(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112475
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】重荷重用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20240814BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240814BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20240814BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240814BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20240814BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20240814BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B60C11/00 D
C08L9/00
C08K5/3445
C08K3/04
C08L93/04
C08L57/02
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017507
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】広田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】蕭 名吟
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131AA04
3D131AA39
3D131BA01
3D131BA02
3D131BA05
3D131BA08
3D131BA20
3D131BB03
3D131BB04
3D131BC31
3D131BC33
3D131BC35
3D131BC36
3D131BC39
3D131DA34
3D131EA02U
4J002AC011
4J002AC032
4J002AC052
4J002AC061
4J002AC072
4J002AC082
4J002AC111
4J002AC112
4J002AF023
4J002BA013
4J002DA036
4J002DJ016
4J002EU107
4J002FD016
4J002FD037
4J002FD203
4J002FD207
4J002GN01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐カットチッピング性、耐発熱性および耐摩耗性を高いレベルで兼備するようにしたキャップトレッド用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】キャップトレッド7およびアンダートレッド8からなるトレッド部1と、その径方向内側にスチールベルト6を有する重荷重用タイヤであって、前記キャップトレッド7が、イソプレン系ゴムを60質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に、ピラゾロン誘導体を0.1~5.0質量部、窒素吸着比表面積が60~200m
2/gであるカーボンブラックと任意にシリカとを合計で40~80質量部配合してなり、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、前記カーボンブラックが50質量%以上であるキャップトレッド用ゴム組成物からなり、前記キャップトレッド7の300%モジュラスMcと前記アンダートレッド8の300%モジュラスMuの比Mc/Muが0.6以上1.0未満であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップトレッドおよびアンダートレッドからなるトレッド部と、その径方向内側にスチールベルトを有する重荷重用タイヤであって、前記キャップトレッドが、イソプレン系ゴムを60質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に、下記一般式(1)で表される化合物を0.1~5.0質量部、窒素吸着比表面積が60~200m
2/gであるカーボンブラックと任意にシリカを、合計で40~80質量部配合してなり、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、前記カーボンブラックが50質量%以上であるキャップトレッド用ゴム組成物からなり、前記キャップトレッドの300%モジュラスMcと前記アンダートレッドの300%モジュラスMuの比Mc/Muが0.6以上1.0未満であることを特徴とする重荷重用タイヤ。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。R
3およびR
4は一緒になってアルキリデン基を形成してもよく、R
2、R
3およびR
4のいずれか2つが一緒になってアルキレン基を形成してもよい。これら各基は、任意に1個以上の置換基を有していてもよい。)
【請求項2】
前記キャップトレッド用ゴム組成物が、前記ジエン系ゴム中、前記イソプレン系ゴムを80質量%以上含み、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、窒素吸着比表面積が70~150m2/gであるカーボンブラックを60質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項3】
前記キャップトレッド用ゴム組成物が、前記ジエン系ゴムがすべて前記イソプレン系ゴムであり、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、窒素吸着比表面積が70~150m2/gであるカーボンブラックを70質量%以上含むことを特徴とする請求項1または2に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項4】
前記キャップトレッド用ゴム組成物が、前記ジエン系ゴム100質量部に、ロジン系樹脂および/または石油系樹脂を0.1~10質量部配合してなり、前記石油樹脂がC5系樹脂、C9系樹脂およびC5/C9系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項5】
前記キャップトレッド用ゴム組成物が、前記ロジン系樹脂および石油系樹脂を、質量比7:3~3:7で含むことを特徴とする請求項4に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項6】
