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  • 特開-放射性核種標識薬剤の精製方法 図1
  • 特開-放射性核種標識薬剤の精製方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112505
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】放射性核種標識薬剤の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/18 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
C07K1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017570
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井村 亮太
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045BA11
4H045BA12
4H045BA13
4H045BA50
4H045BA71
4H045EA20
4H045EA50
4H045EA51
4H045FA10
4H045GA23
(57)【要約】
【課題】放射性核種標識薬剤において放射性核種を標識していないペプチドを除去すること。
【解決手段】放射性核種を標識して錯体を構成するキレート剤を有する標識薬剤を含む溶液から放射性核種を標識した放射性核種標識薬剤を分離精製する放射性核種標識薬剤の精製方法であって、溶液を、弱酸性陽イオン交換樹脂を含むカラムに通液させた後、カラムに酸性溶液を通液させて放射性核種標識薬剤を抽出する。放射性核種は4価の放射性核種であって例えばジルコニウムである。標識薬剤はキレート剤として3価のキレート剤を用い、DOTAまたはNOTAを含む。弱酸性陽イオン交換樹脂は官能基としてカルボキシル基を有する。標識薬剤が、前立腺特異抗原結合性薬剤、ソマトスタチン受容体結合性薬剤、または線維芽細胞活性化タンパク質結合性薬剤である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種を標識して錯体を構成するキレート剤を有する標識薬剤を含む溶液から前記放射性核種を標識した放射性核種標識薬剤を分離精製する放射性核種標識薬剤の精製方法であって、
前記溶液を、弱酸性陽イオン交換樹脂を含むカラムに通液させた後、前記カラムに酸性溶液を通液させて前記放射性核種標識薬剤を抽出する
放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項2】
前記放射性核種は、4価の放射性核種である
請求項1に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項3】
前記放射性核種は、ジルコニウムである
請求項2に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項4】
前記キレート剤は、3価のキレート剤である
請求項1に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項5】
前記キレート剤は、DOTAまたはNOTAを含む
請求項4に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項6】
前記弱酸性陽イオン交換樹脂は、官能基としてカルボン酸基を有する
請求項1に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項7】
前記標識薬剤は、前立腺特異抗原結合性薬剤、ソマトスタチン受容体結合性薬剤、または線維芽細胞活性化タンパク質結合性薬剤である
請求項1に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種標識薬剤の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放射性核種を標識したペプチド(放射性核種標識ペプチド)は、放射性診断薬や放射線内用治療薬として実用的に使用されている。放射性核種標識ペプチドは、特にがんに対する核医学診断薬や核医学治療薬として有望であるとして注目されている。ペプチドとしては、ソマトスタチン受容体に結合するDOTA-TATEや、前立腺特異抗原に結合するPSMA-617や、線維芽細胞活性化タンパク質(Fibroblast Activation Protein:FAP)結合性薬剤であるFAPI-04やFAPI-2286などが研究されている。また、それぞれのペプチドでは、化学構図を改変した多くの派生物質も検討されている。ソマトスタチン受容体を標的としたペプチドは神経内分泌腫瘍に対する核医学診断薬、治療薬としてすでに実用化されている。前立腺特異抗原を標的としたペプチドは前立腺がんに対する核医学診断薬、治療薬として期待されており、一部は実用化が始まっている。FAPは、がん関連線維芽細胞(CAF)で過剰発現するものの正常細胞はほとんど発現しないことから、がんに対する汎用的なターゲット抗原として注目されている(非特許文献1参照)。
