(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112565
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】エンジン又はその周辺機器
(51)【国際特許分類】
F02B 67/06 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
F02B67/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017691
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大文
(57)【要約】
【課題】ウォータポンプの取り付けのためにタイミングチェーンカバーとシリンダブロックとの間に必要なシール性を、簡単な構造で確保する。
【解決手段】タイミングチェーンカバー2のうちウォータポンプ取り付け部11の縁部が、ボルト23によってシリンダブロック1に固定されている。タイミングチェーンカバー2にはボルト締結用の吸気側中間ボス部10が形成されており、吸気側中間ボス部10の後ろ向き突出部10aのうち内側シール面19に向いた側に切欠き22を形成している。吸気側中間ボス部10の圧縮応力が内側シール面19に向いた側で低くなることにより、ボス部10は内側シール面19に向けて倒れる傾向を呈して、ウォータポンプ取り付け部11がシリンダブロック1に向けて押し付けられる。従って、タイミングチェーンカバー2の縁部がボルト23で固定されているだけの状態でも、内側シール面19のシール性を確保できる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の第1部材とこれが重なった第2部材とを有して、前記第1部材の表面に、当該第1部材を前記第2部材にボルトで締結するためのボス部が形成されており、前記第1部材の裏面と前記第2部材の表面とには、前記ボス部よりも内側に位置した内側シール面が形成されている構成であって、
前記ボス部の裏面のうち前記内側シール面に向いた部位を部分的に切り欠いている、
エンジン又はその周辺機器。
【請求項2】
前記第1部材の表面に、前記ボス部と繋がったリブが、前記ボス部の軸心方向から見て前記切り欠いた部分と重なるように形成されている、
請求項1に記載したエンジン又はその周辺機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、板状の第1部材とこれが重なった第2部材とを有するエンジン又はその周辺機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)は、タイミングチェーンを覆うタイミングチェーンカバー(フロントタイミングチェーンカバー)を備えており、タイミングチェーンカバーは、その周辺部が多数のボルトでシリンダブロック及びシリンダヘッドに固定されている。
【0003】
他方、水冷式のエンジンは、ベルト駆動式又は電動式のウォータポンプを備えており、ベルト駆動式のウォータポンプの例が特許文献1に記載されている。この特許文献1において、ウォータポンプは、シリンダブロック1やタイミングチェーンカバーに固定されるハウジングを備えており、ハウジングに補強のためのリブを設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、ウォータポンプのハウジングをシリンダブロックやタイミングチェーンカバーに固定する場合、シリンダブロックやタイミングチェーンカバーにポンプ室が外向きに開口した状態で形成されている場合は、ウォータポンプにおけるハウジングンの外周部が複数箇所においてシリンダブロックやタイミングチェーンカバーにボルトで固定されるため、ハウジングンとシリンダブロック又はタイミングチェーンカバーとの間のシールは確保できる。
【0006】
他方、タイミングチェーンカバーとシリンダブロックとの間に空間を設ける場合があり、この場合は、タイミングチェーンカバーとシリンダブロックとの間にシール面(重合面)が形成されるが、タイミングチェーンカバーはその縁部がボルトでシリンダブロックに固定されているだけであるため、ボルトの押圧力がシール面に作用せずに、シールが不十分になることがあった。
【0007】
この点については、タイミングチェーンカバーの表面に補強用のリブを設けたらよいと解されるが、リブを設けても効果は限定的であり,また、タイミングチェーンカバーの表面にポンプ本体が固定されているとリブを設けることができないという問題もある。
