(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112573
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】表面処理鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20240814BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20240814BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240814BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20240814BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/26
C23C28/00 C
C23C28/00 E
C22C18/04
C22C18/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017708
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 哲也
(72)【発明者】
【氏名】東新 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
【テーマコード(参考)】
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AB05
4K027AB15
4K027AB44
4K027AC32
4K027AC82
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA10
4K044BA12
4K044BB03
4K044CA11
4K044CA16
(57)【要約】
【課題】屋外に曝露された場合でも退色するおそれがない化成処理層を備え、耐食性にも優れた表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板と、鋼板の少なくとも片面に形成されためっき層と、めっき層の上に形成された化成処理層とを備え、めっき層は、平均組成で、Al:2~22質量%、Mg:1.0~10質量%を含有し、残部がZn及び不純物を含み、化成処理層は、10質量%以上のジルコニウム化合物と、1質量%以上のバナジウム化合物と、着色顔料と、1~1000質量ppmのCaとを含有し、樹脂の含有量が0~40質量%である、表面処理鋼板を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、前記鋼板の少なくとも片面に形成されためっき層と、前記めっき層の上に形成された化成処理層とを備え、
前記めっき層は、平均組成で、Al:2~22質量%、Mg:1.0~10質量%を含有し、残部がZn及び不純物を含み、
前記化成処理層は、10質量%以上のジルコニウム化合物と、1質量%以上のバナジウム化合物と、着色顔料と、1~1000質量ppmのCaとを含有し、樹脂の含有量が0~40質量%である、表面処理鋼板。
【請求項2】
前記着色顔料が、Cu、Co、Feの1種若しくは2種以上を含有する顔料、着色無機顔料または着色有機顔料のいずれかである、請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
前記着色無機顔料または前記着色有機顔料が、下記の何れかである、請求項2に記載の表面処理鋼板。
[着色無機顔料]二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉛、コールダスト、タルク、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローのうちの何れか1種または2種以上
[着色有機顔料]キナクリドンレッド、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット(ジオキサジンバイオレット)、アントラピリジン、アゾオレンジ、ジスアゾイエロー、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッドのうちの何れか1種または2種以上
【請求項4】
前記Cu、Co、Feの1種若しくは2種以上を含有する顔料が、銅(II)フタロシアニン、コバルト(II)フタロシアニン、硫酸銅、硫酸コバルト、硫酸鉄または酸化鉄のいずれか1種または2種以上である、請求項2に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記めっき層に、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、
前記パターン部及び前記非パターン部は、それぞれ、下記の決定方法1~5のうちのいずれかによって決定される第1領域、第2領域のうちの1種または2種を含み、
前記パターン部における前記第1領域の面積率と、前記非パターン部における前記第1領域の面積率との差の絶対値が、30%以上である、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
[決定方法1]
前記めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、前記仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、各領域の重心点を中心とする直径0.5mmの円内を測定領域Aとし、各測定領域AにおけるL*値を測定する。得られたL*値の中から任意の50点を選定し、得られたL*値の50点平均を基準L*値としたとき、L*値が基準L*値以上になる領域を第1領域、基準L*値未満となる領域を第2領域とする。
[決定方法2]
前記めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、前記仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、各領域の重心点を中心とする直径0.5mmの円内を測定領域Aとし、各測定領域AにおけるL*値を測定し、L*値が45以上になる領域を第1領域、L*値が45未満となる領域を第2領域とする。
[決定方法3]
前記めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、前記仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、算術平均高さSa2を測定する。得られた算術平均高さSa2が1μm以上になる領域を第1領域、1μm未満となる領域を第2領域とする。
[決定方法4]
前記めっき層の表面に1mm間隔または10mm間隔で仮想格子線を描き、前記仮想格子線によって区画される複数の領域にそれぞれX線を入射させるX線回折法により、前記領域毎に、Zn相の(0002)面の回折ピーク強度I0002と、Zn相の(10-11)面の回折ピーク強度I10-11とを測定し、これらの強度比(I0002/I10-11)を配向率とする。前記配向率が3.5以上の領域を第1領域とし、前記配向率が3.5未満の領域を第2領域とする。
[決定方法5]
前記めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線を描き、次いで、前記仮想格子線によって区画される複数の領域毎に、各領域の重心点Gを中心とする円Sを描く。前記円Sは、前記円Sの内部に含まれる前記めっき層の表面境界線の合計長さが10mmとなるように直径Rを設定する。複数の領域の円Sの直径Rのうち最大の直径Rmaxと最小の直径Rminとの平均値を基準直径Raveとし、直径Rが基準直径Rave未満の円Sを有する領域を第1領域とし、直径Rが基準直径Rave以上の円Sを有する領域を第2領域とする。
【請求項6】
前記めっき層が、更に、平均組成で、下記A群、B群からなる群から選択される1種または2種を含有する、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
[A群]Si:0.0001~2質量%
[B群]Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%
