(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112315
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】脱脂構造体の製造方法及び脱脂構造体を用いた焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/10 20060101AFI20240813BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20240813BHJP
B22F 10/00 20210101ALN20240813BHJP
【FI】
B22F3/10 C
B22F3/02 M
B22F10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017015
(22)【出願日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2023016866
(32)【優先日】2023-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】508078949
【氏名又は名称】秋岡 芳彦
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】秋岡 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 友厚
(72)【発明者】
【氏名】山口 真平
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA33
4K018BA17
4K018BC12
4K018CA09
4K018DA03
4K018DA31
4K018HA03
(57)【要約】
【課題】ポリアセタール樹脂と金属粉末とを含有する混合材料を用いて成形した樹脂構造体を脱脂するにあたり生じる酸性排気ガスを削減する。
【解決手段】別途添加酸を介在させずに、前記樹脂構造体から生じさせたギ酸存在下で脱脂して脱脂構造体を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解してカルボン酸のガスを生じうる樹脂と金属粉末とを含有する混合材料を用いて成形した樹脂構造体を、別途添加酸を介在させずに、前記樹脂構造体から生じさせたカルボン酸存在下で脱脂して脱脂構造体を得る、脱脂構造体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂がポリアセタール樹脂であり、前記カルボン酸がギ酸である、請求項1に記載の脱脂構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の脱脂構造体の製造方法で得られた脱脂構造体を焼結して焼結体を得る、焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂構造体の脱脂に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタによって成形体を製造することが一般的に行われている。その一つとして、金属粉末と熱可塑性樹脂とを含んだ混合材料で3Dプリンタにより積層成形した積層構造体(グリーン体)を、成形後に加熱して熱可塑性樹脂を除去して脱脂したブラウン体とし、このブラウン体を焼結させて、焼結体とする手法が行われている。
【0003】
焼結前の脱脂にあたっては、バインダーとして用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適切な方法で熱可塑性樹脂を除去することが求められる。3Dプリンタ用樹脂材料として使われるポリアセタール(ポリオキシメチレン)を熱可塑性樹脂として用いる場合、硝酸ガスなどの酸を導入した環境下でポリアセタールを酸分解処理しながら加熱して除去する方法が知られている。例えば特許文献1には、金属粉末とバインダーからなる成形品からバインダーを除去する脱脂触媒として硝酸、シュウ酸、ギ酸および酢酸から選択される少なくとも1つの酸(請求項11)を添加して加熱する手法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリアセタール樹脂を含む支持材料から、キャリアガスにギ酸を混合して導入して脱脂する手法が提案されている。さらに、特許文献3には、無機焼結成形体の製造方法として、ギ酸気体を導入して樹脂を分解し、換気扇を作動させて成形体から結合剤を除去し続ける手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013-524006号公報
