(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112601
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】液化水素貯蔵タンク
(51)【国際特許分類】
F17C 3/00 20060101AFI20240814BHJP
F17C 13/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F17C3/00 A
F17C13/00 302E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017751
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 啓央
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172BB04
3E172BB18
3E172BD05
3E172CA03
3E172DA03
3E172DA15
3E172DA17
3E172DA90
3E172KA02
(57)【要約】
【課題】内槽の保冷を図りつつ内槽屋根の上下差圧を減少させる。
【解決手段】液化水素貯蔵タンク(1)は、内槽屋根(43)及び内槽側板(42)を含む内槽(4)と、内槽屋根(43)の上方の中間槽屋根(33)と内槽側板(42)の外側の中間槽側板(32)とを含む中間槽(3)と、中間槽(3)を内部に収容する外槽(2)と、内槽屋根(43)及び中間槽屋根(33)の間の屋根空間部(S21)、並びに内槽側板(42)及び中間槽側板(32)の間の側周空間部(S22)を含む断熱空間(S2)と、断熱空間(S2)に配置された断熱材(56)と、内槽屋根(43)を貫通する連通管(45)と、連通管(45)の上端開口(45a)と側周空間部(S22)との間のガスの流通を許容するように屋根空間部(S21)に設けられたガス通路と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素を貯蔵する多重殻の液化水素貯蔵タンクであって、
内槽屋根及び内槽側板を含み、液化水素の貯蔵空間を画成する内槽と、
前記内槽屋根の上方の中間槽屋根と前記内槽側板の外側の中間槽側板とを含む中間槽と、
前記中間槽を内部に収容する外槽と、
前記内槽屋根及び前記中間槽屋根の間の屋根空間部、並びに前記内槽側板及び前記中間槽側板の間の側周空間部を含む断熱空間と、
前記断熱空間に配置された断熱材と、
前記内槽屋根を貫通する連通管と、
前記連通管の上端開口と前記側周空間部との間のガスの流通を許容するように前記屋根空間部に設けられたガス通路とを備えた、液化水素貯蔵タンク。
【請求項2】
請求項1に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記ガス通路は、前記内槽屋根と接する前記屋根空間部の下側領域に形成されている、液化水素貯蔵タンク。
【請求項3】
請求項2に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記ガス通路は、前記屋根空間部を上下に仕切る隔壁の下側に形成され、
前記断熱材は、前記隔壁の上側に配置された粒状断熱材を含む、液化水素貯蔵タンク。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記断熱材は、前記側周空間部に配置される粒状断熱材を含み、
前記ガス通路の径方向の外端に、前記粒状断熱材の前記ガス通路内への流入を防ぐシールドが設けられた、液化水素貯蔵タンク。
【請求項5】
請求項1に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記断熱材は、前記中間槽屋根の下面に沿って配置された定形断熱材を含み、
