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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112334
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】耐火部材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
E04B1/94 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017218
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】520170852
【氏名又は名称】株式会社日進産業
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】石子 達次郎
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001EA08
2E001FA01
2E001FA02
2E001FA04
2E001FA06
2E001FA11
2E001FA16
2E001GA06
2E001HA14
2E001HD11
(57)【要約】
【課題】建築材に薄い被覆層を形成することで火災時に燃焼することを遅らせることのできる耐火部材を提供する。
【解決手段】本発明の耐火部材は、建築材に使用される耐火部材であって、建築材の表面に形成される第1層と、前記第1層の外側に形成される第2層と、を備え、前記第1層は、中空セラミックスと、前記中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、を有し、前記第2層は、水酸化カルシウムと、中空セラミックスと、前記中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、を有し、前記第2層では、前記水酸化カルシウムが水分を含有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築材に使用される耐火部材であって、
建築材の表面に形成される第1層と、
前記第1層の外側に形成される第2層と、を備え、
前記第1層は、
中空セラミックスと、
前記中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、を有し、
前記第2層は、
水酸化カルシウムと、
中空セラミックスと、
前記中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、を有し、
前記第2層では、前記水酸化カルシウムが水分を含有している、耐火部材。
【請求項2】
前記第1層は、
付与される付与熱を遠赤外線に変換して外部に放射し、
前記第2層は、
前記付与熱を遠赤外線に変換して外部に放射し、
前記遠赤外線により、前記水酸化カルシウムが含有する水分を放出する、請求項1記載の耐火部材。
【請求項3】
前記水酸化カルシウムには、前記第1層からの遠赤外線および前記第2層からの遠赤外線が照射され、
前記水酸化カルシウムは、前記遠赤外線の照射を受けて、含有する水分を放出する、請求項2記載の耐火部材。
【請求項4】
前記水酸化カルシウムは、含有する水分を水蒸気として放出し、前記水蒸気が外部で冷却されて水となって、前記建築材に付着する、請求項2記載の耐火部材。
【請求項5】
前記第1層および前記第2層の少なくとも一方における遠赤外線への変換と放射、
および、
前記第2層から放出される水分が、水として前記建築材に付着すること、が相まって、前記付与熱による前記建築材の温度上昇を抑制できる、請求項4記載の耐火部材。
【請求項6】
前記第1層および前記第2層が含む前記中空セラミックスは、前記付与熱に含まれる近赤外線を反射する、請求項1記載の耐火部材。
【請求項7】
前記第2層は架橋剤を更に含む、請求項1記載の耐火部材。
【請求項8】
前記架橋剤は、
プロピレングリコール類、
ジメチルピラゾール類、
ヘキサメチレンジイソシアナート、
アルキル鎖含有分子、
水、
を、含む、請求項7記載の耐火部材。
【請求項9】
前記中空セラミックスは、金属酸化物を含み、
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む、請求項1記載の耐火部材。
【請求項10】
前記建築材は、木製である、請求項1から9のいずれか記載の耐火部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材などの基材に使用され、火災などへの耐久性を生じさせる耐火部材に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅、店舗、商業施設、公共施設、医療施設などの様々な種類で多くの建築物が様々な場所にある。これらの建築物は、その特性、大きさ、用途、要求スペックなどによって、使用される材料が選択される。特に、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体においては、コンクリート、新建材、木材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。勿論、建築物の基礎部分や、骨格部分などにおいても、コンクリート、新建材、木製部材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。
【0003】
また、コンクリート、新建材、木製部材以外の材料が用いられることもある。
【0004】
