(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112656
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20240814BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/14 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017854
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】高村 純
(72)【発明者】
【氏名】五味 隆典
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF28
2C057AF29
2C057AG45
2C057AK07
2C057AM16
2C057AM21
2C057AM22
2C057AR08
2C057BA03
2C057BA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】吐出時のサテライトミストを抑制しながら着弾精度を確保できる液体吐出ヘッド及び液体吐出装置を提供する。
【解決手段】液体吐出ヘッドのアクチュエータは、液体を吐出するノズルに連通する圧力室を駆動する。駆動回路は、1つの画素を複数のnドロップ(n>1)で構成する場合に、1~(n-1)ドロップの少なくとも1以上を第1の吐出波形で吐出し、nドロップ目を、第2の吐出波形で吐出する駆動波形を、アクチュエータに与える。駆動波形は、圧力室を拡張する第1拡張パルスと圧力室を収縮する第1収縮パルスを備える第1の吐出波形と、圧力室を拡張する第2拡張パルスと圧力室を収縮する第2収縮パルスを備える第2の吐出波形と、を含む複数の吐出波形を有する。第2の吐出波形は、第2拡張パルスの後の第2収縮パルスの印加タイミングを、第1の吐出波形の第1拡張パルスの後の第1収縮パルスの印加タイミングよりも遅らせて印加する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルに連通する圧力室を駆動するアクチュエータと、
前記圧力室を拡張する第1拡張パルスと前記圧力室を収縮する第1収縮パルスを備える第1の吐出波形と、前記圧力室を拡張する第2拡張パルスと前記圧力室を収縮する第2収縮パルスを備える第2の吐出波形と、を含む複数の吐出波形を有し、前記第2の吐出波形は、前記第2拡張パルスの後の前記第2収縮パルスの印加タイミングを、前記第1の吐出波形の前記第1拡張パルスの後の前記第1収縮パルスの印加タイミングよりも遅らせて印加する波形であり、1つの画素を複数のnドロップ(n>1)で構成する場合に、1~(n-1)ドロップの少なくとも1以上を前記第1の吐出波形で吐出し、nドロップ目を、前記第2の吐出波形で吐出する駆動波形を、前記アクチュエータに与える、駆動回路と、
を備える液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1拡張パルスは、第1電圧から前記第1電圧よりも低い第2電圧を印加し、第1の所定時間経過後に前記第2電圧から前記第1電圧へ戻す波形であり、
前記第1収縮パルスは、前記第1電圧から前記第1電圧よりも高い第3電圧を印加し、第2の所定時間経過後に前記第3電圧から前記第1電圧へ戻す波形であり、
前記第1の吐出波形は、前記第1拡張パルスを印加し、前記第1電圧を第3の所定時間維持した後、前記第1収縮パルスを印加する波形であり、
前記第2拡張パルスは、前記第1電圧から前記第2電圧を印加し、第4の所定時間経過後に前記第2電圧から前記第1電圧へ戻す波形であり、
前記第2収縮パルスは、前記第1電圧から前記第3電圧を印加し、第5の所定時間経過後に前記第3電圧から前記第1電圧へ戻す波形であり、
前記第2の吐出波形は、前記第2拡張パルスを印加し、前記第1電圧を前記第3の所定時間よりも長い第6の所定時間維持した後、前記第2収縮パルスを印加する波形である、
