(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112650
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】転がり軸受及び工作機械用主軸装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20240814BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240814BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240814BHJP
F16C 33/38 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/06
F16C19/26
F16C33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017847
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】剱持 健太
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA03
3J701AA13
3J701AA16
3J701AA24
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701CA06
3J701CA17
3J701EA31
3J701EA34
3J701EA36
3J701EA38
3J701EA76
3J701FA31
3J701FA38
3J701FA60
3J701GA31
(57)【要約】
【課題】あらゆる回転領域において、潤滑剤の排出性を向上させて円滑に動作させることが可能な転がり軸受及び工作機械用主軸装置を提供する。
【解決手段】外周面に内輪軌道3aを有する内輪3と、内周面に外輪軌道2aを有する外輪2と、内輪軌道3aと外輪軌道2aとの間に転動自在に設けられた複数の転動体4と、複数の転動体4を保持する複数のポケット11を有する保持器10と、を備える転がり軸受1であって、保持器10は、軸方向に並んで配置された一対の円環部12と、一対の円環部12同士を繋ぐように周方向に間隔をあけて配置される複数の柱部16と、を有し、一対の円環部12の少なくとも一方は、外周面上に周方向に間隔をあけて形成されて外輪2の内周面によって案内される複数の凸状突起部15を有し、凸状突起部15は、ポケット11に対して軸方向に隣接して配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する複数のポケットを有する保持器と、を備える転がり軸受であって、
前記保持器は、軸方向に並んで配置された一対の円環部と、一対の前記円環部同士を繋ぐように周方向に間隔をあけて配置される複数の柱部と、を有し、
一対の前記円環部の少なくとも一方は、外周面上に周方向に間隔をあけて形成されて前記外輪の内周面によって案内される複数の凸状突起部を有し、
前記凸状突起部は、前記ポケットに対して軸方向に隣接して配置されている、
転がり軸受。
【請求項2】
前記凸状突起部に対して軸方向に隣接する前記ポケットに配置される前記転動体が、軸方向から見て前記凸状突起部から一部が露出されている、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記転動体として、円筒ころを備える、
請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記転動体として、玉を備える、
請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の転がり軸受を備える、
工作機械用主軸装置。
【請求項6】
請求項3に記載の転がり軸受を備える、
工作機械用主軸装置。
【請求項7】
請求項4に記載の転がり軸受を備える、
工作機械用主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受及び工作機械用主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の工作機械用主軸装置などに用いられる転がり軸受は、低速から高速までの広い回転領域で用いられ、いずれの領域においても安定かつ静粛に回転することが求められている。一方、転がり軸受において、安定かつ静粛に回転させる上で重要な要素の1つに潤滑があり、転動部及び摺動部に適量の潤滑剤を供給することで、安定かつ静粛な回転が実現できる。
【0003】
しかし、工作機械用主軸装置の転がり軸受では、使用される回転領域によって適量となる潤滑剤の量が異なるため、その量の不適合により、しばしば軸受の異常が発生するおそれがある。潤滑剤の供給不足による異常の発生は当然であるが、潤滑剤の供給過多によっても異常が発生する。例えば、高速回転領域においては、潤滑剤の撹拌熱により異常発熱が発生し、軸受の破損に至る場合がある。また、低速回転領域においては、転動体と内外輪軌道とで形成されるくさび効果によって油膜反力が生じて自励振動等の異常振動が発生する場合がある。このような場合、転動部や摺動部への潤滑剤の供給量に対し、転がり軸受から排出される潤滑剤量が十分であれば、上記に挙げた軸受異常を抑制することが可能となる。