【請求項7】
前記めっき層が、更に、平均組成で、下記A群、B群からなる群から選択される1種または2種を含有する、請求項5に記載の表面処理鋼板。
[A群]Si:0.0001~2質量%
[B群]Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%
【請求項8】
前記化成処理層には、1質量%以上40質量%以下のリン酸化合物、1質量%以上30質量%以下のシリカ粒子、0.1質量%以上30質量%以下のコバルト化合物、0.1質量%以上30質量%以下のチタン化合物、の1種または2種以上が含有されている、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
【請求項9】
前記化成処理層には、1質量%以上40質量%以下のリン酸化合物、1質量%以上30質量%以下のシリカ粒子、0.1質量%以上30質量%以下のコバルト化合物、0.1質量%以上30質量%以下のチタン化合物、の1種または2種以上が含有されている、請求項5に記載の表面処理鋼板。
【請求項10】
前記化成処理層には、1質量%以上40質量%以下のリン酸化合物、1質量%以上30質量%以下のシリカ粒子、0.1質量%以上30質量%以下のコバルト化合物、0.1質量%以上30質量%以下のチタン化合物、の1種または2種以上が含有されている、請求項6に記載の表面処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
耐食性の良好なめっき鋼板として最も使用されるめっき鋼板にZn系めっき鋼板がある。Zn系めっき鋼板は、自動車、家電、建材分野など種々の製造業において使用されている。その中でも特に、Alを添加しためっきは耐食性が高いため近年使用量が増加している。
【0003】
耐食性を向上させることを目的として開発されたZn系めっき鋼板の一例として、Zn-Al-Mg-Siめっき鋼板が知られている。このめっき鋼板は、外観が梨地模様を呈することから、外観美麗性にも優れているという特徴がある。
【0004】
しかしながら、Zn-Al-Mg-Siめっき鋼板は、経時によって黒変したり、めっき層の表面に明度の不均一性が生じたり、めっき層の耐食性が十分でない場合がある。そこで、特許文献1~3に記載されているように、めっき層に化成処理層を被覆させたり、各種の塗膜を形成する場合がある。
【0005】
特許文献1には、鋼板の表面に、Mg:1~10質量%、Al:2~19質量%、Si:0.01~2質量%含有し、Mg(質量%)+Al(質量%)≦20質量%を満たし、残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有し、更にその表層に、ジルコニウム化合物をジルコニウムとして10~30質量%、バナジルイオン(VO2+)の塩として供給される化合物をバナジウムとして5~20質量%含有している皮膜を付着量として少なくとも片面に200~1200mg/m2有する、溶接性及び耐食性に優れるクロメートフリー処理亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板が記載されている。
【0006】
特許文献2には、鋼材の表面上にアルミニウム・亜鉛合金めっき層(α)がめっきされ、更にその上層にチタン化合物およびジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(A)を造膜成分とする皮膜(β)が被覆されている表面処理溶融めっき鋼材であって、アルミニウム・亜鉛合金めっき層(α)が構成元素としてAl、Zn、Si及びMgを含み、且つAl含有量が25~75質量%、Mg含有量が0.1~10質量%であり、アルミニウム・亜鉛合金めっき層(α)が0.2~15体積%のSi-Mg相を含み、Si-Mg相中のMgの、めっき層中のMg全量に対する質量比率が3%以上であって、アルミニウム・亜鉛合金めっき層(α)における50nm深さの最外層内で、大きさが直径4mm、深さ50nmとなるいかなる領域においても、Mg含有量が60質量%未満である表面処理溶融めっき鋼材が記載されている。
【0007】
特許文献3には、1~6価の金属イオンを含有する化合物及びケイ素化合物よりなる群から選択される1種又はそれ以上の成分と、畜光顔料、畜光染料、蛍光顔料及び蛍光染料よりなる群から選択される1種又はそれ以上の成分とを含む金属保護被膜形成用組成物が記載されている。
【0008】
更に最近では、Zn-Al-Mg-Siめっき鋼板の外観性を向上させるために、特許文献4に記載されているように、着色顔料を含有させた化成処理層が提案されている。
【0009】
しかし、特許文献4に記載された化成処理層は、樹脂を主成分とする皮膜であることから、鋼板を加工する際に、工具等によって、着色された化成処理層が部分的に削られてしまい、局所的に外観を損ねるおそれがある。
【0010】
一方、無機化合物を主成分とする皮膜は、樹脂を主成分とする化成処理層に対して比較的削られにくく耐久性がある。そこで、特許文献1または2に記載されているような、ジルコニウムを含む化合物、バナジウムを含む化合物またはチタンを含む化合物のような無機化合物を主体とする皮膜に、顔料を含有させることが検討されている。しかしながら、特許文献1または2に記載されている皮膜は、緻密性が高くバリア性に優れるものの、着色顔料の保持性が十分ではなく、特に水が皮膜に触れた場合の着色顔料の保持力に問題がある。このため、着色顔料によって着色された無機系の化成処理皮膜を、長期間にわたって屋外に曝露すると、降雨や結露の影響により、次第に退色するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3868243号公報
【特許文献2】特許第5751093号公報
【特許文献3】特開2004-083771号公報
【特許文献4】特許第7047993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、屋外に曝露された場合でも退色するおそれがない化成処理層を備え、耐食性にも優れた表面処理鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 鋼板と、前記鋼板の少なくとも片面に形成されためっき層と、前記めっき層の上に形成された化成処理層とを備え、
前記めっき層は、平均組成で、Al:2~22質量%、Mg:1.0~10質量%を含有し、残部がZn及び不純物を含み、
前記化成処理層は、10質量%以上のジルコニウム化合物と、1質量%以上のバナジウム化合物と、着色顔料と、1~1000質量ppmのCaとを含有し、樹脂の含有量が0~40質量%である、表面処理鋼板。
[2] 前記着色顔料が、Cu、Co、Feの1種若しくは2種以上を含有する顔料、着色無機顔料または着色有機顔料のいずれかである、[1]に記載の表面処理鋼板。
[3] 前記着色無機顔料または前記着色有機顔料が、下記の何れかである、[2]に記載の表面処理鋼板。
[着色無機顔料]二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉛、コールダスト、タルク、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローのうちの何れか1種または2種以上
[着色有機顔料]キナクリドンレッド、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット(ジオキサジンバイオレット)、アントラピリジン、アゾオレンジ、ジスアゾイエロー、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッドのうちの何れか1種または2種以上
[4] 前記Cu、Co、Feの1種若しくは2種以上を含有する顔料が、銅(II)フタロシアニン、コバルト(II)フタロシアニン、硫酸銅、硫酸コバルト、硫酸鉄または酸化鉄のいずれか1種または2種以上である、[2]に記載の表面処理鋼板。
[5] 前記めっき層に、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、
前記パターン部及び前記非パターン部は、それぞれ、下記の決定方法1~5のうちのいずれかによって決定される第1領域、第2領域のうちの1種または2種を含み、
