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特開2024-112517トルクコンバータ組付け装置、及びトルクコンバータの組付け方法
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  • 特開-トルクコンバータ組付け装置、及びトルクコンバータの組付け方法 図1
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  • 特開-トルクコンバータ組付け装置、及びトルクコンバータの組付け方法 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112517
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】トルクコンバータ組付け装置、及びトルクコンバータの組付け方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 65/10 20060101AFI20240814BHJP
   B23P 21/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B62D65/10 B
B23P21/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017588
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】野寺 勝己
(72)【発明者】
【氏名】丸崎 太一
【テーマコード(参考)】
3C030
3D114
【Fターム(参考)】
3C030CA01
3C030CC01
3D114AA07
3D114BA29
3D114CA09
3D114DA17
3D114EA13
3D114FA14
3D114GA01
3D114GA03
(57)【要約】
【課題】組付け設備の大型化ひいては設備コストの高騰を避けつつ、効率よく短時間でトルクコンバータをトランスミッションに組付け可能とする。
【解決手段】このトルクコンバータ組付け装置10は、トルクコンバータ4をクランプするクランプ部11と、クランプ部11を、クランプ部11でクランプされたトルクコンバータ4の回転軸まわりに回転させる回転部12と、回転軸X1が水平方向に沿った向きの前記回転部12を回転軸X1に沿った向きにスライドさせるスライド部13とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータをトランスミッションに組付けるための組付け装置であって、
前記トルクコンバータをクランプするクランプ部と、
前記クランプ部を、前記クランプ部でクランプされた前記トルクコンバータの回転軸まわりに回転させる回転部と、
回転軸が水平方向に沿った向きの前記回転部を前記回転軸に沿った向きにスライドさせるスライド部とを備えるトルクコンバータ組付け装置。
【請求項2】
前記クランプ部は、前記トルクコンバータの外周部を周方向の三箇所以上で把持可能とする複数の爪部を有し、
前記爪部は、前記トルクコンバータの径方向に移動可能に構成されると共に弾性部材により前記径方向の内側に付勢されている請求項1に記載のトルクコンバータ組付け装置。
【請求項3】
前記回転部は、前記クランプ部の外周に回転操作を行うための第一ハンドル部を有する請求項1に記載のトルクコンバータ組付け装置。
【請求項4】
前記スライド部は、前記回転部をスライド操作するための第二ハンドル部を有する請求項1に記載のトルクコンバータ組付け装置。
【請求項5】
前記クランプ部による前記トルクコンバータのクランプ状態を解除するためのクランプ解除部をさらに備え、
前記クランプ解除部は、前記クランプ部をクランプ状態からクランプ解除状態にするための解除操作部を有する請求項1に記載のトルクコンバータ組付け装置。
【請求項6】
前記トルクコンバータの回転軸を水平姿勢にした状態で、前記トルクコンバータを前記トランスミッションに組付けるに際し、
前記トランスミッションに設けられた複数のスプライン軸部と、前記トルクコンバータに設けられた前記スプライン軸部と同数のスプライン孔部とを何れも独立して回転自在とした状態で、