最近では、コンクリートだけではなく、柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体に、新建材や木製部材が用いられることが多くなってきている。例えば、木製部材による外壁や床などが構成されることが増えてきている。住宅、店舗、公共施設などにおいては、木製部材により建築された建築物は、環境負荷を低減できるからである。
【0005】
また、居住者や利用者も、木製部材の建築物においては、心身のリラックスを感じることができる。勿論、居住性も高まるメリットがある。木製部材の建築物は、外気温に対する対応性が高い(夏では室内は涼しく、冬では室内は暖かい)、あるいは、室内湿度の適応性が高いといったメリットがある。このため、居住者や利用者の利便性も高まる。
【0006】
加えて、木製部材の建築物は、居住者や利用者の精神的なリフレッシュ効果をもたらす。特に我が国においては、過去から木製建築物が中心であったので、日本人の精神性に高いメリットがある。
【0007】
ここで、コンクリートや新建材などに比較して、木製部材は軽量化できる。建築物の素材である建築部材が軽量化できると、基礎工事や建設工事のコスト低下を図ることができる。加えて工期短縮を図ることができるメリットもある。
【0008】
また、日本の国土の大半が森林であるという実情がある。多くの森林には、当然ながら多くの木があり、木材原料は非常に多くある。しかしながら、日本の森林から木を伐採して木材とすることは、コストの観点から進捗せず、国内の森林資源が有効活用されていない面がある。現実には、国内の建築物や家具などの加工品に使用される木材の大半は、輸入品である。
【0009】
このように日本の森林資源の活用が進まないと、間伐材の処理、森林の植え替え植樹なども進まない問題がある。結果として、森林管理の循環が生まれないことになり、森林荒廃に繋がっている問題がある。
【0010】
日本に潤沢にある森林資源を活用するためにも、木製部材が多種多様な建築物に使用されることが必要となっている。例えば、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部に木製部材が使用されることが求められている。この使用により、住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築物が建築される。このような木製部材が使用された住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築が広まれば、日本の森林資源の活用が進む。日本の森林管理が促進されるようになる。
【0011】
このように、多くの建築物に木製建築部材が使用されることが望まれている。
【0012】
しかしながら、木製建築部材は、火災発生時に燃えてしまい火災への対応力や耐久力が弱いと考えられている。火災が発生すると焼失に繋がりやすい、周囲への延焼に繋がりやすいといった懸念がある。このような懸念により、木製建築部材の建築物への使用が広がっていない現状がある。
【0013】
このため、木製部材に耐火能力を持たせる技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2021-38655号公報
【特許文献2】特開2020-118022号公報
【特許文献3】特開2020-146923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1は、荷重支持部2と、荷重支持部2の周囲に被覆された耐火被覆層3と、耐火被覆層3の外側に周設された仕上げ木材層4とを備える木質耐火部材1であって、耐火被覆層3が湿式耐火被覆材からなり、荷重支持部2と耐火被覆層3との間、および、耐火被覆層3と仕上げ木材層4との間に、水分遮断層5が形成されている木質耐火部材を、開示する。
【0016】
特許文献1は、水分遮断シートなどの水分遮断層を設けることで、耐火木材において、水分含浸によるデメリットを防止することを目的としている。
【0017】
しかしながら、特許文献1における耐火被覆層は、ロックウールや白セメントなどの吹き付けによって実現されている。このような素材による被覆層は、耐火能力を高めるために厚みを必要として、重量が大きくなってしまう問題がある。すなわち、木質耐火部材の重量が大きくなる。木質耐火部材のような建築部材が重くなると、基礎工事の規模が大きくなるうえに、建築工事そのものの工程や手間が増加して、建築コストが大きくなる問題がある。建築作業時の安全性低下の不安もある。
【0018】
石膏ボードやロックウールを貼り合わせる方法では、建築材の重量が重くなる上に建築材の大きさも大きくなる。これらの結果、建築材そのものの製造コストも増加し、これを用いる建築物は、全体の大きさなどの拡大が必要となって建築コストも増加してしまう問題がある。また、石膏ボードなどにより熱が木材に伝わるのを遅らせているが、熱伝導を遅らせるだけであるので、石膏ボードが燃えてしまえば、木製基材が燃え始めてしまい、トータルでの耐火能力を高くできない。
【0019】
特許文献2は、耐火木材10は、木質材からなる角柱状の心材12と、心材12の角部に取り付けられた熱緩衝材14Aと、心材12の外側面側に取り付けられた耐火材18Aと、熱緩衝材14Aに支持され耐火材18A及び熱緩衝材14Aを覆う仕上げ材20と、を有する耐火木材を開示する。
【0020】
特許文献2の技術は、耐火のために複雑な構造を形成する。しかしながら、複雑な形成をする必要があり、加工の手間、加工コストが高くなり、多くの建築物に適さない問題がある。建築コストも高くなり、取り扱いも難しいことで、建築作業が困難となる。
【0021】
