(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112403
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】窒化物半導体膜育成用テンプレート、及びその製造方法、並びにそれを用いて製造される窒化物半導体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/20 20060101AFI20240814BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240814BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20240814BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20240814BHJP
C30B 23/08 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L21/31 C
H01L21/203 M
H01L21/31 D
C30B29/38 D
C30B23/08 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017376
(22)【出願日】2023-02-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載日 2022年7月6日 ウェブサイトのアドレス https://meeting.jsap.or.jp/jsap2022a/ https://meeting.jsap.or.jp/jsap2022a/program (プログラム(紙版)(PDF)) https://meeting.jsap.or.jp/jsapm/wp-content/uploads/sites/14/2022/07/2022a-final-program.pdf (Webプログラム) https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/top https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/table/20220920 https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/session/20a-C200-1▲~▼11/tables?fkQEGmngyR https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/subject/20a-C200-6/tables?cryptoId= (講演会アプリ) https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/recommend/publication?eventCode=jsap2022a (その2) 発行日 2022年8月26日 刊行物 2022年第83回応用物理学会秋季学術講演会の予稿集DVD 公益社団法人応用物理学会 (その3) ウェブサイトの掲載日 2022年8月26日 ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsap2022a/20a-C200-6/public/pdf?type=in (その4) 開催日 2022年9月20日(開催期間:2022年9月20日(火)~23日(金)) 集会名、開催場所 2022年第83回応用物理学会秋季学術講演会(現地開催及びZoomによるハイブリッド開催) 現地開催場所:国立大学法人東北大学 川内北キャンパス(宮城県仙台市青葉区川内41)
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(71)【出願人】
【識別番号】502209796
【氏名又は名称】株式会社福田結晶技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 努
(72)【発明者】
【氏名】出浦 桃子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 高志
(72)【発明者】
【氏名】福田 承生
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
5F103
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB08
4G077BE15
4G077DA05
4G077ED06
4G077EE03
4G077HA12
4G077SA04
5F045AA05
5F045AA20
5F045AB14
5F045AC15
5F045AD11
5F103AA04
5F103DD01
5F103GG01
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5F152LL09
5F152LN04
5F152LN24
5F152NN12
5F152NN27
5F152NP11
5F152NQ09
5F152NQ17
(57)【要約】
【課題】本発明は、低欠陥の窒化物半導体を作製するためのSAM単結晶基板を含む窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法等を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)ScAlMgO4(SAM)単結晶基板のc面に対しラジカル化した窒素ガスを用いて窒化処理する工程を含む、表面窒化処理されたSAM単結晶基板を含む窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ScAlMgO4(SAM)単結晶基板のc面に対しラジカル化した窒素ガスを用いて窒化処理する工程
