(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112434
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】発酵装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/28 20230101AFI20240814BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20240814BHJP
【FI】
C02F3/28 B
C02F1/461 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017425
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三井 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 翔
(72)【発明者】
【氏名】多川 正
【テーマコード(参考)】
4D040
4D061
【Fターム(参考)】
4D040AA04
4D040AA34
4D061DA08
4D061DB19
4D061DC08
4D061EB04
4D061EB14
4D061EB16
4D061EB20
4D061EB33
4D061EB35
4D061ED20
(57)【要約】
【課題】被処理水中の有機物を効率よく発酵させることができる発酵装置を提供する。
【解決手段】発酵装置1は、被処理水W中の有機物を発酵させることができるように構成されている。発酵装置1は、内部に空間を有する発酵槽2と、発酵槽2内に配置され、発酵槽2内に前記被処理水を供給可能に構成された被処理水供給部3と、発酵槽2内に配置され、微生物を担持可能に構成された複数の微生物担体4と、発酵槽2内における被処理水供給部3の下方に配置され、微生物担体4と接触しているカソード電極5と、発酵槽2内におけるカソード電極5の下方に配置され、微生物担体4と接触しているアノード電極6と、を有している。また、微生物担体4に担持された微生物には、有機物を発酵する性質を有する有機物資化菌と、カソード電極5に由来する電子を受け取り、有機物資化菌に移動する性質を有する電子放出菌とが含まれている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中の有機物を発酵させることができるように構成された発酵装置であって、
内部に空間を有する発酵槽と、
前記発酵槽内に配置され、前記発酵槽内に前記被処理水を供給可能に構成された被処理水供給部と、
前記発酵槽内に配置され、微生物を担持可能に構成された複数の微生物担体と、
前記発酵槽内における前記被処理水供給部の下方に配置され、前記微生物担体と接触しているカソード電極と、
前記発酵槽内における前記カソード電極の下方に配置され、前記微生物担体と接触しているアノード電極と、を有し、
前記微生物には、前記有機物を発酵する性質を有する有機物資化菌と、前記カソード電極に由来する電子を受け取り、前記有機物資化菌に移動する性質を有する電子放出菌とが含まれている、発酵装置。
【請求項2】
前記カソード電極及び前記アノード電極は水平方向に延在している、請求項1に記載の発酵装置。
【請求項3】
前記カソード電極及び前記アノード電極は棒状である、請求項1または2に記載の発酵装置。
【請求項4】
前記カソード電極及び前記アノード電極の形状は、網状または貫通孔を備えた板状である、請求項1または2に記載の発酵装置。
【請求項5】
前記カソード電極から当該カソード電極に最も近い前記アノード電極までの距離は、前記微生物担体の外接球の直径よりも大きい、請求項1または2に記載の発酵装置。
【請求項6】
前記カソード電極及び前記アノード電極のうち少なくとも一方は、前記発酵槽内における位置を変更可能に構成されている、請求項1または2に記載の発酵装置。
【請求項7】
前記微生物担体は前記カソード電極と前記アノード電極とによって押圧されている、請求項1または2に記載の発酵装置。
【請求項8】
前記発酵装置は、1つの前記カソード電極と、1つの前記アノード電極とからなる複数の電極対を有しており、隣り合う前記電極対の間に電気絶縁体が設けられている、請求項1または2に記載の発酵装置。
【請求項9】