前記トルクコンバータを前記回転軸まわりに回転させながら前記回転軸に沿った方向に移動させて、前記複数のスプライン軸部と前記複数のスプライン孔部をそれぞれ嵌合させる、トルクコンバータの組付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータ組付け装置、及びトルクコンバータの組付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の組立てラインにおいては、エンジンとトランスミッションとの間に位置するトルクコンバータを、トランスミッションに組付けることが行われている。この種の組付け作業は、従来、トルクコンバータの中心軸(回転軸)を鉛直方向に向け、かつトランスミッションのトルクコンバータ組付け側を上方に向けた姿勢で行われていたが、この姿勢だと、トルクコンバータ内部のオイルが下方に流れ落ちるため、脱脂作業などの手間が増える問題があった。また、トランスミッションは、通常、その長手方向(回転軸方向)を水平方向に向けた状態で搬送されるので、上述のようにトルクコンバータを組付けるためにはトランスミッションの姿勢を上向きに変更する姿勢変更工程が別途必要であった。全長の大きなトランスミッションだと姿勢変更のために大きなスペースが必要となり、組立てラインによっては、姿勢変更工程を組み入れること自体が難しい場合があった。
【0003】
上述した問題を解決するべく、特許文献1には、トルクコンバータの回転軸とトランスミッションの回転軸を共に水平方向にした状態で、トルクコンバータをトランスミッションに組付け可能とする装置が提案されている。詳述すると、この特許文献には、トランスミッションのシャフト部材とトルクコンバータの回転体との位相合わせを行うための位相合わせ装置と、位相合わせされたトランスミッションとトルクコンバータとを組合わせて自動変速機を組立てるコンバータ組付け装置と、縦向き姿勢(回転軸が水平方向に沿った向きとなる姿勢)に姿勢変更されたトルクコンバータを保持して位相合わせ装置へ移送し、位相合わせ装置との協働でトランスミッションとの位相を合致させた後にコンバータ組付け装置へ移送し、コンバータ組付け装置との協働でトランスミッションに対してトルクコンバータを組付ける多関節ロボットとを備えた自動変速機の組立てラインが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-32264号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の組立てラインだと、位相合わせ装置と、組付け装置とを別個に設ける必要があり、またこれらの装置間でトルクコンバータを移動させ、かつ各装置と協働するための手段(多関節ロボット)が必要になる。そのため、組付け設備の大型化、ひいては設備コストの高騰を招き得る。また、位相合わせと組付けを別個の装置で行うことで作業効率の低下も否めない。
【0006】
以上の事情に鑑み、本明細書では、組付け設備の大型化ひいては設備コストの高騰を避けつつ、効率よく短時間でトルクコンバータをトランスミッションに組付け可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の解決は、本発明に係るトルクコンバータ組付け装置によって達成される。すなわち、この組付け装置は、トルクコンバータをトランスミッションに組付けるための組付け装置であって、トルクコンバータをクランプするクランプ部と、クランプ部を、クランプ部でクランプされたトルクコンバータの回転軸まわりに回転させる回転部と、回転軸が水平方向に沿った向きの回転部を回転軸に沿った向きにスライドさせるスライド部とを備える点をもって特徴付けられる。
【0008】
このように、本発明に係るトルクコンバータ組付け装置によれば、トルクコンバータのクランプ部と、クランプ部の回転部と、この回転部のスライド部とが一つの装置に集約される。そのため、この組付け装置一台あれば、クランプ部でトルクコンバータをクランプして、クランプ部を回転させながらスライドさせるだけで、トランスミッションに対する位相合わせを行いながらトルクコンバータの組付けを一人の作業者で行うことができる。よって、従来技術のように、位相合わせのための装置と、組付け用の装置とを別個に用意することなく、効率よく短時間でトルクコンバータの組付けを行うことが可能となる。もちろん、本発明によれば、従来のように複数の装置は必要ないので、省スペース化と設備コストの低減化が可能となる。
【0009】
