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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112449
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/43 20060101AFI20240814BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
E02F3/43 F
E02F9/20 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017457
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正利
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】歌代 浩志
(72)【発明者】
【氏名】関野 聡
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB03
2D003AB05
2D003AC04
2D003BA01
2D003BA02
2D003BB03
2D003BB07
2D003BB10
2D003CA02
2D003DA02
2D003DA04
2D003DB02
2D003DB04
2D003DB07
2D003DC02
2D003DC04
2D003DC06
2D003FA02
(57)【要約】
【課題】掘削作業において、浅掘りを防止しつつ作業時間の短縮が可能な作業車両を提供する。
【解決手段】作業車両は、車体と、車体に取り付けられる作業装置と、車体に搭載される動力源と、動力源により駆動され、アームシリンダ及びバケットシリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、バケットの角度を検出するバケット角センサと、油圧ポンプの吐出量が吐出量の上限値を超えないように、上記吐出量に比例する油圧ポンプの容量を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、少なくともバケット角センサの検出結果に基づいて、掘削作業状態であるか否かを判定し、掘削作業状態であると判定された場合に、上限値を油圧ポンプの最大吐出量よりも小さい所定吐出量に低減し、バケット角センサにより検出されたバケットの角度の増加に応じて上限値を増加させる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に取り付けられるアーム、前記アームを駆動するアームシリンダ、前記アームに取り付けられるバケット、及び前記バケットを駆動するバケットシリンダを有する作業装置と、
前記車体に搭載される動力源と、
前記動力源により駆動され、前記アームシリンダ及び前記バケットシリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記バケットの角度を検出するバケット角センサと、
前記油圧ポンプの吐出量が前記吐出量の上限値を超えないように、前記吐出量に比例する前記油圧ポンプの容量を制御する制御装置と、を備えた作業車両において、
前記制御装置は、
少なくとも前記バケット角センサの検出結果に基づいて、掘削作業状態であるか否かを判定し、
前記掘削作業状態であると判定された場合に、前記上限値を前記油圧ポンプの最大吐出量よりも小さい所定吐出量に低減し、前記バケット角センサにより検出された前記バケットの角度の増加に応じて前記上限値を増加させる
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両において、
前記アームを操作するアーム操作装置と、
前記バケットを操作するバケット操作装置と、
前記アームシリンダの圧力を検出する圧力センサと、を備え、
前記制御装置は、
掘削作業開始条件が成立したか否かを判定し、
前記掘削作業開始条件が成立してからの作業状態を前記掘削作業状態とみなし、
前記掘削作業開始条件は、
前記アームシリンダの圧力が圧力閾値以上であること、前記アーム操作装置のアーム上げ側の操作量が第1操作量閾値以上であること、及び前記バケット操作装置のバケットクラウド側の操作量が第2操作量閾値以上であることのうちの少なくとも一つと、
前記バケットの角度が第1角度閾値以下であること、を含む
ことを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項2に記載の作業車両において、
前記掘削作業開始条件は、前記車体を前進させるための走行駆動力が駆動力閾値以上であることを含む
ことを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項2に記載の作業車両において、
前記制御装置は、
掘削作業終了条件が成立したか否かを判定し、
前記掘削作業終了条件が成立してからの作業状態を非掘削作業状態とみなし、
前記掘削作業終了条件は、前記掘削作業状態であるときに、前記バケットの角度が前記第1角度閾値よりも大きい第2角度閾値以上となったことを含む
ことを特徴とする作業車両。
【請求項5】
請求項1に記載の作業車両において、
前記アームの角度を検出するアーム角センサを備え、
前記制御装置は、前記掘削作業状態であるとみなした場合に、前記アーム角センサにより検出された前記アームの角度の増加に応じて前記上限値を増加させる
ことを特徴とする作業車両。
【請求項6】
請求項1に記載の作業車両において、
前記制御装置は、
前記掘削作業状態であるとみなしてからの前記車体の走行距離を演算し、
前記掘削作業状態であるとみなした場合に、前記走行距離の増加に応じて前記上限値を増加させる
ことを特徴とする作業車両。
【請求項7】
請求項1に記載の作業車両において、
前記油圧ポンプの回転速度を検出する回転速度センサを備え、
前記油圧ポンプの吐出量は、前記油圧ポンプの容量と前記油圧ポンプの回転速度に比例し、
前記制御装置は、前記掘削作業状態であるとみなした場合に、前記油圧ポンプの回転速度が低くなるほど、前記油圧ポンプの容量を増加させる
ことを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車体を走行させる走行装置と、土砂山等の掘削対象物を掘削する作業装置とを備えたホイールローダ等の作業車両が知られている(特許文献1参照)。作業装置は、車体に取り付けられるアームと、アームに取り付けられるバケットとを有している。このような作業車両では、掘削対象物に向かって車体を前進させてバケットを掘削対象物に貫入させ、バケットを上昇させつつ手前に掬い込み、土砂等をバケットに積載する掘削作業が行われる。
【0003】
掘削作業において、作業時間当たりの積載量で表される作業効率[ton/h]を高くするには、一連の作業を速やかに行いつつ、バケットに掬い込む土砂等の量を多くする必要がある。掘削作業において、アームを上げ側に回動させることによりバケットを上昇させたり、バケットをクラウド側(運転室側)に動作させて土砂等を掬い込んだりする速度(以下、作業装置の動作速度とも記す)が高すぎる場合、バケットで掘削対象物の表面付近しか掬い込めない「浅掘り」となってしまう。その結果、バケットに積み込まれる土砂等の積載量が少なくなり、結果として作業効率が低下する。
【0004】
オペレータは、掘削対象物を深く掘って積載量が多くなる「深掘り」を速やかに行うために、アクセルペダルを操作して掘削対象物にバケットを貫入させる作業と、アーム操作レバーを操作してバケットを上昇させる作業と、バケット操作レバーを操作してバケットを手前に回動させる作業と、を同時に行いつつ、それぞれの操作量をバランス良く調整する必要がある。つまり、掘削作業は、オペレータにとって作業負荷が大きい作業である。
【0005】
また、掘削作業が行われる状況では、車体に揺れが生じることがある。作業装置と掘削対象物によって運転席からの視界が悪い場合もある。この場合には、さらに、オペレータの作業負荷は大きくなってしまう。
【0006】
特許文献1には、掘削作業中に、自動的に油圧ポンプの容量を最大容量以下の所定容量に低減する制御を行う作業車両の油圧ポンプ容量制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-184134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術では、掘削作業の際に、自動的に油圧ポンプの容量が低減され、作業装置の動作速度が制限される。このため、浅掘りを防ぐ効果が期待できる。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、掘削対象物に対するバケットの貫入が十分に進んだ掘削作業の中盤以降においてもバケットの動作速度が制限されてしまうため、作業時間が長くなってしまうおそれがある。なお、特許文献1に記載の技術において、バケットの動作速度の低下を抑制するために、掘削作業の際の油圧ポンプの容量の低減量を小さくした場合には、バケットが掘削対象物に貫入した直後の掘削序盤におけるバケットの動作速度が高すぎることにより、浅掘りしやすくなってしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、掘削作業において、浅掘りを防止しつつ作業時間の短縮が可能な作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様による作業車両は、車体と、前記車体に取り付けられるアーム、前記アームを駆動するアームシリンダ、前記アームに取り付けられるバケット、及び前記バケットを駆動するバケットシリンダを有する作業装置と、前記車体に搭載される動力源と、前記動力源により駆動され、前記アームシリンダ及び前記バケットシリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、前記バケットの角度を検出するバケット角センサと、前記油圧ポンプの吐出量が前記吐出量の上限値を超えないように、前記吐出量に比例する前記油圧ポンプの容量を制御する制御装置と、を備える。前記制御装置は、少なくとも前記バケット角センサの検出結果に基づいて、掘削作業状態であるか否かを判定し、前記掘削作業状態であると判定された場合に、前記上限値を前記油圧ポンプの最大吐出量よりも小さい所定吐出量に低減し、前記バケット角センサにより検出された前記バケットの角度の増加に応じて前記上限値を増加させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、掘削作業において、浅掘りを防止しつつ作業時間の短縮が可能な作業車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ホイールローダの側面図である。
図2図2は、ホイールローダのシステム構成図である。
図3図3は、ホイールローダの基本的な掘削作業について説明する図である。
図4図4は、油圧ポンプの定容量制御を説明するP-Q線図である。
図5図5は、油圧ポンプの定馬力制御を説明するP-Q線図である。
図6図6は、第1実施形態に係るメインコントローラの機能ブロック図であり、ポンプ制御に必要な機能について示す。
図7図7は、バケット角θbについて説明する図である。
図8図8は、バケット角θbと吐出量の掘削時上限値Qlimeとの関係を規定する相関マップM1の一例を示す図である。
図9図9は、油圧ポンプの制御指令値Icmdを変動させたときの油圧ポンプの吐出圧Pdと吐出量Qdとの関係の一例を示す図である。
図10図10は、AUTOモードフラグFmがオンに設定され、かつ掘削作業フラグFLがオンに設定されている場合のバケット角θbに対する油圧ポンプの吐出圧Pdと吐出量Qdの関係の一例を示す図である。
図11図11は、メインコントローラにより実行される吐出量制御における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図12図12は、第1実施形態に係るホイールローダの各パラメータ(アクセル操作量Ra、アーム操作量La、バケット操作量Lb、油圧ポンプの吐出圧Pd、油圧ポンプの吐出量Qd、アーム角θa、及びバケット角θb)の時系列変化を示す図である。
図13図13は、第2実施形態に係るメインコントローラの機能ブロック図である。
図14図14は、第3実施形態に係るメインコントローラの機能ブロック図である。
図15図15は、第3実施形態に係る掘削時上限値演算部の機能について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態では、作業車両が電動駆動式のホイールローダである例について説明する。なお、本実施形態では、駆動源としてのエンジンと、エンジンにより駆動される発電電動機と、発電電動機で発生した電力により車体を走行させる走行駆動装置と、を含むハイブリッドシステムを備えたホイールローダを例に挙げて説明する。しかしながら、本発明は、駆動源が蓄電池等の他の形態であったり、走行駆動装置が機械式のトルクコンバータ等を用いていたりする作業車両に適用してもよい。以下の説明では、上下、左右、前後の方向及び位置は、作業車両の通常の使用状態、すなわち走行装置が水平な地面に接地している状態を基準とする。
【0014】
-第1実施形態-
<ホイールローダの構成>