前記キャップトレッド用ゴム組成物において、前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計をWc質量部とし、前記アンダートレッドを構成するアンダートレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部にカーボンブラックおよび/またはシリカを合計でWu質量部配合してなるとき、前記WcおよびWuの比Wc/Wuが1.0以上1.8未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項7】
前記キャップトレッドのゴム硬度が63以上、60℃の損失正接(tanδ)が0.20以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の重荷重用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐カットチッピング性、耐発熱性および耐久性を高いレベルで兼備する重荷重用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
主にオフロードを走行するダンプなどの大型車両に装着する重荷重用タイヤにおいて、悪路走行時の耐発熱性と耐カットチッピング性、耐摩耗性に優れることが重要である。このため、重荷重用タイヤのキャップトレッドは、ゴム硬度およびモジュラスが高いゴム組成物で形成され、耐カットチッピング性、耐摩耗性を向上させている。一方、キャップトレッドのタイヤ径方向内側に配置されるアンダートレッドは、低発熱性が求められる。そのため、キャップトレッド用のゴム組成物と比べ充填剤の量が少なく、低発熱だがゴム硬度およびモジュラスが低いゴム組成物で形成されている。さらにアンダートレッドのタイヤ径方向内側にはタイヤの剛性を高めるために硬いスチールベルトが配置されている。
【0003】
ゴム硬度およびモジュラスが低いゴム組成物で形成されたアンダートレッドは、硬く歪みにくいキャップトレッドおよびスチールベルトの間に挟まれているので、走行時の応力が集中することにより、アンダートレッドの部材破壊を引き起こすことがある。特に大型ダンプ向けタイヤなどの重荷重用タイヤでは、より大きな歪みがアンダートレッドに集中するため、部材破壊を引き起こしやすくなり耐久性が低下することが懸念される。
【0004】
特許文献1は、ゴム成分に、カーボンブラックおよび/または無機充填剤に、特定のピラゾロン化合物およびその誘導体を配合したゴム組成物が低発熱性を発現し得ることを記載する。しかし、特許文献1に記載された発明では、大型ダンプ向けタイヤなどの重荷重用タイヤに要求される耐カットチッピング性、耐発熱性および耐久性をより高いレベルで兼備させるには必ずしも十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐カットチッピング性、耐発熱性および耐久性を高いレベルで兼備するようにした重荷重用タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の重荷重用タイヤは、キャップトレッドおよびアンダートレッドからなるトレッド部と、その径方向内側にスチールベルトを有する重荷重用タイヤであって、前記キャップトレッドが、イソプレン系ゴムを60質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に、下記一般式(1)で表される化合物を0.1~5.0質量部、窒素吸着比表面積が60~200m
2/gであるカーボンブラックと任意にシリカを、合計で40~80質量部配合してなり、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、前記カーボンブラックが50質量%以上であるキャップトレッド用ゴム組成物からなり、前記キャップトレッドの300%モジュラスMcと前記アンダートレッドの300%モジュラスMuの比Mc/Muが0.6以上1.0未満であることを特徴とする。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は同一または異なって、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、または複素環基を示す。R
3およびR
4は一緒になってアルキリデン基を形成してもよく、R
2、R
3およびR
4のいずれか2つが一緒になってアルキレン基を形成してもよい。これら各基は、任意に1個以上の置換基を有していてもよい。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の重荷重用タイヤは、キャップトレッドを構成するキャップトレッド用ゴム組成物が、イソプレン系ゴムを60質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に、所定のカーボンブラックおよびシリカを配合し、一般式(1)で表されるピラゾロン化合物およびその誘導体を0.1~5.0質量部配合したので、キャップトレッドの300%モジュラスMcとアンダートレッドの300%モジュラスMuの比Mc/Muを0.6以上1.0未満にすることができ、耐カットチッピング性、耐発熱性および耐久性を従来以上の高いレベルで兼備することができる。特にキャップトレッド用ゴム組成物に一般式(1)で表されるピラゾロン化合物およびその誘導体を配合することにより、キャップトレッドのゴム硬度を維持しながらモジュラスを低下できるため、耐カットチッピング性を確保しながら、300%モジュラスの比Mc/Muを0.6以上1.0未満にすることができ、アンダートレッドへの応力集中を緩和してタイヤ耐久性を向上することができ、同時にキャップトレッドの60℃のtanδも低減できるため、低発熱性も両立可能となる。
【0009】
前記キャップトレッド用ゴム組成物は、前記ジエン系ゴム中、前記イソプレン系ゴムを80質量%以上含み、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、窒素吸着比表面積が70~150m2/gであるカーボンブラックを60質量%以上含むとよい。また、前記キャップトレッド用ゴム組成物が、前記ジエン系ゴムがすべて前記イソプレン系ゴムであり、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、窒素吸着比表面積が70~150m2/gであるカーボンブラックを70質量%以上含むとよい。
【0010】
前記キャップトレッド用ゴム組成物は、前記ジエン系ゴム100質量部に、ロジン系樹脂および/または石油系樹脂を0.1~10質量部配合してなり、前記石油樹脂がC5系樹脂、C9系樹脂およびC5/C9系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つであるとよい。また、前記ロジン系樹脂および石油系樹脂を、質量比7:3~3:7で含むとよい。
【0011】
重荷重用タイヤは、前記キャップトレッド用ゴム組成物において、前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計をWc質量部とし、前記アンダートレッドを構成するアンダートレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部にカーボンブラックおよび/またはシリカを合計でWu質量部配合してなるとき、前記WcおよびWuの比Wc/Wuが1.0以上1.8未満であるとよい。
