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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112699
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ヤンキードライヤーの監視システム
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20240814BHJP
   D21F 5/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
D21H27/00 G
D21F5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017927
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】594020802
【氏名又は名称】株式会社メンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100103805
【弁理士】
【氏名又は名称】白崎 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100126516
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 綽勝
(74)【代理人】
【識別番号】100132104
【弁理士】
【氏名又は名称】勝木 俊晴
(74)【代理人】
【識別番号】100211753
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】関谷 宏
(72)【発明者】
【氏名】井出 翔太
(72)【発明者】
【氏名】和田 悟
(72)【発明者】
【氏名】稲松 遼
(72)【発明者】
【氏名】坂田 人丸
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 和之
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AJ06
4L055CF03
4L055CF50
4L055DA09
4L055FA22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】経験則によらないで、ヤンキードライヤーに対策を施す適切なタイミングを認識することができ、歩留まりの低下を抑制することが可能なヤンキードライヤーの監視システムを提供する。
【解決手段】光沢を有する金属製のヤンキードライヤーYDにクレープ剤を付与するための薬液付与装置Nと、当接されたクレーピングドクターCRと、光を照射する照明Lと、ヤンキードライヤーYDを監視するための監視カメラCと、監視カメラCとネットワークを介して接続された制御装置10と、を有し、制御装置10が、監視カメラCで撮影された画像を、監視カメラCから取得する取得手段と、画像の画素毎に測定した平均輝度を算出する算出手段と、取得手段及び算出手段が繰り返されることにより得られる複数の平均輝度を経時的に記憶する記憶手段と、平均輝度が予め設定した閾値を超えるか否かで、ヤンキードライヤーの状態を判定する判定手段と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレープ加工におけるヤンキードライヤーの状態を監視するためのヤンキードライヤーの監視システムであって、
光沢を有する金属製のヤンキードライヤーと、該ヤンキードライヤーにクレープ剤を付与するための薬液付与装置と、前記ヤンキードライヤーに当接されたクレーピングドクターと、前記ヤンキードライヤーに光を照射する照明と、前記ヤンキードライヤーを監視するための監視カメラと、該監視カメラとネットワークを介して接続された制御装置と、を有し、
前記制御装置が、
前記監視カメラで撮影された、稼働中の前記ヤンキードライヤーの表面の任意の領域の画像を、前記監視カメラから取得する取得手段と、
前記画像の画素毎に測定した輝度の平均値である平均輝度を算出する算出手段と、
前記取得手段及び前記算出手段が繰り返されることにより得られる複数の前記平均輝度を経時的に記憶する記憶手段と、
前記平均輝度が予め設定した閾値を超えるか否かで、前記ヤンキードライヤーの状態を判定する判定手段と、
を備えるヤンキードライヤーの監視システム。
【請求項2】
前記画像における前記ヤンキードライヤーの幅方向をX軸、該X軸に直交する方向をY軸とした場合に、