図1図12を参照して、本発明の第1実施形態に係るホイールローダ1について説明する。図1は、ホイールローダ1の側面図である。図1に示すように、ホイールローダ1は、電動式の走行駆動装置45が搭載された車体8と、車体8の前部に取り付けられた多関節型の作業装置6とを備えている。車体8は、アーティキュレート操舵式(車体屈折式)のものであり、前部車体8Aと、後部車体8Bと、前部車体8Aと後部車体8Bを連結するセンタージョイント10とを有する。
【0015】
前部車体8Aには作業装置6が取り付けられている。後部車体8Bには、運転室12及びエンジン室16が配置されている。運転室12内には、オペレータが着座する座席と、オペレータによって操作される操作装置が設けられている。エンジン室16には、動力源としてのエンジン20(図2参照)、エンジン20により駆動される油圧ポンプ30A,30B,30C(図2参照)、及びバルブ等の油圧機器が搭載されている。
【0016】
作業装置6は、前部車体8Aに上下方向に回動自在に取り付けられるリフトアーム(以下、単にアームと記す)2と、アーム2を駆動する油圧シリンダ(以下、アームシリンダとも記す)4と、アーム2の先端部分に上下方向に回動自在に取り付けられるバケット3と、バケット3を駆動する油圧シリンダ(以下、バケットシリンダとも記す)5とを有する。アーム2は、アームシリンダ4の伸縮動作に応じて動かされる。バケット3は、バケットシリンダ5の伸縮動作に応じて動かされる。なお、アーム2及びアームシリンダ4は、前部車体8Aの左右に1つずつ設けられる。また、本実施形態では、バケット3を作動させるためのリンク機構として、Zリンク式(ベルクランク式)のリンク機構が採用されている。
【0017】
ホイールローダ1は、車輪7を駆動する走行駆動装置45を備える。走行駆動装置45は、走行電動機43と、走行電動機43から駆動力が与えられる走行装置11とを含む。走行装置11は、前部車体8Aに取り付けられる車輪7である前輪7Aと、後部車体8Bに取り付けられる車輪7である後輪7Bと、走行電動機43からの動力を車輪7に伝達する動力伝達装置とを有する。動力伝達装置は、アクスル、デファレンシャル装置、プロペラシャフト等を含んで構成される。
【0018】
走行電動機43は、走行装置11の車輪7を動作させる電動モータである。走行電動機43は、エンジン20の動力によって回転する発電電動機40によって発電された電力により回転駆動される。
【0019】
ホイールローダ1は、前部車体8Aと後部車体8Bとを連結するように設けられる左右一対の油圧シリンダ(以下、ステアリングシリンダとも記す)15を有するステアリング装置によって転舵される。
【0020】
図2は、ホイールローダ1のシステム構成図である。図2に示すように、ホイールローダ1は、エンジン20と、エンジン20に燃料を供給する燃料噴射装置23と、エンジン20に機械的に接続される発電電動機40と、エンジン20及び発電電動機40に機械的に接続される油圧ポンプ30A,30B,30Cと、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油によって駆動される作業装置6と、作業装置6の動作を制御するフロント制御部31と、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油によって駆動されるブレーキ装置21と、ブレーキ装置21の動作を制御するブレーキ制御部32と、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油によって駆動されるステアリング装置22と、ステアリング装置22を制御するステアリング制御部33と、発電電動機40によって発電された電力によって駆動される走行駆動装置45とを備える。
【0021】
作業装置6及び走行駆動装置45は、エンジン20の動力によって、互いに独立して駆動される。原動機であるエンジン20は、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関により構成される。発電電動機40は、エンジン20から出力されるトルクによって回転し、発電する発電機として機能する。
【0022】
油圧ポンプ30A,30B,30Cは、エンジン20が出力するトルクによって駆動されて作動油を吐出する。なお、発電電動機40が電動機として機能する場合には、エンジン20及び発電電動機40が出力するトルクによって、油圧ポンプ30A,30B,30Cが駆動される。油圧ポンプ30Aは、斜板式あるいは斜軸式の可変容量形のピストンポンプである。油圧ポンプ30Aには、レギュレータ34が設けられている。レギュレータ34は、油圧ポンプ30Aの吐出圧がある値を超えて上昇すると、それに応じて油圧ポンプ30Aの傾転角(容量、押しのけ容積に相当)を減少させ、油圧ポンプ30Aの吸収トルクが設定値(ポンプ吸収トルク上限値)を超えないように制御する。レギュレータ34の設定値(ポンプ吸収トルク上限値)は可変であり、制御電磁弁35により制御される。制御電磁弁35は電気的な指令信号により作動し、指令信号に応じた制御圧力を出力する。油圧ポンプ30Aから吐出される作動油の流量(吐出量)は、レギュレータ34の制御によって決定される油圧ポンプ30Aの容量(1回転あたりの吐出量)と、エンジン20の制御によって決定される油圧ポンプ30Aの回転速度とに比例する(ポンプの吐出量=ポンプの容量×ポンプの回転速度)。
【0023】
油圧シリンダ4,5,15,17,18には、エンジン20(図2参照)が出力するトルクによって回転する油圧ポンプ30A,30B,30Cから吐出される作動油(圧油)が供給され、伸縮動作される。
【0024】
フロント制御部31は、油圧ポンプ30Aからアームシリンダ4及びバケットシリンダ5へ供給される作動油の圧力、流量及び方向を制御する。これにより、アームシリンダ4及びバケットシリンダ5の伸縮動作が制御される。ブレーキ制御部32は、油圧ポンプ30Bからブレーキシリンダ17及び駐車ブレーキシリンダ18へ供給される作動油の圧力、流量及び方向を制御する。これにより、ブレーキシリンダ17及び駐車ブレーキシリンダ18の伸縮動作が制御される。ステアリング制御部33は、油圧ポンプ30Cからステアリングシリンダ15へ供給される作動油の圧力、流量及び方向を制御する。これにより、ステアリングシリンダ15の伸縮動作が制御される。
【0025】
ホイールローダ1は、車両全体の制御を行う制御装置であるメインコントローラ100と、メインコントローラ100からのエンジン回転速度指令に基づいて燃料噴射装置23を制御するエンジンコントローラ120と、エンジンコントローラ120からの燃料噴射量指令に基づいて燃料噴射量を制御する燃料噴射装置23と、メインコントローラ100から入力される発電電圧指令に基づいて発電電動機40を制御する発電電動機用のインバータ(以下、発電インバータと記す)41と、メインコントローラ100から入力される走行駆動トルク指令に基づいて走行電動機43のトルクを制御する走行電動機用のインバータ(以下、走行インバータと記す)42と、運転室12内に設けられる各種操作装置(51~59)とを備える。
【0026】
運転室12内には、車体8の前進(F)、待機(N)、及び後進(R)を切り替える前後進切替装置である前後進スイッチ51と、アームシリンダ4(アーム2)を操作するアーム操作装置52と、バケットシリンダ5(バケット3)を操作するバケット操作装置53と、車体8を加速させるためのアクセル操作装置56と、ブレーキシリンダ17を操作するブレーキ操作装置57と、駐車ブレーキシリンダ18を操作する駐車ブレーキ操作装置54と、左右一対のステアリングシリンダ15を操作するステアリング操作装置55と、AUTOモードとMANUALモードとを切り替えるモード切替スイッチ(モード切替装置)58と、油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値を手動で調整できる調整ダイヤル59と、が設けられている。なお、説明の便宜上、操作装置52,53,56を総称して、操作装置50とも記す。
【0027】
アーム操作装置52は、アーム操作レバーと、アーム操作レバーの操作量(以下、アーム操作量とも記す)を検出するアーム操作量センサ52aとを備える。バケット操作装置53は、バケット操作レバーと、バケット操作レバーの操作量(以下、バケット操作量とも記す)を検出するバケット操作量センサ53aとを備える。アクセル操作装置56は、アクセルペダルと、アクセルペダルの操作量(以下、アクセル操作量とも記す)を検出するアクセル操作量センサ56aとを備える。ブレーキ操作装置57は、ブレーキペダルと、ブレーキペダルの操作量(以下、ブレーキ操作量とも記す)を検出するブレーキ操作量センサ57aとを備える。ステアリング操作装置55は、ステアリングホイール(ハンドル)と、ステアリングホイールの操作量(以下、ステアリング操作量とも記す)を検出するステアリング操作量センサ55aとを備える。アーム操作量センサ52a、バケット操作量センサ53a、アクセル操作量センサ56a、ブレーキ操作量センサ57a、及びステアリング操作量センサ55aは、例えば、操作部材(操作レバーまたはペダル)の操作位置に応じた電圧をメインコントローラ100に出力するポテンショメータである。
【0028】
モード切替スイッチ58は、AUTOモードとMANUALモードとを手動で切り替え可能なスイッチである。AUTOモードは、後述するバケット角に基づいて油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値が設定される制御モードである。それに対し、MANUALモードは、バケット角に基づいて油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値が設定されない制御モードである。モード切替スイッチ58は、操作位置として、AUTOモード位置とMANUALモード位置とを有し、操作位置に応じた信号をメインコントローラ100に出力する。メインコントローラ100は、モード切替スイッチ58がAUTOモード位置に操作されている場合には、AUTOモードフラグFmをオンにして制御モードをAUTOモードに設定する(Fm=1)。メインコントローラ100は、モード切替スイッチ58がMANUALモード位置に操作されている場合には、AUTOモードフラグFmをオフにして制御モードをMANUALモードに設定する(Fm=0)。
【0029】
制御モードがMANUALモードに設定されている場合、油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値は、調整ダイヤル59の操作位置に応じた固定値に設定される。制御モードがAUTOモードに設定されている場合、油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値は、調整ダイヤル59の操作位置に応じた値を最大値として、後述する初期上限値Qlim0から最大値の間でバケット角に応じた値に調整される。つまり、手動で調整ダイヤル59の値を変更することによって、バケット角の変動に対して油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値が変動する量を調整できる。
【0030】
<ホイールローダの制御システム>
メインコントローラ100は、動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)101、記憶装置としてのROM(Read Only Memory)102及びRAM(Random Access Memory)103、入力インタフェース104、出力インタフェース105、並びに、その他の周辺回路を備えたマイクロコンピュータで構成される。なお、エンジンコントローラ120も、メインコントローラ100と同様、動作回路、記憶装置及び入出力インタフェース等を備えたマイクロコンピュータで構成される。メインコントローラ100及びエンジンコントローラ120は、それぞれ1つのマイクロコンピュータで構成してもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成してもよい。
【0031】
メインコントローラ100のROM102は、EEPROM等の不揮発性メモリであり、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、メインコントローラ100のROM102は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体である。RAM103は揮発性メモリであり、CPU101との間で直接的にデータの入出力を行うワークメモリである。RAM103は、CPU101がプログラムを演算実行している間、必要なデータを一時的に記憶する。なお、メインコントローラ100は、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の記憶装置をさらに備えていてもよい。
【0032】
CPU101は、ROM102に記憶されたプログラムをRAM103に展開して演算実行する処理装置であって、プログラムにしたがって入力インタフェース104及びROM102,RAM103から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。
【0033】
入力インタフェース104には、各種操作装置(51~59)からの操作信号及び各種センサからのセンサ信号が入力される。入力インタフェース104は、入力された信号をCPU101で演算可能なデータに変換する。出力インタフェース105は、CPU101の演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号をフロント制御部31、ブレーキ制御部32、ステアリング制御部33、発電インバータ41、走行インバータ42、及びエンジンコントローラ120等に出力する。
