(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112408
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】調光フィルム
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1343 20060101AFI20240814BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240814BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240814BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240814BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20240814BHJP
【FI】
G02F1/1343
B32B3/30
B32B7/023
G02F1/13 505
G02F1/15 502
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017382
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】鍋野 昇平
(72)【発明者】
【氏名】竹安 智宏
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
2K101
4F100
【Fターム(参考)】
2H088EA34
2H088GA02
2H088GA10
2H088HA02
2H088HA11
2H088HA14
2H088HA21
2H088MA20
2H092GA13
2H092GA16
2H092HA04
2H092KB12
2H092MA05
2H092PA08
2H092PA09
2H092PA12
2K101AA22
2K101DA01
2K101EG52
2K101EK05
4F100AA28B
4F100AA28D
4F100AK36
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4F100AR00C
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4F100JN01B
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4F100JN02
4F100JN08C
4F100YY00B
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】太陽光に対する良好な遮熱性を実現するのに適した調光フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の調光フィルムXは、基材フィルム10と、電極層20と、調光層30と、電極層40とを、厚さ方向Hにこの順で備える。電極層20における調光層30の側の表面20aは、高さ3nm以上の隆起部21を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、第1電極層と、調光層と、第2電極層とを厚さ方向にこの順で備える調光フィルムであって、
前記第1電極層における前記調光層の側の表面が、高さ3nm以上の隆起部を有する、調光フィルム。
【請求項2】
前記第2電極層における前記調光層の側の表面が、高さ3nm以上の隆起部を有する、請求項1に記載の調光フィルム。
【請求項3】
前記基材フィルムが、近赤外線吸収層および/または近赤外線反射層を有する、請求項1に記載の調光フィルム。
【請求項4】
波長800nm~1300nmでの平均透過率が50%以下である、請求項1から3のいずれか一つに記載の調光フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物および乗り物等の窓ガラスに貼り合わされる調光フィルムが知られている。調光フィルムは、調光部と、当該調光部を支持する透明な基材フィルムとを備える。調光部は、例えば、透明導電層と、調光層と、透明導電層とを、厚さ方向にこの順で備える。調光層は、二つの透明導電層によって挟まれる。調光層は、エレクトクロミック(EC)材料から形成される。EC材料は、例えば、電気化学的酸化還元により、有色の非透明状態と透明状態との間で可逆的に変化可能な材料である。各透明導電層は、電極である。透明導電層間の電圧のオン・オフにより、調光層が、例えば、非透明状態(遮光状態)と透明状態(非遮光状態)との間で切り替えられる。このような調光フィルムが貼り合わされた窓ガラスでは、透明導電層間の電圧のオン・オフにより、当該調光フィルム付き窓ガラスに対する可視光などの光の透過率が、切り替えられる(光透過率のスイッチング制御)。このような調光フィルムに関する技術については、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物内および乗り物内の快適性向上および冷房負荷の低減等の観点から、調光フィルムには、太陽光に対する遮熱性を有することが求められる。
【0005】
一方、本発明者らは、調光フィルムに関し、次のような知見を得た。電極層(透明導電層)は、太陽光中の熱線(放射によって熱を伝える近赤外線等の電磁波)に対して有意な反射性を有する自由電子を、キャリアとして含有する。調光フィルムでは、そのような電極層が、調光層に対して全面的に設けられている。すなわち、調光フィルムにおける平面視での電極層の占有面積割合は、大きい。このような調光フィルムでは、電極層におけるキャリア数の調整により、太陽光に対する同フィルムの遮熱性を効率よく制御できる。本発明は、このような知見に基づく。
【0006】
本発明は、太陽光に対する良好な遮熱性を実現するのに適した調光フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、基材フィルムと、第1電極層と、調光層と、第2電極層とを厚さ方向にこの順で備える調光フィルムであって、前記第1電極層における前記調光層の側の表面が、高さ3nm以上の隆起部を有する、調光フィルムを含む。
【0008】
本発明[2]は、前記第2電極層における前記調光層の側の表面が、高さ3nm以上の隆起部を有する、上記[1]に記載の調光フィルムを含む。
【0009】
本発明[3]は、前記基材フィルムが、近赤外線吸収層および/または近赤外線反射層を有する、上記[1]または[2]に記載の調光フィルムを含む。
【0010】
