(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112453
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】アミロイドを生産可能な形質転換細胞およびアミロイドを生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240814BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240814BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240814BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20240814BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P21/02 C
C12N15/11 Z
C12N15/54
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017462
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 寛
(72)【発明者】
【氏名】松吉 志
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安定的にアミロイドを大量生産するための形質転換細胞およびその方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、アミロイドを生産可能な形質転換細胞である。上記形質転換細胞は、エンテロバクター目に属する。さらに、上記形質転換細胞の染色体において、csgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターが配置され、かつyccT遺伝子、fepD遺伝子、entS遺伝子、yccU遺伝子、wrbA遺伝子、ymdF遺伝子、fliE遺伝子、fliF遺伝子、yhbT遺伝子、yhbU遺伝子、mdh遺伝子、argR遺伝子、nlpA遺伝子およびyicS遺伝子からなる群ならびに上記群に含まれる遺伝子の下流に配置されている上記遺伝子と同一オペロン内の遺伝子のうち、1以上の遺伝子が不活性化されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイドを生産可能な形質転換細胞であって、
エンテロバクター目に属し、
前記形質転換細胞の染色体において、
a)csgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターが配置され、かつ
b)yccT遺伝子、fepD遺伝子、entS遺伝子、yccU遺伝子、wrbA遺伝子、ymdF遺伝子、fliE遺伝子、fliF遺伝子、yhbT遺伝子、yhbU遺伝子、mdh遺伝子、argR遺伝子、nlpA遺伝子およびyicS遺伝子からなる群ならびに前記群に含まれる遺伝子の下流に配置されている前記遺伝子と同一オペロン内の遺伝子のうち、1以上の遺伝子が不活性化されている、形質転換細胞。
【請求項2】
前記組み換えプロモーターが、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、recAプロモーター、gapAプロモーター、tacプロモーター、AraBADプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターである、請求項1に記載の形質転換細胞。
【請求項3】
前記組み換えプロモーターが、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターであり、
前記染色体において、さらに、
c)前記組み換えプロモーターに特異的なRNAポリメラーゼがラクトースオペロン制御下に存在する、請求項1に記載の形質転換細胞。
【請求項4】
前記b)において、少なくともyccT遺伝子が不活性化されている、請求項1または2に記載の形質転換細胞。
【請求項5】
前記アミロイドが、CsgAタンパク質を含む、請求項1または2に記載の形質転換細胞。
【請求項6】
前記形質転換細胞が、シトロバクター属、エンテロバクター属、エシェリキア属、クレブシエラ属、パントエア属、サルモネラ属、セラチア属、赤痢菌属またはエルシニア属に属する、請求項1または2に記載の形質転換細胞。
【請求項7】
アミロイドを生産する方法であって、
形質転換細胞を準備する準備工程と、
前記形質転換細胞を培養してアミロイドを生産させる生産工程と、
を含み、
前記形質転換細胞が、エンテロバクター目に属し、
前記形質転換細胞の染色体において、
a)csgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターが配置され、かつ
b)yccT遺伝子、fepD遺伝子、entS遺伝子、yccU遺伝子、wrbA遺伝子、ymdF遺伝子、fliE遺伝子、fliF遺伝子、yhbT遺伝子、yhbU遺伝子、mdh遺伝子、argR遺伝子、nlpA遺伝子およびyicS遺伝子からなる群ならびに前記群に含まれる遺伝子の下流に配置されている前記遺伝子と同一オペロン内の遺伝子のうち、1以上の遺伝子が不活性化されている、方法。