前記算出手段が、更に、Y軸方向に連なる画素列における平均輝度をX軸方向の画素列それぞれに算出するものである請求項1記載のヤンキードライヤーの監視システム。
【請求項3】
前記監視カメラがラインスキャンカメラである請求項1記載の監視システム。
【請求項4】
前記照明及び前記監視カメラが、前記ヤンキードライヤーの抄紙と接している部分に向けられている請求項1記載の監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤンキードライヤーの監視システムに関し、更に詳しくは、抄紙機におけるクレープ加工において、ヤンキードライヤーの状態を監視するための監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
紙の製造においては、一般に、乾燥したパルプシートを解繊し、填料やサイズ剤等の添加剤を加えたものを攪拌混合してパルプの分散体とする紙料調成工程と、抄紙機を用い、パルプの分散体を抄紙用のワイヤーに載せ余分な水を自然落下させるワイヤーパート、これを一対のプレスロール間に通しフェルトを介してプレスロールで押圧することにより、紙中の水分をフェルトに移行させ、これにより抄紙を脱水するプレスパート、プレスパートを通過した抄紙を、加熱されたドライヤーに接触させることで乾燥させるドライパート、抄紙をスプールに巻き取るリールパート等の各パートを経由させて紙とする抄紙工程とが行われる。
また、かかる抄紙工程においては、ティッシュペーパーやトイレットペーパー等の家庭紙を製造する場合、抄紙にクレープと呼ばれる皴を設けるクレープ加工が行われている。
【0003】
ところで、クレープ加工においては、抄紙をヤンキードライヤーから剥離させる際に、紙粉がヤンキードライヤーに残存するという事態が生じる。そして、その紙粉は、経時的に蓄積され、抄紙の付着性を阻害する要因となる。
一方で、付着性を向上させるためのクレープ剤は、ヤンキードライヤーの表面に付与されるものの、それが連続して案内される抄紙に徐々に転移するため、クレープ剤のヤンキードライヤーへの付与量が徐々に低下する。そうすると、抄紙の付着性が徐々に低下することになる。
したがって、単純にクレープ加工を継続すると、ヤンキードライヤーへの抄紙の付着性が徐々に低下し、所望の皴が得られないことになる。このため、現状においては、クレープ剤の反復付与による付着性対策、ヤンキードライヤーに付着した紙粉を除去する清掃やクレーピングドクターの交換等による紙粉対策等の対策が行われている。
【0004】
ところが、これらの対策は、経験則に基づくタイミングで行われるため、例えば作業者が変わった場合等に適切なタイミングでこれらの対策ができるとは必ずしもいえない。仮に対策のタイミングを外すと、クレープ加工の歩留まりが大きく低下するという事態が生じ得る。
【0005】
これに対し、クレープ加工を監視することにより、経験則の利用を除外する試みがなされている。
例えば、ヤンキードライヤーに形成されるクレープ剤による被膜を監視する方法が知られている。すなわち、(a)クレーピングシリンダ(ヤンキードライヤー)表面にコーティング(被膜)を形成することと、(b)示差法によりクレーピングシリンダ表面のコーティングの厚さを測定することであって、コーティングと物理的に接触しない複数の装置を示差法が利用することと、(c)クレーピングシリンダ表面に均一厚さコーティングを設けるように、コーティングの厚さに応じてクレーピングシリンダの一つ以上の規定ゾーンにおけるコーティングの形成を任意で調節することと、(d)追加デバイスを任意で使用して、クレーピングシリンダのコーティングの厚さを除くコーティングの他の面を監視して任意で制御することと、を包含する、クレーピングシリンダ表面への性能向上剤(PEM)含有コーティングの形成を監視して任意で制御する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このコーティングの形成を監視する方法によれば、ヤンキードライヤーに対するクレーピング剤の付与量を監視できるので、経験則によらずとも、クレープ剤の付与のタイミングは認識することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2012-505322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1記載のコーティングの形成を監視する方法により、コーティングの形成を監視するだけでは、十分であるとはいえない。すなわち、クレープ加工においては、ヤンキードライヤーに紙粉が必ず付着するため、仮にコーティングの形成が十分であっても、紙粉の蓄積により歩留まりが低下することが生じ得る。