本発明[4]は、波長800nm~1300nmでの平均透過率が50%以下である、上記[1]から[3]のいずれか一つに記載の調光フィルムを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の調光フィルムは、上記のように、基材フィルムと、第1電極層と、調光層と、第2電極層とを厚さ方向にこの順で備え、第1電極層における調光層側の表面が、高さ3nm以上の隆起部を有する。第1電極層が、3nm以上の有意な高さの隆起部を有することは、第1電極層全体の平均厚さを確保するのに適する(第1電極層がそのような隆起部を有する場合、隆起部を有しない場合よりも、同層全体の平均厚さは大きい)。このような調光フィルムは、第1電極層における平面視の単位面積あたりの自由電子数(キャリア数)を確保するのに適する。第1電極層における単位面積あたりの自由電子数が多いほど、当該第1電極層の、太陽光中の熱線に対する反射性は高い。熱線に対する第1電極層の反射性が高いほど、そのような第1電極層を備える調光フィルムの、熱線に対する遮蔽性(遮熱性)は高い。したがって、本発明の調光フィルムは、太陽光に対する良好な遮熱性を実現するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の調光フィルムの一実施形態の断面模式図である。
【
図2】
図1に示す調光フィルムの部分拡大断面図である。
【
図3】
図1に示す調光フィルムの他の部分拡大断面図である。
【
図4】
図1に示す調光フィルムの製造方法の一例における一部の工程を表す。
図4Aは基材フィルム用意工程を表し、
図4Bは透明導電層形成工程を表し、
図4Cは結晶化工程を表し、
図4Dは調光層形成工程を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態としての調光フィルムXは、基材フィルム10(第1基材フィルム)と、電極層20(第1電極層)と、調光層30と、電極層40(第2電極層)と、基材フィルム50(第2基材フィルム)とを、厚さ方向Hにこの順で備える。基材フィルム10は、第1面10aと、当該第1面10aとは反対側の第2面10bとを有する。電極層20は、第1面10a上に配置されている。電極層20と第1面10aとは、互いに接する。また、電極層20は、調光層30側(基材フィルム10とは反対側)に表面20aを有する。調光層30は、表面20a上に配置されている。調光層30と表面20aとは、互いに接する。電極層40は、調光層30上に配置されている。電極層40は、調光層30側(基材フィルム50とは反対側)に表面40aを有する。表面40aと調光層30とは、互いに接する。基材フィルム50は、電極層40上に配置されている。基材フィルム50は、電極層40側の第1面50aと、当該第1面50aとは反対側の第2面50bとを有する。電極層40と第1面50aとは、互いに接する。また、調光フィルムXは、厚さ方向Hと直交する方向(面方向)に広がるシート形状を有する。このような調光フィルムXは、例えば、建物および乗り物等の窓ガラスに組付けられる調光フィルムである。
【0014】
調光フィルムXにおいて、基材フィルム10と電極層20とは、電極付き基材フィルムY1を形成する。
【0015】
基材フィルム10は、本実施形態では、樹脂フィルム11と、硬化樹脂層12とを、厚さ方向Hに順に備える。硬化樹脂層12は、樹脂フィルム11に接する。硬化樹脂層12は、基材フィルム10の第1面10aを形成する。
【0016】
樹脂フィルム11は、調光フィルムXの強度を確保する基材である。また、樹脂フィルム11は、可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。樹脂フィルム11の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、およびポリスチレン樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびシクロオレフィンポリマーが挙げられる。アクリル樹脂としては、例えばポリメタクリレートが挙げられる。樹脂フィルム11の材料としては、例えば透明性および強度の観点から、好ましくはポリエステル樹脂が用いられ、より好ましくはPETが用いられる。
【0017】
樹脂フィルム11における硬化樹脂層12側の表面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、およびカップリング剤処理が挙げられる(後記の樹脂フィルム51に関する表面改質処理についても同様である)。
【0018】
樹脂フィルム11の厚さは、調光フィルムXの強度を確保する観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上である。樹脂フィルム11の厚さは、ロールトゥロール方式における樹脂フィルム11の取り扱い性を確保する観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下である。
【0019】
樹脂フィルム11の可視光透過率は、調光フィルムの透明状態時に求められる透明性を調光フィルムXにおいて確保する観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。樹脂フィルム11の可視光透過率は、例えば100%以下である。可視光透過率とは、波長380nm~780nmの範囲での透過率とする。
【0020】
硬化樹脂層12は、本実施形態では、調光フィルムXの光学特性を良化するための光学調整層(屈折率調整層)である。硬化樹脂層12は、後述の透明導電層形成工程(
図4B)において、樹脂フィルム11から発生する水分や有機ガスを遮断する機能を有してもよい。硬化樹脂層12は、本実施形態では、第1硬化型樹脂組成物の硬化物である。第1硬化型樹脂組成物は、樹脂を含有する。当該樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、アルキド樹脂、有機シラン縮合物、ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂(アクリルウレタン樹脂を除く)、ウレタン樹脂(アクリルウレタン樹脂を除く)、アミド樹脂、シリコーン樹脂、およびエポキシ樹脂が挙げられる。これら樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。基材フィルム10に対する電極層20の密着性を確保する観点から、樹脂としては、好ましくは、メラミン樹脂、アルキド樹脂および有機シラン縮合物からなる群より選択される少なくとも一つが用いられる。また、第1硬化型樹脂組成物は、紫外線硬化型の樹脂組成物であってもよいし、熱硬化型の樹脂組成物であってもよい。
【0021】
硬化樹脂層12の、樹脂フィルム11とは反対側の表面(第1面10a)は、硬化樹脂層12上に形成される電極層20の平均厚さを確保する観点から、好ましくは、高さ3nm以上の隆起部を有せず、より好ましくは、高さ2nm以上の隆起部を有せず、更に好ましくは、高さ1nm以上の隆起部を有しない。隆起部を有しない硬化樹脂層12を形成する観点から、第1硬化型樹脂組成物は、粒子を含有しないのが好ましい。
【0022】
硬化樹脂層12の厚さは、調光フィルムXの透過特性を良化する観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上、特に好ましくは30nm以上である。硬化樹脂層12の厚さは、調光フィルムXの薄型化の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは40nm以下である。
