(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112444
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】アルミニウム合金圧延材およびその製造方法、並びにアルミニウム基板
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20240814BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240814BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20240814BHJP
C22F 1/043 20060101ALI20240814BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C21/00 C
C22F1/04 Z
C22F1/043
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 650E
C22F1/00 650F
C22F1/00 661Z
C22F1/00 682
C22F1/00 684
C22F1/00 683
C22F1/00 685
C22F1/00 686
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017446
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】521407924
【氏名又は名称】堺アルミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】山ノ井 智明
(72)【発明者】
【氏名】籠重 眞二
(72)【発明者】
【氏名】藤木 泰
(72)【発明者】
【氏名】角 和繁
(57)【要約】
【課題】良好な熱伝導性と低い熱膨張係数のアルミニウム合金圧延材を提供する。
【解決手段】化学組成が、Si:9.0~13.4質量%、Fe:0.1~0.6質量%、Cu:0.1~0.3質量%、Mn:0.001~0.15質量%、Mg:0.001~0.1質量%、Ti:0.01~0.05質量%、Sr:0.005~0.04質量%を含有し、Crが0.04質量%以下、V:0.04質量%以下、Bが0.005質量%以下、Pが0.005質量%以下、Naが0.005質量%以下、Caが0.005質量%以下、Inが0.004質量%以下に規制され、残部がAlと不可避不純物からなり、引張強度σBが150MPa以上とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、Si:9.0~13.4質量%、Fe:0.1~0.6質量%、Cu:0.1~0.3質量%、Mn:0.001~0.15質量%、Mg:0.001~0.1質量%、Ti:0.01~0.05質量%、Sr:0.005~0.04質量%を含有し、Crが0.04質量%以下、V:0.04質量%以下、Zrが0.04質量%以下、Bが0.03質量%以下、Pが0.005質量%以下、Naが0.005質量%以下、Caが0.005質量%以下、Inが0.004質量%以下にそれぞれ規制され、残部がAlと不可避不純物からなり、引張強度σBが150MPa以上を有することを特徴とするアルミニウム合金圧延材。
【請求項2】
更に、不可避不純物としてのNiが0.04質量%以下、Znが0.04質量%以下、Gaが0.04質量%以下に規制されてなる請求項1に記載のアルミニウム合金圧延材。
【請求項3】
更に、熱伝導率が150W/m・K以上である請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金圧延材。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金圧延材の組成を有するアルミニウム合金鋳塊に後続して実施される面削の前または後に、460℃以上540℃以下の温度で1時間以上20時間以下の時間にて均質化処理を実施した後、430℃以上520℃以下の温度で1時間以上10時間保持後に熱間圧延を開始し、複数の圧下パスにより圧下率95%以上99.5%以下の熱間圧延を実施した後、30%以上99%以下の冷間圧延を施し、更に150℃以上240℃以下、1時間以上10時間以下保持による熱処理工程を施すことを特徴とするはアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項5】
熱間圧延終了後、冷間圧延開始前に260℃以上400℃以下、1時間以上10時間以下保持による熱処理工程を施すことを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金圧延材の表面に厚さ0.1~1μmのリン酸アルマイト皮膜を形成されてなることを特徴とするアルミニウム基板。
【請求項7】
