IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ナカニシの特許一覧

特開2024-112339ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法
<>
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図1
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図2
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図3
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図4
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図5
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図6
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図7
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図8
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図9
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図10
  • 特開-ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112339
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/182 20160101AFI20240814BHJP
【FI】
H02P6/182
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017227
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000150327
【氏名又は名称】株式会社ナカニシ
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊平
(72)【発明者】
【氏名】大坪 剛磨
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA13
5H560DC12
5H560EB01
5H560JJ07
5H560JJ20
5H560SS01
5H560TT15
5H560UA05
(57)【要約】
【課題】BLDCモータの制御において、停止時や低速域にも対応可能な磁極位置推定方法を実現する。
【解決手段】ブラシレス直流電動機の駆動装置は、予め規定された印加条件に基づいて、インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に電圧パルスを印加させ、前記印加の際に検出された誘起電圧の値に基づいて、前記ブラシレス直流電動機の回転子の角度を推定し、前記推定された回転子の角度に対応して、前記ブラシレス直流電動機に印加する相および電圧を決定し、前記決定した相および電圧を、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に印加させることにより得られる電流の変化に基づいて、前記回転子の磁極の向きを推定する。
【選択図】 図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレス直流電動機の駆動装置であって、
前記ブラシレス直流電動機を駆動するインバータと、
前記ブラシレス直流電動機における誘起電圧を検出する誘起電圧検出手段と、
前記ブラシレス直流電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記誘起電圧検出手段および前記電流検出手段による検出結果に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、
予め規定された印加条件に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に電圧パルスを印加させ、
前記印加の際に前記誘起電圧検出手段にて検出された誘起電圧の値に基づいて、前記ブラシレス直流電動機の回転子の角度を推定し、
前記推定された回転子の角度に対応して、前記ブラシレス直流電動機に印加する相および電圧を決定し、
前記決定した相および電圧を、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に印加させることにより、前記電流検出手段にて得られる電流の変化に基づいて、前記回転子の磁極の向きを推定する、ことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記印加条件は、
(i)電圧パルスの印加による前記回転子の回転角度が所定の範囲内となる、かつ、
(ii)前記回転子の位置に依存せずに前記ブラシレス直流電動機の回転が開始可能である、