【0023】
基材フィルム10は、樹脂フィルム11に対して硬化樹脂層12とは反対側に他の硬化樹脂層を有してもよい。他の硬化樹脂層としては、例えば、ハードコート層およびアンチブロッキング層が挙げられる。
【0024】
他の硬化樹脂層は、例えば、第2硬化型樹脂組成物の硬化物である。第2硬化型樹脂組成物は、樹脂を含有する。当該樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂(アクリルウレタン樹脂を除く)、ウレタン樹脂(アクリルウレタン樹脂を除く)、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、およびメラミン樹脂が挙げられる。これら樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。第2硬化型樹脂組成物は、紫外線硬化型の樹脂組成物であってもよいし、熱硬化型の樹脂組成物であってもよい。
【0025】
第2硬化型樹脂組成物は、粒子を含有してもよい。当該粒子としては、例えば、無機酸化物粒子および有機粒子が挙げられる。無機酸化物粒子の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、および酸化アンチモンが挙げられる。有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル・スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、およびポリカーボネートが挙げられる。粒子としては、好ましくは無機酸化物粒子が用いられ、より好ましくは、シリカ粒子および/またはジルコニア粒子が用いられる。
【0026】
他の硬化樹脂層の厚さは、当該硬化樹脂層の機能を確保する観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは2μm以上である。硬化樹脂層12の厚さは、調光フィルムXの薄型化の観点から、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下である。
【0027】
基材フィルム10の厚さは、調光フィルムXの取り扱い性を確保する観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上である。基材フィルム10の厚さは、調光フィルムXの薄型化の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下、一層好ましくは150μm以下である。
【0028】
基材フィルム10の可視光透過率は、調光フィルムの透明状態時に求められる透明性を調光フィルムXにおいて確保する観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。基材フィルム10の可視光透過率は、例えば100%以下である。
【0029】
基材フィルム10は、好ましくは、近赤外線吸収層および/または近赤外線反射層を有する。近赤外線吸収層とは、近赤外線(波長700nm~2500nm)に対して有意な吸収能を示す層とする。近赤外線反射層とは、近赤外線(波長700nm~2500nm)に対して有意な反射能を示す層とする。
【0030】
近赤外線吸収層は、樹脂フィルム11と硬化樹脂層12との間に配置されてもよいし、樹脂フィルム11に対して硬化樹脂層12とは反対側に配置されてもよい。樹脂フィルム11が、近赤外線吸収層であってもよいし、近赤外線吸収層を含む多層構造を有してもよい。近赤外線吸収層は、例えば、近赤外線吸収剤と、バインダー樹脂とを含む。近赤外線吸収剤としては、例えば、無機近赤外線吸収剤および有機近赤外線吸収剤が挙げられる。無機近赤外線吸収剤としては、例えば、CFM複合酸化物粒子および酸化タングステン粒子が挙げられる。CFM複合酸化物とは、銅と鉄とマンガンとの複合酸化物である。バインダー樹脂の材料としては、例えば、樹脂フィルム11に関して上記した材料が挙げられる。
【0031】
近赤外線反射層は、樹脂フィルム11と硬化樹脂層12との間に配置されてもよいし、樹脂フィルム11に対して硬化樹脂層12とは反対側に配置されてもよい。樹脂フィルム11が、近赤外線反射層であってもよいし、近赤外線反射層を含む多層構造を有してもよい。近赤外線反射層は、例えば、光学特性の異なる複数の樹脂薄層を含む多層構造を有し、好ましくは、光学特性の異なる第1樹脂薄層および第2樹脂薄層が厚さ方向Hに交互に配置された多層構造を有する。光学特性としては、例えば、面内平均屈折率が挙げられる。第1樹脂薄層と第2樹脂薄層との面内平均屈折率の差は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上であり、また、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.12以下である。多層構造を形成する樹脂薄層の積層数は、例えば20以上であり、また、例えば700以下である。樹脂薄層の材料としては、例えば、樹脂フィルム11に関して上記した材料が挙げられる。
【0032】
電極層20は、光透過性と導電性とを兼ね備える層である。このような電極層20は、透明導電材料から形成されている。すなわち、電極層20は透明導電層である。透明導電材料としては、例えば、透明な導電性酸化物が挙げられる。
【0033】
導電性酸化物としては、例えば、インジウム含有導電性酸化物およびアンチモン含有導電性酸化物が挙げられる。インジウム含有導電性酸化物としては、例えば、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、およびインジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)が挙げられる。アンチモン含有導電性酸化物としては、例えば、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)が挙げられる。高い透明性と良好な電気伝導性とを実現する観点からは、導電性酸化物としては、好ましくはインジウム含有導電性酸化物が用いられ、より好ましくはITOが用いられる。このITOは、InおよびSn以外の金属または半金属を、InおよびSnのそれぞれの含有量より少ない量で含有してもよい。
【0034】
ITOにおける酸化インジウム(In
2O
3)および酸化スズ(SnO
2)の合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、特に好ましくは9質量%以上である。このような構成は、後述の結晶化工程(
図4C)において、透明導電層の結晶粒を成長させて、隆起部21を形成するのに好ましい。また、ITOにおける酸化インジウムおよび酸化スズの合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、電極層20の低抵抗化の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、更に好ましくは12質量%以下である。
