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特開2024-11243セルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011243
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】セルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240118BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240118BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/02
C08J3/20 Z CEP
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113094
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】吉村 知章
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】猪原 翔子
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA15
4F070AB03
4F070AC83
4F070AE27
4F070FA10
4F070FA17
4F070FC03
4J002AA011
4J002AB012
4J002AF021
4J002BA011
4J002BB031
4J002BB121
4J002BB151
4J002BB171
4J002BB211
4J002BB231
4J002BC031
4J002BD051
4J002BD101
4J002BD131
4J002BD141
4J002BE031
4J002BF031
4J002BG101
4J002BK001
4J002BN151
4J002CB001
4J002CE001
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF191
4J002CG011
4J002CH071
4J002CK021
4J002FA042
4J002FB262
4J002FB292
4J002FD012
4J002GC00
4J002GG02
4J002GJ01
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来の方法で得られたセルロース繊維配合樹脂組成物と同等の物性を担保しつつ、工程を簡易化、短時間化した生産性に優れるセルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース繊維を疎水化した後、熱可塑性樹脂と混練することでセルロース繊維配合樹脂組成物を得る、セルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法であって、前記セルロース繊維が、固形分30~70%の含水セルロース繊維を機械処理したものであることを特徴とするセルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を疎水化した後、熱可塑性樹脂と混練することでセルロース繊維配合樹脂組成物を得る、セルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法であって、前記セルロース繊維が、固形分30~70%の含水セルロース繊維を機械処理したものであることを特徴とするセルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料の軽量化やサーマルリサイクルの観点から、植物等に由来するセルロース繊維を樹脂の補強材料として用いたセルロース配合樹脂組成物の開発が進んでいる。セルロース繊維配合樹脂組成物の製造には、セルロース繊維をミクロンオーダーあるいはナノオーダーまで解繊する工程、親水性であるセルロース繊維表面を樹脂となじみやすくするために疎水化する工程、セルロース繊維を樹脂中へ分散させ複合化する工程が必要とされており、それぞれの工程において様々な手法が考案され、多くのセルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法が報告されている。
【0003】
中でも特許文献1および2は、セルロース繊維を化学修飾して疎水化セルロース繊維を得た後、疎水化セルロース繊維と樹脂との混練中に疎水化セルロース繊維をナノオーダーまで解繊しながら樹脂中に均一分散させ、複合化する手法であり、セルロース繊維の解繊工程と樹脂中への分散・複合化工程を同時に行っている点で、工業的に有益なセルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-176052号公報
