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特開2024-112741振動処理装置及び含液粉体の処理方法
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  • 特開-振動処理装置及び含液粉体の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112741
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】振動処理装置及び含液粉体の処理方法
(51)【国際特許分類】
   F26B 9/08 20060101AFI20240814BHJP
   F26B 3/22 20060101ALI20240814BHJP
   F26B 3/347 20060101ALI20240814BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F26B9/08
F26B3/22
F26B3/347
C23C26/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023028931
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】390008084
【氏名又は名称】中央化工機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寿紀
(72)【発明者】
【氏名】船津 一裕
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 孝嘉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彰
(72)【発明者】
【氏名】平安山 俊
【テーマコード(参考)】
3L113
4K044
【Fターム(参考)】
3L113AA07
3L113AB10
3L113AC07
3L113AC19
3L113AC67
3L113BA36
3L113CB04
3L113CB09
3L113DA10
3L113DA24
4K044AA02
4K044AA03
4K044AB10
4K044BA12
4K044BA13
4K044BA14
4K044BB01
4K044BC14
4K044CA53
(57)【要約】      (修正有)
【課題】処理生産性の向上が望め、かつ、処理品(製品)中にダマ(凝集体)が発生しがたい振動処理装置を提供すること。
【解決手段】処理容器(11)を振動させる加振手段(13)を備えた振動乾燥理装置。加振手段(13)が、前記処理容器(11)に投入原料が壁面上昇落下流動させるものである振動処理装置である。マイクロ波発振装置(M)を付設し、マイクロ波発振装置(M)の出力口を、処理容器に形成されたマイクロ波照射口と接続する。加熱ジャケット(16)及び蒸気排出手段(35)を備える。そして、処理容器(11)の内側面に、耐熱性樹脂を被膜成分とする誘電体被膜(15)を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含液粉体が投入された処理容器を振動させる加振手段を備えた振動処理装置であって、
前記処理容器の底部側が、加振に際して前記含液粉体が壁面上昇落下流動する湾曲縦断面とされている振動処理装置において、
マイクロ波発振装置が付設され、前記処理容器に形成されたマイクロ波照射口と接続され、また、
前記処理容器が金属製とされて電磁シールドを兼ねるとともに、処理容器壁を加熱する外部加熱(間接加熱)手段及び蒸気排出手段を備え、さらに、
内側面の少なくとも運転時の原料接触部が誘電体の被膜で形成され、
該被膜が、設定周波数のマイクロ波で、前記被膜が発熱しないような誘電正接(tanδ)を有する誘電体で形成されるとともに、前記被膜のマイクロ波の容器内伝搬に影響を与えない電気長となるように、前記誘電体の比誘電率(ε)が選定され、かつ、膜厚が設定されている
ことを特徴とする(振動処理装置)
【請求項2】