前記ガス通路は、前記定形断熱材の下側に形成されている、液化水素貯蔵タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化水素を貯蔵する液化水素貯蔵タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に示される多重殻タンクが公知である。この多重殻タンクは、低温液化ガスを貯蔵するための平底の三重殻タンクであって、内槽、中間槽、外槽を内側からこの順に備える。内槽と中間槽との間の空間である内側断熱空間(第1槽間)と、中間槽と外槽との間の空間である外側断熱空間(第2槽間)とには、それぞれパーライト等の断熱材が充填される。また、内槽の屋根部を構成する内槽屋根には、当該内槽屋根を貫通する連通管が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1において、内槽屋根を貫通する連通管は、内槽屋根とこれに対向する中間槽屋根との間の空間(屋根空間部)と、内槽内の上部(気相部)とを連通する。しかしながら、前記特許文献1では、内槽と中間槽との間の内側断熱空間にパーライト等の断熱材が充填されるため、内槽屋根の上面に作用する圧力と内槽屋根の下面に作用する圧力との差、つまり内槽屋根の上下差圧が増大し、当該上下差圧に起因した応力が内槽屋根に作用する可能性がある。
【0005】
本開示は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、内槽の保冷を図りつつ内槽屋根の上下差圧を減少させることが可能な液化水素貯蔵タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためのものとして、本開示の一局面に係る液化水素貯蔵タンクは、液化水素を貯蔵する多重殻のタンクであって、内槽屋根及び内槽側板を含み、液化水素の貯蔵空間を画成する内槽と、前記内槽屋根の上方の中間槽屋根と前記内槽側板の外側の中間槽側板とを含む中間槽と、前記中間槽を内部に収容する外槽と、前記内槽屋根及び前記中間槽屋根の間の屋根空間部、並びに前記内槽側板及び前記中間槽側板の間の側周空間部を含む断熱空間と、前記断熱空間に配置された断熱材と、前記内槽屋根を貫通する連通管と、前記連通管の上端開口と前記側周空間部との間のガスの流通を許容するように前記屋根空間部に設けられたガス通路と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の液化水素貯蔵タンクによれば、内槽の保冷を図りつつ内槽屋根の上下差圧を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る液化水素貯蔵タンクの構造を示す断面図である。
【
図2】屋根空間部での水素ガスの流れを説明するための拡大断面図である。
【
図3】前記第1実施形態の変形例を説明するための断面図である。
【
図4】本開示の第2実施形態に係る液化水素貯蔵タンクの構造を示す断面図である。
【
図5】本開示の第3実施形態に係る液化水素貯蔵タンクの構造を示す断面図である。
【
図6】前記第3実施形態の変形例を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)第1実施形態
[液化水素貯蔵タンクの全体構成]
図1は、本開示の第1実施形態に係る液化水素貯蔵タンク1の構造を示す断面図である。本図に示される液化水素貯蔵タンク1は、液化水素LHを貯蔵する三重殻タンクであって、タンク基礎10と、タンク基礎10の上に立設された外槽2と、外槽2の内部に収容された中間槽3と、中間槽3の内部に収容された内槽4とを備える。外槽2、中間槽3及び内槽4は、いずれも上面視で円形状に形成され、かつ同心円状に配置されている。
【0010】
タンク基礎10は、液化水素貯蔵タンク1の基礎部分を構成するコンクリート層である。タンク基礎10は、外槽2の外径よりも大きいサイズを有している。
【0011】
外槽2は、炭素鋼等の金属で構成された密閉体であり、外槽底板21と、外槽側板22と、外槽屋根23とを含む。外槽底板21は、タンク基礎10の直上に敷設された円板状の底板である。外槽側板22は、外槽底板21の周縁から立設された円筒状の側板である。外槽屋根23は、外槽側板22の上面開口を塞ぐように当該外槽側板22の上端に取り付けられたドーム型の屋根であり、上側に凸の球面状に形成されている。
【0012】
中間槽3は、SUS等の低温鋼で構成された密閉体であり、外槽2の内部に配置されている。中間槽3は、中間槽底板31と、中間槽側板32と、中間槽屋根33とを含む。中間槽底板31は、外槽底板21よりも径の小さい円板状の底板である。中間槽側板32は、中間槽底板31の周縁から立設された円筒状の側板である。中間槽屋根33は、中間槽側板32の上面開口を塞ぐように当該中間槽側板32の上端に取り付けられたドーム型の屋根であり、上側に凸の球面状に形成されている。
