(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112411
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】力覚センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 5/1627 20200101AFI20240814BHJP
【FI】
G01L5/1627
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017386
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 俊明
(72)【発明者】
【氏名】河原 嵩剛
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA10
2F051AB09
2F051DA03
2F051DB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】少ない加工手順で製造が可能な簡素な構成の起歪体を用いて、感度よく力やモーメントを計測できる6軸力覚センサを提供する。
【解決手段】起歪体と、起歪体に取り付けられ歪み検出部とを有する。起歪体は、直方体であって、側面を第1貫通孔と、第2貫通孔が貫通している。第1貫通孔および第2貫通孔の起歪体の側面における開口は、直方体の側面の両脇の辺との距離が、辺の1箇所または所定の範囲においてその周辺よりも接近する形状である。歪み検出部は、開口が脇の辺と最接近する位置よりも予め定めた距離だけ底面に近い当該側面上の領域、および/または、最接近する位置よりも予め定めた距離だけ直方体の上面に近い当該側面上の領域に取り付けられ、取り付けられた領域の歪みを検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起歪体と、前記起歪体に取り付けられ、前記起歪体の歪を電気信号に変換して出力する複数の歪み検出部とを有する力覚センサであって、
前記起歪体は、直方体と、当該直方体の4つの側面のうち対向する2つの側面を貫通するように設けられた第1貫通孔と、前記第1貫通孔が貫通する2つの側面に対して直交する残りの2つの側面を貫通するように設けられた第2貫通孔とを有し、前記直方体の底面が物体に支持され、上面に検出すべき力が加えられ、
前記第1貫通孔および第2貫通孔は、所定の内壁形状を有し、前記第1貫通孔および第2貫通孔の前記直方体の側面における開口の形状は、前記開口の縁と前記直方体の側面の両脇の辺との距離Lが、当該辺における1つの位置M、または、所定の長さの範囲M1~M2において、その周辺よりも小さく、最小距離Lminとなる形状であり、
前記歪み検出部は、前記4つの側面のそれぞれにおいて、前記位置M、または、所定の長さの範囲M1~M2よりも予め定めた距離Pだけ前記底面に近い当該側面上の領域Rb、および/または、前記位置M、または、所定の長さの範囲M1~M2よりも予め定めた距離Pだけ前記直方体の上面に近い当該側面上の領域Ruに取り付けられ、取り付けられた領域の歪みを検出することを特徴とする力覚センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の力覚センサであって、前記歪み検出部は、前記位置M、または、所定の長さの範囲M1~M2の高さの、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の内壁面にそれぞれ、さらに取り付けられ、当該内壁面の歪を検出することを特徴とする力覚センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の力覚センサであって、前記距離Pは、前記直方体の前記側面の横幅Wの0.1倍以上0.25倍以下であることを特徴とする力覚センサ。
【請求項4】
請求項3に記載の力覚センサであって、前記第1および第2貫通孔の開口径は、前記直方体のその開口が設けられた側面の横幅Wの0.6倍以上0.8倍以下であることを特徴とする力覚センサ。
【請求項5】
請求項4に記載の力覚センサであって、前記第1および第2貫通孔の開口径は、前記横幅Wの0.6倍以上0.66倍未満であり、
前記距離Pは、前記横幅Wの0.15倍以上0.25倍以下であることを特徴とする力覚センサ。
【請求項6】
請求項4に記載の力覚センサであって、前記第1および第2貫通孔の開口径は、前記横幅Wの0.66倍以上0.72倍未満であり、
前記距離Pは、前記横幅Wの0.1倍以上0.2倍以下であることを特徴とする力覚センサ。
【請求項7】
請求項4に記載の力覚センサであって、前記第1および第2貫通孔の開口径は、前記横幅Wの0.72倍以上0.8倍以下であり、
前記距離Pは、前記横幅Wの0.1倍以上0.25倍以下であることを特徴とする力覚センサ。
【請求項8】
請求項7に記載の力覚センサであって、前記距離Pは、前記横幅Wの0.1倍以上0.15倍以下であるの範囲に位置することを特徴とする力覚センサ。
【請求項9】
請求項2に記載の力覚センサであって、複数の前記歪み検出部に接続された信号処理部をさらに有し、
前記信号処理部は、複数の前記歪み検出部の出力する電気信号から、前記起歪体の前記第1貫通孔および第2貫通孔のそれぞれの中心軸方向(x軸方向、y軸方向)、および、前記起歪体の上面の法線方向(z軸方向)の力、ならびに、それぞれの前記中心軸および前記法線方向の周りのモーメントを検出し、出力することを特徴とする力覚センサ。
【請求項10】
請求項1に記載の力覚センサであって、前記起歪体は、金属および樹脂のうちの少なくとも一方から構成されていることを特徴とする力覚センサ。
【請求項11】
