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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112468
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】平角成形撚線とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/08 20060101AFI20240814BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20240814BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240814BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20240814BHJP
   H02K 3/14 20060101ALI20240814BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H01B5/08
H01B7/02 A
H01B13/00 517
H01F5/00 F
H02K3/14
H02K15/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017500
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小山 陽平
(72)【発明者】
【氏名】桑原 優
(72)【発明者】
【氏名】平井 一臣
(72)【発明者】
【氏名】野崎 裕人
【テーマコード(参考)】
5G307
5G309
5H603
5H615
【Fターム(参考)】
5G307EA09
5G307EC07
5G307EF10
5G309MA18
5H603AA01
5H603CE04
5H603FA17
5H603FA22
5H603FA26
5H615AA01
5H615QQ03
5H615SS02
5H615SS25
(57)【要約】
【課題】導体占積率が高く、渦電流による損失が低い平角成形撚線とその製造方法を提供すること。
【解決手段】平角成形撚線は、第1の方向に撚られた複数の第1素線、および複数の第1素線上で第1の方向に対して反対の第2の方向に撚られた複数の第2素線を含む。複数の第1素線、および複数の第2素線の各々は、金属を含む導体と導体を被覆する絶縁皮膜を有する。複数の第1素線、および複数の第2素線は融着層によって固定される。複数の第2素線の導体の断面積の平均値は、複数の第1素線の導体の断面積の平均値以上である。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に撚られた複数の第1素線、および
前記複数の第1素線上で前記第1の方向に対して反対の第2の方向に撚られた複数の第2素線を含み、
前記複数の第1素線、および前記複数の第2素線の各々は、金属を含む導体と前記導体を被覆する絶縁皮膜を有し、
前記複数の第1素線、および前記複数の第2素線は融着層によって固定され、
前記複数の第2素線の導体の断面積の平均値は、前記複数の第1素線の導体の断面積の平均値以上である、平角成形撚線。
【請求項2】
前記複数の第1素線の数は2以上10以下であり、
前記複数の第2素線の数は6以上24以下であり、かつ、前記複数の第1素線の前記数よりも多い、請求項1に記載の平角成形撚線。
【請求項3】
第1の方向に撚られた複数の第1素線、
前記複数の第1素線上で前記第1の方向に対して反対の第2の方向に撚られた複数の第2素線、および
前記複数の第2素線上で前記第1の方向に撚られた複数の第3素線を含み、
前記複数の第1素線、前記複数の第2素線、および前記複数の第3素線の各々は、金属を含む導体と前記導体を被覆する絶縁皮膜を有し、
前記複数の第1素線、前記複数の第2素線、および前記複数の第3素線は融着層によって固定され、
前記複数の第2素線の導体の断面積の平均値は、前記複数の第1素線の導体の断面積の平均値以上であり、前記複数の第3素線の導体の断面積の平均値以下である、平角成形撚線。
【請求項4】
前記複数の第1素線の数は2以上10以下であり、
前記複数の第2素線の数は6以上24以下であり、かつ、前記複数の第1素線の前記数よりも多く、
前記複数の第3素線の数は10以上35以下であり、かつ、前記複数の第2素線の前記数よりも多い、請求項3に記載の平角成形撚線。
【請求項5】
第1の方向に撚られた複数の第1素線、
前記複数の第1素線上で前記第1の方向に対して反対の第2の方向に撚られた複数の第2素線、
前記複数の第2素線上で前記第1の方向に撚られた複数の第3素線、および
前記複数の第3素線上で前記第2の方向に撚られた複数の第4素線を含み、
前記複数の第1素線、前記複数の第2素線、前記複数の第3素線、および前記複数の第4素線の各々は、金属を含む導体と前記導体を被覆する絶縁皮膜を有し、
前記複数の第1素線、前記複数の第2素線、前記複数の第3素線、および前記複数の第4素線は融着層によって固定され、
前記複数の第2素線の導体の断面積の平均値は、前記複数の第1素線の導体の断面積の平均値以上であり、前記複数の第3素線の導体の断面積の平均値は、前記複数の第2素線の導体の断面積の平均値以上であり、前記複数の第4素線の導体の断面積の平均値以下である、平角成形撚線。
【請求項6】
前記複数の第1素線の数は2以上10以下であり、
前記複数の第2素線の数は6以上24以下であり、かつ、前記複数の第1素線の前記数よりも多く、
前記複数の第3素線の数は10以上35以下であり、かつ、前記複数の第2素線の前記数よりも多く、
