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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112430
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ベンダムスチン製剤の保存方法
(51)【国際特許分類】
   A61J 3/00 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
A61J3/00 300Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017420
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 喜子
(72)【発明者】
【氏名】小川 俊
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047AA01
4C047AA05
4C047BB12
4C047BB30
4C047CC03
4C047GG04
4C047GG08
4C047GG40
(57)【要約】
【課題】ベンダムスチン製剤を長期間保存できる方法を提供する。
【解決手段】本発明のベンダムスチン製剤の保存方法は、少なくとも3層を含有する酸素バリア性多層容器内にベンダムスチン製剤を保存する方法であり、前記多層容器の中間層に用いる酸素バリア性樹脂の酸素透過係数が5cc・mm/m2・day・atm以下であり、前記多層容器の最内層及び最外層が熱可塑性樹脂を含む層である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3層を含有する酸素バリア性多層容器内にベンダムスチン製剤を保存するベンダムスチン製剤の保存方法であって、
前記多層容器の中間層に用いる酸素バリア性樹脂の酸素透過係数が5cc・mm/m2・day・atm以下であり、
前記多層容器の最内層及び最外層が熱可塑性樹脂を含む層である、
ベンダムスチン製剤の保存方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系共重合体である、請求項1に記載のベンダムスチン製剤の保存方法。
【請求項3】
前記酸素バリア性多層容器が、バイアル又はプレフィルドシリンジ用容器である、請求項1又は2に記載のベンダムスチン製剤の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンダムスチン製剤の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンダムスチン製剤は、白血病、ホジキン病、及び多発性骨髄腫を含む多くの癌の治療に用いられる。ベンダムスチンは、市販の製品トレアンダ(Treanda(登録商標))の活性成分であり、再構成される凍結乾燥された粉末である。
【0003】
ベンダムスチンの凍結乾燥物は、通常、化学的に安定である。しかし、凍結乾燥物の再溶解物は化学的に不安定であり、凍結乾燥物を再溶解すると急速に分解して、不純物を生じる。また、臨床現場において、凍結乾燥物を再溶解するためには、その作業に15~30分間かかり、作業数も多いことから、作業効率が悪く、作業ミスのリスクも高い。更に、ベンダムスチンの水中での安定性は、数時間と非常に短い。
【0004】
そこで、ベンダムスチンの酸化速度を遅らせ、安定化時間を長くするために、ベンダムスチン製剤中に酸化防止剤を添加する方法が知られている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-20365号公報
【特許文献2】特表2013-518130号公報
【特許文献3】WO2021/161876A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~3のベンダムスチン製剤では、製薬上許容される酸化防止剤の種類や配合量などに限度があり、より長期に亘る安定性を得ることが難しい。
【0007】
そこで、ベンダムスチン製剤をより長期に亘り安定的に保存することで酸化による不純物を生じ難く、かつ、凍結乾燥物を再溶解することなく、そのまま使用可能なベンダムスチン製剤を得ることができる、ベンダムスチン製剤の保存方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酸化による不純物を生じ難く、ベンダムスチン製剤の保存安定性を向上させる保存方法について鋭意研究を行った結果、少なくとも3層を含有する酸素バリア性多層容器内にベンダムスチン製剤を保存する方法であって、その多層容器の中間層に用いる酸素バリア性樹脂の酸素透過係数が5cc・mm/m2・day・atm以下であり、その多層容器の最内層及び最外層が熱可塑性樹脂を含む層である多層容器に保存する方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の内容を含む。