請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第1の吐出波形は前記第2の吐出波形よりも、吐出時の残留振動が少ない、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記駆動回路は、1つの画素を複数のnドロップ(n>1)で構成する場合に、1~(n-1)ドロップを前記第1の吐出波形で吐出し、nドロップ目を、前記第2の吐出波形で吐出する駆動波形を、前記アクチュエータに与える、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体吐出ヘッド及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置として、インクジェットプリンタに搭載するインクジェットヘッドが知られている。インクジェットプリンタは、インクジェットヘッドからインクの液滴を吐出して、記録媒体の表面に画像等を形成する。インクジェットヘッドは、圧電式のアクチュエータで圧力室の容積を変えることによって、圧力室に連通するノズルからインクの液滴を吐出する。アクチュエータの動作は、アクチュエータに入力する駆動波形によって制御する。
【0003】
吐出直後、インクの液滴は、ノズル内のインクとつながって尾を引いた状態となる。そして尾の部分(液柱)が切れるときに、吐出した液滴とは別の液滴が発生することがある。この液柱が崩れる際に発生する液滴は、サテライトミストと称される。サテライトミストは、着弾乱れによる印字品質の低下を招くため、収縮パルスのタイミングを遅らせてサテライトミストを抑える場合もある。一方、階調印字のためにマルチドロップ方式でインクを連続的に吐出する場合もあるが、マルチドロップ方式の場合に収縮パルスのタイミングを遅らせてサテライトミストを抑える波形で連続的に吐出すると、サテライトミストは低減する反面、着弾精度が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、吐出時のサテライトミストを抑制しながら着弾精度を確保できる液体吐出ヘッド及び液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態にかかる液体吐出ヘッドは、アクチュエータと、駆動回路と、を備える。アクチュエータは、液体を吐出するノズルに連通する圧力室を駆動する。駆動回路は、1つの画素を複数のnドロップ(n>1)で構成する場合に、1~(n-1)ドロップの少なくとも1以上を前記第1の吐出波形で吐出し、nドロップ目を、前記第2の吐出波形で吐出する駆動波形を、前記アクチュエータに与える。駆動波形は、前記圧力室を拡張する第1拡張パルスと前記圧力室を収縮する第1収縮パルスを備える第1の吐出波形と、前記圧力室を拡張する第2拡張パルスと前記圧力室を収縮する第2収縮パルスを備える第2の吐出波形と、を含む複数の吐出波形を有する。前記第2の吐出波形は、前記第2拡張パルスの後の前記第2収縮パルスの印加タイミングを、前記第1の吐出波形の前記第1拡張パルスの後の前記第1収縮パルスの印加タイミングよりも遅らせて印加する波形である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る液体吐出装置の構成を示す説明図。
【
図3】同液体吐出ヘッドの構成の一部を示す断面図。
【
図4】実施例1の駆動波形及び振動解析結果を示す説明図。
【
図5】実施例1における第1の吐出波形及び振動解析結果を示す説明図。
【
図6】実施例1における第2の吐出波形及び振動解析結果を示す説明図。
【
図7】比較例1の駆動波形及び振動解析結果を示す説明図。
【
図8】比較例2の駆動波形及び振動解析結果を示す説明図。
【
図10】実施例1、比較例1及び比較例2の印字特性を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、第1の実施形態に係る液体吐出ヘッド10及び液体吐出装置100について、
図1乃至
図10を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態に係る液体吐出装置100の構成を示すブロック図である。
図2は、液体吐出ヘッドの構成を示す斜視図、
図3は液体吐出ヘッドのアクチュエータの構成を示す断面図である。
【0009】
図1に示すように、液体吐出装置100は、液体吐出ヘッド10と、液体供給部21と、搬送部22と、操作部25と、表示部26と、制御部30と、を備える。
【0010】
液体吐出装置100は、