【0013】
内槽4は、内部に液化水素LHの貯蔵空間を画成する槽である。内槽4は、SUS等の低温鋼で構成されており、中間槽3の内部に配置されている。内槽4は、内槽底板41と、内槽側板42と、内槽屋根43とを含む。内槽底板41は、中間槽底板31よりも径の小さい円板状の底板である。内槽側板42は、内槽底板41の周縁から立設された円筒状の底板である。内槽屋根43は、内槽側板42の上面開口を塞ぐように当該内槽側板42の上端に取り付けられたドーム型の屋根であり、上側に凸の球面状に形成されている。
【0014】
内槽4の内側上部には、気相部空間S3が形成されている。気相部空間S3は、液化水素LHから蒸発した水素ガスで満たされる空間であり、内槽屋根43と液化水素LHの液面との間に形成されている。
【0015】
外槽底板21と中間槽底板31との間には、第1レベルコンクリート層24、第1リング部25及び第1底部保冷層26が介在されている。第1レベルコンクリート層24は、外槽底板21の上に施工された平面出しのコンクリート層である。第1リング部25は、第1レベルコンクリート層24の周縁部の上に配置された強度の高いリング状のコンクリート層である。第1底部保冷層26は、第1リング部25の内側において第1レベルコンクリート層24上に配置された断熱性を有する層である。
【0016】
中間槽底板31と内槽底板41との間には、第2レベルコンクリート層34、第2リング部35及び第2底部保冷層36が介在されている。第2レベルコンクリート層34は、中間槽底板31の上に施工されている。第2リング部35は、第2レベルコンクリート層34の周縁部の上に配置された強度の高いリング状のコンクリート層である。第2底部保冷層36は、第2リング部35の内側において第2レベルコンクリート層34上に配置された断熱性を有する層である。
【0017】
内槽4と中間槽3との間、並びに中間槽3と外槽2との間には、各々所定幅の隙間が形成されている。各隙間は、外気から液化水素LHへの熱伝達を抑制する断熱空間として機能する。以下では、外槽2と中間槽3との間の隙間を外側断熱空間S1と称し、内槽4と中間槽3との間の隙間を内側断熱空間S2と称する。内側断熱空間S2は、本開示における「断熱空間」に相当する。
【0018】
外槽2と中間槽3との間の外側断熱空間S1には、水素ガスよりも沸点の高い不活性ガス、例えば窒素ガスが充填されている。また、外側断熱空間S1には、粒状断熱材55が配置されている。粒状断熱材55は、パーライトやグラスバブルズ等の粒子物の集合体からなる流動性を有する断熱材である。
【0019】
内槽4と中間槽3との間の内側断熱空間S2には、水素ガスが充填されている。また、内側断熱空間S2には、粒状断熱材56及びグラスウール57が配置されている。粒状断熱材56は、上述した外側断熱空間S1内の粒状断熱材55と同様の、パーライトやグラスバブルズ等からなる粒状の断熱材である。グラスウール57は、ガラス繊維を主な材料とした綿状の断熱材である。
【0020】
内側断熱空間S2は、屋根空間部S21及び側周空間部S22を含む。屋根空間部S21は、内槽屋根43と中間槽屋根33との間に形成されるドーム状の空間であり、側周空間部S22は、内槽側板42と中間槽側板32との間に形成される円筒状の空間である。粒状断熱材56は、屋根空間部S21及び側周空間部S22の双方に配置され、グラスウール57は、主に側周空間部S22に配置されている。具体的に、グラスウール57は、側周空間部S22の内側領域を占めるように内槽側板42の外面に沿って配置されている。粒状断熱材56は、内側断熱空間S2のうちグラスウール57の配置領域と後述する隔壁71の下側空間(ガス通路R1)とを除く領域に配置されている。
【0021】
内槽屋根43には、連通管45が取り付けられている。連通管45は、内側断熱空間S2と内槽4内の気相部空間S3とを連通する管であり、内槽屋根43の中央部を厚み方向に貫通するように設けられている。連通管45は、内側断熱空間S2に開口する上端開口45aと、気相部空間S3に開口する下端開口45bとを有する。連通管45は、内槽屋根43の中央部を含む適宜の位置に1つ又は複数取り付けることが可能であるが、本実施形態では、内槽屋根43中央部に1つの連通管45を取り付けた場合が例示される。
