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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112700
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】試料収容容器のカバー部材
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/18 20060101AFI20240814BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G01N30/18 A
G01N1/00 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017928
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保永 研壱
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AD26
2G052AD46
2G052DA06
2G052DA12
2G052DA22
2G052JA09
(57)【要約】
【課題】試料収容容器の内部に収容された液体試料を正確に採取するとともにキャリーオーバーの発生を抑制する。
【解決手段】液体試料が収容される試料収容容器が有する開口を覆うカバー部材(31、36、51)であって、弾性を有するシート材で構成され、前記液体試料を採取する試料採取具が挿入される所定の領域以外の領域にスリット(331、361、511)を備える。このカバー部材は、バイアルの開口を覆うセプタムや、マイクロプレートに設けられた複数のウェルの開口を覆うシートとして好適に用いることができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料が収容される試料収容容器が有する開口を覆うカバー部材であって、
弾性を有するシート材で構成され、前記液体試料を採取する試料採取具が挿入される所定の領域以外の領域にスリットを備える、カバー部材。
【請求項2】
前記開口が円形であり、前記スリットが、該開口の径の0.5倍の径を有する同心円の外側に設けられている、請求項1に記載のカバー部材。
【請求項3】
前記スリットが1乃至複数の円弧状のものであり、該1乃至複数の円弧の中心角が30度以上90度以下である、請求項2に記載のカバー部材。
【請求項4】
前記1乃至複数の円弧の中心角の合計が中心角の合計が90度以上270度以下である、請求項2に記載のカバー部材。
【請求項5】
前記スリットが、前記開口の中心に対して回転対称に設けられている、請求項2に記載のカバー部材。
【請求項6】
請求項1に記載のカバー部材であって、前記試料収容容器であるバイアルの開口を覆うセプタム。
【請求項7】
前記バイアルの開口を覆う部分が円形であり、
前記所定の領域は前記円形の中心を含む領域である、請求項6に記載のセプタム。
【請求項8】
請求項1に記載のカバー部材であって、前記試料収容容器であるマイクロプレートが有する複数のウェルの開口を覆うシート。
【請求項9】
前記複数のウェルのそれぞれに対応する位置に、該ウェルを覆うウェル被覆部が形成されている、請求項8に記載のシート。
【請求項10】
前記ウェル被覆部は円形であり、
前記所定の領域は前記ウェル被覆部ごとに設けられ、前記所定の領域のそれぞれは対応するウェル被覆部の中心を含む領域である、請求項9に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアルやマイクロプレートなどの試料収容容器が有する開口を覆うカバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料に含まれる成分を分析するために、液体クロマトグラフが用いられる。液体クロマトグラフでは、液体試料に含まれる化合物をカラムで分離し、分光光度計や質量分析計などの検出器で検出する。液体クロマトグラフを用いて複数の液体試料を連続して分析する際にはオートサンプラが用いられる。オートサンプラでは、それぞれの内部に液体試料を収容した複数のバイアルを並べたサンプルラックを所定の位置にセットしておき、サンプリングニードルを用いて個々のバイアルから液体試料を採取して液体クロマトグラフのインジェクタに導入する、という操作を順次行う。
【0003】