【特許文献2】特表2020-500754号公報
【特許文献3】特開平3-170624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、硝酸ガスなどの酸を添加して行う酸添加脱脂では、脱脂されるポリアセタールとともに酸性ガスが大量に生じるため、キャリアガスを導入したり、ドラフトで除去し続けたりする必要があった。これにより、大量の酸性ガスが生じることになり、その排ガス処理が問題となってしまった。
【0007】
そこでこの発明は、焼結成形体を得るにあたり、グリーン体をブラウン体に脱脂する際に、従来よりも排出する酸性ガスを抑制し、作業負荷及び環境負荷を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、分解してカルボン酸のガスを生じる樹脂と金属粉末とを含有する混合材料を用いて成形した樹脂構造体を、別途添加酸を介在させずに、前記樹脂構造体から生じさせたカルボン酸存在下で脱脂して脱脂構造体を得ることにより、上記の課題を解決したのである。
【0009】
具体的には、前記樹脂としてはポリアセタール樹脂、分解して生じるカルボン酸としてはギ酸が挙げられる。
【0010】
別途添加酸を介在させずに、とは、前記樹脂構造体から生じさせたカルボン酸以外の酸を介在させずに脱脂することを意味する。前記樹脂構造体から生じさせたカルボン酸以外の酸とは、硫酸、硝酸といったカルボン酸ではない酸だけでなく、カルボン酸であっても前記樹脂構造体から生じた以外のカルボン酸も介在しないということである。当然にこれらの酸は一切添加しないことが望ましいが、仮に微量を添加したとしても実質的に脱脂に関与しない程度に、前記樹脂構造体から生じたカルボン酸のみが関与するようにする。すなわちこの発明は、前記樹脂構造体を加熱することで、前記樹脂構造体が有する樹脂それ自体を分解して生じるカルボン酸を、ガスフローさせることなく前記樹脂構造体の周囲に留め続けることで、前記樹脂構造体の周囲に高濃度のカルボン酸気体環境を形成し、その状態を維持することで、別途添加する酸を用いることなくカルボン酸による脱脂を進行させる。
【発明の効果】
【0011】
この発明にかかる樹脂構造体の脱脂方法によることで、生じる酸含有排気ガスは、元の樹脂構造体が成形するために含有していた樹脂由来のカルボン酸によるものだけとなる。従来は別途添加する酸による酸含有排気ガスも処理しなければならなかったが、その処理負担を無くすことができる。また、従来は別途添加する酸による場合は系内の酸濃度が高くなり過ぎないように排出のためのガスフロー設備も必要となっていたが、そのような設備も不要であり、よりコンパクトな装置での脱脂が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明にかかる脱脂構造体の製造方法に用いる加熱用の容器の例を示す模式図
【
図3】実施例及び参考例での、連続加熱時間に対する質量変化率を示すグラフ
【
図4】実施例及び参考例での脱脂完了した試料と完了しなかった試料を示す写真
【
図5】追加実施例における時間変化に対するホルムアルデヒドとギ酸濃度の変遷を示すグラフ
【
図6】追加実施例における時間変化に対するサンプルの質量変化を示すグラフ
【
図7】追加実施例におけるギ酸濃度と質量減少率の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施形態について具体的に説明する。この発明は、金属粉末と、分解してカルボン酸のガスを生じる樹脂とを含んだ混合材料で3Dプリンタ等により成形した樹脂構造体(例:グリーン体)を、成形後に加熱して熱可塑性樹脂を除去する脱脂した脱脂構造体(ブラウン体)を得る製造方法であり、さらにこのブラウン体を焼結させた焼結体を得る製造方法である。
【0014】
前記金属粉末としては、発明において生じるカルボン酸環境下で腐食しにくいものであることが望ましい。例えばSUS316Lや、SUS630などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。また、前記金属粉末は、前記樹脂構造体を得られるように3Dプリンタなどで出力可能な粒子径であることが望ましい。
【0015】
分解してカルボン酸を生じる樹脂としては、ギ酸ガスを生じるポリアセタール樹脂が挙げられる。ギ酸以外には、酢酸ガスを生じる樹脂であってもよい。中でもポリアセタール樹脂が、生じるギ酸が扱いやすいため好ましい。樹脂の重合度等は特に限定されないが、3Dプリンタにより積層成形できる程度の軟化点を有することが望ましい。
【0016】
