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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112343
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】吹付工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
E02D17/20 104B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017246
(22)【出願日】2023-02-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】322012516
【氏名又は名称】株式会社N-Seed
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100119367
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 理
(72)【発明者】
【氏名】中井 稔
(72)【発明者】
【氏名】中井 隼介
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DC03
(57)【要約】
【課題】顔料によって本来得られる色を表出させることができる吹付工法を提供する。
【解決手段】施工対象STにセメントを主成分とする吹付材を吹き付ける吹付工法であって、施工対象STに、吹付材である第一吹付材11を吹き付け、第一吹付材層FS1を形成する第一吹付工程と、第一吹付材層FS1に、第一吹付材11と異なる吹付材であり、骨材を含まず、顔料を含む第二吹付材12を吹き付け、第二吹付材層FS2を形成する第二吹付工程とを含むよう構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工対象にセメントを主成分とする吹付材を吹き付ける吹付工法であって、
前記施工対象に、吹付材である第一吹付材を吹き付け、第一吹付材層を形成する第一吹付工程と、
前記第一吹付材層に、前記第一吹付材と異なる吹付材であり、骨材を含まず、顔料を含む第二吹付材を吹き付け、第二吹付材層を形成する第二吹付工程と、
を含む吹付工法。
【請求項2】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記顔料は、酸化チタンを含むことを特徴とする吹付工法。
【請求項3】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材は、第一吹付工程から3日後以降に実施されることを特徴とする吹付工法。
【請求項4】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材は、第一吹付工程から7日後以内に実施されることを特徴とする吹付工法。
【請求項5】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材層の厚みが、0.5mm以上であることを特徴とする吹付工法。
【請求項6】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材層の厚みが、1.0mm以下であることを特徴とする吹付工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工対象にセメントを主成分とする吹付材を吹き付ける吹付工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、セメントを主成分とする吹付材(モルタル又はコンクリート)を施工対象に吹き付けることで、施工対象に吹付材からなる吹付材層を形成する吹付工法が知られている。吹付工法は、例えば、斜面や法面等の施工対象に適用することができ、形成された吹付材層によって、施工対象の風化、雨水等の浸透による侵食や崩壊、小規模な落石等を防止することができる。
【0003】
また、吹付工法は、吹付材に顔料を混ぜることで、吹付材からなる吹付材層の色を変えることができ、施工対象を間接的に着色することができるので、デザイン性を考慮した施工が可能である。
【0004】
一方、吹付工法には、吹き付けた吹付材の一部が跳ね返り、施工対象に適切に定着しないという問題、いわゆるリバウンドの問題がある。吹付材のリバウンドにより、吹付材の一部が無駄になり(リバウンドロス)、吹付材の必要量が多くなるため、施工コストが増加する。
【0005】
また、リバウンドの問題は、施工コストの増加に限られない。前述のとおり、吹付工法は、吹付材に顔料を混ぜることで施工対象を間接的に着色することができるが、リバウンドによって、吹付材層の発色が悪くなる等、吹付材によって本来得られる色が表出しないという問題が生じる。この問題が生じるメカニズムは以下のとおりである。
【0006】
(1)リバウンドした吹付材は、吹き付けられた際の衝撃により、材料分離が生じる。(2)材料分離が生じた吹付材は、適切に形成された吹付材層の表面に付着すると、分離した骨材(砂や砂利)が吹付材層の表面に表出する。(3)吹付材層の表面に表出した吹付材の色が、吹付材層の発色に強く影響を与えるようになり、吹付材によって本来得られる色が表出しなくなる。
【0007】
このとき、例えば、吹付材の色が黒色や灰色等の暗い色であると、人間の目には、吹付材層の色が本来得られる色よりも彩度が低い色(くすんだ色)として認識されるようになる。
【0008】
このようなリバウンドの問題に対して、特許文献1には、吹付材を搬送する気体の圧力を所定の範囲内にすることで、リバウンドを抑制する技術が開示されており、この技術を用いれば、リバウンドロスが抑えられるので、施工コストの増加を抑制できると考えられる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、リバウンドを完全に無くすことはできないので、発色の問題を解決するには至らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2022-128071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来のこのような状況に鑑みてなされたものである。本発明の目的の一は、吹付材によって本来得られる色を表出させることができる吹付工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0012】
