(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011238
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/08 20060101AFI20240118BHJP
B41J 2/185 20060101ALI20240118BHJP
B41J 2/025 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B41J2/08
B41J2/185 101
B41J2/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113082
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩平
(72)【発明者】
【氏名】盛合 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小野 智明
(72)【発明者】
【氏名】高岸 毎明
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FA05
2C056JC01
2C057DB02
2C057DC03
2C057DC08
2C057DC09
2C057EA01
(57)【要約】
【課題】印字品質を高めるためにインク液滴の帯電電圧を低減させた場合であっても、ガターパイプで回収される無帯電インク液滴の回収性能を向上させることができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクが噴出するノズル114の中心軸線に対して、ガターパイプ118の回収口の中心軸線を帯電したインク液滴の偏向方向とは反対側にずらし、印字制御部116は、印字するインク液滴に帯電電極114によって印字用帯電電圧を印加し、印字しないインク液滴に、印字するインク液滴と逆極性の非印字用帯電電圧を印加する。印字品質を高めるためにインク液滴の帯電電圧を低減させた場合であっても、ガターパイプで回収される無帯電インク液滴の回収性能を向上させることができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを加振してインク液滴として噴出するノズルと、前記インク液滴を帯電させる帯電電極と、帯電した前記インク液滴を偏向させる電界を形成する偏向電極と、印字しない前記インク液滴を捕捉して回収するガターパイプを備える印字ヘッドと、前記帯電電極に印加する電圧を制御する印字制御部とを有するインクジェット記録装置であって、
前記インクが噴出する前記ノズルの中心軸線に対して、前記ガターパイプの回収口の中心軸線を、帯電した前記インク液滴の偏向方向とは反対側にずらした状態でガターパイプを配置すると共に、
前記印字制御部は、
印字に使用する前記インク液滴に、前記帯電電極によって印字用帯電電圧を印加し、
印字に使用しない前記インク液滴に、印字に使用する前記インク液滴とは逆極性の非印字用帯電電圧を印加する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録装置であって、
前記偏向電極は、正側偏向電極と負側偏向電極から構成され、前記正側偏向電極の側に偏向した前記インク液滴が、印字に使用される前記インク液滴となり、
前記印字制御部は、
印字に使用する前記インク液滴に「負」の電荷を与え、印字に使用しない前記インク液滴に「正」の電荷を与えるように、前記帯電電極に印可する電圧の極性を制御する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット記録装置であって、
印字に使用しない前記インク液滴は、前記ガターパイプで回収される際に、その帯電量を検知することで最適な印字位相を検出するための信号としての役割を果たす微小帯電インク液滴を含む
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置に係り、特に連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置は、本体にインクを貯留するインク容器を設けており、そのインク容器のインクをインク供給ポンプによって印字ヘッドへ供給している。印字ヘッドに供給されたインクは、インクノズルから連続的に噴出され、インク液滴化される。インク液滴のうち、印字に使用するインク液滴には、帯電・偏向処理を行い、印字対象物の所望の印字位置へ飛翔させて文字を形成し、印字に使用しないインク液滴には、帯電・偏向処理を行わず、ガターで捕集してインク回収ポンプによりインク容器へ戻す構成とされている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置において、最適な印字を行うためには、より速い印字速度、より良い印字品質が求められる。