更に、アルミニウム合金圧延材の熱伝導率が150W/m・K以上である請求項6に記載のアルミニウム基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回路基板やパワーモジュール等の発熱体を搭載する金属ベース基板に好適に用いられるアルミニウム合金圧延材およびその製造方法、並びにアルミニウム基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電装化や各種電源回路の高能率化ニーズを受けた電子部品・電子回路の飛躍的発達に伴い、半導体素子、特に電力用半導体(パワーデバイス)や、各種照明器具、自動車のヘッドランプやリアランプ等の光源となる発光ダイオード(LED)を搭載する回路にメタルベースプリント基板が多用されるようになってきた。
【0003】
このような用途に用いられるメタルベースプリント基板は金属の上に絶縁層を重ね、更にその上に回路を構成する導体である銅箔を貼り合わせるのが、標準的な構成となっている。
【0004】
特に近年、LED素子を搭載した照明用途のメタルベースプリント基板は、LEDの発光による発熱を拡散させることで長寿命化を図ることができるため需要が高まっている。
【0005】
またメタルベースプリント基板は、照明用LED搭載基板以外でも電力用半導体素子の性能の安定化、基板温度低減によるその他の電子部品の熱によるダメージからの保護等のメリットが得られることが知られている。
【0006】
このベースとなる金属には銅またはアルミニウムが使われている。このうち軽量化を目的としてアルミニウム合金に対する検討が進んでいるが、アルミニウムをベース基板とした場合、絶縁層を挟んで回路を構成する銅箔との熱膨張係数の差によって発生する基板の反りや冷熱サイクルによって発生する回路銅箔の断線や銅箔と素子を接合するはんだ部におけるクラック発生等が生じやすいという課題がある。特に近年の電子部品の高密度実装に伴う回路の精細化や高発熱部品の増加による極端な冷熱サイクル部位の存在により、上記課題の解決がより重要となってきている。
【0007】
このような用途に対し、JIS1100、1050、1070等の純アルミニウム合金は熱伝導性に優れるが、銅との熱膨張係数の差が大きく、かつ強度が低いことによる反り発生の課題がある。一方、高強度材として知られるJIS5052等のAl-Mg系合金(5000系合金)は、強度は高いが回路を構成する銅箔との熱膨張係数の差が大きいため、前述するはんだ部のクラック発生の可能性の面で不利である。また、熱伝導率が純アルミニウムより低いため放熱特性に劣る。また、Al-Si系合金(4000系合金)を用いて銅箔との熱膨張係数の差を小さくする試みも検討されているが、上記課題を十分に満足させるものではない。
【0008】
例えば、特許文献1には、Siを3~20%含有し、更にFeを0.05~2.0%、Mgを0.05~2.0%、Cuを0.05~6.0%、Mnを0.05~2.0%、Niを0.05~3.0%、Crを0.05~0.3%、Vを0.05~0.3%、Zrを0.05~0.3%、Zn1.0%を超え7.0%以下のうち1種または2種以上を含有し、残部がAlと不純物からなるAl基合金素地板の少なくとも表面層に平均粒径5μm以下の共晶Si粒子またはそれと最大粒径15μm以下の初晶Si粒子が分散含有し、かつ該素地板の両面には厚さ5μm以上の陽極酸化皮膜が形成されてなることを特徴とするAl基プリント配線板が開示されている。
【0009】
特許文献2ならびに特許文献3には、両面クラッド材の芯材として、Si:5~30質量%を含有し、残部がAlおよび不純物からなり、更にFe:1質量%以下、Ni:1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Ti:0.3質量%以下、Cr:0.3質量%以下、P:0.1質量%以下、B:0.05質量%以下、Mn:0.2質量%以下、Mg:0.2質量%以下、Zn:0.2質量%以下からなる熱膨張係数が低くかつ加工性に優れたクラッド材およびプリント配線基板が開示されている。
【0010】
特許文献4には、リン酸電解浴中で陽極酸化処理を施すプリント回路用配線基板にAl-Mg系(5052合金)、Al-Mg-Si系合金を用いるプリント配線基板及びその製造方法が開示されている。
【0011】
特許文献5には、Si:8~14質量%、Fe:0.1~1質量%、Cu:0.1~0.3質量%、Ni:0.005~0.5質量%、Cr:0.001~0.2質量%、Ga:0.01~0.5質量%、Ti:0.01~0.15質量%を含有し、熱膨張係数αが19≦α≦22×10-6/K、導電率σが55%IACS以上であるアルミニウム合金圧延板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6-41667号公報
【特許文献2】特開2006-328530号公報
【特許文献3】特開2007-302939号公報
【特許文献4】特開2006-24906号公報
