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特開2024-112672センサデバイス、計測装置及び粒子の解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112672
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】センサデバイス、計測装置及び粒子の解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20240814BHJP
   G01N 15/13 20240101ALI20240814BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
G01N15/12 B
C07K16/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017881
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】518437671
【氏名又は名称】アイポア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】直野 典彦
(72)【発明者】
【氏名】武居 弘泰
【テーマコード(参考)】
2G060
4H045
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AA15
2G060AA19
2G060AD06
2G060AF20
2G060AG03
2G060AG11
2G060FA17
2G060JA07
2G060KA09
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】利用者による反応時間の制御が不要で、高感度な抗原検出または定量を簡便かつ低コストで実現可能なセンサデバイス、計測装置及び粒子の解析方法を提供する。
【解決手段】第1のチャンバ410に接続された第1の電極と第2のチャンバ420に接続された第2の電極との間に電圧を印加して第1のチャンバ410内の粒子が細孔440を通過するときの検出信号を測定することにより、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定するセンサデバイスにおいて、第1のチャンバ410が、被検試料液が注入される注入口411と、被検試料液中の粒子を細孔440へ導入する第1の流路402と、注入口411と細孔440との間の第1の流路402内、又は注入口611と第1の流路602との間に設けられた反応流路650内に配置された、分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が固定された抗体修飾粒子固定部403、603とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する隔壁と、前記隔壁を介して区画され、前記細孔を介して互いに接続された第1の電解液を充填する第1のチャンバと第2の電解液を充填する第2のチャンバとを備える反応容器と、前記第1のチャンバに接続された第1の電極と、前記第2のチャンバに接続された第2の電極とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して前記第1のチャンバ内の粒子が前記細孔を通過するときの検出信号を測定することにより、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定するセンサデバイスにおいて、
前記第1のチャンバが、
前記検体を含む被検試料液が注入される注入口と、
前記被検試料液中の粒子を前記細孔へ導入する第1の流路と、
前記注入口と前記細孔との間の前記第1の流路内、又は前記注入口と前記第1の流路との間に設けられた反応流路内に配置され、前記分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が、前記被検試料液との接触によって前記被検試料液中へ遊離し、前記被検試料液と混合されるように固定された抗体修飾粒子固定部と
を備えるセンサデバイス。
【請求項2】
前記第1の流路は、前記被検試料液が前記抗体修飾粒子固定部と接触し、前記被検試料液中に遊離した前記抗体修飾粒子が前記細孔に到達するまでの反応時間において、前記抗体修飾粒子が前記分析対象抗原を介して結合することにより形成される凝集塊状の粒子を前記第1の流路内に生成させるために十分な流路長を有する請求項1に記載のセンサデバイス。
【請求項3】
前記第1のチャンバが、
前記第1の流路内の気体を排出可能な第1排気口と、
前記抗体修飾粒子固定部が配置された前記反応流路内に設けられ、前記反応容器の外部と連通する第2排気口と、
前記第1排気口を開閉可能に接続された開閉機構であって、前記被検試料液を前記反応流路内に導入する際に前記第1排気口を閉じ、前記反応流路内の前記被検試料液を前記第1の流路内に導入させる際に前記第1排気口を開くように動作可能であり、これにより前記被検試料液が前記抗体修飾粒子固定部と接触し、前記被検試料液中に遊離した前記抗体修飾粒子が前記細孔に到達するまでの反応時間を調整可能な開閉機構と
を更に備える請求項1に記載のセンサデバイス。
【請求項4】
前記反応流路と前記第1の流路との間を区画可能なシャッターであって、前記シャッターを閉状態にして前記注入口から注入された前記被検試料液を前記抗体修飾粒子固定部が配置された前記反応流路内に保持し、前記反応流路内で前記抗体修飾粒子固定部と前記被検試料液とを接触させた後に、前記シャッターを開状態にして前記抗体修飾粒子が混合された前記被検試料液を前記第1の流路内へ流入させるように駆動可能であり、これにより前記被検試料液が前記抗体修飾粒子固定部と接触し、前記被検試料液中に遊離した前記抗体修飾粒子が前記細孔に到達するまでの反応時間を調整可能なシャッター
を更に備える請求項1に記載のセンサデバイス。
【請求項5】
前記反応流路内に配置され、前記抗体修飾粒子を内部に保持し、前記反応流路内に注入された前記被検試料液を保持可能な反応パッドと、
前記反応パッドを押圧して収縮させることにより前記抗体修飾粒子が混合された前記被検試料液を前記第1の流路内へ導入させ、これにより前記被検試料液が前記抗体修飾粒子固定部と接触し、前記被検試料液中に遊離した前記抗体修飾粒子が前記細孔に到達するまでの反応時間を調整可能な駆動部と
を更に備える請求項1に記載のセンサデバイス。
【請求項6】
前記駆動部が、前記反応容器の外部からの磁力の印加によって変位し、前記変位によって、前記反応パッドを押圧可能な電磁ピストンを備える請求項5に記載のセンサデバイス。
【請求項7】
前記第1の流路内を流れる粒子が前記細孔を通過する度に発生する電気抵抗の過渡変化を1つのパルスとして観測する電流計と、
前記パルスの頻度を検出する頻度検出手段と、
前記電磁ピストンを駆動するための磁力を発生させる磁力発生手段と、
前記頻度検出手段の出力に応じて前記磁力発生手段による前記磁力の強度を変化させて前記駆動部の変位を制御することにより前記パルスの頻度を制御するパルス制御手段と
を備える請求項6に記載のセンサデバイス。
【請求項8】
前記反応時間が10分以内である請求項2~7の何れか1項に記載のセンサデバイス。
【請求項9】
前記第1の電解液と前記第2の電解液の組成が同一である請求項1~7の何れか1項に記載のセンサデバイス。
【請求項10】
細孔を有する隔壁と、前記隔壁を介して区画され、前記細孔を介して互いに接続された第1の電解液を充填する第1の流路と第2の電解液を充填する第2の流路とを備える反応容器と、前記第1の流路に接続された第1の電極と、前記第2の流路に接続された第2の電極とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して前記第1の流路内を流れる粒子が前記細孔を通過するときの検出信号を測定することによって、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定するセンサデバイスを用いた粒子の解析方法において、
