(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112433
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】逆入力遮断クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/08 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
F16D41/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017423
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】田中 一宇
(57)【要約】
【課題】ロック性能を良好に確保でき、かつ、小型化を図りやすくする。
【解決手段】出力部材4の出力側係合部33と係合子5の出力側被係合部74との接触部の軸方向位置と、出力部材4と弾性部材6との接触部の軸方向位置とを一致させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に被押圧面を有する、被押圧部材と、
前記被押圧面の径方向内側に配置された入力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている、入力部材と、
前記被押圧面の径方向内側において前記入力側係合部よりも径方向内側に配置された出力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている、出力部材と、
前記被押圧面に対向する押圧面、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部、および、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部を有し、前記被押圧面の径方向内側に、前記被押圧面に対する遠近方向である第1方向の移動を可能に配置されている、係合子と、
前記出力部材と前記係合子との間に配置され、かつ、前記係合子を前記第1方向に関して前記被押圧面に近い側に向けて弾性的に押圧する、弾性部材と、
を備え、
前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との係合に基づいて、前記第1方向に関して前記被押圧面から遠ざかる方向に移動して、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させることにより、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材に伝達するのに対し、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力側係合部を前記出力側被係合部に係合させることにより、前記押圧面を前記被押圧面に押し付けて、前記押圧面を前記被押圧面に摩擦係合させるものであり、
前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部の軸方向位置と、前記出力部材と前記弾性部材との接触部の軸方向位置とが一致している、
逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
前記弾性部材は、少なくとも1枚の板ばねを有する、請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記第1方向と前記被押圧面の軸方向とのいずれにも直交する第2方向に関して、前記出力部材と前記弾性部材との接触部が、前記出力部材が所定方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部と、前記出力部材が前記所定方向と反対方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部との間に位置している、請求項2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項4】
前記弾性部材は、2枚の板ばねを有する、請求項2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項5】
前記第1方向と前記被押圧面の軸方向とのいずれにも直交する第2方向に関して、前記出力部材が所定方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部、および、前記出力部材が前記所定方向と反対方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部が、前記出力部材と前記2枚の板ばねとの接触部同士の間に位置している、請求項4に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項6】
前記出力部材のうちで前記弾性部材と接触する部分が、部分球面または部分円筒面により構成されている、請求項2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項7】
前記出力部材が、前記出力側係合部を有する出力部材本体と、前記弾性部材と接触する部分球面または部分円筒面状のばね押圧面を有する押圧部品とを備える、請求項6に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項8】
前記係合子は、前記弾性部材のうち、前記第1方向と前記被押圧面の軸方向とのいずれにも直交する第2方向に関する両側の端部を保持するためのばね保持部を有する、請求項2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項9】
前記係合子は、前記出力側係合部を径方向両側から挟むように2つ備えられており、かつ、前記弾性部材は、2つ備えられており、
それぞれの前記弾性部材は、前記出力部材とそれぞれの前記係合子との間に配置されている、請求項1~8のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材に入力される回転トルクを出力部材に伝達するのに対して、出力部材に逆入力される回転トルクを完全に遮断して入力部材に伝達しない、または、その一部のみを入力部材に伝達して残部を遮断する機能を有する、逆入力遮断クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
逆入力遮断クラッチは、駆動源などの入力側機構に接続される入力部材と、減速機構などの出力側機構に接続される出力部材とを備えており、入力部材に入力される回転トルクを出力部材に伝達するのに対し、出力部材に逆入力される回転トルクを完全に遮断して入力部材に伝達しないか、または、出力部材に逆入力される回転トルクの一部のみを入力部材に伝達して残部を遮断する機能を有する。
【0003】
逆入力遮断クラッチは、出力部材に逆入力される回転トルクを遮断する機構の相違により、ロック式の逆入力遮断クラッチとフリー式の逆入力遮断クラッチに大別される。ロック式の逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、出力部材の回転を防止する機構を備える。一方、フリー式の逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが入力された際に、出力部材を空転させる機構を備える。ロック式の逆入力遮断クラッチとフリー式の逆入力遮断クラッチとのいずれを使用するかについては、逆入力遮断クラッチを組み込む装置の用途などによって適宜決定される。
【0004】
国際公開2022/168466号パンフレットには、ロック式の逆入力遮断クラッチが記載されている。国際公開2022/168466号パンフレットに記載の逆入力遮断クラッチは、被押圧面を有する被押圧部材と、入力側係合部を有する入力部材と、出力側係合部を有する出力部材と、それぞれが入力側被係合部、出力側被係合部、および押圧面を有する2つの係合子と、弾性部材とを備える。
【0005】