本発明の第1の側面に係る吹付工法は、施工対象にセメントを主成分とする吹付材を吹き付ける吹付工法であって、前記施工対象に、吹付材である第一吹付材を吹き付け、第一吹付材層を形成する第一吹付工程と、前記第一吹付材層に、前記第一吹付材と異なる吹付材であって、骨材を含まず、顔料を含む第二吹付材を吹き付け、第二吹付材層を形成する第二吹付工程とを含むよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材を吹き付ける第一吹付工程と、第二吹付材を吹き付ける第一吹付工程との2段階で吹き付けを行うことができ、リバウンドの影響を無視して第二吹付材層に、第二吹付材によって本来得られる色を表出させることができる。
【0013】
また、本発明の第2の側面に係る吹付工法は、前記顔料が、酸化チタンを含むよう構成できる。前記構成によれば、酸化チタンの光触媒としての効果を施工対象に付与することができる。
【0014】
また、本発明の第3の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付材が、第一吹付工程から3日後以降に実施されるよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材層FS1の硬化が不十分なことに起因して、強度上の問題が生じるのを防止できる
【0015】
また、本発明の第4の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付材が、第一吹付工程から7日後以内に実施されるよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材層FS1の表面にゴミ等の不純物が付着する確率が高まることに起因して、第一吹付材層FS1と第二吹付材層FS2との食い付きが悪くなり、第二吹付材層FS2が剥離するのを防止できる。
【0016】
また、本発明の第5の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付材層の厚みが、0.5mm以上であるよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材層FS1表面にリバウンドした第一吹付材11(特に骨材)を完全に覆う可能性を高めることができる。
【0017】
また、本発明の第6の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付材層の厚みが、1.0mm以下であるよう構成できる。前記構成によれば、第二吹付材層FS2にひび割れ(クラック)が生じるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る吹付工法を説明するフローチャートである。
図2】第一吹付工程を説明する模式図である。
図3】第二吹付工程を説明する模式図である。
図4】本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するための写真である。
図5】本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するための写真である。
図6】本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するための写真である。
図7】本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するための写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
[本発明に係る吹付工法]
【0020】
本発明に係る吹付工法は、図1のフローチャートに示すように、清掃工程ST101、ラス張工程ST102、第一吹付工程ST103、養生工程ST104、第一吹付材層洗浄工程ST105及び第二吹付工程ST106で構成される。
【0021】
以下で、各工程について説明する。
〈清掃工程ST101〉
【0022】
清掃工程ST101は、施工対象STに付着した浮き石、浮土塊等、以降の工程を実施するうえで支障になるようなものを除去するために、施工対象STを清掃する工程である。
【0023】
なお、清掃工程ST101の態様は特に限定されず、例えば、高圧洗浄機を用いて清掃してもよい。また、清掃工程ST101は必ずしも実施する必要はなく、省略してもよい。
〈ラス張工程ST102〉
【0024】
ラス張工程ST102は、施工対象STにラスLT(図示していない。)を固定する工程であり、第一吹付材層FS1及び第二吹付材層FS2(図示していない。詳細は後述する。)の剥落や、ひび割れを防止できる。
【0025】
具体的には、直径2.0mmの亜鉛めっき鉄線製のひし形金網であって、網目寸法(ひし形の辺の長さ)が50mmのラスLTを、施工対象STの形状に沿うよう展張し、アンカーを打ち込んで固定する。
【0026】
ラスLTを継ぎ足す場合には、少なくとも、隣接するラスLTの網目の2列分が重畳するよう展張する。
【0027】
また、アンカーとしては、直径16mm、長さ400mmのメインアンカーと、直径9mm、長さ200mmのサブアンカーとの2種類を用いる。このとき、メインアンカーは100m当たり30本以上を打ち込み、サブアンカーは100m当たり150本以上を打ち込む点に留意する。
【0028】
また、メインアンカー及びサブアンカーを打ち込む際に、状況に応じて、削岩機やハンマードリルを使用してもよい。
【0029】
なお、ラス張工程ST102の態様は特に限定されず、使用するラスLTやアンカーの種類や、ラスLTの展張方法等は適宜変更できる。また、ラス張工程ST102は必ずしも実施する必要はなく、省略してもよい。
〈第一吹付工程ST103〉
【0030】
第一吹付工程ST103は、施工対象STに、第一吹付材11(詳細は後述する。)を吹き付け、第一吹付材層FS1を形成する工程である。
【0031】
具体的に、第一吹付工程ST103は、図2に示すように、吹付材収容部FSに収容された第一吹付材11を、空気圧縮機KAによる圧縮空気を用いてホースHS内を圧送し、ノズルNZより噴射させることで、第一吹付材11を施工対象STに上部から下部の順で吹き付ける。
【0032】