また、本発明に係るトルクコンバータ組付け装置において、クランプ部は、トルクコンバータの外周部を周方向の三箇所以上で把持可能とする複数の爪部を有し、爪部は、トルクコンバータの径方向に移動可能に構成されると共に弾性部材により径方向の内側に付勢されてもよい。
【0010】
このように、クランプ部を複数の爪部で構成することによって、トルクコンバータを確実に保持することができる。また、爪部を弾性部材によりトルクコンバータの径方向内側に付勢することによって、爪部が弾性部材の付勢力に抗して径方向の外側に移動する向きにトルクコンバータを爪部に押し込むだけで、簡易にかつ容易にトルクコンバータを複数の爪部で把持することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係るトルクコンバータ組付け装置において、回転部は、クランプ部の外周に回転操作を行うための第一ハンドル部を有してもよい。
【0012】
このように、クランプ部の回転操作を行うための第一ハンドル部を設けることによって、トルクコンバータをクランプ部にセットした作業者が任意の条件(タイミング、速度など)でトルクコンバータをその回転軸まわりに回転させることができる。よって、位相合わせの作業性を高めることが可能となる。また、クランプ部の外周に第一ハンドル部を設けることで、回転部の操作性をさらに高めることが可能となる。また、第一ハンドル部を設けることで、クランプ部への回転力を作業者の手入力により付与することができるので、モータなどの駆動源を省略して軽量化並びに低コスト化を図ることが可能となる。
【0013】
また、本発明に係るトルクコンバータ組付け装置において、スライド部は、回転部をスライド操作するための第二ハンドル部を有してもよい。
【0014】
このように、クランプ部及び回転部のスライド操作を行うための第二ハンドル部を設けることによって、トルクコンバータのスライドを作業者が任意の条件で実施することができる。よって、第一ハンドル部と合わせて操作することで、位相合わせの作業性をさらに高めることが可能となる。また、第二ハンドル部を設けることで、クランプ部(回転部)へのスライド力を作業者の手入力により付与することができるので、モータなどの駆動源を省略して軽量化並びに低コスト化を図ることが可能となる。
【0015】
また、本発明に係るトルクコンバータ組付け装置は、クランプ部によるトルクコンバータのクランプ状態を解除するためのクランプ解除部をさらに備えてもよい。また、この場合、クランプ解除部は、クランプ部をクランプ状態からクランプ解除状態にするための解除操作部を有してもよい。
【0016】
このようにクランプ解除部及び解除操作部を設けることによって、位相合わせを伴ったトルクコンバータの組付けが完了した後、作業者が任意のタイミングで組付け状態のトルクコンバータからクランプ部を離脱させることができる。よって、組付けが適正になされたか否かの確認を作業者が手の感触又は目視で行った後、即時にトルクコンバータからクランプ部を離脱させて、次のワークに対する組付け作業に迅速に移行することが可能となる。あるいは、一回の位相合わせ作業で位相合わせが完了しない場合であっても、クランプ部によるトルクコンバータのクランプ状態を維持しつつ、トルクコンバータを再び回転させながらスライドさせて押込むことで、確実に位相合わせと組付けを行うことが可能となる。
【0017】
また、前記課題の解決は、本発明に係るトルクコンバータの組付け方法によっても達成される。すなわち、この組付け方法は、トルクコンバータの回転軸を水平姿勢にした状態で、トルクコンバータをトランスミッションに組付けるに際し、トランスミッションに設けられた複数のスプライン軸部と、トルクコンバータに設けられたスプライン軸部と同数のスプライン孔部とを何れも独立して回転自在とした状態で、トルクコンバータを回転軸まわりに回転させながら回転軸に沿った方向に移動させて、複数のスプライン軸部と複数のスプライン孔部をそれぞれ嵌合させる点をもって特徴付けられる。
【0018】
従来技術に係る組付け方法だと、全てのスプライン軸部が互いに回転不能に連結された状態にあるため、例えば何れか一つのスプライン孔部を回転させながら対応する軸部にスプライン嵌合して位相を合わせた後、改めて残りのスプライン孔部を回転させながら押込んでスプライン嵌合を図る必要が生じる。また、従来技術に係る方法だと、一旦位相合わせ装置に対してトルクコンバータのスプライン孔部の位相を合わせた後、位相合わせ装置から組付け装置にトランスミッションとトルクコンバータをそれぞれ移動させる手間がかかる。