【0034】
メインコントローラ100は、各種操作装置から入力される操作信号及びその他の各種センサから入力されるセンサ信号に基づいて、フロント制御部31、ブレーキ制御部32、ステアリング制御部33、発電インバータ41及び走行インバータ42、及びエンジンコントローラ120を統括的に制御する。
【0035】
メインコントローラ100に入力される操作信号としては、アクセル操作量センサ56aによって検出されるアクセル操作量、ブレーキ操作量センサ57aによって検出されるブレーキ操作量、アーム操作量センサ52aによって検出されるアーム操作量、バケット操作量センサ53aによって検出されるバケット操作量、ステアリング操作量センサ55aによって検出されるステアリング操作量、前後進スイッチ51から出力される前後進スイッチ51の操作位置を表す信号、モード切替スイッチ58から出力されるモード切替スイッチ58の操作位置を表す信号、及び調整ダイヤル59から出力される調整ダイヤル59の操作位置を表す信号がある。
【0036】
メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、アーム相対角センサ62で検出された角度を表す信号、及び、バケット相対角センサ63で検出された角度を表す信号がある。アーム相対角センサ62は、車体8とアーム2とを連結する連結軸に設けられる。アーム相対角センサ62は、車体8に対するアーム2の相対角(傾斜角)を検出するポテンショメータである。バケット相対角センサ63は、アーム2とバケット3とを連結する連結軸に設けられる。バケット相対角センサ63は、アーム2に対するバケット3の相対角(傾斜角)を検出するポテンショメータである。
【0037】
地面(走行面)に対する車体8の角度は一定であるため、アーム相対角センサ62で検出される角度(以下、アーム角とも記す)θaは、地面に対するアーム2の相対角(傾斜角)に相当するといえる。また、地面(走行面)に対するバケット3の角度(以下、バケット角とも記す)θbは、アーム相対角センサ62及びバケット相対角センサ63の検出結果に基づき演算可能である。つまり、アーム相対角センサ62及びバケット相対角センサ63は、地面(走行面)を基準とするバケット角θbを検出するバケット角センサとして機能する。
【0038】
また、メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、車速センサ61によって検出されるホイールローダ1の車速(車体8の走行速度)を表す信号がある。車速センサ61は、例えば、動力伝達装置を構成する軸の回転速度を検出するロータリーエンコーダである。
【0039】
さらに、メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、複数の回転速度センサによって検出されたエンジン20、発電電動機40、油圧ポンプ30A,30B,30C、及び走行電動機43の回転速度を表す信号がある。エンジン20の回転速度は、エンジン回転速度センサ64により検出され、油圧ポンプ30Aの回転速度はポンプ回転速度センサ67により検出される。
【0040】
また、メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、吐出圧センサ71,72,73によって検出された油圧ポンプ30A,30B,30Cの吐出圧、及びアームシリンダ圧センサ74によって検出されたアームシリンダ4のボトム側油室の圧力(以下、ボトム圧とも記す)を表す信号がある。
【0041】
メインコントローラ100は、アクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量等に基づいて、エンジン20の回転速度指令値(目標エンジン回転速度)を演算し、エンジンコントローラ120に出力する。また、メインコントローラ100は、エンジン回転速度センサ64によって検出された実エンジン回転速度をエンジンコントローラ120に出力する。エンジンコントローラ120は、メインコントローラ100から取得した回転速度指令値と、エンジン回転速度センサ64によって検出された実エンジン回転速度とを比較して、実エンジン回転速度が回転速度指令値となるように燃料噴射装置23を制御する。燃料噴射装置23は、エンジンコントローラ120から出力される燃料噴射指令に基づいて、燃料噴射量を制御し、エンジン20を動作させる。
【0042】
メインコントローラ100は、アーム操作装置52及びバケット操作装置53の操作方向及び操作量と、油圧ポンプ30Aの吐出圧に基づいて、油圧ポンプ30Aの制御指令値を出力する。制御電磁弁35は、メインコントローラ100からの制御指令値に基づき、油圧ポンプ30Aの吐出量に比例するポンプの容量(押しのけ容積)を調整する。メインコントローラ100は、定トルク制御(または定馬力制御)を実行可能である。定トルク制御では、油圧ポンプ30Aの吐出圧の大きさによって制御指令値(ポンプ吸収トルク上限値)が変更されることなく、エンジン20から吸収するトルクが設定した上限値を超えないようにポンプ容量が制御される。また、メインコントローラ100は、定容量制御を実行可能である。定容量制御では、油圧ポンプ30Aの吐出圧の大きさによって制御指令値(ポンプ吸収トルク上限値)が変更され、油圧ポンプ30Aのポンプ容量が設定した上限値を超えないように制御される。定容量制御にすると、油圧ポンプ30Aの吐出圧の大きさによってポンプ容量が変わらなくなる。このため、油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値は、設定したポンプ容量の上限値と油圧ポンプ30Aの回転速度の乗算によって決定される。
【0043】
メインコントローラ100は、アーム操作装置52及びバケット操作装置53の操作方向及び操作量に基づいて、フロント制御指令を出力する。フロント制御部31は、メインコントローラ100からのフロント制御指令に基づき、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油の圧力、流量及び方向を調整し、アームシリンダ4及びバケットシリンダ5を動作させる。フロント制御部31は、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油の流れを制御する方向制御弁、及び、この方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を生成する電磁弁等を有する。
【0044】
メインコントローラ100は、ブレーキ操作装置57の操作量、及び駐車ブレーキ操作装置54の操作スイッチの操作位置に基づいて、ブレーキ制御指令を出力する。ブレーキ制御部32は、メインコントローラ100からのブレーキ制御指令に基づき、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油の圧力、流量及び方向を調整し、ブレーキシリンダ17及び駐車ブレーキシリンダ18を動作させる。ブレーキ制御部32は、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油の流れを制御する方向制御弁、及び、この方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を生成する電磁弁等を有する。
【0045】
メインコントローラ100は、ステアリング操作装置55のステアリングホイールの操作方向及び操作量に基づいて、ステアリング制御指令を出力する。ステアリング制御部33は、メインコントローラ100からのステアリング制御指令に基づき、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油の圧力、流量及び方向を調整し、ステアリングシリンダ15を動作させる。ステアリング制御部33は、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油の流れを制御する方向制御弁、及び、この方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を生成する電磁弁等を有する。
【0046】
発電インバータ41及び走行インバータ42は、直流部(直流母線)44によって接続されている。なお、本実施形態に係るホイールローダ1は、直流部44に接続される蓄電装置を備えていない。発電インバータ41は、メインコントローラ100からの発電電圧指令に基づき、発電電動機40から供給される電力を利用して直流部44のバス電圧を制御する。走行インバータ42は、メインコントローラ100の走行駆動トルク指令に基づき、直流部44の電力を利用して走行電動機43を駆動させる。
【0047】
本実施形態では、エンジン20が出力するトルクによって油圧ポンプ30A,30B,30Cが駆動され、油圧ポンプ30A,30B,30Cから吐出される作動油によって、作業装置6、ブレーキ装置21及びステアリング装置22が駆動される。また、本実施形態では、エンジン20が出力するトルクによって発電電動機40が駆動され、発電電動機40で発生する電力によって走行電動機43が駆動される。
【0048】
アーム操作装置52のアーム操作レバーが操作されると、アームシリンダ4の伸縮動作によりアーム2が上下方向に回動(俯仰動)する。バケット操作装置53のバケット操作レバーが操作されると、バケットシリンダ5の伸縮動作によりバケット3が上下方向に回動(クラウド動作またはダンプ動作)する。
【0049】
ステアリング操作装置55のステアリングホイールが操作されると、ステアリングシリンダ15の伸縮動作に伴って後部車体8Bに対し前部車体8Aがセンタージョイント10を中心にして左右に屈折(転舵)する。アクセル操作装置56のアクセルペダルが操作されると、走行電動機43の駆動により車輪7が回転し、ホイールローダ1が走行する。
【0050】
前後進スイッチ51が前進(F)に操作されている状態で、アクセル操作装置56のアクセルペダルが踏み込まれると、車輪7が前進方向に回転し、車体8が前進走行する。前後進スイッチ51が後進(R)に操作されている状態で、アクセル操作装置56のアクセルペダルが踏み込まれると、車輪7が後進方向に回転し、車体8が後進走行する。なお、前後進スイッチ51が待機(N)に操作されている状態では、アクセル操作装置56のアクセルペダルが踏み込まれても、車輪7は回転せず、車体8は走行しない。
【0051】
<掘削作業>
次に、図3を参照して、ホイールローダ1の基本的な掘削作業の一例について説明する。掘削作業において、ホイールローダ1は、まず、図3(a)に示すように、バケット3を水平にしつつ地面に接近させた姿勢(突入姿勢)で、土砂山等の掘削対象物91に向かって前進する。次に、図3(b)に示すような掘削作業の序盤では、ホイールローダ1は、掘削対象物91に突っ込むような形でバケット3を掘削対象物91に貫入しつつ、バケット3を上昇させ始める。次に、図3(c)に示すような掘削作業の中盤以降では、ホイールローダ1は、バケット3を掘削対象物91に貫入しつつ、アーム2及びバケット3を動作させて、バケット3に土砂などの運搬物を積み込む。最後に、図3(d)に示すように、ホイールローダ1は、バケット3に積み込まれた土砂などの運搬物をこぼさない様にバケット3を手前に掬い上げて(クラウド動作させ)、作業装置6を運搬姿勢とする。これにより、掘削作業が完了する。
【0052】
ホイールローダ1は、掘削作業が完了すると、一旦後退し、ダンプトラック等の運搬車両に向かって前進する。このとき、ホイールローダ1は、バケット3を上昇させつつ、ダンプトラックに向かって前進する。ホイールローダ1は、ダンプトラックの手前で停止した後、バケット3をダンプ動作させることにより、ダンプトラックの荷台にバケット3内の運搬物(積載物)を積み込む。積込作業が完了すると、ホイールローダ1は再び後退し、元の位置に戻る。
【0053】
この掘削作業と積込作業を含む一連の作業は、ホイールローダ1の全作業時間の大多数を占める。そのため、ホイールローダ1の作業効率を向上させるためには、この一連の作業の効率を向上させることが有効である。なお、作業効率とは、例えば、掘削作業と積込作業を含む一連の作業において、所定の時間当たりの運搬車両に積み込んだ掘削物の重量[ton/h]に相当し、これが大きいほど短時間でより多くの物量を掘削できることを意味する。
【0054】
<掘削作業における課題>
ここで、図3(b)に示すような掘削作業の序盤において、バケット3を上昇させるタイミングが早すぎたり、バケット3の上昇速度が高すぎたりすると、バケット3が掘削対象物91の表面近くを掘り進むことになる。このような掘り方は、浅掘りと呼ばれる。浅掘りでは、バケット3に積み込まれる土砂の量が少なくなるため、作業効率が低下する。
【0055】
一方、バケット3を上昇させるタイミングが遅すぎたり、バケット上昇速度が低すぎたりすると、車輪7が空転するスリップが発生したり、車体8が前進できなくなるストールが発生したりする場合がある。また、油圧シリンダ4,5に供給される作動油の圧力が閾値(リリーフ設定圧)を超えて、作動油がタンクに排出される圧力リリーフが発生してしまう場合もある。掘削作業において、圧力リリーフが発生すると、作業装置6を動作させることができなくなる。車輪7のスリップ、車体8のストール、及び作業装置6の圧力リリーフが発生すると、これらの現象を解消するための操作が必要となり、作業時間が長くなって作業効率が低下してしまう。