また、第一吹付工程ST103において第一吹付材11のリバウンドが生じた場合は、第一吹付材層FS1が硬化する前に、風圧を用いて除去しておく。具体的には、第一吹付材11の圧送を停止させることで、ノズルNZは、空気だけを噴射するようになるので、これを用いてリバウンドを除去する。ここでのリバウンドした第一吹付材11の除去は、第一吹付材層FS1表面を均すことを目的としたものであり、発色の問題を解決するために行うものではないため、リバウンドした第一吹付材11がある程度除去できていればよい。逆に、この段階で、リバウンドした第一吹付材11を完全に除去しようと、強い風を長時間当ててしまうと、第一吹付材層FS1の第一吹付材11が材料分離し、第一吹付材層FS1が硬化した際の表面強度が落ちてしまう。
《第一吹付材11》
【0033】
第一吹付材11は、第一吹付工程ST103で使用される吹付材である。第一吹付材11はセメント、骨材及び水を練り混ぜたものであり、これらの配合は、以下のように設計できる。
(第一吹付材11の設計条件の設定)
【0034】
まず、設計条件を設定する。ここでは、1つの例として、単位セメント量C(1mの第一吹付材11に含まれるセメントの重量)を420kg/m、水とセメントとの比W/Cを55%とする。また、セメントには株式会社トクヤマセメントの普通ポルトランドセメント(密度cp=3160kg/m)を用い、骨材には海砂(密度sp=2570kg/m)を用いるものとする。また、水の密度wpは、1000kg/mとして計算する。
【0035】
以上の設計条件を表1にまとめて示す。
【0036】
【表1】
(単位水量Wの決定)
【0037】
次に、単位水量W(1mの第一吹付材11に含まれる水の重量)を求める。単位水量Wは下記の数式1によって求めることができる。数式1に前述の設計条件を当てはめると、単位水量Wは231kg/mとなる。
【0038】
【数1】
(単位骨材量Sの決定)
【0039】
次に、単位骨材量S(1mの第一吹付材11に含まれる骨材の重量)を求める。
【0040】
単位骨材量Sを求めるには、まず、下記の数式2によって単位骨材割合sr(1mの第一吹付材11に含まれる骨材の割合)を求める。数式2に前述の設計条件を当てはめると、単位骨材割合srは63.61%となる。
【0041】
【数2】
【0042】
次いで、下記の数式3に、前述の設計条件と単位骨材割合srを当てはめることで、単位骨材量Sを求めることができる。今回の設計条件における単位骨材量Sは、1635kg/mである。
【0043】
【数3】
(第一吹付材11の配合)
【0044】
以上で求めた第一吹付材11の配合(1mあたりの重量)と、これを1バッチあたりの値に換算した配合を表2にまとめて示す。1バッチあたりの値に換算した配合は、50kgのセメント(2袋分の袋セメント)を基準とした値である。
【0045】
【表2】
(骨材の表面水率)
【0046】
また、第一吹付材11を作る場合には、単に表2の通りに配合するのではなく、骨材の水分(表面水)に基づいた調整が必要である。
【0047】
本発明に係る吹付工法では、例えば、第一吹付材11を実施する日の午前と午後の2回
、骨材の表面水率を測定し、表面水率に基づいて骨材の量及び水の量を調整する。
【0048】
なお、第一吹付工程ST103の態様は特に限定されず、第一吹付材11の吹き付け方法や第一吹付材11の配合、使用するセメントや骨材等は適宜変更できる。
〈養生工程ST104〉
【0049】
養生工程ST104は、第一吹付工程ST103で形成された第一吹付材層FS1が硬化する際に生じたひび割れ(クラック)を調査し、必要に応じて補修する工程である。
【0050】
なお、養生工程ST104の態様は特に限定されない。また、養生工程ST104は必ずしも実施する必要はなく、省略してもよい。
〈第一吹付材層洗浄工程ST105〉
【0051】
第一吹付材層洗浄工程ST105は、後述する第二吹付工程ST106の前に、第一吹付材層FS1に堆積したほこりや砂、第一吹付材層FS1の脆弱な層を高圧洗浄機(30MPa程度の圧力)にて取り除く工程である。この工程により、第一吹付材層FS1と第二吹付材層FS2との食い付きがよくなり、第二吹付材層FS2の剥落を防止することができる。
【0052】
なお、第一吹付材層洗浄工程ST105の態様は特に限定されない。また、第一吹付材層洗浄工程ST105は必ずしも実施する必要はなく、省略してもよい。
〈第二吹付工程ST106〉
【0053】
第二吹付工程ST106は、第一吹付材層FS1に、第二吹付材12(図示していない。詳細は後述する。)を吹き付け、第二吹付材層FS2を形成する工程である。
【0054】
具体的に、第二吹付工程ST106は、図3に示すように、吹付材収容部FSに収容された第二吹付材12をスクイズポンプSPにて圧送し、ホースHS先端にて空気圧縮機KAによる空気と混合し、ノズルNZより噴射させることで、第二吹付材12を施工対象STに上部から下部の順で吹き付ける。
【0055】
また、第二吹付工程ST106は、第一吹付工程ST103から3日後以降に実施されるのが好ましい。第二吹付工程ST106を、第一吹付工程ST103から2日以内に実施すると、第一吹付材層FS1の硬化が不十分なため、強度上の問題が生じやすくなるためである。
【0056】
また、第二吹付工程ST106は、第一吹付工程ST103から7日後以内に実施されるのが好ましい。第二吹付工程ST106を、第一吹付工程ST103から8日後以降に実施すると、第一吹付材層FS1の表面にゴミ等の不純物が付着する確率が高まり、第一吹付材層FS1と第二吹付材層FS2との食い付きが悪くなり、第二吹付材層FS2が剥離する原因となるためである。
【0057】
また、第二吹付工程ST106は、第二吹付材12を吹き付けた直後の第二吹付材層FS2の厚さが0.5mm以上となるよう、第二吹付材12を吹き付けるのが好ましい。第二吹付材層FS2の厚さを0.5mm以上にすることで、第一吹付材層FS1表面にリバウンドした第一吹付材11(特に骨材)を完全に覆う可能性を高めることができる。
【0058】
また、第二吹付工程ST106は、第二吹付材12を吹き付けた直後の第二吹付材層FS2の厚さが1.0mm以下となるよう、第二吹付材12を吹き付けるのが好ましい。第二吹付材層FS2の厚さを1.0mmより厚くすると、第二吹付材層FS2にひび割れ(クラック)が生じやすくなるためである。
【0059】
なお、第二吹付工程ST106を実施するための工具としては、例えば、建築分野で利用されるリシンガンを用いることもできる。しかしながら、本発明は、斜面や法面等を主な施工対象として想定する建設分野の発明であるから、リシンガンでは、吹き付けの範囲が狭く、現実的ではない。換言すると、本願発明は、既存の技術の組合せでは現実的な実施が困難といえる。そのため、本願の出願人は、本発明における第二吹付工程ST106を実施するための工具を現在、鋭意開発中である。
