(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112626
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】制御装置、車両及び制御方法
(51)【国際特許分類】
F02P 5/152 20060101AFI20240814BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F02P5/152
F02D45/00 368A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017808
(22)【出願日】2023-02-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宏文
(72)【発明者】
【氏名】片岡 大
(72)【発明者】
【氏名】児玉 裕勝
(72)【発明者】
【氏名】永田 渉
【テーマコード(参考)】
3G022
3G384
【Fターム(参考)】
3G022DA01
3G022DA02
3G022EA02
3G384AA27
3G384BA24
3G384DA01
3G384DA55
3G384EB03
3G384EB04
3G384EB17
3G384ED07
3G384FA33Z
3G384FA52Z
3G384FA56Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】ノック検知後に円滑に加速することが可能な内燃機関におけるノッキング制御技術を提供すること。
【解決手段】制御装置は、内燃機関に設けられたノックセンサにより検出された信号に基づいて、ノッキングが発生したノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、ノッキングが発生していない非ノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する点火時期補正部と、内燃機関の運転状態に基づいて、進角の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する点火時期算出部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に設けられたノックセンサにより検出された信号に基づいて、ノッキングが発生したノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、前記ノッキングが発生していない非ノック検知状態と判定された場合に、前記点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する点火時期補正部と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記進角の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する点火時期算出部と、を備え、
前記点火時期補正部は、
前記内燃機関の運転サイクルごとに前記補正量を算出し、
前記点火時期算出部は、
前記補正量により変更された変更点火時期が前記限界点火時期を超えて進角している場合、前記変更点火時期と前記限界点火時期との差分を取得し、
前記差分を取得した運転サイクルの次の運転サイクルで算出される補正量に、前記差分を加算することにより前記点火プラグの点火時期を算出する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記点火時期補正部は、
前記ノックセンサの出力信号に含まれる周波数成分に基づいて、前記ノッキングの強度を取得し、
前記ノッキングの強度に応じて、前記点火時期を遅角させる遅角補正量と、前記点火時期を進角させる進角補正量とで、それぞれ異なる補正量を算出し、
前記強度の変化に対する前記進角補正量の変化量は、前記強度の変化に対する前記遅角補正量の変化量に比べて小さくなるように、前記進角補正量を算出することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記点火時期算出部は、回転数検出部の検出結果に基づいて取得した内燃機関の回転数が閾値回転数より低い回転数である場合に、前記限界点火時期に比べて遅角した点火時期を算出することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記閾値回転数に比べて前記内燃機関の回転数が増加した運転状態では、前記限界点火時期は、前記閾値回転数における限界点火時期の設定に比べて、進角側に設定されることを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御装置を備える車両。
【請求項6】