【0004】
この印字品質に関して、インク液滴が飛翔する際、隣り合う帯電したインク液滴がクーロン力の影響を受け、印字歪が発生することが知られている。つまり、インク液滴に印加する帯電電圧が大きくなると、インク液滴間のクーロン反発力が増加し、印字歪の要因となる。よって、インク液滴に帯電させる電圧を低くし、インク液滴間に働くクーロン反発力を低減することが印字品質を改善するための一つの手法である。
【0005】
しかしながら、インク液滴に帯電させる電圧を低くすると、偏向電極によるインク液滴の偏向が十分でなく、ガターパイプに衝突して印字ができなくなるという問題がある。このような問題を解決する方法として、例えば、特開2012-66421号公報(特許文献1)のインクジェット記録装置が知られている。この特許文献1は、ガターパイプの回収口付近の形状を、印字のためのインク液滴の飛翔を妨げない形状としている。つまり、インク液滴の偏向方向側を凹ませることで、インク液滴がガターパイプに衝突しないようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のガターパイプの形状変更は、帯電されたインク液滴の飛翔軌跡と適合させるのが難しく現実的でないという課題がある。このため、ガターパイプの形状変更を行わずに、印字ヘッドのノズルの中心軸線(無帯電インク液滴の飛翔方向)に対して、ガターパイプの回収口の中心軸線を帯電された液滴の偏向方向の反対側にずらす(オフセット)ことで、帯電されたインク液滴がガターパイプの回収口に衝突するのを避けることができる。
【0008】
しかしながら、印字ヘッドのノズルの中心軸線に対して、ガターパイプの回収口の中心軸線を帯電された液滴の偏向方向の反対側にずらすと、本来ガターパイプで回収される印字に使用しないインク液滴の回収性能が低下するという新たな課題を発生することになる。これについては、図面を用いて後述する。
【0009】
本発明の目的は、印字品質を高めるためにインク液滴の帯電電圧を低減させた場合であっても、ガターパイプで回収される印字に使用しないインク液滴の回収性能を向上させることができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、インクを加振してインク液滴として噴出するノズルと、インク液滴を帯電させる帯電電極と、帯電したインク液滴を偏向させる電界を形成する偏向電極と、印字しないインク液滴を捕捉して回収するガターパイプを備える印字ヘッドと、帯電電極に印加する電圧を制御する印字制御部とを有するインクジェット記録装置であって、インクが噴出するノズルの中心軸線に対して、ガターパイプの回収口の中心軸線を、帯電したインク液滴の偏向方向とは反対側にずらした状態でガターパイプを配置すると共に、印字制御部は、印字に使用するインク液滴に、帯電電極によって印字用帯電電圧を印加し、印字に使用しないインク液滴に、印字に使用するインク液滴とは逆極性の非印字用帯電電圧を印加することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印字品質を高めるためにインク液滴の帯電電圧を低減させた場合であっても、ガターパイプで回収される印字に使用しないインク液滴の回収性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】インクジェット記録装置の全体構成を示す構成図である。
【
図2】本発明の実施形態になるインクジェット記録装置の詳細な構成を示す構成図である。
【
図3a】ノズルの中心軸線とガターパイプの中心軸線とが一致した状態で、帯電電圧を高くしたときの帯電インク液滴の飛翔とガターパイプの関係を説明する説明図である。
【
図3b】
図3aにおける無帯電インク液滴の飛翔とガターパイプの関係を説明する説明図である。
【
図4a】ノズルの中心軸線とガターパイプの中心軸線とが一致した状態で、帯電電圧を低くしたときの帯電インク液滴の飛翔とガターパイプの関係を説明する説明図である。
【
図4b】
図4aにおける無帯電インク液滴の飛翔とガターパイプの関係を説明する説明図である。
【