ように設定されることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記所定の範囲は、前記回転子と機械負荷との接続部分における、回転動作に対する遊びの範囲内である、ことを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記印加条件は、印加する電圧パルスのパルス幅、印加回数の上限値、電圧パルスを印加する相の順序、および総印加回数の上限値が規定される、ことを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記誘起電圧検出手段にて検出された誘起電圧の正負の組み合わせに基づいて、前記ブラシレス直流電動機の回転子の角度を推定する、ことを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記制御手段は、電圧パルスを印加した際に、前記ブラシレス直流電動機の固定子の3相のうち2以上の相における誘起電圧の値が閾値を超えた時点の誘起電圧の値に基づいて、前記回転子の角度を推定する、ことを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記制御手段は、電圧パルスを印加した総印加回数が所定の上限値に達しても前記固定子の3相のうち2以上の相における誘起電圧の値が閾値を超えない場合、前記回転子がロック状態であると判定する、ことを特徴とする請求項6に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記回転子がロック状態であると判定した場合、ユーザに通知を行う、ことを特徴とする請求項7に記載の駆動装置。
【請求項9】
ブラシレス直流電動機を駆動するインバータと、前記ブラシレス直流電動機における誘起電圧を検出する誘起電圧検出手段と、前記ブラシレス直流電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、を備えるブラシレス直流電動機の制御方法であって、
前記誘起電圧検出手段および前記電流検出手段による検出結果に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機を制御する制御工程を有し、
前記制御工程において、
予め規定された印加条件に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に電圧パルスを印加させ、
前記印加の際に前記誘起電圧検出手段にて検出された誘起電圧の値に基づいて、前記ブラシレス直流電動機の回転子の角度を推定し、
前記推定された回転子の角度に対応して、前記ブラシレス直流電動機に印加する相および電圧を決定し、
前記決定した相および電圧を、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に印加させることにより、前記電流検出手段にて得られる電流の変化に基づいて、前記回転子の磁極の向きを推定する、ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレス直流電動機の駆動装置、および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の一種であるブラシレス直流電動機(以下、単に「BLDCモータ」と称する)は、産業、家電、医療機器などに幅広く利用されている。BLDCモータの制御では、回転子の磁極の位置を検出して、その回転を制御することが行われている。
【0003】
BLDCモータの位相検出では、例えば、スイッチング回路とホール素子とにより構成されるホールICを用いた手法などが用いられるが、コスト、サイズ、配線などが課題となる。一方、ホールICなどの角度センサを用いずに、電流センサなどを用いた位相推定による角度センサレス制御もある。例えば、特許文献1では、交流モータにおいて、U相―VW相間、V相―UW相間、およびW相―UV相間の各相間の組み合わせに電圧を印加し、印加した電圧に応じて各相のインダクタンスによって変化する各相に流れる電流の大小関係に基づいてモータの電気角を求める構成が開示されている。また、特許文献2では、直流モータの駆動中に、全相に対する通電をオフにして、モータの誘起電圧を各相から検出し、誘起電圧の位相を演算する位相演算器からの出力に基づいて、モータの回転方向を推定する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3381408号公報
【特許文献2】特開2007-151351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、特許文献1の手法では、各相のインダクタンスのバラツキが大きい場合には、回転子の位相の検出ができないという課題がある。また、特許文献2の手法では、誘起電圧が回転速度に比例するため、モータが停止時、極低速回転、あるいは、回転変動が大きい場合には適用できない。例えば、磁極位置推定を、モータを回転させずに、もしくは、極低速回転で行う必要がある場合には、誘起電圧が定常的に得られず、特許文献2の手法では実用的な位置検出ができない。
【0006】
上記のような理由から、特許文献1、2の手法では、モータの停止時、もしくは、極低速回転時において、逆転などの無駄な回転動作を発生させずに、磁極位置推定を実現することができない。特に、モータの低速回転や停止に伴う動作制御を要する機器においては、逆転動作など不要な回転を発生させずに、このような条件下でのBLDCモータの制御方法が求められている。
【0007】
上記課題を鑑み、本発明は、BLDCモータの制御において、停止時や低速域にも対応可能な磁極位置推定方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を有する。すなわち、ブラシレス直流電動機の駆動装置であって、
前記ブラシレス直流電動機を駆動するインバータと、
前記ブラシレス直流電動機における誘起電圧を検出する誘起電圧検出手段と、
前記ブラシレス直流電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記誘起電圧検出手段および前記電流検出手段による検出結果に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、
予め規定された印加条件に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に電圧パルスを印加させ、
前記印加の際に前記誘起電圧検出手段にて検出された誘起電圧の値に基づいて、前記ブラシレス直流電動機の回転子の角度を推定し、
前記推定された回転子の角度に対応して、前記ブラシレス直流電動機に印加する相および電圧を決定し、