【0003】
放射性核種標識ペプチドは、適切なキレートを含有するペプチドに対して金属放射性核種を錯体化させることにより標識する。標識反応において、金属放射性核種はペプチドに高い割合で標識されるものの、一部は未反応の状態で標識反応溶液中に遊離放射性核種として残存する。従来、未反応の遊離放射性核種を除去するために、C18カラムなどの逆相固相抽出カラムを用いて精製が行われる。すなわち、ペプチドは疎水性相互作用によってカラムに吸着する一方、金属放射性核種はカラムに吸着しないため、ペプチドをカラムに選択的に吸着させることができる。逆相カラムに吸着したペプチドは、逆相カラムにエタノールを通液させることによって、溶出させることができる。このように逆相カラムに一旦ペプチドを選択吸着させた後に溶出させる方法によって精製を行い、遊離放射性核種の除去を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Development of Quinoline-Based Theranostic Ligands for the Targeting of Fibroblast Activation Protein”, JOURNAL OF NUCLEAR MEDICINE, 2018, 59 (9) 1415-1422.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術においては、放射性核種が標識されていないペプチドを除去することができないという問題があった。すなわち、逆相カラムに対するペプチドの疎水性相互作用によってペプチドが逆相カラムに選択吸着しているため、標識したペプチド(以下、標識ペプチド)も、標識していないペプチド(以下、非標識ペプチド)も区別されることなく疎水性のカラムに吸着してしまう。非標識ペプチドは放射性診断薬や放射線内用治療薬としては利用できないため除去することが望ましい。そのため、本発明者は、放射性核種標識薬剤において、放射性核種を標識していないペプチドを除去できる技術の開発の必要性を見出した。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、放射性核種標識薬剤において放射性核種を標識していないペプチドを除去することができる放射性核種標識薬剤の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、放射性核種を標識して錯体を構成するキレート剤を有する標識薬剤を含む溶液から前記放射性核種を標識した放射性核種標識薬剤を分離精製する放射性核種標識薬剤の精製方法であって、前記溶液を、弱酸性陽イオン交換樹脂を含むカラムに通液させた後、前記カラムに酸性溶液を通液させて前記放射性核種標識薬剤を抽出する。
【0008】
本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、上記の発明において、前記放射性核種は、4価の放射性核種である。本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、この構成において、前記放射性核種は、ジルコニウムである。
【0009】
本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、上記の発明において、前記キレート剤は、3価のキレート剤である。本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、この構成において、前記キレート剤は、DOTAまたはNOTAを含む。
【0010】
本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、上記の発明において、前記弱酸性陽イオン交換樹脂は、官能基としてカルボン酸基を有する。
【0011】
本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、上記の発明において、前記標識薬剤は、前立腺特異抗原結合性薬剤、ソマトスタチン受容体結合性薬剤、または線維芽細胞活性化タンパク質結合性薬剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る放射性核種標識薬剤の精製方法によれば、放射性核種標識薬剤において放射性核種を標識していないペプチドを除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態による放射性核種標識薬剤の精製方法を説明するための模式図である。
