;
(7)nbは2であり、XbはX2であり、R1bはn1が2であるR3であり、R2bはR6である;
(8)nbは2であり、XbはX2であり、R1bはn2が2であり且つn3が1であるR4であり、R2bはR6である。
【請求項3】
pが、3または4である、請求項1または2に記載のワクチン。
【請求項4】
naがnbと同一であり、XaがXbと同一であり、R1aがR1bと同一であり、且つR2aがR2bと同一である、請求項1または2に記載のワクチン。
【請求項5】
前記カチオン性脂質が、ssPalmECおよび/またはssPalmEの成分である、請求項1または2に記載のワクチン。
【請求項6】
前記カチオン性脂質が、脂質膜構造体の構成脂質である、請求項1または2に記載のワクチン。
【請求項7】
前記脂質膜構造体が、さらに非カチオン性脂質を含有する、請求項6に記載のワクチン。
【請求項8】
前記非カチオン性脂質が、リン脂質、PEG脂質、およびステロイドからなる群より選択される1種またはそれ以上の成分である、請求項7に記載のワクチン。
【請求項9】
前記ステロイドが、コレステロールおよびその誘導体からなる群より選択される1種またはそれ以上の成分である、請求項8に記載のワクチン。
【請求項10】
前記抗原が、病原体およびそれに由来する成分からなる群より選択される1種またはそれ以上の成分である、請求項1または2に記載のワクチン。
【請求項11】
前記抗原が、不活化抗原である、請求項1または2に記載のワクチン。
【請求項12】
前記不活化抗原が、不活化されたウイルスである、請求項11に記載のワクチン。
【請求項13】
前記不活化抗原が、不活化された細菌である、請求項11に記載のワクチン。
【請求項14】
前記不活化抗原が、トキソイドである、請求項11に記載のワクチン。
【請求項15】
前記ウイルスが、牛ウイルス性下痢ウイルス(Bovine viral diarrhea virus)である、請求項12に記載のワクチン。
【請求項16】
前記細菌が、アビバクテリウム・パラガリナルム(Avibacterium paragallinarumである、請求項13に記載のワクチン。
【請求項17】
前記トキソイドが、クロストリジウム・セプチカム(Clostridium septicum)のトキソイドである、請求項14に記載のワクチン。
【請求項18】
動物の感染症を予防、軽減、または治療するための、請求項1または2に記載のワクチン。
【請求項19】
前記動物が、家畜動物または愛玩動物である、請求項18に記載のワクチン。
【請求項20】
筋肉内投与、皮内投与、皮下投与および眼内投与からなる群より選択される投与ルートで投与される、請求項1または2に記載のワクチン。
【請求項21】
筋肉内投与で投与される、請求項1または2に記載のワクチン。
【請求項22】
ワクチンの製造方法であって、
前記ワクチンが、請求項1または2に記載のワクチンであり、
前記カチオン性脂質および前記抗原を混合することを含む、方法。
【請求項23】
前記ワクチンが、機能が向上したワクチンである、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物用のワクチンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カチオン性脂質は、核酸等を細胞内へ送達するためのキャリアとして報告されている(特許文献1~3)。具体的には、カチオン性脂質として、特許文献1の実施例ではCOATSOME(登録商標)SS-Eが、特許文献2の実施例ではCOATSOME(登録商標)SS-ECが、特許文献3の実施例ではCOATSOME(登録商標)SS-OPが使用されている。
【0003】
非特許文献1には、カチオン性脂質として、COATSOME(登録商標)SS-OPおよびCOATSOME(登録商標)SS-ECが開示されている。非特許文献1において、COATSOME(登録商標)SS-ECは、アジュバントまたはDNAワクチンとして応用できる可能性が報告されている。しかし、実際にCOATSOME(登録商標)SS-ECを抗原と組み合わせた際のアジュバント機能の確認はされていない。
また、脂質ナノ粒子(Lipid Nano Particle;LNP)にアジュバント効果が認められることが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
カチオン性脂質を含むリポソームがアジュバント活性を有するとの報告を機に、カチオン性脂質のアジュバント活性が注目され始めた。前記報告において用いられたカチオン性脂質は中性から酸性域で広く正電荷を持つカチオン性脂質であり、アジュバント活性に比して毒性も強く、実用化に至らなかった。アジュバント効果のメカニズムも不明であった。一方で、mRNAワクチンに用いられるLNPに含まれるカチオン性脂質は酸性域のみで正電荷を帯びる特徴を持ち、明らかに細胞に対する作用点が異なることから、アジュバント活性も異なると推測されている(非特許文献3)。
mRNA-LNPのアジュバント効果は2018年に報告されていたが、その作用はmRNAによるものかカチオン性脂質によるものかが明確でなかった。非特許文献4においては、mRNAを含まないLNPを用いることでアジュバント効果があることが明らかにされ、さらにカチオン性脂質を含まないLNPではアジュバント活性がないことも示された。非特許文献5においてもmRNAを含まないLNPの投与により炎症反応(免疫応答)が惹起されることが示されている。これらのことから、mRNA-LNPのアジュバント活性はカチオン性脂質によるものと証明された。
したがって、カチオン性脂質のアジュバントへの利用が期待されている。
【0005】
アジュバントは、抗原と組み合わせて使用されることにより、その抗原の免疫原性の増強、その抗原に対する免疫応答の加速、その抗原に対する免疫応答の延長、および/またはその抗原単独で誘導される免疫応答とは異なる免疫応答への切り替え(例えば、Th1免疫応答からTh2免疫応答への切り替えや液性免疫から細胞性免疫への切り替え)をもたらす物質であり得る。従って、アジュバントは、ワクチンの用量もしくは投与回数、またはワクチン中の抗原の必要量を低減させるために有用である。さらに、アジュバントは、獣医療業界では多種類の抗原を混合して同時に免疫するために必須な成分である。現在日本で主に使用されているアジュバントには、鉱酸塩がある(例えば、水酸化アルミニウムやリン酸アルミニウム等のアルミニウム塩を主成分とするアジュバント(「アラムアジュバント」ともいう)がある)。アラムアジュバントは、もっとも古くから汎用されているアジュバントであるが、可溶性でないために抗原との均一な混合化が困難であり、液性免疫は誘導されるが細胞性免疫の誘導が低く、また発熱やアレルギー反応誘導(IgE)などの副反応が問題となっていた。また、もっぱら獣医用として用いられているアジュバントにはオイルアジュバントがある。オイルアジュバントは、強力なアジュバント効果を有す
るが、一方で投与した動物に強い副反応(例えば、投与局所の腫れ、発熱等の全身性の症状、体重減少)を引き起こすことが問題であった。そのため、動物医療業界では、アラムアジュバントやオイルアジュバントよりも副反応が少なく、効果が高いアジュバントの開発が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6093710号公報
【特許文献2】特許第6875685号公報
【特許文献3】WO2019/188867
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】秋田英万, 薬剤学,82(2),79-83(2022)
【非特許文献2】Joanna L. Turley and Ed C. Lavelle, Immunity 54 2695-2697, December 14, 2021
【非特許文献3】R, Verbeke et al., Immunity 55, 1993-2005, November 8, 2022
【非特許文献4】Mohamad-Gabriel Alameh et. al., Immunity 54 2877-2892, December 14, 2021
【非特許文献5】S. Ndeupen et al., iScience 24, 103479, December 17, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、免疫賦活活性に優れ、且つ副反応の少ない、アジュバントを含有するワクチンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、後述する一般式(I)で示されるカチオン性脂質がアジュバントとして上首尾に機能することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
カチオン性脂質と抗原とを含有するワクチンであって、
前記カチオン性脂質が、後述する一般式(I)で示される化合物である、ワクチン。
[式中、
naおよびnbは、それぞれ独立して、1~4の整数を表し、
XaおよびXbは、それぞれ独立して、後述する構造X1または後述する構造X2を表し、
R7は、炭素数1~6のアルキル基を表し、
pは、1~4の整数を表し、
R1aおよびR1bはそれぞれ独立して、R3またはR4を表し、
R3は、-(CH2)n1-を表し、
R4は、-C6H4-(CH2)n3-COO-(CH2)n2-を表し、
n1は、1~5の整数を表し、
n2は、1~5の整数を表し、
n3は、1~3の整数を表し、
R2aおよびR2bは、それぞれ独立して、R5またはR6を表し、
R5は、水酸基を有する脂溶性ビタミンによるコハク酸またはグルタル酸のモノエステル化物からカルボキシ基を除去してなる官能基を表し、
R6は、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。]
[2]
以下の(1)~(4)のいずれかの条件と以下の(5)~(8)のいずれかの条件を満たす、[1]に記載のワクチン:
(1)naは2であり、XaはX1であり、R1aはn1が3であるR3であり、R2aはR5である;
(2)naは2であり、XaはX2であり、R1aはn1が2であるR3であり、R2aはR5である;
(3)naは2であり、XaはX2であり、R1aはn1が2であるR3であり、R2aはR6である;
(4)naは2であり、XaはX2であり、R1aはn2が2であり且つn3が1であるR4であり、R2aはR6である;
(5)nbは2であり、XbはX1であり、R1bはn1が3であるR3であり、R2bはR5である;
(6)nbは2であり、XbはX2であり、R1bはn1が2であるR3であり、R2bはR5である;
(7)nbは2であり、XbはX2であり、R1bはn1が2であるR3であり、R2bはR6である;
(8)nbは2であり、XbはX2であり、R1bはn2が2であり且つn3が1であるR4であり、R2bはR6である。
[3]
pが、3または4である、[1]または[2]に記載のワクチン。
[4]
naがnbと同一であり、XaがXbと同一であり、R1aがR1bと同一であり、且つR2aがR2bと同一である、[1]~[3]のいずれかに記載のワクチン。
[5]
前記カチオン性脂質が、ssPalmECおよび/またはssPalmEの成分である、[1]~[4]のいずれかに記載のワクチン。
[6]
前記カチオン性脂質が、脂質膜構造体の構成脂質である、[1]~[5]のいずれかに記載のワクチン。
[7]
前記脂質膜構造体が、さらに非カチオン性脂質を含有する、[6]に記載のワクチン。[8]
