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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112328
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】刃物および刃物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 1/06 20060101AFI20240814BHJP
   B26D 1/00 20060101ALI20240814BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B26D1/06 Z
B26D1/00
B26D3/00 601Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100643
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】505361347
【氏名又は名称】株式会社ファインテック
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】永尾 暁
(72)【発明者】
【氏名】大坪 諒平
【テーマコード(参考)】
3C027
【Fターム(参考)】
3C027AA09
3C027AA12
3C027AA17
3C027AA18
3C027HH01
3C027HH14
(57)【要約】
【課題】切断性能に悪影響を与える刃面の凸湾曲面を設けることなく、切断品質を維持しつつ、使用時に刃先の欠けが少なく耐久性に優れた刃物を提供する。
【解決手段】刃物10は、WC-Co系の超硬合金で構成されている。刃物10は、平板状の基部1Aと、基部1Aの端部に形成された切断実行部である刃先部1Bとを有している。基部1Aの刃厚tは、0.1mm以上0.5mm以下に形成されている。刃先部1Bは、基部1Aの両面から先端側に向かい互いに近づくように傾斜した直線状の刃面を有している。この直線の交差角は、10度以上30度以下に形成され、且つ、刃面の延長線の交点より手前に位置する刃先先端部の曲率半径は、90nm以上、300nm以下の曲面形状に形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金で構成され、
平板状の基部と、前記基部の端部に形成された切断実行部である刃先部と、を有し、
前記基部の刃厚は、0.1mm以上0.5mm以下に形成され、
前記刃先部は、前記基部の両面から先端側に向かい互いに近づくように傾斜した直線状の刃面を有し、
この直線の交差角は、10度以上30度以下に形成され、
且つ、前記刃面の延長線の交点より手前に位置する刃先先端部の曲率半径は、90nm以上、300nm以下の曲面形状に形成された刃物。
【請求項2】
超硬合金で構成される、平刃状切断刃を有する切断刃であって
平板状の基部と、前記基部の端部に形成された切断実行部である刃先部と、を有し、
刃厚は、0.1mm以上0.5mm以下に形成され、
前記刃先部は、前記基部の両面から先端側に向かい互いに近づくように傾斜した直線状の刃面を有し、
この直線の交差角は、10度以上30度以下に形成され、
且つ、前記刃面の延長線の交点より手前に位置する刃先先端部の曲率半径は、300nm以下で、且つ被切断物に含まれるセラミック粒子径の半径以上に形成された刃物。
【請求項3】
前記刃面に沿った2本の直線の交点と刃先先端部の最短距離が1μm以下である請求項1または2記載の刃物。
【請求項4】
前記刃先部の少なくとも刃先先端曲面を含む領域に、前記刃先先端部の曲面Rよりも小さい粒径の潤滑コーティング層が形成された請求項1から3のいずれかの項に記載の刃物。
【請求項5】
前記刃先部には、刃渡り方向に5μm以上の欠けが無いことを特徴とする請求項1から4のいずれかの項に記載の刃物。
【請求項6】
目的とする刃先先端部よりも尖らせた状態まで研削し、その後、先端部を刃渡り方向に研削することで目的とする刃先先端部の曲率形状を形成する請求項1から5のいずれかの項に記載の刃物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックを含む原料粉末をバインダと溶剤とに混合してシート状に成形して乾燥させ、積層したグリーンシート積層体等の切断に使用される刃物および刃物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ(以下、MLCC(Multi-Layer Ceramic Capacitor)と称す。)は誘電体を挟んだ2枚の電極を積層した構造で、静電容量は、電極板の面積に比例するので、電極層をできるだけ薄くし、多層積層することで、小型化と大容量化を実現することができる。