請求項1に記載の力覚センサであって、前記第1貫通孔および第2貫通孔の内壁形状は、円筒形または角柱形状であることを特徴とする力覚センサ。
【請求項12】
請求項1に記載の力覚センサであって、前記第1貫通孔および第2貫通孔の前記直方体の側面における開口は、円形または矩形であることを特徴とする力覚センサ。
【請求項13】
請求項1に記載の力覚センサであって、前記第1貫通孔および第2貫通孔の開口の中心は、当該開口が設けられた前記側面の幅方向の中心に位置することを特徴とする力覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起歪体を用いた6軸力覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
力覚センサは、ロボットの手先等に装着され、検出するセンサであり、高難易度のタスクをロボットが遂行する際等に使用される。3次元空間における3軸の力と3軸の回転力を両方計測する6軸力覚センサが最も一般的に利用されている。力覚を検知するために、起歪体と呼ばれるひずみを生み出す構造体を用い、起歪体のひずみを歪ゲージ等のデバイスで計測する構成のものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、中央の柱を、その周囲に配置した4本の柱の側面から延伸させた接続用梁によって宙に浮かせた状態に支持し、中央の柱の上部と4本の柱の上部に設けた梁に、プレート状のセンサチップを搭載した力覚センサが開示されている。4本の柱は、応力集中を抑制する観点から、向かい合う側面が円弧形状に形成されている。センサチップは、基板に複数のスリットを設けることにより形成した複数の検知用梁を備え、複数の検知用梁にそれぞれ、歪み検出素子を配置した構成である。起歪体に加わった力により5つの柱に生じた変位によって、その上に搭載されたセンサチップの検知用梁に歪みが生じ、検出素子は、検知用梁の歪みを検出することにより、起歪体に加わった力とモーメントを検出する。
【0004】
一方、特許文献2には、4本の柱の上面と下面に板状部材を固定した力覚センサが提案されている。4本の柱の複数個所に貫通孔が設けられ、貫通孔が設けられた位置の側面にひずみゲージが取り付けられ、貫通孔によって肉薄となった柱の歪みを検出する。また、上面の板状部材の上面や側面にも貫通溝や貫通孔が設けられている。貫通溝により肉薄となった板状部材の上面にひずみゲージが取り付け、板状部材の歪みを検出する構成である。
【0005】
歪ゲージ式の力覚センサについて、製造過程の単純化について述べた文献や特許は少ない。例えば、Ubedaらは、非常に簡単な加工作業と、標準的な工具、経済的な設備で製造が可能な1軸トルクセンサを開発した(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6940037号公報
【特許文献2】特許第3175034号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ubeda, Rodrigo Perez, et al. "Design and manufacturing of an ultra-low-cost custom torque sensor for robotics." Sensors 18.6 (2018): 1786.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
手先の力やトルクを測定することにより、ロボットは環境や人間とのインタラクションに適した動作ができるようになる。従来の力覚センサは、組立や研磨などの限定的な環境でのみ使用されてきたが、ロボットの研究が盛んになるにつれ、バイオメカニクスや遠隔操作、医療用など他分野での需要が高まっている。しかし、6軸力覚センサの起歪体は、複雑な構造ゆえに製造コストが高いものが多く、普及の妨げになっている。
【0009】
具体的には、特許文献1,2に記載されている起歪体を用いる力覚センサは、いずれも起歪体の構造が複雑であり、かつ、精密さが要求される構造である。そのため、加工に多くのコストを要する。
【0010】
また、非特許文献1の1軸トルクセンサは、非常に単純な構造であるものの、関節トルクの測定用に設計されたものであり、その他5成分の計測はできない。
【0011】
本発明の目的は、少ない加工手順で製造が可能な簡素な構成の起歪体を用いて、感度よく力やモーメントを計測できる6軸力覚センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によれば、起歪体と、起歪体に取り付けられ、起歪体の歪を電気信号に変換して出力する複数の歪み検出部とを有する力覚センサが提供される。起歪体は、直方体と、直方体の4つの側面のうち対向する2つの側面を貫通する第1貫通孔と、第1貫通孔が貫通する2つの側面に対して直交する残りの2つの側面を貫通するように設けられた第2貫通孔とを有し、直方体の底面が物体に支持され、上面に検出すべき力が加えられる。第1貫通孔および第2貫通孔は、所定の内壁形状を有する。第1貫通孔および第2貫通孔の直方体の側面における開口の形状は、開口の縁と直方体の側面の両脇の辺との距離Lが、当該辺における1つの位置M、または、所定の長さの範囲M1~M2において、その周辺よりも小さく、最小距離Lminとなる形状である。歪み検出部は、4つの側面のそれぞれにおいて、位置M、または、所定の長さの範囲M1~M2よりも予め定めた距離Pだけ底面に近い当該側面上の領域Rb、および/または、位置M、または、所定の長さの範囲M1~M2よりも予め定めた距離Pだけ直方体の上面に近い当該側面上の領域Ruに取り付けられ、取り付けられた領域の歪みを検出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、起歪体が、直方体に第1貫通孔と第2貫通孔を設けた構成であるため、起歪体を少ない加工手順で効率よく製造できる。しかも、この起歪体の側面の所定の領域に歪み検出部を取り付けることにより、起歪体に生じた歪みを感度よく検出でき、起歪体に加わった力やモーメントを高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】実施形態の力覚センサの歪み検出部に接続される回路図。