図10に示すように、液体吐出ヘッド10に対向する印刷位置を通る所定の搬送路に沿って、吐出対象物である用紙等の媒体Pを搬送しながら、液体吐出ヘッド10からインク等の液体を吐出することで、用紙等の媒体Pに画像形成処理を行うインクジェットプリンタである。
【0011】
液体吐出ヘッド10は、例えばシェアモードシェアードウォール式のインクジェットヘッドである。液体吐出ヘッド10は、インクを循環させない非循環式のヘッドであってもよく、また、インクを循環させる循環式のヘッドであってもよい。本実施形態において、液体吐出ヘッド10は、非循環式のヘッドの例を用いて説明する。
【0012】
例えば液体吐出ヘッド10は、ノズルに連通する複数の圧電素子を有するアクチュエータ11と、アクチュエータ11を駆動する駆動回路12と、を備える。
【0013】
例えば液体吐出ヘッド10は、液体を吐出する複数のノズル111と、ノズルに連通する複数の圧力室112及び、複数の圧力室112に連通する共通室を含む流路を有する。液体吐出ヘッド10の流路は液体供給部21に接続され、液体供給部から液体吐出ヘッド10の流路にインクが供給される。
【0014】
アクチュエータ11は、例えば圧電部材で板状に構成されたアクチュエータプレートであり、複数の圧電素子115と、圧電素子115に形成される電極116と、を備える。例えば複数の圧電素子115間に溝状の圧力室112が形成される。アクチュエータ11は、各圧力室112に対応して設けられる圧電素子115の電極116に電圧が印加されて圧電素子115が変形することで、圧力室112の容積を増減させてインクをノズルから噴射させる。
【0015】
駆動回路12は、駆動電圧を圧電体の電極に印加することでアクチュエータ11を駆動する。駆動回路12は、圧電素子115を動作させるための制御信号及び駆動信号を生成する。駆動回路12は、液体吐出装置100の制御部30から入力された画像信号に従い、液体を吐出させるタイミング及び液体を吐出させる圧電素子115を選択するなどの制御のための制御信号を生成する。また、駆動回路12は、制御信号に従って圧電素子115の電極116に印加する電圧、すなわち駆動信号(電気信号)を生成する。駆動回路12が圧電素子115に駆動信号を印加すると、圧電素子115は圧力室112の容積を変化させるように駆動する。すなわち、アクチュエータ11は、制御部30による制御によって駆動制御可能に構成される。
【0016】
図1に示すように、駆動回路12は、データバッファ13、デコーダ14、ドライバ15を備える。データバッファ13は、印字データをアクチュエータ11の圧電素子毎に時系列に保存する。デコーダ14は、圧電素子毎に、データバッファ13に保存された印字データに基づいて、ドライバ15を制御する。ドライバ15は、デコーダ14の制御に基づき、各圧電素子115を動作させる駆動信号を出力する。駆動信号は、各圧電素子115の電極116に印加する電圧である。
【0017】
液体供給部21は、液体吐出ヘッド10の流路の一次側に接続され、液体吐出ヘッド10の流路に液体を供給する。例えば液体供給部21は、液体を貯留するタンクと、タンクと液体吐出ヘッド10流路とを接続する接続流路と、タンクの液体を液体吐出ヘッド10に送る送液ポンプと、を備える。
【0018】
搬送部22は、所定の搬送路に沿って、用紙などの媒体を搬送し、印刷位置に供給する。搬送部22は、例えば搬送経路に沿って配置される複数の搬送ローラや搬送ガイドを備える。搬送部22は、媒体を液体吐出ヘッド10に相対移動可能に支持する。
【0019】
操作部25は、例えば電源キー、用紙フィードキー、エラー解除キー等のファンクションキーを備える。
【0020】
表示部26は、画像印刷装置の種々の状態を表示可能なディスプレイを有する。
【0021】
制御部30は、例えば、制御基板であり、プロセッサ31、ROM(Read Only Memory)32、RAM(Random Access Memory)33、画像メモリ34、及び入出力ポートであるI/Oポート35、を備える。
【0022】
プロセッサ31は、コントローラであるCPU(Central Processing Unit)等の処理回路である。プロセッサ31は、コンピュータの中枢部分に相当する。プロセッサ31は、オペレーティングシステムやアプリケーションプログラムに従って、プリンタとしての各種の機能を実現するべく各部を制御する。例えばプロセッサ31は、液体吐出装置100に設けられる液体吐出ヘッド10、液体供給部21、搬送部22の動作を制御する。また、プロセッサ31は、印刷時に、画像メモリ34に保存された印字データを描画順に駆動回路12に送信する。