このMLCCはいくつかの製法があるが、例えば、セラミック誘電体の原料粉末をバインダおよび溶剤と混ぜてペースト状にし、プラスチックのキャリアフィルム上に薄いシートとして延ばし、乾燥させる。これをグリーンシートといい、このグリーンシートにペースト状にした内部電極材料をスクリーン印刷する。内部電極が印刷されたグリーンシートは、数10mm角~数100mm角のサイズに裁断された後、電極パターンを精密に位置合わせしながら積み重ねる。積層数は数10~数100層、多いものでは1000層以上にも及ぶ。
こうして積層されたシートに圧力を加えて圧着・一体化してから、切断機によって縦横に小さくカットする。この段階ではまだ誘電体は生乾きの状態であり、これを焼成炉に送り約1000~1300℃ほどの温度で焼成することでセラミックスとなり、これに外部端子が形成されMLCCとなる。
【0003】
また、グリーンシートは、MLCC以外にも、HTCC(High Temperature Co-fired Ceramics)、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)の他、各種の圧電応用部品、積層インダクタ、誘電体フィルタチップ、チップ、サーミスタ、チップバリスタなどの製造にも用いられている。
【0004】
この様に生乾きの状態で積層されたシートを切断する場合、キャリアフィルム上で切り離さなければならないが、切断抵抗値が大きく異なる誘電体と電極層の多層構造になっており、また、電極材料の厚みは薄いもので0.4ミクロン以下に達し、積層部分からはがれるデラミと呼ばれる不良が発生しやすい。
【0005】
材料の切断刃に要求される性質として、切断品質、すなわち、被切断物の切断面にできるだけ傷やダメージを与えないこと、また、刃物自体の耐久性などがある。
一般に、刃先を薄く尖らせることで、製品への切り込みが良くなり、切断品質は向上すると考えられている。一方で、尖らせることで強度が弱くなり刃先の欠けが生じ、これが刃欠け発生以降の切断品質に大きな影響を与えることになる。特に、硬質のセラミック粒子を含んだ層と切断抵抗の異なる内部電極材料の積層構造体では、刃先の小さな欠けが、デラミ等の大きな原因となりやすい。
【0006】
このような現象は、MLCCのグリーンシートだけではなく、バインダ等の粘土質材料にセラミックや硬質の無機物粉体が混入している材料の積層体の切断にも同様に生じる問題である。
【0007】
特許文献1には、安定した形状精度(耐久性)と切断性能を共に満足するとされる、グリーンシート切断刃が提案されている。
このグリーンシート切断刃は、WC-Co系の超硬合金で構成され、刃先部を基部の左右両面から互いに近づくように傾斜した左右刃面を凸湾曲面とし、さらに、刃先部には、刃渡り方向に10μm以上の欠けが無く、刃先部の板厚方向の断面形状は、左右刃面に沿った2本の直線の交点と刃先先端の最短距離が1μm以上、10μm以下としている。
このように、左右両面から互いに近づくように傾斜した左右刃面を凸湾曲面(ハマグリ形状)とすることは、日本刀などの刃先強度をあげるために古くから用いられている手法であり、切断抵抗を増やすことなく、刃先の強度を上げ、欠けの発生を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6087363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のグリーンシート切断刃は、一定範囲の被切断物では目的とする効果を奏することができるものの、積層コンデンサのグリーンシートなどの非均質な材料や、より微細な切断が要求されるものでは、左右刃面に形成した凸湾曲面が、被切断物の切断面に不良品となる傷や積層部分からはがれるデラミを発生させる原因となることが判った。
被切断物は、より薄く、微細化の傾向が進み、電極材料の厚みは、0.4μm以下のもの、チップコンデンサの製品の厚みも64μm以下のものが製品化されており、積層誘電体の厚みも1μmを切るようになり、このような製品では、刃面に形成した凸湾曲面が切断時の侵入体積を増加させることとなり、また凸湾曲面がデリケートな切断面に接触することから傷発生の原因となり、要求される切断性能が得られていない。