前記検体を含む被検試料液を前記第1の流路に接続された注入口から注入し、
前記注入口と前記細孔との間の前記第1の流路内、又は前記注入口と前記第1の流路との間に設けられた反応流路内に形成された、前記分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が固定された抗体修飾粒子固定部に、前記被検試料液を接触させ、該接触により前記抗体修飾粒子固定部から遊離する前記抗体修飾粒子と前記分析対象抗原とを混合し、
前記被検試料液が前記抗体修飾粒子固定部と接触し、前記被検試料液中に遊離した前記抗体修飾粒子が前記細孔に到達するまでの反応時間において、前記被検試料液中に遊離する前記抗体修飾粒子が前記分析対象抗原に結合することによって得られる凝集塊状の粒子を前記第1の流路内に生成させ、
前記第1の流路内の前記粒子の細孔への通過により生じる検出信号を測定することにより、前記検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定すること
を含む粒子の解析方法。
【請求項11】
細孔を有する隔壁と、前記隔壁を介して区画され、前記細孔を介して互いに接続された第1の電解液を充填する第1の流路と第2の電解液を充填する第2の流路とを備える反応容器と、前記第1の流路に接続された第1の電極と、前記第2の流路に接続された第2の電極とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して前記第1の流路内を流れる粒子が前記細孔を通過するときの検出信号を測定することによって、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定するセンサデバイスの計測装置であって、
前記第1の流路内を流れる粒子が前記細孔を通過する度に発生する電気抵抗の過渡変化を1つのパルスとして観測する電流計と、
前記パルスの頻度を検出する頻度検出手段と、
前記第1の流路内、又は前記検体を含む被検試料液が注入される注入口と前記第1の流路との間の反応流路内に配置され、前記分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が、前記被検試料液との接触によって前記被検試料液中へ遊離するように固定された抗体修飾粒子固定部を備えるセンサデバイスに対し、印加される磁力に応じて変位を生じ、該変位により前記被検試料液が前記抗体修飾粒子固定部と接触し、前記被検試料液中に遊離した前記抗体修飾粒子が前記細孔に到達するまでの反応時間を調整可能な駆動部を駆動するための磁力を発生させる磁力発生手段と、
前記頻度検出手段の出力に応じて前記磁力発生手段による前記磁力の強度を変化させて前記駆動部の変位を制御することにより、前記パルスの頻度を制御するパルス制御手段と
を備える計測装置。
【請求項12】
前記第1の流路の前記注入口とは反対側の端部に前記第1の流路内の気体を排出可能な第1排気口を更に備える前記センサデバイスに対し、前記第1排気口の開閉を制御可能な開閉制御手段
を更に備える請求項11に記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサデバイス、計測装置及び粒子の解析方法に関し、特に、電気的検知帯法に基づくセンサデバイス、計測装置及び粒子の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液中の計測対象粒子が細孔を通過する際の、電気抵抗の過渡変化をパルス信号として検出する電気的検知帯法は、ウイルスや細菌等といった微生物(非特許文献1)、あるいはエクソソーム等の細胞外粒子(特許文献1)といった生体粒子の検出や同定への利用が提案されてきた。電気的検知帯法の生体粒子の検出や同定への応用のために、半導体Siによる固体ポアを用いたセンサデバイス(特許文献2)による計測と、計測の結果得られたパルス波形のAI解析(特許文献3)の組み合わせが提案されている。このような技術を用いれば、簡便かつ迅速に、微生物やエクソソームの同定が可能となる。
【0003】
電気的検知帯法は、微生物やエクソソームなどの粒子がその計測対象である。一方、蛋白質は、その大きさが10nm以下と小さいため、これを直接電気的検知帯法で計測することは困難である。蛋白質の検出や定量としては、免疫比濁法またはイムノクロマト法が広く用いられている。免疫比濁法は、検出対象の蛋白質を抗原として、これに特異的に結合する抗体で表面を修飾した抗体修飾粒子の免疫凝集を吸光度計等で観測するものである。また、イムノクロマト法は、セルロース膜等の上を試薬が溶解しながら流れる構造を有するデバイスを用い、分析対象抗原が被検試料液中に存在する場合のみキャプチャー抗体に補足される現象を利用する定性判定法である。
【0004】
さらに、電気的検知帯法と免疫凝集を組み合わせて抗原の検出や定量を行う方法が開示されている(特許文献4)。ここでは、検出や定量の作業者は、チューブ等反応容器を用いて、検出対象の抗原と特異性を持って結合する抗体でその表面を修飾した抗体修飾粒子を被検試料液に混和する。そして免疫反応に必要なインキュベーション時間が経過した後、被検試料液を、マイクロピペットなどを用い、電気的検知帯法によるセンサデバイスへと導入する。そして、電気的検知帯法によるセンサデバイス内で、抗体修飾粒子同士が抗原を介して結合した凝集塊がセンサデバイスの細孔を通過する際のイオン電流の過渡変化を計測することで、抗原の検出や定量を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6762494号公報
【特許文献2】特許第5866652号公報
【特許文献3】特許第6621039号公報
【特許文献4】特開2022-059154号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Arima、 et al.“Selective detections of single-viruses using solid-state nanopores”、Sci Rep 8 16305(2018)DOI:10.1038/s41598-018-34665-4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の免疫比濁法やイムノクロマト法に比べて、上記の電気的検知帯法と免疫凝集を組み合わせた方法は、高感度であること、すなわち抗原量の少ない被検試料液であっても、対象抗原の検出や定量が可能な点で有用である。これは、従来の方法が抗体修飾粒子の巨視的な振る舞いを光学的に検出するのに対して、電気的検知帯法は、抗体修飾粒子の凝集状態を1つずつ観測することができるためである。
【0008】
しかしながら、電気的検知帯法は、細孔と流路から成るセンサデバイスに加えて、微小電流信号の増幅やデジタイズを行う計測装置が必須である。さらに免疫凝集による計測は、従来法である免疫比濁法と同様に、電気的検知帯法を用いる場合であっても、免疫反応時間などの反応条件の厳密な制御が要求される。これを自動化するためには、インキュベーションや分注などの機能を有する装置も必要となり、抗原検出や定量のための装置コストも高くなる。
【0009】
イムノクロマト法の抗原検出感度は一般に2桁ng/mL程度とされ、用途によっては必要とされる感度を満たさないことがある。また、イムノクロマト法は、定性検査に限定されるため汎用性に乏しい。しかしながら、イムノクロマト法は、以下の4つの理由により、感度が充分でない用途であっても、簡便な確認検査用として広く使われてきた。
(1)特別な装置を必要としない、または簡便な装置による検出でよい
(2)利用者が反応時間等の制御を意識しなくてもよい
(3)センサが個装されており必要な検体数だけ取り出して利用できるために無駄がない(4)1検査あたりのコストが低い
