(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011255
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】内燃機関システム、及び、内燃機関の制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20240118BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20240118BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F02D13/02 B
F02D13/02 J
F02D23/00 K
F02D43/00 301Z
F02D43/00 301R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113122
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安形 昌也
(72)【発明者】
【氏名】織田 信之
(72)【発明者】
【氏名】浅井 乾一郎
(72)【発明者】
【氏名】石政 丈
(72)【発明者】
【氏名】上野 将樹
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA05
3G092AA11
3G092AA18
3G092DA09
3G092DB03
3G092EA01
3G092EA02
3G092EA03
3G092EA04
3G092EA08
3G092FA16
3G092FA24
3G092GA03
3G092HA06Z
3G092HA11Z
3G092HA16Z
3G092HE01Z
3G092HF08Z
3G384AA01
3G384BA08
3G384BA26
3G384CA04
3G384DA02
3G384DA55
3G384EB01
3G384EB02
3G384EB03
3G384EB04
3G384ED07
3G384FA04Z
3G384FA06Z
3G384FA11Z
3G384FA26Z
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】過給機を備えた内燃機関を含む内燃機関システム及び内燃機関の制御方法において、過給機の駆動開始や駆動停止の遅れによる影響を抑える。
【解決手段】内燃機関システム1であって、可変バルブタイミング機構47を備えた機関本体11及び過給機15を有する内燃機関3と、要求負荷に応じて、吸気バルブ38を閉じる閉時期を吸気下死点から所定の位相角度に対応する進角量θだけ早める早閉じ制御を行う制御装置7と、を有し、制御装置は、要求負荷が要求負荷閾値Tth未満であるときに進角量を第1角度θ1に設定し、要求負荷が要求負荷閾値以上であるときに、過給機を駆動させるとともに、進角量を第1角度よりも大きな第2角度θ2に設定し、第1進角制御から第2進角制御に移行するとき、過給機が完全駆動するまで進角量を第2角度よりも小さく且つ第1角度よりも大きな第1補正進角量δ1に変更する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関システムであって、
吸気ポート及び排気ポートを開閉する吸気バルブ及び排気バルブを有し、少なくとも前記吸気バルブを閉じる閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構を備えた機関本体、及び、前記排気ポートに排出される排気を利用して前記吸気ポートに導入される吸気を加圧する過給機を備えた内燃機関と、
ユーザからの要求負荷に応じて、前記可変バルブタイミング機構を制御することにより、前記吸気バルブを閉じる前記閉時期を吸気下死点から所定の位相角度に対応する進角量だけ早める早閉じ制御を行う制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記要求負荷が所定の要求負荷閾値未満であるときに、前記進角量を第1角度に設定する第1進角制御を実行し、前記要求負荷が前記要求負荷閾値以上であるときに、前記過給機を駆動させるとともに、前記進角量を前記第1角度よりも大きな第2角度に設定する第2進角制御を実行し、
前記制御装置は、前記第1進角制御から前記第2進角制御に移行するときには、前記過給機が完全駆動するまでの間において、前記進角量を前記第2角度よりも小さく、且つ、前記第1角度よりも大きな第1補正進角量に変更する内燃機関システム。
【請求項2】
前記過給機と前記吸気ポートとの間の圧力を実過給圧として検出する吸気圧センサを有し
前記制御装置は、前記第1進角制御から前記第2進角制御に移行するときには、前記過給機が完全駆動したときに、前記吸気圧センサによって取得されるべき圧力を目標過給圧として取得し、前記目標過給圧と、前記実過給圧との差が所定の閾値以上である場合には、前記過給機が完全駆動していないと判定する請求項1に記載の内燃機関システム。
【請求項3】
前記内燃機関の機関回転数を取得する回転数センサを更に含み、
前記制御装置は、前記第1進角制御から前記第2進角制御に移行するときには、前記実過給圧と、前記機関回転数とに基づいて、下限進角量を設定し、前記進角量を前記下限進角量以上に制限する請求項2に記載の内燃機関システム。
【請求項4】
吸気ポート及び排気ポートを開閉する吸気バルブ及び排気バルブを備え、少なくとも前記吸気バルブを閉じる閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構を有する機関本体、及び、前記排気ポートに排出される排気を利用して前記吸気ポートに導入される吸気を加圧する過給機を備えた内燃機関の制御方法であって、
ユーザからの要求負荷に応じて、前記可変バルブタイミング機構を制御することにより、前記吸気バルブを閉じる前記閉時期を吸気下死点から所定の位相角度に対応する進角量だけ早める早閉じ制御を行い、
前記早閉じ制御において、前記要求負荷が所定の要求負荷閾値未満であるときに、前記進角量を第1角度に設定する第1進角制御を実行し、前記要求負荷が前記要求負荷閾値以上であるときに、前記過給機を駆動させるとともに、前記進角量を前記第1角度よりも大きな第2角度に設定する第2進角制御を実行し、
