(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112392
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】水洗水交換時期予測方法、装置、およびシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/06 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
G01N27/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017362
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000134707
【氏名又は名称】株式会社ナカヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛山 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】黒飛 孝治
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA06
2G060AC02
2G060AE07
2G060AF08
2G060FB04
2G060HC15
2G060HD03
2G060KA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、注意喚起のために知らせる板金洗浄の水洗水の汚れ始めとなる時期をより的確に求める技術を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の水洗水交換時期予測方法は、導電率データ取得部で、板金洗浄に用いる水洗水の導電率データを所定日時間隔で取得する工程と、予測演算・判定部で、導電率グラフの傾きaを求め、傾きaが交換閾値から求められる傾き上昇判定値k以上となる条件(上昇判定条件)を満たすか否か判定し上昇開始日を決定する工程と、表示部で、前記上昇開始日に基づいてアラーム表示を行う工程と、を有する。傾き上昇判定値kは、下記(式1)から求められる、
請求項1に記載の水洗水交換時期予測方法。
k=α×(交換閾値―安定基準値)/(交換基準日数)・・・(式1)
α:係数
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電率データ取得部で、板金洗浄に用いる水洗水の導電率データを所定日時間隔で取得する工程と、
予測演算・判定部で、導電率グラフの傾きaを求め、当該傾きaが交換閾値から求められる傾き上昇判定値k以上となる条件(上昇判定条件)を満たすか否か判定し上昇開始日を決定する工程と、
表示部で、前記上昇開始日に基づいてアラーム表示を行う工程と、
を有する水洗水交換時期予測方法。
【請求項2】
前記傾きaは、長期スパンの導電率の変化量から算出して得られる値である、
請求項1に記載の水洗水交換時期予測方法。
【請求項3】
前記傾き上昇判定値kは、下記(式1)から求められる、
請求項1または2に記載の水洗水交換時期予測方法。
k=α×(交換閾値―安定基準値)/(交換基準日数)・・・(式1)
α:係数
【請求項4】
前記係数αは、0.3~0.7の範囲内、好ましくは0.5である、
請求項3に記載の水洗水交換時期予測方法。
【請求項5】
前記上昇開始日を決定する工程が、前記上昇判定条件を所定回数連続して満たした場合の最初の日時を上昇開始日として決定するものである、
請求項1または2に記載の水洗水交換時期予測方法。
【請求項6】
前記予測演算・判定部で、
前記上昇開始日の所定日時前(回帰起算日)から予測実行日までの導電率データ(予測用データ)から日時と導電率の回帰直線を求める工程と、
前記回帰直線が前記交換閾値と交わる日時を水洗水の予測交換日と決定する工程と、
を有する請求項1または2に記載の水洗水交換時期予測方法。
【請求項7】
板金洗浄に用いる水洗水の導電率データを所定間隔で取得する導電率データ取得部と、
導電率グラフの傾きaを求め、傾きaが交換閾値から求められる傾き上昇判定値k以上となる条件(上昇判定条件)を満たすか否か判定し上昇開始日を決定する予測演算・判定部と、
前記上昇開始日に基づいてアラーム表示を行う表示部と、
を有する水洗水交換時期予測装置。
【請求項8】
前記傾きaは、長期スパンの導電率の変化量から算出して得られる値である、
請求項7に記載の水洗水交換時期予測装置。
【請求項9】
前記傾き上昇判定値kは、下記(式1)から求められる、
請求項7に記載の水洗水交換時期予測装置。
k=α×(交換閾値―安定基準値)/(交換基準日数)・・・(式1)
α:係数
【請求項10】
前記係数αは、0.3~0.7の範囲内、好ましくは0.5である、
