(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112504
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】自律走行装置、自律走行方法及び金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20240814BHJP
B24B 27/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G05D1/02 W
G05D1/02 H
B24B27/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017566
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】枡田 健太
【テーマコード(参考)】
3C158
5H301
【Fターム(参考)】
3C158AA03
3C158AA13
3C158AC02
3C158BA07
3C158CA01
3C158CB03
5H301AA01
5H301AA10
5H301BB05
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC08
5H301CC09
5H301CC10
5H301DD01
5H301DD07
5H301DD15
5H301FF11
5H301HH01
5H301HH18
5H301JJ06
5H301JJ08
5H301JJ10
(57)【要約】
【課題】台車に搭載した作業部で対象物に対して所定の作業を行うに際し、台車の目標位置に対して位置ずれが生じた場合に、台車の移動を伴わずに対象物に対して適正位置で所定の作業を実施可能とする。
【解決手段】駆動輪3を駆動して金属板(対象物)S上を走行する台車1と、台車1の金属板S上における位置を検出する測位システム(位置検出手段)10と、台車1に搭載され、金属板Sに対して所定の作業を実施する研削部(作業部)2と、作業を実施する際に、測位システム10で検出された台車1の位置と目標位置とのずれ量に応じて、台車1に対する研削部2の位置を補正する車載コンピュータ5及びコントローラ6(制御部)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を駆動して対象物上を走行する台車と、
前記台車の前記対象物上における位置を検出する位置検出手段と、
前記台車に搭載され、前記対象物に対して所定の作業を実施する作業部と、
前記作業を実施する際に、前記位置検出手段で検出された台車の位置と目標位置とのずれ量に応じて、前記台車に対する前記作業部の位置を補正する制御部と、を備えた自律走行装置。
【請求項2】
前記駆動輪を駆動することによって前記台車が前後方向に走行され、
前記制御部は、前記前後方向に生じた前記ずれ量に対して前記台車の前後方向の位置を補正し、前記前後方向と直交する横方向に生じた前記ずれ量に対して前記台車に対する前記作業部の位置を補正する、請求項1に記載の自律走行装置。
【請求項3】
前記台車は、前記駆動輪と個別の転舵輪を有し、前記転舵輪を操舵し且つ前記駆動輪を駆動することで前記横方向に移動可能とする走行構造を有する、請求項2に記載の自律走行装置。
【請求項4】
前記作業部は、前記台車に反力が作用する作業を前記対象物に対して実施する、請求項3に記載の自律走行装置。
【請求項5】
前記作業部は、前記対象物の表面を研削する研削作業を実施する、請求項4に記載の自律走行装置。
【請求項6】
前記台車は、前記反力による位置ずれを抑止する位置ずれ抑止構造を有する、請求項4に記載の自律走行装置。
【請求項7】
前記台車は、前記前後方向の一方で前記横方向に並設された2つの駆動輪と他方で横方向に並設された2つの転舵輪とを有し、前記位置ずれ抑止構造は、前記横方向への反力が生じる作業を実施する前記作業部を前記前後方向の一方に配設して構成される、請求項6に記載の自律走行装置。
【請求項8】
位置検出手段からの位置情報に基づいて台車を対象物上で走行させ、前記台車に搭載された作業部によって対象物に対して所定の作業を実施する際に、前記台車の目標位置を実際の位置とのずれ量を検出し、前記ずれ量に基づいて前記台車に対する前記作業部の位置を補正する、自律走行方法。