前記パターン部における前記第1領域の面積率と、前記非パターン部における前記第1領域の面積率との差の絶対値が、30%以上である、[1]乃至[4]の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
[決定方法1]
前記めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、前記仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、各領域の重心点を中心とする直径0.5mmの円内を測定領域Aとし、各測定領域AにおけるL*値を測定する。得られたL*値の中から任意の50点を選定し、得られたL*値の50点平均を基準L*値としたとき、L*値が基準L*値以上になる領域を第1領域、基準L*値未満となる領域を第2領域とする。
[決定方法2]
前記めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、前記仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、各領域の重心点を中心とする直径0.5mmの円内を測定領域Aとし、各測定領域AにおけるL*値を測定し、L*値が45以上になる領域を第1領域、L*値が45未満となる領域を第2領域とする。
[決定方法3]
前記めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、前記仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、算術平均高さSa2を測定する。得られた算術平均高さSa2が1μm以上になる領域を第1領域、1μm未満となる領域を第2領域とする。
[決定方法4]
前記めっき層の表面に1mm間隔または10mm間隔で仮想格子線を描き、前記仮想格子線によって区画される複数の領域にそれぞれX線を入射させるX線回折法により、前記領域毎に、Zn相の(0002)面の回折ピーク強度I0002と、Zn相の(10-11)面の回折ピーク強度I10-11とを測定し、これらの強度比(I0002/I10-11)を配向率とする。前記配向率が3.5以上の領域を第1領域とし、前記配向率が3.5未満の領域を第2領域とする。
[決定方法5]
前記めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線を描き、次いで、前記仮想格子線によって区画される複数の領域毎に、各領域の重心点Gを中心とする円Sを描く。前記円Sは、前記円Sの内部に含まれる前記めっき層の表面境界線の合計長さが10mmとなるように直径Rを設定する。複数の領域の円Sの直径Rのうち最大の直径Rmaxと最小の直径Rminとの平均値を基準直径Raveとし、直径Rが基準直径Rave未満の円Sを有する領域を第1領域とし、直径Rが基準直径Rave以上の円Sを有する領域を第2領域とする。
[6] 前記めっき層が、更に、平均組成で、下記A群、B群からなる群から選択される1種または2種を含有する、[1]乃至[4]の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
[A群]Si:0.0001~2質量%
[B群]Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%
[7] 前記めっき層が、更に、平均組成で、下記A群、B群からなる群から選択される1種または2種を含有する、[5]に記載の表面処理鋼板。
[A群]Si:0.0001~2質量%
[B群]Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%
[8] 前記化成処理層には、1質量%以上40質量%以下のリン酸化合物、1質量%以上30質量%以下のシリカ粒子、0.1質量%以上30質量%以下のコバルト化合物、0.1質量%以上30質量%以下のチタン化合物、の1種または2種以上が含有されている、[1]乃至[4]の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
[9] 前記化成処理層には、1質量%以上40質量%以下のリン酸化合物、1質量%以上30質量%以下のシリカ粒子、0.1質量%以上30質量%以下のコバルト化合物、0.1質量%以上30質量%以下のチタン化合物、の1種または2種以上が含有されている、[5]に記載の表面処理鋼板。
[10] 前記化成処理層には、1質量%以上40質量%以下のリン酸化合物、1質量%以上30質量%以下のシリカ粒子、0.1質量%以上30質量%以下のコバルト化合物、0.1質量%以上30質量%以下のチタン化合物、の1種または2種以上が含有されている、[6]に記載の表面処理鋼板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、屋外に曝露された場合でも退色するおそれがない化成処理層を備え、耐食性にも優れた表面処理鋼板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
Zn系めっき層の表面に形成する化成処理層として、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物またはチタン化合物の少なくとも1種以上の造膜成分を含む化成処理層がある。この化成処理層を備えた表面処理鋼板の外観を向上させるために、化成処理層に着色顔料を含有させたところ、長期間にわたって屋外に曝露した場合に、降雨や結露の影響により、次第に退色する現象が見られた。
【0016】
そこで、本発明者らが検討したところ、鋼板表面に化成処理層を形成する直前に、カルシウムイオンを含む水溶液を噴霧し、化成処理層を形成させたところ、詳細な理由は不明であるが、化成処理層に着色顔料を安定して保持することが可能であることを見出した。おそらく、水性組成物中のジルコニウム化合物、バナジウム化合物またはチタン化合物が、化成処理層の形成に伴って脱水縮合する際に、カルシウムイオンの存在によって着色顔料が化成処理層に強固に取り込まれるためと推測される。
【0017】
以下、本発明の実施形態である表面処理鋼板について説明する。
本実施形態の表面処理鋼板は、鋼板と、鋼板の少なくとも片面に形成されためっき層と、めっき層の上に形成された化成処理層とを備え、めっき層は、平均組成で、Al:2~22質量%、Mg:1.0~10質量%を含有し、残部がZn及び不純物を含み、化成処理層は、10質量%以上のジルコニウム化合物と、1質量%以上のバナジウム化合物と、着色顔料と、1~1000質量ppmのCaとを含有し、樹脂の含有量が0~40質量%の表面処理鋼板である。
【0018】
[表面処理鋼板]
以下、本実施形態の表面処理鋼板について説明する。
めっき層の下地となる鋼板は、材質に特に制限はない。材質として、一般鋼などを特に制限はなく用いることができ、Alキルド鋼や一部の高合金鋼も適用することも可能であり、形状にも特に制限はない。鋼板に対して後述する溶融めっき法を適用することで、本実施形態に係るめっき層が形成される。
【0019】
[めっき層]
次に、めっき層の化学成分について説明する。
【0020】
本実施形態のめっき層は、平均組成で、Al:2~22質量%、Mg:1.0~10質量%を含有し、残部Znおよび不純物を含む。また、Al:2~22質量%、Mg:1.0~10質量%を含有し、残部Znおよび不純物からなるものでもよい。
【0021】
Alの含有量は、2~22質量%の範囲である。Alは、耐食性を確保するために含有させるとよい。めっき層中のAlの含有量が2質量%以上であれば、耐食性を向上させる効果がより高まる。Alの含有量が22質量%以下であることで、金属外観を維持しつつも、耐食性および耐候性を向上させる効果が担保されやすくなる。
【0022】
Mgの含有量は、1.0~10質量%の範囲である。Mgは、耐食性を向上させるために含有させるとよい。めっき層中のMgの含有量が1.0質量%以上であれば、耐食性を向上させる効果がより高まる。Mgの含有量が10質量%以下であることで、めっき浴でのドロス発生が抑制され、ドロスがめっきに付着することによってめっきが正常に形成されない箇所が生じることを抑制でき、耐食性の低下を抑えることができる。
【0023】
また、めっき層は、更に、平均組成で、下記A群、B群からなる群から選択される1種または2種を含有してもよい。
[A群]Si:0.0001~2質量%