前記混合材料は、前記金属粉末と前記樹脂とを含む材料を混合したものである。前記金属粉末と前記樹脂との混合比は、質量比で95:5~80:20であると好ましく、93:7~85:15であるとより好ましい。前記金属粉末が多すぎると、バインダーとなる前記樹脂が少なすぎて、積層成形がしにくくなってしまう。一方で、前記金属粉末が少なすぎると、脱脂した際に形状を保てなくなってしまったり、焼結した際に強度が不十分になってしまったりするおそれがある。
【0017】
前記混合材料は、前記金属粉末と前記樹脂以外にも、本発明の実施を阻害しない範囲でその他の添加物を含んでいてもよい。この添加物としては例えば、樹脂構造体の流動性や造形性を円滑にするためのワックスが挙げられる。
【0018】
この発明にかかる脱脂構造体を得るには、別途添加する酸を介在させずに、前記樹脂構造体から生じさせたカルボン酸存在下で脱脂して脱脂構造体を得る脱脂工程を行う。ここで、別途添加する酸を介在させずに、とは硝酸、シュウ酸などのカルボン酸以外の酸だけでなく、カルボン酸も別途添加した分が実質的に脱脂に関与しない環境である。前記樹脂構造体の樹脂を分解させて生じさせたカルボン酸が前記樹脂構造体の周囲に高濃度で存在する状況を続けることで、その樹脂を分解してさらにカルボン酸を発生させて環境中のカルボン酸濃度を上げていき、脱脂を効率的に進行させる。
【0019】
この脱脂工程の初期段階では前記樹脂構造体の周囲にカルボン酸が存在していないため、酸素存在環境中でわずかに生じる樹脂の酸素による分解を徐々に進行させてカルボン酸を生じさせる。ここで、酸素存在環境としては、通常の空気であってよい。発生させたカルボン酸の放出をできるだけ抑えて、前記樹脂構造体の周辺にとどまらせて、周辺のカルボン酸濃度を徐々に高めていくとよい。
【0020】
この脱脂工程を進行させる際の前記樹脂構造体の温度は、前記樹脂がポリアセタールである場合、150℃以上であると好ましく、160℃以上であるとより好ましい。150℃未満では酸素によるポリアセタールの分解が開始せず、反応が進行しない。160℃以上であると進行速度が実用的になる。一方で190℃以下であると好ましく、180℃以下であるとより好ましく、175℃以下であるとさらに好ましい。180℃を超えると樹脂の軟化が無視できなくなり、190℃を超えると樹脂の軟化が進み過ぎてしまい、成形した前記樹脂構造体の形状を維持できなくなってくるおそれがある。
【0021】
この脱脂工程における前記樹脂構造体の周辺のカルボン酸濃度は、カルボン酸濃度が上昇していく途中段階において、50ppm以上に到達させることが好ましい。カルボン酸濃度が50ppm以上に到達すると、その後の樹脂の分解と脱脂の速度が急激に上昇する傾向にあり、そのまま分解を進行させやすくなる。最終的な段階において100ppm以上に到達していることが好ましく、500ppm以上に到達しているとより好ましい。100ppm未満では前記樹脂構造体の構造次第では内部まで十分なカルボン酸による分解が進行しきらないおそれがある。ただ、実際には50ppmを超えた状態で上記の温度であれば、脱脂工程に用いる装置内の容積が無駄に広くない限りはカルボン酸濃度が十分に上昇していく。なお、脱脂工程に用いる装置にカルボン酸を放出可能な物質を蓄積させていくことで、周辺のカルボン酸濃度をさらに高めていき、500ppm以上にまで高めることも可能である。
【0022】
この脱脂工程で用いる装置は、密封可能であると好ましい。ただし、圧力を調整しながらカルボン酸の濃度が上昇するように、前記樹脂構造体の周辺を囲む装置に外部に抜け出る抜け穴を設けておくとよい。抜け穴にはバルブを設けておき、任意のタイミングで開放したり閉塞させたりできるようにしておくとよい。完全に密封してカルボン酸濃度やその他のガスの量が上昇しすぎると、高圧によって前記樹脂構造体の形状が維持できなくなったり、装置が破損するおそれがあるためである。
【0023】
このような脱脂工程を実現する装置の構造形態例を
図1に示す。3Dプリンタで積層成形して形成させた樹脂構造体11を、耐熱容器12内に入れる。耐熱容器12は上記の脱脂工程を進行させる温度に耐えられる材質でできているとよく、金属製であると加熱しやすく望ましい。耐熱容器12の上方は空いており、開閉可能な蓋13が設けられている。蓋13には、耐熱容器12の内圧が上がると外部へガスを抜け出させることができる程度のガス抜き穴14が設けられている。ガス抜き穴14は1つでもよいが、1つの場合なんらかの理由で閉塞してしまうと内圧が上がり過ぎるおそれがある、安全のために複数個設けられていると好ましい。ガス抜き穴14の径は1mm以上1cm以下程度であるとよい。小さすぎると閉塞するおそれがあり、大きすぎると抜けるカルボン酸ガスが多すぎて耐熱容器12内のカルボン酸濃度の上昇に時間がかかり過ぎてしまう。