請求項9に記載の水洗水交換時期予測装置。
【請求項11】
前記予測演算・判定部が、前記上昇判定条件を所定回数連続して満たした場合の最初の日時を上昇開始日として決定するものである、
請求項7または8に記載の水洗水交換時期予測装置。
【請求項12】
前記予測演算・判定部が、前記上昇開始日の所定日時前(回帰起算日)から予測実行日までの導電率データ(予測用データ)から日時と導電率の回帰直線を求め、
前記回帰直線が前記交換閾値と交わる日時を水洗水の予測交換日と決定するものである、
請求項7または8に記載の水洗水交換時期予測装置。
【請求項13】
請求項7に記載の水洗水交換時期予測装置と、
水洗槽と導電率計を有する水洗部と、
無線通信モジュールと、
を備える水洗水交換時期予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗水交換時期予測方法、装置、およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電話や通信機器など様々な製品を製造するラインにおいては、構成部品として使われる板金を洗浄する工程が通常含まれる。そして板金の洗浄工程は主に板金を洗浄液で洗浄し、洗浄後に水洗し、水洗後に乾燥する工程を備える。ここで板金を水洗する際に板金に付着した洗浄液の成分や板金自体に含まれる不純物などが水洗水に混ざり水洗槽の水が次第に汚染されることから、適当な時期に水洗水を交換する必要が生ずる。
【0003】
水洗槽の水洗水を交換する際には製造ラインを一時的に停止したり、洗浄液も同時に交換したりすることで他の製造ラインにも影響を与える可能性がある。したがって水洗水の交換時期を事前に予測することは製造のコストや効率を向上する上で重要な課題となる。しかも近年IoT(Internet of Things)を製造現場へ導入する流れの中で、人の経験や勘で交換時期を予測するのではなく、汚染の状況を継続的にモニターし、計測データを通信で送信し、データを集積した上で交換時期をコンピュータで予測する技術が求められている。水の汚れは不純物による導電率の増加と相関があることから水洗水の導電率の計測データを用いて交換時期を予測することが考えられる。
【0004】
特許文献1では、測定時の導電率の値と一回前の測定時の導電率の値との変化量(差分)を求め、この変化量が過去10回の変化量の平均以上ならばアラーム処理を実行し、水洗水が汚れてきたことを注意喚起する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
板金洗浄工程における水洗水において、一般に導電率の推移は水洗水の交換直後の低い値で安定している状態(安定推移)から、一定期間後に上昇推移の状態(上昇推移)に転ずる。ただし安定推移の期間でも、洗浄後の板金が水洗槽に浸漬されることによる一時的な導電率上昇や、フィルタのろ過による一時的な導電率低下などがあるため、短期的には導電率の変化量は細かく上下動する。
【0007】
ところが特許文献1では、過去10回もの導電率のデータの平均値を使用することを想定していることから、平均値をとるスパンとしては短期的(例.1~2日間程度)の導電率の変化量に着目したものと考えられ、長期的(例.6日間程度)な変化量に着目することは想定されていない。ところが従来技術のような短期的な導電率の変化量に着目する方法では、導電率の一時的な上下動の影響を受けやすく、安定推移から上昇推移に転ずる日時(アラーム処理を行う日時に相当)を正確に求めることが難しい。さらに従来技術では過去の変化量の平均値との比較でアラーム時期を判定していることから、将来水洗水を交換すべき導電率(汚れ)の値が考慮されておらず、所望の交換レベルに相当する導電率(汚れ)に対応した的確なアラーム処理を行うことが困難である。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、注意喚起のために知らせる板金洗浄の水洗水の汚れ始めとなる時期をより的確に求める技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の水洗水交換時期予測方法の一つは、導電率データ取得部で、板金洗浄に用いる水洗水の導電率データを所定日時間隔で取得する工程と、予測演算・判定部で、導電率グラフの傾きaを求め、傾きaが交換閾値から求められる傾き上昇判定値k以上となる条件(上昇判定条件)を満たすか否か判定し上昇開始日を決定する工程と、表示部で、前記上昇開始日に基づいてアラーム表示を行う工程と、を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、注意喚起のために知らせる板金洗浄の水洗水の汚れ始めとなる時期をより的確に求めることができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る水洗水交換時期予測システムのシステム構成図である。