前記第1進角制御から前記第2進角制御に移行するときには、前記過給機が完全駆動するまでの間において、前記進角量を前記第2角度よりも小さく、且つ、前記第1角度よりも大きな第1補正進角量に変更する内燃機関の制御方法。
【請求項5】
内燃機関システムであって、
吸気ポート及び排気ポートを開閉する吸気バルブ及び排気バルブを有し、少なくとも前記吸気バルブを閉じる閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構を備えた機関本体、及び、前記排気ポートに排出される排気を利用して前記吸気ポートに導入される吸気を加圧する過給機を備えた内燃機関と、
ユーザからの要求負荷に応じて、前記可変バルブタイミング機構を制御することにより、前記吸気バルブを閉じる前記閉時期を吸気下死点から所定の位相角度に対応する進角量だけ早める早閉じ制御を行う制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記要求負荷が所定の要求負荷閾値未満であるときに、前記進角量を第1角度に設定する第1進角制御を実行し、前記要求負荷が前記要求負荷閾値以上であるときに、前記過給機を駆動させるとともに、前記進角量を前記第1角度よりも大きな第2角度に設定する第2進角制御を実行し、
前記制御装置は、前記第2進角制御から前記第1進角制御に移行するときには、前記過給機が完全停止するまでの間において、前記進角量を前記第2角度よりも小さく、且つ、前記第1角度よりも大きな第2補正進角量に変更する内燃機関システム。
【請求項6】
前記過給機と前記吸気ポートとの間の圧力を実過給圧として検出する吸気圧センサを有し、
前記制御装置は、前記第2進角制御から前記第1進角制御に移行するときには、前記過給機が完全停止したときに、前記吸気圧センサによって取得されるべき圧力を目標過給圧として取得し、前記目標過給圧と、前記実過給圧との差が所定の閾値以上である場合には、前記過給機が完全停止していないと判定する請求項5に記載の内燃機関システム。
【請求項7】
吸気ポート及び排気ポートを開閉する吸気バルブ及び排気バルブを有し、少なくとも前記吸気バルブを閉じる閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構を備えた機関本体、及び、前記排気ポートに排出される排気を利用して前記吸気ポートに導入される吸気を加圧する過給機を備えた内燃機関の制御方法であって、
ユーザからの要求負荷に応じて、前記可変バルブタイミング機構を制御することにより、前記吸気バルブを閉じる前記閉時期を吸気下死点から所定の位相角度に対応する進角量だけ早める早閉じ制御を行い、
前記要求負荷が所定の要求負荷閾値未満であるときに、前記進角量を第1角度に設定する第1進角制御を実行し、前記要求負荷が前記要求負荷閾値以上であるときに、前記過給機を駆動させるとともに、前記進角量を前記第1角度よりも大きな第2角度に設定する第2進角制御を実行し、
前記第2進角制御から前記第1進角制御に移行するときには、前記過給機が完全停止するまでの間において、前記進角量を前記第2角度よりも小さく、且つ、前記第1角度よりも大きな第2補正進角量に変更する内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バルブタイミングを変更するための可変バルブタイミング機構を備えた機関本体と、過給機とを有する内燃機関を含む内燃機関システム、及び、その内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気バルブの閉時期を下死点からずらすことにより有効圧縮比を膨張比よりも小さくすることのできる過給機付エンジンが公知である(例えば、特許文献1)。特許文献1の過給機付エンジンでは、高負荷・低速の運転領域で、吸気バルブの閉時期を下死点以前の有効圧縮比が膨張比と比べて小さくなるように設定する。これにより、有効圧縮比が下げられ、これによってノッキングを抑制する作用が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ターボチャージャー等の過給機には駆動開始や駆動停止までに所定の遅れ時間がある。過給機の駆動開始が遅れると、燃焼室への吸入空気量が不足する。燃焼室への吸入吸気量の低下は過給機のタービン側の排圧不足を招き、コンプレッサ側の回転力が低下することにより、応答性がより悪化させる虞がある。一方、過給機の駆動停止が遅れると、燃焼室に導入される吸入空気量が過多となり、ノッキングが生じ易くなる。
【0005】
ノッキングを低減するとともに、エネルギー効率を向上させ、持続可能な社会の実現に寄与することのできる内燃機関の実現が強く望まれている。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、過給機を備えた内燃機関を含む内燃機関システム、及び、内燃機関の制御方法において、過給機の駆動開始や駆動停止の遅れによる影響を抑えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、内燃機関システム(1)であって、吸気ポート(36)及び排気ポート(37)を開閉する吸気バルブ(38)及び排気バルブ(39)を有し、少なくとも前記吸気バルブを閉じる閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構(47)を備えた機関本体(11)、及び、前記排気ポートに排出される排気を利用して前記吸気ポートに導入される吸気を加圧する過給機(15)を備えた内燃機関(3)と、ユーザからの要求負荷に応じて、前記可変バルブタイミング機構を制御することにより、前記吸気バルブを閉じる前記閉時期を吸気下死点から所定の位相角度に対応する進角量(θ)だけ早める早閉じ制御を行う制御装置(7)と、を有し、前記制御装置は、前記要求負荷が所定の要求負荷閾値(Tth)未満であるときに、前記進角量を第1角度(θ1)に設定する第1進角制御を実行し、前記要求負荷が前記要求負荷閾値以上であるときに、前記過給機を駆動させるとともに、前記進角量を前記第1角度よりも大きな第2角度(θ2)に設定する第2進角制御を実行し、前記制御装置は、前記第1進角制御から前記第2進角制御に移行するときには、前記過給機が完全駆動するまでの間において、前記進角量を前記第2角度よりも小さく、且つ、前記第1角度よりも大きな第1補正進角量(δ1)に変更する。