図2図2は、従来技術による放射性核種標識薬剤の精製方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0015】
まず、本発明の実施形態を説明するにあたり、本発明の理解を容易にするために、本発明者が上記課題を解決するために行った鋭意検討について説明する。なお、本明細書において、アミド結合を含む直鎖状化合物を広義に、「ペプチド」と称する。すなわち、本明細書において「ペプチド」とは、天然アミノ酸のみで構成されたペプチドに限定されない。
【0016】
図2は、従来技術による放射性核種標識薬剤の精製方法を説明するための図である。図2に示すように、従来の放射性核種標識薬剤の精製方法においては、まず、カラムに純水を通液させることにより、活性化(以下、コンディショニング)を行う。カラムを通過した水からなる通過液は廃棄する。なお、コンディショニングが不要なカラムの場合には、この処理を省略可能である。なお、純水の代わりに、エタノール(C25OH)と純水との混合液(エタノール水溶液)を用いることも可能である。
【0017】
次に、放射性核種標識リガンド溶液をカラムに通液させる。これにより、放射性核種標識リガンドがカラムに吸着される。カラムを通過した遊離放射性核種を含む通過液は廃棄する。続いて、カラムに純水を通過させることにより、カラムの洗浄を行う。カラムを洗浄した後の通過液は廃棄する。なお、純水の代わりに、エタノールの濃度が10~30%で純水との混合液であるエタノール水溶液を用いることも可能である。
【0018】
カラムを純水によって洗浄した後、カラムに、エタノールの濃度が例えば70%以上で純水との混合液である高濃度のエタノール水溶液を通液させて、エタノール水溶液に、カラムに吸着した放射性核種標識リガンドを溶出させる。放射性核種標識リガンドが溶出されたエタノール水溶液は、カラムを通過した後に回収される。ここで、放射性核種標識リガンドを含む溶液(放射性核種標識リガンド溶液)を人体に投与することを考慮すると、エタノールを人体に投与するのは好ましくない。そのため、回収されたエタノール溶液は、エバポレーション、すなわち蒸発乾固によってエタノールが除去される。すなわち、カラムを通過したエタノール溶液は放射性核種標識リガンドが含まれた状態で蒸発乾固される。その後、乾燥した放射性核種標識リガンドは、生理食塩水によって再溶解されて製剤化される。また、カラムは廃棄される。
【0019】
しかしながら、図2に示す従来の放射性核種標識薬剤の精製方法においては、放射性核種が標識されていないペプチドを除去することができないという問題があった。すなわち、逆相カラムに対するペプチドの疎水性相互作用によってペプチドが逆相カラムに選択吸着しているため、標識ペプチドも非標識ペプチドも区別されることなく疎水性のカラムに吸着してしまう。非標識ペプチドが存在すると、例えばPET(ポジトロン断層法)検査などにおいて癌細胞などに結合させる際に、標識ペプチドと癌細胞との結合を非標識ペプチドが阻害する現象(セルフブロッキング)などが考えられる。このような点から本発明者は、放射性核種標識薬剤において、放射性核種を標識していないペプチドを除去する必要性を見出した。
【0020】
ここで本発明者は、上述した従来の放射性核種標識薬剤の精製方法において、放射性核種を標識可能な、例えば以下の化学式(1)に示す線維芽細胞活性化タンパク質(Fibroblast Activation Protein:FAP)阻害剤(Inhibitor)(FAPI)に放射性核種を標識する場合について検討を行った。なお、放射性核種標識薬剤としては、前立腺特異抗原結合性薬剤、ソマトスタチン受容体結合性薬剤、または線維芽細胞活性化タンパク質結合性薬剤などを採用することができる。
【0021】
【化1】
【0022】
この場合、結合収率(放射化学的収率)が100%未満になることがあり、リガンドに結合していない放射性核種(遊離放射性核種)を除去する必要がある。そこで、従来、放射性医薬品として用いられる放射性核種標識薬剤の精製においては、一般に、例えばC18カラムなどの疎水性の固相抽出カラムを用いた固相抽出法によって精製が行われる。C18カラム(ODSカラムとも言う)は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析などに用いられるカラムの一種であって、以下の化学式(2)式に示すオクタデシルシリル(Octa Decyl Silyl:ODS)基(C1837Si)によって表面が修飾された化学結合型多孔性球状シリカゲル(Si)が固定相として充填されている。これにより、遊離放射性核種はカラムに吸着せず、放射性核種標識薬剤がカラムに吸着され、カラムに吸着した放射性核種標識薬剤を回収可能になる。