【0012】
重荷重用タイヤにおいて、前記キャップトレッドのゴム硬度が63以上、60℃の損失正接(tanδ)が0.20以下であるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の重荷重用タイヤの実施形態の一例を示す子午線方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
重荷重用タイヤは、トラック、バス、建設車両等の大型車両に装着するタイヤをいう。タイヤは空気入りタイヤでも非空気式タイヤでもよい。
【0015】
重荷重用タイヤは、
図1に例示するように、トレッド部1、サイドウォール部2およびビード部3を有し、左右のビード部3,3間にカーカス層4が装架され、その両端部がビードコア5の周りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。トレッド部1におけるカーカス層4のタイヤ径方向外側には6層構造のスチールベルト6が配置され、最外側のベルト層6の外側にトレッドゴムが配置される。スチールベルト6は、好ましくは4層以上配置されるとよい。トレッドゴムは、ベルト層6に隣接する、径方向内側のアンダートレッドゴムの層8と、トレッド部1の表面に露出する、径方向外側のキャップトレッドゴムの層7の二層構造になっている。
【0016】
本発明の重荷重用タイヤにおいて、キャップトレッドゴムの層7は、キャップトレッド用ゴム組成物により構成され、アンダートレッドゴムの層8は、アンダートレッド用ゴム組成物により構成される。
【0017】
キャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量%中、イソプレン系ゴムを60質量%以上含む。イソプレン系ゴムを60質量%以上含むことにより、耐発熱性および耐カットチッピング性を優れたものにすることができる。イソプレン系ゴムは、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、イソプレンゴム、変性イソプレンゴムから選ばれる少なくとも1つである。これらのイソプレン系ゴムは、タイヤ用ゴム組成物に通常、用いられるものの中から適宜選択することができる。イソプレン系ゴムは、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%であるとよい。さらに、ジエン系ゴムのすべてが、イソプレン系ゴムでもよい。イソプレン系ゴムは、1種類でも2種類以上を組み合わせてもよい。
【0018】
キャップトレッド用ゴム組成物は、イソプレン系ゴム以外の他のジエン系ゴムを含むことができる。他のジエン系ゴムとして、例えばブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、およびこれらジエン系ゴムに官能基を付した変性ジエン系ゴム等を挙げることができる。なかでもブタジエンゴムを配合するとよく、耐摩耗性を改良するのに有利になる。これら他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。他のジエン系ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは40質量%以下、より好ましくは0~40質量%、さらに好ましくは0~30質量%、よりさらに好ましくは0~10質量%であるとよい。
【0019】
キャップトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックを配合する。カーボンブラックを配合することにより、耐摩耗性および耐カットチッピング性を優れたものにすることができる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどのカーボンブラックを配合してもよい。これらの中でも、ファーネスブラックが好ましく、その具体例としては、SAF、ISAF、ISAF-HS、ISAF-LS、IISAF、IISAF-HS、HAF、HAF-HS、HAF-LS、FEFなどが挙げられる。なかでもSAF、ISAF、IISAF、HAFがより好ましく、さらにISAF、IISAF、HAFが好ましい。これらのカーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのカーボンブラックを種々の酸化合物等で化学修飾を施した表面処理カーボンブラックも用いることができる。
【0020】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は60~200m2/g、好ましくは70~150m2/g、より好ましくは80~140m2/gである。カーボンブラックのN2SAが60m2/g未満であると、耐摩耗性および耐カットチッピング性を向上する作用が不足する。N2SAが200m2/gを超えると、耐発熱性が低下する。本明細書において、カーボンブラックのN2SAは、JIS K6217‐2に準拠するものとする。
【0021】
カーボンブラックの配合量は、任意に配合するシリカとの合計量およびその合計中のカーボンブラックの割合により決められる。すなわち、カーボンブラックは、任意に配合するシリカとの合計がジエン系ゴム100質量部に対し40~80質量部になるように配合され、かつカーボンブラックおよびシリカの合計中、カーボンブラックが50質量%以上になるように配合される。
【0022】
キャップトレッド用ゴム組成物がシリカを含有しないとき、カーボンブラックおよびシリカの合計中、カーボンブラックが100質量%を占める。このとき、カーボンブラックは、ジエン系ゴム100質量部に対し40~80質量部、好ましくは45~75質量部、より好ましくは50~60質量部である。カーボンブラックが40質量部未満であると、耐摩耗性および耐カットチッピング性が低下する。また、80質量部を超えると耐発熱性が悪化する。
【0023】
キャップトレッド用ゴム組成物は、任意にシリカを配合することができ、シリカを配合することにより、耐発熱性を優れたものにすることができる。キャップトレッド用ゴム組成物がシリカを含有するとき、カーボンブラックおよびシリカの合計はジエン系ゴム100質量部に対し40~80質量部、好ましくは50~75質量部である。カーボンブラックおよびシリカの合計を40質量部以上にすることにより、ゴム硬度および引裂き強さを大きくし、耐カットチッピング性および耐摩耗性を向上するため好ましい。また80質量部以下にすることにより、引張破断伸びを大きくし、耐カットチッピング性および耐発熱性を向上するため好ましい。
【0024】
キャップトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックが、カーボンブラックおよびのシリカ合計中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であるとよい。カーボンブラックおよびシリカの合計中、窒素吸着比表面積が70~150m2/gであるカーボンブラックを、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上含むとよい。カーボンブラックの質量割合が50質量%以上であると、耐カットチッピング性および耐摩耗性を優れたものにすることができ好ましい。なお、シリカは、0質量%でもよい。シリカを配合するとき、カーボンブラックおよびのシリカ合計中、シリカは50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下であり、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。
【0025】
シリカは、そのCTAB吸着比表面積が好ましくは150m2/g以上であるとよい。シリカのCTAB吸着比表面積150m2/g以上であると、耐カットチッピング性および耐摩耗性を改良するのに有利になる。CTAB吸着比表面積はより好ましくは150~250m2/g、さらに好ましくは150~200m2/gであるとよい。本明細書において、シリカのCTAB吸着比表面積は、ISO 5794に準拠するものとする。
【0026】
シリカとして、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるものを用いるとよく、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは、カーボンブラック表面にシリカを担持させたカーボン-シリカ(デュアル・フェイズ・フィラー)、シランカップリング剤またはポリシロキサンなどシリカとゴムの両方に反応性或いは相溶性のある化合物で表面処理したシリカなどを使用することができる。これらの中でも、含水ケイ酸を主成分とする湿式法シリカが好ましい。
【0027】
また、シリカとともにシランカップリング剤を配合するとよく、シリカの分散性を向上し、ウェット性能がさらに改善されるので好ましい。シランカップリング剤の種類は、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましく、例えばビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、3-メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、およびエボニック社製のVP Si363等特開2006-249069号公報に例示されているメルカプトシラン化合物等、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランなどを挙げることができる。
【0028】
シランカップリング剤は、シリカの質量に対し3~20質量%、好ましくは5~15質量%配合するとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ質量の3質量%未満の場合、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。また、シランカップリング剤が20質量%を超えると、ジエン系ゴム成分がゲル化し易くなる傾向があるため、所望の効果を得ることができなくなる。
【0029】
キャップトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックおよびシリカ以外の他の充填剤を配合することもできる。これにより、ゴム組成物の強度を高くし、タイヤ耐久性を確保することができる。他の充填剤として、例えばタルク、マイカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機フィラーや、セルロース、レシチン、リグニン、デンドリマー等の有機フィラーを例示することができる。
【0030】
キャップトレッド用ゴム組成物は、ロジン系樹脂および/または石油系樹脂を含有してもよい。ロジン系樹脂および/または石油系樹脂を配合することにより、耐カットチッピング性を向上させることができる。ロジン系樹脂および/または石油系樹脂は、ジエン系ゴム100質量部に対し好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1~8質量部、さらに好ましくは2~6質量部配合するとよい。ロジン系樹脂および/または石油系樹脂が0.1質量部未満であると、耐カットチッピング性を向上させる効果が得られない。また、10質量部を超えると、耐発熱性が低下する。
【0031】
ロジン系樹脂および石油系樹脂の質量比(ロジン系樹脂:石油系樹脂)は、好ましくは7:3~3:7であるとよい。質量比(ロジン系樹脂:石油系樹脂)を7:3~3:7にすることにより、耐カットチッピング性が維持、向上するため好ましい。質量比(ロジン系樹脂:石油系樹脂)は、より好ましくは6.5:3.5~3.5:6.5、さらに好ましくは6:4~4:6にするとよい。
【0032】
本明細書において、石油系樹脂は、C5系樹脂(例えばイソプレン、1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルブテン、ペンテンなどの留分を重合した脂肪族系石油樹脂)、C9系樹脂(例えばα-メチルスチレン、o-ビニルトルエン、m-ビニルトルエン、p-ビニルトルエンなどの留分を重合した芳香族系石油樹脂)、C5/C9系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0033】
ロジン系樹脂としては、例えばガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジンおよびフマル化ロジン等の変性ロジン、これらのロジンのグリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル、メチルエステルおよびトリエチレングリコールエステルなどのエステル誘導体、並びにロジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0034】
なお、本発明の課題の解決を阻害しない限り、ロジン系樹脂および石油系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を配合してもよい。他の熱可塑性樹脂として、例えばテルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、石炭系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂などが挙げられる。
【0035】
キャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、下記一般式(1)で表される化合物を0.1~5.0質量部配合する。