《第二吹付材12》
【0060】
第二吹付材12は、第二吹付工程ST106で使用される吹付材である。第二吹付材12はセメント、水及び顔料を練り混ぜたものであり、骨材を含んでいない。
【0061】
第二吹付材12に用いる顔料は特に限定されないが、例えば、酸化チタンを用いることで、施工対象を白色(酸化チタン本来の色)に着色することができる。なお、従来の吹付工法において、吹付材に酸化チタンを混ぜた場合、酸化チタン本来の色に着色できず、本来の色よりも白色度が低くなってしまう。
【0062】
また、第二吹付材12の顔料として酸化チタンを用いると、酸化チタンの光触媒としての効果を施工対象STに付与することができる。
【0063】
以下で、第二吹付材12の配合の設計について説明する。
(第二吹付材12の設計条件の設定)
【0064】
まず、設計条件を設定する。ここでは、1つの例として、単位セメント量C(1バッチの第一吹付材11に含まれるセメントの重量)を20kg、水とセメントとの比W/Cを70%、顔料とセメントとの比A/Cを10%とする。また、セメントには太平洋セメント株式会社のホワイトセメントを用い、顔料にはランクセス株式会社のチタンホワイト(酸化チタン系の顔料)を用いるものとする。
【0065】
以上の設計条件を表3にまとめて示す。
【0066】
【表3】
(単位水量Wの決定)
【0067】
次に、単位水量W(1mの第二吹付材12に含まれる水の重量)を求める。単位水量Wは下記の数式4によって求めることができる。数式4に前述の設計条件を当てはめると、単位水量Wは14kgとなる。
【0068】
【数4】
(単位顔料添加量Aの決定)
【0069】
次に、単位顔料添加量A(1バッチの第一吹付材11に添加する顔料の重量)を求める。単位顔料添加量Aは下記の数式5によって求めることができる。数式5に前述の設計条件を当てはめると、単位顔料添加量Aは2kgとなる。
【0070】
【数5】
(第二吹付材12の配合)
【0071】
以上で求めた第二吹付材12の配合を表4にまとめて示す。
【0072】
【表4】
【0073】
なお、第二吹付工程ST106の態様は特に限定されず、第二吹付材12の吹き付け方法や第二吹付材12の配合、使用するセメントや顔料等は適宜変更できる。
[実験]
〈従来技術との比較実験〉
【0074】
本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するために、顔料を酸化チタンとし、各工法によって作製した試験片の白色度を測定する実験を行った。
【0075】
具体的には、まず、本発明に係る吹付工法を適用した施工対象に相当する試験片として、一般的な配合のモルタルで作製した厚さ約7cmの平板(第一吹付材層FS1に相当する。)に、表5に示す顔料を含む第二吹付材12を吹き付けてなる試験片A~Dを用意する。
【0076】
【表5】
【0077】
次に、従来の吹付工法を適用した施工対象に相当する試験片として、一般的な配合のモルタルに、表6に示す顔料を混ぜた吹付材を吹き付けてなる試験片Eを用意する。
【0078】
【表6】
【0079】
そして、試験片A~Eを約7日間、屋外にて保管(実際の施工対象の環境を想定したものである。)した後に、白色度計(オガワ精機株式会社のOSK 97BX216)を用いて、これらの白色度を計測する。
【0080】
実験の結果は、表7に示すとおりであり、本発明に係る吹付工法による試験片A~Dの方が、従来の吹付工法による試験片Eに比べて白色度が高く、より白く発色していることが分かる。特に試験片A、Cは、試験片Eよりも顔料の配合量が少ないのにも拘わらず、白色度が高い。
【0081】
【表7】
【0082】
また、この結果は、図4~7に示すように、視覚的にも明らかである。
〈白色の推移に係る実験〉
【0083】
また、本発明に係る吹付工法による発色が、時間の経過により劣化しないか、実験を行った。
【0084】
実験の方法としては、前述の試験片A~Dを、さらに屋外にて保管し、白色度の推移を計測する。
【0085】
実験の結果は、表8に示すとおりであり、21日経過の時点及び36日経過の時点では、白色度は大きく下がっておらず、本発明に係る吹付工法による試験片A~Dの発色は、大きく劣化していないといえる。
【0086】
【表8】
[本発明に係る吹付工法の効果]
【0087】
以上説明したように、本発明に係る吹付工法は、吹付工程を第一吹付工程ST103と第二吹付工程ST106との2段階に分割した工法であり、これによって、リバウンドに起因する発色の問題を完全に無効化し、第二吹付材12によって本来得られる色を表出させることができる工法である。
【0088】
具体的には、図3に示すように、第二吹付工程ST106で形成された第二吹付材層FS2によって、第一吹付材層FS1の表面が覆われるため、第一吹付工程ST103で生じるリバウンドの影響を無視できる。また、第二吹付材12に発色に影響を与える材料(骨材)が含まれていないので、第二吹付工程ST106で生じるリバウンドの影響も無視できる。
【0089】
さらに、第一吹付材層FS1に生じたひび割れ(クラック)をカバーすることもできる。
【符号の説明】
【0090】
11…第一吹付材
12…第二吹付材
ST…施工対象
LT…ラス
FS1…第一吹付材層
FS2…第二吹付材層
FS…吹付材収容部
KA…空気圧縮機
HS…ホース
NZ…ノズル
SP…スクイズポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-09-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工対象に吹付材を吹き付ける吹付工法であって、
前記施工対象に、セメントを主成分とし、骨材を含む吹付材である第一吹付材を吹き付け、第一吹付材層を形成する第一吹付工程と、
前記第一吹付材層に、セメントを主成分とし、骨材を含まず、顔料を含む吹付材である第二吹付材を吹き付け、第二吹付材層を形成する第二吹付工程と、
を含む吹付工法。
【請求項2】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記顔料は、酸化チタンを含むことを特徴とする吹付工法。
【請求項3】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材は、第一吹付工程から3日後以降に実施されることを特徴とする吹付工法。