【0004】
図14~
図16は、外輪案内形式の保持器を備える一般的な円筒ころ軸受からなる転がり軸受100及びその保持器110を示している。転がり軸受100は、内周面に外輪軌道102aを有する外輪102と、外周面に内輪軌道103aを有する内輪103と、外輪軌道102aと内輪軌道103aとの間に転動自在に設けられた複数の円筒ころからなる転動体104と、複数の転動体104を転動自在に保持する複数のポケット111を有する保持器110と、を備える。この一般的な外輪案内形式の保持器110は、一対の円環部117と、これらの円環部117を繋ぐように円周方向に等間隔で配置された複数の柱部119とを有し、一対の円環部117と、円周方向に隣り合う2つの柱部119と、によってポケット111が形成されている。この転がり軸受100では、保持器110の一対の円環部117の外径部117aが被案内面として外輪内径部102bで案内されるが、構造上、これらの外径部117aと外輪内径部102bとの間の案内隙間gが微小すきまとなる。このため、転動体104が転動する転動部から排出される潤滑剤がせき止められて滞留してしまう問題がある。
【0005】
特許文献1には、
図17~
図19に示すように、一対の円環部217と、これらの円環部217を繋ぐ複数の柱部219と、転動体104を保持するポケット211とを有し、一対の円環部217の外周部において、柱部219に対して軸方向に隣接した位置に複数の凸状突起部221を形成した保持器210を備える転がり軸受200が示されている。この構造の転がり軸受200では、周方向に隣り合う凸状突起部221の間における外輪内径部102bと円環部217との間から潤滑剤が排出されるため、特に、高速回転時における遠心力や転動体104の自公転エネルギーなどを潤滑剤の排出へ活用しやすくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、オイルエア潤滑などの潤滑方式によって潤滑剤がエアによって常に供給される転がり軸受では、低速回転領域において、潤滑剤の排出性が不足する場合がある。
【0008】
そこで本発明は、あらゆる回転領域において、潤滑剤の排出性を向上させて円滑に動作させることが可能な転がり軸受及び工作機械用主軸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する複数のポケットを有する保持器と、を備える転がり軸受であって、
前記保持器は、軸方向に並んで配置された一対の円環部と、一対の前記円環部同士を繋ぐように周方向に間隔をあけて配置される複数の柱部と、を有し、
一対の前記円環部の少なくとも一方は、外周面上に周方向に間隔をあけて形成されて前記外輪の内周面によって案内される複数の凸状突起部を有し、
前記凸状突起部は、前記ポケットに対して軸方向に隣接して配置されている、
転がり軸受。
(2) (1)に記載の転がり軸受を備える、
工作機械用主軸装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、あらゆる回転領域において、潤滑剤の排出性を向上させて円滑に動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る転がり軸受の側面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る転がり軸受の保持器の斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る転がり軸受の一部の側面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る転がり軸受の一部の側面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態を説明する保持器の斜視図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態を説明する保持器の斜視図である。
【
図8】
図8は、第4実施形態を説明する保持器の斜視図である。
【
図9】
図9は、第5実施形態を説明する保持器の斜視図である。
【
図10】
図10は、第6実施形態を説明する保持器の斜視図である。
【
図11】
図11は、比較例1に係る転がり軸受における振動加速度の周波数スペクトルを示すグラフである。
【
図12】
図12は、比較例2に係る転がり軸受における振動加速度の周波数スペクトルを示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例1に係る転がり軸受における振動加速度の周波数スペクトルを示すグラフである。
【
図16】
図16は、一般的な転がり軸受の保持器の斜視図である。
【
図19】
図19は、従来構造の転がり軸受の保持器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受1の断面図である。
図2は、第1実施形態に係る転がり軸受1の側面図である。
図3は、第1実施形態に係る転がり軸受1の保持器10の斜視図である。
【0013】
図1及び