[B群]Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%
【0024】
Siは、めっき層の密着性を向上させる場合があるので、Siを含有させてもよい。Siを0.0001質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上を含有させることで密着性を向上させる効果が発現するため、Siを0.0001質量%以上含有させることが好ましい。一方、Siを2質量%を超えて含有させてもめっき密着性を向上させる効果が飽和するため、Siの含有量は2質量%以下とする。めっき密着性の観点からは、Siの含有量を0.001~1質量%の範囲としてもよく、0.01~0.8質量%の範囲としてもよい。
【0025】
また、Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.0001~2質量%、好ましくは0.001~2質量%を含有していてもよい。これらの元素を含有することで、さらに耐食性を改善することができる。
【0026】
めっき層の化学成分の残部は、亜鉛(Zn)及び不純物である。不純物には、亜鉛やほかの地金中に不可避的に含まれるもの、めっき浴中で、鋼が溶解することによって含まれるものがある。
【0027】
なお、めっき層の平均組成は、次のような方法で測定できる。まず、めっきを浸食しない塗膜剥離剤(例えば、三彩化工社製ネオリバーSP-751)により、化成処理層を除去する。化成処理層の上に表層塗膜が存在している場合には、表層塗膜も併せて除去する。その後、インヒビター(例えば、スギムラ化学工業社製ヒビロン)入りの塩酸でめっき層を溶解し、得られた溶液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析に供することで求めることができる。
【0028】
[化成処理層]
めっき層の上に被覆される化成処理層は、10質量%以上のジルコニウム化合物(A)と、1質量%以上のバナジウム化合物(B)と、着色顔料と、1~1000質量ppmのCaとを含有する。化成処理層における樹脂の含有量は0~40質量%とされている。化成処理層は、ジルコニウム化合物(A)およびバナジウム化合物(B)を必須の造膜成分とする。ジルコニウム化合物(A)およびバナジウム化合物(B)を造膜成分とする化成処理層は、腐食因子である水や酸素等のバリヤー性、すなわち耐食性に優れる。
【0029】
<化成処理層の付着量>
化成処理層の付着量は特に限定されないが、0.1g/m2以上2.0g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは0.2g/m2以上1.5g/m2以下、更に好ましくは0.3g/m2以上1.0g/m2以下である。化成処理層の付着量が0.1g/m2未満であると、十分な耐食性が得られないことがある。一方、化成処理層の付着量が2.0g/m2超であると、経済的に不利であるばかりか、化成処理層の凝集力が不足し、脆くなり、耐食性が低下する場合がある。
【0030】
化成処理層の付着量は、塗布後の化成処理層を剥離した前後の表面処理鋼板の質量差を測定することにより求めればよい。
【0031】
<ジルコニウム化合物(A)およびバナジウム化合物(B)>
化成処理層形成用の処理薬剤に含有させるジルコニウム化合物(A)およびバナジウム化合物としては特に限定するものではないが、ジルコニウム化合物(A)としては、例えば、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムフッ化水素酸、又はその塩等が挙げられる。また、フッ化ジルコン酸アンモニウムが挙げられる。これらのジルコニウム化合物のうち、ジルコニウムフッ化水素酸、又はその塩、炭酸ジルコニウム錯イオンを含有するジルコニウム化合物が耐食性の観点から好ましい。炭酸ジルコニウム錯イオンを含有するジルコニウム化合物としては特に限定するものではないが、例えば、炭酸ジルコニウム錯イオン〔Zr(CO3)2(OH)2〕2-もしくは〔Zr(CO3)3(OH)〕3-のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。
【0032】
バナジウム化合物(B)は、例えば、バナジルイオン(VO2+)の塩であってもよい。バナジルイオン(VO2+)は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などの無機酸、若しくは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸等の有機酸アニオンとの塩によって供給されるオキソバナジウムカチオンである。
【0033】
バナジウム化合物(B)として、オキソバナジウムカチオンと、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などの無機酸アニオン又は蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸等の有機酸アニオンとの塩や、グリコール酸バナジル、デヒドロアスコルビン酸バナジルのような、有機酸とのキレートを例示できる。より具体的には、バナジウムアセチルアセテート、オキシ蓚酸バナジウムなどを例示できる。
【0034】
化成処理層中に含まれるジルコニウム化合物(A)は、10質量%以上とする。バナジウム化合物(B)は1質量%以上とする。ジルコニウム化合物(A)の含有量が10質量%未満もしくはバナジウム化合物(B)の含有量が1質量%未満の場合には、目標とする耐食性を得ることができない。ジルコニウム化合物(A)の含有量は、40~99質量%でもよく、50~80質量%でもよい。バナジウム化合物(B)の含有量は1~40質量%でもよく、3~20質量%でもよい。
【0035】
<リン酸化合物(C)>
化成処理層は、更にリン酸化合物(C)を含有することが耐食性を向上させる上で好ましい。リン酸化合物(C)はリン酸イオンを放出する化合物であることが更に好ましい。リン酸化合物(C)を含有させた場合には、化成処理層の形成時、それを形成するための水性組成物がめっき層に接触した際、または化成処理層形成後に化成処理層からリン酸化合物由来のリン酸イオンが溶出した際に、めっき層表面のMg系酸化皮膜と反応し、めっき層表面に難溶性のリン酸Mg系皮膜を形成する。これにより、耐白錆性を大幅に向上させることができる。リン酸化合物(C)がリン酸イオンを放出しない、すなわち環境中で非溶解性の場合は、非溶解性のリン酸化合物(C)が水、酸素等の腐食因子の移動を阻害することにより耐食性を向上する。
【0036】
リン酸化合物(C)としては、特に限定されないが、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類及びこれらの塩や、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類及びこれらの塩や、フィチン酸等の有機リン酸類及びこれらの塩等を挙げることができる。更には、リン酸水素2アンモニウム、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸を挙げることができる。塩類のカチオン種としては特に制限されず、例えば、Cu、Co、Fe、Mn、Sn、V、Mg、Ba、Al、Ca、Sr、Nb、Y、Ni及びZn等が挙げられる。これらのリン酸化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、塩類のカチオン種としてCaを含むリン酸化合物(C)のCaは、リン酸カルシウムとして存在しており、この点において、1~1000質量ppmの範囲で含有されるCaとは区別される。後述するように、1~1000質量ppmの範囲で含有されるCaは、Zr化合物に含まれるようになる。Caの存在状態は、アルゴンスパッタを併用したGDS発光分析により、化成処理層の厚み方向のCa、P、Zrの元素濃度分布を測定することで確認できる。
【0037】
リン酸化合物(C)の含有量は、化成処理層中に1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上30質量%以下である。リン酸化合物(C)の含有量が1質量%未満であると、耐食性の向上効果が得られない場合があり、40質量%超であると、耐食性が低下したり、皮膜を形成するための処理薬剤の安定性が低下したりする場合がある。
