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特開2024-11249X線分析装置、およびX線分析装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011249
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】X線分析装置、およびX線分析装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2252 20180101AFI20240118BHJP
   G01N 23/2209 20180101ALI20240118BHJP
【FI】
G01N23/2252
G01N23/2209
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113107
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 卓男
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001CA01
2G001EA01
2G001JA09
2G001JA13
(57)【要約】
【課題】試料の分析精度を向上させつつ、試料の損傷を低減させる。
【解決手段】一態様に係るEPMA100は、分光器6と、制御装置10とを備える。分光器6は、電子線が照射された試料Sから発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の分光器6である。制御装置10は、分光器6を移動させる。制御装置10は、分光器6を移動させながら該分光器6が検出した特性X線に基づいて試料のスペクトルを生成し、分光器6の移動中に該分光器6の移動速度を変更する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームが照射された試料から発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の検出機構と、
前記検出機構を移動させる制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記検出機構を移動させながら該検出機構が検出した特性X線に基づいて前記試料のスペクトルを生成し、
前記検出機構の移動中に該検出機構の移動速度を変更する、X線分析装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記スペクトルのピーク部分に対応する第1期間では第1速度で前記検出機構を移動し、
前記第1期間とは異なる第2期間では前記第1速度よりも速い第2速度で前記検出機構を移動する、請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1期間が試料種別ごとに対応付けられている対応情報を記憶するメモリを有し、
前記制御装置は、
試料種別のユーザ入力を受付け、
前記対応情報に基づいて、前記ユーザ入力された試料種別に対応付けられた前記第1期間を特定する、請求項2に記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記試料の仮スペクトルを生成し、
前記仮スペクトルに基づいて前記第1期間を特定する、請求項2に記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記試料の仮スペクトルを生成し、
前記仮スペクトルを表示装置に表示し、
前記仮スペクトルのピーク部分に対応するピーク期間のユーザ入力を受付け、
前記ピーク期間に基づいて前記第1期間を特定する、請求項2に記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記試料の目的箇所に前記電子ビームを照射しかつ前記第2速度で前記検出機構を移動させて前記仮スペクトルを生成する、請求項4または請求項5に記載のX線分析装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記試料の目的箇所とは異なる箇所に前記電子ビームを照射しかつ前記第1速度で前記検出機構を移動させて前記仮スペクトルを生成する、請求項4または請求項5に記載のX線分析装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記仮スペクトルを補正し、
前記補正された前記仮スペクトルに基づいて前記第1期間を特定する、請求項6に記載のX線分析装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記検出機構が検出した特性X線の強度を所定期間毎に取得することにより前記スペクトルを生成し、
前記検出機構の移動中に、該移動における過去の特性X線の強度に基づいて、前記第1期間を特定する、請求項2に記載のX線分析装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記第1期間で検出された前記特性X線の強度を、前記第1速度と前記第2速度の比に基づいて低下させて、前記スペクトルを生成する、請求項2~請求項5のいずれか1項に記載のX線分析装置。
【請求項11】
前記制御装置は、
前記第1速度および前記第2速度とは異なる第3速度で前記検出機構を移動し、
前記第1速度および前記第2速度で前記検出機構を移動させる第1モードと、前記第1速度、前記第2速度、および第3速度で前記検出機構を移動させる第2モードとのいずれかをユーザ入力に基づいて設定する、請求項2~請求項5のいずれか1項に記載のX線分析装置。
【請求項12】
前記検出機構は、前記電子ビームが照射された試料から発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の分光器を有し、
前記X線分析装置は、電子プローブマイクロアナライザである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のX線分析装置。
【請求項13】
X線分析装置の制御方法において、
前記X線分析装置は、電子ビームが照射された試料から発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の検出機構とを備え、
前記制御方法は、前記検出機構を移動させながら該検出機構が検出した特性X線に基づいて前記試料のスペクトルを生成することを備え、
前記スペクトルを生成することは、前記検出機構の移動中に該検出機構の移動速度を変更することを含む、X線分析装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線分析装置、およびX線分析装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特開2021-179329号公報(特許文献1)には、試料を分析するX線分析装置の一例として、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)が開示されている。X線分析装置は、試料に対して電子線を照射して、分光器を移動させながら該試料から発生する特性X線を検出する。また、X線分析装置は、該検出した特性X線に基づいて、スペクトルを生成する。そして、X線分析装置は、生成したスペクトルに基づいて、試料を分析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-179329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