【0010】
本発明が解決すべき課題は、切断性能に悪影響を与える刃面の凸湾曲面を設けることなく、切断品質を維持しつつ、使用時に刃先の欠けが少なく耐久性に優れた刃先構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、切断のメカニズムから多方面の検討を行い、超硬合金で構成された平刃状切断刃を有する刃物において、刃先面を構成する角度先端(刃面に沿った2本の直線の交点)から、1μm以下のところに刃物の先端が位置し、かつ先端部分が所定の曲面形状であれば、凸湾曲面を設けることなく、刃先の欠損を効果的に防止しつつ、被切断物にダメージを与える不具合が発生し難いことが判った。
【0012】
そこで、本発明は、超硬合金で構成され、平板状の基部と、前記基部の端部に形成された切断実行部である刃先部と、を有し、前記基部の刃厚(t)を0.1mmから0.5mmとし、前記刃先部は、前記基部の両面から先端側に向かい互いに近づくように傾斜した直線状の刃面を有し、この直線の交差角(刃先構成角)を10度以上30度以下とし、且つ、前記刃面の交点より手前に位置する刃先先端部の曲率半径(R)を90nm以上、300nm以下の曲面形状とした、平刃状切断刃を有するグリーンシート等の切断用の刃物である。
【0013】
ここで、平刃状切断刃は、切断実行部である刃先部に繋がり切断装置や切断治具に固定される基部が平行な面であるものをいう。
【0014】
本発明によれば、刃先部側面に凸湾曲面を設けず直線状とし、この直線の交差角(刃先構成角)を10度以上30度以下とし、且つ、刃先先端部の曲率半径(R)を90nm以上、300nm以下の尖りの無い曲面形状とすることで、被切断物へのダメージを少なくすることができ、また、分散したセラミック粒子に刃を立てることなくうまくかき分けて切断することができるので、刃先への応力集中を防ぎ、刃先の欠損を効果的に防ぐことができる。また、刃先への応力集中を防ぐことができることから、強度をあげるため刃面に凸湾曲面を形成する必要もなくなり、凸湾曲面が切断面に接触して生じる傷の発生も防ぐことができる。
【0015】
刃先先端部の曲率半径は、被切断物に含まれるセラミック粒子の粒径にもよるが、セラミック粒子の粒径の半径よりも大きい方が、刃先の先端でセラミック粒子をかき分けながら切断し、セラミック粒子に切り込み刃先欠損を防ぐためには望ましい。
また、曲面形状は、円弧、二次曲線等を用いることができるが、いずれにしても、ナノレベルで見たときに先端部に鋭角状の尖りの無いことが必要である。
なお、ここで、刃厚(t)とは、切断時に被切断物に侵入する領域の基部の厚みのことで、平板状基部の厚みが均一でない場合、刃先部により近い領域の基部の厚みを言うものとする。
【0016】
MLCCに使用されているセラミック粒子の範囲では、刃面に沿った直線の交点より手前に位置する刃先先端部の曲率半径(R)を90nm以上、300nm以下の曲面形状とすることで、所定の効果を発揮させることができたが、より好ましくは、曲率半径の下限値は使用されるセラミック粒子の半径の大きさよりも大きくすることが、刃先をセラミック粒子にたてずに、旨くかき分けるようにするためには望ましい。
【0017】
使用する材料や刃物によって異なるが、現在製造されているMLCCの積層体で、且つ、交差角(刃先構成角)の10度から30度の範囲のものでは、刃先の曲率半径を、90nm以上、300nmの範囲とするために、刃面に沿った2本の直線の交点と刃先先端部の最短距離が1μm以下であることが望ましい。
【0018】
刃先部の少なくとも刃先先端曲面を含む領域に、曲面Rよりも小さい粒径の潤滑コーティング層を施すことが、一定の切れ味を維持しつつ、刃先の滑り性を良くし材料中に分散するセラミック粒子を抵抗少なくかき分けて切断するためには望ましい。
使用する潤滑コーティングとしては市販のものを使用することができるが、刃面への密着性を良くし、コーティング層の剥がれを防ぐためには、刃面とコーティング層の密着力を高めるプライマー層を設けることが好ましい。
【0019】
また、刃渡り方向には少しの凹凸もないことが望ましいが、刃先先端部の曲率半径(R)以上の欠けが無いことが、刃渡り方向全ての切断品質維持のためには望ましい。しかし、実質的に、5μmまでは切断面に影響が無く、歩留まりが改善でき、生産性が向上できるため、刃先部は、刃渡り方向に5μm以上の欠けが無いことが望ましい。
【0020】