【化2】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は同一または異なって、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、または複素環基を示す。R
3およびR
4は一緒になってアルキリデン基を形成してもよく、R
2、R
3およびR
4のいずれか2つが一緒になってアルキレン基を形成してもよい。これら各基は、任意に1個以上の置換基を有していてもよい。)
【0036】
一般式(1)において、R1、R2、R3およびR4は同一または異なって、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、または複素環基を示す。R1、R2、R3およびR4が水素のとき、一般式(1)の化合物は、5-ピラゾロンである。よって、本明細書において、一般式(1)で表される化合物を、「ピラゾロン誘導体」ということがある。
【0037】
本明細書において、「アルキル基」として、例えば、直鎖状、分岐状または環状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、1-エチルプロピル等の炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、更に、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、3-メチルペンチル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、5-プロピルノニル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル等を加えた炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等の炭素数3~8の環状アルキル基等が例示される。
【0038】
「アラルキル基」として、例えば、ベンジル、フェネチル、トリチル、1-ナフチルメチル、2-(1-ナフチル)エチル、2-(2-ナフチル)エチル基等が例示される。
【0039】
「アリール基」として、例えば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、ジヒドロインデニル、9H-フルオレニル基等が例示される。
【0040】
「複素環基」として、例えば、ピリジル、ピリミジル、トリアジル、キノリル、イソキノリル、キノキサリル、シンノリル、キナゾリル、フタラジル、テトラヒドロキノリル、ピロリル、フリル、チエニル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、インドリル、イソインドリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、インダゾリル、モルホリル、ピペラジル、2-ピペラジル、ピペリジル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピロリジル、フラニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、5-メチル-3-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル基等が例示される。
【0041】
「アルキリデン基」として、例えば、メチリデン、エチリデン、プロピリデン、イソプロピリデン、ブチリデン基等が例示される。
【0042】
「アルキレン基」として、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基等を挙げることができる。これらアルキレン基は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含んでいてもよく、フェニレン基を介していてもよい。
【0043】
これらアルキル基、アラルキル基、アリール基、複素環基、アルキリデン基、およびアルキレン基の各基は、置換可能な任意の位置にそれぞれ1個以上の置換基を有していてもよい。「置換基」として、例えば、ハロゲン原子、アミノ基、アミノアルキル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルボキシル基、カルボキシアルキル基、ホルミル基、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、水酸基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、チオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基等が挙げられる。置換基は、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個有していてもよい。
【0044】
一般式(1)において、R1、R3およびR4は、同一または異なって、水素原子、炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基、アラルキル基、アリール基、または複素環基であるとよい。
【0045】
一般式(1)において、R1として水素原子が好ましい。また、R2は、水素原子、炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基、アラルキル基、アリール基、または複素環基が好ましく、水素原子、炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基、ベンジル基、フェニル基、ナフチル基、またはフリル基がより好ましく、水素原子、または炭素数1~4の直鎖状アルキル基が特に好ましい。
【0046】
一般式(1)において、R3およびR4の少なくとも一方が水素原子である化合物が好ましく、R3およびR4が共に水素原子である化合物がより好ましい。
【0047】
一般式(1)で表される化合物は、R1が水素原子、R2が水素原子、炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基、アラルキル基、アリール基、または複素環基で、R3およびR4が共に水素原子である化合物、および、R1が水素原子、R2が水素原子、炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基、アラルキル基、アリール基、または複素環基、R3とR4とが一緒になってアルキリデン基を形成している化合物がより好ましく、R1が水素原子であり、R2が水素原子または炭素数1~4の直鎖状アルキル基であり、R3およびR4が共に水素原子である化合物が特に好ましい。
【0048】
一般式(1)で表される化合物として、例えば、5-ピラゾロン、3-メチル-5-ピラゾロン、3-(ナフタレン-2-イル)-1H-ピラゾール-5(4H)-オン、3-(フラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5(4H)-オン、3-フェニル-1H-ピラゾール-5(4H)-オン、及び3-プロピル-1H-ピラゾール-5(4H)-オン等が挙げられる。