【特許文献2】特開2017-171713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2において、セルロース繊維を化学修飾する前工程として、原料である針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)あるいは針葉樹由来未晒クラフトパルプ(NUKP)に多量の水を加え、固形分3%のスラリーとしたうえで、繰り返しのリファイナー処理後、疎水化処理を行うため一定濃度まで濃縮処理を行う必要があり、煩雑で生産性が低いという課題を有していた。このセルロース繊維を化学修飾する前工程においては、最終的に得られるセルロース繊維配合樹脂組成物の良好な機械物性を発現させるため、原料のセルロース繊維を十分に叩解処理する必要があると考えられていた。十分な叩解処理をするには、リファイナー等の処理装置で繰り返し処理を行う必要があるが、高濃度のパルプは流動性が著しく低いため、低濃度のスラリーとすることで流動性をもたせ、繰り返しの叩解処理をすることで、良好な機械的物性を発現させていた。
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の濃度での処理条件ではセルロース繊維と叩解処理装置との摩擦抵抗が大きくなるため、1回程度の処理でもセルロース繊維が十分に叩解され、得られるセルロース繊維配合樹脂組成物は優れた機械物性を有することを見出した。
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂との混練中に、疎水化したセルロース繊維を解繊しながら、均一分散させてセルロース繊維配合樹脂組成物を得る手法の前工程において、セルロース繊維の機械処理を従来よりも高濃度である30~70質量%(以下、%と略すことがある)の条件で行うことで、従来の方法で得られたセルロース繊維配合樹脂組成物と同等の物性を担保しつつ、工程を簡易化、短時間化した生産性に優れるセルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は
セルロース繊維を疎水化した後、熱可塑性樹脂と混練することでセルロース繊維配合樹脂組成物を得る、セルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法であって、前記セルロース繊維が、固形分30~70%の含水セルロース繊維を機械処理したものであることを特徴とするセルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、良好な機械物性を発現するセルロース繊維配合樹脂組成物を従来よりも高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法は、セルロース繊維を疎水化した後、熱可塑性樹脂と混練することでセルロース繊維配合樹脂組成物を得る、セルロース繊維配合樹脂組成物の製造方法であって、前記セルロース繊維が、固形分30~70%の含水セルロース繊維を機械処理したものであることを特徴とするものである。工程順に言い換えれば、本発明の製造方法は、固形分30~70%の含水セルロース繊維を機械処理して機械処理したセルロース繊維を得る工程、前記機械処理したセルロース繊維を疎水化して疎水化したセルロース繊維を得る工程、前記疎水化したセルロース繊維を熱可塑性樹脂と混練してセルロース繊維配合樹脂組成物を得る工程、の3つの工程からなる。
【0010】
固形分30~70%の含水セルロース繊維に用いる原料となるセルロース繊維としては、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られており、本発明ではそのいずれも使用できる。なかでも比較的入手が容易で、取り扱いやすいことから植物由来のセルロース繊維のパルプ(特に針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP))が好ましい。
【0011】
<機械処理したセルロース繊維を得る工程>
本工程においては、含水セルロース繊維の機械処理を行ったセルロース繊維を得る。含水セルロース繊維を機械処理することで、混練工程でのセルロース繊維の解繊性が向上し、本発明で最終的に得られるセルロース繊維配合樹脂組成物の機械強度が向上する。含水セルロース繊維の機械処理装置としては、繊維に機械的な摩砕・せん断を与えられる装置ならいずれの形式でもよい。例えばバッチ式処理設備として加圧ニーダー、バッチ式ビーズミル、遊星ボールミル、3本ロール等、連続式処理設備としてリファイナー、高圧ホモジナイザー、石臼、グラインダー、二軸押し出し機、連続式ビーズミル等が挙げられる。この中でも生産性の観点から連続式の処理装置が好ましい。
【0012】
機械処理時の含水セルロース繊維の固形分は30~70%である必要がある。含水セルロース繊維の固形分が30%より低くなると、疎水化工程において脱水量が多くなり、生産性が低下する。従来技術においては上記した理由で含水セルロース繊維を低固形分のスラリーとする必要があったが、固形分10%以下で機械処理を行うと、セルロース繊維に機械処理時の磨砕、せん断がかかりにくくなり、複数回や多段階での機械処理が必要となってしまう。また、機械処理したセルロース繊維のスラリーを固形分が低い状態で後述する方法で疎水化する場合、セルロースの官能基の置換修飾反応が進行しにくくなることや、反応容器に占める水の体積が大きいため、工程のスケールが制限されるなど、生産性が著しく低下するため、疎水化前にセルロース繊維のスラリーに遠心分離等の脱水処理を行う必要がある。含水セルロース繊維の固形分が70%より高い場合、パルプ表面が乾燥状態にあるために、機械処理時に摩砕・せん断がかかりにくくなり、混練工程でのセルロース繊維の解繊性が低下し、セルロース繊維による樹脂組成物の機械強度の補強効果が低下する。