前記2つの係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部が前記入力側被係合部に係合することに基づいて、前記被押圧面から離れる方向に変位し、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させて、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材に伝達する。
【0006】
これに対し、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記2つの係合子は、前記出力側係合部が前記出力側被係合部に係合することに基づいて、前記押圧面を前記被押圧面に押し付け、前記押圧面と前記被押圧面とを摩擦係合させる。これにより、前記出力部材に逆入力された回転トルクを完全に遮断して前記入力部材に伝達しないか、または、出力部材に逆入力される回転トルクの一部のみを前記入力部材に伝達して残部を遮断する。
【0007】
前記弾性部材は、前記被押圧面に対する前記押圧面の遠近方向である第1方向に関して前記出力側係合部と重畳する位置に配置され、前記出力側係合部と前記2つの係合子との間に弾性的に挟持されている。すなわち、前記弾性部材は、自身の弾性的な復元力に基づいて、前記2つの係合子を、前記第1方向に関して前記押圧面を前記被押圧面に近づける方向に付勢する。
【0008】
国際公開2022/168466号に記載の逆入力遮断クラッチによれば、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、速やかにロックまたは半ロック状態に切り換えることができる。すなわち、ロック性能を良好に確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2022/168466号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
国際公開2022/168466号パンフレットに記載の逆入力遮断クラッチでは、出力部材の出力側係合部と弾性部材とが、前記出力側係合部と係合子の出力側被係合部との係合部(接触部)から軸方向に外れた部分で接触している。具体的には、前記出力側係合部と前記弾性部材とが、前記係合子から軸方向両側に外れた部分で接触している。このため、軸方向寸法が嵩み、逆入力遮断クラッチの小型化を図る面から不利になる。
【0011】
本発明は、ロック性能を良好に確保でき、かつ、小型化を図りやすい、逆入力遮断クラッチの構造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1態様の逆入力遮断クラッチは、被押圧部材と、入力部材と、出力部材と、係合子と、弾性部材とを備える。
【0013】
前記被押圧部材は、内周面に被押圧面を有する。
【0014】
前記入力部材は、前記被押圧面の径方向内側に配置された入力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている。
【0015】
前記出力部材は、前記被押圧面の径方向内側において前記入力側係合部よりも径方向内側に配置された出力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている。
【0016】
前記係合子は、前記被押圧面に対向する押圧面、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部、および、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部を有し、前記被押圧面の径方向内側に、前記被押圧面に対する遠近方向である第1方向の移動を可能に配置されている。
【0017】
前記弾性部材は、前記出力部材と前記係合子との間に配置され、かつ、前記係合子を前記第1方向に関して前記被押圧面に近い側に向けて弾性的に押圧する。
【0018】
前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との係合に基づいて、前記被押圧面から遠ざかるように移動して、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させることにより、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材に伝達するのに対し、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力側係合部を前記出力側被係合部に係合させることにより、前記押圧面を前記被押圧面に押し付けて、前記押圧面を前記被押圧面に摩擦係合させる。
【0019】
特に本発明の第1態様の逆入力遮断クラッチでは、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部の軸方向位置と、前記出力部材と前記弾性部材との接触部の軸方向位置とが一致している。
【0020】
なお、本発明の第1態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部の軸方向位置が、前記出力部材と前記弾性部材との接触部の軸方向位置に一致しているとは、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部の軸方向位置が、前記出力部材と前記弾性部材との接触部の軸方向位置に完全に一致している場合だけでなく、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部の軸方向位置が、前記出力部材と前記弾性部材との接触部の軸方向位置と重複している、すなわち、前記出力部材と前記弾性部材との接触部の軸方向範囲内に位置している場合を含む。
【0021】
本発明の第2態様の逆入力遮断クラッチは、本発明の第1態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記弾性部材が、少なくとも1枚の板ばねを有することができる。
【0022】
本発明の第3態様の逆入力遮断クラッチは、本発明の第2態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記第1方向と前記被押圧面の軸方向とのいずれにも直交する第2方向に関して、前記出力部材と前記弾性部材との接触部を、前記出力部材が所定方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部と、前記出力部材が前記所定方向と反対方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部との間に位置させることができる。
【0023】
本発明の第4態様の逆入力遮断クラッチは、本発明の第2態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記弾性部材が、2枚の板ばねを有することができる。
【0024】
本発明の第5態様の逆入力遮断クラッチは、本発明の第4態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記第1方向と前記被押圧面の軸方向とのいずれにも直交する第2方向に関して、前記出力部材が所定方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部、および、前記出力部材が前記所定方向と反対方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部を、前記出力部材と前記2枚の板ばねとの接触部同士の間に位置させることができる。
【0025】
あるいは、本発明の第4態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記第2方向に関して、前記出力部材と前記2枚の板ばねとの接触部を、前記出力部材が所定方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部と、前記出力部材が前記所定方向と反対方向に回転する場合の前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部との間に位置させることができる。
【0026】