【請求項9】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の自律走行装置を前記対象物としての金属板上で走行させ、前記作業部によって前記金属板の表面を研削する研削工程を含む、金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物上を走行して対象物に対して所定の作業を実施する自律走行装置、自律走行方法、及び自律走行装置を用いた金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物上を走行して対象物に対して作業を実施する自律走行装置として、例えば下記特許文献1に記載される金属板用自走式検査装置が挙げられる。この金属板用自走式検査装置は、屋内位置測定システムからの位置情報に基づいて金属板上を台車が自律走行し、台車に搭載された探傷ヘッドによって金属板表面又は内部に存在する欠陥の有無を検査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される金属板用自走式検査装置では、屋内位置測定システムからの位置情報に基づく台車の位置と目標とする位置にずれが生じた場合、台車を走行させて移動させることによって位置ずれを補正する。しかしながら、台車の走行構造、特にステアリング構造によっては、台車を移動させて位置ずれを補正するのに時間がかかり、効率がよくない。また、位置ずれを補正するために台車を移動させることにより、新たな位置ずれが生じることもあり、結果として、台車を高精度に位置合わせするために何度も移動のリトライが必要となることもある。すなわち、台車の走行構造や位置ずれの内容によっては、台車の移動を伴わずに対象物に対して適正位置で所定の作業を実施することができる自律走行装置やその方法が求められる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、台車の目標位置に対して位置ずれが生じた場合に、台車の移動を伴わずに対象物に対して適正位置で所定の作業を実施可能な自律走行装置及びその方法と金属板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る自律走行装置は、駆動輪を駆動して対象物上を走行する台車と、前記台車の前記対象物上における位置を検出する位置検出手段と、前記台車に搭載され、前記対象物に対して所定の作業を実施する作業部と、前記作業を実施する際に、前記位置検出手段で検出された台車の位置と目標位置とのずれ量に応じて、前記台車に対する前記作業部の位置を補正する制御部と、を備えたことを要旨とする。
【0007】
また、本発明の一態様に係る自律走行方法は、位置検出手段からの位置情報に基づいて台車を対象物上で走行させ、前記台車に搭載された作業部によって対象物に対して所定の作業を実施する際に、前記台車の目標位置を実際の位置とのずれ量を検出し、前記ずれ量に基づいて前記台車に対する前記作業部の位置を補正することを要旨とする。
また、本発明の一態様に係る金属板の製造方法は、上記自律走行装置を前記対象物としての金属板上で走行させ、前記作業部によって前記金属板の表面を研削する研削工程を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば金属板の表面の所定位置を研削するといった場合に、台車の位置と目標位置とのずれ量に応じて、台車に対する作業部の位置を補正することにより、台車の移動を伴わずに対象物に対して適正位置で所定の作業を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の自律走行装置及びその方法の一実施形態である金属板の製造方法における研削工程の概略構成図である。
【
図3】
図1の研削工程における制御のブロック図である。
【
図4】
図1の研削工程における台車の移動の説明図である。
【
図5】
図1の研削工程における台車の移動の説明図である。
【
図6】
図2の車載コンピュータで実行される位置ずれ補正の演算処理のフローチャートである。
【
図9】縦移動に対する目標位置からの位置ずれ量の説明図である。
【
図10】横移動に対する目標位置からの位置ずれ量の説明図である。
【
図11】
図6の演算処理による横移動時の台車の位置ずれ量と研削位置ずれ量の相関説明図である。
【
図12】
図1の台車の他の概略構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の自律走行装置、自律走行方法、及び、金属板の製造方法の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0011】