【
図4】
図4は、導電率データ記憶部に保存される導電率データの例示である。
【
図6】
図6は、長期の導電率グラフに対するろ過フィルタ交換の影響を示す図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態において上昇開始日を算出するイメージ図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態において予測交換日を算出するイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る水洗水交換時期予測システムのシステム構成図である。第1実施形態では、板金はベルトなどに吊るされた洗浄かごに入れられ各工程をベルトなどで搬送される。すなわち投入口4より洗浄機3に搬入された板金入り洗浄かごは、まず洗浄部5において洗浄(脱脂)される。洗浄部5は洗浄槽と洗浄槽を揺らす揺動部材などを備える。板金入りの洗浄かごは洗浄槽に浸漬すると所定時間揺らされて洗浄が行われる。揺動部材とともに、もしくは揺動部材に替えて循環部材を設置し、洗浄水を洗浄槽の中で循環させることで板金を洗浄するようにしてもよい。洗浄(脱脂)には通常アルカリ性の洗浄液が用いられるが特に限定されるものではない。アルカリ性の洗浄液を用いる場合はPH値を測定することで洗浄能力のレベルを判定することができる。
【0013】
次に板金入りの洗浄かごは水洗部6(後述)において水洗される。水洗部6において水洗水の汚染の状況が計測される。水洗が終わったら乾燥エリア7に搬送され温風をあてて乾燥させる。こうして洗浄機3における一連の工程を終えると、板金入りの洗浄かごは投出口8より洗浄機3から運び出される。
【0014】
汚染に関する計測データは無線通信モジュール9からゲートウェイ10に無線送信され、ゲートウェイ10から有線LANを通って水洗水交換時期予測装置1(以下、単に「予測装置」ともいう。)に送信される。計測データは有線で送ることも可能であるが無線通信を採用することでWi-Fiやローカル5GといったIOTの通信技術を利用することができる。計測データ以外の必要なデータや指令、もしくは表示のための操作などが操作端末2より有線LANを通じて入力される。ただしゲートウェイ10と操作端末2と予測装置の間は無線LANで送信することも可能である。
【0015】
図2は、水洗部6の構成図である。板金入り洗浄かごは水洗槽20に浸漬すると所定時間揺らされて水洗が行われる。水洗槽20にパイプ25を繋げ循環ポンプ24で水を循環させ、パイプ25の間にろ過フィルタ23を設置することで水洗水の不純物をろ過することができる。さらにパイプ25の間に導電率センサ21(例えばHE-200C HORIBA)を設置して導電率計22で導電率の計測データである導電率データを取得し無線通信モジュール9に送られる。導電率センサ21は水洗水の導電率を計測し得る位置であれば水洗部6の任意の場所に設置することができる。また導電率センサ21を必要に応じ複数設置して導電率の値の平均をとってもよい。水洗に使われる水洗水は純水でよいが特に限定されるものではない。
【0016】
図3は、予測装置1の機能構成図である。ゲートウェイ10より有線LANを通って入力された導電率データはネットワークインターフェース101を通って導電率データ取得部102で受信され保存データ形式に変換される。その上で変換データは導電率データ記憶部103に保存される。導電率データ記憶部103は例えばHDやSSDといった通常のデータベースに使用されるハードウェアで構成される。操作受付部104は操作端末2から入力されるデータや指令をネットワークインターフェース101を介して受信するとともに、後述する予測演算・判定部105や表示部106からの要求信号やエラーメッセージなど操作端末2に対する信号も受け付ける機能を有する。
【0017】
予測演算・判定部105は水洗水の交換時期の予測に用いられるパラメータの演算、アラーム処理を行う日時または交換予測日時の判定などの演算・判定処理を行う(詳細は後述)。演算や判定に必要なデータは導電率データ記憶部103や操作受付部104から送られ、また演算や判定の結果は表示部106に送られ表示される。予測演算・判定部105におけるプログラム処理の実行はCPUなど通常のコンピュータ用演算処理デバイスが用いられる。表示部106はモニター画面上に導電率の推移を表すグラフ(以下、「導電率グラフ」という。)や水洗水交換の注意喚起を行うアラーム、または水洗水の交換時期を予測するための回帰直線(後述)などを表示する。
【0018】
図4は、導電率データ記憶部103に保存される導電率データの例示である。