【0013】
本発明における機械処理工程は、生産性が低下せず、最終的に得られるセルロース繊維配合樹脂組成物の機械強度が低下しない範囲において、任意のスケール、時間、処理回数を定めることができる。処理回数を増やすためには、複数の装置を直列して設置する等の設備規模の拡張、あるいは、1つの装置で繰り返し処理を行うために作業が煩雑になることによる生産性の低下、等の問題があるため、処理回数は一回であることが望ましい。また、機械処理工程において、本発明の効果を妨げない範囲で含水セルロース繊維に炭酸カルシウム、タルク、クレイ、ガラス繊維等の各種無機充填剤、界面活性剤、表面処理剤、増粘剤、滑剤、ワックス類、着色剤、安定剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0014】
<疎水化したセルロース繊維を得る工程>
本工程においては、前記機械処理工程で得られたセルロース繊維を疎水化して、疎水化したセルロース繊維を得る。疎水化したセルロース繊維を得る方法としては、セルロース繊維表面に、セルロースと親和性の高い親水性部分と熱可塑性樹脂と親和性の高い疎水性部分を有する疎水化剤を吸着させる方法を用いることができる。このような疎水化剤としては、国際公開第2015/163405号公報や特開2018-104533号公報に記載されているようなアミド基とアルキル基を有するモノマーを共重合して得られる樹脂や特開2009-167249号公報に記載されているようなポリオレフィンに親水性高分子及び/ または酸性基が結合してなる重合体、国際公開第2020/235310号公報に記載されているような(メタ)アクリル酸を含むモノマーを共重合して得られるアクリル樹脂またはスチレンアクリル樹脂を用いることができる。これらの中でもセルロース繊維配合樹脂組成物の成形品の機械強度向上効果に優れることから、アクリル酸を含むモノマーを共重合して得られるスチレンアクリル樹脂が好ましい。
【0015】
前記疎水化剤をセルロース繊維に吸着させる方法としては、疎水化剤が均一に混合でき、セルロース繊維の凝集や分解を伴わない温度で乾燥出来れば、その方法に特に制限はない。疎水化剤を固形状態でセルロース繊維に添加してもよいが、セルロース繊維に疎水化剤を均一に吸着させるために、水や有機溶剤等を使用し、セルロース繊維と混合した後に乾燥することが好ましい。後の<セルロース繊維配合樹脂組成物を得る工程>において、得られた疎水化したセルロース繊維と熱可塑性樹脂とを混練する際に水や有機溶剤の蒸発により混練温度が低下するのを避けるため、疎水化したセルロース繊維の固形分は95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。混合溶媒に特に制限はなく、従来公知な化合物を使用することができる。また、セルロース繊維以外にフィラーや架橋剤等を混合してもよい。
【0016】
また、疎水化したセルロース繊維を得る方法として、疎水化剤をセルロース繊維に吸着させる方法が好ましいが、その他に、セルロースの官能基を置換修飾する方法を用いることもできる。具体的には、カルボキシル基、イソシアネート基、ハロゲン基、エポキシ基、シラノール基、アルデヒド基、酸ハロゲン化物、酸無水物、多塩基酸無水物などのセルロース繊維の水酸基と反応しうる官能基を有する化合物を用いて、疎水性の官能基をセルロースに導入する方法である。例えば、セルロースの水酸基を無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸、無水ヘキサン酸、無水デカン酸、無水安息香酸、無水ステアリン酸などの酸無水物や無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、アルキル若しくはアルケニルコハク酸無水物などの多塩基酸無水物等でエステル化する方法を用いることができる。
【0017】
<セルロース繊維配合樹脂組成物を得る工程>
本工程においては、得られた疎水化したセルロース繊維と熱可塑性樹脂とを混練しながらセルロース繊維を分散させて、セルロース繊維配合樹脂組成物を得る。混練機はバッチ式、連続式いずれでもよい。
【0018】
混練時の温度は、セルロース繊維が熱により劣化しない温度が好ましい。具体的には100~250℃の範囲で混練するのが好ましい。
【0019】