液体試料の揮発を防ぐために、該液体試料を収容したバイアルの開口はセプタムで気密に封止されることが多い。セプタムには、弾性を有する材料、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成るものが用いられる。オートサンプラにおいて液体試料を採取する際には、セプタムにサンプリングニードルを貫通させてバイアル内に挿入し、サンプリングニードルの先端を液体試料の液面よりも下に位置させた(液体試料に浸漬させた)状態で所定量の液体試料を採取する。その後、サンプリングニードルをセプタムから引き抜き、液体クロマトグラフのインジェクタに移動させて、採取した液体試料をインジェクタに導入する。
【0004】
液体試料を収容したバイアルをセプタムで気密に封止すると、サンプリングニードルを挿入した際にバイアルの内部が加圧され、液体試料に気泡が入り込んで液体試料の採取量に誤差が生じることがある。また、サンプリングニードルから液体試料を採取する際にバイアルの内部が陰圧になり、液体試料の採取量が少なくなることもある。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1に記載のように、サンプリングニードルが挿入される中央部に直線状や十字状のスリットを設けたセプタムを用いると、スリットを介してバイアルの内部空間と外部空間が連通するため、バイアルの内部が加圧されたり陰圧になったりすることがなく、液体試料を正確に採取することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-036920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、液体試料を採取する際にはサンプリングニードルの先端を液体試料に浸漬させるため、液体試料の採取後にサンプリングニードルの外周面に液体試料が付着する。スリットのないセプタムを備えたバイアルの場合、該セプタムからサンプリングニードルを引き抜く際にサンプリングニードルの外周面に付着した液体試料はセプタムによって拭い取られる。しかし、中央部にスリットを設けたセプタムを用いると、スリットからサンプリングニードルを引き抜く際に、サンプリングニードルの外周面に付着した液体試料の一部がセプタムで拭き取られず、サンプリングニードルの外周面に付着したまま残留する。すると、ある液体試料を採取して分析した後、別の液体試料を採取する際に、先に採取した液体試料が後の液体試料に混入して(キャリーオーバーが発生して)測定結果に誤りを生じさせてしまう。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、試料収容容器の内部に収容された液体試料を正確に採取するとともにキャリーオーバーの発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明は、液体試料が収容される試料収容容器が有する開口を覆うカバー部材であって、
弾性を有するシート材で構成され、前記液体試料を採取する試料採取具が挿入される所定の領域以外の領域にスリットを備える。
【発明の効果】
【0010】
前記所定の領域は、液体試料を採取する際に試料採取具が挿入されることが想定される領域である。
本発明のカバー部材を取り付けた試料収容容器では、試料採取具を所定の挿入領域に挿入するときに該カバー部材が弾性変形して、そこに設けられたスリットを通して試料収容容器の内部空間と外部空間が連通する。そのため、試料採取具を挿入したときに試料収容容器の内部が加圧されたり、液体試料を採取するときに試料収容容器の内部が陰圧になったりすることがなく、液体試料を正確に採取することができる。また、試料採取具の挿入が想定される領域以外の領域にスリットが設けられているため、液体試料を採取した後、試料採取具を引き抜く際に該試料採取具の外周面に付着した液体試料が拭い取られる。従って、キャリーオーバーの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るカバー部材の第1実施形態であるセプタムを使用したバイアルに収容された液体試料を分析する分析装置の一例である、液体クロマトグラフの要部構成図。
図2】第1実施形態のセプタムを使用したバイアルに収容された液体試料を採取する自動試料採取装置の一例である、オートサンプラの要部構成図。
図3】第1実施形態のセプタムをバイアルに取り付けた状態の断面図。
図4】第1実施形態のセプタムをバイアルに取り付けた状態の上面図。
図5】第1実施形態のセプタムを取り付けたバイアルにサンプリングニードルを挿入する際のセプタムの状態を説明する図。
図6】第1実施形態のセプタムを取り付けたバイアルからサンプリングニードルを引き抜く際のセプタムの状態を説明する図。
図7】従来用いられているスリット付きセプタムの例。
図8】変形例のセプタムをバイアルに取り付けた状態の上面図。