【0023】
ROM32は、上記コンピュータの読み出し専用の主記憶部分に相当する。ROM32は、上記のオペレーティングシステムやアプリケーションプログラムを記憶する。ROM32は、プロセッサ31が各部を制御するための処理を実行する上で必要なデータを記憶する場合もある。
【0024】
RAM33は、上記コンピュータの書換え自在な主記憶部分に相当する。RAM33は、プロセッサ31が処理を実行する上で必要なデータを記憶する。またRAM33は、プロセッサ31によって情報が適宜書き換えられるワークエリアとしても利用される。ワークエリアは、印刷データが展開される画像メモリを含んでいてもよい。
【0025】
画像メモリ34は、例えば外部接続機器200からの印字データを記憶する。
【0026】
I/Oポート35は、外部接続機器200からのデータの入力及び外部へのデータの出力をするインターフェイス部である。外部接続機器200からの印字データは、I/Oポート35を通じて制御部30へ送信され、画像メモリ34に保存される。
【0027】
このように構成された液体吐出装置100において、制御部30は液体吐出ヘッド10に信号を入力することで、駆動回路12に駆動電圧を印加し、複数の圧電素子115に電位差を生じさせて、圧電素子115を選択的に変形させ、圧力室112の容積を増減することでノズル111から液体を吐出させる。例えば駆動時に圧力室112の容積が拡張または収縮された場合、圧力室112内に圧力振動が発生する。この圧力振動により、圧力室112内の圧力が高まり、圧力室112に連通するノズル111からインク滴が吐出する。例えば制御部30から入力された信号によって、ドライバICが電極116を介して圧力室112の電極に駆動電圧を印加することにより、複数の圧電素子115に電位差を生じさせ、圧電素子115を選択的に変形させ、圧力室112の容積を変化させる。例えば拡張要素となる電圧を印加すると、圧電素子115が変形して対応する圧力室112の容積が増加して圧力が減少し、当該圧力室112に共通室のインクが流入する。そして圧力室112の容積が増加した状態で、圧電素子115の電極116に逆電位の駆動電圧を印加すると、圧電素子115が変形して圧力室112の容積が減少し、圧力が増加する。このため、圧力室112の中のインクが加圧され、ノズル111から吐出される。
【0028】
液体吐出ヘッド10の駆動回路12で生成される駆動信号による駆動波形について、
図4乃至
図8を参照して説明する。
【0029】
図4は実施例1の駆動波形を示すマルチドロップの波形及び振動解析結果を示す。
図5は第1の吐出波形及び振動解析結果を示し、
図6は第2の吐出波形の波形及び振動解析結果を示す。各波形図において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧、インク流速、及びインク圧力を示す。各図において、電圧を実線で、ノズル面における流速を破線、ノズルにおける圧力を一点鎖線にて示す。
図7は比較例1の駆動波形及び振動解析結果を示し、
図8は比較例2の駆動波形及び振動解析結果を示す。
図9は、実施例1,比較例1,及び比較例2における印字特性を示す説明図である。
図10及び
図11は液体吐出ヘッドによる印刷動作及び着弾精度の説明図である。
【0030】
図4は、実施例1にかかる駆動波形を示す。実施例1の駆動波形は、1サイクルの駆動周期内にインクをn回(nは、2以上の整数)吐出して1ドットを形成するマルチドロップ駆動波形の一例を示している。駆動波形の波形データは、例えば駆動回路12内のメモリなどに格納される。いずれの駆動波形をアクチュエータ11に入力するかは、制御基板から送られてくる階調データに基づいて駆動回路12のICが選択する。
【0031】
駆動波形は、マルチドロップ駆動であり、複数回の吐出波形Pa,Pbを備える。例えば実施例1は、3ドロップの波形であり、それぞれ拡張パルスQa、Qb(拡張要素)と収縮パルスSa,Sb(収縮要素)を含む、3つの吐出波形Pa、Pa、Pbを有する。なお、ここでは一例として1サイクルの駆動周期Ta内での吐出回数が3ドロップのマルチドロップの駆動波形(n=3)を例示するが、これに限られるものではない。
