(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112663
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池及び色素増感太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
H01G9/20 119
H01G9/20 303B
H01G9/20 111B
H01G9/20 121
H01G9/20 111C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017866
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 諒祐
(57)【要約】
【課題】高い信頼性を有する色素増感太陽電池を提供すること。
【解決手段】色素増感太陽電池は、第1の基板と、電極と、電子輸送層と、光吸収層と、対向電極と、第2の基板と、封止材と、電解液とを備える。電極は、第1の基板の上に形成される。電子輸送層は、電極の上に形成される。光吸収層は、電子輸送層の上に形成され、電子捕集剤と色素を含む。対向電極は、電極と対向して配置される。第2の基板には、対向電極が形成される。封止材は、第1の基板と第2の基板とを貼り合わせる。電解液は、第1の基板と第2の基板との間に充填される。電極と、電子輸送層と、光吸収層との合計の膜厚は6μm以上、10μmである。第1の基板と第2の基板とは10μm以上、15μm以下のセルギャップを有するように封止材によって貼り合わされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、
第1の基板の上に形成される電極と、
前記電極の上に形成される電子輸送層と、
前記電子輸送層の上に形成され、電子捕集剤と色素を含む光吸収層と、
前記電極と対向して配置される対向電極と、
前記対向電極が形成される第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わせる封止材と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に充填される電解液と、
を具備し、
前記電極と、前記電子輸送層と、前記光吸収層との合計の膜厚が6μm以上、10μmであり、
前記第1の基板と前記第2の基板とは10μm以上、15μm以下のセルギャップを有するように前記封止材によって貼り合わされている、
色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記電子捕集剤は、
多孔質酸化物半導体の集積体によって構成され、
粒径が15μmを超える凝集粒子及び15μmを超える異物を含んでいない、
請求項1に記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
基板に電極と電子輸送層とを形成することと、
前記電子輸送層の上に、粒径が15μmを超える凝集粒子及び15μmを超える異物を含んでいない多孔質酸化物半導体のペーストを塗布することと、
前記多孔質酸化物半導体のペーストを焼結し、焼結した前記多孔質酸化物半導体に色素を沈着させることで光吸収層を形成することと、
を具備する色素増感太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、色素増感太陽電池及び色素増感太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、IoT(Internet of Things)デバイス用の電源及びエナジーハーベスティング素子として期待されている。太陽電池は、シリコン系太陽電池、化合物系太陽及び有機系太陽電池に大別される。有機系太陽電池の1つである色素増感太陽電池(DSC)は、電解液の酸化還元反応を用いて発電する。色素増感太陽電池に用いられる電解液には、固体型電解液と液体型電解液とがある。近年の色素増感太陽電池には、長時間の使用にも耐える高い信頼性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、高い信頼性を有する色素増感太陽電池及び色素増感太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様の色素増感太陽電池は、第1の基板と、電極と、電子輸送層と、光吸収層と、対向電極と、第2の基板と、封止材と、電解液とを備える。電極は、第1の基板の上に形成される。電子輸送層は、電極の上に形成される。光吸収層は、電子輸送層の上に形成され、電子捕集剤と色素を含む。対向電極は、電極と対向して配置される。第2の基板には、対向電極が形成される。封止材は、第1の基板と第2の基板とを貼り合わせる。電解液は、第1の基板と第2の基板との間に充填される。電極と、電子輸送層と、光吸収層との合計の膜厚は6μm以上、10μmである。第1の基板と第2の基板とは10μm以上、15μm以下のセルギャップを有するように封止材によって貼り合わされている。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、高い信頼性を有する色素増感太陽電池及び色素増感太陽電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係る太陽電池の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、色素増感太陽電池セルの発電原理を説明するための図である。