を含む、表面窒化処理されたSAM単結晶基板を含む窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)が150℃~900℃で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記表面窒化処理されたSAM単結晶基板のステップ高さが0.84 nm未満である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記表面窒化処理されたSAM単結晶基板のRMSが0.3 nm以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
(A)ScAlMgO4(SAM)単結晶基板のc面に対してラジカル化した窒素ガスを用いて窒化処理する工程と、
(B)前記工程(A)で得られた表面窒化処理SAM単結晶基板のc面上に窒化物エピタキシャル薄膜を成長させる工程と
を含む、表面窒化処理されたSAM単結晶基板及び窒化物エピタキシャル薄膜を含む窒化物半導体の製造方法。
【請求項6】
前記窒化物半導体の前記SAM単結晶基板及び前記窒化物エピタキシャル薄膜の界面に立方晶が混在しない、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記窒化物エピタキシャル薄膜の対称面半値幅が700arcsec以下である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られる、窒化物半導体膜育成用テンプレート。
【請求項9】
請求項5又は6に記載の製造方法により得られる、窒化物半導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体膜育成用テンプレート、及びその製造方法、並びにそれを用いて製造される窒化物半導体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体膜を成長させる基板として、ScAlMgO4(SAM)単結晶基板が用いられている。特に、AlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)組成を有する窒化物半導体膜のc面とSAM単結晶基板のc面とは面内の格子定数差が小さいことから、SAM基板上にAlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)組成を有する窒化物半導体膜を成長させることで、低欠陥の窒化物半導体膜が得られると期待されている。
【0003】
一方で、c面に垂直なc軸方向においては、SAM単結晶基板のステップ高さがAlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)組成を有する窒化物半導体膜の単位格子のc軸長と比べて高いことが、SAM単結晶基板上に成長させた窒化物半導体膜への欠陥の導入の原因となっている。SAM単結晶基板のステップ高さに起因する上記問題への対策として、本発明者らは、SAM単結晶基板のc面上に結晶構造変換膜を導入することでSAM単結晶基板のc面の結晶成長方向の不整合を緩和する方法を提案し、結晶構造変換膜を含む窒化物半導体膜育成用テンプレート等に関する発明について、現在特許出願中である(特願2021-212862)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、低欠陥の窒化物半導体を作製するためのSAM単結晶基板を含む窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法、及びSAM単結晶基板を用いた低欠陥の窒化物半導体の製造方法を提供すること、並びに、これらの方法により製造される窒化物半導体膜育成用テンプレート、及び窒化物半導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、ラジカル化した窒素を照射することでSAM単結晶基板のステップ高さを低減できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてさらに鋭意検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を包含する。
項1.
(A)ScAlMgO4(SAM)単結晶基板のc面に対しラジカル化した窒素ガスを用いて窒化処理する工程
を含む、表面窒化処理されたSAM単結晶基板を含む窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法。
項2.
前記工程(A)が150℃~900℃で行われる、項1に記載の製造方法。
項3.
前記表面窒化処理されたSAM単結晶基板のステップ高さが0.84 nm未満である、項1又は2に記載の製造方法。
項4.
前記表面窒化処理されたSAM単結晶基板のRMSが0.3 nm以下である、項1又は2に記載の製造方法。
項5.
(A)ScAlMgO4(SAM)単結晶基板のc面に対してラジカル化した窒素ガスを用いて窒化処理する工程と、
(B)前記工程(A)で得られた表面窒化処理SAM単結晶基板のc面上に窒化物エピタキシャル薄膜を成長させる工程と
を含む、表面窒化処理されたSAM単結晶基板及び窒化物エピタキシャル薄膜を含む窒化物半導体の製造方法。
項6.
前記窒化物半導体の前記SAM単結晶基板及び前記窒化物エピタキシャル薄膜の界面に立方晶が混在しない、項5に記載の製造方法。
項7.
前記窒化物エピタキシャル薄膜の対称面半値幅が700arcsec以下である、項5に記載の製造方法。
項8.
項1又は2に記載の製造方法により得られる、窒化物半導体膜育成用テンプレート。
項9.