本発明の第6態様の逆入力遮断クラッチは、本発明の第2態様~第5態様のいずれかの態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記出力部材のうちで前記弾性部材と接触する部分を、部分球面または部分円筒面により構成することができる。
【0027】
本発明の第7態様の逆入力遮断クラッチは、本発明の第6態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記出力部材が、前記出力側係合部を有する出力部材本体と、前記弾性部材と接触する部分球面または部分円筒面状のばね押圧部を有する押圧部品とを備えることができる。
【0028】
本発明の第8態様の逆入力遮断クラッチは、本発明の第2態様~第7態様のいずれかの態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記係合子が、前記弾性部材のうち、前記第1方向と前記被押圧面の軸方向とのいずれにも直交する第2方向に関する両側の端部を保持するためのばね保持部を有することができる。
【0029】
本発明の第9態様の逆入力遮断クラッチは、本発明の第1態様~第8態様のいずれかの態様の逆入力遮断クラッチにおいて、前記係合子を、前記出力側係合部を径方向両側から挟むように2つ備えることができ、かつ、前記弾性部材を、2つ備えることができ、それぞれの前記弾性部材を、前記出力部材とそれぞれの前記係合子との間に配置することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様の逆入力遮断クラッチによれば、ロック性能を良好に確保でき、かつ、小型化を図りやすい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例の逆入力遮断クラッチの断面図である。
【
図2】
図2は、第1例の逆入力遮断クラッチを、入力側ハウジング素子を取り外して示す斜視図である。
【
図4】
図4は、第1例の逆入力遮断クラッチを、入力側ハウジング素子および入力部材を取り外して、
図1の右側から見た図である。
【
図5】
図5は、
図1のB-B断面を、一部の部材を省略し、かつ、入力部材および出力部材のいずれにも回転トルクが入力されていない中立状態で示す図である。
【
図6】
図6は、入力部材に回転トルクが入力された状態で示す、
図5と同様の図である。
【
図7】
図7は、出力部材に回転トルクが逆入力された状態で示す、
図5と同様の図である。
【
図8】
図8は、第1例の逆入力遮断クラッチを、入力部材と入力側ハウジング素子とを取り除いて示す分解斜視図である。
【
図9】
図9は、第1例の逆入力遮断クラッチを構成する入力部材を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、第1例の逆入力遮断クラッチを構成する2つの係合子を、それぞれに弾性部材を組み込んで示す斜視図である。
【
図11】
図11は、出力部材を構成する押圧部品を取り出して示す斜視図である。
【
図12】
図12(A)は、本発明の実施の形態の第2例の逆入力遮断クラッチについて、弾性部材が組み込まれた係合子を取り出して示す斜視図であり、
図12(B)は、該弾性部材が組み込まれた係合子を径方向内側から見た側面図である。
【
図13】
図13(A)は、本発明の実施の形態の第3例の逆入力遮断クラッチについて、弾性部材が組み込まれた係合子を取り出して示す斜視図であり、
図13(B)は、該弾性部材が組み込まれた係合子を軸方向から見た端面図であり、
図13(C)は、該弾性部材が組み込まれた係合子を径方向内側から見た側面図である。
【
図14】
図14(A)は、本発明の実施の形態の第4例の逆入力遮断クラッチについて、弾性部材が組み込まれた係合子を取り出して示す斜視図であり、
図14(B)は、該弾性部材が組み込まれた係合子を軸方向から見た端面図であり、
図14(C)は、該弾性部材が組み込まれた係合子を径方向内側から見た側面図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施の形態の第5例の逆入力遮断クラッチについて、出力部材を取り出して示す斜視図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施の形態の第6例の逆入力遮断クラッチを示す、
図5と同様の図である。
【
図18】
図18は、第6例の逆入力遮断クラッチを構成する出力部材を取り出して示す斜視図である。
【
図19】
図19は、本発明の実施の形態の第7例の逆入力遮断クラッチを構成する、出力部材と2個の係合子と1対の弾性部材とを取り出して示す斜視図である。
【
図21】
図21は、第7例の逆入力遮断クラッチを構成する出力部材を取り出して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図11を用いて説明する。
【0033】
以下の説明において、軸方向、径方向、および周方向とは、特に断らない限り、逆入力遮断クラッチ1、より具体的には逆入力遮断クラッチ1を構成する被押圧部材2の被押圧面7の軸方向、径方向、および周方向をいう。本例において、逆入力遮断クラッチ1の軸方向、径方向、および周方向は、入力部材3の軸方向、径方向、および周方向と一致し、かつ、出力部材4の軸方向、径方向、および周方向と一致する。また、逆入力遮断クラッチ1に関して、軸方向一方側とは、入力部材3の側(
図1および
図3の右側)をいい、軸方向他方側とは、出力部材4の側(
図1および
図3の左側)をいう。
【0034】
<逆入力遮断クラッチの構造の説明>
本例の逆入力遮断クラッチ1は、被押圧部材2と、入力部材3と、出力部材4と、係合子5と、弾性部材6とを備える。逆入力遮断クラッチ1は、入力部材3に入力される回転トルクを出力部材4に伝達するのに対し、出力部材4に逆入力される回転トルクは完全に遮断して入力部材3に伝達しないか、または、出力部材4に逆入力される回転トルクの一部のみを入力部材3に伝達して残部を遮断する逆入力遮断機能を有する。
【0035】
なお、本発明の一態様の逆入力遮断クラッチでは、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子の材質は、特に限定されない。たとえば、これらの材質として、鉄合金、銅合金、アルミニウム合金などの金属のほか、必要に応じて強化繊維を混入した合成樹脂などを適用することができる。また、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子を同じ材質により構成することもできるし、これらを異なる材質により構成することもできる。
【0036】
被押圧部材2は、固定の部分に支持固定されて、逆入力遮断クラッチ1の使用時にも回転しない。また、被押圧部材2は、軸方向中間部内周面に、円筒面状の凹面である被押圧面7を有する。本例では、被押圧部材2は、入力側ハウジング素子8と、出力側ハウジング素子9とを備える。
【0037】
出力側ハウジング素子9は、段付円筒面状の内周面を有する。出力側ハウジング素子9の内周面は、軸方向他方側の小径円筒面部10と、軸方向一方側の大径円筒面部11と、小径円筒面部10と大径円筒面部11とを接続し、かつ、軸方向一方側を向いた接続面部12とを備える。本例では、大径円筒面部11により、被押圧面7が構成されている。
【0038】
さらに、出力側ハウジング素子9は、小径円筒面部10の軸方向他方側の端部に、径方向内側に向けて突出した内向フランジ部13を、軸方向一方側の端部外周面に、円筒面状の内径側嵌合面部14を有する。
【0039】
入力側ハウジング素子8は、中空円形板状の側板部15と、該側板部15の径方向外側の端部から軸方向他方側に向けて全周にわたり折れ曲がった大径円筒部16と、側板部15の径方向中間部から軸方向一方側に向けて全周にわたり突出した小径円筒部17とを備える。大径円筒部16は、内周面に外径側嵌合面部18を有する。
【0040】
本例では、出力側ハウジング素子9の内径側嵌合面部14と、入力側ハウジング素子8の外径側嵌合面部18とを、インロー嵌合でがたつきなく嵌合させることにより、入力側ハウジング素子8と出力側ハウジング素子9とが径方向に位置決めされる。このように、入力側ハウジング素子8と出力側ハウジング素子9とを径方向に位置決めした状態で、入力側ハウジング素子8と出力側ハウジング素子9とは、図示しないボルトなどの結合部材により互いに結合されて被押圧部材2を構成する。被押圧部材2は、前記固定の部分に備えられた通孔に挿通したボルトを、出力側ハウジング素子9の軸方向他方側の側面に開口するねじ孔19に螺合することにより、前記固定の部分に支持固定される。
