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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112697
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】皺監視システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
G01N21/892 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017925
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】594020802
【氏名又は名称】株式会社メンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100103805
【弁理士】
【氏名又は名称】白崎 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100126516
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 綽勝
(74)【代理人】
【識別番号】100132104
【弁理士】
【氏名又は名称】勝木 俊晴
(74)【代理人】
【識別番号】100211753
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】関谷 宏
(72)【発明者】
【氏名】井出 翔太
(72)【発明者】
【氏名】和田 悟
(72)【発明者】
【氏名】稲松 遼
(72)【発明者】
【氏名】坂田 人丸
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 和之
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA34
2G051AB07
2G051CA04
2G051CB01
2G051CB05
2G051EA12
2G051EA16
2G051EB01
2G051ED03
2G051ED04
2G051ED08
2G051ED11
(57)【要約】
【課題】
クレープ加工を施した抄紙の皺の状態を監視し、皺の良否を判定することが可能な皺監視システムを提供すること。
【解決手段】
抄紙機1と、抄紙機1におけるクレープ加工により皺を形成した抄紙Pに光を照射する照明2と、抄紙Pを監視するための監視カメラ3と、監視カメラ3とネットワークNを介して接続された制御装置4と、を有し、皺の状態を監視するための皺監視システムAであって、制御装置4が、監視カメラ3で撮影された抄紙Pの任意の領域の画像を、監視カメラ3から取得する取得手段41と、画像に対し、画像処理を施し、処理画像i1とする処理手段42と、処理画像i1に対して、単位面積当たりの山頂数である頂点密度を算出する算出手段43と、頂点密度が予め設定した頂点閾値を超えるか否かで、皺の良否を判定する判定手段44と、を備える皺監視システムA。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙機と、該抄紙機におけるクレープ加工により皺を形成した抄紙に光を照射する照明と、前記抄紙を監視するための監視カメラと、該監視カメラとネットワークを介して接続された制御装置と、を有し、前記皺の状態を監視するための皺監視システムであって、
前記制御装置が、
前記監視カメラで撮影された前記抄紙の任意の領域の画像を、前記監視カメラから取得する取得手段と、
前記画像に対し、画像処理を施し処理画像とする処理手段と、
前記処理画像に対して、単位面積当たりの頂点数である頂点密度を算出する算出手段と、
前記山頂点密度が予め設定した頂点閾値を超えるか否かで、前記皺の良否を判定する判定手段と、
を備える皺監視システム。
【請求項2】
前記処理手段が、前記画像に対し少なくとも微分フィルタ処理を施すものである請求項1記載の皺監視システム。
【請求項3】
前記微分フィルタ処理が、前記画像に対し、少なくとも前記抄紙の搬送方向で遂行される請求項2記載の皺監視システム。
【請求項4】
前記頂点数が、前記処理画像において、輝度が任意の範囲の値の連続する画素群の数である請求項1記載の皺監視システム。
【請求項5】
前記算出手段が、前記クレープ加工による前記抄紙の表面積増大率を更に算出するものであり、
前記判定手段が、前記表面積増大率が予め設定した表面積閾値の範囲内であるか否かで更に前記皺の良否を判定するものである請求項1記載の皺監視システム。
【請求項6】
前記監視カメラがラインスキャンカメラである請求項1記載の皺監視システム。