内燃機関に設けられたノックセンサにより検出された信号に基づいて、ノッキングが発生したノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、前記ノッキングが発生していない非ノック検知状態と判定された場合に、前記点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する点火時期補正工程と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記進角の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する点火時期算出工程と、を有し、
前記点火時期補正工程では、
前記内燃機関の運転サイクルごとに前記補正量を算出し、
前記点火時期算出工程では、
前記補正量により変更された変更点火時期が前記限界点火時期を超えて進角している場合、前記変更点火時期と前記限界点火時期との差分を取得し、
前記差分を取得した運転サイクルの次の運転サイクルで算出される補正量に、前記差分を加算することにより前記点火プラグの点火時期を算出する
ことを特徴とする制御装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制御装置、車両及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ノックセンサの検出結果により点火時期を補正する技術に関して、ノッキング強度に基づき、点火時期を遅角し、所定の遅角量以上に遅角させないよう制限を設け、所定の時間後に進角させるように点火時期を補正する内燃機関のノック制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ノック検知後、点火時期を遅角制御から進角制御に切り替わった際に、車両は加速されることになり、過大な進角補正量による車両の加速は、乗員の乗り心地に影響を及ぼすことになり得る。ノック検知後に円滑に加速できる操作性に優れた制御技術が必要とされる。
【0005】
上記の課題を鑑みて、本願は、ノック検知後に円滑に加速することが可能な内燃機関におけるノッキング制御技術を提供することを目的とする。そして、延いては交通の安全性をより一層改善して持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の制御装置は、内燃機関に設けられたノックセンサにより検出された信号に基づいて、ノッキングが発生したノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、前記ノッキングが発生していない非ノック検知状態と判定された場合に、前記点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する点火時期補正部と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記進角の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する点火時期算出部と、を備え、
前記点火時期補正部は、
前記内燃機関の運転サイクルごとに前記補正量を算出し、
前記点火時期算出部は、
前記補正量により変更された変更点火時期が前記限界点火時期を超えて進角している場合、前記変更点火時期と前記限界点火時期との差分を取得し、
前記差分を取得した運転サイクルの次の運転サイクルで算出される補正量に、前記差分を加算することにより前記点火プラグの点火時期を算出する。
【0007】
本発明の他の態様の制御方法は、内燃機関に設けられたノックセンサにより検出された信号に基づいて、ノッキングが発生したノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、前記ノッキングが発生していない非ノック検知状態と判定された場合に、前記点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する点火時期補正工程と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記進角の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する点火時期算出工程と、を有し、
前記点火時期補正工程では、
前記内燃機関の運転サイクルごとに前記補正量を算出し、
前記点火時期算出工程では、
前記補正量により変更された変更点火時期が前記限界点火時期を超えて進角している場合、前記変更点火時期と前記限界点火時期との差分を取得し、
前記差分を取得した運転サイクルの次の運転サイクルで算出される補正量に、前記差分を加算することにより前記点火プラグの点火時期を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ノック検知後に円滑に加速することが可能な内燃機関におけるノッキング制御技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】実施形態に係る制御装置の処理の流れを説明するフローチャート。