図2に示すように、第1実施形態に係る転がり軸受1は、円筒ころからなる複数の転動体4を備えた円筒ころ軸受である。
【0014】
この転がり軸受1は、内周面に外輪軌道面2aが形成された外輪2と、外周面に内輪軌道面3aが形成された内輪3と、複数の転動体4と、外輪2と内輪3との間に配置された保持器10と、を備えている。保持器10には複数のポケット11が形成されており、各ポケット11には、複数の転動体4が転動自在に保持されている。
【0015】
図3に示すように、保持器10は、軸方向に並んで配置された一対の円環部12と、両円環部12を繋ぐように円周方向に等間隔で配置された複数の柱部16と、を有する。保持器10には、一対の円環部12と、円周方向に隣り合う2つの柱部16と、によって、ポケット11が形成されている。
【0016】
一対の円環部12の外周面13には、複数の凸状突起部15が、円周方向に間隔をあけて形成されている。各凸状突起部15は、柱部16の外周面よりも大径である凸状突起部外周面15aと、凸状突起部外周面15aの円周方向両側からそれぞれ円環部12の外周面13へと連続する一対の立ち上がり部15bと、を有する。保持器10は、外輪2の内周面に形成された保持器案内面2bによって、凸状突起部外周面15aが案内される外輪案内方式である。
【0017】
また、凸状突起部15は、各円環部12の外周面13上で、ポケット11に対して軸方向に隣接して配置されている。保持器10において、各円環部12の複数の凸状突起部15は、1つおきのポケット11に対して軸方向に隣接するように配置される。また、一方の円環部12の凸状突起部15は、他方の円環部12の凸状突起部15が軸方向に隣接していないポケット11に対して軸方向に隣接するように配置されている。すなわち、凸状突起部15は、ポケット11の軸方向両側に凸状突起部15が存在することのないように配置されており、ポケット11の左右交互に千鳥状に配置されるように、一対の円環部12の外周面13上に配置されている。
【0018】
このように、本実施形態に係る転がり軸受1は、円環部12の外周面13上に円周方向に間隔をあけて複数の凸状突起部15が形成された保持器10を有しており、凸状突起部15はポケット11の軸方向のいずれか一方側のみに隣接するように形成されている。
【0019】
したがって、ポケット11の軸方向一方側において、凸状突起部外周面15aと保持器案内面2bとの間の案内隙間g1が一般的な転がり軸受100における案内隙間g(
図14参照)と同様であっても、ポケット11の軸方向他方側や、ポケット11が存在しない柱部16の両側部においては、円環部12の外周面13と外輪2の内周面からなる保持器案内面2bとの間に大きな隙間Gが形成される。そのため、この隙間Gから潤滑剤をスムーズに排出できる。また、案内隙間g1の大きさと隙間Gの大きさが異なることにより両円環部12間で圧力差が生じて空気の対流が起こり、対流作用により潤滑剤の排出がさらに促進される。
【0020】
特に、案内部として形成した凸状突起部15が、軸方向でポケット11に隣接し、かつ一対の円環部12の周方向に交互に配置されているので、軸方向で柱部219に隣接した位置に凸状突起部221を形成した従来構造の場合(
図17~
図19参照)と比較して、軸方向から見た際の外輪2と保持器10との間の吹き抜け面積が大きくなる。これにより、潤滑剤がエアによって常に供給されるオイルエア循環方式であっても、高速回転領域に限らず、低速回転領域においても潤滑剤の排出性を向上させることができる。つまり、あらゆる回転領域において、潤滑剤の排出性を向上させて円滑に動作させることができる。したがって、この転がり軸受1を備える工作機械用主軸装置を安定かつ静粛に動作させることができる。
【0021】
図4及び
図5は、それぞれ第1実施形態に係る転がり軸受1の一部の側面図である。
【0022】
図4に示すように、本実施形態に係る転がり軸受1では、保持器10の自転軸A1と転動体4の公転軸A2が一致している状態において、軸方向から見た際に、外輪2と保持器10との間で、凸状突起部15に隣接するポケット11に配置される転動体4は、凸状突起部15によって全てが隠れることなく、一部が露出(
図4におけるE1部参照)するのが好ましい。
【0023】
また、
図5に示すように、本実施形態に係る転がり軸受1では、保持器10の凸状突起部15の凸状突起部外周面15aが外輪2の保持器案内面2bに接触した状態において、軸方向から見た際に、外輪2と保持器10との間では、凸状突起部15に隣接するポケット11に配置される転動体4は、凸状突起部15によって全てが隠れることなく、一部が露出(
図5におけるE2部参照)するのが好ましい。
【0024】
このように、軸方向から見た際に、外輪2と保持器10との間で、凸状突起部15に隣接するポケット11に配置される転動体4の一部が露出していれば、特に、オイルエア循環方式によって潤滑剤を供給する場合において、そのエアの一部が凸状突起部15に遮られることなく転動体4に当たるので、余剰な潤滑剤の排出性をより向上させる効果が期待できる。
【0025】
次に、異なる形状の保持器を備えた実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一構成部分は同一符号を付して説明を省略する。