前記決定した相および電圧を、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に印加させることにより、前記電流検出手段にて得られる電流の変化に基づいて、前記回転子の磁極の向きを推定する、ことを特徴とする駆動装置。
【0009】
また、本発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、ブラシレス直流電動機を駆動するインバータと、前記ブラシレス直流電動機における誘起電圧を検出する誘起電圧検出手段と、前記ブラシレス直流電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、を備えるブラシレス直流電動機の制御方法であって、
前記誘起電圧検出手段および前記電流検出手段による検出結果に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機を制御する制御工程を有し、
前記制御工程において、
予め規定された印加条件に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に電圧パルスを印加させ、
前記印加の際に前記誘起電圧検出手段にて検出された誘起電圧の値に基づいて、前記ブラシレス直流電動機の回転子の角度を推定し、
前記推定された回転子の角度に対応して、前記ブラシレス直流電動機に印加する相および電圧を決定し、
前記決定した相および電圧を、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に印加させることにより、前記電流検出手段にて得られる電流の変化に基づいて、前記回転子の磁極の向きを推定する、ことを特徴とする制御方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、BLDCモータの制御において、停止時や低速域にも対応可能な磁極位置推定方法によるモータ制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るBLDCモータを含むモータシステムの構成例を示す図。
図2】従来構成におけるインダクタンスのバラツキの影響を説明するためのグラフ図。
図3】従来構成におけるインダクタンスのバラツキの影響を説明するためのグラフ図。
図4】本発明の一実施形態に係る磁極位置推定方法の概念を説明するための概略図。
図5】本発明の一実施形態に係る磁極位置推定方法を説明するための図。
図6】本発明の一実施形態に係る磁極位置推定方法を説明するための図。
図7】本発明の一実施形態に係る磁極位置推定方法を説明するための図。
図8】本発明の一実施形態に係る磁極位置推定方法を説明するための図。
図9】本発明の一実施形態に係る磁極位置推定方法を説明するための図。
図10】本発明の一実施形態に係る磁極位置推定方法を説明するための図。
図11】本発明の一実施形態に係るモータ制御処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を説明するための一実施形態であり、本発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0013】
<第1の実施形態>
[モータ構成]
図1は、本発明に係るモータ制御方法を適用可能な3相のBLDCモータを含むモータシステム1の構成例を示す。モータシステム1には、電力の供給源となる直流電源10が備えられ、直流電源10の正側の端子と、負側の端子の間には直流電圧平滑用のコンデンサ11が接続される。コンデンサ11の正側の端子と、負側の端子はそれぞれ、インバータ12に接続される。
【0014】
インバータ12の出力端子には、制御対象であるBLDCモータ22の交流端子(U相、V相、W相)が接続される。BLDCモータ22は、インバータ12が供給する3相交流電力によって駆動制御される。
【0015】
BLDCモータ22とインバータ12との接続配線には更に、電圧増幅回路18が接続される。電圧増幅回路18は、BLDCモータ22に印加されている3相交流電力を検出して、所定のゲインに基づいて増幅し、誘起電圧検出回路19へ検出値を出力する。誘起電圧検出回路19は、パルス発生器15からの信号に基づいて、電圧増幅回路18からの検出値を取得し、角度・磁極方向推定器20へ、誘起電圧信号として出力する。
【0016】
角度・磁極方向推定器20は、パルス発生器15からの信号、電流検出回路17からの電流値、および、誘起電圧検出回路19からの誘起電圧信号に基づいて、回転子の角度および磁極方向を推定する。そして、角度・磁極方向推定器20は、推定した回転子の角度および磁極方向の推定値を、位相演算器21へ出力する。
【0017】
位相演算器21は、角度・磁極方向推定器20からの推定値に基づいて、回転子の位置を推定し、推定値を制御器13へ出力する。位相演算器21は、角度・磁極方向推定器20からの推定値に基づいて、回転子の回転方向を推定してよい。
【0018】
制御器13は、モータシステム1の制御全体を司り、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Single Processor)、または専用回路などから構成されてよい。また、制御器13には、不図示の記憶装置が備えられ、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の揮発性および不揮発性の記憶媒体により構成され、各種情報の入出力が可能である。
【0019】
制御器13は、位相演算器21からの回転子の位置に基づいて、インバータ12に対する制御信号を信号処理器14へ出力する。また、制御器13は、パルス発生器15に対して、制御信号のON/OFFを切り替えるパルス信号の発生を指示する。
【0020】