【特許文献5】特開2021-181598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1では低熱膨張係数のAl-Si系合金を選択して共晶Si粒子や初晶Si粒子のサイズや分散度について検討し、かつ陽極酸化皮膜を改良して絶縁接着剤層との表面密着性を向上させているものの、プリント配線板として必要な材料強度については検討されていない。
【0014】
特許文献2は、特許文献1においても課題となっている表面密着性を両面クラッドによって解決しようとしたものであり、皮材となるアルミニウム合金に純アルミニウム系またはAl-Mn系を用いているが、クラッド工程を含むため工程が複雑となり製造コスト面で不利となっている。
【0015】
特許文献3は、特許文献2と同様に表面密着性を両面クラッドによって解決しようとしたものであり、皮材となるアルミニウム合金にAl-Mg-Si系を用いて密着性に加え表面硬度アップを狙っているが、やはりクラッド工程を含むため工程が複雑となり製造コスト面で不利となっている。
【0016】
特許文献4は、陽極酸化皮膜の特性改善を詳細に検討し、樹脂製絶縁材に対し安定した接着性を得ると共に接着性を向上させることを狙いとしているが、アルミニウム基材がAl-Mg系(5000系)またはAl-Mg-Si系(6000系)であり、銅箔との熱膨張係数の差による課題は解決されていない。
【0017】
特許文献5では、製造工程上の圧延加工性を確保しながら低熱膨張係数を得るための組成と工程が検討されているが、実施例における引張強度は150MPa未満であり、回路基板を製造する上での材料強度は十分とは言えない。
【0018】
上記のように、アルミニウムベース基板の課題となっている銅箔との熱膨張差、放熱性、材料強度を備えるアルミニウム合金板を得ることは従来技術では非常に困難である。
【0019】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、低い熱膨張係数と高い熱伝導率を有するアルミニウム合金圧延材及びその製造方法、並びにアルミニウム基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは鋭意研究の結果、アルミニウム圧延材の組成と製造工程を検討することで、回路を構成する銅箔との熱膨張係数の差によって発生する基板の反りや冷熱サイクルによって発生する回路銅箔の断線、銅箔と素子を接合するはんだ部におけるクラック発生の可能性を低減し、かつ基板としての材料強度を確保しながら、放熱性に優れたアルミニウム合金圧延材が得られることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、下記(1)~(7)に記載の構成を有する。
(1)化学組成が、Si:9.0~13.4質量%、Fe:0.1~0.6質量%、Cu:0.1~0.3質量%、Mn:0.001~0.15質量%、Mg:0.001~0.1質量%、Ti:0.01~0.05質量%、Sr:0.005~0.04質量%を含有し、Crが0.04質量%以下、V:0.04質量%以下、Zrが0.04質量%以下、Bが0.03質量%以下、Pが0.005質量%以下、Naが0.005質量%以下、Caが0.005質量%以下、Inが0.004質量%以下にそれぞれ規制され、残部がAlと不可避不純物からなり、引張強度σBが150MPa以上を有することを特徴とするアルミニウム合金圧延材。
(2)更に、不可避不純物としてのNiが0.04質量%以下、Znが0.04質量%以下、Gaが0.04質量%以下に規制されてなる上記(1)に記載のアルミニウム合金圧延材。
(3)更に、熱伝導率が150W/m・K以上である上記(1)または(2)に記載のアルミニウム合金圧延材。
(4)上記(1)または(2)に記載のアルミニウム合金圧延材の組成を有するアルミニウム合金鋳塊に後続して実施される面削の前または後に、460℃以上540℃以下の温度で1時間以上20時間以下の時間にて均質化処理を実施した後、430℃以上520℃以下の温度で1時間以上10時間保持後に熱間圧延を開始し、複数の圧下パスにより圧下率95%以上99.5%以下の熱間圧延を実施した後、30%以上99%以下の冷間圧延を施し、更に150℃以上240℃以下、1時間以上10時間以下保持による熱処理工程を施すことを特徴とするはアルミニウム合金圧延材の製造方法。
(5)熱間圧延終了後、冷間圧延開始前に260℃以上400℃以下、1時間以上10時間以下保持による熱処理工程を施すことを特徴とする上記(4)に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法。
(6)上記(1)または(2)に記載のアルミニウム合金圧延材の表面に厚さ0.1~1μmのリン酸アルマイト皮膜を形成されてなることを特徴とするアルミニウム基板。
(7)更に、アルミニウム合金圧延材の熱伝導率が150W/m・K以上である上記(6)に記載のアルミニウム基板。
【発明の効果】
【0021】
上記(1)に記載のアルミニウム合金圧延材は、その化学組成を満足することで製造工程中における優れた加工性と製品としての圧延材における低い熱膨張係数と高い熱伝導率、ならびに高い強度と伸び、高い耐食性を兼ね備えている。
