(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011263
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】木型用合板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27M 1/00 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B27M1/00 E
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113138
(22)【出願日】2022-07-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】508169502
【氏名又は名称】太田ベニヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】木山 博之
【テーマコード(参考)】
2B250
【Fターム(参考)】
2B250BA05
2B250DA01
2B250FA09
2B250GA03
(57)【要約】
【課題】反りや捻れ等を防止するために設けられた切込を含む部分の密度の低下を抑えることができ、これによってレーザー光線による熱切断加工時の焼損を抑えることができる木型用合板を提供する。
【解決手段】加工刃が植設されてなる木型の基材として用いられる木型用合板3であって、木質繊維を分断する切込30を有する合板本体21と、切込30を覆うように合板本体21に接着される被覆板23と、被覆板23を覆うように形成されるコーティング層25とを備えるものとする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工刃が植設されてなる木型の基材として用いられる木型用合板であって、
木質繊維を分断する切込を有する合板本体と、
前記切込を覆うように前記合板本体に接着される被覆板と、
前記被覆板を覆うように形成されるコーティング層と、
を備える木型用合板。
【請求項2】
前記切込の最も深度が大きい部分及びその近傍における前記切込の両側の前記合板本体部分が密着されている請求項1に記載の木型用合板。
【請求項3】
前記切込は、前記合板本体の厚み方向に対して斜めに切り込むように形成される請求項1又は2に記載の木型用合板。
【請求項4】
前記切込は、前記合板本体の少なくとも一辺に対して斜め方向に形成される請求項1又は2に記載の木型用合板。
【請求項5】
前記合板本体は、前記切込が形成された単板が複数積層されて構成される請求項1又は2に記載の木型用合板。
【請求項6】
前記コーティング層を形成することによって前記被覆板に生じた反りを無くすように前記被覆板が前記合板本体に接着される請求項1又は2に記載の木型用合板。
【請求項7】
前記コーティング層は、抗ウイルス作用、抗菌作用、防虫作用、及び防カビ作用のうちの少なくとも一つ以上の作用を有する請求項1又は2に記載の木型用合板。
【請求項8】
加工刃が植設されてなる木型の基材として用いられる木型用合板の製造方法であって、
木質繊維を分断する切込を有する合板本体に、前記切込を覆うように被覆板を接着する被覆板接着工程と、
前記被覆板を覆うようにコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、
を包含する木型用合板の製造方法。
【請求項9】
加工刃が植設されてなる木型の基材として用いられる木型用合板の製造方法であって、
被覆板を覆うようにコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、
木質繊維を分断する切込を有する合板本体に、前記コーティング層を形成することによって反りが生じた前記被覆板を、前記切込を覆い、且つ前記反りを無くすように接着する被覆板接着工程と、
を包含する木型用合板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工刃が植設されてなる木型の基材として用いられる木型用合板、及び当該木型用合板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙器等の展開形態であるシート状のブランクは、一般的に、木型を用いて製造される。木型の基材としては、木型用合板が広く用いられている。木型は、木型用合板に打抜き刃や罫線押し刃等の加工刃が植設されて構成されている。木型用合板に加工刃を植設するにあたっては、ブランク形状やブランクの折目に対応するようにレーザー光線を木型用合板に照射することにより、加工刃を差し込むための細幅で厚み方向に貫通した差込溝が木型用合板に形成される。そして、形成した差込溝に加工刃を差し込んで木型用合板に植設することにより、トムソン抜型等の木型が組み立てられる。
【0003】