パルス発生器15は、制御器13からの指示に基づいて、パルス信号を信号処理器14、電流検出回路17、誘起電圧検出回路19、および角度・磁極方向推定器20にそれぞれ出力する。信号処理器14は、パルス発生器15からのパルス信号に応じて、制御器13からの制御信号を処理し、3相ゲートドライバ16へ出力される。3相ゲートドライバ16は、信号処理器14から制御信号に基づいて、インバータ12を構成する電力半導体スイッチ素子のゲートに対する制御信号を出力する。図1の例では、6つの電力半導体スイッチ素子が設けられ、NチャンネルのパワーMOSFETの例を示している。しかし、電力半導体スイッチ素子の種類はこれに限定するものではなく、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などが用いられてもよい。
【0021】
電流検出回路17は、パルス発生器15からのパルス信号に基づいて、インバータ12にて印加されている電流の電流値を検出し、角度・磁極方向推定器20に出力する。
【0022】
BLDCモータ22は、ブラシレス直流電動機であり、不図示の固定子(ステータ)、および回転子(ロータ)を含んで構成される。BLDCモータ22は、インナーロータ形の3相ブラシレスモータであってもよいし、アウターロータ形の3相ブラシレスモータであってもよい。また、極数や巻き数などについても特に限定するものではない。なお、本実施形態に係るBLDCモータ22は、回転子と機械負荷とが、例えば、クラッチ(不図示)にて接続されており、このクラッチとの接続部分において回転に対する一定の遊び(「ガタ」とも称する)が存在しているものとする。機械負荷は、BLDCモータ22によって駆動される負荷装置である。本実施形態は、産業機器、家電機器、医療機器、鉄道、電気自動車などの動作部分が相当し、本発明に係るBLDCモータの制御方式が適用可能である。
【0023】
[インダクタンスのバラツキによる影響]
以下、本実施形態に係るモータ制御が考慮するモータの各相におけるインダクタンスのバラツキについて説明する。図2は、インダクタンスのバラツキが少ない場合の例を示し、図3は、インダクタンスのバラツキが多い場合の例を示す。
【0024】
図2(a)において、横軸はモータの回転子の角度[°](回転角)を示し、縦軸は電流値[A]を示す。図2(b)において、横軸はモータの回転子の角度[°]を示し、縦軸はインダクタンス[H]を示す。図2(b)に示すように、モータのU相、V相、W相のそれぞれにおいて、インダクタンスは、回転子のいずれの位置でも安定している。この場合、図2(a)に示すように、回転子の位置(角度)に応じて、U相、V相、W相、U相(逆位相)、V相(逆位相)、W相(逆位相)のそれぞれでピークが現れる電流値が異なる。つまり、回転子の角度と、検出される電流値の間に一定の相関を特定できる。そのため、インダクタンスのバラツキが少ない場合には、回転子の角度が検出でき、位置を推定することが可能となる。
【0025】
図3(a)において、横軸はモータの回転子の角度[°](回転角)を示し、縦軸は電流値[A]を示す。図3(b)において、横軸はモータの回転子の角度[°]を示し、縦軸はインダクタンス[H]を示す。図3(b)に示すように、インダクタンスのバラツキが大きい(本例では、W相のインダクタンスが特に乖離している)場合を挙げる。このような場合、図3(a)に示すように、電流のピーク位置の相関が崩れてしまう。その結果、回転子の角度が検出できず、位置を推定することが不可能となってしまう。
【0026】
このような状況下では、例えば、特許文献1に示す手法では、インダクタンスの影響に起因して位置推定が不可能となりうる。そこで、本実施形態では、上記のようなインダクタンスのバラツキがあっても正確に磁極位置推定が可能な手法を提案する。
【0027】
[磁極位置推定]
図4は、本実施形態に係るモータの回転子の磁極位置推定を説明するための概略図である。図4において、本実施形態に係る回転子の磁極位置推定手法は大きく、2つのステップに分けられる。まず、第1のステップとして、図4(a)に示すように、停止中または極低速回転中のモータにおける固定子コイル400に、電源401から所定のパルス信号による電圧(以下、「電圧パルス」と称する)を印加し、それによって発生した誘起電圧を検出することで、回転子の軸(以下、「ロータ軸」と称する)の角度を推定する。図4では、電圧計402、電流計403を併せて示している。
【0028】
第2のステップとして、図4(b)に示すように、検出されたロータ軸410の角度に対し、電圧パルスを印加してピーク電流を検出することで、ロータ軸410のN極/S極の方向を推定する。
【0029】
(第1のステップ:回転子の角度推定)
まず、本実施形態に係る磁極位置推定方法の第1のステップとして、回転子の角度推定について説明する。上記に示したように、固定子コイルにはU相、V相、W相があり、それぞれに対して所定の電圧パルスを印加可能である。この時点では、ロータ軸の位置は不明である。
【0030】
まず、3つの相に対して所定の電圧パルスを変化させながら印加させる。本実施形態において、所定の電圧パルスの印加条件は、以下の2つとする。
(i)電圧パルスの印加による回転子の回転角度が所定の範囲内となる
(ii)回転子の位置に依存せずにモータの回転が開始可能である
【0031】
上記の印加条件を満たせば、以下の例以外のパラメータが設定されてよい。条件(i)における所定の範囲内は、本実施形態では、上述したモータと機械負荷との接続部のガタに起因して、回転子が回転したとしても機械負荷自体は回転開始しない範囲とし、ここでは、10°の範囲として説明する。また、ここでは、電圧パルスを印加する際の初期の相としてU相を例に挙げて説明する。
【0032】
また、条件(ii)は、所定の間隔にて角度が切り替わるように、印加する相を切り替えることで実現する。つまり、条件(ii)では、ある時点において、電圧パルスの印加による磁束の方向が回転子を構成する永久磁石の磁束の方向に一致していたとしても、異なる角度となるように印加する相を切り替えることで磁気的なロックを回避することを目的とする。
【0033】