図1は、自律走行装置及びその方法の一実施形態である金属板の製造方法の研削工程の概略構成図である。この研削工程は、屋内の床面と平行に置かれた金属板S、具体的には鋼板の表面を研削するものである。この実施形態では、対象物である金属板Sの上面(表面)を台車1で走行して移動すると共に、台車1に取り付けられた作業部である研削部2で台車1の移動先の金属板Sの表面を少しずつ研削して表面全面を研削する。この台車1の移動に際し、台車1の位置を位置検出手段である測位システム10で検出する。この測位システム10で検出された台車1の位置情報に基づいて台車1を金属板S上の目標位置に移動し、その位置で金属板Sの表面の所定範囲を研削したら、次の目標位置に移動して研削を行う動作を繰り返す。
【0012】
測位システム10は、三角測量の原理に基づいて屋内空間における自己位置(屋内位置)の測定を行うものである。具体的には、測位システム10は、屋内、特に金属板Sの周囲に配設された複数の航法用送信機11と、台車1に搭載された航法用受信機8及び車載コンピュータ5(
図2参照)を備えて構成される。車載コンピュータ5には、航法用受信機8の位置を台車1の位置として演算するための位置演算用ソフトウエアや、台車1を研削位置へと移動させる目標位置、経路情報を設定するための設定ソフトウエアなどがインストールされている。設定ソフトウエアは、研削対象となる金属板S(毎)における1回の研削範囲とその順序、先の研削範囲から次の研削範囲への移動経路、各研削範囲内における研削領域や台車1の移動経路などを予め設定することができる。したがって、台車1は、この設定ソフトウエアで設定される目標位置に順次移動され、車載コンピュータ5からは、その移動のための後述する各アクチュエータへの制御量が台車1の移動を司るコントローラ6(
図2参照)に向けて出力される。
【0013】
測位システム10には、例えば屋内位置測定システムであるIGPS(Indoor Global Positioning System)を適用することができる。IGPSは、衛星航法システム(GPS:Global Positioning System)を屋内位置測定システムに適用したものである。IGPSについては、米国特許第6,501,543号明細書に詳細に記載されている。測位システム10にIGPSを適用する場合は、各航法用送信機11は、回転ファンビーム(扇形ビーム)を射出する。回転ファンビームはレーザファンビームであってもよく、他の光放射手段であってもよい。航法用受信機8は、航法用送信機11から射出される回転ファンビームを受信する。このとき、回転ファンビームは所定の角度でずれており、これを受信する航法用受信機8の三次元座標値、すなわち水平面内の位置や高さを測定することができる。航法用受信機8が受信した受信情報は車載コンピュータ5に伝送され、車載コンピュータ5は、三角測量の原理に従って、航法用受信機8の位置を演算する。そして、車載コンピュータ5は、複数の航法用送信機11から受信した信号について演算を繰り返すことにより、航法用受信機8を搭載した走行中の台車1の位置情報を得ることができる。なお、屋内には、台車1の位置や金属板Sの研削状態などをモニタするためのモニタコンピュータ15が配設されている。
【0014】
図2は、
図1の台車1の概略構成を示す側面図である。台車1は、
図1にも示すように、例えば箱型フレームの四隅に車輪3、4が配設され、各車輪3、4は、
図2の紙面垂直方向に伸長する回転軸周りに回転する。この実施形態では、
図2の左側の車輪3が駆動輪、右側の車輪4が転舵輪である。駆動輪3は、駆動機構25を介して走行アクチュエータ12の駆動力で回転される。したがって、台車1は、転舵輪4が転舵されていない状態では、
図2の左右方向に走行される。ここでは、
図2の左方を前方、右方を後方と規定する。すなわち、台車1は駆動輪3を回転駆動することによって前後方向に走行する。一方、転舵輪4は、ステアリング機構26を介して操舵(転舵)アクチュエータ13の駆動力で転舵される。ステアリング機構26には、例えば、一般的なアッカーマン式ステアリング(転舵)機構が採用される。なお、この実施形態の駆動輪3は転舵しない。
【0015】