図4(a)は、1分間隔で導電率データを計測した計測データの抜粋を表したものである。導電率の単位はmS/mである。計測間隔は必ずしも1分である必要はない。
図4(b)は、
図4(a)の表を導電率グラフにしたもので、1日の中の所定時刻における導電率の推移が示されている(以下、係るグラフを「短期の導電率グラフ」、そのデータを「短期の導電率データ」ということもある)。
図4(b)から分かるように、当初水洗水の導電率の初期値は0.2mS/m前後であるところ、洗浄後の板金入り洗浄かごが水洗槽20に浸漬する時間帯(浸漬あり)では、洗浄かごや板金に付着した不純物の影響で水が汚れ、導電率が一時的に上昇する。その後板金入り洗浄かごが水洗槽20から搬出されていない時間帯(浸漬なし)では、ろ過フィルタ23による不純物のろ過が行われて導電率が低下する。さらに次の板金入り洗浄かごが搬送され浸漬すると再び導電率が上昇する、というサイクルが発生する。
【0019】
次に
図4の短期の導電率データを1日単位で平均をとり水洗水を交換する程度のスパン(約2~3ヶ月)の推移を考察する(以下、係るグラフを「長期の導電率グラフ」、そのデータを「長期の導電率データ」ということもある。)。
図5は、長期の導電率グラフの例である。導電率データ記憶部103のメモリ量にもよるが、短期の導電率グラフのデータの平均をとらずに長期間そのまま蓄積して長期の導電率グラフとして作成することも可能である。第1実施形態においては、長期の導電率データは、しばらく低い値で安定して推移し(以下、「安定推移」という。)、その後徐々に上昇する推移(以下、「上昇推移」という。))となるパターンを示す。ここで、安定推移から上昇推移に転ずる日時を上昇開始日と呼ぶ。安定推移から上昇推移に転ずる理由としては、洗浄後板金を水洗槽20に浸漬する当初は、水洗水の汚れはほぼ全てろ過フィルタでろ過されることから汚れの増加と相関する導電率の上昇もみられず安定に推移すると考えられるのに対し、時間とともにろ過フィルタのろ過能力が低下し始め汚れを十分ろ過しきれなくなった時点で水洗水の汚れの量が徐々に増加する傾向に転ずることが考えられる。
【0020】
図6は、長期の導電率グラフに対するろ過フィルタ交換の影響を示す図である。ろ過フィルタの汚れが限界に達すればろ過フィルタも交換するが、水洗水交換の前後でろ過フィルタが同じ(交換しない)場合でも水洗水交換後しばらくは安定推移を示し、一定期間後に上昇推移に転ずることが
図6から分かる。したがって水洗水交換の有無に関わらずろ過フィルタの性能は常にほぼ一定であると考えられることから、ろ過性能を維持するために水洗水の交換タイミングとは関係なく定期的にろ過フィルタを交換していても、長期の導電率グラフには安定推移から上昇推移に転ずる特徴が現れるものと考えられる。
【0021】
図7は、第1実施形態において上昇開始日を算出するイメージ図である。長期の導電率グラフにおいて、日時xでの傾きaを、x-6日とx日の間(スパン)の導電率の変化量から算出して得られる値(傾き)とする。本開示においては長期の導電率データや導電率グラフの日時に関し説明するときに日数を用いるが、時間や分などの単位でパラメータや予測の値を算出することも可能である。第1実施形態では傾きaを毎日算出する。次に傾きaが後述する傾き上昇判定値k以上(a≧k)となる条件(以下、「上昇判定条件」という。)を満たす日時を上昇開始日と判定する。係る演算・判定は予測演算・判定部105において実行される。上昇開始日は安定推移から上昇推移に転ずる日時と位置付けられ、水洗水交換のための注意喚起用アラーム処理を実行する日時として利用される。
【0022】
洗浄、水洗、乾燥の製造ラインの稼働頻度は、日によって異なることもあり導電率の変化も日ごとに不規則に変化し得ることから短期スパン(例えば1~2日程度)で傾きaを算出しても的確な傾向を読み取ることが難しいのに対し、長期スパン(例えば6日前後)であれば製造ラインの稼働頻度のばらつきも平準化され傾きaの推移の傾向をより的確に読み取ることが可能となると考えられる。したがって傾きaを算出する長期スパンは概ね稼働頻度が平準化される期間であればよく6日に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0023】
(傾き上昇判定値k)
傾き上昇判定値kの求め方について説明する。まず過去に記録した長期の導電率データ(以下、「過去データ」ともいう。)を複数事前に用意する。過去データは導電率データ記憶部103に保存されている。そしてそれぞれの過去データにおける上昇開始日を決定する。ここで上昇開始日はオペレータの経験に基づき操作端末2から決定値を入力すればよいがこれに限られるものではない。上昇開始日が決定されたら、それぞれの過去データにおいて上昇開始日まで(安定推移期間)の導電率の平均値を算出しさらに過去データの間での平均値を算出する(以下、「安定基準値」という。)。また、それぞれの過去データにおける上昇開始日から水洗水を交換する交換日までの日数を求め、過去データの間での平均値を算出する(以下、「交換基準日数」という。)。これらの演算は予測演算・判定部105で行われる。