【0010】
[1]少なくとも3層を含有する酸素バリア性多層容器内にベンダムスチン製剤を保存するベンダムスチン製剤の保存方法であって、前記多層容器の中間層に用いる酸素バリア性樹脂の酸素透過係数が5cc・mm/m2・day・atm以下であり、前記多層容器の最内層及び最外層が熱可塑性樹脂を含む層である、ベンダムスチン製剤の保存方法。
【0011】
[2]前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系共重合体である、[1]に記載のベンダムスチン製剤の保存方法。
【0012】
[3]前記酸素バリア性多層容器が、バイアル又はプレフィルドシリンジ用容器である、[1]又は[2]に記載のベンダムスチン製剤の保存方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のベンダムスチン製剤の保存方法によれば、ベンダムスチン製剤をより長期に亘り安定的に保存することで酸化による不純物を生じ難く、かつ、凍結乾燥物を再溶解することなく、そのまま使用可能なベンダムスチン製剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施形態に限定されない。
【0015】
[ベンダムスチン製剤の保存方法]
本実施形態のベンダムスチン製剤の保存方法は、少なくとも3層を含有する酸素バリア性多層容器内にベンダムスチン製剤を保存するベンダムスチン製剤の保存方法であって、多層容器の中間層に用いる酸素バリア性樹脂の酸素透過係数が5cc・mm/m2・day・atm以下であり、多層容器の最内層及び最外層が熱可塑性樹脂を含む層である。
【0016】
〔酸素バリア性多層容器〕
本実施形態で用いられる酸素バリア性多層容器は、少なくとも3層を含有し、酸素バリア性能の確保の観点から、多層容器の中間層に用いる酸素バリア性樹脂の酸素透過係数は、5cc・mm/m2・day・atmであり、多層容器の最内層及び最外層が熱可塑性樹脂を含む層である。多層容器としては、一般的な樹脂成形容器を用いることができる。
【0017】
(酸素バリア性樹脂)
酸素バリア性樹脂としては、酸素透過性が小さい樹脂や酸素吸収性能を有する樹脂を用いることができる。このような樹脂としては、JIS K 7126に準拠した方法で得られる酸素透過係数が5cc・mm/m2・day・atm以下である樹脂が好ましい。樹脂の原料としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。より優れた透明性を有し、内容物を好適に視認できる点から、樹脂としては、非晶性樹脂であることがより好ましい。
【0018】
薬液充填時に如何にガス置換操作を行ったとしても、充填時に混入した気泡に含まれる酸素や、内容物の液中に溶存する酸素を完全に取り除けない可能性がある。その場合、酸素バリア性樹脂として酸素吸収性能を有する樹脂を用いることで、容器の壁部を透過して外部から侵入してくる微量酸素の透過を抑制することができる。そのうえ、ベンダムスチン製剤の充填時に混入した気泡に含まれる酸素や薬液中の溶存酸素も吸収することができるため、酸素吸収性能を有する樹脂を用いることが更に好ましい。このような酸素吸収性能を有する樹脂としては、例えば、WO2013/077436A1に記載されたポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含む酸素吸収性樹脂組成物が好ましい。
【0019】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、公知のものを適宜用いることができる。
このような樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、並びにエチレン、プロピレン、1-ブテン、及び4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダム又はブロック共重合体等のポリオレフィン;無水マレイン酸グラフトポリエチレン及び無水マレイン酸グラフトポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体及びそのイオン架橋物(アイオノマー)、並びにエチレン-メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン-ビニル化合物共重合体;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、及びα-メチルスチレン-スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリアクリル酸メチル、及びポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン6I/6T、及びポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びポリヒドロキシアルカノエート等