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ヤンキードライヤーの状態を監視することにより、経験則によらないで、ヤンキードライヤーに対策を施す適切なタイミングを認識することができ、その結果、歩留まりの低下を抑制することが可能なヤンキードライヤーの監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、クレープ剤及び紙粉が付着する対象であるヤンキードライヤーを直接監視できないかと考えた。そして、照明で光を照射した場合のヤンキードライヤーの輝度に着目し、平均輝度を算出する手段と、当該平均輝度が所定の閾値を超えるか否かを判定する判定手段とを備えることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、クレープ加工におけるヤンキードライヤーの状態を監視するためのヤンキードライヤーの監視システムであって、光沢を有する金属製のヤンキードライヤーと、該ヤンキードライヤーにクレープ剤を付与するための薬液付与装置と、ヤンキードライヤーに当接されたクレーピングドクターと、ヤンキードライヤーに光を照射する照明と、ヤンキードライヤーを監視するための監視カメラと、監視カメラとネットワークを介して接続された制御装置と、を有し、制御装置が、監視カメラで撮影された、稼働中のヤンキードライヤーの表面の任意の領域の画像を、監視カメラから取得する取得手段と、画像の画素毎に測定した輝度の平均値である平均輝度を算出する算出手段と、取得手段及び算出手段が繰り返されることにより得られる複数の平均輝度を経時的に記憶する記憶手段と、平均輝度が予め設定した閾値を超えるか否かで、ヤンキードライヤーの状態を判定する判定手段と、を備えるヤンキードライヤーの監視システムである。
【0011】
本発明のヤンキードライヤーの監視システムにおいては、画像におけるヤンキードライヤーの幅方向をX軸、該X軸に直交する方向をY軸とした場合に、算出手段が、更に、Y軸方向に連なる画素列における平均輝度をX軸方向の画素列それぞれに算出するものであることが好ましい。
【0012】
本発明のヤンキードライヤーの監視システムにおいては、監視カメラがラインスキャンカメラであることが好ましい。
【0013】
本発明のヤンキードライヤーの監視システムにおいては、照明及び監視カメラが、ヤンキードライヤーの抄紙と接している部分に向けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のヤンキードライヤーの監視システムにおいては、制御装置が、照明で光を照射したヤンキードライヤーの任意の領域における画像に対し、平均輝度を算出する算出手段と、当該平均輝度を経時的に記憶する記憶手段とを備えるので、クレープ加工におけるヤンキードライヤー表面の平均輝度の経時的変化を認識することができる。
すなわち、ヤンキードライヤーに、クレープ剤及び紙粉(以下これらを合わせて「付着物」ともいう。)が付着した場合、付着物の総量に比例して、画像の平均輝度が低下するので、付着物の量の変化を経時的に認識することが可能となる。
なお、本発明のヤンキードライヤーの監視システムにおいては、ヤンキードライヤーが、光沢を有する金属製であるので、輝度が大きく(明るく)、平均輝度の変化をより認識し易い。
【0015】
また、制御装置が、平均輝度が所定の閾値を超えるか否かを判定する判定手段を備えるので、閾値を超えた場合を、ヤンキードライヤーに、クレープ剤の付与による付着性対策、ヤンキードライヤーに付着した紙粉を除去する清掃やクレーピングドクターの交換等による紙粉対策等の対策を施す適切なタイミングとして認識することができる。なお、閾値を超えない範囲においてはクレープ加工を継続すればよい。
これらのことから、ヤンキードライヤーの監視システムによれば、経験則によらないで、ヤンキードライヤーに対策を施す適切なタイミングを認識することができ、その結果、歩留まりの低下を未然に抑制することが可能となる。
【0016】
本発明のヤンキードライヤーの監視システムにおいては、算出手段が、X軸方向の画素列それぞれに平均輝度を更に算出するものであることにより、X軸方向における平均輝度が閾値を超えた位置を認識することが可能となる。
【0017】
本発明のヤンキードライヤーの監視システムにおいては、算出手段が、画素毎における輝度の数値的特徴から、その輝度を、ヤンキードライヤーに紙粉が付着した部分の第1輝度と、ヤンキードライヤーにクレープ剤が付着した部分の第2輝度と、ヤンキードライヤーに紙粉及びクレープ剤が付着した部分の第3輝度とに分類することができる。
そして、上述したことと同様に、これらの平均輝度から、閾値を超えるか否かを判定することで、ヤンキードライヤーの表面の状態をより詳細に監視することが可能となる。その結果、上述した付着性対策、紙粉対策等をより効果的に行うことができる。