【請求項7】
前記抄紙機が、前記抄紙を乾燥しながら案内するドライヤーロールを有し、
前記ドライヤーロールを経た直後の抄紙の表面側に、前記照明及び前記監視カメラが設置される請求項1~6いずれか1項に記載の皺監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機を用いたクレープ加工において当該クレープ加工を施した抄紙の皺の状態を監視し、皺の良否を判定することが可能な皺監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
紙は日常的に広く用いられる工業製品であり、その製造工程において紙の品質を監視するシステムが開発されている。
例えば特許文献1の監視装置は、抄紙機内でロールにより走行する紙に光を当てる発光手段と、上記紙を透過した該発光手段の光を撮影する撮影手段と、該撮影手段の画像を処理する画像処理手段と、該画像処理手段の処理結果に基づいて上記紙の上記ロールからの剥離点の変動量を定量的に監視して上記抄紙機の異常を診断する診断手段とを備えたことを特徴とする監視装置である。
【0003】
ところで、ティッシュペーパー等の家庭紙においては、手触りの良さから抄紙に皺を施すクレープ加工が広く行われている(例えば、特許文献2)。
【0004】
クレープ加工は抄紙を送り出す側のローラーの回転速度を、巻き取る側のローラーの回転速度よりも大きくすることで、抄紙に皺を形成する加工である。
このときの、両ローラーの回転数の比率をクレープ率という。クレープ率を調整することにより、種々のタイプの皺が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3268276号公報
【特許文献2】特開2005-213691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クレープ加工を施した抄紙は、その皺の状態によって特性が変化する。
しかしながら、クレープ加工において広く皺の基準として用いられる上記クレープ率は、ローラーの回転数のみで算出され皺の形成に影響を与える他の要因を踏まえたものではない。そのためクレープ率の数値が必ずしも皺の状態と一致するとはいえず、クレープ率はクレープ加工を施した抄紙を適切に判定できているとはいえない。
【0007】
また、特許文献1の監視装置は製造上の異常を監視するものであり、クレープ加工において所与のものである皺の状態を監視するものではない。
【0008】
本発明は、上述の課題を受けて開発されたものである。
すなわち、本発明はクレープ加工を施した抄紙の皺の状態を監視し、皺の良否を判定することが可能な皺監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意検討の結果、皺を形成した抄紙の画像に、少なくとも明暗処理を施した処理画像に対し、頂点密度を監視することにより、皺の状態を直接的に判定することが可能であることを見出した。本発明はこの知見に基づく。
【0010】
本発明は、抄紙機1と、抄紙機1におけるクレープ加工により皺を形成した抄紙Pに光を照射する照明2と、抄紙Pを監視するための監視カメラ3と、監視カメラ3とネットワークNを介して接続された制御装置4と、を有し、皺の状態を監視するための皺監視システムAであって、制御装置4が、監視カメラ3で撮影された抄紙Pの任意の領域の画像を、監視カメラ3から取得する取得手段41と、画像に対し、画像処理を施し、処理画像i1とする処理手段42と、処理画像i1に対して、単位面積当たりの頂点数である頂点密度を算出する算出手段43と、頂点密度が予め設定した頂点閾値を超えるか否かで、皺の良否を判定する判定手段44と、を備える皺監視システムAに存する。
【0011】
本発明は、処理手段が、画像に対し、少なくとも微分フィルタ処理を施すものである上記記載の皺監視システムAに存する。
【0012】
本発明は、微分フィルタ処理が、画像に対し、少なくとも抄紙Pの搬送方向で遂行される上記記載の皺監視システムAに存する。
【0013】
本発明は、頂点数が、処理画像i1において、輝度が任意の範囲の値の連続する画素群の数である上記記載の皺監視システムAに存する。
【0014】
本発明は、算出手段43が、クレープ加工による抄紙Pの表面積増大率を更に算出するものであり、判定手段44が、表面積増大率が予め設定した表面積閾値の範囲内であるか否かで、皺の良否を更に判定するものである上記記載の皺監視システムAに存する。
【0015】
本発明は、監視カメラ3がラインスキャンカメラ3である上記記載の皺監視システムAに存する。
【0016】