【0049】
一般式(1)で表される化合物の中には、互変異性体を生じるものがあり、その互変異性体も包含されるものとする。なお、互変異性化が可能であるとき(例えば、溶液中)、互変異性体の化学平衡に達し得る。また、一般式(1)で表される化合物は、その塩も包含されるものとする。一般式(1)で表される化合物の塩として、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;ジメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム等のアンモニウム塩等が例示される。
【0050】
キャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に、一般式(1)で表される化合物(ピラゾロン誘導体)を0.1~5.0質量部配合する。ピラゾロン誘導体を配合することにより、ゴム硬度を維持しながら300%モジュラスを低くして隣接するアンダートレッドへの応力集中を緩和し、タイヤ耐久性を向上することができる。さらに、ゴム硬度を維持しながら、引裂き強度および引張破断伸びを向上し、耐カットチッピング性を優れたものにすることができる。ピラゾロン誘導体は、好ましくは0.1~3.0質量部、より好ましくは0.3~2.0質量部、さらに好ましくは0.5~1.5質量部配合するとよい。ピラゾロン誘導体が0.1質量部未満であると、キャップトレッドの300%モジュラスを低くする作用が十分に得られず、アンダートレッドへの応力集中を緩和できない。また、耐カットチッピング性および耐発熱性を従来レベル以上に向上させることができない。また、5.0質量を超えると、300%モジュラスが過度に小さくなりタイヤ耐久性が低下し、また引裂き強度が却って低下し、耐カットチッピング性を改良することができず、耐発熱性が低下する。ピラゾロン誘導体は、単独または2種以上を混合して配合してもよい。2種以上のピラゾロン誘導体を配合するとき、それらの合計が上述した範囲内であるとよい。
【0051】
キャップトレッド用ゴム組成物は、酸化亜鉛をジエン系ゴム100質量部に対し好ましくは0.5~5.0質量部、より好ましくは1.0~4.5質量部、さらに好ましくは2.0~4.0質量部配合するとよい。このような範囲で酸化亜鉛を配合することにより、所望の物性が得られやすくなり好ましい。
【0052】
アンダートレッドは、アンダートレッド用ゴム組成物により構成される。アンダートレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部にカーボンブラックを含む充填剤を好ましくは30~60質量部、より好ましくは40~55質量部配合する。ジエン系ゴムとして、例えばイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等が挙げられ、なかでもイソプレン系ゴムが好ましく、とりわけ天然ゴムが好ましい。充填剤として、カーボンブラック、シリカ等が例示され、なかでもカーボンブラックが好ましい。
【0053】
アンダートレッド用ゴム組成物において、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックおよび/またはシリカの配合量の合計をWu質量部とし、キャップトレッド用ゴム組成物における、ジエン系ゴム100質量部に対するカーボンブラックおよびシリカの配合量の合計をWc質量部とするとき、配合量Wuに対する配合量Wcの比Wc/Wuは、好ましくは1.0以上1.8未満、より好ましくは1.1~1.75、さらに好ましくは1.15~1.7、特に好ましくは1.2~1.6であるとよい。比Wc/Wuをこのような範囲内にすることにより、キャップトレッドおよびアンダートレッドの物性バランスを適切にすることができ好ましい。
【0054】
キャップトレッド用ゴム組成物およびアンダートレッド用ゴム組成物には、上記成分以外に、常法に従って、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、加工助剤、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を配合することができる。このような配合剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋するのに使用することができる。これらの配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。キャップトレッド用ゴム組成物およびアンダートレッド用ゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって調製することができる。
【0055】
キャップトレッドは、そのゴム硬度が好ましくは63以上、より好ましくは63~80、さらに好ましくは65~75であるとよい。キャップトレッドのゴム硬度を63以上にすることにより、耐カットチッピング性を向上することができ好ましい。本明細書において、ゴム硬度は、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度23℃で測定するゴムの硬さをいう。
【0056】
キャップトレッドの60℃の損失正接(tanδ)は、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.18以下、さらに好ましくは0.16以下であるとよい。キャップトレッドの60℃のtanδを0.20以下にすることにより、発熱を小さくすることができ好ましい。本明細書において、60℃のtanδは、JIS K6394:2007に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件で測定することができる。
【0057】
本発明の重荷重用タイヤは、キャップトレッドの300%モジュラスMcとアンダートレッドの300%モジュラスMuの比Mc/Muが0.6以上1.0未満、好ましくは0.65~0.95、より好ましくは0.7~0.9である。300%モジュラスの比Mc/Muが1.0未満であると、キャップトレッドの300%モジュラスMcがアンダートレッドの300%モジュラスMuよりも小さいことを表し、走行時に生じる歪みをトレッド部全体に分散することによりトレッド部全体に分散することでアンダートレッドへの応力集中を緩和してタイヤ耐久性を向上することができる。300%モジュラスの比Mc/Muが0.6未満であると、却ってタイヤ耐久性が低下する。本明細書において、300%モジュラスは、JIS K6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に規定されている測定方法に準拠し、引張速度500mm/分で、23℃における引張試験を行い、300%変形時の引張応力をいうものとする。
【0058】