また、複雑な形状であることで、建築物において、壁材、床材などには適しにくい問題もある。また、内部に熱緩衝材を備えることで耐火能力を実現している。しかしながら、火災の熱により耐火木材全体の温度上昇がされることには変わらず、耐火木材は、温度上昇で燃えてしまう。
【0022】
特許文献1、2のそれぞれは、木材と異なり燃えにくい素材を一部に取り入れることで、火災での燃焼を弱めることに注力しているだけである。実際には、温度上昇が抑えられなければ、耐火木材が火災時に燃えてしまうことに変わりはない。
【0023】
特許文献3は、複数の単位木材14が接合され、木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための不燃薬剤が含浸された耐火改質木質材料である。単位木材14は、その木口面kが、耐火改質木質材料16の厚み方向の表裏側となるように配置されたものであり、その木口面kから不燃薬剤が注入されて含浸されている耐火改質木材を、開示する。
【0024】
特許文献3は、木材加工時に耐火対応をするために、建築材としてのコストが非常に大きくなる問題がある。また、流通量を確保するのが困難となり、多くの建築物に使用することが難しい問題もある。加えて、木材の特定の部分の利用に偏るので、森林資源の有効活用が困難となる。また、含浸に基づくために、重量が重くなり、建築コストが高くなる問題もある。
【0025】
また、薬剤注入された建築材となっているので、建築物となった後でのガス化影響を住人などが受ける懸念もある。火災時に、何らかの影響のあるガスが生じる懸念もある。
【0026】
従来技術は、(1)重量が重くなって、建築材コストや建築コストを増加させる、(2)建築の手間を生じさせる、(3)火災時の燃焼を遅らせることを実現しにくい、(4)建築材の構造の複雑性による使い勝手の悪さ、などの問題を有している。
【0027】
本発明は、これらの課題に鑑み、建築材に薄い被覆層を形成することで火災時に燃焼することを遅らせることのできる耐火部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の耐火部材は、建築材に使用される耐火部材であって、
建築材の表面に形成される第1層と、
前記第1層の外側に形成される第2層と、を備え、
前記第1層は、
中空セラミックスと、
前記中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、を有し、
前記第2層は、
水酸化カルシウムと、
中空セラミックスと、
前記中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、を有し、
前記第2層では、前記水酸化カルシウムが水分を含有している。
【発明の効果】
【0029】
本発明の耐火部材は、木製基材を始めとした基材に塗布して被覆層を形成できる。この構成により、石膏ボードやロックウールなどの厚みや重量のある従来技術の耐火部材を用いた建築材に比較して、小型・薄型・軽量化できる。結果として、耐火部材が使用される建築材を大型化や高重量化することを抑制できる。建築材の製造コストおよび建築物の建築コストを増加させることが防止できる。
【0030】
また、第2層は、火災などにより付与される熱を遠赤外線に変換して放射する。これにより、基材の温度上昇を抑制できる。第1層は、同様に付与される熱を遠赤外線に変換して放射すると共に、付与された熱により、含有している水分が水蒸気に変化する。この水蒸気が水となって基材の温度上昇を抑制できる。
【0031】
すなわち、耐火部材は、熱を遠赤外線に変換することと含有水分の放出があることとが相まって、基材の温度上昇を抑えることができる。この温度上昇の抑制により、基材の温度上昇を抑えて建築材の火災に対する耐火能力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施の形態1における建築材に使用される耐火部材の模式図である。
図2】本発明の実施の形態1における温度上昇抑制のメカニズムを示す模式図である。
図3】本発明の実施の形態1における第1層の構造を示す模式図である。
図4】本発明の実施の形態1における中空セラミックスの構造を示す模式図である。
図5】本発明の熱放射層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
図6】本発明の熱放射層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
図7】本発明の実施の形態2における水分放出の確認実験を示す写真である。
図8】本発明の実施の形態2における水分放出の確認実験を示す写真である。
図9】加熱実験の実験方法を示す模式図である。
図10】加熱実験の測定結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の第1の発明に係る耐火部材は、建築材に使用される耐火部材であって、
建築材の表面に形成される第1層と、
前記第1層の外側に形成される第2層と、を備え、
前記第1層は、
中空セラミックスと、
前記中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、を有し、
前記第2層は、
水酸化カルシウムと、
中空セラミックスと、
前記中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、を有し、
前記第2層では、前記水酸化カルシウムが水分を含有している。
【0034】
この構成により、熱の遠赤外線変換と水酸化カルシウムからの水分放出のハイブリッドな機能により、耐火能力を高めることができる。
【0035】
本発明の第2の発明に係る耐火部材では、第1の発明に加えて、前記第1層は、
付与される付与熱を遠赤外線に変換して外部に放射し、