図9】本発明に係るカバー部材の第2実施形態であるシートが用いられるマイクロプレートの構造を示す図。
図10】第2実施形態のシートの平面図。
図11】第2実施形態のシートの断面図。
図12】第2実施形態のシートをマイクロプレートに取り付けた状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るカバー部材の実施形態について、以下、図面を参照して説明する。以下の説明で使用する図面はいずれも模式図であり、各部の特徴を分かりやすくするために、必要に応じて実際とは異なる縮尺で図示している。
【0013】
本発明に係るカバー部材の第1実施形態は、液体試料を収容するバイアルの開口を覆うセプタムである。それぞれに液体試料を収容した複数のバイアルはサンプルラックに並べられ、オートサンプラの所定の位置にセットされる。オートサンプラは、液体クロマトグラフなどの分析装置に接続され、オートサンプラで採取された液体試料はその分析装置で分析に供される。
【0014】
図1は、液体クロマトグラフ10の要部構成図である。液体クロマトグラフ10は、移動相が収容された移動相容器11、移動相容器11に収容された移動相を送出する送液ポンプ12、移動相中に液体試料を導入するインジェクタ13、液体試料に含まれる化合物を分離するカラム14、該カラム14の温度を一定に維持するカラムオーブン15、及び該カラム14で分離された化合物を検出する検出器16を備えている。インジェクタ13にはオートサンプラ20が接続されている。
【0015】
図2はオートサンプラ20の要部構成図である。オートサンプラ20には、液体試料を収容し、後述するキャップ32及びセプタム33が取り付けられたキャップ済バイアル30(図3参照)をセットしたサンプルラック22が配置される。サンプルラック22の側方にはインジェクションポート23、ニードル洗浄ポート(図示略)、及びドレイン(図示略)が設けられている。これらの上部には、サンプリングニードル24と、該サンプリングニードル24を水平方向及び垂直方向に移動するためのサンプリングニードル移動機構25が設けられている。サンプリングニードル移動機構25はガイドレール251と、該ガイドレール251に沿って移動する移動部252と、該移動部252に収容された駆動源を有しており、サンプリングニードル24は移動部252に固定されている。サンプリングニードル移動機構25によって、サンプリングニードル24を各キャップ済バイアル30の位置に移動させ、各キャップ済バイアル30に収容された液体試料を採取してインジェクションポート23に導入する。インジェクションポート23に導入された液体試料は液体クロマトグラフ10のインジェクタ13を通じて移動相の流れに注入される。
【0016】
次に、本発明に係るカバー部材の第1実施形態であるセプタム33について説明する。
【0017】
図3は、液体試料を収容したバイアル31にセプタム33及びキャップ32を取り付けた状態の断面図である。セプタム33は、キャップ32の裏側に取り付けられる。セプタム33を取り付けたキャップ32をバイアル31に取り付けることにより、バイアル31の開口がセプタム33によって覆われる。
【0018】
図4は、セプタム33をバイアル31に取り付けた状態の上面図である。キャップ32の中央部には円形の開口が設けられており、キャップ32の裏面にセプタム33を取り付けると、該開口からセプタム33が露出する。図4の破線は、バイアル31に収容された液体試料を採取する際にサンプリングニードル24が挿通される挿入領域332(本発明における所定の領域に相当)を示しており、その挿入領域332よりも外側の領域に3つの円弧状のスリット331が形成されている。これら3つのスリット331は、バイアル31の開口の径の0.85倍の径を有する同心円上に設けられている。これら3つの円弧の中心角はいずれも60度であり、バイアル31の開口の中心に対して回転対称に配置されている。つまり、バイアル31の開口の径の0.85倍の径を有する同心円の半分の周上にスリット311が設けられている。セプタム33に対してサンプリングニードル24が挿通されていない状態では、スリット331は閉じており、バイアル31の内部がほぼ気密に保たれる。本実施形態では、バイアル31の開口の径の0.85倍の径を有する同心円の周上にスリット311が設けているが、これは一例であって、スリット311は、バイアル31の開口の径の0.8倍以上0.95倍以下の径を有する同心円上に設けることが好ましい。
【0019】