上記のような木型において、高い加工精度を確保するためには、木型用合板に形成される差込溝を適正な溝幅に形成することは勿論のこと、木型用合板自体の反りや捻れ等の発生を防止することが必要である。木型用合板自体の反りや捻れ等の発生を防止する手法としては、木型用合板の芯部を構成する合板本体に木質繊維を分断するように切込を設けるというものがある(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、反りや捻れ等を防止して高い精度の木型用合板を製造しようとした場合、合板本体に設けられる切込は、合板本体の厚みに対して、例えば6~7割程度の深さまで設けられればよいとされており、専用の刃物を用いて合板本体の一側板面から他側板面に向かって切り込むことによって形成される。
【0006】
刃物は、腹部の厚みが最も大きく、刃先側に進むに従って厚みが小さくなる。このような刃物によって合板本体に切込が形成された場合、深度が小さい部分(浅い部分)では切込の隙間が最も大きく、深度が大きくなるにつれて切込の隙間が小さくなり、最も深度が大きい部分では木質繊維が分断されるものの、木質繊維の弾性によって切込を挟む両側の合板本体部分が接触状態にある。このように、切込を含む部分においては、刃物で切り込むことによって不可避的に生じる隙間によって切込を含まない部分に対し密度が相対的に低下する。このため、木型用合板においては、切込を含む部分と含まない部分とで密度にバラツキが生じることになる。
【0007】
ところで、加工刃差込用の差込溝を形成する際において、木型用合板に照射されるレーザー光線は、切込を含まない相対的に高密度の部分に照射した場合においても差込溝を熱切断により形成することができる出力に設定されている。このような出力に設定されたレーザー光線を用いて、木型用合板における切込を含まない相対的に高密度の部分に差込溝を形成する場合は問題なく熱切断が行われて差込溝を適正な溝幅に形成することができる。しかしながら、レーザー光線の出力が同じであっても、木型用合板における切込を含む相対的に低密度の部分に差込溝を形成する場合は、熱切断が過剰に進み、焼損によって適正な溝幅よりも大きな溝幅となってしまうことがある。適正な溝幅よりも大きな溝幅の差込溝に加工刃を差し込んで植設した場合、加工刃の植込み状態に緩みが生じ、ブランクの加工精度が悪くなる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、反りや捻れ等を防止するために設けられた切込を含む部分の密度の低下を抑えることができ、これによってレーザー光線による熱切断加工時の焼損を抑えることができる木型用合板、及び木型用合板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る木型用合板の特徴構成は、
加工刃が植設されてなる木型の基材として用いられる木型用合板であって、
木質繊維を分断する切込を有する合板本体と、
前記切込を覆うように前記合板本体に接着される被覆板と、
前記被覆板を覆うように形成されるコーティング層と、
を備えることにある。
【0010】
本構成の木型用合板によれば、被覆板を覆うようにコーティング層が形成されるので、被覆板において、コーティング層によって覆われる側の板面(コーティング側板面)からの水分の蒸散は、合板本体に接着される側の板面(非コーティング側板面)からの水分の蒸散よりも抑えられることになる。このため、被覆板において、水分の蒸散は、コーティング側板面よりも非コーティング側板面の方が相対的に進み、コーティング側板面よりも非コーティング側板面の方の収縮作用が進むことになる。これにより、被覆板がコーティング側板面の側に凸状となるような反りを生じさせる力に起因して、合板本体の内部には、板厚方向に引張応力が残留するとともに、板面に沿う方向に圧縮応力が残留する。合板本体における切込を含む部分は、断面形状が急変するところである。すなわち、切込の深度が小さい部分では切込の隙間が相対的に大きく、切込の深度が大きくなるにつれて切込の隙間が小さくなり、切込の最も深度が大きい部分及びその近傍は木質繊維が分断されるものの、木質繊維の弾性によって切込を挟む両側の合板本体部分が接触状態にある。合板本体の内部に残留する引張応力及び圧縮応力のうち、圧縮応力は、相対的に隙間が大きい切込の深度が小さい部分及びその近傍には作用せず、その分、切込の両側の合板本体部分が接触状態にある切込の最も深度が大きい部分及びその近傍に集中する(いわゆる応力集中)。このため、切込の最も深度が大きい部分及びその近傍における切込の両側の合板本体部分が密着され、この密着された部分の密度がその周辺の密度に対して相対的に増加して大きくなる。木型用合板における切込を含む部分においては、切込を設けることに伴い不可避的に生じる隙間によって密度が低下するものの、切込の最も深度が大きい部分及びその近傍の密度が増加して大きくなる。その結果、木型用合板における切込を含む部分の深さ方向全体の密度の低下を抑えることができる。こうして、反りや捻れ等を防止するために設けられた切込を含む部分の密度の低下を抑えることができるので、当該部分にレーザー光線を照射した際のレーザー光線による熱切断加工時の焼損を抑えることができる。