【0018】
本発明のヤンキードライヤーの監視システムにおいては、監視カメラがラインスキャンカメラである場合、いわゆるエリアスキャンカメラと比較して、画像を高解像度とすることができ、また、撮影範囲が狭いため、照明によるムラが生じ難いという利点がある。
【0019】
本発明のヤンキードライヤーの監視システムにおいては、照明及び監視カメラを、ヤンキードライヤーの抄紙と接している部分に向けることで、照明及び監視カメラを十分なスペースに設置することが可能となる。
ちなみに、ヤンキードライヤーは、高速で搬送される抄紙を乾燥させるためのものであるので、一般に、その外周において、抄紙と接している部分は多く、接していない部分は限定的となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係るヤンキードライヤーの監視システムの一実施形態を含むドライパート及びリールパートを示す模式側面図である。
図2図2は、本実施形態に係るヤンキードライヤーの監視システムの制御装置を説明するためのブロック図である。
図3図3は、本実施形態に係るヤンキードライヤーの監視システムの動作を示すフローチャートである。
図4図4は、本実施形態に係るヤンキードライヤーの監視システムで用いられる画素を説明するため、画像の一部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
本発明に係るヤンキードライヤーの監視システムは、抄紙工程のドライパートにおいて、いわゆるクレープ加工が行われる際に、ヤンキードライヤーの状態を監視するためのシステムである。
なお、本発明において、抄紙工程は、少なくとも、ワイヤーパート、プレスパート、ドライパート及びリールパートを有する。
また、クレープ加工は、抄紙工程のドライパートにおいて、ヤンキードライヤーにクレープ剤を付与することで、抄紙をヤンキードライヤーに付着させ、当該抄紙をヤンキードライヤーに当接されたクレーピングドクターにより強制的に剥離させると共に、ドライパートへの抄紙の送りローラの回転速度よりも、クレープ加工後の抄紙の巻き取りローラ(スプール)の回転速度を遅くすることにより行われる。
なお、クレープ加工が施された抄紙は、家庭紙として用いられ、具体的には、抄紙の材質に応じて、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル、キッチンペーパー、紙ナプキン、紙おむつ、造花等に用いられる。
【0023】
図1は、本発明に係るヤンキードライヤーの監視システムの一実施形態を含むドライパート及びリールパートを示す模式側面図である。
図1に示すように、ドライパートDにおいては、送りローラR1から送られる抄紙Xが、ヤンキードライヤーYDの表面に接触して乾燥される。そして、クレーピングドクターCRによる抄紙Xの強制的な剥離により抄紙Xにクレープ加工が施される。
また、リールパートRにおいては、クレープ加工が施された抄紙XがスプールR2により巻き取られる。
【0024】
本実施形態に係るヤンキードライヤーの監視システムは、抄紙工程のドライパートDで用いられる。
すなわち、ヤンキードライヤーの監視システムは、ヤンキードライヤーYDと、該ヤンキードライヤーYDにクレープ剤を付与するための薬液付与装置Nと、ヤンキードライヤーYDに当接されたクレーピングドクターCR及びクリーニングドクターCLと、ヤンキードライヤーYDに光を照射する照明Lと、ヤンキードライヤーYDを監視するための監視カメラCと、監視カメラCとネットワークを介して接続された制御装置10と、を有する。
【0025】
ヤンキードライヤーYDの監視システムにおいては、監視カメラCが、照明Lで光を照射したヤンキードライヤーYDの任意の領域を抄紙Xの上から撮影し、制御装置10が、その画像に対して、平均輝度を算出し、当該平均輝度を経時的に記憶するので、クレープ加工におけるヤンキードライヤーYD表面の平均輝度の経時的変化を認識することができる。
また、制御装置10が、平均輝度が所定の閾値を超えるか否かを判定することにより、閾値を超えた場合を、ヤンキードライヤーYDに、クレープ剤の付与による付着性対策、ヤンキードライヤーYDに付着した紙粉を除去する清掃やドクターの交換等による紙粉対策等の対策を施す適切なタイミングとして認識することができる。
なお、これらの詳細については後述する。
【0026】
したがって、ヤンキードライヤーYDの監視システムによれば、経験則によらないで、ヤンキードライヤーYDに対策を施す適切なタイミングを認識することができ、その結果、歩留まりの低下を未然に抑制することが可能となる。