【0008】
本願発明は、このような現状を背景に成されたものであり、内側シール面を介して重なっている2つの部材を有するエンジン等に関し、内側シール面の高いシール性を簡単な構造で確保しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、請求項1のとおり、
「板状の第1部材とこれが重なった第2部材とを有して、前記第1部材の表面に、当該第1部材を前記第2部材にボルトで締結するためのボス部が形成されており、前記第1部材の裏面と前記第2部材の表面とには、前記ボス部よりも内側に位置した内側シール面が形成されている」
という基本構成において、
「前記ボス部の裏面のうち前記内側シール面に向いた部位を部分的に切り欠いている」
という構成になっている。
【0010】
本願発明は様々に展開できる。その例として請求項2では、
「前記第1部材の表面に、前記ボス部と繋がったリブが、前記ボス部の軸心方向から見て前記切り欠いた部分と重なるように形成されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0011】
さて、ボス部はボルトの押圧力を集中させるために設けているが、本願発明者が解析したところ、ボス部の裏面が単なるリング状であると、ボルトの押圧力はボス部の裏面の全周に均等に作用するだけで、押圧力が内側シール面に及びにくいことが判明した。すなわち、ボルトによる押圧力はボス部をシリンダブロックに強く押圧することに費やされて、押圧力が内側シール面に殆ど及んでいなかった。
【0012】
これに対して、本願発明のようにボス部の裏面のうち内側シール面に向いた面が切欠かれていると、ボス部が内側シール面の側に倒れる傾向を呈することにより、第1部材のうち内側シール面とボス部とを繋ぐ部分が第2部材に押される現象が生じ、これにより、内側シール面のシール性を向上できる。
【0013】
そして、ボス部の裏面を切欠くだけの簡単な構造であるので、コストアップは発生せず、むしろ、軽量化できて燃費の向上に貢献できる。また、ボス部の裏面に改良を加えたものであるので、第1部材の表面にウォータポンプなどの部材を固定している場合、その固定機能を損なうことはなくて汎用性に優れている。
【0014】
実施形態のように、ボス部の裏面を独立した島状に形成すると、ボス部の倒れ作用が高くなって、シール性を更に向上できる利点がある。
【0015】
請求項2のように第1部材の表面にリブを設けると、第1部材のうちボス部と内側シール面とに繋がっている部分を第2部材に向けて押さえ付ける機能が向上するため、内側シール面のシール性向上に更に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係るタイミングチェーンカバーの前面図である。
【
図2】変更前のタイミングチェーンカバーの裏面図である。
【
図3】タイミングチェーンカバーの要部を前から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1).実施形態の構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用エンジンに適用している。
【0018】
エンジンは、
図5に一部だけ表示したシリンダブロック1とその上面に固定されたシリンダヘッド、シリンダヘッドの上面に固定されたヘッドカバー、及びシリンダブロックの下面に固定されたオイルパンを備えている。
【0019】
そして、シリンダブロックとシリンダヘッドの一端面(ミッションケースと反対側の前端面)に、各図に示すタイミングチェーンカバー(フロントカバー)2が配置されている。本実施形態では、請求項との関係では、タイミングチェーンカバー2が第1部材でシリンダブロックが第2部材に該当する。
【0020】
以下では、方向を特定するため前と裏(又は後ろ)及び左右の文言を使用するが、タイミングチェーンカバーに関しては、前はシリンダブロックと反対側であり、裏はシリンダブロックに向いた側である。左右方向は、タイミングチェーンカバー2の幅方向である。
図1に、二点鎖線3でシリンダブロック1とシリンダヘッドとの境界を示している。なお、ヘッドカバーの前端部はタイミングチェーンカバー2の上面に重なっている。
【0021】
タイミングチェーンカバー2は、基本的に板状の形態を成しているが、排気側と吸気側との側部に裏側に突出した左右の土手部4,5が形成されて、左右の土手部4,5の間は、タイミングチェーンが周回する空間になっている。