【0056】
このような動作特性を踏まえ、オペレータは掘削作業中にアクセルペダル、アーム操作レバー、及びバケット操作レバーの操作量を調整し、掘削作業の序盤から終盤にかけて徐々にバケット上昇速度を高くするようにホイールローダ1を動作させ、作業効率が高くなるようにしている。作業効率の高い掘削作業を行うには、オペレータは短時間に複雑で精密な操作をする必要があり、高い集中力と技量が要求される。オペレータの集中力が時間の経過とともに低下すると、作業効率が低下してしまう。
【0057】
そのため、高い作業効率を維持するためには、オペレータの作業負荷を低減するとともに、作業装置6の動作を適切に制御することが重要である。ここで、作業負荷とは、掘削作業と積込作業を含む一連の作業において、オペレータがアクセルペダル、アーム操作レバー及びバケット操作レバー等の操作部材の操作量を変更した回数に相当する。つまり、操作部材の操作量の変更回数を少なくすることができれば、オペレータの作業負荷を低減できたといえる。
【0058】
ここで、バケット3が掘削対象物91に貫入し始めた後に、オペレータがアーム操作レバー及びバケット操作レバーをいっぱいまで操作(フルレバー操作)するとともに、アクセルペダルをいっぱいまで操作(フルアクセル操作)し、フルレバーかつフルアクセルの操作状態のまま、運搬姿勢となるまで作業装置6を動作させることを「簡易掘削操作」と定義する。本実施形態では、この簡易掘削操作が行われた場合に、バケット角θbの増加に応じて作業装置6の動作速度を増加させることにより、車輪7のスリップ、車体8のストール、及び作業装置6の圧力リリーフ、並びに、浅掘りを防止することにより、オペレータの作業負荷を低減しつつ作業効率の向上を図る。
【0059】
<定容量制御での課題>
図4を参照して、従来の定容量制御において作業効率の向上を図る場合の課題について説明する。図4は、油圧ポンプの定容量制御を説明するP-Q線図である。図4のP-Q線図の横軸は、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdを示し、縦軸は油圧ポンプ30Aの吐出量Qdを示す。定容量制御では、図4に示すように、掘削作業時に油圧ポンプ30Aの吐出量Qdを所定値に低減する。例えば、定容量制御での吐出圧Pdと吐出量Qdとの関係を規定するP-Q特性が、図示するように100%特性から50%特性に変更される。つまり、吐出量Qdの上限値が、最大吐出量Qmaxの50%に設定される。これにより、作業装置6のパワーロスが低減され、走行駆動力が増加する。
【0060】
この方法では、掘削作業の序盤でのバケット3の上昇速度が低くなるため、浅掘りの防止に効果があると考えられる。しかしながら、バケット3の掘削対象物91への貫入が十分に進んだ掘削作業の中盤以降では、作業装置6の動作速度が低いことから掘削時間が長くなる。また、車輪7のスリップ、車体8のストール、及び作業装置6の圧力リリーフなどが発生して作業時間が長くなるおそれもある。なお、油圧ポンプ30Aの吐出量の低減量を小さくすることにより、掘削作業の中盤以降での作業装置6の動作速度を確保して、作業時間が長くなることを抑制できる。しかしながら、この場合、掘削作業の序盤におけるバケット3の上昇速度が高すぎて、浅掘りしやすくなってしまう。
【0061】
<定馬力制御での課題>
図5を参照して、従来の定馬力制御において作業効率の向上を図る場合の課題について説明する。図5は、油圧ポンプの定馬力制御を説明するP-Q線図である。図5のP-Q線図の横軸は、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdを示し、縦軸は油圧ポンプ30Aの吐出量Qdを示す。定馬力制御では、図5に示すように、掘削作業時に油圧ポンプ30Aの吸収トルクの設定値(ポンプ吸収トルク上限値)を所定値に低減する。例えば、定馬力制御での吐出圧Pdと吐出量Qdとの関係を規定するP-Q特性が、図示するように100%特性から50%特性に変更される。つまり、油圧ポンプ30Aの出力(=吐出量Qd×吐出圧Pd)の上限値が最大馬力の50%に設定される。これにより、作業装置6のパワーロスが低減され、走行駆動力が増加する。
【0062】
しかしながら、掘削作業の序盤では、掘削対象物91からホイールローダ1に作用する反力(掘削反力)が小さい。つまり、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdが低い。このため、掘削作業の序盤では、吐出量Qdがほとんど低減されない。つまり、バケット3の上昇速度がほとんど低減されないため、浅掘りしてしまうおそれがある。また、掘削作業の中盤以降では、掘削反力が大きくなり、油圧ポンプ30Aの吐出圧が高くなる。このため、吐出量Qdが必要以上に抑制されてしまう。その結果、掘削作業の中盤以降において、作業装置6の動作速度が大きく低減し、作業効率が低下するおそれがある。
【0063】
<バケット角に応じた吐出量の漸増制御>
以上のとおり、上述の定容量制御及び定馬力制御では、作業効率の観点で改善の余地がある。そこで本願発明者らは、掘削作業の際のオペレータの操作、油圧ポンプ30Aの制御、及び作業効率(作業時間と積載量)について鋭意研究を重ねた。その結果、掘削開始時に油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値を所定値に低減し、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdの変動によって吐出量Qdの上限値を変動させずに、バケット角θbが増加するほど吐出量Qdの上限値を増加させるように油圧ポンプ30Aを制御する手法が見出された。
【0064】
この手法によれば、掘削作業中にオペレータがアーム操作レバー及びバケット操作レバーの操作量を一定にしていても、掘削作業の序盤は作業装置6の動作速度が低くなり、掘削作業の序盤から終盤にかけてバケット角θbが増加していくのに合わせて作業装置6の動作速度が徐々に高くなる。したがって、掘削作業の序盤で浅掘りがしにくくなる。また、掘削作業の中盤以降での作業時間を短縮できる。また、車輪7のスリップ、車体8のストール、及び作業装置6の圧力リリーフの発生も防止できる。これにより、容易な操作で作業効率を向上可能なホイールローダ1の提供が可能となった。
【0065】
以下、本実施形態に係るメインコントローラ100の機能、及び、メインコントローラ100により実行される演算処理の内容について、詳しく説明する。
【0066】
<コントローラの機能>
図6は、メインコントローラ100の機能ブロック図であり、ポンプ制御に必要な機能について示す。図6に示すように、メインコントローラ100は、ROM102に記憶されているプログラムを実行することにより、作業判定部110、掘削時上限値演算部111a、通常時上限値演算部111b、及び指令値演算部112として機能する。
【0067】
作業判定部110は、少なくともバケット角θbに基づいて、ホイールローダ1の作業状態が掘削作業状態であるか否かを判定する。
【0068】
作業判定部110は、掘削作業開始条件が成立したか否かを判定する。非掘削作業状態であるときに掘削作業開始条件が成立した場合には、作業判定部110は、掘削作業フラグFLをオフからオンに切り替える。なお、掘削作業開始条件が成立していない場合には、作業判定部110は、掘削作業フラグFLをオフのまま維持する。また、作業判定部110は、掘削作業終了条件が成立したか否かを判定する。掘削作業状態であるときに掘削作業終了条件が成立した場合には、作業判定部110は、掘削作業フラグFLをオンからオフに切り替える。なお、掘削作業終了条件が成立していない場合には、作業判定部110は、掘削作業フラグFLをオンのまま維持する。後述する指令値演算部112は、掘削作業フラグFLのオン/オフに基づいて、作業状態が掘削作業状態であるか否かを判定する。指令値演算部112は、掘削作業フラグFLがオンに設定されている場合には、ホイールローダ1の作業状態が掘削作業状態であると判定し、掘削作業フラグFLがオフに設定されている場合には、ホイールローダ1の作業状態が非掘削作業状態であると判定する。
【0069】
図7は、バケット角θbについて説明する図である。図7に示すように、バケット角θbは、基準面90からのバケット3の傾斜角度である。本実施形態では、基準面90は水平な地面(ホイールローダ1の走行面)と平行に設定される面である。バケット3の刃部39の底面が基準面90に平行な状態では、バケット角θbは0[°]である。クラウド動作によりバケット3が回動すると、その回動に伴ってバケット角θbは増加する。換言すれば、ダンプ動作によりバケット3が回動すると、その回動に伴ってバケット角θbは減少する。バケット角θbは、アーム相対角センサ62で検出された基準面90に対するアーム2の相対角及びバケット相対角センサ63で検出されたアーム2に対するバケット3の相対角に基づいて、メインコントローラ100によって算出される。
【0070】
本実施形態に係る作業判定部110は、以下の(条件1A)~(条件5A)の全てが満たされた場合には、掘削作業開始条件が成立したとして、掘削作業フラグFLをオフからオンに切り替える(FL=1)。作業判定部110は、(条件1A)~(条件5A)の少なくとも一つが満たされていない場合には、掘削作業開始条件は成立していないと判定する。作業判定部110は、(条件1A)が満たされている場合であって、(条件2A)~(条件5A)の少なくとも一つが満たされていないときには、掘削作業開始条件は成立していないとして、掘削作業フラグFLをオフのままにする。
(条件1A)掘削作業フラグFLがオフに設定されている。
(条件2A)バケット角θbが予め定められた角度範囲内(下側閾値θba以上、上側閾値θbb以下)の値である。
(条件3A)アームシリンダ4のボトム圧Paが予め定められた圧力閾値Pa0以上である。
(条件4A)車体8を前進させるための走行駆動力Fcが予め定められた駆動力閾値Fc0以上である。
(条件5A)アーム上げ側のアーム操作量Laが第1操作量閾値La0以上であること、若しくはバケットクラウド側のバケット操作量Lbが第2操作量閾値Lb0以上であること。
【0071】
(条件2A)で用いられるバケット角θbは、アーム相対角センサ62及びバケット相対角センサ63の検出結果に基づき、メインコントローラ100により演算される。(条件3A)で用いられるアームシリンダ4のボトム圧Paはアームシリンダ圧センサ74の検出結果に基づき、メインコントローラ100により演算される。(条件4A)で用いられる走行駆動力Fcは、走行電動機43のトルクセンサ65、または走行電動機43の電流センサ66の検出結果に基づき、メインコントローラ100により演算される。(条件5A)で用いられるアーム操作量Laは、アーム操作量センサ52aの検出結果に基づき、メインコントローラ100により演算される。(条件5A)で用いられるバケット操作量Lbは、バケット操作量センサ53aの検出結果に基づき、メインコントローラ100により演算される。
【0072】
下側閾値θba、上側閾値θbb、圧力閾値Pa0、及び駆動力閾値Fc0は、実験等により計測された掘削作業の開始時点(掘削対象物91にバケット3が貫入し始めた時点でのバケット角θb、ボトム圧Pa、及び走行駆動力Fcに基づいて定められる。第1操作量閾値La0及び第2操作量閾値Lb0は、アーム操作レバー及びバケット操作レバーが操作されたか否かを判定するために設定される。これらの閾値θba,θbb,Pa0,Fc0,La0,Lb0は、ROM102に記憶されている。
【0073】
下側閾値θbaは負の値である(θba<0)。下側閾値θbaには、例えば、-10[°]以上-5[°]以下の値が採用される。上側閾値θbbは正の値である(θbb>0)。上側閾値θbbには、例えば、10[°]以上20[°]以下の値が採用される。圧力閾値Pa0には、例えば、アームシリンダ4の最高使用圧力を100%としたときの10%以上30%以下の値が採用される。第1操作量閾値La0は、アーム操作レバーの最大操作量を100%としたときの5%程度の値が採用される。第2操作量閾値Lb0は、バケット操作レバーの最大操作量を100%としたときの5%程度の値が採用される。駆動力閾値Fc0には、例えば、最高走行駆動力を100%としたときの10%以上40%以下の値が採用される。
【0074】
走行電動機43によって発生する走行駆動力Fcは、例えば、走行電動機43の出力トルク(走行駆動トルク)Tm、総合減速比λ、及び車輪7の直径Dtに基づいて次式(1)により求められる。
【0075】
【数1】
【0076】
なお、総合減速比λは、エンジン20の回転速度と車輪7の回転速度の比であり、トランスミッションが設けられる場合には、トランスミッションの変速比に減速比(デファレンシャル比)を乗じることで算出される。cは、単位換算のための係数である。走行駆動トルク(モータ出力トルク)Tmは、トルクセンサ65により検出してもよいし、電流センサ66によって検出されるモータ電流から演算してもよい。また、走行駆動トルクTmは、アクセル操作量から演算してもよい。
【0077】
作業判定部110は、以下の(条件1B)及び(条件2B)の双方が満たされた場合には、掘削作業終了条件が成立したとして、掘削作業フラグFLをオンからオフに切り替える(FL=0)。作業判定部110は、(条件1B)及び(条件2B)の少なくとも一方が満たされていない場合には、掘削作業終了条件は成立していないと判定する。作業判定部110は、(条件1B)が満たされている場合であって、(条件2B)が満たされていないときには、掘削作業終了条件は成立していないとして、掘削作業フラグFLをオンのままにする。