【0022】
上記(2)に記載のアルミニウム合金圧延材によれば、更に熱間加工性を改善させ、耐食性を向上させる効果が得られる。
【0023】
上記(3)に記載のアルミニウム合金圧延材によれば、更に放熱性に優れた圧延材を得ることができる。
【0024】
上記(4)に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法によれば、アルミニウム合金圧延材の機械的性質を改善させるとともに熱伝導率を向上させることができる。
【0025】
上記(5)に記載のアルミニウム合金圧延材の製造方法によれば、更に機械的性質を改善させるとともに低い熱膨張係数と高い熱伝導率を兼ね備えることができる。
【0026】
上記(6)に記載のアルミニウム基板によれば、更に樹脂絶縁層との密着性に優れたアルミベースプリント基板となし得る。
【0027】
上記(7)に記載のアルミニウム基板によれば、更に放熱性に優れたアルミニウムベースプリント基板となし得る。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のアルミニウム合金圧延材は、合金の化学組成が規定されている。
[アルミニウム合金圧延材の化学組成]
(Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Ti、Sr)
アルミニウム合金圧延材は、必須元素として、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Ti、Srを含有している。各元素の添加意義および含有量は以下の通りである。また、残部はAlおよび不可避不純物である。
【0029】
Siはアルミニウム合金の熱膨張係数を低くするために必要な元素である。Si含有量が多くなるほど熱膨張係数は低くなる。本発明では、Si含有量は9.0~13.4質量%とする。Si含有量が9.0質量%未満では所期する低い熱膨張係数を得ることができない。一方、Si含有量が13.4質量%を超えると、更に低い熱膨張係数が得られるものの、Al-12.6質量%Siの共晶組成以上で溶解・鋳造時に晶出する初晶Siの発生量が増加し、熱間圧延での圧延性が低下する。更に好ましいSi含有量の下限値は10.0質量%、上限値は13.2質量%であり、特に一層好ましい下限値は11.0質量%、上限値は13.0質量%である。
【0030】
Feは合金の熱膨張係数の低下に有効な元素であり、強度向上にも有効で耐熱性を向上させる効果もある。一方でAl-Fe-Si系の金属間化合物を形成することも知られており、特に含有量が多くなると溶解鋳造時にこれが粗大な晶出物となるため、加工性が低下し、熱間圧延、冷間圧延時に耳割れ発生を助長する。従って、Fe含有量は0.1~0.6質量%とする。更に0.15~0.5質量%であることが好ましく、特に0.2~0.4質量%であることが一層好ましい。
【0031】
Cuは強度向上に有効な元素であり、熱膨張係数の低減も期待できるが、含有量が多くなると耐食性が低下する。また多量に含有すると熱間圧延時の加工性が著しく低下すると共に製品加工時の熱伝導率が低下し放熱性に悪影響を及ぼす。従ってCu含有量の範囲は0.1~0.3質量%とする。更に0.12~0.28質量%であることが好ましく、特に0.15~0.25質量%であることが一層好ましい。
【0032】
Mnは再結晶粒の微細化のために一般的に添加される合金元素である。また、Al-Fe-Si系の針状金属間化合物を塊状化し、靱性を向上させる効果もあるが必要以上に添加すると熱伝導率の低下を招く。従って、Mnの含有量は0.001~0.15質量%とする。更に0.004~0.12質量%であることが好ましく、特に0.008~0.08質量%であることが一層好ましい。
【0033】
Mgはアルミニウムに固溶することで強度向上に寄与する元素であるが同時に製品加工後の熱伝導率を低下させ、放熱性を低下させる要因にもなり得る。また、SiとMg-Si系の金属間化合物を形成することも良く知られており、特に含有量が多くなると溶解鋳造時にこれが粗大な晶出物となるため、加工性が低下し、熱間圧延、冷間圧延時に耳割れ発生を助長する。従って、Mgの含有量は0.001~0.1質量%とする。更に0.004~0.08質量%であることが好ましく、特に0.008~0.05質量%であることが一層好ましい。
【0034】
Tiは、合金を鋳造する際に結晶粒を微細化する効果がある。しかしながら、多量に含有すると、サイズの大きい晶出物が多く生成するため、製品の加工性や熱伝導性が低下する。従って、Ti含有量は0.01~0.05質量%とする。更に0.015~0.045質量%が好ましく、特に0.02~0.04質量%であることが一層好ましい。
【0035】
Srは共晶Si粒子の微細化、初晶Si粒子の発生抑止に効果的な元素である。但し、多量に含有すると溶解鋳造時のポロシティーの発生を誘発する。従ってSr含有量は0.005~0.04質量%とする。更に0.01~0.035質量%が好ましく、特に0.015~0.03質量%であることが一層好ましい。
