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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112644
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】フラックス入りワイヤ
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/368 20060101AFI20240814BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B23K35/368 B
B23K35/30 320E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017839
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯野 晋也
(72)【発明者】
【氏名】高内 英亮
【テーマコード(参考)】
4E084
【Fターム(参考)】
4E084AA02
4E084AA03
4E084AA04
4E084AA07
4E084AA17
4E084BA02
4E084BA03
4E084BA04
4E084BA05
4E084BA06
4E084BA08
4E084BA09
4E084BA10
4E084BA12
4E084BA13
4E084BA14
4E084BA15
4E084BA16
4E084BA18
4E084BA29
4E084CA03
4E084CA23
4E084CA24
4E084CA25
4E084CA29
4E084DA10
4E084EA06
4E084GA06
4E084HA01
4E084HA06
(57)【要約】
【課題】PWHT後の靱性が優れた溶接金属を得ることができるフラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】Cr-Mo系鋼材のガスシールドアーク溶接に用いられるフラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対して、Fe、TiO、C、金属Si及びSi化合物のSiO換算値、Mn、Cr、並びにMoの含有量が所定の範囲に制御されており、Ni、N、Na及びKの総量、Al、P、S、Nb、V、Mg、B、並びに金属Zr及びZr化合物のZrO換算値の含有量の上限が規制されているとともに、Al:0.15質量%以上0.60質量%以下、を含有し、Al含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[Al]と表し、Al含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[Al]と表す場合に、[Al]+0.2×[Al]:0.75以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr-Mo系鋼材のガスシールドアーク溶接に用いられるフラックス入りワイヤであって、
ワイヤ全質量に対して、
Fe:80質量%以上95質量%以下、
TiO:2.5質量%以上5.8質量%以下、
C:0.02質量%以上0.10質量%以下、
金属Si及びSi化合物のSiO換算値:0.20質量%以上1.50質量%以下、
Mn:0.8質量%以上2.8質量%以下、
Cr:0.9質量%以上3.0質量%以下、
Mo:0.35質量%以上1.5質量%以下、
Al:0.15質量%以上0.60質量%以下、を含有し、
Ni:0.40質量%以下、
N:0.050質量%以下、
Na及びKの総量:0.30質量%以下、
Al:2.5質量%以下、
P:0.02質量%以下、
S:0.02質量%以下、
Nb:0.010質量%以下、
V:0.010質量%以下、
Mg:0.20質量%未満、
B:0.0010質量%未満、
金属Zr及びZr化合物のZrO換算値:1.0質量%以下、であるとともに、
前記Alの含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[Al]と表し、
前記Alの含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[Al]と表す場合に、
[Al]+0.2×[Al]:0.75以下、
であることを特徴とする、フラックス入りワイヤ。
【請求項2】
前記TiOの含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[TiO]と表し、
前記SiO換算値をワイヤ全質量に対する質量%で[SiO]と表し、
前記ZrO換算値をワイヤ全質量に対する質量%で[ZrO]と表す場合に、
[Al]+[TiO]+[SiO]+[ZrO]:4.5以上8.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフラックス入りワイヤ。
【請求項3】
さらに、ワイヤ全質量に対して、
F:0.35質量%以下、を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフラックス入りワイヤ。
【請求項4】
前記Nの含有量が0.005質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラックス入りワイヤ。
【請求項5】