第1実施形態のセプタム33は、弾性を有する材料で構成された円盤状のシート状物である。そのような材料として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、シリコーンなどの樹脂を好適に用いることができる。また、セプタム33の具体的な一例として、上部をシリコーンで構成し、下部をPTFEで構成したものが挙げられる。こうした材料から成るセプタム33を用いることにより、サンプリングニードル24を挿通したときに変形が生じても、サンプリングニードル24が引き抜かれた後には元の形状に復元する。また、シート状物であるため、サンプリングニードル24を容易に挿入し、また引き抜くことができる。
【0020】
一般に、オートサンプラ20では、バイアル31に収容された液体試料を採取する際に、セプタム33の中央部(バイアル31の開口を覆う円形部分の中心)にサンプリングニードル24を挿通するように構成されている。第1実施形態のセプタム33を取り付けたバイアル31にサンプリングニードル24を差し込むと、その力によってセプタム33の中央部が下方に引っ張られ(図5左)、セプタム33全体が変形し、それに伴ってセプタム33のスリット331が開いて(図5右)バイアル31の内部空間と外部空間が連通する。そのため、サンプリングニードル24を刺し込んだときにバイアル31の内部が加圧されたり、液体試料を採取するときにバイアル31の内部が陰圧になったりすることがなく、液体試料を正確に採取することができる。また、液体試料を採取した後、サンプリングニードル24をセプタム33から引き抜く際にも、セプタム33の中央部が上方に引っ張られ(図6)、セプタム33全体が変形し、それに伴ってセプタム33のスリット331が開いてバイアル31の内部空間と外部空間が連通する。
【0021】
セプタム33に大きなスリット311を設けると、小さな力で十分に開くことができる。その一方、スリット311を大きくしすぎると、スリット311が大きく開きすぎて端部から亀裂が生じやすくなる。これらの点を考慮すると、各スリット311の中心角は30度以上90度以下であることが好ましい。また、スリット311が設けられる範囲が広いほど、バイアル31の内部空間と外部空間での通気が良好になるが、スリット311が設けられる範囲が広すぎると、隣接するスリット311の境界に亀裂が生じやすくなる。これらの点を考慮すると、各スリット311の中心角の合計は90度以上270度以下であることが好ましい。さらに、サンプリングニードル24を挿通したときに、セプタム33に等分に変形させて、局所的に力が加わるのを避けるために、バイアル31の開口の中心に対して回転対称にスリット311が設けられていることが好ましい。
【0022】
従来、サンプリングニードルを挿入したときにバイアルの内部が加圧されたり、液体試料を採取するときにバイアルの内部が陰圧になったりするのを防止するために、図7に示すような、中央部に十字状のスリット341を設けたセプタム34や、直線状のスリット351を設けたセプタム35が用いられている。こうしたセプタム34、35用いると、スリット341、351を介してバイアルの内部空間と外部空間が連通するため、バイアルの内部が加圧されたり陰圧になったりすることがなく、液体試料を正確に採取することができる。しかし、これらのセプタム34、35では、サンプリングニードルを引き抜く際に、その外周面に付着した液体試料の一部がセプタムで拭き取られず、サンプリングニードルの外周面に付着したまま残留する。すると、ある液体試料を採取して分析した後、別の液体試料を採取する際に、先に採取した液体試料が後の液体試料に混入して(キャリーオーバーが発生して)測定結果に誤りを生じさせてしまう。
【0023】
これに対し、第1実施形態のセプタム33では、サンプリングニードル24が挿入される所定の挿入領域332以外の領域にスリット331が設けられているため、図6に示すように、液体試料を採取した後、サンプリングニードル24をセプタム33から引き抜く際に、サンプリングニードル24の外周面に付着した液体試料がセプタム33で拭い取られ、キャリーオーバーが発生するのを抑制することができる。
【0024】
一般に、オートサンプラ20では、バイアル31に収容された液体試料を採取する際に、サンプリングニードル24をセプタム33の中央部に挿通するように設計されている。また、オートサンプラ20では予め決められた長さだけ機械的にサンプリングニードル24を移動させるため、サンプリングニードル24がセプタム33を貫通する位置のばらつきは小さい。従って、オートサンプラ20にセットされるバイアル31の開口を覆うように取り付けるセプタム33では、例えば、バイアル31の開口の同心円であって、サンプリングニードル24の外径以上であってサンプリングニードル24の外径の3倍以下である径を有する部分を上記所定の挿入領域332とし、その外側にスリット331を設ければよい。また、サンプリングニードル24は開口の中心を貫通するため、挿入領域332はセプタム33の中心を含んだ領域であることが望ましい。