台車1の前方、すなわち駆動輪3側には、金属板Sの表面を研削するための作業部として研削部2が搭載されている。この研削部2の最下端部には、外周面が円筒面の砥石7が研削工具として配設されており、この実施形態では、前後方向に伸長する回転軸回りに回転駆動されて金属板Sの表面を研削する。研削工具には、砥石7に代えて、研削布紙なども使用可能である。砥石7は、研削装置16に取り付けられており、研削用モータ17の駆動力で回転駆動される。研削装置16の上方には、砥石7と共に研削装置16を昇降する昇降装置14が取り付けられている。また、この昇降装置14は、スライド装置9に取り付けられており、このスライド装置9は、
図2の紙面垂直方向に伸長するスライドベース18(
図1参照)に沿って、研削装置16と共に昇降装置14を紙面垂直方向に移動する。したがって、この研削部2では、昇降装置14で研削装置16を下降させて砥石7を金属板Sの表面に当接させたり、金属板Sの表面から離隔させたりすることができる。また、砥石7を金属板Sの表面に当接させた状態で回転駆動することにより砥石7の当接領域において金属板Sの表面を研削することができる。また、砥石7を金属板Sの表面で回転駆動しながらスライド装置9で研削装置16をスライドさせることにより、研削領域を
図2の紙面垂直方向に移動(展開)させることができる。
【0016】
台車1の後方、すなわち転舵輪4側には、制御箱(制御盤)19が搭載されており、この制御箱19の上方に前述した航法用受信機8が搭載されている。そして、制御箱19内には、車載コンピュータ5と共に、台車1の各アクチュエータの駆動状態を制御するためのコントローラ6が配設されている。このコントローラ6は、演算処理機能を備えたコンピュータシステムで構築され、例えば、プログラマブルロジックコントローラなどが適用される。なお、コントローラ6が車載コンピュータ5と個別のものである必要はなく、例えば、1つのコンピュータで、車載コンピュータ5とコントローラ6を兼任させることも可能である。
【0017】
図3は、この研削工程における制御のブロック図である。前述のように、航法用受信機8は、複数の航法用送信機11からの回転ファンビームを受信する。航法用受信機8の受信情報は車載コンピュータ5に伝送され、車載コンピュータ5は航法用受信機8の位置を台車1の位置として算出する。車載コンピュータ5からは、設定された研削範囲とその順序並びに先の研削範囲から次の研削範囲への移動経路に応じた台車1の目標位置への移動のための各アクチュエータへの制御量がコントローラ6に向けて出力される。コントローラ6からは、台車1を移動するためのアクチュエータ、すなわち走行アクチュエータ12及び操舵(転舵)アクチュエータ13への制御量に応じた駆動信号が出力される。台車1の移動の際には、移動中の台車1の位置を検出し、台車1が設定された移動経路に沿って移動されるように、走行アクチュエータ12及び操舵(転舵)アクチュエータ13をフィードバック制御する。また、研削範囲に台車1が到着すると、車載コンピュータ5からは昇降装置14、研削装置16、スライド装置9の各アクチュエータの制御量がコントローラ6に向けて出力される。コントローラ6からは、昇降装置14、研削装置16、スライド装置9の各アクチュエータの制御量に応じた駆動信号が出力される。車載コンピュータ5とコントローラ6の情報及び信号授受の状態はモニタコンピュータ15に無線伝送されてモニタされる。
【0018】
次に、この実施形態における研削範囲とその移動について説明する。この実施形態の台車1は、前方に駆動輪3、後方に転舵輪4が配置されており、駆動輪3は転舵せず、転舵輪4が転舵されていない状態で台車1は前後方向にのみ移動される(走行する)。したがって、転舵輪4が転舵されていない状態では、転舵輪4の向きは駆動輪3と同じ前後方向に一致する。この転舵輪4の向きが前後方向に一致している状態を中庸状態とすると、転舵輪4が中庸状態に維持されていれば、台車1は「まっすぐ」前後方向にのみ移動する。例えば
図4aの斜線部を研削範囲に設定したとき、砥石7(研削部2)の位置を研削範囲の最も前方で且つスライド装置9のスライド方向、すなわち横方向の一端にセットし、その状態で砥石7を金属板Sの表面に当接させて研削を実施する。そこから、研削状態を維持したまま、スライド装置9によって砥石7を横方向の他端に向けて移動すれば、その移動軌跡に沿って砥石7の当接幅分が研削される。すなわち、台車1が停止している状態で1回の研削で研削できる領域がこの研削領域となる。砥石7が横方向の他端に到達したら砥石7の当接幅分だけ台車1を後方に移動し、例えば、今度は、横方向の他端から一端に向けて砥石7を移動しながら研削を実施し、これを順次繰り返して所定の研削範囲を研削する。台車1を「まっすぐ」前後方向に移動する場合には、走行アクチュエータ12の駆動量を制御すればよいだけなので、その移動(停止)制御は精度が高い。