項5又は6に記載の製造方法により得られる、窒化物半導体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、SAM単結晶基板のc面に対しラジカル化した窒素ガスを用いて窒化処理することで、低欠陥の窒化物半導体を作製するためのSAM単結晶基板を含む窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法、及びSAM単結晶基板を用いた低欠陥の窒化物半導体の製造方法を提供すること、並びに、これらの方法により製造される窒化物半導体膜育成用テンプレート、及び窒化物半導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】窒化処理無し又は有りのSAM基板上におけるGaN薄膜成長実験のタイムチャートを示す図である。
【
図2】窒化処理無し又は有りのSAM基板上に成長させたGaN薄膜のSEM(左)及びAFM(右)観察結果を示す図である。
【
図3】窒化処理無し又は有りのSAM基板上に成長させたGaN薄膜のXRD測定結果を示す図である。
【
図4】窒化処理無し又は有りのSAM基板上に成長させたGaN薄膜とSAM基板との界面付近のHR-TEM観察結果を示す図である。
【
図5】SAM基板表面の窒化処理中のRHEEDパターン観察結果を示す図である。
【
図6】窒化処理前後のSAM基板表面のAFM観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1. 窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法
本発明の窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法は、
(A)ScAlMgO4(SAM)単結晶基板のc面に対しラジカル化した窒素ガスを用いて窒化処理する工程
を含み、当該方法により、表面窒化処理されたSAM単結晶基板を含む窒化物半導体膜育成用テンプレートが製造される。
【0009】
前記窒化処理工程(A)により、SAM単結晶基板のステップ高さを低減、すなわち、SAM単結晶基板のc面の平坦性を向上させることができる。
【0010】
前記工程(A)において、例えば、処理温度、処理時間、窒素ガスの流量、プラズマパワー等の窒化条件を適宜調整することによって、SAM単結晶基板のステップ高さをより低減でき、すなわち、SAM単結晶基板のc面の平坦性をより向上させることができる。
【0011】
前記工程(A)は、窒化効率の観点から、150℃~900℃で行われることが好ましく、300℃~750℃で行われることがより好ましい。
【0012】
前記工程(A)において、窒化処理は30分~5時間であることが好ましく、1時間~4時間であることがより好ましい。
【0013】
前記工程(A)において、窒素ガスの流量は1.0 sccm~3.0 sccmであることが好ましく、1.5 sccm~2.5 sccmであることがより好ましい。
【0014】
前記工程(A)において、プラズマパワーは100 W~300 Wであることが好ましく、150 W~250 Wであることがより好ましい。
【0015】
前記工程(A)により得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板のステップ高さの低減は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)観察により判断することができる。より具体的には、ステップ高さが0.84 nm未満である場合にSAM単結晶基板のステップ高さが低減されたと判断することができる。
【0016】
前記工程(A)により得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板のステップ高さは0.80 nm以下であることが好ましく、0.75 nm以下であることがより好ましい。
【0017】
前記工程(A)により得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板の平坦性の向上は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)観察により平坦性を表わす指標であるRMSにより評価することができる。より具体的には、RMSが0.3 nm以下である場合にSAM単結晶基板の平坦性が向上したと判断することができる。
【0018】
前記工程(A)により得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板のRMSは0.25 nm以下であることが好ましく、0.20 nm以下であることがより好ましい。
【0019】