【0026】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態を説明する保持器20の斜視図である。
図6に示すように、第2実施形態で用いられる保持器20は、一対の円環部12のうち、片方の円環部12のみに、凸状突起部15を軸方向でポケット11に隣接する位置に形成した形態である。これらの凸状突起部15は、ポケット11に対して一つおきに形成されている。
【0027】
この保持器20によれば、特にオイルエア潤滑において、エアの通気性が向上するため、さらなる潤滑剤の排出性の向上が期待できる。
【0028】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態を説明する保持器30の斜視図である。
図7に示すように、第3実施形態で用いられる保持器30においても、第2実施形態で用いられる保持器20と同様に、一対の円環部12のうち、片方の円環部12のみに、凸状突起部15を軸方向でポケット11に隣接する位置に形成した形態である。この保持器30では、複数の凸状突起部15が、全てのポケット11における軸方向に隣接する位置に形成されている。
【0029】
この保持器30の場合も、特にオイルエア潤滑において、エアの通気性が向上するため、さらなる潤滑剤の排出性の向上が期待できる。
【0030】
ここで、片側の円環部12において、ポケット11の一つおきに凸状突起部15を形成した第2実施形態の保持器20では、軸方向から見た際の凸状突起部15の配置間隔が大きくなり、第1実施形態の保持器10よりもラジアル方向への変位量が大きくなってしまう。
【0031】
これに対して、第3実施形態の保持器30では、片側の円環部12に凸状突起部15を形成しているが、これらの凸状突起部15を全てのポケット11における軸方向に隣接する位置に形成しているので、保持器30のラジアル方向への変位量を第1実施形態の保持器10と同等に維持しつつ、エアの通気性を向上させることが期待できる。
【0032】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態を説明する保持器40の斜視図である。
図8に示すように、第4実施形態の保持器40は、玉からなる転動体4を備えたアンギュラ玉軸受に用いられる。この保持器40は、第1実施形態で用いられる保持器10と同様に、軸方向に並んで配置された一対の円環部42と、両円環部42間を繋ぐように、円周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部46と、を有する。一対の円環部42と、円周方向に隣り合う2つの柱部46によって、ポケット41が形成されている。ポケット41は、円形状に形成されており、このポケット41に、玉からなる転動体4が転動可能に収容される。
【0033】
この保持器40においても、第1実施形態で用いられる保持器10と同様に、一対の円環部42の外周面43に、複数の凸状突起部45が、円周方向に間隔をあけて形成されている。各凸状突起部45は、柱部46の外周面よりも大径である凸状突起部外周面45aと、凸状突起部外周面45aの円周方向両側からそれぞれ円環部42の外周面43へと連続する一対の立ち上がり部45bと、を有する。保持器40は、外輪2の内周面に形成された保持器案内面2bによって、凸状突起部外周面45aが案内される。
【0034】
また、凸状突起部45においても、各円環部42の外周面43上で、ポケット41に対して軸方向に隣接して配置されており、各円環部42の複数の凸状突起部45は、1つおきのポケット41に対して軸方向に隣接するように配置されている。すなわち、凸状突起部45は、ポケット41の軸方向両側に凸状突起部45が存在することのないように配置されており、ポケット41の左右交互に千鳥状に配置されるように、一対の円環部42の外周面43上に配置されている。このような配置により、アンギュラ玉軸受から潤滑剤をスムーズに排出できるため、あらゆる回転領域において、潤滑剤の排出性を向上させて円滑に動作させることができる。
【0035】
(第5実施形態)
図9は、第5実施形態を説明する保持器50の斜視図である。
図9に示すように、第5実施形態で用いられる保持器50も、第4実施形態の保持器40と同様に、玉からなる転動体4を備えたアンギュラ玉軸受に用いられる。この保持器50では、一対の円環部42のうち、片方の円環部42のみにおいて、軸方向でポケット41に隣接する位置に凸状突起部45が形成されている。これらの凸状突起部45は、ポケット41に対して一つおきに形成されている。
【0036】
この保持器40によれば、第2実施形態の保持器20と同様に、特にオイルエア潤滑において、エアの通気性が向上するため、さらなる潤滑剤の排出性の向上が期待できる。
【0037】
(第6実施形態)
図10は、第6実施形態を説明する保持器60の斜視図である。
図10に示すように、第6実施形態で用いられる保持器60においても、第5実施形態で用いられる保持器50と同様に、一対の円環部42のうち、片方の円環部42のみにおいて、軸方向でポケット41に隣接する位置に凸状突起部45が形成されている。この保持器60では、複数の凸状突起部45が、全てのポケット41における軸方向に隣接する位置に形成されている。
【0038】
この保持器60の場合も、特にオイルエア潤滑において、エアの通気性が向上するため、さらなる潤滑剤の排出性の向上が期待できる。
