(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112540
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】土壌水分量検出センサ及び土壌水分量測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 22/04 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
G01N22/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017649
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 直人
(72)【発明者】
【氏名】松沢 晋一郎
(72)【発明者】
【氏名】水野 健太朗
(57)【要約】
【課題】測定したい深さの土壌中の水分量を高い精度で測定する。
【解決手段】土壌水分量検出センサ10は、保護層21、導体メッシュ層22、電波が伝播する誘電体層23、シールド層24と、保護層25とが積層されて構成されている。シールド層24は、誘電体層23の一方の面に設けられアルミ等の導電性材料により構成されている。また、導体メッシュ層22は、誘電体層23の他方の面に設けられ、送信アンテナ及び受信アンテナが装着される領域と、センシング領域のみが導電性材料によるメッシュ状となっていて、その他の領域がシールド層24と同じシールド構造となっている。そして、保護層21、25は、それぞれ、シールド層24及び導体メッシュ層22を覆うように構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中の水分量を検出するための土壌水分量検出センサであって、
電波が伝播する誘電体層と、
前記誘電体層の一方の面に設けられ導電性材料により構成されたシールド層と、
前記誘電体層の他方の面に設けられ、送信アンテナ及び受信アンテナが装着される領域と土壌中に挿入された際に水分量を測定するためのセンシング領域が導電性材料によるメッシュ状となっていて、その他の領域が前記シールド層と同じシールド構造となっているメッシュ層と、
前記シールド層及び前記メッシュ層を覆うように構成された保護層と、
を備えた土壌水分量検出センサ。
【請求項2】
送信アンテナと、
受信アンテナと、
電波が伝播する誘電体層と、前記誘電体層の一方の面に設けられ導電性材料により構成されたシールド層と、前記誘電体層の他方の面に設けられ、送信アンテナ及び受信アンテナが装着される領域と土壌中に挿入された際に水分量を測定するための領域が導電性材料によるメッシュ状となっていて、その他の領域が前記シールド層と同じシールド構造となっているメッシュ層と、前記シールド層及び前記メッシュ層を覆うように構成された保護層とを備えた土壌水分量検出センサと、
前記受信アンテナにより受信された受信信号の状態に基づいて、前記メッシュ層のセンシング領域に近接している土壌中の水分量を判定する判定部と、
を備えた土壌水分量測定装置。
【請求項3】
前記判定部は、予め測定された受信信号強度と土壌の含水率との対応関係を用いて、受信信号における受信信号強度から、前記メッシュ層のセンシング領域に近接している土壌の含水率を土壌中の水分量として判定する請求項2記載の土壌水分量測定装置。
【請求項4】
前記判定部は、予め測定された土壌の含水率とチャネル状態情報とを学習データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、受信信号におけるチャネル状態情報から、前記メッシュ層のセンシング領域に近接している土壌の含水率を土壌中の水分量として判定する請求項2記載の土壌水分量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌水分量検出センサ及び土壌水分量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物等の植物を栽培する圃場を管理する場合、植物を順調に生育させるためには、土壌中の水分量が適切となるように調節する必要がある。そして、圃場の土壌水分量を測定して正確な値を把握することができれば、適切なタイミングで給水を行うことができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、計測対象部位に計測用送信アンテナと計測用受信アンテナとを設定して、計測用受信アンテナにて受信した計測電波の強度を計測して計測対象部位の湿度を検出する無線式土壌湿度計測装置が開示されている。しかし、この特許文献1では、計測対象部位を植木鉢とした場合のみしか示されていない。そして、この特許文献1に開示された技術では、土壌中において電波を伝播させているため、マルチパスによる影響を受けて測定精度が悪化する。