(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112428
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ハイドロゲル及び徐放材
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20240814BHJP
C08K 5/132 20060101ALI20240814BHJP
C05F 11/00 20060101ALI20240814BHJP
C05D 9/02 20060101ALI20240814BHJP
C05G 5/18 20200101ALI20240814BHJP
【FI】
C08L1/08
C08K5/132
C05F11/00
C05D9/02
C05G5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017415
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】柳 慎一
【テーマコード(参考)】
4H061
4J002
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061CC58
4H061EE11
4H061EE16
4H061EE61
4H061EE62
4H061GG21
4H061GG28
4H061GG29
4H061GG41
4H061GG54
4H061GG57
4H061HH03
4H061KK10
4J002AB031
4J002DD077
4J002EJ066
4J002FD206
4J002FD207
4J002GA00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】腐植酸を徐放するための徐放材として利用可能なハイドロゲルを提供すること。
【解決手段】カルボキシ基を有する多糖及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、腐植酸と、を含む、ハイドロゲル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を有する多糖及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、腐植酸と、を含む、ハイドロゲル。
【請求項2】
前記カルボキシ基を有する多糖及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
2価以上の金属元素を更に含有する、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
前記金属元素がFeである、請求項3に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
腐植酸を徐放するための徐放材であって、
請求項1又は2に記載のハイドロゲル又はその乾燥物を含む、徐放材。
【請求項6】
緩効性肥料として用いられる、請求項5に記載の徐放材。
【請求項7】
海洋中で用いられる、請求項5に記載の徐放材。
【請求項8】
藻類の養殖又は磯焼け抑制に用いられる、請求項5に記載の徐放材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル及び徐放材に関する。
【背景技術】
【0002】
腐植酸は地力増進法の腐植酸質資材に適合し、堆肥のような効果を示す農業用資材である(例えば、特許文献1)。腐植酸は、近年バイオスティミュラント等の効果が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、腐植酸を徐放するための徐放材として利用可能なハイドロゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の各発明に関する。
[1]
カルボキシ基を有する多糖及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、腐植酸と、を含む、ハイドロゲル。
[2]
前記カルボキシ基を有する多糖及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載のハイドロゲル。
[3]
2価以上の金属元素を更に含有する、[1]又は[2]に記載のハイドロゲル。
[4]
前記金属元素がFeである、[3]に記載のハイドロゲル。
[5]
腐植酸を徐放するための徐放材であって、[1]~[4]のいずれかに記載のハイドロゲル又はその乾燥物を含む、徐放材。
[6]
緩効性肥料として用いられる、[5]に記載の徐放材。
[7]
海洋中で用いられる、[5]に記載の徐放材。
[8]
藻類の養殖又は磯焼け抑制に用いられる、[5]又は[7]に記載の徐放材。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、腐植酸を徐放するための徐放材として利用可能なハイドロゲルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は鉄イオン添加によるハイドロゲルの外観変化の確認結果を示す写真である。
【
図2】
図2は鉄イオン添加によるハイドロゲルの外観変化の確認結果を示す写真である。
【
図3】
図3はカルボキシメチルセルロース(CMC)の含有量の違いによるハイドロゲルの外観変化の確認結果を示す写真である。
【
図4】
図4はCMCの種類の違いによるハイドロゲルの外観変化の確認結果を示す写真である。
【
図5】
図5はCMCの種類の違いによるハイドロゲルの外観変化の確認結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0010】
〔ハイドロゲル〕
本実施形態に係るハイドロゲルは、カルボキシ基を有する多糖及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、「カルボキシ基含有多糖類」ともいう。)と、腐植酸と、を含む。ハイドロゲルは、腐植酸を物理的に内包していてよく、腐植酸とカルボキシ基含有多糖類との架橋構造の形成によって腐植酸を保持していてもよい。