【0027】
以下、各構成について更に詳細に説明する。
ヤンキードライヤーYDは、いわゆる回転式の加熱ドラムであり、抄紙を案内すると共に、その表面に接触させることで抄紙を加熱乾燥させることが可能となっている。
また、ヤンキードライヤーYDは、鋳鉄製(金属製)であり、その表面が光沢を有している。
このため、ヤンキードライヤーYDにおいては、光を照射することにより、輝度が大きくなり(明るく)、平均輝度の変化をより認識し易くなるという利点がある。
【0028】
ヤンキードライヤーYDは、表面の温度を調整することが可能となっている。
このため、後述するように、判定手段が、全体平均輝度が閾値より低いと判定した場合は、例えば、紙粉がヤンキードライヤーYDに焼き付く恐れがあるため、ヤンキードライヤーYD表面の温度を下げる対策をとることができる。
【0029】
薬液付与装置Nは、クレープ剤をヤンキードライヤーYDに付与するための装置である。
具体的には、薬液付与装置Nは、ヤンキードライヤーYDの幅方向に延びるレール(図示しない)に沿って、往復摺動しながらヤンキードライヤーYDの全幅にクレープ剤を付与することが可能となっている。
このため、後述するように、判定手段が、全体平均輝度が閾値より高いと判定した場合は、例えば、薬液付与装置Nの往復摺動を反復させ、ヤンキードライヤーYDに対して、クレープ剤を繰り返し付与する対策をとることができる。
【0030】
また、薬液付与装置Nは、薬液付与装置Nの吐出のタイミングを制御することにより、クレープ剤を、ヤンキードライヤーYDに対して局所的に付与することも可能となっている。
このため、例えば、後述する判定手段により、特定の位置の画素列平均輝度が閾値より高いと判定された場合は、特定の位置のみに、クレープ剤を付与する対策をとることができる。
【0031】
なお、クレープ剤は一般に、水等の溶媒で希釈又は分散した状態で付与される。
かかるクレープ剤としては、公知のものを適宜採用することができる。例えば、国際公開第2010/044280号に記載されているような、有機固体潤滑剤及び/又は無機固体潤滑剤からなる潤滑剤と、潤滑剤を分散させる分散剤と、潤滑剤をヤンキードライヤーYDの表面に固着させるための熱硬化性ポリマーと、溶媒である水とを含むクレープ剤組成物において、その有効成分(不揮発成分)をクレープ剤として採用できる。
【0032】
クレーピングドクターCRは、クレープ加工を行うためのドクターブレード(刃)を有するドクターであり、公知のものを適宜採用できる。
クレーピングドクターCRは、所定の角度、所定の押し付け圧でヤンキードライヤーYDに当接される。なお、かかる角度や押し付け圧は、所望の皴の形状に応じて、任意に設定すればよい。
【0033】
クレーピングドクターCRは、一般に、クレーピング加工を継続すると、そのドクターブレードが摩耗する。そうすると、抄紙を十分に剥がせなくなるため、ヤンキードライヤーYDへの紙粉の付着が増大化する。このため、後述するように、判定手段が、全体平均輝度が閾値よりも低いと判定する周期が短くなった場合は、例えば、クレーピングドクターCRを交換するタイミングであると認識することができる。
【0034】
クリーニングドクターCLは、ヤンキードライヤーYDの回転方向に対して、クレーピングドクターCRの下流側に、クレーピングドクターCRと同様にしてヤンキードライヤーYDに当接される。
クリーニングドクターCLは、ヤンキードライヤーYDに付着した紙粉を掻き取るためのものであり、クレーピングドクターCRと同様に、クレーピング加工を継続すると、そのドクターブレードが摩耗する。このため、後述するように、判定手段が、全体平均輝度が閾値よりも低いと判定する周期が短くなった場合は、例えば、クリーニングドクターCLを交換するタイミングであると認識することができる。
【0035】
監視カメラCは、稼働中のヤンキードライヤーYDの表面の任意の領域を抄紙Xの上から撮影する。
かかる監視カメラCとしては、ビデオカメラ、ラインスキャンカメラ、エリアスキャンカメラ等を採用することができる。これらの中でも、監視カメラCとしては、ラインスキャンカメラが好適に用いられる。この場合、エリアスキャンカメラと比較して、画像を高解像度とすることができ、また、撮影範囲が狭いため、照明によるムラが生じ難いという利点がある。
【0036】
監視カメラCがラインスキャンカメラである場合、縦が1画素、横が任意の幅の静止画が撮影され、これを取得した取得手段11が、これを縦方向に合成することで、所定の領域の画像が得られる。
このとき、ラインスキャンカメラの撮影速度は、抄紙Xの搬送速度500~2000m/秒に対して、25000回/秒以上とすることが好ましく、50000回/秒以上とすることがより好ましい。