前記被膜の誘電体が、設定周波数(f=2.45GHz(2~3GHz)、25℃)において、tanδ:10.0×10―4以下で、ε:20以下であることを特徴とする請求項1記載の振動処理装置。
【請求項3】
前記被膜の誘電体の電力半減深度が、20m以上であることを特徴とする請求項2記載の振動処理装置。
【請求項4】
前記誘電体被膜が、耐熱温度(JIS K7226)200℃以上のフッ素樹脂系塗料の多層膜で形成されていることを特徴とする請求項3記載の振動処理装置。
【請求項5】
前記誘電体被膜が、「アルミノケイ酸塩を主体とする耐火物用コーテイング剤」で形成されていることを特徴とする請求項3記載の振動処理装置。
【請求項6】
請求項1~5いずれか記載の振動処理装置を用いて含液粉体原料を振動処理する、外部加熱を併用しながらマイクロ加熱をして、凝集体(ダマ)を実質的に含まない均一分散粉体(製品)とすることを特徴とする含液粉体の乾燥処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動乾燥機、振動流動装置等の振動処理装置及び当該装置による含液粉体の処理方法に係る。ここで、含液粉体とは、懸濁液、スラリー、ペースト状のものの他に、ダマを含むないし発生しやすい平衡含水率粉体も含む。本発明は、いわゆるファインケミカルと称される医薬、農薬、印刷インク、高分子材料・食品添加剤さらには情報(先端)産業製品等の多種多様な分野における、高微細・純度・均質な化学薬品(粉体原料)の調製に好適なものである。特に、粒径異物や成分異物(特に金属)の混入を嫌う二次電池・通信産業における電極や半導体チップなどの部品材料である無機粉体(セラミックス、半導体・金属等)の含液粉体原料の処理に好適な発明である。なお、本発明に係る振動処理装置は、水分等の液成分を蒸発させる乾燥処理の他にダマ解砕しながらの均一化混合処理等にも適用できる(特許文献9参照)。
なお、本明細書において、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)は、周波数(f)=2.45GHz(2~3GHz)、25℃におけるものである。ここで、被膜として、薄膜形成が容易で処理容器内壁の結露阻止作用が得やすい塗膜を主として例にとり説明するが、被膜にはライニング(溶射、クラッド、焼付け等による)も含む。
【0002】
ここで、本願で耐熱性樹脂とは、連続耐熱温度(JIS K7226)150℃以上(望ましくは200℃以上、さらに望ましくは250℃以上)のものをいう(「プラスチック物性一覧表」参照、華陽物産株式会社HP(引用文献:ポリマー辞典及び日本化学便覧))。また、「粒径異物」とは、被膜成分中における、設定以上の大径粒子(一次粒子ないし二次粒子(ダマ))をいう。それらの粒径異物が含まれる場合、製品不良(例えば、金属の異物粒径の場合、電極の場合ショート)や作業性(塗膜(被膜)レベリングを得難い。)につながる。
【背景技術】
【0003】
ここでは、振動処理装置として、振動乾燥機を、特に竪型振動乾燥機を主として例にとり説明するが、横型振動乾燥機や振動流動装置(例えば、特許文献1・2)でも同様である。
【0004】
振動乾燥機として、本出願人から、竪型である「バッチ式VU型」、「振動蒸発機」や「振動流動分散機」として、また、横型である「バッチ式VH型」、「連続式VHC型」、「スラリーフィードVHS」として、粉粒体原料からスラリー状、ペースト状の含液粉体原料まで多様な形態原料の処理が可能な装置が上市されている(非特許文献1)。なお、本出願人が出願した竪型振動乾燥機に係る先行技術文献として特許文献3~6等がある。
【0005】
これらの振動乾燥機や振動流動装置において、積極的に、処理容器内に導波管を介してマイクロ波を照射可能なマイクロ波発振器が付設されている装置は、本発明者らは寡聞にして知らない。なお、特許文献6[0028]には、加熱手段として、実施形態のジャケット加熱に限られず、マイクロ波発振器(マグネトロン)を処理容器の天井に取り付けてマイクロ波加熱併用できる旨記載されている。しかし、マイクロ波発振器(マグネトロン)を天井に直接取り付けることを意図しており、本発明の導波管からのマイクロ波を原料特定部位に照射することを予定しておらず異質的である。なお、マイクロ波発振器を直接処理容器の天井に取り付けるとマグネトロン寿命が短くなると推定され実用化されていない。