【0011】
<カルボキシ基含有多糖類>
カルボキシ基を有する多糖としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸等が挙げられ、これらを混合してもよい。
【0012】
カルボキシ基を有する多糖の塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩が挙げられる。
【0013】
カルボキシ基含有多糖類は、環境負荷がより低減されることから、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
カルボキシ基含有多糖類において、カルボキシ基を有する多糖を構成する単糖1分子のカルボキシ基数の平均は、例えば、0.60以上、0.70以上、0.80以上、0.90以上、1.00以上、1.10以上、1.20以上、1.30以上、又は1.35以上であってよく、腐植酸の保持率が更に向上することから、1.50以下、1.45以下、1.40以下、又は1.38以下であってよい。カルボキシ基を有する多糖を構成する単糖1分子のカルボキシ基数の平均は、0.60以上1.50以下であってよく、好ましくは0.80以上1.45以下であり、より好ましくは0.90以上1.40以下である。
【0015】
カルボキシメチルセルロース及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、「カルボキシメチルセルロース類」ともいう。)のエーテル化度は、例えば、0.60以上、0.70以上、0.80以上、0.90以上、1.00以上、1.10以上、1.20以上、1.30以上、又は1.35以上であってよく、腐植酸の保持率が更に向上することから、1.50以下、1.45以下、1.40以下、又は1.38以下であってよい。エーテル化度は、0.60以上1.50以下であってよく、好ましくは0.80以上1.45以下であり、より好ましくは0.90以上1.40以下である。エーテル化度は、カルボキシメチルセルロース類のモル数に対する、カルボキシメチル基(-CH2-COOH)のモル数の比の平均値に相当する。
【0016】
カルボキシ基含有多糖類の1%粘度は、1000mPa・s以上、1100mPa・s以上、1200mPa・s以上、1300mPa・s以上、又は1350mPa・s以上であってよく、ハンドリング性が更に優れることから、3500mPa・s以下、3200mPa・s以下、3000mPa・s以下、2500mPa・s以下、2000mPa・s以下、1800mPa・s以下、1500mPa・s以下、1450mPa・s以下、又は1400mPa・s以下であってよい。1%粘度は、濃度1質量%のカルボキシ基含有多糖類を含む水溶液の粘度である。ここでいう濃度1質量%は、水溶液全質量を基準とする濃度である。1%粘度は具体的には次の方法によって測定される。1gのカルボキシ基含有多糖類に精製水を加えて100gとし、自転・公転方式ミキサー(例えば、あわとり練太郎(ARV-310P))を用いてに完全溶解したものを試料とし、E型(コーンプレート式)粘度計(東機産業社、TPE-100)を用い、23℃で2000rpm(2min値)の条件で測定する。
【0017】
カルボキシ基含有多糖類の含有量は、ハイドロゲルの全質量を基準として、0.5質量%以上、1質量%以上、又は2質量%以上であってよく、20.0質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。カルボキシ基含有多糖類の含有量は、ハイドロゲルの全質量を基準として、0.5質量%以上20.0質量%以下であってよく、好ましくは1.0質量%以上10.0質量%以下であり、より好ましくは2.0質量%以上5.0質量%以下である。
【0018】
<腐植酸>
腐植酸は通常カルボキシ基と、フェノール性水酸基とを有する。腐植酸中のカルボキシ基は、イオン交換及び金属錯体の形成に寄与し得る。腐植酸中のフェノール性水酸基は金属錯体の形成に寄与し得る。腐植酸は、カルボキシ基含有多糖類中のカルボキシ基と架橋構造を形成していてよい。
【0019】
腐植酸としては、泥炭及び風化炭等の天然に産出される天然腐植酸、褐炭の硝酸酸化等により人工的に製造される人工腐植酸、及び、天然腐植酸又は人工腐植酸をナトリウム、カリウム、アンモニア、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ物質で中和した腐植酸塩等が挙げられる。腐植酸としては、フルボ酸、フミン酸、ニトロフミン酸、フミン酸アンモニウム、フミン酸カルシウム、フミン酸マグネシウム、ニトロフミン酸アンモニウム、ニトロフミン酸カルシウム及びニトロフミン酸マグネシウム、フミン酸カリウム、ニトロフミン酸カリウム等が挙げられる。
【0020】
腐植酸は、フミン酸及びフルボ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよい。フルボ酸は、腐植酸のうち、アルカリ性溶液及び酸性溶液に可溶である成分である。フミン酸は腐植酸のうち、アルカリ性溶液に可溶であり、酸性溶液に不溶である成分である。フミン酸はハイドロゲルにおいてより保持されやすい傾向がある。
【0021】
腐植酸は、A型、B型、Rp型及びP型に分類することができる。腐植酸は、Rp型又はP型の腐植酸(Rp・P型腐植酸)であってよい。腐植酸の分類は、後述するメラニックインデックス(MI)によって簡易的に行うことができる。MIが2.0以上である腐植酸がRp・P型に分類される。
【0022】
腐植酸のメラニックインデックス(MI)は、1.5以上、2.0以上、2.2以上、2.5以上、3.0以上、又は3.5以上であってよく、6.5以下、6.0以下、5.5以下、5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、又は3.0以下であってよい。
【0023】