【0035】
ITOにおける酸化スズ割合は、例えば次のようにして同定できる。まず、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により、測定対象物としてのITOにおけるインジウム原子(In)とスズ原子(Sn)の存在比率を求める。ITO中のInおよびSnの各存在比率から、ITO中のInの原子数に対するSnの原子数の比率を求める。これにより、ITOにおける酸化スズ割合が得られる。また、ITOにおける酸化スズ割合は、スパッタ成膜時に用いるITOターゲットの酸化スズ(SnO2)含有割合からも特定できる。
【0036】
電極層20は、好ましくは結晶膜である。電極層20が結晶膜であることは、電極層20の低抵抗化の観点から好ましく、また、電極層20および調光フィルムXにおいて良好な赤外線反射特性を実現するのに好ましい。
【0037】
導電性酸化物から形成された電極層(調光フィルムXでは電極層20,40)が結晶膜であることは、例えば、次の方法によって判断できる。まず、電極層を、濃度5質量%の塩酸に、20℃で15分間、浸漬する。次に、電極層を、水洗した後、乾燥する。次に、電極層の露出平面において、離隔距離15mmの一対の端子の間の抵抗(端子間抵抗)を測定する。この測定において、端子間抵抗が10kΩ以下である場合に、当該電極層が結晶膜であると判断できる。
【0038】
電極層20の表面20aは、
図2に示すように、高さdが3nm以上の隆起部21を有する。隆起部21の高さdとは、厚さ方向Hにおける、表面20aの平坦面22から隆起部21の頂部までの距離である。電極層20が、3nm以上の有意な高さの隆起部21を有することは、電極層20全体の平均厚さを確保するのに適する(電極層20がそのような隆起部21を有する場合、隆起部21を有しない場合よりも、同層全体の平均厚さは大きい)。このことは、電極層20の平面視における単位面積あたりの自由電子数(キャリア数)を確保するのに適する。電極層20における当該自由電子数が多いほど、太陽光中の熱線(主に近赤外線)に対する電極層20の反射性は高く、従って、熱線に対する調光フィルムXの遮蔽性(遮熱性)は高い。調光フィルムXにおいて良好な遮熱性を確保する観点から、隆起部21の高さdは、好ましくは4nm以上、更に好ましくは5nm以上である。隆起部21の高さdは、電極層20の抵抗値の上昇を抑制する観点から、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは8nm以下である。隆起部の高さの測定方法は、実施例に関して後述するとおりである。
【0039】
電極層20の厚さは、隆起部21を形成する観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは70nm以上、一層好ましくは90nm以上、特に好ましくは100nm以上である。電極層20の厚さとは、厚さ方向Hにおける、電極層20の基材フィルム10側表面から平坦面22までの距離とする。電極層20が厚い方ほど、後述の結晶化工程において透明導電層の結晶粒が大きく成長しやすく、従って、電極層20の表面20aにおいて隆起部21を形成しやすい。また、電極層20が厚いことは、電極層20の低抵抗化の観点からも好ましい。電極層20の厚さは、調光フィルムXの耐屈曲性(屈曲時の電極層20の割れの抑制等)を確保する観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、一層好ましくは120nm以下である。
【0040】
電極層20の平面視における自由電子数(キャリア数)は、電極層20での遮熱性確保の観点から、好ましくは5×1015/cm2以上、より好ましくは8×1015/cm2以上、更に好ましくは10×1015/cm2以上、一層好ましくは11×1015/cm2以上である。電極層20の平面視における自由電子数(キャリア数)は、電極層20の可視光透過率を確保する観点から、好ましくは100×1015/cm2以下、より好ましくは60×1015/cm2以下、更に好ましくは40×1015/cm2以下である。電極層のキャリア数の測定方法は、実施例に関して後述するとおりである。
【0041】
電極層20の可視光透過率は、調光フィルムの透明状態時に求められる透明性を調光フィルムXにおいて確保する観点から、例えば50%以上であり、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。また、電極層20の可視光透過率は、例えば100%以下である。
【0042】
調光層30は、例えば、電流または電界の作用によって有色の非透明状態(遮光状態)と透明状態(非遮光状態)との間で可逆的に変化可能な材料である。調光層30としては、例えば、エレクトクロミック(EC)調光層、高分子分散型液晶(PDLC:polymer dispersed liquid crystal)を含む調光層、高分子ネットワーク型液晶(PNLC:polymer network liquid crystal)を含む調光層、および、SPD(suspended particle device)調光層が挙げられる。
【0043】
EC調光層は、EC材料から形成される。EC材料は、電気化学的酸化還元により、有色の非透明状態(遮光状態)と透明状態(非遮光状態)との間で可逆的に変化可能な材料である。EC材料としては、無機EC材料および有機EC材料が挙げられる。無機EC材料としては、例えば、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化ロジウム、および窒化インジウムが挙げられる。有機EC材料としては、例えば、ポリアニリン、ビオロゲン、およびポリオキソタングステートが挙げられる。
【0044】
高分子分散型液晶は、高分子内において液晶が相分離した構造を有する。高分子ネットワーク型液晶は、高分子ネットワーク中に液晶が分散された構造を有し、高分子ネットワーク中の液晶は、連続相を形成している。これらにおいて、液晶化合物としては、例えば、ネマティック型液晶化合物、スメクティック型液晶化合物、および、コレステリック型液晶化合物が挙げられる。ネマティック型液晶化合物としては、例えば、ビフェニル系化合物、フェニルベンゾエート系化合物、シクロヘキシルベンゼン系化合物、アゾキシベンゼン系化合物、アゾベンゼン系化合物、アゾメチン系化合物、ターフェニル系化合物、ビフェニルベンゾエート系化合物、シクロヘキシルビフェニル系化合物、フェニルピリジン系化合物、シクロヘキシルピリミジン系化合物、および、コレステロール系化合物が挙げられる。
【0045】
調光層30の厚さは、調光フィルムXにおいて、非透明状態と透明状態との間で可視光透過率の大きな差を確保する観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上である。調光層30の厚さは、調光フィルムXの薄型化および透明状態での高透過性確保の観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下である。