前記非カチオン性脂質が、リン脂質、PEG脂質、およびステロイドからなる群より選択される1種またはそれ以上の成分である、[7]に記載のワクチン。
[9]
前記ステロイドが、コレステロールおよびその誘導体からなる群より選択される1種またはそれ以上の成分である、[8]に記載のワクチン。
[10]
前記抗原が、病原体およびそれに由来する成分からなる群より選択される1種またはそれ以上の成分である、[1]~[9]のいずれかに記載のワクチン。
[11]
前記抗原が、不活化抗原である、[1]~[10]のいずれかに記載のワクチン。
[12]
前記不活化抗原が、不活化されたウイルスである、[11]に記載のワクチン。
[13]
前記不活化抗原が、不活化された細菌である、[11]に記載のワクチン。
[14]
前記不活化抗原が、トキソイドである、[11]に記載のワクチン。
[15]
前記ウイルスが、牛ウイルス性下痢ウイルス(Bovine viral diarrhea virus)である
、[12]に記載のワクチン。
[16]
前記細菌が、アビバクテリウム・パラガリナルム(Avibacterium paragallinarumである、[13]に記載のワクチン。
[17]
前記トキソイドが、クロストリジウム・セプチカム(Clostridium septicum)のトキソイドである、[14]に記載のワクチン。
[18]
動物の感染症を予防、軽減、または治療するための、[1]~[17]のいずれかに記載のワクチン。
[19]
前記動物が、家畜動物または愛玩動物である、[18]に記載のワクチン。
[20]
筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、および眼内投与からなる群より選択される投与ルートで投与される、[1]~[19]のいずれかに記載のワクチン。
[21]
筋肉内投与で投与される、[1]~[19]のいずれかに記載のワクチン。
[22]
ワクチンの製造方法であって、
前記ワクチンが、[1]~[21]のいずれかに記載のワクチンであり、
前記カチオン性脂質および前記抗原を混合することを含む、方法。
[23]
前記ワクチンが、機能が向上したワクチンである、[22]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、免疫賦活活性に優れ、且つ副反応の少ない、アジュバントを含有するワクチンを提供することができる。一態様において、同ワクチンを利用することにより、動物の感染症を予防、軽減、または治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ssPalmEC-LNPを含有するワクチンの投与後の中和抗体価測定結果を示す図。
【
図2】ssPalmEC-LNPを含有するワクチンを投与した鶏における反応阻止率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1>ワクチン
本明細書に記載のワクチンは、カチオン性脂質と抗原とを含有するワクチンである。
【0014】
本明細書に記載のワクチンに含有されるカチオン性脂質(以下、単に「カチオン性脂質」ともいう)は、下記一般式(I)で示される化合物である。「カチオン性脂質」とは、中性pH下では正味の電荷を有しないが、酸性pH下では正味の正電荷を有する脂質を意味してよい。カチオン性脂質のカチオン性は、例えば、カチオン性脂質が有する3級アミンに依拠してよい。カチオン性脂質としては、1種のカチオン性脂質を用いてもよく、2種またはそれ以上のカチオン性脂質を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
【0016】
式(I)中、naおよびnbは、それぞれ独立して、1~4の整数(すなわち1、2、3、または4)を表す。
【0017】
式(I)中、XaおよびXbは、それぞれ独立して、下記構造X1または下記構造X2を表し、
R7は、炭素数1~6のアルキル基を表し、
pは、1~4の整数(すなわち1、2、3、または4)を表す。
【0018】
【0019】
【0020】
式(I)中、R1aおよびR1bは、それぞれ独立して、R3またはR4を表し、
R3は、-(CH2)n1-を表し、
R4は、-C6H4-(CH2)n3-COO-(CH2)n2-を表し、
n1は、1~5の整数(すなわち1、2、3、4、または5)を表し、
n2は、1~5の整数(すなわち1、2、3、4、または5)を表し、
n3は、1~3の整数(すなわち1、2、または3)を表す。
【0021】
式(I)中、R2aおよびR2bは、それぞれ独立して、R5またはR6を表し、
R5は、水酸基を有する脂溶性ビタミンによるコハク酸またはグルタル酸のモノエステル化物からカルボキシ基を除去してなる官能基を表し、
R6は、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。
【0022】
naは、nbと同一であってもよく、なくてもよい。naは、特に、nbと同一であってよい。naおよびnbは、いずれも、特に、2であってよい。
【0023】
Xaは、Xbと同一であってもよく、なくてもよい。Xaは、特に、Xbと同一であってよい。
【0024】
R1aは、R1bと同一であってもよく、なくてもよい。R1aは、特に、R1bと同一であってよい。
【0025】
R2aは、R2bと同一であってもよく、なくてもよい。R2aは、特に、R2bと同一であってよい。
【0026】
例えば、R1aがR3である場合に、R2aは、R5であってよい。例えば、R1bがR3である場合に、R2bは、R5であってよい。例えば、R1aがR3である場合に、R2aは、R6であってよい。例えば、R1bがR3である場合に、R2bは、R6であってよい。例えば、R1aがR4である場合に、R2aは、R6であってよい。例えば、R1bがR4である場合に、R2bは、R6であってよい。
【0027】
n1は、特に、2または3であってよい。
【0028】
例えば、XaがX1である場合に、R1aは、n1が3であるR3であってよい。例えば、XbがX1である場合に、R1bは、n1が3であるR3であってよい。例えば、XaがX2である場合に、R1aは、n1が2であるR3であってよい。例えば、XbがX2である場合に、R1bは、n1が2であるR3であってよい。
【0029】
n2は、特に、2であってよい。
【0030】
n3は、特に、1であってよい。
【0031】
例えば、XaがX2である場合に、R1aは、n2が2であり且つn3が1であるR4であってよい。例えば、XbがX2である場合に、R1bは、n2が2であり且つn3が1であるR4であってよい。
【0032】
R4について、R4は「*-C6H4-(CH2)n3-COO-(CH2)n2-**」と表現することもでき、*がR2a-COOまたはR2b-COOとの結合位置であり、**がXaまたはXbとの結合位置であるものとする。R4について、-C6H4-は、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、または1,4-フェニレンであってよい。R4について、-C6H4-は、特に、1,4-フェニレンであってよい。
【0033】
炭素数1~6のアルキル基は、鎖状(非環状)であってもよく、環状であってもよい。炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。炭素数1~6のアルキル基の炭素数は、好ましくは1~3であってよい。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、2-メチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基としては、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基としては、より好ましくはメチル基が挙げられる。
【0034】
pは、特に、3または4であってよい。pは、さらに特には、4であってよい。
【0035】
X2について、窒素原子(N)が(CH2)naまたは(CH2)nbと結合し、且つ環状構造中の炭素原子がR1aまたはR1aと結合するものとする。環状構造中のいずれの炭素原子がR1aまたはR1aと結合してもよい。例えば、pが2以上(例えば3または4、特に4)である場合、窒素原子(N)を1位とした場合の4位の炭素原子がR1aまたはR1aと結合してよい。
【0036】
「水酸基を有する脂溶性ビタミンによるコハク酸またはグルタル酸のモノエステル化物」(以下、単に「モノエステル化物」ともいう)とは、水酸基を有する脂溶性ビタミンによってコハク酸またはグルタル酸の一方のカルボキシ基をエステル化してなる化合物を意味する。R2aまたはR2bがR5である場合、R2a-COO-またはR2b-COO
-(すなわち、R5-COO-)は、モノエステル化物のカルボキシ基から水素原子を除去してなるアシルオキシ基である。なお、モノエステル化物からカルボキシ基を除去してなる官能基に関する上記説明は、特記しない限り、当該官能基の構造を示すものであって、当該官能基の製造方法を示す必要はない。すなわち、モノエステル化物は、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸またはグルタル酸とを反応させることにより得られたものであってもよく、そうでなくてもよい。モノエステル化物は、例えば、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物またはグルタル酸無水物とを反応させることにより得られたものであってもよい。また、モノエステル化物からカルボキシ基を除去してなる官能基またはモノエステル化物のカルボキシ基から水素原子を除去してなるアシルオキシ基は、モノエステル化物に由来するものであってもよく、そうでなくてもよい。
【0037】
「ビタミン」には、ビタミンそのものに限られず、プロビタミンやビタミン誘導体が包含されてよい。水酸基を有する脂溶性ビタミンとしては、レチノール、エルゴステロール、7-デヒドロコレステロール、カルシフェロール、コルカルシフェロール、ジヒドロエルゴカルシフェロール、ジヒドロタキステロール、トコフェロール、トコトリエノールが挙げられる。水酸基を有する脂溶性ビタミンとしては、好ましくはトコフェロールが挙げられる。
【0038】
モノエステル化物としては、好ましくはトコフェロールによるコハク酸のモノエステル化物(すなわち、コハク酸モノトコフェロールエステル)またはトコフェロールによるグルタル酸のモノエステル化物(すなわち、グルタル酸モノトコフェロールエステル)が挙げられる。モノエステル化物としては、より好ましくはコハク酸モノトコフェロールエステルが挙げられる。
【0039】
炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は、鎖状(非環状)であってもよく、環状であってもよい。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は、特に、鎖状(非環状)であってよい。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基が不飽和である場合、当該脂肪族炭化水素基に含まれる不飽和結合の数は、例えば、通常1~6個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個であってよい。不飽和結合の位置は、特に制限されない。不飽和結合の立体配置(すなわち、E-Z)は、特に制限されない。不飽和結合としては、炭素-炭素二重結合や炭素-炭素三重結合が挙げられる。好ましい不飽和結合としては、炭素-炭素二重結合が挙げられる。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは13~19、より好ましくは13~17であってよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては好ましくはアルキル基やアルケニル基が挙げられる。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基としては、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、ドデカジエニル基、トリデカジエニル基、テトラデカジエニル基、ペンタデカジエニル基、ヘキサデカジエニル基、ヘプタデカジエニル基、オクタデカジエニル基、ノナデカジエニル基、イコサジエニル基、ヘンイコサジエニル基、ドコサジエニル基、オクタデカトリエニル基、イコサトリエニル基、イコサテトラエニル基、イコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、イソステアリル基、1-ヘキシルヘプチル基、1-ヘキシルノニル基、1-オクチルノニル基、1-オクチルウンデシル基、1-デシルウンデシル基が挙げられる。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基としては、好ましくはトリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ノナデシル基、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基、1-ヘキシルノニル基が挙げられる。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基としては、より好ましくはトリデシル基、ヘプタデシル基、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基が挙げられる。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基としては、特に好ましくはヘプタデセニル基が挙げられる。ヘプタデセニル基は、例えば、8-ヘプタデセニル基であってよい。ヘプタデセニル基は、例えば、特に、(Z)-8-ヘプタデセニル基であってよい。
【0040】
炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は、具体的には、炭素数13~23の脂肪酸からカルボキシ基を除去してなる官能基であってよい。言い換えると、R2aまたはR2bがR6である場合、R2a-COO-またはR2b-COO-(すなわち、R6-COO-)は、炭素数13~23の脂肪酸のカルボキシ基から水素原子を除去してなるアシルオキシ基であってよい。例えば、脂肪酸がリノール酸である場合、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は8,11-ヘプタデカジエニル基(具体的には、(8Z,11Z)-8,11-ヘプタデカジエニル基)である。また、例えば、脂肪酸がオレイン酸である場合、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は8-ヘプタデセニル基(具体的には、(Z)-8-ヘプタデセニル基)である。なお、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基に関する上記説明は、特記しない限り、当該官能基の構造を示すものであって、当該官能基の製造方法を示す必要はない。すなわち、例えば、炭素数13~23の脂肪酸からカルボキシ基を除去してなる官能基または炭素数13~23の脂肪酸のカルボキシ基から水素原子を除去してなるアシルオキシ基は、脂肪酸に由来するものであってもよく、そうでなくてもよい。
【0041】
一態様において、naはnbと同一であってよく、XaはXbと同一であってよく、R1aはR1bと同一であってよく、且つR2aはR2bと同一であってよい。
【0042】
一態様において、XaはX1であってよく、R1aはR3であってよく、R2aはR5であってよい。一態様において、naは2であってよく、XaはX1であってよく、R1aはn1が3であるR3であってよく、R2aはR5であってよい。一態様において、naは2であってよく、XaはR7がメチルであるX1であってよく、R1aはn1が3であるR3であってよく、R2aはコハク酸モノトコフェロールエステルからカルボキシ基を除いた残基であってよい。
【0043】
一態様において、XbはX1であってよく、R1bはR3であってよく、R2bはR5であってよい。一態様において、nbは2であってよく、XbはX1であってよく、R1bはn1が3であるR3であってよく、R2bはR5であってよい。一態様において、nbは2であってよく、XbはR7がメチルであるX1であってよく、R1bはn1が3であるR3であってよく、R2bはコハク酸モノトコフェロールエステルからカルボキシ基を除いた残基であってよい。
【0044】
一態様において、XaはX2であってよく、R1aはR3であってよく、R2aはR5であってよい。一態様において、naは2であってよく、XaはX2であってよく、R1aはn1が2であるR3であってよく、R2aはR5であってよい。一態様において、naは2であってよく、Xaはpが4であるX2であってよく、R1aはn1が2であるR3であってよく、R2aはコハク酸モノトコフェロールエステルからカルボキシ基を除いた残基であってよい。
【0045】
一態様において、XbはX2であってよく、R1bはR3であってよく、R2bはR5であってよい。一態様において、nbは2であってよく、XbはX2であってよく、R1bはn1が2であるR3であってよく、R2bはR5であってよい。一態様において、nbは2であってよく、Xbはpが4であるX2であってよく、R1bはn1が2であるR3であってよく、R2bはコハク酸モノトコフェロールエステルからカルボキシ基を除いた残基であってよい。
【0046】
一態様において、XaはX2であってよく、R1aはR3であってよく、R2aはR6であってよい。一態様において、naは2であってよく、XaはX2であってよく、R1aはn1が2であるR3であってよく、R2aはR6であってよい。一態様において、naは2であってよく、Xaはpが4であるX2であってよく、R1aはn1が2であるR3であってよく、R2aは8-ヘプタデセニル基(例えば、(Z)-8-ヘプタデセニル基)であってよい。
【0047】
一態様において、XbはX2であってよく、R1bはR3であってよく、R2bはR6であってよい。一態様において、nbは2であってよく、XbはX2であってよく、R1bはn1が2であるR3であってよく、R2bはR6であってよい。一態様において、nbは2であってよく、Xbはpが4であるX2であってよく、R1bはn1が2であるR3であってよく、R2bは8-ヘプタデセニル基(例えば、(Z)-8-ヘプタデセニル基)であってよい。
【0048】
一態様において、XaはX2であってよく、R1aはR4であってよく、R2aはR6であってよい。一態様において、naは2であってよく、XaはX2であってよく、R1aはn2が2であり且つn3が1であるR4であってよく、R2aはR6であってよい。一態様において、naは2であってよく、Xaはpが4であるX2であってよく、R1aはn2が2であり且つn3が1であるR4であってよく、R2aは8-ヘプタデセニル基(例えば、(Z)-8-ヘプタデセニル基)であってよい。
【0049】
一態様において、XbはX2であってよく、R1bはR4であってよく、R2bはR6であってよい。一態様において、nbは2であってよく、XbはX2であってよく、R1bはn2が2であり且つn3が1であるR4であってよく、R2bはR6であってよい。一態様において、nbは2であってよく、Xbはpが4であるX2であってよく、R1bはn2が2であり且つn3が1であるR4であってよく、R2bは8-ヘプタデセニル基(例えば、(Z)-8-ヘプタデセニル基)であってよい。
【0050】
カチオン性脂質として、具体的には、ssPalmE、ssPalmEC、ssPalmOC、ssPalmOPが挙げられる。カチオン性脂質として、好ましくはssPalmE、ssPalmECが挙げられ、より好ましくはssPalmECが挙げられる。ssPalmECを「ssPalmE-P4C2」ともいう。ssPalmE、ssPalmEC、ssPalmOC、およびssPalmOPの構造を以下に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
カチオン性脂質としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。例えば、市販のssPalmE-P4C2としては、COATSOME(登録商標)SS-EC(油化産業株式会社製)が挙げられる。カチオン性脂質の製造方法は特に制限されない。カチオン性脂質は、例えば、化学合成により製造することができる。カチオン性脂質は、具体的には、例えば、特許第6093710号公報、特許第6875685号公報、またはWO2019/188867に記載の方法により製造することができる。
【0054】
カチオン性脂質は、例えば、アジュバントとして機能してよい。「アジュバント」とは、抗原と組み合わせて使用されることにより、その抗原の免疫原性の増強、その抗原に対する免疫応答の加速、その抗原に対する免疫応答の延長、および/またはその抗原単独で誘導される免疫応答とは異なる免疫応答への切り替え(例えば、Th1免疫応答からTh2免疫応答への切り替えや、液性免疫から細胞性免疫への切り替え)をもたらす物質を意味してよい。アジュバントは、単一の物質であってもよく、複数の物質の組み合わせであってもよい。すなわち、カチオン性脂質は、単独で、あるいは他の成分との組み合わせで、アジュバントとして機能してよい。
【0055】
カチオン性脂質は、例えば、脂質膜構造体を構成していてよい。言い換えると、カチオン性脂質は、例えば、脂質膜構造体の構成脂質であってよい。カチオン性脂質は、具体的には、例えば、脂質膜構造体の膜構成脂質であってよい。脂質膜構造体は、カチオン性脂質からなるものであってもよく、そうでなくてもよい。すなわち、脂質膜構造体は、カチオン性脂質に加えて、さらに他の成分を含有していてもよい。言い換えると、カチオン性脂質は、単独で、あるいは他の成分との組み合わせで、脂質膜構造体を構成していてよい。また、言い換えると、本明細書に記載のワクチンは、カチオン性脂質および抗原に加えて、さらに他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、非カチオン性脂質、界面活性剤、ポリエチレングリコール(PEG)、タンパク質が挙げられる。他の成分としては、特に、非カチオン性脂質が挙げられる。「非カチオン性脂質」とは、カチオン性脂質以外の脂質を意味する。「非カチオン性脂質」とは、具体的には、生理学的pH等の選択したpHにおいて、正味の正電荷を持たない脂質を意味してよい。非カチオン性脂質としては、リン脂質、PEG脂質、糖脂質、ペプチド脂質、ステロイドが挙げられる。非カチオン性脂質としては、特に、リン脂質、PEG脂質、ステロイドが挙げられる。他の成分としては、式(I)で示されるカチオン性脂質以外のカチオン性脂質も挙げられる。