上記(1)~(4)は翻って、電気的検知帯法が解決すべき課題ということもできる。
【0010】
上記課題を鑑み、本発明は、利用者による反応時間の制御が不要で、高感度な抗原検出または定量を簡便かつ低コストで実現することが可能なセンサデバイス、計測装置及び粒子の解析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施態様によれば、細孔を有する隔壁と、隔壁を介して区画され、細孔を介して互いに接続された第1の電解液を充填する第1のチャンバと第2の電解液を充填する第2のチャンバとを備える反応容器と、第1のチャンバに接続された第1の電極と、第2のチャンバに接続された第2の電極とを備え、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加して第1のチャンバ内の粒子が細孔を通過するときの検出信号を測定することにより、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定するセンサデバイスにおいて、第1のチャンバが、検体を含む被検試料液が注入される注入口と、被検試料液中の粒子を細孔へ導入する第1の流路と、注入口と細孔との間の第1の流路内、又は注入口と第1の流路との間に設けられた反応流路内に配置され、分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が被検試料液との接触によって被検試料液中へ遊離し、被検試料液と混合されるように固定された抗体修飾粒子固定部とを備えるセンサデバイスが提供される。
【0012】
本発明の他の実施態様によれば、細孔を有する隔壁と、隔壁を介して区画され、細孔を介して互いに接続された第1の電解液を充填する第1の流路と第2の電解液を充填する第2の流路とを備える反応容器と、第1の流路に接続された第1の電極と、第2の流路に接続された第2の電極とを備え、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加して第1の流路内を流れる粒子が細孔を通過するときの検出信号を測定することによって、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定するセンサデバイスを用いた粒子の解析方法において、検体を含む被検試料液を第1の流路に接続された注入口から注入し、注入口と細孔との間の第1の流路内、又は注入口と第1の流路との間に設けられた反応流路内に形成された、分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が固定された抗体修飾粒子固定部に、被検試料液を接触させ、該接触により抗体修飾粒子固定部から遊離する抗体修飾粒子と分析対象抗原とを混合し、被検試料液が抗体修飾粒子固定部と接触し、被検試料液中に遊離した抗体修飾粒子が細孔に到達するまでの反応時間において、被検試料液中に遊離する抗体修飾粒子が分析対象抗原に結合することによって得られる凝集塊状の粒子を第1の流路内に生成させ、第1の流路内の粒子の細孔への通過により生じる検出信号を測定することにより、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定することを含む粒子の解析方法が提供される。
【0013】
本発明の更に他の実施態様によれば、細孔を有する隔壁と、隔壁を介して区画され、細孔を介して互いに接続された第1の電解液を充填する第1の流路と第2の電解液を充填する第2の流路とを備える反応容器と、第1の流路に接続された第1の電極と、第2の流路に接続された第2の電極とを備え、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加して第1の流路内を流れる粒子が細孔を通過するときの検出信号を測定することによって、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定するセンサデバイスの計測装置であって、第1の流路内を流れる粒子が細孔を通過する度に発生する電気抵抗の過渡変化を1つのパルスとして観測する電流計と、パルスの頻度を検出する頻度検出手段と、第1の流路内、又は検体を含む被検試料液が注入される注入口と第1の流路との間の反応流路内に配置され、分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が、被検試料液との接触によって被検試料液中へ遊離するように固定された抗体修飾粒子固定部を備えるセンサデバイスに対し、印加される磁力に応じて変位を生じ、該変位により被検試料液が抗体修飾粒子固定部と接触し、被検試料液中に遊離した抗体修飾粒子が細孔に到達するまでの反応時間を調整可能な駆動部を駆動するための磁力を発生させる磁力発生手段と、頻度検出手段の出力に応じて磁力発生手段による磁力の強度を変化させて駆動部の変位を制御することにより、パルスの頻度を制御するパルス制御手段とを備える計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、利用者による反応時間の制御が不要で、高感度な抗原検出または定量を簡便かつ低コストで実現することが可能なセンサデバイス、計測装置及び粒子の解析方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(a)は、本発明の実施の形態に係るセンサデバイスの基本的なセンサ構造を説明する概略図、図1(b)は、細孔電子顕微鏡写真、図1(c)は、第1のチャンバ内の粒子が細孔を通過する際に計測されるパルス信号の例を示す波形図である。
図2図2(a)は、検体中に分析対象抗原が存在しない場合における第1のチャンバ内の粒子の状態と、細孔を通過する粒子による電流値の変化との関係を表す説明図であり、図2(b)は、検体中の分析対象抗原の濃度が希薄な場合における第1のチャンバ内の粒子の状態と、細孔を通過する粒子による電流値の変化との関係を表す説明図であり、図2(c)は、検体中の分析対象抗原の濃度が図2(b)に比べて高い場合における第1のチャンバ内の粒子の状態と、細孔を通過する粒子による電流値の変化との関係を表す説明図である。
図3図3(a)は、被検試料液中に抗原濃度の異なる抗体修飾粒子を混合した場合における反応時間と混合液の吸光度との関係を従来の比濁法で計測した場合の例を表すグラフであり、図3(b)は、被検試料液中に抗原濃度の異なる抗体修飾粒子を混合した場合における、反応時間と混合液の細孔通過粒子凝集指数との関係を本発明に係る方法を用いて計測した場合の例を示すグラフである。
図4】本発明の第1の実施の形態に係るセンサデバイスの一例を示す断面図である。
図5図5(a)及び図5(b)は、本発明の第1の実施の形態に係るセンサデバイスを第1の流路の上方側からみた場合の構造例を説明する概略図である。
図6】本発明の第2の実施の形態に係るセンサデバイスの一例を示す断面図である。
図7図7(a)及び図7(b)は、本発明の第3の実施の形態に係るセンサデバイスの一例を示す断面図である。
図8】本発明の第4の実施の形態に係るセンサデバイスの一例を示す説明図である。
図9】本発明の第4の実施の形態に係るセンサデバイスが備える反応パッドを駆動部により押圧した状態の例を表す説明図である。
図10】本発明の第4の実施の形態に係るセンサデバイスの全体構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を以下に説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0017】
(センサデバイスの基本構造)
図1(a)~図1(c)は、本発明の実施の形態に用いられる電気的検知帯法に基づくセンサデバイスの基本的なセンサ構造例及び機能を説明する概略図である。センサデバイスは、細孔140を有する隔壁141と、隔壁141を介して区画され、細孔140を介して互いに接続された第1のチャンバ110と第2のチャンバ120とを有する反応容器100と、第1のチャンバ110に接続された第1の電極112と、第2のチャンバ120に接続された第2の電極122とを備える。第1の電極112と第2の電極122は、アンプ150、電流計151および電圧源152に接続される。第1のチャンバ110には注入口111が、第2のチャンバ120には注入口121が各々設けられる。