また、監視カメラCは、抄紙Xをモノクロ画像として撮影することが好ましい。これにより、画像の容量負荷が軽減されると共に、算出手段11による画素毎の輝度を容易に算出することが可能となる。
【0037】
照明Lは、監視カメラCで撮影する領域に光を照射する。
かかる照明Lとしては、公知のものを適宜採用することができる。
なお、照明Lは、正反射タイプのLED照明が好適に用いられる。
【0038】
監視カメラC及び照明Lは、ヤンキードライヤーYDの抄紙と接している部分に向けられている。
ちなみに、ヤンキードライヤーYDの監視システムにおいては、ヤンキードライヤーYDを、抄紙Xを介して撮影しても、抄紙Xが十分に薄いため、平均輝度の変化を十分に認識することができる。
一方で、この場合、監視カメラC及び照明Lを十分なスペースに設置することができるという利点がある。
その結果、ヤンキードライヤーYDの監視システムの設備を、既存の抄紙機に、後付けで設置することが可能となる。
【0039】
図2は、本実施形態に係るヤンキードライヤーの監視システムの制御装置を説明するためのブロック図である。
図2に示すように、制御装置10は、少なくとも、取得手段11と、算出手段12と、記憶手段13と、判定手段14とを備える。
なお、制御装置10は、所定のプログラムが格納されたコンピュータである。
ヤンキードライヤーYDの監視システムにおいては、監視カメラCで撮影された画像を取得した後は、制御装置10内で処理が順次実行されることになる。
【0040】
図3は、本実施形態に係るヤンキードライヤーの監視システムの動作を示すフローチャートである。
取得手段11は、有線又は無線のネットワークを介して、監視カメラCと接続されており、監視カメラCに、稼働中のヤンキードライヤーYDの表面の任意の領域を(抄紙Xの上から)撮影する指令を発信する。そうすると、図3に示すように、監視カメラCは、その領域を撮影する。
撮影後、取得手段11は、監視カメラCで撮影された画像を取得する。
また、取得した画像は、記憶手段13に格納される。
【0041】
図4は、本実施形態に係るヤンキードライヤーの監視システムで用いられる画素を説明するため、画像の一部を拡大して示す図である。
図4に示すように、画像20を形成する画素21は、格子状に配列される。
これに対し、算出手段12は、記憶手段13に格納された画像20を呼び出し、当該画像20の全体に対して、画素21毎に輝度を算出する。
かかる画像の画素数は、精度向上の観点から、幅方向に2000画素以上であることが好ましい。
そして、算出手段12は、得られた画素毎の輝度を利用して、全体の輝度の平均値である平均輝度(以下便宜的に「全体平均輝度」ともいう。)を算出する。
なお、算出された全体平均輝度は、記憶手段13に格納される。
【0042】
ここで、図4に示すように、画像20におけるヤンキードライヤーの幅方向をX軸、該X軸に直交する方向をY軸とした場合に、X軸方向の1つの画素21と、当該画素21からY軸方向に連なっている複数の画素21との列を画素列22と呼ぶ。
すなわち、画像20は、複数の画素列22がX軸方向に並列することで形成されている。
これに対し、算出手段12は、得られた画素毎の輝度を利用して、画素列における平均輝度(以下便宜的に「画素列平均輝度」ともいう。)を画素列毎に算出する。
なお、算出された画素列平均輝度は、記憶手段13に格納される。
【0043】
図3に戻り、記憶手段13は、少なくとも、取得手段11が取得する画像と、算出手段12により算出される当該画像の画素毎の輝度、全体平均輝度及び画素列平均輝度と、判定手段14による判定結果とを記憶する。
また、取得手段11及び算出手段12が繰り返されることにより得られるこれらのデータを経時的に記憶する。
なお、これらのデータは適時に呼び出すことが可能となっている。
【0044】
判定手段14は、記憶手段13に格納された全体平均輝度及び画素列平均輝度が、予め設定したそれぞれの閾値を超えるか否かで、ヤンキードライヤーの状態を判定する。
すなわち、全体平均輝度及び画素列平均輝度が、閾値を超えない場合、「正常」と判定し、閾値を超えた場合、「異常」と判定する。
なお、判定された結果は、記憶手段13に格納される。
【0045】
ここで、閾値は、任意に設定することができる。
例えば、通常のクレーピング加工を行い、そのとき得られた全体平均輝度及び画素列平均輝度の経時的変化と、対策を行うタイミングとの相関関係に基づいて、設定すればよい。なお、対策を行うタイミングを事前に知りたい場合は、閾値の範囲を狭くすればよい。
【0046】
判定手段14により、全体平均輝度及び画素列平均輝度が「正常」と判定された場合は、クレープ加工が継続して行われる。