【0011】
本発明に係る木型用合板において、
前記切込の最も深度が大きい部分及びその近傍における前記切込の両側の前記合板本体部分が密着されていることが好ましい。
【0012】
本構成の木型用合板によれば、切込の最も深度が大きい部分及びその近傍における切込の両側の合板本体部分が密着されることにより、この密着された部分の密度がその周辺の密度に対して相対的に増加して大きくなり、木型用合板における切込を含む部分の深さ方向全体の密度の低下を抑えることができて、当該部分にレーザー光線を照射した際のレーザー光線による熱切断加工時の焼損を抑えることができる。
【0013】
本発明に係る木型用合板において、
前記切込は、前記合板本体の厚み方向に対して斜めに切り込むように形成されることが好ましい。
【0014】
例えば、木型用合板において加工刃を植設するにあたって、合板本体の厚み方向に形成される加工刃差込用の差込溝と、合板本体の厚み方向に形成される切込とが合板本体の厚み方向視で重なるように配された場合、切込の隙間の大きさによっては木型用合板において差込溝が設けられる領域周辺の合板本体部分の殆どが加工刃を保持するようには機能せず、加工刃の保持力が著しく低下する虞がある。本構成の木型用合板によれば、合板本体の厚み方向に対して斜めに切り込むように切込が形成されるので、木型用合板において切込と差込溝とが交差する領域以外の合板本体部分は加工刃を保持するように機能するため、加工刃の保持力の低下を抑えることができる。
【0015】
本発明に係る木型用合板において、
前記切込は、前記合板本体の少なくとも一辺に対して斜め方向に形成されることが好ましい。
【0016】
木型用合板において加工刃を植設するにあたって、合板本体の厚み方向に形成される加工刃差込用の差込溝は、合板本体の少なくとも一辺と平行になるように形成されることが多い。合板本体の少なくとも一辺に対して平行に切込が形成され、且つ差込溝と切込との相対位置が一致又は近い場合、切込の隙間の大きさによっては木型用合板において差込溝が設けられる領域周辺の合板本体部分の殆どが加工刃を保持するようには機能せず、加工刃の保持力が著しく低下する虞がある。本構成の木型用合板によれば、合板本体の少なくとも一辺に対して斜め方向に切込が形成されるので、差込溝と切込とが交差する位置関係となる。このため、木型用合板において切込と差込溝とが交差する箇所以外の合板本体部分は加工刃を保持するように機能するため、加工刃の保持力の低下を抑えることができる。
【0017】
本発明に係る木型用合板において、
前記合板本体は、前記切込が形成された単板が複数積層されて構成されることが好ましい。
【0018】
本構成の木型用合板によれば、単板ごとの反りや捻れ等が単板ごとに形成された切込によって防止されるので、単板が複数積層されて構成される合板本体の反りや捻れ等をより効果的に防止することができる。各単板においても、切込の深度が小さい部分では切込の隙間が相対的に大きく、切込の深度が大きくなるにつれて切込の隙間が小さくなり、切込の最も深度が大きい部分及びその近傍は木質繊維が分断されるものの、木質繊維の弾性によって切込を挟む両側の単板部分が接触状態にある。合板本体(単板)の内部に残留する引張応力及び圧縮応力のうち、圧縮応力は、相対的に隙間が大きい切込の深度が小さい部分及びその近傍には作用せず、その分、切込の両側の単板部分が接触状態にある切込の最も深度が大きい部分及びその近傍に集中する。このため、切込の最も深度が大きい部分及びその近傍における切込の両側の単板部分が密着され、この密着された部分の密度がその周辺の密度に対して相対的に増加して大きくなる。各単板における切込を含む部分においては、切込を設けることに伴い不可避的に生じる隙間によって密度が低下するものの、切込の最も深度が大きい部分及びその近傍の密度が増加して大きくなる。その結果、切込が形成された単板が複数積層されて構成される合板本体を備えた木型用合板における切込を含む部分の深さ方向全体の密度の低下を抑えることができる。こうして、反りや捻れ等を防止するために設けられた切込を含む部分の密度の低下を抑えることができるので、当該部分にレーザー光線を照射した際のレーザー光線による熱切断加工時の焼損を抑えることができる。
【0019】
本発明に係る木型用合板において、
前記コーティング層を形成することによって前記被覆板に生じた反りを無くすように前記被覆板が前記合板本体に接着されることが好ましい。
【0020】
本構成の木型用合板によれば、コーティング層を形成することによって被覆板に生じた反りを無くすように被覆板に加えられた力が、合板本体に被覆板が接着されることで合板本体の内部に残留する形態で圧縮応力が生じる。この圧縮応力は、被覆板に生じた反りを無くすために被覆板に加えられた力に起因するものであるため、比較的大きな応力であり、切込の最も深度が大きい部分及びその近傍における切込の両側の合板本体部分を強力に密着させることができる。これにより、木型用合板において切込を含む部分の密度の低下をより効果的に抑えることができ、レーザー光線による熱切断加工時の焼損を確実に抑えることができる。