【0041】
入力部材3は、電動モータなどの入力側機構に接続され、回転トルクが入力される。入力部材3は、入力軸部20と、入力フランジ部21と、入力側係合部22とを有する。
【0042】
本例では、入力軸部20は、円筒形状を有する。
【0043】
入力フランジ部21は、入力軸部20の軸方向他方側の端部外周面から径方向外側に向けて全周にわたり突出している。
【0044】
本例では、入力側係合部22は、入力フランジ部21の軸方向他方側の側面の径方向反対側2箇所位置からそれぞれ軸方向他方側に向けて突出している。入力側係合部22の個数は、係合子5の個数に対応する。すなわち、本例では、入力部材3は、2個の入力側係合部22を備え、これらの入力側係合部22は、入力部材3の径方向に関して互いに離隔している。2個の入力側係合部22は、入力フランジ部21の軸方向他方側の側面のうち、入力部材3の回転中心Oから径方向外側に外れた部分に配置されている。
【0045】
2個の入力側係合部22は、軸方向から見て略扇形で、かつ、周方向に関して対称な端面形状を有する。具体的には、それぞれの入力側係合部22の径方向内側面23は、互いに平行な平坦面により構成されており、かつ、それぞれの入力側係合部22の径方向外側面24は、入力フランジ部21の外周面と同じ円筒面状の輪郭形状を有する。また、それぞれの入力側係合部22の1対の周方向側面25は、径方向外側に向かうほど互いに離れる方向に傾斜した平坦面により構成されている。
【0046】
入力部材3は、入力側ラジアル転がり軸受26により、被押圧部材2の入力側ハウジング素子8の内側に回転自在に支持されている。入力側ラジアル転がり軸受26の外輪27は、入力側ハウジング素子8の小径円筒部17にがたつきなく内嵌され、かつ、側板部15の軸方向一方側の側面の径方向内側部分と、小径円筒部17の軸方向一方側部分に係止された止め輪30aとの間で軸方向に挟持されている。入力側ラジアル転がり軸受26の内輪28は、入力部材3の入力軸部20の軸方向他方側の端部にがたつきなく外嵌され、かつ、入力フランジ部21の軸方向一方側の側面と、入力軸部20の軸方向中間部外周面に係止された止め輪30bとの間で軸方向に挟持されている。
【0047】
本例では、入力側ラジアル転がり軸受26は、転動体29として玉を使用した玉軸受により構成されている。ただし、入力部材3を支持するための入力側ラジアル転がり軸受は、転動体として円すいころを使用した円すいころ軸受や円筒ころを使用したころ軸受により構成することもできる。
【0048】
入力部材3を被押圧部材2の内側に回転自在に支持した状態で、2個の入力側係合部22は、被押圧面7の径方向内側に配置される。
【0049】
出力部材4は、減速機構などの出力側機構に接続され、回転トルクを出力する。出力部材4は、入力部材3と同軸に配置されている。本例では、出力部材4は、出力軸部31と、出力フランジ部32と、出力側係合部33と、小径軸部34とを有する。
【0050】
出力軸部31は、円柱形状を有する。
【0051】
出力フランジ部32は、出力軸部31の軸方向一方側の端部外周面から径方向外側に向けて全周にわたり突出している。
【0052】
出力側係合部33は、出力フランジ部32の軸方向一方側の側面の中央部から軸方向一方側に向けて突出している。出力側係合部33は、カム機能を有する。すなわち、出力部材4の回転中心Oから出力側係合部33の外周面までの距離は、周方向に関して一定でない。
【0053】
出力側係合部33は、軸方向から見て略矩形の端面形状を有する。すなわち、出力側係合部33の外周面は、1対の長辺部38と、1対の短辺部39とからなる。出力側係合部33は、出力部材4の回転中心Oを通り、かつ、1対の長辺部38に直交する仮想平面に対して面対称であり、かつ、出力部材4の回転中心Oを通り、かつ、1対の長辺部38に平行な仮想平面に対して面対称である。なお、1対の短辺部39は、出力フランジ部32の外周面と同一の円筒面上に存在している。
【0054】
小径軸部34は、円柱形状を有し、出力側係合部33の軸方向一方側の側面の中央部から軸方向一方側に向けて突出している。小径軸部34の外径寸法は、出力側係合部33の外周面を構成する1対の長辺部38同士の間隔よりも大きい。すなわち、小径軸部34の径方向外側部分が、長辺部38の長さ方向中間部から径方向外側に突出している。ただし、小径軸部34の外形寸法を、1対の長辺部38同士の間隔と同じとする、若しくは1対の長辺部38同士の間隔よりも小さくすることもできる。あるいは、小径軸部34を省略することもできる。
【0055】
本例では、出力部材4は、出力側係合部33の外周面を構成する1対の長辺部38のうち、該出力側係合部33の長辺方向(
図4および
図5の左右方向)に関する中間部から径方向外側に向けて突出するばね押圧部40を有する。それぞれのばね押圧部40は、先端部(径方向外側の端部)に、部分球面状のばね押圧面41を有する。
【0056】
本例では、出力部材4は、出力部材本体42と2個の押圧部品43とを結合固定してなる。
【0057】
出力部材本体42は、出力軸部31と、出力フランジ部32と、出力側係合部33と、小径軸部34とを有する。出力部材本体42は、出力側係合部33の外周面を構成する1対の長辺部38のうち、該出力側係合部33の長辺方向に関する中間部に、有底の取付孔44を有する。本例では、それぞれの取付孔44は、ねじ孔により構成されている。
【0058】
それぞれの押圧部品43は、ばね押圧部40と、該ばね押圧部40の基端面から突出した略円柱状の軸部45とを備える。
【0059】
ばね押圧部40は、基端側の非円柱部71と、先端側の半球部72とを有する。本例では、非円柱部71は、六角柱形状を有する。すなわち、本例では、ばね押圧部40は、袋ナットのごとき形状を有する。ばね押圧面41は、半球部72の表面により構成されている。
【0060】
軸部45は、外周面に雄ねじ部を有する。
【0061】
出力部材本体42と2個の押圧部品43とは、それぞれの押圧部品43の軸部45を、出力部材本体42のそれぞれの取付孔44に螺合することにより結合固定されて、出力部材4を構成する。
【0062】
なお、出力部材本体と2個の押圧部品とは、取付孔を圧入孔により構成し、該取付孔にそれぞれの押圧部品の軸部を圧入することで結合固定することもできる。および/または、取付孔は、出力側係合部を、短辺方向(
図5の上下方向)に貫通するように形成することもできる。この場合、貫通孔である取付孔の両側の端部(開口部)に、2個の押圧部品のそれぞれを結合固定することができる。あるいは、出力部材を、全体を一体に構成することもできる。
【0063】
出力部材4の出力軸部31は、出力側ラジアル転がり軸受46により、出力側ハウジング素子9の内側に回転自在に支持されている。出力側ラジアル転がり軸受46の外輪47は、出力側ハウジング素子9の小径円筒面部10にがたつきなく内嵌され、かつ、内向フランジ部13の軸方向一方側の側面と、小径円筒面部10の軸方向一方側の端部に係止された止め輪50aとの間で軸方向に挟持されている。出力側ラジアル転がり軸受46の内輪48は、出力軸部31にがたつきなく外嵌され、かつ、出力フランジ部32の軸方向他方側の側面と、出力軸部31の軸方向中間部外周面に係止された止め輪50bとの間で軸方向に挟持されている。
【0064】
本例では、出力側ラジアル転がり軸受46は、転動体49として玉を使用した玉軸受により構成されている。ただし、出力部材4を支持するためのラジアル転がり軸受は、転動体として円すいころを使用した円すいころ軸受や円筒ころを使用したころ軸受により構成することもできる。
【0065】
出力部材4の小径軸部34は、入力部材3の内側に挿入されている。なお、小径軸部34の外周面と、入力部材3の内周面との間に、滑り軸受などのラジアル軸受を配置することもできる。小径軸部34の軸方向他方側の端部の外周面には、軸方向一方側に隣接する部分よりも外径が小さくなった段部51が全周にわたって形成されている。
【0066】
出力部材4を被押圧部材2の内側に回転自在に支持した状態で、出力側係合部33は、2個の入力側係合部22同士の間に配置される。