図5a】ノズルの中心軸線とガターパイプの中心軸線とがずれた状態で、帯電電圧を低くしたときの帯電インク液滴の飛翔とガターパイプの関係を説明する説明図である。
【
図5b】
図5aにおける無帯電インク液滴の飛翔とガターパイプの関係を説明する説明図である。
【
図6】本発明の実施形態になるノズルの中心軸線とガターパイプの中心軸線とがずれた状態で、帯電電圧を低くしたときの無帯電インク液滴の飛翔とガターパイプの関係を説明する説明図である。
【
図7】本発明の実施形態になる帯電電圧の制御を実行する処理フローを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0014】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明が適用される連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置の構成について、
図1を用いて簡単に説明する。
【0015】
図1において、インクジェット記録装置本体1に備わるディスプレイ2の入力部を用いて、印字内容を決定する。決定した印字内容は、印字ヘッド4からインク液滴を連続的に吐出することで、ベルトコンベア等の搬送手段5で搬送される印字対象物90へと印字される。インクジェット記録装置本体1は、ケーブル3を介して、印字ヘッド4へのインク供給と動作制御を実施する。
【0016】
図2は、インクジェット記録装置の詳細な構成を示したものである。印字制御部100は、インクジェット記録装置全体を制御するMPU(マイクロプロセッシングユニット)101、インクジェット記録装置内で一時的にデータを記憶しておくRAM(ランダムアクセスメモリー)102、書き出し位置を計算するソフトウェアおよびデータを記憶するROM(リードオンリーメモリ)103を備えている。
【0017】
また、インクジェット記録装置は、入力されたデータ、及び印字内容等を表示する表示装置104、印字する文字情報等を入力するパネル105を備えている。
【0018】
更に、インクジェット記録装置の印字に関する全般的な制御を行う印字制御回路106、被印字物検知回路107、被印字物を検出するセンサ108、インク液滴に帯電させるビデオデータを記憶しておくビデオRAM109、ビデオRAM109に記憶してあるビデオデータを文字信号にする文字信号発生回路110を備えている。
【0019】
上述の夫々の構成要素は、バスライン113によって接続され、データ等はこのバスライン113を介して送信/受信される。
【0020】
印字ヘッドは、インクを噴出するノズル114、ノズル114より噴出したインクが液滴になり、そのインク液滴に電荷を与える帯電電極115、帯電されたインク液滴の飛翔方向を偏向させる正側偏向電極116、及び負側偏向電極117を備えている。正側偏向電極116と負側偏向電極117は、帯電したインク液滴(以下、帯電インク液滴と表記することもある)を偏向させるための電界を形成する。
【0021】
また、帯電していない印字に使用しないインク液滴(無帯電インク液滴と表記することもある)を回収するガターパイプ118、ガターパイプ118で回収されたインクを再びノズル114へ供給するポンプ119を備えている。尚、印字の対象となる被印字物120は、被印字物120を運搬するコンベア121に乗せられて移動するものである。
【0022】
次に、印字動作について説明する。まず、印字する内容(印字情報)を表示装置104に従って入力パネル105で入力すると、MPU101はインク液滴へ帯電させるビデオデータを印字情報に応じて作成し、バスライン113を介してビデオRAM109へ格納する。
【0023】
被印字物センサ108が、コンベア121によって移動する被印字物120を検知すると、被印字物検知回路107を通じて、MPU101へ印字開始の指令が入力される。MPU101はビデオRAM109に記憶しているビデオデータを、バスライン113を介して文字信号発生回路110へ送る。文字信号発生回路110は送られてきたビデオデータを帯電信号に変更する。
【0024】
ノズル114には、ポンプ119によって加圧されたインクが供給されている。ノズル114内の圧電素子には、励振電圧が印加されており、励振電圧の周波数によって決定される振動がインクに加えられ、インク柱となってノズル114の噴出口から噴出する。
【0025】