前記複数の第4素線の数は11以上56以下であり、かつ、前記複数の第3素線の前記数よりも多い、請求項5に記載の平角成形撚線。
【請求項7】
最外層の前記複数の素線を被覆する共通絶縁層をさらに含む、請求項1から6の何れか1項に記載の平角成形撚線。
【請求項8】
80%以上の導体占積率を有する、請求項7に記載の平角成形撚線。
【請求項9】
複数の第1素線を第1の方向で撚って第1の巻線を形成する工程、
前記第1の巻線を圧延する工程、
圧延された前記第1の巻線上で前記第1の方向に対して反対の第2の方向で複数の第2素線を撚って第2の巻線を形成する工程、
前記第2の巻線を圧延する工程、
圧延された前記第2の巻線を焼鈍する工程、
焼鈍された前記第2の巻線の上で前記第1の方向で複数の第3素線を撚って第3の巻線を形成する工程、および
前記第3の巻線を圧延する工程を含み、
前記複数の第1素線、前記複数の第2素線、および前記複数の第3素線の各々は、金属を含む導体と前記導体を被覆する絶縁皮膜を有し、
圧延後の前記第3の巻線において、前記複数の第2素線の導体の断面積の平均値は、前記複数の第1素線の導体の断面積の平均値以上であり、前記複数の第3素線の導体の断面積の平均値以下である、平角成形撚線の製造方法。
【請求項10】
撚る前の前記複数の第2素線の前記導体の前記断面積の前記平均値は、撚る前の前記複数の第1素線の前記導体の前記断面積の前記平均値以下であり、撚る前の前記複数の第3素線の前記導体の前記断面積の前記平均値以上である、請求項9に記載の平角成形撚線の製造方法。
【請求項11】
前記複数の第1素線の数は2以上10以下であり、
前記複数の第2素線の数は6以上24以下であり、かつ、前記複数の第1素線の前記数よりも多く、
前記複数の第3素線の数は10以上35以下であり、かつ、前記複数の第2素線の前記数よりも多い、請求項9に記載の平角成形撚線の製造方法。
【請求項12】
前記第3の巻線の上で前記第2の方向で複数の第4素線を撚って第4の巻線を形成する工程、および
前記第4の巻線を圧延する工程をさらに含み、
前記複数の第4素線は、金属を含む導体と前記導体を被覆する絶縁皮膜を有し、
圧延後の前記第4の巻線において、前記複数の第3素線の導体の断面積の平均値は、前記複数の第4素線の導体の断面積の平均値以下である、請求項9に記載の平角成形撚線の製造方法。
【請求項13】
撚る前の前記複数の第3素線の前記導体の前記断面積の前記平均値は、撚る前の前記複数の第4素線の前記導体の前記断面積の前記平均値以上である、請求項12に記載の平角成形撚線の製造方法。
【請求項14】
前記複数の第1素線の数は2以上10以下であり、
前記複数の第2素線の数は6以上24以下であり、かつ、前記複数の第1素線の前記数よりも多く、
前記複数の第3素線の数は10以上35以下であり、かつ、前記複数の第2素線の前記数よりも多く、
前記複数の第4素線の数は11以上56以下であり、かつ、前記複数の第3素線の前記数よりも多い、請求項12に記載の平角成形撚線の製造方法。
【請求項15】
前記複数の各素線の各々は、前記絶縁皮膜を被覆する融着層をさらに有し、
前記焼鈍は、前記融着層の融点以上の温度で行われる、請求項9から14の何れか1項に記載の平角成形撚線の製造方法。
【請求項16】
前記平角成形撚線の最外層の前記巻線を被覆する共通絶縁層を形成する工程をさらに含む、請求項9から14の何れか1項に記載の平角成形撚線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、平角成形撚線に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁気回路やモータ、リアクトルなどに用いられる撚線は、銅線等の線状の導体の外周に絶縁塗料(絶縁ワニスとも呼ばれる)を塗布して焼き付けることにより導体が絶縁皮膜で被覆されたエナメル線を素線として、複数の素線が撚られた構造(リッツ線と呼ばれる)を有している。複数の素線の導体部分の総断面積と同一の断面積を有する単一の導体のエナメル線を素線として用いる場合と比較し、複数の素線を含む撚線を用いることで、渦電流による損失を低減することができる。特に、撚線を断面平角状に成形したものが、導体占積率が高く、また、整列巻きが容易なことから広く用いられている(例えば特許文献1から3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-87868号公報
【特許文献2】特開2009-199749号公報
【特許文献3】特開2011-198726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2、3に開示の導線では、分割された複数の素線の数が少ないため、80~90%以上の高い導体占積率を得ることが困難である。また、特許文献1に開示の平角成形撚線では、分割された複数の素線の数が多いものの、使用される導体外径が1.8mmであり、小型のモータに適用する場合など、より細い素線(導体)径が求められる場合に高い導体占積率を得ることが困難であった。
【0005】