前記微生物担体の少なくとも一部が導電体及び/または半導体から構成されている、請求項1または2に記載の発酵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機物を含む被処理水からの有機物の除去や資源の回収などを目的として、微生物による発酵が利用されている。微生物を用いた水処理を効率よく行う方法として、微生物が担持された微生物担体に被処理水を散布し、重力によって被処理水を透過させつつ微生物担体と接触した被処理水を発酵させる、下降流スポンジ懸架(Down-flow Hanging Sponge、DHS)法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、中空のタンク内に処理空間を形成するとともに、散水部を設け、前記散水部の下方に微生物担体を充填配置した状態で、前記散水部より前記微生物担体に処理水を供給する処理水供給手段を備え、前記微生物担体により浄化された処理水を取出す処理水排出手段を備え、前記処理空間内に酸素含有ガスを供給する給気管を設け、前記処理空間内のガスを排出する排気管を設けた散水式浄化装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微生物を利用した発酵装置においては、被処理水からの有機物の除去や資源の回収などをより効率よく行うため、発酵効率を向上させることが望まれている。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、被処理水中の有機物を効率よく発酵させることができる発酵装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、被処理水中の有機物を発酵させることができるように構成された発酵装置であって、
内部に空間を有する発酵槽と、
前記発酵槽内に配置され、前記発酵槽内に前記被処理水を供給可能に構成された被処理水供給部と、
前記発酵槽内に配置され、微生物を担持可能に構成された複数の微生物担体と、
前記発酵槽内における前記被処理水供給部の下方に配置され、前記微生物担体と接触しているカソード電極と、
前記発酵槽内における前記カソード電極の下方に配置され、前記微生物担体と接触しているアノード電極と、を有し、
前記微生物には、前記有機物を発酵する性質を有する有機物資化菌と、前記カソード電極に由来する電子を受け取り、前記有機物資化菌に移動する性質を有する電子放出菌とが含まれている、発酵装置にある。
【発明の効果】
【0008】
前記発酵装置の発酵槽内には、カソード電極とアノード電極とが配置されている。カソード電極とアノード電極との間に電圧を印加すると、カソード電極と接触している微生物担体や、カソード電極の近傍に位置する微生物担体中の電子放出菌にカソード電極から電子が供給される。カソード電極から電子を受け取った電子放出菌は、電子を有機物資化菌に移動させることができる。このようにして電子を受け取った有機物資化菌は、被処理水中の有機物を効率よく発酵させることができる。
【0009】
また、カソード電極とアノード電極との間に電圧を印加すると、カソード電極において被処理水が還元される。カソード電極は、発酵槽内においてアノード電極の上方に配置されているため、カソード電極において還元された被処理水が、微生物担体の表面等に沿って下方に移動し、発酵槽全体に拡散する。また、微生物担体中の電子放出菌は、カソード電極において還元された被処理水からカソード電極に由来する電子を受け取ることができる。そして、電子放出菌がその周囲に存在する有機物資化菌に電子を移動させることにより、カソード電極から比較的遠い場所においても有機物資化菌による有機物の発酵を促進することができる。
【0010】
従って、前記発酵装置は、発酵槽内の広い範囲において、電子放出菌と有機物資化菌との相互作用により有機物の発酵を促進し、被処理水中の有機物を効率よく発酵させることができる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、被処理水中の有機物を効率よく発酵させることができる発酵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態1における発酵装置の要部を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1における、網状のカソード電極の平面図である。
【
図3】
図3は、平板状のカソード電極の平面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2における、カソード電極及びアノード電極の配置を変更した発酵装置の要部を示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態3における、カソード電極とアノード電極との間に電気絶縁体を設けた発酵装置の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
前記発酵装置に係る実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。本形態の発酵装置1は、被処理水W中の有機物を発酵させることができるように構成されている。発酵装置1は、内部に空間を有する発酵槽2と、発酵槽2内に配置され、発酵槽2内に前記被処理水を供給可能に構成された被処理水供給部3と、発酵槽2内に配置され、微生物を担持可能に構成された複数の微生物担体4と、発酵槽2内における被処理水供給部3の下方に配置され、微生物担体4と接触しているカソード電極5と、発酵槽2内におけるカソード電極5の下方に配置され、微生物担体4と接触しているアノード電極6と、を有している。また、微生物担体4に担持された微生物には、有機物を発酵する性質を有する有機物資化菌と、カソード電極に由来する電子を受け取り、有機物資化菌に移動する性質を有する電子放出菌とが含まれている。