ノズル114より噴出されたインク柱は、加振によって帯電電極115内で液滴化し、インク液滴となる。印字に使用されるインク液滴(以下、印字インク液滴、或いは帯電インク液滴と表記することもある)は、帯電電極115に「正」の電圧が印可されることで「負」の電荷を受け、正側偏向電極116、及び負側偏向電極117によって形成される電界を飛翔しながら通過することにより、正側偏向電極116の方へ偏向される。
【0026】
帯電量の大きい印字インク液滴は、偏向量が大きく、ガターパイプ118を飛び越えることで被印字物120に印字される。一方、帯電量の小さい印字インク液滴の偏向量は小さく、印字に使用されないインク液滴(以下、非印字インク液滴、或いは無帯電インク液滴と表記することもある)は、ガターパイプ118より回収され、ポンプ119によって再びノズル114へ供給される。
【0027】
尚、印字に使用されない非印字インク液滴には、後述するように、微小帯電インク液滴があり、これもガターパイプ118によって回収されるので、本発明ではこれも対象とするものである(請求項では、無帯電インク液滴と微小帯電インク液滴をまとめ、印字に使用しないインク液滴としている)。
【0028】
インク液滴には、文字を形成するために文字情報に応じた各々の電荷量が与えられる。印字インク液滴には、液滴化の周期に同期した階段波状の正の帯電信号(以下、階段波という)を帯電電極に印加して、印字文字の最下位に位置する最下位インク液滴には低い「負」の電荷を、最上位に位置する最上位インク液滴には高い「負」の電荷を与える。これによって、印字する文字を形成するインクのドット位置を制御できる。
【0029】
印字インク液滴は、ノズル114のインク噴出孔からインク回収用のガターパイプに向かって飛翔するが、偏向電極116、117を通過中に偏向電極で形成される電界内で偏向され、ガターパイプ118を飛び越えることで被印字物120に到達する。そして、被印字物120が印字インク液滴の偏向方向と垂直に移動することで印字文字となる。
【0030】
ノズル114から噴出されたインク液滴のうち、非印字インク液滴は2種類あり、一つは、ガターパイプ118の回収口の範囲内に収まる程度の小さな偏向量を与えるための微小な帯電電圧が印加されたものである。このインク液滴は、ガターパイプ118で回収される際に、その帯電量を検知することで最適な印字位相を検出するための信号としての役割を果たすもので、オートフェーズ(APH)センサで検出される微小帯電インク液滴である。
【0031】
もう一つは、帯電・偏向が行われずに無帯電のままガターパイプ118で回収される無帯電インク液滴である。これらの二つの形式のインク液滴は、回収経路に接続されているガターパイプ118の回収口に向かって飛翔しながら進入して回収されることになる。
【0032】
次に、帯電インク液滴と、微小帯電インク液滴、及び無帯電インク液滴の飛翔とガターパイプ118の回収口の位置関係について説明する。尚、以下では説明をわかりやすくするため、無帯電インク液滴の場合を一例として説明する。
【0033】
先ず、
図3a、
図3bにおいて、無帯電インク液滴の飛翔軸(ここでは、ノズル114の中心にあるオリフィスから噴出されるインクの噴出方向の軸線を意味し、ノズルの中心軸線と一致する)302aと、ガターパイプ118の回収口の中心軸線が一致する配置関係とされている。ここで、
図3aは、帯電インク液滴301aが飛翔している状態を示し、
図3bは、無帯電インク液滴401aが飛翔している状態を示している。
【0034】
そして、印字インク液滴へ付与する階段波は、形成する文字の最下位インク液滴が帯電して偏向された際に、
図3aに示すように、印字インク液滴301aとガターパイプ118の間の距離303を維持し、印字インク液滴301aが、ガターパイプ118に衝突しない帯電電圧(一般的な帯電電圧)とされている。
【0035】
この位置関係の状態で
図3bに示すように、ガターパイプ118で回収される無帯電インク液滴401aは、無帯電インク液滴401の飛翔軸302aに沿って飛翔し、インク液滴の位置ばらつき分のマージンを確保して正しくガターパイプ118に回収されるようになっている。尚、インク液滴の位置ばらつきは、インクの噴出圧力やインク物性値の変化、印字ヘッドの振動等によって発生する。
【0036】
しかしながら、
図2の下側に示してあるように、帯電電圧が高いと前後する帯電インク液滴に作用するクーロン反発力によって、印字歪が発生する。この印字歪を抑制するためには、クーロン反発力が小さくなるように帯電電圧を低くすれば良い。
【0037】
図4a、
図4bは、帯電電圧を低くした場合の帯電インク液滴と無帯電インク液滴の飛翔とガターパイプ118の回収口の位置関係について示している。これらの図は、