特に、特許文献1に開示された技術において、計測対象部位を植木鉢ではなく実際の土壌とする場合には受信アンテナと送信アンテナをともに土壌中に埋める必要があり電波が周囲にも広がってしまい特定の場所の水分量を精度良く検出することができない。また、特許文献1に開示された技術では、受信アンテナと送信アンテナをともに土壌中に埋める必要があるため、金属腐食を発生させたりする等の課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、測定したい深さの土壌中の水分量を高い精度で測定することが可能な土壌水分量検出センサ及び土壌水分量測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様の土壌水分量検出センサは、土壌中の水分量を検出するための土壌水分量検出センサであって、
電波が伝播する誘電体層と、
前記誘電体層の一方の面に設けられ導電性材料により構成されたシールド層と、
前記誘電体層の他方の面に設けられ、送信アンテナ及び受信アンテナが装着される領域と土壌中に挿入された際に水分量を測定するためのセンシング領域が導電性材料によるメッシュ状となっていて、その他の領域が前記シールド層と同じシールド構造となっているメッシュ層と、
前記シールド層及び前記メッシュ層を覆うように構成された保護層と、を備えている。
【0007】
また、本発明の第2態様の土壌水分量測定装置は、送信アンテナと、
受信アンテナと、
電波が伝播する誘電体層と、前記誘電体層の一方の面に設けられ導電性材料により構成されたシールド層と、前記誘電体層の他方の面に設けられ、送信アンテナ及び受信アンテナが装着される領域と土壌中に挿入された際に水分量を測定するためのセンシング領域が導電性材料によるメッシュ状となっていて、その他の領域が前記シールド層と同じシールド構造となっているメッシュ層と、前記シールド層及び前記メッシュ層を覆うように構成された保護層とを備えた土壌水分量検出センサと、
前記受信アンテナにより受信された受信信号の状態に基づいて、前記メッシュ層のメッシュ状の領域に近接している土壌中の水分量を判定する判定部と、を備えている。
【0008】
また、本発明の第3態様の土壌水分量測定装置は、前記判定部が、予め測定された受信信号強度と土壌の含水率との対応関係を用いて、受信信号における受信信号強度から、前記メッシュ層のセンシング領域に近接している土壌の含水率を土壌中の水分量として判定する。
【0009】
また、本発明の第4態様の土壌水分量測定装置は、前記判定部が、予め測定された土壌の含水率とチャネル状態情報とを学習データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、受信信号におけるチャネル状態情報から、前記メッシュ層のセンシング領域に近接している土壌の含水率を土壌中の水分量として判定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、測定したい深さの土壌中の水分量を高い精度で測定することが可能な土壌水分量検出センサ及び土壌水分量測定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一般的な2次元通信シート100の斜視図である。
【
図2】
図1に示した2次元通信シート100の断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の土壌水分量測定装置において用いる土壌水分量検出センサ10の外観を示す図である。
【
図4】
図3に示した土壌水分量検出センサ10の断面図である。
【
図5】土壌水分量検出センサ10の構造を説明するための図である。
【
図6】土壌水分量検出センサ10を用いた土壌水分量測定装置の構成を説明するための図である。
【
図7】水分量判定装置50の機能ブロック構成示す図である。
【
図8】土壌の含水率とRSSIとの関係を表したデータ例を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態における土壌水分量検出センサ10の変形例である土壌水分量検出センサ10Aを示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態における土壌水分量検出センサ10の変形例である土壌水分量検出センサ10Bを示す図である。
【
図11】機械学習を利用したCSIデータに基づく土壌中の水分量測定の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図12】水分量判定装置50において取得したCSIデータをクラウドサービス上のサーバ装置74に送信して処理を行う場合のシステム構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本実施形態の土壌水分量測定装置は、2次元通信シートと呼ばれる面状の通信媒体を用いる2次元通信技術を利用している。そのため、本実施形態の土壌水分量測定装置について説明する前に、この2次元通信技術について説明する。