【0014】
発酵装置1に用いられる被処理水Wは特に限定されることはなく、所望の有機物を含む被処理水Wを用いることができる。被処理水Wとしては、例えば、下水汚泥や食品残渣等の有機廃棄物を含む汚水等を使用することができる。また、被処理水Wとして、例えば、機械加工を行う加工装置から回収された廃水溶性クーラント等の有機物を含む工業排水を用いることも可能である。
【0015】
発酵槽2の形状や大きさは種々の態様を取り得る。例えば、本形態の発酵装置1における発酵槽2の形状は円筒形である。本形態の発酵槽2における高さ及び直径は、それぞれ2mである。
【0016】
図1に示すように、発酵槽2の内部には、被処理水Wが流通可能に構成された仕切り板21が設けられている。発酵槽2の内部の空間は、仕切り板21により、微生物担体4が保持される上部空間22と、被処理水Wが保持される下部空間23との2つの空間に区画されている。
【0017】
発酵槽2の上部空間22には、被処理水供給部3と、微生物担体4と、カソード電極5と、アノード電極6とが配置されている。被処理水供給部3は、微生物担体4、カソード電極5及びアノード電極6の上方に配置されており、発酵槽2内に被処理水Wを供給することができるように構成されている。被処理水供給部3は、発酵槽2の外部から発酵槽2内に被処理水Wを供給することができる限り、種々の態様を取り得る。被処理水供給部3としては、例えば、発酵槽2内に被処理水Wを散布可能に構成された散水ノズルや、被処理水Wを放出するための小孔を備えた散水管などを使用することができる。また、発酵槽2の上部空間22には、被処理水Wの発酵によって生じたガスを発酵槽2の外部に導くガス導出管24が設けられている。
【0018】
発酵槽2の下部空間23には、微生物によって発酵された後の被処理水Wを発酵槽2の外部へ導く被処理水導出管25が設けられている。
【0019】
発酵槽2の仕切り板21上には、多数の微生物担体4が保持されている。微生物担体4としては、例えば、樹脂製のスポンジ等の多孔質体や、筒状に成形されたプラスチック等の筒状体、多孔質体の周囲にプラスチック製の支持枠が設けられた支持枠付き多孔質体等を用いることができる。本形態の微生物担体4は、具体的には、樹脂製のスポンジの周囲にプラスチック製の支持枠が設けられた支持枠付き多孔質体である。
【0020】
微生物担体4の少なくとも一部は、導電体及び/または半導体から構成されていることが好ましい。すなわち、例えば微生物担体4が多孔質体である場合には、当該多孔質体が導電体または半導体であることが好ましい。また、例えば微生物担体4が支持枠付き多孔質体である場合には、多孔質体及び支持枠のうち少なくとも一方が導電体または半導体であることが好ましく、両方が導電体または半導体であることが好ましい。このように、微生物担体4の少なくとも一部を導電体及び/または半導体から構成することにより、カソード電極5からアノード電極6までの電流の経路を微生物担体4によって形成することができる。これにより、カソード電極5から電子放出菌に電子が供給されやすくなるとともに、カソード電極5における被処理水の還元がより起こりやすくなり、発酵効率の向上の効果をより確実に得ることができる。なお、前述した「導電体」とは、106S/m以上の電気伝導率を有する物質をいい、「半導体」とは、10-6S/m以上106S/m未満の電気伝導率を有する物質をいう。
【0021】
微生物担体4は、カソード電極5とアノード電極6とによって押圧されていることが好ましい。例えば、本形態の微生物担体4は、カソード電極5とアノード電極6とによって上下方向に押圧されており、自然状態よりも若干圧縮された状態で発酵槽2内に充填されている。
【0022】
このように、微生物担体4をカソード電極5とアノード電極6とによって押圧することにより、発酵槽2において隣り合う微生物担体4が互いに接触しやすくなる。隣り合う微生物担体4が接触すると、微生物担体4の表面を伝わる被処理水Wによって、カソード電極5からアノード電極6までの電流の経路がより形成されやすくなる。その結果、カソード電極5から電子放出菌に電子が供給されやすくなるとともに、カソード電極5における被処理水の還元がより起こりやすくなり、発酵効率の向上の効果をより確実に得ることができる。
【0023】
微生物担体4の大きさは、発酵槽2よりも十分に小さければ特に限定されることはない。例えば、微生物担体4の大きさは、一辺100mmの直方体に内包される程度であればよい。
【0024】
微生物担体4のアスペクト比は、例えば0.5以上2以下であってもよい。この場合には、発酵槽2内により多量の微生物担体4を充填し、被処理水Wの発酵効率をより高めることができる。なお、微生物担体4のアスペクト比は、微生物担体4を基準となる平面上に最も安定に載置した状態における、微生物担体4の幅の最大値に対する高さの比である。
【0025】