前記工程(A)により得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板の特徴の一つとして、反射高速電子線回折(Reflective high-energy electron diffraction: RHEED)パターン観察を行った場合に、窒化処理前後でRHEEDパターン間隔の変化が観察されないことが挙げられる。当該特徴は、前記工程(A)により得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板において、窒化処理前後でRHEEDパターン観察により検出可能な新たな膜は形成されていないことを意味する。
【0020】
前記工程(A)の後には、(C)結晶構造変換膜をSAM単結晶基板のc面上に導入する工程をさらに含んでいてもよい。
【0021】
本発明において、結晶構造変換膜とは、基板の結晶成長方向であるc軸方向の結晶成長方向の不整合 (ステップ高さ) を緩和する膜をいう。結晶構造変換膜に起因して、エピタキシャル成長における立方晶窒化物の削減効果が発揮され、その結果エピタキシャル薄膜の転位発生を抑制する。
【0022】
本発明において、前記結晶構造変換膜により緩和されたSAM基板のc面のc軸からのa軸方向へのオフ角(θ)及びc軸からのm軸方向へのオフ角(θ’)は、0.2°以下である。エピタキシャル成長におけるより優れた転位削減効果を発揮するという点で、好ましくは0.15°以下、より好ましくは0.1°以下、さらに好ましくは0.05°以下である。
【0023】
本発明において、前記オフ角は、X線回折法により測定することができる。
【0024】
本発明において、結晶構造変換膜は、Ga1-xInxNで表される組成を有するものであって、0.15≦x≦0.25の範囲であれば特に制限されないが、好ましくは0.17≦x≦0.24、より好ましくは0.19≦x≦0.23、さらに好ましくは0.20≦x≦0.22である。
【0025】
本発明において、結晶構造変換膜は、転位密度が106個/cm2以下である。エピタキシャル成長におけるより優れた転位削減効果を発揮するという点で、好ましくは105個/cm2以下、より好ましくは104個/cm2以下、さらに好ましくは103個/cm2以下である。
【0026】
本発明において、結晶構造変換膜の転位密度は、X線を使用してトポグラフ法により測定することができる。
【0027】
本発明において、結晶構造変換膜の厚さは、特に制限されないが、例えば、10 nm~100 nmの範囲が挙げられる。
【0028】
本発明において、前記結晶構造変換膜は、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy;MBE)法を用いて成長させることができる。MBE法としては、例えば、Radio Frequency-MBE(RF-MBE)法及びElectron Cyclotron Resonance-MBE(ECR-MBE)法等が挙げられる。中でもRF-MBE法が好ましい。
【0029】
前記工程(C)により、前記工程(A)で得られるSAM単結晶基板のステップ高さをより低減でき、すなわち、SAM単結晶基板のc面の平坦性をより向上させることができる。
【0030】
2. 窒化物半導体の製造方法
本発明の窒化物半導体の製造方法は、
(A)ScAlMgO4(SAM)単結晶基板のc面に対してラジカル化した窒素ガスを用いて窒化処理する工程と、
(B)前記工程(A)で得られた表面窒化処理SAM単結晶基板のc面上に窒化物エピタキシャル薄膜を成長させる工程と
を含み、当該方法により、表面窒化処理されたSAM単結晶基板及び窒化物エピタキシャル薄膜を含む窒化物半導体が製造される。
【0031】
前記工程(A)は上で述べたのと同様の特徴を有する。
【0032】
前記工程(A)により、本発明の方法により得られる窒化物半導体中の欠陥を低減することができる。
【0033】
前記工程(B)において、表面窒化処理SAM単結晶基板のc面上における窒化物エピタキシャル薄膜の成長は、MBE法により行われることが好ましい。
【0034】
本発明の方法により得られる窒化物半導体は、当該窒化物半導体に含まれるSAM単結晶基板及び窒化物エピタキシャル薄膜の界面に立方晶が混在しないことを特徴の一つとする。
【0035】
本発明において、SAM単結晶基板及び前記窒化物エピタキシャル薄膜の界面に立方晶が混在しないとは、X線回折(X‐ray diffraction: XRD)測定による窒化物エピタキシャル薄膜のXRDピークの対称面の半値幅が700arcsec以下であること、又は、SAM単結晶基板及び前記窒化物エピタキシャル薄膜の界面の高分解能透過電子顕微鏡(High Resolution Transmission Electron Microscope: HR-TEM)観察により立方晶の混在が全く観察されないか若しくはほとんど観察されないことをいう。
【0036】