MIとは、腐植酸の分類に用いられている指標であり、水酸化ナトリウム抽出液の吸収スペクトルの波長450nmと520nmにおける吸光度の比(A450/A520)である。(熊田恭一著、土壌有機物の化学第2版 学会出版センター(1981)、日本土壌肥料学雑誌 第71号 第1号 p.82~85(2000))。
【0024】
より具体的には、MIとは、次の方法によって算出されるものである。試料を乳鉢と250μm篩を用い250μm篩下品に粉砕する。その約10gを、質量が既知の秤量ビンに取り精秤する。この秤量ビンを温度105℃に保持した乾燥機で約12時間放置し、その後、デシケーター中で室温に戻してから再度精秤する。その質量減少分を水分とみなして試料の含水率を求める。次に、50ml遠沈管に、上記250μm篩下品を乾燥質量相当量で0.10gと、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液45mlとを入れ、室温20℃で約1時間、250rpmの速度で振とうした後、3,000×g、約10分間の遠心分離を実施し、その上澄み液をアドバンテック社製No.5Cの濾紙で濾過する。濾液の450nmの吸光度と520nmの吸光度を、蒸留水をブランクとして測定する。この場合、450nmの吸光度が1.0以上を示したならば、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し吸光度が0.8以上1.0未満に調整してから、520nmの吸光度を測定する。(450nmでの吸光度/520nmでの吸光度)の比を算出し、MIとする。
【0025】
腐植酸の質量平均分子量は、200以上6,000以下であってよい。腐植酸の質量平均分子量の下限は、例えば、200以上、300以上、400以上、500以上、600以上、700以上、800以上、900以上、又は1000以上であってよい。腐植酸の質量平均分子量の上限は、例えば、5,500以下、5,000以下、4,500以下、4,000以下、3,500以下、3,000以下、2,500以下、2,000以下、1,500以下、1,200以下、又は1,000以下であってよい。腐植酸は、質量平均分子量が200以上800以下であるフルボ酸、及び/又は、質量平均分子量が2,500以上6,000以下であるフミン酸を含んでいてよい。
【0026】
腐植酸の質量平均分子量は、Waters社製Alliance HPLC Systemを用い、HPSEC法(GPC法)により測定される。カラムは昭和電工株式会社SB-803HQ、標準試料はポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用い、検出波長は260nmとする。移動相は25質量%アセトニトリル含有の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液とし、流速は0.8ml/分とし、カラムの温度は40℃(カラムオーブンの設定値)とする。
【0027】
カルボキシ基含有多糖類の質量(g)に対する、腐植酸の質量(g)の比(腐植酸/カルボキシ基含有多糖類)は、例えば、0.08以上、0.15以上、又は0.20以上であってよく、1.50以下、1.25以下、1.00以下、0.90以下、又は0.85以下であってよい。腐植酸の質量は、全有機炭素濃度(TOC)から算出される量である。
【0028】
腐植酸の含有量は、ハイドロゲルの全質量を基準として、2質量%以上であってよく、50質量%以下であってよい。腐植酸の含有量は、全有機炭素濃度(TOC)から算出される量である。
【0029】
<金属元素>
金属元素は、カルボキシ基含有多糖類中のカルボキシ基、又は腐植酸中に存在する官能基(例えば、カルボキシ基)と架橋構造を形成し得る金属元素であってよい。金属元素の価数は、2価以上であってよい。金属元素としては、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等が挙げられる。藻類の増殖促進効果に特に優れていることから、金属元素は鉄であることが好ましい。
【0030】
カルボキシ基含有多糖類の質量(g)に対する、金属元素の質量(g)の比(金属元素/カルボキシ基含有多糖類)は、例えば、0.010以上、0.015以上、又は0.020以上であってよく、0.100以下、0.050以下、又は0.030以下であってよい。
【0031】
ハイドロゲルは上述した成分以外の成分(その他の成分)を含んでいてよい。その他の成分としては、肥料成分(窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)等が挙げられる。その他の成分の含有量は、ハイドロゲルの全質量を基準として、0.5質量%以上又は1質量%以上であってよく、20質量%以下又は5質量%以下であってよく、好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0032】
ハイドロゲルは腐植酸を徐放するための徐放材として用いることができる。カルボキシメチルセルロース類と、腐植酸と、を含むハイドロゲルである場合、環境負荷が低減されたハイドロゲルとして用いることができる。ハイドロゲルは、緩効性が付与された肥料として利用することができる。ハイドロゲルは、海水中でも腐植酸を徐放可能であることから、海洋への施肥を可能とする持続型資材としても好適に用いられる。
【0033】
〔ハイドロゲル及びその乾燥物の製造方法〕
ハイドロゲルは、例えば、カルボキシ基含有多糖類と腐植酸とを含む原料組成物を酸存在下で凍結及び融解する方法、又は、上記原料組成物に酸を加え、その後混錬する方法によって得ることができる。
【0034】
ハイドロゲルは、例えば、カルボキシ基含有多糖類と、腐植酸と、水と、酸とを混合して原料組成物を得る工程(工程A)と、原料組成物を凍結させる工程(工程B)と、凍結させた原料組成物を融解する工程(工程C)とを含む方法によって製造することができる。すなわち、ハイドロゲルは、カルボキシ基含有多糖類と、腐植酸と、水と、を含む原料組成物の酸存在下での凍結融解物であってよい。