微生物担体4には、被処理水W中の有機物を発酵する性質を有する有機物資化菌と、カソード電極5に由来する電子を受け取り、有機物資化菌に移動する性質を有する電子放出菌とを含む微生物が担持されている。有機物資化菌は、被処理水W中の有機物の種類及び所望の発酵の態様に応じて適宜選択すればよい。例えば、本形態の発酵装置1における微生物担体4は、有機物資化菌としてのメタン生成菌を担持しており、被処理水W中の有機物を発酵させ、メタンを含むバイオガスを発生することができるように構成されている。メタン生成菌としては、例えば、MethanobacteriumやMethanosarcinaなどが挙げられる。
【0026】
電子放出菌は、カソード電極5から電子を直接、または還元された被処理水Wを介して間接的に受け取り、有機物資化菌に移動させる性質を有している。このような性質を有する微生物としては、例えば、Morganella morganiiやProteus mirabilis等が挙げられる。
【0027】
発酵槽2の上部空間22における被処理水供給部3の下方には、カソード電極5及びアノード電極6が配置されている。カソード電極5及びアノード電極6は、微生物担体4と接触している。より具体的には、カソード電極5及びアノード電極6は、微生物担体4の隙間を貫くように配置されていてもよく、微生物担体4を貫通して配置されていてもよい。
【0028】
カソード電極5及びアノード電極6は導電体または半導体から構成されている。カソード電極5とアノード電極6との間には、微生物担体4の表面を伝う被処理水Wなどによって電流経路が形成される。そのため、カソード電極5とアノード電極6との間に電圧を印加し、電流を流すことにより、カソード電極5からその周辺に存在する電子移動菌に電子を供給したり、カソード電極5と接触した被処理水Wを還元したりすることができる。
【0029】
カソード電極5及びアノード電極6の配置、形状及び構造は種々の態様を取り得る。例えば、発酵槽2内に配置されるカソード電極5の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。発酵槽2内に2つ以上のカソード電極5を配置する場合、これらのカソード電極5は、上下方向に互いに間隔をあけて配置されていてもよく、水平方向に互いに間隔をあけて配置されていてもよい。
【0030】
同様に、発酵槽2内に配置されるアノード電極6の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。発酵槽2内に2つ以上のアノード電極6を配置する場合、これらのアノード電極6は、上下方向に互いに間隔をあけて配置されていてもよく、水平方向に互いに間隔をあけて配置されていてもよい。また、発酵槽2内に配置されるカソード電極5の数とアノード電極6との数は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0031】
発酵槽2内に複数のカソード電極5を配置する場合、複数のカソード電極5のうちいずれか1つのカソード電極5がアノード電極6の上方に配置されていればよい。また、発酵槽2内に複数のアノード電極6を配置する場合には、これら複数のアノード電極6の上方にカソード電極5が配置されていればよい。すなわち、発酵槽2内に配置される複数の電極のうち最も上方に配置される電極がカソード電極5であればよい。
【0032】
例えば、本形態の発酵装置1は、
図1に示すように2つのカソード電極5(5a、5b)と2つのアノード電極6(6a、6b)とを有しており、これらの電極が上下方向に一定の間隔をあけて配置されている。また、4つの電極のうち最も上方には第1のカソード電極5aが配置されており、第1のカソード電極5aの下方に、第1のアノード電極6a、第2のカソード電極5b及び第2のアノード電極6bがこの順に配置されている。
【0033】
カソード電極5から当該カソード電極5に最も近いアノード電極6までの距離は、微生物担体4の外接球の直径よりも大きいことが好ましい。この場合には、カソード電極5とアノード電極6との間に1つ以上の微生物担体4を確実に狭持し、微生物担体4の表面を伝わる被処理水Wによりカソード電極5とアノード電極6との電流経路をより確実に形成することができる。これにより、カソード電極5から電子放出菌に電子が供給されやすくなるとともに、カソード電極5における被処理水の還元がより起こりやすくなり、発酵効率の向上の効果をより確実に得ることができる。
【0034】
カソード電極5及びアノード電極6の向きは特に限定されることはなく、例えば、水平方向に延在していてもよく、水平方向に対して傾いた方向に延在していてもよい。カソード電極5においてした被処理水Wを発酵槽2内により均一に行き渡らせる観点からは、カソード電極5及びアノード電極6は水平方向に延在していることが好ましい。なお、前述した「水平方向」には、鉛直方向に対して厳密に直交する方向だけではなく、一般的な感覚として水平と認められる程度に鉛直方向から傾いた方向が含まれる。すなわち、本明細書における「水平方向」は、実質的に水平と認められる方向を包含する概念である。