重荷重用タイヤは、キャップトレッドのゴム硬度Hcとアンダートレッドのゴム硬度Huの比Hc/Huが、好ましくは1.0~1.5、より好ましくは1.1~1.4である。ゴム硬度の比Hc/Huがこのような範囲内であることは、キャップトレッドのゴム硬度Hcおよびアンダートレッドのゴム硬度Huが、従来の重荷重用タイヤと同様の関係であることを意味し、キャップトレッドが耐カットチッピング性および耐摩耗性を確保し、アンダートレッドが低発熱性を確保することを意味する。すなわち、キャップトレッド用ゴム組成物に、ピラゾロン誘導体を配合して300%モジュラスを小さくしても、ゴム硬度への影響は極めて小さく、キャップトレッドとアンダートレッドのゴム硬度のバランスを維持することができる。
【0059】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0060】
表3に示す共通の添加剤処方を有し、表1~2に示す配合からなるキャップトレッド用ゴム組成物(実施例1~12、比較例1~7)およびアンダートレッド用ゴム組成物を調製するに当たり、それぞれ硫黄および加硫促進剤を除く成分を秤量し、270リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、そのマスターバッチをミキサー外に放出し室温冷却した。このマスターバッチを同バンバリーミキサーに供し、硫黄および加硫促進剤を加えて混合し、キャップトレッド用ゴム組成物を得た。なお、表3の添加剤処方の配合量は、表1~2に記載したジエン系ゴム100質量部に対する質量部で記載している。
【0061】
上記で得られたキャップトレッド用ゴム組成物およびアンダートレッド用ゴム組成物を、それぞれ所定形状の金型中で、150℃、30分間加硫して評価用試料を作製した。得られた評価用試料を使用し、キャップトレッド用ゴム組成物およびアンダートレッド用ゴム組成物の300%モジュラス、並びにキャップトレッド用ゴム組成物のゴム硬度、60℃のtanδを以下の方法で測定した。
【0062】
300%モジュラス
上記で得られた厚さ2mmの評価用試料を使用し、JIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に規定されている測定方法に準拠し、引張速度500mm/分で、23℃における引張試験を行い、300%変形時の引張応力(MPa)および引張破断伸び(%)を測定した。得られた300%変形時の引張応力の結果を、表1,2の「300%モジュラスMc」および「300%モジュラスMu」の欄並びに「引張破断伸び」の欄に記載した。
【0063】
ゴム硬度
上記で得られた評価用試料を使用し、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより、23℃のゴム硬度を測定した。得られた結果を、表1,2の「ゴム硬度」の欄に記載した。
【0064】
60℃のtanδ
上記で得られた評価用試料を使用し、JIS K6394:2007に準拠して、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件で、60℃のtanδを測定した。得られた結果を、表1,2の「tanδ@60℃」の欄に記載した。
【0065】
キャップトレッドおよびアンダートレッドを、表1,2に記載のキャップトレッド用ゴム組成物およびアンダートレッド用ゴム組成物で形成し、6層のスチールベルトを有する試験車両(建設車両)用の重荷重用タイヤ(タイヤサイズ:2700R49)を製造した。得られた重荷重用タイヤを使用し、耐カットチッピング性、耐発熱性、およびタイヤ耐久性を以下の方法で測定した。
【0066】
耐カットチッピング性
上記で得られた重荷重用タイヤを鉱山用大型ダンプ(90MT、2軸車、前軸2本、後軸4本、全輪駆動)の前後両軸(計6本)に装着して、鉱山を3万km走行させ、走行後のタイヤのトレッド面を観察し、耐カットチッピングを評価した。その結果を5点法(評点の数値が小さいほど耐カットチッピングが優れている)によりそれぞれ表1,2の「耐カットチッピング性」の欄に記載した。評点が1点もしくは2点であれば、耐カットチッピング性に優れ、従来レベル以上に向上していることを意味する。
【0067】
耐発熱性
上記で得られた重荷重用タイヤをTRA規格の規定リムに組み付けて、TRA規格の基準空気圧を充填し、試験車両(建設車両)の総輪に装着し、TRA規格の荷重を負荷し、走行速度10km/hにて60分間走行した前後のトレッド部のタイヤ内面温度を測定し、タイヤ内面温度の上昇量を算出した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、実施例1の値を100とする指数として、表1,2の「耐発熱性」の欄に示した。この指数値が大きいほど、温度上昇量が小さく、タイヤ全体として低発熱性であることを意味する。指数が90以上であれば実用的に優れているものと判断される。
【0068】
タイヤ耐久性
上記で得られた重荷重用タイヤをTRA規格の規定リムに組み付けて、TRA規格の基準空気圧を充填し、ドラム径φ5000mmのドラム試験機に装着し、TRA基準荷重の120%を負荷した状態で、走行速度10km/hの条件で200時間ドラム走行し、解体後のタイヤ断面を目視で評価した。評価基準は下記基準による5段階の評点で評価し、表1,2の「タイヤ耐久性」の欄に示した。評点が1もしくは2の場合、アンダートレッドへの応力集中を防ぎタイヤの耐久性を向上できていると判断する。
1:部材内、部材界面に破壊はなく良好
2:ベルト端部に亀裂が発生しており、通常のヒートセパレーションの前兆が見られる
3:ベルト‐アンダートレッド界面に亀裂が発生しており、アンダートレッドへの応力集中の傾向がある状態
4:アンダートレッド内部まで亀裂が進展しており、アンダートレッドへの応力集中が大きい状態
5:トレッドセパやバーストにより規定時間の完走ができずに試験終了
【0069】
【0070】
【0071】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、SIR
・BR:ブタジエンゴム、ZSエラストマー社製 Nipol BR1220
・カーボンブラック-1:SAF級カーボンブラック、日鉄カーボン社製ニテロン#430、N2SAが125m2/g
・カーボンブラック-2:ISAF級カーボンブラック、Birla Carbon社製Carbon Black N220、N2SAが110m2/g
・カーボンブラック-3:HAF級カーボンブラック、キャボットジャパン社製ショウブラック N330T、N2SAが70m2/g
・シリカ:Evonik社製ULTRASIL VN3GR、CTAB吸着比表面積が158m2/g
・化合物-1:3-メチル-5-ピラゾロン、一般式(1)で表される化合物(R1、R3およびR4が水素原子、R2がメチル基)、大塚化学社製 EN‐01
・化合物-2:ヒドラジド化合物、N′‐(1,3‐ジメチルブチリデン)‐3‐ヒドロキシ‐2‐ナフトヒドラジド、一般式(1)で表されない化合物、大塚化学社製 DC‐01
・ロジン系樹脂:ガムロジン、荒川化学工業社製中国ガムロジン
・石油系樹脂:C9系石油樹脂、東ソー社製ペトコールLX
・混合樹脂:マレイン酸変性ロジン樹脂およびC9系石油樹脂を質量比約1:1で溶融混練して調製した混合樹脂、荒川化学工業社製マルキード382