【0018】
図1(b)は半導体Siによる固体ポアを用いた細孔電子顕微鏡写真の一例である。この一例は、厚さ50nm程度のSiN薄膜を隔壁141として用いた場合の例を示す。ここで、チャンバとは、細孔140と繋がっている空間を指し、その具体的形状は特に限定されない。代替的には、慣用的に液体が流れることを主眼として「流路」という用語が使用されてもよい。流路は直接細孔140と繋がっている構造でもよいし、また流路とは独立した空間が細孔140と繋がっていてもよい。流路は各チャンバの全てを構成してもよいし、各チャンバの一部を構成してもよい。
【0019】
電気的検知帯法では、例えば、第1のチャンバ110内を、解析対象とする検体と第1の電解液とを混合した被検試料液で充填する。第2のチャンバ120内は、第2の電解液で充填する。すると、第1のチャンバ110内の被検試料液と第2のチャンバ120内の第2の電解液は細孔140を経由して電気的に導通する。ここで、第1の電極112および第2の電極122の間に電圧を印加すると、被検試料液、細孔140および第2の電解液を通じて、第1の電極112と第2の電極122の間にイオン電流が流れる。ここで、第1のチャンバ110内を流れる被検試料液中の計測対象粒子101が細孔140を通過すると、一時的に細孔140を流れるイオン電流を担う、陽イオンおよび陰イオンの移動が妨げられる結果、イオン電流が粒子通過の間のみ低下する。これを電流計151で観測すると、図1(c)に示すようなパルス状の信号210が観測される。このパルス信号210には、粒子の大きさ、形状や、表面の電荷分布等が反映されることから、このパルス信号210を解析することによって、計測対象粒子101の検出、同定あるいは定量が可能となる。なお、この例では、第1の電極112は第1のチャンバ110内の被検試料液と接液する場所であればどこにあってもよい。第2の電極122も、第2のチャンバ120内の第2の電解液と接液する場所であればどこにあってもよい。
【0020】
本実施形態では、計測対象粒子101として、検出または定量対象となる蛋白質等(以下、分析対象抗原という)と特異的に結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子を図1のような電気的検知帯法で計測する。ここで、検出または定量対象となる分析対象抗原を含み得る試料を検体といい、検体を第1の電解液に懸濁した液を被検試料液という。以下においては、被検試料液に抗体修飾粒子が混合されたものを混合液ともいう。なお、抗体修飾粒子とは、検出または定量対象となる分析対象抗原と特異的に結合する抗体が表面に固定化され、本実施形態に係るセンサデバイスの細孔140を通過可能な粒径を有する粒子をいう。抗体修飾粒子としては、以下に限定されないが、例えば、ビーズの表面にモノクローナル抗体を修飾した粒子等が挙げられる。ビーズは例えばポリスチレンのような樹脂であってもよく、金コロイドであってもよい。抗体はポリクローナル抗体であってもよい。分析対象抗原の種類に応じて抗体修飾粒子の種類も種々選択可能であり、上述の例に限定されるものではないことは勿論である。
【0021】
図2(a)~図2(c)は、本発明の実施の形態に係る粒子の解析方法の原理を模式的に説明する説明図である。図2(a)は、検体中に分析対象抗原201が存在しない場合における第1のチャンバ110内の粒子の状態と、細孔140を通過する粒子による電流値の変化との関係を表す。図2(b)は、検体中の分析対象抗原201の濃度が希薄な場合における第1のチャンバ110内の粒子の状態と、細孔140を通過する粒子による電流値の変化との関係を表す説明図である。図2(c)は、検体中の分析対象抗原201の濃度が図2(b)に比べて高い場合における第1のチャンバ110内の粒子の状態と、細孔140を通過する粒子による電流値の変化との関係を表す説明図である。なお、図2(a)~図2(c)の例では第1の電極112及び第2の電極122の図示を省略している。
【0022】
検体中に分析対象抗原201が存在しない場合は、図2(a)に示すように、分析対象抗原に特異的に結合する抗体で表面を修飾した抗体修飾粒子211、212、213が混合液中に単独で存在する場合が多く、抗体修飾粒子同士が結合して得られる凝集塊状の粒子219の数は少ない。この状態で、第1の電極112および第2の電極122間に電圧を印加すると、混合液中の抗体修飾粒子211、212、213の多くは、図2(a)のように、各々単独で細孔140を通過する。そのため、図2(a)の波形例では、抗体修飾粒子211、212、213が細孔140を通過することによるパルス信号221、222、223の波形が得られる。なお、混合液に対象抗体が含まれない場合であっても、抗体修飾粒子が非特異的に凝集した凝集塊状の粒子219が生成される場合もあるが、その数は、図2(b)及び図2(c)の場合に比べて少ない。
【0023】
検体中に分析対象抗原201が存在する場合は、図2(b)及び図2(c)に示すように、分析対象抗原201が抗体修飾粒子231、232、233、251、252、253に結合した状態で、第1のチャンバ110内に存在している。図2(b)は、分析対象抗原201が希薄な場合、図2(c)は分析対象抗原201が高い場合である。分析対象抗原201の濃度が高いほど、多くの抗体修飾粒子231、232、233、251、252、253同士が結合してより大きな凝集塊状の粒子を形成する。
【0024】
これら凝集塊状の粒子が細孔140を通過したときに生じるパルス信号の波形は、抗体修飾粒子231、232、233、251、252、253が単独で細孔140を通過したときのパルス信号と比べてその形状が変化する。大きな粒子が細孔140を通過する際には、小さな粒子の通過時に比べて、細孔140を流れるイオン電流がより大きく妨げられるためである。例えば図2(c)において、凝集塊状の粒子251、抗体修飾粒子単独の粒子252および凝集塊状の粒子253が細孔140を通過する際のパルス信号は各々261、262、263である。抗体修飾粒子単独の粒子252よりも、凝集塊状の粒子251、さらに凝集塊状の粒子251よりも粒径が大きい凝集塊状の粒子253のパルス波形のピーク電流値が大きいのはこのためである。図2(b)も同様に、凝集塊状の粒子231、抗体修飾粒子単独の粒子232および凝集塊状の粒子233が細孔140を通過する際のパルス信号は各々241、242、243である。このように、分析対象抗原201の濃度が高いほど、計測されるパルスに占める、大きなパルス(例えば図2(b)のパルス信号241、243、図2(c)のパルス信号261、263)の比率が多くなる。
【0025】
図2(a)~図2(c)にも示した通り、被検試料液中の抗原濃度が高いほど、抗体修飾粒子の凝集の程度は高くなる。一方で、被検試料液中の抗体修飾粒子の凝集の程度は、被検試料液に抗体修飾粒子を混和してからの時間によっても変化する。
【0026】
図3(a)は、粒子凝集度の変化を従来法である比濁法で計測した場合の計測結果の一例である。被検試料液と抗体修飾粒子の混和、すなわち混合液作成の時刻をt=0としたときの経過時間(反応時間)を横軸に、またPSA抗原濃度0pg/mL、100pg/mL、1000pg/mL、5000pg/mLとした混合液の吸光度(λ=570A)を縦軸にプロットした例を示す。反応時間6分以上のすべての計測において、対象抗原を含む被検試料液の吸光度312が、対象抗原を含まない試料の吸光度311を上回っており、対象抗原のPSAの検出が可能であることがわかる。
【0027】