【0067】
係合子5は、被押圧面7に対向する押圧面52と、入力側係合部22と係合可能な入力側被係合部53と、出力側係合部33に係合可能な出力側被係合部74とを有し、被押圧面7に対する遠近方向である第1方向に関して被押圧面7と出力側係合部33との間に、前記第1方向の移動を可能に配置されている。
【0068】
本例の逆入力遮断クラッチ1は、2個の係合子5を備える。2個の係合子5は、それぞれの押圧面52を径方向に関して互いに反対側に向け、かつ、それぞれの径方向内側面を互いに対向させた状態で、被押圧部材2の径方向内側に、第1方向の移動を可能に配置される。なお、本発明の逆入力遮断クラッチを実施する場合、係合子の数は任意であり、係合子の数を、1個または3個以上とすることもできる。この場合、入力側係合部および出力側係合部の構成を、係合子の数に応じて適宜変更することができる。
【0069】
なお、係合子5に関する説明において、係合子5の径方向は、
図4に矢印αで示した、係合子5の被押圧面7に対する遠近方向、すなわち第1方向を意味する。また、係合子5の幅方向は、
図4に矢印βで示した、第1方向と被押圧面7の軸方向とのいずれにも直交する方向、すなわち第2方向を意味する。さらに、係合子5の幅方向に関して内側とは、係合子5の幅方向中央側を意味し、係合子5の幅方向に関して外側とは、係合子5の幅方向両側を意味する。
【0070】
2個の係合子5を構成するそれぞれの係合子5は、径方向外側面のうちで周方向に離隔した2箇所位置に、被押圧面7に対向する1対の押圧面52を有し、かつ、径方向外側面のうちで1対の押圧面52の間に位置する周方向中央部に、略円弧形の切り欠き部54を有する。それぞれの押圧面52は、被押圧面7の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する部分円筒面状の凸曲面により構成されている。
【0071】
係合子5の径方向外側面のうち、切り欠き部54を含む、1対の押圧面52から周方向に外れた部分は、軸方向から見た場合に、入力部材3の中心軸Oを中心とし、かつ、1対の押圧面52に接する仮想円よりも、径方向内側に存在している。すなわち、1対の押圧面52が被押圧面7に当接した状態で、係合子5の径方向外側面のうち、1対の押圧面52から周方向に外れた部分は、被押圧面7に当接しない。
【0072】
それぞれの押圧面52は、係合子5のその他の部分の表面よりも被押圧面7に対する摩擦係数が大きい表面性状を有することが好ましい。また、押圧面52は、係合子5と一体に構成することもできるし、係合子5の径方向外側面などに、貼着や接着などにより固定された摩擦材の表面により構成することもできる。
【0073】
係合子5は、径方向内側面の幅方向中央部に、径方向外側に向けて凹んだ凹部55を有し、かつ、径方向内側面のうちで凹部55から外れた幅方向両側部分に、出力側被係合部74を有する。本例では、2つの出力側被係合部74のそれぞれは、平坦面により構成されている。すなわち、出力側被係合部74は、係合子5の径方向内側面のうちで、凹部55の幅方向両側部分に備えられた第1方向に直交する平坦面部56の幅方向内側部分により構成されている。2個の係合子5の平坦面部56は、該2個の係合子5を被押圧部材2の内側に配置した状態で、互いに平行に配置される。
【0074】
本例の逆入力遮断クラッチ1では、
図6に示すように、出力部材4に回転トルクが逆入力されると、平坦面状の出力側被係合部74が、出力側係合部33と係合(接触)する。
【0075】
凹部55は、軸方向から見て略矩形の開口形状を有する。すなわち、凹部55の内面は、第1方向に直交する底面57と、第2方向に関して互いに対向する1対の内側面58とを有する。
【0076】
本例では、係合子5は、凹部55の内面を構成する1対の内側面58の径方向中間部に、該1対の内側面58から第2方向に伸長するスリット59を有する。本例では、それぞれのスリット59は、内側面58だけでなく、係合子5の軸方向両側面にも開口している。換言すれば、それぞれのスリット59は、係合子5を軸方向に貫通し、かつ、内側面58に開口する。スリット59は、平坦面部56と略平行に配置されている。スリット59の幅方向外側の端部(底部)は、幅方向に関して出力側係合部33の短辺部39とほぼ同じ位置または該短辺部39よりも少しだけ幅方向外側に配置されている。ただし、スリット59の幅方向外側の端部を、幅方向に関して短辺部39よりも幅方向内側に配置することもできる。
【0077】
係合子5は、幅方向中央部の径方向中間部に、入力側係合部22と係合可能な入力側被係合部53を有する。本例では、入力側被係合部53は、軸方向から見て略弓形の開口形状を有し、かつ、係合子5の幅方向中央位置の径方向中間部を軸方向に貫通する貫通孔により構成されている。入力側被係合部53は、入力側係合部22を緩く挿入できる大きさを有する。したがって、入力側被係合部53の内側に入力側係合部22を挿入した状態で、入力側係合部22と入力側被係合部53の内面との間には、係合子5の幅方向および径方向にそれぞれ隙間が存在する。このため、入力側係合部22は、係合子5の入力側被係合部53に対し、入力部材3の回転方向に関する変位が可能であり、入力側被係合部53は、入力側係合部22に対し、係合子5の径方向の変位が可能である。本例では、入力側被係合部53は、径方向内側面(径方向外側を向いた面)に、平坦面部56と平行な平坦面60を有する。
【0078】
本発明の一態様の逆入力遮断クラッチを実施する場合、入力側被係合部を、係合子の軸方向一方側の側面にのみ開口する有底孔により構成することもできる。あるいは、入力側被係合部を、係合子の径方向外側面に開口する切り欠きにより構成することもできる。
【0079】
弾性部材6は、出力部材4と係合子5との間に配置され、かつ、係合子5を第1方向に関して被押圧面7に近い側に向けて弾性的に押圧する。
【0080】
弾性部材6は、係合子5と同数備えられる。すなわち、本例の逆入力遮断クラッチ1は、2個の弾性部材6を備える。
【0081】
本例では、それぞれの弾性部材6は、1枚の板ばね61により構成されている。
【0082】
板ばね61は、出力部材4と係合子5との間に配置される以前の自由状態において、矩形平板状に構成されている。ただし、板ばね61は、自由状態において、係合子5の幅方向、すなわち第2方向に関する中間部に、係合子5の径方向に関して外側が凸となるように湾曲した湾曲部を有することもできる。
【0083】
板ばね61は、係合子5の幅方向(第2方向)に関する両側の端部を、係合子5に備えられたスリット59に挿入することで、係合子5に対し、径方向内側への脱落を不能に保持される。すなわち、本例では、それぞれのスリット59により、板ばね61(弾性部材6)の第2方向に関する両側の端部を保持するためのばね保持部が構成されている。
【0084】
本例では、板ばね61は、係合子5の軸方向に関する厚さ寸法と同じか、または、該厚さ寸法よりも小さい、軸方向に関する幅寸法を有する。このため、板ばね61を係合子5に組み付けた状態で、板ばね61は、係合子5の軸方向両側の側面から軸方向に突出しない。
【0085】
それぞれに板ばね61(弾性部材6)が組み付けられた2個の係合子5を被押圧部材2の径方向内側に配置した状態で、入力部材3を構成する2個の入力側係合部22は、それぞれの係合子5の入力側被係合部53の内側に配置され、かつ、出力部材4の出力側係合部33は、2個の係合子5の出力側被係合部74(平坦面部56)の間に配置される。また、出力部材4の2個のばね押圧部40(ばね押圧面41)に、2個の係合子5に組み込まれた板ばね61(弾性部材6)のうち、係合子5の幅方向に関する中間部が押し付けられて、該板ばね61が弾性変形する。それぞれの係合子5は、弾性変形した板ばね61が弾性的に復元しようとする力によって、第1方向に関して被押圧面7に近い側に向けて弾性的に押圧される。
【0086】
なお、弾性部材6(板ばね61)の弾力は、入力部材3および出力部材4のいずれにも回転トルクが入力されていない中立状態では、弾性的に復元しようとする力に基づいて、係合子5を第1方向に関して被押圧面7に近い側に向けて弾性的に押圧することにより、係合子5の1対の押圧面52を被押圧面7に当接させるのに対し、入力部材3に回転トルクが入力された場合には、入力側係合部22の径方向内側面23が入力側被係合部53の平坦面60を径方向内側に向けて押圧し、1対の押圧面52を被押圧面7から離隔させられる程度の大きさである。