図3a、
図3bと同様に、無帯電インク液滴の飛翔軸302aとガターパイプ118の回収口の中心軸線が一致する配置関係とされている。
【0038】
図4aに示すように、帯電電圧を低くするほど帯電インク液滴301bの偏向量は小さくなり、帯電インク液滴301bは、ガターパイプ118の回収口の端面に衝突してインク溜まりを形成する恐れがある。
【0039】
尚、
図4bにあるように、ガターパイプ118で回収される無帯電インク液滴401aは、
図3bと同様に無帯電インク液滴401bの飛翔軸302aに沿って飛翔し、インク液滴の位置ばらつき分のマージンを確保して正しくガターパイプ118に回収される。
【0040】
図4aに示すような、帯電電圧を低くしたときの帯電インク液滴301bのガターパイプ118への衝突を回避する対応策として、
図5aに示すように、無帯電インク液滴の飛翔軸302cを、帯電インク液滴が偏向する方向の側に移動して設定することが有効である。つまり、インクが噴出するノズル114の中心軸線302cに対して、ガターパイプの回収口の中心軸線302dを、帯電インク液滴の偏向方向とは反対側にずらした(オフセットした)関係としている。
【0041】
したがって、帯電電圧を低くして帯電インク液滴301bの偏向量が少なくても、帯電インク液滴301bとガターパイプ118の間の距離303を確保することができるため、帯電電圧が低い帯電インク液滴301bであっても、ガターパイプ118に衝突しないで飛翔することができる。
【0042】
一方、
図5bにあるように、ガターパイプ118で回収される無帯電インク液滴401bは、インクの噴出圧力やインク物性値の変化、印字ヘッドの振動等により、無帯電インク液滴401bの飛翔軌跡が設定した飛翔軸302cから逸脱する場合がある。このため、ノズル114の中心軸線302cに対して、ガターパイプ118の回収口の中心軸線302dを、帯電インク液滴の偏向方向とは反対側にずらして設定したことで、飛翔軸302cの位置から逸脱した無帯電インク液滴401bが、ガターパイプ118の回収口の端面に衝突し易くなる現象が発生する。
【0043】
このように、逸脱した無帯電インク液滴401bが、ガターパイプ118に回収されずに、ガターパイプ118の回収口の上方と衝突する現象が発生すると、ガターパイプ118と衝突した無帯電インク液滴401bは、ガターパイプ118の上方で固着し、時間の経過に伴ってインク溜まりを形成することになる。
【0044】
インク溜まりが形成されると、帯電電圧が低い帯電インク液滴は、偏向量が小さいのでガターパイプ118の上方で発生したインク溜まりと衝突してしまう現象を発生する。この結果として、帯電インク液滴がガターパイプ118を飛び越えて飛翔することができず、文字欠けが発生して印字品質の悪化の原因となる。
【0045】
このような、課題を解決するために、本実施形態は、無帯電インク液滴が、帯電インク液滴の偏向方向とは反対側に飛翔するようにして、ガターパイプ118で無帯電インク液滴を回収できるようにすることを特徴としている。
【0046】
本実施形態では、ガターパイプ118の回収口内に収まる程度の偏向量を無帯電インク液滴に対して与える構成を提案するものである。尚、本実施形態では、
図6に示しているように、インクが噴出するノズル114の中心軸線302cに対して、ガターパイプの回収口の中心軸線302dを、帯電インク液滴の偏向方向とは反対側にずらした関係としていることを前提とする。
【0047】
図6において、本実施形態では、
図2に示す帯電電極115に、「負」の帯電電圧を印加する。これによって、「正」の電荷を受けた無帯電インク液滴501は、正側偏向電極116、及び負側偏向電極117によって形成される電界を飛翔すると、無帯電インク液滴501は、「正」に帯電されているので負側偏向電極117の方へ偏向される。つまり、帯電インク液滴とは反対側に偏向されて、ガターパイプ118の回収口の方に向かうことになる。
【0048】
これによって、
図6に示すように負側偏向電極117の側へ偏向された無帯電インク液滴501は、無帯電インク液滴401b(白丸印で表示)に比べて、ガターパイプ118の回収口の中央に向かって飛翔して回収されるため、ガターパイプ118の回収口との衝突を回避することができる。尚、この無帯電インク液滴501の帯電量は、実験やシミュレーション等で求めることができる。
【0049】
次に、帯電電極115に加える帯電電圧の制御について