【0025】
通常は、オートサンプラ20を用いて液体試料を採取するが、分析者がシリンジなどを用いて手動でバイアル31から液体試料を採取する場合には、上記所定の範囲をより広くしておくとよい。具体的には、例えば、バイアル31の開口の同心円であって該開口の径の0.5倍以下の適宜の大きさの径を有する部分を上記所定の挿入領域332とし、その外側にスリット331を設ければよい。つまり、例えば、開口の径の0.5倍の径を有する開口の同心円を上記所定の挿入領域332とし、その外側にスリット331を設けておけば、オートサンプラ20で液体試料を採取する際にも、分析者が手動で液体試料を採取する際にも使用することができる。第1実施形態のセプタム33では、バイアル31の開口の径の0.85倍の径を有する開口の同心円上にスリット331を設けられているため、いずれの場合にも好適に使用することができる。
【0026】
セプタム33の中央部にサンプリングニードル24が挿通されると、開口の径方向に力が加えられる。第1実施形態のセプタム33では、開口の径方向と直交する円弧状のスリット331を設けているため、スリット331が開きやすく、バイアル31の内部空間と外部空間が容易に連通する。
【0027】
但し、スリット331の形状や上記のような円弧状に限らず、セプタム33を構成する材料や開口の大きさなどの様々な条件に応じて適宜に変更可能である。サンプリングニードル24やシリンジをセプタム33の中央に挿通する際に開口の径方向に力が加えられることから、開口の径方向と交差する向きにスリットを形成しておけば、サンプリングニードル24等の挿入時にスリットを開くことができる。例えば、容易に変形する材料でセプタム36を構成する場合には、図8に示すようなスリット361を設けてもよい。セプタム36に繰り返しサンプリングニードル24を挿通すると、徐々にスリット361の端部が裂けてセプタム33が破れやすくなる。サンプリングニードル24等の挿通時に力が加えられる、開口の径に近い方向に延びるスリット(図8では開口の径方向に対して15度傾いた方向に延びるスリット361)を設けることによりスリット361を裂けにくくすることができる。
【0028】
次に、本発明に係るカバー部材の第2実施形態であるシートについて説明する。
【0029】
第2実施形態のシート50は、図9に示すような、多数の液体試料を収容するマイクロプレート40を覆うために用いられる。マイクロプレート40には、例えば96個の小さな凹部であるウェル41が格子状(12×8)に設けられており、それら複数のウェル41のそれぞれに液体試料が収容される。それぞれのウェル41に液体試料を収容したマイクロプレート40も、オートサンプラの所定の位置にセットされ、所定の手順で個々のウェルから液体試料が採取される。
【0030】
図10にシート50の平面図、図11はシート50の断面図である。また、図12は、シート50をマイクロプレート40に取り付けた状態の断面図である。シート50には、マイクロプレート40のウェル41のそれぞれに対応する位置に、各ウェル41の径とほぼ同じ径を有するドーム状のウェル被覆部51が設けられている。シート50の使用時には、図12に断面図で示すように、マイクロプレート40の各ウェル41に、ドーム状の部分を下側に向けて各ウェル被覆部51を嵌め込むことにより、シート50がマイクロプレート40の上面に固定される。
【0031】
図10の右側に拡大図で示すように、第2実施形態であるシート50では、各ウェル被覆部51にスリット511が形成されている。図10の破線は、図3と同様に、ウェル41に収容された液体試料を採取する際にサンプリングニードルが挿通される挿入領域512(本発明における所定の領域に相当)を示している。各ウェル被覆部51では、その挿入領域512よりも外側の領域に3つの円弧状のスリット511が形成されている。これら3つのスリット511は、各ウェル41の開口(図10における一点鎖線)の径の0.85倍の径を有する開口の同心円上に設けられている。また、これら3つの円弧の中心角はいずれも60度であり、ウェル41の開口の中心に対して回転対称に配置されている。本実施形態でも、各ウェル41の開口の径の0.85倍の径を有する同心円の周上にスリット511が設けているが、これは一例であって、スリット511は、ウェル41の開口の径の0.8倍以上0.95倍以下の径を有する同心円上に設けることが好ましい。
【0032】