【0087】
また、係合子5の第1方向に関する位置にかかわらず、すなわち入力部材3に回転トルクが入力されているか、出力部材4に回転トルクが逆入力されているかにかかわらず、係合子5が板ばね61(弾性部材6)からの押圧力を得られるように、係合子5に対する板ばね61の組付位置、および、長辺部38からのばね押圧部40の突出量が規制されている。
【0088】
本例の逆入力遮断クラッチ1は、1対のスペーサ62と、ストッパ部材63とをさらに備える。
【0089】
それぞれのスペーサ62は、平板状に構成され、軸方向から見て略長円形または略矩形の端面形状を有する。それぞれのスペーサ62は、出力側係合部33および小径軸部34をがたつきなく挿通可能な通孔64を有する。1対のスペーサ62は、それぞれの通孔64に出力側係合部33および小径軸部34をがたつきなく挿通した状態で、2個の係合子5の軸方向両側に配置される。1対のスペーサ62は、2個の係合子5に組み付けられた弾性部材6(板ばね61)が、スリット59から軸方向に脱落することを防止している。
【0090】
本例では、
図3に示すように、1対のスペーサ62のうち、軸方向他方側のスペーサ62は、通孔64の軸方向他方側の開口縁に、面取り部65を有する。面取り部65は、直線状の断面形状を有するC面取りにより構成されている。また、面取り部65の面取り深さを、出力フランジ部32の軸方向一方側の側面と出力側係合部33の長辺部38とを接続する隅R部66の面取り半径以上としている。面取り部65が存在することにより、軸方向他方側のスペーサ62に備えられた通孔64の軸方向他方側の開口縁と、隅R部66との干渉が効果的に防止される。なお、本例では、軸方向一方側のスペーサ62は、通孔64の軸方向一方側の開口縁に、面取り部65を有する。
【0091】
ストッパ部材63は、欠円環状の止め輪により構成されている。すなわち、ストッパ部材63は、軸方向から見て略C字形の端面形状を有する。
【0092】
ストッパ部材63は、小径軸部34の軸方向他方側の端部に設けられた段部51の周囲に配置され、かつ、該段部51の軸方向一方側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった段差面と軸方向一方側のスペーサ62との間で挟持されている。換言すれば、2個の係合子5は、1対のスペーサ62とストッパ部材63とを介して、出力フランジ部32の軸方向一方側の側面と前記段差面との間で軸方向に挟持されている。これにより、出力部材4に対する2個の係合子5の軸方向に関する相対変位が防止されている。
【0093】
<逆入力遮断クラッチの動作の説明>
本例の逆入力遮断クラッチ1の動作について、
図6および
図7を用いて説明する。なお、
図6および
図7においては、入力部材3および出力部材4と、2個の係合子5との間の径方向に関する隙間が誇張して示されている。
【0094】
まず、入力部材3に入力側機構から回転トルクが入力された場合を説明する。
【0095】
入力部材3に回転トルクが入力されると、
図6に示すように、入力側被係合部53の内側で、入力側係合部22が入力部材3の回転方向(
図6の例では反時計方向)に回転する。すると、入力側係合部22の径方向内側面23が入力側被係合部53の平坦面60を径方向内側に向けて押圧し、係合子5を、弾性部材6の弾性復元力に抗して、被押圧面7から離れる方向に移動させる。つまり、係合子5を、入力部材3との係合に基づき、径方向内側に向けて移動させる。本例では、2個の入力側係合部22と2個の係合子5との係合により、
図6の上側に位置する係合子5を下側に向けて、
図6の下側に位置する係合子5を上側に向けて、それぞれ移動させる。
【0096】
これにより、係合子5が径方向内側に移動し、係合子5の出力側被係合部74が出力部材4の出力側係合部33と係合する。本例では、2個の係合子5の径方向内側面が互いに近づく方向に移動し、2個の係合子5の出力側被係合部74が出力部材4の出力側係合部33を径方向両側から挟持する。具体的には、係合子5の出力側被係合部74と出力側係合部33とが係合すると、出力部材4が、出力側係合部33の長辺部38が係合子5の平坦面部56と平行になるように回転して、出力側係合部33と出力側被係合部74とをがたつきなく当接させる。この結果、入力部材3に入力された回転トルクは、係合子5を介して、出力部材4に伝達され、出力部材4から出力される。
【0097】
本例の逆入力遮断クラッチ1では、入力部材3に回転トルクが入力されると、入力部材3の回転方向に関係なく、係合子5が、被押圧面7から離れる方向に移動する。そして、入力部材3に入力された回転トルクが、係合子5を介して、出力部材4に伝達される。
【0098】
次に、出力部材4に出力側機構から回転トルクが逆入力された場合を説明する。
【0099】
出力部材4に回転トルクが逆入力されると、
図7に示すように、出力側係合部33が出力部材4の回転方向(
図7の例では時計方向)に回転する。すると、出力側係合部33の外周面を構成する長辺部38のうち、該出力側係合部33の長辺方向に関する端部が、係合子5のうち、平坦面部56の幅方向内側部分に備えられた出力側被係合部74を、径方向外側に向けて押圧し、係合子5を被押圧面7に近づく方向に、すなわち径方向外側に向けて押圧する。これにより、係合子5の1対の押圧面52を被押圧面7に対し押し付けて、該1対の押圧面52と被押圧面7とを摩擦係合させる。本例では、出力部材4の出力側係合部33と2個の係合子5の出力側被係合部74との係合により、2個の係合子5を互いに離れる方向に、すなわち、
図7の上側に位置する係合子5を上側に向けて、
図7の下側に位置する係合子5を下側に向けてそれぞれ押圧して、それぞれの係合子5の1対の押圧面52と被押圧面7とを摩擦係合させる。
【0100】
この結果、出力部材4に逆入力された回転トルクが完全に遮断されて入力部材3に伝達されないか、または、出力部材4に逆入力された回転トルクの一部のみが入力部材3に伝達され残部が遮断される。出力部材4に逆入力された回転トルクを完全に遮断して入力部材3に伝達されないようにするには、係合子5の押圧面52が被押圧面7に対して摺動(相対回転)しないように、係合子5を出力側係合部33と被押圧部材2との間で突っ張らせて、出力部材4をロックする。これに対して、出力部材4に逆入力された回転トルクのうちの一部のみが入力部材3に伝達され残部が遮断されるようにするには、押圧面52が被押圧面7に対して摺動できるように、係合子5を出力側係合部33と被押圧部材2との間で突っ張らせて、出力部材4を半ロックする。
【0101】
本例の逆入力遮断クラッチ1では、以上の動作が可能となるように、各構成部材間の隙間の大きさが調整されている。特に、係合子5の1対の押圧面52が被押圧面7に接触した位置関係において、入力側係合部22の径方向内側面23と入力側被係合部53の平坦面60との間に、長辺部38のうち、出力側係合部33の長辺方向に関する端部が出力側被係合部74を押圧することに基づいて1対の押圧面52を被押圧面7に向けてさらに押し付けることを許容する隙間が存在するようにしている。これにより、出力部材4に回転トルクが逆入力されたときに、係合子5を径方向外側に向けて押圧するのを入力側係合部22によって阻止されることを防止し、かつ、1対の押圧面52が被押圧面7に接触した後も、該1対の押圧面52と被押圧面7との接触部に作用する面圧が、出力部材4に逆入力された回転トルクの大きさに応じて変化するようにすることで、出力部材4のロックまたは半ロックが適正に行われるようにしている。
【0102】
本例の逆入力遮断クラッチ1では、出力部材4と係合子5との間に配置された弾性部材6により、係合子5を、第1方向に関して被押圧面7に近い側に向けて弾性的に押圧している。これにより、入力部材3に回転トルクが入力された場合を除いて、係合子5の1対の押圧面52を被押圧面7に当接させておくことができる。このため、出力部材4に回転トルクが逆入力された際に、1対の押圧面52と被押圧面7との当接部の面圧を速やかに上昇させて、逆入力遮断クラッチ1をロックまたは半ロック状態に切り換えることができる。要するに、本例の逆入力遮断クラッチ1によれば、ロック性能を良好に確保することができる。
【0103】