【0046】
調光フィルムXにおいて、基材フィルム50と電極層40とは、電極付き基材フィルムY2を形成する。
【0047】
基材フィルム50は、本実施形態では、樹脂フィルム51と、硬化樹脂層52とを、厚さ方向Hに順に備える。硬化樹脂層52は、樹脂フィルム51に接する。硬化樹脂層52は、基材フィルム50の第1面50aを形成する。
【0048】
樹脂フィルム51は、調光フィルムXの強度を確保する基材である。また、樹脂フィルム51は、可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。樹脂フィルム51の材料としては、例えば、樹脂フィルム11の材料として上記した材料が挙げられる。樹脂フィルム51における硬化樹脂層52側の表面は、表面改質処理されていてもよい。樹脂フィルム51の好ましくは厚さおよび好ましくは可視光透過率については、樹脂フィルム11に関して上述した好ましくは厚さおよび好ましくは可視光透過率と同様である。
【0049】
硬化樹脂層52は、本実施形態では、調光フィルムXの光学特性を良化するための光学調整層(屈折率調整層)である。硬化樹脂層52は、透明導電層形成工程において、樹脂フィルム51から発生する水分や有機ガスを遮断する機能を有してもよい。硬化樹脂層52は、本実施形態では、第3硬化型樹脂組成物の硬化物である。第3硬化型樹脂組成物は、樹脂を含有する。第3硬化型樹脂組成物の樹脂としては、例えば、第1硬化型樹脂組成物に関して上記した樹脂が挙げられる。また、第3硬化型樹脂組成物は、紫外線硬化型の樹脂組成物であってもよいし、熱硬化型の樹脂組成物であってもよい。
【0050】
硬化樹脂層52の、樹脂フィルム51とは反対側の表面(第1面50a)は、硬化樹脂層52上に形成される電極層40の平均厚さを確保する観点から、好ましくは、高さ3nm以上の隆起部を有せず、より好ましくは、高さ2nm以上の隆起部を有せず、更に好ましくは、高さ1nm以上の隆起部を有しない。隆起部を有しない硬化樹脂層52を形成する観点から、第3硬化型樹脂組成物は、粒子を含有しないのが好ましい。
【0051】
硬化樹脂層52の厚さは、基材フィルム50に対する電極層40の密着性を確保する観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上、特に好ましくは30nm以上である。硬化樹脂層52の厚さは、調光フィルムXの薄型化の観点から、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下である。
【0052】
基材フィルム50は、基材フィルム10に関して上述したのと同様に、樹脂フィルム51に対して硬化樹脂層52とは反対側に他の硬化樹脂層(例えば、ハードコート層およびアンチブロッキング層)を有してもよい。
【0053】
基材フィルム50の可視光透過率は、調光フィルムの透明状態時に求められる透明性を調光フィルムXにおいて確保する観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。基材フィルム50の可視光透過率は、例えば100%以下である。
【0054】
基材フィルム50は、好ましくは、近赤外線吸収層および/または近赤外線反射層を有する。
【0055】
基材フィルム50において、近赤外線吸収層は、樹脂フィルム51と硬化樹脂層52との間に配置されてもよいし、樹脂フィルム51に対して硬化樹脂層52とは反対側に配置されてもよい。樹脂フィルム51が、近赤外線吸収層であってもよいし、近赤外線吸収層を含む多層構造を有してもよい。近赤外線吸収層は、例えば、近赤外線吸収剤と、バインダー樹脂とを含む。近赤外線吸収剤としては、例えば、基材フィルム10に関して上記した近赤外線吸収剤が挙げられる。バインダー樹脂の材料としては、例えば、樹脂フィルム11に関して上記した材料が挙げられる。
【0056】
基材フィルム50において、近赤外線反射層は、樹脂フィルム51と硬化樹脂層52との間に配置されてもよいし、樹脂フィルム51に対して硬化樹脂層52とは反対側に配置されてもよい。樹脂フィルム51が、近赤外線反射層であってもよいし、近赤外線反射層を含む多層構造を有してもよい。近赤外線反射層としては、例えば、例えば、基材フィルム10に関して上記した近赤外線反射層が挙げられる。
【0057】
電極層40は、光透過性と導電性とを兼ね備える層である。電極層40は、透明導電材料から形成されている。すなわち、電極層40は透明導電層である。透明導電材料としては、例えば、電極層20に関して上記した透明導電材料が挙げられる。電極層40がITOから形成される場合、ITOにおける酸化インジウム(In2O3)および酸化スズ(SnO2)の合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、特に好ましくは9質量%以上である。このような構成は、後述の結晶化工程において、透明導電層の結晶粒を成長させて、隆起部41を形成するのに好ましい。また、ITOにおける酸化インジウムおよび酸化スズの合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、電極層40の低抵抗化の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、更に好ましくは12質量%以下である。
【0058】
電極層40は、好ましくは結晶膜である。電極層40が結晶膜であることは、電極層40の低抵抗化の観点から好ましく、また、電極層40および調光フィルムXにおいて良好な赤外線反射特性を実現するのに好ましい。
【0059】
電極層40の表面40aは、好ましくは、
図3に示すように、高さdが3nm以上の隆起部41を有する。隆起部41の高さdとは、厚さ方向Hにおける、表面40aの平坦面42から隆起部41の頂部までの距離である。電極層40が、3nm以上の有意な高さの隆起部41を有することは、電極層40全体の平均厚さを確保するのに適し、電極層40の平面視における単位面積あたりの自由電子数(キャリア数)を確保するのに適する。電極層40の単位面積あたりの自由電子数が多いほど、太陽光中の熱線に対する電極層40の反射性は高く、従って、熱線に対する調光フィルムXの遮熱性は高い。調光フィルムXにおいて良好な遮熱性を確保する観点から、隆起部41の高さdは、好ましくは4nm以上、更に好ましくは5nm以上である。隆起部41の高さdは、電極層40の抵抗値の上昇を抑制する観点から、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは8nm以下である。
【0060】