図5は、本実施形態に係る位置推定方法における第1のステップの操作を説明するための図である。なお、図5は、モータを正転(反時計回り)設定の場合を示し、逆転(時計回り)設定の場合は逆の操作であってよい。まず、U相に対し、1回目の電圧パルスの印加として、所定の時間間隔をONとした電圧パルスを印加する。そして、この印加の結果として検出された誘起電圧が所定の閾値を超えたか否かを判定する。所定の閾値を超える場合とは、回転子が時計回りまたは反時計回りに回転したことと同義である。ここでの所定の閾値は予め規定されていてよく、モータの誘電特性に基づいて規定されてよい。また、図5の例の場合、所定の時間間隔を、5μsごととし、1回目では5μsをONとした電圧パルスとする。
【0034】
1回目の印加にて誘起電圧が所定の閾値を超えない場合には、2回目の印加として、10μsのパルス電圧をU相に印加する。所定の閾値を超えるまで、この操作を、N回繰り返す。図5の例では、Nの上限を10とする(N≦10)。したがって、最大の電圧パルスのONの時間は50μsとなる。N回行った時点で誘起電圧が所定の閾値を超えない場合、すなわち、回転子が回転しない場合には、U相による磁束の向きとロータ軸とが一致していると想定されるため、(N+1)回目は、異なる角度となるように電圧パルスを印加する。図5の例の場合、11~20回目の印加として、反時計回りに30°傾けた角度にて、5~50μsの印加を行う。同様に、誘起電圧が所定の閾値を超えない場合には、更に角度を切り替えて、電圧パルスの印加を繰り返す。ここでの角度の切り替えは、図5のように回転方向(時計回り/反時計回り)を交互に切り替えてもよいし、同じ方向に所定間隔で傾けていってもよい。
【0035】
本実施形態では、計70回(10回×7つの角度)にて誘起電圧が所定の閾値を超えない場合には、本処理を終了する。この場合は、本実施形態では、モータの回転に対して機械的な制約(例えば、回転子のロック)が生じているものとして扱う。
【0036】
図6は、第1のステップにおける誘起電圧の検出結果の例を示す。図6において横軸は時間を示し、図6の各グラフのタイミングは対応している。また、図6(a)~(c)の縦軸は検出された誘起電圧の値を示し、中央に0を示す。
【0037】
図6(a)は、UV相における誘起電圧の検出結果を示す。検出値600に対し、変換値601は、所定の期間における検出結果の平均値を示す。なお、ここでは、変換値601として平均を用いたがこれに限定するものではない。また、検出値600にフィルタリングを行った上で変換値601を導出してもよい。また、閾値602、603はそれぞれ、誘起電圧の検出値に対する正の閾値および負の閾値を示す。変換値601が閾値602または閾値603を超えた時点の値に基づいて、ロータ軸の位置(角度)を推定する。
【0038】
図6(b)は、VW相における誘起電圧の検出結果を示す。検出値610、変換値611、閾値612、613の構成は、図6(a)と同様である。また、図6(c)は、WU相における誘起電圧の検出結果を示す。検出値620、変換値621、閾値622、623の構成は、図6(a)と同様である。
【0039】
図6(d)は、電圧パルス630の印加タイミングを示す。なお、図6(d)では、電圧パルスの値および印加時間(パルス幅)が一定にて示されているが、実際には、図5に示すように、パルス幅は順次変更されて印加される。
【0040】
図6の例の場合、3回目の電圧パルスの印加により、UV相の誘起電圧と、WU相の誘起電圧が閾値を超えていることから、このタイミングにて回転子の回転が生じ、このタイミングでの誘起電圧としての起電力の正負によりロータ軸の角度を推定する。なお、UV相、VW相、WU相のうちの2つ以上の検出結果が閾値を超えた場合に、回転子の回転が生じたものと判定し、検出結果が閾値を超えている箇所が1つ以下である場合には、回転子の回転は生じていないものとして扱う。
【0041】
図7および図8は、図6にて示したような検出結果に基づいて、回転子の角度推定を行う際の方法を説明するための図である。図7は、回転子が正転(反時計回り)の場合の例を示し、図8は、回転子が逆転(時計周り)の場合の例を示す。
【0042】
図7(a)は、U相、V相、W相に対して、ロータ軸の角度を6つの領域(60°間隔)に分けて定義した概念図である。ここでは、6つの領域をそれぞれ、領域1~領域6として説明する。また、U相、V相、W相の位置はそれぞれ、領域4、領域2、領域6に対応しているものとする。図7(b)は、誘起電圧の変化を示し、UV相、VW相、WU相それぞれに対して得られる値を示す。図7(b)において、横軸は時間を示し、縦軸は、誘起電圧の値を示す。図7(c)は、図7(a)に示す領域と、図7(b)に示す誘起電圧との対応関係に基づいて特定される、ロータ軸の位置(角度)に応じた起電力の正負を示す表である。
【0043】
図8(a)も同様に、U相、V相、W相に対して、ロータ軸の向きを6つの領域(60°間隔)に分けて定義した概念図である。ここでは、6つの領域をそれぞれ、領域1~領域6として説明する。また、U相、V相、W相の位置はそれぞれ、領域1、領域5、領域3に対応しているものとする。図8(b)は、誘起電圧の変化を示し、UV相、VW相、WU相それぞれに対して得られる値を示す。図8(b)において、横軸は時間を示し、縦軸は、誘起電圧の値を示す。図8(c)は、図8(a)に示す領域と、図8(b)に示す誘起電圧との対応関係に基づいて特定される、ロータ軸の位置(角度)に応じた起電力の正負を示す表である。
【0044】
図6にて示したように、所定の条件に基づいて電圧パルスを印加し、閾値を超えた時点の起電力の正負にて、回転子の位置(ロータ軸の角度)を特定する。例えば、図7(c)や図8(c)の枠にて示すように、U相の起電力が正(+)、V相の起電力が負(-)、W相が0(すなわち、空きコイル)である場合には、ロータ軸の角度は領域3に位置すると推定される。つまり、図4(a)のような状態であることが推定される。しかしながら、回転子の回転が、正転か逆転かが特定できていないため、磁極の向き(N極、S極の配置)までは特定できない。つまり、図7(正転)および図8(逆転)のいずれであっても、ロータ軸の角度は領域3として特定することができるが、N極(もしくは、S極)がどの位置にあるかまでは、この時点では特定できない。