【0024】
安定基準値および交換基準日数の求め方の例を以下に説明する。表1には2021年3月から6月にかけて取得されたデータで、ともに安定推移と上昇推移を示す2つの過去データの例が示されている。
【表1】
安定基準値は、過去データ1の安定推移期間である2021/3/2~4/9の間の導電率の平均値と、過去データ2の安定推移期間である2021/4/30~5/31の間の導電率の平均値の間で平均をとることで求められる。
交換基準日数は、過去データ1の上昇開始日2021/4/10から次の交換日4/29までの19日、過去データ2の上昇開始日2021/6/1から次の交換日6/30までの29日の平均((19+29)/2=24日)をとることで求められる。
【0025】
このようにして過去データから安定基準値、交換基準日数が求められたら、(式1)を用いて傾き上昇判定値kを算出する。
k=α×(交換閾値―安定基準値)/(交換基準日数)・・・(式1)
交換閾値は洗浄水を交換する際の導電率の値としてあらかじめ定めた値である。αは係数である。αは小さすぎると導電率が少し上昇しただけで注意喚起用のアラーム処理が実行されてしまい、大きすぎると上昇が検知されにくくなる点を考慮して適当な値を設定すればよく、第1実施形態では0.5に設定したが、これに限られるものなく例えば0.3~0.7の範囲で定めることも可能である。例えば交換閾値を0.8(mS/m)、安定基準値を0.2(mS/m)、交換基準日数を30日、αを0.5とした場合には、k=0.5×(0.8-0.2)/30=0.01となる。こうした演算も予測演算・判定部105において行われる。
【0026】
(作用・効果)
上述したように、第1実施形態では長期の導電率グラフにおいて傾きaを長期スパンで算出することから製造ラインの稼働頻度などに依存する導電率の不規則な変動を平準化することができ、さらに傾き上昇判定値kとの比較で上昇開始日を判定することから、係数αを調整することで上昇に転ずる際の検知感度を適宜調整することが可能となるとともに、交換すべき導電率の値である交換閾値の情報を盛り込んだ判定が可能となることから、安定推移から上昇推移に転ずるタイミングをより的確に判定してアラーム処理や水洗水の交換準備を行うことが可能となる。
【0027】
[第2実施形態]
第1実施形態において長期の導電率グラフの傾きaを1日間隔で算出する際、導電率データに外れ値が含まれると上昇開始日を誤検出するおそれがある。そこで第2実施形態では、傾きaがn日連続してk以上と計測したときに上昇開始日と判定する。これにより誤検出の発生確率を下げることができる。その他は第1実施形態と同様である。
連続日数nの決定方法について説明する。表2は表1で用いたのと同様な過去における長期の導電率データ(過去データ)を一部抜粋したものである。上昇開始日2021/6/1は正解データとして決まっているものとする。
【表2】
表2の過去データに対し、第1実施形態と同様の手法で、傾き上昇判定値kを0.01として以下の手順で正解となる上昇開始日が得られるまでnを1から増加させてnを決定する。
(1)n=1としてa≧kを満たす日時を順繰りに探索。→2021/5/1がヒット。
(2)ヒットした日時が6/1と一致するかチェック。
(3)一致しないのでn=2として探索を繰り返す。→2021/5/21がヒット。
(4)ヒットした日時が6/1と一致するかチェック。
(5)一致しないのでn=3として探索を繰り返す。
(6)nの値を変えながらヒットした日と6/1が一致するまでnの値を増加させ。一致したnの値に決定する。
表2の例ではn=3で、ヒットした日が6/1と一致したことから、n=3に決定する。
上述するようなnを決定する処理および決定されたnの値に基づいて上昇開始日を判定する処理は、予測演算・判定部105において行われる。
【0028】
(作用・効果)
第2実施形態では、過去データから適切なnの値を設定してa≧kの判定がn日連続した場合に上昇開始日であることを判定することで、外れ値を上昇開始日と誤判定して無駄なアラーム処理が行われる事態を回避することが可能となる。
【0029】
[第3実施形態]
第3実施形態では、第1、第2実施形態で求めた上昇開始日から定められる所定の日時(以下、「回帰起算日」という。)と予測実行日(通常は予測を行う現在日時に対応する)までの導電率データ(以下、「予測用データ」という。)から、最小二乗法により回帰直線を求め、当該回帰直線が交換閾値と交わる日時を予測交換日と決定し表示する処理が加わる他は第1、第2実施形態と同様である。