また本発明の刃物の製造方法は、刃物の一般的研削方法で、目的とする刃先先端部よりも尖らせた状態まで研削し、その後、先端部を刃渡り方向に緩く研削して、目的とする刃先先端部の曲率形状を形成する刃物の製造方法である。このような製造方法により、刃渡り方向の凹凸を効果的に無くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
(1)刃先構成角を10度以上30度以下とし、且つ、刃面の延長線の交点より手前に位置する刃先先端部の曲率半径(R)を90nm以上、300nm以下の曲面形状とすることで、刃面に凸湾曲面を形成することなく直線状で、グリーンシート積層体に好適に使用可能な、被切断物への傷の発生を抑え、且つ切断時に刃先の欠けの少ない刃物を提供することができる。
(2)刃先先端部の曲率半径(R)を、300nm以下で、且つ被切断物に含まれるセラミック粒子径の半径以上とすることで、使用する材料に好適な、被切断物への傷の発生を抑え、且つ切断時に刃先の欠けの少ない刃物を提供することができる。
(3)刃面に沿った2本の直線の交点と刃先先端部の最短距離が1μm以下とすることで、微細な被切断物に対しても、被切断物への傷の発生を抑えることができる。
(4)刃先部の少なくとも刃先先端曲面を含む領域に、曲面Rよりも小さい粒径の潤滑コーティング層を形成することで、材料中に分散するセラミック粒子をより抵抗が少なくかき分けることができ、表面に傷やダレ等が少ない切断品質に優れ、且つ切断時に刃先の欠損を効果的に防止することができる。
(5)刃渡り方向に5μm以上の欠けが無いようにすることで、刃渡り方向全てにわたり、表面に傷やダレ等が少ない切断品質に優れ、且つ刃先の欠損の少ない刃物を提供することができる。
(6)目的とする刃先先端部よりも尖らせた状態まで研削し、その後、先端部を刃渡り方向に研削することで目的とする刃先先端部の曲率形状を形成する製造法により、均質な刃先先端部の曲率形状の創生と、製造スピードを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る刃物を示す斜視図であり、(A)は刃物全体を示す図、(B)は刃物を一部拡大して示す図である。
図2図1に示す刃物の刃先先端部を一部省略して示す図。
図3図1に示す刃物の第1の領域と第2の領域を一部省略して示す図。
図4図1に示す刃物を製造する工程を説明するための図であり、(A)は刃先部を尖らせた状態の図、(B)および(C)は(A)から研磨して刃先先端部を曲率形状とした状態の図である。
図5】(A)から(C)は図4(A)から同図(C)に示す刃先先端部の電子顕微鏡写真である。
図6図1に示す刃物をプレス機に装着して被切断であるMLCCを切断することを説明するための図である。
図7図1に示す刃物の刃先先端部がMLCCを切断する状態を説明するための図である。
図8】実施例による結果を示す一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態に係る刃物を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は本発明の実施の形態に係る刃物全体の図および刃物を一部拡大して示す図、図2図1に示す刃物の刃先先端部を一部省略して示す図、図3図1に示す刃物の第1の領域と第2の領域を一部省略して示す図であり、コーティング粒子を表示しつつ全体を表示するために、波線で表示した箇所で途中を省略して示す。
【0025】
図1乃至図3において、本実施の形態に係る刃物10は、WC-Co系またはWC-Ni系の超硬合金を素材として形成されている。
刃物10は、矩形状の平板状の基部1Aと、基部1Aの一方の長辺(端部)に形成された切断実行部である刃先部1Bとを有している。
基部1Aの刃厚tは、0.1mm以上0.5mm以下に形成されている。
刃先部1Bは、基部1Aから徐々に細くなるテーパ状に形成されている。
刃先部1Bは、基部1Aの両面から先端側に向かい互いに近づくように傾斜した直線状の刃面(直線L1,L2)を有している。この刃先部1Bの直線L1,L2の交差角θは、10度以上30度以下に形成されている。
また、刃先部1Bの刃面(直線L1,L2)の延長線の交点より手前に位置する刃先先端部Eの曲率半径Rは、90nm以上、300nm以下の曲面形状に形成されている。
この曲率半径Rは、90nm以上とした被切断物に含まれるセラミック粒子径の半径以上に形成することも可能である。
【0026】
刃面に沿った2本の直線L1,L2の交点と刃先先端部Eの最短距離は、1μm以下に形成されている。
【0027】