【0045】
なお、図6の検出例の場合、3回目の印加において、UV相の起電力が正(+)(図6(a))、WU相の起電力が負(-)、VW相の起電力が0となっていることから、図7図8を参照すると、ロータ軸の角度は、領域2であると推定でき、この時点では、磁極の向きは未定となる。
【0046】
(第2のステップ:磁極方向推定)
本実施形態に係る手法では、上記の第1のステップにて特定されたロータ軸の角度に基づき、更に磁極の方向の推定を第2のステップとして行う。以下、第2のステップの構成について説明する。
【0047】
図9は、図2にて説明したように、回転子が一定速度以上にて回転し、インダクタンスのバラツキが少ない場合に検出される電流値の例を示す図である。
【0048】
図9(a)は、3相コイルにおいて、各相に印加した電圧の結果として得られる電流の設計値のグラフを示し、横軸が位相の角度[°]を示し、縦軸が電流値[A]を示す。ここでは、各相に対して正負の電圧をかけた結果、正位相と逆位相の設計値として計6つの波形が得られる例を示している。図9(b)は、インダクタンスのバラツキが少ない場合として、得られた電流値の例を示し、横軸が位相の角度[°]を示し、縦軸が電流値[A]を示す。上述したように、印加する電圧と位相角に応じて、電流値のピーク位置が現れる。そのため、各相に対する印加電圧と、検出される電流のピーク位置に応じて、磁極の向きが特定できる。しかし、上述したように、回転子の停止時や極低速回転中などにおいて、インダクタンスのバラツキが大きい場合には、図9に示したような電流のピーク位置を設計値に対応して検出することが困難となる。
【0049】
そこで、本実施形態に係る手法では、第1のステップにて推定したロータ軸の角度に基づいて、各相に対する印加パターン(上記の例では6つ)の中から、実際に印加する印加パターンを特定する。そして、その印加パターンの結果として得られる波形のピーク位置に基づいて、磁極の方向を推定する。
【0050】
図10(a)は、インダクタンスのバラツキが大きい場合に検出される、各位相に対して印加した電圧に対する電流値である。図10(a)に示すように、この状態では、磁極の向きの推定が困難である。そこで、6つの印加パターン全てを用いる代わりに、第1のステップにて推定したロータ軸の角度、すなわち、正転および逆転それぞれに対応した推定結果から2つの印加パターンを選別する。本例では、図7および図8にて示した例と同じ領域3に対応して、W相への正方向の電圧および逆方向の電圧を印加することで、2つの電流波形を取得する。そして、その検出結果におけるピーク位置に基づいて、磁極の向き、すなわちN極とS極の位置を推定する。なお、ここでの電圧の印加は正方向および逆方向のいずれかのみの印加を行い、その結果に基づいて回転子の磁極の向きを推定してもよい。
【0051】
印加パターンに対応して得られた電流波形のピーク位置から磁極の向きを推定する方法は、磁気特性に基づいた公知の手法を用いることが可能である。このような手法の例としては、例えば、特許文献1に記載されているような、磁気飽和特性による手法が挙げられる。
【0052】
[処理フロー]
図11は、本実施形態に係るモータ制御処理のフローチャートである。本処理は、モータシステム1により実行され、例えば、制御器13が本実施形態に係る処理を実現するためのプログラムを記憶装置(不図示)から読み出して、モータシステム1内の各部位を制御することにより実現されてよい。なお、以下の処理における電圧パルスや印加する相に関する制御パラメータや、上述したような推定に用いられる閾値やテーブルに関する情報は予め規定され、記憶装置にて記憶されているものとする。ここでは、説明を簡単にするため、処理主体をモータシステム1として包括的に記載する。
【0053】
なお、図11に示すフローチャートにおいて、ステップS1101~ステップS1105、ステップS1110~ステップS1113の工程が、第1のステップとして上述した回転子の角度推定の処理に相当する。また、ステップS1106~ステップS1108の工程が、第2のステップとして上述した磁極方向推定の処理に相当する。なお、ステップS1114、ステップS1115の工程は、エラー処理に関する工程である。
【0054】
ステップS1101にて、モータシステム1は、本実施形態に係る位置推定方法における電圧パルスの印加条件に関する情報を取得する。本情報は予め定義され、記憶装置に保持されているものとする。より具体的には、図5にて示したような、電圧パルスを印加させる相や印加順、電圧パルスの幅(パルス幅)、印加させる回数の上限値などが印加条件として規定される。
【0055】
ステップS1102にて、モータシステム1は、ステップS1101にて取得した印加条件に基づき、電圧パルスを印加する相、および、電圧パルスのパルス幅を決定する。
【0056】
ステップS1103にて、モータシステム1は、ステップS1102にて決定した相に対して電圧パルスを印加し、誘起電圧を検出する。このとき、決定した相に対する電圧パルスの印加回数、および、3相コイルに対して印加した総印加回数をカウントする。上述したように、電圧パルスを印加した場合でも、BLDCモータ22は、所定の範囲内での回転しか生じないように、印加条件が設定される。
【0057】
ステップS1104にて、モータシステム1は、ステップS1103にて検出した誘起電圧の値において、2以上の相にて閾値を超えたか否かを判定する。ここでの閾値は、図6にて示したように予め規定されている。また、検出値と閾値とを比較するために、検出値は、所定の間隔における平均値が算出されて用いられてよいし、フィルタリングが行われた値が用いられてもよい。2以上の相にて検出値が閾値を超えた場合(ステップS1104にてYES)、モータシステム1の処理はステップS1105へ進む。一方、検出値が閾値を超えた相が1以下である場合(ステップS1104にてNO)、モータシステム1の処理はステップS1110へ進む。