【0039】
また、この保持器60においても、第3実施形態の保持器30と同様に、片側の円環部42に凸状突起部45を形成しているが、これらの凸状突起部45を全てのポケット41における軸方向に隣接する位置に形成しているので、保持器60のラジアル方向への変位量を第1実施形態の保持器10と同等に維持しつつ、エアの通気性を向上させることが期待できる。
【0040】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更、改良等が可能である。上記実施形態では、円筒ころ軸受、アンギュラ玉軸受について説明したが、本発明は、深溝玉軸受、円すいころ軸受など、他の転がり軸受にも適用できる。また、高速回転での使用を考慮すると、保持器材料としては、金属よりも軽量で、耐摩耗性に優れる合成樹脂が好ましく、フェノール、ポリアミド、PPS、PEEK、ポリイミドなどが良い。また、これらに、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などの強化剤が添加されても良い。
【実施例0041】
回転軸を支承する転がり軸受を外筒部に組み込み、転がり軸受にオイルエア循環方式で潤滑剤を供給しながら回転軸を回転させた際の外筒部での振動加速度の周波数スペクトルを測定した。試験は、
図14に示す転がり軸受100(比較例1)と、
図17に示す転がり軸受200(比較例2)と、
図1に示す転がり軸受1(実施例1)を用いて行った。各転がり軸受のサイズは、外径90mm、内径55mm、幅18mmとした。
【0042】
図11~
図13は、比較例1,2及び実施例1において、比較的低速回転とされる2000min-1での回転時の外筒部で測定された振動加速度の周波数スペクトルを示している。
【0043】
図11に示すように、比較例1では、異常振動と考えられるピークP1が確認でき、
図12に示すように、比較例2においても、比較例1と同様に、異常振動と考えられるピークP2が確認できた。これに対して、
図13に示すように、実施例1では、異常振動と考えられるピークが見られず、安定している様子が確認できた。
【0044】
本結果より、実施例1では、異常振動の発生が抑制され、特に、比較例2の問題点として挙げたオイルエア潤滑における低速時の異常振動の発生が本発明によって抑制されていることがわかった。
【0045】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0046】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する複数のポケットを有する保持器と、を備える転がり軸受であって、
前記保持器は、軸方向に並んで配置された一対の円環部と、一対の前記円環部同士を繋ぐように周方向に間隔をあけて配置される複数の柱部と、を有し、
一対の前記円環部の少なくとも一方は、外周面上に周方向に間隔をあけて形成されて前記外輪の内周面によって案内される複数の凸状突起部を有し、
前記凸状突起部は、前記ポケットに対して軸方向に隣接して配置されている、転がり軸受。
この転がり軸受によれば、ポケットの軸方向一方側において、凸状突起部と外輪の内周面との間の案内隙間が狭くても、ポケットの軸方向他方側や、ポケットが存在しない柱部の両側部においては、円環部の外周面と外輪の内周面との間に大きな隙間が形成される。そのため、この隙間から潤滑剤をスムーズに排出できる。また、両円環部間で圧力差が生じて空気の対流が起こり、対流作用により潤滑剤の排出がさらに促進される。
特に、案内部として形成した凸状突起部が、軸方向でポケットに隣接して配置されているので、軸方向で柱部に隣接した位置に凸状突起部を配置した場合と比較して、軸方向から見た際の外輪と保持器との間の吹き抜け面積が大きくなる。これにより、潤滑剤がエアによって常に供給されるオイルエア循環方式であっても、高速回転領域に限らず、低速回転領域においても潤滑剤の排出性を向上させることができる。つまり、あらゆる回転領域において、潤滑剤の排出性を向上させて円滑に動作させることができる。
【0047】
(2) 前記凸状突起部に対して軸方向に隣接する前記ポケットに配置される前記転動体が、軸方向から見て前記凸状突起部から一部が露出されている、(1)に記載の転がり軸受。
この転がり軸受によれば、オイルエア循環方式によって潤滑剤を供給する場合において、そのエアの一部が凸状突起部に遮られることなく転動体に当たるので、余剰な潤滑剤の排出性をより向上させる効果が期待できる。
【0048】
(3) 前記転動体として、円筒ころを備える、(1)又は(2)に記載の転がり軸受。
この転がり軸受によれば、円筒ころを備えた円筒ころ軸受において、あらゆる回転領域における潤滑剤の排出性を向上させ、安定かつ静粛な回転が実現できる。
【0049】
(4) 前記転動体として、玉を備える、(1)又は(2)に記載の転がり軸受。
この転がり軸受によれば、玉を備えたアンギュラ玉軸受において、あらゆる回転領域における潤滑剤の排出性を向上させ、安定かつ静粛な回転が実現できる。
【0050】
(5) (1)から(4)のいずれか一つに記載の転がり軸受を備える、工作機械用主軸装置。
この工作機械用主軸装置によれば、安定かつ静粛に動作させることができる。