【0014】
図1に、一般的な2次元通信シート100の斜視図を示し、
図2に2次元通信シート100の断面図を示す。
【0015】
2次元通信シート100は、
図2に示されるように、電磁波の入出力を行なう面を表とすると、表面から保護層101、メッシュ状の導体配線を形成している導体メッシュ層102、誘電体層103、シート全面が導体のシールド層104、及び、裏面の保護層105が順次積層された構造となっている。
【0016】
誘電体層103の材料としては、樹脂材料やゴム材料等が用いられ、誘電率および静電正接(tanδ)が低い材料ほど透過特性に優れているため材料として適している。導体メッシュ層102及びシールド層104に用いられる材料は、アルミや銅、銀といった配線材で用いられる材料が適している。このとき導体メッシュ層102の格子形状は、厚みやサイズを含めたシート特性、誘電体層103として使用する誘電体材料の特性等によって、最適な配線パターン(線幅、線ピッチ)が存在する。そのため、導体メッシュ層102の配線パターンは、最適な線幅、線ピッチに設計されている。
【0017】
次に、この2次元通信シート100を用いた2次元通信の通信原理について説明する。
【0018】
2次元通信を行う場合、2次元通信シート100の表面に送信アンテナ(パッチアンテナ)110を配置する。そして、2次元通信シート100の表面に送信アンテナ110を配置すると、電磁結合によって誘電体層103の内部を電磁波が進行する。その過程において、2次元通信シート100の表面には、電磁波がわずかに漏れ出る。漏れ出た電磁波はいわゆるエバネッセント波と呼ばれる電磁波の一種である。ここで、2次元通信シート100の表面の任意の地点に、受信アンテナ120を近接させると、電磁結合により通信が確立する。このように行われる2次元通信には、2次元通信シート100の表面から数cm離れると電磁波強度が急速に減衰することから、情報漏洩の問題が生じにくく、空間からの電波干渉を受けにくいといった特長がある。そのため、この2次元通信は、2次元通信シート100上に配置された機器間の通信媒体として利用され、オフィスにおけるPC(パーソナルコンピュータ)やスマートフォン等の機器間の通信に利用されている。
【0019】
ここで、2次元通信において使用される電磁波の周波数は例えば2.4GHzと高い周波数が使用されるため、2次元通信シート100上に金属や、水等の誘電体材料が置かれると、2次元通信シート100の表面において電磁波の吸収が発生し、2次元通信シート100上に置かれた物質の誘電率や静電正接等の電気的特性に応じて、内部の誘電体層を通過する電磁波の伝搬特性が変化する。そして、土自体の比誘電率は小さいため、土壌中に含まれる水の量によって土壌全体の比誘電率が決定される。そこで、本実施形態の土壌水分量測定装置では、このような2次元通信の特性を利用して、土壌中の水分量を測定する。
【0020】
なお、本実施形態においては、土壌における含水率を土壌中の水分量として測定する場合について説明する。ここで、土壌における含水率とは、土壌に含まれる水分の質量の、土壌全体の質量に対する割合を意味する。なお、土壌における含水比を土壌中の水分量を示す値として用いることも可能である。
【0021】
次に、本実施形態の土壌水分量測定装置において用いる土壌水分量検出センサ10の外観を
図3に示す。また、
図3に示した土壌水分量検出センサ10の断面図を
図4に示す。
【0022】
本実施形態の土壌水分量検出センサ10は、土壌中の水分量を検出するための土壌水分量検出センサであって、
図3に示されるように、コの字状又は凹字状に形成され、送信アンテナ又は受信アンテナが装着される領域11、12と、土壌中に挿入された際に水分量を測定するための領域であるセンシング領域13とが設けられている。
【0023】
そして、本実施形態の土壌水分量検出センサ10は、
図4に示されるように、保護層21、導体メッシュ層22、電波が伝播する誘電体層23、シールド層24と、保護層25とが積層されて構成されている。
【0024】
シールド層24は、誘電体層23の一方の面に設けられアルミ等の導電性材料により構成されている。また、導体メッシュ層22は、誘電体層23の他方の面に設けられ、送信アンテナ及び受信アンテナが装着される領域11、12と、センシング領域13のみが導電性材料によるメッシュ状となっていて、その他の領域がシールド層24と同じシールド構造となっている。
【0025】
そして、保護層21、25は、それぞれ、シールド層24及び導体メッシュ層22を覆うように構成されている。
【0026】
このように、本実施形態における土壌水分量検出センサ10は、上述したようなオフィス用の2次元通信シート100とは異なり、導体メッシュ層22のメッシュ領域は、シート表面の全体には存在せず、送信アンテナ又は受信アンテナが装着される領域11、12及びセンシング領域13のみとなっており、それ以外の領域はシールド層24と同材料の導体領域となっている。