【0022】
[デッキ及びガス通路]
屋根空間部S21には、当該屋根空間部S21を上下に仕切るデッキ7が構築されている。デッキ7は、上述した粒状断熱材56の配置領域を限定するための構造体であり、内槽屋根43の上面に沿って構築されている。
【0023】
具体的に、デッキ7は、内槽屋根43の上面を覆うドーム状に湾曲した隔壁71と、隔壁71を内槽屋根43上に支持する複数の支持材72とを備える。隔壁71は、内槽屋根43及び中間槽屋根33の双方から間隔を空けるように配置され、屋根空間部S21を上下2つの空間に分割している。複数の支持材72は、径方向及び周方向に分散して配置されている。
【0024】
隔壁71は、内槽屋根43の上面の略全体を覆っている。隔壁71は、粒状断熱材56を通さない材質により構成されている。好ましくは、隔壁71は、粒状断熱材56は通さないがガスの流通は許容する通気性を備えたものであることが好ましい。
【0025】
前記のような隔壁71が、分散配置された支持材72によって内槽屋根43上に支持されることにより、隔壁71の下側、つまり隔壁71と内槽屋根43との間には、ガスが流通可能な開かれた空間からなるガス通路R1が形成されている。ガス通路R1は、内槽屋根43に沿ってその中心から外縁近傍まで至るように径方向に連続している。言い換えると、ガス通路R1は、内槽屋根43と接する屋根空間部S21の下側領域に形成されている。
【0026】
前記のガス通路R1を通じたスムーズなガスの流通を可能にするために、ガス通路R1には粒状断熱材56は配置されない。すなわち、粒状断熱材56は、屋根空間部S21において隔壁71の上側に限定して配置される。また、粒状断熱材57は、側周空間部S22においてグラスウール57の外側に限定して配置されている。言い換えると、粒状断熱材56は、隔壁71の上側の空間とグラスウール57の外側の空間とをそれぞれ占めるように、内側断熱空間S2の外側領域に限定して配置されている。
【0027】
ガス通路R1の径方向の外端、つまり隔壁71及び内槽屋根43の各外縁どうしの間に形成されるリング状の開口は、グラスウール57によって覆われている。すなわち、内槽側板42の外面全体を覆うようにグラスウール57が円筒状に配置されるとともに、このグラスウール57の上端部57aがガス通路R1の径方向の外端を覆っている。このようにガス通路R1の径方向の外端を覆うグラスウール57の上端部57aは、粒状断熱材56のガス通路R1内への流入を防ぐシールドとして機能する。
【0028】
隔壁71の外縁部71aには、グラスウール57の上端部57aを固定するためのクランプ74(
図2)が取り付けられている。クランプ74は、ガラスクロス等を含む可撓性の帯状体であり、隔壁71の外縁部71aからグラスウール57の上端部57aにかけて径方向に拡がるように配置されている。クランプ74の内側の一部が接着等により隔壁71の外縁部71aに固定され、かつクランプ74の外側の一部がアンカーピン等を介してグラスウール57の上端部57aに固定されることにより、グラスウール57の上端部57aがガス通路R1の径方向の外端を覆う位置に固定されている。
【0029】
連通管45の上端開口45aは、ガス通路R1の中央部に開口している。これにより、内槽屋根43上をその中心から外縁近傍まで延びるガス通路R1と、内槽屋根43下の気相部空間S3とが、連通管45を介して互いに連通される。このことは、気相部空間S3と側周空間部S22との間のガスの流通を可能にする。例えば、
図2に矢印で示すように、気相部空間S3から連通管45を通って屋根空間部S21に流入した水素ガスは、ガス通路R1を通って、連通管45の上端開口45aから屋根空間部S21の外縁部、換言すれば側周空間部S22まで流れることが可能である。言い換えると、ガス通路R1は、連通管45の上端開口45aと側周空間部S22との間のガスの流通を許容するように屋根空間部S21に設けられている。
【0030】
[作用効果]