本発明は、抄紙機1が、抄紙Pを乾燥しながら案内するドライヤーロールDRを有し、ドライヤーロールDRを経た直後の抄紙Pの表面側に、照明2及び監視カメラ3が設置される上記記載の皺監視システムAに存する。
【0017】
また本発明は、上記の構成を適宜組み合わせたものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
皺監視システムAにおいては、処理画像i1に対して、単位面積当たりの頂点数である頂点密度を算出する算出手段43を備えることにより、装置によってクレープ加工を施した抄紙Pの皺の状態を直接的に監視することができる。
その結果、所望の皺が適切に製造されているか監視することできる。
その結果、人の五感による官能評価に替えて、抄紙Pの手触りの柔らかさなどを判定し、所望の抄紙を確実に得ることが可能となる。
また、頂点数が予め設定した頂点閾値を超えるか否かで、皺の良否判定する判定手段44、を備えることにより、算出した頂点密度が頂点閾値を超えない、又はその兆候がある場合、抄紙機を調整し、良好な皺の状態を保って抄紙を継続することが可能となる。
【0019】
皺監視システムAにおいては、処理手段42が、画像に対し微分フィルタ処理を施し処理画像i1とする処理手段42を有することにより、処理画像i1における抄紙Pに形成された皺をより明確な状態とすることができ、当該処理画像i1を用いることで算出手段43が緻密な皺であっても検知することが可能となる。
【0020】
皺監視システムAにおいては、微分フィルタ処理が、画像に対し、少なくとも抄紙Pの搬送方向で遂行されることにより、処理画像i1において抄紙Pの搬送方向における皺の輪郭が明確となる。
すなわち、クレープ加工による皺は抄紙Pの幅方向に延びているため、抄紙の搬送方向で微分フィルタ処理を遂行することで、皺の長手方向を検出することができ、検出精度が向上する。これにより、算出手段43がより確実に凸状となった皺の輪郭を発見することができ、頂点密度の算出の精度が向上する。
【0021】
皺監視システムAにおいては、頂点数が、処理画像i1において、輝度が任意の範囲の値の連続する画素群の数とすることにより、製造上の異常により生じた皺等を除外して、クレープ加工によって生じた皺を正確に監視することができる。
【0022】
皺監視システムAにおいては、クレープ加工による抄紙Pの表面積増大率を算出するものであることにより、抄紙Pのクレープ加工によって皺の状態に加えてクレープ加工による抄紙全体の嵩の変化を監視することが可能となる。
【0023】
皺監視システムAにおいては、ドライヤーロールDRを経た直後の抄紙Pの表面側に、照明2及び監視カメラ3が設置されることにより、極力他の要因を除外し、クレープ加工直後の皺の状態を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、皺監視システムを示す説明図である。
図2図2は、制御装置を示す説明図である。
図3図3は、制御装置の動作を示すフローチャートである。
図4図4は、結合画像を示す拡大図である。
図5図5は、処理画像を示す拡大図である。
図6図6は、頂点密度の算出を説明するための説明図である。
図7図7は、結合画像における輝度の変化をグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
図1は、皺監視システムAを示す説明図である。
本発明の皺監視システムAは、抄紙Pを製造し、当該抄紙Pにクレープ加工を施す抄紙機1と、抄紙Pに光を照射する照明2と、抄紙Pを監視するための監視カメラ3と、該監視カメラ3とネットワークNを介して接続された制御装置4と、を有する。
皺監視システムAは、抄紙機1においてクレープ加工により抄紙Pに形成された皺の状態を監視するためのシステムである。
【0027】
抄紙機1においては抄紙工程が行われ、当該抄紙工程は少なくとも原料を抄造して抄紙Pとするワイヤーパート、抄紙Pを押圧して水分を除くプレスパート、プレスパートにより脱水された抄紙Pを乾燥させるドライパート、抄紙Pを巻き取るリールパートを有する。図1において、抄紙機1はドライパート及びリールパートを示す。抄紙機1は、原紙及び抄紙Pを、ローラーにより案内しながら搬送することで、各工程間を搬送する。
【0028】
クレープ加工は、ドライパートにおいて行われる。上記の通り、ドライパートにおいて、抄紙PはドライヤーロールDRに案内されながら搬送される。この際に、抄紙機1においてはドライヤーロールDRから半乾燥状態の抄紙Pを刃状のブレードBをドライヤーロールDRに当接させることで引き剥がす。このブレードBによる引き剥がしによって抄紙Pに皺(クレープ)が生じる。
クレープ加工においては、抄紙Pに皺が生じることによって搬送方向の長さに変化が生じるため、送り出し側のローラー(ドライヤーロールDR)に対して、巻取り側のローラーRを低速で回転することとなる。