図3(b)は、本発明に係る方法を用いた抗体修飾粒子凝集度の計測結果の一例である。粒径300nmの抗PSA抗体修飾粒子を被検試料液に混合した混合液を1.2μmの細孔のセンサデバイスで計測した。図3(b)の横軸は(a)と同様に混合液作成からの経過時間(反応時間)とし、縦軸は計測されたパルス信号のピーク電流値が3.4nA以上であるパルス数が、観測された全パルス数に占める比率(以下これを細孔通過粒子凝集指数と呼ぶ)とした。利用した抗PSA抗体修飾粒子は、図3(a)と同じである。図3(b)で計測した混合液の抗原濃度は0pg/mL、1pg/mL、10pg/mL、100pg/mLおよび1000pg/mLとした。図3(a)と同様に、図3(b)の例においても、反応時間に依らず、被検試料液中の抗原濃度が高いほど凝集指数が高くなることから、本発明に係る方法によって分析対象抗原であるPSAの定量が可能であることがわかる。更に、図3(a)と図3(b)を比べると、本発明に係る方法によれば同じ抗体修飾粒子を利用しても2~3桁ほど感度が高い。
【0028】
一方で、図3(a)及び図3(b)によれば、抗体修飾粒子の凝集の度合いは、被検試料液と抗体修飾粒子の混和から計測までの反応時間に大きく依存することが、比濁法および本発明による方法の両方からわかる。加えて、分析対象抗原を含まない被検試料液であっても、時間の経過とともに、吸光度及び細孔通過粒子凝集指数が変化する。これは抗原抗体反応によらない非特異凝集が進むためと考えられる。このような理由で、吸光度や本発明に係る方法で分析対象抗原の検出や定量を行う場合、特に定量が正確であることを要求される用途においては、分析対象抗原と抗体修飾粒子との反応時間を制御する必要があることが分かる。
【0029】
反応時間の被検試料液と抗体修飾粒子の混和を、利用者がチューブ等で行い、時間を計った後、センサに導入して計測を行っても良い。しかしながら、この方法では、検査プロトコルを定めたとしても、反応時間を厳密に制御することが困難である。また、利用者によるミスも起こりやすい。特に、図3(b)の計測結果361、362および363のような高感度の検出及び定量においては、反応時間のわずかな差が、検出や定量の結果に大きな影響を与える。このため、免疫反応時間の制御を利用者の手に委ねることは現実的ではない。
【0030】
(第1の実施の形態)
図4に、本発明の第1の実施の形態に係るセンサデバイスの一例を示す。第1の実施の形態に係るセンサデバイスは、細孔440を有する隔壁441と、隔壁441を介して区画され、細孔440を介して互いに接続された第1の電解液を充填する第1のチャンバ410と第2の電解液を充填する第2のチャンバ420とを有する反応容器400とを備える。第1のチャンバ410は、検体と第1の電解液とを含む被検試料液を注入する注入口411と、被検試料液を注入口411から細孔440へ導入する第1の流路402と、注入口411と細孔440との間の第1の流路402内に配置され、分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が固定された抗体修飾粒子固定部403とを備える。隔壁441はSi等で形成された基材449上に配置されている。
【0031】
図4の例では、第1の流路402は紙面左右方向に沿って延びている。第2のチャンバ420は、注入口421(図5(a)及び図5(b)参照)に接続された第2の流路422を備える。図4において、第2の流路422は紙面垂直方向(奥行方向)に沿って延びている。第2の流路422内には第2の電解液が充填される。なお、図4に示すセンサデバイスにおいても、図1の第1の電極112および第2の電極122に相当する第1の電極及び第2の電極を有しているが、図4においてはその記載を省略している。第1のチャンバ410及び第2のチャンバ420には、あらかじめ第1の電解液及び第2の電解液が充填されていてもよい。第1の電解液と第2の電解液の組成は同一であることが好ましい。これにより高感度な分析が行える。
【0032】
抗体修飾粒子固定部403は、被検試料液の通液による被検試料液との接触によって抗体修飾粒子が被検試料液中へ遊離して第1の流路402内を流れる間に被検試料液と抗体修飾粒子とが十分混和されるように、注入口411と近接する第1の流路402の内壁に形成されている。抗体修飾粒子固定部403が配置される位置は特に限定されず、任意の位置に配置できる。図4に示すように、注入口411と近接する第1の流路402の通液方向上流側に抗体修飾粒子固定部403が配置されることにより、被検試料液が抗体修飾粒子固定部403と接触し、被検試料液中に遊離した抗体修飾粒子が細孔440に到達し、第2の電解液と接触するまでの反応時間を十分にとることができる。抗体修飾粒子固定部403は、更に、第1の流路402の内壁において、被検試料液の通液方向に沿った複数個所に所定の間隔を有して配置されてもよい。
【0033】
抗体修飾粒子としては分析対象とする分析対象抗原に応じて種々の抗体修飾粒子を用いることができ、その種類は特に限定されない。抗体修飾粒子は、第1の流路402の内壁に、何らかの構造物、例えば繊維などを第1の流路402中に配し、その構造物の表面に固定してもよい。抗体修飾粒子固定部403は、第1の流路402内の抗体修飾粒子固定部403上を被検試料液が通過する際に、抗体修飾粒子固定部403と被検試料液との接触によって抗体修飾粒子を被検試料液中へ遊離させることが可能な構成を有していれば、具体的な材料や種類はどのようなものであってもよい。以下に限定されるものではないが、抗体修飾粒子固定部403として、抗体修飾粒子を凍結乾燥させることにより、第1の流路402の表面上又は表面上に固定した構造物上に抗体修飾粒子を固定した、所定の厚みを有する抗体修飾粒子固定層を形成させてもよい。図4に示すように、第1のチャンバ410には、第1の流路402内の注入口411とは反対側の端部に、第1の流路402内の気体を排出可能な第1排気口412を備えていてもよい。
【0034】
分析対象抗原を含む被検試料液が注入口411に導入されると、被検試料液は第1の流路402に進入する。被検試料液が抗体修飾粒子固定部403を通過する際、抗体修飾粒子が被検試料液中に遊離して混合液を作成する。この混合液作成の時点を反応時間の始点とする。固定された抗体修飾粒子が凍結乾燥されている場合、凍結乾燥された抗体修飾粒子が溶解して被検試料液中への遊離することによって、抗体の活性が復活する。その後、混合液は第1の流路402中を細孔440に向かって進行する。抗体修飾粒子固定部403と接触した被検試料液が流通する領域を反応領域404という。また、被検試料液が抗体修飾粒子固定部403と接触し、被検試料液中に遊離した抗体修飾粒子が細孔440に到達し、第2の流路422中の第2の電解液と接触するまでの時間を反応時間という。反応時間は、以下に限定されるものではないが、10分以内とすることにより、利用者が早期に結果を判別でき、スループットが向上することで検査が低コスト化できる点で望ましい。
【0035】
被検試料液中に分析対象抗原が存在する場合には、被検試料が注入口411から抗体修飾粒子固定部403を通過して反応領域404を進行して細孔440に到達するまでの反応時間の間に、分析対象抗原を介した抗体修飾粒子の凝集反応が進行する。本実施形態によれば、反応時間を一定に制御するための構造を有するセンサデバイスが提供できる。反応時間を一定に制御するために必要なことは、第1の流路402中の混合液の進行速度および反応領域404の長さをともに適切に制御することである。前者については、第1の流路402の内壁を親水化剤によってコーティングしたコーティング層を設けることや、被検試料液への界面活性剤の添加などにより実現できる。後者については、第1の流路402の流路引き回し形状を最適化することにより調整する。
【0036】
図5(a)に示すように、注入口411から細孔440に向かってメアンダ形状を有する第1の流路402を形成することにより、第1の流路402の流路長を長くしつつセンサデバイスの小型化が図れる。図5(b)に示すように、注入口411から細孔440に向かって直線状に第1の流路402を形成することにより、被検試料液をより円滑かつ確実に注入口411から細孔440へ供給可能なセンサデバイスを得ることができる。第1の流路402の具体的な流路長は特に限定されないが、第1の流路402は、被検試料液が抗体修飾粒子固定部403と接触し、被検試料液中に遊離した抗体修飾粒子が細孔440に到達して第2の電解液と接触するまでの反応時間において、抗体修飾粒子が分析対象抗原を介して結合することにより形成される凝集塊状の粒子を第1の流路402内に生成させるために十分な流路長を有することが好ましい。例えば、反応時間が2~10分、より好ましくは2~5分となるように第1の流路402の流路長が設定されることが好ましい。