【
図3A】
図3Aは、セルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルとセルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルのそれぞれについての85℃85%RH信頼性試験結果を比較して示した図である。
【
図3B】
図3Bは、セルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルとセルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルのそれぞれについての85℃85%RH信頼性試験結果を比較して示した図である。
【
図4A】
図4Aは、セルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルとセルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルのそれぞれについてのI-V特性の測定結果を比較して示した図である。
【
図4B】
図4Bは、セルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルとセルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルのそれぞれについてのI-V特性の測定結果を比較して示した図である。
【
図4C】
図4Cは、電極間距離と最大出力及びフィルファクタ(FF)との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態における色素増感太陽電池セルの製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
図1は、実施形態に係る色素増感太陽電池セルの構成の一例を示す断面図である。
【0009】
図1に示すように、色素増感太陽電池セル1は、第1の基板11と第2の基板12との間に形成される。第1の基板11は、ガラス基板等の透明基板である。第1の基板11は、アノード基板として用いられる。第2の基板12は、第1の基板11と対向するように配置される。第2の基板12は、第1の基板11と同様に、ガラス基板等の透明基板である。第2の基板12は、カソード基板として用いられる。
【0010】
第1の基板11には、電極13が形成されている。電極13は、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)といった透明導電酸化膜(TCO)によって形成される。電極13は、アノード電極として用いられる。
【0011】
第2の基板12には、対向電極14が形成されている。対向電極14は、電極13と同様、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)といった透明導電酸化膜(TCO)によって形成される。対向電極14は、カソード電極として用いられる。
【0012】
電極13の上には電子輸送層15が形成されている。電子輸送層15は、酸化チタン(TiOx)等の金属酸化膜で構成される。電子輸送層15は、金属よりも高抵抗なTCOで構成される電極13による損失を抑制するために設けられ得る。また、電子輸送層15が形成されることにより、電子輸送層15の上にさらに形成される光吸収層16の密着性が向上する。
【0013】
電子輸送層15の上には、光吸収層16が形成されている。光吸収層16は、電子捕集剤に色素が吸着されて構成された層である。電子捕集剤は、例えば多孔質酸化物半導体、例えば酸化チタン(TiO2)の集積体である。色素は、例えばルテニウム(Ru)色素(RU)(N719色素等)等である。電子捕集剤は、酸化チタンに限らず、例えば酸化亜鉛、酸化錫、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化インジウム及びその複合体等であってもよい。また、色素は、N719色素に限らない。例えば、ルテニウム系色素として、N3色素、BlackDyeや、純粋有機色素として、D149、キサンテン、PVK、メロシアニン、オキサジン等が用いられてもよい。
【0014】
対向電極14の上には触媒層17が形成されている。触媒層17は、例えば白金層、カーボン層等である。
【0015】