【0029】
皺監視システムAは、抄紙機1の最下流側のドライヤーロールDRを経た直後の抄紙Pの表面側に、抄紙Pを撮影する方向に配置された監視カメラ3を有する。
監視カメラ3は、縦が1画素の棒状の画像を撮影するラインスキャンカメラ3である。
監視カメラ3の撮影速度は、例えば抄紙Pの搬送速度が0~700m/分である場合、55,000回/秒以上とすることが好ましく、65,000回/秒以上とすることがより好ましい。
これにより、抄紙Pの搬送方向の全長にわたって皺の状態を適切に撮影することが可能となる。
【0030】
皺監視システムAにおいては、監視カメラ3がラインスキャンカメラ3であることにより、撮影速度を確保することが可能となり、抄紙Pの全長において皺を監視することが可能となる。
また、皺監視システムAにおいては、ドライヤーロールDRを経た直後の抄紙Pの表面側に、照明2及び監視カメラ3が設置されることにより、極力他の要因を除外し、クレープ加工直後の抄紙Pの皺の状態を監視することができる。そのため、クレープ加工を施した抄紙Pをより適切に判定できる。
【0031】
ラインスキャンカメラ3は、抄紙Pをモノクロ画像として撮影する。これにより、撮影された画像において各画素が輝度のデータのみを有することになり、RGBの各データを有するカラー画像に比べて、データ容量が小さくなり処理の負担が軽減される。
その結果、上記の撮影速度を担保することが可能となり、後述の画像処理も高速化することができる。
【0032】
照明2は、監視カメラ3の撮影範囲を、監視カメラ3の搬送方向上流側又は下流側から、搬送方向に対して鋭角に照射するように配置される。
これにより、抄紙Pの皺の搬送方向における輪郭をより際立たせた状態で撮影することが可能となる。
照明2には、光量と低消費電力の点から、LEDを好適に利用することができる。
【0033】
図2は、制御装置4を示す説明図である。
制御装置4は、ネットワークNを介して監視カメラ3と接続されている。監視カメラ3は、制御装置4から指令を受けることにより、抄紙Pを撮影する。ネットワークNは、有線であっても無線であってもよい。
制御装置4は、少なくとも監視カメラ3で撮影された抄紙Pの任意の領域の画像を、監視カメラ3から取得する取得手段41と、画像に対し、微分フィルタ処理を施し、処理画像i1とする処理手段42と、処理画像i1に対して、単位面積当たりの頂点数である頂点密度を算出する算出手段43と、頂点数が予め設定した頂点閾値を超えるか否かで、皺の良否を判定する判定手段44と、を備える。
【0034】
制御装置4には、記憶部、演算部、及び制御部を有するコンピュータを好適に用いることができる。この場合、取得手段41は記憶部に相当する。
また、処理手段42及び算出手段43は演算部に相当する。
【0035】
図3は、制御装置4の動作を示すフローチャートである。
取得手段41においては、監視カメラ3によって撮影された画像を取得する。
上記の通り、ラインスキャンカメラ3によって撮影された画像は極細の線状である。
処理手段42は、上記複数の線状の画像を並べて結合することにより、矩形状の結合画像i0とする(図4参照)。
処理手段42は45,000~55,000個程度のラインスキャンカメラ3により撮影された画像を1つの結合画像i0とする。
例えば抄紙Pが700m/分で搬送されている場合、結合画像i0は搬送方向で950cm前後の範囲ごとの抄紙Pの画像となる。これは、ドライヤーロールDRの直径が3mである場合のドライヤーロールDRの約1周分である。
【0036】
処理手段42は、結合画像i0に対し明暗処理や微分フィルタ処理等の画像処理を行う。ここで、微分フィルタとは行と列が同数の、任意の成分を有するフィルタ行列である。微分フィルタ処理とは、結合画像i0を、輝度を成分とするフィルタ行列として、微分フィルタを畳み込み演算することである。
ここで、本実施例の皺監視システムAにおいては搬送方向に皺の輪郭を検出する。このため、微分フィルタのフィルタ行列においては、最上段の行及び最下段の行を除く各行の成分は0となっている。
微分処理を抄紙Pの搬送方向において行うことにより、クレープ加工によって抄紙Pの幅方向に形成される皺をその長手方向において検出することができ、検出精度が向上する。
また、微分フィルタ処理を抄紙Pの搬送方向において行うことにより、処理画像i1においては皺の輪郭が明確となる。同時に、処理手段42の負担が低減し、高速の処理が可能となる。
【0037】
処理手段42が、監視カメラ3が撮影した画像に対して微分フィルタ処理を行うことにより、処理画像i1が得られる(図5参照)。
処理手段42が微分フィルタ処理を行うことにより、処理画像i1において皺の輪郭がより明確な状態となる。これにより、算出手段43が緻密な皺でも発見することが可能となり、かつ処理負担が軽減する。