【0037】
(解析方法)
図4に示すようなセンサデバイスを用いて粒子の解析を行う場合は、検体を含む被検試料液を第1のチャンバ410の注入口411から注入する。そして、注入口411と細孔440との間の第1の流路402内に設けられた抗体修飾粒子固定部403に被検試料液を接触させる。この接触により抗体修飾粒子固定部403から遊離する抗体修飾粒子と分析対象抗原とが第1の流路402の反応領域404内で混合される。そして、被検試料液が抗体修飾粒子固定部403と接触し、被検試料液中に遊離した抗体修飾粒子が細孔440に到達するまでの反応時間に、被検試料液中に遊離する抗体修飾粒子が分析対象抗原に結合することによって得られる凝集塊状の粒子を第1の流路402内に形成させる。更に、第1の流路402内の粒子の細孔440への通過により生じる検出信号を測定することにより、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定する。
【0038】
本発明の第1の実施の形態に係るセンサデバイス及びこれを用いた粒子の解析方法によれば、注入口411と細孔440との間の第1の流路402内に抗体修飾粒子固定部403が配置される。この抗体修飾粒子固定部403を通過した被検試料液が、第1の流路402を流れる間に、抗体修飾粒子同士によって結合した凝集塊状の粒子が形成され、凝集塊状の粒子が細孔440を通過する毎に生じるイオン電流の過渡変化をパルス信号として計測し、パルス信号の形状を分析して検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度が推定できる。利用者は、注入口411に検体を含む被検試料液を注入するだけでよい。即ち、本実施形態によれば、被検試料液を注入口411から注入することにより、抗体修飾粒子の凝集反応時間が一定時間となるように制御できる。その結果、利用者による凝集反応時間の制御が不要で、簡便な装置を用いて高感度な抗原検出または定量を低コストで実現可能なセンサデバイスが提供できる。
【0039】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係るセンサデバイスは、図6に示すように、細孔640を有する隔壁641と、隔壁641を介して区画され、細孔640を介して互いに接続された第1の電解液を充填する第1のチャンバ610と第2の電解液を充填する第2のチャンバ620とを有する反応容器600とを備える。更に、第1のチャンバ610は、検体と第1の電解液とを含む被検試料液を注入する注入口611と、被検試料液を注入口611から細孔640へ導入する第1の流路602と、注入口611と第1の流路602との間に設けられた反応流路650内に配置され、分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が固定された抗体修飾粒子固定部603とを備える。隔壁641は基材649上に配置されている。
【0040】
図6の例では、第1の流路602は紙面左右方向に沿って延びている。第2のチャンバ620は、注入口(不図示)に接続された第2の流路622を備える。第2の流路622は紙面垂直方向(奥行方向)に沿って延びている。第2の流路622内には第2の電解液が充填される。なお、図6に示すセンサデバイスにおいても、図1の第1の電極112および第2の電極122に相当する第1の電極及び第2の電極を有しているが、記載を省略している。第1のチャンバ610及び第2のチャンバ620には、あらかじめ第1の電解液及び第2の電解液が充填されていてもよい。
【0041】
反応流路650の内壁には、このセンサデバイスで検出または定量を行う分析対象抗原に対して特定的に結合する抗体を表面に修飾した抗体修飾粒子を固定した、抗体修飾粒子固定部603が配置されている。抗体修飾粒子固定部603が配置される位置は、特に限定されない。例えば、注入口611の下部に設けられた被検試料液を収容する試料液受け部613と繋がる反応流路650の壁面の任意の領域に1又は複数個所配置される。
【0042】
抗体修飾粒子は、反応流路650の壁面に、何らかの構造物、例えば繊維などを反応流路650中に配し、その構造物の表面に固定してもよい。即ち、抗体修飾粒子固定部603は、抗体修飾粒子固定部603上を被検試料液が通過する際に、抗体修飾粒子固定部603と被検試料液との接触によって抗体修飾粒子が遊離することが可能な構成を有していれば、構造物の材料や構造はどのようなものであってもよい。以下に限定されるものではないが、抗体修飾粒子固定部603としては、抗体修飾粒子を凍結乾燥させることにより、反応流路650の表面上又は表面上に固定した構造物上に抗体修飾粒子を担持させた、所定の厚みを有する抗体修飾粒子固定層であってもよい。
【0043】
第1のチャンバ610には、注入口611の下方に設けられ、注入口611から注入される被検試料液を収容し、反応流路650及び第1の流路602に被検試料液を導入するための試料液受け部613を備えていてもよい。この場合は、試料液受け部613内又はその壁面に抗体修飾粒子を固定した抗体修飾粒子固定層が形成されてもよい。
【0044】
第1のチャンバ610には、第1の流路602内の気体を排出可能な第1排気口612と、反応流路650内に設けられ、反応容器600の外部と連通する第2排気口651と、第1排気口612に開閉可能に接続された開閉機構690とを更に備えることが好ましい。開閉機構690は、被検試料液を反応流路650内に導入する際に第1排気口612を閉じ、反応流路650内の被検試料液を第1の流路602内に導入させる際に第1排気口612を開くように構成される。開閉機構690により、被検試料液が抗体修飾粒子固定部603と接触し、被検試料液中に遊離した抗体修飾粒子が細孔640に到達するまでの反応時間が調整可能である。開閉機構690は、本センサデバイスを用いて計測を行う計測装置が備えても良い。
【0045】
(粒子の解析方法)
利用者は、被検試料液を反応流路650内に導入させる際には、開閉機構690を用いて第1排気口612を閉じ、注入口611から検体を含む被検試料液を注入する。被検試料液は試料液受け部613を介して反応流路650内に導入される。このとき、反応流路650内に流入した被検試料液中の気体は、第2排気口651を介して外部へ排出される。被検試料液が反応流路650内へ導入され、抗体修飾粒子固定部603と接触する際、抗体修飾粒子が被検試料液中に遊離して混合液を形成する。この混合液作成の時点を反応時間の始点とする。固定された抗体修飾粒子が凍結乾燥されている場合、凍結乾燥された抗体修飾粒子が溶解して被検試料液中への遊離することによって抗体の活性が復活する。
【0046】
予め決められた一定期間が経過した後、開閉機構690を用いて第1排気口612を開くと、反応流路650内で抗体修飾粒子と結合して凝集塊状となった粒子を含む被検処理液が第1の流路602内に導入され、細孔640まで到達する。凝集塊状となった粒子を含む被検処理液が細孔640に達すると、第2の流路622の電解液と電気的に導通する。更に、第1の流路602及び第2の流路622に接続された第1及び第2の電極に電圧を印加すると、粒子が細孔640を通過する度にパルス信号が計測される。このようにして、開閉機構690を用いて第1排気口612の開閉を制御することにより、被検試料液が抗体修飾粒子固定部603と接触して細孔640まで到達し、第2の電解液と接触するまでの反応時間を調整することができる。
【0047】