本発明の実施形態の一つは、新規な構造を有する平角成形撚線とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、導体占積率が高く、渦電流による損失が低い平角成形撚線とその製造方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一つは、平角成形撚線である。当該平角成形撚線は、第1の方向に撚られた複数の第1素線、および複数の第1素線上で第1の方向に対して反対の第2の方向に撚られた複数の第2素線を含む。複数の第1素線、および複数の第2素線の各々は、金属を含む導体と導体を被覆する絶縁皮膜を有する。複数の第1素線、および複数の第2素線は融着層によって固定される。複数の第2素線の導体の断面積の平均値は、複数の第1素線の導体の断面積の平均値以上である。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、平角成形撚線である。当該平角成形撚線は、第1の方向に撚られた複数の第1素線、複数の第1素線上で第1の方向に対して反対の第2の方向に撚られた複数の第2素線、および複数の第2素線上で第1の方向に撚られた複数の第3素線を含む。複数の第1素線、複数の第2素線、および複数の第3素線の各々は、金属を含む導体と導体を被覆する絶縁皮膜を有する。複数の第1素線、複数の第2素線、および複数の第3素線は融着層によって固定される。複数の第2素線の導体の断面積の平均値は、複数の第1素線の導体の断面積の平均値以上であり、複数の第3素線の導体の断面積の平均値以下である。
【0008】
本発明の実施形態の一つは、平角成形撚線である。当該平角成形撚線は、第1の方向に撚られた複数の第1素線、複数の第1素線上で第1の方向に対して反対の第2の方向に撚られた複数の第2素線、複数の第2素線上で第1の方向に撚られた複数の第3素線、および複数の第3素線上で第2の方向に撚られた複数の第4素線を含む。複数の第1素線、複数の第2素線、複数の第3素線、および複数の第4素線の各々は、金属を含む導体と導体を被覆する絶縁皮膜を有する。複数の第1素線、複数の第2素線、複数の第3素線、および複数の第4素線は融着層によって固定される。複数の第2素線の導体の断面積の平均値は、複数の第1素線の導体の断面積の平均値以上である。複数の第3素線の導体の断面積の平均値は、複数の第2素線の導体の断面積の平均値以上であり、複数の第4素線の導体の断面積の平均値以下である。
【0009】
本発明の実施形態の一つは、平角成形撚線の製造方法である。当該製造方法は、複数の第1素線を第1の方向で撚って第1の巻線を形成する工程、第1の巻線を圧延する工程、圧延された第1の巻線上で第1の方向に対して反対の第2の方向で複数の第2素線を撚って第2の巻線を形成する工程、第2の巻線を圧延する工程、圧延された第2の巻線を焼鈍する工程、焼鈍された第2の巻線の上で第1の方向で複数の第3素線を撚って第3の巻線を形成する工程、および第3の巻線を圧延する工程を含む。複数の第1素線、複数の第2素線、および複数の第3素線の各々は、金属を含む導体と導体を被覆する絶縁皮膜を有する。圧延後の第3の巻線において、複数の第2素線の導体の断面積の平均値は、複数の第1素線の導体の断面積の平均値以上であり、複数の第3素線の導体の断面積の平均値以下である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の模式的側面図。
図2A】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の模式的端面図。
図2B】本発明の実施形態に係る平角成形撚線に含まれる素線の模式的端面図。
図3】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の製造方法を示すフローチャート。
図4】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の製造方法を示す模式図。
図5】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の製造方法を示す模式図。
図6A】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の製造方法で用いられる素線の模式的端面図。
図6B】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の製造方法を説明する模式的端面図。
図6C】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の製造方法を説明する模式的端面図。
図6D】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の製造方法を説明する模式的端面図。
図7A】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の模式的端面図。
図7B】本発明の実施形態に係る平角成形撚線の模式的端面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0012】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。同一、あるいは類似する複数の構造を総じて表す際にはこの符号が用いられ、これらを個々に表す際には符号の後にハイフンと自然数が加えられる。また、一つの構造の一部を示す際には、符号の後に小文字のアルファベットを付すことがある。
【0013】
以下、本発明の実施形態の一つに係る平角成形撚線とその製造方法について説明する。
【0014】
1.平角成形撚線の構造