刃先部1Bは、その表面に、一層目(プライマー層S1)を形成するプライマー粒子2と、二層目(トップコート層S2,撥水性コーティング層)を形成するトップコート粒子3とがコーティングされている。
【0028】
このプライマー粒子2とトップコート粒子3とで、厚み14nmの第1の潤滑コーティング層C1を形成している。従って、刃先部1Bの刃先先端部Eの曲面を含む領域に形成された第1の潤滑コーティング層C1(潤滑コーティング層)は、刃先先端部Eの曲面Rよりも小さい粒径である。
その表面にプライマー粒子2とトップコート粒子3が、合わせても15nm以下になるように、且つ「プライマー粒子<トップコート粒子」の関係を保ちつつ、15nm以下が必要になる。
一般的に市販されている無機物の粒子は、5nmから段階的に15nmまであり、その中から上記条件を満たすような、粒子径の組み合わせを作ることが重要である。プライマー粒子2の粒子径よりもトップコート粒子3の粒子径を大きくした理由は、撥水性コーティング層として機能するトップコート層S2の表面の凸凹が小さくなり、撥水性が悪くなるからである。
プライマー層S1の上に、トップコート層S2を形成するトップコート粒子3による無機物の凸凹を構成し、トップコート粒子3にフッ素が繊毛の様に付着していることで、ロータス効果以上のコーティング層が構成される。
【0029】
第1の潤滑コーティング層C1は、図2に詳細に示す通り、刃先先端部Eから10μmの第1の領域A1まで形成され、この領域が第1の領域A1である。さらに図3に示す、第1の領域に連続する第2の領域A2には、第1の潤滑コーティング層C1よりも厚い30nm以上の第2の潤滑コーティング層C2が形成されている。本実施例においては第1の領域の始点は、刃先部1B前に位置するが、切断時に被切断物と接触する部位までとすればよい。
【0030】
プライマー層は、無機物の微粒子に陰イオン性界面活性剤に相当する、脂肪酸塩、アミノ基、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物など、基材との相性に一番合うものを選択する。表面活性エネルギーと接触角等で選択された最適な材料を決定し、使用することによって、トップコートの接触角は5°前後の角度になるものが使用されている。
【0031】
コーティング層は、基本的にはフッ素系撥水コーティング材が使用されるが、トップコート液の接触角150°以上になるように、コーティング剤を調合し使用している。
また、被切断物に傷や、ダメージを与えないような表面の粗さを確保することが重要で、組成物質がコーティング乾燥後、微粒子で表面の凸凹を第一のコーティング領域の場合、30nm以下に抑えられている。
【0032】
刃物の素材である超硬合金は粒子の脱落をすることなく刃先を尖らせるために、タングステンカーバイト(WC)の粒子径が0.3~0.7μmの超硬合金材を用い、刃厚tは電子部品材料加工用として0.1mmとすることができる。
WCの粒子径が刃先先端部の曲率半径Rの直径よりも大きいため、WCを削らなければならない、その時の切削応力が、WCを繋いでいるCoやNiとの結合力より小さいことが重要である、結合力より大きくなると、WC粒子は剥がれ、刃面が欠けたようになる。強度の面からは、硬度90(HRC)以上、抗折力3.0~4.0GPaの超硬合金材が望ましい。
【0033】
次いで、上記実施の形態に係るコーティングが施された刃物の製造方法について説明する。
まず、図4(A)に示すように、刃先部を、目的とする刃先先端部Eよりも尖らせた状態まで研削する。この状態では、図5(A)に示すように刃先先端部は鋭く尖った状態となる。この刃先先端部を拡大すると、図5(B)に示すように、刃渡り方向に凹凸ができる。この凹凸がデラミの原因となる。
その後、図4(B)および同図(C)に示すように、刃先先端部Eを刃渡り方向に徐々に研磨して、目的とする刃先先端部の曲率形状とする。そうすることで、図5(C)に示すように、刃渡り方向の凹凸を効果的に無くすることができる。従って、刃渡り方向全ての切断品質を維持することができる。
【0034】
次に、図2に示す刃先先端部Eに既知のディッピング法を用いて、薄くコーティングする。コーティングは、ディッピングコートの特性を生かし、刃先(刃先部1B)は長手方向の側面に位置させ、長手方向に向かってディップする。