【
図4】実施形態に係る制御装置の処理の流れを説明するフローチャート。
【
図5】ノックレベル、ノック強度、点火時期補正量を対応付けるノック強度テーブルを例示する図。
【
図6】ノック強度と点火時期補正量との関係を示す図。
【
図7】エンジンの運転状態に基づいた、点火時期の算出処理を例示的に説明する図。
【
図8】変更点火時期と限界点火時期との比較処理を模式的に説明する図。
【
図9】ノックセンサのデータの取得範囲の設定を模式的に説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
(車両の概略構成)
車両1の構成について
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両1の側面図である。図中、矢印D1は車両1の前後方向を示し、Fが前側、Rが後側を示す。矢印D2は車両1の上下方向を示し、Uが上側、Lが下側を示す。
【0012】
車両1は、操向ハンドル2とシート9との間に、ライダの足を乗せる低床フロア8が設けられたスクータ型の自動二輪車である。なお、スクータ型の自動二輪車は例示的なものであり、本発明は種々の形式の車両に適用することが可能である。
図1において、車体フレーム12の前端には、ヘッドパイプ14が固定されている。ヘッドパイプ14は、操向ハンドル2から下方に延びるステアリングステム13を回動自在に軸支する。ステアリングステム13の下部には、前輪10を回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク15が固定されている。
【0013】
操向ハンドル2の前後は、ヘッドライト4およびメータ装置19aを支持する前側ハンドルカウル3および後側ハンドルカウル5によって覆われている。メータ装置19aは、車速、燃料の残量等の各種の情報が表示される。ヘッドパイプ14及びステアリングステム13は、カバー6で覆われている。車両1の前部には、フロントコンビネーションランプ7が配設されている。
【0014】
シート9の下方には、荷室9aが内蔵されている。シート9は、上下方向に回動自在に設けられ、荷室9aを開閉する。低床フロア8の後方の位置には、駆動源としての内燃機関(エンジン)と変速機とを一体に構成したユニットスイング式のパワーユニット16が揺動自在に軸支されている。本実施形態のパワーユニット16は、駆動源として内燃機関を使用するものとする。
【0015】
パワーユニット16には駆動輪である後輪11が回転自在に軸支されており、パワーユニット16は後輪11を回転させる。パワーユニット16の後端部は、リヤクッション18によって車体に吊り下げられている。パワーユニット16の上部にはエアクリーナボックス17が取り付けられている。エアクリーナボックス17には、パワーユニット16のエンジンの吸気を清浄するエアクリーナが設けられている。車両1の後端部には、リヤコンビネーションランプ19bが取り付けられている。
【0016】
<制御装置>
車両1の制御装置について説明する。
図2は車両1の制御装置200のブロック図であり、本実施形態の特徴を説明する上で必要な構成のみを図示している。また、
図3及び
図4は、制御装置200の処理を流れ説明するフローチャートである。
【0017】
制御装置200は、車両1を統括的に制御するECU(電子制御ユニット)である。なお、
図2では、制御装置200の構成として、一つのECU(電子制御ユニット)を示しているが、複数のECUで処理を、ノック検知判定ECUとエンジン制御ECUとで分割してもよい。例えば、ノック検知判定ECUは、ノックセンサ20の信号処理を行い、ノッキングの発生を判定し、エンジン制御ECUはノック検知判定ECUの判定結果に基づいたエンジンの点火制御によりエンジンを制御してもよい。
【0018】
エンジンのクランク軸には、外周に予め定められた角度間隔で複数の歯が設けられた信号プレートが設けられている。不図示のクランク角センサは、クランク軸の信号プレートの歯に対向してシリンダブロックに固定されており、歯の通過に同期したパルス信号を出力する。ECU(電子制御ユニット)は、クランク角センサの出力信号に基づいて、クランク角度を検出し、ピストンの上死点を基準とした燃焼室内における運転サイクル(行程)を判定することが可能である。
【0019】
エンジンのシリンダブロックにはノックセンサ20が固定されている。ノックセンサ20は、エンジンの振動に応じた信号を出力する。ノックセンサ20は、圧電素子等により構成することが可能であるが、例えば、非共振タイプの圧電素子等が使用される。ノックセンサ20は、データ取得設定部26で設定されたタイミングでデータの取得を行い、取得したデータ(信号)を出力する。
【0020】