【0058】
ステップS1105にて、モータシステム1は、ステップS1103にて検出された検出値に基づいて、ロータ軸の角度を推定する。より具体的には、図7および図8にて示したように、検出された起電力の正負に基づいて、ロータ軸の角度を推定する。
【0059】
ステップS1106にて、モータシステム1は、ステップS1105にて推定したロータ軸の角度に基づいて、印加する相および電圧を決定する。より具体的には、図10にて示したように、ステップS1105にて推定したロータ軸の角度(領域)に基づいて、2つの印加電圧を決定する。
【0060】
ステップS1107にて、モータシステム1は、ステップS1106にて決定した相に電圧を印加し、電流のピーク値を検出する。
【0061】
ステップS1108にて、モータシステム1は、ステップS1107にて検出した電流のピーク値に基づいて、磁極の向きを推定する。ここでは、公知の磁気飽和特性に基づく手法を用いて、磁極の向きを推定してよい。これにより、図4(b)に示すように、磁極の向きが推定される。
【0062】
ステップS1109にて、モータシステム1は、ステップS1105にて推定したロータ軸の角度、およびステップS1108にて推定した磁極の向きに基づいて、BLDCモータ22の回転制御を行う。そして、本処理フローを終了する。
【0063】
ステップS1110にて、モータシステム1は、電圧パルスの総印加回数が上限値に到達したか否かを判定する。ここでの上限値は予め規定されているものとする。図5に示す例の場合、上限値は70回となる。総印加回数が上限値に達した場合(ステップS1110にてYES)、モータシステム1の処理はステップS1114へ進む。一方、総印加回数が上限値に達していない場合(ステップS1110にてNO)、モータシステム1の処理はステップS1111へ進む。
【0064】
ステップS1111にて、モータシステム1は、印加している相への印加回数が所定値に到達したか否かを判定する。ここでの所定値は予め規定されているものとする。図5に示す例の場合、所定値は10回となる。印加回数が所定値に達した場合(ステップS1111にてYES)、モータシステム1の処理はステップS1112へ進む。一方、印加回数が所定値に達していない場合(ステップS1111にてNO)、モータシステム1の処理はステップS1113へ進む。
【0065】
ステップS1112にて、モータシステム1は、印加する相を更新し、パルス電圧を初期値へ更新する。ここで更新される相の順序は、予め規定されているものとする。図5に示す例の場合、10回目までパルス電圧の印加がU相に対して行われており、11回目のパルス電圧の印加がW相に対して30°傾くように印加する相が切り替えられる。また、パルス電圧の時間間隔は、10回目が50μsであり、11回目では5μsへ初期化される。そして、モータシステム1の処理はステップS1103へ戻り、処理を繰り返す。
【0066】
ステップS1113にて、モータシステム1は、電圧パルスのパルス幅を更新する。ここで更新される電圧パルスのパルス幅は予め規定されているものとする。図5に示す例の場合、5μs単位で増加されるように更新され、5、10、・・・、50μsとして順に更新される。そして、モータシステム1の処理はステップS1103へ戻り、処理を繰り返す。
【0067】
ステップS1114にて、モータシステム1は、BLDCモータ22が機械的ロック状態と判定する。つまり、電圧パルスの印加回数が総印加回数に達した場合には、BLDCモータ22の回転子が機械的にロックされた状態であると判定する。回転子はユーザが意図的にロックをかけている場合もあれば、何らかの外的要因により回転が制限されている場合もある。そのような状況下では、無理に回転動作を行わせた場合には、BLDCモータ22の故障の原因となり得るため、本実施形態では、BLDCモータ22がロックされているものとして、回転制御を抑止する。
【0068】
ステップS1115にて、モータシステム1は、BLDCモータ22がロック状態であることを通知する。ここでの通知方法は特に限定するものでは無く、例えば、UI部としての表示部おける画面表示や、ランプなどを点灯させることで視覚的に通知してもよい。または、音などを発することで聴覚的に通知してもよい。そして、本処理フローを終了する。
【0069】
以上、本実施形態により、BLDCモータの制御において、停止時や低速域にも対応可能な磁極位置推定方法によるモータ制御が可能となる。
【0070】
<その他の実施形態>
本発明の適用対象は、上記の実施形態に示したモータ構成に限定するものではない。例えば、固定子のコイルの構成として、集中巻/分布巻のコイル構成、単層巻/多層巻のコイル構成、全節巻/短節巻のコイル構成などのDCモータであっても適用可能である。
【0071】
また、本発明が適用可能な装置は、歯科用の医療機器に限定するものではない。例えば、モータの停止時や低速域での動作を要する機器のモータ制御にて用いられてよい。なお、ここでの低速域とは、例えば、モータの定格回転速度に対して、10%以下の速度の範囲であってよい。
【0072】
また、1の装置にて、本実施形態に係るモータ制御の方式と、他のモータ制御の方式を組み合わせてもよい。例えば、モータ制御において、低速域では本発明に係る方式を用い、高速域では従来のモータ制御を用いるように切り替えてもよい。
【0073】
また、本発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0074】
また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array))によって実現してもよい。
【0075】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0076】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) ブラシレス直流電動機の駆動装置であって、
前記ブラシレス直流電動機を駆動するインバータと、