図2では、土手部4,5に平行斜線を表示している。従って、平行斜線は平坦面を意味しており、断面の表示ではない。
【0022】
本実施形態のエンジンは、クランク軸を車幅方向に長い姿勢で配置した横置きタイプであり、かつ、排気側面を車両前方に向けている。従って、横置き前排気のタイプある(縦置きや後ろ排気でもよい。)。そして、タイミングチェーンカバー2の下部に、クランク軸を露出させるクランク軸穴6が貫通している。クランク軸の前向き突出部にはクランクプーリが固定されており、クランクプーリに巻き掛けたベルトによってオルタネータやエアコン用コンプレッサなどが駆動される。
【0023】
本実施形態では、オイルポンプをクランク軸で駆動しており、そこで、
図1に簡単に示すように、タイミングチェーンカバー2のうちクランク軸穴6の周囲の箇所にポンプカバー部7を形成しているが、本願との関係はないので、
図2では省略している。オイルポンプをクランク軸で駆動していることと関連するが、タイミングチェーンカバー2の下端でかつ排気側の部位に、オイルフィルター取り付け座8を下向きに突設している。
【0024】
タイミングチェーンカバー2は、シリンダブロック及びシリンダヘッドにボルトで固定するためのボルト挿通穴が多数形成されており、ボルト挿通穴を設けた部位は、タイミングチェーンカバー2から前向きに突出したボス部9,10になっている。ボス部9,10の裏面は土手部4,5と同一面を成している。
【0025】
タイミングチェーンカバー2の概ね中間高さ部位でかつ吸気側の部位に、ウォータポンプ取り付け部11を設けている。ウォータポンプ取り付け部11はタイミングチェーンカバー2の1/3程の高さを有すると共に、タイミングチェーンカバー2の左右幅の4割程度の幅を有している。したがって、かなり広い面積になっている。
【0026】
ウォータポンプ取り付け部11は、タイミングチェーンカバー2の前面の側では段差面11aになっており、段差面11aに、冷却水流入穴13とその上に位置した冷却水流出穴14とが開口している。
図5に示すように、冷却水流入穴13はシリンダブロック1に開口した冷却水戻り通路15に連通しており、冷却水流出穴14は、シリンダブロック1に設けた冷却水送り通路(図示せず)に連通している。
【0027】
本実施形態のウォータポンプ12は電動式であり、ハウジングの内部にポンプ室(渦室)が形成されて、ポンプ室に羽根車が内蔵されている。また、ポンプ室は冷却水流入穴13及び冷却水流出穴14に連通している。
【0028】
図2では段差面の範囲を平行斜線で表示している。従って、
図1の平行斜線は断面の表示ではない。ウォータポンプ取り付け部11が上下左右にある程度の寸法を有して広い面積であるため、段差面11aを形成すると、ウォータポンプ取り付け部11の板厚は薄くなって剛性が低くなっている。
【0029】
図1において、ウォータポンプ12の前面視の外形を一点鎖線で表示している。すなわち、ウォータポンプ12は既述のとおりハウジングを備えていて、このハウジングがウォータポンプ取り付け部11の段差面11aに固定されているが、ハウジングは、短辺を上にした三角形に近い形態を成しており、各コーナー部がボルト(図示せず)で段差面11aに固定されている。このため、段差面に11には3つのタップ穴16が形成されている。
【0030】
図2に示すように、タイミングチェーンカバー2の裏面のうちウォータポンプ取り付け部11の箇所には、冷却水流入穴13及び冷却水流出穴14を囲うように凹部17,18が形成されており、凹部17,18を囲うようにして、シリンダブロックと重なる内側シール面19が形成されている。従って、ウォータポンプ取り付け部11の裏面のうち内側シール面19を除いた部位は、前側に段上がりしている。従って、ウォータポンプ12が固定される部位はかなり薄くなっている。
【0031】
図2に示すように、吸気側土手部5のうちウォータポンプ取り付け部11よりも下方の部位から内向きのインナー突条20が分岐しており、インナー突条20は、内側シール面19の上下中途部に繋がっている。
【0032】
そして、
図2の従来例では、ウォータポンプ取り付け部11の外側に位置した上下2つの吸気側中間ボス部10の裏面は前面と同じ円形になっており、土手部5と一体に連続している。また、土手部5は内側シール面19と連続している。
【0033】
他方、