(Na、Ca、P)
これらの元素は主として鋳造時にアルミニウム合金溶湯から晶出する金属間化合物に影響を及ぼす元素である。各元素の制御意義、および含有量は以下の通りである。
【0036】
Naは共晶Si粒子の微細化に効果的な元素である。但し、その効果はSrよりは弱く、補助的な効果に留まる。また多量に含有するとSrと同様に溶解鋳造時のポロシティーの発生を誘発するため、必要量以上の添加は好ましくない。従って、本発明ではSrの添加効果を優先させ、Na含有量は0.005質量%以下とする。更に0.004質量%以下が好ましく、特に0.003質量%以下であることが一層好ましい。
【0037】
Caは共晶Si粒子の微細化に効果的な元素である。但し、その効果はSrよりは弱く、補助的な効果に留まる。また多量に含有するとSrと同様に溶解鋳造時のポロシティーの発生を誘発するため、必要量以上の添加は好ましくない。従って、本発明ではSrの添加効果を優先させ、Ca含有量は0.005質量%以下とする。更に0.004質量%以下が好ましく、特に0.003質量%以下であることが一層好ましい。
【0038】
Pは初晶Siの微細化に効果のある元素として良く知られているが、Srと共存するとその効果を著しく減じる。従って、P含有量は0.005質量%以下とする。更に0.004質量%以下が好ましく、特に0.003質量%以下であることが一層好ましい。
(Cr、V、Zr、B)
これらの元素は主として結晶粒の微細化に影響を及ぼす元素であり、機械的性質や放熱性に影響を及ぼす元素である。
【0039】
Crは強度向上ならびに結晶粒の微細化に有効な元素である。しかしながら多量に含有すると熱間圧延時の加工性が低下すると共に製品加工後の熱伝導率が低下し放熱性に悪影響を及ぼす。本発明では熱間圧延時の加工性と放熱性への悪影響を加味し、Crの含有量は0.04質量%以下とする。更に0.035質量%以下であることが好ましく、特に0.03質量%以下であることが一層好ましい。
【0040】
Vは強度向上ならびに結晶粒の微細化に有効な元素である。しかしながら多量に含有すると熱間圧延時の加工性が低下すると共に製品加工後の熱伝導率が著しく低下し放熱性に悪影響を及ぼす。従ってVの含有量は0.04質量%以下とする。更に0.035質量%以下であることが好ましく、特に0.03質量%以下であることが一層好ましい。
【0041】
Zrは強度向上ならびに結晶粒の微細化に有効な元素である。しかしながら多量に含有すると熱間圧延時の加工性が低下すると共に製品加工後の熱伝導率が著しく低下し放熱性に悪影響を及ぼす。従ってZrの含有量は0.04質量%以下とする。更に0.035質量%以下であることが好ましく、特に0.03質量%以下であることが一層好ましい。
【0042】
Bは合金を鋳造する際に結晶粒を微細化する効果がある。しかしながら、多量に含有すると、上記Ti、Cr、V、Zrとの間で化合物を形成し、それが核となって初晶Siの生成を誘発することで鋳塊の圧延性や製品の被削性を著しく低下させる。従って、Bの含有量は0.03質量%以下とする。更に0.025質量%以下が好ましく、特に0.02質量%以下であることが一層好ましい。
(In)
Inは耐食性を著しく低下させるため少ないことが好ましい。In含有量は0.004質量%以下であることが好ましく、更に0.003質量%以下であることが好ましく、特に0.002質量%以下であることが一層好ましい。
(Zn、Ni、Ga)
ZnはMgと共存させることで強度向上に有効であることが知られているが、含有量が多くなると合金材の耐食性を著しく低下させ、またアルミニウムの熱膨張係数を大きくする元素である。本発明では、耐食性を優先し、Znの含有量は0.04質量%以下とする。更に0.035質量%以下であることが好ましく、特に0.03質量%以下であることが一層好ましい。
【0043】
Niは合金の熱膨張係数の低下に有効な元素であり、強度向上にも有効である。また、耐熱性を向上させる効果もあるが、含有量が多くなるとAlとの金属間化合物を形成することで加工性が低下し、熱間圧延、冷間圧延が困難となる。本発明では加工性を優先し、Ni含有量は0.04質量%以下とする。更に0.035質量%以下であることが好ましく、特に0.03質量%以下であることが一層好ましい。
【0044】
Gaは結晶粒界や晶出物界面に偏析しやすい元素であり、多量に含有すると熱間圧延、冷間圧延に表面割れを発生させ加工性を著しく低下させる。本発明では加工性を優先し、Gaの含有量は0.04質量%以下とする。更に0.035質量%以下であることが好ましく、特に0.03質量%以下であることが一層好ましい。
【0045】
アルミニウム合金圧延材は引張強度σBが150MPa以上を有する必要がある。引張強度σBが150MPa未満では、裁断または打ち抜き加工時にアルミニウム合金圧延材の平面度が低下すると共に、アルミニウム合金圧延材をエポキシ樹脂等の絶縁層・銅箔と貼り合わせた際の反りが大きくなる。従って、σBは150MPa以上とする。更に160MPa以上であることが好ましく、170MPa以上であることが一層好ましい。