【
図4】(a)~(c)は、一実施形態の力覚センサの開口形状を説明する図。
【
図5】実施形態の力覚センサの歪み検出部を位置Mより上面寄りにも設けた例を示す斜視図。
【
図6】(a)および(b)本実施形態の力覚センサに生じる歪みの分布を示す斜視図。
【
図7】(a)および(b)本実施形態の力覚センサにおいて、歪み検出部r1等を配置する領域を示す説明図。
【
図8】実施例の開口径の異なる種々の力覚センサの起歪体を示す斜視図。
【
図9】(a)実施例の力覚センサの起歪体の側面上の歪み計測点を示す説明図、(b)実施例の力覚センサの起歪体の第1および第2貫通孔の内壁面の歪み計測点を示す説明図。
【
図10】実施例の起歪体50と比較例の起歪体に、x軸方向に力Fxを2000N印加した場合の各計測点のα8を示すグラフ。
【
図11】実施例の起歪体50と比較例の起歪体にz軸周りのモーメントMzを80Nm印加した場合の各計測点のα8を示すグラフ。
【
図12】実施例の開口比率が0.6~0.66の起歪体に、z軸周りのモーメントMzを印加した場合の各計測点のα8を示すグラフ。
【
図13】実施例の開口比率が0.66~0.72の起歪体に、z軸周りのモーメントMzを印加した場合の各計測点のα8を示すグラフ。
【
図14】実施例の開口比率が0.72~0.8の起歪体に、z軸周りのモーメントMzを印加した場合の各計測点のα8を示すグラフ。
【
図15】実施例の起歪体のサイズが種々異なる場合に、x、y、z方向に力Fと、z軸周りのモーメントMzをそれぞれ印加した場合の各計測点のα8を示すグラフ。
【
図16】(a)実施例の起歪体50に力Fxを印加した状態で、さらにモーメントMx、My,Mzを印加した場合の最細部の位置Mの内壁の歪み量を示すグラフ、(b)最細部の位置Mからずれた位置の内壁の歪み量を示すグラフ。
【
図17】実施例において製造した力覚センサの画像。
【
図18】
図17の力覚センサに力Fまたはモーメントを加えた時の、力覚センサの各軸の出力を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0016】
本実施形態の力覚センサの構造について、
図1、
図2および
図3等を用いて説明する。
図1は、力覚センサの斜視図であり、
図2は、
図1のA-A断面図である。なお、
図2においては、歪み検出部の厚みを強調して描いている。
図3は、力覚センサの歪み検出部に接続される回路図の一例である。
【0017】
本実施形態の力覚センサ100は、起歪体50と、起歪体50に取り付けられた複数の歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15とを備えて構成される。
【0018】
起歪体50は、直方体80に第1貫通孔61と第2貫通孔62を設けた形状である。第1貫通孔61は、直方体80の4つの側面81~84のうち対向する2つの側面81、83を貫通するように形成されている。また、第1貫通孔61が貫通する2つの側面81,83に対して直交する残りの2つの側面82,84を貫通するように、第2貫通孔62が形成されている。
【0019】
起歪体50は、直方体80の底面60が物体に支持され、上面に検出すべき力が加えられる。例えば、起歪体50の上面には、ロボットの指先部分が取り付けられ、起歪体50の底面60は、ロボットの腕部分に接続される。
【0020】
起歪体50は、力を受けて歪みを生じる材質から構成されている。例えば、金属、樹脂、セラミックス等により起歪体50を構成することができる。起歪体50の材質は、加工が容易であることが好ましい。このため、起歪体50は金属および樹脂の少なくとも一方から構成されていることが望ましい。なお、起歪体50は、1種類の材料から構成されているものに限られず、2種類以上の材料の組み合わせによって構成されていてもよい。例えば、起歪体50の上半分が金属、下半分が樹脂から構成されている場合のように、起歪体50の一部が他の部分とは異なる材料によって構成されていてもよい。
【0021】
第1貫通孔61および第2貫通孔62は、所定の内壁形状を有している。加工を容易にするため、第1貫通孔61および第2貫通孔62の内壁は、柱状であることが好ましい。
【0022】
第1貫通孔61の、直方体80の側面81における開口61aの形状は、
図4(a)に示すような形状である。具体的には、開口61aの形状は、開口61aの縁と直方体80の側面81の両脇の辺91、94との距離Lが、当該辺の1つの位置Mにおいてその周辺72,73よりも小さく、最小距離Lminとなるように設計されている。直方体80の逆側の側面83における第1貫通孔61の開口61aの形状も同様に、開口61bの縁と両脇の辺93,92との距離Lが、位置Mにおいて最小距離Lminとなるように設計されている。また、第2貫通孔62の、直方体80の側面82における開口62aの形状も、開口62aの縁と両脇の辺92、91と距離Lが、位置Mにおいて最小距離となるように設計されている。同様に設計されている。第2貫通孔62の、直方体80の側面84における開口62bの形状も、開口62bの縁と両脇の辺94、93と距離Lが、位置Mにおいて最小距離Lminとなるように設計されている。