前記ブラシレス直流電動機における誘起電圧を検出する誘起電圧検出手段と、
前記ブラシレス直流電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記誘起電圧検出手段および前記電流検出手段による検出結果に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、
予め規定された印加条件に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に電圧パルスを印加させ、
前記印加の際に前記誘起電圧検出手段にて検出された誘起電圧の値に基づいて、前記ブラシレス直流電動機の回転子の角度を推定し、
前記推定された回転子の角度に対応して、前記ブラシレス直流電動機に印加する相および電圧を決定し、
前記決定した相および電圧を、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に印加させることにより、前記電流検出手段にて得られる電流の変化に基づいて、前記回転子の磁極の向きを推定する、ことを特徴とする駆動装置。
この構成によれば、BLDCモータの制御において、停止時や低速域にも対応可能な磁極位置推定方法によるモータ制御が可能となる。
【0077】
(2) 前記印加条件は、
(i)電圧パルスの印加による前記回転子の回転角度が所定の範囲内となる、かつ、
(ii)前記回転子の位置に依存せずに前記ブラシレス直流電動機の回転が開始可能である、
ように設定されることを特徴とする(1)に記載の駆動装置。
この構成によれば、BLDCモータにおいて不要な回転を生じさせることなく、回転子の位置を推定することが可能となる。
【0078】
(3) 前記所定の範囲は、前記回転子と機械負荷との接続部分における、回転動作に対する遊びの範囲内である、ことを特徴とする(2)に記載の駆動装置。
この構成によれば、BLDCモータと機械負荷との接続部分のガタを考慮して、不要な回転を生じさせることなく、回転子の位置を推定することが可能となる。
【0079】
(4) 前記印加条件は、印加する電圧パルスのパルス幅、印加回数の上限値、電圧パルスを印加する相の順序、および総印加回数の上限値が規定される、ことを特徴とする(2)に記載の駆動装置。
この構成によれば、BLDCモータにおいて、回転子の位置推定のための時間を短縮化しつつ、磁気的ロックを考慮した印加条件を設定することが可能となる。
【0080】
(5) 前記制御手段は、前記誘起電圧検出手段にて検出された誘起電圧の正負の組み合わせに基づいて、前記ブラシレス直流電動機の回転子の角度を推定する、ことを特徴とする(1)に記載の駆動装置。
この構成によれば、検出された誘起電圧の正負の組み合わせにより、回転子の角度を推定することが可能となる。
【0081】
(6) 前記制御手段は、電圧パルスを印加した際に、前記ブラシレス直流電動機の固定子の3相のうち2以上の相における誘起電圧の値が閾値を超えた時点の誘起電圧の値に基づいて、前記回転子の角度を推定する、ことを特徴とする(1)に記載の駆動装置。
この構成によれば、2以上の閾値を超えた誘起電圧の値に基づいて、精度良く回転子の角度を推定することが可能となる。
【0082】
(7) 前記制御手段は、電圧パルスを印加した総印加回数が所定の上限値に達しても前記固定子の3相のうち2以上の相における誘起電圧の値が閾値を超えない場合、前記回転子がロック状態であると判定する、ことを特徴とする(6)に記載の駆動装置。
この構成によれば、モータの機械的なロック状態を想定して、回転子の位置を推定することができる。特に、機械的なロック状態における回転を抑制することで、モータの損傷を抑制することが可能となる。
【0083】
(8) 前記制御手段は、前記回転子がロック状態であると判定した場合、ユーザに通知を行う、ことを特徴とする(7)に記載の駆動装置。
この構成によれば、機械的なロックであると判定した際にユーザに通知を行うことで、ユーザの装置の利用における利便性を向上させることができる。
【0084】
(9) ブラシレス直流電動機を駆動するインバータと、前記ブラシレス直流電動機における誘起電圧を検出する誘起電圧検出手段と、前記ブラシレス直流電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、を備えるブラシレス直流電動機の制御方法であって、
前記誘起電圧検出手段および前記電流検出手段による検出結果に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機を制御する制御工程を有し、
前記制御工程において、
予め規定された印加条件に基づいて、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に電圧パルスを印加させ、
前記印加の際に前記誘起電圧検出手段にて検出された誘起電圧の値に基づいて、前記ブラシレス直流電動機の回転子の角度を推定し、
前記推定された回転子の角度に対応して、前記ブラシレス直流電動機に印加する相および電圧を決定し、
前記決定した相および電圧を、前記インバータを介して前記ブラシレス直流電動機に印加させることにより、前記電流検出手段にて得られる電流の変化に基づいて、前記回転子の磁極の向きを推定する、ことを特徴とする制御方法。
この構成によれば、BLDCモータの制御において、停止時や低速域にも対応可能な磁極位置推定方法によるモータ制御が可能となる。
【0085】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…モータシステム
10…直流電源
11…コンデンサ
12…インバータ
13…制御器
14…信号処理器
15…パルス発生器
16…3相ゲートドライバ
17…電流検出回路
18…電圧増幅回路
19…誘起電圧検出回路
20…角度・磁極方向推定器
21…位相演算器
22…BLDCモータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11