【0008】
この態様によれば、制御装置は、過給機が完全駆動するまでの間において、進角量を第1補正進角量に設定する。これにより、過給機が完全駆動するまでの間、進角量が第2角度よりも小さく設定される。そのため、過給機が完全駆動するまでの間、進角量が第2角度に設定される場合に比べて、燃焼室への吸入空気量を確保することができるため、過給機の応答性を高めることができる。
【0009】
上記の態様において、好ましくは、前記過給機と前記吸気ポートとの間の圧力を実過給圧として検出する吸気圧センサを有し前記制御装置は、前記第1進角制御から前記第2進角制御に移行するときには、前記過給機が完全駆動したときに、前記吸気圧センサによって取得されるべき圧力を目標過給圧として取得し、前記目標過給圧と、前記実過給圧との差が所定の閾値以上である場合には、前記過給機が完全駆動していないと判定する。
【0010】
この態様によれば、過給機が完全駆動しているか否かを制御装置が適切に取得できる。
【0011】
上記の態様において、好ましくは、前記内燃機関の機関回転数を取得する回転数センサ(12)を更に含み、前記制御装置は、前記第1進角制御から前記第2進角制御に移行するときには、前記実過給圧と、前記機関回転数とに基づいて、下限進角量(θb)を設定し、前記進角量を前記下限進角量以上に制限する。
【0012】
この態様によれば、ノッキングの発生が防止できる。
【0013】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、吸気ポート(36)及び排気ポート(37)を開閉する吸気バルブ(38)及び排気バルブ(39)を備え、少なくとも前記吸気バルブを閉じる閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構(47)を有する機関本体(11)、及び、前記排気ポートに排出される排気を利用して前記吸気ポートに導入される吸気を加圧する過給機(15)を備えた内燃機関(3)の制御方法であって、ユーザからの要求負荷に応じて、前記可変バルブタイミング機構を制御することにより、前記吸気バルブを閉じる前記閉時期を吸気下死点から所定の位相角度に対応する進角量(θ)だけ早める早閉じ制御を行い、前記早閉じ制御において、前記要求負荷が所定の要求負荷閾値(Tth)未満であるときに、前記進角量を第1角度(θ1)に設定する第1進角制御を実行し、前記要求負荷が前記要求負荷閾値以上であるときに、前記過給機を駆動させるとともに、前記進角量を前記第1角度よりも大きな第2角度(θ2)に設定する第2進角制御を実行し、前記第1進角制御から前記第2進角制御に移行するときには、前記過給機が完全駆動するまでの間において、前記進角量を前記第2角度よりも小さく、且つ、前記第1角度よりも大きな第1補正進角量(δ1)に変更する。
【0014】
この態様によれば、過給機が完全駆動するまでの間において、進角量が第1補正進角量に設定される。これにより、過給機が完全駆動するまでの間、進角量が第2角度よりも小さく設定される。そのため、過給機が完全駆動するまでの間、進角量が第2角度に設定される場合に比べて、燃焼室への吸入空気量を確保することができるため、過給機の応答性を高めることができる。
【0015】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、内燃機関システム(1)であって、吸気ポート(36)及び排気ポート(37)を開閉する吸気バルブ(38)及び排気バルブ(39)を有し、少なくとも前記吸気バルブを閉じる閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構(47)を備えた機関本体(11)、及び、前記排気ポートに排出される排気を利用して前記吸気ポートに導入される吸気を加圧する過給機(15)を備えた内燃機関(3)と、ユーザからの要求負荷に応じて、前記可変バルブタイミング機構を制御することにより、前記吸気バルブを閉じる前記閉時期を吸気下死点から所定の位相角度に対応する進角量(θ)だけ早める早閉じ制御を行う制御装置(7)と、を有し、前記制御装置は、前記要求負荷が所定の要求負荷閾値(Tth)未満であるときに、前記進角量を第1角度(θ1)に設定する第1進角制御を実行し、前記要求負荷が前記要求負荷閾値以上であるときに、前記過給機を駆動させるとともに、前記進角量を前記第1角度よりも大きな第2角度(θ2)に設定する第2進角制御を実行し、前記制御装置は、前記第2進角制御から前記第1進角制御に移行するときには、前記過給機が完全停止するまでの間において、前記進角量を前記第2角度よりも小さく、且つ、前記第1角度よりも大きな第2補正進角量(δ2)に変更する。
【0016】
この態様によれば、制御装置は、過給機が完全停止するまでの間において、進角量を第2補正進角量に設定する。これにより、過給機が完全停止するまでの間、進角量が第1角度よりも大きく設定される。そのため、過給機が完全停止するまでの間、進角量が第1角度に設定される場合に比べて、燃焼室への吸入空気量を低減することができるため、ノッキングの発生を防止できる。
【0017】
上記の態様において、好ましくは、前記過給機と前記吸気ポートとの間の圧力を実過給圧として検出する吸気圧センサ(17)を有し、前記制御装置は、前記第2進角制御から前記第1進角制御に移行するときには、前記過給機が完全停止したときに、前記吸気圧センサによって取得されるべき圧力を目標過給圧として取得し、前記目標過給圧と、前記実過給圧との差が所定の閾値以上である場合には、前記過給機が完全停止していないと判定する。
【0018】
この態様によれば、過給機が完全駆動しているか否かを制御装置が適切に取得できる。