本例の逆入力遮断クラッチ1では、出力側係合部33の外周面を構成する長辺部38から径方向外側に向けて突出するばね押圧部40の先端部に備えられたばね押圧面41により、それぞれの係合子5に組み付けられた弾性部材6(板ばね61)を、第1方向に関して被押圧面7に近い側(径方向外側)に向けて弾性的に押圧している。したがって、本例の逆入力遮断クラッチ1では、出力側係合部33と出力側被係合部74との接触部の軸方向位置と、出力部材4を構成するばね押圧面41と弾性部材6との接触部の軸方向位置とが一致する。具体的には、本例では、ばね押圧面41と弾性部材6との接触部の軸方向位置は、出力側係合部33と出力側被係合部74との接触部の軸方向範囲内に位置する。このため、本例の逆入力遮断クラッチ1は、国際公開2022/168466号パンフレットに記載の逆入力遮断クラッチのように、出力側係合部と弾性部材とが、出力側係合部と出力側被係合部との接触部から軸方向に外れた部分で接触している構造に比べて軸方向寸法を抑えやすく、小型化を図りやすくすることができる。
【0104】
また、本例の逆入力遮断クラッチ1では、2個の係合子5をいずれも、弾性部材6により、第1方向に関して被押圧面7に近い側に向けて弾性的に押圧している。このため、2個の係合子5の姿勢を同期させるとともに安定させることができる。
【0105】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図12(A)および
図12(B)を用いて説明する。本例では、板ばね61(弾性部材6)の第2方向に関する両側の端部を保持するためのばね保持部の構造が、第1例と異なる。
【0106】
本例では、係合子5aは、凹部55の内面を構成する1対の内側面58の径方向中間部に、該1対の内側面58から第2方向に伸長するスリット59aを有する。本例では、それぞれのスリット59aは、内側面58と、係合子5aの軸方向一方側の側面とに開口しており、かつ、係合子5aの軸方向他方側の側面には開口していない。すなわち、それぞれのスリット59aの軸方向他方側の端部は、塞がれている。
【0107】
板ばね61は、第2方向に関する両側の端部を、係合子5aに備えられたスリット59aに軸方向一方側から挿入することで、係合子5aに対し、径方向内側および軸方向他方側への脱落を不能に保持される。
【0108】
なお、本例では、板ばね61の軸方向に関する幅寸法を、スリット59aの軸方向寸法と同じか、または、該軸方向寸法よりも小さくしている。これにより、板ばね61を係合子5aに組み付けた状態で、板ばね61が、係合子5aの軸方向一方側の側面から軸方向に突出しないようにしている。
【0109】
本例によれば、第1例の逆入力遮断クラッチ1が、係合子5aに組み付けられた弾性部材6(板ばね61)が、スリット59から軸方向に脱落することを防止するために備えていた1対のスペーサ62のうちの軸方向他方側のスペーサ62を省略することができる。
【0110】
なお、スリット59aを、内側面58と、係合子5aの軸方向他方側の側面とに開口し、かつ、係合子5aの軸方向一方側の側面に開口しないように形成することもできる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0111】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図13(A)~
図13(C)を用いて説明する。
【0112】
本例では、係合子5bの径方向内側面の幅方向中央部に備えられた凹部55aの内面を構成する1対の内側面58aは、軸方向から見てクランク形の段付面により構成されている。すなわち、それぞれの内側面58aは、係合子5bの径方向に関して外側に配置された第1面67と、係合子5bの径方向に関して内側に配置され、かつ、第1面67に対して、係合子5bの幅方向に関して外側にオフセットした第2面68と、該第1面67と該第2面68とを接続する段差面69とを有する。
【0113】
さらに、係合子5bは、段差面69の軸方向中間部に、径方向外側に向けて凹んだ台座部70を有する。台座部70は、段差面69と第1面67とにのみ開口しており、係合子5bの軸方向両側の側面には開口していない。
【0114】
本例では、板ばね61は、第2方向に関する両側の端部を台座部70の内側にがたつきなく配置され、台座部70の底面(係合子5bの径方向内側を向いた面)と出力部材4のばね押圧部40の先端部(ばね押圧面41)との間で弾性的に挟持される。
【0115】
本例によれば、第1例の逆入力遮断クラッチ1が、係合子5に組み付けられた弾性部材6(板ばね61)が、スリット59から軸方向に脱落することを防止するために備えていた1対のスペーサ62(
図8など参照)を省略することができる。
【0116】
なお、板ばね61の第2方向に関する両側の端部を台座部70の内側に軽圧入することで、板ばね61を係合子5bに対して、不用意に脱落しないように保持させることもできる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0117】
[第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、
図14(A)~
図14(C)を用いて説明する。
【0118】
本例では、係合子5cの径方向内側面の幅方向中央部に備えられた凹部55bの内面を構成する1対の内側面58bは、軸方向から見てクランク形の段付面により構成されている。すなわち、それぞれの内側面58bは、係合子5cの径方向に関して外側に配置された第1面67と、係合子5cの径方向に関して内側に配置され、かつ、第1面67に対して、係合子5cの幅方向に関して外側にオフセットした第2面68と、該第1面67と該第2面68とを接続する段差面69aとを有する。
【0119】
本例では、係合子5cは、第3例の係合子5bが有していた台座部70を有していない。すなわち、本例では、段差面69aは、全体が、第1方向に直交する平坦面により構成されている。
【0120】
本例では、板ばね61(弾性部材6)を、段差面69aと出力部材4のばね押圧部40の先端部(ばね押圧面41)との間で弾性的に挟持する。すなわち、板ばね61のうち、係合子5cの径方向に関する外側面の第2方向に関する両側の端部を、段差面69aに弾性的に当接させ、かつ、係合子5cの径方向に関する内側面の第2方向に関する中間部を、ばね押圧面41に弾性的に当接させる。
【0121】
本例によれば、係合子5cの構造が簡単であるため、該係合子5cの製造コストを抑えることができる。なお、本例では、係合子5cの軸方向両側に1対のスペーサ62を配置することで、板ばね61(弾性部材6)が、係合子5cと出力部材4との間から軸方向に脱落するのを防止する。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0122】
[第5例]
本発明の実施の形態の第5例について、
図15を用いて説明する。本例では、出力部材4aに備えられた2個のばね押圧部40aの構造が、第1例と異なる。
【0123】
本例では、出力部材4aは、出力側係合部33aの外周面を構成する1対の長辺部38のうち、該出力側係合部33aの長辺方向に関する中間部に、軸方向にわたり径方向外側に向けて突出する2個のばね押圧部40aを有する。それぞれのばね押圧部40aは、先端部(径方向外側の端部)に、部分円筒凸面状のばね押圧面41aを有する。本例では、出力部材4aは、2個のばね押圧部40aを含め、全体を一体に構成されている。
【0124】
本例によれば、弾性部材6(板ばね61)とばね押圧面41aとを線接触させて、接触部の面圧を低く抑えることができるとともに、部品点数を抑えることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0125】
[第6例]
本発明の実施の形態の第6例について、
図16~
図18を用いて説明する。本例では、係合子5dを、第1方向に関して被押圧面7(
図1など参照)に近い側、すなわち径方向外側に向けて弾性的に押圧する弾性部材6aのそれぞれが、2枚の板ばね61aから構成されている。
【0126】