【0056】
リン脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジン酸(PA)、ジセチルリン酸、スフィンゴミエリン(SPM)、カルジオリピン等の天然あるいは合成のリン脂質;これらのリン脂質の部分または完全水素添加物;大豆レシチン、コーンレシチン、綿実油レシチン、卵黄レシチン等の天然レシチン(天然レシチンはリン脂質を含有する);水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン等の天然レシチンの水素添加物が挙げられる。リン脂質は、グリセロールのC1位およびC2位にアシル基を有していてよい。C1位およびC2位のアシル基は、それぞれ独立に選択できる。すなわち、C1位およびC2位のアシル基は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。リン脂質を構成するアシル基としては、炭素数8~24のアシル基が挙げられる。炭素数8~24のアシル基としては、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘネイコサン酸、ベヘン酸、トリコサン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ヘキサデカジエン酸、リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、エイコサトリエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサヘキサエン酸等の脂肪酸から水酸基を除いてなる残基が挙げられる。リン脂質としては、好ましくは合成リン脂質が挙げられる。リン脂質としては、より好ましくはアシル基に不飽和結合を含む合成リン脂質が挙げられる。リン脂質としては、さらに好ましくはジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)やジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)が挙げられる。リン脂質としては、特に好ましくはジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)が挙げられる。
【0057】
「PEG脂質」とは、PEGによる修飾を含む脂質を意味してよい。PEG脂質としては、PEGリン脂質やジアシルグリセロールPEGが挙げられる。「PEGリン脂質」とは、PEGが結合したリン脂質を意味してよい。リン脂質については上述の通りである。「ジアシルグリセロールPEG」とは、PEGが結合したジアシルグリセロールを意味してよい。ジアシルグリセロールPEGは、グリセロールのC1位およびC2位またはC1位およびC3位にアシル基を有していてよい。C1位およびC2位またはC1位およびC3位のアシル基は、それぞれ独立に選択できる。すなわち、C1位およびC2位またはC1位およびC3位のアシル基は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。ジアシルグリセロールPEGを構成するアシル基としては、リン脂質を構成するアシル基として例示したものが挙げられる。PEG脂質を構成するPEGの分子量は、特に限定されない。PEG脂質を構成するPEGの分子量は、好ましくは200~10000、より好ましくは2000~5000であってよい。PEG脂質としては、好ましくは各アシル基が飽和型であるジアシルグリセロールPEGが挙げられる。PEG脂質としては、より好ましくは各アシル基がミリストイル基またはステアロイル基であるジアシルグリセロールPEGが挙げられる。PEG脂質としては、さらに好ましくはミリストイル基と分子量約2000のPEGが結合したジアシルグリセロールPEG(DMG-PEG2000)やステアロイル基と分子量約2000のPEGが結合したジアシルグリセロールPEG(DSG-P
EG2000)が挙げられる。
【0058】
ステロイドとしては、ステロールやその誘導体が挙げられる。ステロールとしては、コレステロール、フィトステロール、ジヒドロコレステロールが挙げられる。好ましいステロールとしては、コレステロールが挙げられる。ステロールの誘導体としては、ステロールの脂肪酸エステルが挙げられる。ステロールの誘導体(具体的には脂肪酸エステル)として、具体的には、ステアリン酸コレステリル、ノナン酸コレステリル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、オレイン酸ジヒドロコレステリル等のコレステロールの誘導体(具体的には脂肪酸エステル)が挙げられる。ステロールの誘導体としては、好ましくはステアリン酸コレステリルが挙げられる。ステロイドとしては、好ましくはコレステロールやその誘導体が挙げられる。ステロイドとしては、さらに好ましくはコレステロールが挙げられる。
【0059】
界面活性剤としては、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート、コール酸ナトリウム塩、オクチルグリコシド、N-D-グルコ-N-メチルアルカンアミド類が挙げられる。
【0060】
他の成分としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。
【0061】
「脂質膜構造体」とは、両親媒性脂質の親水基が界面の水相側に向かって配列した膜構造を有する粒子を意味してよい。「両親媒性脂質」とは、親水性基および疎水性基の両方を有する脂質を意味してよい。両親媒性脂質としては、カチオン性脂質やリン脂質が挙げられる。
【0062】
脂質膜構造体を構成する各成分の量比は、脂質膜構造体が形成される限り、特に制限されない。脂質膜構造体におけるカチオン性脂質の含有量は、例えば、通常5~100mol%、好ましくは5~95mol%、より好ましくは10~90mol%、特に好ましくは20~70mol%であってよい。脂質膜構造体におけるカチオン性脂質の含有量は、例えば、脂質膜構造体における脂質の総含有量に対し、例えば、通常5~100mol%、好ましくは10~90mol%、より好ましくは20~70mol%であってよい。
【0063】
脂質膜構造体は、例えば、脂質膜構造体の構成成分(カチオン性脂質および任意で他の成分)を適当な溶媒または分散媒中に溶解または分散させ、必要に応じて組織化を誘導する操作を実施することにより調製することができる。溶媒または分散媒としては、水性溶媒やアルコール性溶媒が挙げられる。組織化を誘導する操作としては、エタノール希釈法、単純水和法、超音波処理法、加熱法、ボルテックス法、エーテル注入法、フレンチ・プレス法、コール酸法、Ca2+融合法、凍結-融解法、逆相蒸発法が挙げられる。エタノール希釈法は、例えば、マイクロ流路またはボルテックスを用いて実施できる。
【0064】
カチオン性脂質は、脂質ナノ粒子(Lipid Nano Particle;LNP)、リポソーム、エマルジョン、ミセル等の任意の形態で存在していてよい。言い換えると、脂質膜構造体は、LNP、リポソーム、エマルジョン、ミセル等の任意の形態で存在していてよい。「脂質ナノ粒子」(Lipid Nano Particle;LNP)とは、脂質を構成成分として含有する、粒子径が100 nm以下の粒子を意味してよい。「脂質ナノ粒子」(Lipid Nano Particle;LNP)とは、具体的には、粒子径が100 nm以下の脂質膜構造体を意味してよい。「粒子径」とは、特に記載のない限り、動的光散乱法(Dynamic light scattering:DLS)により測定された粒子径を意味する。また、「脂質ナノ粒子」(Lipid Nano Particle;LNP)とは、脂質を構成成分として含有する、平均粒子径が100 nm以下の粒子を意味してよい。「脂質ナノ粒子」(Lipid Nano Particle;LNP)とは、具体的には、平均粒子径が100 nm以下の脂質膜構造体を意味してよい。すなわち、脂質膜構造体は、平均粒子径が100 nm以下であってもよい。「平均粒子径」とは、特に記載のない限り、動的光散乱法(Dynamic light scattering:DLS)により測定された個数平均粒子径を意味する。動的光散乱法による粒子径または平均粒子径の測定は、例えば、Zetasizer nano ZS(Malvern社)等の市販のDLS装置を用いて実施することができる。
【0065】
本明細書に記載のワクチンに含有される抗原(以下、単に「抗原」ともいう)は、特に制限されない。「抗原」とは、動物体内において抗体の産生を惹起し、その抗体と特異的に反応する物質を意味してよい。ただし、本明細書において、核酸は「抗原」に包含しないものとする。抗原は、本明細書に記載のワクチンの用途等の諸条件に応じて適宜選択できる。抗原としては、病原体やそれに由来する成分が挙げられる。病原体としては、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫微生物、マイコプラズマが挙げられる。上記例示したような病原体は、例えば、本明細書に記載のワクチンの適用対象である感染症の原因となる病原体であってよい。すなわち、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫微生物、およびマイコプラズマとしては、それぞれ、本明細書に記載のワクチンの適用対象である感染症の原因となるウイルス、細菌、真菌、寄生虫微生物、およびマイコプラズマが挙げられる。本明細書に記載のワクチンの適用対象である感染症とその原因となる病原体については後述する。病原体に由来する成分としては、病原体の構成成分や病原体の生産物が挙げられる。抗原として、具体的には、不活化抗原、弱毒化抗原、サブユニット抗原、組み換え体抗原が挙げられる。不活化抗原としては、不活化されたウイルス、不活化された細菌、不活化された毒素(「トキソイド」ともいう)が挙げられる。ウイルス(これは、例えば、不活化して用いられるウイルスであってよい)として、具体的には、エンベロープを有するウイルスが挙げられる。エンベロープを有するウイルスとしては、牛ウイルス性下痢ウイルス(Bovine viral diarrhea virus)が挙げられる。細菌(これは、例えば、不活化して用いられる細菌であってよい)として、具体的には、グラム陰性細菌が挙げられる。グラム陰性細菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。また、グラム陰性細菌としては、アビバクテリウム・パラガリナルム(Avibacterium paragallinarum(Haemophilus paragallinarum))も挙げられ、これは後述の伝染性コリーザの原因菌として知られる。トキソイドとしては、クロストリジウム(Clostridium)属細菌が産生する毒素を不活化したものが挙げられる。クロストリジウム(Clostridium)属細菌としては、クロストリジウム・セプチカム(Clostridium septicum)が挙げられる。抗原としては、化学構造の観点では、糖、脂質、ペプチド、タンパク質、これらの化学的または組み換え型結合体(糖脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、等)が挙げられる。抗原としては、1種の抗原を用いてもよく、2種またはそれ以上の抗原を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