【0027】
また、
図1、
図2に示したような一般的な2次元通信シート100は、水分に曝された状態で使用されることは想定されていないため、その側部は内層の誘電体層103が露出した構造となっている。そのため、一般的な2次元通信シート100をそのまま土壌中に埋設したのでは、側部に付着する土壌中の水分の影響を受けてしまうことになる。これに対して、本実施形態の土壌水分量検出センサ10では、
図5に示すように、誘電体層23を、保護層21、25、シールド層24、導体メッシュ層22よりも若干小さい面積となるようにして、レトルト食品のパッケージのようなパウチ構造となっている。そのため、本実施形態の土壌水分量検出センサ10では、一般的な2次元通信シート100とは異なり、誘電体層23がシート側部に露出しない構造となっている。
【0028】
次に、上述したような土壌水分量検出センサ10を用いた土壌水分量測定装置の構成について
図6を参照して説明する。
【0029】
本実施形態の土壌水分量測定装置は、
図6に示されるように、
図3及び
図4に示した土壌水分量検出センサ10と、送信アンテナ41と、受信アンテナ42と、水分量判定装置50とから構成されている。
【0030】
送信アンテナ41、受信アンテナ42は、それぞれ、土壌水分量検出センサ10の領域11、12のいずれかに装着される。
図6では、送信アンテナ41が領域11に装着され、受信アンテナ42が領域12に装着された場合が示されている。
【0031】
そして、土壌水分量検出センサ10は、センシング領域13が水分量を測定しようとする深さに到達するように土壌中に埋設される。ただし、送信アンテナ41及び受信アンテナ42が装着された領域11、12は地表よりも上になるように調節される。
【0032】
水分量判定装置50は、送信アンテナ41及び受信アンテナ42に接続され、送信アンテナ41に対して2次元通信のための電磁波を送信するための電気信号を出力し、受信アンテナ42において受信された受信信号を入力する。そして、水分量判定装置50は、受信アンテナ42により受信された受信信号の状態に基づいて、導体メッシュ層22のメッシュ状のセンシング領域13に近接している土壌の含水率を土壌中の水分量として判定する。
【0033】
具体的には、水分量判定装置50は、予め測定された受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indication)と土壌の含水率との対応関係を用いて、受信信号における受信信号強度から、導体メッシュ層22のメッシュ状のセンシング領域13に近接している土壌の含水率を土壌中の水分量として判定する。
【0034】
または、水分量判定装置50は、予め測定された土壌の含水率とチャネル状態情報(CSI:Channel State Information)とを学習データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、受信信号におけるチャネル状態情報から、導体メッシュ層22のセンシング領域13に近接している土壌の含水率を土壌中の水分量として判定するようにしてもよい。なお、機械学習を利用したチャネル状態情報(CSI)に基づく土壌中の水分量測定の詳細については後述する。
【0035】
次に、受信アンテナ42により受信された受信信号のRSSIを用いて土壌の含水率を判定する場合の水分量判定装置50の機能ブロック構成を
図7に示す。
【0036】
図7に示されるように、水分量判定装置50は、送信回路51と、受信回路52と、信号処理部60と、表示パネル53と、データ記憶部54とを備えている。また、信号処理部60は、回路制御部61と、信号強度検出部62と、土壌含水率算出部63と、表示制御部64とから構成されている。
【0037】
送信回路51は、回路制御部61により制御され、送信アンテナ41に対して高周波信号を送信する。受信回路52は、受信アンテナ42において受信された電磁波を受信信号に変換して回路制御部61に送信する。
【0038】
回路制御部61は、信号処理部60の動作を制御するとともに、送信回路51、受信回路52の動作を制御している。回路制御部61は、定期的な測定を行なうため、特定の周期で送信回路51及び受信回路52を制御し、電磁波の送受信を行う。
【0039】
信号処理部60は、記憶部等を有するコンピュータにより構成されており、送信回路51及び受信回路52を含む各部へ出力信号及び各部からの信号を処理する。
【0040】
信号強度検出部62は、回路制御部61から、受信アンテナ42において受信された受信信号のRSSIの情報を取得する。
【0041】
土壌含水率算出部63は、信号強度検出部62により取得されたRSSIの情報から土壌水分量を算出する。土壌の含水率とRSSIとは、
図8に示すような線形の関係にあり、土壌含水率算出部63は、このような関係に基づいて生成された対応テーブルを参照することによって、土壌中の水分量を算出する。例えば、データ記憶部54には、