以上説明したとおり、本実施形態では、内槽4と中間槽3との間の内側断熱空間S2に粒状断熱材56が配置されるとともに、内側断熱空間S2の屋根空間部S21と内槽4内の気相部空間S3とを連通する連通管45が内槽屋根43に設けられる。また、屋根空間部S21には、連通管45の上端開口45aと側周空間部S22との間のガスの流通を許容するように径方向に延びるガス通路R1が形成される。このような構成によれば、内槽4の保冷を図りつつ内槽屋根43の上下差圧を減少させることができるという利点がある。
【0031】
すなわち、本実施形態では、内槽4と中間槽3との間の内側断熱空間S2に粒状断熱材56が配置されるので、この粒状断熱材56による断熱効果により、内槽4に対する外部からの入熱を抑制して内槽4を低温に保持することができる。
【0032】
また、連通管45が内槽屋根43を貫通するとともに、内槽屋根43と中間槽屋根33との間の屋根空間部S21にガス通路R1が形成されるので、例えば内槽4内の気相部空間S3にある水素ガスの圧力が高まったときに、当該水素ガスを連通管45を通じて屋根空間部S21に導入し、かつ導入した水素ガスをガス通路R1を通じて屋根空間部S21の外縁部もしくは側周空間部S22まで流すことができる(
図2参照)。逆に、気相部空間S3の圧力が低下したしたときには、屋根空間部S21から気相部空間S3に向かう逆方向の水素ガスの流れを形成することもできる。これにより、内槽屋根43の上面に作用する圧力と内槽屋根43の下面に作用する圧力との差である上下差圧を径方向の広範囲にわたって減少させることができ、当該差圧が内槽屋根43にもたらす応力を軽減することができる。
【0033】
例えば、仮に屋根空間部S21に全体的に粒状断熱材56を配置してガス通路R1を閉じた場合には、連通管45の上端開口45aと側周空間部S22との間の水素ガスの流動が粒状断熱材56によって阻害される結果、内槽屋根43の上下差圧が特に径方向外側領域において拡大し易くなる。これに対し、連通管45の上端開口45aと側周空間部S22との間のガスの流通を許容するガス通路R1を形成した本実施形態によれば、前記のような事情による内槽屋根43の上下差圧の拡大を抑止することができ、内槽屋根43にかかる応力を軽減することができる。
【0034】
具体的に、本実施形態では、屋根空間部S21を上下に仕切る隔壁71を含むデッキ7が内槽屋根43上に構築されるとともに、当該隔壁71の下側にガス通路R1が形成されかつ上側に粒状断熱材56が配置される。このような構成によれば、隔壁71の下側のガス通路R1を利用して内槽屋根43の上下差圧を減少させながら、隔壁71の上側に粒状断熱材56を安定的に配置することができる。また、内槽4内の気相部空間S3と、当該気相部空間S3と内槽屋根43を隔てて上側にあるガス通路R1とが互いに連通するので、内槽屋根43の上下差圧を効果的に減少させて当該内槽屋根43にかかる応力を軽減することができる。
【0035】
また、本実施形態では、内槽側板42に沿ってグラスウール57が配置されるとともに、当該グラスウール57の上端部57aによってガス通路R1の径方向の外端が塞がれる。このような構成によれば、ガス通路R1への粒状断熱材56の流入がグラスウール57によって阻止されるので、ガス通路R1内の圧力の均等化が粒状断熱材56によって阻害されることがなく、内槽屋根43の上下差圧を効果的に減少させることができる。また、粒状断熱材56とグラスウール57の組合せによって内槽側板42を十分に保冷することができる。
【0036】
[変形例]
前記第1実施形態では、内槽屋根43上に支持材72を介して支持された隔壁71の下側にガス通路R1を形成したが、ガス通路の上面を規定する隔壁は、必ずしも内槽屋根43上に支持させる必要はない。隔壁の支持構造を変更した一例を
図3に示す。この
図3に示す変形例では、屋根空間部S21に、隔壁81と複数の吊り材82とを含むドーム状の構造体が構築されている。隔壁81は、中間槽屋根33から延びる複数の吊り材82の下端に固定されることにより、屋根空間部S21を上下に仕切ように配置されている。言い換えると、隔壁81は、中間槽屋根33の下面に吊り下げ状態で支持されることにより、内槽屋根43及び中間槽屋根33の双方から離れた位置に配置されている。隔壁81の上側には粒状断熱材56が配置され、隔壁81の下側にはガス通路R11が形成されている。前記第1実施形態と同様、ガス通路R11を通じたスムーズなガスの流通を可能にするため、ガス通路R11には粒状断熱材56が配置されない。