【0035】
本形態のカソード電極5及びアノード電極6は、発酵槽2の上下方向に対して直交する面内に配置されている。従って、発酵槽2を、その上下方向が鉛直方向に対して平行になるように配置することにより、カソード電極5及びアノード電極6を水平方向に延在させることができる。
【0036】
カソード電極5及びアノード電極6の形状は、棒状、網状及び板状などの種々の態様を取り得る。例えば、本形態のカソード電極5の形状は、
図2に示すように網状である。また、図には示さないが、アノード電極6の形状もカソード電極5と同様の網状である。なお、カソード電極及びアノード電極の形状は、
図3に示すカソード電極502のように、貫通孔51を備えた板状であってもよい。
【0037】
カソード電極5及びアノード電極6の形状は、
図2に示すような網状または
図3に示すような貫通孔を備えた板状であることが好ましい。この場合には、被処理水Wや微生物担体4と電極との接触面積をより広くし、カソード電極5からアノード電極6までの電流経路をより確実に形成することができる。さらに、この場合には、カソード電極5において還元された被処理水Wを電極に設けられた網目の隙間や貫通孔からカソード電極5やアノード電極6の下方に流し、発酵槽2内により均一に行き渡らせることができる。これらの結果、有機物をより効率よく発酵させることができる。
【0038】
カソード電極5及びアノード電極6の形状が網状である場合、網目の隙間の大きさは微生物担体4の外接球よりも小さいことが好ましい。この場合には、微生物担体4がカソード電極5及びアノード電極6を通過しにくくなるため、カソード電極5及びアノード電極6をより確実に微生物担体4と接触させることができる。同様の観点から、カソード電極5及びアノード電極6の形状が貫通孔を有する板状である場合、貫通孔の大きさは微生物担体4の外接球よりも小さいことが好ましい。
【0039】
カソード電極5及びアノード電極6のうち少なくとも一方は、上下方向の位置を変更可能に構成されていることが好ましい。この場合には、例えば発酵装置1の組み立て作業において、カソード電極5やアノード電極6を取り付ける際などに、これらの電極の上下方向の位置を調整することにより、カソード電極5及びアノード電極6に微生物担体4を確実に接触させることができる。そして、カソード電極5及びアノード電極6を微生物担体4に接触させることにより、カソード電極5とアノード電極6との間に微生物担体4の表面を伝う被処理水Wによる電流経路がより形成されやすくなる。その結果、カソード電極5から電子放出菌に電子が供給されやすくなるとともに、カソード電極5における被処理水の還元がより起こりやすくなり、発酵効率の向上の効果をより確実に得ることができる。
【0040】
次に、本形態の発酵装置1の動作の一例を説明する。本形態の発酵装置1を運転するに当たっては、被処理水供給部3から発酵槽2内に被処理水Wを散布するとともに、カソード電極5とアノード電極6との間に電圧を印加する。被処理水Wは、微生物担体4の表面を伝わりながら下方に流れ落ちる。この被処理水Wにより、カソード電極5とアノード電極6との間に電流の経路が形成される。なお、微生物担体4が導電体及び/または半導体から構成されている場合には、微生物担体4もカソード電極5とアノード電極6との間の電流の経路の一部を構成し得る。
【0041】
カソード電極5とアノード電極6との間に電流の経路が形成されると、これらの電極間に電流が流れ、カソード電極5の近傍に存在する電子放出菌に電子が供給される。カソード電極5から直接電子を受け取った電子放出菌は、微生物担体4に担持された有機物資化菌に電子を移動する。そして、電子を受け取った有機物資化菌は、被処理水W中の有機物を効率よく発酵させることができる。
【0042】
また、カソード電極5とアノード電極6との間に電流が流れると、カソード電極5と接触した被処理水Wが還元される。カソード電極5において還元された被処理水Wは、微生物担体4の表面を伝わりながら下方に移動し、発酵槽2全体に拡散する。カソード電極5において還元された被処理水Wが微生物担体4に担持された電子放出菌と接触すると、電子放出菌が被処理水Wからカソード電極5に由来する電子を受け取る。そして、電子放出菌の周囲の有機物資化菌がカソード電極5に由来する電子を受け取ることにより、カソード電極5から比較的遠い場所においても被処理水W中の有機物の発酵を促進することができる。
【0043】
以上のように、本形態の発酵装置1は、発酵槽2内の広い範囲において、電子放出菌と有機物資化菌との相互作用により有機物の発酵を促進し、被処理水W中の有機物を効率よく発酵させることができる。
【0044】
(実施形態2)
本形態では、カソード電極5及びアノード電極6の配置の他の態様の例を説明する。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0045】