前記Nの含有量が0.005質量%以上であることを特徴とする請求項3に記載のフラックス入りワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス入りワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、Cr-Mo鋼は高温特性に優れており、火力発電、原子力発電のボイラやリアクタ、圧力容器等に使用されている。このような溶接構造物を製造するためのガスシールドアーク溶接用のワイヤとして、近年、より一層機械的性能が優れた溶接金属を得ることができるフラックス入りワイヤについての要求が高くなっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定量のTiO、C、Si、Mn、Cr、Mo、Nb及びVを含み、残部が鉄粉及びスラグ生成剤からなり、フラックス充填率が10~20%であるCr-Mo鋼用炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-300092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、Cr-Mo鋼においては、溶接熱影響部の軟化及び溶接部の延性並びに靱性改善、溶接残留応力の除去等を目的として、一般的に、溶接部に対して溶接後熱処理(PWHT:Post Weld Heat Treatment)が施される。しかしながら、フラックス入りワイヤを用いた場合に、PWHT後においても-20℃程度の低温靱性の確保が困難であるため、リアクタや圧力容器へのフラックス入りワイヤの適用箇所が限定されていた。特許文献1においては、-20℃の低温靱性について十分に検討されておらず、上記フラックス入りワイヤを使用しても、優れた低温靱性が得られない場合があった。
【0006】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであり、Cr-Mo鋼の溶接に用いられ、PWHT後の靱性が優れた溶接金属を得ることができるガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、PWHT後の靱性を良好にするためのフラックス入りワイヤについて鋭意検討した。その結果、フラックス入りワイヤに従来よりも高い含有量でAlを含有させるとともに、Al含有量とAl含有量と用いたパラメータを規定し、その他の各成分を所定の範囲にすることにより、溶接金属の靱性を向上させることができることを見出した。
本発明は、これら知見に基づいてなされたものである。
【0008】
本発明の上記目的は、フラックス入りワイヤに係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] Cr-Mo系鋼材のガスシールドアーク溶接に用いられるフラックス入りワイヤであって、
ワイヤ全質量に対して、
Fe:80質量%以上95質量%以下、
TiO:2.5質量%以上5.8質量%以下、
C:0.02質量%以上0.10質量%以下、
金属Si及びSi化合物のSiO換算値:0.20質量%以上1.50質量%以下、
Mn:0.8質量%以上2.8質量%以下、
Cr:0.9質量%以上3.0質量%以下、
Mo:0.35質量%以上1.5質量%以下、
Al:0.15質量%以上0.60質量%以下、を含有し、
Ni:0.40質量%以下、
N:0.050質量%以下、
Na及びKの総量:0.30質量%以下、
Al:2.5質量%以下、
P:0.02質量%以下、
S:0.02質量%以下、
Nb:0.010質量%以下、
V:0.010質量%以下、
Mg:0.20質量%未満、
B:0.0010質量%未満、
金属Zr及びZr化合物のZrO換算値:1.0質量%以下、であるとともに、
前記Alの含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[Al]と表し、
前記Alの含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[Al]と表す場合に、
[Al]+0.2×[Al]:0.75以下、
であることを特徴とする、フラックス入りワイヤ。
【0010】
また、フラックス入りワイヤに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[4]に関する。
[2] 前記TiOの含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[TiO]と表し、
前記SiO換算値をワイヤ全質量に対する質量%で[SiO]と表し、
前記ZrO換算値をワイヤ全質量に対する質量%で[ZrO]と表す場合に、
[Al]+[TiO]+[SiO]+[ZrO]:4.5以上8.5以下であることを特徴とする、[1]に記載のフラックス入りワイヤ。
【0011】
[3] さらに、ワイヤ全質量に対して、
F:0.35質量%以下、を含有することを特徴とする[1]又は[2]に記載のフラックス入りワイヤ。
【0012】
[4] 前記N含有量が0.005質量%以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、PWHT後の靱性が優れた溶接金属を得ることができるフラックス入りワイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0015】