本発明において、熱可塑性樹脂は、疎水化剤として用いられるもの以外の、成形体に通常用いられているものであれば特に限定されないが、融点、または軟化点が220℃以下であると、セルロース繊維への熱による影響が少ないため好ましい。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合物などのポリオレフィン、及びそれらのポリオレフィンと無水マレイン酸を反応させた変性ポリオレフィン;ポリアセタール、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド;ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどの塩素樹脂;ポリフッ化ビニルやポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂;ポリスチレン;ABS樹脂;石油樹脂、クマロン樹脂;テルペン樹脂;ロジン樹脂;オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマー;アイオノマー樹脂、ポリアクリロニトリル、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリプロピレンカーボネート、ポリカーボネートジオールなどのポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、メチルペンテン樹脂などが挙げられる。前記、変性ポリオレフィンとしては、例えば無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの無水マレイン酸変性ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0020】
これらの中でも、前述した融点の観点からポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンが好ましい。中でも融点が低く溶融挙動がシャープな傾向であり、セルロース繊維の熱による劣化を防止し易いことからポリオレフィン及び変性ポリオレフィンが好ましい。これらの1種又は2種以上を混合使用できる。
【0021】
本発明のセルロース繊維配合樹脂組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、熱可塑性樹脂との混練工程において、熱可塑性樹脂以外の樹脂、タルク、クレイ、ガラス繊維等の各種充填剤、結晶化核剤、架橋剤、加水分解防止剤、酸化防止剤、滑剤、ワックス類、着色剤、安定剤等を配合してもよい。
【0022】
上記のようにして得られたセルロース繊維配合樹脂組成物を成形体とするには、一般的な成形方法を用いることができる。例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、発泡成形などが挙げられる。
【0023】
また本発明のセルロース繊維配合樹脂組成物を用いた成形体の用途としては特に限られることはないが、例えば、自動車、バイク、自転車、鉄道、ドローン、ロケット、航空機、船舶等の輸送機械用の内外装材や筐体等、風力発電機、水力発電機等のエネルギー機械、エアコン、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、AV機器、デジタルカメラ、パソコン等の家電筐体、電子基板、携帯電話、スマートホン等の通信機器筐体、松葉づえ、車いす等の医療用器具、スニーカーやビジネスシューズ等の靴、タイヤ、球技スポーツ用のボール、スキーブーツ、スノーボード板、ゴルフクラブ、プロテクタ、釣り糸、疑似餌等のスポーツ用品、テントやハンモックなどのアウトドア用品、電線被覆材、水道管、ガス管等の土木建築資材、柱材、床材、化粧板、窓枠、断熱材等の建築材、本棚、机、椅子等の家具、産業用ロボット、家庭用ロボット、ホットメルト接着剤、積層式3Dプリンタ用フィラメントやサポート剤、フィルムやテープなどの包装材、ペットボトル等の樹脂容器、メガネフレーム、ごみ箱、シャープペンシルケース等の生活雑貨等が挙げられる。
【実施例0024】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
[機械処理したセルロース繊維を得る工程]
セルロース繊維として針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)を用いた。前記セルロース繊維に固形分が30質量%となるように水を加え、連続式処理設備としてリファイナー(相川鉄工株式会社製ラボリファイナー型式SDR14)を用いて機械処理を行ったセルロース繊維を調製した。含水セルロース繊維の全量がリファイナーを1回通過することを処理回数1回とする。
【0026】
[疎水化剤の調製]
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート500質量部を仕込み、攪拌しながら内温145℃まで昇温した。アクリル系モノマーとしてメタクリル酸メチル350質量部、アクリル酸50質量部、スチレン100質量部、重合開始剤としてジ-t-ブチルパーオキサイド40質量部を4時間かけて仕込んだ。仕込み終了後、内温145℃で1時間保温し、その後系内の未反応物及び溶媒を除去し、疎水化剤であるスチレンアクリル樹脂を得た。
【0027】
[疎水化したセルロース繊維を得る工程]