X線分析装置においては、試料の分析精度を向上させることが望まれている。試料の分析精度を向上させるためにはスペクトルのS/N比を向上させることが好ましい。スペクトルのS/N比を向上させるためには、たとえば、分光器の移動速度を低速にすることが好ましい。しかしながら、分光器の移動速度を低速にすると、電子線の試料への照射時間を長くなってしまい、試料の損傷を招く場合がある。
【0005】
この発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、試料の分析精度を向上させつつ、試料の損傷を低減させるX線分析装置、およびX線分析装置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様に係るX線分析装置は、検出機構と、制御装置とを備える。検出機構は、電子ビームが照射された試料から発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の検出機構である。制御装置は、検出機構を移動させる。制御装置は、検出機構を移動させながら該検出機構が検出した特性X線に基づいて試料のスペクトルを生成し、検出機構の移動中に該検出機構の移動速度を変更する。
【0007】
一態様に係るX線分析装置の制御方法において、X線分析装置は、電子ビームが照射された試料から発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の検出機構を備える。制御方法は、検出機構を移動させながら該検出機構が検出した特性X線に基づいて試料のスペクトルを生成することを備える。スペクトルを生成することは、検出機構の移動中に該検出機構の移動速度を変更することを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示のX線分析装置、およびX線分析装置の制御方法によれば試料の分析精度を向上させつつ、試料の損傷を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態のEPMAの全体構成図である。
図2】状態分析を説明するためのスペクトルを説明するための図である。
図3】本開示の思想を説明するための図である。
図4】他のスペクトルの一例を説明するための図である。
図5】制御装置の機能ブロック図である。
図6】第1モード画面の一例を説明するための図である。
図7】第2モード画面の一例を説明するための図である。
図8】第1速度DBの一例を説明するための図である。
図9】入力画面を説明するための図である。
図10】仮スペクトルを説明するための図である。
図11】第2速度DBを説明するための図である。
図12】プロットと、スペクトルとを説明するための図である。
図13】試料種別入力モードが設定されている場合の制御装置の処理のフローチャートである。
図14】本分析のフローチャートである。
図15】第1事前分析モードが設定されている場合の制御装置の処理のフローチャートである。
図16】第2事前分析モードが設定されている場合の制御装置の処理のフローチャートである。
図17】第3事前分析モードが設定されている場合の制御装置の処理のフローチャートである。
図18】事前分析無しモードが設定されている場合の制御装置の処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0011】
[構成例]
図1は、本実施の形態に従うX線分析装置の一例であるEPMAの全体構成図である。なお、本開示によるX線分析装置は、試料に電子線を照射するEPMAに限定されるものではなく、試料にX線を照射してWDSにより特性X線を分光する蛍光X線分析装置であってもよい。
【0012】
図1を参照して、EPMA100は、電子銃1と、偏向コイル2と、対物レンズ3と、試料ステージ4と、試料ステージ駆動部5と、複数の分光器6a,6bと、複数の駆動機構65a,65bと、を備える。また、EPMA100は、制御装置10と、偏向コイル制御装置12と、入力装置13と、表示装置14とをさらに備える。電子銃1、偏向コイル2、対物レンズ3、試料ステージ4、及び分光器6a,6bは、図示しない計測室内に設けられ、試料の分析中は、計測室内は排気されて真空状態とされる。
【0013】
電子銃1は、試料ステージ4上の試料Sに照射される電子ビームを発生する励起源である。電子銃1は、本開示の「出力源」に対応する。また、本実施の形態においては、電子ビームは、電子線である構成を説明する。しかし、電子ビームは他のビームでもよく、たとえば、X線としてもよい。また、制御装置10は、収束レンズ(図示せず)を制御することによって電子線Eのビーム電流を調整することができる。偏向コイル2は、偏向コイル制御装置12から供給される駆動電流により磁場を形成する。偏向コイル2により形成される磁場によって、電子線Eを偏向させることができる。
【0014】
対物レンズ3は、偏向コイル2と試料ステージ4上に載置される試料Sとの間に設けられ、偏向コイル2を通過した電子線Eを微小径に絞る。電子銃1、偏向コイル2、及び対物レンズ3は、試料へ向けて電子線を照射する照射装置を構成する。試料ステージ4は、試料Sを載置するためのステージであり、試料ステージ駆動部5により水平面内で移動可能に構成される。
【0015】
EPMA100は、試料ステージ駆動部5による試料ステージ4の駆動、および偏向コイル制御装置12による偏向コイル2の駆動の少なくとも一方により、試料S上における電子線Eの照射位置を2次元的に走査することができる。走査範囲が比較的狭いときは、偏向コイル2による走査が行なわれ、走査範囲が比較的広いときは、試料ステージ4の移動による走査が行なわれる。
【0016】
分光器6a,6bは、電子線Eが照射された試料Sから放出される特性X線を検出するための機器である。この例では、2つの分光器6a,6bが示されているが、分光器の数は、これに限定されるものではなく、1つでもよいし、3つ以上であってもよい。各分光器の構成は、分光結晶を除いて同じである。
【0017】
分光器6aは、分光結晶61aと、検出器63aと、スリット64aとを含む。また、分光器6aは筐体に収容される。試料S上の電子線Eの照射位置と分光結晶61aと検出器63aとは、図示しないローランド円上に位置している。駆動機構65aによって、分光結晶61aは、直線62a上を移動しつつ傾斜され、検出器63aは、分光結晶61aに対する特性X線の入射角θと出射角とがブラッグの回折条件を満たすように、分光結晶61aの移動に応じて図示のように回動する。これにより、試料Sから放出される特性X線の波長スキャンを行なうことができる。このように、分光結晶61aと、検出器63aとは一体的に移動する。
【0018】
分光器6bは、分光結晶61bと、検出器63bと、スリット64bとを含む。駆動機構65bによって、分光結晶61bは、直線62b上を移動しつつ傾斜され、検出器63bは、分光結晶61bに対する特性X線の入射角θと出射角とがブラッグの回折条件を満たすように、分光結晶61bの移動に応じて図示のように回動する。分光器6bの構成は、分光結晶を除いて分光器6aと同様であるので、説明を繰り返さない。なお、各分光器の構成は、上記のような構成に限られるものではなく、公知の各種の構成を採用することができる。