【0023】
【化2】
【0024】
ここで、放射性核種標識薬剤の精製においては、放射性核種を標識した標識ペプチドが存在する一方、放射性核種を標識していない非標識ペプチドが存在する場合がある。上述したように遊離放射性核種を除去する際に、ペプチドの疎水性を利用して標識ペプチドをカラムに選択吸着させている。そのため、標識ペプチドも非標識ペプチドも区別なくカラムに吸着してしまう。この点、本発明の知見によれば、非標識ペプチドは放射性診断薬や放射線内用治療薬として利用できないことから除去することが望ましい。
【0025】
そこで本発明者はさらに鋭意検討を行った。すなわち、ペプチドに含まれるキレート剤として例えば、以下の一般式(3)式に示す1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸(1,4,7,10-Tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic Acid:DOTA)や、一般式(4)に示す1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-トリ酢酸(1,4,7-triazacyclononane-1,4,7-triacetic Acid:NOTA)などの3価のキレート剤を採用した。また、放射性核種として、例えばジルコニウム(Zr)などの4価の放射性核種を採用した。これらの場合、放射性核種との錯体を形成した状態においては、イオン間相互作用によって標識ペプチドを分離可能であることを想到した。
【0026】
【化3】
(一般式(3)において、R1,R2,R3,R4はそれぞれ、水素(-H)(この場合、R5~R12のうちでさらに接続するものは存在しないとする)、-CH-基、-(CH2nCH-基、-N(=O)(CH2nNCH-基、または-(CH2nNC(=O)N-基である。nは0以上の整数である。R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,R20のうちの少なくとも2つは、カルボン酸、1級アミド、ヒドロキサム酸、ホスホン酸、リン酸、スルホン酸、アルコール、アミン、フェノール、アニリン、また上記に置換基を付加した、エステル、2級アミド、ヒドロキサム酸、リン酸エステルから少なくとも2つ選ばれ、残りの置換基は、水素、アルキル鎖、tert-ブチル保護カルボン酸、ニトロベンゼン、または置換基付加アルキル鎖である。R5~R20に含まれる官能基には、PETプローブ、またはPETプローブを結合させやすくする官能基が付加されていてもよい。結合させやすくする官能基とは、カルボン酸、カルボン酸スクシンイミドエステル、カルボン酸テトラフルオロフェノールエステル、アルコール、アミン、チオール、イソチオシアネート、マレイミド、フェノール、アニリン、安息香酸、フェニルイソチオシアネート、または、クリックケミストリー試薬である、アルキン、アジド、DBCO、BCN、TCO、ノルボルネン、テトラジン、もしくはメチルテトラジンである。R5~R20は、結合させやすくする官能基の構造、またはPETプローブと結合させやすくする官能基との縮合済みの構造があってもよい。)
(一般式(4)において、R21,R22,R23はそれぞれ、水素(-H)(この場合、R24~R29のうちでさらに接続するものは存在しないとする)、-CH-基、-(CH2nCH-基、-N(=O)(CH2nNCH-基、または-(CH2nNC(=O)N-基である。nは0以上の整数である。R24,R25,R26,R27,R28,R29,R30,R31,R32,R33,R34,R35のうちの少なくとも2つは、カルボン酸、1級アミド、ヒドロキサム酸、ホスホン酸、リン酸、スルホン酸、アルコール、アミン、フェノール、アニリン、また上記に置換基を付加した、エステル、2級アミド、ヒドロキサム酸、リン酸エステルから少なくとも2つ選ばれ、残りの置換基は、水素、アルキル鎖、tert-ブチル保護カルボン酸、ニトロベンゼン、または置換基付加アルキル鎖である。R24~R35に含まれる官能基には、PETプローブ、またはPETプローブを結合させやすくする官能基が付加されていてもよい。結合させやすくする官能基とは下記の官能基である。カルボン酸、カルボン酸スクシンイミドエステル、カルボン酸テトラフルオロフェノールエステル、アルコール、アミン、チオール、イソチオシアネート、マレイミド、フェノール、アニリン、安息香酸、フェニルイソチオシアネート、またはクリックケミストリー試薬である、アルキン、アジド、DBCO、BCN、TCO、ノルボルネン、テトラジン、もしくはメチルテトラジンである。R24~R35は、結合させやすくする官能基の構造、またはPETプローブと結合させやすくする官能基との縮合済みの構造があってもよい。)