図8に示すような、土壌含水率とRSSIの値との対応関係を示すデータが格納されている。そして、土壌含水率算出部63は、この
図8に示すようなデータを用いて、信号強度検出部62により取得されたRSSIの値から、土壌含水率を算出する。
【0042】
そして、土壌含水率算出部63は、算出した土壌含水率のデータをデータ記憶部54に格納するとともに、表示制御部64を介して表示パネル53上に表示させる。なお、表示パネル53上において表示させるだけでなく、無線通信機器等により算出した土壌含水率のデータを外部に送信するようにしても良い。さらに、地中または地表の温度を測定可能なサーミスタ等の温度検出部や土壌中のPHが検出可能なPH検出部といった土壌情報を測定するための検出機構が水分量判定装置50に設けられていても良い。
【0043】
このような制御が行われることにより、土壌に埋設された土壌水分量検出センサ10のセンシング領域13近傍の土壌の含水率が測定され、データ記憶部54に記憶されるとともに、表示パネル53に表示される。
【0044】
本実施形態における土壌水分量検出センサ10は、
図6に示したように、土壌に埋設させたときに、土壌が接触する領域のうちメッシュ状となっているのはセンシング領域13のみである。そのため、センシング領域13以外の領域において接触する土壌によって、シート内部の誘電体層23内を進行する電磁波の伝搬特性に影響を与えることはない。
【0045】
そのため、本実施形態によれば、土壌中の水分量を測定しようとする所望の土壌深さ、つまりセンシング領域13の位置における土壌の水分量を正確に測定することができる。また、土壌水分量検出センサ10の形状は、
図3に示すようなコの字状又は凹字状となっている。このように、土壌水分量検出センサ10を、コの字状又は凹字状にすることで、土壌内の植物の根および地表付近における葉の成長を出来るだけ妨げない構造となる。また、
図6に示すように、送信アンテナ41、受信アンテナ42の装着面である導体メッシュ層22の領域11、12は地上にある。そのため、本実施形態では、送信アンテナ及び受信アンテナを地中に埋設する必要がある従来の土壌水分センサと異なり、送信アンテナ41及び受信アンテナ42を地中に埋設する必要は無く、送信アンテナ41及び受信アンテナ42は必ずしも高コストな完全防水の構造とする必要はない。
【0046】
次に、本実施形態における土壌水分量検出センサ10の変形例である土壌水分量検出センサ10Aを
図9に示す。
【0047】
図9に示す土壌水分量検出センサ10Aは、
図3に示した土壌水分量検出センサ10を2つ折りにした帯状の構造となっている。具体的には、土壌水分量検出センサ10Aは、2次元通信シートを挟み込むようにして送信アンテナ41、受信アンテナ42を、それぞれ領域11、12に対向させて装着するような構造となっている。このような土壌水分量検出センサ10Aの構造では、送信アンテナ41及び受信アンテナ42の両アンテナが、近い位置に装着されるため、送信アンテナ41及び受信アンテナ42の回路部や制御部、それらに電力を供給する電源部は、共通の基板上で実装することができ、一体化したユニットの構成が可能となる。そのため、
図9に示す土壌水分量検出センサ10Aでは、
図3に示した土壌水分量検出センサ10に比べ、省配線、省スペース、低コスト化が可能となる。
【0048】
上記では、1つの土壌水分量検出センサ10を用いて土壌中の水分量を測定する場合を用いて説明したが、複数の土壌水分量検出センサ10を圃場に埋設して、無線信号等によって連動した測定および測定値を収集するための信号処理機構を構成するようにしても良い。
【0049】
さら上記で説明した実施形態では、土壌水分量検出センサ10上の1箇所のセンシング領域13に対し、送信アンテナ41及び受信アンテナ42のペアを装着して用いる構成について説明したが、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、センシング領域13が複数個所設けられているような構成であってもよいし、送信アンテナ41及び受信アンテナ42のいずれかが複数装着されるような構成であっても良い。
【0050】
例えば、
図10に示す土壌水分量検出センサ10Bのような構成であっても良い。この
図10に示した土壌水分量検出センサ10Bでは、2つのセンシング領域13A、13Bが設けられ、送信アンテナ41が装着される領域11が1箇所、受信アンテナ42A、42Bが装着される領域12A、12Bが2箇所の構成となっている。なお、
図10に示した土壌水分量検出センサ10Bでは、説明を簡単にするため、送信アンテナ41から各受信アンテナ42A、42Bまでのシート長、およびセンシング領域13A、13Bの面積は同一としている。2つのセンシング領域13A、13Bにおける灌漑量(土壌水分量)が同程度であれば、受信アンテナ42A、42BにおけるRSSIの差分は、ほぼゼロとなる。灌漑量に差がある場合、RSSIの差分が大きくなる。このような構成の土壌水分量検出センサ10Bを用いることにより、少ない設置数で広い範囲の灌漑状態を監視することが可能となる。