【0037】
前記第1実施形態では、綿状の断熱材であるグラスウール57を内槽側板42に沿って配置したが、グラスウール57は省略してもよい。すなわち、内側断熱空間S2に配置される断熱材を全て粒状断熱材56としてもよい。この場合、ガス通路R1への粒状断熱材56の流入を防ぐシールドとして、ガス通路R1の径方向の外端には、例えばガラスクロス等を含む通気性のフェンスを設けることが好ましい。
【0038】
前記第1実施形態では、ガス通路R1に特に断熱材を配置しなかったが、ガス通路R1の全部又は一部に、比較的ガスを通し易い何らかの断熱材、例えばグラスウール57のような綿状の断熱材を配置してもよい。
【0039】
(2)第2実施形態
図4は、本開示の第2実施形態に係る液化水素貯蔵タンク1Aを示す断面図である。この第2実施形態の液化水素貯蔵タンク1Aは、内側断熱空間S2内の断熱材及びガス通路の構造が異なる点を除いて、上述した第1実施形態の液化水素貯蔵タンク1と同様である。
図4において、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0040】
図4に示すように、第2実施形態では、内側断熱空間S2に配置される断熱材として、定形断熱材101及び粒状断熱材102の2種類が用いられる。粒状断熱材102は、上述した第1実施形態で用いた粒状断熱材56と同様の、パーライトやグラスバブルズ等からなる粒状の断熱材である。定形断熱材101は、保形性を有する非流動性の断熱材である。定形断熱材101としては、例えばポリウレタン等からなる固体断熱材を好適に使用することができる。また、定形断熱材101として、グラスウール等からなる綿状もしくはマット状の断熱材や、パーライトやグラスバブルズ(微小中空球ガラス)等の粒状の断熱材を袋詰めしたものを使用することも可能である。
【0041】
定形断熱材101は、中間槽屋根33の下面を覆うように敷設されている。詳しくは、定形断熱材101は、中間槽屋根33の下面に取り付けられた複数の要素断熱材101aを含む。複数の要素断熱材101aは、互いに隣接するように並べられた状態で、適宜の固定手段を用いて中間槽屋根33に固定されている。これにより、中間槽屋根33の下面の略全体が定形断熱材101によって覆われている。
【0042】
定形断熱材101の高さは、内槽屋根43から中間槽屋根33までの距離よりも短く設定される。これにより、定形断熱材101の下面と内槽屋根43との間には所定の隙間が形成されている。
【0043】
粒状断熱材102は、主に側周空間部S22に配置され、屋根空間部S21の大部分には配置されない。粒状断熱材102の上面の高さは、定形断熱材101の周縁部の下端よりも高い位置に設定される。これにより、定形断熱材101の周縁部と粒状断熱材102の上端部とが互いに重なり合うように配置されている。
【0044】
前記のような態様で定形断熱材101及び粒状断熱材102が配置されることにより、屋根空間部S21には、内槽屋根43に沿ってその中心から外縁近傍まで至るガス通路R12が形成される。このようなガス通路R12の存在により、連通管45の上端開口45aと側周空間部S22(屋根空間部S21の外縁部)との間の水素ガスの流通が許容される。
【0045】
ガス通路R12の径方向の途中には、フェンス105が配置されている。フェンス105は、ガス通路R12を径方向に仕切るリング状の仕切りであり、連通管45を外側から囲むように配置されている。フェンス105は、粒状断熱材102は通さないがガスの流通は許容する通気性を備えており、例えばガラスクロス等の材料から構成されている。
【0046】
以上のとおり、第2実施形態では、中間槽屋根33の下面に沿って配置される定形断熱材101の下側にガス通路R12が形成されるので、定形断熱材101によって内槽4を保冷しつつ、当該定形断熱材101をガス通路R12を規定する壁材として利用することができる。また、ガス通路R12を通じた水素ガスの流通によって内槽屋根43の上下差圧が減少するので、当該差圧が内槽屋根43にもたらす応力を軽減することができる。
【0047】