【0019】
一方、スライド装置9による砥石7の横方向へのスライド量は限られているので、1回の研削領域(=研削範囲)の横方向の長さも限られている。そこで、研削範囲の研削が完了したら、
図4aに矢印で示すように台車1を所定距離だけ後方に移動(後退)する。次いで、先の研削範囲の横方向に隣接する次の研削範囲に移動するのであるが、その際には、台車1が後退した位置から転舵輪4を操舵(転舵)して、
図4bに示すように台車1を横方向に移動させながら前方に移動(前進)する。これにより、例えば、台車1が金属板Sの最も前方に移動すると、先の研削範囲の横方向に隣接する次の研削範囲を研削することができる。したがって、大きな金属板Sの表面を研削する場合には、例えば
図5に示すように、一番下側の研削範囲を研削した後、台車1を後退し、そこから横方向への移動を伴って上下方向真ん中の研削範囲に移動して研削する。この上下方向真ん中の研削範囲を研削したら、再び台車1を後退し、そこから横方向への移動を伴って一番上側の研削範囲に移動して研削する。これらの研削範囲の研削が完了したら、これよりも後方の研削範囲を同様に研削し、これを順次繰り返して金属板Sの表面全面を研削する。なお、後述するように、この台車1の横方向への移動(停止)精度は高くない。また、この実施形態では、少なくとも研削作業中、台車1を単に横方向に移動することはなく、次の研削範囲へ向かうために横方向に移動する。また、研削範囲の初期位置(最初の停止位置)に到着した際、目標位置に対して横方向に位置ずれしていた場合に、操舵(転舵)によって位置ずれを補正するためには、一旦、後退してから操舵(転舵)しながら前進しなければならない。したがって、以下では、台車1の横方向への移動を切り返しとも称する。
【0020】
なお、この実施形態では、外周面が円筒面の砥石7を前後方向に伸長する回転軸回りに回転して研削を行うので、研削中、台車1には横方向の反力が作用する。この実施形態では、このような研削反力を生じる研削部2側に、転舵しない駆動輪3を配置していることから、研削反力によって台車1が移動してしまうのを抑止することができる。横方向に反力を生じる研削部2側に転舵輪4が配置されていると、その反力によって転舵輪4が転舵するおそれがある。そして、研削中に転舵輪4が転舵すると、台車1は転舵輪4が転舵した方向に移動されてしまうおそれが生じる。台車1の車輪の構成や駆動方法には、他にも、三輪方式や四輪独立ステアリング駆動方式などが挙げられる。例えば、横方向に並設され且つ個別に駆動可能な2つの駆動輪と車体の幅方向中央部に配置されたオムニホイールと呼ばれる全方位車輪(従動輪)からなる三輪方式では、2つの駆動輪の回転速度差で台車1の向きを微調整することができる。しかし、全方位車輪は台車1の移動、特に横方向への移動を容易にする一方、自在な方向に動けてしまうので、研削反力によって台車1の位置がずれやすい。また、四輪独立ステアリング駆動方式と呼ばれる全方位移動方式では、4つの車輪の駆動軸と転舵軸を個別に制御する方式であるので、台車1を任意の場所に移動させ、その場で回転して角度調整するという高度な位置及び移動制御が可能である。しかし一方で、制御軸が多いので、機構が複雑化すると共に高価な装置となってしまうという欠点がある。
【0021】
この実施形態では、台車1の4つの車輪3、4のうち、前方2輪が駆動輪3、後方2輪が転舵輪4であるので、台車1の前後方向の位置ずれは、転舵輪4を中庸状態に維持したまま、走行アクチュエータ12を制御するだけで容易に補正することができる。これに対し、横方向の位置ずれは、台車1の切り返し、すなわち前後方向への移動とステアリング(転舵)による横方向への移動を必要とするため補正に時間を要する。また、台車1の切り返しを行っても、必ず補正できるとは限らず、すなわち補正精度が低く、切り返し操作を繰り返す場合もあり、非常に多くの時間を必要とすることもある。これは、台車1の車輪3、4と金属板Sの表面の間の摩擦係数に依存していると考えられる。すなわち、金属板Sの表面は台車1が走行する路面であるが、その路面状態に相当する車輪3、4との間の摩擦係数が金属板Sごとに異なるので、転舵輪4の転舵状態が等しくても横方向への移動量に差異が生じる。一方で、転舵輪4の転舵量とタイミングを金属板Sの表面性状ごとにパラメータチューニングすることは現実的ではない。以上より、この実施形態では、台車1の前後方向への位置ずれは台車1を前後方向に移動して補正し、台車1の横方向への位置ずれは研削部2を台車1に対して横方向に移動して補正する。研削部2の横方向への移動は、スライド装置9を用いて行う。例えば、スライド装置9による砥石7の移動範囲が横方向に600mmである場合、両端の50mmを台車1の横方向への位置ずれに対する砥石7(研削部2)の補正代として用いる。なお、砥石7の当接幅、すなわち研削領域の幅は、一例として60mmである。