【0023】
上述のように、起歪体50は、軸方向が直交する第1貫通孔61および第2貫通孔62が直方体80を貫いた形状であるため、
図2に断面を示すように、起歪体50の四隅に直方体80の一部が残り、柱状体51~54を形成している。また、第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口61a、62aは、位置Mにおいて、側面81~84の両脇の辺91~94に最接近しているため、起歪体50の柱状体51~54の幅(径)は、位置Mにおいて最も狭くなっている。すなわち、柱状体51~54は、位置Mにおいてくびれている。
【0024】
第1貫通孔61および第2貫通孔62の内壁形状は、
図1、
図2、
図4(a)の例では、円筒形である。よって、
図1では、第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口の形状は円形である。
【0025】
なお、第1貫通孔61および第2貫通孔62の内壁形状は、直方体80の側面81~84における開口61a、61b、62a、62bの形状が、側面81~84の両脇の辺91~94との距離Lが、1箇所(位置M)においてその周辺72,73よりも小さく(最接近)、最小距離Lminする形状であればよい。
【0026】
よって、開口61a、61b、62a、62bの形状は、上記要件を満たしていればどのような形状であってもよく、
図4(a)のような円形に限らず、楕円形であってもよいし、
図4(b)のように四角形や多角形であってもよい。また、四角形や多角形の角は
図4(b)のように丸みを帯びた形状であってもよい。
【0027】
さらに、開口61a、61b、62a、62bの形状は、側面81~84の両脇の辺91~94との距離Lが、1点(位置M)のみでは、所定の範囲M1~M2にわたって、周辺よりも小さく(最接近)、最小距離Lminとなる形状でもよい。すなわち、
図4(c)のように、所定の範囲M1~M2にわたって最小距離Lminとなる開口形状であってもよい。この場合、柱状体51~54の幅(径)は、所定の範囲M1~M2にわたってくびれている。
【0028】
第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口61a、61b、62a、62bの中心は、その開口が設けられた側面81~84の幅方向の中心に位置することが望ましい。これにより、開口61a、61b、62a、62bの縁と側面81~84の両脇の辺91~94との距離が、左右対称になる。なお、高さ方向については、第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口61a、61b、62a、62bが、側面81~84内にあればよく、開口61a、61b、62a、62bの中心が側面81~84の高さ方向の中心からずれていてもよい。
【0029】
一方、起歪体50の4つの側面81~84には、
図1および
図2に示したように、開口61a、61b、62a、62bの縁と側面81~84の両脇の辺91~94との間に、起歪体50の歪みを検出する歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15が備えられている。
【0030】
これら起歪体50の側面81~84に備えられた歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15は、両脇の辺91~94と開口61a、61b、62a、62bとが最接近する位置M、または、所定の範囲M1~M2よりも予め定めた距離Pだけ、起歪体50の底面60に近い側面81~84上の領域R
b、および/または、最接近する位置M、または、所定の範囲M1~M2よりも予め定めた距離Pだけ起歪体50の上面70に近い側面81~84上の領域R
uに取り付けられている(
図7(a),(b)参照)。これにより、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15等は、領域R
b、R
uの起歪体50の歪みを検出する。
【0031】
具体的には、
図1の例では、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15は、位置Mよりも予め定めた距離Pだけ、起歪体50の底面60に近い側面81~84上の領域R
bに取り付けられている。また、
図5に示した例では、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15は、位置Mよりも予め定めた距離Pだけ起歪体50の上面70に近い側面81~84上の領域R
uと、底面60に近い側面81~84上の領域R
bの両方に設けられている。なお、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15は、起歪体50の上面70に近い側面81~84上の領域R
uのみに取り付けられてもよい。
【0032】
このように、位置M、または、所定の範囲M1~M2よりも所定の距離Pだけ底面60寄りの側面81~84上の領域R
bおよび/または上面70寄りの側面81~84上の領域R
uに、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を取り付けることにより、
図6(a),(b)に歪み量のシミュレーション結果を示したように、起歪体50の位置Mに最も近い側面81~84上の領域に取り付けた場合よりも、大きな歪みを検出することができる。
【0033】
歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を配置する領域R
b、R
uは、