【0038】
算出手段43は頂点密度を計測する。
ここで、抄紙Pにおける頂点とは、クレープ加工により抄紙Pに形成された皺の凹凸のピークを指す。
本実施例において皺監視システムAは、凹凸のうち凸状(すなわち、山)となっている部分のピーク(山頂)の数を算出し、頂点密度を計測する。
【0039】
図6は、頂点密度の算出を説明するための説明図である。
算出手段43は、輝度が任意の範囲の値の連続する画素群を頂点として検出する。
具体的には任意の値以上、すなわち処理画像i1において白色の塊として表示される画素群の数を頂点の数として算出する。
詳しく述べると、算出手段43は、任意の一定値以上の輝度を有する画素を発見し、当該画素に連続する同様に任意の一定値以上の輝度を有する画素(群)を、一つの画素群と判定する。
【0040】
具体的には、算出手段43は処理画像i1を抄紙Pの少なくとも幅方向に走査し、輝度が任意の一定値以上に高い画素M1(図6における白色部分)を山の一部と判定する。当該山の一部と判定された画素と任意の方向に隣接する画素において、同様に輝度が任意の一定値以上の画素M2を既知の山の一部と判定された画素M1と同じ山の一部と判定する。一方で、輝度が任意の一定値未満の画素(図6の黒色部分)は、平坦又は皺の凹部分であると判定する。
このとき、画素は格子状に並んでいるため、当該画素に隣接する画素は上下左右、及び斜め方向の8つである。
このため、試行は最大8回行われる。
検知を試行する隣接する画素の方向は、当該画素から左下に隣接する方向を0とし、反時計回りに0~7までの数字を振った場合に、
(従前に検知した方向の数字+6)/8
の式により得られる余りの数の方向とする。
これにより、試行回数を少なくし、算出手段43の処理負担を低減することが可能となる。
【0041】
これを繰り返すことで、最初に山の一部と判定された画素に到達すると、連続して山の一部と判定された画素群が1つの山と判定される。
【0042】
クレープ加工によって生じる皺は、抄紙Pの幅方向に生じる。
そのため、算出手段43が、連続する輝度が任意の一定値以上に高い画素群を一つの山、すなわち一つの皺と判定することにより、皺監視システムAは、製造上の異常によって生じる皺等を除外してクレープ加工によって生じた皺を正確に、かつ直接的に監視することが可能となる。
【0043】
1つの山を判定した後、算出手段44は上述幅方向の走査を再開する。これにより、輝度が任意の値以上の連続する画素群の数が算出され、、算出手段43は山の個数を数え上げる。更に算出手段43は、得られた山の個数を単位面積で除すことにより、頂点密度を算出する。
【0044】
判定手段44は、算出手段43が算出した頂点密度が予め定められた頂点閾値を超える場合、クレープの状態を良好なものであると判定する。
また、判定手段44は、頂点密度が予め定められた頂点閾値以下である場合、クレープの状態を不良なものであると判定する。
これにより、所望の皺が適切に製造されているか監視することできる。
その結果、人の五感による官能評価に替えて、抄紙Pの手触りの柔らかさなどを判定し、所望の抄紙を確実に得ることが可能となる。
また、算出手段43が算出した頂点密度が頂点閾値を超えない、又はその兆候がある場合、抄紙機を調整し、良好な皺の状態を保って抄紙を継続することが可能となる。
また、頂点閾値を変更することで、異なる種類の皺にも対応することが可能である。頂点閾値は、製造する抄紙P(クレープ紙)の種類に応じ、例えば30~50/cm2、又は90~110/cm2等、任に設定することができる。
【0045】
図7は、結合画像i0における輝度の変化をグラフである。横軸に図4の線XXにおける画素、縦軸にそれぞれの画素における輝度をプロットしたグラフである。
すなわち、横軸の長さは抄紙Pの搬送方向長さに相当する。
算出手段43は更に、クレープ加工による抄紙Pの表面積増大率を算出する。上述の通り、結合画像i0において輝度の高い画素は皺による凸状(山)となった部分、輝度の低い画素は凹状となった部分である。これらに基づいて、輝度を縦軸、搬送方向長さを横軸としたグラフを作成する。
このとき、横軸の長さ(搬送方向長さ)をL1、グラフの線の長さをL2とすると、
(L2-L1)/L1
を求めることにより、近似的にクレープ加工による表面積の増大率を計算できる。
上記の一連の計算を幅方向における全ての画素で行い積算することにより、抄紙P全体のクレープ加工による表面積の増大率を計算できる。
【0046】
しかし、L2の長さを直接算出することは困難である。
一方で、上記(L2-L1)の値は、隣接する画素同士における輝度の差の総和といえるため、当該差の絶対値の総和を求めることにより、(L2-L1)の値を近似的に求めることが可能である。