【0035】
ハイドロゲルを製造する方法は、融解した原料組成物中の酸を中和するとともに原料組成物中の液状媒体を水に置換する工程(工程D)を更に含んでいてよい。ハイドロゲルは、工程Dの後にハイドロゲルを乾燥させる工程(工程E)を行って、ハイドロゲルの乾燥物としてもよい。
【0036】
工程Aでは、カルボキシ基含有多糖類と、腐植酸と、水と、酸とを混合して、原料組成物を得る。水としては、例えば、水道水、天然水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。
【0037】
カルボキシ基含有多糖類の使用量は、原料組成物の全質量を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.8質量%以上、1.0質量%以上、1.2質量%以上、1.5質量%以上、1.8質量%以上、又は2.0質量%以上であってよい。カルボキシ基含有多糖類の使用量は、原料組成物の全質量を基準として、20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下であってよく、混合しやすく、原料組成物の調製が更に容易になることから、9.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下、又は3.0質量%以下であってよい。カルボキシ基含有多糖類の使用量は、原料組成物の全質量を基準として、0.5質量%以上20.0質量%以下であってよく、好ましくは1.0質量%以上10.0質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上5質量%以下である。
【0038】
腐植酸の使用量は、原料組成物の全質量を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.8質量%以上、1.0質量%以上、1.2質量%以上、1.5質量%以上、1.8質量%以上、又は2.0質量%以上であってよい。腐植酸の使用量は、原料組成物の全質量を基準として、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、9.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下、又は3.0質量%以下であってよい。腐植酸の使用量は、全有機炭素濃度(TOC)に基づいて算出される量である。
【0039】
腐植酸の混合は腐植酸含有液を混合することにより行われてよい。腐植酸含有液の使用量は、原料組成物中の全有機炭素濃度(TOC)に応じて適宜調整される。腐植酸含有液の使用量は、例えば、原料組成物の全質量を基準として、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下であってよい。
【0040】
腐植酸含有液の全有機炭素濃度(TOC)は15,000mg/L以上、15,500mg/L以上、16,000mg/L以上、16,500mg/L以上、17,000mg/L以上、17,500mg/L以上、18,000mg/L以上、18,500mg/L以上、19,000mg/L以上、19,500mg/L以上、20,000mg/L以上、25,000mg/L以上、30,000mg/L以上、35,000mg/L以上、38,000mg/L以上又は39,000mg/L以上であってよい。腐植酸含有液のTOCは、75,000mg/L以下、70,000mg/L以下、65,000mg/L以下、60,000mg/L以下、55,000mg/L以下、50,000mg/L以下、45,000mg/L以下、40,000mg/L以下、35,000mg/L以下、30,000mg/L以下、25,000mg/L以下、24,000mg/L以下、23,000mg/L以下、22,000mg/L以下又は21,000mg/L以下であってよい。
【0041】
腐植酸含有液のTOCの測定方法は、次のように定義される。TOCは、腐植酸含有液を、3,000×gで遠心分離した上澄み液を、全有機体炭素計(株式会社島津製作所製TOC-L)を用いて燃焼触媒酸化方式で測定した値である。肥料成分である尿素等の非腐植物質を含む場合は、国際腐植物質学会法(藤嶽、HumicSubstances Research Vol3、P1-9)に準じて分別したもの(フミン酸画分及びフルボ酸画分)を上記の手法にて定量し、腐植酸含有液のTOCを測定する。
【0042】
腐植酸含有液のpHは、2.0以上9.0以下であってよい。腐植酸含有液のpHは、2.0以上、2.5以上、3.0以上、3.5以上、4.0以上、4.5以上、5.0以上、5.5以上、6.0以上、又は6.5以上であってよい。腐植酸含有液のpHの上限は、9.0以下、8.0以下、7.5以下、7.0以下、又は6.5以下であってよい。腐植酸含有液のpHは後述する実施例に記載の方法によって測定される。
【0043】
腐植酸含有液は、例えば、腐植酸抽出液であってよい。腐植酸抽出液は、若年炭の硝酸酸化物を、水と必要によりアルカリを含む抽出溶媒により抽出した抽出物であってよい。
【0044】
若年炭とは、瀝青炭等に比べ炭素含有量の少ない石炭であり、炭素含有率が83質量%以下であるものと定義される。若年炭としては、例えば、泥炭、亜炭、褐炭、亜瀝青炭等が挙げられる。若年炭は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0045】
若年炭の硝酸酸化物は、若年炭を硝酸で酸化分解させて得られる。硝酸としては濃硝酸が好ましい。安全性と反応性の点で、濃度40~60質量%の硝酸を用いることが好ましい。酸化分解の際の硝酸(HNO3)の配合量は、若年炭20質量部に対して、10質量部以上、又は20質量部以上であってよく、300質量部以下、250質量部以下、200質量部以下、150質量部以下、100質量部以下、50質量部以下、36質量部以下、又は20質量部以下であってよい。硝酸(HNO3)の配合量は、若年炭20質量部に対して、10~20質量部であってよく、20~36質量部であってよい。ここで、硝酸の配合量は100%硝酸(100%HNO3)に換算した値である。