図7(a),(b)に示したように、最接近する位置M、または、所定の範囲M1~M2からの距離Pが、起歪体50の直方体80の側面81~84の横幅Wの0.1倍以上0.25倍以下であることが好ましい。ただし、第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口径が、側面81~84の横幅Wの0.6倍以上0.8倍以下の場合である。
【0034】
また、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を配置する領域Rb、Ruの、位置M、または、所定の範囲M1~M2からの距離Pの特に好ましい範囲は、側面81~84の横幅Wと、第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口1a、61b、62a、62bの径との比によって異なる。
【0035】
第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口61a、61b、62a、62bの径が、側面81~84の横幅Wの0.6倍以上0.66倍未満である場合、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を配置する領域Rb、Ruは、位置M、または、所定の範囲M1~M2からの距離Pが、側面81~84の横幅Wの0.15倍以上0.25倍以下であることが好ましい。
【0036】
第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口61a、61b、62a、62bの径が、側面81~84の横幅Wの0.66倍以上0.72倍未満である場合、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を配置する領域Rb、Ruは、位置M、または、所定の範囲M1~M2からの距離Pが、側面81~84の横幅Wの0.1倍以上0.2倍以下であることが好ましい。
【0037】
第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口61a、61b、62a、62bの径が、側面81~84の横幅Wの0.72倍以上0.8倍以下である場合、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を配置する領域Rb、Ruは、位置M、または、所定の範囲M1~M2からの距離が、側面81~84の横幅Wの0.1倍以上0.25倍以下であることが好ましい。特に、横幅Wの0.1倍以上0.15倍以下であることが好ましい。
【0038】
なお、これらの距離の範囲Pが好ましい理由については、後述する実施例において明らかにする。
【0039】
また、側面81~84のみならず、位置M、または、所定の範囲M1~M2の高さの、第1貫通孔61および第2貫通孔62の内壁面にも、歪み検出部r2,r3,r5,r7、r9、r12、r14,r16が取り付けられている。これら歪み検出部r2等は、第1貫通孔61および第2貫通孔62の内壁面の歪を検出する。
【0040】
歪み検出部r1~r16としては、起歪体50の歪を電気信号に変換して出力するものを用いる。ここでは、歪み検出部r1~r16として、絶縁シート上に、抵抗体パターンを搭載した歪みゲージを用いる。歪みゲージは、接着剤により起歪体50の表面に接着され、起歪体50に生じた歪みにより、抵抗体パターンが変形し、抵抗体パターンの抵抗値が変化する。
【0041】
なお、歪み検出部r1~r16は、歪みゲージに限定されるものではなく、歪みが検出可能なセンサであれば他の構成のものを用いることも可能である。
【0042】
歪み検出部r1~r16の出力する電気信号を、信号処理部により処理することにより、起歪体50の第1貫通孔61の中心軸方向(x軸方向)および第2貫通孔62の中心軸方向(y軸方向)、および、起歪体50の上面70の法線方向(z軸方向)の力、ならびに、x、y、z軸の周りのモーメントを検出し、出力する。
【0043】
例えば、
図3の構成のホイートストンブリッジ回路により、向かい合わせに配置された歪み検出部r1~r16の出力の差分に対応した電圧e
n(n=1~16)を求める。
【0044】
求めた出力enと、下記式(1)により、起歪体50の歪み検出部r1~r16が配置された領域の歪み量εnを求めることができる。Kは、歪みゲージの感度を示すゲージ率である。
【数1】
求めた歪み量εn(n=1~16)から、x、y、z軸方向の力、および、x、y、z軸の周りのモーメントを算出することができる。歪み量から力とモーメント(トルク)を用いる計算方法としては、公知の方法を用いる。計算方法の一例は、下記URLの文献に記載されている。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacc/49/0/49_0_599/_pdf/-char/ja
【0045】
なお、本実施形態では、側面の歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15と、内壁の歪み検出部r2,r3,r5,r7、r9、r12、r14,r16の両方の出力を用いて6軸力覚センサの出力を
図3の回路により得ているが、側面のみの歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15の出力のみを用いて、公知の信号処理回路や演算処理部により側面の歪みセンサの出力を処理することにより、6軸力覚センサや3軸力覚センサの出力を得ることも可能である。
【0046】
また、
図5のように、位置Mよりも上面70寄りの領域R
uにも歪み検出部r101、r104、r106、r108、r110、r111、r113、r115を配置する場合には、