図4に示すように、本形態の発酵装置102は、発酵槽2と、被処理水供給部3と、微生物担体4と、2つのカソード電極5(5a、5b)と、2つのアノード電極6(6a、6b)とを有している。発酵装置102における発酵槽2、被処理水供給部3及び微生物担体4の構成は、実施形態1における発酵装置1の各部の構成と同様である。
【0046】
本形態のカソード電極5及びアノード電極6は、1つのカソード電極5と1つのアノード電極6とからなる2組の電極対7(7a、7b)を構成している。2組の電極対7のうち第1の電極対7aは被処理水供給部3の下方に配置されており、第2の電極対7bは第1の電極対7aの下方に配置されている。また、第1の電極対7aにおいて、第1のカソード電極5aは第1のアノード電極6aの上方に配置されている。同様に、第2の電極対7bにおいて、第2のカソード電極5bは第2のアノード電極6bの上方に配置されている。
【0047】
また、第1の電極対7aと第2の電極対7bとの上下方向における間隔、つまり、第1のアノード電極6aから第2のカソード電極5bまでの上下方向における距離は、各電極対7におけるカソード電極5からアノード電極6までの上下方向における距離よりも大きい。その他は実施形態1と同様である。
【0048】
本形態のように、発酵装置102がカソード電極5とアノード電極6とからなる複数の電極対7を有する場合、各電極対7において、カソード電極5をアノード電極6の上方に配置することが好ましい。この場合には、各電極対7を構成する電極のうち、上方に配置されたカソード電極5において被処理水Wを還元することができる。これにより、カソード電極5において還元された被処理水Wが発酵槽2全体により行き渡りやすくなり、有機物の発酵効率をより高めることができる。
【0049】
また、発酵装置102がカソード電極5とアノード電極6とからなる複数の電極対7を有する場合、隣り合う電極対7の間隔を、各電極対7におけるカソード電極5からアノード電極6までの距離よりも大きくすることが好ましい。この場合には、カソード電極5と、当該カソード電極5とともに電極対7を構成するアノード電極6との間の電気抵抗を、他の電極対7に含まれるアノード電極6との間の電気抵抗よりも低くすることができる。これにより、各電極対7におけるカソード電極5とアノード電極6との間に電流が流れやすくなり、有機物の発酵効率をより高めることができる。
【0050】
(実施形態3)
本形態では、隣り合う電極対7の間に電気絶縁体71が設けられている発酵装置103の例を説明する。本形態の発酵装置103は、
図5に示すように、発酵槽2と、被処理水供給部3と、微生物担体4と、2つのカソード電極5(5a、5b)と、2つのアノード電極6(6a、6b)とを有している。発酵装置103における発酵槽2、被処理水供給部3及び微生物担体4の構成は、実施形態1における発酵装置1の各部の構成と同様である。
【0051】
本形態のカソード電極5及びアノード電極6は、1つのカソード電極5と1つのアノード電極6とからなる2組の電極対7(7a、7b)を構成している。2組の電極対7のうち第1の電極対7aは被処理水供給部3の下方に配置されており、第2の電極対7bは第1の電極対7aの下方に配置されている。また、第1の電極対7aにおいて、第1のカソード電極5aは第1のアノード電極6aの上方に配置されている。同様に、第2の電極対7bにおいて、第2のカソード電極5bは第2のアノード電極6bの上方に配置されている。また、本形態のカソード電極5及びアノード電極6は、隣り合う電極の間隔が同一となるように配置されている。
【0052】
また、隣り合う電極対7aと電極対7bとの間には、電気絶縁体71が設けられている。本形態の電気絶縁体71は、具体的には第1の電極対7aにおける第1のアノード電極6aの下面に設けられている。図には示さないが、電気絶縁体71には、被処理水Wを通過させるための貫通孔が設けられている。
【0053】
電気絶縁体71の位置は、隣り合う電極対7の間であれば特に限定されることはない。例えば、電気絶縁体71は、第2の電極対7bにおける第2のカソード電極5bの上面に設けられていてもよく、第1のアノード電極6aと第2のカソード電極5bとの間に設けられていてもよい。また、第1のアノード電極6aの下面と、第2のカソード電極5bの上面との2か所に電気絶縁体71を設けることもできる。その他は実施形態1と同様である。
【0054】
本形態の発酵装置103のように、隣り合う電極対7の間に電気絶縁体71を設けることにより、カソード電極5と、当該カソード電極5とともに電極対7を構成するアノード電極6との間の電気抵抗を、他の電極対7に含まれるアノード電極6との間の電気抵抗よりも低くすることができる。これにより、各電極対7におけるカソード電極5とアノード電極6との間に電流が流れやすくなり、有機物の発酵効率をより高めることができる。
【0055】
以上、実施形態1~3に基づいて本発明に係る発酵装置の態様を説明したが、本発明に係る発酵装置の具体的な態様は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1、102、103 発酵装置
2 発酵槽
3 被処理水供給部
4 微生物担体
5、502 カソード電極
6 アノード電極