【0046】
酸化分解の際の温度は、例えば、70~95℃であってよい。酸化反応のスターターとして、湯浴等で70~95℃に加温すると酸化反応が速やかに進行しやすい。反応時間は、例えば、20分間以上、0.5時間以上、又は1時間以上であってよく、6時間以下、4時間以下、又は1時間以下であってよい。
【0047】
腐植酸含有液は、例えば、若年炭の硝酸酸化物(以下、腐植酸粗製物という)と、水及びアルカリを含む抽出溶媒とを攪拌した後、固液分離工程を行うことにより、液状物として得られる。
【0048】
アルカリとしては、水酸化物、アンモニア等が挙げられる。水酸化物としては、アルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム等が挙げられる。水酸化物としては、アルカリ金属の水酸化物が好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。水酸化物としては、水酸化カリウム、酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム(アンモニア水)のうちの1種以上が好ましい。抽出溶媒のpHは、0.5~7.0、0.5~4.0又は1.0~3.0であってよい。
【0049】
腐植酸粗製物を抽出溶媒で抽出する際の温度(抽出温度)は、抽出液の凍結及び品質低下を更に抑制する観点から、例えば、40~90℃であってよい。腐植酸粗製物を抽出溶媒で抽出する時間(抽出時間)は、例えば、0.5時間以上であってよく、24時間以下であってよく、1時間以下であってもよい。
【0050】
腐植酸粗製物を調製するために用いる原料の若年炭の量に対する抽出溶媒の量を、固液比と定義する。例えば、若年炭20gから調製された粗製物に抽出溶媒(水)100g(100mL)を添加した場合、固液比(抽出溶媒/若年炭)は5となる。固液比は3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上又は10以上であってよく、15以下、13以下、11以下、9以下、7以下、又は6以下であってよい。固液比は、水の添加によって調整することができる。固液比は、pH調整後に目的の固液比となるように調整されてよい。固液分離する方法は、遠心分離、フィルタープレス等であってよい。
【0051】
工程Aで混合される酸は、有機酸及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、硝酸、ギ酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、シュウ酸、クエン酸等が挙げられる。これらの酸は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
酸の混合は、酸単独、又は酸を含む水溶液(酸水溶液)を混合することによって行われてよい。酸の混合は、混合操作の簡便さの点から、酸水溶液の混合によって行われることが好ましい。酸水溶液全量に対する酸の濃度は、例えば、0.1mol/L以上、0.5mol/L以上、1.0mol/L以上、又は1.5mol/L以上であってよく、10.0mol/L以下、5.0mol/L以下、又は3.0mol/L以下であってよい。
【0053】
酸水溶液の使用量は、酸濃度等に応じて適宜調整される。酸水溶液の使用量は、例えば、原料組成物の全質量を基準として、10質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、又は55質量%以上であってよく、80質量%以下、70質量%以下、又は65質量%以下であってよい。原料組成物に対する酸の濃度が、例えば、0.1mol/L以上、0.5mol/L以上、1.0mol/L以上、又は1.5mol/L以上であってよく、10.0mol/L以下、5.0mol/L以下、又は3.0mol/L以下であってよい。
【0054】
カルボキシ基含有多糖類と、腐植酸と、水と、酸とは、任意の順序で混合されてよい。例えば、工程Aは、腐植酸と、水と、を混合して第1の混合物を得ることと、第1の混合物にカルボキシ基含有多糖類を混合して第2の混合物を得ることと、第2の混合物に酸を混合して第3の混合物として原料組成物を得ることとを含んでいてよい。
【0055】
工程Aにおける混合時間は例えば10分以上であってよい。第1の混合物を得るための混合時間が10分以上であり、かつ、第2の混合物を得るための混合時間が10分以上であってよい。
【0056】
工程Aにおける混合は、撹拌下で行われてよい。工程Aにおける混合は、市販のミキサー等を用いて行うことができる。ミキサーとしては、例えば、自転・公転方式ミキサー(例えば、あわとり練太郎(ARV-310P))を用いることができる。
【0057】
工程Aでは、金属元素を含む金属塩を更に混合してもよい。金属塩における金属としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、カルシウム、マグネシウムが挙げられる。金属塩における塩は、有機酸塩であってよく、無機酸塩であってもよい。金属塩における塩は、塩酸塩、硫酸塩、又は酢酸塩であってよい。金属塩は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
【0058】
金属塩の使用量は、原料組成物の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.10質量%以上、又は0.15質量%以上であってよく、1.00質量%以下、0.50質量%以下、又は0.30質量%以下であってよい。
【0059】