また、第2実施形態では、連通管45を囲むフェンス105がガス通路R12の途中に配置されるので、側周空間部S22にある粒状断熱材102が連通管45の上端開口45aに向かって径方向内側に移動するのをフェンス105によって阻止することができ、連通管45を通じた内槽4内への粒状断熱材102の混入を防止することができる。
【0048】
(3)第3実施形態
図5は、本開示の第3実施形態に係る液化水素貯蔵タンク1Bを示す断面図である。本図において、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0049】
図5に示すように、第3実施形態では、粒状断熱材202が内側断熱空間S2の大部分に配置される。粒状断熱材202は、上述した第1実施形態で用いた粒状断熱材56と同様の、パーライトやグラスバブルズ等からなる粒状の断熱材である。
【0050】
屋根空間部S21における連通管45の近傍には、フェンス205が配置されている。フェンス205は、屋根空間部S21を径方向に仕切るリング状の仕切りであり、連通管45を外側から囲むように配置されている。フェンス205は、粒状断熱材202は通さないがガスの流通は許容する通気性を備えており、例えばガラスクロス等の材料から構成されている。
【0051】
粒状断熱材202は、フェンス205の内側領域を除く内側断熱空間S2の大部分を占めるように配置されている。すなわち、粒状断熱材202は、屋根空間部S21におけるフェンス205の外側領域と、側周空間部S22とをそれぞれ占めるように配置されている。
【0052】
屋根空間部S21におけるフェンス205の内側領域には、定形断熱材201が配置されている。定形断熱材201は、上述した第2実施形態で用いた定形断熱材101と同様の、保形性を有する非流動性の断熱材(例えばポリウレタン等からなる固体断熱材)であって、中間槽屋根33の下面に取り付けられた複数の要素断熱材201aを含む。
【0053】
屋根空間部S21には、その中央部から径方向外側に放射状に延びる複数の中空部材210が配置されている。各中空部材210は、その連通管45の近傍位置から側周空間部S22まで延びるように形成されている。連通管45に近い中空部材210の内端は、粒状断熱材202が配置されないフェンス205の内側領域に配置されている。中空部材210は、当該フェンス205の内側領域からフェンス205を貫通しつつ側周空間部S22に向かって径方向に延設されている。
【0054】
中空部材210内の空洞は、ガスが流通するガス通路R13として機能する。例えば、気相部空間S3から連通管45を通って屋根空間部S21に流入した水素ガスは、ガス通路R13を通って、連通管45の上端開口45a(フェンス205の内側領域)から側周空間部S22まで流れることが可能である。言い換えると、第3実施形態では、連通管45の上端開口45aと側周空間部S22との間のガスの流通を許容するガス通路R13が、中空部材210内の空洞によって構成されている。図示を省略するが、中空部材210の少なくとも径方向の外端には、ガス通路R13への粒状断熱材202の流入を阻止しつつガスの流通は許容する通気蓋が取り付けられている。
【0055】
中空部材210(ガス通路R13)の形状は、内槽屋根43に沿ってその中心から外縁近傍まで延びる形状であればよく、具体的な形状は適宜設定可能である。例えば、中空部材210は、径方向外側に至るほど周方向の幅が拡大する中空の扇形部材であってもよいし、径が一定のパイプ部材であってもよい。
【0056】
以上のような第3実施形態によれば、連通管45の上端開口45aと側周空間部S22との間で中空部材210内のガス通路R13を通じた水素ガスの流通が許容されるので、内槽屋根43の上下差圧を減少させて当該内槽屋根43にかかる応力を軽減することができる。
【0057】
なお、前記第3実施形態では、径方向に延びる中空部材210内の空洞をガス通路R13として形成したが、ガス通路の一部の壁を内槽屋根43により構成してもよい。例えば、
図6に示すように、断面が波打つように形成された波板301を内槽屋根43の上に取り付けることにより、これら波板301と内槽屋根43とに挟まれた空間をガス通路として形成することも可能である。
【0058】
[まとめ]
前記各実施形態及びその変形例には、以下の開示が含まれる。
【0059】