[1.フラックス入りワイヤ]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤ(以下、単に「ワイヤ」ともいう。)は、鋼製の外皮にフラックスが充填されている。また、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、Cr-Mo系鋼材のガスシールドアーク溶接に用いられるワイヤである。
【0016】
以下、本実施形態に係るフラックス入りワイヤに含有される成分について、その含有理由及び数値範囲限定理由を説明する。
なお、以下の説明において、フラックス入りワイヤ中の各成分量は、特に断りのない限り、ワイヤ全質量、すなわち外皮と外皮内のフラックスの合計量あたりの含有量として規定される。
【0017】
<Fe:80質量%以上95質量%以下>
Feは、本実施形態に係るワイヤの主成分である。
ワイヤ全質量に対するFe含有量は80質量%以上とし、82質量%以上であることが好ましく、83質量%以上であることがより好ましい。また、ワイヤ全質量に対するFe含有量は95質量%以下とし、93質量%以下であることが好ましく、92質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
<TiO:2.5質量%以上5.8質量%以下>
TiOは、スラグ形成剤としてワイヤ中に添加される成分であり、スラグの被包性を良好にする効果を有する成分である。
ワイヤ全質量に対するTiO含有量が2.5質量%未満であると、スラグの被包性が劣化する。したがって、ワイヤ全質量に対するTiO含有量は2.5質量%以上とし、2.7質量%以上であることが好ましく、2.8質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するTiO含有量が5.8質量%を超えると、TiOのTiが溶接金属に過剰に含有され、靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するTiO含有量は5.8質量%以下とし、5.6質量%以下であることが好ましく、5.5質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、TiO含有量とは、Ti合金を除くTi化合物のTiO換算値である。より具体的には、TiO含有量は、酸に溶けないすべてのTiをTiOに換算した値である。
【0019】
<C:0.02質量%以上0.10質量%以下>
Cは、Cr、Mo、V及びNbと結合して炭化物を形成し、溶接金属の強度を確保する効果を有する重要な元素である。
ワイヤ全質量に対するC含有量が0.02質量%未満であると、溶接金属の所望の強度を得ることができない。したがって、ワイヤ全質量に対するC含有量は0.02質量%以上とし、0.03質量%以上であることが好ましく、0.04質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するC含有量が0.10質量%を超えると、偏析部の凝固温度が大きく低下し、高温割れが発生しやすくなる。また、炭化物の析出が過剰となり溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するC含有量は0.10質量%以下とし、0.09質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
<金属Si及びSi化合物のSiO換算値:0.20質量%以上1.50質量%以下>
Siは、溶接金属の脱酸剤として機能し、溶接金属の酸素量を低減する効果を有するとともに、スラグの粘性を向上させて、スラグの被包性及び溶接止端部のなじみを向上させる効果を有する元素である。
ワイヤ全質量に対するSiO換算値が0.20質量%未満であると、上記効果を十分に得ることができず、ビード外観及びビード形状が劣化する。したがって、ワイヤ全質量に対するSiO換算値は0.20質量%以上とし、0.25質量%以上であることが好ましく、0.30質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するSiO換算値が1.50質量%を超えると、溶接部にスラグ巻き込みが発生する。また、溶接金属へのSi歩留まりが増加し、溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するSiO換算値は1.50質量%以下とし、1.40質量%以下であることが好ましく、1.30質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、SiO換算値とは、ワイヤ中に含有される金属Si(Si単体とSi合金)及びSi化合物に含まれる全てのSiをSiOに換算した値である。
【0021】
<Mn:0.8質量%以上2.8質量%以下>
Mnは、溶接金属の脱酸剤として機能し、溶接金属の強度を向上させるとともに、靱性を改善する効果を有する元素である。
ワイヤ全質量に対するMn含有量が0.8質量%未満であると、脱酸不足を引き起こし、溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するMn含有量は0.8質量%以上とし、1.0質量%以上であることが好ましく、1.2質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するMn含有量が2.8質量%を超えると、溶接金属の流動性が過度に大きくなり、立向及び上向溶接姿勢でのビード形状が著しく劣化する。したがって、ワイヤ全質量に対するMn含有量は2.8質量%以下とし、2.6質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、Mn含有量とは、Mn単体、Mn化合物及びMn合金に由来する全Mnの含有量である。