工程Bでは、原料組成物を凍結させる。原料組成物の凍結は、例えば、原料組成物を容器内に配置し、当該容器の底面から徐々に冷却する方法を用いることができる。原料組成物を容器の底面から一方向へ冷却することにより、氷晶が均質となるため、ハイドロゲルがバラけにくくなる傾向がある。原料組成物の凍結は、例えば、到達温度-30℃の条件で行われてよい。凍結期間は、例えば、5日間以上であってよい。原料組成物の凍結は、棚板式低温恒温槽(棚板に冷媒が循環する形式のプログラム冷凍庫)を用いて行われてよい。原料組成物の凍結は、例えば、棚板式低温恒温槽に原料組成物入りの平底容器を設置し、室温(25℃前後)から1~10℃/minの冷却速度で-30℃まで冷却し、そのまま-30℃で5日間以上静置することにより行われてよい。
【0060】
工程Cでは、凍結させた原料組成物を融解する。凍結させた原料組成物を融解する方法は、特に制限されず、通常の方法で融解させてよい。
【0061】
工程B及び工程Cは繰り返し実施されてよい。すなわち、原料組成物の凍結及び融解は繰り返し行われてよい。原料組成物の凍結及び融解を繰り返し行うことによって、ハイドロゲルのゲル強度がより高くなる傾向がある。
【0062】
工程Dは、融解した原料組成物中の酸を中和するとともに原料組成物中の媒体を水に置換する。融解した原料組成物中の酸の中和は、例えば、緩衝液を用いて行うことができる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液等が挙げられる。融解した原料組成物は、酸の中和後、媒体を水に置換される。工程Dにおいて使用される水としては、例えば、水道水、天然水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。工程Dにおいて使用される水は精製水であってよい。
【0063】
工程Eでは、ハイドロゲルを乾燥させる。ハイドロゲルを乾燥させることでハイドロゲルの乾燥物を得ることができる。ハイドロゲルを乾燥させる方法としては、例えば、凍結乾燥等が挙げられる。ハイドロゲルの乾燥物は、ハイドロゲルの凍結乾燥物であってよい。ハイドロゲルを破砕し、破砕したハイドロゲルをスラリー化してスプレードライすることでハイドロゲルの乾燥物(粉末状のハイドロゲル)を得ることもできる。乾燥は通常の乾燥条件を用いることができる。凍結乾燥を行う場合、-40℃以下でハイドロゲルを凍結し、13Pa以下の減圧条件下にて凍結乾燥が行われることが好ましい。ハイドロゲルの乾燥物は、水との接触によって再度ハイドロゲルを形成することができるため、ハイドロゲル形成材料又はハイドロゲル前駆体ということもできる。
【0064】
〔徐放材〕
本実施形態に係る徐放材は、腐植酸を徐放するための徐放材である。当該徐放材は、上述したハイドロゲル又はその乾燥物を含む。
【0065】
本実施形態に係る徐放材は、例えば、緩効性肥料として用いることができる。当該緩効性肥料は、肥料成分である腐植酸が土壌中に徐々に溶出する肥料である。緩効性肥料の対象となる植物は、陸上植物であってよい。当該陸上植物としては、例えば、果菜類、葉菜類、根菜類、果樹、小麦、大豆、育苗等が挙げられる。
【0066】
本実施形態に係る徐放材は、海水中においても腐植酸を徐放することが可能であるため、海洋中においても好適に用いることもできる。当該徐放材は、海洋中の対象となる場所に配置し、配置された場所において徐々に肥料成分である腐植酸が溶出する。これによって、海洋中における肥料成分の希釈及び拡散を抑制しながら、肥料成分を対象となる場所に与えることが可能になる。当該徐放材が対象とする海洋中の植物としては、例えば、藻類が挙げられる。徐放材の使用方法(徐放材中の腐植酸の施用方法)は、例えば、必要に応じてかご又は網等に徐放材を入れ、当該徐放材を藻類の近傍又は底砂に埋設する方法、徐放材を含む材料を藻類の足場に用いる方法が挙げられる。徐放材を含む材料は、例えば、藻類の足場となる材料(ブロック、養殖網等)に上記原料組成物を付着させ、その後、上記原料組成物ごと足場となる材料を凍結して、徐放材と、足場となる材料と、を一体化させることによって得ることができる。
【0067】
本実施形態に係る徐放材は、藻類の養殖又は磯焼け抑制のために好適に用いることができる。藻類としては、例えば、オオバアオサ(Ulva pertusa)、キリンサイ類(Eucheuma spp., Kappaphycusalvarexii)、オゴノリ類(Gracilaria spp.)、コンブ(Saccharina spp.)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、海苔(Pyropia sp.)、ヒジキ(Sargassum fusiforme)等の大型藻類、及び、ミドリムシ(Euglena sp)、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium sp)等の微細藻類が挙げられる。磯焼けは、藻場(海藻群落)の衰退及び消失減少である。腐植酸と鉄との錯体が藻類の増殖促進効果に特に優れていることから、藻類の養殖又は磯焼け抑制のために用いる場合には、金属元素として鉄を含む上記ハイドロゲル又はその乾燥物を含むことが好ましい。
【実施例0068】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0069】
<腐植酸の準備>
[腐植酸抽出液A]
腐植酸抽出液Aとして、フルボ酸を主成分として含む液体を用いた。腐植酸抽出液Aは具体的には次に示す方法で調製した。ドラフト中で、炭素含有率が77質量%の褐炭500gを1,000mlのビーカーに入れて、濃度48質量%の硝酸1562.5g(若年炭100質量部に対して100%硝酸150質量部)を添加した。80℃の水浴中で3時間酸化反応を行った。この操作で得た腐植酸を含む粗製物100gに0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約450mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH2.0とした。水を固液比5(原料として用いた褐炭の質量(500g)に対する添加する水の質量)となるように加え、80℃で1時間抽出した。得られた抽出液を、3,000×gで遠心分離し、得られた上澄み液を希釈し、腐植酸抽出液Aを得た。
【0070】