図3の回路をもう一組用意することにより、位置M、または、所定の範囲M1~M2よりも上面70寄りの領域R
uの歪み量εを同時に算出することができる。
【0047】
上述してきた本実施形態の力覚センサは、直方体80の部材に側面から2か所穴を開けるだけの単純な構造の起歪体50と、起歪体50の所定の領域に歪み検出部r1~16の貼付する簡素な構成でありながら、感度よく歪みを検出することができる。
【実施例0048】
上記実施形態で述べたように、上記起歪体50において、歪は、起歪体50の柱状体51~54が最も細い位置M、または、所定の範囲M1~M2の側面ではなく、所定の距離Pだけ上面70寄り、または、底面60寄りの領域R
u、R
bに発生しやすい。歪み量の大きい箇所に歪み検出部r1等の歪みゲージを貼付することによって力覚センサの感度を高めることができる。本実施例では、種々のサイズの起歪体50における歪み量を計算により求め、歪みの検出感度を高めることのできる歪み検出部r1等の配置を特定する。
ここで、本実施例において用いる変数αiを定義する。
【数2】
式(2)において、eipは、起歪体50の
図1および
図2に示した位置に、歪み検出部(以下、歪み検出部を歪みゲージとも呼ぶ)r1~r16を貼付した実施例の力覚センサにおいて、
図3のハーフブリッジ回路のi番目の出力電圧e
iである。
【0049】
e
ioは、比較例として、起歪体50の柱状体51~54の側面81~84の最も細い位置Mに歪み検出部(歪みゲージ)r1~r16を貼付した力覚センサの、
図3のハーフブリッジ回路のi番目の出力電圧e
iである。すなわち、α
iは、実施例の力覚センサと比較例の力覚センサの出力電圧e
iの比である。
【0050】
実施例の起歪体50および比較例の歪みの分布を、FEM(有限要素法)により算出し、歪み検出部r1~r16の位置の歪み量ε1~ε16を求めた。求めた歪み量ε1~ε16と、上述の式(1),(2)を用い、α1~α8を算出した。αの値から歪み量が大きい領域を求め、歪み検出部r1~r16の最適な貼付範囲を以下のように求めた。
【0051】
まず、有限要素法を用いて、実施例の起歪体50の設計を行った。
【0052】
実施例の起歪体50は、
図1の様に一辺の長さが50mmのアルミ製の立方体に、内壁が円筒状の第1貫通孔61および第2貫通孔62を形成した形状とした。このとき、
図8のように、第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口61a、61b、62a、62bの径(直径)は、30mm~40mmで種々に異ならせ、開口比率=(開口径)/(立方体の側面の横幅)が、0.6,0.62,0.64,0.66,0.68,0.7,0.72、0.74、0.76、0.78、0.8の11種類の起歪体50のモデルを設計した。
【0053】
11種類の起歪体50のモデルの側面において、第1および第2貫通孔61,62の開口61a、61b、62a、62bが側面81~84の両脇の辺91~94に最接近する位置Mと、底面60との間であって、底面60からの高さが5,10,12.5,15,17.5,20,25mmの位置(すなわち、起歪体50の立方体の側面81~84の一辺との比が0.1,0.2,0.25,0.3,0.35,0.4,0.5の位置)に、歪み計測点を設定し、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15をそれぞれ配置した(
図9(a)参照)。実施例の起歪体50の上面70に対して、x軸方向に力Fxを2000N印加し、その時の各計測点の歪み量をシミュレーションにより求め、e1~e8を求めた。
【0054】
起歪体50の柱状体51~54の最も細い位置Mに歪み検出部(歪みゲージ)r1~r16を貼付した比較例の起歪体についても、x軸方向に力Fxを2000N印加し、e1~e8を求めた。
【0055】
このように、力Fxを印加して求めた実施例の起歪体50のe1~e8と、比較例の起歪体のe1~e8の比α1~α8を式(2)により算出した。
【0056】
同様に、実施例の起歪体50の上面70にz軸周りのモーメントMzを80Nm印加した場合の、計測点の歪み量をシミュレーションにより求め、e1~e8を求めた。比較例の起歪体についても、z軸周りのモーメントMzを80Nm印加し、e1~e8を求めた。
【0057】
モーメントMzを印加して求めた実施例の起歪体50のe1~e8と、比較例の起歪体のe1~e8の比α1~α8を式(2)により算出した。
【0058】
さらに、実施例の起歪体50のy軸方向に力Fyを2000N印加した場合の比α1~α8も算出した。
【0059】
その結果、実施例の起歪体50にx軸方向に力Fxを印加した場合には、e2、e4、e6、e8の出力が比較例より増加していることが確認された。また、実施例の起歪体50にy軸方向に力Fyを印加した場合には、e1、e3,e5、e7の出力が比較例より増加していた。z軸周りのモーメントMzを加えた場合には、実施例の起歪体50のe1~e8の全ての出力が、比較例よりも増加していた。
【0060】
起歪体50が点対称な構造であることから、一つの起歪体のモデルから他の起歪体のモデルのαに関しても同様の調査結果になると仮定することができる。そこで、実施例と比較例のe8の比であるα8が最も大きくなる計測点(歪み検出部r15の貼付位置)の範囲を以下のように探索した。
【0061】
実施例の起歪体50と比較例の起歪体に、x軸方向に力Fxを2000N印加した場合のα8を
図11に示す。同様に、実施例の起歪体50と比較例の起歪体にz軸周りのモーメントMzを80Nm印加した場合のe8の比α8を
図11に示す。
【0062】
図10,