【0022】
<Cr:0.9質量%以上3.0質量%以下>
Crは、本実施形態に係るフラックス入りワイヤが対象としているCr-Mo鋼の主要元素であり、溶接金属の高温における耐酸化性や、高温強度を確保するために不可欠な元素である。
ワイヤ全質量に対するCr含有量が0.9質量%未満であると、溶接金属の耐酸化性及び高温強度が不十分となる。したがって、ワイヤ全質量に対するCr含有量は0.9質量%以上とし、1.0質量%以上であることが好ましく、1.1質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するCr含有量が3.0質量%を超えると、溶接金属の引張強度が過度に大きくなり、靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するCr含有量は3.0質量%以下とし、2.8質量%以下であることが好ましく、2.7質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
<Mo:0.35質量%以上1.5質量%以下>
Moは、本実施形態に係るフラックス入りワイヤが対象としているCr-Mo鋼の主要元素であって固溶強化元素であり、炭化物の析出によって高温強度を高める効果を有する元素である。
ワイヤ全質量に対するMo含有量が0.35質量%未満であると、所望の高温強度を有する溶接金属を得ることができない。したがって、ワイヤ全質量に対するMo含有量は0.35質量%以上とし、0.38質量%以上であることが好ましく、0.40質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するMo含有量が1.5質量%を超えると、溶接金属の引張強度が過度に大きくなり、靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するMo含有量は1.5質量%以下とし、1.4質量%以下であることが好ましく、1.3質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
<Al:0.15質量%以上0.60質量%以下>
Alは、溶接金属の焼入れ性を向上し、組織を微細化することにより溶接金属の靱性を高める効果を有する成分である。
ワイヤ全質量に対するAl含有量が0.15質量%未満であると、上記効果を得ることができない。したがって、ワイヤ全質量に対するAl含有量は0.15質量%以上とし、0.18質量%以上であることが好ましく、0.20質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するAl含有量が0.60質量%を超えると、組織が粗大化して溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するAl含有量は0.60質量%以下とし、0.58質量%以下であることが好ましく、0.55質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態おいて、Al含有量とは、Al単体及びAl合金に由来する酸可溶性のAlの総量であり、Al等のAl化合物を含まない。
【0025】
<Ni:0.40質量%以下(0質量%を含む)>
Niは、溶接金属の靱性を向上させる効果を有する成分であるが、クリープ強度を著しく低下させる成分でもある。本実施形態においては、他の成分で溶接金属の靱性の向上を図ることができるため、ワイヤ中に必ずしもNiを含有させる必要はなく、0質量%であってもよい
ただし、溶接金属の靱性を向上させることを目的としてワイヤ中にNiを含有させる場合に、ワイヤ全質量に対するNi含有量は0.02質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するNi含有量が0.40質量%を超えると、溶接金属のクリープ強度が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するNi含有量は0.40質量%以下とし、0.35質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
<N:0.050質量%以下(0質量%を含む)>
Nは、固溶強化元素であり、溶接金属の強度を向上させる効果を有する元素である。特に、本実施形態においては、ワイヤ中にAlとNが適切な量で含有されていると、溶接金属中にAlNが析出して、溶接金属の引張強度をより一層向上させることができる。本実施形態においては、他の成分で溶接金属の引張強度の向上を図ることができるため、ワイヤ中に必ずしもNを含有させる必要はなく、0質量%であってもよい。
ただし、より一層溶接金属の引張強度を向上させることを目的としてワイヤ中にNを含有させる場合に、ワイヤ全質量に対するN含有量は0.005質量%以上であることが好ましく、0.008質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するN含有量が0.050質量%を超えると、溶接金属の引張強度が著しく上昇し、溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するN含有量は0.050質量%以下とし、0.045質量%以下であることが好ましく、0.040質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