【請求項8】
前記組み換えプロモーターが、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、recAプロモーター、gapAプロモーター、tacプロモーター、AraBADプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記組み換えプロモーターが、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターであり、
前記染色体において、さらに、
c)前記組み換えプロモーターに特異的なRNAポリメラーゼがラクトースオペロン制御下に存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記b)において、少なくともyccT遺伝子が不活性化されている、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
前記アミロイドが、CsgAタンパク質を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項12】
前記形質転換細胞が、シトロバクター属、エンテロバクター属、エシェリキア属、クレブシエラ属、パントエア属、サルモネラ属、セラチア属、赤痢菌属またはエルシニア属に属する、請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドを生産可能な形質転換細胞に関する。また、本発明は、アミロイドを生産する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
多くのバイオフィルム形成細菌は、繊維状タンパク質であるアミロイドを生産して細胞外に放出する。細菌が生産するアミロイドは、物理的ストレス環境下で高い安定性を有することから、新たな繊維素材として注目されている。
【0003】
近年、細菌が生産するアミロイドに様々な機能を持たせる研究が盛んに行われている。特許文献1には、大腸菌が生産するアミロイドであるCsgAタンパク質に機能性ペプチドドメインを遺伝的に付加することにより、バイオフィルムに特定の能力を持たせる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような機能性付加アミロイドを工業的に利用するためには、生産性を向上する技術が必要となる。現在は、多コピープラスミドを宿主細胞に導入する手法が汎用されているが、長期培養によってプラスミドが脱落してしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、安定的にアミロイドを大量生産するための形質転換細胞およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、鋭意検討した結果、特定の遺伝子がアミロイド生産を阻害していることを見出した。さらに、本発明者らは、アミロイド生産に関わる因子の転写機構を改善することにより、本発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、以下が提供される。
[1]アミロイドを生産可能な形質転換細胞であって、
エンテロバクター目に属し、
上記形質転換細胞の染色体において、
a)csgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターが配置され、かつ
b)yccT遺伝子、fepD遺伝子、entS遺伝子、yccU遺伝子、wrbA遺伝子、ymdF遺伝子、fliE遺伝子、fliF遺伝子、yhbT遺伝子、yhbU遺伝子、mdh遺伝子、argR遺伝子、nlpA遺伝子およびyicS遺伝子からなる群ならびに上記群に含まれる遺伝子の下流に配置されている上記遺伝子と同一オペロン内の遺伝子のうち、1以上の遺伝子が不活性化されている、形質転換細胞。
[2]上記組み換えプロモーターが、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、recAプロモーター、gapAプロモーター、tacプロモーター、AraBADプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターである、[1]に記載の形質転換細胞。
[3]上記組み換えプロモーターが、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターであり、
上記染色体において、さらに、
c)上記組み換えプロモーターに特異的なRNAポリメラーゼがラクトースオペロン制御下に存在する、[1]に記載の形質転換細胞。
[4]上記b)において、少なくともyccT遺伝子が不活性化されている、[1]または[2]に記載の形質転換細胞。
[5]上記アミロイドが、CsgAタンパク質を含む、[1]または[2]に記載の形質転換細胞。
[6]上記形質転換細胞が、シトロバクター属、エンテロバクター属、エシェリキア属、クレブシエラ属、パントエア属、サルモネラ属、セラチア属、赤痢菌属またはエルシニア属に属する、請求項1または2に記載の形質転換細胞。
[7]アミロイドを生産する方法であって、
形質転換細胞を準備する準備工程と、
上記形質転換細胞を培養してアミロイドを生産させる生産工程と、