図11から明らかなように、底辺からの高さが25mm、つまり、開口61a、61b、62a、62bが側面81~84の両脇の辺91~94に最接近する位置Mに歪みゲージ(歪み検出部r15、r16)を配置して測定した場合、比較例と同じ構成であるので、当然ながらα8は1である。最接近する位置Mから所定の距離Pだけ底面60寄りの所定の領域R
bに歪みゲージ(歪み検出部r15、r16)を配置することにより、α8が大きくなることが
図10および
図11によりわかる。また、所定の領域R
bよりもさらに底面60の近くに歪みゲージ(歪み検出部r15、r16)を配置すると、再びα8は小さくなり、比較例の値に近づくことが分かる。
【0063】
図11より、z軸周りのモーメントMzを印加した場合には、x軸方向の力Fxを印加した場合(
図10)よりもα8の値が小さく、歪み量の増加が起きにくいことがわかる。
【0064】
これらのことは、歪みゲージ(歪み検出部r15、r16)を配置する具体的な範囲は、z軸周りのモーメントMzに対する感度が高い箇所であることが望ましいことがわかる。
【0065】
そこで、z軸周りのモーメントMz印加時のα8の変化を、開口比率=(開口径)/(立方体の側面の横幅)の範囲ごとに求めた。その結果を
図12~
図14に示す。
図12~
図14から以下のことが明らかになった。
【0066】
図12のように開口比率=(開口径)/(立方体の側面の横幅)が0.6~0.66(実施例では辺50mmの立方体の側面81~84の横幅Wに対して開口61a、61b、62a、62bの径の大きさ30~33mmの場合)の場合、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を配置する領域R
b、R
uは、最接近する位置Mからの距離Pが、側面81~83の横幅Wの0.15倍以上0.25倍以下の範囲であることが望ましい。この範囲では、α8は、比較例よりも2.5倍以上が大きい。また、開口比率が0.68以上では、α8は、2.5倍未満になる。
【0067】
すなわち、最接近する位置Mからの距離Pが、側面81~84の横幅Wの0.15倍以上0.25倍以下の範囲に、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を配置することにより、比較例よりも、e8の比であるα8を2.5倍以上に向上させることが可能となることがわかった。
【0068】
また、
図13のように、開口比率0.66~0.72(実施例では辺50mmの立方体の側面の横幅に対して開口径の大きさ33~36mm)の場合、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を配置する領域R
b、R
uは、最接近する位置Mからの距離が、側面81~84の横幅Wの0.1倍以上0.2倍以下の範囲であることが望ましいことがわかった。この範囲では、比較例よりも2倍以上にα8を向上させることができる。
【0069】
また、
図14のように、開口比率0.72~0.8の場合(実施例では辺50mmの立方体の側面の横幅に対して開口径の大きさ36~40mm)の場合、歪み検出部r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を配置する領域は、最接近する位置Mからの距離Pが、側面81~84の横幅Wの0.1倍以上0.25倍以下であることが好ましいことがわかった。この範囲では、比較例よりも2倍以上にα8を向上させることができる。
【0070】
特に、最接近する位置Mからの距離Pが、側面81~84の横幅Wの0.1倍以上0.15倍以下である場合、比較例の3倍以上にα8を向上させることができる。
【0071】
<起歪体50のサイズを変化させた場合>
つぎに、歪みゲージr1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15の適切な貼付範囲は、起歪体50のサイズに依存せず、位置Mから側面81~84の横幅Wに対する比率に依存して決まる距離Pによって定まることを示すために、起歪体50のサイズを変えて同様のシミュレーションを行った。このシミュレーションでは、一辺が75,150,500mmの立方体に、開口比率0.8となる穴を開けた起歪体50のモデルを用いた。
【0072】
起歪体50の上面70に対してx軸方向に力Fxを2000N印加した場合の、起歪体50の側面81~84に貼付した歪みゲージr1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15の歪み量を算出した。歪みゲージr1等は、底面60からの高さが、側面81~84の横幅Wの値の0.1,0.2,0.25,0.3,0.35,0.4,0.5倍である位置にそれぞれ配置した。
【0073】
また、起歪体50の第1貫通孔61および第2貫通孔62の内壁面に配置した歪みゲージr2、r3、r5、r7、r9、r12、r14、r16の歪み量についても算出した。歪みゲージの位置は、
図9(b)のように9か所にずらした。
【0074】
これらの歪み量を用いて、x軸方向に力Fxを印加した場合のα8を算出した。
【0075】
同様に、起歪体50の上面70に対してz軸周りにモーメントMz80Nmを印加した場合についても、同様にα8を算出した。
【0076】
算出した力Fxを印加した場合のα8と、モーメントMzを印加した場合のα8を
図15のグラフに表した。
【0077】
図15から、α8の増減は、起歪体50のサイズに依存しないことがわかった。このことは、起歪体50のサイズが変化しても、起歪体50の表面の歪み分布は、拡大、あるいは縮小するだけであることを示している。
【0078】