【0019】
これに対して、本発明に係るトルクコンバータの組付け方法では、複数のスプライン軸部及びスプライン孔部を何れも独立して回転自在とした状態で、トルクコンバータを回転軸まわりに回転させながら回転軸に沿った方向に移動させて対応するスプライン軸部とスプライン孔部とを嵌合させるようにした。この方法によれば、最初のスプライン軸部とスプライン孔部とが嵌合した時点で、他のスプライン孔部(を有する部材)は未だ嵌合していないため回転状態を保ち得る。よって、引き続き回転軸方向に移動させることで、残りのスプライン軸部とスプライン孔部についても順次嵌合させることができる。このように、本発明に係る組付け方法によれば、一つの工程で、位相合わせと組付けを同時に行うことができるので、位相合わせ及び組付けに用いる装置の数を減らして、省スペース化と設備コストの低減化を図ることができる。また、一回の位相合わせ及び組付け作業(回転及びスライド動作)で全てのスプライン嵌合を図ることができるので、効率よく短時間で位相合わせ及び組付けを実施することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、組付け設備の大型化ひいては設備コストの高騰を避けつつ、効率よく短時間でトルクコンバータをトランスミッションに組付けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るトルクコンバータ組付け装置を備えた組立てラインの要部平面図である。
図2図1に示す組付け装置の斜視図である。
図3図2に示す組付け装置の側面図である。
図4図2に示す組付け装置の要部断面図である。
図5図2に示す組付け装置を用いたトルクコンバータの組付けの手順を説明するための図で、トルクコンバータをトルクコンバータ組付け装置に取付けた状態を示す図である。
図6図2に示す組付け装置を用いたトルクコンバータの組付けの手順を説明するための図で、トルクコンバータの姿勢を変更した状態を示す図である。
図7図2に示す組付け装置を用いたトルクコンバータの組付けの手順を説明するための図で、位相合わせを伴ってトルクコンバータをトランスミッションに組付けた状態を示す図である。
図8】トルクコンバータに設けられた複数のスプライン孔部と、トランスミッションに設けられた複数のスプライン軸部との嵌合の流れを示す図である。
図9】トルクコンバータに設けられた複数のスプライン孔部と、トランスミッションに設けられた複数のスプライン軸部との嵌合の流れを示す図である。
図10図2に示す組付け装置を用いたトルクコンバータの組付けの手順を説明するための図で、組付け後のトルクコンバータからクランプ部を取り外した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るトルクコンバータ組付け装置、及びトルクコンバータの組付け方法の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係るトランスミッションの組立てライン1の要部平面図を示している。図1に示すように、この組立てライン1は、トランスミッション2を所定の方向に搬送する搬送路3と、搬送路3の側方に配設され、トランスミッション2にトルクコンバータ4を組付けるトルクコンバータ組付け装置10とを備える。トルクコンバータ組付け装置10は、本実施形態では、搬送路3に沿ってスライドし、搬送路3上のトランスミッション2と作業者5との間の組付けスペースと、トルクコンバータ4の取付けスペースとの間を移動可能に構成されている。
【0024】
トルクコンバータ組付け装置10は、図2に示すように、トルクコンバータ4をクランプ可能なクランプ部11と、クランプ部11を所定の回転軸まわりに回転可能な回転部12と、クランプ部11及び回転部12を所定の向きにスライド可能なスライド部13とを備える。本実施形態では、トルクコンバータ組付け装置10は、クランプ部11及び回転部12の姿勢を変更可能な姿勢変更部14と、クランプ部11によるトルクコンバータ4のクランプ状態を解除するためのクランプ解除部15とをさらに備える。以下、各構成要素の詳細を説明する。
【0025】
クランプ部11は、本実施形態では、トルクコンバータ4の外周部を周方向の三箇所以上で把持可能とする複数の爪部16を有する(図2図4を参照)。図2では、三個の爪部16が周方向で等間隔に配置されている。