【0019】
分光器6a,6bは、まとめて「分光器6」と称される場合がある。分光器6は、本開示の「検出機構」に対応する。分光器6は、試料から発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の検出器(WDS:Wavelength Dispersive Spectrometer)である。また、以下では、分光結晶61a,61bはまとめて「分光結晶61」と称され、検出器63a,63bはまとめて「検出器63」と称され、駆動機構65a,65bはまとめて「駆動機構65」と称される場合がある。
【0020】
制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)20と、メモリ22と、各種信号を入出力するための入出力インタフェース(図示せず)とを含んで構成される。メモリ22は、たとえば、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む。CPU20は、ROMに格納されているプログラムをRAM等に展開して実行する。ROMに格納されるプログラムは、制御装置10の処理手順が記されたプログラムである。ROMには、各種演算に用いられる各種テーブル(マップ)も格納されている。制御装置10は、これらのプログラム及びテーブルに従って、EPMA100における各種処理を実行する。処理については、ソフトウェアによるものに限られず、専用のハードウェア(電子回路)で実行することも可能である。制御装置10は、駆動機構65、試料ステージ駆動部5、表示装置14の表示画像などを行う。制御装置10は、制御回路とも称される。
【0021】
制御装置10には、検出器63からの検出信号が入力される。該検出信号は、該検出器63に入力された特性X線の強度を示す信号である。制御装置10は、入力された検出信号に基づいて分析対象のX線スペクトル(以下、単に「スペクトル」とも称される。)を作成する。つまり、制御装置10は、分光器6を移動させながら該分光器6が検出した特性X線に基づいて試料のスペクトルを生成する。
【0022】
制御装置10は、作成したスペクトルに基づいて、試料Sを分析する。たとえば、制御装置10は、標準試料を分析することにより、標準スペクトルを作成する。標準試料は、試料成分が既知である試料である。さらに、制御装置10は、分析対象となる未知試料を分析することにより、未知スペクトルを作成する。そして、制御装置10は、既知スペクトルおよび未知スペクトル基づいて、未知試料を分析する。
【0023】
偏向コイル制御装置12は、制御装置10からの指示に従って、偏向コイル2へ供給される駆動電流を制御する。予め定められた駆動電流パターン(大きさ及び変更速度)に従って駆動電流を制御することにより、試料S上において電子線Eの照射位置を所望の走査速度で走査することができる。
【0024】
入力装置13は、EPMA100に対して分析者が各種指示を与えるための入力機器であり、たとえばマウスやキーボード等によって構成される。表示装置14は、分析者に対して各種情報を提供するための出力機器であり、たとえば、分析者が操作可能なタッチパネルを備えるディスプレイによって構成される。なお、このタッチパネルを入力装置13としてもよい。
【0025】
また、上述のように、特性X線の入射角θと出射角とがブラッグの回折条件を満たす。つまり、以下の式(1)が成立する。
【0026】
λ=(2d/n)・sinθ (1)
ここで、λは、特性X線の波長を示し、dは、分光結晶61の格子面の間隔を示し、nは正の整数を示す。つまり、式(1)の右辺の「n/2d」は定数となる。よって、検出器63に入力されるX線の波長λは、θに応じた値となる。図1の例では、0<Sinθ<1となる。したがって、θの値が大きいほど、検出器63に入力されるX線の波長λは大きくなる。つまり、分光結晶61および検出器63の位置(分光器6の位置)と、θの値と、検出器63に入力されるX線の波長λとは対応している。換言すれば、生成されるスペクトルの波長帯域と、分光結晶61および検出器63の移動期間とは対応する。なお、図1の例では、入射角θとして、θAおよびθBが示されている。また、θB>θAとなっている。
【0027】
また、制御装置10は、駆動機構65を制御することにより、分光器6を移動させる。分光器6の移動とは、分光結晶61と、検出器63との上述の一体的な移動である。
【0028】
駆動機構65は、たとえば、ステッピングモータなどにより構成される。制御装置10は、駆動機構65に対してパルス信号を出力することにより、分光器6を移動させる。また、制御装置10は、パルス信号の出力間隔を制御することにより、分光器6の移動速度を制御できる。このように、制御装置10は、分光器6の移動途中に(試料Sの分析途中に)該分光器6の移動速度を変更することができる。以下では、移動速度を変更する制御は、「速度変更制御」とも称される。
【0029】
上述のように、分光結晶61および検出器63の位置(分光器6の位置)と、検出器63に入力されるX線の波長λとは対応している。また、制御装置10は、ユーザからの入力または制御装置10自身により、生成するスペクトルにおける重要な波長帯域を認識できる。そこで、本実施の形態の制御装置10は、該重要な波長帯域に含まれる波長のX線が検出器63に入力される期間においては、分光器6(分光結晶61および検出器63)の移動速度を変更することができる。
【0030】
次に、EPMA100が実行可能な分析の種類を説明する。ある特定の元素のスペクトルのピークは、この元素の化学結合状態の違いで、スペクトルピークの波長位置、スペクトルの形状、およびスペクトルピークの強度比などが変わる現象が生じ得る。この現象を利用して、EPMA100は、未知試料に含まれる対象元素が、どのような化学結合状態であるかを分析できる。化学結合状態は、たとえば、金属単体、酸化物、炭化物、窒化物、および硫化物などを含む。このように、EPMA100は、未知試料の化学結合状態を分析できる。該分析は、「状態分析」とも称される。また、EPMA100は、状態分析の他に、定性分析および定量分析を実行することができる。定性分析とは、未知試料に含まれる元素を特定する分析である。定量分析とは、未知試料に含まれる成分の濃度または含有量を特定する分析である。ユーザは、状態分析が実行される状態分析モード、定性分析が実行される定性分析モード、および定量分析が実行される定量分析モードのいずれかを選択できる。
【0031】
図2は、状態分析を説明するためのスペクトルである。図2の例では、Siの標準試料(STD)のSiKβ1およびSiKβ1‘のスペクトルが示されている。本開示において、図2といったスペクトルを示す図は、横軸が波長を示し、縦軸が強度を示す。
【0032】
図2の例では、実線が、Si単体の標準試料(以下、「STD-Si」とも称される。)のスペクトルを示し、破線がSiOの標準試料(以下、「STD-SiO」とも称される。)のスペクトルを示す。STD-SiとSTD-SiOのスペクトルピーク形状を比較すると、SiKβ1のピーク位置が長波長側にシフトしている。さらにSTD-SiOのスペクトルにはSiKβ1‘のピークが含まれるが、STD-SiのスペクトルにはSiKβ1‘のピークは含まれない。EPMA100は、Siが検出される未知試料が図2の標準試料のどちらの状態に近いかを調べることで該未知試料の化学結合状態の違いを推定することができる。