【0019】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、吸気ポート(36)及び排気ポート(37)を開閉する吸気バルブ及び排気バルブを有し、少なくとも前記吸気バルブを閉じる閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構(47)を備えた機関本体(11)、及び、前記排気ポートに排出される排気を利用して前記吸気ポートに導入される吸気を加圧する過給機(15)を備えた内燃機関(3)の制御方法であって、ユーザからの要求負荷に応じて、前記可変バルブタイミング機構を制御することにより、前記吸気バルブを閉じる前記閉時期を吸気下死点から所定の位相角度に対応する進角量(θ)だけ早める早閉じ制御を行い、前記要求負荷が所定の要求負荷閾値(Tth)未満であるときに、前記進角量を第1角度(θ1)に設定する第1進角制御を実行し、前記要求負荷が前記要求負荷閾値以上であるときに、前記過給機を駆動させるとともに、前記進角量を前記第1角度よりも大きな第2角度(θ2)に設定する第2進角制御を実行し、前記第2進角制御から前記第1進角制御に移行するときには、前記過給機が完全停止するまでの間において、前記進角量を前記第2角度よりも小さく、且つ、前記第1角度よりも大きな第2補正進角量(δ2)に変更する。
【0020】
この態様によれば、過給機が完全停止するまでの間において、進角が第2補正進角量に設定される。これにより、過給機が完全停止するまでの間、進角量が第1角度よりも大きく設定される。そのため、過給機が完全停止するまでの間、進角量が第1角度に設定される場合に比べて、燃焼室への吸入空気量を低減することができるため、ノッキングの発生を防止できる。
【発明の効果】
【0021】
以上の構成によれば、過給機を備えた内燃機関を含む内燃機関システム、及び、内燃機関の制御方法において、過給機の駆動開始や駆動停止の遅れによる影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る内燃機関システムを示す模式図
【
図5】要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化したときの(a)アクセル開度と、(b)目標出力(目標トルク)と、(c)実過給圧及び目標過給圧と、(d)進角量の時間変化を示すグラフ
【
図6】要求負荷が高負荷領域から低負荷・中負荷領域に変化したときの(a)アクセル開度と、(b)目標出力(目標トルク)と、(c)実過給圧及び目標過給圧と、(d)進角量の時間変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る内燃機関システムについて説明する。
【0024】
内燃機関システム1は、
図1に示すように、内燃機関3と、入力受付装置5と、制御装置7とを有している。内燃機関システム1は、例えば、内燃機関3を動力源とする車両に設けられる。
【0025】
内燃機関3は、機関本体11と、機関本体11に設けられた回転数センサ12と、機関本体11に接続された吸気装置13及び排気装置14と、吸気装置13及び排気装置14に設けられたターボ式の過給機15(ターボチャージャともいう)と、吸気圧センサ17とを有する。
【0026】
機関本体11は、シリンダブロック21と、シリンダブロック21の上部に結合されたシリンダヘッド22と、シリンダブロック21の下部に結合されたオイルパン23と、シリンダヘッド22の上部に結合されたヘッドカバー24とを有する。
【0027】
シリンダブロック21は、シリンダヘッド22に向けて開口した少なくとも1つのシリンダ26と、シリンダ26の下部に接続し、オイルパン23に向けて開口したクランクケース27とを有する。シリンダ26には、ピストン28が往復動可能に受容されている。クランクケース27にはクランクシャフト29が回転可能に支持されている。ピストン28は、コンロッド30を介してクランクシャフト29に結合されている。
【0028】
シリンダヘッド22の下部には、シリンダ26に接続する燃焼室32が形成されている。燃焼室32はシリンダ26とピストン28とシリンダヘッド22とによって形成されている。シリンダヘッド22には、燃料を噴射するインジェクタ33と、燃焼室32の内部の混合気に点火する点火プラグ34とが設けられている。
【0029】
シリンダヘッド22には、更に、燃焼室32に接続する吸気ポート36と、燃焼室32に接続する排気ポート37とが設けられている。吸気ポート36の燃焼室32への接続口(以下、吸気口)には、吸気口を開閉する吸気バルブ38が設けられている。排気ポート37の燃焼室32への接続口(以下、排気口)には、排気口を開閉する排気バルブ39が設けられている。
【0030】
シリンダヘッド22とヘッドカバー24との間には動弁室41が形成されている。動弁室41には、吸気バルブ38及び排気バルブ39を開閉する動弁機構43が設けられている。動弁機構43は、例えば、カムが設けられたカムシャフトが回転することにより、ロッカーアームを介して吸気バルブ38及び排気バルブ39がそれぞれ、所定のタイミングで開閉されるロッカーアーム駆動式のものであってもよい。
【0031】
機関本体11は、動弁機構43に設けられた可変バルブタイミング機構45(可変バルブ機構ともいう)を備えている。可変バルブタイミング機構45は、制御装置7からの信号に基づいて、動弁機構43が吸気バルブ38を閉じるタイミング(閉時期)を変更する。可変バルブタイミング機構45は、その他、制御装置7からの信号に基づいて、動弁機構43が吸気バルブ38を開くタイミング(開時期)、排気バルブ39を開くタイミング、及び、排気バルブ39を閉じるタイミングをそれぞれ変更可能に構成されていてもよい。
【0032】
可変バルブタイミング機構45は、クランクシャフト29に対するカムシャフトの位相を連続的に変更することにより、吸気バルブ38及び排気バルブ39の開閉タイミングを連続的に変更する、いわゆる連続可変バルブタイミング・リフト機構によって構成されているとよい。
【0033】
回転数センサ12は、クランクシャフト29の回転数(すなわち、機関回転数)を検出し、検出結果を制御装置7に出力する。回転数センサ12は、クランクシャフト29の回転数を検出する公知のセンサであってよい。例えば、回転数センサ12は、スリットを設けた円盤をクランクシャフト29の回転に伴って回転させ、フォトトランジスタを用いてその回転を検出する光学式のセンサであってもよい。また、回転数センサ12は、回転軸に設けられた歯車の歯の近接を電磁的に検出する電磁式のセンサであってもよい。