前記第2層は、
前記付与熱を遠赤外線に変換して外部に放射し、
前記遠赤外線により、前記水酸化カルシウムが含有する水分を放出する。
【0036】
この構成により、遠赤外線変換と水分放出の異なる機能の組み合わせにより、耐火能力を高めることができる。
【0037】
本発明の第3の発明に係る耐火部材では、第2の発明に加えて、前記水酸化カルシウムには、前記第1層からの遠赤外線および前記第2層からの遠赤外線が照射され、
前記水酸化カルシウムは、前記遠赤外線の照射を受けて、含有する水分を放出する。
【0038】
この構成により、水酸化カルシウムからの水分放出が効率的に行われる。
【0039】
本発明の第4の発明に係る耐火部材では、第2の発明に加えて、前記水酸化カルシウムは、含有する水分を水蒸気として放出し、前記水蒸気が外部で冷却されて水となって、前記建築材に付着する。
【0040】
この構成により、放出された水分が、建築材の温度上昇を抑制する。
【0041】
本発明の第5の発明に係る耐火部材では、第4の発明に加えて、前記第1層および前記第2層の少なくとも一方における遠赤外線への変換と放射、
および、
前記第2層から放出される水分が、水として前記建築材に付着すること、が相まって、前記付与熱による前記建築材の温度上昇を抑制できる。
【0042】
この構成により、遠赤外線変換と放出水分の機能とが組み合わさることで、温度上昇の抑制が効率的に行われる。
【0043】
本発明の第6の発明に係る耐火部材では、第1の発明に加えて、前記第1層および前記第2層が含む前記中空セラミックスは、前記付与熱に含まれる近赤外線を反射する。
【0044】
この構成により、外部から加わる熱による温度上昇を抑制できる。
【0045】
本発明の第7の発明に係る耐火部材では、第1の発明に加えて、前記第2層は架橋剤を更に含む。
【0046】
この構成により、水酸化カルシウムなどの接続力を上げることができる。
【0047】
本発明の第8の発明に係る耐火部材では、第7の発明に加えて、前記架橋剤は、
プロピレングリコール類、
ジメチルピラゾール類、
ヘキサメチレンジイソシアナート、
アルキル鎖含有分子、
水、
を、含む。
【0048】
この構成により、水酸化カルシウムなどの接続力を上げることができる。
【0049】
本発明の第9の発明に係る耐火部材では、第1の発明に加えて、前記中空セラミックスは、金属酸化物を含み、
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0050】
この構成により、熱の遠赤外線変換を効率的に行うことができる。
【0051】
本発明の第10の発明に係る耐火部材では、第1から第9のいずれかの発明に加えて、前記建築材は、木製である。
【0052】
この構成により、木製建築物における耐火能力を上げることができる。
【0053】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0054】
(実施の形態1)
【0055】
(全体概要)
図1は、本発明の実施の形態1における建築材に使用される耐火部材の模式図である。建築材10に耐火部材1が形成されている状態を示している。耐火部材1は、建築材10に使用される。耐火部材1が建築材10に使用されることで、建築材10の耐火能力を高めることができる。更には、建築材10により建築される建築物の耐火能力を高めることができる。
【0056】
ここで耐火能力とは、建築材10が全く燃えないことではなく、燃え落ちるまでの時間を稼ぐことができる能力である。例えば、建築材10により建築された建築物において火災が発生したとする。このとき、避難が可能となる時間が長くなることが重要である。このため、燃え落ちるまでの時間が稼ぐことができればよい。耐火能力とは、このような火災などの場合における避難時間を確保するための燃え落ちるまでの時間が十分であることが重要である。これが耐火能力である。
【0057】
耐火部材1は、第1層2と第2層3とを備える。
【0058】
第1層2は、建築材の表面に形成される。第2層3は、第1層の外側に形成される。なお、第1層2と第2層3の建築材10に対する位置関係は逆であってもよい。
【0059】
第1層2は、中空セラミックスと中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダを有する。第2層3は、水酸化カルシウムと、中空セラミックスと、中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダを有する。第2層3の樹脂バインダは、水酸化カルシウムも接続する。
【0060】
第1層2と第2層3とは、このような組成の相違を有する。
【0061】
火災などが発生すると建築材10および耐火部材1の少なくとも一方に熱が加わる。火災による炎が付与されることでの熱が加わったり、発火源からの熱が加わったりする。
【0062】
このように夏が付与される場合には、第1層2は、付与される付与熱を遠赤外線に変換して外部に放射する。付与熱を遠赤外線に変換して外部に放射することで、付与熱が建築材10を温度上昇させる時間を遅らせることができる。
【0063】
並行して、第2層3は、付与される付与熱を遠赤外線に変換して外部に放射する。これと同時に、この遠赤外線が、水酸化カルシウムが含有する水分を放出する。このとき、第1層2から放射される遠赤外線と第2層3から放射される遠赤外線の両方が、水酸化カルシウムに当てられる。この遠赤外線が水酸化カルシウムに付与されることで、水酸化カルシウムが含有する水分が放出される。この水分は、建築材10の温度上昇を遅らせる。水分放出により建築材10の熱が奪われて気化熱となることで建築材10の温度上昇が抑制される。更には、水分が建築材10に付着することで、冷却して、温度上昇を抑制できる。