データの取得範囲は、データの取得を開始する第1のタイミングと、データの取得を終了する第2のタイミングにより定められる。データ取得設定部26は、第1のタイミングと第2のタイミングとを設定することにより、ノックセンサ20によるデータの取得範囲(取得タイミング)を任意に設定する。ノッキングが発生していない状態では、データの取得範囲は、例えば、第1のタイミング(データの取得開始のタイミング)を上死点(Top Dead Center:TDC)としてもよい。また、第2のタイミング(データの取得終了のタイミング)を上死点後(After Top Dead Center:ATDC)の角度a
2としてもよい。ノッキングが発生していない状態では、例えば、
図9の初期設定範囲91に示すように、データの取得範囲は、上死点(TDC)~上死点後ATDCの角度(a
2)として設定してもよい。
【0021】
データ取得設定部26は、例えば、
図9の設定変更範囲92に示すように、ノックセンサ20のデータの取得範囲を狭くするように、データの取得タイミング(第1のタイミング)を変更することが可能である。データ取得設定部26は、後に説明する点火時期算出部24により算出された点火時期に基づいて、データの取得範囲を設定する。
【0022】
信号処理部21は、ノックセンサ20から出力された信号を処理する。所定の周波数帯域の信号をバンドパスフィルタによりフィルタリングして(S100)、ノックセンサ20から出力されたセンサ出力を取り込む(S120)。ノックセンサ20は、データ取得設定部26により設定されたデータの取得範囲(取得タイミング)のデータを取得し、取得したデータをセンサ出力として出力する。
【0023】
S120において、信号処理部21は、ノックセンサ20のセンサ出力の信号処理として、ノックセンサ20の出力信号をA/D変換した信号を取得し、取得した信号に対してフーリエ変換処理又はバンドパスフィルタ処理等を行って、複数の解析周波数の成分の強度を算出する。例えば、信号処理部21は、フーリエ変換処理として、演算周期ごとに、処理期間の間に取得されたノックセンサ20の出力信号に対して離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)又は短時間フーリエ変換(STFT:Short-Time Fourier Transform)等を行って、複数の解析周波数のスペクトルを算出し、各解析周波数のスペクトルの大きさを、各解析周波数の成分のノックレベルとして算出する。
【0024】
信号処理部21は、記憶部25に記憶されたノック強度テーブルを参照して、ノックレベルに対応するノック強度を取得(算出)する。ここで、
図5は、ノック強度テーブル51を例示する図である。ノック強度テーブル51は、ノックレベル、ノック強度、点火時期補正量を対応付けるテーブルである。ノックレベルL1~L10は、それぞれ周波数成分の帯域幅を有し、信号処理部21は、S120で算出したノックレベルを判定し、判定したノックレベルに対応するノック強度を取得(算出)する。例えば、ノックレベルL7の場合は、対応するノック強度K7を取得する。ノック強度テーブル51において、ノックレベルL5、ノック強度K5は、目標状態を示し、目標状態では現在設定されている点火時期タイミングを維持するため、点火時期補正量はゼロ「0」に設定されている。
【0025】
図5において、ノック強度K6~K10は、ノッキングが発生したノック検知状態を示し、マイナス側の点火時期補正量は、遅角補正量を示す。また、ノック強度K4~K1は、ノッキングが発生していない非ノック検知状態を示し、プラス側の点火時期補正量は、進角補正量を示す。
【0026】
点火時期補正量の大小関係は、進角側では、0<θ1<θ2<θ3<θ4である。また、遅角側では、-θ32<-θ16<-θ8<-θ4<-θ1<0である。非ノック検知状態(ノック強度K4~K1)では、目標状態(ノック強度K5)に向けて慎重に進角が行われるように、点火時期補正量が設定されている。これに対して、ノック検知状態(ノック強度K6~K10)では、ノッキング状態を早期に解消するために、非ノック検知状態(ノック強度K4~K1)に比べて、補正量の変化量が大きくなるように、点火時期補正量が設定されている。
【0027】
図6は、ノック強度と点火時期補正量との関係を示す図であり、横軸はノック強度を示し、縦軸は点火時期補正量を示す。ノッキングの強度に応じて、点火時期を遅角させる遅角補正量と、点火時期を進角させる進角補正量とで、それぞれ異なる補正量が設定され、強度の変化に対する進角補正量の変化量は、強度の変化に対する遅角補正量の変化量に比べて小さくなるように、進角補正量は設定されている。また、遅角補正量の観点では、強度の変化に対する遅角補正量の変化量は、強度の変化に対する進角補正量の変化量に比べて大きくなるように、遅角補正量は設定されている。
【0028】
S200において、ノック判定部22は、信号処理部21の信号処理に基づいて取得されたノック強度が目標状態(ノック強度K5)に収束した状態であるか判定する。ノック強度が目標状態(ノック強度K5)である場合(S210-YES)、処理はS230に進められ、現在設定されている点火時期は維持される。