不活化抗原は、例えば、その原料となる対象物(例えば、ウイルス、細菌、または毒素)を不活化処理に供することにより調製できる。不活化処理は、対象物の免疫原性を損なわず(言い換えると、本明細書に記載のワクチンの免疫原性を損なわず)、且つ、対象物を失活させるものであれば、特に制限されない。対象物の失活としては、増殖性の消失や毒性の消失が挙げられる。不活化処理は、対象物の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。不活化処理としては、無毒化剤による処理、加熱処理、紫外線照射が挙げられる。不活化処理としては、特に、無毒化剤による処理が挙げられる。不活化処理としては、1種の処理を用いてもよく、2種またはそれ以上の処理を組み合わせて用いてもよい。無毒化剤としては、ホルマリン、βプロピオラクトン(BPL)、バイナリーエチレンイミン(BEI)が挙げられる。無毒化剤としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
本明細書に記載のワクチンは、カチオン性脂質および抗原からなるものであってもよく、そうでなくてもよい。すなわち、本明細書に記載のワクチンは、カチオン性脂質および抗原に加えて、さらに他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、脂質膜構造体の構成成分として例示した他の成分が挙げられる。他の成分としては、無毒化剤も挙げられる。本明細書に記載のワクチンは、例えば、脂質膜構造体の構成成分として例示した他の成分を含有する脂質膜構造体を含有することにより、脂質膜構造体の構成成分として例示した他の成分を含有してよい。本明細書に記載のワクチンは、例えば、無毒化剤を含有する抗原(例えば、無毒化抗原)を含有することにより、無毒化剤を含有してよい。他の成分は、1種の成分であってもよく、2種またはそれ以上の成分であってもよい。
【0068】
本明細書に記載のワクチンは、例えば、その原料(すなわち、カチオン性脂質、抗原および任意で他の成分)を適宜混合することにより製造することができる。すなわち、本明細書は、カチオン性脂質および抗原を混合することを含む、本明細書に記載のワクチンを製造する方法を開示する。カチオン性脂質および抗原は、いずれも、混合前に、予め追加成分と混合されていてもよく、いなくてもよい。すなわち、「カチオン性脂質および抗原を混合する」という表現におけるカチオン性脂質および抗原は、いずれも、予め他の成分と混合されたものであってもよい。例えば、カチオン性脂質は、予め他の成分と混合して脂質膜構造体を形成していてもよい。また、カチオン性脂質および抗原の混合後に、さらに、他の成分が混合されてもよい。抗原が不活化抗原である場合、例えば、予め調製された不活化抗原をカチオン性脂質等と混合してもよく、不活化抗原の原料となる対象物(例えば、ウイルス、細菌、または毒素)をカチオン性脂質等と混合した後に不活化処理を実施してもよい。抗原が不活化抗原である場合、好ましくは、予め調製された不活化抗原をカチオン性脂質等と混合してよい。
【0069】
カチオン性脂質が脂質膜構造体を構成する場合、抗原は、例えば、脂質膜構造体内に封入されていてもよく、いなくてもよい。抗原が封入された脂質膜構造体は、例えば、抗原の共存下で脂質膜構造体を製造することにより製造できる。
【0070】
また、カチオン性脂質を抗原と混合することにより、ワクチンの機能を向上させることができる、すなわち、機能の向上したワクチンを製造することができる。すなわち、本明細書は、カチオン性脂質および抗原を混合することを含む、ワクチンの機能を向上させる方法を開示する。また、本明細書は、カチオン性脂質および抗原を混合することを含む、機能の向上したワクチンを製造する方法を開示する。言い換えると、本明細書に記載のワクチンは、機能が向上したワクチンであってよい。具体的には、カチオン性脂質を抗原と混合することにより、カチオン性脂質を含有しないワクチンと比較して、ワクチンの機能を向上させることができる。ワクチンの機能の向上としては、ワクチンの免疫原性(具体的にはワクチンに含有される抗原の免疫原性)の増強、ワクチンに対する免疫応答(具体的にはワクチンに含有される抗原に対する免疫応答)の加速、ワクチンに対する免疫応答(具体的にはワクチンに含有される抗原に対する免疫応答)の延長、ワクチンに含有される抗原単独で誘導される免疫応答とは異なる免疫応答への切り替え(例えば、Th1免疫応答からTh2免疫応答への切り替えや液性免疫から細胞性免疫への切り替え)が挙げられる。ワクチンに含有される抗原の免疫原性の増強等のワクチンの機能の向上は、例えば、ワクチンを動物投与した際のワクチンに対する免疫応答(具体的には、ワクチンに含有される抗原に対する免疫応答)の増強を指標として確認できる。免疫応答の増強は、例えば、ワクチンに含有される抗原に対する抗体生産の増大を指標として測定できる。抗体生産の増大としては、抗体の生産量の増大、抗体の生産速度の増大、抗体の生産期間の延長が挙げられる。免疫応答の切り替えは、例えば、誘導される免疫応答の種類を確認することで確認できる。
【0071】
本明細書に記載のワクチンにおける各成分(すなわち、カチオン性脂質、抗原および任意で他の成分)の含有量および含有量比は、本明細書に記載のワクチンの効果が得られる限り、特に制限されない。本明細書に記載のワクチンにおける各成分(すなわち、カチオン性脂質、抗原および任意で他の成分)の含有量および含有量比は、各成分の種類や本明
細書に記載のワクチンの用途等の諸条件に応じて、適宜設定できる。
【0072】
本明細書に記載のワクチンにおけるカチオン性脂質の含有量は、例えば、ワクチンの機能を向上させることができる量であってよい。本明細書に記載のワクチンにおけるカチオン性脂質の含有量は、例えば、0.1 μmol/mL以上、0.2 μmol/mL以上、0.5 μmol/mL以上、1 μmol/mL以上、2 μmol/mL以上、5 μmol/mL以上、10 μmol/mL以上、20 μmol/mL以上、50 μmol/mL以上、または100 μmol/mL以上であってもよく、200 μmol/mL以下、100 μmol/mL以下、50 μmol/mL以下、20 μmol/mL以下、10 μmol/mL以下、5 μmol/mL以下、2 μmol/mL以下、1 μmol/mL以下、0.5 μmol/mL以下、または0.2 μmol/mL以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。本明細書に記載のワクチンにおけるカチオン性脂質の含有量は、具体的には、例えば、0.1~0.2 μmol/mL、0.2~0.5 μmol/mL、0.5~1 μmol/mL、1~2 μmol/mL、2~5 μmol/mL、5~10 μmol/mL、10~20 μmol/mL、20~50 μmol/mL、50~100 μmol/mL、または100~200 μmol/mLであってもよい。本明細書に記載のワクチンにおけるカチオン性脂質の含有量は、具体的には、例えば、0.1~200 μmol/mL、0.5~50 μmol/mL、または2~10 μmol/mLであってもよい。本明細書に記載のワクチンの形状が液体以外の形状である場合、「/mL」は「/g」と読み替えてよい。
【0073】
本明細書に記載のワクチンにおける抗原の含有量は、例えば、本明細書に記載のワクチンを動物に投与した際に動物において抗原に対する免疫応答を惹起できる量であってよい。
【0074】
本明細書に記載のワクチンの形状は、特に制限されない。本明細書に記載のワクチンは、液体や粉末等の任意の形状であってよい。本明細書に記載のワクチンは、特に、液体であってよい。
【0075】
本明細書に記載のワクチンは、例えば、動物に投与して使用できる。本明細書に記載のワクチンは、例えば、動物の感染症を予防、軽減、または治療するために、動物に投与して使用できる。すなわち、本明細書に記載のワクチンは、例えば、動物の感染症を予防、軽減、または治療するためのものであってよい。「感染症の予防、軽減、または治療」には、それぞれ、当該感染症に起因する合併症の予防、軽減、または治療も包含される。本明細書に記載のワクチンの適用対象とする感染症は、1種の感染症であってもよく、2種またはそれ以上の感染症であってもよい。本明細書に記載のワクチンの適用対象とする動物は、1種の動物であってもよく、2種またはそれ以上の動物であってもよい。
【0076】
動物の種類は、特に制限されない。動物としては、家畜動物や愛玩動物が挙げられる。家畜動物としては、牛、豚、羊、山羊、鹿、水牛、兎、馬、鶏、鴨、七面鳥、ほろほろ鶏、ウズラ、キジ、ダチョウが挙げられる。家畜としては、特に、牛、豚、鶏が挙げられる。愛玩動物としては、犬や猫が挙げられる。
【0077】
感染症の種類は、特に制限されない。
【0078】
感染症としては、以下のものが挙げられる。カッコ内に併記した「病原体」は、各感染症の原因となり得る病原体の一例を示す。
牛伝染性鼻気管炎(infectious bovine rhinotracheitis)(病原体:牛伝染性鼻気管炎ウイルス)
牛ウイルス性下痢(bovine viral diarrhea-mucosal disease)(病原体:牛ウイルス性下痢ウイルス)
牛パラインフルエンザ(parainfluenza in cattle)(病原体:牛パラインフルエンザウイルス3)
牛RSウイルス病(bovine respiratory syncytial virus infection)(病原体:牛RSウイルス)
牛アデノウイルス病(bovine adenovirus infection)(病原体:ウシアデノウイルスA~C、ヒトアデノウイルスC、およびヒツジアデノウイルスA)
ヒストフィルス・ソムニ感染症(病原体:Histophilus somni)
牛パスツレラ(マンヘミア)症(病原体:Pasteurella multocida、Mannheimia haemolytica、およびBibersteinia trehalosi(Pasteurella trehalosi))
牛流行熱(bovine ephemeral fever)(病原体:牛流行熱ウイルス)
イバラキ病(Ibaraki disease)(病原体:イバラキウイルス)
牛ロタウイルス病(病原体:ロタウイルスA~C)
牛コロナウイルス病(病原体:牛コロナウイルス)
牛大腸菌症(病原体:Escherichia coli)
アカバネ病(Akabane disease)(病原体:アカバネウイルス)
チュウザン病(Chuzan disease)(病原体:チュウザンウイルス)
アイノウイルス感染症(Aino virus infection)(病原体:アイノウイルス)
ピートンウイルス感染症(病原体:ピートンウイルス)
気腫疽(blackleg)(病原体:Clostridium chauvoei)
悪性水腫(病原体:Clostridium septicum)
牛クロストリジウム・パーフリンゲンス感染症(旧 牛壊死性腸炎)(病原体:Clostridium perfringens)
流行性脳炎(enzootic encephalitis)(病原体:日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus)、ウエストナイルウイルス(West Nile virus)、東部馬脳炎(Eastern Equine Encephalitis;EEE)ウイルス、西部馬脳炎(Western Equine Encephalitis;WEE)ウイルス、およびベネズエラ馬脳炎(Venezuelan Equine Encephalitis;VEE)ウイルス)