【0032】
実施例1に示す駆動波形は、1つの画素を複数のnドロップ(n>1)で構成する場合に、1~(n-1)ドロップを第1の吐出波形Paで吐出し、最終ドロップであるnドロップ目を第1の吐出波形Paよりもサテライトミストを抑制する第2の吐出波形Pbで吐出する波形である。すなわち、駆動波形は、第1の吐出波形Paと、第2の吐出波形Pbと、を有する。
【0033】
図4及び
図5に示すように、第1の吐出波形Paは、圧力室112を拡張する第1拡張パルスQaと圧力室112を収縮する第1収縮パルスSaと、を備える。第1拡張パルスQaでは、中間電圧である第1電圧Vbから、中間電圧よりも低い第2電圧Vaまで電圧を下げ、第2電圧Vaを所定時間t1a(第1の所定時間)継続した後、第1電圧Vbに戻す。そして、第1電圧Vbを所定時間t1b(第3の所定時間)継続した後、第1収縮パルスSaとして第1電圧Vbよりも高い第3電圧Vcを所定時間t1c(第2の所定時間)印加し、第1電圧Vbに戻す。第1の吐出波形Paは、拡張パルスQaで吐出を行い、収縮パルスSaで振動を抑える波形である。第1の吐出波形Paは、第2の吐出波形Pbと比べ、吐出時の残留振動が少ない波形となる。実施例1の駆動波形は、この基準となる第1の吐出波形Paを、n-1回繰り返す。中間電圧は例えば0Vで、基準電圧ともいう。
【0034】
本実施形態において、第1の吐出波形Paは、拡張パルスQaの幅t1aが収縮パルスSaの幅t1cよりも長く、中間電圧Vbの継続時間t1bは、拡張パルスQaの幅t1aよりも長い設定である。
【0035】
例えば、第1の吐出波形Paの拡張パルスQaの幅t1aはAL(Acoustic Length)の幅とする。また吐出動作での振動を抑える収縮パルスSaはQa時間方向の半分の位置とSaの時間方向半分の位置の間隔(Ta1)が2ALとなるタイミングで入力すると効率よく振動が抑えられる。ALは、インクの特性とヘッド内構造によって決まる固有振動周期λの半周期である。
【0036】
第1の吐出波形Paによる吐出動作として、第1拡張パルスQaにより、所定時間t1aの間第2電圧Vaを印加すると、圧電素子115の所定方向に電界が生じ、圧電素子115が変形する。この圧電素子115の変形によって圧力室112の容積が拡張することで内部のインク圧が低下し、ノズル111の開口のメニスカスは、圧力室112側に大きく引き込まれる。そして圧力室112(インク室)内のインク圧力の振動が開始し、90度位相がずれたインクの流速の振動が発生する。
【0037】
拡張パルスQaでAL時間拡張後、第1電圧Vbに戻すと、圧力室112は元の形状に戻る。そして、第1電圧Vbを所定時間t1b保持すると、メニスカスが前進してインク吐出を開始する。そして、第1電圧Vbを所定時間t1b保持した後、さらに、収縮パルスの電圧Vcを時間t1c印加することで、再びアクチュエータ11の圧電素子115を変形させ圧力室112の容積を収縮させてインク圧を高めることによって、圧力室112内の圧力及び流速の振動を抑えることができる。この第1の吐出波形Paをn―1回繰り返すことで、n-1ドロップのインク滴が吐出される。
【0038】
図4及び
図6に示すように、第2の吐出波形Pbは、圧力室112の容積を拡大させる第2拡張パルスQbと、拡張後に圧力室112の容積を縮小させる第2収縮パルスSbと、を備える。第2の吐出波形Pbにおいて、第2拡張パルスQbでは、中間電圧である第1電圧Vbから、中間電圧よりも低い第2電圧Vaまで電圧を下げ、第2電圧Vaを所定時間t2a(第4の所定時間)保持した後、第1電圧Vbに戻す。そして、第1の吐出波形Paの保持時間t1bよりも長い時間であるt2b(第6の所定時間)の間、第1電圧Vbを保持した後、第2収縮パルスSbとして第1電圧Vbよりも高い第3電圧Vcを所定時間t2c(第5の所定時間)印加した後、再び第1電圧Vbに戻す。
【0039】
本実施形態において、第2の吐出波形Pbは、拡張パルスQbの幅t2aが収縮パルスSbの幅t2cよりも長く、中間電圧Vbの継続時間t2bは、拡張パルスQbの幅t2aよりも長い設定である。特に第2の吐出波形Pbにおいて、中間電圧Vbの継続時間t2bが、第1の吐出波形Paの中間電圧Vbの継続時間t1bよりも長い波形となる。つまり、第2の吐出波形Pbは、第1の吐出波形Paと比較して、収縮パルスの印加のタイミングを遅らせることを意味する。第2の吐出波形Pbの周期Tbは、第1の吐出波形Paの周期Taより長く設定される。