【0029】
一方、S210の判定処理で、ノック強度が目標状態(ノック強度K5)でない場合(S210-NO)、ノック判定部22は、ノック強度の判定結果に基づいて、ノック検知状態(ノック強度K6~K10)であるか、または、非ノック検知状態(ノック強度K4~K1)であるかを判定し、処理をS300に進める。
【0030】
S300において、点火時期補正部23は、ノック判定部22により、ノッキングが発生したノック検知状態(ノック強度K6~K10)と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、ノッキングが発生していない非ノック検知状態(ノック強度K4~K1)と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する。点火時期補正部23は、補正量の算出処理において、ノック強度テーブル51を参照して、ノック強度に対応する点火時期補正量を取得(算出)する。点火時期補正部23は、エンジンの運転サイクル(1サイクル)ごとに補正量を算出する。
【0031】
S310において、点火時期補正部23は、記憶部25を参照して、前回の運転サイクル(前サイクル)までの処理において、繰り越された補正量が存在する場合、前サイクルまでの処理において、繰り越された点火時期補正量(Hprev)を記憶部25から読み込む。そして、点火時期補正部23は、繰り越された点火時期補正量(H_prev)に、現サイクルの点火時期補正量(H_current)を加算した加算補正量(H_prev+H_current)を算出する。
【0032】
ここで、繰り越された点火時期補正量とは、補正量(加算補正量)により変更された変更点火時期が、進角限界値における限界点火時期を超えて進角している場合、変更点火時期と限界点火時期との差分を示す。現サイクルの処理において、変更点火時期が、進角限界値における限界点火時期を超えて進角している場合、点火時期算出部24は、変更点火時期と限界点火時期との差分を取得し、取得した差分を、繰り越し点火時期補正量として、次サイクルの点火時期補正量に加算するために記憶部25に記憶する。
【0033】
図7は、エンジンの運転状態に基づいた、点火時期の算出処理を例示的に説明する図である。
図7において、横軸はエンジンの回転数(NE)を示し、縦軸は点火時期を示す(上死点前(Before Top Dead Center:BTDC)角度(deg.))。記憶部25には、エンジンの運転状態に応じて、ベースとなるマップと、最適点火時期(MBT:Minimum advance for the Best Torque)とが記憶されている。ここで、最適点火時期(MBT)とは、エンジン回転数や吸気量など同一条件のもとで、点火時期のみを変化させた際、エンジントルクが最大となる点火時期を示す。点火時期算出部24は、エンジンの運転状態に対応するマップと、最適点火時期(MBT)とを取得する。エンジンの運転状態に対応するマップには、遅角限界点火時期72とノック設定点火時期73とが設定されている。
【0034】
図7において、実線で示す限界点火時期71は最適点火時期(MBT)に等しい点火時期である。一点鎖線で示す遅角限界点火時期72は遅角側の補正を制限する点火時期である。また、破線で示すノック設定点火時期73は、所定環境でノッキングが発生する点火時期を示しており、ノック設定点火時期73と限界点火時期71とが交わる点を閾値74とし、閾値74に対応したエンジンの回転数を閾値回転数N
THとする。
【0035】
閾値回転数NTHよりも低い低回転域における点火時期を、限界点火時期71に設定すると、所定環境での設定値(ノック設定点火時期)を超えてノッキングが発生し得る。回転数検出センサの検出結果に基づいて取得したエンジンの回転数が閾値回転数NTHより低い回転数である場合に、点火時期算出部24は、ノック設定点火時期73に基づいて、限界点火時期71よりも点火時期を遅角(矢印75)した点火時期を取得(算出)する。エンジンの回転数が閾値回転数より低い回転数である場合には、予め設定したノック設定点火時期に基づいて、限界点火時期よりも点火時期を遅角した点火時期を算出することにより、ノッキングの発生を効果的に抑制することが可能になる。
【0036】
一方、閾値回転数NTHよりも高い高回転域では、点火時期算出部24は、ノック設定点火時期73ではなく、進角補正における上限値(進角限界値)に対応した限界点火時期71に基づいて、点火時期を取得(算出)する。閾値回転数NTHに比べてエンジンの回転数が増加した運転状態では、限界点火時期は、閾値回転数NTHにおける限界点火時期の設定に比べて、進角側(矢印76)に設定される。閾値回転数NTHよりも高い高回転域では、最適点火時期(MBT)を超えた進角は不要な進角として制限される。ノッキングが発生していない非ノック検知状態では、最適点火時期(MBT)を超えるような点火時期まで進角補正を行わないように制御される。