【0038】
<シリカ粒子(D)>
化成処理層は、更にシリカ粒子(D)を含有することが耐食性や耐傷付き性を向上させる上で好ましい。
【0039】
シリカ粒子(D)としては、特に限定されないが、例えば、スノーテックスC、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS-M、スノーテックスPS-L、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40(何れも日産化学工業社製)、アデライトAT-20N、アデライトAT-20A、アデライトAT-20Q(何れも旭電化工業社製)などのコロイダルシリカや、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(何れも日本アエロジル社製)などの気相シリカ等を使用することができる。これらのシリカ粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、シリカ粒子(D)の平均粒径は5~450nmの範囲であってもよい。
【0040】
シリカ粒子(D)の含有量は、化成処理層中に1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上25質量%以下である。シリカ粒子(D)の含有量が1質量%未満であると、耐食性や耐傷付き性の向上効果が得られない場合があり、30質量%超であると、耐食性が低下する場合がある。
【0041】
<コバルト化合物(E)>
化成処理層は、更にコバルト化合物(E)を含有する皮膜であることが耐食性を向上させる上で好ましい。
【0042】
コバルト化合物(E)としては、特に限定されないが、例えば、炭酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、酢酸コバルトなどを使用することができる。これらのコバルト化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
コバルト化合物(E)の含有量は、化成処理層中に0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上25質量%以下である。コバルト化合物(E)の含有量が0.1質量%未満であると、耐食性の向上効果が得られない場合があり、30質量%超であると、耐食性が低下する場合がある。
【0044】
<チタン化合物(F)>
化成処理層は、更にチタン化合物(F)を含有する皮膜であることが耐食性を向上させる上で好ましい。
【0045】
チタン化合物(F)としては、例えば、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタニル、塩化チタン、チタンラクテート、チタンイソプロポキシド、チタン酸イソプロピル、チタンエトキシド、チタン2-エチル-1-ヘキサノラート、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラ-n-ブチル、チタニアゾル、チタンフッ化水素酸、又はその塩等が挙げられる。例えば、チタンフッ化アンモニウムが挙げられる。これらのチタン化合物のうち、チタニアゾルや、チタンラクテート、チタンフッ化水素酸又はその塩などが耐食性の観点から好ましい。
【0046】
チタン化合物(F)の含有量は、化成処理層中に0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上25質量%以下である。チタン化合物(F)の含有量が0.1質量%未満であると、耐食性の向上効果が得られない場合があり、30質量%超であると、耐食性が低下する場合がある。
【0047】
<着色顔料(G)>
化成処理層は、表面処理鋼板の意匠性を高めるために、更に着色顔料(G)を含有する。着色顔料(G)の種類としては、Cu、CoまたはFeの1種若しくは2種以上を含有する顔料、着色無機顔料、または着色有機顔料のいずれかである。
【0048】
着色無機顔料は、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉛、コールダスト、タルク、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローのうちの何れか1種または2種以上である。
【0049】
着色有機顔料は、キナクリドンレッド、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット(カルバゾールバイオレットはジオキサジンバイオレットともいう)、アントラピリジン、アゾオレンジ、ジスアゾイエロー、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッドのうちの何れか1種または2種以上である。
【0050】
Cu、CoまたはFeの1種若しくは2種以上を含有する顔料は、銅(II)フタロシアニン、コバルト(II)フタロシアニン、硫酸銅、硫酸コバルト、硫酸鉄または酸化鉄のいずれか1種または2種以上であるとよい。
【0051】
着色顔料(G)の含有量は、化成処理層中に1~20質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2~10質量%である。着色顔料(G)の含有量が1質量%未満であると、化成処理層の着色が不十分になって外観性向上の効果が弱まる。また、20質量%超であると、めっき層の耐食性が低下する場合がある。
【0052】
化成処理層には、1~1000質量ppmのCaが含まれる必要がある。Caが含まれることにより、着色顔料(G)が化成処理層内に安定して保持されるようになる。化成処理層中のCa量が1質量ppm未満では着色顔料(G)を安定して保持することができない。一方、Ca量が1000質量ppmを越えると、化成処理層の健全性が低下するため、着色顔料(G)を安定して保持することができない。よって、Caの含有量は1~1000質量ppmの範囲とする。より好ましくは10~1000質量ppmの範囲である。
【0053】
また、化成処理層には、耐候性を向上させるために、樹脂を含有させてもよい。樹脂として例えば、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、水溶性樹脂であってもよく、本来水不溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように水中に微分散された状態になりうる樹脂(水分散性樹脂)であってもよい。水溶性樹脂のほか、本来水不溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように水中に微分散された状態になりうる樹脂(水分散性樹脂)を含めて樹脂と言う。特に、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂のうちのいずれか1種以上の樹脂を含むことが耐候性に優れるため好ましい。
【0054】
化成処理層における樹脂の含有量は、0~40質量%の範囲がよく、0~20質量%の範囲でもよく、0~10質量%の範囲でもよく、0~5質量%の範囲でもよく、0%でもよい。樹脂の含有量が40質量%を超えると、化成処理層の表面に取り扱い疵が生じやすくなり、表面処理鋼板の外観性が低下する。
【0055】
<潤滑剤>
化成処理層には、潤滑剤として、例えば、二硫化モリブデン、グラファイト、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ化セリウム、メラミンシアヌレート、フッ素樹脂系ワックス、ポリオレフィン系ワックス等を含有させてもよく、表面処理鋼板の耐傷付き性を向上させることも可能である。
【0056】
化成処理層は、ジルコニウム化合物(A)、バナジウム化合物(B)、着色顔料(G)を少なくとも含む水性組成物を、めっき層の表面に塗布し、その後カルシウムイオンを含む水溶液を噴霧し、直後に50~200℃の範囲で乾燥することにより得られる。水性組成物には、造膜性を向上させ、より均一で平滑な皮膜を形成するために溶剤を用いてもよい。溶剤としては、塗料に一般的に用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、レベリングの点から、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系の親水性溶剤等を挙げることができる。