本開示の第1の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、液化水素を貯蔵する多重殻のタンクであって、内槽屋根及び内槽側板を含み、液化水素の貯蔵空間を画成する内槽と、前記内槽屋根の上方の中間槽屋根と前記内槽側板の外側の中間槽側板とを含む中間槽と、前記中間槽を内部に収容する外槽と、前記内槽屋根及び前記中間槽屋根の間の屋根空間部、並びに前記内槽側板及び前記中間槽側板の間の側周空間部を含む断熱空間と、前記断熱空間に配置された断熱材と、前記内槽屋根を貫通する連通管と、前記連通管の上端開口と前記側周空間部との間のガスの流通を許容するように前記屋根空間部に設けられたガス通路と、を備えたものである。
【0060】
この第1の態様によれば、内槽と中間槽との間の断熱空間に断熱材が配置されるので、この断熱材による断熱効果により、内槽に対する外部からの入熱を抑制して内槽を低温に保持することができる。
【0061】
また、連通管が内槽屋根を貫通するとともに、内槽屋根と中間槽屋根との間の屋根空間部にガス通路が形成されるので、例えば内槽内の上部の気相部空間にある水素ガスの圧力が高まったときに、当該水素ガスを連通管を通じて屋根空間部に導入し、かつ導入した水素ガスをガス通路を通じて屋根空間部の外縁部もしくは側周空間部まで流すことができる。逆に、気相部空間の圧力が低下したしたときには、屋根空間部から気相部空間に向かう逆方向の水素ガスの流れを形成することもできる。これにより、内槽屋根の上面に作用する圧力と内槽屋根の下面に作用する圧力との差である上下差圧を径方向の広範囲にわたって減少させることができ、当該差圧が内槽屋根にもたらす応力を軽減することができる。
【0062】
第2の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、前記第1の態様において、前記ガス通路は、前記内槽屋根と接する前記屋根空間部の下側領域に形成される。
【0063】
この第2の態様によれば、内槽内の気相部空間と、当該気相部空間に対し内槽屋根を隔てて上側にあるガス通路とが互いに連通するので、内槽屋根の上下差圧を効果的に減少させて当該内槽屋根にかかる応力を軽減することができる。
【0064】
第3の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、前記第2の態様において、前記ガス通路は、前記屋根空間部を上下に仕切る隔壁の下側に形成され、前記断熱材は、前記隔壁の上側に配置された粒状断熱材を含む。
【0065】
この第3の態様によれば、隔壁の下側に形成されるガス通路を利用して内槽屋根の上下差圧を減少させながら、隔壁の上側に粒状断熱材を安定的に配置することができる。
【0066】
第4の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、前記第1~第3の態様において、前記断熱材は、前記側周空間部に配置される粒状断熱材を含み、前記ガス通路の径方向の外端に、前記粒状断熱材の前記ガス通路内への流入を防ぐシールドが設けられる。
【0067】
この第4の態様によれば、ガス通路への粒状断熱材の流入がシールドによって阻止されるので、ガス通路内の圧力の均等化が粒状断熱材によって阻害されることがなく、内槽屋根の上下差圧を効果的に減少させることができる。
【0068】
第5の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、前記第1の態様において、前記断熱材は、前記中間槽屋根の下面に沿って配置された定形断熱材を含み、前記ガス通路は、前記定形断熱材の下側に形成される。
【0069】
この第5の態様によれば、定形断熱材によって内槽を保冷しつつ、当該定形断熱材をガス通路を規定する壁材として利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 液化水素貯蔵タンク
2 外槽
3 中間槽
4 内槽
32 中間槽側板
33 中間槽屋根
42 内槽側板
43 内槽屋根
45 連通管
45a (連通管の)上端開口
56 粒状断熱材
57 グラスウール(シールド)
71,81 隔壁
101 定形断熱材
S2 内側断熱空間(断熱空間)
S21 屋根空間部
S22 側周空間部
R1,R11,R12,R13 ガス通路