・シランカップリング剤:Evonik Degussa社製 Si69、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
【0072】
【0073】
表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・オイル:シェルルブリカンツジャパン社製エキストラクト4号S
・酸化亜鉛:正同化学社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤:EASTMAN社製6PPD
・ワックス:NIPPON SEIRO社製OZOACE-0355
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
・硫黄:四国化成工業社製ミュークロンOT-20
・加硫促進剤:大内振興化学工業社製ノクセラーCZ-G
【0074】
表1から明らかなように、実施例1~12の重荷重用タイヤは、耐カットチッピング性、耐発熱性および耐久性を高いレベルで兼備することが確認された。
【0075】
表2から明らかなように、比較例1の重荷重用タイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物にピラゾロン誘導体を配合せず、300%モジュラス比Mc/Muが1.0以上なので、タイヤ耐久性が劣る。
比較例2の重荷重用タイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物に、ピラゾロン誘導体を配合せずに、ヒドラジド化合物を配合し、300%モジュラス比Mc/Muが1.0以上なので、タイヤ耐久性が劣る。
比較例3の重荷重用タイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物がカーボンブラックとシリカの合計中、カーボンブラックの割合が50質量%未満なので、ゴム硬度が低く、また耐カットチッピング性が劣る。
比較例4の重荷重用タイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物のイソプレン系ゴムが60質量%未満なので、ピラゾロン誘導体の配合効果が十分に得られず、耐カットチッピング性および耐発熱性が劣る。
比較例5重荷重用タイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物のカーボンブラックが80質量部を超え、引張破断伸びが低く、60℃のtanδが高く、300%モジュラス比Mc/Muが1.0以上なので、耐カットチッピング性、耐発熱性およびタイヤ耐久性が劣る。
比較例6重荷重用タイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物のカーボンブラックが40質量部未満なので、ゴム硬度が低く、耐カットチッピング性が劣る。
比較例7重荷重用タイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物のピラゾロン誘導体が5.0質量部を超え、300%モジュラス比Mc/Muが0.6未満なので、耐カットチッピング性およびタイヤ耐久性が劣る。
【0076】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] キャップトレッドおよびアンダートレッドからなるトレッド部と、その径方向内側にスチールベルトを有する重荷重用タイヤであって、前記キャップトレッドが、イソプレン系ゴムを60質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に、下記一般式(1)で表される化合物を0.1~5.0質量部、窒素吸着比表面積が60~200m
2/gであるカーボンブラックと任意にシリカを、合計で40~80質量部配合してなり、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、前記カーボンブラックが50質量%以上であるキャップトレッド用ゴム組成物からなり、前記キャップトレッドの300%モジュラスMcと前記アンダートレッドの300%モジュラスMuの比Mc/Muが0.6以上1.0未満であることを特徴とする重荷重用タイヤ。
【化3】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。R
3およびR
4は一緒になってアルキリデン基を形成してもよく、R
2、R
3およびR
4のいずれか2つが一緒になってアルキレン基を形成してもよい。これら各基は、任意に1個以上の置換基を有していてもよい。)
発明[2] 前記キャップトレッド用ゴム組成物が、前記ジエン系ゴム中、前記イソプレン系ゴムを80質量%以上含み、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、窒素吸着比表面積が70~150m
2/gであるカーボンブラックを60質量%以上含むことを特徴とする発明[1]に記載の重荷重用タイヤ。
発明[3] 前記キャップトレッド用ゴム組成物が、前記ジエン系ゴムがすべて前記イソプレン系ゴムであり、前記カーボンブラックおよびシリカの合計中、窒素吸着比表面積が70~150m
2/gであるカーボンブラックを70質量%以上含むことを特徴とする発明[1]または[2]に記載の重荷重用タイヤ。
発明[4] 前記キャップトレッド用ゴム組成物が、前記ジエン系ゴム100質量部に、ロジン系樹脂および/または石油系樹脂を0.1~10質量部配合してなり、前記石油樹脂がC5系樹脂、C9系樹脂およびC5/C9系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする発明[1]~[3]のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
発明[5] 前記キャップトレッド用ゴム組成物が、前記ロジン系樹脂および石油系樹脂を、質量比7:3~3:7で含むことを特徴とする発明[4]に記載の重荷重用タイヤ。
発明[6] 前記キャップトレッド用ゴム組成物において、前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計をWc質量部とし、前記アンダートレッドを構成するアンダートレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部にカーボンブラックおよび/またはシリカを合計でWu質量部配合してなるとき、前記WcおよびWuの比Wc/Wuが1.0以上1.8未満であることを特徴とする発明[1]~[5]のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
発明[7] 前記キャップトレッドのゴム硬度が63以上、60℃の損失正接(tanδ)が0.20以下であることを特徴とする発明[1]~[6]のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。