【0022】
図6は、台車1が次の研削範囲(正確には研削範囲における最初の停止位置)に到着した際に行われる位置ずれ補正のための演算処理を示すフローチャートである。この演算処理は、車載コンピュータ5内で実行される。なお、以下では、前後方向を縦方向とも呼び、縦方向における台車1の位置を縦位置と称する。同様に、横方向における台車1の位置を横位置と称する。この演算処理では、まずステップS1で、測位システム10(航法用受信機8)の受信情報を読み込む。
【0023】
次にステップS2に移行して、ステップS1で読み込まれた測位システム10の受信情報から台車1の位置情報(縦位置、横位置)を算出する。
次にステップS3に移行して、設定ソフトウエアで設定されている今回研削範囲の(最初の停止位置の)目標位置情報(縦位置、横位置)を読み込む。
次にステップS4に移行して、ステップS3で読み込まれた目標位置情報(縦位置、横位置)とステップS2で算出された台車1の位置情報(縦位置、横位置)の差分から縦位置ずれ量及び横位置ずれ量を算出する。
【0024】
次にステップS5に移行して、縦位置ずれ量を補正するための走行アクチュエータ12の補正制御量を算出する。
次にステップS6に移行して、横位置ずれ量を補正するためのスライド装置9の補正制御量を算出する。
次にステップS7に移行して、走行アクチュエータ12及びスライド装置9の各補正制御量をコントローラ6に出力してから復帰する。
【0025】
この演算処理によれば、例えば
図7に二点鎖線で示す目標位置に対して台車1が縦(前後)方向に位置ずれしていた場合には、走行アクチュエータ12を作動させることで台車1を前後方向に移動させ、研削部2を含む台車1ごと位置ずれを補正する。一方、例えば
図8に二点鎖線で示す目標位置に対して台車1が横方向に位置ずれしていた場合には、スライド装置9の稼働域、すなわちスライド装置9による砥石7の移動範囲を位置ずれ補正代の範囲内で横方向に移動させることにより台車1に対して研削部2(砥石7)を横方向に移動させ、研削部2を目標位置に移動して位置ずれを補正する。すなわち、車載コンピュータ5及びコントローラ6が本自律走行装置の制御部を構成する。なお、この実施形態では、目標位置に対する横位置ずれ量がスライド装置9の位置ずれ補正代±50mmを超えることがなかったので、
図6の演算処理のみで縦横方向の位置ずれを補正することができた。もし、目標位置に対する横位置ずれ量がスライド装置9の位置ずれ補正代を超えるような場合には、横位置ずれ量を位置ずれ補正代±50mmと比較するステップを設ける。そして、横位置ずれ量が位置ずれ補正代以下であれば、スライド装置9を作動して横位置ずれを補正し、補正代を超える場合には、横位置ずれ量を小さくするように台車1の切り返し操作を実施(リトライ)するようにしてもよい。
【0026】
以下、この実施形態における台車1の移動(停止)位置精度などについて説明する。
図9には、台車1の縦移動における停止位置と台車1に生じた縦位置ずれ量を示す。横軸には、台車1の後退動作の停止位置の目標値を示し、縦軸には、台車1の停止位置の実績と目標位置の縦位置ずれ量を、後退方向を負として示す。この例では、後退距離20、40、60(mm)に対する停止位置の縦位置ずれ量の平均値と標準偏差を求め、エラーバーで±3σの範囲を示す。縦位置ずれ量の平均値は後退方向に0.5mm、標準偏差は0.7mmであった。
【0027】
図10には、台車1の横移動における停止位置と台車1に生じた横位置ずれ量を示す。横軸には、台車1の左右への切り返し動作の停止位置の目標値を示し、縦軸には、台車1の停止位置の実績と目標位置の横位置ずれ量を、右切り返し方向を正として示す。この例では、150mm毎に設定された左右への切り返し量(=横移動位置目標値)に対する停止位置の横位置ずれ量の平均値と標準偏差を求め、エラーバーで±3σの範囲を示す。このとき、前述のように、横位置ずれ量が補正代±50mmを超える場合に台車1の切り返し操作のリトライを行って横位置ずれ量を小さくする機能を搭載していたが、計N=148回の横移動試験でリトライは発生しなかった。