【0034】
吸気装置13は、外気を取り込み、シリンダ26に空気を供給する一連の吸気通路50を形成する。以下、吸気通路50の外気の取り込み口側を上流側、吸気ポート36側を下流側と記載する。
【0035】
吸気装置13は、上流側から吸気入口51(エアインレット)、エアクリーナ52、過給機15のコンプレッサ53、インタークーラ54、スロットルバルブ55、及び吸気マニホールド56を順に有する。吸気マニホールド56がシリンダヘッド22に結合することによって、吸気装置13は吸気ポート36に接続している。
【0036】
排気装置14は、シリンダ26で発生した排気を、排気口を介して排出する一連の排気通路60を形成する。以下、排気通路60のシリンダ26側を上流側、排気口側を下流側と記載する。
【0037】
排気装置14は、上流側からエキゾーストマニホールド61(排気マニホールド)、過給機15のタービン63、及び排気出口64を順に有する。エキゾーストマニホールド61がシリンダヘッド22に結合することによって、排気装置14は排気ポート37に接続している。
【0038】
過給機15は、機関本体11から排出される排気のエネルギーを用いて、コンプレッサ53を駆動させることによって、吸気を圧縮する。コンプレッサ53によって圧縮された空気は、コンプレッサ53の下流側に供給される。
【0039】
スロットルバルブ55は、制御装置7からの信号に基づいて、吸気通路50の有効断面積を変更して、燃焼室32に吸入される空気量、すなわち、吸入空気量を制御する。スロットルバルブ55は、吸気通路50に設けられた弁体55Aと、弁体55Aを駆動させるアクチュエータ55Bとを備えている。アクチュエータ55Bは制御装置7に接続されている。制御装置7はアクチュエータ55Bの駆動制御することにより、スロットルバルブ55の開き度合い(すなわち開度)を制御する。
【0040】
排気装置14は、更に、タービン63の上流側部分と下流側部分とを接続するバイパス通路65と、そのバイパス通路65に設けられたウェイストゲートバルブ66(バイパス弁ともいう)と、ウェイストゲートバルブ66を開閉駆動するウェイストゲートアクチュエータ67と、を有している。ウェイストゲートアクチュエータ67は、公知の方法に基づくいかなる構成に基づくものであってもよい。
【0041】
本実施形態では、
図1に示すように、ウェイストゲートアクチュエータ67は、タービン63の下流側と、タービン63の上流側とを繋ぐ接続通路67Aと、接続通路67Aを開閉するバルブ67Bと、ダイヤフラムアクチュエータ67Cとを備えている。
図1において、バルブ67Bが閉じられることにより接続通路67Aの内圧が高まると、その圧力によってウェイストゲートバルブ66を開かれる。一方、バルブ67Bが開かれると、ダイヤフラムアクチュエータ67Cのバネによる付勢力によって、ウェイストゲートバルブ66が閉じられる。バルブ67Bには、制御装置7に接続されたバルブアクチュエータ67Dが設けられ、制御装置7はそのバルブアクチュエータ67Dを駆動してバルブ67Bを開閉し、接続通路67Aの内圧を変更することにより、ウェイストゲートバルブ66を開閉する。
【0042】
ウェイストゲートバルブ66が開くと、バイパス通路65を通過して排気がタービン63の上流側から下流側に流出し、過給機15は停止する。一方、ウェイストゲートバルブ66が閉じると、タービン63が回転し、吸気入口51から流入した外気がコンプレッサ53によって圧縮されて、吸気ポート36に導入される。すなわち、ウェイストゲートバルブ66が閉じると、過給機15が駆動する。
【0043】
吸気圧センサ17は、吸気通路50のコンプレッサ53の下流側の吸気の圧力(以下、実過給圧)を、検出する。過給機15が駆動しているときには、吸気圧センサ17によって取得される実過給圧は、コンプレッサ53によって圧縮された吸気の圧力に等しい。吸気圧センサ17は、インタークーラ54とスロットルバルブ55との間に設けられているとよい。吸気圧センサ17は制御装置7に接続されている。制御装置7は吸気圧センサ17によって取得された実過給圧を取得する。
【0044】
入力受付装置5は、内燃機関システム1のユーザ、すなわち、車両のドライバが内燃機関システム1に求める出力、すなわち、要求負荷を出力する。本実施形態では、入力受付装置5は、ドライバからの入力を受け付けるアクセルペダル69と、アクセルペダル69の踏込量を検出するアクセル開度センサ70とを備えている。入力受付装置5は、アクセルペダル69の踏込量(アクセル開度ともいう)によって要求負荷を受け付ける。入力受付装置5は受け付けた要求負荷(アクセル開度)を制御装置7に出力する。但し、入力受付装置5はこの態様には限定されず、例えば、スロットルバルブ55の開度を検出するセンサ(スロットル開度センサ)によって構成されていてもよい。
【0045】
制御装置7は、
図2に示すように、中央演算処理装置(CPU)等によって構成されたプロセッサ81と、RAM(ランダムアクセスメモリ)及びROM(リードオンリーメモリ)等のメモリ83と、SSD(ソリッドステートドライブ)やHDD(ハードディスクドライブ)等の記憶装置85とを備えたコンピュータによって構成されている。
【0046】
制御装置7のプロセッサ81は、本発明に係る内燃機関の制御方法を実施することによって、要求負荷に対応する出力を得るべく内燃機関を制御する。以下、プロセッサ81が実行する処理の詳細について説明する。
【0047】
プロセッサ81は、所定時間ごとに、入力受付装置5からアクセル開度を取得し、内燃機関3が出力すべき要求トルク(以下、要求負荷)を算出する。次に、プロセッサ81は、要求負荷が所定の閾値(以下、要求負荷閾値Tth)未満であるときに、要求負荷が低負荷領域から中負荷領域(以下、低負荷・中負荷領域)にあると判定し、要求負荷が要求負荷閾値Tth以上であるときに、高負荷領域にあると判定する。
【0048】
要求負荷が低負荷・中負荷領域にあるときには、プロセッサ81はウェイストゲートバルブ66を開いた状態にする。これにより、過給機15は停止した状態に維持され、吸気マニホールド56内が負圧となる。そのため、大気圧と吸気マニホールド56内の吸気圧との圧力差によって、シリンダ26に吸気が吸い込まれる。このように、低負荷・中負荷領域は、過給機15が停止した状態にある自然吸気領域(ノーマルアスピレーション領域又はナチュラルアスピレーション領域)とも表現できる。