【0026】
また、この場合、各爪部16は、トルクコンバータ4を把持した状態でトルクコンバータ4の径方向に移動可能に構成されると共に、圧縮ばね等の弾性部材17により径方向の内側に付勢されている(図4を参照)。図示例では、リンク機構18を介して爪部16と弾性部材17とが機械的に接続されており、弾性部材17の弾性復元力でリンク機構18を介して爪部16に径方向の内側に移行する向きの力が作用する。よって、爪部16の内側にトルクコンバータ4の外周部、ここでは鍔部4aが係合した状態(図4を参照)では、弾性部材17の付勢力により爪部16とトルクコンバータ4との係合状態が維持される。
【0027】
回転部12は、図2及び図3に示すように、クランプ部11を所定の回転軸まわりに回転可能とするもので、本実施形態では、クランプ部11が取り付けられる軸部19と、軸部19を一方向又は双方向に回転可能に支持する支持部20と、軸部19と一体に回転可能な第一ハンドル部21とを有する。この場合、軸部19の中心軸X1(回転軸)と、クランプ部11(爪部16)で把持されたトルクコンバータ4の中心軸とが一致するように、クランプ部11及び回転部12を構成するのがよい。また、軸部19は支持部20に対して中心軸X1方向に移動可能に構成されてもよい。
【0028】
第一ハンドル部21の形態は原則として任意であるが、第一ハンドル部21の操作性(回転操作のし易さ)を考慮した場合、図2に示すように円環状がよい。また、同様の理由で、第一ハンドル部21は、クランプ部11の外周に配置するのがよい。
【0029】
なお、本実施形態では、矩形板状をなす支持部20の四つの側面部20aにそれぞれ一又は複数の位置調整ボルト22が設けられており(図3には紙面手前の側面部20aに設けられた位置調整ボルト22のみが描かれている)、これら複数の位置調整ボルト22の長手方向位置を調整することにより、軸部19の芯出しを可能としている。同様に、支持部20の端面部20bに一又は複数の角度調整ボルト23が設けられており(図3には紙面左側の端面部20bに設けられた角度調整ボルト23のみが描かれている)、当該角度調整ボルト23の長手方向位置を調整することにより、軸部19の水平方向に対する角度を調整可能としている。
【0030】
クランプ解除部15は、例えばディスク状をなしリンク機構18と連動可能に構成されている。また、このクランプ解除部15は、周方向の複数箇所に解除操作部としての把持部(図示は省略)を有する。この場合、作業者5がクランプ解除部15を把持して例えばクランプ部11の側に押込むことで、リンク機構18を介して爪部16が径方向外側に移動可能に構成されている。
【0031】
姿勢変更部14は、例えば基部24と、基部24の一端(ここでは上端)に設けられた軸部25と、軸部25まわりに所定角度(ここでは90°)回動可能な回動部とを有する。本実施形態では、回転部12の支持部20が姿勢変更部14の回動部に相当し、軸部25まわりに所定角度回動可能に構成されている。具体的には、軸部19の中心軸X1が水平姿勢となる角度から、軸部19の中心軸X1が鉛直姿勢となる角度までの範囲で支持部20が回動可能とされている。なお、本実施形態では、回動動作は作業者5の手入力(手動)により実施可能であるが、もちろん何らかの操作により機械的に回動可能な構成としてもよい。
【0032】
スライド部13は、クランプ部11を所定の方向にスライド可能とするもので、例えば図2に示すように、相対移動を行う一対のレール(移動側レール26、固定側レール27)を有する。本実施形態では、クランプ部11、回転部12、及び姿勢変更部14を一体にスライド可能に構成されている。この際、スライド方向は、例えば軸部19の中心軸X1が水平姿勢にある状態で、軸部19の中心軸X1に沿った方向に設定される。
【0033】
また、本実施形態では、スライド部13は、移動側レール26と一体に設けられた第二ハンドル部28を有する。図3では、軸部19の後端にレバー状の第二ハンドル部28を設けた場合を例示している。
【0034】
次に、上記構成のトルクコンバータ組付け装置10を用いたトルクコンバータ4の組付け方法の一例を手順に沿って説明する。
【0035】
(S1)取付け工程