【請求項4】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材は、第一吹付工程から7日後以内に実施されることを特徴とする吹付工法。
【請求項5】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材層の厚みが、0.5mm以上であることを特徴とする吹付工法。
【請求項6】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材層の厚みが、1.0mm以下であることを特徴とする吹付工法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工対象にセメントを主成分とする吹付材を吹き付ける吹付工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、セメントを主成分とする吹付材(モルタル又はコンクリート)を施工対象に吹き付けることで、施工対象に吹付材からなる吹付材層を形成する吹付工法が知られている。吹付工法は、例えば、斜面や法面等の施工対象に適用することができ、形成された吹付材層によって、施工対象の風化、雨水等の浸透による侵食や崩壊、小規模な落石等を防止することができる。
【0003】
また、吹付工法は、吹付材に顔料を混ぜることで、吹付材からなる吹付材層の色を変えることができ、施工対象を間接的に着色することができるので、デザイン性を考慮した施工が可能である。
【0004】
一方、吹付工法には、吹き付けた吹付材の一部が跳ね返り、施工対象に適切に定着しないという問題、いわゆるリバウンドの問題がある。吹付材のリバウンドにより、吹付材の一部が無駄になり(リバウンドロス)、吹付材の必要量が多くなるため、施工コストが増加する。
【0005】
また、リバウンドの問題は、施工コストの増加に限られない。前述のとおり、吹付工法は、吹付材に顔料を混ぜることで施工対象を間接的に着色することができるが、リバウンドによって、吹付材層の発色が悪くなる等、吹付材によって本来得られる色が表出しないという問題が生じる。この問題が生じるメカニズムは以下のとおりである。
【0006】
(1)リバウンドした吹付材は、吹き付けられた際の衝撃により、材料分離が生じる。(2)材料分離が生じた吹付材、適切に形成された吹付材層の表面に付着すると、分離した骨材(砂や砂利)が吹付材層の表面に表出する。(3)吹付材層の表面に表出した材の色が、吹付材層の発色に強く影響を与えるようになり、吹付材によって本来得られる色が表出しなくなる。
【0007】
このとき、例えば、材の色が黒色や灰色等の暗い色であると、人間の目には、吹付材層の色が本来得られる色よりも彩度が低い色(くすんだ色)として認識されるようになる。
【0008】
このようなリバウンドの問題に対して、特許文献1には、吹付材を搬送する気体の圧力を所定の範囲内にすることで、リバウンドを抑制する技術が開示されており、この技術を用いれば、リバウンドロスが抑えられるので、施工コストの増加を抑制できると考えられる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、リバウンドを完全に無くすことはできないので、発色の問題を解決するには至らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2022-128071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来のこのような状況に鑑みてなされたものである。本発明の目的の一は、吹付材によって本来得られる色を表出させることができる吹付工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0012】
本発明の第1の側面に係る吹付工法は、施工対象に吹付材を吹き付ける吹付工法であって、前記施工対象に、セメントを主成分とし、骨材を含む吹付材である第一吹付材を吹き付け、第一吹付材層を形成する第一吹付工程と、前記第一吹付材層に、セメントを主成分とし、骨材を含まず、顔料を含む吹付材である第二吹付材を吹き付け、第二吹付材層を形成する第二吹付工程とを含むよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材を吹き付ける第一吹付工程と、第二吹付材を吹き付ける第一吹付工程との2段階で吹き付けを行うことができ、リバウンドの影響を無視して第二吹付材層に、第二吹付材によって本来得られる色を表出させることができる。
【0013】
また、本発明の第2の側面に係る吹付工法は、前記顔料が、酸化チタンを含むよう構成できる。前記構成によれば、酸化チタンの光触媒としての効果を施工対象に付与することができる。
【0014】
また、本発明の第3の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付材が、第一吹付工程から3日後以降に実施されるよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材層FS1の硬化が不十分なことに起因して、強度上の問題が生じるのを防止できる
【0015】
また、本発明の第4の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付材が、第一吹付工程から7日後以内に実施されるよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材層FS1の表面にゴミ等の不純物が付着する確率が高まることに起因して、第一吹付材層FS1と第二吹付材層FS2との食い付きが悪くなり、第二吹付材層FS2が剥離するのを防止できる。
【0016】
また、本発明の第5の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付材層の厚みが、0.5mm以上であるよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材層FS1表面にリバウンドした第一吹付材11(特に骨材)を完全に覆う可能性を高めることができる。
【0017】
また、本発明の第6の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付材層の厚みが、1.0mm以下であるよう構成できる。前記構成によれば、第二吹付材層FS2にひび割れ(クラック)が生じるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る吹付工法を説明するフローチャートである。