【0037】
説明を
図3のS320に戻し、点火時期算出部24は、内燃機関(エンジン)の運転状態に基づいて、進角(進角補正)の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する。そして、点火時期算出部24は、補正量(加算補正量)により変更された変更点火時期が限界点火時期を超えて進角しているか判定する。ここで、
図8は、変更点火時期と限界点火時期との比較処理を模式的に説明する図である。
図8を参照しつつ、
図3の処理を説明する。
【0038】
S320の判定処理で、変更点火時期が限界点火時期を超えて進角している場合(S320-YES)、点火時期算出部24は処理をS340に進める。
【0039】
S340において、点火時期算出部24は、限界点火時期に基づいて点火回路27を制御して、点火プラグで放電するための高電圧をイグニションコイル28(IGコイル)に生成させる。
【0040】
すなわち、現サイクルの点火時期(変更点火時期)が限界点火時期を超えている場合(
図8の81)、点火時期算出部24は、限界点火時期を上限として点火回路27の制御を行う。
【0041】
そして、S350において、点火時期算出部24は、変更点火時期と限界点火時期との差分(
図8の82)を取得し、取得した差分を、繰り越し点火時期補正量として、次サイクルの点火時期補正量に加算するために記憶部25に記憶する。変更点火時期と限界点火時期との差分(
図8の82)は次サイクルに繰り越される。そして、点火時期算出部24は、処理をS360に進める。次サイクルにおいては、次サイクルの点火時期(
図8の83)に、繰り越された差分82が加算された点火時期に基づいて(S310)、点火時期算出部24は、S320以降の処理を行う。
【0042】
一方、S320の判定処理において、変更点火時期が限界点火時期を超えて進角していない場合(S320-NO)、点火時期算出部24は、処理をS330に進める。この場合、限界点火時期の制限を受けることなく、点火時期算出部24は、変更点火時期に基づいて、点火回路27の制御を行う。
【0043】
S330において、点火時期算出部24は、変更点火時期に基づいて点火回路27を制御して、点火プラグで放電するための高電圧をイグニションコイル28(IGコイル)に生成させる。そして、点火時期算出部24は、処理をS360に進める。
【0044】
S360において、データ取得設定部26は、点火時期算出部24により算出された点火時期に応じて、ノックセンサによるデータの取得時期を設定する。
図9はノックセンサのデータ取得時期の設定を模式的に説明する図である。
図9を参照しつつ、
図3の処理を説明する。データ取得設定部26は、点火時期算出部24により算出された点火時期が、予め設定されている所定の点火時期に比べて上死点(TDC)に近づくように遅角された場合に(S360-YES)、データ取得設定部26は処理をS370に進める。
【0045】
S370において、データ取得設定部26は、所定の点火時期に対応して設定されているデータの取得範囲を狭くするように、データの取得開始のタイミングを変更する。ノックセンサ20のデータ取得範囲(初期設定範囲91)として、上死点(TDC)から上死点後ATDCの角度(a2)の範囲が設定されている場合、データ取得設定部26は、初期設定範囲91のデータの取得範囲を狭くするように(a1~a2)、データの取得開始のタイミングを、上死点(TDC)から上死点後(ATDC)の角度a1に変更する。すなわち、データ取得設定部26は、初期設定範囲91におけるデータの取得開始のタイミングを遅らせることにより、データの取得タイミングを変更する。
【0046】
上死点(TDC)から上死点後(ATDC)の角度a1における角度範囲には、遅角限界を示す角度a3と、点火によるノイズの影響を受けないクランク角度a4とが少なくとも含まれる。ノックセンサ20のデータ取得開始のタイミングを、上死点(TDC)から上死点後(ATDC)の角度a1に変更することにより、点火によるノイズの影響を低減することができ、ノッキングが発生した後に、遅角された点火時期において、ノック判定の精度を向上させることが可能になる。
【0047】
一方、S360の判定処理において、点火時期算出部24により算出された点火時期が、予め設定されている所定の点火時期に比べて上死点に近づくように遅角されない場合に(S360-NO)、処理をS380に進める。
【0048】
S380において、データ取得設定部26は、ノックセンサ20のデータ取得タイミングを維持する。すなわち、データ取得設定部26は、データの取得タイミング(第1のタイミング)として、上死点(TDC)の設定を維持する。点火時期算出部24により算出された点火時期が、予め設定されている所定の点火時期に比べて上死点から遠ざかるように進角された場合に、データ取得設定部26は、データの取得範囲の設定(データの取得タイミングの設定)を維持する。