【0057】
また、カルシウムイオンを含む水溶液は、カルシウム源として、炭酸水素カルシウムを含んでもよく、酢酸カルシウムを含んでもよい。噴霧した水溶液に含まれるカルシウムイオンは、めっき鋼板の表面に塗布された水性組成物と混合するが、水性組成物が乾燥するまでの短時間の間、フリーなカルシウムイオンとして存在する。詳細な理由は不明であるが、フリーなカルシウムイオンが、着色顔料を化成処理層に強固に取り込ませる効果を発現させると考えられる。フリーなカルシウムイオンは、水性組成物中のリン酸イオンと長時間接触すると、カルシウムのリン酸化合物に変化するため、前述の効果が失われる。フリーなカルシウムイオンは乾燥後、ジルコニウム化合物中に取り込まれる。Caの存在状態は、上述したように、アルゴンスパッタを併用したGDS発光分析による化成処理層の厚み方向の元素濃度分布より確認できる。
【0058】
化成処理層の形成に使用する水性組成物の被覆方法は、特に限定されず、一般に使用されるロールコート、エアスプレー、エアレススプレー、浸漬等を適宜採用することができる。乾燥方法としては、熱風、誘導加熱、近赤外、遠赤外等のいずれの方法でもよいし、併用してもよい。乾燥温度は50~200℃、好ましくは70~180℃である。加熱温度が50℃未満では、水分の蒸発速度が遅く充分な成膜性が得られないため、耐食性が低下する場合がある。一方、加熱温度が200℃を超えると、黄変等により外観が悪くなる。被覆後に乾燥させる場合の乾燥時間は1秒~5分が好ましい。また、樹脂が電子線や紫外線で硬化するものであればこれらの照射による硬化でもよいし、熱乾燥との併用であってもよい。
【0059】
以上のような着色された化成処理層をめっき層の表面に形成することにより、表面処理鋼板の外観を向上させることができる。また、化成処理層は、ジルコニウム化合物(A)およびバナジウム化合物(B)を必須の造膜成分とするので、例えば、鋼板を加工する際に工具等によって、着色された化成処理層が部分的に削られてしまうことがなく、局所的に外観を損ねるおそれもない。更に、1~1000質量ppmのCaが含まれているため、化成処理層に着色顔料を安定して保持することが可能になり、表面処理鋼板を屋外に曝露した場合でも化成処理層の退色を抑制できる。
【0060】
また、本実施形態に係るめっき層の表面には、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成されていてもよい。このようなめっき層に、
上記の化成処理層を設けることで、パターン部の識別性がより向上して、パターン部をより明確に認識できるようになる。
【0061】
パターン部は、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されていることが好ましい。また、非パターン部は、パターン部以外の領域である。また、パターン部の形状は、ドット抜けのように一部が欠けていても、全体として認識できれば許容される。また、非パターン部は、パターン部の境界を縁取るような形状であってもよい。
【0062】
めっき層の表面に、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状が配置されている場合に、これらの領域をパターン部とし、それ以外の領域を非パターン部とすることができる。パターン部と非パターン部の境界は、肉眼で把握することができる。パターン部と非パターン部の境界は、光学顕微鏡や拡大鏡などによる拡大像から把握してもよい。
【0063】
パターン部は、肉眼、拡大鏡下または顕微鏡下でパターン部の存在を判別可能な程度の大きさに形成されるとよい。また、非パターン部は、めっき層(めっき層の表面)の大部分を占める領域であり、非パターン部内にパターン部が配置される場合がある。
パターン部は、非パターン部内において所定の形状に配置されている。具体的には、パターン部は、非パターン部内おいて、直線部、曲線部、図形、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されている。パターン部の形状を調整することによって、めっき層の表面に、直線部、曲線部、図形、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状が現される。例えば、めっき層の表面には、パターン部からなる文字列、数字列、記号、マーク、線図、デザイン画あるいはこれらの組合せ等が現される。この形状は、後述する製造方法によって意図的若しくは人工的に形成された形状であり、自然に形成されたものではない。
【0064】
このように、パターン部及び非パターン部は、めっき層の表面に形成された領域であり、また、パターン部及び非パターン部には、それぞれ、第1領域、第2領域のうちの1種または2種が含まれる。
【0065】
パターン部及び非パターン部は、それぞれ、下記の決定方法1~5のうちのいずれかによって決定される第1領域、第2領域のうちの1種または2種を含み、パターン部における第1領域の面積率と、非パターン部における第1領域の面積率との差の絶対値が、30%以上である。パターン部における第1領域の面積率と非パターン部における第1領域の面積割合との差が、絶対値で30%以上の場合に、パターン部と非パターン部とを識別できるようになる。この面積割合の差が30%未満では、パターン部における第1領域の面積割合と、非パターン部における第1領域の面積割合との差が小さく、パターン部及び非パターン部の外観が似たような外観になり、パターン部を識別することが困難になる。面積割合の差は、大きければ大きいほどよく、この面積割合の差が40%以上であることがより好ましく、この面積割合の差が60%以上であることが更に好ましい。
【0066】
すなわち、パターン部においては、第1領域及び第2領域のそれぞれの面積割合を求めることができる。そして、第1領域の面積分率が70%を超える場合は、第1領域の面積分率が70%以下である場合に対しパターン部が相対的に白色もしくは白色に近い色に見える。第1領域の面積分率が30%以上70%以下である場合は、パターン部が相対的に梨地状に見える。また、第1領域の面積分率が30%未満である場合、パターン部は相対的に金属光沢があるように見える。このように、パターン部の外観は、第1領域の面積分率に依存する。
【0067】
一方、非パターン部においても、第1領域及び第2領域のそれぞれの面積割合を求めることができる。パターン部と同様、非パターン部の外観は、第1領域の面積分率に依存する。
【0068】
そして、パターン部における第1領域の面積割合と、非パターン部における第1領域の面積割合との差が、絶対値で30%以上の場合に、パターン部と非パターン部とを識別できるようになる。この面積割合の差が30%未満では、パターン部における第1領域の面積割合と、非パターン部における第1領域の面積割合との差が小さく、パターン部及び非パターン部の外観が似たような外観になり、パターン部を識別することが困難になる。面積割合の差は、大きければ大きいほどよく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。
【0069】
[決定方法1]
決定方法1では、めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、各領域の重心点を中心とする直径0.5mmの円内を測定領域Aとし、各測定領域AにおけるL*値を測定する。得られたL*値の中から任意の50点を選定し、得られたL*値の50点平均を基準L*値としたとき、L*値が基準L*値以上になる領域を第1領域、基準L*値未満となる領域を第2領域とする。
【0070】
[決定方法2]
決定方法2では、めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、各領域の重心点を中心とする直径0.5mmの円内を測定領域Aとし、各測定領域AにおけるL*値を測定し、L*値が45以上になる領域を第1領域、L*値が45未満となる領域を第2領域とする。
【0071】
[決定方法3]