(アルミニウム合金圧延材の製造方法)
上述した本発明のアルミニウム合金圧延材、即ち所期する熱膨張係数αおよび熱伝導率λを有する圧延材は、例えば、所定組成のアルミニウム合金鋳塊から圧延材を作製する工程において、所定の熱処理を行い、所定の条件で熱間圧延および冷間圧延を実施することによって得ることができる。以下に各工程について詳述する。
(アルミニウム合金鋳塊)
常法にて溶解成分を調整し、アルミニウム合金鋳塊(以下、スラブという。)を得る。
(均質化処理工程)
前記均質化処理はアルミニウム合金スラブ中に固溶する元素濃度を均一にするために実施するが、処理温度が低すぎると元素を均一化させることができず、処理温度が高すぎると共晶融解が生じるため、460℃~540℃で行うことが好ましく、特に480℃~520℃で行うことが好ましい。処理時間(保持時間)は1時間~20時間が好ましく、特に2時間~15時間が好ましい。
【0046】
一般に、アルミニウム合金スラブを圧延する場合はスラブの圧延表面近傍の不純物層を除去するために面削を行う。上述した均質化処理は、面削前、面削後のどちらの工程で行ってもよい。
(熱間圧延前加熱工程)
アルミニウム合金スラブは、熱間圧延に供する前に予備加熱を行う。予備加熱はアルミニウム合金スラブを430℃~520℃で1時間~10時間保持することにより行う。さらに好ましい条件は、460℃~500℃で1時間~8時間である。
【0047】
なお、前記均質化処理工程の処理条件と熱間圧延前加熱工程の処理条件は一部が重複しているので、重複する条件において1回の処理を行い、この処理で均質化処理と熱間圧延前加熱の両方を兼ねることができる。
(熱間圧延工程)
熱間圧延前加熱を施したアルミニウム合金スラブに複数パスにより、熱間圧延を行う。熱間圧延を実施することにより一般に鋳塊組織が均質化されるとともに鋳造時に第二相粒子として晶出した晶出物を分散させることができる。また、比較的短時間に冷間圧延可能な均一な厚さの板材とするためにも必要な工程である。熱間圧延の総圧下率は、95%~99.5%が好ましく、さらに96%~99.5%が好ましい。
【0048】
熱間圧延は熱間粗圧延と熱間仕上圧延からなり、熱間粗圧延機を用い複数のパスからなる熱間粗圧延を行った後、熱間粗圧延機とは異なる熱間仕上圧延機を用いて熱間仕上圧延を行う。なお、本発明において、熱間粗圧延機での最終パスを熱間圧延の最終パスとする場合は、熱間仕上圧延を省略することができる。
【0049】
後述の冷間圧延をコイルで実施する場合には、熱間仕上圧延後のアルミニウム合金圧延材を巻き取り装置で巻き取って熱延コイルとすればよい。熱間仕上圧延を省略し、熱間粗圧延の最終パスを熱間圧延の最終パスとする場合は、熱間粗圧延の後、アルミニウム合金圧延材を巻き取り装置にて巻き取って熱延コイルとしてもよい。
【0050】
熱間粗圧延では、熱間粗圧延の各パスの目標板厚構成とクーラント量やロール回転速度、パス間の冷却等による温度コントロールにより、所定のシートクラウンを有し、かつ難加工材に比較的発生しやすい圧延幅端部割れ(以下、耳割れという。)や圧延表面欠陥のないアルミニウム合金圧延材を得ることができる。
【0051】
上記熱間粗圧延のパス間の冷却は、アルミニウム合金圧延材を圧延しながら圧延後の部位に対し順次実施してもよいし、アルミニウム合金圧延材全体を圧延した後実施してもよい。冷却の方法は限定されないが、水冷であっても空冷であってもよいし、クーラントを利用してもよい。
【0052】
本発明において、熱間粗圧延の最終パス後に仕上圧延を行わない場合は、熱間圧延の最終パス直後のアルミニウム合金圧延材の表面温度を熱延上り温度とし、熱間粗圧延の最終パス後に仕上圧延を行う場合は、仕上圧延直前のアルミニウム合金圧延材の表面温度を熱延上り温度とする。
【0053】
前記熱延上り温度は280℃以上とすることが好ましい。熱延上り温度を280℃以上とすることにより、圧延時の温度低下による耳割れを抑制することができる。なお、後工程の冷間圧延をコイルで実施するために熱間圧延後にコイル巻き取りを実施する際、温度が低くなりすぎると巻き取り張力によっては板幅端部の耳割れが進展しやすくなる。従って、コイル状に巻き取る場合で熱間仕上圧延を行わない場合には、上記のように熱間粗圧延最終パス上りのアルミニウム合金板の表面温度は280℃以上が好ましいが、熱間粗圧延後に熱間仕上圧延を行う場合は、板幅端部の耳割れ防止のため熱間仕上圧延後のアルミニウム合金板の表面温度を260℃以上とすることが好ましい。
(熱間圧延工程後の熱処理)
上記熱間圧延後には必要に応じて熱処理を行うことが好ましい。熱処理は260℃~400℃で1時間~10時間の保持が好ましく、機械的性質、特に伸びを改善させるとともに熱伝導率を向上させることができる。前記熱処理は、任意のパス前またはパス後に行い、複数のパスに対して行っても良い。熱処理の特に好ましい温度は280℃~380℃であり、300℃~370℃がなお一層好ましい。また、特に好ましい熱処理時間は2時間~9時間であり、3時間~8時間がなお一層好ましい。