一方で、全体平均輝度が「異常」と判定された場合は、上述した対策が行われる。このことにより、対策を行うタイミングを認識することが可能となる。
その結果、歩留まりの低下を未然に抑制することが可能となる。
また、画素列平均輝度が「異常」と判定された場合は、上述した対策が局所的に行われる。このことにより、「異常」と判定された画素列の位置から、X軸方向における平均輝度が閾値を超えた位置を認識することができ、また、そこに対して対策を行うタイミングを認識することが可能となる。その結果、歩留まりの低下を未然に抑制することが可能となる。
【0047】
かかる対策としては、例えば、全体平均輝度が閾値の上限を超えた場合、ヤンキードライヤーYDには、クレープ剤及び紙粉の量が少ないといえるため、抄紙Xの付着を促す。すなわち、上述したクレープ剤の反復付与による付着性対策を行う。
全体平均輝度が閾値の下限を超えた場合、ヤンキードライヤーYDには、クレープ剤及び紙粉の量が多いといえるため、ヤンキードライヤーYDに付着した紙粉を除去する紙粉対策を行う。また、付着した紙粉がヤンキードライヤーYDに焼き付くことを抑制するため、ヤンキードライヤーYD表面の温度を下げることも場合に応じて行う。
また、画素列平均輝度が閾値の上限又は下限を超えた場合は、その箇所に、上記同様の対策を行う。
【0048】
これに加え、全体平均輝度の経時的変化において、当該全体平均輝度が閾値の下限を超えると判定される周期が短くなった場合、抄紙Xを剥がす際に十分に剥がしきれていない、若しくは、紙粉が十分に掻き取られていないと考えられるため、前者の場合はクレーピングドクターCRを、後者の場合はクリーニングドクターCLを交換するタイミングであると認識することができる。
なお、何れの要因であるかは目視にて区別できる。
全体平均輝度が閾値の下限を超えると判定され、上述した対策を施しても改善されない場合は、監視カメラC又は照明Lを清掃若しくは交換するタイミングであると認識することができる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
本実施形態に係るヤンキードライヤーYDの監視システムにおいては、クリーニングドクターCLを有しているが、必須ではない。
【0051】
本実施形態に係るヤンキードライヤーYDの監視システムにおいては、薬液付与装置Nとして、ヤンキードライヤーYDの幅方向に延びるレールに沿って、往復摺動しながらヤンキードライヤーYDの全幅にクレープ剤を付与するものを採用しているが、往復摺動するタイプではなく、ヤンキードライヤーYDの幅方向の延びる本体部に設けられた複数のノズルからシャワー方式で付与するものであってもよい。
【0052】
本実施形態に係るヤンキードライヤーYDの監視システムにおいて、監視カメラC及び照明Lは、ヤンキードライヤーYDの抄紙Xと接している部分に向けられているが、必須ではない。
すなわち、監視カメラC及び照明Lの設置位置が限定されるものの、十分なスペースがあれば、監視カメラC及び照明Lが、ヤンキードライヤーYDの抄紙Xと接していない部分に向けられていてもよい。
【0053】
本実施形態に係るヤンキードライヤーYDの監視システムにおいて、制御装置10は、取得手段11と、算出手段12と、記憶手段13と、判定手段14とを備えているが、当然、モニター等の表示手段、マウス等の入力手段等を備えていてもよい。
【0054】
本実施形態に係るヤンキードライヤーYDの監視システムにおいては、制御装置が学習手段を有し、当該学習手段が判定手段による判定結果を学習して、対策を行うタイミングを変更するものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のヤンキードライヤーの監視システムは、抄紙工程におけるクレープ加工において、ヤンキードライヤーを監視するシステムとして利用できる。
本発明のヤンキードライヤーの監視システムによれば、ヤンキードライヤーの状態を監視することにより、経験則によらないで、ヤンキードライヤーに対策を施す適切なタイミングを認識することができ、その結果、歩留まりの低下を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
10・・・制御装置
11・・・取得手段
12・・・算出手段
13・・・記憶手段
14・・・判定手段
20・・・画像
21・・・画素
22・・・画素列
C・・・監視カメラ
CR・・・クレーピングドクター
CL・・・クリーニングドクター
D・・・ドライパート
L・・・照明
N・・・薬液付与装置
R・・・リールパート
R1・・・送りローラ
R2・・・スプール
X・・・抄紙
YD・・・ヤンキードライヤー
図1
図2
図3
図4