電極層40の厚さは、隆起部41を形成する観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは70nm以上、一層好ましくは90nm以上、特に好ましくは100nm以上である。電極層40の厚さとは、厚さ方向Hにおける、電極層40の基材フィルム50側表面から平坦面42までの距離とする。電極層40が厚い方ほど、後述の結晶化工程において透明導電層の結晶粒が大きく成長しやすく、従って、電極層40の表面40aにおいて隆起部41を形成しやすい。また、電極層40が厚いことは、電極層40の低抵抗化の観点からも好ましい。電極層40の厚さは、調光フィルムXの耐屈曲性(屈曲時の電極層40の割れの抑制等)を確保する観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、一層好ましくは120nm以下である。
【0061】
電極層40の平面視における自由電子数(キャリア数)は、電極層40での遮熱性確保の観点から、好ましくは5×1015/cm2以上、より好ましくは8×1015/cm2以上、更に好ましくは10×1015/cm2以上、一層好ましくは11×1015/cm2以上である。電極層40の平面視における自由電子数(キャリア数)は、電極層40の可視光透過率を確保する観点から、好ましくは100×1015/cm2以下、より好ましくは60×1015/cm2以下、更に好ましくは40×1015/cm2以下である。
【0062】
電極層40の可視光透過率は、調光フィルムの透明状態に求められる透明性を調光フィルムXにおいて確保する観点から、例えば50%以上であり、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。また、電極層40の可視光透過率は、例えば100%以下である。
【0063】
調光フィルムXの可視光透過率(透明状態時)は、調光フィルムXの透明性を確保する観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。基材フィルム10の可視光透過率は、例えば100%以下である。
【0064】
調光フィルムXの、波長800nm~1300nmでの平均透過率は、調光フィルムXにおいて、太陽光に対する良好な遮熱性を確保する観点から、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下である。調光フィルムXの同平均透過率は、例えば0%以上であり、好ましくは10%以下である。調光フィルムXは、好ましくは、有色状態または透明状態にてこのような平均透過率(波長800nm~1300nm)の値をとり、より好ましくは、有色状態および透明状態の両状態にてこのような平均透過率(波長800nm~1300nm)の値をとる。
【0065】
調光フィルムXは、例えば以下のように製造される。
【0066】
まず、
図4Aに示すように、基材フィルム10を用意する。基材フィルム10は、樹脂フィルム11上に硬化樹脂層12を形成することによって作製できる。硬化樹脂層12は、樹脂フィルム11上に、上述の第1硬化型樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を硬化させることによって形成できる。第1硬化型樹脂組成物が熱硬化型樹脂を含有する場合には、加熱によって前記塗膜を硬化させる。第1硬化型樹脂組成物が紫外線化型樹脂を含有する場合には、紫外線照射によって前記塗膜を硬化させる。樹脂フィルム11上に形成された硬化樹脂層12の露出表面は、必要に応じて、表面改質処理される。表面改質処理としてプラズマ処理する場合、不活性ガスとして例えばアルゴンガスを用いる。また、プラズマ処理における放電電力は、例えば10W以上であり、また、例えば5000W以下である。
【0067】
次に、
図4Bに示すように、基材フィルム10上に、非晶質の透明導電層20’を形成する(透明導電層形成工程)。具体的には、スパッタリング法により、基材フィルム10における硬化樹脂層12上に透明導電材料を成膜して透明導電層20’を形成する。
【0068】
スパッタリング法では、ロールトゥロール方式で成膜プロセスを実施できるスパッタ成膜装置を使用するのが好ましい。調光フィルムXの製造において、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を使用する場合、長尺の基材フィルム10を、装置が備える繰出しロールから巻取りロールまで走行させつつ、当該基材フィルム10上に材料を成膜して透明導電層20’を形成する。また、当該スパッタリング法では、一つの成膜室を備えるスパッタ成膜装置を使用してもよいし、基材フィルム10の走行経路に沿って順に配置された複数の成膜室を備えるスパッタ成膜装置を使用してもよい。
【0069】
スパッタリング法では、具体的には、スパッタ成膜装置が備える成膜室内に真空条件下でスパッタリングガス(不活性ガス)を導入しつつ、成膜室内のカソード上に配置されたターゲットにマイナスの電圧を印加する。これにより、グロー放電を発生させてガス原子をイオン化し、当該ガスイオンを高速でターゲット表面に衝突させ、ターゲット表面からターゲット材料を弾き出し、弾き出たターゲット材料を基材フィルム10上に堆積させる。ターゲットの材料としては、例えば、電極層20に関して上述した導電性酸化物の焼結体が用いられる。
【0070】
スパッタリング法は、好ましくは、反応性スパッタリング法である。反応性スパッタリング法では、例えば、スパッタリングガス(不活性ガス)と反応性ガスとしての酸素が、成膜室内に導入される。反応性スパッタリング法において成膜室に導入されるスパッタリングガスおよび酸素の合計導入量に対する、酸素の導入量の割合は、例えば0.01流量%以上であり、また、例えば15流量%以下である。
【0071】
スパッタリング法による成膜(スパッタ成膜)中の成膜室内の気圧は、例えば0.02Pa以上であり、また、例えば1Pa以下である。
【0072】
スパッタリング法における成膜温度(スパッタ成膜中の基材フィルム10の温度)は、次の結晶化工程で結晶成長できる非晶質の透明導電層を適切に形成する観点から、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは10℃以下、一層好ましくは0℃以下、より一層好ましくは-5℃以下である。成膜温度は、例えば、-30℃以上または-20℃以上である。
【0073】
ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、およびRF電源が挙げられる。電源としては、DC電源とRF電源とを併用してもよい。スパッタ成膜中の放電電圧の絶対値は、例えば50V以上であり、また、例えば500V以下である。ターゲット上の水平磁場強度は、例えば10mT以上であり、また、例えば100mT以下である。
【0074】
次に、
図4Cに示すように、基材フィルム10上の透明導電層20’(
図4B)を加熱によって結晶化させて、電極層20(結晶質の透明導電層)を形成する(結晶化工程)。これにより、電極付き基材フィルムY1が作製される。加熱の手段としては、例えば、赤外線ヒーターおよびオーブン(熱媒加熱式オーブン,熱風加熱式オーブン)が挙げられる。加熱温度は、高い結晶化速度を確保する観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。加熱温度は、基材フィルム10への加熱の影響を抑制する観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下、更に好ましくは150℃以下である。加熱時間は、例えば600分未満、好ましくは120分未満、より好ましくは90分以下、更に好ましくは60分以下であり、また、例えば1分以上、好ましくは5分以上である。