図4に示す実施形態では、吸気側中間ボス部10の裏面は、土手部5及び内側シール面19から独立した島状になっており、かつ、内側シール面19に向いた側に半周程度の広がりで切欠き(肉盗み部、薄肉部)22が形成されている。換言すると、吸気側中間ボス部10は、タイミングチェーンカバー2の後面から裏側に突出した筒状の後ろ向き突出部10aを有しており、この後ろ向き突出部10aの外周面のうち内側シール面19に向いた部位に切欠き22が形成されている。
【0034】
従って、吸気側中間ボス部10の軸心方向から見た状態で、切欠き22はボルト23の頭(の座面)と部分的に重なっている。ボルト23の頭24は、座面の全体が吸気側中間ボス部10の前面に重なっている。
【0035】
図3,4に示すように、吸気側中間ボス部10の外周面とウォータポンプ取り付け部11の段差面11aの外寄り端部とは、三角形状の前側リブ25で繋がっている。前側リブ25は、平面視で切欠き22の箇所に位置しており、内側シール面19を向いている。敢えて述べるまでもないが、前側リブ25はウォータポンプ12と緩衝しない長さに設定されている。前側リブ25は請求項に記載したリブに該当する。
【0036】
図4及び
図5に示すように、ウォータポンプ取り付け部11のうちウォータポンプ12の外側の下面には、上に位置した吸気側中間ボス部10と内側シール面19とに連なる裏側リブ26を形成している。裏側リブ26は、吸気側中間ボス部10の裏面及び内側シール面19の裏面よりも低い高さになっている。
【0037】
(2).まとめ
実施形態において、吸気側中間ボス部10を固定するボルト23の頭24は、その全体が吸気側中間ボス部10の前面に重なっている。従って、ボルトのねじ込みによる押圧力は、吸気側中間ボス部10の前面の全体に均等に作用する。
【0038】
そして、吸気側中間ボス部10の後ろ向き突出部10aは内側シール面19に向いた側が切り欠かれていて、吸気側中間ボス部10のうち切欠き22を設けた部位の圧縮応力が低下するため、ボルト23の締め込みによって、
図5に誇張して矢印28で示すように、吸気側中間ボス部10は切欠き22の側に倒れる傾向を呈する。
【0039】
すると、ウォータポンプ取り付け部11のうち内側シール面19と吸気側中間ボス部10との間の部位に対して、矢印29で示すように、斜め下向きの押圧力が作用し、これにより、矢印30で示すように、ウォータポンプ取り付け部11のうち内側シール面19を備えた板状部がシリンダブロック1に向けて押し付けられる。その結果、内側シール面19のシール性(シリンダブロック1との密着性)を向上できて、冷却水の漏洩を防止できる。
【0040】
そして、吸気側中間ボス部10の後ろ向き突出部10aに切欠き22を形成する簡単な構造であるため、コストアップは生じないし、むしろ、軽量化によって燃費の向上に貢献できる。
【0041】
実施形態のように前側リブ25を設けると、吸気側中間ボス部10の倒れによるウォータポンプ取り付け部11の押さえ機能を向上できるため、シール性を更に向上できる。また、裏側リブ26を設けると、ウォータポンプ取り付け部11の対曲げ力を高めて吸気側中間ボス部10の倒れによる押さえ効果を更に向上して、シール性を更に向上できる。
【0042】
実施形態のように吸気側中間ボス部10を島状に独立させると、ボルト23の締め込みによる吸気側中間ボス部10の倒れ作用を高くできるため、内側シール面19のシール性向上に貢献できる。また、軽量化を促進できるため、燃費向上に更に貢献できる。
【0043】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、タイミングチェーンカバーとシリンダブロックとの固定構造のみでなく、シール性を必要とする部材の締結に広く適用できる。すなわち、ウォータポンプのハウジングの固定構造やオイルポンプにおけるハウジングの固定構造、或いはバッフルプレートの固定構造など、ボルトを締め込んでもシール面に浮きが発生するおそれがある場合の対策として広く適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本願発明は、エンジンやその周辺機器に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 シリンダブロック(第2部材)
2 タイミングチェーンカバー(第1部材)
4,5 土手部
6 クランク軸穴
9 ボス部
10 吸気側中間ボス部
11 ウォータポンプ取り付け部
11a 段差面
12 ウォータポンプ
13 冷却水流入穴
14 冷却水流出穴
19 内側シール面
22 切欠き
23 ボルト
24 ボルトの頭
25 前側リブ
26 裏側リブ