【実施例0028】
前述のように、上記実施形態では、台車1の横方向の位置ずれに対してスライド装置9の稼働域、すなわちスライド装置9による砥石7の移動範囲を移動させることで所望の研削範囲を研削できるようにロジックを構築した。そこで、実際の金属板S上で横方向位置ずれの大きさに関わらず、設定された研削範囲を高精度に研削できるかの実証実験を行った。金属板Sの一例として、引張強度400MPa級、板厚12mmの厚板鋼板の表面を上記実施形態の自律走行装置に搭載された研削装置で研削した。N=53回の施行での横位置ずれ量に対する研削横位置ずれ量を
図11に示す。比較例となる
図10(研削部2の位置を補正しない状態)では、例えば、右切り返し150mmの目標位置に対して、横位置ずれ量が一部20mm程度に及んだ。これに対し、台車1に対する研削部2の横位置を補正する実施例では、下記表1に示すように、横位置ずれ量が20mm程度の場合を含めた全ての場合で、実際の研削横位置ずれ量は±2mm以下であった。なお、表1は、オペレータが手押し式グラインダで研削を行う場合の目視による位置調整の誤差が±5mm程度であるとして、±5mmを研削横位置ずれ量の閾値として実施例及び比較例の合否判定を行った結果である。以上の結果、台車1が横方向に位置ずれしている場合であっても、実施形態では、台車1の切り返し操作を繰り返すことなく、所望の研削範囲を正確に研削することができる。これにより、鋼板の表面の指定した領域を隈なく且つ短時間で高精度に手入れすることができ、表面疵や厚さ不良を除去した高品質の鋼板を提供することができる。
【0029】
【0030】
このように、この実施形態の金属板Sの製造方法の研削工程によれば、金属板Sの表面の所定位置を研削するといった場合に、台車1の位置と目標位置との横位置ずれ量に応じて、台車1に対する研削部2の位置を補正する。これにより、台車1の移動を伴わずに金属板Sに対して適正位置で所定の研削作業を実施することができる。
また、転舵しない状態で台車1が前後方向に走行される場合、前後方向に生じた縦位置ずれ量に対しては台車1の前後方向の位置を補正し、前後方向と直交する横方向に生じた横位置ずれ量に対しては台車1に対する研削部2の位置を補正する。これにより、研削部2を前後方向及び横方向の双方に移動させる機構を必要とせず、しかも前後方向及び横方向の双方で適正位置での研削作業を実施することができる。
【0031】
また、台車1が駆動輪3と個別の転舵輪4を有し且つ転舵輪4を操舵(転舵)し且つ駆動輪3を駆動することで横方向に移動可能とする走行構造を有する場合、横方向への切り返し操作を繰り返すことなく横位置ずれ量を補正することができる。そしてその結果、研削作業時間を短縮することが可能となる。
また、台車1は、前方で横方向に並設された2つの駆動輪3と後方で横方向に並設された2つの転舵輪4とを有し、横方向への反力が生じる研削作業を実施する研削部2を前方、すなわち駆動輪3側に配設して位置ずれ抑止機構を構成する。これにより、簡易な構成で、研削反力による台車1の位置ずれを効果的に抑止することができる。
【0032】
以上、実施形態に係る自律走行装置、自律走行方法、及び金属板Sの製造方法について説明したが、本件発明は、上記実施形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施形態では、転舵しない駆動輪3を作業部である研削部2側に配設することで、研削反力に対して台車1の位置ずれを抑止する位置ずれ抑止構造とした。これに対し、例えば
図12に示すように、台車1の底部に配置された電磁石20と、この電磁石20を昇降する昇降装置21を備えて位置ずれ抑止構造としてもよい。この位置ずれ抑止構造では、研削時、金属板S上に降下された電磁石20を励磁して金属板Sに磁着させ、これにより台車1の位置ずれが抑止される。その他の構造も適用可能である。
【0033】
また、上記実施形態では、台車1の前後方向の位置ずれに対しては台車1の位置を補正し、横方向の位置ずれに対しては台車1に対する研削部2の位置を補正する構成とした。これに対し、前後方向及び横方向の双方の位置ずれについて、台車1に対する研削部2の位置を補正する構成としてもよい。
また、台車1が走行する対象物についても金属板Sに限らず、実施する作業についても金属板Sの研削以外の種々の作業に適用することが可能である。