(条件1B)掘削作業フラグFLがオンに設定されている。
(条件2B)バケット角θbが予め定められた解除閾値θbc以上である。
【0078】
(条件2B)で用いられるバケット角θbは、アーム相対角センサ62及びバケット相対角センサ63の検出結果に基づき、メインコントローラ100により演算される。
【0079】
解除閾値θbcは、実験等により計測された掘削作業の終了時点(バケット3で掘削対象物91を掬い込み終えた時点)でのバケット角θbに基づいて定められる。解除閾値θbcは、ROM102に記憶されている。解除閾値θbcには、上側閾値θbbよりも大きい値が採用される(θbc>θbb)。解除閾値θbcには、例えば、25[°]以上40[°]以下の値が採用される。このように、作業判定部110は、掘削作業状態であるときに、バケット角θbが解除閾値θbc以上となった場合に、掘削作業終了条件が成立したと判定する。
【0080】
図6に示す掘削時上限値演算部111aは、少なくともバケット角θbに基づいて、掘削作業状態のときに用いられる油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値(以下、掘削時上限値とも記す)Qlimeを演算する。図8を参照して、バケット角θbと吐出量の掘削時上限値Qlimeの関係について説明する。図8は、バケット角θbと吐出量の掘削時上限値Qlimeとの関係を規定する相関マップM1の一例を示す図である。この相関マップM1は、予め計算若しくは実験に基づいて決定され、ROM102に記憶されている。なお、図8の相関マップM1は、油圧ポンプ30Aの回転速度が掘削作業中の目標回転速度であることを想定した吐出量の制御線図である。掘削時上限値演算部111aは、この相関マップM1を参照し、バケット角θbに基づいて、吐出量の掘削時上限値Qlimeを演算する。
【0081】
図8に示すように、相関マップM1は、序盤バケット角θb0から終盤バケット角θb3の範囲内において、バケット角θbが大きくなるにつれて掘削時上限値Qlimeが大きくなる特性を規定している。
【0082】
序盤バケット角θb0は、ホイールローダ1が掘削対象物91に突入してバケット3を掘削対象物91に貫入させるときの姿勢(以下、貫入姿勢とも記す)に適したバケット角θbに相当する。序盤バケット角θb0には、例えば、-5[°]以上5[°]以下の値が採用される。終盤バケット角θb3は、掘削作業の終盤、すなわちバケット3を最後まで掬い込む段階でのバケット角θbに相当する。終盤バケット角θb3には、例えば、30[°]以上50[°]以下の値が採用される。
【0083】
バケット角θbが序盤バケット角θb0以上のときの吐出量の掘削時上限値Qlimeは、初期上限値Qlim0である。初期上限値Qlim0は、簡易掘削操作でも浅掘りになりにくい吐出量に相当する。初期上限値Qlim0には、例えば、最大吐出量Qmaxを100%としたときの10%以上30%以下の値が採用される。バケット角θbが終盤バケット角θb3以上のときの吐出量の掘削時上限値Qlimeは、油圧ポンプ30Aの最大吐出量Qmaxである。
【0084】
バケット角θbは掘削作業の序盤では小さく、掘削作業が終盤に近づくにつれて徐々に大きくなる。このため、図8に示す相関マップM1に基づき吐出量の上限値が調整される場合、アーム操作レバー及びバケット操作レバーのそれぞれの操作量が一定であっても、掘削作業の序盤では作業装置6の動作速度が低く、掘削作業が終盤に近づくにつれて作業装置6の動作速度が高くなる。したがって、オペレータは複雑な操作をしなくても、作業効率を向上できる。
【0085】
なお、本実施形態に係る掘削時上限値演算部111aは、図6に示すように、調整ダイヤル59の指示値Cd(Cd≦1)も加味して、掘削時上限値Qlimeを演算する。具体的には、掘削時上限値演算部111aは、相関マップM1に基づき演算された値と、最大吐出量Qmaxに調整ダイヤル59の指示値Cdを乗じた値とを比較し、小さい方を掘削時上限値Qlimeとして決定する。
【0086】
通常時上限値演算部111bは、調整ダイヤル59の指示値Cd(Cd≦1)に最大吐出量Qmaxを乗じることにより、油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値(以下、通常時上限値とも記す)Qlimnを演算する。通常時上限値Qlimnは、後述するように、AUTOモードが設定されているときの非掘削作業状態、及びMANUALモードが設定されているときに用いられる。
【0087】
指令値演算部112は、掘削作業フラグFLと、AUTOモードフラグFmと、吐出量の掘削時上限値Qlimeと、吐出量の通常時上限値Qlimnと、ポンプ吸収トルクの上限値Tpと、吐出圧センサ71で検出された油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdとに基づいて、油圧ポンプ30Aの制御指令値Icmdを演算する。
【0088】
指令値演算部112は、AUTOモードフラグFmがオンに設定され、かつ掘削作業フラグFLがオフに設定されている場合には、通常時上限値Qlimnを制御指令値Icmdの演算に用いる吐出量の上限値Qlimとして決定する。なお、指令値演算部112は、AUTOモードフラグFmがオフに設定されている場合も同様に、通常時上限値Qlimnを制御指令値Icmdの演算に用いられる吐出量の上限値Qlimとして決定する。指令値演算部112は、AUTOモードフラグFmがオンに設定され、かつ掘削作業フラグFLがオンに設定されている場合には、掘削時上限値Qlimeを制御指令値Icmdの演算に用いる吐出量の上限値Qlimとして決定する。
【0089】
ポンプ吸収トルクの上限値Tpは、メインコントローラ100により演算される。例えば、メインコントローラ100は、アクセル操作量、アーム操作量及びバケット操作量等に基づいて、エンジン20の回転速度指令値を演算する。具体的の一例としては、メインコントローラ100は、アクセル操作量と走行電動機43の回転速度に基づき走行電動機43の要求動力(以下、走行要求動力とも記す)を演算する。メインコントローラ100は、アーム操作量、バケット操作量、及び油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdに基づき作業装置6の要求動力(以下、作業要求動力とも記す)を演算する。メインコントローラ100は、走行要求動力と作業要求動力の和に基づき、エンジン20の要求動力を演算する。メインコントローラ100は、エンジン20の要求動力に基づき、エンジン20の回転速度指令値(目標エンジン回転速度)を演算する。
【0090】
メインコントローラ100は、演算した目標エンジン回転速度に予め定められた係数を乗じることにより、ポンプ吸収トルクの上限値Tpを演算する。ポンプ吸収トルクの上限値Tpは、目標エンジン回転速度が高くなるほど大きくなるように設定される。
【0091】
なお、ポンプ吸収トルクの上限値Tpの演算方法は、これに限定されない。例えば、メインコントローラ100は、アーム操作量に所定の係数を乗じることにより第1目標エンジン回転速度を演算し、バケット操作量に所定の係数を乗じることにより第2目標エンジン回転速度を演算する。メインコントローラ100は、第1目標エンジン回転速度及び第2目標エンジン回転速度のうち大きい方をエンジン20の回転速度指令値として採用する。メインコントローラ100は、採用した回転速度指令値(目標エンジン回転速度)に所定の係数を乗じることによりポンプ吸収トルクの上限値Tpを演算する。
【0092】
また、メインコントローラ100は、エンジン回転速度センサ64によって検出された実エンジン回転速度等に基づき、ポンプ吸収トルクの上限値Tpを演算してもよい。
【0093】
指令値演算部112は、油圧ポンプ30Aの吐出量Qdが上限値Qlimを超えないように、かつ、油圧ポンプ30Aの吸収トルクが上限値Tpを超えないように、制御指令値Icmdを演算する。
【0094】
図9は、油圧ポンプ30Aの制御指令値Icmdを変動させたときの油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdと吐出量Qdとの関係の一例を示す図である。なお、油圧ポンプ30Aの回転速度が最高回転速度の場合を想定している。また、調整ダイヤル59の指示値Cdが1に設定され、吐出量の上限値Qlimが最大吐出量Qmaxに設定されている場合を想定している。
【0095】
制御指令値Icmdが0%のとき、図9の実線で表される特性となるように、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdに応じて吐出量Qdが調整される。制御指令値Icmdが大きくなるにつれて油圧ポンプ30Aの容量が低減する。このため、制御指令値Icmdが大きくなるにつれて吐出圧Pdに応じた吐出量Qdが低減する。指令値演算部112は、吐出量の上限値Qlimと吐出圧Pdと図9に示す制御特性とに基づき、制御指令値Icmdを演算する。制御指令値Icmdが調整されることによって、吐出量Qdがその上限値Qlim(=最大吐出量Qmax)を超えないように、かつ、油圧ポンプ30Aの吸収トルクがその上限値Tpを超えないように、油圧ポンプ30Aの容量が制御される。
【0096】
図6に示すように、メインコントローラ100により演算された制御指令値Icmdは、レギュレータ34に入力される。レギュレータ34は、制御指令値Icmdに基づき、油圧ポンプ30Aの容量を制御する。
【0097】
図10は、AUTOモードフラグFmがオンに設定され、かつ掘削作業フラグFLがオンに設定されている場合のバケット角θbに対する油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdと吐出量Qdの関係の一例を示す図である。なお、油圧ポンプ30Aの回転速度が最高回転速度の場合を想定している。
【0098】
AUTOモードフラグFmがオンに設定され、かつ掘削作業フラグFLがオンに設定されている場合、指令値演算部112は、相関マップM1及びバケット角θbに基づき演算された油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値Qlim(=Qlime)を超えないように、かつ、油圧ポンプ30Aの吸収トルクが上限値Tpを超えないように、制御指令値Icmdを演算する。
【0099】
掘削作業の序盤で、例えばバケット角θb=θb0のときには、図8に示すように吐出量の上限値Qlim=Qlim0となる。このため、指令値演算部112は、図10に示すように、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdの高さに関わらず、吐出量Qdが初期上限値Qlim0を超えないように制御指令値Icmdを演算する。続いて、掘削作業の中盤で、例えばバケット角θb=θb1になると、図8に示すように吐出量の上限値Qlim=Qlim1となる(θb1>θb0,Qlim1>Qlim0)。このため、指令値演算部112は、図10に示すように、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdの高さに関わらず、吐出量QdがQlim1を超えないように制御指令値Icmdを演算する。そして、掘削作業の終盤で、例えばバケット角θb=θb2になると、図8に示すように吐出量の上限値Qlim=Qlim2となる(θb3>θb2>θb1,Qmax>Qlim2>Qlim1)。このため、指令値演算部112は、図10に示すように、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdの高さに関わらず、吐出量QdがQlim2を超えないように制御指令値Icmdを演算する。なお、吐出量Qdが一定となるように調整できる範囲は、最高吐出圧Pmax若しくはポンプ吸収トルクの上限値Tpを超えない範囲である。
【0100】
-吐出量制御における処理の流れ-
図11を参照してメインコントローラ100により実行される吐出量制御について説明する。図11は、メインコントローラ100により実行される吐出量制御における処理の流れの一例を示すフローチャートである。図11のフローチャートに示す処理は、例えばイグニッションスイッチ(エンジンキースイッチ)がオンされることにより開始され、図示しない初期設定が行われた後、所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、初期設定において、掘削作業フラグFLはオフに設定される。
【0101】
ステップS110において、作業判定部110は、少なくとも掘削作業フラグFL及びバケット角θbに基づき、掘削作業開始条件及び掘削作業終了条件が成立しているか否かを判定し、その判定結果に応じた掘削作業フラグFLを設定して処理をステップS120に進める。
【0102】
ステップS120において、掘削時上限値演算部111aは、バケット角θb及び調整ダイヤル59の指示値Cdに基づき、油圧ポンプ30Aの吐出量の掘削時上限値Qlimeを演算する。また、通常時上限値演算部111bは、調整ダイヤル59の指示値Cdに基づき、油圧ポンプ30Aの吐出量の通常時上限値Qlimnを演算する。掘削時上限値Qlime及び通常時上限値Qlimnの演算が終了すると、処理がステップS130に進む。
【0103】