【0021】
本発明に係る木型用合板において、
前記コーティング層は、抗ウイルス作用、抗菌作用、防虫作用、及び防カビ作用のうちの少なくとも一つ以上の作用を有することが好ましい。
【0022】
本構成の木型用合板によれば、コーティング層による抗ウイルス作用、抗菌作用、防虫作用、及び防カビ作用のうちの少なくとも一つ以上の作用により、ウイルス、細菌、害虫、カビが木型用合板自体に発生することを防止することができる。これにより、打抜加工等の生産現場は勿論のこと、生産された紙器等のブランク(製品)の衛生環境を清浄な状態に保つことができる。
【0023】
次に、上記課題を解決するための本発明に係る木型用合板の製造方法の特徴構成は、
加工刃が植設されてなる木型の基材として用いられる木型用合板の製造方法であって、
木質繊維を分断する切込を有する合板本体に、前記切込を覆うように被覆板を接着する被覆板接着工程と、
前記被覆板を覆うようにコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、
を包含することにある。
【0024】
本構成の木型用合板の製造方法によれば、被覆板接着工程の実施によって合板本体に接着された被覆板を覆うようにコーティング層を形成するコーティング層形成工程が行われる。これにより、被覆板を覆うようにコーティング層が形成されるので、被覆板において、コーティング層によって覆われる側の板面(コーティング側板面)からの水分の蒸散は、合板本体に接着される側の板面(非コーティング側板面)からの水分の蒸散よりも抑えられることになる。このため、被覆板において、水分の蒸散は、コーティング側板面よりも非コーティング側板面の方が相対的に進み、コーティング側板面よりも非コーティング側板面の方の収縮作用が進むことになる。これにより、被覆板においては、コーティング側板面の側に凸状となるような反りが生じようとするが、被覆板は合板本体に接着されているために反ることができず、反りを生じさせようとした力に起因する圧縮応力が合板本体の内部に残留する。切込の最も深度が大きい部分及びその近傍における切込の両側の合板本体部分は、合板本体の内部に残留した圧縮応力の作用によって密着され、この密着された部分の密度がその周辺の密度に対して相対的に増加して大きくなる。その結果、木型用合板における切込を含む部分の深さ方向全体の密度の低下を抑えることができる。こうして、反りや捻れ等を防止するために設けられた切込を含む部分の密度の低下を抑えることができるので、当該部分にレーザー光線を照射した際のレーザー光線による熱切断加工時の焼損を抑えることができる。
【0025】
また、上記課題を解決するための本発明に係る木型用合板の製造方法の特徴構成は、
加工刃が植設されてなる木型の基材として用いられる木型用合板の製造方法であって、
被覆板を覆うようにコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、
木質繊維を分断する切込を有する合板本体に、前記コーティング層を形成することによって反りが生じた前記被覆板を、前記切込を覆い、且つ前記反りを無くすように接着する被覆板接着工程と、
を包含することにある。
【0026】
本構成の木型用合板の製造方法によれば、コーティング層形成工程の実施によって被覆板を覆うようにコーティング層が形成されると、コーティング層によって覆われる側の板面(コーティング側板面)からの水分の蒸散は、合板本体に接着される側の板面(非コーティング側板面)からの水分の蒸散よりも抑えられることになる。このため、被覆板において、水分の蒸散は、コーティング側板面よりも非コーティング側板面の方が相対的に進み、コーティング側板面よりも非コーティング側板面の方の収縮作用が進むことになる。これにより、被覆板においては、コーティング側板面の側に凸状となるような反りが生じる。被覆板接着工程においては、木質繊維を分断する切込を有する合板本体に、コーティング層を形成することによって反りが生じた被覆板が、合板本体の切込を覆い、且つ反りを無くすように接着される。このため、コーティング層を形成することによって被覆板に生じた反りを無くすように被覆板に加えられた力が、合板本体に被覆板が接着されることで合板本体の内部に残留する形態で圧縮応力が生じる。この圧縮応力は、被覆板に生じた反りを無くすために被覆板に加えられた力に起因するものであるため、比較的大きな応力であり、切込の最も深度が大きい部分及びその近傍における切込の両側の合板本体部分を強力に密着させることができる。これにより、木型用合板において切込を含む部分の密度の低下をより効果的に抑えることができ、レーザー光線による熱切断加工時の焼損を確実に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る木型用合板を基材として用いた木型の全体斜視図である。