【0064】
なお、水分は建築材10に直接的に付着することもあるし、建築材10に施されている耐火部材1の表面に付着することもある。すなわち、建築材10に、直接的もしくは間接的に水分が付着する。直接的もしくは間接的であっても、水分付着により建築材10の温度上昇を抑制できる。
【0065】
このように、第1層2は、付与熱を遠赤外線に変換することで、建築材10の温度上昇を抑制できる。第2層3は、付与熱を遠赤外線に変換することでの温度上昇の抑制と、水酸化カルシウムの含有する水分放出により、建築材10の温度上昇を抑制できる。
【0066】
すなわち、耐火部材1は、第1層2と第2層3とのそれぞれのメカニズムによって、火災などによる建築材10の温度上昇を遅らせることができる。ハイブリッドの機能により温度上昇を遅らせることができる。
【0067】
石膏ボードのような耐火部材を建築材に備える場合には、重量が重くなりコストや施工作業性が悪くなる問題がある。水分含有層を設けるだけでは、付与熱での水分放出となるので、効率的に水分が放出されない問題がある。また、水分放出だけでの温度上昇抑制には限界がある。
【0068】
このような従来技術と異なり、(1)付与熱を遠赤外線に変換することでの温度上昇抑制、(2)遠赤外線に反応して水分が放出されることでの温度上昇抑制、との異なるメカニズムが機能する本発明の耐火部材1は、温度上昇抑制の能力に優れている。
【0069】
また、第1層2と第2層3とが備わることで、(1)と(2)の機能がそれぞれ確実に発生して、それぞれによる温度上昇抑制が合わさるメリットがある。特に、ある温度までは遠赤外線変換による(1)の機能が温度上昇を抑制し、ある温度からは(2)の機能が発生する。これにより、二つの機能が重複して温度上昇抑制を行える。
【0070】
遠赤外線放射は、温度上昇抑制だけでなく、水分放出にも寄与して、水酸化カルシウムの含有する水分の放出をより確実かつ効果的に行える。特に、第1層2および第2層3のそれぞれで中空セラミックスによる遠赤外線が満遍なく付与されることにより、第2層3の含む水酸化カルシムが含有する水分が、効果的に放出されるようになる。
【0071】
以上のように、耐火部材1は、(1)と(2)のハイブリッドの機能を実現する構成と実際の機能により、火災などによる建築材10の温度上昇を遅らせることができる。結果として燃え落ちるまでの時間を延ばして、耐火能力を高めることができる。
【0072】
(第1層と第2層による冷却メカニズム)
図2は、本発明の実施の形態1における温度上昇抑制のメカニズムを示す模式図である。図2に示すように、耐火部材1が施された建築部材10に火災などで熱が加わることがある。例えば、矢印Y1の方向から熱が加わったり、逆の矢印Y2の方向から熱が加わったりする。
【0073】
このような熱が加わると、第1層2および第2層のそれぞれの中空セラミックスの働きにより、付与された付与熱が遠赤外線に変換された外部に放射される。図2においては遠赤外線放出が矢印で示されている。逆側に向けての放射も生じうる。
【0074】
この遠赤外線の放射により、建築材10の温度上昇が抑制できる。すなわち、温度上昇を遅らせることができる。温度上昇を遅らせた状態で、あるレベルの温度まで到達する。このとき、第1層2からの遠赤外線および第2層3からの遠赤外線が第2層3に照射される。第2層3の含む水酸化カルシウムに照射される。
【0075】
水酸化カルシウムは、この遠赤外線の照射を受けて、含有する水分を放出する。図2において、水分放出の様子が示されている。勿論、付与熱そのものによっても水分放出するが、遠赤外線のエネルギーを受けることで、含有する水分を効率的に放出できる。
【0076】
この放出された水分が、建築材10の温度上昇を更に抑制できる。水分そのものが建築材10の周囲に生じることで、気化熱などによる温度上昇抑制が行われる。また、建築材10に水分が付着することで、熱による温度上昇の抑制が行われる。
【0077】
遠赤外線変換および水分放出により、建築材10の温度上昇を更に遅らせることができ、耐火能力を高めることができる。耐火部材1は、二つの異なる機能の組み合わせで(ハイブリッドの機能)高い耐火能力を実現できる。
【0078】
特に、第1層2、第2層3とがそれぞれ設けられることで、異なる温度上昇抑制機能が働く。第1層2では、この遠赤外線変換と放射が行われて、この機能による温度上昇抑制が確実に行われる。耐火部材1が第2層3のみであると、遠赤外線変換の能力が不足して、水分放出だけでの温度上昇抑制となり、全体としての温度上昇抑制が不足する。水分放出のタイミングが早くなりすぎて、水分による温度上昇抑制能力が弱まるからである(時間的にも能力的にも)。第1層2が備わることで、これを防止して、あるレベルまでは遠赤外線変換による温度上昇抑制が機能して、その過程で水分放出が始まることで、2つの機能のそれぞれが効率的に機能する。
【0079】
更に、第2層3は、水分を含有する水酸化カルシウムだけでなく、中空セラミックスを含む。この中空セラミックスによる遠赤外線変換により、水酸化カルシウムからの水分放出がより効率的になる。更には、第1層2からの遠赤外線放射も水酸化カルシウムからの水分放出を促進する。この水分放出による温度上昇抑制が並行して機能する。
【0080】
また、第1層2、第2層3が備わっているので、水分放出の期間においても熱を遠赤外線に変換して放射している。この遠赤外線変換での温度上昇抑制も並行して行われるので、耐火部材1全体での温度上昇抑制が強まる。より長期間において、より高い能力で温度上昇抑制が実現される。
【0081】
このように、第1層2と第2層3との両方が備わっていることが、高い耐火能力を実現する。この点については、実験結果を後述する。