<K及びNaの総量:0.30質量%以下(0質量%を含む)>
K及びNaは、アークを安定化させる効果を有する成分であり、適正な量でワイヤ中に添加することにより、良好なビード形状を得ることができる。本実施形態においては、K及びNaの総量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
ただし、より一層アークを安定化させることを目的としてワイヤ中にK及びNaのいずれか一方又は両方を含有させる場合に、ワイヤ全質量に対するK及びNaの総量は0.02質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するK及びNaの総量が0.30質量%を超えると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するK及びNaの総量は0.30質量%以下とし、0.28質量%以下であることが好ましく、0.27質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態に係るワイヤには、K及びNaの両方が含有されていても、いずれか一方のみが含有されていてもよく、その総量が上記範囲内であればよい。
【0028】
<Al:2.5質量%以下(0質量%を含む)>
Alはスラグの流動性を向上させる効果を有するとともに、溶接金属の酸素量を調整する役割を有する成分である。また、ワイヤ中にAlが含有されていると、脱酸剤により還元されて、溶接金属中にAlとして歩留まり、溶接金属の靱性を向上させることができる。本実施形態においては、他の成分で溶接金属の靱性の向上を図ることができるため、ワイヤ中に必ずしもAlを含有させる必要はなく、0質量%であってもよい。
ただし、より一層溶接金属の靱性を向上させることを目的としてワイヤ中にAlを含有させる場合に、ワイヤ全質量に対するAl含有量は0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するAl含有量が2.5質量%を超えると、スパッタ発生量が増加する。また、ビードが垂れやすくなるため、立向溶接作業性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するAl含有量は2.5質量%以下とし、2.2質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、Al含有量とは、Al合金を除くAl化合物のAl換算値である。より具体的には、Al含有量は、酸に溶けないすべてのAlをAlに換算した値である。
【0029】
<P:0.02質量%以下(0質量%を含む)>
Pは、不純物元素であり、高温割れ感受性を高める元素であるため、ワイヤ中のP含有量は低減することが好ましい。
ワイヤ全質量に対するP含有量が0.02質量%を超えると、高温割れの発生が懸念される。したがって、ワイヤ全質量に対するP含有量は0.02質量%以下とし、0.018質量%以下であることが好ましく、0.015質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
<S:0.02質量%以下(0質量%を含む)>
Sは、不純物元素であり、高温割れ感受性を高める元素であるため、ワイヤ中のS含有量は低減することが好ましい。
ワイヤ全質量に対するS含有量が0.02質量%を超えると、高温割れの発生が懸念される。したがって、ワイヤ全質量に対するS含有量は0.02質量%以下とし、0.018質量%以下であることが好ましく、0.015質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
<Nb:0.010質量%以下(0質量%を含む)>
Nbは、固溶強化元素であるとともに、炭窒化物として溶接金属中に析出することにより溶接金属の強度を向上させる効果を有する成分であるが、溶接金属の靱性を著しく低下させる元素でもあるため、本実施形態において、ワイヤ中のNbは低減することが好ましい。
ワイヤ全質量に対するNb含有量が0.010質量%を超えると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するNb含有量は0.010質量%以下とし、0.009質量%以下であることが好ましく、0.008質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、Nb含有量とは、Nb単体、Nb化合物(酸化物)及びNb合金に由来する全Nbの含有量である。
【0032】
<V:0.010質量%以下(0質量%を含む)>
Vは、炭窒化物として溶接金属中に析出することにより溶接金属の強度を向上させる効果を有する成分であるが、溶接金属の靱性を著しく低下させる元素でもあるため、本実施形態において、ワイヤ中のVは低減することが好ましい。
ワイヤ全質量に対するV含有量が0.010質量%を超えると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するV含有量は0.010質量%以下とし、0.009質量%以下であることが好ましく、0.008質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、V含有量とは、V単体、V化合物(酸化物)及びV合金に由来する全Vの含有量である。