光吸収層16と触媒層17との間には、電解液18が充たされている。電解液18の溶媒としては、例えばアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、炭酸エチレン等が用いられ得る。電解液18の溶質としては、例えばヨウ素(I
2)、1,2-ジメチル-3-n-プロピルイミダゾリウムアイオダイド(DMPImI)、ヨウ化リチウム(LiI)、4-tert-ブチルピリジン(TBP)等が用いられ得る。
図1に示すように、電解液18は、封止材19によって仕切られている。封止材19は、第1の基板11と第2の基板12とを貼り合わせるとともに、電解液18の外部への漏れ出しを防止する。封止材19は、アクリル樹脂及びオレフィン樹脂等の耐溶媒性に優れた樹脂であり得る。
【0016】
図2は、色素増感太陽電池セル1の発電原理を説明するための図である。以下の例では電子捕集剤は酸化チタン(TiO
2)であり、色素はルテニウム(Ru)色素であり、電解液18はヨウ素(I)電解液であるとする。
【0017】
まず、色素増感太陽電池セル1に光が入射すると、その光は基板に形成された色素16aによって吸収される。色素16aは、光を吸収することによって励起する。反応式は、例えば以下の式(1)で示される。
Ru→Ru++e- (1)
励起された色素16aから放出された電子(e-)は、例えば多孔質の酸化チタン(TiO2)で構成される電子捕集剤16bに注入される。電子捕集剤16bに注入された電子は、アノード電極である電極13に移動する。
【0018】
一方、電子(e-)を失った色素16aは、電解液18中の例えばヨウ化物イオン(I-)から、電子を供給される。電解液18中のヨウ化物イオン(I-)は、電子(e-)を色素16aに供給すると三ヨウ化物イオン(I3
-)になる。反応式は、例えば以下の式(2)、式(3)で示される。
Ru+e-→Ru (2)
3I-→I3
-+2e- (3)
このような酸化反応によって生じた三ヨウ化物イオン(I3
-)は、カソード電極である対向電極14から電子(e-)を受け取ろうとする。このとき、対向電極14と電極13との間には、電位差が発生する。対向電極14と電極13との間に負荷が接続されていれば、電極13まで移動した電子は、負荷を通って対向電極14まで移動する。そして、対向電極14に達した電子は、三ヨウ化物イオン(I3
-)によって吸収される。このような還元反応により、三ヨウ化物イオン(I3
-)はヨウ化物イオン(I-)に戻る。反応式は、例えば以下の式(4)で示される。
I3
-+2e-→3I- (4)
以上の酸化還元反応が繰り返されることにより、色素増感太陽電池セル1は発電する。このような酸化還元反応が起きるためには、励起状態の色素16aのエネルギー準位は、電子捕集剤16bのエネルギー準位よりも高く、かつ、基底状態の色素16aのエネルギー準位は、電解液18のエネルギー準位より低いという関係を要する。
【0019】
ここで、色素増感太陽電池セル1の使用環境や長時間の使用により、色素増感太陽電池セル1の電解液18の注入口や封止材19を通って色素増感太陽電池セル1の内部に水分が浸入することがある。色素増感太陽電池セル1の内部に水分が浸入してしまうと、光吸収層16の色素16aが劣化し、結果として色素増感太陽電池セル1の発電性能の劣化に繋がる。
【0020】
封止材19からの水分の浸入を遅らせるためには、封止材19の総体積を小さくすることによって水分の浸入間口を狭くすることが考えられる。封止材19の総体積を小さくする手法として、
図1に示す第1の基板11と第2の基板12との基板間距離に相当するセルギャップCGを狭くすることが考えられる。
【0021】
図3A及び
図3Bは、セルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルとセルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルのそれぞれについての85℃85%RH信頼性試験結果を比較して示した図である。ここで、試験に用いた封止材19のシール幅(ギャップの方向と直交する方向の長さ)は、1.3mmである。試験においては、同じ幅で異なるセルギャップの条件で色素増感太陽電池セルを作成し、それぞれの色素増感太陽電池セルを温度85℃、相対湿度85%の条件にさらしたときの液漏れが生じるまでの時間毎の出力の低下を測定した。出力の低下は、試験開始時の最大出力を100%としたときの割合として表されている。
【0022】
図3A及び
図3Bに示すように、シール幅が1.3mmの条件では、セルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルの出力は120時間以内に最大出力の70%までに低下する。また、セルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルでは、240時間経過後には液漏れが観測されている。一方、
図3A及び