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリエチレンオキサイド等のポリエーテル等;ノルボルネンとエチレン等のオレフィンとを原料とした共重合体、テトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンとを原料とした共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)、及びノルボルネンを開環重合し、水素添加した重合物であるシクロオレフィンポリマー(COP)等のポリオレフィン系共重合体;並びにこれらの混合物等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、薬液を保存する都合上、耐薬品性、耐溶出性、及び耐衝撃性に優れる樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂としては、水蒸気バリア性を有することがより好ましく、JIS K 7126に準拠した方法で得られる水蒸気透過係数が1.0cc・mm/m2・day・atm以下であることが更に好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ノルボルネンとエチレン等のオレフィンとを原料とした共重合体、テトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンとを原料とした共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)、及びノルボルネンを開環重合し、水素添加した重合物であるシクロオレフィンポリマー(COP)等のポリオレフィン系共重合体が挙げられ、これらの樹脂が好適である。COC及びCOPは、例えば、特開平5-300939号公報及び特開平5-317411号公報に記載されている。
【0021】
(接着層)
本実施形態の酸素バリア性多層容器は、中間層として酸素バリア性樹脂を含む層と、最内層及び最外層として熱可塑性樹脂を含む層とを含めば、その他、所望する性能等に応じて任意の層を含んでいてもよい。そのような任意の層としては、例えば、接着層が挙げられる。
【0022】
本実施形態の酸素バリア性多層容器において、隣接する2つの層の間で実用的な層間接着強度が得られない場合には、当該2つの層の間に接着層(層AD)を設けることが好ましい。接着層は、接着性を有する熱可塑性樹脂を含むことがより好ましい。
このような接着性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂;ポリエステル系ブロック共重合体を主成分としたポリエステル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。接着層としては、接着性の観点から、熱可塑性樹脂と同種の樹脂を変性したものを用いることが更に好ましい。
【0023】
本実施形態に係る酸素バリア性多層容器において、中間層(酸素バリア性樹脂を含む層)の厚みは、特に限定されないが、1~1000μmであることが好ましく、より好ましくは10~900μmであり、更に好ましくは50~800μmである。中間層の厚みがこの範囲内にあることにより、加工性や経済性を過度に損なうことなく、酸素バリア性多層容器の酸素バリア性能がより高められ、より長期の保存が可能になる傾向にある。
【0024】
多層容器の厚さは、使用目的や大きさにより適宜設定でき、特に限定されないが、通常、0.5~20mm程度である。多層容器の厚さは、均一であっても、厚さを変えたものであってもよい。多層容器の表面は、表面処理されていないことが好ましい。多層容器の表面には、長期保存安定の目的で、別のガスバリア性や遮光性を有する膜が形成されていてもよい。このような膜、及びその形成方法としては、例えば、特開2004-323058号公報に記載された方法を採用できる。
【0025】
〔多層容器の製造方法及び層構成〕
本実施形態に係る酸素バリア性多層容器の製造方法及び多層容器の層構成については、特に限定されず、酸素バリア性多層容器は、通常の射出成形法により製造することができる。
【0026】
このような多層容器の製造方法としては、例えば、2台以上の射出機を備えた成形機及び射出用金型を用いて、中間層(酸素バリア性樹脂を含む層、以下、「層A」とも称する)を構成する材料、並びに最内層及び最外層(熱可塑性樹脂を含む層、以下、「層B」とも称する)を構成する材料をそれぞれの射出シリンダーから金型ホットランナーを介して、キャビティー内に射出することで、射出用金型の形状に対応した多層容器を製造する方法が挙げられる。本実施形態において、最内層と最外層とに用いる熱可塑性樹脂は、同一であっても異なっていてもよい。
また、別の実施態様としては、先ず、層Bを構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層Aを構成する材料を別の射出シリンダーから、層Bを構成する樹脂と同時に射出し、次に層Bを構成する樹脂を必要量射出してキャビティーを満たすことにより3層構造B/A/Bの多層容器を製造する方法が挙げられる。