【0033】
[本開示の思想]
次に、本開示のEPMA100の思想を説明する。従来から、EPMAによる試料の分析精度を向上させることが望まれている。また、上述の状態分析モードまたは定性分析モードなどが設定されている場合には、EPMA100は、未知試料について波長帯域が広いスペクトルを生成する。したがって、分光結晶61および検出器63を長距離移動させることから、分析時間が長くなる場合が多い。一般的に、化学結合状態の違いをEPMA100が特定するためのスペクトルピークはスペクトル強度が小さいX線種が多い。したがって、試料の分析精度を向上させるためには、EPMA100は、スペクトルのS/N比を向上させることが好ましい。スペクトルのS/N比を向上させるためには、たとえば、分光器の移動速度を低速にして試料の分析時間を長くすることが好ましい。しかしながら、分光器の移動速度を低速にすると、電子線の試料への照射時間を長くなってしまい、試料の損傷を招く場合がある。これに対し、本開示のEPMA100は、試料の分析精度を向上させつつ、試料の損傷を低減させる。
【0034】
図3は、本開示の思想を説明するための図である。図3の例では、長波長側から短波長側に対してスペクトルが作成される。図3の例では、最長波長がλ6となり、最短波長がλ1となる。また、その他の波長λ2,λ3,λ4,λ5が示されている。ただし、λ1<λ2<λ3<λ4<λ5<λ6となる。
【0035】
本開示のEPMA100は、試料分析において重要ではない波長帯域では、分光器6の移動速度を高速度とする。また、試料分析において重要である波長帯域では、分光器6の移動速度を低速度とする。本実施の形態においては、低速度は、「第1速度」とも称される。また、低速度よりも速い中速度は、「第2速度」とも称され、中速度よりも速い高速度は、「第3速度」とも称される。
【0036】
一般的に、分光器6の移動速度を高速とすると、該高速である期間での試料Sの分析時間は短くできるが、該高速である期間で検出されたX線に基づくスペクトルのS/N比(精度)は低下する。スペクトルのS/N比が低下する理由は、たとえば、X線の強度のカウント期間が短くなることなどに基づく。一方、分光器6の移動速度を低速とすると、該高速である期間での試料Sの分析時間は長くなるが、該低速である期間において検出されたX線に基づくスペクトルのS/N比(精度)は向上する。
【0037】
上述のように、EPMA100の制御装置10は、分光器6の移動途中(試料Sの分析途中)に該分光器6の移動速度を変更できる。そこで、制御装置10は、スペクトルの重要個所の波長帯域に対応する期間では、分光器6の移動速度を遅め、重要でないスペクトルの個所の波長帯域に対応する期間では、分光器6の移動速度を速める。分光器6の移動速度を速めると、試料の分析時間を短縮できる。したがって、試料に対するX線の照射による試料の損傷を低減できつつ、スペクトルの重要な波長帯域の精度を担保することができる。なお、スペクトルの重要ではない箇所に対応する期間でのスペクトルの精度が低下する場合があるが、試料の分析精度には殆ど影響しない。
【0038】
図3の例では、試料分析において重要である第1波長帯域は、ピークPとなる波長帯域である。また、試料分析において2番目に重要である第2波長帯域は、ピークPの裾部分波長帯域である。また、試料分析において重要ではない第3波長帯域は、ピークPとは異なる平坦部分となる波長帯域である。また、第1波長帯域のスペクトルを取得するX線を検出する期間は、図3に示す「第1期間」とも称される。つまり、第1期間は、第1速度(低速度)で分光器6が移動する期間である。
【0039】
また、第2波長帯域のスペクトルを取得するX線を検出する期間は、図3に示す「第2期間」とも称される。つまり、第2期間は、第2速度(中速度)で分光器6が移動する期間である。また、第3波長帯域のスペクトルを取得するX線を検出する期間は、図3に示す「第3期間」とも称される。つまり、第3期間は、第3速度(高速度)で分光器6が移動する期間である。
【0040】
このような構成によれば、EPMA100は、試料Sの分析において重要であるスペクトルのピークPでの精度を高める場合には、該ピークP以外の期間では第1速度よりも速く分光器6を移動できる。よって、EPMA100は、該スペクトルのピーク部分での精度を高めつつ、試料Sの損傷を低減できる。
【0041】
図3の例では、第1波長帯域は、λ2~λ5の範囲である。また、図3の例では、第1波長帯域のうち、ピークPの本体部の第1波長帯域は、λ3~λ4の範囲である。この波長帯域のスペクトルは最重要であることから、該波長帯域に対応する期間での分光器6の移動速度は、低速度(第1速度)となる。また、ピークPの本体部とは異なる部分(ピークPの裾部分)の第2波長帯域は、λ2~λ3の範囲とλ4~λ5の範囲とである。この波長帯域に対応する期間での分光器6の移動速度は、中速度(第2速度)となる。
【0042】
また、図3の例では、第3波長帯域は、λ1~λ2の範囲と、λ5~λ6の範囲とである。この波長帯域のスペクトルは重要ではないことから、該波長帯域に対応する期間での分光器6の移動速度は、高速度(第3速度)となる。
【0043】
図4は、他のスペクトルの一例である。図4のスペクトルは、第1ピークP1と、第2ピークP2とを含む。また、図4の例では、第1ピークP1と、第2ピークP2とに対応する期間が、第1期間とされる。
【0044】
[制御装置の機能ブロック図]
図5は、制御装置10の機能ブロック図である。図5の例では、制御装置10は、取得部102と、処理部104と、制御部106と、記憶部108とを有する。また、図1で説明したように、制御装置10は、検出器63と、入力装置13と、表示装置14と、駆動機構65とに接続されている。
【0045】
取得部102は、検出器63からの検出信号と、入力装置13からの入力情報とを取得する。取得部102が取得した情報は、処理部104に出力される。処理部104は、該情報に応じた処理を実行する。処理部104は、必要に応じて、記憶部108に記憶されている情報を用いる。処理部104による処理結果は、制御部106に出力される。制御部106は、処理結果に応じた処理を実行する。本実施の形態においては、制御部106は、駆動機構65と、表示装置14とを制御する。たとえば、処理部104が、上述の第1期間~第3期間を特定した場合には、第1期間~第3期間に応じた移動速度となるように、駆動機構65を制御する。
【0046】
[モード]
次に、本実施の形態のモードを説明する。ユーザは、様々なモードを選択することができる。図6は第1モード画面の一例である。この第1モード画面は、ユーザが入力装置13に対して所定操作を実行すると、制御部106(図5参照)が、表示装置14の表示領域14Aに表示される。
【0047】
図6の例では、試料種別モードと、事前分析モードと、事前分析無しモードとがある。さらに、事前分析モードは、第1事前分析モードと、第2事前分析モードと、第3事前分析モードとを含む。モードの詳細は後述する。
【0048】