本発明の第2の実施の形態に係るセンサデバイスによれば、注入口611と第1の流路602との間に設けられた反応流路650内に抗体修飾粒子固定部603を備えることにより、反応流路650内において被検試料液と抗体修飾粒子との混合を行うことができる。また、被検試料液を注入口611に導入した後、第1排気口612の開放までの時間を一定とすることで、凝集塊を含む粒子が細孔640を通過する際の反応時間のバラツキの影響を小さくできる。これにより、被検試料液の分析対象抗原濃度に応じた計測が可能となる。なお、開閉機構690の開閉制御は利用者が行ってもよい。或いは、第2の実施の形態に係るセンサデバイスをホストする計測装置側に開閉機構690の制御機構を有しており、反応時間の制御を計測装置が行ってもよい。
【0048】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係るセンサデバイスは、図7(a)及び図7(b)に示すように、細孔740を有する隔壁741と、隔壁741を介して区画され、細孔740を介して互いに接続された第1のチャンバ710と第2のチャンバ720とを有する反応容器700とを備える。更に、第1のチャンバ710は、検体と第1の電解液とを含む被検試料液を注入する注入口711と、被検試料液を注入口711から細孔740へ導入する第1の流路702と、注入口711と第1の流路702との間に設けられた反応流路750内に配置され、分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が固定された抗体修飾粒子固定部703とを備える。隔壁741は基材749上に配置されている。
【0049】
図7(a)及び図7(b)の例では、第1の流路702は紙面左右方向に沿って延びている。第2のチャンバ720は、注入口(不図示)に接続された第2の流路722を備える。第2の流路722は紙面垂直方向(奥行方向)に沿って延びている。第2の流路722内には第2の電解液が充填される。なお、図7(a)及び図7(b)に示すセンサデバイスにおいても、図1の第1の電極112および第2の電極122に相当する第1の電極及び第2の電極を有しているが、記載を省略している。第1のチャンバ710及び第2のチャンバ720には、あらかじめ第1の電解液及び第2の電解液が充填されていてもよい。
【0050】
反応流路750の内壁には、分析対象抗原に対して特定的に結合する抗体を表面に修飾した抗体修飾粒子を固定した、抗体修飾粒子固定部703が配置されている。抗体修飾粒子固定部703が配置される位置は特に限定されない。抗体修飾粒子は、反応流路750の壁面に、何らかの構造物、例えば繊維などを反応流路750中に配し、その構造物の表面に固定してもよい。即ち、抗体修飾粒子固定部703は、抗体修飾粒子固定部603上を被検試料液が通過する際に、抗体修飾粒子固定部603と被検試料液との接触によって抗体修飾粒子が遊離することが可能な構成を有していれば、構造物の材料や構造はどのようなものであってもよい。反応流路750内には、反応容器700の外部と連通する第2排気口751が設けられている。
【0051】
第1のチャンバ710は、注入口711の下方に設けられ、注入口711から注入される検体を含む被検試料液を収容して反応流路750及び第1の流路702に被検試料液を導入するための試料液受け部713を備えていてもよい。
【0052】
図7(a)に示すように、反応流路750と第1の流路702との間には、開閉可能に設けられたシャッター780を備えることが好ましい。シャッター780は、操作部781と操作部781に接続された開閉部782とを備え、反応容器700の外部より力を加えて開閉部782を反応容器700内に設けられた溝部792内へ収容することにより、シャッター780を閉状態とし、注入口711から注入された被検試料液を反応流路750内で一定期間保持させる。その後、操作部781を操作して開閉部782を溝部792から取り外してシャッター780を開状態にして抗体修飾粒子が混合された被検試料液を第1の流路702内へ流入させるように駆動させる。このようなシャッター780を備えることにより、被検試料液が抗体修飾粒子固定部703と接触して細孔740まで到達し、第2の電解液と接触するまでの反応時間が調整可能となる。図7(a)に示すように、シャッター780は、反応流路750と第1の流路702と境界部分となる位置に厳密に配置される必要はなく、境界部分から少しずれた部分、即ち、第1の流路702の被検試料液の供給方向上流側の任意の位置に配置してもよい。
【0053】
図7(b)は、反応流路750と第1の流路702との間に板状のシャッター785を予め配置した例を示す。被検試料液を反応流路750から第1の流路702内に導入する際には、板状のシャッター785を反応容器700の外に引き抜くことで、反応流路750内の混合液を細孔740へと進行させることができる。図7(b)に示す例によれば、シャッター780の構成を簡略化できるため、高感度な抗原検出または定量を簡便かつ低コストで実現できる。シャッター780の開閉の原理、構造はどのようなものであってもよい。
【0054】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態に係るセンサデバイスは、図8に示すように、細孔840を有する隔壁841と、隔壁841を介して区画され、細孔840を介して互いに接続された第1のチャンバ810と第2のチャンバ820とを有する反応容器800とを備える。更に、第1のチャンバ810は、検体を含む被検試料液を注入する注入口811と、被検試料液を注入口811から細孔840へ導入する第1の流路802と、注入口811と第1の流路802との間に設けられた反応流路850内に配置され、分析対象抗原と結合する抗体を修飾した抗体修飾粒子が固定された抗体修飾粒子固定部803とを備える。隔壁841は基材849上に配置されている。第1の流路802には第1の電極831が配置されている。第2の流路822には第2の電極832が接続されている。
【0055】
反応流路850内は、抗体修飾粒子固定部803として、抗体修飾粒子を内部に保持し、反応流路850内に注入された被検試料液を保持可能な反応パッド853が配置されている。反応パッド853は、典型的には多孔質の可撓性を有する弾性変形可能な部材で構成される。典型的には反応パッド853はスポンジ状部材等で構成されるがこれには限定されない。反応パッド853の下部には、反応パッド853を押圧して収縮させ、この収縮により反応パッド853から流出する抗体修飾粒子が混合された被検試料液を第1の流路802内へ導入させることが可能な駆動部880を備える。この駆動部880により、被検試料液中に遊離した抗体修飾粒子が細孔840に到達するまでの反応時間が調整可能となる。なお、反応流路850の壁面には更に抗体修飾粒子固定部803が配置されてもよい。
【0056】
駆動部880は、反応流路850内を反応容器800の厚さ方向に変位して、反応パッド853を収縮させることが可能なものであれば特に限定されない。例えば、駆動部880の下部から、所定のタイミングに応じて、駆動部880を反応流路850内の所定の高さまで、反応パッド853側へ手動で押し込むことができるようなスイッチ等を備えていてもよい。特に、駆動部880が、反応容器800の外部からの磁力の印加によって変位し、この変位によって反応パッド853への押圧状態を調整可能な電磁ピストン、ピストン式電磁式弁又は電磁式シリンダ等の外部から印加された磁力を物理的運動に変換する機械要素であることが好ましい。駆動部880は、電磁石等の反応容器800の外部からの磁力の印加によって反応流路850内をセンサデバイスの厚み方向に変位可能な部材であれば特に限定されない。図8のセンサデバイスをホストする計測装置(図10参照)側に駆動部880の制御機構を有し、計測装置側が駆動部880の押圧量又は変位量を制御することにより、反応時間の制御をより厳密に行うことができる。
【0057】
(粒子の解析方法)