図3Bに示すように、シール幅が1.3mmの条件では、セルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルの出力は、240時間の経過後も70%以上である。また、セルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルでは、液漏れが観測されるまでの時間も500時間後であって、セルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルの液漏れが発生するまでの時間よりも長い。つまり、より高い信頼性を得るためには、セルギャップは短いことが望ましい。
【0023】
図4A及び
図4Bは、セルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルとセルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルのそれぞれについてのI-V特性の測定結果を比較して示した図である。ここで、I-V特性は、1sun(真夏の直射太陽光に相当する照度。約100000lux)の照明下で測定されている。短絡電流密度は、色素増感太陽電池セルへの印加電圧が0Vの電圧に相当する。短絡電流密度の大きさは色素増感太陽電池セルの発電性能を評価するための指標の1つである。
図4A及び
図4Bに示すように、同一の照明条件下では、セルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルの短絡電流密度の方がセルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルの短絡電流密度よりも大きい。このため、最大出力についてもセルギャップが15μmの色素増感太陽電池セルの方がセルギャップが20μmの色素増感太陽電池セルよりも大きくなっている。
【0024】
色素増感太陽電池セルの電流値を律速しているのはキャリアであるI
-及びI
3
-の移動時間であると考えられる。セルギャップCGが短くなることにより、
図1に示す光吸収層16と触媒層17との距離である電極間距離EDも短くなる。電極間距離EDが短くなることによってキャリアの移動時間が短くなって電流値の増大につながる。このように、セルギャップCGを短くすることは、発電性能の向上にも寄与する。
【0025】
図4Cは、電極間距離と最大出力及びフィルファクタ(FF)との関係を示す図である。ここで、
図4Cは、低照度、実験では200luxの条件下でセルギャップを15μmに固定して、種々の電極間距離で最大出力及びFFを測定した結果を示している。
図4Cの横軸のTiO
2電極膜厚は、光吸収層16としてTiO
2が用いられた場合の電極13と、電子輸送層15と、光吸収層16との合計の厚さである。実際には、TiO
2電極膜厚は、ほぼ光吸収層16の厚さに等しい。電極間距離は、セルギャップからTiO
2電極膜厚を引いた値になる。
【0026】
図4Cに示すように、低照度下では、TiO
2電極膜厚が10μm付近まではTiO
2で電極膜厚が厚くなるのにつれて最大出力が大きくなる。また、TiO
2電極膜厚が10μm付近まではフィルファクタの低下量も小さい。これは、TiO
2電極膜厚の増加によって電極間距離が短くなるためである。一方、最大出力は、TiO
2電極膜厚が10μm付近においてピークを迎える。これは、TiO
2電極膜厚が10μmよりも厚くなると、TiO
2の焼結後にTiO
2が剥離してしまうためである。これらから、焼結後のTiO
2電極膜厚が、10μm程度までで可能な限り厚いことが望ましい。
【0027】
ここで、TiO2粒子は、ナノサイズである。しかしながら、TiO2を電極に塗布するためにペースト状にすることでTiO2粒子が凝集することがある。この凝集によって15μmのセルギャップを超える粒径のTiO2粒子が生じ得る。このような15μmを超える粒径のTiO2粒子は、TiO2ペーストを電極に塗布する前に除去されていることが望ましい。
【0028】
また、TiO2の塗布は、例えばスクリーン印刷機を用いて行われる。仮に15μm以下のTiO2粒子のみを含むTiO2ペーストが用いられたとしてもスクリーン印刷機の性能によって、塗布されたTiO2の膜厚が±2μm程度はばらつく。さらに、スクリーン印刷により、電極の周辺部のTiO2粒子が突起状に凝集する。この突起は、5μm程度になることがある。したがって、焼結後の平均のTiO2電極膜厚が10μmであっても電極の周辺部におけるTiO2粒子の突起状の凝集により、光吸収層16と対向電極14とが短絡してしまう可能性がある。したがって、焼結後の光吸収層16の膜厚は、突起発生分の5μmとスクリーン印刷によるばらつきの2μm程度も考慮して決められる必要がある。
【0029】
以上から実施形態では、セルギャップは15μmとされる。また、焼結後のTiO2電極膜厚は8μm±2μm未満とされる。焼結後のTiO2電極膜厚をするためには、焼結前のTiO2のペーストが、15μmを超える粒径の凝集粒子及び15μmを超える異物を含んでいなければよい。これらのようなセルギャップとTiO2電極膜厚の規定により、色素増感太陽電池セル1の信頼性と発電性能の双方の向上が図られ得る。