図6の第1モード画面に表示されているモードをユーザが指定する操作が入力装置13に実行されると、制御部106は、第2モード画面を表示領域14Aに表示する。図7は、第2モード画面の一例を示す図である。第2モード選択画面においては、少段階モードと、多段階モードとがある。少段階モードは、分光器6の移動速度の段階数を少なくするモードである。図3の例では、段階数は、「3」となる。また、多段階モードが、段階数が少段階モードよりも多いモードである。本実施の形態においては、少段階モードでの段階数は「2」とし、多段階モードでの段階数は「3」とする。なお、ユーザにより設定されたモードを示すモードフラグが、所定の記憶領域(たとえば、記憶部108のRAM)に記憶される。制御装置10は、該モードフラグを参照することにより、ユーザにより設定されたモードを特定できる。
【0049】
次に、図6の各モードの詳細を説明する。まず、試料種別入力モードを説明する。ユーザが、たとえば、分析する未知試料の種別が分かっているものの、該未知試料に含まれる対象元素が、どのような化学結合状態であるかを分析したい場合がある。一般的に、未知試料の種別に応じて、スペクトルピークが現れる波長帯域は定まっている。
【0050】
そこで、EPMA100の段階において、製造者などは、試料種別と、該試料種別のスペクトルピークの波長帯域とを分析する。さらに、製造者は、該波長帯域に基づいて、分光器6の移動速度を低速度とする期間(第1期間)と、分光器6の移動速度を中速度とする期間(第2期間)と、分光器6の移動速度を高速度とする期間(第3期間)とを決定し、データベースを構築する。このデータベースは、「第1速度DB」とも称される。
【0051】
図8は、第1速度DBの一例を示す図である。第1速度DBの例では、試料種別ごとに、低速度の波長帯域、中速度の波長帯域、および高速度の波長帯域が対応付けられている。たとえば、試料S1については、低速度の波長帯域としてλ1~λ2が規定されており、中速度の波長帯域としてλ2~λ3が規定されており、高速度の波長帯域としてλ3~λ4が規定されている。上述のように、低速度の波長帯域に対応する期間が、「第1期間」に対応し、中速度の波長帯域に対応する期間が、「第2期間」に対応し、高速度の波長帯域に対応する期間が、「第3期間」に対応する。
【0052】
なお、図8の「・・・」については、記載が省略されていることを示す。つまり、第1速度DBは、第1期間が試料種別ごとに対応付けられている対応情報である。第1速度DBは、記憶部108(メモリ)に記憶されている。
【0053】
試料種別入力モードがユーザにより指定されると、制御部106は、試料種別をユーザに入力させる入力画面を表示領域14Aに表示させる。図9は、入力画面の一例である。図9の例では、「試料種別を入力してください」という文字画像と、入力領域19とが表示される。ユーザが、試料種別を示す種別情報を入力領域19に入力すると、取得部102は、該試料種別のユーザ入力を受付ける。該試料種別は、処理部104に出力される。処理部104は、第1速度DBに基づいて(第1速度DBを参照して)、ユーザ入力された試料種別に対応付けられた第1期間~第3期間を特定する。換言すれば、処理部104は、低速度、中速度、および高速度の各々となる期間を特定する。特定内容は、制御部106に出力される。
【0054】
制御部106は、特定内容に基づいて、分光器6の速度制御を反映した分光器6を移動させて、本分析を実行する。このような試料種別入力モードによれば、精度を高めたいスペクトルに対応する第1期間を試料種別入力によってユーザが選択できることから、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0055】
次に、第1事前分析モードを説明する。第1事前分析モードは、試料の目的箇所にX線を照射して仮スペクトルを生成し、該仮スペクトルで第1期間を自動判定するモードである。本実施の形態においては、EPMA100は、仮分析と本分析とを実行可能である。本分析は、本スペクトルを生成することにより、試料を分析することである。仮分析は、仮スペクトルを生成することである。仮スペクトルは、本分析における第1期間~第3期間を特定するためのスペクトルである。また、本分析と仮分析とは、分光器6の移動速度が異なるものの他の処理は同一である。つまり、本分析では試料Sの目的箇所に対してX線を照射し、仮分析でも試料Sの目的箇所に対してX線を照射する。なお、目的箇所は、試料Sについてユーザが分析したい箇所である。
【0056】
事前分析モード(仮スペクトルで自動判定)では、EPMA100は、対象分析の試料に対して、第3速度(高速度)で分光器6を移動させることにより、仮スペクトルを生成する。上述のように、第3速度(高速度)で分光器6を移動させることにより生成されたスペクトルは、S/N比は悪くなる。
【0057】
図10は、仮スペクトルの一例である。図10に示すように、仮スペクトルのS/N比は悪い。上述のように、本分析と仮分析とは、分光器6の移動速度が異なるものの他の処理は同一である。したがって、本スペクトルと仮スペクトルとは、S/N比が異なるものの形状は類似する。よって、たとえば、本スペクトルと仮スペクトルとでは、ピークの波長帯域が同一または略同一となる。図10の例では、波長帯域λPが、仮スペクトルのピークである。したがって、制御装置10は、仮スペクトルを分析することにより、本スペクトルのピークの波長帯域を推定できる。図10の例では、仮スペクトルのピークの波長帯域は、波長帯域λPであることから、制御装置10は、本スペクトルのピークの波長帯域も、波長帯域λPであると推定(特定)する。これにより、制御装置10は、第1期間~第3期間を推定できる。制御装置10は、精度を高めたいスペクトルに対応する第1期間を仮スペクトルに基づいて自動で決定できる。さらに、制御装置10は、仮スペクトルを分析することにより、第2期間および第3期間を自動で決定する。
【0058】
なお、従来のEPMAは、分光器6の移動速度を一定で本分析を実行する。この従来のEPMAによる「状態分析モード」または「定性分析モード」での分析時間は、30~40分といった比較的、長時間となる場合がある。これに対し、事前分析モードでは、制御装置10は、高速度である仮分析および、速度変更制御を伴う本分析を実行する。したがって、従来のEPMAと比較して、試料の損傷を低減させつつ、試料の分析精度を向上させることができる。また、制御装置10は、第3速度(高速度)で仮スペクトルを生成できることから、第1速度で仮スペクトルを生成する構成と比較して短時間で仮スペクトルを生成できる。
【0059】
また、制御装置10は、仮スペクトルに対して所定の補正処理を実行してもよい。補正処理は、たとえば、スペクトルのスムージング処理である。制御装置10は、このような補正処理を実行することにより、仮スペクトルを整えることができる。よって、制御装置10は、本スペクトルのピークの波長帯域の推定精度(第1期間~第3期間の推定精度)を向上させることができる。
【0060】
次に、第2事前分析モードを説明する。第2事前分析モードは、仮スペクトルを生成して表示し、ユーザに第1期間~第3期間のうち少なくとも1つを決定させるモードである。第2事前分析モードでは、制御装置10は、仮スペクトル(図10参照)を表示装置14の表示領域14Aに表示する。そして、制御装置10は、仮スペクトルのピーク部分に対応するピーク期間のユーザ入力を受付ける。たとえば、ユーザは、表示されている仮スペクトルのうちのピーク期間に対応する箇所を、入力装置13に対して指定できる。該指定された情報が、入力装置13から制御装置10に出力される。事前分析モード(仮スペクトル表示)では、ユーザは、仮スペクトルの視認に基づいて第1期間~第3期間のうち少なくとも1つを決定することができる。したがって、ユーザの利便性(自由度)を向上させることができる。なお、ユーザにより決定されなかった期間については、制御装置10が決定する。