図8は、第3実施形態において予測交換日を算出するイメージ図である。第3実施形態では、回帰起算日は上昇開示日の6日前に設定している。6日は上昇開始日を決める際に用いられた傾きaを算出する際のスパンと同じ日数であり、上昇推移の特徴を早い段階で有する日時と考えられることから予測用データとして盛り込んでいる。ただし6日に限定する必要はなく6日以下でもよく、上昇開始日を回帰起算日としてもよく、さらに上昇開始日以降の日時であってもよい。回帰直線の算出や予測交換日の決定は予測演算・判定部105において行われる。そして回帰直線や予測交換日は表示部106において表示される。
【0030】
(作用・効果)
第3実施形態では、回帰起算日から予測実行日までの間で予測データを選別して回帰直線の算出に利用していることから、回帰起算日以前の安定推移の導電率データはノイズとして除外されるので、的確な予測交換日を判定することが可能となり、コストや効率面でも良好な演算を実現することが可能となる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0032】
本発明の内容となり得る態様を以下に述べる、ただしこれに限られるものではない。
(態様1)
導電率データ取得部で、板金洗浄に用いる水洗水の導電率データを所定日時間隔で取得する工程と、
予測演算・判定部で、導電率グラフの傾きaを求め、傾きaが交換閾値から求められる傾き上昇判定値k以上となる条件(上昇判定条件)を満たすか否か判定し上昇開始日を決定する工程と、
表示部で、前記上昇開始日に基づいてアラーム表示を行う工程と、
を有する水洗水交換時期予測方法。
(態様2)
前記傾きaは、長期スパンの導電率の変化量から算出して得られる値である、
態様1に記載の水洗水交換時期予測方法。
(態様3)
前記傾き上昇判定値kは、下記(式1)から求められる、
態様1または2に記載の水洗水交換時期予測方法。
k=α×(交換閾値―安定基準値)/(交換基準日数)・・・(式1)
α:係数
(態様4)
前記係数αは、0.3~0.7の範囲内、好ましくは0.5である、
態様3に記載の水洗水交換時期予測方法。
(態様5)
前記上昇開始日を決定する工程が、前記上昇判定条件を所定回数連続して満たした場合の最初の日時を上昇開始日として決定するものである、
態様1~4のいずれか一つに記載の水洗水交換時期予測方法。
(態様6)
前記予測演算・判定部で、
前記上昇開始日の所定日時前(回帰起算日)から予測実行日までの導電率データ(予測用データ)から日時と導電率の回帰直線を求める工程と、
前記回帰直線が前記交換閾値と交わる日時を水洗水の予測交換日と決定する工程と、
を有する態様1~5のいずれか一つに記載の水洗水交換時期予測方法。
(態様7)
板金洗浄に用いる水洗水の導電率データを所定間隔で取得する導電率データ取得部と、
導電率グラフの傾きaを求め、傾きaが交換閾値から求められる傾き上昇判定値k以上となる条件(上昇判定条件)を満たすか否か判定し上昇開始日を決定する予測演算・判定部と、
前記上昇開始日に基づいてアラーム表示を行う表示部と、
を有する水洗水交換時期予測装置。
(態様8)
前記傾きaは、長期スパンの導電率の変化量から算出して得られる値である、
態様7に記載の水洗水交換時期予測装置。
(態様9)
前記傾き上昇判定値kは、下記(式1)から求められる、
態様7または8に記載の水洗水交換時期予測装置。
k=α×(交換閾値―安定基準値)/(交換基準日数)・・・(式1)
α:係数
(態様10)
前記係数αは、0.3~0.7の範囲内、好ましくは0.5である、
態様9に記載の水洗水交換時期予測装置。
(態様11)
前記予測演算・判定部が、前記上昇判定条件を所定回数連続して満たした場合の最初の日時を上昇開始日として決定するものである、
態様7~10のいずれか一つに記載の水洗水交換時期予測装置。
(態様12)
前記予測演算・判定部が、前記上昇開始日の所定日時前(回帰起算日)から予測実行日までの導電率データ(予測用データ)から日時と導電率の回帰直線を求め、
前記回帰直線が前記交換閾値と交わる日時を水洗水の予測交換日と決定するものである、
態様7~11のいずれか一つに記載の水洗水交換時期予測装置。
(態様13)
態様7~12に記載の水洗水交換時期予測装置と、
水洗槽と導電率計を有する水洗部と、
無線通信モジュールと、
を備える水洗水交換時期予測システム。
【符号の説明】
【0033】
1…予測装置、2…操作端末、3…洗浄機、4…投入口、5…洗浄部
6…水洗部、7…乾燥エリア、8…投出口、9…無線通信モジュール
10…ゲートウェイ、20…水洗槽、21…導電率センサ、22…導電率計
23…ろ過フィルタ、24…循環ポンプ、25…パイプ
101…ネットワークインターフェース、102…導電率データ取得部
103…導電率データ記憶部、104…操作受付部
105…予測演算・判定部、106…表示部