ステップS130において、指令値演算部112は、現在設定されている掘削作業フラグFLがオンであり、かつ、現在設定されているAUTOモードフラグFmがオンであるか否かを判定する。掘削作業フラグFL及びAUTOモードフラグFmの双方がオンである場合には処理がステップS140に進む。掘削作業フラグFL及びAUTOモードフラグFmの少なくとも一方がオフである場合には処理がステップS150に進む。
【0104】
ステップS140において、指令値演算部112は、掘削時上限値Qlimeを制御指令値演算用の上限値Qlimとして設定して、処理をステップS160に進める。ステップS150において、指令値演算部112は、通常時上限値Qlimnを制御指令値演算用の上限値Qlimとして設定して、処理をステップS160に進める。
【0105】
ステップS160において、指令値演算部112は、吐出量の上限値Qlimと、ポンプ吸収トルクの上限値Tpと、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdと、図9及び図10に示す油圧ポンプ30Aの制御特性とに基づき、油圧ポンプ30Aの制御指令値Icmdを演算する。
【0106】
ステップS160の処理が完了すると、本制御周期における図11に示すフローチャートの処理を終了し、次の制御周期において、ステップS110の処理からステップS160までの処理を再び実行する。なお、図示していないが、作業状態の判定に用いられるパラメータ(Fc,Pa,θb)及び油圧ポンプ30Aの制御指令値Icmdの演算に用いられるパラメータ(θb,Cd,Tp,Pd)は、各種センサ及び操作装置からの信号に基づき、メインコントローラ100によって所定の制御周期で繰り返し演算される。
【0107】
-動作-
図12を参照して、本実施形態に係るホイールローダ1の主な動作と作用効果について説明する。図12は、本実施形態に係るホイールローダ1の各パラメータ(アクセル操作量Ra、アーム操作量La、バケット操作量Lb、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pd、油圧ポンプ30Aの吐出量Qd、アーム角θa、及びバケット角θb)の時系列変化を示す図である。図12では、ホイールローダ1で土砂山等の掘削対象物91に対して掘削作業が行われる場合であって、オペレータが簡易掘削操作を行ったときの例を示す。なお、本実施形態において、制御モードは、AUTOモードに設定されているものとする。
【0108】
本実施形態の作用効果を明確にするため、バケット角θbに基づいて油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値を調整しない比較例(本実施形態においてMANUALモードが設定されている場合に相当)と本実施形態とを比べながら本実施形態の作用効果を説明する。なお、本実施形態に係るホイールローダ1と本実施形態の比較例に係るホイールローダとでは、各種操作装置に対するオペレータの操作手順及び操作量、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdは同じであるものとする。また、掘削作業中の油圧ポンプ30Aの回転速度Npは一定値である場合を想定している。
【0109】
図12において、本実施形態の各パラメータの時系列変化は実線で示し、比較例の各パラメータの時系列変化は破線で示す。図12(a)~(g)の横軸は、時刻(経過時間)を示す。図12(a)の縦軸はアクセル操作量センサ56aによって検出されたアクセル操作量Raを示し、図12(b)の縦軸はアーム操作量センサ52aによって検出されたアーム操作量Laを示す。図12(c)の縦軸はバケット操作量センサ53aによって検出されたバケット操作量Lbを示す。図12(d)の縦軸は油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdを示し、図12(e)の縦軸は油圧ポンプ30Aの吐出量Qdを示す。図12(f)の縦軸はアーム角θaを示し、図12(g)の縦軸はバケット角θbを示す。
【0110】
図12において、時刻t0は、オペレータがアクセル操作装置56を操作し、走行駆動力Fcが増えて車体8が前進し始めた時刻である。時刻t1は、バケット3が掘削対象物91に貫入してアームシリンダ4のボトム圧Pa及び油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdが増加し始めた時刻である。時刻t2は、オペレータがアーム操作装置52を操作し、バケット3が上昇し始めた時刻である。また、時刻t2は、掘削作業フラグFLがオフからオンに切り替えられた時刻である。時刻t3は、オペレータがバケット操作装置53を操作し、バケット3が手前に回動し始めた時刻である。時刻t4は、掘削作業の中盤の時刻であり、本実施形態の油圧ポンプ30Aの吐出量Qdと比較例の油圧ポンプ30Aの吐出量Qdの大小関係が逆転し始めたときの時刻である。時刻t5は、オペレータが操作装置50の操作を止め、掘削作業を終了したときの時刻である。
【0111】
図12(a)に示すように、アクセル操作量Raは時刻t0までは0(ゼロ)である。これは、時刻t0までは、オペレータがアクセル操作装置56を操作しておらず、ホイールローダ1が停止、若しくは微速前進していることを示している。時刻t0で、オペレータがアクセルペダルを踏み込むことによりアクセル操作量Raが急増し、車体8の前進加速が開始される。
【0112】
図12(b)に示すように、アーム操作量Laは時刻t2までは0(ゼロ)である。これは、時刻t1でホイールローダ1を掘削対象物91に突入させて、時刻t2になるまでは、オペレータがアーム操作装置52を操作しておらず、ホイールローダ1が突入姿勢を維持していることを示している。突入姿勢では、図12(f)に示すようにアーム角θaが小さい状態であって、バケット3の高さが地上付近にある。なお、この突入姿勢は、バケット3が地面と平行に近い姿勢であり、貫入姿勢の初期状態に相当する。時刻t2から、オペレータがアーム操作装置52を上げ側に操作することによりアーム操作量Laが急増する。これにより、バケット3の上昇が開始する。
【0113】
図12(c)に示すように、バケット操作量Lbは時刻t3までは0(ゼロ)である。これは、時刻t3になるまでは、オペレータがバケット操作装置53を操作しておらず、ホイールローダ1が貫入姿勢を維持していることを示している。貫入姿勢では、図12(g)に示すようにバケット角θbが小さい状態であって、バケット3が地面と略平行となっている。時刻t3から、オペレータがバケット操作装置53をクラウド側に操作することによりバケット操作量Lbが急増する。これにより、バケット3による掘削対象物91の掬い込みが開始される。
【0114】
図12(d)に示すように、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdは時刻t1までは小さい。これは、バケット3が掘削対象物91に貫入していないことを示す。時刻t1で、バケット3が掘削対象物91に貫入し始めたことで、油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdが増加する。
【0115】
図12(e)に示すように、比較例の場合、時刻t2でのアーム操作量Laの急増に応じて、油圧ポンプ30Aの吐出量QdがQmidまで増加している。Qmidは、最大吐出量Qmaxの半分程度である。その後、時刻t5でアーム操作量La及びバケット操作量Lbが急減するまで吐出量Qdは一定値を保っている。これにより、図12(f)に示すように、時刻t2から時刻t5まで、アーム角θaがほぼ一定の速度(時間変化率)で上昇している。同様に、図12(g)に示すように、時刻t3から時刻t5まで、バケット角θbもほぼ一定の速度(時間変化率)で上昇している。
【0116】
一方、図12(e)に示すように、本実施形態の場合、時刻t2でのアーム操作量Laの急増に応じて、油圧ポンプ30Aの吐出量QdがQmidより少ない初期上限値Qlim0まで増加している。その後、バケット角θbの増加に合わせて、時刻t5でアーム操作量Laが急減するまで吐出量Qdは徐々に増加している。これにより、図12(f)に示すように、本実施形態では、掘削作業の序盤及び中盤(時刻t1~時刻t4)では、アーム角θaの上昇速度(時間変化率、傾き)が比較例よりも低い。本実施形態では、アーム角θaの上昇速度は、時間の経過とともに増加する。このため、本実施形態では、掘削作業の終盤(時刻t4~時刻t5)において、アーム角θaの上昇速度が比較例よりも高くなる。同様に、図12(g)に示すように、本実施形態では、掘削作業の序盤及び中盤では、バケット角θbの上昇速度(時間変化率、傾き)が比較例よりも低い。本実施形態では、掘削作業の終盤において、バケット角θbの上昇速度が比較例よりも高くなる。
【0117】
以上のように、オペレータによる簡易掘削操作が行われた場合、比較例では掘削作業の序盤におけるアーム角θa及びバケット角θbの上昇速度がある程度高くなっている。したがって、比較例において、掘削対象物91の表面近くを掘り進む浅掘りを防ぐためには、オペレータが貫入距離、車速、バケット3の高さ、及びバケット角θbに応じて、アーム操作レバーとバケット操作レバーを調整する必要がある。その結果、オペレータの作業負荷が増大してしまう。なお、貫入距離とは、バケット3が掘削対象物91に貫入を開始してからの走行距離のことを指す。
【0118】
また、オペレータによる簡易掘削操作が行われた場合、比較例では掘削作業の序盤から終盤にかけてアーム角θa及びバケット角θbの上昇速度(時間変化率)が、ほぼ一定である。つまり、比較例では、作業装置6の動作速度が低く抑制された状態が維持される。比較例では、掘削作業の中盤以降の作業装置6の動作速度が十分に増加しないため、作業時間が長くなり、作業効率が低下してしまう。さらに、貫入距離に対するバケット3の上昇距離の比率も必要以上に抑制される。このため、比較例において、車輪7のスリップ、車体8のストール、及び作業装置6の圧力リリーフを防ぐためには、オペレータが貫入距離、車速、バケット3の高さ、及びバケット角θbに応じて、アクセル操作量を減少させる必要がある。その結果、オペレータの作業負荷が増大してしまうとともに、作業時間が長くなり作業効率が低下してしまう。
【0119】
これに対して、本実施形態に係るホイールローダ1では、掘削作業の序盤から中盤にかけて、油圧ポンプ30Aの吐出量Qdが比較例よりも低く抑えられる。そして、メインコントローラ100は、バケット角θbの増加に応じて油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値Qlimを増加させる。油圧ポンプ30Aの吐出量Qdは、上限値Qlimに基づいて調整される。これにより、本実施形態では、掘削作業の序盤のアーム角θa及びバケット角θbの上昇速度が比較例よりも低くなる。つまり、本実施形態によれば、オペレータによる簡易掘削操作が行われた場合であっても、掘削作業の序盤のバケットの上昇速度が抑えられるため、浅掘りが防止される。また、掘削作業の中盤以降のアーム角θa及びバケット角θbの上昇速度(時間変化率)は比較例よりも高くなる。このため、本実施形態によれば、オペレータにより簡易掘削操作が行われた場合であっても、車輪7のスリップ、車体8のストール、及び作業装置6の圧力リリーフを防ぐことができる。さらに、本実施形態によれば、掘削作業の中盤以降の作業装置6の動作速度を十分に高くできるため、作業時間を短縮できる。つまり、本実施形態によれば、オペレータの作業負荷を低減しつつ、作業効率を向上することができる。
【0120】
また、本実施形態では、掘削作業の序盤において作業装置6で消費する動力を必要最小限に抑えることができる。作業装置6の消費動力を抑えた分、エンジン20の回転速度の上昇で消費する動力と走行駆動装置45で消費する動力とを増大できる。つまり、本実施形態では、掘削作業の序盤において、エンジン20の動力を増加させ、走行駆動力を増加させることができるため、作業効率を向上することができる。
【0121】
また、本実施形態では、簡易掘削操作で浅掘り、車輪7のスリップ、車体8のストール、及び作業装置6の圧力リリーフを防ぐことができるため、未熟なオペレータでも熟練したオペレータに近い作業効率で掘削作業を実現することができる。
【0122】
また、本実施形態では、余計な動力を消費する車輪7のスリップ、車体8のストール及び作業装置6の圧力リリーフを防ぐことができる。このため、無駄な燃料消費を防ぎ、燃費(燃料消費率)を向上することができる。
【0123】
また、本実施形態では、掘削作業中にオペレータが操作装置50の操作量を変更する回数が低減する。このため、操作装置50、作業装置6、及び走行駆動装置45に発生する物理的な負荷が低減し、これらの装置の寿命を延伸することができる。
【0124】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0125】
(1)ホイールローダ(作業車両)1は、油圧ポンプ30Aの吐出量が吐出量の上限値Qlimを超えないように、吐出量に比例する油圧ポンプ30Aの容量を制御するメインコントローラ(制御装置)100を備えている。メインコントローラ100は、少なくともバケット角センサ(アーム相対角センサ62及びバケット相対角センサ63)の検出結果に基づいて、ホイールローダ1の作業状態が掘削作業状態であるか否かを判定する。メインコントローラ100は、ホイールローダ1の作業状態が掘削作業状態であると判定された場合に、上限値Qlimを油圧ポンプ30Aの最大吐出量Qmaxよりも小さい所定吐出量(初期上限値Qlim0)に低減し、バケット角センサ(62,63)により検出されたバケット角(バケット3の対地角)θbの増加に応じて上限値Qlimを増加させる。