図2】第一吹付工程を説明する模式図である。
図3】第二吹付工程を説明する模式図である。
図4】本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するための写真である。
図5】本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するための写真である。
図6】本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するための写真である。
図7】本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するための写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
[本発明に係る吹付工法]
【0020】
本発明に係る吹付工法は、図1のフローチャートに示すように、清掃工程ST101、ラス張工程ST102、第一吹付工程ST103、養生工程ST104、第一吹付材層洗浄工程ST105及び第二吹付工程ST106で構成される。
【0021】
以下で、各工程について説明する。
〈清掃工程ST101〉
【0022】
清掃工程ST101は、施工対象STに付着した浮き石、浮土塊等、以降の工程を実施するうえで支障になるようなものを除去するために、施工対象STを清掃する工程である。
【0023】
なお、清掃工程ST101の態様は特に限定されず、例えば、高圧洗浄機を用いて清掃してもよい。また、清掃工程ST101は必ずしも実施する必要はなく、省略してもよい。
〈ラス張工程ST102〉
【0024】
ラス張工程ST102は、施工対象STにラスLT(図示していない。)を固定する工程であり、第一吹付材層FS1及び第二吹付材層FS2(図示していない。詳細は後述する。)の剥落や、ひび割れを防止できる。
【0025】
具体的には、直径2.0mmの亜鉛めっき鉄線製のひし形金網であって、網目寸法(ひし形の辺の長さ)が50mmのラスLTを、施工対象STの形状に沿うよう展張し、アンカーを打ち込んで固定する。
【0026】
ラスLTを継ぎ足す場合には、少なくとも、隣接するラスLTの網目の2列分が重畳するよう展張する。
【0027】
また、アンカーとしては、直径16mm、長さ400mmのメインアンカーと、直径9mm、長さ200mmのサブアンカーとの2種類を用いる。このとき、メインアンカーは100m当たり30本以上を打ち込み、サブアンカーは100m当たり150本以上を打ち込む点に留意する。
【0028】
また、メインアンカー及びサブアンカーを打ち込む際に、状況に応じて、削岩機やハンマードリルを使用してもよい。
【0029】
なお、ラス張工程ST102の態様は特に限定されず、使用するラスLTやアンカーの種類や、ラスLTの展張方法等は適宜変更できる。また、ラス張工程ST102は必ずしも実施する必要はなく、省略してもよい。
〈第一吹付工程ST103〉
【0030】
第一吹付工程ST103は、施工対象STに、第一吹付材11(詳細は後述する。)を吹き付け、第一吹付材層FS1を形成する工程である。
【0031】
具体的に、第一吹付工程ST103は、図2に示すように、吹付材収容部FSに収容された第一吹付材11を、空気圧縮機KAによる圧縮空気を用いてホースHS内を圧送し、ノズルNZより噴射させることで、第一吹付材11を施工対象STに上部から下部の順で吹き付ける。
【0032】
また、第一吹付工程ST103において第一吹付材11のリバウンドが生じた場合は、第一吹付材層FS1が硬化する前に、風圧を用いて除去しておく。具体的には、第一吹付材11の圧送を停止させることで、ノズルNZは、空気だけを噴射するようになるので、これを用いてリバウンドを除去する。ここでのリバウンドした第一吹付材11の除去は、第一吹付材層FS1表面を均すことを目的としたものであり、発色の問題を解決するために行うものではないため、リバウンドした第一吹付材11がある程度除去できていればよい。逆に、この段階で、リバウンドした第一吹付材11を完全に除去しようと、強い風を長時間当ててしまうと、第一吹付材層FS1の第一吹付材11が材料分離し、第一吹付材層FS1が硬化した際の表面強度が落ちてしまう。
《第一吹付材11》
【0033】
第一吹付材11は、第一吹付工程ST103で使用される吹付材である。第一吹付材11はセメント、骨材及び水を練り混ぜたものであり、これらの配合は、以下のように設計できる。
(第一吹付材11の設計条件の設定)
【0034】
まず、設計条件を設定する。ここでは、1つの例として、単位セメント量C(1mの第一吹付材11に含まれるセメントの重量)を420kg/m、水とセメントとの比W/Cを55%とする。また、セメントには株式会社トクヤマセメントの普通ポルトランドセメント(密度cp=3160kg/m)を用い、骨材には海砂(密度sp=2570kg/m)を用いるものとする。また、水の密度wpは、1000kg/mとして計算する。
【0035】
以上の設計条件を表1にまとめて示す。
【0036】
【表1】
(単位水量Wの決定)
【0037】
次に、単位水量W(1mの第一吹付材11に含まれる水の重量)を求める。単位水量Wは下記の数式1によって求めることができる。数式1に前述の設計条件を当てはめると、単位水量Wは231kg/mとなる。
【0038】
【数1】
(単位骨材量Sの決定)
【0039】
次に、単位骨材量S(1mの第一吹付材11に含まれる骨材の重量)を求める。
【0040】
単位骨材量Sを求めるには、まず、下記の数式2によって単位骨材割合sr(1mの第一吹付材11に含まれる骨材の割合)を求める。数式2に前述の設計条件を当てはめると、単位骨材割合srは63.61%となる。
【0041】
【数2】
【0042】
次いで、下記の数式3に、前述の設計条件と単位骨材割合srを当てはめることで、単位骨材量Sを求めることができる。今回の設計条件における単位骨材量Sは、1635kg/mである。
【0043】
【数3】
(第一吹付材11の配合)
【0044】
以上で求めた第一吹付材11の配合(1mあたりの重量)と、これを1バッチあたりの値に換算した配合を表2にまとめて示す。1バッチあたりの値に換算した配合は、50kgのセメント(2袋分の袋セメント)を基準とした値である。
【0045】
【表2】
(骨材の表面水率)
【0046】
また、第一吹付材11を作る場合には、単に表2の通りに配合するのではなく、骨材の水分(表面水)に基づいた調整が必要である。
【0047】
本発明に係る吹付工法では、例えば、第一吹付材11を実施する日の午前と午後の2回