【0075】
次に、
図4Dに示すように、電極層20上に調光層30を形成する。調光層30を形成する材料として無機EC材料を用いる場合、例えば、ドライコーティング法によって無機EC材料を電極層20上に成膜する。ドライコーティング法としては、スパッタリング法が好ましい。調光層30を形成する材料として有機EC材料を用いる場合、例えば、ウェットコーティング法によって有機EC材料を電極層20上に成膜する。
【0076】
一方、電極付き基材フィルムY2(基材フィルム50,電極層40)を作製する。具体的には、電極付き基材フィルムY1の作製方法(
図4A~
図4C)と同様である。
【0077】
次に、
図5Aおよび
図5Bに示すように、調光層30を伴う電極付き基材フィルムY1と電極付き基材フィルムY2とを一体化させた。具体的には、電極付き基材フィルムY1,Y2によって調光層30を挟まれるように、電極付き基材フィルムY1,Y2および調光層30を一体化させた。
【0078】
以上のようにして、調光フィルムXを製造できる。調光フィルムXにおいては、電極層20,40間の電圧のオン・オフにより、調光層30が、非透明状態(遮光状態)と透明状態(非遮光状態)との間で切り替えられる。このような調光フィルムXが貼り合わされた窓ガラスでは、電極層20,40間の電圧のオン・オフにより、当該調光フィルムX付き窓ガラスに対する可視光などの光の透過率が、切り替えられる。
【0079】
調光フィルムXは、上述のように、電極層20における調光層30側の表面20aが、高さ3nm以上の隆起部21を有する。電極層20が、3nm以上の有意な高さの隆起部21を有することは、電極層20全体の平均厚さを確保するのに適する。このような電極層20を有する調光フィルムXは、上述のように、電極層20の平面視における単位面積あたりの自由電子数(キャリア数)を確保するのに適する。電極層20における当該自由電子数が多いほど、太陽光中の熱線に対する電極層20の反射性は高く、従って、調光フィルムXの遮熱性は高い。したがって、調光フィルムXは、太陽光に対する良好な遮熱性を実現するのに適する。このような調光フィルムXは、屋外向け調光フィルムとして好適である。屋外向け調光フィルムとしては、例えば、自家用車等の車のサンルーフ用の調光フィルム、家屋およびビル等の建物の窓用の調光フィルムが挙げられる。
【0080】
調光フィルムXは、上述のように、電極層40における調光層30側の表面40aが、高さ3nm以上の隆起部41を有するのが好ましい。電極層40が、3nm以上の有意な高さの隆起部41を有することは、調光フィルムXにおいて、太陽光に対する良好な遮熱性を実現するのに役立つ。
【実施例0081】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替できる。
【0082】
〔実施例1〕
まず、長尺の樹脂フィルムとしてのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ100μm,三菱ケミカル社製)のロールを用意した。次に、PETフィルムの一方面(第1面)に、熱硬化型の樹脂組成物C1を塗布して塗膜を形成した。樹脂組成物C1は、100質量部のメラミン樹脂と、100質量部のアルキド樹脂と、50質量部の有機シラン縮合物とを含む。次に、PETフィルム上の塗膜を、加熱して熱硬化させた。加熱温度は185℃である。加熱時間は1分である。これにより、厚さ35nmの光学調整層としての第1硬化樹脂層を形成した。次に、PETフィルムの他方面(第2面)に、紫外線硬化型の樹脂組成物C2を塗布して塗膜を形成した。次に、紫外線照射によって当該塗膜を硬化させた。これにより、厚さ2nmのハードコート(HC)層としての第2硬化樹脂層を形成した。以上のようにして、基材フィルム(第1硬化樹脂層/基材フィルム/第2硬化樹脂層)を作製した。
【0083】
次に、反応性スパッタリング法により、基材フィルムにおける第1硬化樹脂層上に、厚さ105nmの非晶質の透明導電層を形成した(透明導電層形成工程)。本工程では、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置(DCマグネトロンスパッタ成膜装置)を使用した。同装置は、ロールトゥロール方式でワークフィルムを走行させつつ成膜プロセスを実施できる成膜室を備える。本工程におけるスパッタ成膜の条件は、次のとおりである。
【0084】
スパッタ成膜においては、成膜室内の到達真空度が0.6×10-4Paに至るまでスパッタ成膜装置内を真空排気した後、成膜室内に、スパッタリングガス(不活性ガス)としてのアルゴン(Ar)と、反応性ガスとしての酸素とを導入し、成膜室内の気圧を0.4Paとした。成膜室に導入されるアルゴンおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約2.6流量%とした。また、ターゲット(第1ターゲット)としては、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体(酸化スズ濃度が10質量%のITO)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた。ターゲット上の水平磁場強度は90mTとした。成膜温度(透明導電層が積層される基材フィルムの温度)は-8℃とした。
【0085】
次に、非晶質の透明導電層を、熱風オーブン内での加熱によって結晶化させた(結晶化工程)。加熱温度は140℃とした。加熱時間は1時間とした。これにより、厚さ105nmの結晶質の透明導電層を電極層として形成した。
【0086】
以上のようにして、電極層付フィルムのロールを作製した。この電極層付フィルムは、基材フィルム(第2硬化樹脂層/樹脂フィルム/第1硬化樹脂層)と、基材フィルム上の電極層とを備える。
【0087】
次に、電極層付フィルムのロールから、2枚の電極層付フィルムを切り出した。次に、一方の電極層付フィルム(第1の電極層付フィルム)における電極層上に、粘着剤(品名「LUCIACS CS9861UA」,日東電工社製)を塗付することにより、疑似調光層として厚さ25μmの粘着剤層を形成した。次に、他方の電極層付フィルム(第2の電極層付フィルム)の電極層側を粘着剤層に貼り合わせた。すなわち、2枚の電極層付フィルムを、粘着剤層を介して接合した。
【0088】
以上のようにして、実施例1の積層フィルムを作製した。この積層フィルムは、調光フィルム類似の積層構成を有する疑似調光フィルムである(このフィルムは、疑似的な形態を有するフィルムであり、調光機能を有しない)。実施例1の積層フィルムは、具体的には、第1の基材フィルムと、厚さ105nmの第1の電極層と、疑似調光層と、厚さ105nmの第2の電極層と、第2の基材フィルムとを、厚さ方向にこの順で有する。