を含み、
上記形質転換細胞が、エンテロバクター目に属し、
上記形質転換細胞の染色体において、
a)csgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターが配置され、かつ
b)yccT遺伝子、fepD遺伝子、entS遺伝子、yccU遺伝子、wrbA遺伝子、ymdF遺伝子、fliE遺伝子、fliF遺伝子、yhbT遺伝子、yhbU遺伝子、mdh遺伝子、argR遺伝子、nlpA遺伝子およびyicS遺伝子からなる群ならびに上記群に含まれる遺伝子の下流に配置されている上記遺伝子と同一オペロン内の遺伝子のうち、1以上の遺伝子が不活性化されている、方法。
[8]上記組み換えプロモーターが、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、recAプロモーター、gapAプロモーター、tacプロモーター、AraBADプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターである、[7]に記載の方法。
[9]上記組み換えプロモーターが、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターであり、
上記染色体において、さらに、
c)上記組み換えプロモーターに特異的なRNAポリメラーゼがラクトースオペロン制御下に存在する、[7]に記載の方法。
[10]上記b)において、少なくともyccT遺伝子が不活性化されている、[7]または[8]に記載の方法。
[11]上記アミロイドが、CsgAタンパク質を含む、[7]または[8]に記載の方法。
[12]上記形質転換細胞が、シトロバクター属、エンテロバクター属、エシェリキア属、クレブシエラ属、パントエア属、サルモネラ属、セラチア属、赤痢菌属またはエルシニア属に属する、[7]または[8]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定的にアミロイドを大量生産するための形質転換細胞およびその方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、各大腸菌から作製したサンプルを電気泳動後にCBB染色した結果を示す写真である。
【
図2】
図2は、各大腸菌から作製したサンプルを電気泳動後にCBB染色した結果を示す拡大写真である。
【
図3】
図3は、各大腸菌から作製したサンプルを電気泳動後にCBB染色したときのバンド濃度を定量した結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、各大腸菌の細胞外アミロイド量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。なお、本明細書において、「~」はその前後の数値を含む範囲を意味する。
【0012】
本明細書において、「形質転換細胞」とは、プラスミドを導入された細胞およびゲノムに外来遺伝子が組み込まれた細胞などの、外部からDNAが導入されかつ野生型とは異なる形質(表現型など)を有する細胞を表す。本明細書において、形質転換前の細胞および形質転換された細胞と形質転換されていない細胞とが混合されている状態の細胞を、単に「細胞」と言う場合がある。
【0013】
以下、本実施形態に係る形質転換細胞およびその作製方法について説明し、ついで、本実施形態に係るアミロイドを生産する方法について説明する。
【0014】
(形質転換細胞)
本実施形態に係る形質転換細胞は、エンテロバクター目に属する細菌であることが好ましい。エンテロバクター目に属する細菌としては、例えば、シトロバクター属、エンテロバクター属、エシェリキア属、クレブシエラ属、パントエア属、サルモネラ属、セラチア属、赤痢菌属およびエルシニア属に属する細菌が挙げられる。このような細菌であれば、本実施形態に係るアミロイドを生産することができる。また、本実施形態に係る形質転換細胞は、大腸菌、サルモネラ、セラチア菌および赤痢菌からなる群から選択されることがさらに好ましい。本実施形態に係る形質転換細胞が、これらの菌であると、遺伝子操作が容易となる。また、本実施形態に係る形質転換細胞は、大腸菌が特に好ましい。大腸菌には、病原性がないものが含まれ、安価に大量培養することができる。
【0015】
本実施形態に係る形質転換細胞の染色体上において、csgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターが配置されていることが好ましい。組み換えプロモーターが配置されている位置は、当該プロモーターがcsgD遺伝子の発現を制御することが可能であれば特に限定されない。また、本実施形態に係る形質転換細胞の染色体上において、csgD遺伝子の開始コドンの上流にシャイン・ダルガノ配列(SD配列ともいう)が配置されていることが好ましい。このような位置にSD配列が配置されていると、SD配列の下流にあるcsgD遺伝子の翻訳が高効率になる。なお、SD配列は、野生型のSD配列であっても、遺伝子組み換えにより導入されたSD配列であってもよい。本実施形態に係る形質転換細胞の染色体上において、csgD遺伝子の開始コドンの上流にSD配列が配置されている場合は、組み換えプロモーターはSD配列の20bp以上上流に配置されていることが好ましい。
【0016】