図7の処理フローに基づいて簡単に説明する。この処理フローは、MPU101によって実行され、ビデオRAM109に記憶しているビデオデータを、バスライン113を介して文字信号発生回路110へ送り、文字信号発生回路110が、送られてきたビデオデータを基に帯電信号に変更するものである。
【0050】
≪ステップS10≫
ステップS10においては、ビデオRAM109に記憶されている印字すべき印字文字のデータを抽出する。印字文字は、周知の通り複数のドットから構成されており、印字すべきドットと、印字しないドットが存在する。印字文字の抽出が完了するとステップS11に移行する。
【0051】
≪ステップS11≫
ステップS11においては、印字文字のドットを解析する。この解析は印字文字を形成するドットと、印字文字を形成しないドットを決定するものである。そして、印字すべきドットは、帯電されて帯電インク液滴とされ、印字しないドットは無帯電インク液滴とされる。印字文字のドットの解析が完了するとステップS12に移行する。
【0052】
≪ステップS12≫
ステップS12においては、ノズル114から噴出されるインク液滴に対して、印字するか、或いは印字しないかを選択する処理を実行し、印字する場合(Yes判断)はステップS13に移行し、印字しない場合(No判断)はステップS14に移行する。
【0053】
≪ステップS13≫
ステップS13においては、ノズルから噴出されるインク液滴を帯電させるために、帯電電極115に「正」の帯電電圧を印可する。これによって、インク液滴は「負」の帯電インク液滴となる。尚、この時の帯電電圧は、クーロン反発力の影響を抑制するために低めの帯電電圧とされている。インク液滴への「負」の帯電処理が完了するとエンドに抜ける。
【0054】
≪ステップS14≫
ステップS12に戻って印字しない場合(No判断)は、ステップS14においては、無帯電のドットか否かを判断する。この判断は、先に述べた微小帯電インク液滴か、或いは無帯電インク液滴かどうかを選択する処理である。無帯電インク液滴でない場合(No判断)は、微小帯電インク液滴としてステップS15に移行する。
【0055】
一方、無帯電インク液滴である場合(Yes判断)は、無帯電インク液滴としてステップS16に移行する。
【0056】
≪ステップS15≫
ステップS15においては、ノズルから噴出されるインク液滴を「正」に帯電させるために、帯電電極115に「負」の帯電電圧を印可する。これによって、インク液滴は「正」の帯電インク液滴となる。この場合は、後述する無帯電インク液滴に比べて大きい「正」の電荷を有しているので、ガターパイプ118の回収口の側に向けて偏向される。インク液滴への「正」の帯電処理が完了するとエンドに抜ける。
【0057】
≪ステップS16≫
ステップS16においては、ノズルから噴出されるインク液滴を「正」に帯電させるために、帯電電極115に「負」の帯電電圧を印可する。これによって、インク液滴は「正」の帯電インク液滴となる。この場合は、上述した微小帯電インク液滴に比べて小さい「正」の電荷を有しているので、偏向量は小さくなるが、ガターパイプ118の回収口の側に向けて十分偏向される。インク液滴への「正」の帯電処理が完了するとエンドに抜ける。
【0058】
以上述べた通り、本発明では、インクを加振してインク液滴として噴出するノズルと、インク液滴を帯電させる帯電電極と、帯電したインク液滴を偏向させる電界を形成する偏向電極と、印字しないインク液滴を捕捉して回収するガターパイプを備える印字ヘッドと、帯電電極に印加する電圧を制御する印字制御部とを有するインクジェット記録装置であって、インクが噴出するノズルの中心軸線に対して、ガターパイプの回収口の中心軸線を、帯電したインク液滴の偏向方向とは反対側にずらした状態でガターパイプを配置すると共に、印字制御部は、印字に使用するインク液滴に、帯電電極によって印字用帯電電圧を印加し、印字に使用しないインク液滴に、印字に使用するインク液滴とは逆極性の非印字用帯電電圧を印加することを特徴としている。
【0059】
これによれば、印字品質を高めるためにインク液滴の帯電電圧を低減させた場合であっても、ガターパイプで回収される印字に使用しないインク液滴の回収性能を向上させることができる。
【0060】
尚、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…インクジェット記録装置本体、2…ディスプレイ、3…ケーブル、4…印字ヘッド、5…コンベア、100…印字対象物、114…ノズル、115…帯電電極、116…正側偏向電極、117…負側偏向電極、118…ガターパイプ。