【0089】
〔比較例1〕
透明導電層形成工程以外は、実施例1の積層フィルムと同様にして、比較例1の積層フィルムを作製した。
【0090】
本比較例における透明導電層工程では、反応性スパッタリング法により、基材フィルムにおける第1硬化樹脂層上に、非晶質の透明導電層の第1層(厚さ11nm)を形成し、続いて、非晶質の透明導電層の第2層(厚さ11nm)を第1層上に形成した。本工程では、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置(DCマグネトロンスパッタ成膜装置)を使用した。同装置は、ロールトゥロール方式でワークフィルムを走行させつつ成膜プロセスを実施できる第1成膜室および第2成膜室を備える。
【0091】
第1成膜室でのスパッタ成膜の条件は、成膜温度を-8℃に代えて80℃としたこと以外は、実施例1におけるスパッタ成膜での上記条件と同様である。
【0092】
第2成膜室でのスパッタ成膜の条件は、次のこと以外は、実施例1におけるスパッタ成膜での上記条件と同様である。成膜温度を-8℃に代えて80℃とした。ターゲットとして、第1ターゲットに代えて第2ターゲットを用いた。第2ターゲットは、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体であって、酸化スズ濃度が3質量%のITOである。
【0093】
比較例1の積層フィルムは、第1の基材フィルムと、厚さ22nmの第1の電極層と、疑似調光層と、厚さ22nmの第2の電極層と、第2の基材フィルムとを、厚さ方向にこの順で有する。
【0094】
〈電極層の厚さ〉
実施例1および比較例1の各積層フィルムの作製過程で得られた電極層付フィルムの電極層の厚さを、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)での観察により測定した。具体的には、まず、FIB(Focused Ion Beam)加工により、実施例1および比較例1における各電極層の断面観察用サンプル(第1サンプル)を作製した(FIBマイクロサンプリング法)。FIBマイクロサンプリング法では、FIB装置(品名「FB2200」,Hitachi製)を使用し、加速電圧を10kVとした。次に、第1サンプルにおける電極層の断面をFE-TEMによって観察し、当該観察画像において電極層の厚さを測定した。同観察では、FE-TEM装置(品名「JEM-2800」,JEOL製)を使用し、加速電圧を200kVとした。
【0095】
比較例1における電極層の第1層の厚さは、当該第1層の上に第2層を形成する前の中間作製物から断面観察用サンプルを作製し、当該サンプルのFE-TEM観察により測定した。比較例1における電極層の第2層の厚さは、比較例1における電極層の総厚から第1層の厚さを差し引いて求めた。
【0096】
〈隆起部の観察〉
実施例1および比較例1の各積層フィルムの作製過程で得られた電極層付フィルムの電極層について、表面(基材フィルムとは反対側の表面)の隆起部の有無を確認した。
【0097】
まず、FIB(Focused Ion Beam)加工により、電極層表面の断面形状を観察可能な断面観察用サンプル(第2サンプル)を作製した。第2サンプルの作成方法は、上述の第1サンプルの作製方法と同様である。次に、第2サンプルにおける電極層の断面をFE-TEMによって観察し、当該観察画像において電極層の表面の隆起部の有無を確認した。同観察では、FE-TEM装置(品名「JEM-2800」,JEOL製)を使用し、加速電圧を200kVとした。実施例1における電極層付フィルムでは、電極層表面に隆起部を確認できた。比較例1における電極層付フィルムでは、電極層表面に隆起部を確認できなかった。また、実施例1における電極層付フィルムの観察画像においては、観察視野に含まれる各隆起部(周りの平坦面から突き出る形状を有する隆起部)の高さを測定した。隆起部の高さとは、電極層の厚さ方向における平坦面から隆起部の頂部までの距離である。そして、任意に選択された10個の高さ3nm以上の隆起部の高さの平均値を求めた。その値を、隆起部高さとして表1に示す。比較例1の積層フィルムの電極層は、それぞれが比較的薄い透明導電層(第1層および第2層)が積み重ねられた構成を有すること、また、比較的高温で成膜されたものであることから、高さ3nm以上の隆起部を有しない、と考えられる。
【0098】
〈透過率,反射率〉
実施例1および比較例1の各積層フィルムについて、分光光度計U-4100(HITACHI社製)により、波長300nm~2500nmの範囲における日射透過率(Te)および日射反射率(Re)を測定した。本測定では、測定ピッチを5nmとした。測定結果を表1に示す。日射とは、波長300~2500nmの範囲の放射をいう。日射透過率(Te)は、分光透過率と分光日射照度とを式中に含む所定の積和計算から、分光光度計によって算出される。日射反射率(Re)は、分光反射率と分光日射照度とを式中に含む所定の積和計算から、分光光度計によって算出される。
【0099】
〈日射熱取得率〉
実施例1および比較例1の各積層フィルムについて、日射熱取得率を求めた。具体的には、積層フィルムの日射熱取得率を、ISO 13837:2021に基づき、下記の式(1)~(3)によって求めた。式(1)において、Ttsは、日射熱取得率を表し、遮熱性の指標となる。
【0100】
Tts = Te + Qi (1)
Qi = Ae ×{hi/(hi + he)} (2)
Ae = 100- Te - Re (3)
【0101】
実施例1および比較例1の各積層フィルムにとり、式(1)~(3)については以下のとおりである。Ttsは、試料に(積層フィルム)に対して照射される光(照射光)の総エネルギーを100%とした場合の、当該試料を通過するエネルギーの合計の割合(%)を示す。Teは、試料に対する照射光のうち当該試料を透過する光(透過光)のエネルギーを、割合で示す。Teとして、上記測定で得られた日射透過率を用いた。Qiは、試料を通過する二次熱流速を表し、式(2)によって求められる。この値が小さいほど、試料は熱を伝えにくく、断熱性が高いことを意味する。式(2)において、Aeは、試料に対する照射光のエネルギーのうち当該試料によって吸収されるエネルギーを割合で示し、式(3)によって求められる。hiは、試料における、光通過方向と同方向への熱の伝わりやすさを示すパラメータである。hiとして8W/(m2・K)を用いた。heは、試料における、光通過方向とは逆の方向への熱の伝わりやすさを示すパラメータである。heとして21W/(m2・K)を用いた。式(3)において、Reは、試料に対する照射光のうち当該試料にて反射される光(反射光)のエネルギーを、割合で示す。Reとして、上記測定で得られた日射反射率を用いた。
【0102】
〈キャリア数〉
実施例1および比較例1における各電極層のキャリア数を、ホール効果測定装置(品名「HL5500PC」,バイオラッド社製)によって測定した。測定結果を表1に示す。
【0103】