【0027】
また、本実施形態では、5層構造の多層容器を用いてもよい。
このような多層容器の製造方法としては、先ず、層Bを構成する材料を射出し、次いで層Aを構成する材料を単独で射出し、最後に層Bを構成する材料を必要量射出して金型キャビティーを満たすことにより、5層構造B/A/B/A/Bの多層容器を製造する方法が挙げられる。この場合、それぞれの層Bに用いる熱可塑性樹脂は、同一であっても異なっていてもよい。
また、別の実施態様としては、先ず、層B1を構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層B2を構成する材料を別の射出シリンダーから、層B1を構成する樹脂と同時に射出し、次に層Aを構成する樹脂を、層B1及び層B2を構成する樹脂と同時に射出し、次に層B1を構成する樹脂を必要量射出してキャビティーを満たすことにより、5層構造B1/B2/A/B2/B1の多層容器を製造する方法が挙げられる。この場合、層B1又は層B2に用いる熱可塑性樹脂は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
〔多層容器の形状〕
本実施形態では、押出成形、及び圧縮成形(シート成形、ブロー成形)等の成形手段によって、多層容器を所望の形状に成形してもよい。
このような多層容器の形状としては、特に限定されないが、例えば、バイアル、及びプレフィルドシリンジが挙げられる。
【0029】
本実施形態に係る酸素バリア性多層容器は、バイアル又はプレフィルドシリンジ用容器であることが好ましい。
【0030】
(バイアル)
本実施形態のバイアルの構成としては、中間層の少なくとも一層が酸素バリア性樹脂を含む層であり、最内層及び最外層が熱可塑性樹脂を含む層であれば、特に限定されず、公知のバイアルの構成を適宜用いることができる。
【0031】
バイアルは、通常、射出ブロー成形、及び押出しブロー成形等の成形方法により製造される。射出ブロー成形方法としては、例えば、上記の多層容器の製造方法により得られた多層成形体を、ある程度加熱された状態を保ったまま最終形状金型(ブロー金型)に嵌め、空気を吹込み、膨らませて金型に密着させ、冷却固化させることでボトル状に成形する方法が挙げられる。
【0032】
(プレフィルドシリンジ用容器)
本実施形態のプレフィルドシリンジ用容器の構成は、公知のプレフィルドシリンジ用容器の構成を用いることができる。このようなプレフィルドシリンジ用容器としては、例えば、少なくとも薬液を充填するためのバレルと、バレルの一端に注射針を接合するための接合部と、使用時に薬液を押出すためのプランジャーとから構成される。この場合、バレルが、本実施形態に係る酸素バリア性多層容器であって、その多層容器の中間層の少なくとも一層が酸素バリア性樹脂を含む層であり、最内層及び最外層が熱可塑性樹脂を含む層である。
【0033】
プレフィルドシリンジ用容器は、通常、射出成形法により製造される。多層成形体となるバレルは、先ず、層Bを構成する樹脂をキャビティー内に一定量射出し、次いで層Aを構成する樹脂を一定量射出し、再び層Bを構成する樹脂を一定量射出することにより製造される。バレルと接合部とは、一体のものとして成形してもよく、別々に成形した後、これらを接合してもよい。
【0034】
[ベンダムスチン製剤]
ベンダムスチン製剤は、1回分以上の製薬上許容される投与量を、本実施形態に係る多層容器に保存される。ベンダムスチン製剤は、通常、約5~25℃の温度で貯蔵される。
【0035】
本実施形態の保存方法によれば、保存後のベンダムスチン製剤においても実質的に不純物を含まない。なお、本明細書において、「実質的に不純物を含まない」とは、約5℃~約45℃の温度で約15日間後に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により223nmの波長で測定された正規化ピーク面積応答(normalized peak area response)(PAR)に基づいて計算して、総不純物の含有濃度が、約5%未満であることを称する。不純物の含有濃度は、組成物又は製剤中に最初に存在するベンダムスチン(又はその塩)の含有量に基づいて計算される。
【0036】
保存後のベンダムスチン製剤において、約5℃~約45℃の温度で約15日後の貯蔵期間の後に、HPLCにより223nmの波長で測定したPARに基づいて計算した総不純物の含有濃度が2%以下であることが好ましい。本実施形態の保存方法によれば、ベンダムスチン製剤は、不純物を生じず、約18か月以上、好ましくは約2年以上保存することも可能となる。
【0037】
ベンダムスチン製剤において、製薬上許容される液体は、医薬品への使用に適した液体である。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0039】