したがって、XRD測定による窒化物エピタキシャル薄膜のXRDピークの対称面の半値幅が700arcsec以下である場合、又は、SAM単結晶基板及び前記窒化物エピタキシャル薄膜の界面のHR-断面TEM観察により立方晶の混在が全く観察されないか若しくはほとんど観察されない場合は、本発明の方法により得られる窒化物半導体について、SAM単結晶基板及び前記窒化物エピタキシャル薄膜の界面に立方晶が混在しないということができる。
【0037】
HR-断面TEM観察により立方晶の混在が全く観察されないか若しくはほとんど観察されない場合とは、10 μmの視野を少なくとも5箇所観察し、1箇所も立方晶の混在が観察されない場合、立方晶の混在が観察されるのが多くとも1箇所である場合、又は、立方晶の混在が観察される場合であっても立方晶の窒化物エピタキシャル薄膜の厚みが100 nm以下である場合を含む。
【0038】
前記工程(B)により得られる窒化物エピタキシャル薄膜の組成は、特に制限されず、例えば、AlxGayInzN(0≦x,y,z≦1、x+y+z=1)組成を有するもの等が挙げられる。
【0039】
前記工程(B)により得られる窒化物エピタキシャル薄膜の厚みは、特に制限されないが、5 nm~500 nmであることが好ましく、50 nm~200 nmであることがより好ましい。
【0040】
前記工程(B)において、処理温度、処理時間、窒素ガスの流量、プラズマパワー、Gaフラックス等の窒化物エピタキシャル薄膜の成長条件は、適宜調整することができる。
【0041】
前記工程(B)により得られる窒化物半導体の厚みは、特に制限されないが、500 nm~5000 nmであることが好ましく、1000 nm~2000 nmであることがより好ましい。
【0042】
前記工程(A)と前記工程(B)との間には、(C)結晶構造変換膜をSAM単結晶基板のc面上に導入する工程をさらに含んでいてもよい。
【0043】
前記工程(C)により、本発明の方法により得られる窒化物半導体における欠陥をより低減することができる。
【0044】
3. 窒化物半導体膜育成用テンプレート
本発明の窒化物半導体膜育成用テンプレートは、上述する本発明の窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法により得られ、表面窒化処理されたSAM単結晶基板を含む。
【0045】
本発明の窒化物半導体膜育成用テンプレートに含まれる、上述する本発明の窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法の工程(A)で得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板は、上で述べたのと同様の特徴を有する。
【0046】
本発明の窒化物半導体膜育成用テンプレートは、上述する本発明の窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法により得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板に加えて、結晶構造変換膜を含んでいてもよい。
【0047】
4. 窒化物半導体
本発明の窒化物半導体は、上述する本発明の窒化物半導体の製造方法により得られ、表面窒化処理されたSAM単結晶基板及び窒化物エピタキシャル薄膜を含む。
【0048】
本発明の窒化物半導体に含まれる、上述する本発明の窒化物半導体膜育成用テンプレートの製造方法の工程(A)で得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板は、上で述べたのと同様の特徴を有する。
【0049】
本発明の窒化物半導体は、上述する本発明の窒化物半導体の製造方法により得られる表面窒化処理されたSAM単結晶基板及び窒化物エピタキシャル薄膜に加えて、結晶構造変換膜を含んでいてもよい。
【実施例0050】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
<実施例1.窒化処理SAM基板上へのGaN成長>
窒化処理していないSAM基板又は基板表面をあらかじめ窒化処理したSAM基板上に、RF-MBE法によりGaN薄膜をエピタキシャル成長させた(
図1)。窒化条件及びGaN成長条件は下記の通りであった。
窒化条件
・基板温度:300 ℃
・プラズマパワー:200 W
・N
2流量:2.0 sccm
・時間:2 h
GaN成長条件
・基板温度:700 ℃
・Gaフラックス:6.2×10
-7 Torr
・プラズマパワー:110 W
・N
2流量:2.0 sccm
・時間:1 h
【0052】
<実施例2.窒化処理SAM基板上に成長させたGaN薄膜の評価>
本実施例1で得られたGaN薄膜について、下記(1)~(3)の実験により評価した。
【0053】