(冷間圧延工程)
熱間圧延終了後、または、上記熱処理後に所定の厚さのアルミニウム合金圧延材を得るまで、複数パスにより冷間圧延を行う。冷間圧延を実施することにより一般に加工硬化にて強度は向上する。冷間圧延の総圧下率は所定の強度を得るために30%以上で実施されることが好ましい。冷間圧延によるアルミニウム合金圧延材の総圧延率はさらに40%以上が好ましく、特に50%以上が好ましい。総圧下率の上限は、加工硬化による伸びの低下を考慮し、99%以下とする。
【0054】
前記冷間圧延工程のパス前またはパス間にて、板幅端部の耳割れ部位をトリミングし、さらに冷間圧延を進めることで板破断を防ぐ工程を含めても良い。
(冷間圧延工程後の熱処理)
上記冷間圧延工程後には圧延材に熱処理を行うことが好ましい。冷間圧延後の熱処理、即ち最終熱処理は150℃~240℃で1時間~10時間の保持が好ましい。前記冷間圧延によって圧延材に残留歪が残り板材に反りが発生する場合があるが、前記熱処理によって残留歪みを解消することができる。熱処理の特に好ましい温度は160℃~220℃であり、特に好ましい熱処理時間は2時間~8時間である。また、この熱処理は、平板の上に圧延材を設置し、上部から重しを乗せた平板にて挟み込んで矯正(加圧焼鈍)することがさらに有効である。
【0055】
上述したアルミニウム合金圧延材の製造方法は、コイルで行ってもよく、単板で行ってもよい。また、冷間圧延工程より後の任意の工程でアルミニウム合金圧延材を切断し、切断後の工程を単板で行ってもよいし、用途に応じスリットして条にしても良い。また、所期する圧延材の特性を損なわない限り、他の工程を追加してもよい。例えば、冷間圧延後のアルミニウム合金圧延材に必要に応じて洗浄を実施しても良い。
(リン酸アルマイト皮膜)
本発明のアルミニウム合金圧延材はその表面にリン酸アルマイト皮膜を有する構成とすることで更に密着性に優れたアルミニウム基板とすることができる。その皮膜厚が薄いとアルミニウム基板/樹脂層/銅箔のプリント配線基板構成においてアルミニウム基板と樹脂層との間に十分な接着性を確保できない。また皮膜厚が厚いと上記構成材をはんだリフロー時に皮膜の割れや銅箔側に膨れが発生する。従って、皮膜厚は0.1~1μmとする。更に0.2~0.8μmであることが好ましく、特に0.3~0.6μmであることが一層好ましい。
【0056】
上記皮膜はリン酸浴において陽極酸化されることで形成されるが、皮膜形成時のリン酸濃度が高すぎると皮膜厚さを安定的に制御するのが難しなる。また、リン酸濃度が低すぎると皮膜を十分に形成できなくなる。従ってリン酸濃度は5~20質量%であるのが好ましい。更に8~15質量%であることが一層好ましい。
【0057】
上記皮膜形成時の浴温が高すぎる場合は皮膜厚さを安定的に制御できなくなる。また、浴温が低すぎると所定の皮膜形成ができなくなる。従って浴温は25~40℃であることが好ましく、更に、28~35℃であることが一層好ましい。
【0058】
上記皮膜形成時の印加電圧は8~40Vとするのが好ましく、更に10~15Vとするのが一層好ましい。すなわちこの印加電圧が8V未満では皮膜生成速度が低下する。また40Vを超えると電圧の制御が難しくなる。なお、電解電流としては、直流、交流、交直重畳、短形波交流等を好適に用いることができる。
【0059】
上記リン酸浴による陽極酸化処理に先立ち、安定的な皮膜形成を目的として圧延表面の汚れや酸化皮膜等を除去する脱脂処理工程を実施しても良い。脱脂処理液には水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム等のアルカリ性の脱脂処理液や硫酸、硝酸のような酸性の脱脂処理液を挙げることができる。また、脱脂処理時に形成されるスマットを除去するデスマット処理を合わせて実施することも好適である。
【0060】
上記リン酸アルマイト皮膜を有するアルミニウム基板はそのままでも樹脂層との間に良好な接着性を有するが加熱乾燥処理を施すことでリン酸アルマイト皮膜に吸着した水分を放出させることで、更に良好で経時劣化の少ない接着性を得ることができる。このための加熱温度は120~200℃、加熱時間は0.5~3時間が好ましい。更に加熱温度:150~180℃、加熱時間:1~2時間が好ましい。
【0061】
上記リン酸アルマイト皮膜を有するアルミニウム基板は樹脂層と銅箔が1層のプリント配線基板構成だけでなく、複数の樹脂層と銅箔を有する多層基板においても有効である。
【0062】
以下に、本発明を実施例により説明する。なお、本発明は、ここに記述する実施例に発明の範囲を限定するものではなく、本発明の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【実施例0063】