【0006】
また、マイクロ波発振器が付設され乾燥処理容器内にマイクロ波を照射可能なマイクロ波(減圧)乾燥機が記載された先行技術文献として特許文献7・8等がある。しかし、特許文献7・8においては、処理容器が静置型であり、また、原料(被乾燥物)は、いずれも食品である(野菜や果物、さらには、海藻や肉等(特許文献7[請求項9]、特許文献8[0032])。本願発明におけるような振動処理を予定しておらず、また、原料として粉粒体ないしスラリー状若しくはペースト状の粉粒体含有原料を想定していない。さらに、マイクロ波の原料に対する均一照射のために、乾燥トレイを回転させる回転テーブルやスタラファンを必要としている(特許文献7[0052]、特許文献8[0031])。
【0007】
なお、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、非特許文献1に記載されているような本出願人の上市製品であるVH型振動乾燥機を用いて、正極活物質の合成原料である、金属元素化合物の混合物を混合・乾・粉砕して調製する技術が特許文献9に記載されている([0043]、[0046])。
【0008】
本出願人は、上記にかんがみて、マイクロ波発振器(マグネトロン)寿命が短くなるおそれがなくまた、回転テーブルやスタラファン等の装備を必要とせず、さらには、マイクロ波照射効率の格段の向上が期待できる新規な振動処理装置を提供することを目的として、下記構成の振動処理装置に想到して特許出願をして公開されている(特許文献10)。
【0009】
処理容器を振動させる加振手段を備えた振動処理装置であって、原料を粉粒体又はスラリー状若しくはペースト状の粉粒体含有原料とするとともに、加振手段が、処理容器に投入された原料が壁面上昇落下流動させるものである振動処理装置において、マイクロ波発振器が付設され、該マイクロ波発振器のマイクロ波放出口が、可撓性導波部材を介して前記処理容器に形成されたマイクロ波照射口と接続され、さらに、前記処理容器が蒸気吸引手段を備えている。
【0010】
上記振動処理装置は、通常、構造材を鋼鉄製とした振動台の上に、加熱ジャケットを備えた鋼鉄製の処理容器を取り付けたものを前提構成としている(特許文献10[図1]参照)。
【0011】
上記構成の従来型の振動処理装置においては、他の粉体処理装置のような粒径異物の混入や成分異物が発生しがたい。すなわち、振動乾燥機は、攪拌式のような回転部分がなくグランドパッキン損傷・攪拌翼欠損に伴う一次粒子の粒径異物の混入がなく、さらには、容器壁面から粉体が浮遊した状態で攪拌されるため攪拌式に比して、二次粒子の粒径異物(ダマ)も発生しがたく、摩耗発生量も非常に少ない。また、ベルト式・棚式のような非密閉型の場合、外部から金属を含む一次粒子の粒径異物が混入するおそれがある。このため、振動乾燥機は、従来、粒径異物混入に伴う解砕と篩による別工程を必要とし、金属混入粉の分離除去も必要であり、結果的に乾燥処理工数が嵩んだ。
【0012】
さらに、上記構成において、処理後製品のさらなる高純度化(特に、金属コンタミ許容含量の低減化)の要望に応えることができる振動処理装置等を提供することを目的(課題)として、下記構成の振動処理装置および振動処理方法に想到し、令和3年7月26日に特許出願をした(特願2021-100522(特開2023- ))。
【0013】
処理容器を振動させる加振手段を備えた振動処理装置であって、原料を粉粒体又はスラリー状若しくはペースト状の粉粒体含有原料とするとともに、加振手段が、前記処理容器に投入された原料が壁面上昇落下流動させるものである振動処理装置において、
マイクロ波発振器が付設され、該マイクロ波発振器の出力口が、可撓性導波部材を介して前記処理容器に形成されたマイクロ波照射口と接続され、さらに、
前記処理容器が蒸気排出手段を備える
とともに、前記処理容器の内側面の少なくとも運転時の原料接触部が誘電体層で構成され、
該誘電体層の形成材料が、比誘電率(ε)10以下及び誘電正接(tanδ)0.08以下(いずれも周波数2.45GHz、25℃;以下同じ。)の双方の特性を満たす高分子材料又はセラミックス材料で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006-95437号公報