【
図2】
図2は、木型における加工刃が植設された部分の要部断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る木型用合板の差込溝形成前の断面図である。
【
図4】
図4は、木型用合板の切込を含む要部拡大断面図である。
【
図5】
図5は、木型用合板の第一の製造方法の説明図である。
【
図6】
図6は、木型用合板の第二の製造方法の説明図である。
【
図7】
図7は、別実施形態1に係る木型用合板の差込溝形成前の断面図である。
【
図8】
図8は、別実施形態2に係る木型用合板を構成する合板本体の平面図である。
【
図9】
図9は、別実施形態3に係る木型用合板を構成する合板本体の構造を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。以下の実施形態では、紙器等の展開形態であるシート状のブランクを打抜き加工により製造する木型(トムソン抜型)を例に挙げて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。なお、各図において、本発明の木型用合板は複数の層で構成されていることが示されているが、各層の厚み関係は説明容易化のため適宜誇張又は簡略化しており、実際の木型用合板における各層の厚みの大小関係(縮尺)を厳密に反映したものではない。
【0029】
<木型の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る木型用合板3を基材として用いた木型1の全体斜視図である。
図1に示す木型1は、平面視矩形状の木型用合板3と、木型用合板3に植設される加工刃5とを備えている。加工刃5は、打抜き刃7及び罫線押し刃9を含む。打抜き刃7は、製造しようとするブランクの外形形状と一致するように配置されている。また、罫線押し刃9は、製造しようとするブランクの折目に対応するように配置されている。
【0030】
図2は、木型1における加工刃5が植設された部分の要部断面図である。
図2に示すように、木型1は、木型用合板3に設けられた細幅で厚み方向に貫通した差込溝15に打抜き刃7や罫線押し刃9が差し込まれて植設されることによって構成されている。差込溝15は、レーザー加工機から出力されるレーザー光線をブランクの形状や折目に対応するように木型用合板3に照射することによって形成される。
【0031】
<木型用合板>
図3は、本発明の一実施形態に係る木型用合板3の差込溝形成前の断面図である。木型用合板3は、一側(上側)及び他側(下側)にそれぞれ板面を有する合板本体21と、合板本体21の各板面を覆うように配される被覆板23と、各被覆板23の板面を覆うように配されるコーティング層25とを備えている。
【0032】
<合板本体>
合板本体21としては、例えば、原木丸太からロータリレース等を用いて切り出された複数の単板(ベニヤ)を、木目が交互に直交するように重ね合わせて接着することによって作製された積層構造板や、計画生産可能な植林木から得られる木質繊維を原料とし、接着剤となる合成樹脂を加え、板状に熱圧成形して作製された中密度繊維板(MDF)などを用いることができる。
【0033】
<切込>
合板本体21は、木質繊維を分断する所要の切込30を有している。切込30は、反りや捻れ等を防止して高い精度の木型用合板3を製造することを目的として、合板本体21の厚み方向の6~7割程度の深さまで設けられている。切込30は、例えば、特開2014-218034号公報(特許文献1)に記載されたパネル加工装置により専用の刃物を用いて合板本体21の上側板面から下側板面に向かって合板本体21の厚み方向に対し斜めに切り込むことによって形成されている。こうして、切込30は、合板本体21の厚み方向に対して所定角度をなして斜めに切り込むように形成される。
【0034】
図4は、木型用合板3の切込30を含む要部拡大断面図である。
図4(a)に示すように、合板本体21における切込30を含む部分において、切込30の深度が小さい部分(浅部30a)では切込30の隙間が相対的に大きく、切込の深度が大きくなるにつれて切込30の隙間が小さくなり、切込30の最も深度が大きい部分(深部30b)及びその近傍は木質繊維が分断されるも木質繊維の弾性によって切込30を挟む両側の合板本体21の部分が接触状態にある。
【0035】
<被覆板>
被覆板23としては、少なくとも2枚の繊維配向性を有した単板が、互いの繊維方向を直交させるように重ね合わされて接着されることによって作製された比較的板厚が小さい積層構造板を用いることができる。被覆板23は、合板本体21の各板面に接着剤を用いて接着されている。
【0036】
<コーティング層>