【0040】
すなわち、第2の吐出波形Pbは、収縮パルスSbの印加タイミングを第1波形の収縮パルスSaの印加タイミングに対して遅らせて印加する波形であり、拡張後の収縮パルス印加までの時間t2bが、第1波形の拡張後の収縮パルス印加までの時間t1bよりも長い。この第2の吐出波形Pbは第1の吐出波形Paと比べ、吐出時にサテライトドットを減らすことができる波形である。一方で、第2の吐出波形Pbは、第1の吐出波形Paと比べ、残留振動が大きい波形となる。
【0041】
第2の吐出波形Pbによる吐出動作として、第2拡張パルスQbにより、所定時間t2aの間第2電圧Vaを印加すると、圧電素子115の所定方向に電界が生じ、圧電素子115が変形する。この圧電素子115の変形によって圧力室112の容積が拡張することで内部のインク圧が低下し、ノズル111の開口のメニスカスは、圧力室112側に大きく引き込まれる。そして圧力室112内のインク圧力の振動が開始し、90度位相がずれたインクの流速の振動が発生する。
【0042】
続いて第1電圧Vbに戻すと、圧力室112は元の状態に戻り、インク圧を高めることによってインクを吐出する。吐出によりインク圧が下がる。そして、第1電圧Vbを所定時間t2b保持すると、メニスカスが前進してインク吐出を開始する。そして、第1電圧Vbを所定時間t2b保持した後、さらに、収縮パルスの電圧Vcを時間t2c印加することで、再びアクチュエータ11の圧電素子115を変形させ圧力室112の容積を収縮させてインク圧を高めることによって、圧力室112内の圧力及び流速の残留振動を抑える方向になるが第1の吐出波形Paの残留振動よりは大きく残る。この第2の吐出波形Pbにより、最終ドロップであるnドロップ目のインク滴が吐出される。この第2の吐出波形Pbによる最終ドロップの吐出動作においては、1~n―1ドロップ目までの第1の吐出波形Paよりも、収縮パルスの印加のタイミングを遅らせることにより、吐出時の圧力室112内のインクの残留振動が第1の吐出波形Paより残り、インク滴の尾の長さは短くなる。したがって、この第2の吐出波形Pbによれば、インク滴の尾が切断されてインク滴がノズル111から離れて飛翔する際に発生するサテライトミストを抑制することができる。
【0043】
図7は比較例1に係る駆動波形及び振動解析結果を示す説明図である。比較例1の波形は
図5の第1の吐出波形Paを3回繰り返す波形である。
図8は比較例2に係る駆動波形及び振動解析結果を示す説明図である。比較例2の波形は
図6の第2の吐出波形Pbを3回繰り返す波形である。
【0044】
図9は、実施例1の波形と、残留振動を抑えた第1の吐出波形を3回繰り替えした比較例1の波形と、サテライトミストを低減する第2の波形を3回繰り返した比較例2の波形による、印字状態を示す説明図である。
図9によれば、比較例1ではドットDの周りに細かなドットであるサテライトミストDsが形成されており、実施例1の波形の印字状態の方がサテライトミストを抑制できることがわかる。
【0045】
図10は、液体吐出装置100の印刷動作における、液体吐出ヘッド10と媒体Pとを示す説明図である。
図10に示すように、液体吐出装置100において、液体吐出ヘッド10を矢印で示す搬送方向に沿って、媒体Pに対して相対移動させながら液体を吐出すると、
図11に示すように、複数のドットDが媒体P上に形成される。ここで、印字条件G=1mm、1画素あたりのドロップ数=3ドロップ、搬送速度528mm/s、印字解像度(搬送方向)300dpiとし、インクはUVインクとした場合の、液体吐出ヘッド10の1列のノズル111からそれぞれ吐出されるドットDについて、直線性のばらつき(標準偏差)を測定した結果、残留振動を抑えた第1の吐出波形を3回繰り替えした比較例1の波形でばらつき(標準偏差)=3.6μmであった。また、サテライトミストを低減した第2の波形を3回繰り返した比較例2の波形では、ばらつき(標準偏差)は4.6μmであった。一方、実施例1の波形においてはばらつき(標準偏差)=2.6μmとなった。したがって、実施例1の波形は、比較例1及び比較例2とくらべ、着弾精度が向上した。なお直線性のばらつき(標準偏差)は、搬送方向の位置の平均値Doと各ドットDとの距離(差)の二乗の合計値を、ドットDの数で割った、正の平方根として測定及び算出した。