本発明の実施形態の一つに係る平角成形撚線100は、電磁気回路や各種モータ、リアクトルなどのコイルに利用可能な巻線である。平角成形撚線100の模式的側面図(図1)と図1の鎖線A-A´に沿った端面の模式図(図2A)に示すように、平角成形撚線100は、撚られた複数の素線102、および複数の素線102を被覆する共通絶縁層108を含む。後述する図6Aに示すように、撚られる前の個々の素線102は、いわゆるエナメル線であり、銅やアルミニウムなどの電気伝導率の高い金属を含む端面が円形の導体104と導体104を被覆する絶縁皮膜106を含む。図6Aに示す実施の形態では、絶縁皮膜106の外周にさらに融着層110を備える。撚られる前の導体104は、例えば0.2mm以上1.1mm以下の外径を有している。絶縁皮膜106には、例えばポリウレタン、ポリエステルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの高分子を含む材料を適用することができ、絶縁皮膜106は導体104の外周に焼き付けて形成される。撚られる前の絶縁皮膜106は、例えば3μm以上7μm以下の厚さを有しており、絶縁皮膜106によって導体104同士が絶縁される。したがって、平角成形撚線100は互いに絶縁された複数の素線102が撚られた構造を有しており、このため、平角成形撚線100は平角リッツ線、あるいは平角状の分割巻線、集合撚線、集合導体、集合導線などとも呼ばれる。単一の素線で構成される巻線を利用する場合と比較し、複数の素線で平角成形撚線100を構成することで渦電流損失が抑制されるため、平角成形撚線100を用いることで効率の高い電磁気回路やモータなどを提供することができる。
【0015】
融着層110は、絶縁皮膜106よりも低い融点、ガラス転移点を有する熱可塑性高分子を含み、可撓性高分子としては、ポリエーテルスルホン、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステルなどが例示される。後述するように、撚られる前の個々の素線102の絶縁皮膜106を被覆する融着層110は、後述する焼鈍工程で溶融し、その後再度固化するため、複数の素線102を強固に固定するための接着剤として機能する。したがって、平角成形撚線100では、隣接する素線102は、接着剤として機能する融着層110によって固定される。
【0016】
共通絶縁層108は樹脂を含み、樹脂としてはポリ塩化ビニルやポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、パーフルオロアルコキシアルカンポリマー(PFA)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素含有樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルなどが例示される。共通絶縁層108は、例えば25μm以上200μm以下の厚さを有している。
【0017】
平角成形撚線100は、後述する製造方法に起因して全体として四角形または四角形に近い平角状の端面を有しており(図2A)、そのアスペクト比(厚さTに対する幅Wの比)は、例えば1.0以上2.0以下である。厚さTと幅Wには制約はないが、例えば厚さTは1.0mm以上3.0mm以下、幅Wは1.0mm以上6.0mm以下の範囲から適宜選択すればよい。同様に、平角成形撚線100における個々の素線102も四角形、または四角形に近い端面形状を有しており(図2B)。そのアスペクト比(厚さtに対する幅wの比)も1.0以上2.0以下でもよい。ただし、平角成形撚線100全体の端面形状と個々の素線102の端面形状の輪郭は、複数の曲線のみ、または複数の曲線と直線を含んでもよい。なお、ここで幅Wとは、平角成形撚線100が延伸する方向に垂直な方向における端面の最大長であり、厚さTは、幅Wに対して垂直な方向における当該端面の最大長として定義することができる。素線102に対する厚さtと幅wも同様である。
【0018】
図1図2Aから理解されるように、平角成形撚線100は三層構造を形成し、各層が複数の素線102によって構成される。具体的には、平角成形撚線100は、その中心部分に配置される複数(例えば、2から10)の第1素線102-1、複数の第1素線102-1を囲むように設けられる複数(例えば、6から24)の第2素線102-2、および複数の第2素線102-2を囲むように設けられる複数(例えば、10から35)の第3素線102-3を含む。複数の第1素線102-1、複数の第2素線102-2、および複数の第3素線102-3によってそれぞれ第1の層、第2の層、および第3の層が構成される。第3の層を構成する第3素線102-3は、共通絶縁層108内で最も外側に位置し、共通絶縁層108と直接接するまたは融着層110を介して共通絶縁層108に隣接する。第2の層を構成する第2素線102-2は、第3素線102-3に対して内側に位置し、第3素線102-3のいずれか一つまたは複数に隣接する。第2素線102-2は、第3素線102-3のいずれか一つまたは複数と直接接してもよく、融着層110を介して隣接してもよい。第2素線102-2は共通絶縁層108から離隔する。第1の層を構成する第1素線102-1は、第2素線102-2に対して内側に位置し、第2素線102-2のいずれか一つまたは複数に隣接する。第1素線102-1は、第2素線102-2のいずれか一つまたは複数と直接接してもよく、融着層110を介して隣接してもよい。第1素線102-1は共通絶縁層108や第3素線102-3から離隔する。
【0019】
第2の層を構成する第2素線102-2の数は、第1の層を構成する第1素線102-1の数よりも多く、第3の層を構成する第3素線102-3の数よりも少ない。第2素線102-2の数と第1素線102-1の数の差は、好ましくは5または6であり、第2素線102-2の数と第3素線102-3の数の差は、好ましくは3から8である。第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3の数を上記のように設定することで、第2素線102-2と第3素線102-3をそれぞれ第1素線102-1と第2素線102-2の周囲において高密度で配置することができ、その結果、80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上)の高い導体占積率を実現することができる。ここで、導体占積率は、次のように定義される。