【特許文献2】特開平7-4834号公報
【特許文献3】特開2017-90029号公報
【特許文献4】特開2011-7368号公報
【特許文献5】特開2009-68740号公報
【特許文献6】特開平11-153384号公報
【特許文献7】特開2020-190338号公報
【特許文献8】特開2013-194966号公報
【特許文献9】特開2008-159300号公報
【特許文献10】特開2022-173013号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】中央化工機,「振動乾燥機 Vibration Dryer」,中央化工機カタログ,p5-11、2018年6月
【非特許文献2】中央化工機,「CORPORATE PROFILE;POWDER & CHEMICAL PLANT」中央化工機カタログ,DRYER(乾燥機)のセクション(p10,11)、2017年7月
【0016】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記実施例の振動処理装置(振動乾燥装置)では、誘電体層を処理容器本体に対して着脱可能な誘電体層をカートリッジ容器で構成しているため、含液粉体原料・製品の取り扱い性(原料投入・製品取り出し・容器洗浄)は良好である。しかし、原料態様(含水率、粒子径や材質等)により、マイクロ波のみによる加熱では乾燥時間がかかり処理生産性が良好でなく、さらには、製品中に凝集体(ダマ)が発生しやすい、ないし、原料中に含まれているダマ(凝集塊)が解砕されず残留しやすいことが分かった。
【0018】
また、近年、振動(乾燥)処理した粉粒体混合製品中、特に、電池や半導体の材料における粒径異物(一次粒子および二次粒子(ダマ)を含む。)や成分異物(特に金属成分)の要求基準がさらに高くなってきている。例えば、粒径異物のダマ(二次粒子凝集体。)≦100μmであるとともに、導電性金属成分のppmからppbレベルへの)要望が強くなってきている。しかし、本発明者らは、当該要望に応えることのできる振動処理装置及び振動処理方法は、寡聞にして知らない。
これらのダマの存在は、焼成後製品の均質性・等質性や、反応の安定性等の観点から、例えば、処理後粉体の粒子径が篩下100μmを要求されるような場合、処理後粉体中に100μmを超える凝集塊が生成ないし残留すると、処理後製品の解砕ないし篩分けが必要となる。特に、粉体の実粒子径が微細(100μm以下)である、ファインケミカル分野で要求されることが多い。
【0019】
本発明は上記にかんがみて、処理生産性の向上が望め、かつ、処理品(製品)中にダマ(凝集体)が発生しがたく、処理後粉体の高度均質性の要求に篩分けや成分異物の分離除去が不要な振動処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の振動処理装置に想到した。なお、下記において、図1における対応図符号(括弧付き)を付す。
【0021】
含液粉体が投入された処理容器(11)を振動させる加振手段(13)を備えた振動処理装置であって、
処理容器(11)の底部側が、加振に際して含液粉体が壁面上昇落下流動する湾曲縦断面とされている振動処理装置において、
マイクロ波発振器(M)を付設し、マイクロ波発振器(M)の出力口を処理容器(11)に形成されたマイクロ波照射口と接続し、また、
処理容器(11)が金属製とされて電磁シールドを兼ねるとともに、処理容器壁を加熱する外部加熱手段(16)及び蒸気排出手段(35)を備え、さらに、内側面の少なくとも運転時の原料接触部が、誘電体被膜(以下「被膜」)で形成され、該被膜の誘電体が、設定周波数のマイクロ波で、前記被膜が発熱しないような誘電正接(tanδ)を有するとともに、前記誘電体の比誘電率(ε)において、マイクロ波の容器内伝搬に影響を与えない電気長になるように、前記誘電体の比誘電率が選定され、かつ、膜厚が設定されている。
【0022】
ここで、処理容器を形成する金属は、従来と同様、鋼鉄やステンレスを使用する。また、外部加熱手段は、通常、ジャケットとするが、他の外部加熱である抵抗加熱や、容器壁を内部加熱する誘導加熱する、間接外部加熱であってもよい。