決定方法3では、めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、算術平均高さSa2を測定する。得られた算術平均高さSa2が1μm以上になる領域を第1領域、1μm未満となる領域を第2領域とする。算術平均高さSa2の測定は、3Dレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて行う。本実施形態では、20倍の標準レンズを用いて、仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、測定間隔50μmで領域内の高さZを測定する。格子上に測定した場合は領域内には100点の測定点が得られる。得られた高さZ100点を高さZ1~高さZ100を用いて、下記の式3により算術平均高さSa2を算出する。Zaveは高さZ100点の平均とする。
【0072】
Sa2=1/100×Σ[x=1→100](|高さZx-Zave|) … 式3
【0073】
[決定方法4]
決定方法4では、めっき層の表面に1mm間隔または10mm間隔で仮想格子線を描き、仮想格子線によって区画される複数の領域にそれぞれX線を入射させるX線回折法により、前記領域毎に、Zn相の(0002)面の回折ピーク強度I0002と、Zn相の(10-11)面の回折ピーク強度I10-11とを測定し、これらの強度比(I0002/I10-11)を配向率とする。配向率が3.5以上の領域を第1領域とし、配向率が3.5未満の領域を第2領域とする。
【0074】
[決定方法5]
決定方法5では、めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線を描き、次いで仮想格子線によって区画される複数の領域毎に、各領域の重心点Gを中心とする円Sを描く。円Sは、円Sの内部に含まれるめっき層の表面境界線の合計長さが10mmとなるように直径Rを設定する。複数の領域の円Sの直径Rのうち最大の直径Rmaxと最小の直径Rminとの平均値を基準直径Raveとし、直径Rが基準直径Rave未満の円Sを有する領域を第1領域とし、直径Rが基準直径Rave以上の円Sを有する領域を第2領域とする。
【0075】
決定方法1または2によって第1領域と第2領域が特定されるパターン部及び非パターン部の形成は、めっき層の形成後に行う。パターン部及び非パターン部の形成は、60~200℃のめっき層の表面に酸性溶液を付着させることによって行う。より具体的には、酸性溶液を用意し、これを印刷手段によってめっき層の表面に付着させるとよい。印刷手段としては、各種の版を用いた印刷法(グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、シルク印刷等)、インクジェット法など、一般的な印刷法を適用できる。
【0076】
酸性溶液が付着した箇所では、めっき層のごく表面が溶解して、めっき層の表面が、めっきままの状態から変化する。これにより、酸性溶液が付着しなかった箇所との比較で、酸性溶液が付着した箇所の外観が変化する。このようにして、パターン部における第一領域の面積率と、非パターン部における第一領域の面積率との差が大きくなり、パターン部と非パターン部とを識別できるようになると推測される。
【0077】
酸性溶液の付着範囲は、パターン部に対応する領域としてもよく、非パターン部に対応する領域としてもよい。
【0078】
酸性溶液としては、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸を用いることが好ましい。また、酸性溶液における酸の濃度は、0.1~10質量%であることが望ましい。酸性溶液の付着時の鋼板温度は60~200℃、望ましくは50~80℃がよい。酸性溶液の種類や濃度を調整することで、酸性溶液を付着させた箇所おいて、めっき層表面における第1領域、第2領域の面積分率を調整することができるようになる。
【0079】
酸性溶液を付着させる際のめっき層の表面温度が60℃未満では、パターン部または非パターン部の形成に時間を要するため好ましくなく、めっき層の表面温度が200℃を超えると、酸性溶液がすぐに揮発してしまい、パターン部または非パターン部を形成できなくなるため好ましくない。
【0080】
酸性溶液の付着後は、1~10秒以内に水洗を行う必要がある。
【0081】
次に、決定方法3によって第1領域と第2領域が特定されるパターン部及び非パターン部の形成は、めっき層の形成後に行う。パターン部及び非パターン部の形成は、部分的に表面粗度を大きくしたロールを、めっき層の表面に押し付け、ロールの表面形状をめっき層に転写することによって行う。例えば、めっき層の表面にパターン部を形成するために、ロール表面のうち、パターン部に対応する箇所の粗度を、他の箇所に対して大きくすることで、表面粗さが大きな第1領域を多く含むパターン部を形成可能となる。また、逆に、パターン部に対応する箇所の粗度を、他の箇所に対して小さくしたロールを用いてもよい。ロール表面の粗度(算術平均高さSa2(μm))は、粗度を高くする箇所における粗度の範囲を0.6~3.0μmとし、好ましくは1.2~3.0μmとする。粗度を低くする箇所における粗度の範囲は、0.05~1.0μm、好ましくは0.05~0.8μmとするとよい。めっき層の表面温度が100~300℃の範囲で転写を行うとよい。また、粗度を高くする箇所における粗度と、粗度を低くする箇所における粗度の差は、算術平均高さSa2で0.2μm超、好ましくは0.3μm以上とする。粗度の差が小さくなると、パターン部及び非パターン部が判別しにくくなる。
【0082】
決定方法4によって特定されるパターン部及び非パターン部の形成は、溶融めっき浴から引き上げた直後の鋼板に対して、非酸化性ガスを溶融状態の金属にガスノズルによって局所的に吹き付けることにより行う。非酸化性ガスとしては、窒素やアルゴンを用いるとよい。組成によって最適な温度域は異なるが、溶融金属の温度が(最終凝固温度-5)℃~(最終凝固温度+5)℃の範囲にあるときに、非酸化性ガスの吹き付けを行うとよい。更に、非酸化性ガスの温度は、最終凝固温度未満とする。
【0083】
めっき層が上記の温度範囲にあるときに非酸化性ガスが吹き付けられた箇所では、溶融金属の冷却速度が増加し、これにより、凝固後のめっき層の配向率が高くなる。一方、非酸化性ガスが吹き付けられなかった箇所では、溶融金属の冷却速度が低下し、これにより、凝固後のめっき層の配向率が低くなる。従って、非酸化性ガスの吹き付け範囲を調整することによって、配向率が高い領域、配向率の低い領域のそれぞれの出現箇所を意図的あるいは任意に調整できるようになる。
【0084】
これにより、パターン部及び非パターン部の形状を任意に調整でき、かつ、パターン部及び非パターン部を識別できるようになる。吹き付けるガスの温度が低いほど配向率が高まるため、吹き付けるガスの温度によって配向率を調整可能である。ガス温度は、最終凝固温度未満とすることが好ましく、例えばガス温度を25~250℃に調整してもよい。
【0085】
決定方法5によって特定されるパターン部及び非パターン部の形成は、溶融めっき浴から引き上げた直後の鋼板に対して、めっきの最終凝固温度以上の非酸化性ガスを溶融状態の金属にガスノズルによって局所的に吹き付けることにより行う。非酸化性ガスとしては、窒素やアルゴンを用いるとよい。組成によって最適な温度域は異なるが、溶融金属の温度が(最終凝固温度-5)℃~(最終凝固温度+5)℃の範囲にあるときに、非酸化性ガスの吹き付けを行うとよい。更に、非酸化性ガスの温度は、最終凝固温度以上とすることが好ましい。例えば、Al:11%、Mg:3%のめっき組成においては、溶融金属の温度が330~340℃のときにガス温度が最終凝固温度以上である非酸化性ガスの吹き付けを行うとよい。
【0086】
非酸化性ガスが吹き付けられた周辺では、溶融金属の冷却速度が低下し、これにより、表面に現れる境界または結晶粒界が粗大になる。従って、非酸化性ガスの吹き付け量と範囲を調整することによって、表面に現れる境界または結晶粒界の大きさを任意に調整できるようになる。
【0087】
パターン部における第1領域の面積率と、非パターン部における第1領域の面積率との差の絶対値を30%以上とすることで、パターン部と非パターン部とを識別できるようになる。形成されたパターン部及び非パターン部は、印刷や塗装によって形成されたものではないため、耐久性が高くなっている。また、パターン部及び非パターン部が印刷や塗装によって形成されたものではないため、めっき層の耐食性への影響もない。よって、本実施形態の表面処理鋼板は、耐食性に優れたものとなる。
【0088】