【0051】
このように1つの送信アンテナ41に対して複数の受信アンテナ42A、42Bを設けることにより、複数のセンシング領域13A、13Bの近傍の土壌中の水分量をそれぞれ個別に判定することが可能となる。特に、以下において説明するCSIデータと機械学習により学習モデルとを用いて土壌中の水分量を判定することによりこのような判定が可能となる。例えば、土壌水分量の判定を少ない、普通、多いという3水準で判定する場合、2箇所のセンシング領域13A、13Bによる判定では、最小9通りの組み合わせ試験を行って学習モデルを生成すればよい。
【0052】
次に、機械学習を利用したチャネル状態情報(CSI)に基づく土壌中の水分量測定について説明する。
【0053】
近年、室内に無線LAN(Local Area Network)アクセスポイントと無線デバイス(パソコンやスマートフォン等)を配置し、その間の電波状態や変動をチャネル状態情報データ(以下CSIデータと略す。)として取得し、取得したCSIデータを解析することにより、人の位置測位、行動認識、個人識別を検知することが行われている。
【0054】
このCSIとは、無線LANの電波における伝播損失や反射・回析等の影響による振幅と位相の変化を示す情報である。具体的には、このCSIは、サブキャリア毎の振幅と位相の情報となっている。そして、土壌中に埋設された土壌水分量検出センサ10のセンシング領域13近傍の土壌の水分量が変化することにより、このCSIも変化する。そこで、本実施形態における水分量判定装置50は、このCSIデータと機械学習を組み合わせることにより土壌中の水分量の推定を行う。
【0055】
機械学習を利用したCSIデータに基づく土壌中の水分量測定の処理の流れについて
図11のフローチャートを参照して説明する。
【0056】
まず、予め測定された土壌の含水率とCSIデータとを学習データとして機械学習を行うことにより学習モデルを生成する。生成された学習モデルは、受信アンテナ42により受信された受信信号のCSIデータを入力することにより、そのCSIデータに対応した含水率が出力されるものとなっている。そして、学習モデルを水分量判定装置50のデータ記憶部54に格納しておく。この学習モデルは、例えば、入力層と同数の隠れ層を複数有する分類器型のニューラルネットワークモデルを用いて構成することができる。
【0057】
そして、土壌中の水分量を測定する場合、水分量判定装置50は、受信した受信信号からCSIデータを取得する(ステップS101)。次に、水分量判定装置50は、格納された学習モデルをデータ記憶部54から読み出す(ステップS102)。そして、水分量判定装置50は、読み出した学習モデルに、取得したCSIデータを入力して、学習モデルから出力される土壌含水率のデータを取得する(ステップS103)。最後に、水分量判定装置50は、取得した土壌含水率を測定結果として表示パネル53等に表示することによりユーザに通知する(ステップS104)。
【0058】
このようにして機械学習を利用したCSIデータに基づく土壌水分量(含水率)の推定値と、実際の真値とを比較して評価結果について説明する。
【0059】
この評価では、含水率が0%、2.5%、5.0%、7.5%、10.0%、12.5%、15.0%、17.5%、20.0%という2.5%刻みの黒ぼく土の土壌サンプルにおいて、本実施形態の土壌水分量測定装置によりCSIを測定した。これらから生成した学習モデルを用い、未学習の土壌のCSIを評価した。その結果、99.59%という高い正答精度により、土壌の含水率を推定することができた。
【0060】
なお、
図12に示すように、水分量判定装置50に無線通信装置71を接続して、携帯電話通信網72を介してインターネット73経由でクラウドサービス上のサーバ装置74にCSIデータを送信するようなシステム構成としてもよい。クラウドサービス上のサーバ装置74には、上記で示したような土壌水分量を推定する学習モデルのデータが格納されており、このサーバ装置74上において土壌水分量の推定を実行して、パソコン75又はスマートフォンを通じて、ユーザに推定した土壌水分量の情報を通知するようにするようにしても良い。
【符号の説明】
【0061】
10、10A、10B 土壌水分量検出センサ
11、12、12A、12B 領域
13、13A、13B センシング領域
21 保護層
22 導体メッシュ層
23 誘電体層
24 シールド層
25 保護層
41 送信アンテナ
42、42A、42B 受信アンテナ
50 水分量判定装置
51 送信回路
52 受信回路
53 表示パネル
54 データ記憶部
60 信号処理部
61 回路制御部
62 信号強度検出部
63 土壌含水率算出部
64 表示制御部
71 無線通信装置
72 携帯電話通信網
73 インターネット
74 サーバ装置(クラウドサービス)
75 パソコン