第2実施形態のシート50も、第1実施例のセプタム33と同様に、弾性を有する材料で構成されている。そのような材料として、例えばシリコーンなどの樹脂を好適に用いることができる。こうした材料から成るシート50を用いることにより、サンプリングニードルを挿通したときに変形が生じても、サンプリングニードルが引き抜かれた後には元の形状に復元する。
【0033】
第2実施形態のシート50においても、ウェル被覆部51にサンプリングニードルを差し込むと、その力によってウェル被覆部51の中央部が下方に引っ張られ、ウェル被覆部51の全体が変形し、それに伴って当該ウェル被覆部51に形成されたスリット511が開いてウェル41の内部空間と外部空間が連通する。また、液体試料を採取した後、サンプリングニードルをウェル被覆部51から引き抜く際にも、ウェル被覆部51の中央部が上方に引っ張られ、ウェル被覆部51の全体が変形し、それに伴ってスリット511が開いてウェル41の内部空間と外部空間が連通する。そのため、ウェル41の内部が加圧されたり、液体試料を採取するときにウェル41の内部が陰圧になったりすることがなく、液体試料を正確に採取することができる。
【0034】
また、サンプリングニードル24が挿入される所定の挿入領域512以外の領域にスリット511が設けられているため、図6と同様に、液体試料を採取した後、サンプリングニードルをウェル被覆部51から引き抜く際に、サンプリングニードルの外周面に付着した液体試料がウェル被覆部51で拭い取られ、キャリーオーバーが発生するのを抑制することができる。
【0035】
第2実施形態のシート50でも、第1実施形態のセプタム33について説明したものと同様に、スリット511の位置や形状を適宜に変更することができる。
【0036】
上記の実施形態はいずれも一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
【0037】
第1実施形態のセプタム33及び第2実施形態のシート50ではいずれも、バイアル31やウェル41の開口の中央部にサンプリングニードル等の試料採取具が挿入されることを想定して、該中央部に所定の挿入領域312、512を設けたが、バイアル31やウェル41の中央部以外の部分に試料採取具を挿入するように設計された装置で用いる場合には、それに対応した位置に所定の挿入領域312、512を設け、それ以外の部分にスリット311、511を形成したセプタムやシートを用いればよい。
【0038】
第1実施形態のセプタム33及び第2実施形態のシート50ではいずれも、バイアル31やウェル41の開口が円形である場合について説明したが、これらの開口は円形以外の形状であってもよく、開口の形状に応じてスリットの位置や形状を適宜に変更すればよい。また、第1実施形態ではキャップ32に取り付けるセプタム33としたが、キャップ32を用いることなくバイアル31に取り付けられて、その開口を覆うセプタム33としてもよい。
【0039】
第2実施形態のシート50では、マイクロプレート40が有する複数のウェル41のそれぞれに対応する位置にドーム状のウェル被覆部51を設けたが、平坦なシートを用いてもよい。その場合には、シート上に、複数のウェル41のそれぞれの開口に対応する仮想領域を設定し、該仮想領域に上記同様のスリット511を形成しておき、シートの四隅に接着剤を塗布するなどしてマイクロプレート40の上面に固定すればよい。
【0040】
上記実施形態では、液体クロマトグラフ10やオートサンプラ20を用いる場合を例に説明したが、これらの使用は任意である。
【0041】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0042】
(第1項)
本発明の一態様は、液体試料が収容される試料収容容器が有する開口を覆うカバー部材であって、
弾性を有するシート材で構成され、前記液体試料を採取する試料採取具が挿入される所定の領域以外の領域にスリットを備える。
【0043】
前記所定の領域は、液体試料を採取する際に試料採取具が挿入されることが想定される領域である。
第1項に係るカバー部材を取り付けた試料収容容器では、試料採取具を所定の挿入領域に挿入すると、該カバー部材に設けられたスリットを通して試料収容容器の内部空間と外部空間が連通する。そのため、試料収容容器の内部が加圧されたり、液体試料を採取するときに試料収容容器の内部が陰圧になったりすることがなく、液体試料を正確に採取することができる。また、そのスリットが試料採取具の挿入が想定される領域以外の領域に設けられているため、液体試料を採取した後、試料採取具を引き抜く際に該試料採取具の外周面に付着した液体試料が拭い取られ、キャリーオーバーの発生を抑制することができる。
【0044】
(第2項)
第2項に係るカバー部材は、第1項に係るカバー部材において、