【0023】
また、原料を、外部加熱手段(ジャケット等)で加熱、かつ、容器内を流動攪拌させながら、マイクロ波加熱を併用することにより、乾燥時間が格段に短くなるとともに、凝集体(ダマ)が発生し難くなることが分かった。これらの現象の発生理由は、下記の如くであると推定される。
外部加熱手段による加熱により、外部加熱(振動攪拌加熱)をしながらおよびマイクロ波加熱(内部加熱)をすることにより、加熱効率の高いマイクロ波加熱単独より粒子付着水が加熱されて蒸発する際の蒸発潜熱に伴う粒子自体の温度低下が抑制されるため、粒子付着水の蒸発(気化)が促進されることによる。
マイクロ波加熱は、原料中に凝集塊(ダマ)が存在する場合、ダマ内部の液滴(液架橋の主因)がマイクロ波加熱されて突沸によりダマが解砕されることによる。また、原料中に凝集塊が存在しない場合であっても、外部加熱により蒸発水の処理容器壁面の結露の発生が抑止され、結露水滴の落下に伴う粒子間の再凝集(ダマ発生)現象が抑制されることによる。
【0024】
なお、粒子間付着(物理吸着)力には、液架橋力ばかりでなく、ファン・デル・ワルツ力や静電気力も存在するが、本発明では、含液粉体が壁面上昇落下流動しながら、加熱乾燥されるため、付着粒子間に振盪剥離力が作用して凝集塊(ダマ)解砕が促進される。さらには、処理容器の壁面が滑らかな曲面であるためマイクロ波電界の局在化を生成する隅部が存在せず、マイクロ波加熱効率も良好である。したがって、特に、微細粒子集合体を取り扱う場合が多いファインケミカル分野における含液粉体の乾燥・解砕処理に本発明を適用した場合の効果が顕著である。
【0025】
なお、耐熱性樹脂とは、耐熱連続使用温度(JIS K7226)(以下「耐熱温度」)が150℃以上のものをいう。耐熱性樹脂とするのは、乾燥処理温度を100℃以上(例えば、ジャケットスチーム温度:130℃)とすることが多いためである。
【0026】
ここで、上記設定周波数でマイクロ波発熱しないような誘電正接(tanδ)とは、周波数としては限定されないが、設定周波数(f=2.45GHz(2~3GHz)、25℃)の場合、好ましくは、tanδ:5.0×10―4以下さらには3.0×10―4以下とする。なお、誘電体内で発生する熱量は、損失係数(ε・tanδ)に比例するが、発熱(マイクロ波吸収)を抑制するためには、数値的に誘電正接(tanδ)は、比誘電率(ε)に比して非常に(通常、二桁~三桁以上)小さいため、上記の如く、tanδが可及的に小さい誘電体を選択する。そして、比誘電率(ε)も、ある程度大きくてもよいが、当然、発熱抑止の見地、さらには、後述の電気長の伸長を抑制する見地から、可及的に小さい方が望ましく、ε:20以下、望ましくは、10以下、さらには、5以下とする。
また、被膜がマイクロ波の容器内伝搬に影響を与えない電気長となるように、前記誘電体の比誘電率(ε)を選定し、かつ、膜厚を設定する、。ここで、マイクロ波伝搬に影響影響を与えないとは、被膜に流入するマイクロ波がほとんど吸収されず、被膜が存在しないと同様なマイクロ波の容器内伝搬が可能で、伝搬ロスがほとんど発生しない状態をいう。
誘電体の比誘電率(ε)において、マイクロ波の容器内伝搬に影響を与えないような小さな膜厚に成膜するのは、次のような理由からである。
電力半減深度(D=3.32×10/(√ε×tanδ))が大きくて、被膜の膜厚(t)が小さければ、マイクロ波が被膜に流入しても、伝搬ロスが発生する前に容器壁(金属板)で反射され、マイクロ波がほとんど吸収されず伝搬ロス(マイクロ波ロス)が発生しない。例えば、PTFE(ε:2.0、tanδ:2.0×10-4)の場合、電力半減深度:48m、アルミナ(ε:10.0、tanδ:2.0×10-4)の場合、45mである。これらから、電力半減深度は、20m以上、さらには30m以上、よりさらには40m以上が望ましいことが伺える(肥後温子「電子レンジ・マイクロ波利用ハンドブック」日本工業新聞社、昭和62年、16p「図1-9」参照。)すなわち、本発明は、通常想定されない大きな半減深度を有するものを使用することに特徴を有する。