【0082】
(第1層)
次に、第1層2と第2層3のそれぞれの機能の詳細を説明する。
【0083】
第1層2は、中空セラミックスとこれらを接続する樹脂バインダを有する。図3は、本発明の実施の形態1における第1層の構造を示す模式図である。第1層2が建築材10に施されている状態を示している。なお、第2層3については、見やすさのために図示を省略している。
【0084】
第1層2は、上述したように付与される熱を遠赤外線に変換して外部に放射する。火災などの熱が付与されると、この付与熱を遠赤外線に変換して放射する。放射することで、熱を外部に排出して温度上昇を抑制する。
【0085】
この遠赤外線への変換と放射により、付与される熱による温度上昇を抑制できる。遠赤外線に変換して放射することで、付与される熱の熱量を低減することを連続できる。熱量低減が続くことで、温度上昇を抑制できる。
【0086】
第1層2は、中空セラミックス21と中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダ22を備える。図3には、この構成が示されている。複数の中空セラミックス21が含まれ、樹脂バインダ22は、この中空セラミックス21同士を接続する。この中空セラミックス21が、付与された熱を遠赤外線に変換して放射する。
【0087】
図3に示されるように、矢印Y1の方向や矢印Y2の方向から熱が付与される。中空セラミックス21は、この熱を遠赤外線に変換して放射する。矢印X1や矢印X2の方向に遠赤外線を放射する。遠赤外線に変換放射されることで、建築材10の温度上昇が抑制される。また、既述したように、第2層3の水酸化カルシウムにも放射される。
【0088】
図4は、本発明の実施の形態1における中空セラミックスの構造を示す模式図である。中空セラミックス21は、内部空間210を有する。内部空間210は、加わる熱を、その内部で乱反射させることで、遠赤外線に変換する。
【0089】
図4に示されるように、内部空間210において加わった熱が乱反射する。この乱反射を通じて、熱は、遠赤外線に変換される。変換された遠赤外線は、放射される。
【0090】
このように、第1層2は、複数の中空セラミックス21を備えることで、熱を遠赤外線に変換できる。
【0091】
また、第1層2が備える複数の中空セラミックス21は、粒径の異なる中空セラミックス21を含むことも好適である。粒径が異なることで、中空セラミックス21のそれぞれの内部空間210での乱反射がより多く起こる。また、粒径の異なる中空セラミックス21同士での乱反射も加わり、熱の遠赤外線への変換が、より効果的に生じる。
【0092】
また、中空セラミックス21は、その表面での熱の変換により遠赤外線を生み出して、これを放射するメカニズムも発揮する。この機能も含めて、第1層2は、加わる熱を次々と遠赤外線に変換して放射できる。これにより、加わる熱による熱量(熱エネルギー)を減少させて、建築材10の温度上昇を抑制できる。
【0093】
また、粒径の中空セラミックス21が含まれることで、第1層2における中空セラミックス21の重点密度が高まる。大きな粒径の中空セラミックス21同士の間にできる隙間に、中程度あるいは小さな粒径の中空セラミックス21が入り込むからである。
【0094】
この結果、第1層2が含む中空セラミックス21の個数密度が高まる。
【0095】
個数密度が高まれば、含まれる中空セラミックス21全体の表面積が増加する。表面全体の表面積が増加することで、遠赤外線への変換量が多くなる。この増加によって、加わる熱を遠赤外線に変換することでの熱エネルギーの減衰能力が更に高まる。
【0096】
このように、第1層2が異なる粒径の中空セラミックス21を含むことは、熱を遠赤外線に変換することの能力向上に寄与する。
【0097】
中空セラミックス21は、金属酸化物を含むことも好適である。このような金属酸化物を含むことで、熱を遠赤外線に効率的に変換できる。ここで、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0098】
これらの金属酸化物を含むことで、中空セラミックス21は、熱を効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。金属酸化物は、内部空間210での乱反射を促進しつつ、乱反射の過程で遠赤外線を生じさせる。このように、金属酸化物を含む中空セラミックス21が含まれる第2層1は、付与される熱を、効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。
【0099】
ここで、第1層2を構成する中空セラミックス21が、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも2以上の種類の金属酸化物を含むことも好適である。
【0100】
異なる2種以上の種類の金属酸化物による中空セラミックス21が、第1層2に含まれることで、それぞれの中空セラミックス21が、加わる熱の異なる成分(波長成分や温度成分など)のそれぞれに対応して遠赤外線への変換を行える。ある金属酸化物の中空セラミックス21は、ある成分の熱を遠赤外線に変換し、別の種類の金属酸化物の中空セラミックス21は、別の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0101】
このように、複数の種類の金属酸化物による中空セラミックス21が第1層2を構成することで、加わる熱を、満遍なくかつ確実に遠赤外線に変換できる。すなわち、熱量(熱エネルギー)の減衰をより効率的に行える。結果として、建築材10の温度上昇を確実に行える。
【0102】