【0027】
本発明者は具体的に、放射性ジルコニウムなどの放射性核種を標識した標識ペプチドと、未反応の放射性ジルコニウムなどの遊離放射性核種と、非標識ペプチドと、が含まれた標識反応溶液を、弱酸性陽イオン交換樹脂を含むカラムに通液させた。その結果、本発明者は、陽イオン交換カラムによって標識ペプチドを選択的に抽出できることを見出した。すなわち、放射性核種標識ペプチドを陽イオン交換カラムに一旦吸着させて選択的に保持させてから溶離することによって、遊離放射性核種および非標識ペプチドから、目的物質である放射性核種を標識したペプチド(以下、放射性核種標識ペプチド)を回収することができた。
【0028】
このような実験に基づいて本発明者が検討を行い、カルボン酸の一つがアミド結合した状態のDOTAのような3価のキレート剤とジルコニウムなどの4価の放射性核種とは、結合すると+1価の錯体を生成する点に着目した。すなわち、3価のキレート剤と4価の放射性核種とが結合することで+1価の錯体が生成されるのに対し、非標識ペプチドにおいては正電荷が存在しない点に着目した。この点から本発明者は、+1価の錯体となる標識ペプチドと、正電荷が存在しない非標識ペプチドとの価数の差を利用して非標識ペプチドを分離する、放射性核種標識薬剤の分離方法を想到し、陽イオン交換によって分離を行う方法を案出した。
【0029】
さらに本発明者は検討を進め、陽イオン交換樹脂の官能基としてカルボキシル基(COO-:カルボニル基)を有する、いわゆる弱酸性陽イオン交換樹脂を使用することが好ましいことを見出した。本発明者が実験を行ったところ、弱酸性陽イオン交換樹脂カラムに放射性核種標識ペプチドを通液させるとイオン間相互作用によって、放射性核種標識ペプチドは弱酸性陽イオン交換樹脂カラムに保持されることが確認された。その後、カラムを洗浄するために酸性溶液をカラムに通液させると、弱酸性陽イオン交換樹脂におけるカルボキシル基(COO-)はカルボン酸(COOH)になって電荷を失うことによりイオン交換作用を失うため、放射性核種標識ペプチドをカラムから溶離させることができる。以下に説明する一実施形態は本発明者による以上の鋭意検討により案出されたものである。
【0030】
次に、本発明の一実施形態による放射性核種標識薬剤の生成方法について説明する前に、放射性核種錯体の生成方法について説明する。本実施形態においては、放射性核種として例えばジルコニウムを用い、ペプチドに含まれるキレート剤としてDOTAを用いた場合における放射性核種錯体の生成方法の一例について説明する。
【0031】
まず、マイクロチューブに、放射性核種標識薬剤として、所定濃度のキレート剤溶液として例えばDOTAを含む化合物が溶解されたDOTA溶液を導入する。次に、マイクロチューブ内に、略中性の緩衝溶液を導入する。緩衝溶液としては例えば、pHが7.0のHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)を緩衝溶液として用いることができ、濃度は、典型的には0.25mol/L以上1.2mol/L以下、好適には0.25mol/L以上1mol/L以下である。次に、例えばDMSOを含む有機溶媒を、マイクロチューブに導入する。以上のDOTA溶液、緩衝溶液、および有機溶媒をマイクロチューブに導入する順序は、上述した順序に限定されず、種々の順序で導入することが可能である。
【0032】
DOTA溶液、緩衝溶液、および有機溶媒をマイクロチューブに導入した後、マイクロチューブ内の反応溶液に、89Zrを含有した酸性溶液(89Zr含有酸性溶液)を導入することによって、マイクロチューブ内で混合溶液を生成する。ここで、本実施形態において酸性溶液は、強酸の溶液が好ましく、具体的には塩酸(HCl)が好ましいが、必ずしも限定されない。マイクロチューブ内において、DOTA溶液、緩衝溶液、有機溶媒、および89Zr含有酸性溶液を混合させた後、所定温度で加熱して所定時間維持する。これによって、DOTAと89Zrとが反応して、89ZrにDOTAが結合したジルコニウム錯体が得られる。このようにして、放射性核種錯体が含まれる放射性核種標識リガンド溶液が得られる。
【0033】
次に、放射性核種標識薬剤の精製方法について説明する。図1は、本実施形態による放射性核種標識薬剤の精製方法を説明するための図である。なお、一実施形態による放射性核種標識薬剤の精製方法において、カラムとしては、固相として以下の化学式(5)に示す弱酸性陽イオン交換樹脂を例えば100mg含むカラム(例えばCBA樹脂:ジーエルサイエンス社製)を用いる。CBA樹脂は、カルボキシル基をシリカゲルに結合した固相である。また、標識薬剤として例えば上述した化学式(1)に示すFAPI-04を用いる。
【0034】
【化4】
【0035】