引き上げスピードは、速いほどコーティング層が厚くなり、遅いほど薄くなる性質を利用して、プライマー層(1層目)をコーティング後、トップコート層(2層目)をコーティングすることができる。具体的には、引き上げスピードは、0.25~0.5mm/Sのスピードで塗布することで、刃先先端部の曲率半径Rの確保とともに、切れ味を損なうことなく2層目までのコーティングすることができ、刃先先端部Eから10μmの領域に膜厚15nm以下のコーティング層が、また10μm以外の領域には膜厚15nmより厚いコーティング層を形成することができる。
【0035】
このような刃物10の使用状態を図面に基づいて説明する。
図6に示すように、刃物10を使用して、例えば、MLCCを切断するときには、刃物10はプレス機に装着される。刃物10は、基部1Aを挟み込むプレス機の装着部Mに固定され、切断時に上下に昇降して、被切断物である、MLCC100を切断する。
【0036】
積層体であるMLCC100の切断の正確なメカニズムについては、被切断物の材質や刃物自体の材質、形状など、切断品質に影響する様々な要素があり、必ずしも明快に解明されてはいない。
しかし、図7に示すように、セラミック誘電体の原料粉末を粘土質物質であるバインダと混ぜてペースト状にした焼成前の生乾きの状態のグリーンシートの切断においては、均質な材料の切断とは異なり、刃先先端部Eはセラミック粒子を切断するのではなく、セラミック粒子をかき分けながらグリーンシートを切断することが判っている。
また、粘土質物質であるバインダの切断抵抗は元々低いので、セラミック粒子をうまくかき分ける形状とすることで、刃先部1Bへの応力集中を少なくし、刃先部1Bの欠損を効果的に防ぐことができることがわかった。
【0037】
そのため、刃先先端部Eを鋭角状ではなく所定の曲面形状とすることが考えられるが、その曲率半径が大きすぎれば、図7の左図に示すとおり、セラミック粒子とバインダの結合を破壊し、破断域が大きくなって、切断品質に悪影響を及ぼすので、刃先の曲率半径を小さく抑えることで、同右図に示すとおり、セラミック粒子とバインダの結合破壊を最小限に押さえることができる。
【0038】
一方、セラミック粒子径より刃先の曲率半径が小さくなりすぎると、刃先がセラミック粒子に接触した際、刃先の先端でセラミック粒子をかき分けられずに、セラミック粒子に刃が立ち、刃カケを起こしやすくなるので、刃先の曲率半径は、使用されるセラミック粒子径よりも大きい方が望ましいことが判った。
【0039】
本実施の形態に係る刃物10では、図2に示すように、基部1Aの両面から先端側に向かい互いに近づくように傾斜した刃面に沿った直線L1,L2の交差角θが、10度以上30度以下に形成され、刃先先端部Eの曲率半径Rが、90nm以上、300nm以下の曲面形状に形成されている。
【0040】
ここで、交差角θが10度未満であると、MLCC100内に分散したセラミック粒子に刃先先端部Eが立ち、刃先先端部Eの欠損が発生する度合いが高くなる。
また、交差角θが30度を超えると、セラミック粒子を押し退ける範囲が広くなり、破壊域が広範囲に拡がる。
そして、刃先先端部Eの曲率半径Rが90nm未満であると、MLCC100内に分散したセラミック粒子に刃先先端部Eが立ち、刃先先端部Eの欠損が発生する度合いが高くなる。
また、刃先先端部Eの曲率半径Rが300nmを超えると、セラミック粒子を押し退ける範囲が広くなり、破壊域が広範囲に拡がる。
【0041】
従って、MLCC100へのダメージを少なくすることができ、また、MLCC100内に分散したセラミック粒子に刃先を立てることなくうまくかき分けて切断することができるので、刃先先端部Eへの応力集中を防ぎ、刃先先端部Eの欠損を効果的に防ぐことができる。また、刃先先端部Eへの応力集中を防ぐことができることから、強度をあげるため刃面に凸湾曲面を形成する必要もなくなり、凸湾曲面が切断面に接触して生じる傷の発生も防ぐことができる。
【0042】
よって、刃物10は、切断性能に悪影響を与える刃面の凸湾曲面を設けることなく、切断品質を維持しつつ、使用時に刃先の欠けが少なく耐久性に優れたものとすることができる。
【0043】
また、刃面に沿った2本の直線L1,L2の交点と刃先先端部Eの最短距離を1μm以下としたことにより、微細な被切断物に対しても、被切断物への傷の発生を抑えることができる。
【0044】
(実施例)
図1に示す刃物10を製作し、被切断物を切断して、切断品質、刃先の欠け、耐久性について評価した。
【0045】
本実施例の刃物としては、WC-Co系の超硬合金により形成し、図1に示す刃長がL250mm、刃厚tが0.10mm、幅Wが20mmに形成した。また、基部1Aの幅W1が18.8mm、刃先部1Bの幅W2が1.2mmである。