導体占積率(%)=(素線102の導体104部分の断面積の合計)/(平角成形撚線100の断面積-共通絶縁層108の厚さ部分の断面積)×100
図2Aに示す実施の形態では、約85%の高い導体占積率を実現することができる。導体占積率の増大とともに平角成形撚線100を流れる電流量を増大できるので、平角成形撚線100は電磁気回路やモータ、リアクトルの高効率化や小型化に寄与する。
【0020】
図1に示すように、各素線102は、それぞれらせん構造を形成するように撚られている。具体的には、複数の第1素線102-1は、例えば15mm以上20mm以下の撚りピッチ(または平均ピッチ。以下、同様。)Pで一定の方向で撚られ(例えば反時計回り方向であるZ撚り)、第1の層を形成する。同様に、複数の第2素線102-2は、複数の第1素線102-1上で第1素線102-1の撚りピッチPよりも大きい撚りピッチP(例えば、30mm以上40mm以下)で、第1素線102-1の撚り方向に対して反対の方向(例えば時計回り方向であるS撚り)で撚られ、第2の層を形成する。さらに、複数の第3素線102-3は、複数の第2素線102-2の周りにおいて、第2素線102-2の撚りピッチPよりも大きい撚りピッチP(例えば、35mm以上45mm以下)で、第2素線102-2の撚り方向に対して反対の方向で撚られ(すなわち、第1素線102-1のより方向と同一方向であり、例えばZ撚り)、第3の層を形成する。各素線102において、撚りピッチは幅に対して12倍以上20倍以下が好ましい。第1素線102-1、第2素線102-2、および第3素線102-3は、それぞれS撚り、Z撚り、S撚りで撚られてもよい。
【0021】
なお、第1の層を形成する第1素線102-1、第2の層を形成する第2素線102-2、および第3の層を形成する第3素線102-3について、仮に層ごとに同方向に撚って形成した場合、圧延前の素線の外径が大きくなり、所定の仕上がり寸法を有する平角成形撚線を形成することが困難である。しかし、実施の形態では、第1の層を形成する第1素線102-1、第2の層を形成する第2素線102-2、および第3の層を形成する第3素線102-3について、層ごとに反対方向に撚って(第1の層、第2の層、第3の層の順に、「Z撚り、S撚り、Z撚り」または「S撚り、Z撚り、S撚り」)形成することで、平角状に成形する前の撚線の構造および仕上り外径が安定し、平角成形撚線の仕上がり寸法を安定させることができる。
【0022】
さらに、素線102の導体104の端面の面積(以下、端面の面積を断面積と呼ぶ)は、第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3の順で大きくなるように平角成形撚線100が構成される。換言すると、複数の第2素線102-2の導体104の断面積の平均値は、複数の第1素線102-1の導体104の断面積の平均値以上であり、複数の第3素線102-3の導体104の断面積の平均値以下である。あるいは、複数の第2素線102-2の導体104の断面積の平均値は、複数の第1素線102-1の導体104の断面積の平均値よりも大きく、複数の第3素線102-3の導体104の断面積の平均値よりも小さくてもよい。素線102の総断面積は、例えば1.0mm以上10.0mm以下とすればよい。
【0023】
図1などから理解されるように、素線102は、第1の層、第2の層、第3の層の順でらせん半径が大きく、各素線102の撚りピッチは、前述のとおり、
第1素線102-1<第2素線102-2<第3素線102-3
となり、外側の素線102ほど大きくなるため、平角成形撚線100の単位長さあたりの各素線102の長さは、
第1素線102-1>第2素線102-2>第3素線102-3
となる。よって、各素線102の長さに起因する抵抗は、
第1素線102-1>第2素線102-2>第3素線102-3
となる。一般的に、加工硬化により、圧延等の加工後は素線102の導体104が硬くなり、当該導体104の導電率が小さくなるが、後述するように、平角成形撚線100の製造工程において、2層目の第2の圧延工程後に焼鈍工程を実施することで、圧延により硬くなった第1素線102-1と第2素線102-2の各導体104は、焼鈍工程前よりも軟らかくなり、各導体104の導電率も大きくなる。3層目の圧延工程後に焼鈍工程を行わない場合は、第3素線102-3の導体104の導電率は圧延工程前より小さくなる。したがって、仮に、素線102の断面積が層に依らず同一または略同一である場合は、撚りピッチと加工硬化により、各素線102の抵抗は、
第1素線102-1<第2素線102-2<第3素線102-3
となり、第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3の順で抵抗が大きくなるため、これらの素線102間に大きな抵抗値の差が生じる。
【0024】
一方、平角成形撚線100において、素線102の導体104の断面積は、
第1素線102-1<第2素線102-2<第3素線102-3
となり、第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3の順に増大する。このため、第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3の間に大きな抵抗差が存在せず、その結果、全ての素線102に均一な電流を流すことが可能となり、平角成形撚線100全体の抵抗を最小化することができる。このことは、平角成形撚線100の特性ばらつきの低減に寄与する。例えば、第1素線102-1の抵抗の平均値と第3素線102-3の抵抗の平均値を第2素線102-2の抵抗の平均値の±5%以内、好ましくは±3%以内、より好ましくは±1%以内になるように、素線102の導体104の断面積を調整してもよい。