本実施形態に係る形質転換細胞の染色体上において、csgD遺伝子の開始コドンの上流200bp以内が削除されていることが好ましく、上流120bp以内が削除されていることがさらに好ましい。このような形質転換細胞は、csgD遺伝子の開始コドンの上流にある5'非翻訳領域が削除されているため、sRNAによるcsgD遺伝子の翻訳制御の影響を抑えることができる。
【0017】
本実施形態に係る形質転換細胞の染色体上において、csgD遺伝子の開始コドンの上流300bp~500bpが削除されていることが好ましく、400bp~500bpが削除されていることがさらに好ましい。このような形質転換細胞は、csgD遺伝子の転写を制御しうる転写因子の影響を抑えられるため、効率的にcsgD遺伝子を転写することができる。
【0018】
本明細書における「組み換えプロモーター」とは、野生型のプロモーター以外の遺伝子組み換えにより導入されたプロモーターを指す。本実施形態に係る組み換えプロモーターとして、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、recAプロモーター、gapAプロモーター、tacプロモーター、AraBADプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターであることが好ましい。また、本実施形態に係る組み換えプロモーターは、異種由来のプロモーターであることが好ましい。例えば、本実施形態に係る形質転換細胞が大腸菌の場合、組み換えプロモーターは、T7プロモーター、T5プロモーターおよびSp6プロモーターからなる群から選択されるプロモーターであることが好ましい。このような組み換えプロモーターを選択することで、組み換えプロモーター下流の目的遺伝子(本実施形態においてはcsgD遺伝子)の発現制御が簡便になる。なお、本実施形態に係る組み換えプロモーターは、1つでもよく、複数でもよい。本実施形態に係る形質転換細胞を用いることにより、アミロイドを大量生産することができる。
【0019】
また、本実施形態に係る形質転換細胞が大腸菌の場合、組み換えプロモーターに特異的なRNAポリメラーゼがラクトースオペロン制御下に存在することが好ましい。これにより、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を形質転換細胞の培地中に添加するか否かによって遺伝子発現を制御することが可能となる。
【0020】
本実施形態に係る一態様は、形質転換細胞の染色体上において、yccT遺伝子が不活性化されていることが好ましい。なお、本明細書において「遺伝子が不活性化されている」とは、当該遺伝子の機能が低下している状態または失われている状態を指す。具体的には、「遺伝子が不活性化されている」とは、当該遺伝子の転写産物であるmRNAおよび翻訳産物であるポリペプチドの発現量が低下している状態および当該mRNAおよび当該ポリペプチドが正常に機能しない状態を含む。本実施形態に係る形質転換細胞を用いることにより、アミロイドを大量生産することができる。
【0021】
本実施形態に係る別の態様は、形質転換細胞の染色体上において、yccT遺伝子の下流に配置されているyccT遺伝子と同一オペロン内の遺伝子から選択される1以上の遺伝子(以下、第1オペロン遺伝子)が不活性化されていることが好ましい。また、本実施形態に係る別の態様は、形質転換細胞の染色体上において、fepD遺伝子、entS遺伝子、yccU遺伝子、wrbA遺伝子、ymdF遺伝子、fliE遺伝子、fliF遺伝子、yhbT遺伝子、yhbU遺伝子、mdh遺伝子、argR遺伝子、nlpA遺伝子およびyicS遺伝子からなる群ならびに上記群に含まれる遺伝子の下流に配置されている上記遺伝子と同一オペロン内の遺伝子(以下、第2オペロン遺伝子)から選択される1以上の遺伝子が不活性化されていることが好ましい。本実施形態に係る形質転換細胞を用いることにより、アミロイドを大量生産することができる。
【0022】
本明細書において、「(mRNAまたはポリペプチドの)発現量が低下している」とは、不活性化後の発現量が不活性化前(野生型)の発現量よりも低下している状態を表す。本実施形態に係るyccT遺伝子の転写産物であるmRNAまたはポリペプチドの発現量は、不活性化前(野生型)の発現量を基準として、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上または100%低下していることが好ましい。
【0023】
本明細書において、「(mRNAまたはポリペプチドが)正常に機能しない」とは、不活性化前(野生型)における機能(例えば、転写活性、酵素活性)が低下している状態を表す。本実施形態に係るyccT遺伝子の転写産物であるmRNAまたはポリペプチドの機能は、不活性化前(野生型)の機能を基準として、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上または100%低下していることが好ましい。
【0024】
本実施形態に係る形質転換細胞の染色体上に、アミロイドの生産に悪い影響を与えない範囲で、さらに任意の遺伝子ならびに転写および翻訳を制御する因子導入されていてもよい。導入され得る遺伝子ならびに転写および翻訳を制御する因子としては、例えば、薬剤耐性遺伝子(アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子など)および栄養要求性マーカー遺伝子、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、リプレッサーならびにターミネーターが挙げられる。