腐植酸抽出液A中の腐植酸のMIは4.8であった。腐植酸抽出液Aの全有機炭素濃度(TOC)は、22,000mg/Lであった。腐植酸抽出液A中の腐植酸の質量平均分子量は530であった。腐植酸抽出液AのpHは、2.0~3.0であった。
【0071】
[腐植酸抽出液Bの準備]
腐植酸抽出液Bとして、フミン酸を主成分として含む液体を用いた。腐植酸抽出液Bは具体的には次に示す方法で調製した。ドラフト中で、炭素含有率が77質量%の褐炭500gを1,000mlのビーカーに入れて、濃度48質量%の硝酸625g(若年炭100質量部に対して100%硝酸60質量部)を添加した。80℃の水浴中で3時間酸化反応を行った。この操作で得た腐植酸を含む粗製物100gに0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH6.5とした。水を固液比10(原料として用いた褐炭の質量(500g)に対する添加する水の質量)となるように加え、80℃で1時間抽出した。得られた抽出液を、3,000×gで遠心分離し、得られた上澄み液を希釈し、腐植酸抽出液Bを得た。
【0072】
腐植酸抽出液B中の腐植酸のMIは2.2であった。腐植酸抽出液Bの全有機炭素濃度(TOC)は、34,000mg/Lであった。腐植酸抽出液B中の腐植酸の質量平均分子量は4,300であった。腐植酸抽出液BのpHは、6.0~8.0であった。
【0073】
[質量平均分子量]
腐植酸の質量平均分子量は、Waters社製Alliance HPLC Systemを用い、HPSEC法(GPC法)により測定した。カラムは昭和電工株式会社SB-803HQ、標準試料はポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用い、検出波長は260nmとした。移動相は25質量%アセトニトリル含有の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液とし、流速は0.8ml/分とし、カラムの温度は40℃(カラムオーブンの設定値)とした。
【0074】
[全有機炭素濃度(TOC)]
腐植酸抽出液のTOCは、全有機体炭素計(株式会社島津製作所製TOC-L)を用い、燃焼触媒酸化方式で測定した。
【0075】
[メラニックインデックス(MI)]
試料を乳鉢と250μm篩を用い250μm篩下品に粉砕した。その約10gを、質量が既知の秤量ビンに取り精秤した。この秤量ビンを温度105℃に保持した乾燥機で約12時間放置し、その後、デシケーター中で室温に戻してから再度精秤した。その質量減少分を水分とみなして試料の含水率を求めた。次に、50ml遠沈管に、上記250μm篩下品を乾燥質量相当量で0.10gと、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液45mlとを入れ、室温20℃で約1時間、250rpmの速度で振とうした後、3,000×g、約10分間の遠心分離を実施し、その上澄み液をアドバンテック社製No.5Cの濾紙で濾過した。濾液の450nmの吸光度と520nmの吸光度を、蒸留水をブランクとして測定した。この場合、450nmの吸光度が1.0以上を示したならば、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し、吸光度を0.8以上1.0未満に調整してから、520nmの吸光度を測定した。(450nmでの吸光度/520nmでの吸光度)の比を算出し、MIとした。
【0076】
<カルボキシメチルセルロースの準備>
カルボキシメチルセルロース(CMC)として、ダイセルミライズ株式会社製のダイセル1380(エーテル化度:1.37)を準備した。
【0077】
<ハイドロゲルの調製>
自転公転ミキサー「あわとり練太郎」用の容器に、蒸留水(DW)と、腐植酸抽出液A又は腐植酸抽出液Bとを加え、容器内をスターラーで攪拌しながら、CMCをダマにならないように少量ずつ加えた。得られた混合物を自転公転ミキサー「あわとり練太郎(ARV-310P)」で10分間以上混合した。混合後に容器内に2N塩酸を加え、混合物を更に自転公転ミキサー「あわとり練太郎(ARV-310P)」で10分間以上混合した。得られた混合物をシャーレ等の浅型容器へ移し、容器の底面から徐々に冷却し到達温度-30℃で凍結させた。得られた混合物の凍結期間は5日間以上とした。凍結した混合物を解凍し、リン酸バッファー等でpH7に中和した後、混合物中の溶媒を精製水で十分に置換し、ハイドロゲルを得た。得られたハイドロゲルを凍結乾燥した。これを試験体2~3とした。腐植酸抽出液の代わりに蒸留水を用いたこと以外は試験体2~3と同様にして、凍結乾燥したハイドロゲルを得た。これを試験体1とした。表1は、試験体1~3作製のために使用した材料及びその使用量(単位:g)を示す。
【表1】
【0078】
<溶出挙動評価用サンプルの作製手順>
試験体1~3(凍結乾燥したハイドロゲル)を秤量し、0.25gに切り出した。500mL容量のポリ瓶に、試験体1~3から切り出した各試験片とDW又は人工海水500mLとを入れ、緩くスターラー攪拌を継続した。撹拌して得た混合物を23±2℃の室温下又は60℃の条件下に置き、経時的にサンプリングし、腐植酸の溶出挙動を確認した。
【表2】
【0079】
溶出挙動の確認は、吸光度測定を行うことによって確認した。
吸光度の測定装置:SolidSpec-3700(株式会社島津製作所製)
測定波長:260nm
測定波長260nmの根拠:国際腐植物質学会(IHSS)推奨値
【0080】
(検量線の作成)
濃度0.16mg/L、0.31mg/L、0.63mg/L、1.25mg/L、2.5mg/L、5mg/L、10mg/L、20mg/L及び40mg/Lそれぞれにおけるフルボ酸画分濃度における吸光度を測定した。その結果、フルボ酸画分濃度と、吸光度の測定値との関係から直線式が得られた(y=0.0527x+0.0087、R2=0.9994、x:フルボ酸画分濃度、y:波長260nmにおける吸光度、R2は決定係数)。
【0081】