【0047】
抄紙Pにおいて表面積が増大すると、抄紙P全体の嵩が増す。
すなわち、皺監視ステムAにより表面積の増大率を監視することにより、クレープ加工による抄紙Pの嵩の変化を直接的に監視することが可能となる。
判定手段44は、算出手段43が算出した表面積増大率が予め定められた表面積閾値の範囲内であるか否かで、更にクレープ加工の良否を判定する。表面積増大率が表面積閾値の範囲内である場合、クレープ加工の強度は適正である。
一方で、表面積増大率が閾値から外れる場合、クレープ加工の強度が過大又は過少であると判断できる。
なお、このとき結合画像i0を用いることにより、微分フィルタ処理前の微細な輝度の変化がそのままグラフとしてプロットされるため、抄紙Pの皺の状態をより正確に監視することが可能となる。
【0048】
また、算出手段43は、上述のグラフをもとに、最大山高さ、平均山高さを算出することができる。同様に、それぞれの山及び谷の曲率(頂点の近似円の半径の逆数)とこれらのばらつきとを算出することができる。これらにより、クレープ加工による皺のばらつき、皺の掛かり方の強度を計測することができる(図7参照)。
これらにより、抄紙Pにおけるクレープ加工の均一性を判定することができる。
その結果、より詳細に抄紙Pの物理的な特徴を監視することが可能となる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
本実施例において皺監視システムAは、微分フィルタ処理を抄紙Pの搬送方向に対して行っていたが、抄紙Pの幅方向に微分フィルタ処理を行ってもよい。この場合、より正確にクレープの皺を監視することが可能となる。
【0051】
本実施例において、監視カメラ3にはラインスキャンカメラを用いていたが、他の種類のカメラを用いてもよい。
【0052】
本実施例において、微分フィルタは最上段の行及び最下段の行以外の成分を0とする行列同数のフィルタ行列であったが、微分フィルタとして用いるフィルタ行列の大きさ、及び各成分は任意である。
【0053】
本実施例においては、処理手段42は画像に対して微分フィルタ処理を行っているが、これに加えてノイズ除去等の明暗処理を行うものとしてもよい。この場合、画像から視覚的に皺の状態を知覚することが容易となる。
また、処理手段42が微分フィルタ処理に加えて更に二値化処理を行うものとしてもよい。これにより、算出手段43がより低負担で抄紙Pの皺の頂点密度を算出することが可能となる。
【0054】
本実施例において、表面積増大率の算出には結合画像i0を用いているが、処理画像i1を用いるものとしてもよい。この場合、算出手段44の処理負担が低減し、より高速での処理が可能となる。
【0055】
本実施例において、算出手段43は抄紙の凸状となった山頂点を算出して頂点密度を計測しているが、凹状となった頂点(谷頂点)を算出して頂点密度を計測するものとしてもよい。
この場合、谷頂点は処理画像i0において輝度が一定値以下の連続する画素群の数となる。
また、山頂点及び谷頂点の双方を算出するものとしてもよい。
【0056】
本実施例において、皺監視システムAは頂点密度に加えて抄紙Pの嵩の増大率を監視しているが、嵩の増大率を監視することは必須ではない。
【0057】
皺監視システムAにおいては、判定結果を外部に出力するものとしてもよい。
これにより、制御装置4が出力部を備えるものとし、判定結果を人が認識可能に出力したり、判定結果を抄紙機1にフィードバックし、抄紙1の抄造を制御するものとすることができる。
【0058】
制御装置4が更に学習手段を有し、当該学習手段が判定手段による判定結果を学習して、頂点閾値及び表面積閾値を変更するものとしてもよい。
これにより、抄造を継続することにより、判定の精度を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の皺監視システムAは、抄紙Pの製造において広く用いることが可能である。
また、エンボス加工等、抄紙P以外の凹凸を有する抄紙Pの製造においても、抄紙Pの監視のために用いることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
A・・・皺監視システム
B・・・ブレード
1・・・抄紙機
DR・・・ドライヤーロール
R・・・巻取り側のローラー
2・・・照明
3・・・監視カメラ(ラインスキャンカメラ)
4・・・制御装置
41・・・取得手段
42・・・処理手段
43・・・算出手段
44・・・判定手段
N・・・ネットワーク
i0・・・結合画像
i1・・・処理画像
M1、M2・・・画素
P・・・抄紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7