【0025】
2.平角成形撚線の製造方法
平角成形撚線100の製造方法の一例を図3のフローチャート、および図4から図6Dの模式図を用いて説明する。なお、図6Bから図6Dでは、見やすさを考慮し、絶縁皮膜106や融着層110は図示を省略している。
【0026】
まず、複数の第1素線102-1を撚る(図3、第1の撚り工程)。具体的には、図4に示すように、それぞれ第1素線102-1が巻かれた複数のボビン120を配置する。上述したように、各素線102は、導体104と導体104を被覆する絶縁皮膜106を有し、さらに絶縁皮膜106を被覆する融着層110を備える(図6A)。ボビン120から引き出される複数の第1素線102-1を図示しないマンドレルを用いて合流させ、複数のボビン120を公転させる(図4の点線矢印参照。)。これにより、複数の第1素線102-1が一定方向(時計回りまたは反時計回り)で撚られ、第1の層を構成する第1の巻線150が得られる。
【0027】
その後、第1の巻線150は圧延装置122によって圧延される(第1の圧延工程)。第1の圧延工程では、後述する引取機124などによって第1の巻線150の延伸方向に張力が加えられるとともに、圧延装置122によって圧縮される。圧延装置122としては公知の圧延装置を用いることができ、例えば互いに対向する一対の圧延ロール122-1、一対の圧延ロールの回転軸に垂直な回転軸を有する一対の圧延ロール122-2によって圧延装置122を構成することができる。一対の圧延ロール122-1と一対の圧延ロール122-2を用いて第1の巻線150の延伸方向に対して垂直であり、かつ互いに直交する二つの方向から圧力を加えることにより、第1の巻線150は延伸するとともに、ほぼ円形の端面が四角形または四角形に近い平角形状に成形される(図6B)。なお、図示しないが、圧延装置122として第1の巻線150に要求される端面形状を有するダイス孔を備える成形型を用い、ダイス孔に第1の巻線150を通過させることで第1の圧延工程を行ってもよい。あるいは、ダイス孔と圧延ロールの組み合わせを圧延装置122として用いてもよい。以下で述べる圧延装置128、136についても同様である。
【0028】
第1の巻線150はその後引取機124によって引き出され、第2の撚り工程に供される。引取機124にも公知の構造を適用できるため詳細な説明は割愛するが、例えば一対のローラ、一対の回転ベルトなどで引取機124を構成すればよい。以下で述べる引取機130、138についても同様である。
【0029】
引き続き、第2の撚り工程において第2素線102-2が第1の巻線150(すなわち、撚られた後に圧延された第1素線102-1)上に撚られる。具体的には、第1素線102-1よりも多い第2素線102-2の各々が巻き付けられたボビン126を配置する。第1の撚り工程と同様、ボビン126から引き出される複数の第2素線102-2を第1の巻線150上で合流させ、複数のボビン126を第1の巻線150の延伸方向を中心として公転させる。この時のボビン126の公転方向は、第1の撚り工程のそれに対して逆である(図4の実線矢印参照。)この工程により、複数の第2素線102-2が一定方向(第1素線102-1の撚り方向とは反対方向)で撚られ、第2の巻線152が得られる。
【0030】
その後、第1の圧延工程と同様、第2の巻線152は圧延装置128によって圧延される(第2の圧延工程)。第2の圧延工程においても第2の巻線152の延伸方向に張力が加えられるとともに、圧延装置128によって第2の巻線152に対して圧力が加えられる。第2の圧延工程で加えられる圧力の方向は、第1の圧延工程のそれと同一である。このため、第2の巻線152は延伸するとともに、第1素線102-1の周囲において四角形または四角形に近い平角形状を有する端面を形成する(図6C)。第2素線102-2によって第2の層が形成される。第2の巻線152はその後引取機130によって引き出され、焼鈍工程に供される。
【0031】
焼鈍工程は、融着層110を溶融して流動化させ、素線102間の隙間に浸透させる工程である。流動化した融着層110がその後冷却されて固化することで接着剤として機能し、その結果、第1の層と第2の層に含まれる素線102を強固に固定し、これらの間での剥離などの不具合の発生を防止することができる。実際、焼鈍工程を行わない場合、素線102間の接着力が弱いため、引き続く第3の撚り工程において素線102同士が剥離することがあり、平角成形撚線100を効率良く製造することができず、歩留まりが悪い原因となることが発明者らによって確認されている。また、焼鈍工程により、圧延工程により硬くなった第1素線102-1と第2素線102-2の各導体104は、焼鈍工程前よりも軟らかくなり、各導体104の導電率は焼鈍工程前のそれよりも大きくなる。焼鈍工程は、例えば第2の巻線152を加熱装置132内で加熱処理することで行えばよい。加熱装置132としても公知の装置を用いることができ、例えば第2の巻線152を搬送するローラやベルト、第2の巻線152を加熱するための空間を提供するチャンバ、およびチャンバを加熱するためのヒータなどで加熱装置132を構成すればよい。焼鈍工程における加熱温度は、融着層110の融点またはガラス転移温度以上であればよい。
【0032】