【0061】
次に、第3事前分析モードを説明する。第3事前分析モードは、試料の目的箇所とは別の個所に電子線を照射して仮スペクトルを生成し、該仮スペクトルで第1期間~第3期間を自動判定するモードである。第3事前分析モードが設定された場合には、制御装置10は、試料ステージ駆動部5を制御することにより試料ステージ4を移動させる。そして、制御装置10は、試料Sの電子線の照射箇所を目的箇所からずらすことにより、目的箇所とは異なる非目的箇所に電子線を照射させる。一般的に、試料Sにおいて、目的箇所に電子線を照射することにより生成されるスペクトルと、非目的箇所に電子線を照射することにより生成されるスペクトルとは同一または類似する。したがって、制御装置10は、非目的箇所に電子線を照射することにより生成される仮スペクトルに基づいて、本スペクトルの第1期間~第3期間を推定する。
【0062】
また、第3事前分析モードでは、制御装置10は、第1速度(低速度)で分光器6を移動させて仮スペクトルを生成する。したがって、制御装置10は、第2速度で分光器6を移動させて仮スペクトルを生成する場合よりも精度の高い仮スペクトルを生成できる。
【0063】
なお、第3事前分析モードでは、第1速度(低速度)の分光器6の移動により、仮スペクトルを生成することから、試料に長時間、電子線が照射される。しかしながら、電子線が照射される箇所は、非目的箇所である。したがって、非目的箇所の損傷を招く場合があるが、目的箇所の損傷は抑制できる。
【0064】
第3事前分析モードでは、同一の試料Sに対して本分析をN回(Nは2以上の整数)実行する場合に、効果を発揮する。制御装置10は、1回の仮分析で仮スペクトルを生成して第1期間~第3期間を特定する。したがって、制御装置10は、N回の本分析において、第1期間~第3期間に基づいた速度変更制御を実行することから、N回の本分析で速度変更制御を実行しない例と比較して、文政精度を担保しつつ分析時間を短縮できる。
【0065】
次に、事前分析無しモードを説明する。事前無しモードにおいては、仮スペクトルを生成せずに、本分析中に、第1期間~第3期間を推定する。本実施の形態においては、制御装置10は、分光器6が検出したX線の強度を所定期間(たとえば、0.375秒)毎に取得することによりスペクトルを生成する。制御装置10は、分光器6の移動途中に、該移動における過去の特性X線の強度に基づいて、現在の期間が第1期間~第3期間のいずれであるのかを特定(推定)する。
【0066】
具体的には、制御装置10は、生成途中のスペクトルの直近の勾配を算出し、該勾配および第2速度DBに基づいて、第1期間~第3期間を特定する。スペクトルの勾配は、たとえば、強度の移動平均により算出される。移動平均は、たとえば、生成途中のスペクトルにおいて、今回取得した強度と、直近の過去の所定個の強度との平均である。
【0067】
図11は、第2速度DBの一例である。図11の例では、勾配絶対値mの範囲として、大範囲、中範囲、および小範囲が規定されている。たとえば、小範囲は、m1≦m<m2と規定されている。また、中範囲は、m2≦m<m3と規定されている。また、大範囲は、m3≦mと規定されている。ただし、m1<m2<m3である。
【0068】
第2速度DBでは、移動速度を第3速度とする期間(第3期間)となる第3条件は、勾配絶対値mが小範囲に属するという条件である。また、移動速度を第2速度とする期間(第2期間)となる第2条件は、勾配絶対値mが中範囲に属するという条件である。また、移動速度を第1速度とする期間(第1期間)となる第1条件は、勾配絶対値mが大範囲、中範囲、小範囲、大範囲、および中範囲という順序で属するという条件である。また、必要に応じて、この順序における2番目の中範囲は省略されてもよい。移動速度が第1速度から第2速度に切替わる条件は、勾配絶対値mが該大範囲から中範囲に属するという条件である。
【0069】
制御装置10は、X線の強度を取得する毎に、勾配絶対値m(移動平均値)を更新し、該更新された勾配絶対値が、第1条件、第2条件、および第3条件のいずれの条件を満たすかを判定する。そして、制御装置10は、分光器6の移動速度を、満たした条件に応じた速度に変更する。EPMA100は、このような処理により、仮スペクトルを生成しなくても、速度変更制御を実行できる。したがって、EPMA100は、仮スペクトルを生成することなく、試料の損傷を低減しつつ、スペクトルの重要個所の精度を担保することができる。
【0070】
[スペクトルの規格化]
図12は、プロットと、該プロットに基づいて表現されるスペクトルとを示す図である。分光器6の移動速度が速いほど、プロット間の間隔は広くなる。また、分光器6の移動速度が遅いほど、X線の強度のカウント値が多くなってしまう。そこで、制御装置10は、強度を適正な値とするために、該強度を規格化(重み付け)する。
【0071】
具体的には、制御装置10は、第1期間で検出されたX線の強度L1を、第1速度V1と第2速度V2の比に基づいて低下させる。規格化された強度L1は、L1Aと称される。たとえば、以下の式(2)が実行される。
【0072】
また、制御装置10は、第2期間で検出されたX線の強度L2を、第2速度V2と第3速度V3の比に基づいて低下させる。規格化された強度L2は、L2Aと称される。たとえば、以下の式(3)が実行される。また、V1<V2<V3となる。
強度L1A=L1×(V1/V3) (2)
強度L2A=L2×(V2/V3) (3)
制御装置10は、このような規格化を実行することにより、移動速度が遅いことに基づいて強まってしまうX線強度を抑制することができる。なお、規格化の手法は他の手法としてよい。たとえば、式(2)および式(3)の重みづけ値は、他の値としてもよい。
【0073】
また、上述のように、制御装置10は、本分析では、分光器6の速度変更制御が実行されて、本スペクトルを生成する。したがって、この速度変更制御により、様々な要因でスペクトル曲線が不連続になる場合がある。そこで、制御装置10は、分光器6の速度が変化した前後の不連続なデータの周辺前後の数点で補正処理(たとえば、スムージング処理)を実行するようにしてもよい。制御装置10は、このようなスムージング処理によりをかけて滑らかなスペクトル曲線を生成できる。
【0074】
また、EPMA100は、標準試料の分析および未知試料の分析の双方で速度変更制御を実行することが好ましい。しかしながら、EPMA100は、標準試料の分析または未知試料の分析で速度変更制御を実行するようにしてもよい。
【0075】
[フローチャート]
次に、制御装置10の処理を示すフローチャートを説明する。図13は、試料種別入力モード(図6参照)が設定されている場合の制御装置10の処理のフローチャートである。また、ユーザにより所定の開始操作が実行された場合に、図13、および後述の図15図18の処理は開始する。ステップS12において、制御装置10は、入力画面(図9参照)から、試料種別が入力されたか否かを判断する。
【0076】
制御装置10は、試料種別が入力されるまで待機する(ステップS12でNO)。制御装置10は、試料種別が入力されると(ステップS12でYES)、処理はステップS14に進む。ステップS14において、制御装置10は、第1速度DB(図8参照)を参照して、ステップS12で入力された試料種別に基づいて、分光器6の移動速度を決定する。つまり、ステップS14においては、制御装置10は、第1期間、第2期間、および第3期間を決定する。換言すれば、ステップS14においては、制御装置10は、移動速度の変更タイミングを決定する。