【0030】
図5は、実施形態における色素増感太陽電池セルの製造方法の一例を示す図である。ステップS1において、カソード基板が製造される。カソード基板の製造は任意の方法で行われてよい。例えば、ガラス基板等の第2の基板12の上に、対向電極14となる透明導電酸化膜及び触媒層となる金属膜が順次に成膜される。透明導電酸化膜は、例えばITO膜である。金属膜は、例えばPt膜である。透明導電酸化膜及び金属膜の成膜の仕方は、特定の手法に限定されない。透明導電酸化膜及び金属膜が第2の基板12に成膜された後、金属膜の上に対向電極14の形状に合わせてマスクが形成される。続いて、透明導電酸化膜のためのエッチング液、例ではITOエッチング液を用いて透明導電酸化膜がエッチングされる。金属膜が例えば10nm以下の薄い膜として成膜されている場合、金属膜は、ITOエッチング液を用いることでもエッチングされ得る。つまり、実施形態では、透明導電酸化膜と金属膜とはITOエッチング液によってまとめてエッチングされ得る。透明導電酸化膜のエッチングの完了後、マスクが除去される。これにより、対向電極14と触媒層17とが第2の基板12に形成される。このようにして、カソード基板が製造される。ここで、カソード基板の製造は、以下で説明するアノード基板の製造と並行して行われてもよい。
【0031】
ステップS2において、ガラス基板等の第1の基板11の上に、電極13となる透明導電酸化膜及び電子輸送層15となる金属酸化膜が成膜される。透明導電酸化膜は、例えばITO膜である。金属酸化膜は、例えばTiOx膜である。透明導電酸化膜及び金属酸化膜の成膜の仕方は、特定の手法に限定されない。透明導電酸化膜及び金属酸化膜が第1の基板11に成膜された後、金属酸化膜の上に電極13の形状に合わせてマスクが形成される。続いて、透明導電酸化膜のためのエッチング液、例ではITOエッチング液を用いて透明導電酸化膜がエッチングされる。金属酸化膜が例えば10nm以下の薄い膜として成膜されている場合、金属酸化膜は、ITOエッチング液を用いることでもエッチングされ得る。つまり、実施形態では、透明導電酸化膜と金属酸化膜とはITOエッチング液によってまとめてエッチングされ得る。透明導電酸化膜のエッチングの完了後、マスクが除去される。これにより、電極13と電子輸送層15とが第1の基板11に形成される。
【0032】
ステップS3において、電子輸送層15の上に例えばTiO2のペーストが電子輸送層15の上にスクリーン印刷といった手法で成膜される。TiO2のペーストは、15μmを超える粒径の凝集粒子及び15μmを超える異物を含まないペーストである。これにより、スクリーン印刷による±2μm程度の塗布ばらつきが生じたとしても、焼結後のTiO2電極膜厚は、8±2μmに収められる。
【0033】
ステップS4において、TiO2ペーストが高温で焼結される。さらに、焼結されたTiO2に色素が沈着される。これにより、光吸収層16が形成される。このようにして、アノード基板が製造される。ここで、TiO2電極膜厚が8±2μmとなっていることが例えば微細形状測定機によって測定されてもよい。この結果、TiO2電極膜厚が10μmを超えている粒子については除去される等の対応がされてもよい。
【0034】
ステップS5において、第1の基板11と第2の基板12の間に15μmのセルギャップを形成するための15μmのギャップ材が介在された状態で第1の基板11と第2の基板12とが封止材19によって貼り合わされる。
【0035】
ステップS6において、例えば封止材19に設けられた注入口から電解液18が充填される。これにより、色素増感太陽電池セル1が製造される。
【0036】
以上説明したように実施形態によれば、高い信頼性を得るために有用なセルギャップを規定し、この規定されたセルギャップが得られるようなTiO2ペースト及びギャップ材が用いられる。このようにして製造される色素増感太陽電池セルは、長時間の水分に対する高い耐久性を有する。つまり、この色素増感太陽電池セルは、高い信頼性を有する。
【0037】
また、実施形態では、高い信頼性を得ることができるセルギャップを維持しつつ、さらに高い発電性能が得られる電極間距離が規定され、この電極間距離が得られるようなTiO2ペーストが用いられる。このようにして製造される色素増感太陽電池セルは、高い信頼性に加えて高い発電性能を有する。
【0038】
ここで、前述した実施形態ではセルギャップは15μmであるとされている。実際には、セルギャップは10μm-15μmの範囲で規定されてよい。
【0039】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0040】
1 色素増感太陽電池セル、11 第1の基板、12 第2の基板、13 電極、14 対向電極、15 電子輸送層、16 光吸収層、17 触媒層、18 電解液、19 封止材。