【0024】
なお、耐熱容器12の内部から積極的にガスを吸い上げたり、内部のガスを流出させたりする機構は設けないか、仮に設けてあったとしても作動させないことが望ましい。積極的に耐熱容器12内のカルボン酸をできるだけ流出させないようにして、樹脂構造体11の周囲のカルボン酸濃度を高く維持するためである。
【0025】
脱脂工程で生じるカルボン酸は元の樹脂構造体が含有していた樹脂の一部であり、従来の別途に酸を添加して脱脂する手法に比べて、排ガスとして処理しなければならない酸の量は大幅に削減されたものとなる。
【0026】
この発明にかかる製造方法で得られた脱脂構造体(ブラウン体)は、元の樹脂構造体(グリーン体)が有する樹脂の40%以上を除去していることが好ましく、60%以上除去しているとより好ましい。前記樹脂はできるだけ多く除去されていることが望ましく、全量除去されているのが望ましい。ただし、添加物としてワックスを含有している場合は、この製造方法でそのワックスを脱脂することは困難であり、残存する。
【0027】
このため、この発明にかかる製造方法での脱脂を行った後、残存する前記樹脂と、前記樹脂以外のワックスを徹底して除去するために、さらに第二脱脂を行ってもよい。第二脱脂は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で行うとよく、脱脂の温度としては500℃以上800℃以下が好ましい。
【0028】
この発明にかかる製造方法で得られた脱脂構造体は、さらに焼結することで、残りの前記樹脂を除去するとともに、含有する金属粉末を結合させた焼結体を得ることができる。
【実施例0029】
以下、この発明にかかる脱脂構造体の製造方法について、具体例を示す。
混合材料として、ポリアセタール樹脂と鉄鋼粉末とを混合した3Dプリンタ用材料(BASF製:SUS316L)を用い、3Dプリンタにより、外径3cm、内径2cm、高さ3cmの円筒形の樹脂構造体サンプルを成形した。
【0030】
<検証例>
まず、従来の手法として、硝酸存在下で樹脂構造体の脱脂を行った。実験環境を、
図2を用いて説明する。樹脂構造体21をアルミ箔20の上に載せるとともに、同じアルミ箔20の上に、硝酸を入れたシャーレ24を設置する。アルミ箔20はホットプレート25で加熱できるようになっている。樹脂構造体21とシャーレ24とを覆うように、ガラス蓋23を被せてある。ガラス蓋23の中央にはドラフトへ硝酸ガスを排気するための排気管26が取り付けてあり、ドラフトで排気し続ける。
【0031】
この環境で、上記の条件で作製した樹脂構造体のサンプル4つについて、加熱前にあらかじめ質量を測定し、加熱処理時の温度と加熱処理時間を変えた検証例1~4を実施して、加熱後の質量を測定して、脱脂されたポリアセタール樹脂量を算出した。その結果を下記表1に示す。
【0032】
【0033】
これにより、樹脂構造体に含まれるポリアセタール樹脂のうち、60質量%程度は脱脂処理可能であることが示された。
【0034】
<実施例>
上記の樹脂構造体のサンプルを、
図1に示す耐熱容器に入れ、全体を電気炉で加熱して脱脂工程を行った。
【0035】
(参考例1)
一のサンプルの質量を測定し、耐熱容器内に据えて蓋をし、装置全体を電気炉で160℃に加熱する工程を12時間行った後、電気炉から取り出して蓋を開けて耐熱容器から取り出し、質量を測定した。質量測定後は耐熱容器に戻して蓋を閉め、電気炉内の脱脂装置内に戻して6時間加熱したのちに再び取り出して質量を測定した。これを6時間ごとに繰り返した。この質量の加熱前からの質量変化率を算定し、
図3のグラフに示す。
【0036】
(実施例1)
一のサンプルの質量を測定し、耐熱容器内に据えて蓋をし、装置全体を電気炉で160℃に加熱する工程を10時間行った後、電気炉から取り出して蓋を開けて耐熱容器から取り出し、質量を測定した。質量測定後は耐熱容器に戻して蓋を閉め、電気炉内の脱脂装置内に戻して10時間加熱したのちに再び取り出して質量を測定した。これを10時間ごとに繰り返した。この質量の加熱前からの質量変化率を算出し、
図3のグラフに示す。
【0037】
(実施例2)
一のサンプルの質量を測定し、耐熱容器内に据えて蓋をし、装置全体を電気炉で160℃に加熱する工程を10時間行った後、電気炉から取り出して蓋を開けて耐熱容器から取り出し、質量を測定して質量変化率を算出した。次に、別のサンプルを用いて、加熱する工程を20時間に変更した以外は同様に加熱して、加熱後の質量を測定して質量変化率を算出した。同様に、それぞれ別のサンプルを用いて、加熱する時間を25時間、30時間、40時間、60時間として、加熱前後の質量変化率を算出した。これらの質量変化率を