まず、図5に示すように、軸部19の中心軸X1が鉛直姿勢にあるクランプ部11にトルクコンバータ4を取付ける。具体的には、図1中の実線で示すように、取付けスペースにある組付け装置10のクランプ部11に向けて、作業者5が上方からトルクコンバータ4を押込む。これにより、クランプ部11の爪部16がトルクコンバータ4の外周部(ここでは鍔部4a)により外径側に押し拡げられた後、当該外周部とクランプ部11の複数の爪部16とが係合し、これら複数の爪部16によりトルクコンバータ4が円周方向の複数箇所で把持される。また、トルクコンバータ4の中央一端側の凸部4bが、クランプ部11の中央孔部に嵌合固定される。この時点で、トルクコンバータ4の中心軸は軸部19の中心軸X1に一致している。なお、本実施形態では、トルクコンバータ組付け装置10が組付けスペースにある状態(図1中、二点鎖線で示す状態)でトルクコンバータ4をクランプ部11に取付けた場合を説明したが、トルクコンバータ組付け装置10が取付けスペースにある状態(図1中、実線で示す状態)でトルクコンバータ4をクランプ部11に取付けてもよい。
【0036】
(S2)姿勢変更工程
次に、姿勢変更部14により、軸部19の中心軸X1を鉛直姿勢から水平姿勢に変更する(図6を参照)。本実施形態では、作業者5が例えば第一ハンドル部21を把持してクランプ部11を回転部12とともに軸部25まわりに90°回転させる。これにより、クランプ部11にクランプされたトルクコンバータ4の姿勢も変更され、その中心軸が水平姿勢に変更される。また、この際、トルクコンバータ組付け装置10に隣接する位置のトランスミッション2を支持するパレット6に搭載された鉛直軸まわりの回転機構(図示は省略)によりトランスミッション2を鉛直軸まわりに回転させて、トランスミッション2の中心軸X2を90°回転させる。これにより、軸部19の中心軸X1(ひいてはトルクコンバータ4の中心軸)と、トランスミッション2の中心軸X2とを一致させる(図6を参照)。
【0037】
(S3)組付け工程
然る後、組付け装置10のスライド部13によりクランプ部11及び回転部12を軸部19の中心軸X1に沿ってスライドさせる。また、このスライド動作を、回転部12によりクランプ部11を回転させながら行うことにより、トランスミッション2のスプライン軸部7a,7bを、トルクコンバータ4のスプライン孔部8a,8bにそれぞれ嵌合させる。
【0038】
具体的に述べると、まず作業者5は図6に示す状態から、例えば第一ハンドル部21を把持して、回転部12(第一ハンドル部21)に軸部19の中心軸X1まわりの回転力を付与する。これにより、クランプ部11とクランプ部11に把持された状態のトルクコンバータ4、及び軸部19とが中心軸X1まわりに所定方向の回転を開始する。この際、クランプ部11及び軸部19の回転(惰性回転)が一定時間継続するように、所定の回転速度(例えば100rpm以上)で回転させてもよい。惰性回転が一定時間継続すれば、回転操作を止めてスライド動作に専心できる。また、当該回転の継続中に、後述する全てのスプライン軸部7a,7bとスプライン孔部8a,8bとの嵌合を完了させるのがよい。
【0039】
本実施形態では、トルクコンバータ4はその外郭部(鍔部4a、中央一端側の凸部4b)を把持されたのみの状態で、またトランスミッション2は、パレット6上で下方から支持されたのみの状態にある。そのため、組付け工程S3の実施開始時、トランスミッション2のスプライン軸部7a,7bは互いに独立して回転自在な状態にある。また、トルクコンバータ4のスプライン孔部8a,8bも互いに独立して回転自在な状態にある。
【0040】
このようにトルクコンバータ4を中心軸X1まわりに回転させた状態で、スライド部13によりクランプ部11と回転部12を中心軸X1に沿った向きにスライドさせる。これにより、トランスミッション2のスプライン軸部7a,7bに対するトルクコンバータ4のスプライン孔部8a,8bの位相合わせがなされた後、位相合わせがなされたスプライン軸部7a,7bを順次スプライン孔部8a,8bに嵌合させる。図8及び図9は、上述したスプライン軸部7a,7bとスプライン孔部8a,8bとの嵌合の順序を示している。まず、スライド部13によりトルクコンバータ4をトランスミッション2に向けてスライドさせていき、第一スプライン孔部8aと第一スプライン軸部7aとを軸方向に当接させる。この際、第一スプライン孔部8aが回転状態にあることで、第一スプライン孔部8aと第一スプライン軸部7aとの位相が一致した時点で、第一スプライン軸部7aに対する第一スプライン孔部8aの嵌合動作が開始される(図8を参照)。
【0041】