【0033】
<Mg:0.20質量%未満(0質量%を含む)>
Mgは、溶接金属の強力な脱酸剤として作用し、溶接金属の靱性の安定化に寄与する効果を有する元素である。しかし、本実施形態においては、上記Mgと同様の効果を有するAlをワイヤ中に含有させるため、ワイヤ中にMgが過剰に含有されると、合金元素の溶接金属への歩留りが増大し、強度が過剰に上昇して靱性が劣化する。このため、ワイヤ中のMgは低減することが好ましく、0質量%であってもよい。
ワイヤ全質量に対するMg含有量が0.20質量%以上であると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ全質量に対するMg含有量は0.20質量%未満とし、0.18質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
<B:0.0010質量%未満(0質量%を含む)>
Bは、溶接金属のミクロ組織を微細化して、靱性を向上させる効果を有する元素であるが、ワイヤ中にBを過剰に含有させると、溶接金属の強度が上昇し、靱性が低下するだけでなく、PWHT時に再熱割れが生じやすくなる。このため、ワイヤ中のBは低減することが好ましく、0質量%であってもよい。
ワイヤ全質量に対するB含有量が0.0010質量%以上であると、溶接金属の靱性が低下し、PWHT時に再熱割れが発生する。したがって、ワイヤ全質量に対するB含有量は0.0010質量%未満とし、0.0008質量%以下であることが好ましく、0.0007質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
<金属Zr及びZr化合物のZrO換算値:1.0質量%以下(0質量%を含む)>
ZrOは、上記Al、TiO及びSiOと同様に、スラグ形成剤としてワイヤ中に含有されていてもよい成分である。本実施形態においては、後述する酸化物の合計量が好ましい範囲であれば良好なスラグ被包性を得ることができるため、ワイヤ中に必ずしも金属Zr及びZr化合物の少なくとも1種を含有させる必要はなく、0質量%であってもよい。
ただし、ワイヤ中に金属Zr及びZr化合物の少なくとも1種を含有させる場合に、ワイヤ全質量に対するZrO換算値が0.05質量%以上であると、より一層スラグの被包性を向上させる効果を得ることができる。したがって、ワイヤ全質量に対するZrO換算値は0.05質量%以上であることが好ましく、0.08質量%以上であることがより好ましく、0.10質量%以上であることがさらに好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するZrO換算値が1.0質量%を超えると、スラグ量を適切に調整することが困難になる。したがって、ワイヤ全質量に対するZrO換算値は1.0質量%以下とし、0.8質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、ZrO換算値とは、ワイヤ中に含有される金属Zr(Zr単体とZr合金)及びZr化合物に含まれる全てのZrをZrOに換算した値である。
【0036】
<[Al]+0.2×[Al]:0.75以下>
本実施形態においては、靱性を高めるためにワイヤ中にAlを含有させているが、任意で含有されるAlからもAlが溶接金属中に歩留り、溶接金属の靱性向上に寄与する。ただし、溶接金属中にAlの歩留まりが過剰になると、組織の粗大化によって溶接金属の靱性が低下することがある。そこで、本発明者らは、溶接金属の所望の靱性を得るために、Al含有量とAl含有量とを用いたパラメータの適切な範囲を見出した。
ワイヤ中のAl含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[Al]と表し、ワイヤ中のAl含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[Al]と表す場合に、下記式(M1)により得られる値が0.75を超えると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、式(M1)により得られる値は0.75以下とし、0.74以下が好ましく、0.72以下がより好ましい。
【0037】
式(M1):[Al]+0.2×[Al
【0038】
本実施形態に係るワイヤは、Al、TiO、SiO及びZrOの含有量(換算値)の合計量が規定されていることが好ましい。上記酸化物の含有量(換算値)の合計量の限定理由について、以下に説明する。
【0039】
<[Al]+[TiO]+[SiO]+[ZrO]:4.5以上8.5以下>
Al、TiO、SiO及びZrOはいずれも、スラグ形成剤としてワイヤ中に添加され、スラグの被包性を向上させる効果を有する成分である。
ワイヤ中のAl含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[Al]と表し、ワイヤ中のTiO含有量をワイヤ全質量に対する質量%で[TiO]と表し、上記SiO換算値をワイヤ全質量に対する質量%で[SiO]と表し、上記ZrO換算値をワイヤ全質量に対する質量%で[ZrO]と表す場合に、下記式(M2)により得られる値が4.5以上であると、スラグの被包性を良好に保つことができる。したがって、下記式(M2)により得られる値は4.5以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましく、5.2以上であることがさらに好ましい。