前記開口が円形であり、前記スリットが、該開口の径の0.5倍の径を有する同心円の外側に設けられている。
【0045】
オートサンプラのように機械的に試料採取具を移動させる場合には、試料採取具が挿入される位置のばらつきは小さい。一方、分析者が試料採取具を手動で操作して液体試料を採取する場合、分析者が熟練した者でないと、試料採取具の挿入位置にばらつきが生じることがある。第2項に係るカバー部材では、試料採取具の開口の径の0.5倍の径を有する同心円よりも外側にスリットが形成されており、試料採取具を挿入可能な領域が広く形成されているため、熟練した者でない分析者が手動で液体試料を採取する際にも好適に用いることができる。
【0046】
(第3項)
第3項に係るカバー部材は、第2項に係るカバー部材において、
前記スリットが1乃至複数の円弧状のものであり、該1乃至複数の円弧の中心角が30度以上90度以下である。
【0047】
開口の中心部に試料採取具が挿入されると、カバー部材がその中心部に向かって引っ張られて全体が変形する。第3項に係るカバー部材では、各スリットが、中心角が30度以上90度以下の円弧状であるため、カバー部材の中心部に向かって引っ張られたときにスリットが容易に開き、試料収容容器の内部空間と外部空間を連通させることができる。
【0048】
(第4項)
第4項に係るカバー部材は、第2項又は第3項のいずれかに係るカバー部材において、
前記1乃至複数の円弧の中心角の合計が中心角の合計が90度以上270度以下である。
【0049】
第4項に係るカバー部材では、1乃至複数の円弧の中心角の合計が90度以上であることにより、試料収容容器の内部空間と外部空間での通気を良好にすることができる。また、1乃至複数の円弧の中心角の合計が270度以下であることにより、隣接するスリットの境界に亀裂が生じるのを抑制することができる。
【0050】
(第5項)
第5項に係るカバー部材は、第2項から第4項のいずれかに係るカバー部材において、
前記スリットが、前記開口の中心に対して回転対称に設けられている。
【0051】
カバー部材の中心部に試料採取具を挿通すると、カバー部材全体を中心部に向かって引っ張る力が働く。第5項に係るカバー部材では、スリットが開口の中心に対して回転対称に設けられているため、中心部に向かって引っ張る力が働いたときにカバー部材が等分に変形するため、局所的に力が働いて損傷することが抑制される。
【0052】
(第6項)
第6項に係るセプタムは、第1項から第5項のいずれかに係るカバー部材であって、前記試料収容容器であるバイアルの開口を覆うものである。
【0053】
(第7項)
第7項に係るセプタムは、第6項に係るセプタムであって、
前記バイアルの開口を覆う部分が円形であり、
前記所定の領域は前記円形の中心を含む領域である。
【0054】
(第8項)
第8項に係るシートは、第1項から第5項のいずれかに係るカバー部材であって、前記試料収容容器であるマイクロプレートが有する複数のウェルの開口を覆うものである。
【0055】
(第9項)
第9項に係るシートは、第8項に係るシートであって、
前記複数のウェルのそれぞれに対応する位置に、該ウェルを覆うウェル被覆部が形成されている。
【0056】
(第10項)
第10項に係るシートは、第9項に係るシートであって、
前記ウェル被覆部は円形であり、
前記所定の領域は前記ウェル被覆部ごとに設けられ、前記所定の領域のそれぞれは対応するウェル被覆部の中心を含む領域である。
【0057】
第1項から第5項に係るカバー部材は、第6項及び第7項に記載のように、バイアルの開口を覆うセプタムや、第8項から第10項に記載のようにマイクロプレートに設けられた複数のウェルの開口を覆うシートとして好適に用いることができる。セプタムとして用いるときには、第7項に記載のように、バイアルの開口を覆う部分が円形であることが多く、その場合には該円形の中心を含む領域を所定の領域にするとよい。複数のウェルの開口を覆うシートとして用いる場合には、第9項に記載のように、各ウェルに対応する位置にウェル被覆部を形成し、第10項に記載のように、該ウェル被覆部を円形としたうえで、その中心を含む領域を所定の領域にするとよい。
【符号の説明】
【0058】
10…液体クロマトグラフ
20…オートサンプラ
30…キャップ済バイアル
31…バイアル
311…スリット
312…挿入領域
32…キャップ
33、36…セプタム
331、361…スリット
332…挿入領域
40…マイクロプレート
41…ウェル
50…シート
51…ウェル被覆部
511…スリット
512…挿入領域
図1
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