【0049】
このとき、プロセッサ81は、可変バルブタイミング機構45を制御することにより、吸気バルブ38を閉じるタイミング(閉時期)を吸気下死点から所定の位相角度(以下、進角量θ)早める早閉じ制御を行う。要求負荷が低負荷・中負荷領域に維持されている間、プロセッサ81は、早閉じ制御において、進角量θを第1進角量θ1(第1角度)に設定する第1進角制御を行う。
【0050】
このように、吸気バルブ38を閉じるタイミングを早めることで、有効圧縮比を膨張比よりも減らし、ノッキングを回避するとともに、高い熱効率が得られるミラーサイクルが実現される。
【0051】
しかし、要求負荷が要求負荷閾値Tthよりも高い高負荷領域では、燃焼室32に吸入される吸入空気量を増やし、内燃機関3の出力(詳細には出力トルク)を増やすことが求められる。そこで、要求負荷が高負荷領域にあるとき(詳細には、維持されている時間帯において)、プロセッサ81はウェイストゲートバルブ66を閉じた状態にする。これにより、過給機15が作動し、過給圧によってシリンダ26に吸気が圧送される。このように、高負荷領域は、過給機15が作動した状態にある過給領域(TC)とも表現できる。
【0052】
高負荷領域では、低負荷・中負荷領域よりも、圧縮上死点温度が高くなりやすく、ノッキングが生じやすい。特に、このようなノッキングは、機関回転数が所定の回転数よりも少ない、低速側の運転領域において顕著になる。
【0053】
そこで、プロセッサ81は、要求負荷が高負荷領域に維持されているときには、早閉じ制御において、進角量θを第1進角量θ1よりも大きな第2進角量θ2(第2角度)に設定する第2進角制御を行う。このように、進角量θを大きくし、より早く吸気バルブ38を閉じることで、圧縮上死点温度を引下げることができ、ノッキング限界が高められる。これにより、早閉じ制御においても、過給機15のよる過給作用で吸気の充填量が高められるため、内燃機関3の出力(詳細には出力トルク)を高めることができる。
【0054】
このように、プロセッサ81は、低負荷・中負荷領域において、過給機15を停止させるとともに、第1進角制御を行い、高負荷領域において、過給機15を駆動させるとともに、第2進角制御を行う。
【0055】
要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化したときには、進角量θが第1進角量θ1から第2進角量θ2に変更されるとともに、過給機15が駆動する。しかし、進角量θが第1進角量θ1から第2進角量θ2に変更されるまでに要する時間よりも、過給機15による過給圧がかかる(完全に駆動する)までに要する時間が長い。そのため、燃焼室32に吸入されるべき吸入空気量の上昇が進角量θの変更に比べて緩やかになるという問題がある。
【0056】
そこで、要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域と変化したときには、プロセッサ81は第1進角制御を停止して、第1過渡処理を実行した後、第2進角制御を開始する。第1過渡処理は、要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化した場合に、プロセッサ81が行う処理である。以下、第1過渡処理の詳細について、
図3に示すフローチャートを参照して、説明を行う。
【0057】
第1過渡処理の最初のステップST1において、プロセッサ81は、ウェイストゲートアクチュエータ67により、ウェイストゲートバルブ66を開いた状態から閉じた状態にする。これにより、過給機15の駆動が開始される。
【0058】
その後、プロセッサ81はステップST2を実行する。プロセッサ81はステップST2において、過給機15が完全駆動しているか否かを判定する。
【0059】
本実施形態では、プロセッサ81は、内燃機関3の駆動状態(例えば、要求負荷、回転数等)に基づいて、過給機15が完全駆動している場合に吸気圧センサ17に取得されるべき目標過給圧を算出する。その後、プロセッサ81は、目標過給圧と、吸気圧センサ17によって実際に取得された実過給圧との差(偏差)が所定の閾値未満であるときに、過給機15が完全駆動していると判定する。これにより、過給機15が完全駆動しているか否かをプロセッサ81が適切、且つ簡便に取得できる。
【0060】
プロセッサ81は、過給機15が完全駆動していると判定したときには第1過渡処理を終え、その後、第2進角制御を開始する。プロセッサ81は、過給機15が完全駆動していないと判定したときには、ステップST3を実行する。
【0061】
プロセッサ81はステップST3において、内燃機関3の駆動状態、及び、吸気圧センサ17によって取得された実過給圧に基づいて、下限進角量θbを取得する。下限進角量θbは、スーパーノックと呼ばれる異常燃焼状態を回避するために求められる進角量θの下限値である。本実施形態では、プロセッサ81は、下限進角量θbを、実過給圧と、機関回転数とに基づいて算出する。下限進角量θbの取得が完了すると、プロセッサ81はステップST4を実行する。
【0062】
プロセッサ81はステップST4において、所定の第1補正進角量δ1及び下限進角量θbの比較を行う。第1補正進角量δ1は、第1進角量θ1よりも大きく、且つ、第2進角量θ2よりも小さな所定の位相角である。プロセッサ81は、第1補正進角量δ1が下限進角量θb以上であるときにはステップST5を、第1補正進角量δ1が下限進角量θbよりも小さいときにはステップST6をそれぞれ実行する。
【0063】
プロセッサ81はステップST5において、進角量θを第1補正進角量δ1に設定する。すなわち、プロセッサ81は、吸気バルブ38が閉じるタイミング(閉時期)が、吸気下死点から第1補正進角量δ1早まるように、可変バルブタイミング機構45を制御する。その後、プロセッサ81は、ステップST2を実行する。
【0064】