そして、被膜に吸収されたマイクロ波の伝搬波長(λ)はλ:真空に於けるマイクロ波波長とすると、λ=λ/√εとなる。ここで、膜厚tにおける伝搬路(被膜)における電気長(L)は、L=t/λで定義されるため、L=t√ε/λとなる。
このため、誘電率がそれぞれεr1、εr2、膜厚をt1、とした場合、Lを同じにするには、t√εr1/λ=t√ε/λ、t=t√εr1/√ε
したがって、PTFEのt:1.0mmとしたのと、同様の伝搬ロスにするためには、
アルミナのt=1.0√2/√10≒0.45(mm)とする必要がある。
【0028】
なお、従来の振動乾燥機の処理容器(缶体)を、缶体表面の金属腐食層の摩耗防止のためにフッ素樹脂塗膜(テフロン(登録商標)コーティング)を施すことがあった(非特許文献1、p5)。しかし、当該テフロンコーティングは、本発明におけるフッ素樹脂塗膜を積極的に示唆するものではない。すなわち、本発明の如く、被膜の発熱防止及び波伝搬阻害の観点から、誘電特性(誘電損失係数、誘電率、誘電正接)及び膜厚を可及的に小さくする発想はなく、進歩性における公知文献に該当するものではない。
【0029】
上記セラミックス系塗膜は、前記誘電率(ε):20以下で、誘電正接(5.0×10―3)以下であれば、特に限定されない。アルミノケイ酸塩系、ジルコン系、BN系などを挙げることができる。これらのうちで、「アルミノケイ酸塩を主体とする耐火物用コーティング剤で塗膜表面が滑らかで耐摩耗性に優れたもの」を使用することが望ましい。アルミノケイ酸塩は、ジルコニア等の他のセラミックスに比して相対的に誘電損失(tanδ)が小さくて、マイクロ波エネルギー損失が小さいため望ましい。具体的には、(株)パイロテック・ジャパンから「Pyrocote MU」や「Pyrotek Coating 3321」の商品名(登録商標)で上市されているものを使用可能である。
【0030】
上記各構成の振動処理装置を用いて、含液粉体原料を外部加熱により予備加熱後、外部加熱を併用しながらマイクロ加熱をして、凝集体(ダマ)を実質的に含まない均一分散粉体(製品)とすることが望ましい。乾燥処理時間(後処理も含めて)の格段の短縮が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明における竪型振動乾燥機の一例における組み立て状態の縦断面図(断面表示一部省略)である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を竪型振動乾燥機に適用した一形態を、図1に基づいて説明する。本発明は、本実施形態に限られることなく、請求の範囲の及ぶ技術範囲内で種々の態様に及び、当然、横型振動乾燥機や振動流動層にも適用できる。なお、図例における図符号は、基本的に先願の[図1]におけるものと同一である。
【0033】
本実施形態は、基本的には竪型振動乾燥機VUにマイクロ波発振器Mが付設されたものである。ここでは、マイクロ波発振器として、図例ではマグネトロン電源を使用する場合である。しかし、マイクロ波発振器Mとしてソリッド(半導体)電源も使用可能である。なお、ソリッド電源は、まだマイクロ波発振器としては、高価で主流ではないが、マグネトロン電源に比して、周波数安定性に優れ、周波数帯がシャープに現れ、かつ、寿命が半永久的などのメリットを有し、将来的には多用されることが予測される。すなわち、設定周波数での、効率的なマイクロ波加熱が可能となる。
【0034】
振動乾燥機VUは、筒状竪型の処理容器11と、該処理容器11を振動させる振動モータ13とを備えている。
具体的には、処理容器11は、架台17に配設された圧縮コイルばね(弾性体)18で支持されている。ここで、圧縮コイルばね18は、振動モータ13の出力及び種類に応じて、板ばね、さらには、防振ゴム等の弾性体でもよい。なお、処理容器11は、金属製とされ電磁シールドを兼ねる。
【0035】