図1に示すように、一実施形態による放射性核種標識薬剤の精製方法においては、まず、カラムに生理食塩水を通液させることにより、コンディショニングを行う。カラムを通過した生理食塩水からなる通過液は廃棄する。なお、コンディショニングが不要なカラムの場合には、この処理を省略可能である。
【0036】
次に、放射性核種標識リガンド溶液を、弱酸性陽イオン交換樹脂を含むカラムに通液させる。これにより、放射性核種標識リガンドがカラムに吸着される。この場合、以下の化学式(6-1)に示すように、弱酸性陽イオン交換樹脂と放射性核種標識ペプチドとがイオン間で相互作用すると考えられる。なお、カラムを通過した遊離放射性核種を含む通過液は廃棄する。続いて、洗浄液として、例えば20%濃度のリン酸緩衝食塩水(PBS)を10mL程度カラムに通液させることにより、カラムの洗浄を行う。なお、リン酸緩衝液の代わりに生理食塩水を用いても良い。カラムを洗浄した後の通過液は廃棄される。カラムがリン酸緩衝食塩水によって洗浄された後、溶出液として、例えば20mmol/L濃度のリン酸水溶液を3mL程度通液させる。これにより、以下の化学式(6-2)に示すように、弱酸性陽イオン交換樹脂におけるカルボキシル基(COO-)がカルボン酸(COOH)になって電荷を失うことによってイオン交換作用を失う。そのため、放射性核種標識ペプチドをカラムから溶離されて、リン酸水溶液にカラムに吸着した放射性核種標識リガンドが溶出される。
【0037】
【化5】
【0038】
放射性核種標識リガンドが溶出されたリン酸水溶液は、カラムを通過した後に回収される。続いて、回収されたリン酸水溶液に対して、適量の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えて中和する。これによって、回収されたリン酸水溶液は、pH5以上pH8以下に調整されて、人体に投与可能な中性溶液となる。このようにして放射性核種標識薬剤として製剤化される。以上により、本実施形態による放射性核種標識薬剤の精製処理が終了する。
【0039】
以上のようにして得られた放射性核種標識リガンドに対して本発明者が非標識ペプチドの存在を測定したところ、非標識ペプチドは検出限界以下であり、十分に除去されていることが確認された。また、標識ペプチドの回収率を計測したところ85%程度の回収率を確保できることが確認された。
【0040】
(変形例)
また、上述した放射性核種標識薬剤以外にも種々の放射性核種標識薬剤に適用することが可能である。具体的な代表例を挙げると、以下の化学式(7)などに示すようなキレート剤を含むリガンドなども採用することが可能である。
【0041】
【化6】
【0042】
化学式(7)に示す放射性核種標識薬剤においては、以下の化学式(8)のように、弱酸性陽イオン交換樹脂カラムの弱酸性陽イオン交換樹脂とイオン間相互作用をすることが考えられる。
【0043】
【化7】
【0044】
なお、弱酸性陽イオン交換樹脂を含むカラムとして、500mgのCBA樹脂を固相として含むカラム(ジーエルサイエンス社製)を用いる。また、洗浄液としては例えば20%濃度のPBSを10mL程度用い、溶出液としては例えば20mmol/L濃度のリン酸水溶液を30mL程度用いる。以上のようにして得られた放射性核種標識リガンドに対して本発明者が非標識ペプチドの存在を測定したところ、非標識ペプチドは検出限界以下であり、十分に除去されていることが確認された。また、標識ペプチドの回収率を計測したところ65%程度の回収率を確保できることが確認された。以上により、本実施形態による放射性核種標識薬剤の精製処理が終了する。
【0045】
以上説明した一実施形態によれば、DOTAやNOTAを含む放射性核種標識薬剤において放射性核種を標識していない非標識ペプチドを除去することができる。また、カラムとして使い捨て(ディスポーザブル)のカラムを使用することができるので、品質管理が容易であるという利点がある。
【0046】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げたカラムの商品はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる商品を用いてもよく、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。
【0047】
以上説明した一実施形態において、放射性核種としてジルコニウム(89Zr)を採用したが、その他の4価の放射性核種を採用することも可能であり、3価のキレート剤としてDOTAまたはNOTAを採用しているが、その他の3価のキレート剤を採用することも可能である。すなわち、放射性核種およびキレート剤の組み合わせは本発明の技術的思想に基づいて電荷を帯びる錯体であれば種々の放射性核種およびキレート剤の組み合わせを採用することが可能である。
図1
図2