豚パルボウイルス感染症(porcine parvovirus infection)(病原体:パルボウイルス)豚ゲタウイルス感染症(porcine Getah virus infection)(病原体:ゲタウイルス)
豚丹毒(swine erysipelas)(病原体:Erysipelothrix rhusiopathiae)
豚アクチノバシラス・プルロニューモニエ感染症(病原体:Actinobacillus pleuropneumoniae 1, 2, and 5型)
豚インフルエンザ(病原体:A型インフルエンザウイルス)
伝染性ファブリキウス嚢病(infectious bursal disease)(病原体:伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス)
ニューカッスル病(Newcastle disease)(病原体:ニューカッスル病ウイルス)
伝染性気管支炎(infectious bronchitis)(病原体:ガンマコロナウイルス)
伝染性喉頭気管炎(infectious laryngotracheitis)(病原体:イルトウイルス)
伝染性コリーザ(infectious coryza)(病原体:Avibacterium paragallinarum(Haemophilus paragallinarum))
マイコプラズマ・ガリセプチカム感染症(病原体:Mycoplasma gallisepticum)
産卵低下症候群-1976(EDS-76)(病原体:Egg Drop Syndrome Virus)
鶏大腸菌症(病原体:Escherichia coli)
【0079】
また、感染症としては、家畜伝染病予防法に定める家畜伝染病(法定伝染病)や届出伝染病も挙げられる。家畜伝染病予防法に定める家畜伝染病(法定伝染病)および届出伝染病ならびにそれらの原因となり得る病原体については、例えば、農研機構のウェブサイト(https://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_fact/kansi.html)で確認できる。
【0080】
本明細書に記載のワクチンの投与方法は、本明細書に記載のワクチンの効果が得られる限り、特に制限されない。本明細書に記載のワクチンの投与方法は、動物の種類、感染症の種類、抗原の種類等の諸条件に応じて、適宜選択できる。本明細書に記載のワクチンの
投与ルートとしては、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、眼内投与、気管内投与、鼻腔内投与が挙げられる。本明細書に記載のワクチンの投与ルートとしては、特に、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、眼内投与が挙げられる。一態様において、本明細書に記載のワクチンによれば、例えば、接種部位への副反応を抑制することができると期待されるため、本明細書に記載のワクチンは、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、眼内投与等の投与ルートに好適であり得る。本明細書に記載のワクチンは、そのまま、あるいは投与に適した形状に適宜調製して、動物に投与することができる。例えば、液体である本明細書に記載のワクチンを、そのまま、あるいは適宜希釈等して、動物に投与してよい。また、例えば、液体でない本明細書に記載のワクチンを、そのまま、あるいは適宜液体に調製して、動物に投与してよい。
【0081】
本明細書に記載のワクチンは、単独で利用してもよく、他のワクチンとの混合ワクチン製剤として利用してもよい。すなわち、本発明は、本明細書に記載のワクチンと他のワクチンとの混合ワクチン製剤も開示する。他のワクチンとしては、動物の感染症を予防、軽減又は治療するためのワクチンが挙げられる。他のワクチンの適用対象とする感染症は、本明細書に記載のワクチンの適用対象とする感染症と同一であってもよく、なくてもよい。他のワクチンの適用対象とする感染症は、1種の感染症であってもよく、2種またはそれ以上の感染症であってもよい。他のワクチンの適用対象とする動物は、本明細書に記載のワクチンの適用対象とする動物と同一であってもよく、なくてもよい。他のワクチンは、典型的には、少なくとも、本明細書に記載のワクチンの適用対象とする動物の一部または全部を適用対象としてよい。他のワクチンの適用対象とする動物は、1種の動物であってもよく、2種またはそれ以上の動物であってもよい。他のワクチンとしては、1種類のワクチンを用いてもよく、2種類またはそれ以上のワクチンを用いてもよい。
【0082】
本明細書に記載のワクチンの投与量は、1ドース当たりのカチオン性脂質の投与量に換算して、例えば、1 nmol以上、2 nmol以上、5 nmol以上、10 nmol以上、20 nmol以上、50
nmol以上、100 nmol以上、200 nmol以上、または500 nmol以上であってもよく、1000 nmol以下、500 nmol以下、200 nmol以下、100 nmol以下、50 nmol以下、20 nmol以下、10 nmol以下、5 nmol以下、または2 nmol以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。本明細書に記載のワクチンの投与量は、1ドース当たりのカチオン性脂質の投与量に換算して、具体的には、例えば、1~2 nmol、2~5 nmol、5~10 nmol、10~20 nmol、20~50 nmol、50~100 nmol、100~200 nmol、200~500 nmol、または500~1000 nmolであってもよい。本明細書に記載のワクチンの投与量は、1ドース当たりのカチオン性脂質の投与量に換算して、具体的には、例えば、1~1000 nmol、2~500 nmol、または5~200 nmolであってもよい。
【0083】
本明細書に記載のワクチンの投与回数は、例えば、1回であってもよく、2回またはそれ以上であってもよい。
【0084】
<2>ワクチンの利用
本明細書に記載のワクチンは、例えば、動物の感染症を予防、軽減又は治療するために利用できる。すなわち、本明細書は、動物の感染症を予防、軽減又は治療する方法であって、本明細書に記載のワクチンを動物に投与する工程を含む方法を提供する。
【0085】
本明細書に記載のワクチンの適用対象とする動物および感染症については上述の通りである。
【0086】
本明細書に記載のワクチンの投与ルートや投与量等の投与方法については上述の通りである。
【実施例0087】
以下、非限定的な実施例を参照して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0088】
実施例1 アジュバントの調製および物性評価
1.アジュバントの調製
実施例1~3においては、ssPalmEC-LNPをアジュバントとして使用した。ssPalmEC-LNPは、以下の手順で調製した。
【0089】
(1)各脂質のエタノール溶液の調製
ssPalmE-P4C2(COATSOME(登録商標)SS-EC、油化産業株式会社製)、コレステロール(シグマ社製)、およびDOPE(18:1 deruta9-cis 1,2-dioleolyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine、Avanti社製)は、それぞれ、99.5%エタノールを加えて溶解し、5 mMエタノール溶液を調製した。DMG-PEG 2000(SUN BRIGHT(登録商標)、油化産業株式会社製)は、99.5%エタノールを加えて溶解し、1 mMエタノール溶液を調製した。各脂質エタノール溶液は-20℃で保存した。
【0090】
(2)緩衝液の調製
リンゴ酸(ナカライテスク株式会社製)と塩化ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)を蒸留水で溶解し、NaOHでpH3.0になるように調整して、20 mMリンゴ酸30 mM塩化ナトリウム水溶液(pH3.0)(以下、「リンゴ酸緩衝液」ともいう)を調製した。リンゴ酸緩衝液は、孔径0.2μmのフィルターでろ過し、4℃で保存した。
【0091】
MES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid、ナカライテスク株式会社製)を蒸留水で溶解し、NaOHでpH5.5になるように調整して、20 mM MES水溶液(pH5.5)(以下、「MES酸緩衝液」ともいう)を調製した。MES緩衝液は孔径0.2μmのフィルターでろ過し、4℃で保存した。
【0092】
(3)エタノール希釈法によるssPalmEC-LNPの調製
5 mM ssPalmE-P4C2エタノール溶液を0.473 mL、5 mM DOPEエタノール溶液を0.237 mL、5 mM コレステロールエタノール溶液を0.079 mL、および1 mM DMG-PEG 2000エタノール溶液を0.118 mL(モル比でssPalmE-P4C2:DOPE:コレステロール:DMG-PEG 2000 = 60:30:10:3)混合し、99.5%エタノールを3.093 mL加えて希釈して脂質エタノール混合溶液4 mLを作製した。脂質エタノール混合溶液0.4 mLとリンゴ酸緩衝液0.6 mLをマイクロ流路(iLiNP(登録商標)1.0、ライラックファーマ社製)を用いて脂質エタノール混合溶液 0.3 mL/分、リンゴ酸緩衝液 0.45 mL/分、合計0.75 mL/分で80秒間混合した。これを10回繰り返して10 mLのssPalmEC-LNP溶液を得た。等量のMES酸緩衝液を加えて混合した後、限外濾過膜で緩衝液とエタノールをD-PBS(-)(リン酸緩衝生理食塩水、ナカライテスク株式会社製)で置換した。具体的には、アミコンウルトラ-15チューブ(分画分子量50kDa、シグマ社製)のカップにMES緩衝液で希釈したssPalmEC-LNP溶液を入れて1000×gで遠心して濃縮した。濃縮液にD-PBS(-)を標線まで加えて、再度、同じ条件で遠心した。この操作をもう一度繰り返して、濃縮液を回収した。D-PBS(-)で限外濾過膜を洗浄しながら残りのssPalmEC-LNPを回収し、総量を1 mLとした。回収したssPalmEC-LNPは4℃で保存した。回収したssPalmEC-LNPの脂質濃度は4 μmol/mLであった。
【0093】
2.アジュバントの物性評価
ssPalmEC-LNPの粒子径、多分散指数(PdI)、及びゼータ電位は、動的光散乱法(Zetasizer nano ZS、Malvern社)により測定した。測定結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
実施例2 ワクチンの調製および評価(1)
1.ワクチンの調製
(1)不活化牛ウイルス性下痢ウイルス1型(Nose-KB株)の調製