このようにして第一スプライン軸部7aに対する第一スプライン孔部8aの嵌合がなされた後も引き続きトルクコンバータ4をトランスミッション2に向けてスライドさせていくことで、第二スプライン孔部8bと第二スプライン軸部7bとを軸方向に当接させる。この際、第二スプライン孔部8bが回転状態にあることで、第二スプライン孔部8bと第二スプライン軸部7bとの位相が一致した時点で、第二スプライン軸部7bに対する第二スプライン孔部8bの嵌合動作が開始される(図9を参照)。以上のようにして、全てのスプライン軸部7a,7bとスプライン孔部8a,8bとの位相合わせ並びに嵌合が完了することで、トランスミッション2に対するトルクコンバータ4の組付けが完了する。
【0042】
然る後、クランプ解除部15の解除操作部を作業者5が把持して所定の操作を行うことで、クランプ部11からトルクコンバータ4を取り外した後、スライド部13によりクランプ部11を後退させることで、組付け済みのトランスミッション2を搬送し、未組付け状態のトランスミッション2を受け入れる。このようにしてトランスミッション2に対するトルクコンバータ4の組付け作業が連続的に実施され得る。
【0043】
以上述べたように、本実施形態に係るトルクコンバータ組付け装置10では、トルクコンバータ4のクランプ部11と、クランプ部11の回転部12と、この回転部12のスライド部13とを一つの装置に一体化した。そのため、この組付け装置10一台あれば、クランプ部11でトルクコンバータ4をクランプして、クランプ部11を回転させながらスライドさせるだけで、トランスミッション2に対する位相合わせを行いながらトルクコンバータ4の組付けを一人の作業者5で行うことができる。よって、従来技術のように、位相合わせのための装置と、組付け用の装置とを別個に用意することなく、効率よく短時間でトルクコンバータ4の組付けを行うことが可能となる。また、本実施形態に係る組付け装置10であれば一つで足りるので、従来技術に比べて省スペース化と設備コストの低減化が可能となる。
【0044】
また、本実施形態では、クランプ部11を、トルクコンバータ4の外周部を周方向の三箇所以上で把持可能とする複数の爪部16で構成し、かつ爪部16が、トルクコンバータ4の径方向に移動可能に構成されると共に弾性部材17により径方向の内側に付勢されるようにした。このように、クランプ部11を複数の爪部16で構成することによって、モータやシリンダなどの駆動源を用いる必要なくトルクコンバータ4をクランプできるので、クランプ部11を軽量化できる。軽量化できれば、このクランプ部11を第一ハンドル部21の操作により手動(手入力)で回転させながらスライドさせることが可能となる。よって、トルクコンバータ組付け装置10全体としての小型化を図ることが可能となる。小型化できれば組立てライン1(を構成するトランスミッション2の搬送路3)の側方に無理なく配置できる。
【0045】
また、本実施形態では、複数の爪部16によりトルクコンバータ4の外周部(ここでは鍔部4a)を円周方向の複数箇所で把持すると共に、トルクコンバータ4の中央一端側の凸部4bを、クランプ部11の中央孔部に嵌合固定したので、より確実にトルクコンバータ4の芯出しを図って、回転部12の回転軸となる軸部19の中心軸X1を、トルクコンバータ4の中心軸に一致させることができる。
【0046】
また、本実施形態では、クランプ部11と回転部12、及びスライド部13の何れについても、モータやシリンダなどの駆動源を用いることなく駆動可能な構成としたので、トルクコンバータ組付け装置10をよりコンパクトにかつ簡素化して、さらなる省スペース化並びに設備コストの低減化が可能となる。
【0047】
また、本実施形態に係るトルクコンバータ4の組付け方法では、複数のスプライン軸部7a,7b及びスプライン孔部8a,8bを何れも独立して回転自在とした状態で、トルクコンバータ4をその回転軸となる軸部19の中心軸X1まわりに回転させながら中心軸X1に沿った方向に移動させて対応するスプライン軸部7a,7bとスプライン孔部8a,8bとを嵌合させるようにした。この方法によれば、最初のスプライン軸部とスプライン孔部(第一スプライン軸部7aと第一スプライン孔部8a)とが嵌合した時点で、他のスプライン孔部8b(を有する部材)は未だ嵌合していないため回転状態を保ち得る。よって、引き続き中心軸X1方向に移動させることで、残りのスプライン軸部7bとスプライン孔部8bについても順次嵌合させることができる。このように、本実施形態に係るトルクコンバータ4の組付け方法によれば、一回の位相合わせ及び組付け作業(回転及びスライド動作)で全てのスプライン嵌合を図ることができるので、効率よく短時間で位相合わせ及び組付けを実施することができる。