図3のグラフに示す。
【0038】
(考察)
参考例1と実施例1を対比すると、質量変化率すなわち脱脂の進行が、最初の10時間経過後と12時間経過後では、12時間経過させた参考例1の方が進行していた。しかし、参考例1が6時間ごとに耐熱容器を開放して内部に蓄積されたギ酸を放出してしまったため、24時間経過後の参考例1は、開放回数が1回少ない実施例1の20時間経過後よりも質量変化率が劣る結果となった。実施例1ではその後20時間経過後から30時間経過後は、大きく質量変化率を低下させており、ギ酸が発生しやすい状態になるとその後の脱脂の進行も加速していくものと推測された。さらに、それぞれ最終的な質量変化率の測定まで一度も耐熱容器を開放しなかった実施例2のそれぞれの値と比べると、25時間経過から30時間経過後には、途中で一旦開放した実施例1よりも開放しなかった実施例2のそれぞれのサンプルの方が、優れた質量変化率を示した。40時間、60時間を経過させたサンプルでは、元々の樹脂構造体に含まれるポリアセタール樹脂の大半が脱脂されるようになった。装置を開放することなく、発生するギ酸による高濃度環境を維持することで、効率的に脱脂ができることが確かめられた。
【0039】
<有効濃度の検証>
上記実施例1と同様に、サンプルを耐熱容器内に入れて蓋をし、装置全体を所定の温度で所定時間加熱して脱脂を行った。所定時間経過後に、ガス抜き穴にホースを挿入し、ホースの反対側を注射器と接続した。バルブを開けて注射器に内部のガスを100ml分吸引した後、バルブを閉めてホースを取り外した。100ml用ガス検査測定器(光明理化学工業株式会社製Tube No.216S)に注射器内部のガスを20ml分導入させた。すなわち、吸い込み量は検査測定器の既定値100mlの1/5である20mlに調整し、検出可能上限を5倍にして測定した。その後、容器を開放して脱脂を試みた試料の質量を測定して脱脂の進行を確認した。
【0040】
(参考例2)
電気炉及び装置全体を洗浄した後、炉内温度を140℃として30時間後に試料を取り出したところ、試料は十分に脱脂されておらず、表面がまだら模様となっていた。
【0041】
(実施例3)
炉内温度を145℃とし、22時間後の炉内のギ酸濃度が150ppmとなるように加熱したところ、樹脂分のほぼ全量が脱脂されて完全脱脂が完了した。この試料の写真を
図4の左2つとして示す。
【0042】
(参考例3)
炉内温度を110℃とし、22時間後の炉内のギ酸濃度が60ppmとなるように加熱したところ、サンプル表面の積層構造がそのまま残っており、脱脂が進行していなかった。この試料の写真を
図4の右2つとして示す。
【0043】
(実施例4)
実施例3、参考例2を行った電気炉で、日を改めた後で、炉内温度を140℃とし、30時間後の炉内のギ酸濃度が200ppmとなるように加熱したところ、樹脂分のほぼ全量が脱脂されて完全脱脂が完了した。炉内温度が実施例3よりも低いにもかかわらず、ギ酸濃度が高くなったのは、炉内にポリアセタール樹脂分解物が残留しており、ギ酸濃度の向上に寄与したためと考えられる。
【0044】
(追加実施例1)
炉内温度を174℃(内部測定による温度。電気炉の装置設定は190℃)として、時間経過に伴う炉内のホルムアルデヒド濃度とギ酸濃度を確認した。ギ酸濃度とホルムアルデヒド濃度の測定結果を下記表2及び
図5に示す。また、図において左縦軸がホルムアルデヒド濃度、右縦軸がギ酸濃度を示す。単位はppmである。実験開始時はホルムアルデヒドとギ酸のどちらも検出限界未満であった。なお、ホルムアルデヒドの結果は途中で飽和しているものと考えられる。
【0045】
【0046】
初期段階でホルムアルデヒド濃度が徐々に上昇して、その後に20時間経過後からギ酸濃度が指数関数的に上昇していることが確認できた。このため、ポリアセタール樹脂が熱分解していったんホルムアルデヒドが生じ、その後、ホルムアルデヒドが気中酸化してギ酸が生じていると推察される。
【0047】
また、同様の条件で測定した時間経過に伴う複数のサンプルの質量変化を測定し(
図6左縦軸)、その値から算出される質量の変化率と、元の質量からの質量減少率とを算出した(
図6右縦軸)。その結果を
図6のグラフに示す。初期の質量減少率の伸びはわずかだが、20時間経過後に質量減少率が大きく上昇しており、30時間経過までにほぼ終端に到達していることが確認できた。
【0048】
さらに、ギ酸の濃度と質量減少率とを同じ処理時間スケールにプロットしたグラフを
図7に示す。図において、左縦軸がギ酸濃度、右縦軸が質量減少率を示す。炉内のギ酸濃度が50ppmを超える20時間経過後あたりからサンプルの質量減少、すなわち脱脂が大きく進むことが確認できた。