【0046】
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド10及び液体吐出装置100によれば、サテライトミストを抑制しながら着弾精度を確保することが可能である。すなわち、n回のマルチドロップの場合に、n―1回目までのドロップは残留振動の少ない波形とし、最終ドロップのn回目のドロップはサテライトミストを低減する第2の波形として、複数の波形を組み合わせることで、着弾精度とサテライトミストの低減を両立できる。例えば
図9に示すように、サテライトミストが少ない印字結果を得ることができるとともに、着弾位置のばらつきを抑制できる。
【0047】
なお、本発明の実施形態は上述した構成に限定されない。
【0048】
例えばサテライトミストを低減する波形として、収縮パルスのタイミングを遅らせる波形を例示したがこれに限られるものではない。他に、収縮パルスのタイミングを遅らせるタイミングと収縮パルス幅の組合せでもサテライトミストを低減することができる。
【0049】
例えば上記実施形態は、3ドロップを吐出する駆動波形で説明したがこれに限られず、例えば4ドロップ以上吐出する駆動波形であってもよい。
【0050】
また、最後の1ドロップのみを第2の吐出波形とし、その他1ドロップ目~nー1ドロップ目までを、第1の吐出波形で吐出する例を示したが、これに限られるものではない。1~(n-1)ドロップの少なくとも1以上を第1の吐出波形で吐出し、nドロップ目を、前記第2の吐出波形で吐出する駆動波形とすればよく、例えば、最終の2ドロップを第2の波形としてもよい。
【0051】
また、各圧電素子115に印加する電圧値は各種条件に応じて適宜調整可能である。例えば隣接する圧電素子115の一方を接地して他方に電圧を印加することで電位差を発生してもよく、あるいは両方に電圧をそれぞれ印加して電位差を発生させてもよい。
【0052】
例えば、液体吐出ヘッド10の構成は上記の例に限られるものではなく、他のタイプのヘッドに用いてもよい。例えば液体吐出ヘッドは、圧力室112と駆動素子部との間に設けられる振動板を駆動素子部の変形によって振動させることで、液体吐出部を駆動する構成であってもよい。
【0053】
また、駆動波形の各電位は適宜変更可能であり、各圧電素子115に印加する電圧値は各種条件に応じて適宜調整可能である。例えば隣接する圧電素子115の一方を接地して他方に電圧を印加することで電位差を発生してもよく、あるいは両方に電圧をそれぞれ印加して電位差を発生させてもよい。
【0054】
駆動波形は、引き打ちに限らず、押し打ちや押し引き打ちの波形としてもよい。
例えば、液体吐出ヘッド10の構成は上記の例に限られるものではなく、他のタイプのヘッドに用いてもよい。例えば静電気で振動板を変形させてインクを吐出する構造、あるいはヒーターなどの熱エネルギーを利用してノズルからインクを吐出する発熱素子型の構造などであってもよい。これらの場合、当該振動板又はヒーターなどが圧力室112の内部に圧力振動を与えるためのアクチュエータとなる。
【0055】
液体吐出装置100は、画像形成媒体に、インクによる二次元の画像を形成するインクジェットプリンタを例示したがこれに限られるものではなく、例えば、3Dプリンタ、産業用の製造機械、又は医療用機械などであっても良い。液体吐出装置が3Dプリンタ、産業用の製造機械、又は医療用機械などであってもよく、例えば、素材となる物質又は素材を固めるためのバインダーなどをインクジェットヘッドから吐出させることで、立体物を形成するものであってもよい。
【0056】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、着弾精度とサテライトミストの低減を両立できる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
10…液体吐出ヘッド、11…アクチュエータ、12…駆動回路、13…データバッファ、14…デコーダ、15…ドライバ、21…液体供給部、22…搬送部、25…操作部、26…表示部、30…制御部、31…プロセッサ、32…ROM、33…RAM、34…画像メモリ、35…I/Oポート、100…液体吐出装置、111…ノズル、112…圧力室、115…圧電素子、116…電極、200…外部接続機器。