コーティング層25は、公知の抗ウイルス剤、抗菌剤、防虫剤、及び防カビ剤のうちの少なくとも一つ以上を含有する塗料を各被覆板23の板面に塗布することで形成され、抗ウイルス作用、抗菌作用、防虫作用、及び防カビ作用のうちの少なくとも一つ以上の作用を有している。なお、コーティング層25としては、被覆板23からの水分の蒸散を抑えるように被覆板23を覆うことができるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、コーティング層25は、塗料を被覆板23の板面に塗布することで形成すること以外に、ポリエステル樹脂等を被覆板23の板面に被着したり、撥水紙、樹脂含浸紙、樹脂フィルム、その他の水分蒸散性を抑制できるフィルムを被覆板23の板面に貼り付けたりすることで形成してもよい。
【0037】
以上のような構成の木型用合板3においては、
図4(a)に示すように、被覆板23を覆うようにコーティング層25が形成されている。このため、被覆板23において、コーティング層25によって覆われる側の板面(コーティング側板面23a)からの水分の蒸散は、かなり抑えられる。一方、被覆板23において、合板本体21に接着される側の板面(非コーティング側板面23b)は、合板本体21との間に接着剤の塗布により形成される図示されない接着層を有するものの、接着層によって完全にコーティングされているわけではない。また、合板本体21は、被覆板23と比較して板厚が大きく、外気と接触する外周面の面積が大きい。これらのことから、被覆板23の非コーティング側板面23bからの水分の蒸散をあまり抑えることができない。従って、被覆板23において、水分の蒸散は、コーティング側板面23aよりも非コーティング側板面23bの方が相対的に進み、コーティング側板面23aよりも非コーティング側板面23bの方の収縮作用が進むことになる。これにより、被覆板23がコーティング側板面23aの側に凸状となるような反りを生じさせる力に起因して、合板本体21の内部には、板厚方向に引張応力が残留するとともに、板面に沿う方向に圧縮応力が残留する。合板本体21における切込30を含む部分は、断面形状が急変するところであり、切込30の浅部30aでは切込30の隙間が相対的に大きく、切込30の深度が大きくなるにつれて切込30の隙間が小さくなり、切込30の深部30b及びその近傍は木質繊維が分断されるものの、木質繊維の弾性によって切込30を挟む両側の合板本体21の部分が接触状態にある。合板本体21の内部に残留する引張応力及び圧縮応力のうち、圧縮応力は、相対的に隙間が大きい切込30の浅部30a及びその近傍には作用せず、その分、切込30の両側の合板本体21の部分が接触状態にある切込30の深部30b及びその近傍に集中する(
図4(a)中記号「σ」を付した矢印で示す。)。このため、切込30の深部30b及びその近傍における切込30の両側の合板本体21の部分が密着され、この密着された部分の密度がその周辺の密度に対して相対的に増加して大きくなる。木型用合板3における切込30を含む部分においては、切込30を設けることに伴い不可避的に生じる隙間によって密度が低下するものの、切込30の深部30b及びその近傍の密度が増加して大きくなる。その結果、木型用合板3における切込30を含む部分の深さ方向全体の密度の低下を抑えることができる。こうして、反りや捻れ等を防止するために設けられた切込30を含む部分の密度の低下を抑えることができるので、当該部分にレーザー光線を照射した際のレーザー光線による熱切断加工時の焼損を抑えることができる。
【0038】
木型用合板3においては、合板本体21の厚み方向に対して斜めに切り込むように切込30が形成されるので、木型用合板3において切込30と差込溝15とが交差する位置関係となる。このため、
図4(b)に示すように、切込30の隙間に対応する領域周辺の合板本体21の部分(
図4(b)中記号「A」が付された矢印で示す部分)は加工刃5を保持するようには機能しないものの、切込30と差込溝15とが交差する領域以外の合板本体21の部分は加工刃5を保持するように機能するため、加工刃5の保持力の低下を抑えることができる。
【0039】
木型用合板3においては、コーティング層25による抗ウイルス作用、抗菌作用、防虫作用、及び防カビ作用のうちの少なくとも一つ以上の作用により、ウイルス、細菌、害虫、カビが木型用合板自体に発生することを防止することができる。これにより、打抜加工等の生産現場は勿論のこと、生産された紙器等のブランク(製品)の衛生環境を清浄な状態に保つことができる。
【0040】
<木型用合板の第一の製造方法>
図5は、木型用合板3の第一の製造方法の説明図である。木型用合板3は、以下の被覆板接着工程及びコーティング層形成工程を行うことによって製造することができる。
【0041】
<被覆板接着工程>
図5(a)~(b)に示すように、被覆板接着工程においては、被覆板23を合板本体21の各板面に接着剤を用いて接着する。このとき接着される被覆板23には、何れの板面にもコーティング層25が形成されていないため、被覆板23の各板面において、水分の蒸散が同程度に進むことになり、被覆板23が何れの板面の側にも凸状となるような反りが生じることはなく、平らな状態の被覆板23が合板本体21の各板面に接着される。こうして、合板本体21の切込30を含む各板面が被覆板23によって覆われる。