、骨材の表面水率を測定し、表面水率に基づいて骨材の量及び水の量を調整する。
【0048】
なお、第一吹付工程ST103の態様は特に限定されず、第一吹付材11の吹き付け方法や第一吹付材11の配合、使用するセメントや骨材等は適宜変更できる。
〈養生工程ST104〉
【0049】
養生工程ST104は、第一吹付工程ST103で形成された第一吹付材層FS1が硬化する際に生じたひび割れ(クラック)を調査し、必要に応じて補修する工程である。
【0050】
なお、養生工程ST104の態様は特に限定されない。また、養生工程ST104は必ずしも実施する必要はなく、省略してもよい。
〈第一吹付材層洗浄工程ST105〉
【0051】
第一吹付材層洗浄工程ST105は、後述する第二吹付工程ST106の前に、第一吹付材層FS1に堆積したほこりや砂、第一吹付材層FS1の脆弱な層を高圧洗浄機(30MPa程度の圧力)にて取り除く工程である。この工程により、第一吹付材層FS1と第二吹付材層FS2との食い付きがよくなり、第二吹付材層FS2の剥落を防止することができる。
【0052】
なお、第一吹付材層洗浄工程ST105の態様は特に限定されない。また、第一吹付材層洗浄工程ST105は必ずしも実施する必要はなく、省略してもよい。
〈第二吹付工程ST106〉
【0053】
第二吹付工程ST106は、第一吹付材層FS1に、第二吹付材12(図示していない。詳細は後述する。)を吹き付け、第二吹付材層FS2を形成する工程である。
【0054】
具体的に、第二吹付工程ST106は、図3に示すように、吹付材収容部FSに収容された第二吹付材12をスクイズポンプSPにて圧送し、ホースHS先端にて空気圧縮機KAによる空気と混合し、ノズルNZより噴射させることで、第二吹付材12を施工対象STに上部から下部の順で吹き付ける。
【0055】
また、第二吹付工程ST106は、第一吹付工程ST103から3日後以降に実施されるのが好ましい。第二吹付工程ST106を、第一吹付工程ST103から2日以内に実施すると、第一吹付材層FS1の硬化が不十分なため、強度上の問題が生じやすくなるためである。
【0056】
また、第二吹付工程ST106は、第一吹付工程ST103から7日後以内に実施されるのが好ましい。第二吹付工程ST106を、第一吹付工程ST103から8日後以降に実施すると、第一吹付材層FS1の表面にゴミ等の不純物が付着する確率が高まり、第一吹付材層FS1と第二吹付材層FS2との食い付きが悪くなり、第二吹付材層FS2が剥離する原因となるためである。
【0057】
また、第二吹付工程ST106は、第二吹付材12を吹き付けた直後の第二吹付材層FS2の厚さが0.5mm以上となるよう、第二吹付材12を吹き付けるのが好ましい。第二吹付材層FS2の厚さを0.5mm以上にすることで、第一吹付材層FS1表面にリバウンドした第一吹付材11(特に骨材)を完全に覆う可能性を高めることができる。
【0058】
また、第二吹付工程ST106は、第二吹付材12を吹き付けた直後の第二吹付材層FS2の厚さが1.0mm以下となるよう、第二吹付材12を吹き付けるのが好ましい。第二吹付材層FS2の厚さを1.0mmより厚くすると、第二吹付材層FS2にひび割れ(クラック)が生じやすくなるためである。
【0059】
なお、第二吹付工程ST106を実施するための工具としては、例えば、建築分野で利用されるリシンガンを用いることもできる。しかしながら、本発明は、斜面や法面等を主な施工対象として想定する建設分野の発明であるから、リシンガンでは、吹き付けの範囲が狭く、現実的ではない。換言すると、本願発明は、既存の技術の組合せでは現実的な実施が困難といえる。そのため、本願の出願人は、本発明における第二吹付工程ST106を実施するための工具を現在、鋭意開発中である。
《第二吹付材12》
【0060】
第二吹付材12は、第二吹付工程ST106で使用される吹付材である。第二吹付材12はセメント、水及び顔料を練り混ぜたものであり、骨材を含んでいない。
【0061】
第二吹付材12に用いる顔料は特に限定されないが、例えば、酸化チタンを用いることで、施工対象を白色(酸化チタン本来の色)に着色することができる。なお、従来の吹付工法において、吹付材に酸化チタンを混ぜた場合、酸化チタン本来の色に着色できず、本来の色よりも白色度が低くなってしまう。
【0062】
また、第二吹付材12の顔料として酸化チタンを用いると、酸化チタンの光触媒としての効果を施工対象STに付与することができる。
【0063】
以下で、第二吹付材12の配合の設計について説明する。
(第二吹付材12の設計条件の設定)
【0064】
まず、設計条件を設定する。ここでは、1つの例として、単位セメント量C(1バッチの第一吹付材11に含まれるセメントの重量)を20kg、水とセメントとの比W/Cを70%、顔料とセメントとの比A/Cを10%とする。また、セメントには太平洋セメント株式会社のホワイトセメントを用い、顔料にはランクセス株式会社のチタンホワイト(酸化チタン系の顔料)を用いるものとする。
【0065】
以上の設計条件を表3にまとめて示す。
【0066】
【表3】
(単位水量Wの決定)
【0067】
次に、単位水量W(1mの第二吹付材12に含まれる水の重量)を求める。単位水量Wは下記の数式4によって求めることができる。数式4に前述の設計条件を当てはめると、単位水量Wは14kgとなる。
【0068】
【数4】
(単位顔料添加量Aの決定)
【0069】
次に、単位顔料添加量A(1バッチの第一吹付材11に添加する顔料の重量)を求める。単位顔料添加量Aは下記の数式5によって求めることができる。数式5に前述の設計条件を当てはめると、単位顔料添加量Aは2kgとなる。
【0070】
【数5】
(第二吹付材12の配合)
【0071】
以上で求めた第二吹付材12の配合を表4にまとめて示す。
【0072】
【表4】
【0073】
なお、第二吹付工程ST106の態様は特に限定されず、第二吹付材12の吹き付け方法や第二吹付材12の配合、使用するセメントや顔料等は適宜変更できる。
[実験]
〈従来技術との比較実験〉
【0074】
本発明に係る吹付工法と従来の吹付工法とを比較するために、顔料を酸化チタンとし、各工法によって作製した試験片の白色度を測定する実験を行った。
【0075】
具体的には、まず、本発明に係る吹付工法を適用した施工対象に相当する試験片として、一般的な配合のモルタルで作製した厚さ約7cmの平板(第一吹付材層FS1に相当する。)に、表5に示す顔料を含む第二吹付材12を吹き付けてなる試験片A~Dを用意する。
【0076】
【表5】
【0077】