樹脂バインダー22は、中空セラミックス21同士を接続する。接続することで、第1層2が一つの層として形成できる。ここで、樹脂バインダー22は、アクリル系樹脂であることも好適である。アクリル系樹脂であることで、樹脂バインダー22による中空セラミックス21同士をより確実に接続できる。また、アクリル系樹脂であることで、第1層2の軽量化も図ることができる。
【0103】
(遠赤外線放射の確認実験)
また、発明者は被覆層が熱をくわえられると遠赤外線を放射することの確認実験を、公的研究機関(島根県産業技術センター)にて行った。この実験において、試験成績書を受領しており、図5図6において示す。図5図6は、本発明の熱放射層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
【0104】
図5図6において「ガイナ」と記載されているものが、第1層2の一例を示す。
【0105】
測定機器:日本電子株式会社製 本体JTR―WINSPEC100および赤外線測定ユニットIR-IRR200
【0106】
測定方法:測定機器を用いて遠赤外線放射の放射率を測定した。
【0107】
この測定に基づいて、第2層2での熱を加えた場合の遠赤外線放射の状態を確認した。遠赤外線の波長域(一般的には3μm~1000μm)に含まれる5.0μm~22.5μmの波長域での積分放射率が94.6%と非常に高いことが確認された。トルマリンなどの遠赤外線変換能力が知られている素材に匹敵する。このように、公的研究機関での試験成績書においても、熱放射層3による熱の遠赤外線変換の能力や効率が確認された。
【0108】
なお、第2層3の中空セラミックスと樹脂バインダについても、以上で説明してきたことと同様である。
【0109】
このように、第1層2は、付与熱を遠赤外線に変換して放射する。これにより、熱が付与されても、建築材10の温度上昇が抑制される。
【0110】
(第2層)
第2層3は、中空セラミックス、樹脂バインダおよび水酸化カルシウムを含む。中空セラミックスおよび樹脂バインダについては、第1層2で説明したのと同様である。中空セラミックスが、付与された熱を遠赤外線に変換して放射する。このため、第2層3も遠赤外線変換による建築材10の温度上昇抑制を行える。
【0111】
また、第1層2からの遠赤外線と第2層3からの遠赤外線は、水酸化カルシウムに照射される。水酸化カルシウムは、水分を含有している。遠赤外線が照射されると、含有する水分を水蒸気として放出する。この水蒸気が、建築材10の温度を下げるように働いて、温度上昇を抑制する。
【0112】
また、この水蒸気が外部で冷却されて水分となり、建築材10に付着する。建築材10に付着した水分が建築材10そのものの温度を下げるように機能する。また、建築材10の温度が上昇すると、付着した水分が気化する。この気化熱によって、建築材10の温度を下げるように機能する。
【0113】
これらの機能が相まって、放出された水分が、建築材10の温度上昇を抑制する。
【0114】
第2層3は、架橋剤を更に含むことも好適である。架橋剤を含むことで、中空セラミックスや水酸化カルシウムなどの経年劣化による剥離が抑制されるからである。
【0115】
架橋剤は、プロピレングリコール類、ジメチルピラゾール類、ヘキサメチレンジイソシアナート、アルキル鎖含有分子、水、を含む。このような組成を有することで、中空セラミックスや水酸化カルシウムを接続する接続力を確実に上げることができる。
【0116】
(近赤外線の反射)
第1層2および第2層3の含む中空セラミックスは、外部からの熱の内、近赤外線を外部に反射することも行う。この反射により、近赤外線による建築材10の温度上昇を抑制する。
【0117】
耐火部材1は、火災などの付与熱での近赤外線を反射することも相まって、建築材10の温度上昇を抑制できる。
【0118】
(建築材)
建築材10は、建築物に使用される建築用基材である。建築材10は、木製であるものも含む。木製の建築材10に耐火部材1が施されることで、木製建築物においても、耐火能力を高めることができる。結果として、木製建築物の普及に繋がる。
【0119】
木製の建築材10に耐火部材1が施される。この耐火部材1を備えた建築材10で木製建築物が建築されれば、高い耐火能力を備えた木製建築物を建てることができる。火災などの発生があっても、避難や消火の時間を十分に確保できる木製建築物となる。
【0120】
以上のように、実施の形態1における耐火部材1は、異なる機能のハイブリッドにより、建築材10の温度上昇を遅らせて耐火能力を高めることができる。
【0121】
(実施の形態2)
【0122】
次に実施の形態2について説明する。実施の形態2では、各種の実験結果について説明する。
【0123】
(水分放出の確認実験)
図7図8は、本発明の実施の形態2における水分放出の確認実験を示す写真である。
【0124】
木製建築材の一方の面に耐火部材を被覆したサンプルを準備した。このサンプルを炉に固定して、木製建築材の側からバーナーにより炎を当てて熱した。この炎の付与により、木製建築材の温度が上昇する。
【0125】
耐火部材が被覆されている側に、カップを押し当てる。カップ内部に、耐火部材から放出される水分を溜めるためである。温度上昇に伴って、耐火部材からは水分が放出される。この水分がカップ内部に溜まっていく。カップは耐火部材表面に押し当てられているので、水分がカップ内に入っていくからである。
【0126】
図7は、このカップを押し当てている状態を示している。
【0127】
ある時間が経過すると、木製建築部材の温度が上昇して耐火部材から水分が放出されて行く。この水分がカップに溜まる。ある時間経過後に、カップを外すと、図8に示されるように、カップ内部から湯気が生じているのが分かる。この湯気は水分であり、耐火部材から水分が放出されていることが確認された。