【0042】
<コーティング層形成工程>
図5(b)~(c)に示すように、コーティング層形成工程においては、抗ウイルス剤等を含有する塗料を各被覆板23における外側に露出した板面に塗布することにより、被覆板23の板面を覆うようにコーティング層25を形成する。
【0043】
上記の第一の製造方法によって製造された木型用合板3の被覆板23において、コーティング層25によって覆われる側の板面(コーティング側板面23a)は、コーティング層25によって外気との接触が防がれるため、コーティング側板面23aからの水分の蒸散は、かなり抑えられる。一方、被覆板23において、合板本体21に接着される側の板面(非コーティング側板面23b)は、合板本体21との間に接着剤の塗布により形成される図示されない接着層が介在されるものの、接着層によって完全にコーティングされているわけではない。また、合板本体21は、被覆板23と比較して板厚が大きく、外気と接触する外周面の面積が大きい。被覆板23の非コーティング側板面23bは、合板本体21との間に介在される図示されない接着層、及び合板本体21を介して外部と連通しているため、非コーティング側板面23bからの水分の蒸散をあまり抑えることができない。従って、被覆板23において、水分の蒸散は、コーティング側板面23aよりも非コーティング側板面23bの方が相対的に進み、コーティング側板面23aよりも非コーティング側板面23bの方の収縮作用が進むことになる。これにより、被覆板23においては、コーティング側板面23aの側に凸状となるような反りが生じようとするが、被覆板23は合板本体21に接着されているために反ることができず、反りを生じさせようとした力に起因する圧縮応力が合板本体21の内部に残留する。切込30の深部30bにおける切込30の両側の合板本体21の部分は、合板本体21の内部に残留した圧縮応力の作用によって密着され、この密着された部分の密度がその周辺の密度に対して相対的に増加して大きくなる。その結果、木型用合板3における切込30を含む部分の深さ方向全体の密度の低下を抑えることができる。こうして、反りや捻れ等を防止するために設けられた切込30を含む部分の密度の低下を抑えることができるので、当該部分にレーザー光線を照射した際のレーザー光線による熱切断加工時の焼損を抑えることができる。
【0044】
<木型用合板の第二の製造方法>
図6は、木型用合板3の第二の製造方法の説明図である。木型用合板3は、以下のコーティング層形成工程及び被覆板接着工程を行うことによって製造することができる。
【0045】
<コーティング層形成工程>
図6(a)に示すように、コーティング層形成工程においては、抗ウイルス剤等を含有する塗料を被覆板23における片側の板面にのみ塗布する。これにより、被覆板23の片側の板面のみを覆うようにコーティング層25が形成される。
【0046】
被覆板23の片側の板面のみを覆うようにコーティング層25が形成されると、コーティング層25によって覆われる側の板面(コーティング側板面23a)からの水分の蒸散は、コーティング層25が外気との接触を防ぐため、かなり抑えられる。一方、合板本体21に接着される側の板面(非コーティング側板面23b)は、外気と接触されるため、非コーティング側板面23bからの水分の蒸散を抑えることができない。このため、被覆板23において、水分の蒸散は、コーティング側板面23aよりも非コーティング側板面23bの方が相対的に進み、コーティング側板面23aよりも非コーティング側板面23bの方の収縮作用が進むことになる。これにより、被覆板23においては、コーティング側板面23aの側に凸状(
図6(a)において上凸状及び下凸状を示す。)となるような反りが生じる。
【0047】
<被覆板接着工程>
図6(b)~(c)に示すように、被覆板接着工程においては、コーティング層25を形成することによって反りが生じた各被覆板23の非コーティング側板面23bを、合板本体21の各板面と向かい合わせ、合板本体21と各被覆板23との間に図示されない接着剤を介在させた状態で、接着プレス機を用いて合板本体21及び各被覆板23を押圧し一体化させる。こうして、合板本体21の切込30を含む各板面が被覆板23によって覆われるとともに、コーティング層25を形成することによって生じた反りを無くすように各被覆板23が合板本体21に接着される。
【0048】