【0048】
また、この際、作業者5が第一ハンドル部21を把持した状態からクランプ部11に回転力を付与した後、惰性回転が継続している間に全てのスプライン嵌合を終わらせるようにすれば、一回の回転動作と押込み動作のみで効率よく短時間に組付け作業を終えることが可能となる。また、上述の条件を満たす程度の回転速度(例えば100rpm以上)で第一ハンドル部21を回転させることで、トルクコンバータ4の各スプライン孔部8a,8bに、各々の回転軸を中心軸X1に一致させようとする有効な大きさの求心力が作用する。図6等のように、トルクコンバータ4を水平姿勢でトランスミッション2に組み付けようとした場合、トルクコンバータ4内部の回転部材(タービン、ステータなど)が重力の影響で斜め下方に傾きやすい傾向にあるところ、上述のように所定の回転速度で第一ハンドル部21(クランプ部11)を回転させて有効な大きさの求心力を付与することで、位相合わせと同時に芯出しを行うことが可能となる。よって、容易に組付けを行うことが可能となる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明に係るトルクコンバータ組付け装置、及びトルクコンバータの組付け方法は、上記例示の構成に限られることなく、本発明の範囲内において種々の変更が可能なことはもちろんである。
【0050】
例えば上記実施形態では、クランプ部11として、トルクコンバータ4の外周部を円周方向の複数箇所で把持可能な爪部で構成した場合を例示したが、もちろんこれ以外の構成をとることも可能である。もちろん、その際も、ばねや樹脂部材の弾性復元作用でシリンダ等の駆動源を用いることなく自動的にトルクコンバータ4を保持可能な構成とすることが好ましい。
【0051】
また、上記実施形態では、回転部12を手動で操作するための第一ハンドル部21として、環状ハンドル形状をなすものを例示したが、もちろんこれには限られない。例えばレバーや取っ手など、凡そ作業者5が把持して中心軸X1まわりに回転可能な形態をなすものであれば、第一ハンドル部21は任意の形態をとることが可能である。
【0052】
また、上記実施形態では、スライド部13の移動側(移動側レール26、クランプ部11、回転部12)を手動で操作するための第二ハンドル部28として、レバー形状をなすものを例示したが、もちろんこれには限られない。凡そ作業者が把持して中心軸X1に沿って押し引き可能な形態をなすものであれば、第二ハンドル部28は任意の形態をとることが可能である。
【0053】
また、上記実施形態では、トルクコンバータ組付け装置10の構成要素(クランプ部11、回転部12、スライド部13、姿勢変更部14、クランプ解除部15)を何れもモータやシリンダなどの動力源なしに手動で駆動可能とした場合を例示したが、もちろん、適正な組付け作業を阻害しない範囲内で一部をモータなどの駆動源で駆動してもかまわない。例えば図示は省略するが、回転部12にモータを設けて、クランプ部11を中心軸X1まわりに回転させてもよい。この場合、所定の回転速度でクランプ部11の回転をかいしした後、モータの駆動を停止して(もしくはモータからの動力伝達を遮断して)、クランプ部11及びクランプ部11に保持された状態のトルクコンバータ4を惰性回転させてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 組立てライン
2 トランスミッション
3 搬送路
4 トルクコンバータ
4a 鍔部
4b 凸部
5 作業者
6 パレット
7a,7b スプライン軸部
8a,8b スプライン孔部
10 トルクコンバータ組付け装置
11 クランプ部
12 回転部
13 スライド部
14 姿勢変更部
15 クランプ解除部
16 爪部
17 弾性部材
18 リンク機構
19 軸部
20 支持部
21 第一ハンドル部
22 位置調整ボルト
23 角度調整ボルト
24 基部
25 軸部
26 移動側レール
27 固定側レール
28 第二ハンドル部
X1 中心軸(クランプ部、軸部)
X2 中心軸(トランスミッション)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10