【0077】
次に、ステップS16において本分析を実行する。該本分析により、本スペクトルが生成される。次に、ステップS18において、該本分析により生成された本スペクトルに対して規格化処理(上述の式(2)および(3)参照)と、スムージング処理とを実行する。
【0078】
図14は、ステップS16の本分析のフローチャートである。ステップS102において、制御装置10は、ステップS14で決定されたタイミングで、分光器6の移動速度を変更する。そして、ステップS104において、制御装置10は、本分析が終了したか否かを判断する。本分析が終了していない場合には(ステップS104でNO)、処理はステップS102に戻る。そして、ステップS104で本分析が終了した場合には、処理は、ステップS18に戻る。
【0079】
図15は、第1事前分析モード(図6参照)が設定されている場合の制御装置10の処理のフローチャートである。ステップS22において制御装置10は、第3速度(高速度)で分光器6を移動させて、仮スペクトル(図10参照)を生成する(仮分析を実行する)。次に、ステップS24において、制御装置10は、仮スペクトルが完成したか否かを判断する。制御装置10は、仮スペクトルが完成するまで待機する(ステップS24でNO)。そして、仮スペクトルが完成すると(ステップS24でYES)、ステップS26において、制御装置10は、仮スペクトルに対してスムージング処理を実行する。なお、制御装置10は、該スムージング処理を実行しなくてもよい。
【0080】
次に、ステップS28において、制御装置10は、生成された仮スペクトルに基づいて、分光器6の移動速度を決定する。つまり、ステップS28においては、制御装置10は、第1期間、第2期間、および第3期間を決定する。換言すれば、ステップS28においては、制御装置10は、移動速度の変更タイミングを決定する。次に、制御装置10は、ステップS16の処理を実行する。
【0081】
図16は、第2事前分析モード(図6参照)が設定されている場合の制御装置10の処理のフローチャートである。ステップS26の後のステップS32において、制御装置10は、仮スペクトル(図10参照)を表示装置14に表示する。そして、ステップS34において、制御装置10は、仮スペクトルのピーク部分に対応するピーク期間(図10の波長帯域λPに対応する期間)が入力されたか否かを判断する。制御装置10は、ピーク期間が入力されるまで待機する(ステップS34でNO)。ピーク期間が入力されると、処理は、ステップS36に進む。ステップS36において、制御装置10は、該ピーク期間に基づいて移動速度を決定する。次に、制御装置10は、ステップS16の処理を実行する。
【0082】
図17は、第3事前分析モード(図6参照)が設定されている場合の制御装置10の処理のフローチャートである。ステップS42においては、試料Sの非目的箇所に電子線を照射して、分光器6を第1速度で移動させて仮スペクトルを作成する。次に、制御装置10は、ステップS24の処理を実行する。なお、ステップS42において生成された仮スペクトルを制御装置10は、表示装置14に表示し、ユーザに第1期間~第3期間を入力させるようにしてもよい。
【0083】
図18は、事前分析無しモード(図6参照)が設定されている場合の制御装置10の処理のフローチャートである。上述のように、事前分析無しモード(図6参照)が設定されている場合には、制御装置10は仮分析を実行せずに、速度変更制御を実行しながらの本分析を実行する。ステップS52においては、制御装置10は、分光器6が検出したX線の強度を取得する。次に、ステップS54においては、制御装置10は、ステップS52で、今回取得した強度、および直近の過去の所定個の強度の移動平均を算出することにより、スペクトル勾配を算出(更新)する。次に、ステップS56において、スペクトル勾配および第2速度DB(図11参照)に基づいて、移動速度を決定する。次に、ステップS58において、制御装置10は、本分析が終了したか否かを判断する。本分析が終了していない場合には(ステップS52でNO)、処理は、ステップS52に戻る。また、本分析が終了した場合には(ステップS104でYES)、制御装置10は、ステップS18の処理を実行する。なお、ステップS52の処理が実行されたときから、次のステップS52が実行されるときまでの期間が上述の所定期間(たとえば、0.375秒)となる。
【0084】
[変形例]
(1) 上述の実施の形態においては、図6で説明したように、EPMA100は、モードを5つのユーザに選択させる構成を説明した。しかしながら、しかしながら、EPMA100は、少なくとも2つのモードを選択させるようにしてもよい。また、EPMA100は、5つのモードのうちいずれか1つのモードの制御のみを実行するようにしてもよい。
【0085】
(2) 本実施の形態の思想は、EPMA100に適用される例が開示された。しかしながら、本実施の形態の思想は、他の分析装置に適用されてもよい。他の分析装置は、たとえば、X線回折装置(XRD:X‐Ray Diffraction)である。
【0086】
(3) 本実施の形態においては、EPMA100は、図3などに示すように、分光器6の移動速度を、ピークの波長帯域に対応する期間で遅くする構成が説明された。しかしながら、EPMA100は、分光器6の移動速度を、ピークの波長帯域に対応する期間で速くするようにしてもよい。たとえば、ユーザにより、試料分析において重要でないピークが指定されるようにしてもよい。そして、EPMA100は、該ピークの波長帯域に対応する期間では、分光器6の移動速度を速める。このような構成によれば、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0087】
(4) 上述の多段階モードにおいては、分光器6の速度の段階数が規定されている構成を説明した。しかしながら、多段階モードは、分光器6の速度の段階数が規定されておらず、分光器6の速度を連続的に変更するモードとしてもよい。
【0088】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0089】
(第1項) 一態様に係るX線分析装置は、検出機構と、制御装置とを備える。検出機構は、電子ビームが照射された試料から発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の検出機構である。制御装置は、検出機構を移動させる。制御装置は、検出機構を移動させながら該検出機構が検出した特性X線に基づいて試料のスペクトルを生成し、検出機構の移動中に該検出機構の移動速度を変更する。
【0090】
このような構成によれば、検出機構の移動中に該検出機構の移動速度を変更できる。したがって、たとえば、スペクトルの重要個所の波長帯域に対応する期間では、検出機構の移動速度を遅めることができ、重要でないスペクトルの個所の波長帯域に対応する期間では、検出機構の移動速度を速めることができる。検出機構の移動速度を速めると、電子ビームの試料への照射時間を短縮できる。よって、試料に対するX線の照射による試料の損傷を低減できつつ、スペクトルの重要個所の精度を担保することができる。
【0091】