【0049】
<実施形態のまとめ>
(項目1) 上記実施形態の制御装置は、内燃機関に設けられたノックセンサにより検出された信号に基づいて、ノッキングが発生したノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、前記ノッキングが発生していない非ノック検知状態と判定された場合に、前記点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する点火時期補正部(例えば、23)と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記進角の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する点火時期算出部(例えば、24)と、を備え、
前記点火時期補正部(23)は、
前記内燃機関の運転サイクルごとに前記補正量を算出し、
前記点火時期算出部(24)は、
前記補正量により変更された変更点火時期が前記限界点火時期を超えて進角している場合、前記変更点火時期と前記限界点火時期との差分を取得し、
前記差分を取得した運転サイクルの次の運転サイクルで算出される補正量に、前記差分を加算することにより前記点火プラグの点火時期を算出する。
【0050】
項目1の制御装置によれば、ノック検知後に円滑に加速することが可能な内燃機関におけるノッキング制御技術を提供することができる。進角変更量を制限することで、加速トルクが急激に増大することを抑制することができ、円滑に加速することが可能になる。これにより、乗員の乗り心地を向上させることが可能になる。
【0051】
(項目2) 前記点火時期補正部(23)は、
前記ノックセンサの出力信号に含まれる周波数成分に基づいて、前記ノッキングの強度を取得し、
前記ノッキングの強度に応じて、前記点火時期を遅角させる遅角補正量と、前記点火時期を進角させる進角補正量とで、それぞれ異なる補正量を算出し、
前記強度の変化に対する前記進角補正量の変化量は、前記強度の変化に対する前記遅角補正量の変化量に比べて小さくなるように、前記進角補正量を算出する。
【0052】
項目2の制御装置によれば、遅角側の点火時期補正においては、ノッキングを素早く抑制するこができ、進角側の点火時期補正においては、加速トルクが急激に増大することを抑制することができ、円滑に加速することが可能になる。これにより、乗員の乗り心地を向上させることが可能になる。
【0053】
(項目3) 前記点火時期算出部(24)は、回転数検出部の検出結果に基づいて取得した内燃機関の回転数が閾値回転数より低い回転数である場合に、前記限界点火時期に比べて遅角した点火時期を算出する。
【0054】
項目3の制御装置によれば、閾値回転数よりも低い低回転域における点火時期を限界点火時期に設定すると、所定環境での設定値(ノック設定点火時期)を超えてノッキングが発生し得る。ノッキングの発生を抑制するため、エンジンの回転数が閾値回転数より低い回転数である場合には、予め設定したノック設定点火時期に基づいて、限界点火時期よりも点火時期を遅角した点火時期を算出することにより、ノッキングの発生を効果的に抑制することが可能になる。
【0055】
(項目4) 前記閾値の回転数に比べて前記内燃機関の回転数が増加した運転状態では、前記限界点火時期は、前記閾値の回転数における限界点火時期の設定に比べて、進角側に設定される。
【0056】
項目4の制御装置によれば、乗員が加速を要求する高回転域にて、より進角側に点火時期を補正することができるので、内燃機関のトルクを大きくすることができる。結果、加速時における乗員の乗り心地が向上する。
【0057】
(項目5) 車両は、項目1乃至項目4のいずれか1項目に記載の制御装置(1)を備える。
【0058】
(項目6) 内燃機関に設けられたノックセンサにより検出された信号に基づいて、ノッキングが発生したノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、前記ノッキングが発生していない非ノック検知状態と判定された場合に、前記点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する点火時期補正工程(例えば、S300、S310)と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記進角の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する点火時期算出工程(例えば、S320~S350)と、を有し、
前記点火時期補正工程(S300、S310)では、
前記内燃機関の運転サイクルごとに前記補正量を算出し、
前記点火時期算出工程(S320~S350)では、
前記補正量により変更された変更点火時期が前記限界点火時期を超えて進角している場合、前記変更点火時期と前記限界点火時期との差分を取得し、