【0126】
この構成によれば、掘削作業において、浅掘りを防止しつつ作業時間の短縮が可能なホイールローダ1を提供することができる。浅掘りの防止及び作業時間の短縮は、掘削作業における作業効率[ton/h]の向上につながる。
【0127】
(2)メインコントローラ100は、掘削作業開始条件が成立したか否かを判定し、掘削作業開始条件が成立してからの作業状態を掘削作業状態とみなす。掘削作業開始条件は、様々な条件の組合わせにより構成される。掘削作業開始条件は、アームシリンダの圧力(ボトム圧)Paが圧力閾値Pa0以上であること、アーム操作装置52のアーム上げ側の操作量Laが第1操作量閾値La0以上であること、及びバケット操作装置53のバケットクラウド側の操作量Lbが第2操作量閾値Lb0以上であることのうちの少なくとも一つと、バケット角θbが上側閾値(第1角度閾値)θbb以下であること、を含んでいることが好ましい。バケット角θbが上側閾値θbb以下であることを掘削作業開始条件に含めることにより、作業装置6が掘削対象物91にバケット3を貫入させる姿勢になっていることを判定することができる。また、アームシリンダ4のボトム圧Paが圧力閾値Pa0以上であることを掘削作業開始条件に含めることにより、作業装置6が掘削対象物91に突入したことを適切に判定することができる。さらに、アーム操作量Laまたはバケット操作量Lbが操作量閾値以上であることを掘削作業開始条件に含めることにより、オペレータによる掘削操作が行われたことを判定することができる。
【0128】
ここで、登坂走行、及び地面(走行面)をバケット3で平らにする整地作業では、バケット角θbが下側閾値θba以上上側閾値θbb以下となり、かつ、走行駆動力Fcが駆動力閾値Fc0以上となる場合がある。一方、登坂走行及び整地作業では、アームシリンダ4のボトム圧Paが圧力閾値Pa0以上となることがない。このため、(条件3A)及び(条件5A)の少なくとも一方を掘削作業開始条件に含めることにより、登坂走行中及び整地作業中に掘削作業が開始されたと誤判定されることを防止できる。
【0129】
(3)掘削作業開始条件は、車体8を前進させるための走行駆動力Fcが駆動力閾値Fc0以上であることを含む。これにより、掘削対象物91に近づくために、車体8が前進していることを適切に判定することができる。
【0130】
ここで、ダンプトラックへの積込作業など、車体8を停止させた状態で行う定置作業では、バケット角θbが下側閾値θba以上上側閾値θbb以下となり、かつ、アームシリンダ4のボトム圧Paが圧力閾値Pa0以上となることがある。一方、定置作業では、走行駆動力Fcが駆動力閾値Fc0以上となることがない。このため、(条件4A)を掘削作業開始条件に含めることにより、定置作業中に掘削作業が開始されたと誤判定されることを防止できる。
【0131】
(4)上記(2),(3)のとおり、掘削作業開始条件が複数の条件で構成されているため、非掘削作業状態から掘削作業状態に移行したことを適切に判定することができる。
【0132】
(5)メインコントローラ100は、掘削作業終了条件が成立したか否かを判定し、掘削作業終了条件が成立してからの作業状態を非掘削作業状態とみなす。掘削作業終了条件は、掘削作業状態であるときに、バケット角θbが上側閾値(第1角度閾値)θbbよりも大きい解除閾値(第2角度閾値)θbc以上となったことを含む。これにより、作業装置6が運搬姿勢になっていることを判定することができる。非掘削作業状態では、バケット角θbに応じて吐出量の上限値Qlimが制御されることがない。このため、掘削作業の終了後、ダンプトラックに向かって車体8を走行させる際に、バケット3を十分な速度で上昇させることができる。また、ダンプトラックに土砂を放出する際、十分な速度でバケット3をダンプ動作させることができる。つまり、非掘削作業状態での作業効率を向上することができる。
【0133】
-第1実施形態の変形例-
上記第1実施形態では、掘削作業フラグFLがオフからオンに切り替えられた場合に、メインコントローラ100がバケット角θbに応じて吐出量の上限値Qlimを演算する例について説明した。しかしながら、掘削作業フラグFLがオフからオンに切り替えられた場合に、メインコントローラ100は、バケット角θbに関わらず吐出量の上限値Qlimを初期上限値Qlim0に設定してもよい。この場合、メインコントローラ100は、掘削作業フラグFLがオフからオンに切り替えられた後、バケット角θbに変化が生じてからバケット角θbの増加に応じて吐出量の上限値Qlimを増加させる。
【0134】
-第2実施形態-
図13を参照して、本発明の第2実施形態に係るホイールローダ1について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一若しくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。図13は、第2実施形態に係るメインコントローラ200の機能ブロック図である。
【0135】
本第2実施形態では、指令値演算部212による油圧ポンプ30Aの制御指令値Icmdの演算方法が、第1実施形態と異なっている。具体的には、図13に示すように、指令値演算部212は、掘削作業フラグFLと、AUTOモードフラグFmと、吐出量の掘削時上限値Qlimeと、吐出量の通常時上限値Qlimnと、ポンプ吸収トルクの上限値Tpと、吐出圧センサ71で検出された油圧ポンプ30Aの吐出圧Pdと、ポンプ回転速度センサ67(図2参照)で検出された油圧ポンプ30Aの回転速度Npとに基づいて、油圧ポンプ30Aの制御指令値Icmdを演算する。
【0136】
本第2実施形態において、掘削作業フラグFL及びAUTOモードフラグFmの少なくとも一方がオフに設定されている場合の制御は、第1実施形態と同じであるため説明を省略する。
【0137】
指令値演算部212は、油圧ポンプ30Aの吐出量がその上限値Qlimを超えないように、かつ、油圧ポンプ30Aの吸収トルクがその上限値Tpを超えないように、制御指令値Icmdを演算する。さらに、指令値演算部212は、掘削作業フラグFL及びAUTOモードフラグFmの双方がオンに設定されている場合、そのときの作業状態を掘削作業状態とみなす。指令値演算部212は、掘削作業状態であるとみなした場合に、油圧ポンプ30Aの回転速度Npが低くなるほど、油圧ポンプ30Aの容量を増加させる。
【0138】
本第2実施形態において、指令値演算部212は、油圧ポンプ30Aの回転速度Npの変動によって吐出量Qdが変動しないように、制御指令値Icmdを調整する。制御指令値Icmdは、例えば、以下の式(2)によって計算される。
【0139】
【数2】
【0140】
式(2)において、Icmd1は、第1実施形態における制御指令値である。また、式(2)において、Npは油圧ポンプ30Aの回転速度であり、Nprは油圧ポンプ30Aの定格回転速度であり、αは変換係数(補正係数)である。変換係数αは、無次元数であり、レギュレータ34の制御指令値Icmdと油圧ポンプ30Aの吐出量Qdとの相関関係によって予め設定される。変換係数αには、例えば、0.5以上2.0以下の値が採用される。
【0141】
例えば、回転速度Npが100%(定格値)から90%に低減した場合、指令値演算部212は制御指令値Icmdを低減させる。これにより、油圧ポンプ30Aの容量が増加し、油圧ポンプ30Aの吐出量が定格値まで増加する。
【0142】
このように、本第2実施形態では、第1実施形態で説明した制御指令値Icmd1を油圧ポンプ30Aの回転速度Npに基づき補正することにより、油圧ポンプ30Aの回転速度Npの変動によって吐出量Qdが変動しないようになる。このため、エンジン20の実回転速度と目標回転速度との乖離が大きく、油圧ポンプ30Aの回転速度Npが設定した回転速度より低い状況であっても、油圧ポンプ30Aの吐出量Qdを上限値Qlimに一致させることができる。したがって、掘削作業の序盤、及び掘削作業の途中でエンジン20の実回転速度が変動するような場合でも、作業装置6の動作速度を安定させることができる。つまり、本第2実施形態によれば、オペレータの作業負荷を一層低減することができる。
【0143】
-第2実施形態の変形例-
上記第2実施形態では、油圧ポンプ30Aの回転速度Npに基づき制御指令値が補正される例について説明した。しかしながら、補正方法はこれに限定されない。メインコントローラ200は、油圧ポンプ30Aの回転速度Npが低くなるほど、油圧ポンプ30Aの容量を増加させることができればよい。例えば、メインコントローラ200は、制御指令値に代えて、油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値Qlimを補正しても上記第2実施形態と同様の効果が得られる。本第2実施形態の変形例において、吐出量の上限値Qlimは、例えば、以下の式(3)によって計算される。
【0144】
【数3】
【0145】
式(3)において、Qlim1は、第1実施形態における吐出量の上限値である。なお、式(2),(3)において、油圧ポンプ30Aの回転速度Npの代わりに、油圧ポンプ30Aの目標回転速度を用いてもよい。この場合においても、オペレータの操作量によって変動する油圧ポンプ30Aの回転速度Npの変動を吸収し、バケット3の上昇速度をある程度安定させることができ、オペレータの作業負荷を低減することができる。なお、油圧ポンプ30Aの目標回転速度を用いることにより、実回転速度を用いる場合に比べて応答性を向上することができる。ただし、負荷の変動による実回転速度の変化に対応させるためには、ポンプ回転速度センサ67により検出された回転速度Npを用いることが好ましい。
【0146】
-第3実施形態-
図14及び図15を参照して、本発明の第3実施形態に係るホイールローダ1について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一若しくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。図14は、第3実施形態に係るメインコントローラ300の機能ブロック図である。
【0147】
本第3実施形態に係るメインコントローラ300は、上記第1実施形態のメインコントローラ100の機能と、貫入距離演算部313としての機能を有している。また、作業判定部310による掘削作業の開始の判定方法、及び、掘削時上限値演算部311aによる吐出量の上限値Qlimの演算方法が、第1実施形態と異なっている。
【0148】
図14に示すように、作業判定部310は、走行駆動力Fc、アームシリンダ4のボトム圧Pa、及びバケット角θbに基づいて、掘削作業開始条件が成立したか否かを判定する。本第3実施形態では、掘削作業開始条件に第1実施形態で説明した(条件5A)が含まれていない。つまり、作業判定部310は、(条件1A)~(条件4A)の全てが満たされた場合には、掘削作業開始条件が成立したとして、掘削作業フラグFLをオフからオンに切り替える(FL=1)。つまり、本第3実施形態では、アーム操作量La及びバケット操作量Lbにかかわらず、掘削作業フラグFLがオフからオンに切り替わる。
【0149】
作業判定部310は、(条件1A)~(条件4A)の少なくとも一つが満たされていない場合には、掘削作業開始条件は成立していないと判定する。作業判定部310は、(条件1A)が満たされている場合であって、(条件2A)~(条件4A)の少なくとも一つが満たされていないときには、掘削作業開始条件は成立していないとして、掘削作業フラグFLをオフのままにする。
【0150】
図14に示すように、貫入距離演算部313は、掘削作業フラグFLと、車速センサ61(図2参照)で検出された車速vとに基づいて、貫入距離Ldを演算する。貫入距離Ldは、ホイールローダ1が掘削対象物91に突入し、バケット3が貫入し始めてからの車体8の移動距離に相当する。掘削作業フラグFLがオフに設定されている場合、貫入距離演算部313は、貫入距離Ldを0(ゼロ)にする。つまり、掘削作業フラグFLがオンからオフに切り替えられると、貫入距離Ldが初期値である0(ゼロ)にリセットされる。
【0151】
貫入距離演算部313は、掘削作業フラグFLがオンに設定されている場合、そのときの作業状態を掘削作業状態とみなし、車速vと時間に基づき、貫入距離Ldを演算する。貫入距離Ldは、例えば、メインコントローラ100の制御周期ごとに車速v[m/制御周期]を積算することによって計算される。つまり、貫入距離演算部313は、掘削作業状態であるとみなしてからの車体8の走行距離を貫入距離Ldとして演算する。
【0152】
掘削時上限値演算部311aは、バケット角θbと、アーム角θaと、貫入距離Ldと、調整ダイヤル59の指示値Cdとに基づいて、油圧ポンプ30Aの吐出量の掘削時上限値Qlimeを演算する。図15は、第3実施形態に係る掘削時上限値演算部311aの機能について示す図である。図15に示すように、掘削時上限値演算部311aは、第1上限値演算部3111、第2上限値演算部3112、第3上限値演算部3113、及び最大値選択部3114を有している。
【0153】
第1上限値演算部3111は、相関マップM1を参照し、バケット角θbに基づいて吐出量の第1上限値Qlime1を演算する。第2上限値演算部3112は、相関マップM2を参照し、アーム角θaに基づいて吐出量の第2上限値Qlime2を演算する。第3上限値演算部3113は、相関マップM3を参照し、貫入距離Ldに基づいて吐出量の第3上限値Qlime3を演算する。