プロセッサ81はステップST6において、進角量θを下限進角量θbに設定する。すなわち、プロセッサ81は、吸気バルブ38が閉じるタイミング(閉時期)が、吸気下死点から下限進角量θb早まるように、可変バルブタイミング機構45を制御する。その後、プロセッサ81は、ステップST2を実行する。
【0065】
また、要求負荷が高負荷領域から低負荷・中負荷領域と変化したときには、プロセッサ81は第2進角制御を停止して、第2過渡処理を実行した後に、第1進角制御を開始する。第2過渡処理は、要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化した場合に、プロセッサ81が行う処理である。以下、第2過渡処理の詳細について、
図4に示すフローチャートを参照して、説明を行う。
【0066】
第2過渡処理の最初のステップST11において、プロセッサ81は、ウェイストゲートアクチュエータ67により、ウェイストゲートバルブ66を閉じた状態から開いた状態にする。これにより、過給機15が停止し始める。
【0067】
その後、プロセッサ81はステップST12を実行する。プロセッサ81はステップST2において、過給機15が完全停止しているか否かを判定する。
【0068】
本実施形態では、プロセッサ81は、内燃機関3の駆動状態(例えば、要求負荷、回転数等)に基づいて、過給機15が停止している場合に吸気圧センサ17に取得されるべき目標過給圧を算出する。その後、プロセッサ81は、目標過給圧と、吸気圧センサ17によって実際に取得された実過給圧との差(偏差)が所定の閾値未満であるときに、過給機15が停止していると判定する。これにより、過給機15が完全駆動しているか否かをプロセッサ81が適切、且つ簡便に取得できる。
【0069】
プロセッサ81は、過給機15が停止していると判定したときには第2過渡処理を終え、その後、第1進角制御を開始する。プロセッサ81は、過給機15が停止していないと判定したときには、ステップST13を実行する。
【0070】
プロセッサ81はステップST13において、ステップST3と同様に、下限進角量θbを算出する。下限進角量θbの設定が完了すると、プロセッサ81はステップST14を実行する。
【0071】
プロセッサ81はステップST14において、所定の第2補正進角量δ2及び下限進角量θbの比較を行う。第2補正進角量δ2は、第1進角量θ1よりも大きく、且つ、第2進角量θ2よりも小さな所定の位相角である。
【0072】
第2補正進角量δ2は第1補正進角量δ1と異なっていてもよく、例えば、第2補正進角量δ2は第1補正進角量δ1よりも大きくてもよい。
【0073】
プロセッサ81は、第2補正進角量δ2が下限進角量θb以上であるときにはステップST15を、第2補正進角量δ2が下限進角量θbよりも小さいときにはステップST16をそれぞれ実行する。
【0074】
プロセッサ81はステップST15において、進角量θを第2補正進角量δ2に設定する。すなわち、プロセッサ81は、吸気バルブ38が閉じるタイミング(閉時期)が、吸気下死点から第2補正進角量δ2早まるように、可変バルブタイミング機構45を制御する。その後、プロセッサ81は、ステップST12を実行する。
【0075】
プロセッサ81はステップST16において、進角量θを下限進角量θbに設定する。すなわち、プロセッサ81は、吸気バルブ38が閉じるタイミング(閉時期)が、吸気下死点から下限進角量θb早まるように、可変バルブタイミング機構45を制御する。その後、プロセッサ81は、ステップST12を実行する。
【0076】
次に、本実施形態に係る内燃機関システム1の効果であって、特に、第1過渡処理及び第2過渡処理による効果について、説明する。
【0077】
プロセッサ81は、要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化したときに、第1過渡処理を実行する。
【0078】
図5には、運転者のアクセルペダル69への踏み込みがあったときの、(a)アクセル開度と、(b)要求負荷(要求トルク。目標負荷、目標トルクともいう)と、(c)実過給圧及び目標過給圧と、(d)進角量θの時間変化のグラフがそれぞれによって示されている。但し、
図5では、運転者のアクセルペダル69への踏み込みに伴って、要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変更された場合が示されている。時刻t=t1は、アクセルペダル69への踏み込みがあった時刻、すなわち、要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化した時刻を示す。
【0079】
図5(c)には、目標過給圧が実線で、実過給圧の変化が太線でそれぞれ示されている。
図5(d)には、進角量θの変化が太線でそれぞれ示されている。
【0080】
更に、
図5(c)には、要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化したときに、プロセッサ81が過給機15の駆動を開始し、且つ、同時に進角量θを第1進角量θ1から第2進角量θ2に変更したときの実過給圧の変化が比較例として破線で示されている。
図5(d)には、要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化したときに、プロセッサ81が過給機15の駆動を開始し、且つ、同時に進角量θを第1進角量θ1から第2進角量θ2に変更したときの進角量θの変化が破線で示されている。
図5(d)には、点線によって下限進角量θbが併せて示されている。
【0081】
時刻t=t1以前においては、
図5(c)に示すように、過給機15は停止され、吸気圧センサ17によって取得される実過給圧は負圧となっている。また、時刻t=t1以前において、
図5(d)に示すように、進角量θは第1進角量θ1に設定されている。
【0082】
アクセルペダル69への踏み込み(時刻t=t1)により要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化すると、プロセッサ81は第1過渡処理を行って過給機15の駆動を開始するともに、進角量θを第1補正進角量δ1とする。その後、プロセッサ81は過給機15が完全駆動するまで待機し、過給機15が完全駆動する(目標過給圧と実過給圧の差さが閾値未満となる)と、進角量θを第2進角量θ2に設定する(