上記と同様にしてフミン酸画分濃度における吸光度を測定した。その結果、フミン酸画分濃度と、吸光度の測定値との関係から直線式が得られた(y=0.0702x-0.0002、R2=1、x:フミン酸画分濃度、y:波長260nmにおける吸光度)。
【0082】
<溶出挙動の評価結果1>
表3は、水を用いて形成したフルボ酸を含むサンプル2-1のハイドロゲルからフルボ酸が溶出する挙動を評価した結果を示す。表3に示す結果はBlank値(サンプル1-1を用いて評価した結果)差し引き済みの結果である。
【表3】
【0083】
表3から水を用いて形成したサンプル2-1のハイドロゲルからフルボ酸が溶出したことがわかる。23℃でのフルボ酸画分の溶出量は2mg/L程度、60℃で全溶解した時の溶出量は7mg/L程度であった。
【0084】
<溶出挙動の評価結果2>
表4は、人工海水を用いて形成したフルボ酸を含むサンプル2-2のハイドロゲルからフルボ酸が溶出する挙動を評価した結果を示す。表4に示す結果はBlank値(サンプル1-2用いて評価した結果)差し引き済みの結果である。
【表4】
【0085】
表4の結果から人工海水を用いて形成したサンプル2-2のハイドロゲルからフルボ酸が溶出したことがわかる。23℃でのフルボ酸画分の溶出量は2mg/L程度、60℃で全溶解した時の溶出量は6mg/L程度であった。
【0086】
<溶出挙動の評価結果3>
表5は、水を用いて形成したフミン酸を含むサンプル3-1のハイドロゲルからフミン酸が溶出する挙動を評価した結果を示す。表5に示す結果はBlank値(サンプル1-1を用いて評価した結果)差し引き済みの結果である。
【表5】
【0087】
表5から水を用いて形成したサンプル3-1のハイドロゲルからフミン酸が溶出したことがわかる。23℃でのフミン酸画分の溶出量は4mg/L程度、60℃で全溶解した時の溶出量は70mg/L程度であった。
【0088】
<溶出挙動の評価結果3>
表6は、人工海水を用いて形成したフミン酸を含むサンプル3-2のハイドロゲルからフミン酸が溶出する挙動を評価した結果を示す。表6に示す結果はBlank値(サンプル1-2を用いて評価した結果)差し引き済みの結果である。
【表6】
【0089】
表6から人工海水を用いて形成したサンプル3-2のハイドロゲルからフミン酸が溶出したことがわかる。23℃でのフミン酸画分の溶出量は3mg/L程度、60℃で全溶解した時の溶出量は130mg/L程度であった。
【0090】
<溶出試験の収支計算>
溶出試験の収支計算結果を表7及び表8にまとめた。
【表7】
【表8】
【0091】
収支計算の結果から、フミン酸を含む試験体3の方が、フルボ酸を含む試験体2と比べて、腐植酸がより徐放しやすいことがわかる。
【0092】
<鉄イオン添加による効果>
塩化鉄(III)六水和物を下表に示す量用いたこと以外は、試験体2~3と同様にして、試験体4~5を調製した。
【表9】
【0093】
図1は試験体2(
図1中の「No.2 1380(2%)-A(20%)」)及び試験体4(
図1中の「No.4 1380(2%)/A(20%)/(+Fe
3+)」)の外観観察結果を示す写真である。
【0094】
図2は試験体3(
図2中の「No.3 1380(2%)-B(20%)」)及び試験体5(
図2中の「No.5 1380(2%)/B(20%)/(+Fe
3+)」)の外観観察結果を示す写真である。
【0095】
図1~2に示すとおり鉄を含むハイドロゲルが形成可能であることが示された。ハイドロゲルに鉄を含有させることにより腐植酸が鉄と錯体を形成し、ハイドロゲルのネットワークから腐植酸が遊離しにくくなり、結果として腐植酸の保持率が向上すると考えられる。
【0096】
<CMC含有量の影響>
次に示す組成の試験体(No.6-1~6-4)を準備した。
No.6-1:CMCの含有量1質量%、腐植酸抽出液の含有量50質量%
No.6-2:CMCの含有量2質量%、腐植酸抽出液の含有量50質量%
No.6-3:CMCの含有量5質量%、腐植酸抽出液の含有量50質量%
No.6-4:CMCの含有量10質量%、腐植酸抽出液の含有量50質量%
CMCとしてはダイセル1380(ダイセルミライズ株式会社製)を用いた。腐植酸抽出液としては腐植酸抽出液Aを用いた。CMCの含有量及び腐植酸抽出液の含有量は、ハイドロゲル全質量を基準とする含有量である。ハイドロゲルの調製方法は、上記の組成とすること以外試験体2~3の調製方法と同様である。
図3はNo.6-1~6-4の外観観察結果を示す。
【0097】
CMCの含有量が高くなるにつれて、より硬いハイドロゲルになった。
図3に示すように、CMCの含有量を高くするにつれて、ハイドロゲルの色が濃くなり、腐植酸の保持率が向上することが示された。
【0098】
<CMCのエーテル化度の影響>
エーテル化度の異なる4種のCMCを準備した。
CMC1:ダイセル1180(ダイセルミライズ株式会社製)、エーテル化度:0.64、1%粘度:1094mPa・s
CMC2:ダイセル1380(ダイセルミライズ株式会社製)、エーテル化度:1.37、1%粘度:1382mPa・s
CMC3:ダイセル1390(ダイセルミライズ株式会社製)、エーテル化度:1.35、1%粘度:3110mPa・s
CMC4:ダイセル2200(ダイセルミライズ株式会社製)、エーテル化度:0.92、1%粘度:1902mPa・s
【0099】
CMCと、腐植酸抽出液A又は腐植酸抽出液Bと、蒸留水(DW)とを下表に示す組成となるように密閉容器に入れた。密閉容器内でこれらを撹拌し、その後遠心処理した。上澄み液を混合した後、5日間冷凍した。冷凍した混合物は、解凍した後、1mol/Lリン酸バッファー(pH7)を用いて中和した。中和した混合物中の溶媒を蒸留水に置換し、ハイドロゲルを得た。
【表10】
【0100】
図4は、腐植酸抽出液Aを用い、フルボ酸を含むハイドロゲルの外観観察結果を示す写真である。低エーテル化度のCMCを用いた場合、フルボ酸の保持が良好であった。
【0101】
図5は、腐植酸抽出液Bを用い、フミン酸を含むハイドロゲルの外観観察結果を示す写真である。いずれのCMCを用いた場合でもフミン酸を保持したゲルが形成された。粘度が低めのCMCを用いた場合、ハンドリング性が更に良好であった。