(1)走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)及び原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)観察
本実施例1で得られたGaN薄膜の表面モフォロジーをSEM及びAFMにより観察した。結果を
図2に示す。窒化処理していないSAM基板上に成長させたGaN薄膜表面にはピット(くぼみ)が観察されたのに対して、基板表面をあらかじめ窒化処理したSAM基板上に成長させたGaN薄膜表面ではピットがほとんど観察されなかった。また、表面粗さの指標であるRMSは、窒化処理していないSAM基板上に成長させたGaN薄膜表面では3.36 nmであったのに対して、基板表面をあらかじめ窒化処理したSAM基板上に成長させたGaN薄膜表面では0.54 nmであった。
【0054】
これらの結果から、SAM基板表面の窒化処理により、SAM基板上に成長させたGaN薄膜の平坦性が向上したことが示された。窒化処理していないSAM基板上に成長させたGaN薄膜表面で観察されたピットは、SAM基板の有する高いステップに起因することから、SAM基板表面の窒化処理によりSAM基板の有する高いステップの影響が緩和されたものと考えられる。
【0055】
(2)X線回折(X‐ray diffraction: XRD)測定
本実施例1で得られたGaN薄膜の結晶品質をXRD測定により調べた。結果を
図3に示す。窒化処理していないSAM基板上に成長させたGaN薄膜ではGaN(0002)のXRDピークの対称面の半値幅が740 arcsecであったのに対して、基板表面をあらかじめ窒化処理したSAM基板上に成長させたGaN薄膜ではGaN(0002)のXRDピークの対称面の半値幅が620 arcsecであった。また、窒化処理していないSAM基板上に成長させたGaN薄膜及び基板表面をあらかじめ窒化処理したSAM基板上に成長させたGaN薄膜のいずれにおいても明確な立方晶混在は検出されなかった。
【0056】
これらの結果から、SAM基板表面の窒化処理により、SAM基板上に成長させたGaN薄膜の結晶品質が向上したことが示された。
【0057】
(3)高分解能透過電子顕微鏡(High Resolution Transmission Electron Microscope: HR-TEM)観察
本実施例1で得られたGaN薄膜のSAM基板との界面の結晶品質をより詳細に調べるため、GaN薄膜とSAM基板との界面をHR-TEMにより観察した。結果を
図4に示す。窒化処理していないSAM基板上に成長させたGaN薄膜とSAM基板との界面付近にはXRD測定で検出されなかった微小領域における立方晶の混在が観察されたのに対して、基板表面をあらかじめ窒化処理したSAM基板上に成長させたGaN薄膜とSAM基板との界面付近では立方晶の混在は観察されなかった。
【0058】
この結果からも、SAM基板表面の窒化処理により、SAM基板上に成長させたGaN薄膜の結晶品質が向上したことが示された。
【0059】
<実施例3.窒化処理SAM基板の評価>
窒化処理SAM基板について、下記(1)及び(2)の実験により評価した。
【0060】
(1)反射高速電子線回折(Reflective high-energy electron diffraction: RHEED)パターン観察
窒化処理前から窒化処理120分後にかけて30分毎に窒化処理SAM基板表面のRHEEDパターン間隔の変化を観察した。結果を
図5に示す。窒化処理時間の増加に伴うRHEEDパターン間隔の変化は観察されなかった。窒化条件は実施例1と同様であった。
【0061】
この結果から、SAM基板表面の窒化処理により、少なくともRHEEDパターン観察によって検出可能な新たな膜の形成はなかったことが示された。
【0062】
(2)原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)観察
窒化処理していないSAM基板及び窒化処理したSAM基板を、AFMにより観察した。窒化条件は下記の通りであった。結果を
図6に示す。
窒化条件
・基板温度:750 ℃
・プラズマパワー:200 W
・N
2流量:2.0 sccm
・時間:2.5 h
窒化処理していないSAM基板表面のRMSは0.31 nmであったのに対して、窒化処理したSAM基板表面のRMSは0.19 nmであった。また、窒化処理していないSAM基板表面のステップ高さは0.85 nmであったのに対して、窒化処理したSAM基板表面のステップ高さは0.55 nmであった。
【0063】
この結果から、SAM基板表面の窒化処理により、SAM基板表面の平坦性が向上し、ステップ高さが低減されたことが示された。
【0064】
本実施例により、SAM基板上へのGaN薄膜のエピタキシャル成長においてSAM基板表面の窒化処理が有効であることが示された。