MDBK細胞(理化学研究所の細胞バンクより入手後、浮遊培養に順化)を3 vol%の牛胎仔血清(Hyclone)を加えた細胞増殖用培養液(3%トリプトース・ホスフェイト・ブロス、0.03% L-グルタミンを含むイーグルMEM(日水製薬株式会社))を用いて、37℃で浮遊培養した。細胞濃度を8.6×105 cells/mLに調整し、1mL当たり104.0TCID50以上となるよう、牛ウイルス性下痢ウイルス1型 Nose-KB 株を接種した。この細胞およびウイルスの懸濁液を1 vol%の牛胎仔血清(Low IgG)(Invitrogen)を加えたウイルス増殖用培養液(2.5 vol%ラクトアルブミン水解物溶液、0.1 w/v%バクトペプトン、0.15 w/v%グルコースを含むイーグルMEM(日本製薬))に播種して37℃で3日間回転培養した後、12,800×gで遠心し、遠心上清を回収した。遠心後の培養上清を分画分子量50 kDaの限外濾過膜(KrosFlo製、K25S-300-01N)を用いて約1/10量に濃縮した。得られたウイルス浮遊液に0.1 vol%になるようにホルマリン(健栄製薬)を加えた。2~5℃で4週間感作して不活化した。これを免疫用抗原BVD1-NoKとした。
【0096】
(2)ワクチンの調製
不活化前ウイルス量として108.72TCID50のBVD1-NoK抗原にssPalmEC-LNPを1ドースあたりそれぞれ50 nmol、150 nmol、および450 nmol(総脂質量として)となるよう加え、リン酸緩衝液及び0.1 vol%ホルマリン加イーグルMEMで12 mLに調製したものを、それぞれ、検討ワクチンA、B、およびCとした。また、検討ワクチンA~Cと同量のBVD1-NoK抗原をリン酸緩衝液及び0.1 vol%ホルマリン加イーグルMEMで12 mLに調整したものを検討ワクチンDとした。
【0097】
2.安全性評価
検討ワクチンA~Dを、それぞれ、以下のようにラットに接種し、ssPalmEC-LNPのアジュバントとしての評価を行った。
【0098】
体重約100 gのラット22匹を用い、検討ワクチンA~Dをそれぞれ5匹に左大腿部と右大腿部に1.0 mLずつ筋肉内注射してA~D群とし、残り2匹はワクチン非接種の対照群(E群)とした。各ラットを21日間飼育した。その結果、A~D群のいずれにおいても、ワクチン接種後の臨床症状およびワクチン接種後21日目の接種部位の局所反応ともに異常は観察されなかった。以上の結果から、ssPalmEC-LNPの安全性は高いことが実証された。
【0099】
3.有効性評価
上記安全性評価において、ワクチン接種後21日目にラットから採血し、血清を得た。血清(4群×5個体+対照群2個体の合計22検体)を用いて中和抗体価を測定した。動物用生
物学的製剤基準「牛伝染性鼻気管炎・牛ウイルス性下痢2価・牛パラインフルエンザ・牛RSウイルス感染症混合(アジュバント加)不活化ワクチン」(平成14年10月3日農林水産省告示第1567号)3.5.7.2.2に基づいて中和抗体価測定を測定した。細胞としてはMDBK-NST細胞(理化学研究所の細胞バンクより購入)を使用した。培養細胞の2穴上にCPEの阻止を認めた血清の最高希釈倍数を中和抗体価とした。各群の中和抗体価の幾何平均値(GM)を算出してt検定を行った。
【0100】
結果を
図1に示す。D群(ssPalmEC-LNP添加なしのワクチン接種群)とE群(ワクチン非接種群)では抗体価は上昇せず、ssPalmEC-LNPを添加したワクチン接種群(A~C群)では抗体価が上昇した。また、t検定の結果、B群の抗体価はD群の抗体価より有意に高かった。以上の結果から、ssPalmEC-LNPはアジュバントとしての効果を有することが実証された。さらに、B群の結果は動物用生物学的製剤基準「牛伝染性鼻気管炎・牛ウイルス性下痢2価・牛パラインフルエンザ・牛RSウイルス感染症混合(アジュバント加)不活化ワクチン」(平成14年10月3日農林水産省告示第1567号)の基準値以上の値を示し、国家検定に合格する成績であった。
【0101】
実施例3 ワクチンの調製および評価(2)
1.ワクチンの調製
抗原としては、クロストリジウム・セプチカム(C. septicum)のトキソイドを使用した。C. septicum No.44T株をクックドミート培地(Becton Dickinson and Company社製)を用いて(37℃で)20時間培養し、ついで0.3 w/v% ブドウ糖(富士フィルム和光純薬(株)社製)、0.05 w/v% L-システイン塩酸塩一水和物(ナカライテスク社製)を含有した豚BHI培地(Becton Dickinson and Company社製)に継代し24時間培養した。培養液を(12,800×gで)遠心して培養上清を回収した。培養上清中の毒素を動物用生物学的製剤基準 牛クロストリジウム感染症5種混合(アジュバント加)トキソイド(平成22年4月22日 農林水産省告示第646号) 3.1.2毒力試験法で測定したところ、12,800 CU/mLであった。培養上清に0.4 vol%ホルマリン(健栄製薬社製)を添加し37℃で3日間処理することで無毒化した。処理物を26倍に濃縮し、0.1 vol%ホルマリンを添加し37℃で1晩処理して抗原として用いるトキソイドを得た。1ドース当たり57,574 CU相当のトキソイドにssPalmEC-LNPは表1に示す量で添加し、リン酸緩衝食塩液(PBS)を加えて全量を0.4 mLとし、検討ワクチンA~Dを得た。
【0102】
【0103】
2.力価試験
検討ワクチンA~Dをモルモット(Hartley、5週齢、雌)に0.4 mLずつ大腿部筋肉内に投与した(1回目のワクチン投与)。1回目のワクチン投与の2週間後に検討ワクチンを同量投与し(2回目のワクチン投与)、2回目のワクチン投与後10日目に適切な麻酔下で心採血した。血液は3500rpmで15分間遠心して血清を分離した。血清の中和抗体価は動物用生物学的製剤基準 牛クロストリジウム感染症5種混合(アジュバント加)トキソイド(平成22年4月22日 農林水産省告示第646号)に基づいて以下の手順で測定した。
【0104】
血清を細胞培養液(0.29 5w/v% トリプトース・ホスフェイト・ブロス、0.0292 w/v% L-グルタミン、5 v/v% 牛胎児血清(56℃、30分間非働化)を添加したイーグルMEM(日本製薬社製))で5倍希釈より2倍階段希釈した。中和用毒素としては、C. septicum培養上清を孔径450nm以下のメンブラン・フィルタ(ミリポア社製)で濾過し、4 CUとなるように細胞培養液で希釈したものを用いた。希釈した血清と中和用毒素を等量混合し、37℃で1時間中和感作し、検体とした。96穴プレートにVero細胞のセルシートに検体を100 μL/穴ずつ加え、37℃、5 vol%炭酸ガス下で1日間培養し、細胞変性効果(CPE)を観察した。培養細胞の50%以上のCPEを抑制した血清の最高希釈倍数を中和抗体価とした。
【0105】
結果を表2に示す。ssPalmEC-LNPの混合量に応じて、誘導された中和抗体価が増加した。抗原のみの投与群(ワクチンD投与群)と比較し、50 nmol lipid/d投与群(ワクチンB投与群)では約8倍、150 nmol lipid/d投与群(C群)では約18倍の中和抗体価を示し、ssPalmEC-LNPはアジュバントとしての効果を有することが実証された。さらに、このうち、B群およびC群の値は動物用生物学的製剤基準 牛クロストリジウム感染症5種混合(アジュバント加)トキソイド(平成22年4月22日 農林水産省告示第646号)の基準値以上の値を示し、国家検定で合格する成績であった。
【0106】
3.安全性確認試験
安全性確認試験を力価試験と同時に実施した。モルモットの各個体はアニマルマーカーで識別した。力価試験における1回目のワクチン投与の当日、1日後、および2日後に体重
測定および臨床観察をした。
【0107】
その結果、局所および全身の臨床観察では、いずれの群においても、著変は認められなかった。体重測定では、同日のワクチンDを投与した群の体重とワクチンA~Cを投与した群の体重との間に有意差は認められなかった。
【0108】
実施例4 アジュバントの調製(2)
ssPalmEC-LNP、SM-102-LNP、及びALC-0315-LNPの調製に用いた各脂質エタノール溶液を次のように調製した。なお、SM-102及びALC-0315はそれぞれ、新型コロナウィルスワクチンであるスパイクバックス及びコミナティにそれぞれ含有されるカチオン性脂質の名称である。
ssPalmEC-LNP:ssPalmE-P4C2(COATSOME(登録商標)SS-EC、日油株式会社製)、コレステロール(東京化成工業株式会社製)、DOPE(COATSOME ME-8181、日油株式会社製)、DMG-PEG-2000(SUNBRIGHT GM-020、日油株式会社製)は99.5%エタノールを加えて溶解し、10 mg/mL ssPalmE-P4C2、1.935 mg/mLコレステロール、3.72 mg/mL DOPE、2.503 mg/mL DMG-PEG-2000となるようにストックエタノール溶液を作製した(表3中列)。
ストックエタノール溶液を表3の「LNP調製」列に示す容量でエタノールと混合し、ssPalmEC-LNP用脂質エタノール溶液を準備した。
【0109】
【0110】
SM-102-LNP:SM-102(Cayman社製)、コレステロール(東京化成工業株式会社製)、DSPC(COATSOME MC-8080、日油株式会社製)、DMG-PEG-2000(SUNBRIGHT GM-020、日油株式会社製)は99.5%エタノールを加えて溶解し、100 mg/mL SM-102、7.731 mg/mLコレステロール、15.8 mg/mL DSPC、25.03 mg/mL DMG-PEG-2000となるようにストックエタノール溶液を作製した(表4中列)。
ストックエタノール溶液を表4の「LNP調製」列に示す容量でエタノールと混合し、SM-102-LNP用脂質エタノール溶液を準備した。
【0111】
【0112】
ALC-0315-LNP:ALC-0315(Cayman社製)、コレステロール(東京化成工業株式会社製)、DSPC(COATSOME MC-8080、日油株式会社製)、ALC-0159(Cayman社製)は99.5%エタノールを加えて溶解し、50 mg/mL ALC-0315、7.731 mg/mLコレステロール、15.8 mg/mL DSPC、100 mg/mL ALC-0159となるようにストックエタノール溶液を作製した(表5中列)。
ストックエタノール溶液を表5の「LNP調製」列に示す容量でエタノールと混合し、ALC-0315-LNP用脂質エタノール溶液を準備した。
【0113】
【0114】
各LNPの調製はエタノール希釈法に従った。すなわち、前述のとおり調製した各LNP用脂質エタノール溶液を用いて、マイクロ流路(iLiNP(登録商標)1.0、ライラックファーマ社製)を使用してLNPを調製した。シリンジポンプはYSP-101(標準タイプ、株式会社ワイエイシイ製)を2台使用した。脂質エタノール溶液とPBS(ナカライテスク株式会社製)をガラスシリンジにそれぞれ充填し、LNP用脂質エタノール溶液を流速0.45 mL/min、PBSを0.30 mL/minでマイクロ流路に注入、混合し、LNP溶液を得た。調製されたLNP溶液は限外濾過(アミコンウルトラ―15チューブ、100 kDa、メルク社製)を用いて、計算上エタノール濃度が1%未満になるまでPBSにバッファー置換した。調製したLNPは4℃で保存した。
各LNPの物性データを表6に示した。
【0115】
【0116】
実施例5 ワクチンの調製および評価(3)
1.ワクチンの調製
抗原は、実施例3と同様の方法で作製したクロストリジウム・セプチカムのトキソイドを使用した。1用量当たり57,574 CU相当のトキソイドに、実施例4で調製したssPalmEC-LNP、SM-102-LNP、ALC-0315-LNPを表7のアジュバント欄にしたがって混合した。それぞれのLNPは脂質組成が異なるので、カチオン性脂質量が1用量あたり400nmolとなるよう添加した。リン酸緩衝食塩液(PBS)を加えて全量を0.4mLとし、検討ワクチンE~Gを調製した。アジュバント非添加対照として、検討ワクチンE~Gと同量の抗原とPBSのみで検討ワクチンHを調製した(表7)。