なお、特に記載が無い限り、1H-NMR測定は室温で行った。なお、実施例ではバイアルを例に挙げているが、本明細書に示したとおり、プレフィルドシリンジ用容器に対する要求特性はバイアルに対するものと同じである。そのため、本発明がこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
<モノマーの合成例>
内容積18Lのオートクレーブに、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸ジメチル2.20kgと、2-プロパノール11.0kgと、5質量%パラジウムを活性炭に担持させた触媒350g(50質量%含水品)とを仕込んだ。次いで、オートクレーブ内の空気を窒素に置換し、更に窒素を水素に置換した後、オートクレーブ内の圧力が0.8MPaとなるまでオートクレーブ内に水素を供給した。その後、オートクレーブ内に設置された撹拌機を起動し、該撹拌機の回転速度を500rpmに調整した。オートクレーブ内の混合物を撹拌しながら、30分間かけて内温を室温から100℃まで上げた後、更にオートクレーブ内に水素を供給し、オートクレーブ内の圧力を1MPaとした。その後、反応の進行による圧力低下に応じ、1MPaを維持するようオートクレーブ内への水素の供給を続けた。7時間後にオートクレーブ内の圧力低下が無くなったので、オートクレーブを冷却し、未反応の残存水素を放出した後、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液を濾過し、触媒を除去した後、分離濾液から2-プロパノールをエバポレーターで蒸発させて粗生成物を得た。得られた粗生成物に、2-プロパノールを4.40kg加え、再結晶により精製し、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルを80%の収率で得た。精製したテトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルの融点は77℃であった。
なお、NMRの分析結果は、下記のとおりであった。
1H-NMR(400MHz CDCl3)δ7.76-7.96(2H m)、7.15(1H d)、3.89(3H s)、3.70(3H s)、2.70-3.09(5H m)、2.19-2.26(1H m)、1.80-1.95(1H m)。
【0041】
<ポリエステル化合物の製造例>
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置、及び窒素導入管を備えたポリエステル樹脂製造装置に、上記で得られたテトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル543gと、エチレングリコール217gと、テトラブチルチタネート0.038gと、酢酸亜鉛0.15gとを仕込み、装置内の混合物を窒素雰囲気下で、室温から230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を90%以上とした後、昇温と減圧とを徐々に90分間かけて行い、275℃、133Pa以下で重縮合を1時間行い、テトラリン環含有ポリエステル化合物(以下「ポリエステル化合物」とも称する。)を得た。
【0042】
得られたポリエステル化合物のガラス転移温度と融点とをDSC(示差走査熱量測定)により測定を行った結果、ガラス転移温度は69℃であり、融点は非晶性のため認められなかった。極限粘度は0.98dL/gであった。
【0043】
<酸素バリア性樹脂組成物の製造例>
上記で得られたポリエステル化合物100質量部に対し、ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量が0.00025質量部となるように加えて、ドライブレンドして混合物を得た。次いで、得られた混合物を、直径37mmのスクリューを2本有する2軸押出機に15kg/hの速度で供給し、シリンダー温度290℃の条件にて溶融混練を行い、その後、押出機ヘッドからストランドを押し出した。得られたストランドを、冷却後、ペレタイジングすることにより、酸素吸収機能を有する酸素バリア性樹脂組成物を得た。
【0044】
<バイアルの製造例>
下記の条件により、層Bを構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層Aを構成する材料を別の射出シリンダーから、層Bを構成する樹脂と同時に射出し、次に層Bを構成する樹脂を必要量射出して射出金型内キャビティーを満たすことにより、層B/層A/層Bの3層構成の射出成形体を得た。その後、射出成形体を所定の温度まで冷却し、ブロー金型へ移行した後、ブロー成形を行うことでバイアルを製造した。バイアルの総質量を5gとし、層Aの質量をバイアルの総質量の30質量%とした。
なお、層Bを構成する樹脂としては、シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、製品名:「ZEONEX(登録商標)5000」)を使用した。層Aを構成する樹脂としては、上記酸素バリア性樹脂の製造例で得られた酸素バリア性樹脂組成物を使用した。