また、下記式(M2)により得られる値が8.5以下であると、適切な量のスラグを形成することができ、スラグ巻込みの発生を抑制することができる。したがって、下記式(M2)により得られる値は8.5以下であることが好ましく、8.2以下であることがより好ましく、8.0以下であることがさらに好ましい。
【0040】
式(M2):[Al]+[TiO]+[SiO]+[ZrO
【0041】
さらに、本実施形態に係るワイヤは、Fを以下に示す含有量の範囲内で含有することが好ましい。Fがワイヤ中に含有される場合の含有量の限定理由について、以下に説明する。
【0042】
<F:0.35質量%以下>
Fは、本実施形態のワイヤにおける必須成分ではないが、溶接金属の拡散性水素量を低減する効果を有する元素であり、任意成分としてワイヤ中にFを含有させることができる。
ワイヤ全質量に対するF含有量が0.01質量%以上であると、拡散性水素量を低減することができ、低温割れの発生を抑制することができる。したがって、ワイヤ中にFを含有させる場合に、ワイヤ全質量に対するF含有量は0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.07質量%以上であることがさらに好ましく、0.10質量%以上であることが特に好ましい。
一方、ワイヤ全質量に対するF含有量が0.35質量%以下であると、スパッタの増加を抑制することができ、アークを安定化することができる。したがって、ワイヤ中にFを含有させる場合に、ワイヤ全質量に対するF含有量は0.35質量%以下であることが好ましく、0.32質量%以下であることがより好ましく、0.30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
<残部>
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、上記以外の成分の残部として、不可避的不純物が、ワイヤ全質量に対して0.5質量%以下の範囲で含まれていてもよい。また、残部として、上記不可避的不純物以外に、Cu、Ca、W、Co、Li等が含まれてもよい。
具体的に、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、例えば、Cu:0.5質量%以下、Ca:0.1質量%以下、W:0.1質量%以下、Co:0.5質量%以下、Li:0.1質量%以下、を含有してもよい。また、金属Tiが0.2質量%以下含有されていてもよい。ここで、金属Tiは、Ti単体やTi合金であり、酸に可溶なTiの含有量を意味する。
【0044】
また、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、前述のFe、TiO、C、SiO換算値、Mn、Cr、Mo、Al、Ni、N、Na及びKの総量、Al、P、S、Nb、V、Mg、Bを合計で、ワイヤ全質量に対して90質量%以上含むことが好ましく、93質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、97質量%以上含むことが特に好ましい。
【0045】
本実施形態におけるフラックス入りワイヤの外径は特に限定されないが、例えば、0.9mm以上1.6mm以下であることが好ましい。
本実施形態におけるフラックス入りワイヤのフラックス充填率は、ワイヤ中の各元素の含有量が本発明の範囲内であれば、任意の値に設定することができるが、ワイヤ製造時の伸線性及びワイヤ送給性の観点から、例えば、ワイヤ全質量に対して15質量%以上25質量%以下とすることが好ましい。
本実施形態におけるフラックス入りワイヤにおいて外皮に継ぎ目を有する場合、継ぎ目を有しない場合など、その継ぎ目の形態や断面の形状に制限はない。
本実施形態におけるフラックス入りワイヤは、例えば、80体積%Arと20体積%COの混合ガスや、100体積%COをシールドガスとして、ガスシールドアーク溶接に用いることができる。
【0046】
[2.フラックス入りワイヤの製造方法]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す方法で製造することができる。
まず、鋼製外皮を構成する鋼帯を準備し、この鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールにより成形して、U字状のオープン管にする。次に、所定の成分組成となるように、各種原料を配合したフラックスを鋼製外皮に充填し、その後、断面が円形になるように加工する。その後、冷間加工により伸線し、本実施形態に係るフラックス入りワイヤとする。
なお、冷間加工途中に焼鈍を施してもよい。また、製造の過程で成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接した継ぎ目が無いワイヤと、前記合わせ目を溶接せず隙間のまま残すワイヤのいずれの構造も採用することができる。
【実施例0047】
以下、本実施形態に係る発明例及び比較例を挙げて、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
<フラックス入りワイヤの作製>
ワイヤの成分が種々の含有量となるように調製し、直径が1.2mmであるフラックス入りワイヤを作製した。
【0049】