【0117】
2.力価試験
検討ワクチンE~Hを、実施例3と同様の手順でモルモット5頭に接種し、血清の中和抗体価を測定した。結果を表7の中和抗体価欄に示す。個体別の中和抗体価を用いてStudent-t検定(有意水準 <0.05)を実施すると、検討ワクチンHに対し、検討ワクチンEは有意に高かったが、検討ワクチンFおよびGとの間には有意差は認められなかった。検討ワクチンEは、検討ワクチンFおよびGに対しても有意に中和抗体価が高かった。以上から、ssPalmEC-LNPはカチオン性脂質のモル数を揃えた場合、ALC-0315-LNPおよびSM-102-LNPよりも有意に高い中和抗体価を誘導することが示された。各群の等量プール血清の中和抗体価は、検討ワクチンHに対し、検討ワクチンEおよびGで高くなった。検討ワクチンFの中和抗体価は同じであった。
【0118】
【0119】
3.安全性確認試験
実施例3と同様に、安全性確認試験を力価試験と同時に実施した。
その結果、局所および全身の臨床観察では、いずれの群においても、著変は認められなかった。体重測定では、同日の検討ワクチンHを投与した群の体重と検討ワクチンE~Gを投与した群の体重との間に有意差は認められなかった。
【0120】
実施例6 アジュバントの調製(3)
ssPalmEC-LNP、ssPalmOP-LNPおよびLNP w/o cationic lipidの調製に用いた各LNP用脂質エタノール溶液を次のように調製した(なお、w/oはwithoutを意味する)。
ssPalmEC-LNP:ssPalmE-P4C2(COATSOME(登録商標)SS-EC、日油株式会社製)、コレステロール(東京化成工業株式会社製)、DOPE(COATSOME ME-8181、日油株式会社製)、DMG-PEG-2000(SUNBRIGHT GM-020、日油株式会社製)は99.5%エタノールを加えて溶解し、7.01 mg/mL ssPalmE-P4C2、1.935 mg/mLコレステロール、3.72 mg/mL DOPE、2.503 mg/mL DMG-PEG-2000となるようにストックエタノール溶液を作製した(表8中列)。
ストックエタノール溶液を表8の「LNP調製」列に示す容量でエタノールと混合し、ssPalmEC-LNP用脂質エタノール溶液を準備した。
【0121】
【0122】
ssPalmOP-LNP:ssPalmOP(COATSOMESS-OP、日油株式会社製)、コレステロール(東京化成工業株式会社製)、DOPE(COATSOME ME-8181、日油株式会社製)、DMG-PEG-2000(SUNBRIGHT GM-020、日油株式会社製)は99.5%エタノールを加えて溶解し、10 mg/mL ssPalmOP、1.935 mg/mLコレステロール、3.72 mg/mL DOPE、2.503 mg/mL DMG-PEG-2000となるようにストックエタノール溶液を作製した(表9中列)。
ストックエタノール溶液を表9の「LNP調製」列に示す容量でエタノールと混合し、ssPalmOP-LNP用脂質エタノール溶液を準備した。
【0123】
【0124】
LNP w/o cationic lipid:コレステロール(東京化成工業株式会社製)、DOPE(COATSOME ME-8181、日油株式会社製)、DMG-PEG-2000(SUNBRIGHT GM-020、日油株式会社製)は99.5%エタノールを加えて溶解し、1.935 mg/mLコレステロール、4 mg/mL DOPE、2.503 mg/mL DMG-PEG-2000となるようにストックエタノール溶液を作製した(表10中列)。
ストックエタノール溶液を表10「LNP調製」列に示す容量でエタノールと混合し、LNP w/o cationic lipid用脂質エタノール溶液を準備した。
【0125】
【0126】
各LNPの調製は実施例4と同様にエタノール希釈法に従った。すなわち、前述のとおり調製した各LNP用脂質エタノール溶液を用いて、マイクロ流路(iLiNP(登録商標)1.0、ライラックファーマ社製)を使用してLNPを調製した。LNP用脂質エタノール溶液を流速0.36 mL/min、PBSを0.12 mL/min、合計0.48 mL/minでLNP溶液を得た。調製されたLNP溶液は限外濾過膜を用いて、0.01mol/L Tris-HCl 10%スクロース緩衝液(pH7.5)に置換した。調製したLNPは4℃で保存した。この時の物性データを表11に示す。
【0127】
【0128】
実施例7 ワクチンの調製および評価(4)
1.ワクチンの調製
抗原としては、実施例3と同様の方法で得たクロストリジウム・セプチカム(C. septicum)のトキソイドを使用した。1用量当たり57,574 CU相当のトキソイドに、実施例4で調製したssPalmEC-LNP、ssPalmOP-LNPを、表12のアジュバント欄にしたがって混合した。2つのLNPは脂質組成が異なるので、総脂質量が1用量あたり800μgとなるように添加した。リン酸緩衝食塩液(PBS)を加えて全量を0.4 mLとし、検討ワクチンI~Kを調製した。対照として、アジュバントを加えない検討ワクチンLを設定した(表12)。
【0129】
2.力価試験
検討ワクチンI~Lを、実施例3と同様の手順でモルモットに接種し、血清の中和抗体価を測定した。有意水準5%でStudent-t検定を実施すると、ssPalmEC-LNP(検討ワクチンI)はssPalmOP-LNP(検討ワクチンJ)およびLNP w/o cationic lipid (検討ワクチンK)より有意に高い中和抗体価を誘導することが示された(表12)。各群の等量プール血清の中和抗体価は、検討ワクチンLに対し、検討ワクチンJおよびKで若干高くなった。また、検討ワクチンJは検討ワクチンKより若干高く、有意差はないが、弱いアジュバント効果が示唆された。
【0130】
【0131】
3.安全性確認試験
実施例3と同様の手順で安全性確認試験を実施した。その結果、いずれの群においても局所および全身の臨床観察で著変を認めなかった。また、各群の有意水準5%でStudent-t検定を実施すると、アジュバント非添加対照(検討ワクチンL)投与群と検討ワクチンJ、K投与群の増体比との間に有意差は認められなかった。検討ワクチンI投与群において、1回目接種後1日目での増体比が、検討ワクチンL投与群と比較して有意に低くなったものの、1回目接種後2日目以降においては検討ワクチンL投与群と同等となった。
【0132】
実施例8 アジュバントの調製(4)
ssPalmEC-LNPの調製に用いた各脂質エタノール溶液の調製は、実施例6のように実施し
た。
ssPalmEC-LNPの調製は実施例6のようにエタノール希釈法に従った。すなわち、脂質溶液を表13に示す量で混合し、脂質エタノール溶液を調製した。LNPの調製には、マイクロ流路を使用した。脂質エタノール溶液を流速0.36 mL/min、PBSを0.12 mL/min、合計0.48 mL/minで脂質エタノール溶液を全量使用するまで混合した。調製されたLNP溶液は限外濾過膜を用いて、0.01mol/L Tris-HCl in 10%スクロース緩衝液(pH7.5)にバッファー置換した。調製したLNPは4℃で保存した。
このLNPの物性データを表14に示す。
【0133】
【0134】
【0135】
実施例9 ワクチンの調製および評価(5)
1.不活化菌体の調製
動物用生物学的製剤基準 ニューカッスル病・鶏伝染性気管支炎・鶏伝染性コリーザ(A・C型)・マイコプラズマ・ガリセプチカム感染症混合(油性アジュバント加)不活化ワクチン(シー ド)(令和5年1月27日 農林水産省告示 第134号)に準拠して以下のとおり抗原を調製した。すなわち、アビバクテリウム・パラガリナルムC型菌 KA株を鶏伝染性コリーザA型及びC型に対する抗体が陰性の鶏非働化血清5v/v%、β-NADを0.01w/v%を含有した3.7w/v%豚由来BHI培地に接種して24時間37℃で培養した。培養菌液に界面活性剤を添加して処理した後、遠心して濃縮し、β-プロピオラクトン0.1vol% を加え、2~5℃で44時間静置して不活化したものを後述の試験で抗原として用いた。
【0136】
2.ワクチンの調製
不活化前生菌数として1用量当たり3.6×107 個、アジュバントとして実施例6で調製したssPalm EC-LNPを1用量当たりそれぞれ50nmol、200nmol、800nmolとなるよう加え、リン酸緩衝食塩液(PBS)で調整したものを順に検討ワクチンA,B,Cとした。また、アジュバントを使用せず検討ワクチンA~Cと同量の抗原のみをPBSで調整したものを検討ワクチンDとした(表15)。
【0137】
【0138】
3.ワクチンの接種及び評価
SPF鶏を各試験区につき10羽用いた。作製した検討ワクチン4種について、4週齢 SPF鶏の脚部筋肉内に各免疫原0.5mL/羽を注射して免疫し、5週間飼育した。また、試験期間を通じて臨床観察を行い、接種部位の観察を実施した。
免疫してから5週間後に採血し、血清を得た。酵素免疫測定法(競合ELISA)にて抗原に対する抗体力価(反応阻止率)を下記の手順で測定した。検体はすべて二重測定とし、試験区別に平均値を算出し、対照群との有意差検定をStudent t-testで行った。
【0139】
前述した抗原(アビバクテリウム・パラガリナルムC型菌 KA株不活化菌体)を超音波破砕したものを、50mMの炭酸塩/重炭酸塩緩衝液中で5μg/mLまで希釈し、96 well ELISAプレート(Fisher Scientific社製)のそれぞれのウェルに100μLずつ加え、一晩コーティングした。プレートを0.05%Tween含PBS(PBS-T)で洗浄し、30℃で1時間、1%ウシ血清アルブミン(BSA)(Wako社製)を含むPBS-Tでブロッキングした。プレートをPBS-Tで洗浄後、各血清試料と参照陰性血清及び参照陽性血清100μLをそれぞれ2wellずつ加え(二重測定)、30℃で1時間インキュベートした。プレートをPBS-Tで洗浄し、抗IC-C型モノクローナル抗体6ng/mLを100μL/well添加し、30℃で一時間感作させた。プレートをPBS-Tで洗浄し、HRP標識抗マウス IgG抗体を16,000倍希釈して100μL/well添加し、30℃で一時間感作させ、PBS-Tで洗浄後、TMB substrate kit (Thermo Fisher社製)を100μl/wellで添加し、30℃で30分間反応させ、1M 硫酸を100μl/well添加し反応停止させた。450nmの吸光度を測定し、次の計算式により反応阻止率を算出し、力価とした。
反応阻止率(%)= 100-[(被検血清のOD×100)÷(陰性血清のOD)]
力価の間の統計的差異を、Student-t-検定法を用いて、有意水準1%にて検定した。
【0140】
4.安全性の評価
試験期間を通じて、ワクチン接種による鶏の異常は認められなかった。また、免疫後、注射部位に腫脹や硬結などの副反応は認めなかった。
【0141】
5.抗体誘導能の評価
ssPalm EC-LNPをアジュバントとして使用したワクチンを接種したA~C群は、アジュバントを用いなかったD群に対して統計学的に有意な抗体価の上昇を認め、抗体価とssPalm
EC-LNPの含有濃度には正の相関があった(表16、
図2)。以上の結果から、ssPalm EC-LNPは鶏に対して用量依存的にアジュバント効果を有することが実証された。
【0142】