引き続き、第3の撚り工程が行われる。この工程では、第3素線102-3が第2の巻線152(すなわち、撚られて圧延された第1素線102-1と第2素線102-2)上に撚られる。具体的には、図5に示すように、第2素線102-2よりも多い複数の第3素線102-3の各々が巻き付けられたボビン134を配置する。第1の撚り工程と同様、ボビン134から引き出される複数の第3素線102-3を第2の巻線152上で合流させ、複数のボビン134を第2の巻線152の延伸方向を中心として公転させる。この時のボビン134の公転方向は、第1の撚り工程のそれと同一であり(図5の点線矢印参照)、第2の撚り工程のそれと反対である。この工程により、複数の第3素線102-3が一定方向(第1素線102-1の撚り方向と同一方向)で撚られて第3の巻線154が得られる。
【0033】
その後、第1の圧延工程と同様、第3の巻線154も圧延装置136によって圧延される(第3の圧延工程)。第3の圧延工程においても第3の巻線154の延伸方向に張力が加えられるとともに、圧延装置136によって第3の巻線154に対して圧力が加えられる。第3の圧延工程で加えられる圧力の方向は、第1の圧延工程と第2の圧延工程のそれらと同一である。このため、第3の巻線154は延伸するとともに、第2素線102-2の周囲において四角形または四角形に近い平角形状を有する端面を形成する(図6D)。第3素線102-3によって第3の層が形成される。図示しないが、圧延された第3の巻線154に対しても焼鈍工程を行ってもよい。第3の巻線154は、引取機138によって押出機140側に搬送され、その後、被覆工程に供される。
【0034】
被覆工程では、押出機140を用いて第3の巻線154の表面を共通絶縁層108で被覆する。押出機140としては公知の押出機を用いることができるので詳細な説明は割愛するが、図示しないスクリューで圧縮された樹脂を加熱して溶融し、溶融した樹脂を第3の巻線154の表面に被覆すればよい。樹脂はその後、図示しない冷却装置で冷却してもよい。被覆工程を経て得られる平角成形撚線100は巻取りリール142に巻き付けられる。なお、第3の巻線154に共通絶縁層108を形成する前に第3の巻線154を巻取りリール142に巻き付け、その後、巻取りリール142から引き出された第3の巻線154を共通絶縁層108で被覆してもよい。
【0035】
ここで、撚り工程に供される前の第1素線102-1、第2素線102-2、および第3素線102-3は、第2素線102-2の導体104の直径が第1素線102-1の導体104の直径以下であり、第3素線102-3の導体104の直径以上となるように選択することができる。あるいは、撚り工程に供される前の第1素線102-1、第2素線102-2、および第3素線102-3は、第2素線102-2の導体104の直径が第1素線102-1の導体104の直径よりも小さく、第3素線102-3の導体104の直径よりも大きくなるように選択してもよい。例えば、撚り工程に供される前の第1素線102-1、第2素線102-2、および第3素線102-3のそれぞれの絶縁皮膜106を3μmから7μmの範囲の中で略一定の厚さとした場合、第1素線102-1の直径を0.28mm以上0.95mm以下の範囲から、第2素線102-2の直径を0.25mm以上0.85mm以下の範囲から、第3素線102-3の直径を0.23mm以上0.75mm以下の範囲から選択することができる。第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3にはそれぞれ3回、2回、1回の圧延工程が施されるため、第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3の順でより大きく引張される。このため、同一直径の導体を有する素線102を第1素線102-1、第2素線102-2、および第3素線102-3として使用すると、圧延工程で印加される張力や圧力、素線102の撚りピッチによっては、各素線102の直径の差、すなわち各導体104の直径の差が第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3間で極端に大きくなる場合がある。しかしながら、上記関係が満たされるように各素線102を選択することで、このような不具合を解消することができ、素線102の導体104の断面積を第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3の順に増大させることができる。その結果、素線102間に大きな抵抗差を生み出さないように平角成形撚線100を構成することができる。
【0036】
以上述べたように、本発明の実施形態の一つに係る平角成形撚線100は、それぞれ複数の素線102で構成される第1から第3の層を含み、素線102の導体104の断面積が第1から第3の層の順で大きくなるように構成される。このため、素線102の抵抗が第1から第3の層の間でほぼ同一となり、特性ばらつきが抑制された撚線を提供することができる。
【0037】
(変形例1)
変形例として、図1に示す平角成形撚線100において、第3素線102-3が無い構造の平角成形撚線200としてもよい(図7A)。平角成形撚線200は二層構造を形成し、各層が複数の素線102によって構成される。具体的には、平角成形撚線200は、その中心部分に配置される複数(例えば、2から10)の第1素線102-1、および複数の第1素線102-1を囲むように設けられる複数(例えば、6から24)の第2素線102-2を含む。複数の第1素線102-1と複数の第2素線102-2によってそれぞれ第1の層と第2の層が構成される。第2の層を構成する第2素線102-2は、共通絶縁層108内で最も外側に位置し、共通絶縁層108と直接接するまたは融着層110を介して共通絶縁層108に隣接する。第1の層を構成する第1素線102-1は、第2素線102-2に対して内側に位置し、第2素線102-2のいずれか一つまたは複数に隣接する。第1素線102-1は、第2素線102-2のいずれか一つまたは複数と直接接してもよく、融着層110を介して隣接してもよい。第1素線102-1は共通絶縁層108から離隔する。