パターン部が形成されためっき層においては、パターン部の耐久性が高く、耐食性等の好適なめっき特性を有する表面処理鋼板を提供できる。パターン部は、意図的若しくは人工的な形状にすることができるので、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるようにパターン部を配置できる。これにより、めっき層の表面に、印刷や塗装を行うことなく、様々な意匠、商標、その他の識別マークを表すことができ、鋼板の出所の識別性やデザイン性等を高めることができる。また、パターン部によって、工程管理や在庫管理などに必要な情報や需要者が求める任意の情報を、溶融めっき鋼板に付与することもできる。これにより、表面処理鋼板の生産性の向上にも寄与することができる。
【0089】
このように、本実施形態の表面処理鋼板によれば、パターン部を形成しためっき層の上に、着色顔料を含有する化成処理層を形成するので、パターン部の視認性をより向上させることができる。
【実施例0090】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0091】
まず、厚さ1mmの冷延鋼板を準備し、これを各組成のめっき浴に浸漬し、N2ワイピングでめっき付着量を片面80g/m2に調整した。得られた表面処理鋼板のめっき組成を表1に示す。
【0092】
また、Zn系めっき層にパターン部を形成する場合は、さらに下記の方法でパターンを施した。パターン部及び非パターン部は、それぞれ、決定方法1~5のいずれか方法によって定めた第1領域、第2領域のうちの1種または2種を含み、パターン部における第1領域の面積率と、非パターン部における第1領域の面積率との差の絶対値が、40%であった。
【0093】
<パターン1>
一辺が50mmの正方形パターンの凸部または凹部を有するゴム版に、塩酸溶液を付着させ、このゴム版をZn系めっき層の表面に押し付けることで、酸性溶液を鋼板に付着させ、正方形状のパターン部を形成した。酸性溶液付着時の溶融めっき鋼板のZn系めっき層の表面温度は60~200℃の範囲とした。また、正方形状のパターン部以外の箇所を非パターン部とした。そして、決定方法2に基づき、Zn系めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、各領域の重心点を中心とする直径0.5mmの円内を測定領域Aとし、各測定領域AにおけるL*値を測定し、L*値が45以上になる領域を第1領域、L*値が45未満となる領域を第2領域とした。この表面処理鋼板を実施例102とした。
【0094】
<パターン2>
Zn系めっき層の表面温度を100~300℃にした状態で、一辺が50mmの正方形パターンを有するロールを、Zn系めっき層の表面に押し付けることでパターン部を形成した。正方形パターンの箇所をパターン部とし、正方形パターン以外の箇所を非パターン部とした。決定方法3に基づき、Zn系めっき層の表面に0.5mm間隔で仮想格子線を描き、仮想格子線によって区画される複数の領域においてそれぞれ、算術平均高さSa2を測定した。得られた算術平均高さSa2が1μm以上になる領域を第1領域、1μm未満となる領域を第2領域とした。この表面処理鋼板を実施例103とした。
【0095】
<パターン3>
めっき浴から鋼板を引き上げた際に、溶融金属の温度が(最終凝固温度-5)℃~(最終凝固温度+5)℃の範囲にあるときに、鋼板表面の溶融金属に、非酸化性ガスの一種である窒素ガスをガスノズルによって吹き付けた。ガス温度は、最終凝固温度未満であった。その後、冷却して溶融金属を完全に凝固させた。窒素ガスの吹き付け範囲は、一辺が50mmの正方形パターンとなるように制御した。正方形パターンの箇所をパターン部とし、正方形パターン以外の箇所を非パターン部とした。決定方法4に基づき、Zn系めっき層の表面に1mm間隔または10mm間隔で仮想格子線を描き、仮想格子線によって区画される複数の領域にそれぞれX線を入射させるX線回折法により、前記領域毎に、Zn相の(0002)面の回折ピーク強度I0002と、Zn相の(10-11)面の回折ピーク強度I10-11とを測定し、これらの強度比(I0002/I10-11)を配向率とする。配向率が3.5以上の領域を第1領域とし、配向率が3.5未満の領域を第2領域とした。この表面処理鋼板を実施例104とした。
【0096】
<パターン4>
めっき浴から鋼板を引き上げた際に、溶融金属の温度が(最終凝固温度-5)℃~(最終凝固温度+5)℃の範囲にあるときに、鋼板表面の溶融金属に、非酸化性ガスの一種である窒素ガスを加熱した状態でガスノズルから吹き付けた。窒素ガスの吹き付け条件は表1に示す通りとした。最終凝固温度以上であった。その後、冷却して溶融金属を完全に凝固させた。窒素ガスの吹き付け範囲は、一辺が50mmの正方形パターンとなるように制御した。正方形パターンの箇所をパターン部とし、正方形パターン以外の箇所を非パターン部とした。そして、決定方法5に基づき、Zn系めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線を描き、次いで、仮想格子線によって区画される複数の領域毎に、各領域の重心点Gを中心とする円Sを描いた。円Sは、円Sの内部に含まれるZn系めっき層の表面境界線の合計長さが10mmとなるように直径Rを設定した。複数の領域の円Sの直径Rのうち最大の直径Rmaxと最小の直径Rminとの平均値を基準直径Raveとし、直径Rが基準直径Rave未満の円Sを有する領域を第1領域とし、直径Rが基準直径Rave以上の円Sを有する領域を第2領域とした。この表面処理鋼板を実施例105とした。
【0097】
次に、製造した表面処理鋼板のZn系めっき層の表面に、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、着色顔料、更に必要に応じて任意成分を含有した水性組成物をバーコーターで乾燥付着量0.1~2g/m2になるように塗布し、カルシウムイオンを含む水溶液を噴霧し、その直後に熱風乾燥炉で到達板温150℃で乾燥させた後、水冷することにより、化成処理層を形成した。表2A~表2Iに、Caイオンを含む水溶液の種類、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、リン化合物、シリカ粒子、コバルト化合物、チタン化合物、着色顔料、樹脂の詳細を示す。
【0098】
表3A~表3Dに、化成処理層の組成等を示す。
【0099】
(耐食性)
表面処理鋼板に対して、塩水噴霧試験(JIS Z 2371:2015)試験を行った。エリクセン加工を施した部分の試験時間120時間後の白錆発生状況を観察し、以下に示す評点づけで判定した。評点は2以上を合格とした。結果を表3A~表3Dに示す。
【0100】
3:白錆発生5%未満
2:白錆発生5%以上10%未満
1:白錆発生10%以上
【0101】
(着色保持性)
長期間に渡り屋外において降雨や結露に晒された場合を模擬するため、表面処理鋼板を、撹拌された状態の80℃の純水に3日間浸漬した。そして、その前後の色調変化を観察し、以下に示す評点付けで判定した。評点は2以上を合格とした。結果を表3A~表3Dに示す。
3:色調変化が認められない。
2:ごくわずかな色調変化が認められる。
1:明らかな色調変化が認められる。
【0102】
表1~表3Dに示すように、めっき層の組成および化成処理層の組成を満足する実施例1~105は、耐食性及び着色保持性に優れていた。
一方、化成処理層の組成を満足しない比較例1~3は、耐食性が不十分だった。
また、化成処理層中にCaが含まれない比較例4および化成処理層中にCaが過剰に含まれる比較例5は、着色保持性が不十分だった。
更に、めっき層の組成を満足しない比較例6~9は、耐食性が不十分だった。
【0103】
また、化成処理層に対して、アルゴンスパッタによってエッチングしつつ、化成処理層の深さ方向の元素分析を行うことで、Ca、P、Zrの深さ方向の分布状態を調査した。
その結果、実施例1~105の化成処理層では、Caの存在領域がZrの存在領域とほぼ重なっていたが、Caの存在領域とPの存在領域とはほぼ重ならなかった。
【0104】
このことから、カルシウムを含有する水溶液の噴霧することにより化成処理層に含有されたカルシウムは、顔料を化成処理層に強固に取り込ませる効果を発現させていることが推測された。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】