前記差分を取得した運転サイクルの次の運転サイクルで算出される補正量に、前記差分を加算することにより前記点火プラグの点火時期を算出する。
【0059】
項目6の制御方法によれば、ノック検知後に円滑に加速することが可能な内燃機関におけるノッキング制御技術を提供することができる。進角変更量を制限することで、加速トルクが急激に増大することを抑制することができ、円滑に加速することが可能になる。これにより、乗員の乗り心地を向上させることが可能になる。
【0060】
本発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
20:ノックセンサ、21:信号処理部、22:ノック判定部、23:点火時期補正部、24:点火時期算出部、25:記憶部、26:データ取得設定部、27:点火回路、28:イグニションコイル
【手続補正書】
【提出日】2024-05-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に設けられたノックセンサにより検出された信号に基づいて、ノッキングが発生したノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、前記ノッキングが発生していない非ノック検知状態と判定された場合に、前記点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する点火時期補正部と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記進角の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する点火時期算出部と、を備え、
前記点火時期補正部は、
前記内燃機関の運転サイクルごとに前記補正量を算出し、
前記点火時期算出部は、
前記補正量により変更された変更点火時期が前記限界点火時期を超えて進角している場合、前記変更点火時期と前記限界点火時期との差分を取得し、
前記差分を取得した運転サイクルの次の運転サイクルで算出される補正量に、前記差分を加算することにより前記点火プラグの点火時期を算出する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記点火時期補正部は、
前記ノックセンサの出力信号に含まれる周波数成分に基づいて、前記ノッキングの強度を取得し、
前記ノッキングの強度に応じて、前記点火時期を遅角させる遅角補正量と、前記点火時期を進角させる進角補正量とで、それぞれ異なる補正量を算出し、
前記強度の変化に対する前記進角補正量の変化量は、前記強度の変化に対する前記遅角補正量の変化量に比べて小さくなるように、前記進角補正量を算出することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記点火時期算出部は、
所定環境でノッキングが発生する点火時期を示すノック設定点火時期と、前記限界点火時期と、が交わる点の前記内燃機関の回転数を閾値回転数として設定し、
前記点火時期算出部は、回転数検出部の検出結果に基づいて取得した前記内燃機関の回転数が前記閾値回転数より低い低回転域では、前記限界点火時期に基づいた点火時期の設定により発生し得るノッキングを抑制するために、前記限界点火時期に比べて遅角した点火時期を、前記ノック設定点火時期に基づいて算出することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記閾値回転数に比べて高い高回転域では、前記限界点火時期に基づいた進角に比べて大きくなる、前記ノック設定点火時期に基づいた進角を制限するため、
前記点火時期算出部は、前記限界点火時期の設定に基づいて進角した点火時期を設定することを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御装置を備える車両。
【請求項6】
内燃機関に設けられたノックセンサにより検出された信号に基づいて、ノッキングが発生したノック検知状態と判定された場合に、点火プラグによる点火時期を遅角させる補正量を算出し、前記ノッキングが発生していない非ノック検知状態と判定された場合に、前記点火プラグによる点火時期を進角させる補正量を算出する点火時期補正工程と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記進角の上限値を示す進角限界値に対応した限界点火時期を算出する点火時期算出工程と、を有し、
前記点火時期補正工程では、
前記内燃機関の運転サイクルごとに前記補正量を算出し、
前記点火時期算出工程では、
前記補正量により変更された変更点火時期が前記限界点火時期を超えて進角している場合、前記変更点火時期と前記限界点火時期との差分を取得し、
前記差分を取得した運転サイクルの次の運転サイクルで算出される補正量に、前記差分を加算することにより前記点火プラグの点火時期を算出する
ことを特徴とする制御装置の制御方法。