次に、従来の吹付工法を適用した施工対象に相当する試験片として、一般的な配合のモルタルに、表6に示す顔料を混ぜた吹付材を吹き付けてなる試験片Eを用意する。
【0078】
【表6】
【0079】
そして、試験片A~Eを約7日間、屋外にて保管(実際の施工対象の環境を想定したものである。)した後に、白色度計(オガワ精機株式会社のOSK 97BX216)を用いて、これらの白色度を計測する。
【0080】
実験の結果は、表7に示すとおりであり、本発明に係る吹付工法による試験片A~Dの方が、従来の吹付工法による試験片Eに比べて白色度が高く、より白く発色していることが分かる。特に試験片A、Cは、試験片Eよりも顔料の配合量が少ないのにも拘わらず、白色度が高い。
【0081】
【表7】
【0082】
また、この結果は、図4~7に示すように、視覚的にも明らかである。
〈白色の推移に係る実験〉
【0083】
また、本発明に係る吹付工法による発色が、時間の経過により劣化しないか、実験を行った。
【0084】
実験の方法としては、前述の試験片A~Dを、さらに屋外にて保管し、白色度の推移を計測する。
【0085】
実験の結果は、表8に示すとおりであり、21日経過の時点及び36日経過の時点では、白色度は大きく下がっておらず、本発明に係る吹付工法による試験片A~Dの発色は、大きく劣化していないといえる。
【0086】
【表8】
[本発明に係る吹付工法の効果]
【0087】
以上説明したように、本発明に係る吹付工法は、吹付工程を第一吹付工程ST103と第二吹付工程ST106との2段階に分割した工法であり、これによって、リバウンドに起因する発色の問題を完全に無効化し、第二吹付材12によって本来得られる色を表出させることができる工法である。
【0088】
具体的には、図3に示すように、第二吹付工程ST106で形成された第二吹付材層FS2によって、第一吹付材層FS1の表面が覆われるため、第一吹付工程ST103で生じるリバウンドの影響を無視できる。また、第二吹付材12に発色に影響を与える材料(骨材)が含まれていないので、第二吹付工程ST106で生じるリバウンドの影響も無視できる。
【0089】
さらに、第一吹付材層FS1に生じたひび割れ(クラック)をカバーすることもできる。
【符号の説明】
【0090】
11…第一吹付材
12…第二吹付材
ST…施工対象
LT…ラス
FS1…第一吹付材層
FS2…第二吹付材層
FS…吹付材収容部
KA…空気圧縮機
HS…ホース
NZ…ノズル
SP…スクイズポンプ
【手続補正書】
【提出日】2023-12-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工対象に吹付材を吹き付ける、法面の改修を目的としない吹付工法であって、
前記施工対象に、セメントを主成分とし、骨材を含む吹付材である第一吹付材を吹き付け、第一吹付材層を形成する第一吹付工程と、
前記第一吹付材層に、ポリマーセメントを除くセメントを主成分とし、骨材を含まず、酸化チタンを含有する顔料を含む吹付材である第二吹付材を吹き付け、第二吹付材層を形成する第二吹付工程と、
を含む吹付工法。
【請求項2】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材は、太平洋セメント株式会社のホワイトセメントを含むことを特徴とする吹付工法。
【請求項3】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付工程は、第一吹付工程から3日後以降に実施されることを特徴とする吹付工法。
【請求項4】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付工程は、第一吹付工程から7日後以内に実施されることを特徴とする吹付工法。
【請求項5】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材層の厚みが、0.5mm以上であることを特徴とする吹付工法。
【請求項6】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材層の厚みが、1.0mm以下であることを特徴とする吹付工法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
また、本発明の第3の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付工程が、第一吹付工程から3日後以降に実施されるよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材層FS1の硬化が不十分なことに起因して、強度上の問題が生じるのを防止できる
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
また、本発明の第4の側面に係る吹付工法は、前記第二吹付工程が、第一吹付工程から7日後以内に実施されるよう構成できる。前記構成によれば、第一吹付材層FS1の表面にゴミ等の不純物が付着する確率が高まることに起因して、第一吹付材層FS1と第二吹付材層FS2との食い付きが悪くなり、第二吹付材層FS2が剥離するのを防止できる。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工対象に吹付材を吹き付ける、法面の改修を目的としない吹付工法であって、
前記施工対象に、セメントを主成分とし、骨材を含む吹付材である第一吹付材を吹き付け、第一吹付材層を形成する第一吹付工程と、
前記第一吹付材層に、ポリマーセメントを除くセメントを主成分とし、骨材を含まず、酸化チタンを含有する顔料を含む吹付材である第二吹付材を吹き付け、第二吹付材層を形成する第二吹付工程と、
を含む吹付工法。
【請求項2】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付工程は、第一吹付工程から3日後以降に実施されることを特徴とする吹付工法。
【請求項3】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付工程は、第一吹付工程から7日後以内に実施されることを特徴とする吹付工法。
【請求項4】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材層の厚みが、0.5mm以上であることを特徴とする吹付工法。
【請求項5】
請求項1に記載の吹付工法であって、
前記第二吹付材層の厚みが、1.0mm以下であることを特徴とする吹付工法。