【0038】
第2の層を構成する第2素線102-2の数は、第1の層を構成する第1素線102-1の数よりも多い。第2素線102-2の数と第1素線102-1の数の差は、好ましくは5または6である。第1素線102-1、第2素線102-2の数を上記のように設定することで、第2素線102-2を第1素線102-1の周囲において高密度で配置することができ、その結果、80%以上(実施の形態では約85%)の高い導体占積率を実現することができる。導体占積率の増大とともに平角成形撚線200を流れる電流量を増大できるので、平角成形撚線200は電磁気回路やモータ、リアクトルの高効率化や小型化に寄与する。
【0039】
平角成形撚線200における構造上の他の特徴は、平角成形撚線100における第1素線102-1、第2素線102-2の特徴と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0040】
平角成形撚線200の製造方法は、図3に示す工程の第2の圧延工程まで平角成形撚線100の製造方法と同様であり、第2の圧延工程の次に共通絶縁層108の被覆工程が行われる。
【0041】
(変形例2)
他の変形例として、図1に示す平角成形撚線100において、第3素線102-3と共通絶縁層108の間に第4素線102-4が設けられた構造の平角成形撚線300としてもよい(図7B)。平角成形撚線300は、四層構造を形成し、各層が複数の素線102によって構成される。具体的には、平角成形撚線300では、平角成形撚線100における複数の第3素線102-3を囲むように設けられる複数(例えば、11から56)の第4素線102-4をさらに含むことにより第4の層が構成される。第4の層を構成する第4素線102-4は、共通絶縁層108内で最も外側に位置し、共通絶縁層108と直接接するまたは融着層110を介して共通絶縁層108に隣接する。第3素線102-3の導体104の断面積の平均値は、第4素線102-4の導体104の断面積の平均値以下である。第4素線102-4の撚りピッチPは第3素線102-3の撚りピッチPよりも大きい(例えば、40mm以上60mm以下)。また、第4素線102-4は、第3素線102-3の撚り方向に対して反対の方向で撚られる。第3素線102-3の数と第4素線102-4の数の差は、好ましくは5から20である。
【0042】
第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3、第4素線102-4の数を上記のように設定することで、導体を高密度で配置することができ、その結果、80%以上(実施の形態では約85%)の高い導体占積率を実現することができる。導体占積率の増大とともに平角成形撚線300を流れる電流量を増大できるので、平角成形撚線300は電磁気回路やモータ、リアクトルの高効率化や小型化に寄与する。
【0043】
撚り工程に供される前の第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3、および第4素線102-4のそれぞれの絶縁皮膜106を3μmから7μmの範囲の中で略一定の厚さとした場合、第4素線102-4の直径を0.20mm以上0.70mm以下の範囲から選択することができる。平角成形撚線300においては、素線102の導体104の断面積を第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3、第4素線102-4の順に増大させることができる。その結果、平角成形撚線100と同様に、素線102間に大きな抵抗差を生み出さないように平角成形撚線300を構成することができる。
【0044】
平角成形撚線300における構造上の他の特徴は、平角成形撚線100における第1素線102-1、第2素線102-2、第3素線102-3の特徴と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0045】
平角成形撚線300の製造方法では、図3に示す第3の圧延工程の後、第4の撚り工程および第4の圧延工程をさらに含み、その後、共通絶縁層108の被覆工程が行われる。
【0046】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態の表示装置を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、または、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0047】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0048】
100:平角成形撚線、102:素線、102-1:第1素線、102-2:第2素線、102-3:第3素線、102-4:第4素線、104:導体、106:絶縁皮膜、108:共通絶縁層、110:融着層、120:ボビン、122:圧延装置、124:引取機、126:ボビン、128:圧延装置、130:引取機、132:加熱装置、134:ボビン、136:圧延装置、140:押出機、142:巻取りリール、150:第1の巻線、152:第2の巻線、154:第3の巻線
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B