【0154】
相関マップM1は、バケット角θbと吐出量の第1上限値Qlime1との関係を規定する。相関マップM2は、アーム角θaと吐出量の第2上限値Qlime2との関係を規定する。相関マップM3は、貫入距離Ldと吐出量の第3上限値Qlime3との関係を規定する。相関マップM1,M2,M3は、予めROM102に記憶されている。
【0155】
相関マップM1は、第1実施形態で説明した相関マップ(図8参照)に相当する。相関マップM1は、バケット角θbの増加に応じて第1上限値Qlime1を増加させる特性を規定している。具体的には、相関マップM1は、以下の特性を規定している。バケット角θbが序盤バケット角θb0以下では、第1上限値Qlime1が初期上限値Qlim0となる。また、バケット角θbが序盤バケット角θb0以上終盤バケット角θb3以下では、バケット角θbの増加に応じて第1上限値Qlime1が増加する。さらに、バケット角θbが終盤バケット角θb3以上では、第1上限値Qlime1は最大吐出量Qmaxとなる。
【0156】
相関マップM2では、アーム角θaの増加に応じて第2上限値Qlime2を増加させる特性を規定している。具体的には、相関マップM2は、以下の特性を規定している。アーム角θaが序盤アーム角θa0以下では、第2上限値Qlime2は初期上限値Qlim0となる。また、アーム角θaが序盤アーム角θa0以上終盤アーム角θax以下では、アーム角θaの増加に応じて第2上限値Qlime2が増加する。さらに、アーム角θaが終盤アーム角θax以上では、第2上限値Qlime2は最大吐出量Qmaxとなる。
【0157】
相関マップM3では、貫入距離Ldの増加に応じて第3上限値Qlime3を増加させる特性を規定している。具体的には、相関マップM3は、以下の特性を規定している。貫入距離Ldが序盤貫入距離Ld0以下では、第3上限値Qlime3は初期上限値Qlim0となる。また、貫入距離Ldが序盤貫入距離Ld0以上終盤貫入距離Ldx以下では、貫入距離Ldの増加に応じて第3上限値Qlime3が増加する。さらに、貫入距離Ldが終盤貫入距離Ldx以上では、第3上限値Qlime3は最大吐出量Qmaxとなる。
【0158】
最大値選択部3114は、第1~第3上限値演算部3111~3113で演算された第1~第3上限値Qlime1~Qlime3のうち最大のもの掘削時上限値Qlimeとして選択し、指令値演算部112に出力する。
【0159】
第1実施形態では、バケット角θbの増加に応じて油圧ポンプ30Aの吐出量の上限値Qlimが増加する。つまり、掘削対象物91にバケット3が貫入した後、オペレータがバケット操作レバー及びアーム操作レバーを操作していない場合には、油圧ポンプ30Aの吐出量が増加しない。したがって、掘削対象物91にバケット3に貫入した後のバケット操作レバー及びアーム操作レバーの操作が遅い場合、バケット3の上昇速度が十分に高くなる前に貫入距離Ldが大きくなりすぎて、車輪7のスリップ、車体8のストール、及び作業装置6の圧力リリーフが発生してしまうおそれがある。
【0160】
これに対して、本第3実施形態に係るメインコントローラ300は、掘削作業状態であるとみなしてからの車体8の走行距離である貫入距離Ldを演算する。メインコントローラ300は、掘削作業状態であるとみなした場合に、貫入距離Ldの増加に応じて吐出量の上限値Qlimを増加させる。このため、例えば、掘削作業の中盤までバケット操作レバー及びアーム操作レバーが操作されていない場合であっても、バケット3が掘削対象物91に貫入すると、貫入距離Ldの増加に応じて吐出量の上限値Qlimが増加する。したがって、掘削対象物91にバケット3が貫入した後のバケット操作レバー及びアーム操作レバーの操作が遅くなってしまったとしても、バケット3を十分な速度で上昇させることができる。つまり、本第3実施形態によれば、オペレータの操作の遅延に起因してバケット3が掘削対象物91に貫入し過ぎることによる車輪7のスリップ、車体8のストール、及び作業装置6の圧力リリーフの発生を防止できる。
【0161】
また、メインコントローラ300は、掘削作業状態であるとみなした場合に、アーム相対角センサ(アーム角センサ)62により検出されたアーム角θaの増加に応じて吐出量の上限値Qlimを増加させる。これにより、作業装置6の動作速度をより適切確保することができる。
【0162】
-第3実施形態の変形例-
上記第3実施形態では、吐出量の第1上限値Qlime1、第2上限値Qlime2、及び第3上限値Qlime3のうち最も大きい値を吐出量の掘削時上限値Qlimeとして決定する例について説明した。しかしながら、吐出量の掘削時上限値Qlimeの決定方法はこれに限定されない。例えば、掘削時上限値演算部311aは、吐出量の第1上限値Qlime1、第2上限値Qlime2、及び第3上限値Qlime3の平均値を吐出量の掘削時上限値Qlimeとして決定してもよい。
【0163】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0164】
<変形例1>
掘削作業開始条件は、上述した例に限定されない。
【0165】
<変形例1―1>
例えば、(条件5A)及び(条件3A)は、いずれも登坂走行及び整地作業での誤判定を防止するための条件である。このため、第1実施形態及び第2実施形態において、(条件3A)に代えて、(条件5A)を採用してもよい。
【0166】
<変形例1―2>
アームシリンダ4の圧力を用いた(条件3A)に代えて、以下の(条件3Aa)が採用されてもよい。
(条件3Aa)車体8に作用する反力Frが反力閾値Fr0以上である。
【0167】
反力Frは、例えば、走行駆動力Fcと車速vに基づいて、以下の運動量と力積の関係式(4)を用いて算出される。
【0168】
【数4】
【0169】
ここで、mはホイールローダ1の質量、taは基準時刻、tbは基準時刻taから所定時間経過後の時刻、vaは基準時刻taにおけるホイールローダ1の車速v、vbは時刻tbにおけるホイールローダ1の車速vである。
【0170】
<変形例1-3>
(条件4A)は、車体8が前進していることを判定するための条件であって、定置作業での誤判定を防止するために設けられる。このため、走行駆動力Fcを用いた(条件4A)に代えて、以下の(条件4Aa)あるいは(条件4Ab)が採用されてもよい。
(条件4Aa)アクセル操作量が予め定められた操作量閾値以上である。
(条件4Ab)走行駆動トルク(モータ出力トルク)Tmが予め定められたトルク閾値以上である。
【0171】
<変形例1-4>
上記実施形態では、(条件1A)~(条件5A)の全てが満たされると、直ちに掘削作業フラグFLがオフからオンに切り替えられ、(条件1B)及び(条件2B)の双方が満たされると、直ちに掘削作業フラグFLがオンからオフに切り替えられる例について説明した。しかしながら、この場合、掘削作業開始条件及び掘削作業終了条件の判定に用いられるパラメータに脈動があったり、パラメータにノイズが含まれていたり、掘削作業フラグFLが切り替わる前後でオペレータによる操作が変更になったりした場合に、掘削作業フラグFLが想定したタイミングで切り替わらないおそれがある。
【0172】
このため、メインコントローラ100は、(条件1A)~(条件5A),(条件1B),(条件2B)のそれぞれにおいて、その状態が予め定められた維持時間を経過したことを含めてもよい。例えば、(条件3A)は、「アームシリンダ4のボトム圧Paが圧力閾値Pa0以上である状態が維持時間を経過したこと」としてもよい。あるいは、メインコントローラ100は、掘削作業開始条件が成立している状態が所定時間経過した場合に、掘削作業フラグFLをオフからオンに切り替えてもよい。同様に、メインコントローラ100は、掘削作業終了条件が成立している状態が所定時間を経過した場合に、掘削作業フラグFLをオンからオフに切り替えてもよい。これにより、判定に用いられるパラメータに脈動があったり、パラメータの検出値にノイズが含まれていたり、掘削作業フラグFLが切り替わる前後でオペレータによる操作が変更になったりした場合に、掘削作業フラグFLが想定していないタイミングで切り替わることが防止される。
【0173】
<変形例2>
掘削作業終了条件は、上述した例に限定されない。例えば、掘削作業開始条件が成立してからの時間が、予め定めた時間閾値(例えば、5秒程度)を経過した場合に、掘削作業終了条件が成立したと判定してもよい。時間閾値は、予めROM105に記憶されている。時間閾値は、実験等により予め定められる。
【0174】
<変形例3>
上記実施形態では、作業装置6と走行駆動装置45に動力を供給する動力源がエンジン20である例を説明した。しかしながら、動力源はそれ以外であってもよい。例えば、動力源は、電動モータであってもよい。ホイールローダ1は、例えば、蓄電池または燃料電池を用いて、油圧ポンプ30A,30B,30Cを電動モータで駆動するとともに、蓄電池または燃料電池からの電力によって走行電動機43を駆動する構成としてもよい。
【0175】
<変形例4>
上記実施形態では、操作装置50がオペレータによって操作されて、掘削作業、積込作業等が行われるホイールローダ1に本発明を適用する例について説明した。しかしながら、掘削作業状態において、バケット角θbの増加に応じて油圧ポンプ30Aの吐出量を増加させる制御は、自動運転のホイールローダ1にも適用することができる。この場合、吐出量の上限値は、吐出量の目標値に相当する。
【0176】
<変形例5>
上記実施形態において、各種判定及び計算に用いる値は、外乱及びノイズの影響を避けるため、移動平均処理やローパスフィルタ処理をしてもよい。例えば、走行駆動力Fc、アームシリンダ4のボトム圧Pa、及びバケット角θbのそれぞれに移動平均処理やローパスフィルタ処理をすることで、作業判定部110の誤判定を抑制することができる。また、バケット角θbに移動平均処理やローパスフィルタ処理をすることで、吐出量の上限値Qlimの脈動を抑制することができるので、作業装置6の動作速度の安定性の向上を図ることができる。
【0177】
<変形例6>
上記実施形態で説明したメインコントローラ100,200,300の機能は、それらの一部または全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現してもよい。
【0178】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上述した実施形態及び変形例は本発明を理解し易く説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ある実施形態、変形例の構成の一部を他の実施形態、変形例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態、変形例の構成に他の実施形態、変形例の構成を加えることも可能である。なお、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0179】
1…ホイールローダ、2…アーム、3…バケット、4…アームシリンダ、5…バケットシリンダ、6…作業装置、7…車輪、8…車体、11…走行装置、16…エンジン室、20…エンジン、30A…油圧ポンプ、34…レギュレータ、40…発電電動機、43…走行電動機、45…走行駆動装置、50…操作装置、52…アーム操作装置、52a…アーム操作量センサ、53…バケット操作装置、53a…バケット操作量センサ、56…アクセル操作装置、56a…アクセル操作量センサ、58…モード切替スイッチ(モード切替装置)、59…調整ダイヤル、61…車速センサ、62…アーム相対角センサ(アーム角センサ、バケット角センサ)、63…バケット相対角センサ(バケット角センサ)、64…エンジン回転速度センサ、65…トルクセンサ、66…電流センサ、67…ポンプ回転速度センサ、71…吐出圧センサ、74…アームシリンダ圧センサ、91…掘削対象物、100,200,300…メインコントローラ(制御装置)、110,310…作業判定部、111a,311a…掘削時上限値演算部、111b…通常時上限値演算部、112,212…指令値演算部、120…エンジンコントローラ、313…貫入距離演算部、3111…第1上限値演算部、3112…第2上限値演算部、3113…第3上限値演算部、3114…最大値選択部、Cd…調整ダイヤルの指示値、Fc…走行駆動力、Fc0…駆動力閾値、FL…掘削作業フラグ、Fm…AUTOモードフラグ、Fr…反力、Fr0…反力閾値、Icmd…制御指令値、La…アーム操作量、La0…第1操作量閾値、Lb…バケット操作量、Lb0…第2操作量閾値、Ld…貫入距離、M1,M2,M3…相関マップ、Np…油圧ポンプの回転速度、Pa…アームシリンダのボトム圧(アームシリンダの圧力)、Pa0…圧力閾値、Pd…油圧ポンプの吐出圧、Pmax…最高吐出圧、Qd…油圧ポンプの吐出量、Qlim…吐出量の上限値、Qlim0…初期上限値、Qlime…吐出量の掘削時上限値、Qlime1…第1上限値、Qlime2…第2上限値、Qlime3…第3上限値、Qlimn…吐出量の通常時上限値、Qmax…最大吐出量、Ra…アクセル操作量、Tm…走行駆動トルク(モータ出力トルク)、Tp…ポンプ吸収トルクの上限値、v…車速、θa…アーム角(アームの角度)、θb…バケット角(バケットの角度)、θba…下側閾値、θbb…上側閾値(第1角度閾値)、θbc…解除閾値(第2角度閾値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15