(第2項) 第1項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、スペクトルのピーク部分に対応する第1期間では第1速度で検出機構を移動し、第1期間とは異なる第2期間では第1速度よりも速い第2速度で検出機構を移動する。
【0092】
このような構成によれば、スペクトルのピーク部分での精度を高めたい場合には、該ピーク部分以外の期間では第1速度よりも速く検出機構を移動できることから、該スペクトルのピーク部分での精度を高めつつ、試料の損傷を低減できる。
【0093】
(第3項) 第2項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、第1期間が試料種別ごとに対応付けられている対応情報を記憶するメモリを有する。制御装置は、試料種別のユーザ入力を受付け、対応情報に基づいて、ユーザ入力された試料種別に対応付けられた第1期間を特定する。
【0094】
このような構成によれば、精度を高めたいスペクトルに対応する第1期間をユーザが選択できることから、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0095】
(第4項) 第2項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、試料の仮スペクトルを生成し、仮スペクトルに基づいて第1期間を特定する。
【0096】
このような構成によれば、精度を高めたいスペクトルに対応する第1期間を仮スペクトルに基づいて自動で決定できることから、ユーザの負担を軽減できる。
【0097】
(第5項) 第2項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、試料の仮スペクトルを生成し、仮スペクトルを表示装置に表示し、仮スペクトルのピーク部分に対応するピーク期間のユーザ入力を受付け、ピーク期間に基づいて第1期間を特定する。
【0098】
このような構成によれば、ユーザは、仮スペクトルの視認に基づいて第1期間を決定することができる。したがって、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0099】
(第6項) 第4項または第5項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、試料の目的箇所に電子ビームを照射しかつ第2速度で検出機構を移動させて仮スペクトルを生成する。
【0100】
このような構成によれば、速い第2速度で仮スペクトルを生成できることから、第1速度で仮スペクトルを生成する構成と比較して短時間で仮スペクトルを生成できる。
【0101】
(第7項) 第4項または第5項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、試料の目的箇所とは異なる箇所に電子ビームを照射しかつ第1速度で検出機構を移動させて仮スペクトルを生成する。
【0102】
このような構成によれば、遅い第1速度で仮スペクトルを生成できることから、仮スペクトルの精度を担保できる。
【0103】
(第8項) 第6項または第7項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、仮スペクトルを補正し、補正された仮スペクトルに基づいて第1期間を特定する。
【0104】
このような構成によれば、仮スペクトルを補正することから、仮スペクトルを担保できる。
【0105】
(第9項) 第2項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、検出機構が検出した特性X線の強度を所定期間毎に取得することによりスペクトルを生成し、検出機構の移動中に、該移動における過去の特性X線の強度に基づいて、第1期間を特定する。
【0106】
このような構成によれば、仮スペクトルを生成することなく、試料の損傷を低減しつつ、スペクトルの重要個所の精度を担保することができる。
【0107】
(第10項) 第2項~第9項のいずれか1項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、第1期間で検出された特性X線の強度を、第1速度と第2速度の比に基づいて低下させて、スペクトルを生成する。
【0108】
このような構成によれば、移動速度が遅いことに基づいて強まってしまう強度を抑制することができる。
【0109】
(第11項) 第2~第10のいずれか1項に記載のX線分析装置であって、制御装置は、第1速度および第2速度とは異なる第3速度で検出機構を移動し、第1速度および第2速度で検出機構を移動させる第1モードと、第1速度、第2速度、および第3速度で検出機構を移動させる第2モードとのいずれかをユーザ入力に基づいて設定する。
【0110】
このような構成によれば、移動速度の種別数をユーザが選択できることから、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0111】
(第12項) 第1項~第11項のいずれか1項に記載のX線分析装置であって、検出機構は、電子ビームが照射された試料から発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の分光器を有し、X線分析装置は、電子プローブマイクロアナライザである。
【0112】
このような構成によれば、上記の技術思想が適用された電子プローブマイクロアナライザを提供することができる。
【0113】
(第13項) 一態様に係るX線分析装置の制御方法において、X線分析装置は、電子ビームが照射された試料から発生する特性X線を検出するように構成された波長分散型の検出機構を備える。制御方法は、検出機構を移動させながら該検出機構が検出した特性X線に基づいて試料のスペクトルを生成することを備える。スペクトルを生成することは、検出機構の移動中に該検出機構の移動速度を変更することを含む。
【0114】
このような構成によれば、検出機構の移動中に該検出機構の移動速度を変更できる。したがって、たとえば、スペクトルの重要個所の波長帯域に対応する期間では、検出機構の移動速度を遅めることができ、重要でないスペクトルの個所の波長帯域に対応する期間では、検出機構の移動速度を速めることができる。検出機構の移動速度を速めると、電子ビームの試料への照射時間を短縮できる。よって、試料に対するX線の照射による試料の損傷を低減できつつ、スペクトルの重要個所の精度を担保することができる。
【0115】
なお、上述した実施の形態および変更例について、明細書内で言及されていない組み合わせを含めて、不都合または矛盾が生じない範囲内で、実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。
【0116】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0117】
1 電子銃、2 偏向コイル、3 対物レンズ、4 試料ステージ、5 試料ステージ駆動部、6 分光器、10 制御装置、12 偏向コイル制御装置、13 入力装置、14 表示装置、14A 表示領域、19 入力領域、61 分光結晶、63 検出器、65 駆動機構、100 EPMA 102 取得部、104 処理部、106 制御部、108 記憶部。
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