【0025】
本実施形態に係る形質転換細胞は、アミロイドを生産可能であることが好ましい。本実施形態に係る形質転換細胞が生産するアミロイドは、典型的には、バクテリアアミロイドである。また、本実施形態に係る形質転換細胞が生産するアミロイドは、CsgAタンパク質を含むことが好ましい。本実施形態に係るCsgAタンパク質には、機能性を有するオリゴペプチドおよびポリペプチドが付加されていてもよい。本実施形態に係るCsgAタンパク質に付加されるオリゴペプチドおよびポリペプチドのアミノ酸配列は、用途によって任意に設計される。付加されるポリペプチド、タンパク質として、例えば、タグペプチドおよびタグタンパク質(Hisタグ、FLAGタグ、Spyタグ、Spy Catcher、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、mCherryなど)が挙げられる。付加されるポリペプチドの長さは、例えば、5残基以上、10残基以上、20残基以上、30残基以上、50残基以上、100残基以上である。さらに、CsgAタンパク質と付加されるポリペプチドなどとの間に、リンカーが設けられていてもよい。
【0026】
(形質転換細胞の作製方法)
本実施形態に係る形質転換細胞の作製方法は、細胞を提供する提供工程と、細胞を形質転換する形質転換工程と、を含んでもよい。本実施形態に係る形質転換工程は、細胞の染色体上のcsgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターを配置する配置工程と、染色体上のyccT遺伝子を不活性化する不活性化工程を含んでもよい。別の実施形態において、細胞の染色体上のcsgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターを配置し、かつ染色体上のyccT遺伝子を不活性化する工程であってもよい。
【0027】
本実施形態における配置工程は、染色体上のcsgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターを配置できれば、特に限定されない。本実施形態に係る配置工程は、組み換えプロモーターの塩基配列をコードする核酸分子を細胞の染色体に導入する核酸導入工程を含んでもよい。本実施形態に係る核酸分子は、例えば、ベクターの一部分をPCRにより増幅したDNA断片であってもよい。また、別の実施形態において、本実施形態に係る配置工程は、組み換えプロモーター配列を含むベクターを細胞に導入するベクター導入工程を含んでもよい。本実施形態に係るベクターの種類は特に限定されない。本実施形態に係るベクターとして、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターおよび人工染色体ベクターが挙げられる。本実施形態において、核酸分子を細胞の染色体に導入する方法として、例えば、T5-エキソヌクレアーゼ-DNA-アセンブリメソッド(以下、TEDA法ともいう;Nucleic Acids Res. 2019 Feb 20; 47(3): e15)が挙げられる。本実施形態において、ベクターを細胞に導入する方法は、ベクターおよび細胞の種類に応じて適宜選択できる。ベクターを細胞に導入する方法として、例えば、トランスフェクション法、コンピテントセル法およびエレクトロポレーションが挙げられる。
【0028】
本実施形態の一態様における不活性化工程は、染色体上のyccT遺伝子を不活性化できれば、特に限定されない。本実施形態に係る不活性化工程は、染色体上のyccT遺伝子を別の遺伝子に置換する置換工程を含んでもよい。別の実施形態において、本実施形態に係る不活性化工程は、染色体上のyccT遺伝子を欠失する欠失工程または染色体上のyccT遺伝子に任意の核酸分子を挿入する挿入工程を含んでもよい。さらに、別の実施形態において、本実施形態に係る不活性化工程は、yccT遺伝子遺伝子の発現を制御する領域(プロモーター領域、エンハンサー領域、サイレンサー領域、リプレッサー領域、ターミネーター領域など)を改変する改変工程を含んでもよい。なお、改変を行う部位は、遺伝子を不活性化することができれば特に限定されない。遺伝子を不活性化する方法として、具体的には、薬剤および紫外線によるDNA変異処理、PCRを用いた変異導入、RNA干渉ならびに相同組み換えが挙げられる。
【0029】
本実施形態の別態様における不活性化工程は、染色体上のfepD遺伝子、entS遺伝子、yccU遺伝子、wrbA遺伝子、ymdF遺伝子、fliE遺伝子、fliF遺伝子、yhbT遺伝子、yhbU遺伝子、mdh遺伝子、argR遺伝子、nlpA遺伝子およびyicS遺伝子からなる群、第1オペロン遺伝子、ならびに第2オペロン遺伝子の遺伝子のうち、1以上の遺伝子が不活性化できれば、特に限定されない。不活性化工程の方法は、上述のyccT遺伝子の不活性化と同様である。
【0030】
本実施形態に係る形質転換工程は、さらに、染色体上のcsgA遺伝子を改変するcsgA遺伝子改変工程を含んでもよい。本実施形態に係るcsgA遺伝子改変工程は、csgA遺伝子にタグペプチドをコードする核酸分子を付加するタグペプチド付加工程を含んでもよい。