また、本実施例の刃物として、図2に示す刃面に沿った直線L1,L2の交差角を10度以上30度以下に形成し、且つ、刃面の延長線の交点より手前に位置する刃先先端部の曲率半径を90nm以上、300nm以下の曲面形状に形成した発明品と、この範囲から外れる比較品を製作した。
【0046】
これらの発明品と、比較品について、「切断品質」、「刃先の欠け」、「耐久性」の観点から、図6に示すように、プレス機としてサーボプレス機(株式会社放電精密製)に装着して、MLCCの代替品を被切断物(ワーク)として、送りピッチ1mmで切断して切断評価を行った。
MLCCの代替品は、融点が55℃の流動パラフィンに、重量比で70%のセラミックパウダーを融点以上の温度で練り込み、自然冷却で約1mmの厚さにし、幅15mmの帯状に成形したものである。また、厚さ2mmのペットシートをキャリアシートとして使用した。
セラミックパウダーは、平均粒径が100nm~1.7μmが一般的に使用されているものであるが、本実施例では、平均粒子径が150nm(半径75nm)のものを使用した。
【0047】
評価については、切断面の評価を行なった後に、寿命試験を実施した。寿命試験は、1000回の切断試験実施後に評価した。切断時はワークを切断し、ペットシートの0.5mmまで刃先部を食い込ませて、完全にワークを切断した状態とした。
【0048】
「切断品質」については、切断面を観察して評価した。切断面の観察は、ニコンインステック製の測定顕微鏡MM-800を使用した。
判定は、切断方向に傷も無く、切断カスがない場合に「○」、切断方向に傷1μm(幅)未満の傷しかなく、切断カスがない場合に「△」、切断方向に傷1μm(幅)以上の傷があり、切断カスがでた場合に「×」とした。従って、判定が「○」となった刃物が条件を満足したと言える。
【0049】
「刃先の欠け」については、刃先先端部を観察して評価した。切断面の観察は、ニコンインステック製の測定顕微鏡MM-800を使用した。
判定は、刃欠けが無く、有っても1μm未満である場合に「○」、刃欠けの大きさが1μm以上、5μm未満である場合に「△」、刃欠けの大きさが5μm以上である場合に「×」とした。従って、判定が「○」または「△」となった刃物が条件を満足したと言える。
【0050】
「耐久性」については、1000回切断後に刃先先端部の摩耗量を測定して評価した。刃先先端部の摩耗量の測定は、ニコンインステック製の測定顕微鏡MM-800を使用した。
判定は、刃先先端部の摩耗量が1μm以内で、刃欠けが3μm未満である場合に「○」、刃先先端部の摩耗量が1μm以内で、刃欠けの大きさが3μm以上、5μm未満である場合に「△」、刃先先端部の摩耗量が1μm以内で、刃欠けの大きさが5μm以上である場合に「×」とした。従って、判定が「○」または「△」となった刃物が条件を満足したと言える。
【0051】
結果を図8に示す。
図8の表から交差角θが10度から30度の範囲で、且つ、曲率半径Rが90nmから300nmの範囲は、これらの範囲外のものより優位性があることが判る。
これは、曲率半径Rが90nm以上としたことで、刃先先端部の直径が180nmとなり、セラミック粒子の粒径150nm(半径75nm)より大きいので、セラミック粒子をうまくかき分けさせることができ、刃先部への応力集中を減少させることができるので、刃先部の欠損や摩耗を効果的に防ぐことができたといえる。また、曲率半径Rが300nm以下としたことで、セラミック粒子を押し退ける範囲を抑えることで、摩耗を抑えつつ破壊域が広範囲に拡がることが抑止できたといえる。
【0052】
なお、MLCCを想定して代替品の切断実験を行ったが、HTCCやLTCC、各種の電子部品の製造に用いられるグリーンシートでも、セラミック粒子による原料粉末を含まれているため、粒子径の半径が刃先の曲率半径90nm以上300nm以下とした条件に合えば使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、グリーンシートを積層したグリーンシート積層体の切断に好適である。
【符号の説明】
【0054】
10 刃物
1A 基部
1B 刃先部
L1,L2 直線
θ 交差角
R 曲率半径
t 刃厚
S1 プライマー層
S2 トップコート層
2 プライマー粒子
3 トップコート粒子
C1 第1の潤滑コーティング層
E 刃先先端部
A1 第1の領域
A2 第2の領域
C2 第2の潤滑コーティング層
P プレス機
P1 装着部
100 MLCC
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8