容器へ前記機械処理した含水セルロース繊維を257質量部(固形分77質量部、水180質量部)と得られたスチレンアクリル樹脂23質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル77質量部を投入し、70℃で混合した後、130℃へ昇温し減圧下で水、プロピレングリコールモノメチルエーテルを留去し、機械処理したセルロース繊維とスチレンアクリル樹脂からなる疎水化したセルロース繊維を得た。
【0028】
[脱水量の算出]
得られた疎水化したセルロース繊維の固形分を赤外線水分計((株)ケツト科学研究所製FD660)で、水分率をカールフィッシャー容量滴定法水分計((株)日東精工アナリテック製KF31)で測定した結果、それぞれ99.2%、0.7%であった。これらの値から疎水化したセルロース繊維中の水の質量部を算出し、疎水化工程における脱水量を算出したところ、179質量部であった。
【0029】
[セルロース繊維配合樹脂組成物を得る工程]
得られた疎水化したセルロース繊維26質量部(うちセルロース繊維20質量部、スチレンアクリル樹脂6質量部)と、熱可塑性樹脂として無水マレイン酸変性ポリプロピレン(東洋紡(株)製ハードレン(登録商標)PMA H―1000P)6質量部、ポリプロピレン樹脂((株)プライムポリマー製プライムポリプロ(登録商標)J108M)68質量部をラボプラストミル(東洋精機(株)製)へ投入し、混練温度180℃、100回転/分で10分間溶融混練してセルロース繊維配合樹脂組成物を得た。
【0030】
(実施例2、3)
機械処理工程で用いた含水セルロース繊維の固形分を表2の通り変えたほかは、実施例1と同様にして、セルロース繊維配合樹脂組成物を得た。
【0031】
(実施例4―7)
機械処理工程で表2記載の添加剤を加え、含水セルロース繊維の固形分を50質量%に変えたほかは、実施例1と同様にして、セルロース繊維配合樹脂組成物を得た。
【0032】
(比較例1)
機械処理工程で用いた含水セルロース繊維の固形分、処理回数、を表2記載の通り変えて処理した後、得られた機械処理したセルロース繊維を遠心分離機((株)コクサン製)を用いて20質量%まで濃縮したほかは、実施例1と同様にして、セルロース繊維配合樹脂組成物を得た。
【0033】
(比較例2)
機械処理工程で用いた含水セルロース繊維の固形分を表2の通り変えたほかは、実施例1と同様にして、セルロース繊維配合樹脂組成物を得た。
【0034】
(比較例3)
含水セルロース繊維の機械処理を行わなかったほかは、実施例2と同様にして、セルロース繊維配合樹脂組成物を得た。
【0035】
[樹脂組成物の評価]
[射出成形、曲げ物性の測定]
得られたセルロース繊維配合樹脂組成物を手動射出成形機(井元製作所(株)製;型式18D1)に投入し、射出温度200℃、金型温度25℃で射出成形し、厚さ2mmのダンベル型試験片(成形体)を得た。JISK7171に準拠して、オリエンテック株式会社製万能試験機「テンシロンRTM-50」にて曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0036】
[分散性の評価方法]
得られたセルロース繊維配合樹脂組成物0.5gを、熱プレス成形機((株)東洋精機製)を用いて190℃、圧力5MPaでフィルム(厚さ0.2mm)状に成形し、顕微鏡を用いてフィルムの中に存在する長辺0.2mm以上の凝集物の数を表1の基準に従って計数評価した。結果を表2に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
分散性の評価が4である場合、分散性は不充分であることを示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2中の添加剤は、以下の通りである。
ラウリルリン酸:東邦化学工業(株)製フォスファノール ML-200
炭酸カルシウム:奥多摩工業(株)製タマパール TP-121
シランカップリング剤:信越化学工業(株)製KBM-1003
HPC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース 信越化学工業(株)製メトローズ60SH10000
【0041】
実施例1―3と比較例1から、固形分30%~70%で処理する本発明の製造方法で得られた実施例1―3のセルロース繊維配合樹脂組成物は、固形分3%で7回機械処理を行っていた従来の方法で得られた比較例1のセルロース繊維配合樹脂組成物と比べ、同等の機械的強度と分散性を有し、本発明の方法を用いることで、機械処理工程でのセルロース繊維への大量の水の添加、および、処理後の遠心分離による濃縮工程を省略でき、疎水化工程における脱水量も少ないことがわかる。
【0042】
実施例1―3と比較例2の比較から、機械処理工程におけるセルロース繊維の固形分が90%の時に比べて、固形分30%~70%であると、その後の工程を経て得られるセルロース繊維配合樹脂組成物は優れた機械的強度と分散性を有することがわかる。
【0043】
実施例2と比較例3から、本発明に規定する機械処理工程を経て得られる機械処理したセルロース繊維を用いたセルロース繊維配合樹脂組成物は、機械処理工程を経ないセルロース繊維を用いたセルロース繊維配合樹脂組成物と比べて、優れた機械的強度と分散性を有することがわかる。