図5の時刻t=t2を参照)。
【0083】
これにより、
図5(c)の太線と、破線とを比較すると理解できるように、時刻t=t1において、進角量θを第1進角量θ1から第2進角量θ2に変更した場合に比べて、実過給圧がより迅速に上昇し、目標過給圧により早く到達する(すなわち、過給応答性を高めることができる)。
【0084】
過給機15の駆動開始・停止はバルブタイミングの変更に比べて応答が遅い。具体的には、過給機15の駆動が開始された後、過給機15が完全駆動するまでの時間は、可変バルブタイミング機構45が進角量θを第1進角量θ1から第2進角量θ2に変更するまでの時間に比べて長い。そのため、時刻t=t1において、進角量θを第1進角量θ1から第2進角量θ2に変更すると、過給機15が完全駆動しないまま、吸気バルブ38の閉タイミングがより早められる。これにより、燃焼室32に吸入される吸入空気量が減ることになり、過給機15が完全駆動するまでの時間がより長くなる。
【0085】
そこで、本発明では、要求負荷が低負荷・中負荷領域から高負荷領域に変化したときに、第1進角制御を停止し、その後、第1過渡処理を行って、第2進角制御に移行する。このように、第1進角制御と第2進角制御との間に第1過渡処理が設けられているため、過給機15が完全に駆動していない間は、進角量θが第2進角量θ2に比べて低く抑えられる。これにより、燃焼室32に吸入される吸入空気量が減ることを防止し、吸入空気量を確保することができるため、過給機15が完全駆動するまでの時間を短くすることができ、
図5(c)に示すように、過給応答性を高めることができる。
【0086】
また、
図5に示すように、第1過渡処理において、進角量θは下限進角量θb以上に維持される。これにより、第1過渡処理におけるスーパーノックの発生が防止できる。
【0087】
プロセッサ81は、要求負荷が高負荷領域から低負荷・中負荷領域に変化したときに、第2過渡処理を実行する。
【0088】
図6には、要求負荷が高負荷領域から低負荷・中負荷領域に変化したときの(a)アクセル開度と、(b)目標出力(目標トルク)と、(c)実過給圧及び目標過給圧と、(d)進角量θの時間変化のグラフがそれぞれによって示されている。但し、時刻t=t3は、要求負荷が高負荷領域から低負荷・中負荷領域に変化した時刻を示す。
【0089】
図6(c)には、目標過給圧が実線で、実過給圧の変化が太線でそれぞれ示されている。
図6(d)には、進角量θの変化が太線でそれぞれ示されている。
【0090】
更に、
図6(c)には、要求負荷が高負荷領域から低負荷・中負荷領域に変化したときに、プロセッサ81が過給機15の駆動を停止し、且つ、同時に進角量θを第2進角量θ2から第1進角量θ1に変更したときの実過給圧の変化が破線で示されている。
図5(d)には、要求負荷が高負荷領域から低負荷・中負荷領域に変化したときに、プロセッサ81が過給機15の駆動を停止し、且つ、同時に進角量θを第2進角量θ2から第1進角量θ1に変更したときの進角量θの変化が破線で示されている。
【0091】
過給機15の駆動停止が開始された後、過給機15が完全停止するまでの時間は、可変バルブタイミング機構45が進角量θを第2進角量θ2から第1進角量θ1に変更するまでの時間に比べて長い。そのため、時刻t=t3において、進角量θを第2進角量θ2から第1進角量θ1に変更すると、しばらくの時間に渡って過給機15が完全停止することなく、駆動した状態に維持される。一方、バルブタイミングの変更に要する時間が、過給機15の完全停止に要する時間よりも短いため、過給機15が完全停止しないまま、吸気バルブ38の閉タイミングが遅くなる。そのため、その時間帯において、燃焼室32に吸入される吸入空気量が増え(
図6(c)の破線のt3以降を参照)、ノッキング(スーパーノック)が発生する可能性が高まる。
【0092】
そこで、本発明では、要求負荷が高負荷領域から低負荷・中負荷領域に変化したときに、第2進角制御を停止し、その後、第2過渡処理を行って、第1進角制御に移行する。このように、第2進角制御と第1進角制御との間に第2過渡処理が設けられているため、過給機15が完全に停止していない間は、進角量θが第1進角量θ1よりも大きく設定される。これにより、燃焼室32に吸入される吸入空気量が想定よりも増えることを防止し、吸入空気量を抑えることができる(
図6(c)の実線参照)ため、ノッキング(スーパーノック)の発生を防止することができる。
【0093】
このように本発明によって、ノッキングを低減するとともに、エネルギー効率を向上させることができる内燃機関システムが提供できる。よって、本発明による内燃機関システムは、持続可能な社会の実現に寄与するものと期待できる。
【0094】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【0095】
上記実施形態において、制御装置7(プロセッサ81)は、吸気下死点から所定の位相角度早める早閉じ制御を行っていたが、その位相角度には零が含まれていてもよい。例えば、要求負荷が低負荷・中負荷領域にあるときには、制御装置7(プロセッサ81)が、進角量θを零(すなわち、第1進角量θ1を零)に設定してもよい。
【0096】
上記実施形態において、プロセッサ81は、目標過給圧と、吸気圧センサ17によって実際に取得された実過給圧との差に基づいて、過給機15の完全駆動・完全停止を判定するように構成されていたが、他の方法によって過給機15の完全駆動・完全停止を判定してもよい。例えば、プロセッサ81はコンプレッサ53やタービン63の回転速度などに基づいて、過給機15の完全駆動・完全停止を判定してもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 :内燃機関システム
3 :内燃機関
7 :制御装置
11 :機関本体
12 :回転数センサ
15 :過給機
17 :吸気圧センサ
36 :吸気ポート
37 :排気ポート
38 :吸気バルブ
39 :排気バルブ
45 :可変バルブタイミング機構
θ :進角量
θ1 :第1進角量(第1角度)
θ2 :第2進角量(第2角度)
δ1 :第1補正進角量
δ2 :第2補正進角量
Tth :要求負荷閾値