利用者はまず、被検試料液を注入口811に導入し、注入口811を蓋890などで閉じる。被検試料液は反応パッド853に吸収されて保持される。反応パッド853中では、内部に固定された抗体修飾粒子が被検試料液中に遊離し、混合液を形成する。固定された抗体修飾粒子が凍結乾燥されている場合、被検試料液中への遊離によって、抗体の活性が復活する。この混合液作成の時点を反応時間の開始点とする。被検試料液中、すなわち混合液中に分析対象抗原が含まれる場合は、混合液中で分析対象抗原を介して抗体修飾粒子同士が結合し、凝集塊状の粒子を形成する。
【0058】
反応時間の開始点から予め定められた一定時間が経過した後、注入口811を蓋890などで閉じた状態で、電磁ピストン等からなる駆動部880に対して外部より磁力を印加し、反応流路850内の駆動部880を、図9に示すように、反応容器800の厚み方向に変位させる。駆動部880に対する磁力の印加は、センサデバイスをホストする計測装置などが有する磁力発生手段900としてのコイル等に電流を流すことで発生させてもよい。または、図10に示すように、第4の実施の形態に係るセンサデバイスが磁力発生手段900としてコイルを更に有しており、コイルに計測装置から電流を流すことで磁力を発生させてもよい。
【0059】
図9は、計測装置側に磁力発生手段900を備える例を模式的に表現している。駆動部880が変位すると、反応パッド853が押しつぶされることで、第1の流路802内に混合液が浸入する。被検試料液に分析対象抗原が含まれている場合には、反応時間の間に被検試料液中の抗原濃度に応じた凝集塊状の粒子が形成される。混合液中の粒子が細孔840に到達し、第2の流路822を充填した電解液と電気的に導通した状態で、第1の電極831および第2の電極832の間に電圧を印加すると、粒子が細孔840を通過する度に図2に説明したようなパルス信号が計測される。この一例でもやはり、注入口811に被検試料液を導入してから、反応時間を経過した後に駆動部880を変位させることで、反応時間を正確に制御することができる。
【0060】
磁力印加用の磁力発生手段900に流す電流によって、駆動部880に印加される磁力を自由に制御できる。すなわち、磁力発生手段900により、反応流路850および第1の流路802、さらに細孔840にかかる圧力を動的に制御できる。この性質を利用すると、センサデバイスで観測されるパルスの頻度、すなわち抗体修飾粒子単体またはその凝集塊が細孔840を通過する頻度を自由に制御することができる。
【0061】
図10はセンサデバイスを用いたパルス計測のための計測部1000及び計測部1000を制御する制御手段1030を備える計測装置の構成の一例を示す。計測装置は、細孔840を有する隔壁841と、隔壁841を介して区画され、細孔840を介して互いに接続された第1の電解液を充填する第1の流路802と第2の電解液を充填する第2の流路822とを備える反応容器800と、第1の流路802に接続された第1の電極831と、第2の流路822に接続された第2の電極832とを備え、第1の電極831と第2の電極832との間に電圧を印加して第1の流路802内を流れる粒子が細孔840を通過するときの検出信号を測定することによって、検体に含まれる分析対象抗原の有無又は濃度を推定するセンサデバイスの計測装置であって、第1の流路802内を流れる粒子が細孔840を通過する度に発生する電気抵抗の過渡変化を1つのパルスとして観測する電流計1012と、パルスの頻度を検出する頻度検出手段1031と、印加される磁力に応じて変位を生じる駆動部880を駆動するための磁力を発生させる磁力発生手段900と、頻度検出手段1031の出力に応じて磁力発生手段900の磁力の強度を変化させて駆動部880の変位を制御することにより、パルスの頻度を制御するパルス制御手段1032とを備える。
【0062】
計測部1000は、第1の電極831および第2の電極832間に電圧を印加する電圧源1011、磁力発生手段900及び可変抵抗1022に電圧を印加する電圧源1021、パルス信号増幅のためのアンプ1013、第1の流路802内を流れる粒子が細孔840を通過する度に発生する電気抵抗の過渡変化を1つのパルスとして観測する電流計1012および電流計1012の信号をデジタルに変換するアナログデジタルコンバータ(ADC)1014を備える。
【0063】
ADC1014によってデジタル化された電流値は、パルス切出部10312においてパルスが切り出された後、パルス頻度計算部10311によって一定間隔毎にパルスの頻度が計算される。磁力発生手段900としては典型的には磁力印加用のコイルが用いられる。このコイルに流す電流値は可変抵抗1022によって制御される。パルス制御手段1032は、頻度検出手段1031によって検出されたパルス頻度が目標設定値よりも高ければ、可変抵抗1022の抵抗値を上げ、目標設定値より低ければ、可変抵抗1022の抵抗値を下げるという帰還制御を行う。これにより、パルス頻度がより一定となるようにパルス頻度を安定化できる。
【0064】
計測装置は、第1の流路802の注入口(不図示)とは反対側の端部に第1の流路802内の気体を排出可能な第1排気口812を更に備えるセンサデバイスに対し、第1排気口812の開閉を制御可能な開閉制御手段1033を制御手段1030に更に備えていても良い。開閉制御手段1033は、例えば、図6に示すような第1排気口612の開閉を行う開閉機構690を制御するための制御信号を開閉機構690へ出力する。例えば、開閉制御手段1033は、被検試料液を図10の反応流路850内に導入する際に第1排気口812を閉じ、反応流路850内の被検試料液を第1の流路802内に導入させる際に第1排気口812を開くように構成される。開閉制御手段1033により、被検試料液が抗体修飾粒子固定部803と接触し、被検試料液中に遊離した抗体修飾粒子が第1の流路802を通って細孔840に到達するまでの反応時間が正確に制御可能である。なお、図6の開閉機構690を図10の計測装置側に備えていてもよい。これにより、センサデバイスの構成の簡素化が図れ、開閉機構690作製のための費用及び手間も省ける。
【0065】
本実施形態では、抗体修飾粒子の凝集状態を1つずつ、パルス波形の形状を分析することによって推定し、これによって対象抗原の検出や定量を行う。パルス波形の形状変化が微小な場合には、人工知能(AI)1041によって解析することもまた有効である。AI1041を用いたパルス形状の解析においては、数多くのパルス波形を教師データ1040としてAI1041に学習させる。特に、分析対象抗原の検出や定量を、医療用途の検査として用いる場合には、AI1041による解析に必要なパルス信号取得のための時間が短いことが要求される。このような場合に、図10のようなパルス制御手段1032を備えることによって、解析に必要なパルス信号取得のための時間が短時間で済む点において有用である。
【符号の説明】
【0066】
100、400、600、700、800…反応容器
101…計測対象粒子
110、410、610…第1のチャンバ
111、121、411、421、611…注入口
112…第1の電極
120、420、620…第2のチャンバ
122…第2の電極
140、440、640、740、840…細孔
141、441、641、741、841…隔壁
150…アンプ
151…電流計
152…電圧源
402、602,702、802…第1の流路
403、603、703、803…抗体修飾粒子固定部
412、612、712、812…第1排気口
422、622、722,822…第2の流路
449、649、749、849…基材
613、713…試料液受け部
650、750、850…反応流路
651…第2排気口
690…開閉機構
780、785…シャッター
781…操作部
782…開閉部
792…溝部
853…反応パッド
880…駆動部
890…蓋
900…磁力発生手段
1000…計測部
1011…電圧源
1012…電流計
1013…アンプ
1022…可変抵抗
1030…制御手段
1031…頻度検出手段
1032…パルス制御手段
1033…開閉制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10