以上より、本実施例の力覚センサは、起歪体50が、任意のサイズであっても、開口が側面の両脇の辺に最接近する位置(最細部)Mからの距離を、側面の横幅の比率により定めた所定の領域に、歪みゲージ(歪み検出部)r1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15を貼ることにより、精度よく歪みを検出できることを確認できた。
【0079】
<線形性の評価>
つぎに、実施例の力覚センサについて、他軸干渉誤差をFEMを用いて算出した。
【0080】
具体的には、起歪体50の所定の軸(他軸)に力Fが加わった状態で、主成分の軸にモーメントMを印加した場合における歪み量の応答をシミュレーションにより算出した。
【0081】
ここでは、起歪体50のx軸方向に力Fxを1000N印加した状態で、x軸周りのモーメントMx,y軸周りのモーメントMy,z軸周りのモーメントMzを0~±30Nm印加し、その時のひずみ量を算出した。
【0082】
なお、起歪体50のサイズは、高さ34mm、幅および奥行30mm、第1および第2貫通孔61,62の開口径(直径)24mmであり、材質はアルミ(7075-T6)である。
【0083】
歪みゲージr2、r3、r5、r7、r9、r12、r14、r16を、起歪体50の第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口が側面の両脇の辺に最接近する位置(最細部)Mの内壁面に配置し、その歪み量を算出した。印加したモーメントと、算出された歪み量を
図16(a)に示す。
【0084】
また、歪みゲージr2、r3、r5、r7、r9、r12、r14、r16を、起歪体50の第1貫通孔61および第2貫通孔62の開口が側面の両脇の辺に最接近する位置(最細部)Mから所定の距離ずれた位置の内壁面に配置し、その歪み量を算出した。所定の距離は、7.5mmである。印加したモーメントと、算出された歪み量を
図16(b)に示す。
【0085】
なお、
図16(a)、(b)において、凡例内「Fx-Mxm」は「力Fxを1000N印加した状態で、モーメントMxを0~-30Nmまで変化させて印加する」という意味である。mのついた歪み量は、第1貫通孔61および第2貫通孔62の内壁面に貼られた歪みゲージr2、r3、r5、r7、r9、r12、r14、r16の歪み量を示し、mのない歪み量は、側面81~84上に貼られた歪みゲージr1、r4、r6、r8、r10、r11、r13、r15の歪み量を示す。
【0086】
図16(a),(b)から明らかなように、所定の軸方向に力Fを掛けながら、同一の軸または異なる軸の周りにモーメントMを印加した場合、モーメントMの大きさに比例した歪み量が、起歪体50の内壁に生じることが確認できた。すなわち、主成分のモーメントと他軸の力は干渉せず、歪みの非線形性は確認されなかった。これは、起歪体50の内壁に貼付する歪みゲージr2、r3、r5、r7、r9、r12、r14、r16が、最も細い位置Mに配置されている場合も、最も細い位置Mからずれた位置に配置されている場合も、同様であった。
【0087】
<力覚センサの非線形誤差と他軸干渉誤差の実測試験>
本実施例の力覚センサを製造し、非線形誤差と他軸干渉誤差を実測した。
図17に、実際に製造した本実施例の力覚センサを示す。起歪体50の高さ、横幅および奥行、材質は、表1に示した通りである。第1貫通孔61,第2貫通孔62の開口径は、24mmである。歪み検出部r1~r16は、歪みゲージ(共和電業 KFGS-03-120-C1-23)を用いた。信号処理部は、
図3の回路ではなく、測定器(共和電業 PCD-400A)を用いた。
【0088】
なお、
図17に示した力覚センサには、上面70に力Fやモーメントを加える際の治具となる板状部材が搭載されている。
【表1】
また、表2に、起歪体50に加えた定格荷重と安全率を示す。安全率はFEMで算出した歪みの結果から得た。
【表2】
表2のように、本実施例で製造した力覚センサは、小型ながらロボット用力覚センサとしては十分な測定レンジをもち、かつ安全率も非常に高いことがわかる。
【0089】
図17の力覚センサに、力FおよびモーメントMを以下の方向および大きさについて印加し、歪み検出部r1~r16の出力電圧を得て、6軸方向の検出結果を求めた。検出結果を
図18に示す。
・F_(x,y) :0, ±12.5, ±25, ±50, ±100, ±200, ±300(N)
・F_z :0, ±12.5, ±25, ±50, ±100, ±200, ±400(N)
・M_(x,y):0, ±0.5, ±1.25, ±2.5, ±3.75, ±6.25,±11.25(Nm)
・M_z :0, ±0.24, ±0.6, ±0.96 ±2.16, ±5.16(Nm)
図18のように、力FおよびモーメントMを加えた軸方向において、加えた力Fまたはモーメントに比例した出力が得られ、他の軸方向の出力がわずかであった。このことから、非線形誤差はほとんどなく、他軸干渉誤差もわずかであることがわかる。
【0090】
力覚センサの出力から非線形誤差と他軸干渉誤差を算出した。算出結果を表3に示す。
【0091】
なお、非線形誤差(NE)・他軸干渉誤差(DE)は式(3),(4)より計算した。
【数3】
【数4】
【表3】
表2のように、本実施例で製造した力覚センサの非線形誤差は、最大1.8(%R.O.)、他軸干渉誤差は、最大2.2(%R.O.)であった。ここでR.O.はRange of Orderであり、%R.O. 定格に対する比を表す単位である。この結果は一般的な商用センサと同等の性能であることを示している。
【0092】
また、本実施例で製造した力覚センサは、安全率7を上回っていることことから、安全率2を商用の水準と考えると、定格荷重を表2よりも3倍程度大きく設定することが原理上可能である。これにより、非線形誤差、他軸干渉誤差は商用のものよりも小さくなる可能性が高い。