そして、図例では、処理容器11の処理容器が底部に中央隆起部(へそ部)を有して環状処理空間Tを備え、前記環状処理空間に保持された前記原料が旋回流動可能とされているとともに、後述のマイクロ波照射口を環状処理空間の一部に対するものとしてある。そして、環状処理空間の底壁の一部に排出用弁29が取り付けられ、その下流側弁箱には製品排出パイプ31が取り付けられている。また、処理容器11の天井側壁には、後述のマイクロ波照射部(照射口)R以外に、天井側上面には原料投入口(図示せず)、内蔵フィルター33及び蒸気排出口35を備えた集塵部Dを備えている。なお、集塵部Dの入り口にはマイクロ波漏洩防止のためのパンチングプレート31が取り付けられている。また、集塵部Dには、図示しないが、蒸気排出口35は吸引配管が接続され、該蒸気排出配管は蒸気回収容器等を介して吸引ポンプに接続されている。
【0036】
上記構成において、本実施形態は、マイクロ発振器Mから発振されるマイクロ波は可撓性導波部材であるマイクロ波用同軸ケーブル37を介してアプリケータである処理容器11のマイクロ波照射部Rと接続されている。マイクロ波照射部Rは、同軸ケーブル37の先端側と接続される真空シール部43とマイクロ波を出力する照射アンテナ45とからなる。マイクロ波減衰は導波管に比して大きいが、同軸ケ―ブル37の方が導波管に比して柔軟性があり、耐振動性に優れている。
【0037】
マイクロ波発振器Mは、一部構成は図示しないが、発振器(マグネトロン)が電源操作盤Eと接続され、発振器の出口側に装置導波管39を介してアイソレータ等の制御機構が接続され、導波管39の出口には、モード変換器41を備えたものである。モード変換器41は同軸ケーブルモードと導波管モードとを交互に切り替得るものである。当該変換器41には、可撓導波管(フレキシブル導波管)37の元部側が接続される。また、同軸ケーブル37の先端部は、シール部43とアンテナ部45で構成されるマイクロ波照射部Rとされている。なお、前記可撓導波管は、同軸ケーブルに置き換えることもできる。
同軸ケーブルは,可撓性金属管に置き換えることもできる。
【0038】
ここまでは、先願における実施形態と略共通する。そして、本発明に係る実施形態は、処理容器11を金属製として電磁波シールドを兼ねる構成とするとともに、図例では加熱ジャケット(外部加熱手段)16を備えている。なお加熱手段として、加熱ジャケット16の代替として抵抗加熱や誘導加熱等の加熱手段を用いてもよい。また、処理容器11の内側面が誘電体塗膜15で構成されている。図例では内側壁全高及び排出弁29を除いて底面側全面に誘電体塗膜15が形成されている。当該誘電体塗膜15は、前述の誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)及び誘電損失係数(ε・tanδ)の誘電体で、キャビティ伝搬に影響を与えない膜厚とされている。
【0039】
上記において、通常は、処理容器本体15は、強度的観点からステンレス等の鋼鉄製とするため、特別な電磁シールドは不要である。
【0040】
上記竪形振動乾燥機の使用態様は、マイクロ波加熱とジャケット加熱の併用に係る部分の運転条件(タイムチャート)以外は、加熱手段の併用部分を特開2022-17301号公報0030]~[0032]と同様である。
【0041】
まず、原料投入口(図示せず)から、粉粒体等の被処理物を、処理容器11の容量の10~80容量%、望ましくは、15~50容量%を投入する。
【0042】
次に、振動モータ13を駆動させ、処理容器11を加振するとともに、所定温度の蒸気(スチーム)をスチーム入り口23からジャケット16に流入させる。更に、図示しないが、真空ポンプ等を作動させて、真空吸引を行うとともに、全工程にわたって、又は、一部工程(サブ工程)のみ若しくは間歇的にマイクロ波加熱をおこなって乾燥処理工程を完了する。
【0043】
このとき、原料は加振されながら処理容器底部を循環移動しながら、ジャケット(外部加熱)による伝導加熱及びマイクロ波加熱による内部加熱が行われる。このため、マイクロ波加熱が効率よく行われて粉粒体の均一加熱が、回転テーブルやスタラファンがなくても可能となる。ジャケット加熱等の外部加熱を併用するため、さらに短時間の乾燥処理が可能となるとともに、ダマの発生がし難く、ないし、ダマの解砕も促進される。
【符号の説明】
【0044】
11 処理容器(本体)
13 振動モータ(加振手段)
15 誘電体塗膜(被膜)
16 外部加熱手段(間接加熱手段)
39 発振器(マグネトロン)
UV 竪型振動乾燥機
D 集塵部
M マイクロ波発振器
E 電源
T 環状処理空間
R マイクロ波照射部
図1