本例では、出力部材4bは、出力側係合部33bの外周面を構成する1対の長辺部38のうち、該出力側係合部33bの長辺方向に関する両側の端部から径方向外側に向けて突出する合計4個のばね押圧部40bを有する。それぞれのばね押圧部40bは、先端部(径方向外側の端部)に、部分球面状のばね押圧面41bを有する。また、それぞれのばね押圧部40bの軸方向位置は、それぞれ一致している。
【0127】
本例では、出力部材4bは、出力部材本体42aと4個の押圧部品43とを結合固定してなる。
【0128】
出力部材本体42aは、出力軸部31と、出力フランジ部32と、出力側係合部33bと、小径軸部34とを有する。出力部材本体42aは、出力側係合部33bの外周面を構成する1対の長辺部38のうち、該出力側係合部33bの長辺方向に関する両側部分に、有底の取付孔44aを有する。
【0129】
それぞれの押圧部品43は、ばね押圧部40bと、該ばね押圧部40bの基端面から突出した略円柱状の軸部45とを備える。
【0130】
出力部材本体42aと4個の押圧部品43とは、それぞれの押圧部品43の軸部45を、出力部材本体42aのそれぞれの取付孔44aに螺合することにより結合固定されて、出力部材4aを構成する。
【0131】
なお、取付孔は、出力側係合部の長辺方向に関する両側部分を、短辺方向に貫通するように形成することもできる。この場合、2つの取付孔のそれぞれの両側の端部(開口部)に、4個の押圧部品のそれぞれを結合固定することができる。
【0132】
また、本例では、それぞれの係合子5dは、径方向内側面のうちの幅方向2箇所位置に、径方向外側に向けて凹んだ凹部55cを有し、かつ、径方向内側面のうちで凹部55c同士の間部分に、2つの出力側被係合部74aを有する。2つの出力側被係合部74aは、係合子5dの径方向内側面のうちで、凹部55c同士の間部分に備えられた平坦面部56aの幅方向両外側部分に備えられている。それぞれの係合子5dは、凹部55cの内面を構成する1対の内側面58の径方向中間部に、該1対の内側面58から第2方向に伸長するスリット59aを有する。
【0133】
本例では、弾性部材6aは、係合子5dと同数、すなわち2個備えられている。そして、それぞれの弾性部材6aは、2枚の板ばね61aにより構成されている。すなわち、本例では、板ばね61aは、係合子5dごとに、2枚ずつ組み付けられている。それぞれの板ばね61aは、係合子5dの幅方向、すなわち第2方向に関する両側の端部を、係合子5dに備えられたスリット59aに挿入することで、係合子5dに対し、径方向内側への脱落を不能に組み付けられている。
【0134】
それぞれに板ばね61a(弾性部材6a)が組み付けられた2個の係合子5dを被押圧部材2の径方向内側に配置した状態で、入力部材3の2個の入力側係合部22は、2個の係合子5dの入力側被係合部53の内側に配置され、かつ、出力部材4bの出力側係合部33bは、2個の係合子5dの平坦面部56aの間に配置される。また、出力部材4bの4個のばね押圧部40b(ばね押圧面41b)に、それぞれの係合子5dに組み込まれた2枚ずつの板ばね61a(弾性部材6a)が押し付けられて、該板ばね61aが弾性変形する。それぞれの係合子5dは、弾性変形した板ばね61aが弾性的に復元しようとする力によって、第1方向に関して被押圧面7に近い側に向けて弾性的に押圧される。
【0135】
本例によれば、それぞれの係合子5dを径方向外側に向けて弾性的に押圧する弾性部材6aのそれぞれを、2枚の板ばね61aにより構成している。すなわち、それぞれの係合子5dを、該係合子5dの幅方向に関する2箇所位置で押圧するようにしているため、それぞれの係合子5dの姿勢を安定させやすい。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0136】
[第7例]
本発明の実施の形態の第7例について、
図19~
図21を用いて説明する。
【0137】
本例では、出力部材4cは、出力側係合部33cの外周面を構成する1対の長辺部38のそれぞれの長さ方向中間部2箇所位置から径方向外側に向けて突出する合計4個のばね押圧部40bを有する。それぞれのばね押圧部40bは、先端部(径方向外側の端部)に、部分球面状のばね押圧面41bを有する。また、それぞれのばね押圧部40bの軸方向位置は、それぞれ一致している。
【0138】
本例では、出力部材4cは、出力部材本体42bと4個の押圧部品43とを結合固定してなる。
【0139】
出力部材本体42bは、出力軸部31と、出力フランジ部32と、出力側係合部33cと、小径軸部34とを有する。出力部材本体42bは、出力側係合部33cの外周面を構成する1対の長辺部38のうち、該出力側係合部33cの長辺方向に関する両側部分に、有底の取付孔44aを有する。
【0140】
それぞれの押圧部品43は、ばね押圧部40bと、該ばね押圧部40bの基端面から突出した略円柱状の軸部45とを備える。
【0141】
出力部材本体42bと4個の押圧部品43とは、それぞれの押圧部品43の軸部45を、出力部材本体42bのそれぞれの取付孔44aに螺合することにより結合固定されて、出力部材4bを構成する。
【0142】
なお、取付孔は、出力側係合部の長辺方向に関する両側部分を、短辺方向に貫通するように形成することもできる。この場合、2つの取付孔のそれぞれの両側の端部(開口部)に、4個の押圧部品のそれぞれを結合固定することができる。
【0143】
また、本例では、それぞれの係合子5は、径方向内側面のうちの幅方向中央部に、径方向外側に向けて凹んだ凹部55を有し、かつ、径方向内側面のうちで凹部55から外れた幅方向両側部分に、出力側被係合部74を備える。それぞれの係合子5は、凹部55の内面を構成する1対の内側面58の径方向中間部に、該1対の内側面58から第2方向に伸長するスリット59を有する。
【0144】
それぞれの弾性部材6を構成する1枚の板ばね61は、係合子5の幅方向に関する両側の端部を、係合子5に備えられたスリット59に挿入することで、係合子5に対し、径方向内側への脱落を不能に保持されている。
【0145】
本例では、出力部材4cに回転トルクが逆入力されると、それぞれのばね押圧部40bにより、板ばね61(弾性部材6)を押圧して該板ばね61の弾性変形量を増大させながら、出力側係合部33cがそれぞれの係合子5の径方向内側で、出力部材4cの回転方向に回転する。そして、出力側係合部33cの外周面を構成する1対の長辺部38のうち、該出力側係合部33cの長辺方向に関する端部が、係合子5の平坦面部56の幅方向内側部分に備えられた出力側被係合部74に当接すると、当該部分を径方向外側に押圧する。これにより、係合子5の1対の押圧面52を被押圧面7に対し押し付けて、該1対の押圧面52と被押圧面7とを摩擦係合させる。
【0146】
このような本例によれば、出力部材4cのがたつきを抑えることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【符号の説明】
【0147】
1 逆入力遮断クラッチ
2 被押圧部材
3 入力部材
4、4a、4b 出力部材
5、5a、5b、5c、5d 係合子
6、6a 弾性部材
7 被押圧面
8 入力側ハウジング素子
9 出力側ハウジング素子
10 小径円筒面部
11 大径円筒面部
12 接続面部
13 内向フランジ部
14 内径側嵌合面部
15 側板部
16 大径円筒部
17 小径円筒部
18 外径側嵌合面部
19 ねじ孔
20 入力軸部
21 入力フランジ部
22 入力側係合部
23 径方向内側面
24 径方向外側面
25 周方向側面
26 入力側ラジアル転がり軸受
27 外輪
28 内輪
29 転動体
30a、30b 止め輪
31 出力軸部
32 出力フランジ部
33 出力側係合部
34 小径軸部
38 長辺部
39 短辺部
40、40a、40b ばね押圧部
41、41a、41b ばね押圧面
42、42a、42b 出力部材本体
43 押圧部品
44、44a 取付孔
45 軸部
46 出力側ラジアル転がり軸受
47 外輪
48 内輪
49 転動体
50a、50b 止め輪
51 段部
52 押圧面
53 入力側被係合部
54 切り欠き部
55、55a、55b、55c 凹部
56 平坦面部
57 底面
58、58a、58b 内側面
59、59a スリット
60 平坦面
61、61a 板ばね
62 スペーサ
63 ストッパ部材
64 通孔
65 面取り部
66 隅R部
67 第1面
68 第2面
69、69a 段差面
70 台座部
71 非円柱部
72 半球部
74、74a 出力側被係合部