【0031】
本実施形態に係る形質転換工程は、アミロイドの生産に悪い影響を与えない範囲で、さらに、細胞の染色体上の塩基配列を改変する追加改変工程を含んでもよい。細胞の染色体上の塩基配列を改変する方法は、特に限定されない。任意の塩基配列の導入は、上述の組み換えプロモーターの配置および遺伝子の不活性化と同時に行ってもよく、単独で行ってもよい。
【0032】
本実施形態に係る形質転換細胞の作製方法は、さらに、形質転換細胞を選抜する選抜工程を含んでもよい。形質転換細胞を選抜する方法は、特に限定されない。形質転換細胞の選抜マーカーとして、薬剤耐性遺伝子を使用してもよい。具体的には、本実施形態に係る選抜工程は、導入した薬剤耐性遺伝子に対応する抗生物質などの薬剤を細胞の培地中に添加する薬剤添加工程を含んでもよい。また、形質転換細胞の選抜マーカーとして、栄養要求性マーカー遺伝子を使用してもよい。この場合、本実施形態に係る選抜工程は、薬剤添加をせず、形質転換後の細胞を生育する生育工程を含んでもよい。
【0033】
本実施形態に係る形質転換細胞の作製方法は、さらに、形質転換されていることを確認する確認工程を含んでもよい。染色体上のcsgD遺伝子の上流に組み換えプロモーターが配置されていることは、例えば、DNAシーケンスにより確認することができる。また、遺伝子が不活性化されていることは、例えば、当該遺伝子に係るmRNAおよびポリペプチドの発現量により確認することができる。mRNAの発現量は、例えば、リアルタイムPCR法、RNA-Seq法などにより測定することができる。ポリペプチドの発現量は、例えば、細胞懸濁液を電気泳動などで分離して、当該ポリペプチドの分子量付近のバンドを検出する方法および当該ポリペプチドを認識する標識抗体を検出する方法により測定することができる。
【0034】
(アミロイドを生産する方法)
本実施形態に係るアミロイドを生産する方法は、形質転換細胞を準備する準備工程を含んでもよい。本実施形態に係る準備工程は、予め形質転換された形質転換細胞を準備してもよく、細胞に形質転換を施して形質転換細胞を準備してもよい。すなわち、本実施形態に係る準備工程は、形質転換細胞を作製する作製工程を含んでもよい。なお、作製工程の詳細は、上述の形質転換細胞の作成方法に記載されている。形質転換細胞は、自然界に存在する細胞を採取して用意しても、市販されているコンピテントセルなどの細胞を購入して用意してもよい。
【0035】
本実施形態に係るアミロイドを生産する方法は、形質転換細胞を培養してアミロイドを生産させる生産工程を含んでもよい。形質転換細胞の培養条件は、使用する細胞に応じて任意に設定できる。また、形質転換細胞の組み換えプロモーターに特異的なRNAポリメラーゼがラクトースオペロン制御下に存在する場合、本実施形態に係る生産工程は、さらに、IPTGを添加するIPTG添加工程を含んでもよい。
【0036】
本実施形態に係る形質転換細胞の培養に使用する培地は、形質転換細胞が生育可能かつアミロイドを生産可能であれば、特に限定されない。培地成分としては、例えば、炭素源、窒素源、ミネラル、抗生物質などが挙げられる。また、培地は、寒天培地のような固形培地でも、液体培地でもよい。培地のpHは、形質転換細胞が大腸菌の場合、pH6.0~8.0に調整することが好ましい。培地の塩化ナトリウム濃度は、特に限定されない。培地の塩化ナトリウム濃度は、形質転換細胞が大腸菌の場合、0.5~1.0質量%であってもよい。大腸菌のアミロイド生産に係る野生型のプロモーターは、培地の塩化ナトリウム濃度がこのような範囲であると、機能が抑制され得る。しかし、本実施形態に係るアミロイド生産は組み換えプロモーターを用いるため、培地の塩化ナトリウム濃度がこのような範囲であっても、アミロイド生産が可能である。培養温度は、形質転換細胞が大腸菌の場合、例えば、15~50℃、好ましくは20~42℃、さらに好ましくは28~37℃である。培養時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、6時間以上、12時間以上、24時間以上および48時間以上である。
【0037】
本実施形態に係るアミロイドを生産する方法は、さらに、アミロイドを回収する回収工程を含んでもよい。本実施形態に係る回収工程は、生産工程後の細胞および培養液を回収しても、生産工程において培養中の細胞および培養液の一部を回収してもよい。本実施形態に係る形質転換細胞は、染色体上にアミロイド生産に係る遺伝子が存在するため、安定的にアミロイドを生産できる。したがって、本実施形態に係る形質転換細胞は、長期培養および連続培養が可能である。また、本実施形態に係る形質転換細胞のアミロイドに、タグペプチドまたはタグタンパク質が付加されている場合、タグペプチドまたはタグタンパク質を指標にアミロイドを回収してもよい。
【0038】
本実施形態に係るアミロイドを生産する方法は、さらに、アミロイドを検出する検出工程を含んでもよい。アミロイドは細胞外(細胞表面または培養液中)および細胞内に存在し得る。細胞外のアミロイドの検出方法としては、例えば、コンゴーレッド染色により検出することができる。また、細胞内のアミロイドの検出方法としては、例えば、細胞を界面活性剤で懸濁した後、アミロイド(または、タグペプチド若しくはタグタンパク質)を認識する標識抗体を検出する方法が挙げられる。