バイアルの製造には、射出ブロー一体型成形機(日精エー・エス・ビー機械株式会社製、型式:ASB12N―10T、4個取り)を使用した。
【0045】
(多層容器の成形条件)
層A用の射出シリンダー温度:260℃
層B用の射出シリンダー温度:260℃
射出金型内樹脂流路温度 :260℃
ブロー温度 :150℃
ブロー金型冷却水温度 :40℃
【0046】
(バイアルの形状)
全高 :45mm
外径 :24mmφ
肉厚 :1mm
【0047】
<酸素バリア性樹脂組成物の酸素透過係数の測定>
上記で得られた酸素バリア性樹脂組成物を用いて、厚さが400μmのフィルムを作製した。その後、23℃、相対湿度60%RHの雰囲気にて、得られたフィルムの酸素透過率を測定し、酸素透過係数(cc・mm/m2・day・atm)を算出した。測定は、酸素透過率測定装置(MOCON社製、商品名:「OX-TRAN 2/21」)を使用して、JIS K 7126に準拠した方法で測定した。その結果を表1に示す。なお、酸素透過係数が低いほど、酸素バリア性が良好であることを示す。
【0048】
<ベンダムスチン製剤の保存試験>
ベンダムスチン塩酸塩(Treanda(登録商標)、シンバイオ製薬(株))をポリエチレングリコール400に50mg/mLの濃度で溶解することによりベンダムスチン含有組成物を調製し、非水系液体ベンダムスチン含有製剤を得た。その後、得られた非水系液体ベンダムスチン製剤5mLを上記で得られたバイアルに入れ、40℃にて、48時間、15日間、及び1ヵ月間静置保存した。
【0049】
<ベンダムスチン含有量、及びのベンダムスチン由来不純物の含有濃度の分析>
上記のベンダムスチン製剤の保存試験開始時、並びに48時間後、15日間後、及び1ヵ月後の保存液を用いて、ベンダムスチン含有量(mg/mL)及びベンダムスチンの残存率(%)、並びにベンダムスチン由来不純物の含有濃度(%)を分析した。具体的には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により223nmの波長で測定された正規化ピーク面積応答(PAR)に基づいて計算した。それらの結果を表1に示す。
なお、測定は、次の条件にて実施した。
カラム温度:30℃
洗浄液:水/メタノール混合液(体積比1:1)
移動相A:水/アセトニトリル混合液(体積比9:1)、0.1%トリフルオロ酢酸含有
移動相B:水/アセトニトリル混合液(体積比1:9)、0.1%トリフルオロ酢酸含有
また、移動相は、移動相A及び移動相Bの混合比を下記に示す混合比にて、濃度勾配制御を行いながら送液した。なお、流量は1.0mL/分とした。
0~25分間:移動相A/移動相B(容積比%:100→75/0→25)
25~35分間:移動相A/移動相B(容積比%:75→40/25→60)
35~35分間:移動相A/移動相B(容積比%:40→0/60→100)
36~41分間:移動相A/移動相B(容積比%:0/100)
41~55分間:移動相A/移動相B(容積比%:100/0)
【0050】
(実施例2)
ステアリン酸コバルト(II)に代えて、ヒンダートフェノール系酸化防止剤(商品名:「イルガノックス(登録商標)1010」)を0.2質量部用いること以外は実施例1と同様に行い、酸素バリア性樹脂組成物、及びバイアルを製造した。その後、実施例1と同様にして、得られた酸素バリア性樹脂組成物を用いて酸素透過係数を測定し、バイアルを用いて、ベンダムスチン製剤の保存試験を行った。それらの結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
酸素バリア性樹脂組成物に代えて、ポリアミド6I/6T(エムスケミ―社製、商品名:「グリボリー(登録商標)G21」)を用い、シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、商品名:「ZEONEX(登録商標)5000」)に代えて、シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、商品名:「ZEONEX(登録商標)690R」)を用いること以外は実施例1と同様に行い、バイアルを製造した。ポリアミド6I/6Tの酸素透過係数測定及びベンダムスチン製剤の保存試験を実施例1と同様にそれぞれ行った。それらの結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、製品名:「ZEONEX(登録商標)5000」)を用いて実施例1と同形状の単層のバイアルを製造した。その後、バイアルを用いて、ベンダムスチン製剤の保存試験を行った。それらの結果を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
市販のポリプロプレン製容器を用いて、実施例1と同様にして、ベンダムスチン製剤の保存試験を行った。それらの結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の結果から、本実施形態に係るバイアルは、ベンダムスチン製剤の保存性が良好であることがわかる。