上記の第二の製造方法においては、コーティング層25を形成することによって被覆板23に生じた反りを無くすように被覆板23に加えられた力が、合板本体21に被覆板23が接着されることで合板本体21の内部に残留する形態で圧縮応力が生じる。このように、第二の製造方法において生じる圧縮応力は、被覆板23に生じた反りを無くすために被覆板23に加えられた力に起因するものである。これに対し、前述した第一の製造方向において生じる圧縮応力は、合板本体21に接着された後の被覆板23に対しコーティング層25を形成することによってコーティング側板面23aの側に凸状となるような反りが生じようとするが、被覆板23が合板本体21に接着されているために反ることができず、反りを生じさせようとした力に起因するものである。このため、第二の製造方法において生じる圧縮応力は、第一の製造方法において生じる圧縮応力よりも大きい。従って、切込30の深部30b及びその近傍における切込30の両側の合板本体21の部分をより強力に密着させることができる。これにより、木型用合板3において切込30を含む部分の密度の低下をより効果的に抑えることができ、レーザー光線による熱切断加工時の焼損を確実に抑えることができる。
【0049】
以上、本発明の木型用合板、及び木型用合板の製造方法について、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0050】
(別実施形態1)
図7は、別実施形態1に係る木型用合板3の差込溝形成前の断面図である。
図7(a)は、斜めの切込30が合板本体21の両方の板面に設けられる態様例であり、
図7(b)は、真っ直ぐの切込30´が合板本体21の片側の板面に設けられる態様例であり、
図7(c)は、真っ直ぐの切込30´が合板本体21の両方の板面に設けられる態様例である。
【0051】
上記実施形態では、専用の刃物を用いて合板本体21の上側板面から下側板面に向かって斜めに切り込むことによって切込30が形成される例を示したが、これに限定されるものではない。
図7(a)に示すように、合板本体21の上下両面から互い違いに適宜間隔をあけて斜めに切り込むことによって合板本体21の両面に、合板本体21の厚み方向に対して所定角度をなす斜めの切込30を設けるようにしてもよい。また、斜めの切込30に代えて、合板本体21の厚み方向に真っ直ぐに延在する切込30´を片側の板面に設けてもよく(
図7(b)参照)、又は両方の板面に設けてもよい(
図7(c)参照)。
【0052】
(別実施形態2)
図8は、別実施形態2に係る木型用合板3を構成する合板本体21の平面図である。
図8に示すように、合板本体21の長辺21a及び短辺21bに対して斜め方向に切込30(30´)が形成された合板本体21を用いて木型用合板3を構成してもよい。別実施形態2の木型用合板3によれば、合板本体21の長辺21a及び短辺21bに対して斜め方向に切込30(30´)が形成されるので、長辺21a及び短辺21bと平行に形成されることが多い差込溝15(
図2参照)と切込30(30´)とが交差する位置関係となる。このため、木型用合板3において切込30(30´)と差込溝15とが交差する箇所以外の合板本体21の部分は加工刃5を保持するように機能するため、加工刃5の保持力の低下を抑えることができる。
【0053】
(別実施形態3)
図9は、別実施形態3に係る木型用合板3を構成する合板本体21の構造を説明する斜視図である。上記実施形態では、繊維配向性を有した複数の単板が互いの繊維方向を直交させるように重ね合わされて接着されてなる積層構造板に切込30を形成した合板本体21を用いて木型用合板3を構成する態様例を示したが、これに限定されるものではない。
図9に示すように、木質繊維を分断するミシン目状の多数の切込35を有する単板40が、互いの繊維方向を直交させるように重ね合わされて接着されてなる合板本体21を用いて木型用合板3を構成する態様例もある。別実施形態3の木型用合板3によれば、単板40ごとの反りや捻れ等が単板40ごとに形成された切込35によって防止されるので、単板40が複数積層されて構成される合板本体21の反りや捻れ等をより効果的に防止することができる。また、上記実施形態と同様に、木型用合板3における切込35を含む部分の深さ方向全体の密度の低下を抑えることができる。従って、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の木型用合板、及び木型用合板の製造方法は、紙器等のブランクを製造する工程で使用される木型の基材の用途に用いることができるほか、例えば、合成樹脂シートや布、皮革等の各種シート材を所望の形状に打ち抜く木型の基材の用途において利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 木型
3 木型用合板
5 加工刃
21 合板本体
23 被覆板
25 コーティング層
30 切込
35 切込
40 単板
【手続補正書】
【提出日】2022-10-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工刃が植設されてなる木型の基材として用いられる木型用合板の製造方法であって、
被覆板を覆うようにコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、
木質繊維を分断する切込を有する合板本体に、前記コーティング層を形成することによって反りが生じた前記被覆板を、前記切込を覆い、且つ前記反りを無くすように接着する被覆板接着工程と、
を包含する木型用合板の製造方法。