【0039】
本実施形態に係るアミロイドの用途は、特に限定されない。本実施形態に係るアミロイドは、生体親和性に優れるため、例えば、医療用材料として利用できる。
【実施例0040】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0041】
(菌株の構築)
プラスミドベクターpET-21a(+)(Novagen社製)のマルチクローニングサイトにcsgD遺伝子のORF(csgD ORF;配列番号1)を含む遺伝子断片(大腸菌JM109(DE3)株(Promega社製)の染色体DNAを鋳型として、プライマー1(配列番号7)およびプライマー2(配列番号8)を用いて作製)が導入されたpETcsgDを用意した。pETcsgDは、csgD遺伝子の開始コドンの上流にpET-21a(+)由来のSD配列が配置され、SD配列のさらに20bp以上上流にT7プロモーター(配列番号2)が配置されていた。導入には、TEDA法を用いた。TEDA法は、末端配列約15bpの相同な配列をもたせた線上化ベクターとインサートとを、T5-エキソヌクレアーゼで処理し(30℃、40分間)、10℃で10分間インキュベートすることによって行った。なお、インサートの増幅時に、プライマーの一部をベクターの末端の配列と相補的な配列とすることで、インサートの末端配列をベクターの末端と相同な配列とした(以下同じ)。
【0042】
pETcsgDのT7プロモーター領域上流に、TEDA法を用いて、カナマイシン耐性遺伝子(Quick & Easy Conditional Knockout Kit (FRT/FLPe)(Gene Bridges社製)で作製されたものを使用した)を導入した。さらにその上流に、TEDA法を用いて、大腸菌JM109(DE3)株の染色体DNAにおけるcsgD遺伝子の開始コドンより500~700bp上流の200bpのDNA(csgD UP;配列番号3)を含む遺伝子断片(大腸菌JM109(DE3)株の染色体DNAを鋳型として、プライマー3(配列番号9)およびプライマー4(配列番号10)を用いて作製)を導入した。
【0043】
上述のプラスミドを鋳型に、csgD UP-カナマイシン耐性遺伝子-T7プロモーター-csgD ORFが融合されたDNA断片をPCRにより増幅した。このとき、プライマーにはプライマー4(配列番号10)およびプライマー5(配列番号11)を使用した。当該DNA断片を、λ-red recombinationシステムによるOne step相同組み換えを用いて、大腸菌JM109(DE3)株の染色体DNAにおけるcsgD ORF領域上流に導入した。これにより、csgD遺伝子の開始コドン上流から500bpが削除された。DNA断片が導入された形質転換細胞をカナマイシンにより選抜し、T7プロモーター-csgD融合JM109(DE3)株を得た。
【0044】
次に、T7プロモーター-csgD融合JM109(DE3)株の染色体DNAからカナマイシン耐性遺伝子を除去した。さらに、λ-red recombinationシステムによるOne step相同組み換えを用いて、カナマイシン耐性遺伝子と置換することにより、T7プロモーター-yccT欠損JM109(DE3)株、T7プロモーター-csgA欠損JM109(DE3)株およびT7プロモーター-csgBA欠損JM109(DE3)株をそれぞれ作製した。また、同様に、JM109(DE3)株について、λ-red recombinationシステムによるOne step相同組み換えを用いて、カナマイシン耐性遺伝子と置換することにより、yccT欠損JM109(DE3)株を作製した。
【0045】
(Hisタグ融合CsgAタンパク質発現株の構築)
大腸菌JM109(DE3)株の染色体DNAを鋳型として、csgB-ymdA領域を含む遺伝子断片をPCRにより増幅した。このとき、プライマーにはプライマー6(配列番号12)およびプライマー7(配列番号13)を使用した。なお、ymdA遺伝子は、csgBACオペロンの下流に位置する遺伝子であり、csgB-ymdA領域は、csgB遺伝子の開始コドンからymdA遺伝子の開始コドンの下流150bpまでの領域である。次に、TEDA法を用いて、pET-21a(+)にcsgB-ymdA領域を含む遺伝子断片を導入して、pETcsgB-ymdAを作製した。
【0046】
続いて、TEDA法を用いて、pETcsgB-ymdAにおけるCsgAタンパク質(csgA ORF;配列番号4)のC末端側に、アミノ酸6残基のリンカーをコードするDNA断片(配列番号5)およびHisタグをコードするDNA断片(配列番号6)を導入した。さらに、TEDA法を用いて、ymdA遺伝子の60bp上流にカナマイシン耐性遺伝子を融合させた。
【0047】
上述のプラスミドを鋳型に、csgA ORF-リンカー-Hisタグ-csgC ORF-カナマイシン耐性遺伝子-ymdAが融合されたDNA断片をPCRにより増幅し、精製した。このとき、プライマーにはプライマー8(配列番号14)およびプライマー7(配列番号13)を使用した。
【0048】