<ガスシールドアーク溶接及び溶接後熱処理>
作製したフラックス入りワイヤを用いて、下記表1に示す機械的性質の評価試験用溶接条件により、ガスシールドアーク溶接を実施した。その後、得られた溶接金属に対して、ラーソンミラーパラメータが19.9×10~20.1×10(PWHT温度:660~690℃)となる条件でPWHTを行い、溶着金属試験体を作製した。
ここで、ラーソンミラーパラメータ(LMP)は以下の式により得られる値である。
LMP=T×(20+logt)
なお、上記式において、PWHTの保持温度をT(K)とし、保持時間をt(h)としている。
【0050】
<機械的性質の評価>
溶着金属の機械的特性は、JIS Z 3111:2005に規定される「溶着金属の引張及び衝撃試験方法」に準拠し、溶着金属試験体から、A2号引張試験片を採取して、引張試験により「引張強さ」を評価するとともに、Vノッチ試験片を採取して、0℃及び-20℃におけるシャルピー衝撃試験により「靱性」を評価した。
機械的特性の評価基準として、引張強さ(TS:Tensile Strength)が600MPa以上であったものをA(優良)とし、552MPa以上600MPa未満であったものをB(良好)とし、552MPa未満であったものをC(不良)とした。
また、靱性については、3本の試験片について評価し、0℃におけるシャルピー衝撃値vE0℃の平均値、及び-20℃におけるシャルピー衝撃値vE-20℃の平均値がいずれも55J以上であったものをA(優良)とした。また、0℃におけるシャルピー衝撃値vE0℃の平均値が55J以上であるとともに、-20℃におけるシャルピー衝撃値vE-20℃の平均値が41J以上55J未満であったものをB(良好)とした。さらに、0℃におけるシャルピー衝撃値vE0℃の平均値が55J未満であるか、-20℃におけるシャルピー衝撃値vE-20℃の平均値が41J未満であったものをC(不良)とした。
【0051】
作製したワイヤ中の各成分の含有量及び換算値、並びに特定の成分を用いた式(M1)及び(M2)による算出値を下記表2及び3に示し、引張強さ及び靱性の測定結果及び評価結果を下記表4に示す。
【0052】
なお、表3のMg含有量、B含有量及びZrO換算値の欄における「-」は、ワイヤの製造時に該当する成分を積極添加していないことを表す。また、表3において、式(M1)、式(M2)とは、以下の式を表す。
式(M1):[Al]+0.2×[Al
式(M2):[Al]+[TiO]+[SiO]+[ZrO
ただし、上記式(M1)及び式(M2)において、[Al]とは、ワイヤ中のAl含有量をワイヤ全質量に対する質量%で表した値であり、[TiO]とは、ワイヤ中のTiO含有量をワイヤ全質量に対する質量%で表した値であり、[SiO]とは、ワイヤ中の金属Si及びSi化合物のSiO換算値をワイヤ全質量に対する質量%で表した値であり、[ZrO]とは、ワイヤ中の金属Zr及びZr化合物のZrO換算値をワイヤ全質量に対する質量%で表した値である。
【0053】
さらに、下記表2及び表3において、SiO換算値やZrO換算値は、金属単体、合金及び化合物を酸化物に換算した値であるため、各成分の含有量及び換算値の合計量は100%を超える場合がある。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
上記表2及び表3に示すように、発明例No.1~14は、ワイヤ中の各成分の含有量及び換算値、並びに式(M1)により算出される値が本発明の範囲内であるため、PWHT後における引張強さ及び低温靱性が良好である溶接金属を得ることができた。また、表3には記載していないが、発明例No.1~14は、いずれもスラグの被包性や流動性が良好であるとともにスラグ量が適切であり、全姿勢溶接に好適であるフラックス入りワイヤを得ることができた。
【0059】
一方、比較例No.1、7、8及び11は、ワイヤ中のAl含有量が本発明で規定する下限値未満であるとともに、TiO含有量、Nb含有量、V含有量及びMg含有量が本発明で規定する上限値を超えているため、靱性が低下した。比較例No.2は、ワイヤ中のAl含有量が本発明で規定する下限値未満であるとともに、TiO含有量及びMg含有量が本発明で規定する上限値を超えているため、靱性が低下した。比較例No.3は、ワイヤ中のTiO含有量、Nb含有量及びV含有量が本発明で規定する上限値を超えているため、靱性が低下した。
【0060】
比較例No.4は、ワイヤ中のAl含有量、TiO含有量、Nb含有量及びV含有量が本発明で規定する上限値を超えているため、靱性が低下した。比較例No.5は、ワイヤ中のTiO含有量及びMg含有量が本発明で規定する上限値を超えているため、-20℃における靱性が低下した。比較例No.6は、ワイヤ中のTiO含有量が本発明で規定する上限値を超えているため、-20℃における靱性が低下した。
【0061】
比較例No.9及び10は、ワイヤ中のAl含有量が本発明で規定する上限値を超えているとともに、Al含有量及びAl含有量を用いて、式(M1)により算出される値が本発明で規定する上限値を超えているため、靱性が低下した。比較例No.12は、ワイヤ中のAl含有量及びAl含有量を用いて、式(M1)により算出される値が本発明で規定する上限値を超えているため、靱性が低下した。
【0062】
以上詳述したように、本実施形態に係るフラックス入りワイヤによれば、所定のPWHTを実施した場合であっても、強度及び靱性が優れた溶接金属を得ることができるとともに、溶接作業性が良好であることが示された。