まず、表1の化学組成のアルミニウム合金スラブを鋳造し、得られたスラブの圧延面に面削加工を施し、厚さ300mm×幅950mm×長さ1200mmとした。次に、加熱炉中で表2記載の均質化処理を実施した後、同じ炉中で温度を降下させ、表2記載の熱間圧延前加熱温度に到達後に保持し、表2記載の条件にて熱間荒圧延、熱間仕上圧延を実施し、表2記載の熱延上り温度、板厚の熱間圧延板を得た。熱間仕上圧延後の合金板に表2記載の中間熱処理、冷間圧延、最終熱処理を施し、所定の板厚のアルミニウム合金板(表3試料No.1~14)を得た。
【0064】
【0065】
【0066】
熱間圧延時の圧延加工性については、以下の方法により評価した。
[耳割れ]
熱間圧延後にコイル巻き取りをする際、板幅両端部の耳割れの端面からの長さを圧延板上面より記録し、板幅端部に発生したクラックの最大値が5mm以下のものを「○」、5mmを超え8mm以下のものを「△」、8mmを超えるものを「×」とし、「○」と「△」を合格とした。
【0067】
得られた合金板の引張強さ、伸び、熱伝導率、熱膨張係数を以下の方法により評価した。
[引張強さ、伸び]
引張強さ(σB)および伸び(δ)は、JIS Z 2201に定めるJIS5号試験片にて、圧延方向に対し平行方向に採取した試料について常温、常法により測定した。
引張強さは150MPa以上のものを「○」、150MPa未満のものを「×」とした。伸びは10%以上のものを「○」、10%未満のものを「×」とした。
[熱伝導率]
得られた合金板の熱伝導率はレーザーフラッシュ法で測定した。測定条件は以下の通りである。
・測定方法:レーザーフラッシュ法(パルスレーザー)
・測定温度:25℃
・試料形状:1.5×10mmφ
・雰囲気:真空中
とした。熱伝導率は、170W/m・K以上のものを「○」、170W/m・K未満のものを「×」とした。
[熱膨張係数]
得られた合金板の線膨張係数は熱機械分析(TMA)法で測定した。測定条件は以下の通りである。
・測定方法:TMA法(示差膨張方式)
・測定温度パターン:20~100℃(基準温度20℃、昇温速度:5℃/min)
・試料形状:1.5×3×18mm
・雰囲気:Heガス中
・参照試料:石英
とし、20~100℃(20℃間隔)の線膨張量(ΔL)、20℃との温度変化(ΔT)、室温時の長さ(L0)から各温度における線膨張率を求め(ΔL/L0)それらを平均して熱膨張係数とした。熱膨張係数が20.5×10-6/K以下のものを「○」、20.5×10-6/Kを超えるものを「×」とした。
【0068】
プリント配線基板の反りの評価方法として反り率の測定を実施した。反り率の測定方法は以下の通りである。
[反り率]
反り率の評価は、JIS C 6481プリント配線板用銅張積層板試験方法の5.22 反り率及びねじれ率(静置法)に定める方法に従って実施した。
【0069】
供試材は、裁断寸法:100×200mm(長手方向がアルミ基材の圧延方向)に切り出したアルミニウム圧延材、エポキシ樹脂製の絶縁層、銅箔を積層し、アルミニウム基板側の実体温度で220℃×60分の加熱・加圧保持することにより、アルミニウム基材:1.5mm厚/絶縁層:100μm/銅箔:35μm全面貼り付けのプリント配線板とした。その後、作製したプリント配線板をファン空冷し、定盤上に凸面を上にして無荷重の状態で置き、常温における長辺側の最大高さD1を計測して長辺長さ:L1=200mmで除した値を反り率:W1=D1/200×100(%)とし、W1が1.0%以下のものを「○」、1.0%を超えるものを「×」とした。
【0070】
プリント配線基板の耐食性の評価方法として塩水噴霧試験を実施した。耐食性の測定方法は以下の通りである。
[耐食性]
耐食性は、JISZ2371塩水噴霧試験方法に規定される中性塩水噴霧試験に準拠して実施した。試験片は上記の反り率の測定時と同形状のものを用い、切断面ならびに銅箔面をエポキシ系樹脂で保護したものを用いた。35℃、5%NaCl中で6時間放置後に取り出し、流水にて洗浄後にエタノールに浸漬し、その後乾燥したものについて目視にて観察した。変化が認められなかったものを「○」、変色が認められたものを「△」、腐食生成物が認められたものを「×」として評価し、「○」と「△」を合格とした。
【0071】
熱間圧延後の耳割れ、最終加工後のアルミニウム基材の引張強さ、熱伝導率、およびプリント配線板の反りの評価結果を表3に示す。表3より、本願規定の化学組成、引張強さおよび熱伝導率を満足する実施例記載のアルミニウム合金圧延材が確認できた。
【0072】
次に、アルミニウム合金圧延板に対して表4a)~f)に示す陽極酸化処理条件にて、リン酸浴による直流の陽極酸化処理を実施し、アルミニウム基板を作製した。なお、表4中の「-」は加熱乾燥処理なしを示す。
続いてこのリン酸アルマイト皮膜を有する各アルミニウム基板と銅箔をエポキシ樹脂製の絶縁層を介して積層し、アルミニウム基板側の実体温度で220℃×60分の加熱・加圧保持することにより、アルミニウム基材:1.5mm厚/絶縁層:100μm/銅箔:35μm全面貼り付けのプリント配線板(表5の試料No.21~41)を作製した。
最終加工後の引きはがし強さならびにはんだ耐熱性の評価結果を表5に示す。表5より、本願規定の化学組成、引張強さおよび熱伝導率を満足する実施例記載のアルミニウム合金圧延材が確認できた。