λ-red recombinationシステムによるOne step相同組み換えを用いて、各大腸菌の染色体DNAに、csgA ORF-リンカー-Hisタグ-csgC ORF-カナマイシン耐性遺伝子-ymdAが融合されたDNA断片を導入した。DNA断片を導入した大腸菌株は、大腸菌JM109(DE3)株、yccT欠損JM109(DE3)株、T7プロモーター-csgD融合JM109(DE3)株、T7プロモーター-yccT欠損JM109(DE3)株、T7プロモーター-csgA欠損JM109(DE3)株およびT7プロモーター-csgBA欠損JM109(DE3)株であり、導入後の各大腸菌株を、それぞれ、JM109(DE3)WT株、JM109(DE3)ΔyccT株、JM109(DE3)T7p株、JM109(DE3)T7pΔyccT株、JM109(DE3)T7pΔcsgA株およびJM109(DE3)T7pΔcsgBA株とした。各大腸菌株は、-80℃フリーズストックとして保存した。
【0049】
(細胞内アミロイドの検出)
液体LB培地(組成は表1を参照)に各大腸菌株(JM109(DE3)WT株、JM109(DE3)ΔyccT株、JM109(DE3)T7p株、JM109(DE3)T7pΔyccT株、JM109(DE3)T7pΔcsgA株およびJM109(DE3)T7pΔcsgBA株)を播種して37℃で8時間以上培養した。培養終了後の培養液100μLを、それぞれ、液体LB培地10mLに植菌して、37℃で3時間振とう培養した。次に、培養液150μLを、それぞれ、IPTG含有LB寒天プレート(LB寒天プレートの組成は表2を参照;LB寒天プレート(10mL)作製時に100mM IPTG溶液を100μL添加した)上に、塗布して、28℃で24時間、48時間または168時間培養した。
【0050】
【0051】
【0052】
培養終了後、IPTG含有LB寒天プレート上のコロニーを掻き取り、リン酸カリウムバッファー(28.9mM KH2PO4、21.1mM K2PO4、pH7.2)1mLに懸濁した。分光光度計を用いて、懸濁液の濁度(OD600)を測定し、適宜希釈してサンプル間の濁度を揃えた。
【0053】
調製した各サンプルのうち、300μLを遠心分離処理(16,000×g、3分間)して、上清を除去した。取得したペレットをヘキサフルオロイソプロパノール70μLに懸濁した後、濃縮遠心機にてサンプルを乾燥(45℃、30分間)させた。
【0054】
乾燥させた各サンプルを、2×SDSサンプルバッファー(62.5mM Tris-HCl(pH6.8)、5%(v/v)2-メルカプトエタノール、0.01%(m/v)ブロモフェノールブルー、10%(v/v)グリセロール、3%(m/v)ラウリル硫酸ナトリウム)に懸濁し、ヒートブロックでインキュベート(95℃で10分間)した。このようにして調製した各サンプルをポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、CBB染色および脱色を行った。
【0055】
CBB染色の結果を、
図1および
図2に示す(
図2は、
図1に示される写真を解析したときの拡大写真である)。
図1および
図2に示されるように、JM109(DE3)WT株、JM109(DE3)ΔyccT株、JM109(DE3)T7p株およびJM109(DE3)T7pΔyccT株において、Hisタグ融合CsgAタンパク質の分子量17.5kDa付近にバンドが検出された。さらに、画像処理ソフトウェアImage Jを用いて、各バンドの濃度を定量した。JW109(DE3)WT株を基準としたときの各バンド濃度の結果を、
図3に示す(Controlは、SDS-PAGEにおいて分子量40kDa付近に共通に検出されたタンパク質のバンド)。その結果、csgD遺伝子の上流にT7プロモーターが配置され、かつyccT遺伝子が不活性化されているJM109(DE3)T7pΔyccT株の場合、CsgAタンパク質が顕著に発現上昇していることが分かった。
【0056】
(細胞外アミロイドの検出)
液体LB培地に各大腸菌株(JM109(DE3)WT株、JM109(DE3)ΔyccT株、JM109(DE3)T7p株およびJM109(DE3)T7pΔyccT株)を播種して37℃で8時間以上培養した。培養終了後の培養液100μLを、それぞれ、IPTG含有LB寒天プレート上に塗布して、37℃で24時間培養した。
【0057】
培養終了後、IPTG含有LB寒天プレート上のコロニーを掻き取り、リン酸カリウムバッファー1mLに懸濁した。分光光度計を用いて、懸濁液の濁度(OD600)を測定した。
【0058】
続いて、懸濁した各サンプル800μLに、5×コンゴーレッド溶液(コンゴーレッド1mgを10mLの超純水に溶解させ、ろ過滅菌した)200μLを加えて混合し、10分間室温で静置した。静置後の各サンプルについて、遠心分離処理(15,000×g、5分間)して、上清を回収した。回収した各上清について、分光光度計を用いて、OD480を5回測定した(n=5)。対象として、リン酸カリウムバッファー800μLに、5×コンゴーレッド溶液200μLを加えて混合し、上記と同様に静置および遠心分離処理した上清についてもOD480を測定した。各大腸菌の細胞外アミロイド量は、以下の式により算出した。
【0059】
【0060】
算出した細胞外アミロイド量の結果を、
図4に示す。
図4に示されるように、csgD遺伝子の上流にT7プロモーターが配置され、かつyccT遺伝子が不活性化されているJM109(DE3)T7pΔyccT株の場合、細胞外アミロイド量が顕著に増加していることが分かった。