【0128】
このように、耐火部材が水分を放出していることが、実験からも確認された。この水分放出により、建築材の温度上昇が抑制される。
【0129】
(温度上昇抑制確認実験)
実際に、耐火部材と耐火部材以外の比較例とのサンプルを製作し、加熱実験により建築材の燃え落ちるまでの時間を比較する実験を行った。
【0130】
図9は、加熱実験の実験方法を示す模式図である。
【0131】
図9の左側は、実験装置の写真を示している。図9の右側は、実験装置の模式図を示している。図9にあるように、発熱体となる加熱器が設置される。この加熱器の上に熱を狭い領域に集中させる集熱器が設置される。この集熱器の上に、試験体が設置される。
【0132】
加熱器は、600Wの発熱体である。この発熱体からの熱が集熱器により集中させられて、試験体の一部に熱として付与される。試験体の温度上昇を測定しつつ、試験体が燃え落ちるまでの時間を測定する。
【0133】
試験体のベースは、5mm厚のベニヤ板である。このベニヤ板の時間経過に応じた温度上昇と燃え落ちるまでの時間を測定する。燃え落ちるのは、熱で貫通する状態を目視で確認する。
【0134】
サンプルとしては、次の種類を実施例と比較例として準備した。
【0135】
板のみ(比較例):板のみであり、他の被覆などは設けていない(比較例1)
板+第2層(水酸化カルシウムなどを含む層):板の表面に第2層のみを被覆(比較例2)
板+第1層(中空セラミックスを含む層):板の表面に第1層のみを被覆(比較例3)
板+第1層+第2層:板の表面に実施の形態1で説明した耐火部材を被覆(実施例)
【0136】
なお、第1層、第2層、耐火部材は、実施の形態1で説明したものである。
【0137】
これらのサンプルのそれぞれについて、図9の実験装置および実験方法で、加熱による温度変化と燃え落ちるまでの時間を測定した。
【0138】
図10は、加熱実験の測定結果のグラフである。図10に、これらサンプルについての結果を示している。下記に結果を記す。
【0139】
(比較例1:板のみ)
275℃まで上昇して、そこで燃え抜けた。燃え抜けるまでの時間は、14分26秒であった。図10のグラフに示されるように、板のみの比較例1は、もっとも燃え抜けるまでの時間が短い。すなわち、もっとも耐火能力が低いことが確認された。
【0140】
(比較例2:板+第2層)
330℃まで上昇して、そこで燃え抜けた。燃え抜けるまでの時間は、36分45秒であった。図10のグラフに示されるように、板+第2層の比較例2は、燃え抜けるまでの時間が2番目に短い。すなわち、耐火能力においては、下から2番目である。第2層による水分放出の効果はあると考えられるが、第1層による遠赤外線変換がないこと、また、遠赤外線照射による水分放出が不足することにより、耐火能力が不十分である。
【0141】
(比較例3:板+第1層)
318℃まで上昇して、そこで燃え抜けた。燃え抜けるまでの時間は、58分30秒であった。図10のグラフに示されるように、板+第1層の比較例3は、燃え抜けるまでの時間が3番目に短い。すなわち、耐火能力においては、下から3番目である。第1層による遠赤外線変換の効果はあると考えられるが、やはり放出される水分そのものによる温度上昇抑制が無いことで、温度上昇抑制能力が不足している。
【0142】
(実施例:板+第1層+第2層)
293℃まで上昇して、そこで燃え抜けた。燃え抜けるまでの時間は、78分30秒であった。図10のグラフに示されるように、板+第1層+第2層(板に耐火部材を施したもの)の実施例は、燃え抜けるまでの時間が最も長い。
【0143】
すなわち、耐火部材が備わることで、比較例1~3とは大きく異なり、耐火時間を大きく伸ばすことができる。耐火能力が高く耐火時間が長いことで、例えば、木製建築物などの火災時の耐火時間を長くできる。
【0144】
また、水酸化カルシウムを含む第2層のみの比較例2や、中空セラミックスを含む第1層のみの比較例3よりも、実施例の耐火時間は長い。すなわち、中空セラミックスによる熱の遠赤外線変換だけの場合、水酸化カルシウムからの水分放出だけの場合よりも、これらの機能が組み合わさっていることが(実施例)、耐火能力向上に重要であることが確認された。
【0145】
また、板+第2層の比較例2では、第2層が中空セラミックスを含んでいるのに、実施例よりも耐火能力が低い。つまり、水酸化カルシウムと中空セラミックスを含む第2層のみでは、中空セラミックスによる遠赤外線変換と水酸化カルシウムからの水分放出が不十分であることが分かる。
【0146】
これは、中空セラミックスによる遠赤外線変換が不十分であること(遠赤外線変換による温度上昇抑制が不十分であること)に加えて、水酸化カルシウムに照射される遠赤外線のエネルギーが不十分であることも示している。すなわち、第1層と第2層の両方を備えて、十分な遠赤外線変換と、十分な遠赤外線照射による水酸化カルシウムからの効果的な水分放出がされることが、耐火能力の向上に必要であることが分かる。
【0147】
熱の遠赤外線変換と水酸化カルシウムからの水分放出の機能の組み合わせを最適に実現するには、実施の形態1で説明した第1層と第2層とを、耐火部材が備えることが重要であることが確認された。
【0148】
以上のような耐火実験(温度上昇抑制確認実験)により、本発明の耐火部材の耐火能力の高さを確認できた。
【0149】
以上、実施の形態1~2で説明された耐火部材は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0150】
1 耐火部材
2 第2層
3 第2層
10 建築材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10